説明

におい測定装置およびにおい測定方法

【課題】食品の調理時に発生する調理臭の強度を高精度に測定する。
【解決手段】m個(mは2以上の整数)の酸化物半導体型においセンサを使用して、調理時に発生する可燃性ガスおよびn個(nは2以上の整数)の標準においガスをそれぞれ測定し、前記可燃性ガスの測定結果に基づいて前記標準ガスの測定結果を補正する。補正した前記標準ガスの測定結果に基づいて、前記m個のにおいセンサの測定結果で形成されるm次元におい空間において、n個の補正標準においベクトル構成し、調理臭の測定結果により表されるにおいベクトルと前記補正標準においベクトルとの関係を演算手段にて演算することによって調理臭の強度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の調理によって発生する未知のにおい(香気、臭気など全て含む)がどのような種類のにおいであるのか、及びどの程度の強さのにおいであるのかを測定するにおい測定装置および、におい測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、においの識別や評価は、実際に人間の嗅覚を用いて行われるのが一般的であった。しかしながら、実際に臭いを嗅ぐ人(パネル)の個人差やその日の体調によって嗅覚が変動することを想定する必要があるため、客観的な結果を精度良く得るためには、パネルを一定人数以上確保し、試験場所の環境等にも十分な配慮を必要とする。そのため、手間と時間が膨大なものとなる。また、このような配慮を行っても、人間の嗅覚はにおいに順応するという特性を有しているため、常に一定基準で確定的な判断を下すことは困難であった。
【0003】
これに対し、近年、特許文献1に記載されているように、異なる応答特性を有するm(mは2以上の整数)個のにおいセンサと、前記m個のにおいセンサによる測定結果で形成されるm次元空間において、既知の標準においガスの測定結果により表される標準においベクトルと、未知試料の測定結果により表されるにおいベクトルとの関係を演算することによって、においの強度を臭気指数や臭気強度といった人間の嗅覚を基準とした強度指標で算出するにおい測定装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−315298
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
食品を調理する際には、ほとんどの場合、調理によって発生する調理臭とともに可燃性ガスが発生する。前記可燃性ガスの具体例としては調理油が過熱されることによって発生するオイルミストが考えられる。このオイルミストは人間の嗅覚ではにおいとしてさほど強くないが、可燃性ガスであるためセンサ表面での酸化還元反応を検出原理とした酸化物半導体型においセンサでは大きく応答してしまう。したがって、調理によって発生した調理臭を特許文献1に記載されたにおい測定装置で測定した場合、装置から出力されるにおいの強度と人間の嗅覚閾値に基づいて算出される実際のにおい強度が乖離してしまうという問題が発生する。
【0006】
そこで、本発明は、オイルミストのような可燃性ガスの影響を受けずに食品を調理する際に発生する調理臭を測定できるにおい測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1に記載したにおい測定装置は、m個(mは2以上の整数)のにおいセンサと、調理時に発生する可燃性ガスおよびn個(nは2以上の整数)の標準においガスをそれぞれ前記m個のにおいセンサで測定した結果を記憶する記憶手段と、前記標準においガスの測定結果を前記可燃性ガスの測定結果に基づいて補正する補正手段と、前記補正手段によって補正された結果を記憶する記憶手段と、前記m個のにおいセンサの測定結果で形成されるm次元におい空間において、前記補正手段の結果により表されるn個の補正標準においベクトルと 調理臭の測定結果により表されるにおいベクトルとの関係を演算するベクトル演算手段とを備えることを特徴としている。
【0008】
本発明のにおい測定装置によれば、標準においガスの測定結果およびオイルミストのような可燃性ガスの測定結果に基づいてm個のにおいセンサの測定結果で形成されるm次元におい空間において、可燃性ガスの影響を含んだn個の補正標準においベクトルを構成することができる。一方、食品を調理する際に発生する調理臭には必然的にオイルミストような可燃性ガスが含まれることから、前記調理臭を前記m個のにおいセンサで測定した結果で表されるにおいベクトルにも可燃性ガスの影響が含まれる。
