説明

めっき膜を有するポリマー部材の製造方法

【課題】加圧二酸化炭素を用いて触媒成分を分散させたポリマー部材を常圧下で無電解めっき処理することにより、密着性に優れためっき膜を有するポリマー部材を製造する方法を提供する。
【解決手段】めっき触媒となる金属を含む触媒成分を加圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体を用いて、触媒成分が分散されたポリマー部材を形成し、触媒成分が分散されたポリマー部材を、常圧下で、アルコール処理液に浸漬し、アルコール処理液で前処理されたポリマー部材を、常圧下で、アルコールを含有する無電解めっき液に浸漬して、めっき膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっきにより形成されためっき膜を有するポリマー部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリマー部材の表面に金属膜を形成する方法として、無電解めっき法が知られている。この無電解めっき法は、触媒的な化学反応を利用して金属イオンを還元することにより、被めっき物上に金属膜を形成する方法であるため、被めっき物それ自体が還元剤の還元作用に対して触媒活性を示す場合を除いて、触媒活性がある金属物質を被めっき物の表面内部に安定、且つ均一に付着させておくことが、最終的に得られるめっき膜の密着性を確保するために必要となる。そのため、被めっき物が樹脂成形体などのポリマー部材である場合、無電解めっき処理の前に六価クロム酸や過マンガン酸などの環境負荷の大きな酸化剤を含有するエッチング液を用いてポリマー部材の表面を粗化するエッチング処理を行って、樹脂成形体の表面に凹凸を形成し、該凹凸に触媒核となる金属物質を付与している。また、このようなエッチング液で浸漬されるポリマー部材、すなわち、無電解めっきが適用可能なポリマー部材としては、ABS系樹脂を含有するポリマー部材に限定されている。これは、ABS系樹脂がエッチング液に選択的に浸食されるブタジエンゴム成分を含んでいるのに対して、他の樹脂ではこのようなエッチング液に選択的に浸食される成分が少なく、表面に凹凸が形成され難いためである。それゆえ、ABS系樹脂以外のポリカーボネート樹脂などを樹脂成分として含むポリマー部材を無電解めっき処理するにあたっては、無電解めっきを可能にするためにABS系樹脂やエラストマーを含むめっきグレード品が使用されている。しかしながら、そのようなめっきグレード品では、主材料の耐熱性などの物性の劣化を避けることができない。
【0003】
上記のような問題を解決すべく、無電解めっき処理の前に、超臨界状態の二酸化炭素などの加圧流体を用いて、めっき触媒となる金属を含有する金属錯体などの触媒成分を分散させたポリマー部材を形成する方法が提案されている。例えば、成形された樹脂成形体と、触媒成分を超臨界二酸化炭素に溶解させた加圧流体とを接触させることにより、触媒成分が分散されたポリマー部材を得る方法や、溶融樹脂と、触媒成分を超臨界二酸化炭素に溶解させた加圧流体とをシリンダ内で接触させ、この溶融樹脂を射出成形することにより、触媒成分を分散させたポリマー部材を得る方法が提案されている(特許文献1)。超臨界流体は気体としての浸透性と液体としての溶媒特性を併せもつ流体であり、上記のような触媒成分を溶解させた加圧流体を使用することにより、加圧流体の浸透に伴って、これに溶解している触媒成分が樹脂成形体や溶融樹脂に浸透するため、エッチング処理を行うことなく触媒成分が分散されたポリマー部材を形成することができる。従って、上記方法によれば、環境負荷の大きな六価クロム酸などの酸化剤を使用する必要がなく、またエッチング液に浸食される成分の少ないポリマー部材に対しても、無電解めっき処理によりめっき膜を形成できる。
【0004】
しかしながら、これらの加圧流体を用いる方法で得られるポリマー部材を常圧下で無電解めっき処理した場合、形成されるめっき膜の密着力が低いという問題がある。すなわち、従来のエッチング処理後に無電解めっき処理を行う方法では、エッチング処理によって表面に凹凸が形成されたポリマー部材にめっき触媒を付与し、この凹凸内部に存在するめっき触媒を触媒核として金属粒子が成長する。従って、ポリマー部材の内部においては、めっき膜とポリマー部材との界面でめっき膜が凹凸に埋め込まれた状態となり、それによってめっき膜の密着力を得ている。これに対し、加圧流体はポリマー部材に浸透するが、エッチング処理のようにポリマー部材を浸食するものでなく、また加圧流体はポリマー部材の表面だけなく、内部深くにも浸透するため、高いアンカー効果が得られる表面近傍でのめっき触媒の濃度が低くなる。特に、特許文献1のように射出成形法を用いて触媒成分を溶融樹脂に分散させる場合、樹脂成分の比重よりも金属を含有する触媒成分の比重が大きいため、ポリマー部材の表面近傍に存在するめっき触媒の濃度が低下する。従って、加圧流体を用いて触媒成分をポリマー部材に分散させるにあたって、ポリマー部材の表面近傍のめっき触媒の量を増加させるためには、めっき触媒となる金属錯体などの触媒成分を可能な限り高濃度で溶解させた加圧流体を用いる必要があるが、常圧下の無電解めっき処理では、無電解めっき液がポリマー部材の内部に浸透し難いため、高濃度で触媒成分を溶解させた加圧流体を用いた場合でも、ポリマー部材の最表面に存在するめっき触媒からめっき膜が成長する。そのため、ポリマー部材の最表面のめっき膜の密度を向上させても、ポリマー部材の内部で樹脂に食い込んだ状態のめっき膜が形成されず、高いアンカー効果が得られない。
【0005】
そこで、本出願人は、触媒成分を加圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体を用いて触媒成分を分散させたポリマー部材を形成した後、さらに、このポリマー部材を加圧二酸化炭素及びアルコールを含む無電解めっき液を用いて無電解めっき処理することにより、ポリマー部材の内部からめっき膜を成長させる方法を先に提案した(特許文献2)。水が主成分である無電解めっき液は加圧二酸化炭素と相溶し難いが、アルコールを無電解めっき液に混合させることにより、撹拌しなくても、高圧状態の二酸化炭素を無電解めっき液に溶解させることができる。そのため、このような無電解めっき液に触媒成分が高濃度で分散されたポリマー部材を浸漬することにより、めっき成分が加圧二酸化炭素及びアルコールとともにポリマー部材の内部に浸透し、それによってポリマー部材の内部に分散させためっき触媒を触媒核としてめっき膜を成長させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3696878号公報
【0007】
【特許文献2】特許第4092364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のような加圧二酸化炭素及びアルコールを含有する無電解めっき液を用いた場合でも、触媒成分を高濃度で含有する加圧流体を用いて処理されたポリマー部材では、ポリマー部材の最表面にめっき触媒が多量に存在するため、最表面からめっき膜が成長しやすい。そのため、めっき膜に密着力の弱い部分が生じたり、無電解めっき処理ごとに密着力のばらつきが発生しやすいという問題がある。また、ポリマー部材の内部深くに存在する触媒成分まで加圧二酸化炭素を含有する無電解めっき液を浸透させるためには高圧が必要とされることから、シール精度の高い製造装置が必要となるなど製造上の負担が大きい。このため、工業的生産を考慮すれば、ポリマー部材に分散させためっき触媒の利用率は依然として低い。その結果、加圧流体を用いて触媒成分を分散させる分散処理と特許文献2の無電解めっき処理とを組み合わせた場合、高コストになるという問題がある。しかも、特許文献1のような射出成形法により溶融樹脂に触媒成分を分散させる場合、触媒成分が飽和濃度で溶解している加圧流体を用いると、シリンダ内での圧力変化により触媒成分がポリマー部材に浸透する前に容易に加圧流体から析出してしまう。この析出した触媒成分は加圧流体に溶解していないため、ポリマー部材の内部に浸透することができず、不要な触媒成分となってしまう。また、触媒成分の析出によりポリマー部材に分散されるめっき触媒の濃度が低下するとともに、ポリマー部材の内部における触媒成分の分散が不均一となり、めっき膜の密着力が低下するとともに、密着力のばらつきが大きくなる。加圧流体に溶解させる触媒成分の濃度を低下させることにより、上記のような触媒成分の析出を低減することはできるが、この場合、ポリマー部材に導入される触媒成分の量が減少するため、さらにめっき膜の密着性が低下するという問題がある。
【0009】
