説明

はんだ付け用フラックスおよびそれを用いたはんだペースト組成物

【課題】はんだ金属中にボイドが発生するのを抑制することができ、かつフラックスやはんだ金属が飛散するのを抑制することができるはんだ付け用フラックスおよびそれを用いたはんだペースト組成物を提供することである。
【解決手段】酸変性ポリオレフィンを含有するはんだ付け用フラックスである。また、ベース樹脂と活性剤とを含有し、前記ベース樹脂が、ロジンまたは合成樹脂であり、酸変性ポリオレフィンをさらに含有するはんだ付け用フラックスである。前記はんだ付け用フラックスと、はんだ合金粉末とを含有するはんだペースト組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器のプリント基板等の回路基板に対して回路部品等をはんだ接続する際に使用するはんだ付け用フラックスおよびそれを用いたはんだペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子回路部品等をはんだ接続するために、はんだ金属と、はんだ付け用フラックス(以下、「フラックス」と言うことがある。)とからなる種々のはんだペースト組成物(以下、「ペースト組成物」と言うことがある。)が使用されている。従来のはんだ接合部では、はんだ金属中にボイド(気泡)が発生したり、ペースト組成物加熱時のフラックスの突沸によってフラックスやはんだ金属がはんだ付け部以外に飛散する現象が認められていた。
【0003】
近時、電子機器の小型化や高機能化に伴い、はんだ接合部の微細化と実装の高密度化が進むにつれ、前記現象が問題視されるようになってきた。すなわち、はんだ金属中にボイドが発生すると、それを起点とした冷熱サイクル試験によるクラック等の発生による接合信頼性に影響を及ぼすことになる。従来のようなはんだ接合部が比較的大きい場合にはこの影響を受け難いが、はんだ接合部が微細化されると、前記影響が大きくなり接合信頼性に問題を生じる。つまり、ボイド体積が同一であっても、接合部のはんだに対するボイド体積の割合が大きくなるため、接合信頼性が低下する。
【0004】
また、フラックスの飛散は、コネクタパターン等の導通を確保しなければならない部分への絶縁物付着不良の原因となり、はんだ金属の飛散は、部品電極間への付着による短絡不良等の原因となる。これらの問題に対し、従来は、フラックスやはんだ金属の付着が問題となる部分をはんだ付け部から離して配置するなど、設計を工夫することで対応してきた。
【0005】
しかし、実装の高密度化に伴い、そのような配置を行う自由度が低くなり、設計上の工夫のみでは、フラックスやはんだ金属の飛散による問題を回避し難くなっている。フラックスやはんだ金属が付着してはならない部分に耐熱テープ等を貼り付け、はんだ付け後に取り除くという対策もあるが、この対策では製造コストが増加する。
【0006】
一方、特許文献1には、フラックス等の飛散を防止可能なフラックスとして、高密度酸化型ポリエチレンを含有するフラックスが記載されている。特許文献2には、ボイドの発生を低減可能なフラックスとして、低分子量の物質を除去した樹脂酸類の多価アルコールエステルをベース樹脂として含有するフラックスが記載されている。
【0007】
しかし、特許文献1,2に記載されているフラックスは、フラックス等の飛散を防止する効果やボイドの発生を低減する効果が必ずしも十分ではなかった。また、特許文献1には、はんだ金属中に発生するボイドの問題についての記載がなく、特許文献2には、フラックス等の飛散の問題についての記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−283905号公報
【特許文献2】国際公開第06/070797号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、はんだ金属中にボイドが発生するのを抑制することができ、かつフラックスやはんだ金属が飛散するのを抑制することができるはんだ付け用フラックスおよびそれを用いたはんだペースト組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)酸変性ポリオレフィンを含有することを特徴とするはんだ付け用フラックス。
(2)ベース樹脂と活性剤とを含有するはんだ付け用フラックスであって、前記ベース樹脂が、ロジンまたは合成樹脂であり、酸変性ポリオレフィンをさらに含有することを特徴とするはんだ付け用フラックス。
(3)前記酸変性ポリオレフィンが、無水カルボン酸基で変性したポリプロピレンおよび無水カルボン酸基で変性したポリエチレンから選ばれる少なくとも1種である前記(1)または(2)記載のはんだ付け用フラックス。
