説明

はんだペースト組成物

【課題】 従来と同等の接合信頼性を保ちながら、工程数を増加させることなく、ボイドの発生やフラックスあるいははんだ金属の飛散を低減することができるはんだペースト組成物を提供する。
【解決手段】 本発明のはんだペースト組成物は、ロジンを含有するフラックスとはんだ合金粉末とを含んでなるはんだペースト組成物であって、前記ロジン中に含まれる低沸点成分の含有率が7重量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電子機器のプリント基板などの回路基板に対して回路部品等をはんだ接続する際に使用されるはんだペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子回路部品等をはんだ接続するために、はんだ金属とフラックスとからなる種々のはんだペースト組成物が使用されている。従来のはんだ接合部では、はんだ金属中にボイド(気泡)が発生したり、あるいは、ペースト組成物加熱時のフラックスの突沸によってフラックスやはんだ金属がはんだ付け部以外に飛散したりする、という現象が認められていた。ところが、近年、電子機器の小型化、高機能化により、はんだ接合部の微細化と実装の高密度化が進むにつれて、これらの現象が問題視されるようになってきた。
【0003】
すなわち、はんだ金属中にボイドが発生すると、ボイド部分のはんだ量は他の部分より少なくなるため、接合信頼性に影響を及ぼすことになる。従来のようにはんだ接合部が比較的大きい場合にはこの影響を受けにくいが、はんだ接合部が微細化されると、影響が大きくなり接合信頼性に問題を生じるのである。つまり、ボイド体積が同一であっても、接合部のはんだに対するボイド体積の割合が大きくなる程、接合信頼性が低下するのである。
【0004】
また、フラックスの飛散は、コネクタパターン等の導通を確保しなければならない部分への絶縁物付着不良の原因となり、はんだ金属の飛散は、部品電極間への付着による短絡不良等の原因となる。従来は、フラックスやはんだ金属の付着が問題となる部分をはんだ付け部から離して配置するなど、設計を工夫することで対応されてきた。しかし、実装の高密度化に伴い、そのような配置を行う自由度が低くなり、設計上の工夫のみでフラックスあるいははんだ金属の飛散による問題を回避することは困難になっている。
【0005】
そこで、ボイドの発生に関しては、融点の異なる複数種のはんだ合金粉末を混合することによりはんだ溶融時間を延長し、揮発物の排出を促進するという手法が提案されている(特許文献1参照)。また、フラックスあるいははんだ金属の飛散に関しては、フラックスやはんだ金属が付着してはならない部分に耐熱テープ等を貼り付け、はんだ付け後に取り除くという対策が取られている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−26743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示されている手法でボイドの発生を抑制した場合、異なる組成(融点)の数種の合金を混合するため、単一組成の合金と同じ溶融性が得られない等の点で接合信頼性が低下する可能性があった。また、耐熱テープ等の貼り付けと除去によってフラックスあるいははんだ金属の飛散に対応する方法は、必然的に工程数が増加するため、製品コスト等の点で不利であり、好適な方法とは言えない。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みなされたものであって、従来と同等の接合信頼性を保ちながら、工程数を増加させることなく、ボイドの発生やフラックスあるいははんだ金属の飛散を低減することができるはんだペースト組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ボイドの発生やフラックスあるいははんだ金属の飛散といった現象には、これまでフラックスのベース樹脂として汎用されていたロジンに含まれる低沸点成分がリフロー時に気化あるいは突沸することが影響しているという知見を得た。そして、この知見に基づき、フラックスに用いるロジン中の低沸点物質を特定量以下に低減することにより前記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のはんだペースト組成物は、ロジンを含有するフラックスとはんだ合金粉末とを含んでなるはんだペースト組成物であって、前記ロジン中に含まれる低沸点成分の含有率が7重量%以下である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フラックス中に含まれるロジンとして低沸点成分が7重量%以下のロジンを使用しているため、リフロー時の揮発物量が減少するとともに、低沸点成分の突沸も抑えられ、その結果、従来と同等の接合信頼性を保ちながら、工程数を増加させることなく、ボイドの発生やフラックスあるいははんだ金属の飛散を低減することができる、という効果が得られる。これにより、微細な接合部へのはんだ付けや高密度実装においても、高い接合信頼性で、絶縁物付着不良や短絡不良等を招くことなく、良好なはんだ接続を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
本発明のはんだペースト組成物は、ロジンを含有するフラックスとはんだ合金粉末とを含んでなる。
フラックスに含まれる前記ロジンは、従来から一般的にフラックスに用いられている通常のロジンおよびその誘導体であればよく、例えば、通常のロジンとしては、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン等が挙げられ、ロジン誘導体としては、重合ロジン、アクリル化ロジン、水素添加ロジン、ホルミル化ロジン、ロジンエステル、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性アルキド樹脂等が挙げられる。