また、特許文献2の加圧二酸化炭素を用いた無電解めっき処理では、加圧二酸化炭素及びアルコールを含有する無電解めっき液が使用されるため、無電解めっき液、及び被めっき物であるポリマー部材を、高温高圧環境下の使用に耐えられる密閉容器に収容させる必要がある。そのため、密閉容器の容量により一度に処理できるポリマー部材の数が制限されてしまうことから、無電解めっき処理は必然的にバッチ処理となる。その結果、特許文献2のような加圧二酸化炭素を用いて無電解めっき処理する方法は連続生産プロセスに適しておらず、高い量産性を見込むことが難しい。従って、加圧流体を用いて触媒成分を分散させたポリマー部材を形成した後は、常圧下で無電解めっき処理を行うことが望まれるが、既述したように常圧下で無電解めっき処理する場合、無電解めっき液がポリマー部材の内部に十分に浸透できないため、ポリマー部材の最表面のめっき触媒を触媒核としてめっき膜が成長し、高い密着力を有するめっき膜を形成することができないという問題がある。
【0010】
本発明は上記課題を解決するものであり、本発明の目的は、加圧二酸化炭素を用いて触媒成分を分散させたポリマー部材を常圧下で無電解めっき処理することにより、密着性に優れためっき膜を有するポリマー部材を製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、めっき触媒となる金属を含む触媒成分を加圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体を用いて、前記触媒成分が分散されたポリマー部材を形成する分散工程と、
前記触媒成分が分散されたポリマー部材を、常圧下で、アルコール処理液に浸漬する前処理工程と、
前記アルコール処理液で前処理されたポリマー部材を、常圧下で、アルコールを含有する無電解めっき液に浸漬して、めっき膜を形成する無電解めっき工程とを含む、めっき膜を有するポリマー部材の製造方法である。
【0012】
上記製造方法において、触媒成分を樹脂成形体に分散させる態様では、前記分散工程は、前記加圧流体と、樹脂成形体とを接触させることにより、前記触媒成分が分散されたポリマー部材を形成することを含んでもよい。また、この態様においては、前記樹脂成形体は、シート状の樹脂成形体を使用してもよい。さらに、この態様においては、上記製造方法は、前記分散工程後、前記前処理工程前に、前記触媒成分が分散されたシート状のポリマー部材を金型内に配置し、前記金型内に溶融樹脂を射出して、前記シート状のポリマー部材と前記溶融樹脂とを一体成形するインサート成形工程をさらに有してもよい。
【0013】
上記製造方法において、触媒成分を溶融樹脂に分散させる態様では、前記分散工程は、前記加圧流体と、溶融樹脂とを接触させ、前記触媒成分が分散された溶融樹脂を射出成形または押出成形することにより、前記触媒成分が分散されたポリマー部材を形成することを含んでもよい。また、この態様において、前記分散工程は、前記加圧流体と、第1の溶融樹脂とを接触させ、前記触媒成分を分散させた第1の溶融樹脂を金型内に射出し、さらに前記触媒成分を分散させた第1の溶融樹脂が射出された金型内に、触媒成分を含有しない第2の溶融樹脂を射出することにより、前記触媒成分が分散されたポリマー部材を形成することを含んでもよい。そして、上記態様においては、前記加圧流体は、さらにフッ素系有機溶媒を含有してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、加圧流体を用いて触媒成分を分散させたポリマー部材を、常圧下でアルコール処理液を用いて前処理し、前記前処理されたポリマー部材に、常圧下でアルコールを含有する無電解めっき液を用いて無電解めっき処理することにより、密着性に優れためっき膜を有するポリマー部材を製造することができる。また、上記製造方法によれば、触媒成分の少ないポリマー部材に対しても、高い密着力を有するめっき膜を形成できる。そして、上記製造方法によれば、アルコール処理液による前処理及び無電解めっき処理のいずれも常圧下で行うことができるため、加圧二酸化炭素を用いた無電解めっき処理を行う必要がない。従って、無電解めっき処理において製造上の負担の大きな高耐圧な製造装置を使用する必要がなく、工業的生産において連続して密着性に優れためっき膜を有するポリマー部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の実施例1に係る分散工程で用いられる製造装置を示す概略断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施例2に係る分散工程で用いられる製造装置を示す概略模式図である。
【図3】図3は、本発明の実施例2に係る分散工程で用いられる巻回体を示す概略模式図である。
【図4】図4は、本発明の実施例2に係るインサート成形工程の状態を示す要部概略断面図であり、図4(A)は、シート状のポリマー部材を金型内に配置させた状態を示す要部概略断面図、図4(B)は、金型内に溶融樹脂が射出充填された状態を示す要部概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施の形態のめっき膜を有するポリマー部材の製造方法について具体的に説明する。
【0017】
本実施の形態のめっき膜を有するポリマー部材の製造方法は、めっき触媒となる金属を含む触媒成分を加圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体を用いて、触媒成分を分散させたポリマー部材を形成する分散工程を有する。めっき触媒となる金属を含む触媒成分を加圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体を用いることにより、環境負荷の大きな六価クロム酸などを含有するエッチング液を用いたエッチング処理を行うことなく、触媒成分をポリマー部材に分散させることができる。また、加圧二酸化炭素を用いることにより、触媒成分をポリマー部材の内部に浸透させることができるため、エッチング成分がない樹脂からなるポリマー部材にも後述する無電解めっき処理によりめっき膜を形成することができる。
【0018】
触媒成分としては、分散工程において加圧二酸化炭素に溶解性を有し、無電解めっき工程においてめっき触媒となる金属を含むものであれば特に制限されない。具体的には、パラジウム、白金、ニッケル、銅、銀などの金属を含む微粒子、これらの金属を含む錯体、及び金属錯体の酸化物などの変性物が挙げられる。これらの中でも加圧二酸化炭素に対して溶解性に優れる金属錯体が好ましい。このような触媒成分としては、例えば、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、ジメチル(シクロオクタジエニル)プラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトヒドレート銅(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトプラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナト(トリメチルホスフィン)銀(I)、ジメチル(ヘプタフルオロオクタネジオネート)銀(AgFOD)、及びこれらの酸化物などの変性物が挙げられる。これらは単独でも複数混合して用いてもよい。これらの中でも、フッ素を配位子として有する金属錯体は加圧二酸化炭素に優れた溶解性を有するため、好ましい。なお、金属錯体はポリマー部材に分散された後、製造装置内の熱などにより還元され、金属単体としてポリマー部材に分散される場合があるが、このような還元によりポリマー部材の内部に無電解めっき処理時にめっき触媒となる金属物質を固定化することができる。従って、無電解めっき工程前にはこのような金属単体に変性した状態で触媒成分がポリマー部材に分散されていてもよい。
【0019】
加圧二酸化炭素としては、液体状態、ガス状態、または超臨界状態の加圧二酸化炭素を用いることができる。触媒成分の加圧二酸化炭素への溶解度は高圧となるほど高くなる。従って、ポリマー部材に多量の触媒成分を分散させる必要がある従来の無電解めっき処理では、超臨界状態の二酸化炭素が用いられている。しかしながら、本実施の形態の製造方法によれば、触媒成分が低濃度で分散されたポリマー部材を被めっき物として用いても、密着性に優れためっき膜を形成できるため、超臨界状態にない加圧二酸化炭素を用いることができる。従って、加圧二酸化炭素は、臨界点(温度が31℃以上、圧力が7.38MPa以上の超臨界状態)以上に加圧された二酸化炭素を用いてもよいし、臨界点より低圧力で加圧された二酸化炭素を用いてもよい。より具体的には、加圧二酸化炭素の圧力は5〜30MPaが好ましく、温度は10〜150℃が好ましい。圧力が5MPa未満の場合、加圧二酸化炭素の密度が低下する傾向がある。一方、圧力が30MPaより高い場合、製造装置に高耐圧の設備が必要となり、コスト高となる。また、温度が10℃未満の場合、触媒成分の分散性が低下する傾向がある。一方、温度が150℃より高い場合、製造装置のシールが困難となる傾向がある。また、加圧二酸化炭素の密度は、0.10〜0.99g/cmが好ましい。
【0020】