(4)前記酸変性ポリオレフィンの密度が、0.93g/cm3以上である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のはんだ付け用フラックス。
(5)前記酸変性ポリオレフィンのJIS K 0070に規定の酸価が、20mgKOH/g以上である前記(1)〜(4)のいずれかに記載のはんだ付け用フラックス。
(6)前記酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量が、10,000〜50,000である前記(1)〜(5)のいずれかに記載のはんだ付け用フラックス。
(7)前記酸変性ポリオレフィンの含有量が、フラックス総量に対して0.1〜10重量%である前記(1)〜(6)のいずれかに記載のはんだ付け用フラックス。
(8)有機溶剤をさらに含有し、該有機溶剤が高沸点溶剤を含有する前記(1)〜(7)のいずれかに記載のはんだ付け用フラックス。
(9)フラックス総量に対し、ベース樹脂を20〜74.9重量%、活性剤を3〜20重量%、ワックスを1〜10重量%、有機溶剤を20〜50重量%、添加剤を1〜10重量%の割合で含有する前記(1)〜(8)のいずれかに記載のはんだ付け用フラックス。
(10)前記(1)〜(9)のいずれかに記載のはんだ付け用フラックスと、はんだ合金粉末とを含有することを特徴とするはんだペースト組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、はんだ金属中のボイドの発生と、フラックスやはんだ金属の飛散とを抑制することができ、それゆえ微細な接合部へのはんだ付けや高密度実装においても高い接合信頼性で、かつ絶縁物付着不良や短絡不良等を招くことなく、良好なはんだ接続を実現することが可能になるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のはんだ付け用フラックスは、酸変性ポリオレフィンを含有するものである。前記フラックスは、通常、後述するようなロジンや合成樹脂をベース樹脂として含有する。前記酸変性ポリオレフィンは、酸変性により非極性のポリオレフィンに極性を付与したものであり、それゆえ前記ベース樹脂に対して優れた相溶性を示す。したがって、フラックスに前記酸変性ポリオレフィンを含有すると、リフロー時におけるフラックス溶融粘度を増大させることができる。その結果、はんだ溶融がゆっくりとなり、気泡がペースト組成物表面に移動し易くなるので、はんだ金属中にボイドが発生するのを抑制することができる。また、フラックスの粘度が増大しているため、ペースト組成物加熱時にフラックスが突沸することを抑制することができ、フラックスやはんだ金属が飛散し難くなる。はんだ金属中に発生するボイドの問題や、フラックス等の飛散の問題は、融点の高い無鉛はんだにおいて顕著である。したがって、本発明のはんだ付け用フラックスは、無鉛はんだ付け用フラックスとしても好適に用いることができる。
【0013】
前記酸変性ポリオレフィンは、酸変性により酸基が導入されたポリオレフィンである。前記酸基としては、例えば無水カルボン酸基(−CO−O−OC−)、カルボン酸基(−COOH)等が挙げられる。前記酸基をポリオレフィンに導入可能な化合物としては、例えば無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。前記ポリオレフィンとしては、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合樹脂等が挙げられる。前記酸変性ポリオレフィンは、無水カルボン酸基で変性したポリプロピレンおよび無水カルボン酸基で変性したポリエチレンから選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
【0014】
前記酸変性ポリオレフィンは、密度の高い高密度酸変性ポリオレフィンであるのが好ましい。具体的には、前記酸変性ポリオレフィンの密度は、0.93g/cm3以上であるのが好ましい。前記密度があまり小さいと、リフロー時にフラックス粘度があまり増大しないため好ましくない。前記密度の上限値としては、1.0g/cm3程度が適当である。
【0015】
前記酸変性ポリオレフィンの酸価は、20mgKOH/g以上であるのが好ましい。前記酸価があまり小さいと、ベース樹脂に対する相溶性が低下する傾向にあるので好ましくない。前記酸価の上限値としては、70mgKOH/g程度が適当である。前記酸価は、JIS K 0070に準拠して測定し得られる値である。
【0016】
