説明

たて糸の保持を改良したアイを有するヘルド

【課題】ヘルドのアイ内でのたて糸保持を改善したヘルドの提供する。
【解決手段】糸支持面26は、ヘルドの1実施様態において、アイ14の入口側16から出口側17に曲線を描く経路を形成する。糸入口側に接合する第1曲線領域27の曲率は、糸出口側に接合する第2曲線領域28の曲率を上回る。アイは、2つのガイドウェブ33、34により、たて糸方向Kを横断し、長さ方向Lを横断する横断方向Qに仕切られている。それらの端領域38は、たて糸入口側からたて糸出口側までの糸支持面の全長に沿って、糸支持面26の両側を通ることができる。中央領域では、たて糸方向Kの2つのガイドウェブは、挿入間隙yを有する挿入開口を形成するように配置される。ガイド領域の形状と、糸支持面の形状は、互いに独立して構成できるが、互いに組み合わせて1つのヘルドに実装することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は織機のヘルド枠のためのヘルドに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のヘルド枠には、多数のヘルドが装着される。各ヘルドは、ヘルドが動作動状況にあるとき、1つのたて糸が通るアイ(糸口)を備えている。織機が動作するときに、横糸が通過するひ(杼)口を形成するために、ヘルド枠は上下に動作する。現代の織機では、ヘルド枠は高頻度で上下に移動する。そのため、ヘルドに対する要求は高い。たて糸およびそれらが通過するヘルドが大きな加速または減速を受ける場合であっても、たて糸への損傷やヘルドの過剰な摩耗は避けられねばならない。上述の問題が避けられるかどうかに関係するアイの設計は、従って、たいへん重要である。
【0003】
特許文献1は、リボン状のたて糸のためのヘルドを開示する。このヘルドのアイは、平坦な、リボン状のヘルド本体に作成された長穴の形をした開口として、主に形成される。ある実施態様では、アイは、糸が置かれる面領域において、曲面(曲率)をもつ。この曲面は、独立した円筒状であるか部分的に円筒状の要素を取り付けることにより作成され得る。すなわち曲面を有するその端が、アイの上側か下側の側に取り付けられる。さらなる実施態様においては、アイのより上部および下部の側に隣接した、平坦なヘルド本体の平面から、舌状部(tongue)が曲げ出される。その結果、リボン状のヘルドのための糸支持面として作用できる曲げ曲面がアイの端に形成される。
【0004】
線材から製作されるヘルド本体を備えたヘルドは、特許文献2から知られている。留め具(maillon)がヘルド本体の2つの平行線材の間に挿入され、アイを形成する。留め具は、アイに対し曲面をもつ。
【0005】
特許文献3は、また横断面が長方形であるヘルド本体を有する、リボン形のたて糸のためのヘルドを開示する。そのアイは、平行四辺形の形であり、糸支持面を形成する2つの縁は、水平および垂直に関して曲げられている。アイは、たて糸が入る側とそれが出る側の両側で、丸められており、それら間の糸支持面は平面である。
【0006】
特許文献4から知られる糸保護の樹脂製ヘルドは、その1つの実施例において、その支持面が平面またはみぞ付の形状をもち得るアイを備えている。加えて、そのアイは、たて糸入口側にまたはたて糸出口側に、漏斗形の延長部分を有することができる。この漏斗状の延長部分は、図で屈曲部として概略的に示されている。漏斗状の延長部分の向きは、より詳細には説明されていない。ここで、この実施例では、たて糸には適切な側面の案内だけが与えられており、糸支持面と接触している場合の糸支持面は溝形状を有することは好ましくない。たて糸が糸支持面から持ち上がると、側面の案内としては、ヘルド本体に沿って長手方向に延び、そしてたて糸の方向に互いにオフセットされた、2つの狭い案内ウェブが備えられているだけである。このヘルドは、その長手方向の軸周りに捻ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1795635号明細書
