ねじ部品の共用十字穴
【課題】JIS規格に定められている互いに隣り合う十字穴の番号において共用可能なねじ部品の十字穴形状を得る。
【解決手段】十字穴を有する頭部2と一体でねじ山4が形成された脚部3とから構成されるねじ部品において、JIS規格に設定されている十字穴の頭部表面側の長さであるm寸法をねじ部品1の呼びに応じた長さとし、規格において互いに隣り合う二組の十字穴の番号にあっては、十字穴のg寸法を十字穴番号の小さい方側の寸法に設定するとともにb寸法は十字穴番号の大きい方側のb寸法を通り延長した位置に設定し、しかも、α角も十字穴番号の大きい方側に設定した共用十字穴であるので、本来2番の十字穴に適応されるドライバビットに加えてこれより小さい1番のドライバビットの使用ができる。また、十字穴とドライバビットの穂先との間に隙間が生じず、安定したねじ締め作業が可能になる。
【解決手段】十字穴を有する頭部2と一体でねじ山4が形成された脚部3とから構成されるねじ部品において、JIS規格に設定されている十字穴の頭部表面側の長さであるm寸法をねじ部品1の呼びに応じた長さとし、規格において互いに隣り合う二組の十字穴の番号にあっては、十字穴のg寸法を十字穴番号の小さい方側の寸法に設定するとともにb寸法は十字穴番号の大きい方側のb寸法を通り延長した位置に設定し、しかも、α角も十字穴番号の大きい方側に設定した共用十字穴であるので、本来2番の十字穴に適応されるドライバビットに加えてこれより小さい1番のドライバビットの使用ができる。また、十字穴とドライバビットの穂先との間に隙間が生じず、安定したねじ締め作業が可能になる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに所定の締結力で締め付けられるねじ部品において、特に、JIS規格で定められている夫々の十字穴の大きさに対応するドライバビットが異なってもその異なったドライバビットを嵌合させることができ、確実に駆動力の伝達が可能な共用十字穴に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にJIS(日本工業規格)に定められている十字穴付きねじにおいては、従来からねじの呼び寸法が大きくなるにつれて0番〜4番の大きさを示す十字穴の番号で推奨される十字穴を設けて形成されており、特に、多く使用されているM2.5〜M3のねじでは1番が、M3.5〜M5のねじでは2番がねじ部品の呼びに応じて夫々標準的に使用するように定められている。そして、これらの十字穴にはこれに夫々対応した断面十字形状の穂先を有するドライバビットが設定されており、夫々の十字穴に対応するドライバビットの穂先を嵌合させて、ねじ部品をワークに締め付けるようになっている。
【0003】
また、これらねじ部品の需要が増加するにつれて大きな駆動力でワークに締め付け可能なねじ部品も使用されている。その一例として、図13に示すようなねじ部品201が開発されている。これは十字穴220の中心に円錐形状の丸穴230を重ねた木ねじの頭部202に関するものであり、作業効率の向上の観点から近年ではワークへのねじ締め作用の強力な電動工具が使用されるようになっていることからこの丸穴230十字穴220に嵌合するように穂先断面が四角形状のドライバビット210を用い、この四角形の角が十字穴に嵌り込むようにしたものを採用することで普及しつつあるものである。このように、大きな締結力が作用してもねじの頭部に形成されているドライバビットとの係合部が損傷しないようにしたものは各種様々開発されているが、一方、十字穴において、十字穴の1番及び2番等のように二組の十字穴番号に定められている大きさに共通して使用可能な十字穴形状が存在していないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−9586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、現在使用されているねじ部品の十字穴はJIS規格に定められているねじの呼びに応じて十字穴の大きさが設定されており、ねじを使用する作業者が常に使用するねじに対応するドライバビットを使用すれば、十字穴を破損するといった問題が生じないが、ドライバビットの穂先の形状は十字形状であれば全て同じ形状であり、寸法が僅かに異なるだけである。このため、締め付けようとするねじの十字穴形状より大きいドライバビットを使用する場合はこの十字穴に穂先が嵌らないので、ねじ部品をワークに締め付けられないということがわかるが、反対に十字穴に穂先が嵌る場合は、締め付けが可能にはなるが、僅かでも十字穴に対してドライバビットの穂先が小さい即ち、推奨されるドライバビットの番号より小さい番号であると、十字穴に対してドライバビットの穂先に隙間が発生し、ドライバビットがぐらつくから安定したねじ締め作業ができない。