前記酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量は、10,000〜50,000であるのが好ましい。前記重量平均分子量があまり小さいと、酸変性ポリオレフィンよる効果が得られ難くなる傾向にあるので好ましくない。また、前記重量平均分子量があまり大きいと、ベース樹脂に対する相溶性が低下する傾向にあるので好ましくない。前記重量平均分子量は、酸変性ポリオレフィンをゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定して得られる値である。
【0017】
前記酸変性ポリオレフィンの含有量は、フラックス総量に対して0.1〜10重量%であるのが好ましく、1〜5重量%であるのがより好ましい。これにより、酸変性ポリオレフィンによる効果を得ることができる。
【0018】
前記酸変性ポリオレフィンは、市販のものを用いることができ、具体例としては、いずれも三洋化成社製のユーメックス1001、ユーメックス1010、ユーメックス2000等が挙げられる。
【0019】
一方、前記フラックスは、前記した通り、通常、ベース樹脂を含有する。該ベース樹脂としては、特に制限されるものではなく、従来からフラックスに一般的に使用されているものを使用することができる。具体例としては、ロジンやその誘導体、合成樹脂等が挙げられる。
【0020】
前記ロジンとしては、例えば通常のガムロジン、トールロジン、ウッドロジン等が挙げられ、それらの誘導体としては、例えば重合ロジン、アクリル化ロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、ホルミル化ロジン、ロジンエステル、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性アルキド樹脂等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。前記合成樹脂としては、例えばアクリル樹脂、スチレン−マレイン酸樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、テルペン樹脂、ポリプロピレンカーボネートやポリブチレンカーボネート等のポリアルキレンカーボネート等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。前記ベース樹脂の含有量は、特に制限されないが、フラックス総量に対して20〜80重量%であるのが好ましく、30〜60重量%であるのがより好ましい。
【0021】
前記フラックスは、通常、活性剤を含有する。該活性剤としては、従来からフラックスに使用されているものを使用することができる。具体例としては、アミン類(ジフェニルグアニジン、ナフチルアミン、ジフェニルアミン、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン等)、アミン塩類(エチレンジアミン等のポリアミンや、シクロヘキシルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン等のアミンの有機酸塩や無機酸(塩酸、硫酸等の鉱酸)塩等)、有機酸類(コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、セバシン酸、マレイン酸等のジカルボン酸;ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸;乳酸、ジメチロールプロピオン酸、リンゴ酸等のヒドロキシカルボン酸;安息香酸、フタル酸、トリメリット酸等)、アミノ酸類(グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、バリン等)等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。前記アミン塩類の具体例としては、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩等が挙げられる。
【0022】
特に、前記ベース樹脂にポリアルキレンカーボネートを採用する場合には、有機カルボン酸を前記活性剤としてフラックスに添加するのが好ましい。これにより、はんだのぬれ性を向上させることができるとともに、分解残渣を殆ど発生させることなく、低温での融解が可能になる。前記有機カルボン酸としては、例えばセバシン酸等が挙げられる。
【0023】