【0009】
したがって、補正標準ベクトルおよび調理臭の測定結果によって表されるにおいベクトルともに可燃性ガスの影響が含まれていることから、これらのベクトルの関係を演算することによって、可燃性ガスの影響を相殺することができ、その結果、オイルミストのような可燃性ガスの影響を受けずに食品を調理する際に発生する調理臭のにおい強度を算出することが可能となる。
【0010】
また、本発明の請求項2に記載したにおい測定装置は、前記補正手段を備えたにおい測定装置において、前記補正手段は前記可燃性ガスの測定結果に係数を乗じた値を前記標準においガスの測定結果に加算するものであることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の請求項3に記載したにおい測定方法は、前記n個の標準においガスとともに、オイルミストのような調理時に発生する可燃性ガスをあらかじめm個の酸化物半導体型においセンサで測定してその結果を記憶手段に記憶しておき、前記記憶手段に記憶しておいた可燃性ガスの測定結果に基づいて同じく前記記憶手段に記憶しておいたn個の標準においガスの測定結果を補正手段で補正することによって、m個の酸化物半導体型においセンサの測定結果で形成されるm次元におい空間において、可燃性ガスの影響を含んだn個の補正標準においベクトルを形成する。この補正標準においベクトルと、調理臭を前記m個の酸化物半導体型においセンサで測定した結果との関係を前記m次元におい空間において計算することによって、調理臭のにおい強度を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のにおい測定装置によれば、食品の調理臭を測定する場合において、調理臭とともに発生するオイルミストのような可燃性ガスの影響を受けずににおいの強度を測定することが可能となり、その結果、におい測定装置によって算出されるにおい強度と人間の嗅覚閾値に基づいて算出される実際のにおい強度が乖離するという問題を解決することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のより詳しい内容を、具体的な実施の形態により説明する。図1は本発明を実施したにおい測定装置のブロック構成図である。実施例のにおい測定装置は、標準においガスや調理臭等の試料を吸引するための吸入口1、試料に含まれるにおいを測定するための、応答特性が異なる複数(この例では10個)の酸化物半導体型においセンサ21〜30を備えたセンサセル2、未知試料又は標準試料をセンサセル2に引き込むためのポンプ3、においセンサ21〜30による検出信号を解析処理する信号処理部4、解析処理の出力をディスプレイ画面上に表示する表示部5、本装置全体の動作を制御する制御部6から構成される。
【0014】
信号処理部4は標準においガスをにおいセンサで測定した結果を記憶する標準においデータ記憶部41、食品の調理時に発生するオイルミストのような可燃性ガスをにおいセンサで測定した結果を記憶する補正データ記憶部42、前記標準においガスデータ記憶部に記憶された結果を前記補正データ記憶部に記憶された結果に基づいて補正する補正演算部43、前記補正演算によって得られた結果を記憶する補正標準においデータ記憶部44、調理臭をにおいセンサで測定した結果と前記補正標準においデータ記憶部に記憶された結果の関係を演算するベクトル演算部45によって構成される。また、標準においデータ記憶部41、補正データ記憶部42、補正標準においデータ記憶部44は記憶部40としてひとつのユニットにまとめられている。
【0015】
上記構成を有するにおい測定装置による測定原理を説明する。本発明のにおい測定装置では、予め複数種類のにおい成分を含む標準においガスおよび食品の調理時に発生するオイルミストを測定する。標準においガスは、例えばボンベ(気体)、液体、固体から発生する原料ガスを混合・希釈することにより調製される。原料ガスは、常温でガスのものについてはガスボンベに封入しておき、一定量を取り出して使用すればよい。液体の場合はガラス容器等に入れ、所定温度に保ったり窒素ガスや清浄な空気をバブリングしたりすることによりにおいを発生させればよい。また、固体のものは、所定温度に保つことによりにおいを発生させればよい。一方、オイルミストは調理油を清浄な空気中で調理時と同じ条件で加熱し、その際の空気を採取すればよい。なお、オイルミスト発生に使用する調理油の量は調理時に使用する量と同量にし、オイルミストを採取する場所は調理臭を採取する場合と同じにすることが好ましい。
