説明

ひずみ計の取付け治具及びひずみ計の取付け構造

【課題】 本発明は従来の2点支持のひずみ計では、取付け場所が鋼材表面への平面的取付けに限定され、取付け位置やひずみ計の取付け方向が制限される難点の解決を目的とする。
【解決手段】棒状ひずみ計を長さ方向と垂直な横方向から保持するひずみ計保持部と横方向に伸ばされた延長部からなるひずみ計取付け部と、
鉄筋を長さ方向と垂直な横方向から保持する鉄筋保持部と横方向に伸ばされた延長部からなる鉄筋取付け部と、
前記ひずみ計取付け部の延長部と前記鉄筋取付け部の延長部の接続部とを含み、
前記接続部によって、前記ひずみ計取付け部と前記鉄筋取付け部が、角度可変に接続されて一定角度に固定されることを特徴とするひずみ計取付け治具、を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の変位を把握するひずみ計の取付け治具に関し、更にひずみ計の取付け構造に関するものである。ここに、ひずみ計とは、ひずみゲージを内臓又は貼付し、外力に対する応力やひずみを計測するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ひずみゲージ内臓(埋め込み型)ひずみ計のコンクリート構造物への取付けにおいては、コンクリート中の鋼材表面への取付け脚等を2個用いた2点支持が一般的であった。また、ワイヤやたこ糸(バインド線)の一端をひずみ計に結びつけ、他端を鉄筋や鋼材に固定する簡便法も用いていた。
【非特許文献1】2007−2008 製品総合カタログ 株式会社東京測器研究所
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した従来の2点支持のひずみ計では、取付け場所が鋼材表面への平面的取付けに限定され、取付け位置やひずみ計の取付け方向が制限され、バインド線による取付けでは、ひずみ計の方向を固定した精度の良い測定に難点があった。
【0004】
本発明は、上記状況に鑑みて、コンクリート構造物の変位を把握するひずみ計の取付け治具とその取付け構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕棒状ひずみ計を長さ方向と垂直な横方向から保持するひずみ計保持部と横方向に伸ばされた延長部からなるひずみ計取付け部と、
鉄筋を長さ方向と垂直な横方向から保持する鉄筋保持部と横方向に伸ばされた延長部からなる鉄筋取付け部と、
前記ひずみ計取付け部の延長部と前記鉄筋取付け部の延長部の接続部とを含み、
前記接続部によって、前記ひずみ計取付け部と前記鉄筋取付け部が、角度可変に接続されて一定角度に固定されることを特徴とするひずみ計取付け治具、を提供する。
【0006】
〔2〕上記〔1〕記載のひずみ計取付け治具において、前記ひずみ計取付け部と前記鉄筋取付け部が、鉄筋とひずみ計の長さ方向の中心線を含む平面内で、角度可変に接続されて一定角度に固定されることを特徴とするひずみ計取付け治具、を提供する。
【0007】
〔3〕上記〔1〕記載のひずみ計取付け治具において、前記接続部が、ひずみ計取付け部の延長部と前記鉄筋取付け部の延長部を、ひずみ計の長さ方向の中心線と鉄筋の長さ方向がねじれの位置関係となるように、角度可変に接続して一定角度に固定されることを特徴とするひずみ計取付け治具、を提供する。
【0008】
〔4〕上記1乃至3記載のいずれかに記載のひずみ計取付け治具において、更に前記ひずみ計保持部が、ひずみ計の長さ方向の中心線を保持しながら、長さ方向のひずみに沿って、ひずみ計の伸長を対応させるクッション部を有することを特徴とするひずみ計取付け治具、を提供する。
【0009】
〔5〕鉄筋に対する棒状ひずみ計の取付け構造であって、棒状ひずみ計を長さ方向と垂直な横方向から一箇所で保持するひずみ計保持部と横方向に伸ばされた延長部からなるひずみ計取付け部と、
鉄筋を長さ方向と垂直な横方向から保持する鉄筋保持部と横方向に伸ばされた延長部からなる鉄筋取付け部と、
前記ひずみ計取付け部の延長部と前記鉄筋取付け部の延長部の接続部とを含み、
前記接続部によって、前記ひずみ計取付け部と前記鉄筋取付け部が、角度可変に接続されて一定角度に固定され、