【特許文献2】米国特許第6283163号明細書
【特許文献3】米国特許第6145549号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1739215号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ヘルドのアイ内でのたて糸の保持を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるヘルドの第1の実施様態において、ヘルド本体の長さ方向に互いに向き合って配置された2つの糸支持面の各々は、第1の曲線領域及び第2の曲線領域を有しており、これにより、それらの曲率は異なるものとなっている。第1及び第2の曲線領域の曲率は、各々、一定であることが好ましく、一方、2つの曲線領域の曲線の曲がり度合いは異なるものであることが好ましい。特に、第1の曲線領域の曲率は、第2の曲線領域の曲率よりも大きな値を有している。第1の曲線領域をたて糸入口側に割り当て、第2の曲線領域をたて糸出口側に割り当てることができる。ひ口が開口している際には、1以上の数のヘルド枠は、上方又は下方ひ口位置にある。そこで、たて糸は、織機のバックレスト又はパーツロッドから上向き又は下向きに方向を変え、たて糸面を通してひ口の閉止位置に進むか、あるいは、アイへのたて糸入口角及びアイからのたて糸出口角で水平面に進む。ここで、たて糸出口角は、通常、たて糸入口角よりも大きい。アイ内のたて糸が、糸支持面に沿って収まる状態を最適なものとするために、たて糸支持面は異なる曲率を有する2つの曲線領域を含んでいる。このようにして、たて糸と糸支持面との間の負荷を可能な限り大きな接触領域上に分散するために、可能な限り大きな接触領域をたて糸と糸支持面との間に形成することができる。このようにして、たて糸が、いかなる状況にあっても最大の引っ張り状態となっても、たて糸に対する極めて均一な負荷を与えることができる。本発明による構成によれば、糸切れの数を減らすことができる。たて糸は、接触面の全体に沿って伸び、常に糸支持面に対して曲線を描いているため、たて糸に局所的に、例えば、アイの縁側に、過度な応力が加わることを防ぐことができる。例えば、比較的肉厚の樹脂ヘルドの場合では、たて糸支持面を必要に応じて複数の曲線領域を有するものとしてもよい。
【0010】
これとは別に、たて糸を保持するための本発明による他の様態は、アイの領域でのたて糸の側面ガイドを向上させることを含んでいる。ヘルド本体の長さ方向を横断し、且つ、たて糸方向を横断する方向に、たて糸は、たて糸入口側からアイを経由して、たて糸出口側に通っており、アイは、その方向の各々の側面が、ガイドウェブで拘束されている。これらのガイドウェブ間の横断方向の距離は、基本的に、たて糸の径に応じて調整されることが多いため、その距離はきわめて短く、たて糸を挿入するための挿入針を収容するために十分な余裕が設けられていない。従って、本発明による構成では、ガイドウェブは、各々、中央切抜部を有するものとなっており、そこで、たて糸方向にたて糸入口側に割り当てられたガイドウェブの前縁端は、アイのたて糸入力側及びたて糸出口側に割り当てられた他のガイドの後縁端から離れており、これにより、後縁端も、アイのたて糸出口側から離れている。たて糸入口側からたて糸出口側への方向から見ると、入力側ガイドウェブの後縁端は、出力側ガイドウェブの前縁端よりも、さらに前方に位置している。このようにして、一方のガイドウェブの前縁端と他方のガイドウェブの後縁端との間に、挿入開口部がたて糸方向を横切って形成される。
【0011】
