説明

ねじ締付状態検出システム

【課題】 ボルトやナットの締め忘れや緩みが生じている場合に、これを的確に検出することができるねじ締付状態検出システムを提供する。
【解決手段】 ねじ締付状態検出システムにおいて、固定部材1に対してボルト3により固定される被固定部材2と、前記被固定部材2を固定するボルト3の付け忘れ又は緩みに起因する前記固定部材1と前記被固定部材2との間の変位を検出する検出手段と、この検出手段からの前記固定部材1と前記被固定部材2との間の変位情報を取り出してこの変位情報が取り込まれる監視装置8とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトやナットの締め忘れや緩みなどを検出することができるねじ締付状態検出システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5はパンタグラフのボルトが何らかの理由で緩んだ場合に発生すると予想される事故の状況を示す図である。
この図において、101は車両、102はパンタグラフ、103はパンタグラフ102の上枠、104は上枠103に取り付けられた固定部材、105は固定部材104に固定される舟体、106は電力を供給するトロリ線、107はトロリ線106を吊っている補助吊架線、108は補助吊架線107を吊っている曲線引金具、109は曲線引金具108を支持する支持柱である。
【0003】
トロリ線106から集電し、走行している車両101に電力を供給するパンタグラフ102は、上枠103に設置された固定部材104にトロリ線と接する舟体105が固定されている。固定部材104に舟体195を固定するためのボルトが何らかの理由でその締結機能を失った場合には、車両101の走行中に舟体105が脱落して、支えを失って上昇した上枠103に設置された固定部材104が曲線引金具108に激突し、補助吊架線107を切断するなどの大きな事故を誘起する可能性がある。
【0004】
従来、ボルトやナットを締め付けることにより複数の部材を一体化する締付作業の品質を管理する締付作業品質管理システムや、締付データ管理装置のモニタに、トルクレンチから順次受信したトルクデータによるトルク計測値をその都度表示してゆきトルク計測値全てを一覧表示する締付データ管理システムが提案されている(下記特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−185314号公報
【特許文献2】特開2006−320984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した締付作業品質管理システム(上記特許文献1参照)では、締付作業に係わる品質データが記録されるICタグと、締付作業の度にそのICタグに締付作業に係わる品質データを記録するICタグ書込装置が必要になる。
また、上記した締付作業品質管理システム及び締付データ管理システムでは、精緻な締付作業品質や締付データの管理は可能であるが、作業としては煩雑であるとともに、設置時に十分に締め付られていたボルトやナットの緩みを遠隔から適切に管理するには適していないといった問題があった。
【0007】
本発明は、上記状況に鑑みて、ボルトやナットの締め忘れや緩みが生じている場合に、これを的確に検出することができるねじ締付状態検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕ねじ締付状態検出システムにおいて、固定部材に対してボルトにより固定される被固定部材と、前記被固定部材を固定するボルトの付け忘れ又は緩みに起因する前記固定部材と前記被固定部材との間の変位を検出する検出手段と、この検出手段から前記固定部材と前記被固定部材との間の変位情報を取り出してこの変位情報が取り込まれる監視装置とを具備することを特徴とする。
【0009】
〔2〕上記〔1〕記載のねじ締付状態検出システムにおいて、前記検出手段は、前記被固定部材に配置される反射板の下端面と、前記ボルトの締結時に前記反射板の下端面に垂直に密着して接する光ファイバとからなり、この光ファイバ内を伝搬する検査光と前記反射板の下端面に反射した反射光の強度の変化を検知することを特徴とする。
〔3〕上記〔1〕記載のねじ締付状態検出システムにおいて、前記検出手段は、前記ボルトの締結時に前記被固定部材の下端面に密着するように配置される空気管からなり、前記固定部材と前記被固定部材の下端面との間からの空気の漏れによる前記空気管内の空気圧の変化を検知することを特徴とする。
【0010】
〔4〕上記〔1〕又は〔2〕記載のねじ締付状態検出システムにおいて、前記被固定部材がパンタグラフの舟体であり、前記監視装置は光ファイバ貫通碍子を介して導出される光ファイバと接続されて車両内に配置されることを特徴とする。
〔5〕上記〔1〕又は〔3〕記載のねじ締付状態検出システムにおいて、前記被固定部材がパンタグラフの舟体であり、前記監視装置は空気管碍子を介して導出される空気管と接続されて車両内に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ボルトやナットの締め忘れや緩みが生じている場合にはこれを的確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施例を示すねじ締付状態検出システムの模式図である。