触媒成分を加圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体の調製にあたっては、従来公知の方法を使用することができる。例えば、ポンプなどの加圧手段により液体二酸化炭素を加圧し、加圧二酸化炭素を触媒成分が投入されている溶解槽に供給し、該触媒成分と加圧二酸化炭素とを混合することによって加圧流体を調製することができる。加圧流体中の触媒成分の濃度は飽和濃度であってもよいが、本実施の形態の製造方法においては、触媒成分の濃度が飽和濃度未満の低濃度である場合に、その効果が大きい。このため、めっき反応に寄与しない触媒成分の導入量を低減させることができる。また、加圧流体中の触媒成分の濃度が低いため、射出成形法や押出成形法で触媒成分を溶融樹脂に分散させる際に圧力変化が生じても、触媒成分の析出を低減することができる。従って、本実施の形態の製造方法によれば、経済性を向上することができるとともに、均一に触媒成分が分散されたポリマー部材を得ることができる。さらに、加圧流体中の触媒成分の濃度が低濃度であれば、ポリマー部材の最表面に付着した触媒成分の量も少なくなる。このため、最表面でのアンカー効果の低いめっき膜の形成も抑えられる。
【0021】
本実施の形態において、射出成形法や押出成形法を利用して成形前の溶融樹脂と加圧流体とを接触させる場合、該加圧流体はさらにフッ素系有機溶媒を含有してもよい。フッ素系有機溶媒を使用することにより、分散工程においてポリマー部材の表面近傍に触媒成分を効率よく分散させることができる。また、フッ素系有機溶媒は優れた耐熱性を有するため、該フッ素系有機溶媒を含有する加圧流体を用いることにより、高温の接触混練時における触媒成分の分解を抑制することができる。このため、加圧流体が溶融樹脂と接触する前に、金属錯体などの触媒成分が製造装置内の熱に晒された場合に、金属単体への熱還元を抑えることができ、さらに効率的に触媒成分をポリマー部材に分散させることができる。さらに、加圧流体を調製する場合、上記のように加圧二酸化炭素を触媒成分が投入された溶解槽に供給して、高圧下でこれらが混合撹拌されるため、新たに加圧流体を調製する場合、供給経路を一旦減圧して触媒成分を溶解槽に供給する必要がある。これに対し、フッ素系有機溶媒を使用すれば、触媒成分をフッ素系有機溶媒に溶解した混合液を常圧下で調製することができ、該混合液を加圧し、これと加圧二酸化炭素とを配管内で混合することにより加圧流体を調製できる。そのため、触媒成分と加圧二酸化炭素とを混合するために高圧の溶解槽を用いる必要がなく、また新たな触媒成分を加圧二酸化炭素に溶解するために溶解槽を減圧する必要もない。なお、上記のようにフッ素系有機溶媒を使用する場合、触媒成分とフッ素系有機溶媒とを混合して混合液を調製し、得られた混合液を加圧し、加圧した混合液と加圧二酸化炭素とを混合して加圧流体を調製することが好ましい。
【0022】
フッ素系有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、パーフルオロアルキルアミン、パーフルオロアルキルポリエーテルカルボン酸、パーフルオロアルカン、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。これらは、単独でも複数混合して用いてもよい。これらの中でも、安価で、加圧二酸化炭素への溶解性に優れ、高耐熱性(望ましくは、沸点が150℃以上)を有するパーフルオロトリプロピルアミン、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなどのパーフルオロアルキルアミンがより好ましい。フッ素系有機溶媒を使用する場合の混合液中の触媒成分の濃度は、使用する触媒成分やフッ素系有機溶媒の種類にもよるため、特に限定されるものではないが、0.01〜10質量%が好ましい。
【0023】
触媒成分が分散されるポリマー部材を構成する樹脂材料は任意であり、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び紫外線硬化性樹脂を用いることができる。これらの中でも、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂の種類は任意であり、非晶性、結晶性いずれでも適用できる。例えば、ポリエステル系等の合成繊維、ポリプロピレン、ポリアミド系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ABS系樹脂、ポリアミドイミド、ポリフタルアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリ乳酸等の生分解性プラスチック、ナイロン系樹脂等及びそれら複合材料を用いることができる。また、ガラス繊維、カーボン繊維、ナノカーボン、ミネラル等、各種無機フィラー等を混練させた樹脂材料を用いることもできる。
【0024】
触媒成分が分散されたポリマー部材は、成形された樹脂成形体と上記加圧流体とを接触させることにより形成されてもよいし、成形前の溶融樹脂と上記加圧流体とを接触させることに形成されてもよい。すなわち、触媒成分を分散させる際の被めっき物の形態は、それ自体が最終的な形状の成形品であってもよいし、所定の形状に成形される前の溶融樹脂であってもよい。さらに、後に加工されるシートなどの中間製品であってもよい。樹脂成形体を使用する場合、その形状は、特に限定されず、肉厚の板状、ペレット状、チューブ状以外に、薄肉のシート状などの任意の形状を有していてもよい。例えば、従来蒸着めっき法が利用されていた自動車用ヘッドランプユニットのリフレクタ等の光反射体や、レーザビームプリンターや複写機等での光走査に用いるfθミラー、プロジェクションテレビの光路折曲に用いる大型ミラーなどの製造に本実施の形態の製造方法を利用することができる。シート状の樹脂成形体が用いられる場合、その厚さは、特に限定されるものではないが、10〜200μmが好ましい。厚さが10μm以上であれば、機械的強度を確保することができる。一方、厚さが200μm以下であれば、フィルムインサート成形法を利用する場合に、金型からのシート状の樹脂成形体の浮きを防止できる。
【0025】
分散工程において触媒成分が分散されたポリマー部材を形成する方法は、ポリマー部材に触媒成分を分散させることができれば特に限定されない。樹脂成形体に触媒成分を分散させる場合、例えば、樹脂成形体を高耐圧の密閉容器に収容し、触媒成分を加圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体を密閉容器へ供給し、樹脂成形体と加圧流体とを接触させることにより、触媒成分が分散されたポリマー部材を得ることができる。シート状の樹脂成形体に触媒成分を分散させる場合、シート状の樹脂成形体が無機物から形成されているセパレータを介して巻回された巻回体を高圧容器に収容してもよい。このような無機物から形成されているセパレータとしては、具体的には、例えば、アルミ製のメッシュシート、SUS製のメッシュシート、ガラスクロスなどが挙げられる。加圧流体はこれらのセパレータを通過できるので、拡散性の高い加圧流体がセパレータを介してシート状の樹脂成形体の全面に均一に拡散して浸透する。これにより、得られるポリマー部材へのダメージを低減できるとともに、ポリマー部材に触媒成分を凝集の少ない状態で分散させることができる。
【0026】
また、溶融樹脂に触媒成分を分散させて触媒成分が分散されポリマー部材を形成する場合、例えば、製造装置内で、触媒成分を加圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体と溶融樹脂とを接触させ、触媒成分を溶融樹脂に分散させ、この溶融樹脂を所望の形状に射出成形または押出成形することにより、触媒成分が分散されたポリマー部材を得ることができる。このような射出成形法あるいは押出成形法を利用すれば、溶融樹脂に直接触媒成分を分散させることができるため、成形と同時に触媒成分が分散されたポリマー部材を形成することができる。特に、上記のような射出成形法あるいは押出成形法を利用して、溶融樹脂に触媒成分を分散させる場合、触媒成分が自重によりポリマー部材の内部深くまで浸透し、ポリマー部材の表面近傍での触媒成分が低濃度となる。そのため、低濃度で触媒成分を含有する加圧流体を用いた場合、表面近傍の触媒成分の濃度がさらに低下する。このため、従来の無電解めっき処理では密着性に優れためっき膜を形成することができなかったが、本実施の形態の製造方法によれば、このような溶融樹脂に触媒成分を低濃度で分散させても、後述する前処理工程と無電解めっき工程とを組み合わせることにより、密着性に優れためっき膜を形成することができる。
【0027】
上記のような射出成形法または押出成形法を利用して触媒成分を溶融樹脂に分散させる場合、加圧流体と溶融樹脂との接触は、可塑化シリンダ内であってもよいし、金型あるいは押出ダイの内部であってもよい。さらに、射出成形法を利用する場合、スキン層とコア部とを有する成形体を形成するためにいわゆるサンドイッチ成形法を使用してもよい。具体的には、上記のようにして触媒成分を分散させた第1の溶融樹脂を金型に射出し、この第1の溶融樹脂を有する金型内に触媒成分を含有しない第2の溶融樹脂を射出して、スキン層とコア部とを有するポリマー部材を形成してもよい。この成形法によれば、内部のコア部よりも表面のスキン層に触媒成分がより高濃度で分散されたポリマー部材を製造することができる。第1及び第2の樹脂は同種のものを使用してもよいが、第1の樹脂と異なる第2の樹脂を使用することにより、ポリマー部材の高強度化や軽量化などを図ることができる。なお、第1及び第2の樹脂としては、既述した熱可塑性樹脂を使用することができる。