中央区間では、たて糸方向から見ると、ウェブはこのようにきわめて狭幅となっている。一方、適切なたて糸の側面ガイドを実現するために、各ガイドウェブには、両側の中央区間に隣接して端区間を設け、この端区間が、それに付随するアイの糸支持面に中央区間を接続するようになっている。ガイドウェブの端区間は、それらが隣接する糸支持面全体に沿ってたて糸方向に伸びている。端区間は、いわゆる、たて糸のためのガイド突起であり、糸支持面の隣に起立している。このようにして、例えば、ヘルド枠が高速で加速又は減速した結果として、たて糸が糸支持面から一時的に持ち上がった際にも、たて糸の側面ガイドが確実に作用するものとなっている。ガイドトラックは、端区間内に伸びており、ヘルドが、その長さ方向軸のまわりでねじれを生じることを防ぐものでもある。本発明によるアイのこのような設計により、ヘルド枠がひ口開口位置にある際には、たて糸の側面ガイドが改善されたものとなる。同時に、横断方向の適切な大きさの挿入開口部が無理なく形成される。
【0012】
上述したヘルドの2つの実施様態は、好適に組み合わせることもできる。
【0013】
さらに、2つの曲線領域の糸支持面を、たて糸方向に曲げることができれば好適なものとなる。糸支持面は、2つのガイドウェブの間を横断する方向には平坦となるように設計することが好ましい。これにより、横断方向に溝のように曲線を描く糸支持面に、たて糸が貼り付くことを防ぐ。この側面ガイドは、2つのガイドウェブのみによって与えられる。
【0014】
比較的小さい曲率、すなわち長い曲率半径を有する曲線領域の長さは、より長くすることができ、比較的大きな曲率を有する曲線領域の長さの少なくとも2倍の長さとすることが好ましい。この長さとは、たて糸入口側とたて糸出口側との間の対応する曲線領域の表面に沿って測定されるものである。2つの互いに向き合う糸支持面の間が最小距離となる位置は、ここでは、比較的小さい曲率を有する曲線領域に設けることができる。この配置により、可能な限り最小の曲率を有する糸支持面が形成され、たて糸に与えられる応力を最小とする。
【0015】
2つの糸支持面は、たて糸入口側からたて糸出口側まで、それらの面の全長に沿って曲線を描くことが好ましい。ここでは、異なる曲率を有する2つの曲線領域を設けることが好ましい。第1の曲線領域はたて糸入口側に隣接し、たて糸出口側に伸びる第2の曲線領域に遷移位置で移行する。ここでは、遷移領域での糸支持面の接線が、遷移領域に近接した位置での第1曲線領域の曲線と第2曲線領域の曲線の両方に接するものであれば、好都合である。2つの曲線領域間の遷移位置は、角又は段差がない状態で形成される。
【0016】
第1の曲線領域の曲率はたて糸入口角に適合し、第2の曲線領域の曲率はたて糸出口角に適合している。これは、例えば、2つの曲線領域の接触点が、ヘルド枠のひ口開口位置、すなわち最大上昇点にあるたて糸が、糸支持面と接触するような位置となるように決めることにより、実施することができる。この方法に基づき、さらに、既知のたて糸入口角及び出口角に基づき、各曲線領域の半径又は曲率を決定することができ、それにより、たて糸を、接触点の各々で、糸支持面に接して張ることができる。
【0017】
側面ガイドウェブは、中央領域及び2つの端領域での厚さが、基本的に一定となるように構成することが好ましい。このようにして、ヘルド本体の外側と、ガイドウェブの内側に、アイに向いた平面を形成することができ、たて糸はこの平面に沿ってスライドすることができる。
【0018】
また、隣接する糸支持面の各々に垂直な端区間の長さは、たて糸の直径よりも大きな寸法を有すると、好都合なものとなる。このようにして、たて糸が、たて糸支持面との接触を断った場合であっても、良好な側面ガイドを実現することができる。
【0019】
糸支持面に垂直な端領域の高さは、たて糸方向に沿って、ガイドウェブの中央領域に向かうにつれて増加させることができる。端領域の狭端は、ヘルド本体の長さ方向と角をなすことができる。この角度を持った経路は、直線及び/又は曲線、及び/又は前後に曲線を描くように設計することができる。アイを通るたて糸が、端領域の狭端に到達すると、そこでたて糸は端領域の狭端に沿ってスライドし、最終的に糸支持面によりガイドされる。同様に、2つのヘルド間のヘルド枠を通るたて糸は、端領域に貼り付くことはないが、角を持った狭側に沿ってスライドし、最終的にヘルドから離れる。