前記ひずみ計保持部又はひずみ計の被保持部が、ひずみ計の長さ方向の中心線を保持しながら、長さ方向のひずみに沿って、ひずみ計の伸長を対応させるクッション部又は低摩擦部分を有し、鉄筋に対して特定方向のひずみを選択的に計測することを特徴とする取付け構造、を提供する。棒状ひずみ計とは、内部にひずみゲージを内包または、貼付した、外形が棒状に長いひずみ計である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、一本の鉄筋に取り付け可能で、鉄材表面等の取り付け表面を要さず、構造物への取付け範囲が広まり、鉄筋に対して、任意の測定方向を選択できる。従って、従来困難であった、鉄筋の長さ方向に垂直な方向、斜め方向のひずみ計測が可能となった。
【0011】
また、ひずみ計のバインド線固定にくらべて、コンクリート打設による、ひずみ計の位置ずれを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のコンクリート構造物の変位を把握するひずみ計の取付け治具は、鉄筋保持部で、鉄筋、鉄骨、円筒状のパイプ等の一箇所に取り付け、また、ひずみ計取付け部を鉄筋等に対して角度可変に設定して固定し、ひずみ計を任意に方向に取り付けるものである。更に本発明は、こうしたひずみ計の取付け構造である。
従って、取り付け範囲が広がり、任意の方向のコンクリートの変位、応力状態を評価することができる
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施例を示すひずみ計の取付け治具10、および、鉄筋20とひずみ計30の取付け位置を模式的に示す図である。
【0015】
鉄筋保持部は、鉄筋保持体12とボルト14ナット16を含む。鉄筋20を鉄筋保持体12で挟み込んで、ボルト14の端部と鉄筋保持体12の狭隘となった部分で保持する。ナット12は、つば付き六角ナットを用いて、座面を広げ、鉄筋保持体12の他の端面で密着保持する。図1は、鉄筋の保持がまだ行われていない状態であり、図2は、鉄筋に固着した状態である。
【0016】
一方、ひずみ計30を、ひずみ計保持体11で保持する。ひずみ計の断面形状に沿って曲面を設けておき、この曲面でひずみ計30を保持する。ひずみ計保持体11とひずみ計30の間には、クッション部50を設けることが好ましい。ひずみ計保持体11とひずみ計の間に、できるだけ均一の厚みで、隙間の生じないように設けることが好ましい。
【0017】
その材質は、ひずみ計のひずみ測定方向の伸長を阻害しにくいもの、具体的には、四フッ化エチレンポリマー、ポリプロピレン、シリコーン製等の低摩擦係数の高分子材料が好ましい。コンクリート打設時の負荷を低減するクッション作用の良いものとしては、ブチルゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、ブタジエンゴム等の塑性変形をするが、ひずみ計を保持する塑性材料が好ましく、低摩擦係数の高分子材料と塑性材料を組み合わせて用いることも好ましい。このとき、低摩擦係数の高分子材料をひずみ計側に、塑性材料をひずみ計保持体11側に配置する。クッション部50は、ひずみ計の取付け方向を確保しながら、コンクリートのひずみに対応する変位を正確に検知するため、及びひずみ計に過度の負荷を与えて、破損しないために役立つ。
【0018】
クッション部50の厚みは、クッション作用や保持性を併せ持つ範囲として、0.1mmから5mmの範囲で設定することが好ましく、より好ましくは0.3mmから3mmの範囲で設定することが好ましい。厚みが0.1mmより小さくなるとクッション作用が小さくなり好ましくない。一方、厚みが5mmを超えると加工性が悪くなると共に、ひずみ変形に対するひずみ計の追随性(応答性)が悪くなる傾向があり、保持性も低下するため好ましくない。
【0019】
クッション部を用いないときは、取付け治具の保持体側又はひずみ計の被保持部側に、ひずみ計の長さ方向の中心線を保持しながら、長さ方向のひずみに沿って、ひずみ計の伸長を対応させる低摩擦部分を有することが好ましい。低摩擦部分の材質は、四フッ化エチレンポリマー、ポリプロピレン、シリコーン製等の低摩擦係数の高分子材料が好ましい。
【0020】
ひずみ計保持部11のひずみ計の長さ方向の長さ(L1)とひずみ計の長さ(L2)の比(L1/L2)は、通常1以下であるが、これが、1に近いほど、設置時のひずみ計の長さ方向からの測定時の設置誤差は、小さくなる。表1にその関係を示す。ひずみ計とひずみ計保持部11の隙間が1mmのケースである。
【0021】
【表1】

【0022】
鉄筋保持体12とひずみ計保持体11は、両者を角度可変に接続部40で接続される。図1では、各保持体の延長部に穿孔された孔とボルトナットで形成している。各保持体の穿孔を有する延長部は、平面状であり、互いに重なりあうようセットされ、ボルトの中心軸に対して相互に回転できる。
