説明

ねじ体の方向指示構造

【課題】左ねじと右ねじのねじ体の視別性と触別性を得、ねじ体を何れの方向に回転させれば進行又は後退させることが出来るのかを外観上並びに外面上識別可能としつつも、大量生産等も可能で、コストアップせず、ねじ体が本来有する機能や強度等を低減させることのない造形性と美観に優れた、ねじ体の方向指示構造を提供することを目的とする。
【解決手段】ねじの回転方向に関連付けられて非対称に設定され、回転方向順向きを指示するコーナー部と、回転方向順向きに回転させた際に当該ねじ体が進行する向きを指示するコーナー部とを有する方向指示部を、ねじ体を構成する固形体の外面に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、雄ねじ体、特にボルトと、ナット等の雌ねじ体等のねじ体におけるねじの回転方向及び進行方向を、視認及び触認し得るようにするためのねじ体の方向指示構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ねじには、右回転の弦巻線状の螺旋溝若しくは螺旋条から成る右ねじの他、左回転の弦巻線状の螺旋溝若しくは螺旋条から成る左ねじが存在し、特にこのねじが六角筒等の固形部材の円柱状穴の周面に形成された物は、雌ねじ或いはナット等と呼ばれ、他方、円柱部材の外周面にねじが形成されて成るねじ体は雄ねじ或いはボルト等と呼ばれ、これら雄ねじと雌ねじとが互いに螺合されて使用される。
【0003】
勿論、右ねじが形成された雌ねじ体には、右ねじが形成された雄ねじ体が対で用いられ、左ねじが形成された雌ねじ体には、左ねじが形成され雌ねじ体が対で用いられる。ただし、右ねじが形成された雄ねじ体に対して左ねじが形成された雌ねじ体を螺合しようとしても螺合することは出来ず、この逆、即ち左ねじが形成された雄ねじ体に対して右ねじが形成された雌ねじ体を螺合しようとしても螺合することは出来ない。
【0004】
従って、雌ねじ体にあっては、右ねじと左ねじとを識別し、対を成す左ねじ又は右ねじの雄ねじ体に適正に螺合することが必要であり、その逆、即ち雄ねじ体にあっても然りでる。しかしながら、従来のねじ体、特に雌ねじ体若しくはナットにおいては、ねじ部が内周面に形成されていることから外観上、或いは外面上における差異はなく、右ねじと左ねじとを外観上、外面上判別が出来るようには構成されておらず、合理的に右ねじか左ねじかを判別することは不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−061442号公報
【特許文献2】特開2001−056009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、左ねじと右ねじのねじ体の視別性と触別性を付加すると共に、ねじ体において左ねじ又は右ねじの何れの回転方向かを指し示す回転方向指示性と、回転向きに対する進行向きを指し示す進行方向指示性を付加し左ねじのナットと右ねじのナットとを外観上並びに外面上識別可能としつつも、容易に製造可能で大量生産も可能であってコストアップせず、ねじ体が本来有する機能や強度等を低減させることのない造形性に優れ、且つ、美観に優れた、ねじ体の方向指示構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明のねじ体の方向指示構造において採った手段は、固形体の一部にねじ部が設けられて成るねじ体を備え、このねじ体の上記ねじ部以外の外表面に、上記ねじ部の回転方向順向きと逆向きに対し、回転軸を中心として、非対称な形状の方向指示部が一つ以上設けられることを特徴としている。
【0008】
前記方向指示部は、一つ以上の小面によって構成されることを特徴としている。
【0009】
前記小面は、略平坦又は略曲面状に設けられることを特徴としている。
【0010】
前記小面は、非対称な略三角形状に設けられることを特徴としている。
【0011】
前記小面は、非対称な略三角形状を成し、この非対称三角形は、前記ねじ部の回転方向順向き側に位置する第一コーナー部と、前記ねじ部の回転方向逆向き側に位置する第二コーナー部と、前記軸方向進行向き側に位置する第三コーナー部を有し、上記第一コーナー部と上記第三コーナー部との距離が、上記第二コーナー部と上記第三コーナー部との距離に比して長く設定されることを特徴としている。
【0012】
前記方向指示部は、前記固形体を構成する略多角柱状の雌ねじ体の外面又は雄ねじ体の頭部の外面に設けられることを特徴としている。