【0028】
以上の分散工程により触媒成分が分散されたポリマー部材を形成することができるが、本実施の形態において、金属反射膜を有するポリマー部材などを形成する場合、金型内に触媒成分が分散されたシート状のポリマー部材を配設し、該金型内に溶融樹脂を射出して、シート状のポリマー部材と溶融樹脂とを一体化させるインサート成形をさらに行ってもよい。これにより、シート状のポリマー部材と溶融樹脂とを一体化させることができ、部分的に高機能化されたポリマー部材を形成することができる。また、シート状のポリマー部材を金型に配設する場合、予め金型の内部形状に合うようにシート状のポリマー部材をプリフォームしておいてもよいし、インサート成形する溶融樹脂の射出前に、シート状のポリマー部材を金型に密着させておいてもよい。
【0029】
次に、上記のようにして触媒成分が分散されたポリマー部材を、常圧下で、アルコール処理液に浸漬する前処理工程が行われる。この前処理工程と、後のアルコールを含有する無電解めっき液を用いた無電解めっき工程とにより、低濃度で触媒成分を分散させたポリマー部材に常圧下で無電解めっき処理を行っても、密着性に優れためっき膜を形成することができる。この理由は現在のところ必ずしも明らかではない。しかしながら、本発明者等の検討によれば、触媒成分を分散させたポリマー部材をアルコール処理液で前処理することにより、アルコールがポリマー部材の内部に浸透し、ポリマー部材の表面近傍が膨潤して、樹脂成分の自由体積が増大し、後の無電解めっき工程において常圧下でも無電解めっき液がポリマー部材の内部に浸透しやすくなる効果と、浸透したアルコールによってポリマー部材の内部に分散された触媒成分が表面近傍にブリードアウトして、表面近傍の触媒成分の濃度が高くなる効果が得られるためと考えられる。すなわち、アルコール処理液を用いた前処理を行わずに、低濃度で触媒成分を分散させたポリマー部材をアルコールを含有する無電解めっき液に常圧下で浸漬する無電解めっき処理を行った場合、ポリマー部材表面にめっき膜が形成されなかったり、めっき膜が形成できても密着力の低いめっき膜しか形成できないことが確認されている。これは、ポリマー部材の表面近傍におけるめっき触媒の量が少ないため、めっき膜が形成されるに到らなかったり、例えめっき膜が形成できたとしても、表面近傍の触媒成分のみを触媒核としてめっき膜が成長し、めっき膜の物理的なアンカー効果が十分に得られないためと考えられる。また、触媒成分としてパラジウム錯体を含有する加圧流体を使用し、該触媒成分が分散されたポリアミド系樹脂からなるポリマー部材を1,3−ブタンジールを含有するアルコール処理液に浸漬した場合、ポリマー部材の重量が増加し、ポリマー部材が膨潤することが確認されている。さらに、このアルコール処理液による処理直後のポリマー部材、処理後に常温で一定時間放置したポリマー部材、及び触媒成分の変性による影響を排除するため処理後に常温で真空乾燥して内部のアルコールの含浸量を低減させたポリマー部材にそれぞれアルコールを含有する無電解めっき液を用いて常温下で無電解めっき処理を行った場合、めっき膜の成長時間は、常温で一定時間放置したポリマー部材、処理直後のポリマー部材、及び真空乾燥によりアルコールの含浸量を低減させたポリマー部材の順であることが確認されている。真空乾燥によりアルコールの含浸量を低減させたポリマー部材が、処理直後及び常温で一定時間放置したポリマー部材よりもめっき膜の成長時間が遅いのは、ポリマー部材の内部に浸透したアルコールの減量により、膨潤効果が低下したためと考えられる。一方、ポリアミド系樹脂からなる樹脂成形体にアルコールを含浸させた場合、内部に浸透するアルコールの含浸量は一定時間あれば飽和する。また、1,3−ブタンジオールは常温下で殆ど揮発しない。従って、処理直後のポリマー部材、常温で一定時間放置したポリマー部材はいずれも内部にアルコールが含浸された状態にあり、アルコール処理液による膨潤の程度も略同一と考えられる。それにも拘らず、この2つの試料でめっき膜の成長時間に差が生じたのは膨潤効果以外に、放置によって触媒成分がポリマー部材の表面近傍により多くブリードアウトしたことが理由と推測される。従って、この膨潤効果により、後のアルコールを含有する無電解めっき液による無電解めっき処理において、無電解めっき液がアルコールを含浸状態で有するポリマー部材に浸透しやすくなるとともに、ブリードアウト効果により表面近傍の触媒成分の濃度が高くなると考えられる。この結果、少量の触媒成分を分散させたポリマー部材を常圧下で無電解めっき処理を行っても、密着性に優れためっき膜が形成されるものと推測される。
【0030】
アルコール処理液に使用されるアルコールとして、具体的には、例えば、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、及びポリプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。これらの中でも、ポリマー部材への浸透性を考慮すると、20℃において、水の表面張力(73dyn/cm)よりも低い表面張力を有するアルコールが好ましく、50dyn/cm以下の表面張力を有するアルコールがより好ましい。さらに製造上の安全性を考慮すると、40℃以上の引火点を有するアルコールが好ましい。上記のような低表面張力、及び高引火点を有するアルコールとしては、例えば、1,3−ブタンジオール(表面張力:37.8dyn/cm,引火点:121℃)、2−メトキシエタノール(表面張力:31.8dyn/cm,引火点:43℃)、2−(2−メトキシプロポキシ)プロパノール(表面張力:28.8dyn/cm,引火点:74℃)などが挙げられる。これらの中でも、浸透性に優れる1,3−ブタンジオールがより好ましい。
【0031】
アルコール処理液は、少なくともアルコールを含有していれば、使用するアルコールと相溶する他の溶媒、例えば水を含有してもよい。ただし、他の溶媒の含有量が多くなりすぎると、無電解めっき処理におけるめっき膜の成長に長時間が必要となる場合がある。このため、アルコール処理液中のアルコールの含有量は、50vol%以上が好ましく、90vol%以上がより好ましい。特に、工業製品の場合に混入してくる不可避不純物を除いて実質的にアルコールのみを含有するアルコール処理液が好ましい。なお、アルコール処理液はポリマー部材への浸透性を向上するために添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、具体的には、例えば、界面活性剤が挙げられる。
【0032】
アルコール処理液による前処理は、上記したように常圧下で行うことができる。このため、高耐圧容器などの高価な製造装置を使用する必要もなく、連続して処理を行うことができる。なお、本明細書において、常圧下とは、加圧していない雰囲気下を意味する。処理時間は、ポリマー部材の種類やアルコールの種類によるため、特に限定されるものではないが、1分〜2時間が好ましい。処理時間が余りに短すぎると、アルコールがポリマー部材に十分に浸透しないため、アルコール処理液による効果が十分に得られない。一方、処理時間が余りに長すぎると、製造効率が低下するとともに、アルコールによりポリマー部材の樹脂構造が脆弱化する場合がある。また、アルコール処理液による前処理は、常温で行ってもよいし、アルコール処理液のポリマー部材への含浸を促進するために、加温して行ってもよい。加温する場合、使用するアルコールの沸点等の物性にもよるが、処理温度はポリマー部材を構成する樹脂のガラス転移温度以上が好ましい。処理温度がポリマー部材を構成する樹脂のガラス転移温度以上であれば、ポリマー部材が塑性変形して、アルコール処理液がポリマー部材に浸透しやすくなる。
【0033】
本実施の形態においては、上記の前処理工程後、無電解めっき工程前に、還元剤を含有する還元水溶液でポリマー部材を処理する還元剤付与工程をさらに設けてもよい。これにより、ポリマー部材の内部に還元剤を浸透させることができ、後の無電解めっき工程における無電解めっき液中の金属イオンの還元をさらに円滑に行うことができる。還元水溶液はポリマー部材への浸透性を向上するために、アルコールを含有してもよい。ただし、アルコールの含有量が多くなりすぎると、還元剤の溶解度が低下する。このため、アルコールの含有量は50vol%未満が好ましい。還元剤としては、無電解めっき液に用いられる還元剤と同様のものを用いることができる。具体的には、例えば、次亜燐酸、次亜燐酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、及びフェノール類からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。特に、ニッケル−リンめっき膜を形成する場合には、還元剤は、次亜燐酸、及び次亜燐酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種が望ましい。