【0023】
鉄筋保持体12及びひずみ計保持体11は、その材質は、アルカリ溶液中で腐食が生じない鋼材が望ましい。コンクリートはアルカリ性であり、アルカリ溶液中で不導体皮膜を形成する鉄などの鋼材が、広く用いられる。コンクリート構造物の性能に影響を及ぼさず、かつ、コンクリート打設時の側圧に耐えうる剛性を有する部材であれば良い。例えば、プラスチック、エンジニアリングプラスチック等でも良い。また、コンクリート構造物のかぶり部分のように特に腐食を避けたい部分に装着するときは、エンジニアリングプラスチック製のものが好ましい。
【0024】
鉄筋保持体12は、図1の形状に限定されることがなく、鉄筋を保持して、形状を維持しながら、ひずみ計取付け部へと接続可能ならば、任意の形状で良い。また、ひずみ計保持体11は、図1の形状に限定されることがなく、ひずみ計を保持して、形状を維持しながら、鉄筋保持部へと接続可能ならば、任意の形状で良い。鉄筋保持体12とひずみ計保持体11を角度可変に固定する接続部40は、両保持体の延長部をボルトナットで角度可変に固定できる形状であれば、任意の形状で良い。
【0025】
以下、具体的な例について説明する。
【0026】
図3に図示するように、図1のひずみ計の取付け治具を箱形鉄筋の一本の鉄筋に装着した。ひずみ計の方向は、鉄筋に対して約30度の角度を持たせて取り付けた例である。ひずみ計取付け部と鉄筋取付け部が、鉄筋とひずみ計の長さ方向の中心線を含む平面内で、角度可変に接続されて一定角度に固定されることを特徴とするひずみ計取付け治具とすることができる。従来、この角度でのひずみ測定では、図3の紙面に平行な面(例えば、鋼材表面)と2点支持を要したが、この取付け治具により、ひずみ計30により任意の角度方向でのひずみ計測が可能となる。
【0027】
構造物の設計図面から、コンクリート型枠、鉄筋組立てを行なう。ひずみ計設置位置、取付け角度を決定し、治具を鉄筋に挟み込み、ボルト締めを行なって取り付ける。この際、コンクリートの流し込み(打設)時に位置がずれないように、固定する。従来の設置方法では設置位置が限定されたり、位置がずれやすいといった問題が生ずるが、この治具により設置の精度及び自由度が高くなる。
【0028】
ひずみ計のケーブルを配線して型枠の外に配線ケーブルを出す。コンクリートを型枠に打設する。
【0029】
コンクリートの硬化を待って型枠を取り外し、(設計によって2週間〜数ヶ月)、ひずみゲージあるいはひずみゲージを内包したひずみ計に接続されたコードを、ひずみ計測機器(データロガー)に接続する。通常、型枠を取り外した直後にイニシャル値となるひずみのデータを取得する。
型枠の取り外し前後にイニシャル値となるひずみのデータを取得する。
【0030】
コンクリートとひずみ計は機械的噛み合わせ等によって同一の挙動となるため、コンクリートの変位・変形に伴って、ゲージが伸縮し電気抵抗に変化が生ずる。この抵抗変化を計測機器で増幅して採取し、ひずみ値として収録する。
測定は、計測機器を現場に置いたまま連続して行い隔所でデータ取得するか、一定期間、現地に行って測定することもある。
【0031】
構造物にかかる外力(例えば地盤沈下や地震など)によって、コンクリート構造物が変形する場合には、設置部位毎の応力に対するひずみが発生する。この際、コンクリートの強度を超えるひずみが生じると、「ひび割れ」等が生ずる。そのため、「ひずみ」は構造物の状態を把握するための重要な因子ということができる。例えば、地震発生後に構造物のひずみを測定することにより、構造物の状態を把握することができるため、復旧の際に有益な情報として役立つ。
【0032】
一方、コンクリートの乾燥収縮やクリープといったコンクリート自体の物性に起因する変形を見る場合は、所定の期間、ひずみの測定を行って、構造物の維持管理に役立てる。
【0033】
図6に、ひずみ計測機器(データロガー)の測定チャートを示す。測定チャートは、コンクリート構造物のひずみを測定した結果であり、ひずみ計の設置部位が収縮側に変形していると判断できる。その収縮が、施工後、50日程度で、小さくなることが、定量的に把握できる。
【0034】