【図2】本発明の第1実施例のねじ締付状態検出システムを鉄道車両のパンタグラフに適用した例を示す模式図である。
【図3】本発明の第2実施例を示すねじ締付状態検出システムの模式図である。
【図4】本発明の第2実施例のねじ締付状態検出システムを鉄道車両のパンタグラフに適用した例を示す模式図である。
【図5】パンタグラフのボルトが何らかの理由で緩んだ場合に発生すると予想される事故の状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のねじ締付状態検出システムは、固定部材に対してボルトにより固定される被固定部材と、前記被固定部材を固定するボルトの付け忘れ又は緩みに起因する前記固定部材と前記被固定部材との間の変位を検出する検出手段と、この検出手段から前記固定部材と前記被固定部材との間の変位情報を取り出してこの変位情報が取り込まれる監視装置とを具備する。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の第1実施例を示すねじ締付状態検出システムの模式図である。 この図において、1は固定部材であり、この固定部材1は雌ねじ1Aが形成されたねじ孔1Bを有する。2は固定部材1に固定される被固定部材であり、締付ボルトが装着されるボルト孔2Aが形成されている。3は雄ねじ3Aが形成された締付ボルトであり、被固定部材2のボルト孔2Aに装着され雄ねじ3Aがねじ孔1Bの雌ねじ1Aに螺合することにより、被固定部材2は固定部材1に固定される。4は被固定部材2に配置される反射板であり、この反射板4の下端面4Aは被固定部材2の底面2Bと面一になるように配置されている。5は固定部材1に形成され光ファイバ6を装着する光ファイバ装着孔、7は光ファイバ6を導出する光ファイバ支持部材、8は導出された光ファイバ6が接続される監視装置である。
【0015】
締付ボルト3を締結することにより固定部材1に被固定部材2が完全に固定されると、光ファイバ6の先端部6Aは反射板4の下端面4Aに対して垂直に密着することになる。一方、監視装置8には光ファイバ6が接続されており、光ファイバ6から導入した検査光Aの強度と、反射板4からの反射光Bの強度を比較するようにしている。よって、固定部材1に被固定部材2が完全に固定されていない場合、しているので、検査光Aの強度と反射光Bの強度との差が大きくなり、その差があらかじめ設定されている閾値を越えると、締付ボルト3の付け忘れ又は締付ボルト3の緩みとして検出され、その旨報知することができる。
【0016】
図2は本発明の第1実施例のねじ締付状態検出システムを鉄道車両のパンタグラフに適用した例を示す模式図である。
図2において、10はパンタグラフが配置される車両の屋根部(パンタグラフ加圧部)、11は車両のパンタグラフの上枠(図示なし)に固定されている雌ねじ11Aが形成されたねじ孔11Bを有する固定部材であり、この固定部材11に被固定部材としてパンタグラフの舟体12を雄ねじ13Aが形成された締付ボルト13により固定する。なお、12Aはボルト孔、12Bは舟体12の底面、15は固定部材11に形成される光ファイバ装着孔、17は光ファイバ貫通碍子17である。
【0017】
パンタグラフの舟体12が締付ボルト13により固定部材11に固定されると、パンタグラフの舟体12に配置されている反射板14の下端面14Aに対して光ファイバ16の先端部16Aが垂直に密着して接する。この時、監視装置18から光ファイバ16を介して検査光Aが送られると、反射板14の下端面14Aで反射された反射光Bは、光ファイバ16内を伝送し、列車内に配置される監視装置18に返される。監視装置18は検査光Aの強度と反射光Bの強度を比較しており、検査光Aの強度と反射光Bの強度の差があらかじめ設定された閾値内でれば、固定部材11に対するパンタグラフの舟体12の固定状態は良好であると判断される。ところが、締付ボルト13の締め忘れや、当初は十分に締め付けられていても経年劣化などにより締付ボルト13の緩みなどが生じた場合には、検査光Aの強度と反射光Bの強度との差が大きくなり、その差があらかじめ設定された閾値を越えた値で検出される。これをパンタグラフの舟体12を固定する締付ボルト13の締め忘れや緩みとして検出し、その旨を報知することができる。
【0018】
図3は本発明の第2実施例を示すねじ締付状態検出システムの模式図である。
この図において、21は固定部材であり、この固定部材21は雌ねじ21Aが形成されたねじ孔21Bを有する。22は固定部材21に固定される被固定部材であり、締付ボルトが装着されるボルト孔22Aが形成されている。23は雄ねじ23Aが形成される締付ボルトであり、被固定部材22のボルト孔22Aに装着され雄ねじ23Aがねじ孔21Bの雌ねじ21Aに螺合することにより、被固定部材22は固定部材21に固定される。24は固定部材21に形成される空気管25を装着する空気管装置孔、26は空気管25を導出する空気管支持部材、27は空気管25に接続される監視装置である。
【0019】
締付ボルト23を締結することにより固定部材21に被固定部材22が完全に固定されると、空気管25の先端部25Aは被固定部材22の底面22Bで完全に塞がれ、空気管25内は一定の空気圧が保持されるので、締付ボルト23が正しく締結されていることが検出できる。一方、固定部材21と被固定部材22とが完全に固定されていない場合、固定部材21と被固定部材22き底面22との間に隙間が生じ、空気管25内に導入された空気が漏れることになり、空気圧が低下する。すると、その空気圧の低下が締付ボルト23の付け忘れ又は締付ボルト23の緩みとして監視装置27で検出されて、その旨報知される。