前記ベース樹脂にロジンやアクリル樹脂等のカルボキシル基含有樹脂を採用する場合には、メチルコハク酸を前記活性剤としてフラックスに添加するのが好ましい。これにより、無鉛はんだ合金に必要とされる高温においても金属面から酸化物を除去することができ、かつ無鉛はんだ付けに必要とされる長時間に及ぶはんだ付け期間中に起こる酸化からも金属面を保護することができる。しかも、はんだ付け実施前、実施中、あるいは実施後におけるはんだ金属の腐食を抑制することができ、かつリフロー操作中において小さなはんだ付着層を保護することもできる。
【0024】
前記活性剤の含有量は、特に制限されないが、フラックス総量に対して3〜20重量%であるのが好ましい。活性剤の含有量があまり少ないと、活性剤による活性力が不足し、はんだ付け性が低下するおそれがある。また、活性剤の含有量があまり多いと、フラックスの皮膜性が低下し、親水性が高くなるので、腐食性および絶縁性が低下するおそれがある。
【0025】
前記フラックスは、必要に応じてワックスを含有することもできる。該ワックスとしては、例えば硬化ヒマシ油、蜜ロウ、カルナバワックス、ステアリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸エチレンビスアミド等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。前記ワックスの含有量は、特に制限されないが、フラックス総量に対して1〜10重量%であるのが好ましい。
【0026】
前記フラックスを液状にして使用する場合には、適当な有機溶剤を前記フラックスに含有することもできる。前記有機溶剤としては、例えばエチルセロソルブ、ブチルカルビトール、ヘキシルカルビトール等のアルコール系溶剤;酢酸ブチル等のエステル系溶剤;テレピン油等の炭化水素系溶剤等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
前記有機溶剤は、高沸点溶剤を含有するのが好ましい。すなわち、前記で例示した有機溶剤と、高沸点溶剤とを併用して使用するのが好ましい。該高沸点溶剤とは、はんだ付け温度よりも高い温度を沸点とする有機溶剤のことを意味する。フラックスに高沸点溶剤を含有すると、リフロー時におけるフラックス溶融粘度を増大させることができることより、はんだ金属中のボイドの発生を抑制する効果と、フラックス等の飛散を抑制する効果とを向上させることができる。前記高沸点溶剤としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン等の多価アルコール系溶剤やこれらのエーテル化合物あるいはエステル化合物の他、トリメリット酸エステル、フタル酸エステル等のエステル系溶剤、ソルビトールエーテル等のエーテル系溶剤等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。前記高沸点溶剤の沸点としては、通常、280℃以上である。
【0028】
前記有機溶剤の含有量は、特に制限されないが、フラックス総量に対して20〜50重量%であるのが好ましく、この中の1〜10重量%が高沸点溶剤であることがさらに好ましい。有機溶剤の含有量があまり少ないと、フラックスの粘性が高くなり、フラックスの塗布性やはんだペースト組成物としたときの印刷性が悪化するおそれがある。また、有機溶剤の含有量があまり多いと、フラックスとしての有効成分、すなわちベース樹脂等の割合が相対的に少なくなってしまうため、はんだ付け性が低下するおそれがある。
【0029】
前記フラックスは、必要に応じて添加剤を含有することもできる。該添加剤としては、例えば酸化防止剤、キレート化剤、防錆剤等が挙げられる。
【0030】
特に、有機酸ビスマス塩と、ビニルエーテル化合物によって潜在化されたカルボキシル化合物とを前記添加剤としてフラックスに添加するのが好ましい。これにより、はんだのぬれ性を向上させることができるとともに、はんだ接合部中のボイドの発生やボイドの大きさを抑制することができ、かつこの状態を長期にわたって維持することができる。
【0031】
前記有機酸ビスマス塩とは、ビスマスにアシルオキシ基が結合した化合物のことを意味する。具体例としては、酢酸ビスマス、オクチル酸ビスマス、ネオデカン酸ビスマス、ステアリン酸ビスマス、ロジン酸ビスマス、ナフテン酸ビスマス、オレイン酸ビスマス、シュウ酸ビスマス等が挙げられる。
【0032】
前記カルボキシル化合物とは、分子内にカルボキシル基を少なくとも1つ有する化合物のことを意味する。具体例としては、天然ロジン、重合ロジン、不均化ロジン、不飽和二塩基酸変性ロジン等のロジン誘導体;オレイン酸、アジピン酸等の脂肪族カルボン酸;安息香酸、トリメリット酸等の芳香族カルボン酸;ヒドロキシピバリン酸、リンゴ酸、乳酸等のヒドロキシカルボン酸;酸無水物とアルコールの反応から得られるカルボン酸等が挙げられる。