【0034】
次に、上記のようにアルコール処理液で前処理したポリマー部材を、常圧下で、アルコールを含有する無電解めっき液に浸漬して、ポリマー部材にめっき膜を形成する無電解めっき工程が行われる。本実施の形態の製造方法では、上記した前処理工程において、触媒成分が分散されたポリマー部材がアルコール処理液で予め処理されているため、高いアンカー効果が得られるめっき膜を形成することができる。また、無電解めっき液にアルコールを含有させることで無電解めっき液の表面張力を低下させているので、常圧下の無電解めっき処理であっても、無電解めっき液がポリマー部材に円滑に浸透できる。さらに、アルコールは、めっき膜の成長を遅らせる還元剤として作用するので、ポリマー部材の表面部分に無電解めっき液が浸透し始めた時点で、最表面におけるめっき反応を遅らせることができる。その結果、この製造方法により形成された無電解めっき膜は、ポリマー部材の表面内部で成長し、高い密着強度を有する。
【0035】
無電解めっき工程は上記したように常圧下で行うことができる。従来の加圧二酸化炭素と無電解めっき液とを機械的に撹拌してこれらを強制的に相溶させた浴を用いた場合、圧力や温度変化により安定に均一なめっき浴を調製することが困難である。そのため、複数のポリマー部材を無電解めっき処理する場合、各ポリマー部材の表面部分においてめっき反応にばらつきが発生しやすい。その結果、めっき膜の密着強度に大きなばらつきが生じやすい。このことから、例えば、ヒートサイクル試験において、めっき膜の密着性が低下しやすく、めっき膜の一部に剥離や膨れなどの欠陥が発生しやすいという問題がある。これに対して、本実施の形態の製造方法によれば、常圧下で無電解めっき液を調製できるため、めっき反応のばらつきを抑えることができ、密着力のばらつきの少ないめっき膜を形成することができる。
【0036】
しかも、常圧下でポリマー部材を無電解めっき液に浸漬するので、例えば、アルコールを含有した無電解めっき液を開放容器に収容して、その開放容器にポリマー部材を浸漬することにより、無電解めっき処理を実施できる。従って、従来の加圧二酸化炭素を用いる場合のように、高耐圧の密閉容器を使用する必要がなく、それゆえ連続して無電解めっき処理を行うことができる。このため、本実施の形態の製造方法は、連続生産プロセスに適している。
【0037】
無電解めっき液に混合されるアルコールとしては、上記の前処理で使用されるアルコールと同様のものを使用することができる。これらの中でも低表面張力及び高引火点を有する1,3−ブタンジールが好ましい。無電解めっき液中のアルコールの含有量は任意であり、使用するアルコールの種類によっても最適な含有量も変わってくるため特に限定されるものではないが、20〜60vol%が望ましい。
【0038】
無電解めっき液に用いられるめっき液としては、従来公知のめっき液を使用することができる。具体的には、例えば、ニッケル−リンめっき液、ニッケル−ホウ素めっき液、パラジウムめっき液、銅めっき液、銀めっき液、コバルトめっき液などが挙げられる。なお、上記アルコールを含有する無電解めっき液を用いた無電解めっき処理を行った後、さらにその無電解めっき膜の上に、従来の水系の無電解めっき液を用いた無電解めっき膜または電解めっき膜を積層してもよい。無電解めっき工程における処理温度は、めっき反応が生ずる温度以上であれば特に限定されないが、無電解めっき液の浸透が促進されるため、ポリマー部材を構成する樹脂のガラス転移温度以上が好ましい。
【0039】
以下、本発明について実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
[実施例1]
本実施例では、触媒成分及びフッ素系有機溶媒を加圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体を用い、サンドイッチ成形法により形成した触媒成分を分散させたポリマー部材にめっき膜を形成する方法を説明する。なお、本実施例では、スキン層及びコア部を形成する樹脂として、いずれも結晶性の熱可塑性樹脂であるポリアミド66(三菱エンジニアリングプラスチック社製,3010R)を用いた。また、触媒成分として、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)錯体を、フッ素系有機溶媒として、パーフルオロトリペンチルアミン(シンクレスト・ラボラトリー社製,分子式:C15F33N,分子量:821.1,沸点:220℃)を用いた。
【0041】
(分散工程)
図1は本実施例で触媒成分を分散させたポリマー部材を形成するために用いられた製造装置を示す概略断面図である。図1に示すように、この製造装置は、触媒成分及びフッ素系有機溶媒を加圧二酸化炭素に溶解した加圧流体を第1の可塑化シリンダ210に供給する加圧流体供給部100と、スキン層を形成するための第1の可塑化シリンダ210、コア部を形成するための第2の可塑化シリンダ240及び金型部250を有する射出成形部200とを備えている。これら加圧流体供給部100及び射出成形部200は図示しない制御装置で動作制御される。
【0042】
加圧流体供給部100は、液体二酸化炭素ボンベ101と、液体二酸化炭素を所定の圧力に加圧した加圧二酸化炭素を供給するための二酸化炭素用シリンジポンプ102と、触媒成分がフッ素系有機溶媒に溶解させた混合液Cを調製し、供給するための溶液調製部110とを有している。液体二酸化炭素ボンベ101と二酸化炭素用シリンジポンプ102とを接続する配管及び二酸化炭素用シリンジポンプ102と溶液調製部110とを接続する配管にはそれぞれ、吸引用エアオペレートバルブ104と供給用エアオペレートバルブ105とが配設されている。また、二酸化炭素用シリンジポンプ102は図示しないチラーを備えており、これにより所定の温度となるように加圧二酸化炭素が温調される。溶液調製部110は、触媒成分をフッ素系有機溶媒に溶解して混合液Cを調製するための混合槽111と、混合液Cを所定の圧力に加圧し、送液するための溶液用シリンジポンプ112とを備えており、混合槽111と溶液用シリンジポンプ112とを接続する配管及び溶液用シリンジポンプ112と第1の可塑化シリンダ210とを接続する配管にはそれぞれ、吸引用エアオペレートバルブ114及び供給用エアオペレートバルブ115が配設されている。本実施例では、触媒成分の濃度が1.0質量%の混合液を調製した。
【0043】
加圧流体を調製する場合、まず混合槽111で触媒成分とフッ素系有機溶媒とを常温、常圧下で混合撹拌して、混合液Cを調製する。次に、溶液用シリンジポンプ112側の吸引用エアオペレートバルブ114を開放して、混合槽111から混合液Cをフィルタ113を介して常温で吸引し、溶液用シリンジポンプ112の圧力制御により所定圧力まで混合液Cを加圧する。本実施例では、混合液Cを10MPaに加圧した。一方、手動バルブ106を開放した状態で、液体二酸化炭素ボンベ101から液体二酸化炭素をフィルタ107を介して吸引し、二酸化炭素用シリンジポンプ102の圧力制御により所定圧力まで液体二酸化炭素を加圧する。本実施例では、液体二酸化炭素ボンベ101から4〜6MPaの液体二酸化炭素を吸引し、これを二酸化炭素用シリンジポンプ102により加圧して、圧力が10MPa、温度が10℃の加圧二酸化炭素を供給した。なお、高密度の液体二酸化炭素を低温で計量することにより、加圧二酸化炭素を安定して供給することができる。
【0044】
加圧流体を第1の可塑化シリンダ210に供給する際には、吸引用エアオペレートバルブ104,114を閉鎖し、供給用エアオペレートバルブ105,115を開放した後、二酸化炭素用シリンジポンプ102及び溶液用シリンジポンプ112を圧力制御から流動制御に切替え、二酸化炭素用シリンジポンプ102及び溶液用シリンジポンプ112のシリンダの駆動スピード(流量)及び駆動時間を制御することにより、加圧した混合液Cと加圧二酸化炭素とを所定の流量比となるように流動させる。これにより、配管内で混合液Cと加圧二酸化炭素とが混合される。本実施例では、混合液Cと加圧二酸化炭素との流量比を1:10に設定した。上記のようにして所定流量比で混合された加圧流体を流動させた状態で、金型部250からのトリガー信号に応じて後述する導入バルブ212の流体供給口218を開放することにより、一定量の加圧流体が第1の可塑化シリンダ210に供給される。流動制御により加圧流体が供給された後、二酸化炭素用シリンジポンプ102及び溶液用シリンジポンプ112が一旦停止され、供給用エアオペレートバルブ105,115が閉じられる。次に、二酸化炭素用シリンジポンプ102及び溶液用シリンジポンプ112を流動制御から圧力制御に再度切替え、上記と同様にして液体二酸化炭素ボンベ101から液体二酸化炭素を、混合槽111から混合液Cを吸引し、それぞれを加圧して、待機する。さらに、金型部250からのトリガー信号に応じて、上記した流動制御により加圧流体を供給する。これらの動作を繰り返すことにより、間欠的に加圧流体が第1の可塑化シリンダ210に供給される。本実施例では、導入バルブ212の流体供給口218の開放から供給完了までの間、圧力計260で検出される圧力が8〜10MPaとなる範囲で、加圧流体を第1の可塑化シリンダ210に間欠供給した。また、本実施例では、射出成形されるポリマー部材中に分散される触媒成分の量が100ppmとなるように加圧流体の供給量を制御した。このように本実施例の加圧流体は低濃度で触媒成分を含有するため、可塑化シリンダ210内の圧力が変化しても、加圧流体からの触媒成分の析出を防止することができるとともに、触媒成分が均一に分散されたポリマー部材を形成することができる。なお、触媒成分の量は、金属錯体を溶解した加圧流体の1ショットあたりの消費量を溶液用シリンジポンプ112内の高圧の混合液の消費量から算出し、それを1ショットあたりの金属錯体の消費量に換算して求めた。