【0020】
本発明によるヘルドにおいて、アイは、ヘルド本体に直接形成するか、あるいは、ヘルド本体により縁取られることが好ましい。ヘルドは、アイに挿入物を含めずに形成される。特に、留め具(maillon)などの付加部材を用いる必要はない。
【0021】
ヘルドは、全体が樹脂からなることが好ましく、従って、樹脂ヘルドを構成するものとなる。このようなヘルドは、例えば、金型への流し込み、射出成形、トランスファ成形により製造することができる。従って、全体が樹脂のヘルドは一体で構成される。製造工程において、複数の個々の部品の接続作業を省略することができる。樹脂ヘルドは、軽量で、耐腐食性という特徴を有している。このような理由から、この樹脂ヘルドは、水噴射ジェット織機で用いられることが好ましく、極めて高速で動作することができる。
【0022】
本発明の好適な実施様態は、従属特許請求項及び明細書に記載されるが、これは本発明の最も重要な特徴を説明することに限定される。引用する図面を以下に示す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】たて糸方向の横断方向から見たヘルドの概略図である。
【図2】例として示された、2つのヘルド枠を通るたて糸の経路の原理を示す概略透視図である。
【図3】図2のたて糸の経路を、横方向から見た概略図である。
【図4】たて糸方向の横断方向から見た、ヘルド本体のアイの領域の概略側面図である。
【図5】図4のヘルドのアイを、たて糸方向から見た概略図である。
【図6】図4及び図5のアイを、横方向から見た部分断面図である。
【図7】ヘルドのアイの更に他の実施様態の概略透視図であって、たて糸支持面が、たて糸方向に実質的に平面である経路であることを示す図である。
【図8】図7のアイに対し、側面にアイとの境界を有するガイドウェブに丸みを持つ狭側を有するように修正された実施様態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、図1に概略図を示したヘルド10に関するものである。ヘルド10は、その両端の各々に設けられた端部小穴(耳穴)11を有している。端部小穴11は、ここでは詳細には示さないが、織機のヘルドフレーム12のヘルド支持レールにヘルドを留めるために用いられる。ヘルド10のヘルド本体13の概ね中央に、アイ14が設けられており、これは、たて糸15を保持するためのものである。各たて糸15は、アイ14のたて糸入口側16からたて糸出口側17に向かうたて糸方向Kに、それが付随するヘルド10のアイ14を通る。
【0025】
ひ口20を形成するために、ヘルド枠12は、ヘルド10が動作位置にある時に、ヘルド本体13の長さ方向Lに対応した垂直方向に動く。たて糸15は、織機のバックレスト又はパーツロッド21から出発して、ヘルド枠12に配置されたヘルド10のアイ14を通り、ヘルド枠12の位置に応じて、上下に進行方向を変える。このように、水平面から動き出したたて糸15は、たて糸入口角αでアイ14のたて糸入口側16に入り、たて糸出口角βでアイ14のたて糸出口側17から出る。たて糸入口角αとたて糸出口角βは、各々、たて糸15の長さ方向中心軸Aと水平面Eとの間でなす角度として測定される。たて糸入口角αとたて糸出口角βは、ヘルド枠12が、上方又は下方ひ口位置のどちらに位置しているかに応じて、異なる角度となる。さらに、たて糸入口角αとたて糸出口角βは、互いに背後に配置されたヘルド枠12により異なる角度となっている。ヘルド12とバックレスト21との間の距離が、ヘルド12と織り端部22との間の距離よりも長いため、通常、たて糸入口角αは、たて糸出口角βよりも小さい。
【0026】
