説明

むかごの育成方法

【課題】
自然薯類の葉の脇芽として発生するむかごを育成するもので、実施に手間を掛けず害虫被害を防止してむかごをそのまま大塊状に肥大化させる。
【解決手段】
屋外の作地に植付けられて生育した自然薯に開花した花が枯れる頃に、茎3の上方部分の背丈aよりも短い背丈bの茎3の下方部分を葉4とともに遮光性を有するシートからなる被覆材6で被覆しシートの上端部と下端部とを紐材7で絞込むことによって、むかご5を遮光しむかご5の外気との接触を抑制して夏期を経過させ、秋口に被覆材6を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然薯類(ナガイモ,イチョウイモ,ツクネイモ(Dioscorea opposita Thunb),ヤマノイモ(Dioscorea
aponica Thunb)等)の葉の脇芽として発生するむかご(零余子)を育成する方法に係る技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
むかごは、収穫されてそれ自体が食材として利用されるとともに自然薯等の植付けの種芋としても利用されるが、小塊状であることから、食材としての商品価値が低く自然薯等を出荷できる大きさまで成長させるのに年数が掛かってしまうものである。そこで、むかごを大塊状に肥大化させる育成方法の開発が要望されるようになっている。
【0003】
従来、むかごの育成方法としては、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。
【0004】
特許文献1には、生育した自然薯類にむかごが発生した際に、むかごを土で覆うことによってむかごから吸収根を発根させ、むかごを自然薯類として生育させるむかごの育成方法が記載されている。
【0005】
特許文献1に係るむかごの育成方法は、発生したむかごを直ちに自然薯等の植付けの種芋のように栽培することによって、自然薯等を出荷できる大きさまで成長させる年数を短縮しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−247259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に係るむかごの育成方法では、むかごを自然薯等の植付けの種芋のように栽培してしまうため、むかご自体を食材として収穫することができないという問題点がある。また、むかごを土で覆うための苗床を形成しむかごに対する土の被覆状態を管理しなければならないため、実施に手間が掛かるという問題点がある。
【0008】
本発明は、このような問題点を考慮してなされたもので、実施に手間を掛けずにむかごをそのまま大塊状に肥大化させることのできるむかごの育成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題を解決するため、本発明に係るむかごの育成方法は、特許請求の範囲の各請求項に記載の手段を採用する。
【0010】
即ち、請求項1では、生育した自然薯類に開花した花が枯れる頃に、茎,葉を一部を除いて遮光して温度15〜50℃,湿度60%以上の環境下で7〜100日間育成することを特徴とする。
【0011】
この手段では、遮光し温度,湿度を管理することで、発生したむかごを特許文献1に係るむかごの育成方法と同様に土に覆われたような状態とすることができ、一部の遮光を回避することで、発生したむかごが葉の光合成によるデンプンの供給を受けることができるようになる。
【0012】
また、請求項2では、請求項1のむかごの育成方法において、生育した自然薯類に開花した花が枯れてむかごが発生した際には、遅くともむかごが直径5mmに成長するまでに遮光して温度,湿度の環境を整えることを特徴とする。
【0013】
この手段では、生育した自然薯類に開花した花が枯れた直後でなくむかごが発生しある程度の大きさになるまでに遮光等を実行することができる。
【0014】
また、請求項3では、請求項1または2のむかごの育成方法において、屋外の作地に植付けられて生育した自然薯類に開花した花が枯れる頃に、茎,葉を一部を除いて被覆材で被覆することによってむかごを遮光して温度環境,湿度環境の急激な変化を回避させ、夏期を経過させてから、秋口に被覆材を除去することを特徴とする。