【0016】
上述のようにして調製した標準においガスを吸入口1に供給し、ポンプ3を作動させることにより該標準においガスをセンサセル2に引き込む。センサセル2に導入された標準においガスがにおいセンサ21〜30に接触すると、各においセンサ21〜30からそれぞれ異なる検出信号が並列に出力される。いま、同一の標準においガスのにおい強度を変えて測定を行うと、各においセンサ21〜30はそれぞれのセンサ特性に応じて標準においガスのにおい強度に応じた検出信号を示し、これらは該標準においガスの測定結果として標準においガスデータ記憶部41に記憶される。また、他の種類の標準においガスに関しても同様ににおいガスの強度を変えて測定を行い、その測定結果は標準においガスデータ記憶部41に記憶される。
【0017】
次に、標準においガスの原料ガスをオイルミストで希釈したガスを作成し、これを吸入口1に供給し、ポンプ3を作動させることによりオイルミストで希釈した標準においガスをセンサセル2に引き込む。標準においガスの場合と同様にセンサセル2に導入されたオイルミストがにおいセンサ21〜30に接触すると、各においセンサ21〜30からそれぞれ異なる検出信号が並列に出力される。これらの信号はオイルミストの影響を含んだ標準においガスの測定結果として補正データ記憶部42に記憶される。
【0018】
次に、補正演算部43で標準においガスデータ記憶部41に記憶された標準においガスの測定結果を補正データ記憶部42に記憶されたオイルミストの影響を含んだ標準においガスの測定結果に基づいて補正を行う。前記補正は複数の標準においガスを10個のにおいセンサで測定した結果すべてについて行われるが、ここでは理解を容易にするためにある1個のセンサで1種類の標準においガスを測定した結果で説明する。
【0019】
図2は10個のにおいセンサのうちある1個のセンサで1種類の標準においガスを測定した結果である。横軸は標準においガスのにおい強度、縦軸はセンサの信号出力を表す。また図中の丸形(○)は標準においガスを測定した結果であり、図中の四角(□)は標準においガスの原料ガスをオイルミストで希釈し、におい強度10に調整したガスを測定した結果である。
【0020】
補正の計算は、におい強度が10の場合の丸型(○)と四角(□)のセンサ出力の差分をオイルミストによるセンサ出力信号とし、標準においガスを測定した場合に得られるセンサ出力信号に前記オイルミストによるセンサ出力信号を加算することによって行う。ただし、オイルミストの影響の度合は標準においガスのにおい強度によって変動するため、具体的には(数1)によって行われる。
(数1)F2(C)=F1(C)+R(C)×a
ここで、F2(C)はオイルミストの影響を含んだ標準においガスのにおい強度Cとセンサ出力との関係を表した関数である。また、F1(C)は標準においガスのにおい強度Cとセンサ出力信号との関係を表した関数である。F1(C)はにおい強度が既知の標準においガスを測定した場合に得られるセンサ出力信号(図2中の丸形(○)に相当する)に基づいて曲線近似を行うことによって得られる。近似曲線の関数はセンサの種類によって異なるが、二次関数、指数関数等が使用される。さらに、R(C)は標準においガスのにおい強度によって決定される係数であり、センサの種類によって実験によって求められる。aはオイルミストによるセンサ出力信号であり、図2においては、におい強度が10の場合の丸型(○)と四角(□)のセンサ出力の差分に相当する。図3は図2に関数F2(C) によって得られる補正計算を施したセンサ出力信号を書き加えた結果である。図3において補正計算を施したセンサ出力信号はひし形(◇)に相当する。
【0021】
前記補正は複数の標準においガスを10個のにおいセンサで測定した結果すべてについて行われ、その結果は補正標準においデータ記憶部44に記憶される。
【0022】
食品の調理時に発生する調理臭の測定は前記標準においガスおよびオイルミストと同様に調理臭を吸入口1に供給し、ポンプ3を作動させることにより調理臭をセンサセル2に引き込む。調理時には必然的にオイルミストも発生することから引き込まれた調理臭にはオイルミストも含まれてしまう。センサセル2に導入されたオイルミストを含んだ調理臭がにおいセンサ21〜30に接触すると、各においセンサ21〜30からそれぞれ異なる検出信号が並列に出力される。