【0013】
前記方向指示部は、前記固形体を構成する略多角柱状部分の頂部部位に設けられることを特徴としている。
【0014】
前記方向指示部は、前記ねじ部の軸方向を鉛直に並行にした際に、上端面側の頂部部位と、下端面側の頂部部位の双方にそれぞれ設けられることを特徴としている。
【0015】
前記方向指示部は、略偶数多角柱状を成す前記固形体の平面視における略偶数多角形の角部において少なくとも一つ置きの角部位置に設けられることを特徴としている。
【0016】
前記方向指示部は、略水平方向に平行で回転方向順向きに延びる第一稜線と、略水平方向に平行で回転方向逆向きに延びる第二稜線と、回転軸に平行で進行方向に延びる第三稜線とを有して構成される頂部部位に、非対称な略三角形として設定され、この非対称な略三角形は、上記第一稜線上の前記ねじ部の回転方向順向き側に位置する第一コーナー部と、上記第二稜線上の前記ねじ部の回転方向逆向き側に位置する第二コーナー部と、上記第三稜線上の前記軸方向進行向き側に位置する第三コーナー部を有し、上記第一コーナー部と上記第三コーナー部との距離が、上記第二コーナー部と上記第三コーナー部との距離に比して長く設定されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、ねじの回転方向に関連付けられて非対称に設定され、回転方向順向きを指示するコーナー部と、回転方向順向きに回転させた際に当該ねじ体が進行する向きを指示するコーナー部とを有する方向指示部を、ねじ体を構成する固形体の外面に設けたことにより、左ねじと右ねじのねじ体の視別性と触別性を付加するが可能となると共に、ねじ体において何れの方向に回転させれば進行又は後退させることが出来るのかを外観上並びに外面上識別可能として視別性と触別性を付与しつつも、容易に製造可能で大量生産も可能であってコストアップせず、ねじ体が本来有する機能や強度等を低減させることのない造形性と美観に優れた、ねじ体の方向指示構造を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を適用して成る右ねじの雌ねじ体の斜視図である。
【図2】(A)は本発明を適用して成る左ねじの雌ねじ体の軸方向視の平面図であり、(B)は同正面図であり、(C)は同側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明の実施の形態を添付図面(図1〜2)を参照しながら詳細に説明する。本実施形態のねじ体の方向指示構造は、ねじ体における右ねじ系と左ねじ系とを、あらゆる方向からの外観上において視別を可能とし、また外面上において触別を可能とすると共に、ねじ体において何れの方向に回転させれば進行又は後退させることが出来るのかを外観上並びに外面上識別可能としつつも、コストアップすることなく容易に製造出来、大量生産も可能で、ねじ体が本来有する機能や強度等を低減させることが無い上、造形性と美観に優れた、ねじ体の方向指示構造を得るためのものである。
【0020】
また、本発明は、ナットに代表される雌ねじ体1の外面、若しくはボルトに代表される雄ねじ体の頭部の外面に適用することが可能である。
【0021】
本実施形態の雌ねじ体1や雄ねじ体等のねじ体は、固形体の一部にねじ部2が設けられて構成される。特に、雌ねじ体1の場合には、ねじ部2は固形体の内部に穿設された穴の内周面に螺設され、雄ねじ体の場合には、ねじ部は固形体の一部が軸部とされ、別の一部が頭部とされ、この軸部の外周面の適宜の領域に螺設される。
【0022】
そして、固形体の外表面には、方向指示部3が少なくとも一つ以上設けられる。ここで、固形体の外表面とは、雌ねじ体1の場合にはブロック様を成すねじ部以外の外面であり、雄ねじ体の場合には固形体の構成要素として設けられる頭部の外面を指す。勿論、方向指示部3を設けるこれらの固形体の立体形状は、特に限定されるものではないが、多角柱状、より具体的には、偶数多角柱状、より好ましくは四角柱状或いは六角柱状を成すものとすれば、所謂六角ボルトや六角ナット等の広く普及した汎用品に適用出来て好ましい。
【0023】
方向指示部3は、異種素材を用いて構成することも可能であるが、固形体を構成する素材そのもので構成され、好ましくは、固形体自体を所望の方向指示部3を有する形状に構成し、製造コストを抑えつつ、造形性を向上させる。
【0024】