【0015】
この手段では、屋外で生育させる場合に、遮光を実施する手段と温度,湿度を管理する手段として被覆材が選択される。
【0016】
また、請求項4では、請求項3のむかごの育成方法において、被覆材として遮光率が20〜80%の遮光性を有するシートを使用し、茎,葉を覆ったシートの上端部と下端部とを紐材で絞込むことを特徴とする。
【0017】
この手段では、シートからなる被覆材と紐材とで被覆を行うことで、農作業で一般的に行われている被覆処理作業となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るむかごの育成方法は、遮光し温度,湿度を管理することで、発生したむかごを特許文献1に係るむかごの育成方法と同様に土に覆われたような状態とすることができ、一部の遮光を回避することで、発生したむかごが葉の光合成によるデンプンの供給を受けることができるようになるため、むかごをそのまま大塊状に肥大化させることができる効果がある。また、むかごを土で覆うような面倒な作業等が不要であるため、実施に手間が掛からない効果がある。
【0019】
さらに、請求項2として、生育した自然薯類に開花した花が枯れた直後でなくむかごが発生しある程度の大きさになるまでに遮光等を実行することができるため、自然薯類の品種に応じて遮光等の好適な実行時を選択することができる効果がある。
【0020】
さらに、請求項3として、屋外で生育させる場合に、遮光を実施する手段と温度,湿度を管理する手段として被覆材が選択されるため、屋外での実施に手間が掛からない効果がある。
【0021】
さらに、請求項4として、シートからなる被覆材と紐材とで被覆を行うことで、農作業で一般的に行われている被覆処理作業となるため、実施が容易である効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るむかごの育成方法を実施するための形態の第1例の生育した自然薯類の側面図であり、(A)に自然薯の生育状態がそのまま示され、(B)に自然薯の生育状態に対して被覆処理された状態が示されている(部分拡大断面を含む)。
【図2】図1(B)の被覆処理を実施する時期を示すカレンダーである。
【図3】図1により育成されたむかごの写真である。
【図4】本発明に係るむかごの育成方法を実施するための形態の第2例の育成設備の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るむかごの育成方法を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1〜図3は、本発明に係るむかごの育成方法を実施するための形態の第1例を示すものである。
【0025】
第1例では、自然薯のむかご5の屋外での育成に適用されるものを示してある。
【0026】
自然薯は、図1(A)に示すように、春先に作地1に植付けられた種芋2から茎3が伸びて葉4が繁ると、初夏に開花した白色の花が黄色化するように枯れ、葉4の脇芽として小塊状のむかご5が発生する。
【0027】
第1例は、自然薯の生育について、茎3を直立の支柱で上方に誘引するが、好ましくは後述の被覆材6の被覆を容易にするためネットを張設して茎3の側茎(子つる)を側方へ誘引することは避ける。
【0028】
生育した自然薯にむかご5が発生した際(遅くともむかご5の直径が5mm程度に成長するまで)には、図1(B)に示すように、茎3の下方部分(主茎,側茎)を束ねるようにして葉4とともに被覆材6で被覆する。このとき、下方に垂下がっている茎3については、引上げるようにして被覆材6で被覆する。この結果、むかご5も被覆材6で被覆されることになる。なお、被覆材6で被覆されない茎3の上方部分には、ある程度のむかご5が露出されて残置される。
【0029】
なお、通常では脇芽としてのむかご5が発生しない品種では、花が枯れた状態となったときに被覆材6の被覆を実施する。また、脇芽としてのむかご5が発生する品種においても、むかご5が発生する前の花が枯れた状態となったときに、被覆材6の被覆を実施することが可能である。いずれの場合も、被覆材6による遮光によってむかご5が発生することになる。従って、自然薯類の品種に応じて遮光等の好適な実行時を選択することができる。