アイ14は、アイ14でのたて糸15の保持力を向上させるために、特別の形状を有している。ヘルド本体13の長さ方向Lにおいて、アイ14は、互いに向き合う2つの糸支持面26により仕切られ、それらの間に空間が設けられている。好適な実施様態において、糸支持面26は、たて糸方向Kのたて糸入口側16からたて糸出口側17までの全長に沿って、曲線を描く経路を形成している。曲線を描く糸支持面は、例えば、第1曲線領域27と第2曲線領域28に分割されている。本実施様態において、糸支持面26の2つの曲線領域27、28の曲率は、各々一定となっている。すなわち、糸支持面26は、第1曲線領域27においては、第1半径R1の曲線となっており、第2曲線領域においては、第2半径R2の曲線となっている。2つの半径R1、R2は一定である。第1半径R1の長さは、第2半径R2よりも短いため、第1曲率(1/R1)は、第2曲率(1/R2)よりも大きい値を有している。本実施様態において、第2曲線領域28の第2半径R2の中心点は、アイ14の領域において、ヘルド13の中心を通る長さ方向Lに伸びている長さ方向の中心面M上にある。本実施様態において、互いに向き合う2つの糸支持面26は、少なくとも、概ね長さ方向の中心軸Mにより隔てられている。最小の間隔となる位置は、より小さい曲率を有する第2曲線領域28にある。
【0027】
図4及び図6によれば、第1曲線領域27は、アイ14のたて糸入口側16からすぐに始まることがわかる。その領域の第1半径R1、あるいはその第1曲率1/R1は、たて糸入口角αに適合している。このため、第1曲線領域27の曲率は、第1曲線領域27で、たて糸15が糸支持面26と接触を始める定点への接線が、上方又は下方ひ口領域にあるヘルド枠12のたて糸入口角αに対応する角度を有する平面Eとなす角を囲むように定められる。第1曲線領域27の第1半径R1の中心点は、たて糸入口側16と、ヘルド本体13の長さ方向の中心面Mとの間にある。
【0028】
第2曲線領域28となる糸支持面26の区間長は、第1曲線領域26となる糸支持面26の区間長よりも、特に短い。遷移位置30では、糸支持面26の2つの区間は、段差や角がない状態で、第1曲線領域27から第2曲線領域28に移行する。遷移位置30での糸支持面26の接線は、第1曲線領域27と第2曲線領域28の糸支持面26の2つ端部の接線と同一となっている。
【0029】
本実施様態においては、2つの曲線領域27、28のみが設けられている。本実施様態の変形として、さらに多くの数の曲線領域を設けることは、もちろん可能であり、それにより、例えば、たて糸入口側16に隣接した第1曲線領域27と、たて糸出口側17に隣接した第2曲線領域28との間の遷移位置30において、段差や角のない遷移を形成することができる。
【0030】
図3に概略図を示すように、たて糸方向Kのヘルド枠12の位置に応じて、さらに、対応するヘルド枠12が、上方又は下方ひ口位置のどちら側にあるかに応じて、たて糸入口角α及びたて糸出口角βを変化させてもよい。例えば、たて糸入口角α1及びα2、たて糸出口角β1及びβ2と示すことができる。ヘルド10をたて糸15の経路に適合させるために、たて糸入力角の範囲とたて糸出力角の範囲を指定することができ、第1曲線領域27と第2曲線領域28に係る糸支持面26の曲率を、各々に割り当てられた角度範囲に適合させることができる。異なる角度範囲が与えられたヘルド枠12に関しては、異なる曲線を描く糸支持面26を有するヘルドを設けることが可能である。例えば、極めて多くの数のヘルド枠を有する織機を用いる場合に、この構成は有益なものとなる。簡単な織機の場合、各ヘルド枠12のたて糸入口角とたて糸出口角は、許容された角度範囲内で変動するのみであるため、この場合は、用いられるヘルド10は同一のものとすることができる。例えば、たて糸入口角αとたて糸出口βに対して、5°から10°の間の角度範囲を指定することができるが、この場合、同一のヘルド10を用いることができる。
【0031】