方向指示部3は、ねじ体に設けられるねじ部2の回転方向順向きと逆向きに対し、回転軸を中心として、非対称な形状に設定する。好ましくは、方向指示部3は、ねじ部2の回転方向に関連付けられて非対称に設定され、回転方向順向きを指示するコーナー部と、回転方向順向きに回転させた際にねじ体が進行する向きを指示するコーナー部とを設ける。なお図1及び図2では、ねじ部は右ねじが設けられている。
【0025】
なお、個々の方向指示部3は、一つ以上の小面によって構成することが可能であり、二つ以上の互いに近接する小面を設けることによって一つの方向指示部を構成することも可能であるが、小さなサイズのねじ体の表面に複数の小面から成る方向指示部を設けることは困難であり、また返って判別しにくくなる虞があり、またコストアップに繋がることも考えられることから好ましくは、一つの小面によって一つの方向指示部3を構成する。
【0026】
また小面4は、略平坦又は略曲面状に設けられることが好ましいが、凹凸状或いは凸状、若しくは凹状或いは微細な凹凸を設けるなどして構成することも可能である。
【0027】
小面4は、非対称な略三角形状に設けることが可能である。ここで、略三角形状とは、角部が鋭角状や鈍角状の他、丸角状としてもよく、必ずしも尖っている必要はないが、外観上、非対称であって何れかの方向を指し示すような幾何学形状とすることが重要である。特に、小面4を構成する非対称な略三角形状を、ねじ部の回転方向順向き側に位置する第一コーナー部5aと、ねじ部の回転方向逆向き側に位置する第二コーナー部5bと、軸方向進行向き側に位置する第三コーナー部5cとするとき、第一コーナー部5aと第三コーナー部5cとの距離が、第二コーナー部5bと第三コーナー部5cとの距離に比して長く設定することで非対称性と方向指示性を発現させるようにすることが出来る。
【0028】
また、方向指示部3の設定部位は、固形体を構成する略多角柱状部分の頂部6部位に設けられることが好ましい。ここで、頂部6部位とは、ねじ部の軸方向と平行な面若しくは稜線部と、軸方向における端部の軸直角な面との成す角部であって、より好ましくは、軸直角な面における角部、即ち軸方向視における略多角形の角部との交点を指す。勿論、ここでの頂部6部位や交点とは、固形体の実体部位を指すものであってもよく或いは、面取り等によって切り欠かれた空間上の点を指すものであってもよい。
【0029】
なお、方向指示部3は、ねじ部の軸方向を鉛直に対して並行にした際に、上端面側の頂部6部位と、下端面側の頂部6部位の双方の何れか一方若しくは双方にそれぞれ設けてもよい。
【0030】
また、方向指示部3は、略偶数多角柱状を成す固形体の平面視における略偶数多角形の角部において少なくとも一つ置きの角部位置に設けることが可能である。勿論、全ての頂部6部位に設けることも可能であり、この場合、非常に回転対称性の良好で美麗で意匠性の高い外観となる反面、意匠性が前面に出てくる効果が著しく本来の目的の一つである方向指示性という意図が意匠性の陰に隠れ、方向指示性という意図が伝わりにくくなる虞がある。
【0031】
本実施形態の方向指示部3の好ましい実施形態例としては、例えば、図1に示すように頂部6部位を、略水平方向に平行で回転方向順向きに延びる第一稜線7aと、略水平方向に平行で回転方向逆向きに延びる第二稜線7bと、回転軸に平行で進行方向に延びる第三稜線7cとで規定し、回転方向に対して非対称な略三角形として頂部6部位に方向指示部3を設定する場合、この非対称な略三角形は、第一稜線7a上のねじ部2の回転方向順向き側に位置する第一コーナー部5aと、第二稜線7b上のねじ部2の回転方向逆向き側に位置する第二コーナー部5bと、第三稜線7c上の軸方向進行向き側に位置する第三コーナー部5cを有する構成とし、第一コーナー部5aと第三コーナー部5cとの距離が、第二コーナー部5bと第三コーナー部5cとの距離に比して長く設定する。
【0032】
こうすることによって、ねじ体を成す固形体の外面の所望の頂部6部位に非対称な略三角形状の小面4を方向指示部3として設定することが可能となり、またこの方向指示部3が、多角柱状を成す固形体の第一稜線7a及び第二稜線7b及び第三稜線7cの頂部6部位にそれぞれの稜線上にコーナー部を有する略三角形状の方向指示部3であって、回転方向に長く延びた細長い略三角形となるため、第一コーナー部5aの設定位置と向きとによって回転方向を指し示すことが出来ると共に、第三コーナー部5cの設定位置と向きとによって、回転方向順向きにねじ体を回転させた際の進行方向を指し示すことが可能となる上、頂部6部位に設定しているために面取り効果をも有するものとなって合理的である。
【0033】