【0045】
第1の可塑化シリンダ210の上部側面には上流側から順に、第1の樹脂を第1の可塑化シリンダ210に供給するための第1の樹脂供給用ホッパ211と、加圧流体を供給するための導入バルブ212と、第1の可塑化シリンダ210内から加圧二酸化炭素を排出するためのベントポート213とが設けられている。また、第1の可塑化シリンダ210の下部側面の導入バルブ212と対向する位置及びベントポート213に対向する位置にはそれぞれ、内圧を検出するための圧力計215,216及び図示しない温度センサが設けられている。この導入バルブ212は、第1の可塑化シリンダ210と連結された基端部に流体供給口218を有するとともに、内部に導入ピストン217を有しており、導入ピストン217で流体供給口218を開放することによって、加圧流体供給部100から第1の可塑化シリンダ210に加圧流体が供給される。また、ベントポート213はバッファ容器219を介して真空ポンプ220と排気管で接続されており、ベントポート213を開放し、真空ポンプ220を作動させることより、第1の可塑化シリンダ210の内部が減圧される。従って、この第1の可塑化シリンダ210内では、導入バルブ212近傍からベントポート213近傍までの間で高圧の加圧流体により加圧状態で加圧流体と第1の溶融樹脂とが接触混練される。なお、第2の可塑化シリンダ240の上部側面には、第2の樹脂を第2の可塑化シリンダ240に供給するための第2の樹脂供給用ホッパ241が設けられている。
【0046】
第1及び第2のスクリュS1,S2の駆動側端部はそれぞれ、図示しないモータと連結されている。各樹脂供給用ホッパ211,241から供給された樹脂は、可塑化シリンダ210,240の外壁面に設けられたバンドヒータ(図示せず)で可塑化シリンダ210,240が加熱されることにより、スクリュS1,S2で混練され、溶融される。また、第1及び第2の可塑化シリンダ210,240の射出側端部は金型部250内のキャビティ253と連通するノズル部230と接続されている。そして、混練の間はノズル部230の先端は閉じられているので、第1及び第2の溶融樹脂が第1及び第2のスクリュS1,S2の前方にそれぞれ押し出されることにより、第1及び第2のスクリュS1,S2が後退する。これにより計量が開始される。そして、可塑化計量後に、各可塑化シリンダ210,240内のスクリュS1,S2を背圧力で前進させることにより、ノズル部230からキャビティ253内に触媒成分を分散させた第1の溶融樹脂及び触媒成分を含有しない第2の溶融樹脂がそれぞれ射出充填される。本実施例では、各可塑化シリンダ210,240の温度センサで検出される温度が220〜240℃となる範囲で分散が行われた。なお、溶融樹脂に触媒成分を分散させる場合には、上記のような高温環境下で分散工程を行うことが好ましい。
【0047】
図1に示すように、金型部250は、固定金型251及び可動金型252を備えており、固定金型251と可動金型252とが当接することにより、金型部250内に所定形状のキャビティ253が形成される。上記したようにキャビティ253はノズル部230と連通しており、該ノズル部230からキャビティ253に触媒成分を分散させた第1の溶融樹脂及び触媒成分を含有しない第2の溶融樹脂が射出充填される。固定金型251及び可動金型252はそれぞれ、固定プラテン254及び可動プラテン255に固定されており、型締め機構により可動プラテン255を駆動することにより、金型部250が開閉される。本実施例では、円盤状の成形体が2個同時に成形される金型部250を使用した。スキン層を形成する場合、第1の可塑化シリンダ210から可塑化計量された第1の溶融樹脂がキャビティ253に射出充填される。このとき、射出充填量は、キャビティ253内全体が第1の溶融樹脂で充填されない程度に調整される。
【0048】
一方、上記の第1の可塑化シリンダ210による射出充填中に、第2の樹脂供給用ホッパ241から第2の樹脂を第2の可塑化シリンダ240に供給して、第2のスクリュS2により可塑化計量が行われる。この際、第2の可塑化シリンダ240では、触媒成分が分散されていない第2の樹脂が溶融される。そして、触媒成分を分散させた第1の溶融樹脂の射出充填が完了する直前に、第2の溶融樹脂の可塑化計量を完了させる。
【0049】
次に、触媒成分を分散させた第1の溶融樹脂の射出充填が完了した後、第2のスクリュS2を前進させて、触媒成分を含有しない第2の溶融樹脂がキャビティ253に射出充填される。この際、先にキャビティ253に充填されていた触媒成分を分散させた第1の溶融樹脂は第2の溶融樹脂の充填圧力により、キャビティ253を画成する金型表面に押しやられる。その結果、第2の溶融樹脂の射出完了後には、ポリマー部材のスキン層には触媒成分が分散された第1の樹脂を有する層が形成され、成形体のコア部には触媒成分を含有しない第2の溶融樹脂を有する層が形成される。射出充填が完了した後、金型部250を冷却して、内部の樹脂を冷却固化し、金型部250を開くことにより、触媒成分が分散したポリマー部材を得ることができる。
【0050】
(前処理工程)
次に、上記のようにして形成した触媒成分が分散されたポリマー部材を、アルコール処理液に浸漬させる前処理が行われる。本実施例では、以下の表1に示す処理液(a)〜(h)を使用した。なお、比較として、処理液(h)には水のみを用いた。各処理液を開放容器内に投入し、これにポリマー部材を常圧下、表1に示す温度で30分間浸漬する前処理を行った。処理液によって処理温度を変更したのは、各処理液で沸点及び引火点が異なるためである。
【0051】
【表1】

【0052】
(無電解めっき工程)
次に、上記のようにして前処理を行ったポリマー部材を、常圧下でアルコールを含有する無電解めっき液に浸漬する無電解めっき処理が行われる。本実施例では、1,3−ブタンジオールと、硫酸ニッケルの金属塩、還元剤、及び錯化剤を含有するニッケル−リンめっき液(奥野製薬工業社製,ニコロンDK)とを混合して調製した無電解めっき液を用いた(無電解めっき液中のアルコールの含有量:50vol%)。上記の無電解めっき液を開放容器内に投入し、これにポリマー部材を浸漬して、常圧下、70〜90℃の温度で無電解めっき処理を行った(試料1〜8)。また、比較のため、前処理を行わなかったポリマー部材に同様にアルコールを含有する無電解めっき液を用いて無電解めっき処理し(試料9)、処理液(a)[1,3−ブタンジオール]を用いて前処理を行ったポリマー部材に、アルコールを含有しない水系の無電解めっき液(上記のアルコールを含有する無電解めっき液中のアルコールを水に代替した無電解めっき液)を用いて無電解めっき処理した(試料10)。上記のようにして無電解めっき処理を行ったときの、各試料におけるめっき膜の成長時間(析出開始までの時間及び全面が被覆されるまでの時間)、及びめっき膜の表面性を評価した。表面性は、目視により、めっき膜が欠陥なく全面に形成されており、外観上問題がない場合を、○、めっき膜は全面に形成されているが、一部に剥離や膨れがある場合を、△、めっき膜が形成されていない箇所がある場合あるいはめっき膜が全く形成されていない場合を、×として評価した。
【0053】
次に、めっき膜が形成された試料について、めっき膜上に、アルコールを含有しない水系の無電解めっき液を用いてめっき膜を積層し、下記の密着力、及びヒートサイクル試験におけるめっき膜の密着性の変化を評価した。表2にこれらの結果を示す。
【0054】
〔密着力〕
JIS H 8630に準拠して引っ張り試験機(島津製作所社製,AGS−100N)を用いて角度90°、速度25mm/分の条件で45mmの距離の間について、めっき膜をポリマー部材から引き剥がすときの力を測定した。
【0055】
〔ヒートサイクル試験〕
−40℃と100℃との間で温度を切り替える試験を50サイクル行った。試験後、めっき膜を目視により観察し、外観上問題がない場合を、○、めっき膜に一部剥離や膜膨れが発生している場合を、△、めっき膜の全てが剥離あるいは膜膨れが発生している場合は、×として評価した。