【0006】
例えば、図7及び図8に示すように、ねじ部品101の頭部102に形成されている十字穴120がJIS規格のB1111で推奨されている2番である場合、JIS規格のB1012の規格表によると、基準寸法のb寸法は1.47mm、g寸法は2.29mm、ねじ部品101の規格における2番十字穴を有する呼び寸法M5の場合のm寸法は4.9mmである。そして、このm寸法とg寸法を結ぶ斜面121の角度(θ)は26°30′となっており、これに合うドライバビット110は図9(イ)に示すような形状であり、これを十字穴120に接触して嵌めることで、穂先111と十字穴120の内周壁面の溝側面123とが接触してドライバビットからの駆動力作用部(i)は図9(ロ)に示した太い実線と細い破線とを交互に引いたハッチング部分となり、ドライバビット110の穂先111と十字穴120は図10に示すように嵌合し、ドライバビット110からの駆動力のねじ部品101への伝達が安定することになる。これに反して、このねじ部品101に図11(イ)に示すような十字穴120の番号1番に適用するドライバビット110を使用した場合、このドライバビット110の穂先111のb寸法は0.965mmであることから図のような前記2番の十字穴120にドライバビット110の穂先111を入れると、図11(ロ)に示すように、十字穴120の底にドライバビットの穂先111の先端が当接することになる。そのため、太い実線と細い破線とを交互に引いたハッチング部分である駆動作用部(i)は狭くなるとともに、図12に示すように、十字穴とドライバビット110の穂先とは嵌合せず、ドライバビット110がぐらつくとともに、ドライバビット110からの駆動力の伝達における伝達面積が小さくなることから単位面積当たりの駆動力が大きくなり、ねじ締め時に十字穴120の破損が生じる。このため、大きなトルクによるねじ締め作業ができず、製品不良の原因になっている。
【0007】
また、このようにがたつきやねじ部品のぐらつきが生じるため、ワークの所定のねじ締め位置にねじ部品を締め付ける場合、ねじ締め初期においてねじ部品はドライバビットに対して傾きを生じるからスムースな締め付けが得られず、ねじ部品が斜めに締め付けられて十字穴が損傷する等してワークにねじ部品の頭部座面が着座しないといった不良も発生する等の課題がある。
【0008】
本発明の目的は、このような課題を解消するとともにJIS規格に定められている互いに隣り合う十字穴の番号において共用可能なねじ部品の十字穴形状を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、ドライバビット10の断面十字形状の穂先11が嵌り、ドライバビット10からの駆動力が伝達される十字穴を有する頭部2とこの頭部2と一体で外周にねじ山4が形成された脚部3とから構成されるねじ部品において、JIS規格に設定されている十字穴の頭部表面側の長さであるm寸法をねじ部品1の呼びに応じて寸法設定された長さとし、前記規格において互いに隣り合う二組の十字穴の番号にあっては、十字穴のg寸法を十字穴番号の小さい方側の寸法に設定するとともにb寸法は十字穴番号の大きい方側のb寸法を通り、これより深くなるよう延長した位置に設定し、しかも、前記b寸法を設定する部分の角度であるα角も十字穴番号の大きい方側の角度に設定した共用十字穴を提供することで達成される。
【0010】
前記発明において、互いに隣り合う二組の十字穴の番号は1番及び2番であって、互いに対向する溝21の間隔であるm寸法とg寸法の夫々の端を結ぶ斜面22の傾斜角(θ)は26°30′で形成するとともにねじ部品1の呼びに応じたm寸法が得られる深さを有する共用十字穴とすることで、ドライバビットの穂先の外周が十字穴に嵌り、十字穴の側壁に係合可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、JIS規格において互いに隣り合う二組の十字穴の番号にあって、十字穴のg寸法を十字穴番号の小さい方側の寸法に設定するとともにb寸法は十字穴番号の大きい方側のb寸法を通り、これより深くなるよう延長した位置に設定し、しかも、α角も十字穴番号の大きい方側の角度に設定し、ねじ部品の呼びに応じたm寸法が得られる深さまで十字穴を深く形成することで、本来2番の十字穴に適応される穂先のドライバビットに加えてこれより小さい番号である1番のドライバビットを使用することができる。また、このようにしても、十字穴に対してドライバビットの穂先が嵌合し、従来のように十字穴とドライバビットの穂先との間に隙間が生じず、安定したねじ締め作業が可能になる。