【0013】
前記ロジンには、通常、低沸点成分が10〜20重量%程度含有されているところ、本発明においては、前記ロジン中に含まれる低沸点成分が含有率7重量%以下に低減されていることが重要となる。低沸点成分の含有率は、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下であるのがよく、最も好ましくは0重量%、すなわち低沸点成分を全く含有しないのがよい。低沸点成分の含有率が7重量%を超えると、リフロー時に低沸点成分が気化もしくは突沸して、ボイドが発生したり、フラックスあるいははんだ金属が飛散したりするおそれがある。
【0014】
本発明において、低沸点成分とは、用いるはんだ合金粉末の融点以下の温度で揮発する成分を言うものとする。一般的には、例えば、ガムロジンやウッドロジンもしくはこれらの誘導体中に含まれる低沸点成分としては、βピネン、環状ジテルペン、環状セスキテルペン等のテルペン化合物が挙げられ、トールロジンもしくはその誘導体中に含まれる低沸点成分としては、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等の脂肪酸が挙げられる。これらは、特に、錫−銀−銅系合金をはんだ合金粉末として用いる場合などに、低沸点成分として除かれることが好ましい。なお、低沸点成分が2種以上含有されている場合には、その合計量が前記範囲となることが重要である。
【0015】
前記ロジン中に含まれる低沸点成分の含有率を低減する手段としては、特に制限はないが、前記ロジン(前述した通常のロジンまたはロジン誘導体)を加熱しながら減圧蒸留することにより低沸点成分を留去する方法が、簡便な方法として好ましく挙げられる。なお、ロジン中に含まれる低沸点成分の含有率は、例えば、用いるはんだ合金粉末の融点での加熱減量を測定することで算出できる。具体的には、直径60mm、厚さ7mmのアルミ皿の上に前記ロジンを1g秤量して用いるはんだ合金粉末の融点温度で3分間加熱し、加熱前後の重量を測定し、この減量分を低沸点成分として、低沸点成分の含有率を算出すればよい。
なお、フラックス中に含有されるロジンは、2種以上であってもよい。その場合、各々のロジンに含まれる低沸点成分が含有率7重量%以下であることが好ましい。ただし、全ロジンに含まれる低沸点成分の合計量がロジン総量に対して7重量%以下となるように、各ロジンの配合割合を調整すれば、低沸点成分含有率が7重量%以下のロジンとともに、低沸点成分含有率が7重量%を超えるロジンを併用することもできる。
【0016】
フラックス中に占める前記ロジンの含有量は、フラックス総量に対して20〜80重量%であることが好ましく、より好ましくは、35〜65重量%であるのがよい。20重量%未満であると、フラックス中の固形分量が少なくなるため、はんだ付け時の皮膜性が低下し、充分なはんだ付け性が得られないおそれがあり、一方、80重量%を超えると、フラックスが高粘度化し、作業性が著しく低下するおそれがある。
【0017】
本発明におけるフラックスには、前記ロジンのほかに、ベース樹脂として、従来から一般的にフラックスに用いられている合成樹脂(例えば、スチレン−マレイン酸樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等)等を含有させることができる。その場合には、前記ロジン以外のベース樹脂の総量がフラックス総量に対して50重量%以下となるようにするのがよい。
【0018】
本発明におけるフラックスには、前述したベース樹脂のほかに、必要に応じて、チキソ剤、活性剤、溶剤、その他添加剤などを含有させることができる。
チキソ剤としては、例えば、硬化ひまし油、蜜ロウ、カルナバワックス、ステアリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸エチレンビスアミド等が挙げられる。チキソ剤の含有量は、特に限定されないが、フラックス総量に対して0.5〜25重量%であるのがよい。
【0019】
活性剤としては、例えば、エチルアミン、プロピルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、アニリン等のハロゲン化水素酸塩、乳酸、クエン酸、ステアリン酸、アジピン酸、ジフェニル酢酸等の有機カルボン酸等が挙げられる。活性剤の含有量は、特に限定されないが、フラックス総量に対して0.1〜20重量%であるのがよい。活性剤が0.1重量%未満であると、活性力が不足し、はんだ付け性が低下するおそれがある。一方、活性剤が20重量%を超えると、フラックスの皮膜性が低下し、親水性が高くなるので、腐食性および絶縁性が低下するおそれがある。
【0020】
溶剤としては、ベース樹脂や活性剤等の成分を溶解して溶液とする極性溶剤を用いるのが好ましく、また、その沸点は、通常、200℃以上であるのが好ましく、220℃以上であるのがより好ましい。具体的には、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール等の多価アルコールやこれらのモノエーテルあるいはモノエステルが挙げられる。これらの中でも、ヘキシルカルビトール、ブチルカルビトール等のジエチレングリコールモノエーテルが特に好ましい。溶剤の含有量は、特に限定されないが、通常、フラックス総量に対して5〜80重量%であるのがよい。
その他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、防錆剤、キレート剤等を、それぞれ本発明の効果を損なわない範囲内で必要に応じて用いることができる。
【0021】