【0020】
図4は本発明の第2実施例のねじ締付状態検出システムを鉄道車両のパンタグラフに適用した例を示す模式図である。
図4において、30はパンタグラフが配置される車両の屋根部(パンタグラフ加圧部)、31は車両のパンタグラフの上枠(図示なし)に固定されている雌ねじ31Aが形成されたねじ孔31Bを有する固定部材であり、この固定部材31に被固定部材としてパンタグラフの舟体32を雄ねじ33Aが形成された締付ボルト33により固定する。固定部材31には、空気管35を装着する空気管装着孔34が形成され、空気管35は、固定部材31と舟体32が正しく固定された時、その先端部35Aがパンタグラフの舟体32の底面32Bに密着するように配置されている。その空気管35は空気管碍子36を介して列車内に配置される監視装置37に接続されている。なお、32Aはボルト孔である。
【0021】
パンタグラフの舟体32が締付ボルト33により固定部材31に固定されると、パンタグラフの舟体32により空気管35の先端部35Aは完全に封じられるので、空気管35内には一定の空気圧が保持され、締付ボルト33が適切に締結されており、固定部材31に対するパンタグラフの舟体32の固定状態は良好であると判断される。しかし、締付ボルト33の付け忘れや緩みが生じると、固定部材31とパンタグラフの舟体32とが完全に固定されず、それらの間に隙間が生じるので、空気管35内の空気圧が低下し、その空気圧の低下が車内に配置された監視装置37により検出される。これをパンタグラフの舟体32を固定する締付ボルト33の付け忘れ又は緩みとして検出し、その旨を報知することができる。
【0022】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、被固定部材を固定するためのボルトの付け忘れ又はボルトの緩みを確実に検知することができるねじ締付状態検出システムとして利用可能である。
【符号の説明】
【0024】
1,11,21,31 固定部材
1A,11A,21A,31A 雌ねじ
1B,11B,21B,31B ねじ孔
2,22 被固定部材
2A,12A,22A,32A ボルト孔
2B,22B 被固定部材の底面
3,13,23,33 締付ボルト
3A,13A,23A,33A 雄ねじ
4,14 反射板
4A,14A 反射板の下端面
5,15 光ファイバ装着孔
6,16 光ファイバ
6A,16A 光ファイバの先端部
7 光ファイバ支持部材
8,18,27,37 監視装置
10,30 車両の屋根部(パンタグラフ加圧部)
12,32 パンタグラフの舟体(被固定部材)
12B,32B パンタグラフの舟体の底面
17 光ファイバ貫通碍子
24,34 空気管装着孔
25,35 空気管
25A,35A 空気管の先端部
26 空気管支持部材
36 空気管碍子
A 検査光
B 反射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)固定部材に対してボルトにより固定される被固定部材と、
(b)前記被固定部材を固定するボルトの付け忘れ又は緩みに起因する前記固定部材と前記被固定部材との間の変位を検出する検出手段と、
(c)該検出手段から前記固定部材と前記被固定部材との間の変位情報を取り出して該変位情報が取り込まれる監視装置とを具備することを特徴とするねじ締付状態検出システム。
【請求項2】
請求項1記載のねじ締付状態検出システムにおいて、前記検出手段は、前記被固定部材に配置される反射板の下端面と、前記ボルトの締結時に前記反射板の下端面に垂直に密着して接する光ファイバとからなり、該光ファイバ内を伝搬する検査光と前記反射板の下端面に反射した反射光の強度の変化を検知することを特徴とするねじ締付状態検出システム。
【請求項3】
請求項1記載のねじ締付状態検出システムにおいて、前記検出手段は、前記ボルトの締結時に前記被固定部材の下端面に密着するように配置される空気管からなり、前記固定部材と前記被固定部材の下端面との間からの空気の漏れによる前記空気管内の空気圧の変化を検知することを特徴とするねじ締付状態検出システム。
【請求項4】
請求項1又は2記載のねじ締付状態検出システムにおいて、前記被固定部材がパンタグラフの舟体であり、前記監視装置は光ファイバ貫通碍子を介して導出される光ファイバと接続されて車両内に配置されることを特徴とするねじ締付状態検出システム。
【請求項5】
請求項1又は3記載のねじ締付状態検出システムにおいて、前記被固定部材がパンタグラフの舟体であり、前記監視装置は空気管碍子を介して導出される空気管と接続されて車両内に配置されることを特徴とするねじ締付状態検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−194475(P2011−194475A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60273(P2010−60273)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】