【0033】
前記ビニルエーテル化合物によって潜在化されたカルボキシル化合物とは、前記カルボキシル化合物がビニルエーテル化合物によって保護化されていて加熱によって解離してカルボキシル基を生成するカルボキシル化合物のことを意味する。潜在化されたカルボキシル基を1つ以上含有する化合物は、通常、前記カルボキシル化合物とビニルエーテル、あるいはカルボキシル化合物の無水物とヒドロキシビニルエーテルとを、無触媒で、あるいは酸性リン酸エステル化合物等の酸触媒の存在下で、室温〜100℃の温度で反応させることにより得られる。
【0034】
1分子中にヒドロキシル基を2つ以上有する化合物の該ヒドロキシル基に炭素6員環構造を有する環状酸無水物を開環ハーフエステル化反応させることにより得られるカルボン酸誘導体を前記添加剤としてフラックスに添加するのが好ましい。これにより、はんだのぬれ性を向上させることができるとともに、はんだ接合部中のボイドの発生やボイドの大きさを抑制することができる。
【0035】
前記1分子中にヒドロキシル基を2個以上有する化合物としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン等が挙げられる。前記環状酸無水物としては、例えばヘキサヒドロ無水フタル酸、水素添加無水トリメリット酸等が挙げられる。
【0036】
多孔質吸着剤や球状ポリマー微粒子等を前記添加剤としてフラックスに添加するのが好ましい。これにより、ボイドの発生を抑制することができる。前記多孔質吸着剤としては、例えば活性炭素、シリカゲル、活性アルミナ等が挙げられる。前記球状ポリマー微粒子としては、例えばポリイミド微粒子、ポリ尿素微粒子、ベンゾグアナミン微粒子、アクリル系架橋微粒子、スチレン系架橋微粒子等が挙げられる。前記球状ポリマー微粒子の粒径としては、5μm以下であるのが好ましい。
【0037】
前記添加剤の含有量は、特に制限されないが、フラックス総量に対して1〜10重量%であるのが好ましい。
【0038】
本発明のはんだペースト組成物は、前記フラックスと、はんだ合金粉末とを含有するものである。該はんだ合金粉末としては、特に制限はなく、一般に用いられている錫−鉛合金、さらに銀、ビスマスまたはインジウム等を添加した錫−鉛合金等を用いることができる。また、錫−銀系、錫−銅系、錫−銀−銅系等の無鉛合金を用いることもできる。はんだ合金粉末の粒径としては、10〜40μm程度であるのが好ましい。
【0039】
前記はんだペースト組成物におけるフラックスとはんだ合金粉末との重量比(フラックス:はんだ合金粉末)は、所望されるはんだペーストの用途や機能に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、通常、10:90〜15:85程度であるのがよい。
【0040】
前記はんだペースト組成物は、電子機器部品等をはんだ接続する際に、ディスペンサーやスクリーン印刷等により基板上に塗布される。そして、塗布後、例えば150〜200℃程度でプリヒートを行い、最高温度170〜250℃程度でリフローを行う。基板上への塗布およびリフローは、大気中で行ってもよく、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。以下の実施例および比較例において、はんだペースト組成物の調製に使用した酸変性ポリオレフィン(A)〜(C)、酸化型ポリエチレンおよびはんだ合金粉末は、次の通りである。
【0042】
・酸変性ポリオレフィン(A):無水カルボン酸基で変性したポリプロピレンであり、酸価26mgKOH/g、重量平均分子量40,000である三洋化成社製の「ユーメックス1001」を用いた。
・酸変性ポリオレフィン(B):無水カルボン酸基で変性したポリプロピレンであり、酸価52mgKOH/g、重量平均分子量30,000である三洋化成社製の「ユーメックス1010」を用いた。
・酸変性ポリオレフィン(C):無水カルボン酸基で変性したポリエチレンであり、酸価27mgKOH/g、重量平均分子量16,000である三洋化成社製の「ユーメックス2000」を用いた。
・酸化型ポリエチレン:酸価17mgKOH/gである三洋化成社製の「サンワックスE−330」を用いた。
・はんだ合金粉末:粒径が20〜30μm、重量比が錫:銀:銅=96.5:3.0:0.5の錫−銀−銅合金からなるはんだ合金粉末を用いた。
【0043】
[実施例1〜3および比較例1,2]
<はんだペースト組成物の調製>
まず、表1に示す各成分を表1に示す配合組成で容器に仕込み、加熱溶解後、冷却し、フラックスをそれぞれ得た。次いで、得られた各フラックスとはんだ合金粉末とを、重量比でフラックス:はんだ合金粉末=11:89の比率で混合し、はんだペースト組成物をそれぞれ得た。