【0012】
更に、ドライバビットの穂先と十字穴は、例えば、1番あるいは2番のどちらであっても確実に嵌合することができ、作業者が1番あるいは2番のどちらのドライバビットを使用しても、本発明の十字穴はいずれのドライバビットでも正確に嵌合でき、従来のように、2番の十字穴に1番のドライバビットを使用したねじ締め状態に比べて、ドライバビットからの駆動力の伝達における伝達面積が大きくなるから十字穴の破損が減少する。このため、大きなトルクによるねじ締め作業が可能になり、ねじ締めが原因の製品不良も減少する。
【0013】
しかも、従来のように、十字穴とドライバビットとの間にがたつきが生じたり、ねじ締め開始時にねじ部品にぐらつきが生じたりしないため、ねじ締め初期にねじ部品がドライバビットに対して傾斜することがなくなるので、スムースなねじ締め作用が得られる。特に、ねじ部品がワークに対して斜めに締め付けられることが解消され、十字穴の損傷やねじ部品の頭部座面が着座しないといったことも解消され、ねじ締め不良の発生が減少する等の特有の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態を示す要部断面正面図である。
【図2】本発明の共用十字穴の概略形状を示すものであり、(イ)は共用十字穴の平面図であり、(ロ)は図2(イ)のA−A線に沿う共用十字穴の端面の輪郭を示し、(ハ)は図2(イ)のB−B線に沿う共用十字穴の端面の輪郭を示している。
【図3】本発明の共用十字穴に穂先が2番形状のドライバビットを嵌合する状態を説明するもので、(イ)は2番形状の穂先を共用十字穴に挿入する状態を示し、(ロ)は共用十字穴にドライバビットの穂先が嵌合した際の駆動力作用部を示している。
【図4】図3(ロ)のC−C線における嵌合状態を示す拡大断面図である。
【図5】本発明の共用十字穴に穂先が1番形状のドライバビットを嵌合する状態を説明するもので、(イ)は1番形状の穂先を共用十字穴に挿入する状態を示し、(ロ)は共用十字穴にドライバビットの穂先が嵌合した際の駆動力作用部を示している。
【図6】図5(ロ)のD−D線における嵌合状態を示す拡大断面図である。
【図7】従来例としての2番の十字穴を有するねじ部品の要部断面正面図である。
【図8】従来例としての2番の十字穴の概略形状を示すものであり、(イ)は十字穴の平面図であり、(ロ)は図8(イ)のE−E線に沿う十字穴の端面の輪郭を示し、(ハ)は図8(イ)のF−F線に沿う十字穴の端面の輪郭を示している。
【図9】従来例としての2番の十字穴に穂先が2番形状のドライバビットを嵌合する状態を説明するもので、(イ)は2番形状の穂先を十字穴に挿入する状態を示し、(ロ)は十字穴にドライバビットの穂先が嵌合した際の駆動力作用部を示している。
【図10】図9(ロ)のG−G線における嵌合状態を示す拡大断面図である。
【図11】従来例としての2番の十字穴に穂先が1番形状のドライバビットを嵌合する状態を説明するもので、(イ)は1番形状の穂先を十字穴に挿入する状態を示し、(ロ)は十字穴にドライバビットの穂先が嵌合した際の駆動力作用部を示している。
【図12】図11(ロ)のH−H線における嵌合状態を示す拡大断面図である。
【図13】もう一つの従来例を示す要部断面平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について最良の実施の形態を図1乃至図6に基づき説明する。図1において、1は十字形状の共用十字穴を有する頭部2とこの頭部2と一体に形成された脚部3とからなるねじ部品であり、この脚部3にはその外周に沿いねじ山4が形成されている。このねじ山4は頭部2の中心に形成された十字穴にドライバビット10からの駆動力が伝達されることによってワーク(図示せず)の下穴(図示せず)に締め付けられる構成になっている。この十字穴は通常JIS規格でその寸法がねじ部品1の大きさ(呼び寸法)によって0番〜4番まで設定してあり、この番号により十字穴の寸法が決定されるようになっている。
【0016】
この十字穴に対応するドライバビット10の穂先11の断面も十字形状となっており、この穂先11もJIS規格により0番〜4番まで規定されている。これにより、ねじ部品1の十字穴とドライバビット10は夫々同一番号のものを用いることによって確実且つ安定したねじ締め作業が得られるようになっている。このように、常に十字穴の番号に一致した番号のドライバビット10を用いることがねじ締めにおける基本ではあるが、次に、隣り合う番号のドライバビット10のいずれもが嵌ることのできる共用十字穴20の実施例を開示する。
【0017】