【0030】
被覆材6は、例えば、合成樹脂材,布材,紙材からなる白色の表材6aに黒色のアルミ箔の裏材6bが積層された遮光性(遮光率が20〜80%)を有したシートからなる(図1(B)拡大断面参照)。シートからなる被覆材6については、防水性,断熱性を有していることが好ましい。このシートからなる被覆材6は、茎3,葉4を包込むように被覆するのに適している。茎3,葉4を被覆したシートからなる被覆材6は、上端部,下端部が紐材7で縛られて被覆が保持される。紐材7は、茎3,葉4を傷付けない程度に被覆材6の上端部,下端部を絞込んで、被覆材6の内部への外気の流入を抑制する。このようなシートからなる被覆材6と紐材7とによる被覆は、農作業で一般的に行われている被覆作業となる。従って、特別な作業技術が要求されることがなく実施が容易である。
【0031】
なお、被覆材6で被覆される茎3の下方部分の背丈bは、被覆材6で被覆されない茎3の上方部分の背丈aよりも短く設定される。好ましくは、背丈a対背丈bを2対1程度とする。なお、作地1からの40〜50cm程度の高さcの茎3には、主茎のみでむかご5が発生しないため、被覆材6は被覆されない。
【0032】
被覆材6による被覆は、夏期の間継続される。
【0033】
そして、日照時間が短くなって気温が低下してむかご5の成長が期待できなくなった秋口に被覆材6を取外して、必要に応じて、被覆材6で被覆されていたむかご5を収穫することになる。
【0034】
収穫されるむかご5は、図3に示すように、球形の小塊状であったものが俵形の大塊状に肥大化されたものとなっている。図3には、シートからなる被覆材6を開放した状態が示され、上下に伸びている茎3に複数個のむかご5が鈴生り状態で生育しているのが確認される。被覆材6による被覆を施さなかった場合に比して、このむかご5は、2〜3倍の大きさに肥大化されている。なお、図3から明らかなように、被覆材6で被覆されていた葉4は枯れたり黄化している。
【0035】
むかご5の肥大化は、特許文献1に係るむかごの育成方法と同様に土に覆われたように遮光されてデンプン蓄積機能が高められるとともに(ただし、培地がないため吸収根,貯蔵根の発根はわずかにみられるにすぎない)、茎3の上方部分の葉4の光合成によって生成されたデンプンを茎3を通じて充分に供給を受けることできることによって実現されるものと考えられる。また、被覆材6の被覆がむかご5の周囲の温度,湿度の急激な変動を防止することも、土に覆われたような環境を提供するのに役立っている。即ち、被覆材6で被覆されない茎3の上方部分の背丈aを短くすると、むかご5の肥大化が充分になされないことが確認されている。また、被覆材6の遮光率が20%に満たない場合には、むかご5の色が商品価値の高い白色とならずに緑色となってしまうとともに、デンプン蓄積機能が低くなってむかご5の肥大化が低下することが確認されている。また、被覆材6の遮光率が80%を超えた場合には、茎3,葉4が急激に枯れてしまい、茎3を通じたデンプンの供給に支障が生じてむかご5の肥大化が低下することが確認されている。
【0036】
さらに、収穫されるむかご5は、害虫(ヤマノイモコガ(A.suzukiella),ナガイモコガ(Acrolepiopsissnagaimo)等)の被害を殆ど受けないことが確認されている。
【0037】
むかご5の害虫の加害回避は、被覆材6で被覆され地中と同様の温度,湿度環境下でむかご5にわずかではあるが吸収根が発根し、その発根した吸収根から発せられる何らかの物質等が影響しているものと考えられる。なお、シートからなる被覆材6が断熱性を有していると、夏期の昼間にむかご5の周囲の温度が必要以上に高くなるのを避けることができるとともに、夏期の夜間のむかご5の周囲の温度の低下を低減することができる。
【0038】
さらに、シートからなる被覆材6が防水性を有していると、長雨の際に被覆材6に被覆されたむかご5の無用の水濡れを防止することができる。また、被覆材6の下端部が紐材7で茎3.葉4を傷付けないように少しの隙間を有して絞込まれているため、被覆材6の内部に雨水が流入しても内部に滞溜することがなく下端部から排出される。従って、むかご5が被覆材6の内部に滞溜した雨水に沈積されてしまうようなことはない。
【0039】