本発明におけるはんだ合金粉末としては、特に制限はなく、一般に用いられている錫−鉛合金、さらに銀、ビスマスまたはインジウムなどを添加した錫−鉛合金等を用いることができる。また、錫−銀系、錫−銅系、錫−銀−銅系等の鉛フリー合金を用いてもよい。なお、はんだ合金粉末の粒径は、5〜50μm程度であるのがよい。
【0022】
本発明のはんだペースト組成物におけるフラックスとはんだ合金粉末との重量比(フラックス:はんだ合金粉末)は、所望されるはんだペーストの用途や機能に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、5:95〜20:80程度であるのがよい。
【0023】
本発明のはんだペースト組成物は、電子機器部品等をはんだ接続する際に、ディスペンサーやスクリーン印刷等により基板上に塗布される。そして、塗布後、例えば150〜200℃程度でプリヒートを行い、最高温度170〜250℃程度でリフローを行う。基板上への塗布およびリフローは、大気中で行ってもよく、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気中で行ってもよい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例で用いたはんだ合金粉末は、Sn−Ag−Cu合金(Sn:Ag:Cu=96.5:3.0:0.5(重量比))であり、融点は219℃であった。
(製造例1)
1リットル容量の蒸留容器中に、ガムロジン(低沸点成分含有率12.5重量%)600gを仕込み、窒素気流下、180℃で加熱してロジンを溶融させた後、1.3KPa(10mmHg)の圧力で減圧蒸留を行った。留去した低沸点成分が41.5gとなった時点(低沸点成分含有率6.0重量%)で蒸留を終了し、蒸留ロジンAを得た。
【0025】
(製造例2)
1リットル容量の蒸留容器中に、アクリル化ガムロジン(低沸点成分含有率11.5重量%)600gを仕込み、窒素気流下、180℃で加熱してロジンを溶融させた後、1.3KPa(10mmHg)の圧力で減圧蒸留を行った。留去した低沸点成分が55gとなった時点(低沸点成分含有率2.6重量%)で蒸留を終了し、蒸留ロジンBを得た。
【0026】
(製造例3)
1リットル容量の蒸留容器中に、ホルミル化トールロジン(低沸点成分含有率13.0重量%)600gを仕込み、窒素気流下、180℃で加熱してロジンを溶融させた後、1.3KPa(10mmHg)の圧力で減圧蒸留を行った。留去した低沸点成分が78gとなった時点(低沸点成分含有率0重量%)で蒸留を終了し、蒸留ロジンCを得た。
【0027】
(製造例4)
1リットル容量の蒸留容器中に、ウッドロジン(低沸点成分含有率16重量%)600gを仕込み、窒素気流下、180℃で加熱してロジンを溶融させた後、1.3KPa(10mmHg)の圧力で減圧蒸留を行った。留去した低沸点成分が48gとなった時点(低沸点成分含有率8.7重量%)で蒸留を終了し、蒸留ロジンDを得た。
【0028】
(実施例1〜6および比較例1〜3)
表1に示すフラックスの各成分を表1に示す配合組成で容器に仕込み、加熱溶解後、冷却して、フラックスをそれぞれ得た。なお、表1に示すロジンのうち、アクリル化ガムロジンは製造例2で原料として用いた蒸留前のアクリル化ガムロジンであり、ホルミル化トールロジンは製造例3で原料として用いた蒸留前のホルミル化トールロジンである。
次いで、容器に、得られた各フラックスと、Sn−Ag−Cu合金(Sn:Ag:Cu=96.5:3.0:0.5(重量比))からなるはんだ合金粉末(粒径30〜20μm)とを、フラックス:はんだ合金粉末=11:89(重量比)の比率で混合攪拌して、はんだペースト組成物をそれぞれ得た。
得られた各はんだペースト組成物は、以下の方法により評価した。結果を表1に示す。
【0029】
<ボイドの発生>
はんだペースト組成物を基板上に0.4mmφ、厚み150μmで印刷し、0.8mmピッチでCSP部品を搭載後、大気下において175±5℃で80±5秒間プリヒートを行い、最高温度235±5℃で溶融し、はんだ付けを行った。はんだ付け後の基板を軟X線透視装置で観察、写真撮影し、撮影された写真を画像解析ソフトで解析して、はんだ金属中に占めるボイドの面積率(%)を算出した。
【0030】
<フラックスおよびはんだの飛散>
50mm×50mm×0.3mmのサイズの銅板の中央部に、はんだペースト組成物を6.0mmφ、厚み200μmで印刷した後、大気下において175±5℃で80±5秒間プリヒートを行い、最高温度235±5℃で溶融したときのフラックスとはんだの飛散数(個)を目視観察によりそれぞれカウントした。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から、低沸点成分の含有率が7重量%以下であるロジンを用いた実施例1〜6のはんだペースト組成物では、はんだ加熱および溶融時の突沸と揮発が抑えられるため、ボイドや飛散といった不具合が低減し、良好なはんだ実装が得られることがわかる。これに対し、低沸点成分が多いロジンを用いた比較例1〜3では、ボイドや飛散の特性が悪化することが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジンを含有するフラックスとはんだ合金粉末とを含んでなるはんだペースト組成物であって、前記ロジン中に含まれる低沸点成分の含有率が7重量%以下である、ことを特徴とするはんだペースト組成物。


【公開番号】特開2008−62241(P2008−62241A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239287(P2006−239287)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000233860)ハリマ化成株式会社 (167)