これは、図2(イ)〜図2(ハ)に示すように、頭部2の上面から見た形状は通常の十字穴形状であり、少なくともJIS規格に設定されている十字穴の頭部表面側の長さであるm寸法はねじ部品1の呼びに応じて設定された長さとなっている。前記規格において互いに隣り合う二組の十字穴の番号にあっては、十字穴のg寸法を十字穴番号の小さい方側の寸法に設定するとともにb寸法は十字穴番号の大きい方側のb寸法を通り、これより深くなるよう延長した位置に設定し、しかも、前記b寸法を設定した部分の角度であるα角も十字穴番号の大きい方側の角度に設定して構成されている。即ち、共用十字穴のb寸法は十字穴番号の大きい方側のb寸法を構成する図2(ハ)に示した点(a、a)を通り、延長された深さを有している。
【0018】
具体的には、互いの隣り合う二組の十字穴の番号が1番及び2番とし、ねじ部品1の呼びをM4とすると、JIS B 1111の規格では、m寸法は4.4mmとなっている。一方、g寸法は二組の十字穴番号の小さい方側の寸法を設定することになっているので、十字穴番号1番の寸法を用いることになり、JIS B 1012の規格の基準寸法ではg寸法は1.27mmとなり、α角は5°45′となる。そして、本発明のb寸法は十字穴番号の大きい方側の2番を基準として、これを通過して深くなるよう延長することによって形成されている。このようにして、共用十字穴20を構成する互いに対向する溝21の間隔であるm寸法とg寸法の夫々の端を結ぶ斜面22の傾斜角(θ)は26°30′で形成し、ねじ部品1の呼びに応じた前記m寸法が得られる深さになるまで共用十字穴20を深く形成することによって番号が1番、2番のどちらのドライバビット10であっても確実に共用十字穴20に嵌ることが可能になる。
【0019】
このように構成した共用十字穴20を形成したねじ部品1をワークの下穴に締め付ける場合において、図3(イ)に示すような2番十字形状の穂先11を有するドライバビット10を共用十字穴20に挿入すると、図3(ロ)に示すように穂先11は共用十字穴20の内周壁面に沿うように嵌る。この状態における共用十字穴20の溝側面23に接するドライバビット10からの駆動力作用部(i)は太い実線と細い破線とで交互にハッチングを施した部分であり、図4に示すように、共用十字穴20と穂先11とは穂先11の羽根11aと羽根11aとの間で嵌合することになる。このときのドライバビット10の穂先11の先端と共用十字穴20の最深部24との間には空間が生じている。
【0020】
また、図5(イ)に示すような1番十字形状の穂先を有するドライバビット10を前記と同様の共用十字穴20に挿入すると、図5(ロ)に示すように穂先11は共用十字穴20の内周壁面に沿うように嵌る。この状態における共用十字穴20の溝側面23に接するドライバビット10からの駆動力作用部(i)は太い実線と細い破線とで交互にハッチングを施した部分であり、図6に示すように、共用十字穴20と穂先11とは穂先11の羽根11aと共用十字穴20の溝21との間で嵌合することになる。このときのドライバビット10の穂先11の先端は共用十字穴20の最深部24まで挿入されることになる。
【0021】
このように、本発明の共用十字穴20についてこの実施例では、JIS規格における1番及び2番のドライバビット10の穂先11が共用可能な十字穴形状としたが、これ以外の例えば、0番と1番、1番と2番、2番と3番あるいは3番と4番のドライバビット10を夫々使用することができるようにすることが可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、ドライバビット10の穂先11が同一寸法でなくても二種類の内いずれかであれば、確実に共用十字穴20に嵌合することができ、共用十字穴20がドライバビット10で潰れることなく安定してワークの下穴にねじ部品1を締め付けることを可能にするのに好適である。
【符号の説明】
【0023】
1 ねじ部品
2 頭部
3 脚部
4 ねじ山
10 ドライバビット
11 穂先
11a 羽根
20 共用十字穴
21 溝
22 斜面
23 溝側面
24 最深部
i 駆動力作用部
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに所定の締結力で締め付けられるねじ部品において、特に、JIS規格で定められている夫々の十字穴の大きさに対応するドライバビットが異なってもその異なったドライバビットを嵌合させることができ、確実に駆動力の伝達が可能な共用十字穴に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にJIS(日本工業規格)に定められている十字穴付きねじにおいては、従来からねじの呼び寸法が大きくなるにつれて0番〜4番の大きさを示す十字穴の番号で推奨される十字穴を設けて形成されており、特に、多く使用されているM2.5〜M3のねじでは1番が、M3.5〜M5のねじでは2番がねじ部品の呼びに応じて夫々標準的に使用するように定められている。そして、これらの十字穴にはこれに夫々対応した断面十字形状の穂先を有するドライバビットが設定されており、夫々の十字穴に対応するドライバビットの穂先を嵌合させて、ねじ部品をワークに締め付けるようになっている。