第1例によると、秋口に俵形の大塊状に肥大化されたむかご5を収穫することができ、むかご5の食材としての商品価値が高く自然薯を出荷できる大きさまで成長させるのに年数が掛からなくなる。また、収穫されるむかご5の害虫の加害が回避されることで、むかごの5の生産性が良好になる。
【0040】
なお、第1例で使用される被覆材6については、黒,赤,茶系の色を避けた単層のシートを使用することができる。また、被覆材6としてワンタッチで茎3,葉4に被覆することのできる容器形状体を使用することも可能である。
【0041】
図4は、本発明に係るむかごの育成方法を実施するための形態の第2例を示すものである。
【0042】
第2例では、自然薯のむかご5の屋内での育成に適用されるものを示してある。
【0043】
第2例は、作地1に植付けられた自然薯の周囲を囲む遮光性を有するハウス8と、ハウス8に付設された温度調整機能,湿度整機能を有する空調機9と照明器10とからなる育成設備を使用する。なお、照明器10としては、LEDライトのように指向性(直進性)を有するものが選択される。
【0044】
この育成設備では、第1例と同様に花が枯れる頃に、ハウス8で茎3,葉4の全体を遮光し、ハウス8の内部の温度が5〜50℃で湿度が60%以上となるような環境を維持して、上部の茎3,葉4にのみ照明器10による照明を当てるようにする。
【0045】
この結果、7〜100日間の育成で大塊状に肥大化されたむかご5を収穫することができるようになる。なお、湿度を土壌の湿度と近似した60〜80%として温度を30℃近くに維持すると、7日間である程度肥大化したむかご5を得ることができる。また、第1例と同程度の肥大化を得るには、第1例に近い100日間の育成を要する。ちなみに、肥大化に加えて食味,食感等の商品価値の高いむかご5を得るには、温度を25〜30℃に維持するのが好ましい。
【0046】
以上、図示した各例の外に、自然薯の下部以外を遮光し、自然薯の上部以外を遮光から外すようにすることも可能である。
【実施例】
【0047】
前述の本発明に係るむかごの育成方法を実施するための形態を栃木県の平野部で実施する場合に、作地1への種芋2の植付けを4月10日前後とすると、むかご5の発生が7月20日前後となる。そして、被覆材6の取外しが9月15日前後となる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係るむかごの育成方法は、自然薯以外にむかごが発生可能な自然薯類に広範に適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
2 種芋
3 茎
4 葉
5 むかご
6 被覆材
7 紐材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生育した自然薯類に開花した花が枯れる頃に、茎,葉を一部を除いて遮光して温度15〜50℃,湿度60%以上の環境下で7〜100日間育成することを特徴とするむかごの育成方法。
【請求項2】
請求項1のむかごの育成方法において、生育した自然薯類に開花した花が枯れてむかごが発生した際には、遅くともむかごが直径5mmに成長するまでに遮光して温度,湿度の環境を整えることを特徴とするむかごの育成方法。
【請求項3】
請求項1または2のむかごの育成方法において、屋外の作地に植付けられて生育した自然薯類にに開花した花が枯れる頃に、茎,葉を一部を除いて被覆材で被覆することによってむかごを遮光して温度環境,湿度環境の急激な変化を回避させ、夏期を経過させてから、秋口に被覆材を除去することを特徴とするむかごの育成方法。
【請求項4】
請求項3のむかごの育成方法において、被覆材として遮光率が20〜80%の遮光性を有するシートを使用し、茎,葉を覆ったシートの上端部と下端部とを紐材で絞込むことを特徴とするむかごの育成方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−161311(P2012−161311A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−290493(P2011−290493)
【出願日】平成23年12月31日(2011.12.31)
【出願人】(508104385)
【Fターム(参考)】