【0056】
【表2】

【0057】
上記表に示すように、アルコール処理液による前処理とアルコールを含有する無電解めっき液による無電解めっき処理とを組み合わせることにより、触媒成分が低濃度で分散されたポリマー部材に対しても常圧下、短時間で全面に無電解めっき膜を形成できることが分かる。また、この製造方法により製造されるめっき膜は高い密着力を有するとともに、ヒートサイクル試験においてめっき膜の剥れや膨れが少なく、密着性に優れためっき膜が形成できることが分かる。さらに、水の含有量の少ないアルコール処理液で前処理することにより、より高い密着力を有するめっき膜を形成できることが分かる。
【0058】
これに対して、アルコール処理液を用いた前処理を行わなかった試料や、水のみからなる処理液を用いて前処理を行った試料では、めっき膜の析出に長時間を有し、また全面にめっき膜が形成できなかった。また、アルコール処理液を用いた前処理を行っても、アルコールを含有する無電解めっき液を用いた無電解めっき処理を行わなかった試料では、めっき膜が形成されないことが分かる。このため、この試料については、密着力やヒートサイクル試験を測定することができなかった。
【0059】
[実施例2]
本実施例では、触媒成分を加圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体と、シート状の樹脂成形体とをバッチ処理により接触させて、触媒成分を分散させたシート状のポリマー部材を形成し、これをプリフォーム法により所定形状に成形し、成形したシート状のポリマー部材を金型内に配置してフィルムインサート成形法によりシート状のポリマー部材と溶融樹脂とを一体化させ、この一体化させたポリマー部材に無電解めっき処理よりめっき膜を形成する方法を説明する。なお、本実施例では、シート状の樹脂成形体としてナイロン6製のシート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製,ノバミッド1020,厚さ:200μm)を用い、触媒成分として実施例1と同様にヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)錯体を用いた。また、フィルムインサート成形により一体化させる樹脂として、ポリフタルアミド樹脂(ソルベイアドバンストポリマーズ(株)社製,アモデルAS−1566)を用いた。
【0060】
(分散工程)
図2は本実施例で触媒成分を分散させたシート状のポリマー部材を形成するために用いられた製造装置を示す概略模式図である。図2に示すように、この製造装置は、加圧二酸化炭素を供給するための流体供給部300と、加圧流体とシート状の樹脂成形体とを接触させ、触媒成分をシート状の樹脂成形体に分散させるための高圧処理部400とを備えている。
【0061】
流体供給部300は、2本の液体二酸化炭素ボンベ301,302と、液体二酸化炭素を所定の圧力に加圧して、加圧二酸化炭素を供給するためのポンプ303と、バッファ容器304とを備えている。また、液体二酸化炭素ボンベ301,302とポンプ303とを接続する配管には、圧力計310が配設されており、バッファ容器304と高圧処理部400とを接続する配管には、上流側から順に、減圧弁311、圧力計312、及び自動弁313が配設されている。
【0062】
加圧二酸化炭素を高圧処理部400に供給する際には、液体二酸化炭素ボンベ301,302の手動バルブ305,306を開放し、温調された配管を通過させて液体二酸化炭素をガス化させた後、圧力計310で検知される圧力が所定の圧力となるようにポンプ303によって二酸化炭素を昇圧する。これにより、バッファ容器304内に所定圧力の加圧二酸化炭素が供給される。また、バッファ容器304内に供給された加圧二酸化炭素は、所定温度になるように温調された後、減圧弁311で所定圧力になるように減圧され、自動弁313を開放することにより、高圧処理部400に加圧二酸化炭素が供給される。本実施例では、液体二酸化炭素ボンベ301,302から4〜6MPaの液体二酸化炭素を吸引し、10℃に温調された配管によりガス化した後、これをポンプ303によって圧力15MPaに昇圧して、50℃に温調されたバッファ容器304に供給した。そして、圧力計312で検出される圧力が10MPaになるように減圧弁311で加圧二酸化炭素を減圧した後、高圧処理部400に加圧二酸化炭素を供給した。
【0063】
高圧処理部400は、シート状の樹脂成形体と加圧流体を接触させるための高圧容器401を備えており、図2及び3に示すように、高圧容器401内には、多数の貫通孔を有する円筒体422に、シート状の樹脂成形体Lがメッシュのセパレータ421を介して巻回された巻回体420が収容されている。この巻回体420は、高圧容器401内の中心部に配設された多数の貫通孔を有する円筒状の支持部材402に挿入されている。図2に示すように、高圧容器401の下部には流体供給口403が、高圧容器401の上部には流体排出口404が設けられており、これら流体供給口403と流体排出口404とは、加圧流体が高圧容器401内を循環するよう循環管路405によって接続されている。循環管路405の流体供給部300と接続されている接続部と流体供給口403との間には、循環管路405内で加圧流体を循環させるための循環ポンプ406と、触媒成分が収容された溶解槽407とが配設されている。また、循環ポンプ406と溶解槽407とを接続する循環管路405は、排出管路408と接続されており、該排出管路408には、圧力計409、自動弁410、及び背圧弁411が配設されている。これにより、流体供給部300から加圧二酸化炭素が供給されると、循環ポンプ406により加圧二酸化炭素が溶解槽407に供給され、溶解槽407内で触媒成分が溶解されて、触媒成分を含有する加圧流体が高圧容器401内に供給される。このとき、背圧弁411は所定圧力に設定され、循環管路405内の加圧流体の圧力が低下すると、自動弁313から加圧二酸化炭素が補充される。一方、循環管路405内の加圧流体の圧力が所定圧力より高い場合、加圧流体が排出管路408から排出される。これにより、高圧容器401内及び循環管路405内の圧力が一定に維持される。本実施例では、背圧弁411の圧力を加圧二酸化炭素の圧力と同じ10MPaに設定し、高圧容器401内及び循環管路405内の圧力を10MPaに維持した状態で加圧流体を循環させて、シート状の樹脂成形体Lに分散される触媒成分の量が10ppmとなるように処理を行った。また、本実施例では、処理後に高圧容器401内の温度を50℃で30分間保持し、さらに図示しない温調機により高圧容器401内の温度を120℃まで昇温させ、30分間保持した。これにより、シート状の樹脂成形体Lに分散させた金属錯体を熱還元した。なお、触媒成分の量は、分散工程前の初期のシート重量を、シート状の樹脂成形体を24時間真空引きして水分を除去した状態で測定し、分散工程後の同シートの重量を同様に測定して、その変化量から算出した。
【0064】
(フィルムインサート成形工程)
次に、本実施例では上記のようにして触媒成分が分散されたシート状のポリマー部材を用いて、フィルムインサート成形法により溶融樹脂をシートと一体化するインサート成形を行った。具体的には、まず所定のサイズにシート状のポリマー部材を裁断し、これを赤外線ヒータを用いた間接加熱源によってポリマー部材を軟化させた。その後、図4に示す射出成形用金型を模したプリフォームダイにポリマー部材を重ねて圧力1MPaの加圧エアーを吹き付け、プリフォームダイにポリマー部材を密着させて、ダイ形状をポリマー部材に転写させた。そして、プリフォームダイからプリフォームされたポリマー部材を取り外し、箱型形状のポリマー部材を形成した。
【0065】
次いで、図4に示すように、射出成形用の金型部510内に、上記のようにして触媒成分が分散され、且つプリフォームされたポリマー部材Mを挿入し、インサート成形した。具体的には、まず、図4(A)に示すように、箱型形状に形成されたポリマー部材Mを可動金型511に密着させ、次いで真空引き用の溝513より真空吸引してポリマー部材Mを可動金型511に固定化した。その後、図4(B)に示すように、可動金型511と固定金型512とを当接させ、任意の温度に温調された可塑化シリンダ520内の溶融樹脂をスクリュSの前進により金型部510内に射出充填した。そして、金型部510で型締めをした後、金型部510を離型した。これにより、インサート成形したポリマー部材を得た。
【0066】
(前処理工程)
次に、上記のようにして形成したポリマー部材を、アルコール処理液に浸漬する前処理が行われる。本実施例では、アルコール処理液として実施例1の処理液(a)[1,3−ブタンジオール]を用い、これにポリマー部材を100℃で15分間浸漬する前処理を行った。
【0067】
(無電解めっき工程)