【0003】
また、これらねじ部品の需要が増加するにつれて大きな駆動力でワークに締め付け可能なねじ部品も使用されている。その一例として、図13に示すようなねじ部品201が開発されている。これは十字穴220の中心に円錐形状の丸穴230を重ねた木ねじの頭部202に関するものであり、作業効率の向上の観点から近年ではワークへのねじ締め作用の強力な電動工具が使用されるようになっていることからこの丸穴230十字穴220に嵌合するように穂先断面が四角形状のドライバビット210を用い、この四角形の角が十字穴に嵌り込むようにしたものを採用することで普及しつつあるものである。このように、大きな締結力が作用してもねじの頭部に形成されているドライバビットとの係合部が損傷しないようにしたものは各種様々開発されているが、一方、十字穴において、十字穴の1番及び2番等のように二組の十字穴番号に定められている大きさに共通して使用可能な十字穴形状が存在していないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−9586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、現在使用されているねじ部品の十字穴はJIS規格に定められているねじの呼びに応じて十字穴の大きさが設定されており、ねじを使用する作業者が常に使用するねじに対応するドライバビットを使用すれば、十字穴を破損するといった問題が生じないが、ドライバビットの穂先の形状は十字形状であれば全て同じ形状であり、寸法が僅かに異なるだけである。このため、締め付けようとするねじの十字穴形状より大きいドライバビットを使用する場合はこの十字穴に穂先が嵌らないので、ねじ部品をワークに締め付けられないということがわかるが、反対に十字穴に穂先が嵌る場合は、締め付けが可能にはなるが、僅かでも十字穴に対してドライバビットの穂先が小さい即ち、推奨されるドライバビットの番号より小さい番号であると、十字穴に対してドライバビットの穂先に隙間が発生し、ドライバビットがぐらつくから安定したねじ締め作業ができない。
【0006】
例えば、図7及び図8に示すように、ねじ部品101の頭部102に形成されている十字穴120がJIS規格のB1111で推奨されている2番である場合、JIS規格のB1012の規格表によると、基準寸法のb寸法は1.47mm、g寸法は2.29mm、ねじ部品101の規格における2番十字穴を有する呼び寸法M5の場合のm寸法は4.9mmである。そして、このm寸法とg寸法を結ぶ斜面121の角度(θ)は26°30′となっており、これに合うドライバビット110は図9(イ)に示すような形状であり、これを十字穴120に接触して嵌めることで、穂先111と十字穴120の内周壁面の溝側面123とが接触してドライバビットからの駆動力作用部(i)は図9(ロ)に示した太い実線と細い破線とを交互に引いたハッチング部分となり、ドライバビット110の穂先111と十字穴120は図10に示すように嵌合し、ドライバビット110からの駆動力のねじ部品101への伝達が安定することになる。これに反して、このねじ部品101に図11(イ)に示すような十字穴120の番号1番に適用するドライバビット110を使用した場合、このドライバビット110の穂先111のb寸法は0.965mmであることから図のような前記2番の十字穴120にドライバビット110の穂先111を入れると、図11(ロ)に示すように、十字穴120の底にドライバビットの穂先111の先端が当接することになる。そのため、太い実線と細い破線とを交互に引いたハッチング部分である駆動作用部(i)は狭くなるとともに、図12に示すように、十字穴とドライバビット110の穂先とは嵌合せず、ドライバビット110がぐらつくとともに、ドライバビット110からの駆動力の伝達における伝達面積が小さくなることから単位面積当たりの駆動力が大きくなり、ねじ締め時に十字穴120の破損が生じる。このため、大きなトルクによるねじ締め作業ができず、製品不良の原因になっている。
【0007】
また、このようにがたつきやねじ部品のぐらつきが生じるため、ワークの所定のねじ締め位置にねじ部品を締め付ける場合、ねじ締め初期においてねじ部品はドライバビットに対して傾きを生じるからスムースな締め付けが得られず、ねじ部品が斜めに締め付けられて十字穴が損傷する等してワークにねじ部品の頭部座面が着座しないといった不良も発生する等の課題がある。