ヘルド枠のたて糸入口角とたて糸出口角が、ヘルド枠がひ口位置上方にある時とひ口位置下方にある時とで大きく異なる場合、ヘルド10の2つの糸支持面26には異なる曲率を設けることができる。しかし、ヘルド10のアイ14の2つの糸支持面26は対称とすることが好ましい。
【0032】
ヘルド本体13の長さ方向Lを横断し、たて糸方向Kを横断する方向Qに、入口側のガイドウェブ33と、出口側のガイドウェブ34により、アイは仕切られている。2つのガイドウェブ33、34には、横断方向Qに側面仕間隙xとともに配置されている。側面間隙xは、横断方向Qにアイの幅又は間隔を定義するものである。アイ14から離れて向いている2つのガイドウェブ33、34の外面35は、ガイドウェブに隣接するヘルド本体13の残りの外面とともに、継ぎ目のない平坦な外面を形成している。アイ14に対して向いている2つのガイドウェブ33、34の内面36は、平坦で、角や段差のないように作られている。
【0033】
各ガイドウェブ33、34は、1つの端区画38に両側が隣接した中央区画37を有している。ガイドウェブ33、34の2つの端領域38は、各々、2つの支持面26のうち1つを仕切っている。端領域38は、各々に割り当てられた糸支持面26とは明確に区別される。
【0034】
出口側のガイドウェブ34は、たて糸入口側16に付随する前縁38を有している。入口側のガイドウェブ33は、たて糸出口側17に付随する後縁40を有している。前縁39及び後縁40は、たて糸方向Kに、挿入間隙yで配置されている。前縁39及び後縁40は、大部分が互いに平行となっている。挿入間隙yは、側面間隙xよりも長い。側面間隙xは、通常、アイ14にたて糸15を挿入するには十分な長さではない。このため、2つのガイドウェブ33、34は、それらの中央領域37に、挿入間隙yで形成された挿入開口を有しており、たて糸15を有する挿入針が、たて糸方向Kを横断し、横断方向Q、もしくは、2つのガイドウェブ33、34の間でなす角で通すことができる。
【0035】
中央領域37において、2つのガイドウェブ33、34は、たて糸方向Kに一定の幅を有している。ガイドウェブ33、34の幅は、ガイドウェブ33、34の端領域で、対応する糸支持面26に向かって増加している。端区画38は、それらに隣接する糸支持面26の全体にわたり伸びている。このようにして、糸支持面26の領域では、中央領域37のガイドウェブ33、34の幅に依らず、たて糸15の側面ガイドが確実に形成される。端領域38の高さは、糸支持面26に垂直に定義され、本実施様態においては、少なくとも、たて糸15の直径に対応しているが、より大きな寸法に定めることもでき、例えば、たて糸15の直径の少なくとも2倍の長さとすることもできる。このようにして、織機の動作中に、例えば、ヘルド枠が急激に減速又は加速した際などに、側面ガイドが糸支持面26から離れた場合でも、たて糸15の側面ガイドは改善され得る。
【0036】
ガイド領域の中央領域37の前縁39及び後縁30は、各々、2つの側で、端領域38の狭側41に続いている。前縁39、後縁40及び狭側41は、外面35及び内面36への遷移位置に角を有していてもよいし、あるいは角を有しないように丸みを持っていてもよい。
【0037】
狭側41は、長さ方向Lと、たて糸方向Kに関して角度をもたせてある。従って、入口側ガイドウェブ33又は出口側ガイドウェブ34の互いに向き合う2つの狭側41の間の距離は、たて糸入口側16又はたて糸出口側17に向かい、各中央区画37からはより大きく離れるものとなる。端領域38の傾斜した狭側41により、横断方向Qに移動した結果、狭側41と接触することになるたて糸15は、ヘルド10がその長さ方向Lに動き続ける際に、関連付けられた糸支持面26に向い方向転換する。狭側41の傾斜により、狭側上のたて糸15は、狭側41に沿ってスライドし、最終的に端領域38から滑り落ちて、糸支持面26上に落ち着く。
【0038】