以上説明によって本発明のねじ体の方向指示構造について説明したが、勿論、これらに限らず、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 雌ねじ体
2 ねじ部
3 方向指示部
4 小面
5a 第一コーナー部
5b 第二コーナー部
5c 第三コーナー部
6 頂部
7a 第一稜線
7b 第二稜線
7c 第三稜線



【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形体の一部にねじ部が設けられて成るねじ体を備え、
このねじ体の上記ねじ部以外の外表面に、上記ねじ部の回転方向順向きと逆向きに対し、回転軸を中心として、非対称な形状の方向指示部が一つ以上設けられることを特徴とするねじ体の方向指示構造。
【請求項2】
前記ねじ部の回転方向に関連付けられて非対称に設定され、回転方向順向きを指示するコーナー部と、回転方向順向きに回転させた際に前記ねじ体が進行する向きを指示するコーナー部とを有する前記方向指示部を、前記ねじ体を構成する前記固形体の外面に設けたことを特徴とする請求項1に記載のねじ体の方向支持構造。
【請求項3】
前記方向指示部は、一つ以上の小面によって構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のねじ体の方向指示構造。
【請求項4】
前記小面は、略平坦又は略曲面状に設けられることを特徴とする請求項3に記載のねじ体の方向指示構造。
【請求項5】
前記小面は、非対称な略三角形状に設けられることを特徴とする請求項3又は4に記載のねじ体の方向指示構造。
【請求項6】
前記小面は、非対称な略三角形状を成し、
この非対称三角形は、前記ねじ部の回転方向順向き側に位置する第一コーナー部と、前記ねじ部の回転方向逆向き側に位置する第二コーナー部と、前記軸方向進行向き側に位置する第三コーナー部を有し、
上記第一コーナー部と上記第三コーナー部との距離が、上記第二コーナー部と上記第三コーナー部との距離に比して長く設定されることを特徴とする請求項3乃至5の何れかに記載のねじ体の方向指示構造。
【請求項7】
前記方向指示部は、前記固形体を構成する略多角柱状の雌ねじ体の外面又は雄ねじ体の頭部の外面に設けられることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載のねじ体の方向指示構造。
【請求項8】
前記方向指示部は、前記固形体を構成する略多角柱状部分の頂部部位に設けられることを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載のねじ体の方向指示構造。
【請求項9】
前記方向指示部は、前記ねじ部の軸方向を鉛直に対して並行にした際に、上端面側の頂部部位と、下端面側の頂部部位の双方にそれぞれ設けられることを特徴とする請求項8に記載のねじ体の方向指示構造。
【請求項10】
前記方向指示部は、略偶数多角柱状を成す前記固形体の平面視における略偶数多角形の角部において少なくとも一つ置きの角部位置に設けられることを特徴とする請求項8又は9にねじ体の方向指示構造。
【請求項11】
前記方向指示部は、略水平方向に平行で回転方向順向きに延びる第一稜線と、略水平方向に平行で回転方向逆向きに延びる第二稜線と、回転軸に平行で進行方向に延びる第三稜線とを有して構成される頂部部位に、非対称な略三角形として設定され、
この非対称な略三角形は、上記第一稜線上の前記ねじ部の回転方向順向き側に位置する第一コーナー部と、上記第二稜線上の前記ねじ部の回転方向逆向き側に位置する第二コーナー部と、上記第三稜線上の前記軸方向進行向き側に位置する第三コーナー部を有し、
上記第一コーナー部と上記第三コーナー部との距離が、上記第二コーナー部と上記第三コーナー部との距離に比して長く設定されることを特徴とする請求項1乃至10の何れかに記載のねじ体の方向指示構造。



【図2】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−44381(P2013−44381A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182279(P2011−182279)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(708000812)
【出願人】(510202167)Next Innovation合同会社 (30)