【0008】
本発明の目的は、このような課題を解消するとともにJIS規格に定められている互いに隣り合う十字穴の番号において共用可能なねじ部品の十字穴形状を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、ドライバビット10の断面十字形状の穂先11が嵌り、ドライバビット10からの駆動力が伝達される十字穴を有する頭部2とこの頭部2と一体で外周にねじ山4が形成された脚部3とから構成されるねじ部品において、JIS規格に設定されている十字穴の頭部表面側の長さであるm寸法をねじ部品1の呼びに応じて寸法設定された長さとし、前記規格において互いに隣り合う二組の十字穴の番号にあっては、十字穴のg寸法を十字穴番号の小さい方側の寸法に設定するとともにb寸法は十字穴番号の大きい方側のb寸法を通り、これより深くなるよう延長した位置に設定し、しかも、前記b寸法を設定する部分の角度であるα角も十字穴番号の大きい方側の角度に設定した共用十字穴を提供することで達成される。
【0010】
前記発明において、互いに隣り合う二組の十字穴の番号は1番及び2番であって、互いに対向する溝21の間隔であるm寸法とg寸法の夫々の端を結ぶ斜面22の傾斜角(θ)は26°30′で形成するとともにねじ部品1の呼びに応じたm寸法が得られる深さを有する共用十字穴とすることで、ドライバビットの穂先の外周が十字穴に嵌り、十字穴の側壁に係合可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、JIS規格において互いに隣り合う二組の十字穴の番号にあって、十字穴のg寸法を十字穴番号の小さい方側の寸法に設定するとともにb寸法は十字穴番号の大きい方側のb寸法を通り、これより深くなるよう延長した位置に設定し、しかも、α角も十字穴番号の大きい方側の角度に設定し、ねじ部品の呼びに応じたm寸法が得られる深さまで十字穴を深く形成することで、本来2番の十字穴に適応される穂先のドライバビットに加えてこれより小さい番号である1番のドライバビットを使用することができる。また、このようにしても、十字穴に対してドライバビットの穂先が嵌合し、従来のように十字穴とドライバビットの穂先との間に隙間が生じず、安定したねじ締め作業が可能になる。
【0012】
更に、ドライバビットの穂先と十字穴は、例えば、1番あるいは2番のどちらであっても確実に嵌合することができ、作業者が1番あるいは2番のどちらのドライバビットを使用しても、本発明の十字穴はいずれのドライバビットでも正確に嵌合でき、従来のように、2番の十字穴に1番のドライバビットを使用したねじ締め状態に比べて、ドライバビットからの駆動力の伝達における伝達面積が大きくなるから十字穴の破損が減少する。このため、大きなトルクによるねじ締め作業が可能になり、ねじ締めが原因の製品不良も減少する。
【0013】
しかも、従来のように、十字穴とドライバビットとの間にがたつきが生じたり、ねじ締め開始時にねじ部品にぐらつきが生じたりしないため、ねじ締め初期にねじ部品がドライバビットに対して傾斜することがなくなるので、スムースなねじ締め作用が得られる。特に、ねじ部品がワークに対して斜めに締め付けられることが解消され、十字穴の損傷やねじ部品の頭部座面が着座しないといったことも解消され、ねじ締め不良の発生が減少する等の特有の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態を示す要部断面正面図である。
【図2】本発明の共用十字穴の概略形状を示すものであり、(イ)は共用十字穴の平面図であり、(ロ)は図2(イ)のA−A線に沿う共用十字穴の端面の輪郭を示し、(ハ)は図2(イ)のB−B線に沿う共用十字穴の端面の輪郭を示している。
【図3】本発明の共用十字穴に穂先が2番形状のドライバビットを嵌合する状態を説明するもので、(イ)は2番形状の穂先を共用十字穴に挿入する状態を示し、(ロ)は共用十字穴にドライバビットの穂先が嵌合した際の駆動力作用部を示している。
【図4】図3(ロ)のC−C線における嵌合状態を示す拡大断面図である。
【図5】本発明の共用十字穴に穂先が1番形状のドライバビットを嵌合する状態を説明するもので、(イ)は1番形状の穂先を共用十字穴に挿入する状態を示し、(ロ)は共用十字穴にドライバビットの穂先が嵌合した際の駆動力作用部を示している。
【図6】図5(ロ)のD−D線における嵌合状態を示す拡大断面図である。
【図7】従来例としての2番の十字穴を有するねじ部品の要部断面正面図である。