同一の作用が、2つの隣接するヘルド間を通るたて糸に対しても生じる。横方向の動きの結果、このたて糸は、予期せぬ動作で端領域38の狭側41に接触する。このようなたて糸は、傾斜した狭側41に沿ってスライドし、最終的に端領域38から滑り落ち、その後もヘルド10にずっと引っ掛かるようなことはない。
【0039】
端領域38の傾斜した狭側41は、直線状であってもよいし、単一又は複数の曲線部を有する経路を形成したものであってもよい。
【0040】
図4乃至図6による本実施様態の変形として、図7及び図8に示した実施様態は、たて糸方向Kに基本的に平坦であり曲線を描かない糸支持面26を有したものである。全ての実施様態において、糸支持面26は横断方向Qに曲線を描くことはない。たて糸15の側面ガイドは、ガイドウェブ33、34の端領域38により与えられる。
【0041】
本発明は、アイ1を有し、樹脂ヘルドとして製造され、樹脂材料から一体形成することができるヘルド10に関するものである。ヘルド10は、たて糸15を保持するためのアイ14を有している。ヘルド本体13の長さ方向Lに、アイ14は、互いに向き合う2つの糸支持面26により仕切られている。本発明によるヘルド10の一実施様態によれば、糸支持面26は、アイ14の入口側16から出口側17に曲線を描く経路で形成される。糸入口側16に接合する第1曲線領域27の曲率は、糸出口側17に接合する第2曲線領域28の曲率よりも大きい。たて糸方向Kを横断し、長さ方向Lを横断する横断方向Qに、アイ14は、2つのガイドウェブ33、34により仕切られている。それらの端領域38は、ヘルド10の更に別の形で、たて糸入口側16からたて糸出口側17までの糸支持面の全長に沿って、糸支持面26の両側を通ることができる。中央領域では、たて糸方向Kの2つのガイドウェブ33、34は、挿入間隙yを有する挿入開口を形成するように配置されている。ガイドウェブ33、34の形状と、糸支持面26の形状は、互いに独立して設計することができるが、ヘルド10においては互いに組み合わせて実装することができる。
【符号の説明】
【0042】
10 ヘルド
11 端部小穴(耳穴)
12 ヘルド枠
13 ヘルドボディー
14 アイ(糸穴)
15 たて糸
16 たて糸入口側
17 たて糸出口側
20 ひ(杼)口
21 パーツロッド
22 織り端部
23 リード
26 糸支持面
27 第1曲線領域
28 第2曲線領域
30 遷移位置
33 入口側ガイドウェブ
34 出口側ガイドウェブ
35 外面
36 内面
37 中央領域
38 端領域
39 前縁
40 後縁
41 狭側
α たて糸入口角
β たて糸出口角
A たて糸の長さ方向中心軸
E 水平面
K たて糸方向
L 長さ方向
M ヘルド本体の長さ方向中心面
Q 横断方向
R1 第1曲率半径
R2 第2曲率半径
x 側面間隙
y 挿入間隙



【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向(L)に伸び、たて糸入口側(16)からたて糸出口側(17)へ通るたて糸(15)を、当該たて糸方向(K)に保持するアイ(14)を備えたヘルド本体(13)からなり、
当該アイ(14)は、当該ヘルド本体(13)の互いに離れた2つの糸支持面(26)により長さ方向(L)に区切られており、当該糸支持面の各々は、第1曲線領域(27)と第2曲線領域(28)とを有し、
当該たて糸方向(K)に曲線を描く当該糸支持面(26)の曲率(1/R1、1/R2)は、2つの曲線領域(27、28)で異なる
ヘルド枠(12)のためのヘルド(10)。
【請求項2】
前記2つの曲線領域(27、28)はたて糸方向(K)のみに曲線を描く、ことを特徴とする請求項1に記載のヘルド。
【請求項3】
前記曲率(1/R1、1/R2)は第1の前記曲線領域(27)及び/又は第2の曲線領域(28)で一定である、ことを特徴とする請求項1に記載のヘルド。
【請求項4】