【0023】
前記オイルミストを含んだ調理臭の測定した結果は、ベクトル演算部45で10個のにおいセンサのセンサ出力を軸として形成される10次元空間におけるにおいベクトルに表され、同様に補正標準においデータ記憶部44に記憶された結果は、ベクトル演算部45で10個のにおいセンサのセンサ出力を軸として形成される10次元空間における補正標準においベクトルに表される。これら補正標準ベクトルとにおいベクトルとの関係を演算することによって調理臭のにおい強度が算出される。算出方法の一例としては、調理臭によるにおいベクトルから各補正標準においベクトルに対する正射影をとり、その正射影ベクトルの長さに相当する標準においガスのにおい強度の総和から調理臭のにおい強度を算出方法があるが、上記以外のベクトル演算手法で調理臭のにおい強度を算出しても良い。
【0024】
なお、上記実施例はいずれも本発明の一例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜変更や修正を加えることができることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のにおい測定装置のブロック構成図
【図2】本発明のにおい測定装置の補正計算方法の説明図
【図3】本発明のにおい測定装置の補正計算方法の説明図
【符号の説明】
【0026】
1 吸入口
2 センサセル
3 ポンプ
21〜30 においセンサ
4 信号処理部
40 データ記憶部
41 標準においデータ記憶部
42 補正データ記憶部
43 補正演算部
44 補正標準データ記憶部
45 ベクトル演算部
5 表示部
6 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品の調理によって発生する調理臭を識別するにおい測定装置において、m個(mは2以上の整数)の酸化物半導体型においセンサと、調理時に発生する可燃性ガスおよびn個(nは2以上の整数)の標準においガスをそれぞれ前記m個のにおいセンサで測定した結果を記憶する記憶手段と、前記標準においガスの測定結果を前記可燃性ガスの測定結果に基づいて補正する補正手段と、前記補正手段によって補正された結果を記憶する記憶手段と、前記m個のにおいセンサの測定結果で形成されるm次元におい空間において、前記補正手段の結果により表されるn個の補正標準においベクトルと、調理臭の測定結果により表されるにおいベクトルとの関係を演算するベクトル演算手段とを備えるにおい測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたにおい測定装置において、前記補正手段は前記可燃性ガスの測定結果に係数を乗じた値を前記標準においガスの測定結果に加算するものであることを特徴とするにおい測定装置。
【請求項3】
食品の調理によって発生する調理臭を識別するにおい測定方法において、m個(mは2以上の整数)の酸化物半導体型においセンサで調理時に発生する可燃性ガスおよびn個(nは2以上の整数)の標準においガスを測定し、前記可燃性ガスの測定結果に基づいて前記標準においガスの測定結果を補正し、補正した標準においガスの測定結果に基づいて、前記m個のにおいセンサの測定結果で形成されるm次元におい空間において、n個の補正標準においベクトルを形成し、調理臭を前記m個の酸化物半導体型においセンサで測定した結果から得られる前記m次元におい空間におけるにおいベクトルと、前記補正標準においベクトルとの関係を計算することによって前記調理臭のにおい強度を算出することを特徴とするにおい測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−178352(P2007−178352A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379224(P2005−379224)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(391002487)学校法人大同学園 (23)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】