【図8】従来例としての2番の十字穴の概略形状を示すものであり、(イ)は十字穴の平面図であり、(ロ)は図8(イ)のE−E線に沿う十字穴の端面の輪郭を示し、(ハ)は図8(イ)のF−F線に沿う十字穴の端面の輪郭を示している。
【図9】従来例としての2番の十字穴に穂先が2番形状のドライバビットを嵌合する状態を説明するもので、(イ)は2番形状の穂先を十字穴に挿入する状態を示し、(ロ)は十字穴にドライバビットの穂先が嵌合した際の駆動力作用部を示している。
【図10】図9(ロ)のG−G線における嵌合状態を示す拡大断面図である。
【図11】従来例としての2番の十字穴に穂先が1番形状のドライバビットを嵌合する状態を説明するもので、(イ)は1番形状の穂先を十字穴に挿入する状態を示し、(ロ)は十字穴にドライバビットの穂先が嵌合した際の駆動力作用部を示している。
【図12】図11(ロ)のH−H線における嵌合状態を示す拡大断面図である。
【図13】もう一つの従来例を示す要部断面平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について最良の実施の形態を図1乃至図6に基づき説明する。図1において、1は十字形状の共用十字穴を有する頭部2とこの頭部2と一体に形成された脚部3とからなるねじ部品であり、この脚部3にはその外周に沿いねじ山4が形成されている。このねじ山4は頭部2の中心に形成された十字穴にドライバビット10からの駆動力が伝達されることによってワーク(図示せず)の下穴(図示せず)に締め付けられる構成になっている。この十字穴は通常JIS規格でその寸法がねじ部品1の大きさ(呼び寸法)によって0番〜4番まで設定してあり、この番号により十字穴の寸法が決定されるようになっている。
【0016】
この十字穴に対応するドライバビット10の穂先11の断面も十字形状となっており、この穂先11もJIS規格により0番〜4番まで規定されている。これにより、ねじ部品1の十字穴とドライバビット10は夫々同一番号のものを用いることによって確実且つ安定したねじ締め作業が得られるようになっている。このように、常に十字穴の番号に一致した番号のドライバビット10を用いることがねじ締めにおける基本ではあるが、次に、隣り合う番号のドライバビット10のいずれもが嵌ることのできる共用十字穴20の実施例を開示する。
【0017】
これは、図2(イ)〜図2(ハ)に示すように、頭部2の上面から見た形状は通常の十字穴形状であり、少なくともJIS規格に設定されている十字穴の頭部表面側の長さであるm寸法はねじ部品1の呼びに応じて設定された長さとなっている。前記規格において互いに隣り合う二組の十字穴の番号にあっては、十字穴のg寸法を十字穴番号の小さい方側の寸法に設定するとともにb寸法は十字穴番号の大きい方側のb寸法を通り、これより深くなるよう延長した位置に設定し、しかも、前記b寸法を設定した部分の角度であるα角も十字穴番号の大きい方側の角度に設定して構成されている。即ち、共用十字穴のb寸法は十字穴番号の大きい方側のb寸法を構成する図2(ハ)に示した点(a、a)を通り、延長された深さを有している。
【0018】
具体的には、互いの隣り合う二組の十字穴の番号が1番及び2番とし、ねじ部品1の呼びをM4とすると、JIS B 1111の規格では、m寸法は4.4mmとなっている。一方、g寸法は二組の十字穴番号の小さい方側の寸法を設定することになっているので、十字穴番号1番の寸法を用いることになり、JIS B 1012の規格の基準寸法ではg寸法は1.27mmとなり、α角は5°45′となる。そして、本発明のb寸法は十字穴番号の大きい方側の2番を基準として、これを通過して深くなるよう延長することによって形成されている。このようにして、共用十字穴20を構成する互いに対向する溝21の間隔であるm寸法とg寸法の夫々の端を結ぶ斜面22の傾斜角(θ)は26°30′で形成し、ねじ部品1の呼びに応じた前記m寸法が得られる深さになるまで共用十字穴20を深く形成することによって番号が1番、2番のどちらのドライバビット10であっても確実に共用十字穴20に嵌ることが可能になる。
【0019】
このように構成した共用十字穴20を形成したねじ部品1をワークの下穴に締め付ける場合において、図3(イ)に示すような2番十字形状の穂先11を有するドライバビット10を共用十字穴20に挿入すると、図3(ロ)に示すように穂先11は共用十字穴20の内周壁面に沿うように嵌る。この状態における共用十字穴20の溝側面23に接するドライバビット10からの駆動力作用部(i)は太い実線と細い破線とで交互にハッチングを施した部分であり、図4に示すように、共用十字穴20と穂先11とは穂先11の羽根11aと羽根11aとの間で嵌合することになる。このときのドライバビット10の穂先11の先端と共用十字穴20の最深部24との間には空間が生じている。