図4は、図1におけるひずみ計保持体11と鉄筋保持体11の各延長部を直接接続せず、接続体17を介して接続部とした例である。図5に接続体の例示をする。図5の接続体17は、矩形状の部材の長さ方向のほぼ中央部分で一方の端を水平に保ったまま、他端をこれと垂直にねじって形成している。この両端部分にボルト孔18を設けて、各ボルト孔を、ひずみ計保持体11と鉄筋保持体11の各延長部のボルト孔に一致するように図4のように構成した。接続体17の両端のねじれ角度は、90度に限定されず、任意の角度で設定することが出来る。このとき、ひずみ計の長さ方向の中心線と鉄筋の長さ方向がねじれの位置関係となるように、角度可変に接続して一定角度に固定されることを特徴とするひずみ計取付け治具とすることができる。
【0035】
更に、接続体として、球形関節状の角度可変なものを選定すれば、ねじれを含む多様な方向のひずみ計の設置が可能な、ひずみ計取付け治具とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のコンクリート構造物の変位を把握するひずみ計の取付け治具とその取付け構造により、応力状態が複雑なコンクリート構造内部ひずみの測定に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施例を示すひずみ計取付け治具を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施例を示すひずみ計取付け治具を鉄筋に取付け時の構造を模式的に示す図である。
【図3】本発明の実施例を示すひずみ計取付け治具を用いた測定時の構造を模式的に示す図である。
【図4】本発明の別の実施例を示すひずみ計取付け治具を模式的に示す図である。
【図5】本発明の接続部の実施例に用いる接続体の模式図。
【図6】本発明の取付け構造によるひずみチャートを示す図である。
【符号の説明】
【0038】
10:ひずみ計取付け治具
11:ひずみ計保持体
12:鉄筋保持体
14:ボルト
16:ナット
17:接続体
18:接続体のボルト孔
20:鉄筋
30:ひずみ計
40:角度可変に接続する接続部
50:クッション部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状ひずみ計を長さ方向と垂直な横方向から保持するひずみ計保持部と横方向に伸ばされた延長部からなるひずみ計取付け部と、
鉄筋を長さ方向と垂直な横方向から保持する鉄筋保持部と横方向に伸ばされた延長部からなる鉄筋取付け部と、
前記ひずみ計取付け部の延長部と前記鉄筋取付け部の延長部の接続部とを含み、
前記接続部によって、前記ひずみ計取付け部と前記鉄筋取付け部が、角度可変に接続されて一定角度に固定されることを特徴とするひずみ計取付け治具。
【請求項2】
請求項1記載のひずみ計取付け治具において、前記ひずみ計取付け部と前記鉄筋取付け部が、鉄筋とひずみ計の長さ方向の中心線を含む平面内で、角度可変に接続されて一定角度に固定されることを特徴とするひずみ計取付け治具。
【請求項3】
請求項1記載のひずみ計取付け治具において、前記接続部が、ひずみ計取付け部の延長部と前記鉄筋取付け部の延長部を、ひずみ計の長さ方向の中心線と鉄筋の長さ方向がねじれの位置関係となるように、角度可変に接続して一定角度に固定されることを特徴とするひずみ計取付け治具。
【請求項4】
請求項1乃至3記載のいずれかに記載のひずみ計取付け治具において、更に前記ひずみ計保持部が、ひずみ計の長さ方向の中心線を保持しながら、長さ方向のひずみに沿って、ひずみ計の伸長を対応させるクッション部を有することを特徴とするひずみ計取付け治具。
【請求項5】
鉄筋に対する棒状ひずみ計の取付け構造であって、棒状ひずみ計を長さ方向と垂直な横方向から一箇所で保持するひずみ計保持部と横方向に伸ばされた延長部からなるひずみ計取付け部と、
鉄筋を長さ方向と垂直な横方向から保持する鉄筋保持部と横方向に伸ばされた延長部からなる鉄筋取付け部と、
前記ひずみ計取付け部の延長部と前記鉄筋取付け部の延長部の接続部とを含み、
前記接続部によって、前記ひずみ計取付け部と前記鉄筋取付け部が、角度可変に接続されて一定角度に固定され、
前記ひずみ計保持部又はひずみ計の被保持部が、ひずみ計の長さ方向の中心線を保持しながら、長さ方向のひずみに沿って、ひずみ計の伸長を対応させるクッション部又は低摩擦部分を有し、鉄筋に対して特定方向のひずみを選択的に計測することを特徴とする取付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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