より小さい曲率(1/R2)を有する前記曲線領域(28)の長さが、他の前記曲線領域(27)の長さよりも長い、ことを特徴とする請求項1に記載のヘルド。
【請求項5】
前記糸支持面(26)の全体が、前記たて糸方向(K)に曲線を描く、ことを特徴とする請求項1に記載のヘルド。
【請求項6】
2つの前記糸支持面(26)間の距離が最小となる位置は、より小さい曲率(1/R2)を有する前記曲線領域(28)にある、ことを特徴とする請求項5に記載のヘルド。
【請求項7】
2つの前記曲線領域(27、28)の間に遷移位置(30)があり、当該遷移位置(30)での前記糸支持面(26)への接線は、前記第1の曲線領域(27)の前記糸支持面(26)の表面領域の隣接端と、前記第2の曲線領域(28)の前記糸支持面(26)の表面領域の隣接端との両方に接している、ことを特徴とする請求項1に記載のヘルド。
【請求項8】
前記ヘルド枠(12)がひ口開口位置にある時、前記第1の曲線領域(27)の前記曲率(1/R1)がたて糸入口角(α)に適合し、及び/又は前記第2の曲線領域(28)の曲率(1/R2)がたて糸出口角(β)に適合している、ことを特徴とする請求項1に記載のヘルド。
【請求項9】
前記第1の曲線領域(27)の曲率(1/R1)が、前記第2の曲線領域(28)の曲率(1/R2)を下回る、ことを特徴とする請求項1に記載のヘルド。
【請求項10】
長さ方向(L)に伸び、たて糸入口側(16)からたて糸出口側(17)へ通るたて糸(15)を、当該たて糸方向(K)に保持するアイ(14)を備えたヘルド本体(13)からなり、
当該アイ(14)は、当該ヘルド本体(13)の互いに離れた2つの糸支持面(26)により長さ方向(L)に区切られているものと、
長さ方向(L)に対して横断方向(Q)にあり、当該たて糸方向(K)に対して横断する当該アイ(14)を区切る2つのガイドウェブ(33、34)からなり、
一方の当該ガイドウェブ(34)の糸入口側(16)に割り当てられた前縁(39)及び他方の当該ガイドウェブ(34)の糸出口側(17)に割り当てられた後縁(40)が、互いに間隙yをもって当該たて糸方向(K)に中央領域(37)を通り、当該たて糸(15)を挿入するための挿入開口が横断方向(Q)に形成されるものとからなり、
当該ガイドウェブ(33、34)は、各々、糸支持面(26)に隣接した端領域(38)を有し、当該端領域(38)は、それに割り当てられた当該たて糸方向(K)に、当該糸支持面(26)の全体に亘って延びている
ヘルド枠(12)のためのヘルド(10)。
【請求項11】
前記端領域(38)の前記横断方向(Q)の厚さは、前記ガイドウェブ(33、34)の前記中央領域(37)の厚さに実質的に対応する、ことを特徴とする請求項10に記載のヘルド。
【請求項12】
前記端領域(38)に隣接した特定の前記糸支持面(26)に直角に測定した前記端領域(38)の高さは、前記たて糸(15)の直径を上回る、ことを特徴とする請求項10記に載のヘルド。
【請求項13】
前記端領域(38)各々が、隣接する前記中央領域(37)から、前記ヘルド本体(13)の前記長さ方向(L)に角度をなして通る狭側(41)を有する、ことを特徴とする請求項10に記載のヘルド。
【請求項14】
前記アイ(14)が、前記ヘルド本体(13)により直接区切られている、ことを特徴とする請求項1又は10に記載のヘルド。
【請求項15】
前記ヘルドは樹脂ヘルドである、ことを特徴とする請求項1又は10記載のヘルド。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−207357(P2012−207357A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−45098(P2012−45098)
【出願日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【出願人】(598132646)グロツ・ベッケルト コマンディートゲゼルシャフト (77)