【0020】
また、図5(イ)に示すような1番十字形状の穂先を有するドライバビット10を前記と同様の共用十字穴20に挿入すると、図5(ロ)に示すように穂先11は共用十字穴20の内周壁面に沿うように嵌る。この状態における共用十字穴20の溝側面23に接するドライバビット10からの駆動力作用部(i)は太い実線と細い破線とで交互にハッチングを施した部分であり、図6に示すように、共用十字穴20と穂先11とは穂先11の羽根11aと共用十字穴20の溝21との間で嵌合することになる。このときのドライバビット10の穂先11の先端は共用十字穴20の最深部24まで挿入されることになる。
【0021】
このように、本発明の共用十字穴20についてこの実施例では、JIS規格における1番及び2番のドライバビット10の穂先11が共用可能な十字穴形状としたが、これ以外の例えば、0番と1番、1番と2番、2番と3番あるいは3番と4番のドライバビット10を夫々使用することができるようにすることが可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、ドライバビット10の穂先11が同一寸法でなくても二種類の内いずれかであれば、確実に共用十字穴20に嵌合することができ、共用十字穴20がドライバビット10で潰れることなく安定してワークの下穴にねじ部品1を締め付けることを可能にするのに好適である。
【符号の説明】
【0023】
1 ねじ部品
2 頭部
3 脚部
4 ねじ山
10 ドライバビット
11 穂先
11a 羽根
20 共用十字穴
21 溝
22 斜面
23 溝側面
24 最深部
i 駆動力作用部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバビット(10)の断面十字形状の穂先(11)が嵌り、ドライバビットからの駆動力が伝達される十字穴を有する頭部(2)とこの頭部と一体で外周にねじ山(4)が形成された脚部(3)とから構成されるねじ部品において、
JIS規格に設定されている十字穴の頭部表面側の長さであるm寸法をねじ部品(1)の呼びに応じて寸法設定された長さとし、前記規格において互いに隣り合う二組の十字穴の番号にあっては、十字穴のg寸法を十字穴番号の小さい方側の寸法に設定するとともにb寸法は十字穴番号の大きい方側のb寸法を通り、これより深くなるよう延長した位置に設定し、しかも、前記b寸法を設定する部分の角度であるα角も十字穴番号の大きい方側の角度に設定したことを特徴とする共用十字穴。
【請求項2】
互いに隣り合う二組の十字穴の番号は1番及び2番であって、互いに対向する溝21の間隔であるm寸法とg寸法の夫々の端を結ぶ斜面(22)の傾斜角(θ)は26°30′で形成されていることを特徴とする請求項1記載の共用十字穴。
【請求項1】
ドライバビット(10)の断面十字形状の穂先(11)が嵌り、ドライバビットからの駆動力が伝達される十字穴を有する頭部(2)とこの頭部と一体で外周にねじ山(4)が形成された脚部(3)とから構成されるねじ部品において、
JIS規格に設定されている十字穴の頭部表面側の長さであるm寸法をねじ部品(1)の呼びに応じて寸法設定された長さとし、前記規格において互いに隣り合う二組の十字穴の番号にあっては、十字穴のg寸法を十字穴番号の小さい方側の寸法に設定するとともにb寸法は十字穴番号の大きい方側のb寸法を通り、これより深くなるよう延長した位置に設定し、しかも、前記b寸法を設定する部分の角度であるα角も十字穴番号の大きい方側の角度に設定したことを特徴とする共用十字穴。
【請求項2】
互いに隣り合う二組の十字穴の番号は1番及び2番であって、互いに対向する溝21の間隔であるm寸法とg寸法の夫々の端を結ぶ斜面(22)の傾斜角(θ)は26°30′で形成されていることを特徴とする請求項1記載の共用十字穴。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−47484(P2011−47484A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197348(P2009−197348)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000227467)日東精工株式会社 (263)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000227467)日東精工株式会社 (263)
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