【0044】
<評価>
得られた各はんだペースト組成物について、ボイド面積率およびフラックス飛散数を評価した。各評価方法を以下に示すとともに、その結果を表1に示す。
【0045】
(ボイド面積率)
まず、はんだペースト組成物を、基板上に直径0.4mmφ、厚さ150μmで印刷し、0.8mmピッチのCSP部品を搭載した。次いで、大気下において、175±5℃で80±5秒間プリヒートを行い、最高温度235±5℃で溶融し、はんだ付けを行った。はんだ付け後の基板を軟X線透視装置(名古屋電気工業社製の「NLX−3500F2」)で観察して写真撮影し、撮影された写真を画像解析ソフト(旭エンジニアリング社製の「Azo君」)で解析し、はんだ金属中に占めるボイドの面積率(%)を算出した。
【0046】
(フラックス飛散数)
まず、縦50mm×横50mm×厚さ0.3mmの銅板の中央部に、はんだペースト組成物を直径6.0mmφ、厚さ200μmで印刷した。次いで、最高温度235±5℃で溶融したときのフラックスの飛散を顕微鏡(倍率:20倍)により観察し、フラックス飛散数(個)をカウントした。
【0047】
【表1】

【0048】
表1から明らかなように、酸変性ポリオレフィンを含有する実施例1〜3は、ボイド面積率が小さく、フラックス飛散数も少ない結果を示した。この結果から、実施例1〜3によれば、はんだ金属の飛散の抑制も可能であると期待される。これに対し、酸変性ポリオレフィンを含有していない比較例1、および酸変性ポリオレフィンに代えて酸化型ポリエチレンを含有する比較例2は、実施例1〜3よりもボイド面積率が大きく、フラックス飛散数も著しく多い結果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性ポリオレフィンを含有することを特徴とするはんだ付け用フラックス。
【請求項2】
ベース樹脂と活性剤とを含有するはんだ付け用フラックスであって、
前記ベース樹脂が、ロジンまたは合成樹脂であり、
酸変性ポリオレフィンをさらに含有することを特徴とするはんだ付け用フラックス。
【請求項3】
前記酸変性ポリオレフィンが、無水カルボン酸基で変性したポリプロピレンおよび無水カルボン酸基で変性したポリエチレンから選ばれる少なくとも1種である請求項1または2記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項4】
前記酸変性ポリオレフィンの密度が、0.93g/cm3以上である請求項1〜3のいずれかに記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項5】
前記酸変性ポリオレフィンのJIS K 0070に規定の酸価が、20mgKOH/g以上である請求項1〜4のいずれかに記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項6】
前記酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量が、10,000〜50,000である請求項1〜5のいずれかに記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項7】
前記酸変性ポリオレフィンの含有量が、フラックス総量に対して0.1〜10重量%である請求項1〜6のいずれかに記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項8】
有機溶剤をさらに含有し、該有機溶剤が高沸点溶剤を含有する請求項1〜7のいずれかに記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項9】
フラックス総量に対し、
ベース樹脂を20〜74.9重量%、
活性剤を3〜20重量%、
ワックスを1〜10重量%、
有機溶剤を20〜50重量%、
添加剤を1〜10重量%の割合で含有する請求項1〜8のいずれかに記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のはんだ付け用フラックスと、はんだ合金粉末とを含有することを特徴とするはんだペースト組成物。

【公開番号】特開2011−177774(P2011−177774A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46678(P2010−46678)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000233860)ハリマ化成株式会社 (167)