次に、上記のようにして前処理を行ったポリマー部材を、常圧下でアルコールを含有する無電解めっき液に浸漬する無電解めっき処理が行われる。本実施例では、実施例1と同様に、1,3−ブタンジオールを含有する無電解めっき液を用いて常圧下で無電解めっき処理を行った。また、比較のため、実施例1と同様に、前処理を行わなかったポリマー部材に同様にアルコールを含有する無電解めっき液を用いて無電解めっき処理した(試料12)。さらに、前処理を行ったポリマー部材に、アルコールを含有しない水系の無電解めっき液を用いて無電解めっき処理した(試料13)。上記の各試料について、実施例1と同様に、めっき膜の成長時間、めっき膜の表面性、密着力、及びヒートサイクル試験による密着性の変化を評価した。これらの結果を表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
上記表に示すように、アルコール処理液による前処理とアルコールを含有する無電解めっき液による無電解めっき処理を行うことにより、触媒成分を低濃度で分散させたシート状のポリマー部材に対しても常圧下、短時間で全面に無電解めっき膜を形成できることが分かる。また、この製造方法により製造されるめっき膜は高い密着力を有することが分かる。
【0070】
これに対して、アルコール処理液を用いた前処理を行わなかった試料や、アルコール処理液を用いた前処理を行っても、アルコールを含有する無電解めっき液を用いた無電解めっき処理を行わなかった試料では、めっき膜が全く析出しなかったり、めっき膜が析出しても析出するまでに長時間を有し、また全面にめっき膜が形成できなかった。このため、これらの試料については、密着力を測定することができなかった。また、めっき膜が全く形成できなかった試料については、ヒートサイクル試験も評価することができなかった。
【0071】
以上のように、本発明の製造方法によれば、アルコール処理液を用いた常圧下での前処理と、アルコールを含有する無電解めっき液を用いた常圧下での無電解めっき処理を組み合わせることにより、密着性に優れためっき膜を形成できる。
【0072】
なお、本発明の好適な態様について説明すれば以下の通りである。
(1)成形した樹脂成形体に触媒成分を分散させる態様では、めっき触媒となる金属を含有する触媒成分を加圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体と樹脂成形体とを接触させることにより、前記触媒成分が分散されたポリマー部材を形成する分散工程と、
前記触媒成分が分散されたポリマー部材を、常圧下で、アルコール処理液に浸漬する前処理工程と、
前記アルコール処理液で処理したポリマー部材を、常圧下で、アルコールを含有する無電解めっき液に浸漬して、めっき膜を形成する無電解めっき工程とを含む、めっき膜を有するポリマー部材の製造方法が好ましい。
【0073】
(2)上記態様においては、樹脂成形体として、シート状の樹脂成形体を用いてもよい。
【0074】
(3)また、上記態様において、フィルムインサート成形法を利用する場合、めっき触媒となる金属を含む触媒成分を加圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体と、シート状の樹脂成形体とを接触させ、前記触媒成分が分散されたシート状のポリマー部材を形成する分散工程と、
前記触媒成分が分散されたシート状のポリマー部材を、金型内に配置し、前記金型内に溶融樹脂を射出して、前記シート状のポリマー部材と前記溶融樹脂とを一体成形するインサート成形工程と、
前記インサート成形されたポリマー部材を、常圧下で、アルコール処理液で処理する前処理工程と、
前記アルコール処理液で処理されたポリマー部材を、常圧下で、アルコールを含有する無電解めっき液に浸漬して、めっき膜を形成する無電解めっき工程とを含む、めっき膜を有するポリマー部材の製造方法が好ましい。
【0075】
(4)溶融樹脂に触媒成分を分散させる他の態様では、めっき触媒となる金属を含有する触媒成分を加圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体と溶融樹脂とを接触させ、前記触媒成分が分散された溶融樹脂を射出成形または押出成形することにより、前記触媒成分が分散されたポリマー部材を形成する分散工程と、
前記触媒成分が分散されたポリマー部材を、常圧下で、アルコール処理液に浸漬する前処理工程と、
前記アルコール処理液で処理したポリマー部材を、常圧下で、アルコールを含有する無電解めっき液に浸漬して、めっき膜を形成する無電解めっき工程とを含む、めっき膜を有するポリマー部材の製造方法が好ましい。
【0076】
(5)また、上記他の態様においては、押出成形によりシート状のポリマー部材を成形してもよい。すなわち、上記分散工程は、めっき触媒となる金属を含有する触媒成分を加圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体と溶融樹脂とを接触させ、前記触媒成分が分散された溶融樹脂を押出成形することにより、前記触媒成分が分散されたシート状のポリマー部材を形成することを含んでもよい。
【0077】
(6)さらに、上記他の態様において、ポリマー部材の表面近傍に触媒成分をさらに高濃度で分散させるため、めっき触媒となる金属を含有する触媒成分を加圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体と、第1の溶融樹脂とを接触させ、前記触媒成分を分散させた第1の溶融樹脂を金型内に射出し、さらに前記触媒成分を分散させた第1の溶融樹脂が射出された金型内に、触媒成分を含有しない第2の溶融樹脂を射出して、前記触媒成分を分散させたポリマー部材を成形する分散工程と、
前記触媒成分が分散されたポリマー部材を、常圧下で、アルコール処理液に浸漬する前処理工程と、
前記アルコール処理液で前処理されたポリマー部材を、常圧下で、アルコールを含有する無電解めっき液に浸漬して、めっき膜を形成する無電解めっき工程とを含む、めっき膜を有するポリマー部材の製造方法が好ましい。
【0078】
(7)そして、上記他の態様において、加圧流体はフッ素系有機溶媒を含有することが好ましい。
【符号の説明】
【0079】
100 加圧流体供給部
200 射出成形部
250 金型部
300 流体供給部
400 高圧処理部
L シート状の樹脂成形体
M シート状のポリマー部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき触媒となる金属を含む触媒成分を加圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体を用いて、前記触媒成分が分散されたポリマー部材を形成する分散工程と、
前記触媒成分が分散されたポリマー部材を、常圧下で、アルコール処理液に浸漬する前処理工程と、
前記アルコール処理液で前処理されたポリマー部材を、常圧下で、アルコールを含有する無電解めっき液に浸漬して、めっき膜を形成する無電解めっき工程とを含む、めっき膜を有するポリマー部材の製造方法。
【請求項2】
前記分散工程は、
前記加圧流体と、樹脂成形体とを接触させることにより、前記触媒成分が分散されたポリマー部材を形成することを含む、請求項1に記載のめっき膜を有するポリマー部材の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂成形体は、シート状の樹脂成形体である請求項2に記載のめっき膜を有するポリマー部材の製造方法。
【請求項4】
前記分散工程後、前記前処理工程前に、
前記触媒成分が分散されたシート状のポリマー部材を金型内に配置し、前記金型内に溶融樹脂を射出して、前記シート状のポリマー部材と前記溶融樹脂とを一体成形するインサート成形工程をさらに有する請求項3に記載のめっき膜を有するポリマー部材の製造方法。
【請求項5】
前記分散工程は、
前記加圧流体と、溶融樹脂とを接触させ、前記触媒成分が分散された溶融樹脂を射出成形または押出成形することにより、前記触媒成分が分散されたポリマー部材を形成することを含む、請求項1に記載のめっき膜を有するポリマー部材の製造方法。
【請求項6】
前記分散工程は、
前記加圧流体と、第1の溶融樹脂とを接触させ、前記触媒成分を分散させた第1の溶融樹脂を金型内に射出し、さらに前記触媒成分を分散させた第1の溶融樹脂が射出された金型内に、触媒成分を含有しない第2の溶融樹脂を射出することにより、前記触媒成分が分散されたポリマー部材を形成することを含む、請求項1に記載のめっき膜を有するポリマー部材の製造方法。
【請求項7】
前記加圧流体は、さらにフッ素系有機溶媒を含有する請求項5または6に記載のめっき膜を有するポリマー部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−1577(P2011−1577A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143939(P2009−143939)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人中小企業基盤整備機構、戦略的基盤技術高度化支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】