説明

アイアン型ゴルフクラブ

【課題】飛距離の向上、及び安定化が図れると共に、打球時に左右にばらついても、方向性の安定化が図れるアイアン型のゴルフクラブを提供する。
【解決手段】本発明のアイアン型のゴルフクラブは、ヘッド本体5のフェース部5b裏面のトップ部5c側及びソール部5d側に、トウ・ヒール方向に長い大変形部(溝7A,8A)を形成する。この大変形部は、トウ部側及びヒール側で交わることなく、フェース面5Fの中央部(スイートスポットS)を囲む有効打球領域Afを形成し、この有効打球領域のトップ・ソール方向中央線分L1を上方傾斜させたことを特徴とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイアン型のゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、アイアン型のゴルフクラブのヘッドは、打球がなされるフェース部をヘッド本体と共に一体形成したり、ヘッド本体とは別体のフェース部(フェース部材)をヘッド本体に対して接着、溶着、カシメなどによって一体化することが知られている。前記フェース部は、ウッド型のゴルフクラブのフェース部とは異なり、いわゆるロール(クラウン・ソール方向に湾曲する面)やバルジ(トウ・ヒール方向に湾曲する面)が形成されることはなく、所定のロフト角に設定された平坦な面によって構成されている
【0003】
上記のようなアイアン型のゴルフクラブでは、フェース部におけるスイートスポットからずれた位置で打球しても、飛距離の変化はできるだけ小さいことが望ましい。例えば、特許文献1には、ボールに効率良く運動エネルギーを伝達し、反発性を高めるために、フェース板の中央の厚肉部を囲むように環状の薄肉部を形成し、打球時に薄肉部を大きく弾性変形させるアイアン型のゴルフクラブヘッドが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、打球時におけるフェース部の撓みを大きくするように、フェース部の周囲に変形部(溝)を設けたアイアン型のゴルフクラブヘッドが開示されている。この溝は、打球する際に、適正な回転方向のスピンをかけるため、トップ側エッジ、トウ側エッジ、リーディングエッジ及びヒール側ネック付け根近傍の内、1箇所を除いた3箇所に形成されており、ボールを打球する際、フェース部において、変形部が除かれた箇所を支点として変形部に囲まれた部位を回動させ、回動によるギア効果によってボールに適切なスピンを付与するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−143591号
【特許文献2】特開2007−44445号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、フェース部の周囲に溝を形成することにより、フェース部が撓み易くなって飛距離の向上、及び安定化が図れるものの、周囲に環状の溝を形成する構成(特許文献1に開示されている構成)では、トウ・ヒール方向で見た場合、トウ側及びヒール側での変形が大きく、その中間領域では変形が小さいため、打点がスイートスポットから左右にばらつくと、その打点位置におけるヘッドの重心回りの回動によって、打球のばらつきを補正しきれなくなり、方向性が不安定となってしまう。
【0007】
また、上記した特許文献2に開示されている構成では、トウ側、センター打球でのギア効果のスピンに差が生じてしまい、飛距離が安定しないという問題がある。また、ヒール側で打球すると、ヘッドがかぶり易くなって左側に打ち出され易いが、更にギア効果によって方向性が悪くなる可能性がある。
【0008】
本発明は、上記した問題に基づいてなされたものであり、飛距離の向上、及び安定化が図れると共に、打球時に打点が左右にばらついても、方向性の安定化が図れるアイアン型のゴルフクラブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明は、打球が成されるフェース面を具備したフェース部を所定のロフト角で支持すると共に、トップ部、ソール部、トウ部及びヒール部を具備したヘッド本体と、このヘッド本体に止着されるシャフトと、を有するアイアン型のゴルフクラブにおいて、前記フェース部裏面のトップ部側及びソール部側に、トウ・ヒール方向に長い大変形部を形成し、前記大変形部は、トウ部側及びヒール部側で交わることなく、フェース面中央部を囲む有効打球領域を形成し、この有効打球領域のトップ・ソール方向中央線分を上方傾斜させたことを特徴とする。
【0010】
また、上記した目的を達成するために、本発明は、打球が成されるフェース面を具備したフェース部材を所定のロフト角で止着する止着領域を有すると共に、トップ部、ソール部、トウ部及びヒール部を具備したヘッド本体と、このヘッド本体に止着されるシャフトと、を有するアイアン型のゴルフクラブにおいて、前記フェース部材は、前記止着領域に止着される止着部と、撓み領域とを備え、前記撓み領域のトップ部側及びソール部側に、トウ・ヒール方向に長い大変形部を形成し、前記大変形部は、トウ部側及びヒール部側で交わることなく、撓み領域中央部を囲む有効打球領域を形成し、この有効打球領域のトップ・ソール方向中央線分を上方傾斜させたことを特徴とする。
【0011】
上記したように、本発明は、打球がなされるフェース面が所定のロフト角で平坦状に構成されているアイアン型のゴルフクラブであって、フェース部がヘッド本体と共に一体形成されたもの、及び、フェース部材がヘッド本体に対して接着、溶接、カシメなどによって止着されるものを対象としている。
【0012】
そして、上記した何れのアイアン型のゴルフクラブにおいても、フェース部(フェース部材)の裏面のトップ部側及びソール部側に、トウ・ヒール方向に長く、トウ部側及びヒール側で交わることのない大変形部を形成している。この大変形部は、打球した際に大きく撓んで変形する部分であり、例えば、トップ部側及びソール部側のエッジに沿って薄肉厚部を形成したり貫通孔を形成することで、その近傍領域が大きく変形する「大変形部」とすることが可能である。このため、トップ部側における大変形部とソール部側における大変形部との間の領域は、変形量が小さい領域(小変形部)となる。
【0013】
上記のように、トップ部側、及びソール部側に大変形部を形成したことにより、高反発化でき飛距離の向上が図れると共に、小変形部により、上下に打球がずれても、打ち出し角が大きく変わることはなく安定した飛距離が得られる。また、大変形部がトウ部側及びソール部側で交わることがないのでトウ・ヒール方向の撓みが規制され、これにより、トウ方向又はヒール方向にずれて打球をした際、ヘッドが重心回りに回動することで打球が中央方向に向き易くなり、打球のばらつきが補正されて方向の安定化が図れる。また、大変形部によってアイアンのフェース形状に沿った有効打球領域を形成することができると共に、大変形部によるトップ・ソール方向の中央線分を上昇傾斜させたことで、フェース部(フェース部材)の撓み領域を有効に利用することができ、比強度を高く高反発化して更に飛距離の向上が図れる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、飛距離の向上、及び安定化が図れると共に、打球時に左右にばらついても、方向性の安定化が図れるアイアン型のゴルフクラブが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るアイアン型のゴルフクラブの第1の実施形態を示す正面図。
【図2】図1のA−A線に沿った断面図。
【図3】フェース部を裏面側から見た図であり、作用を説明する図。
【図4】本発明に係るアイアン型のゴルフクラブの第2の実施形態を示す正面図。
【図5】図4のB−B線に沿った断面図。
【図6】フェース部材を裏面側から見た図。
【図7】フェース部材の第1の変形例を示す図であり、フェース部材を裏面側から見た図。
【図8】フェース部材の第2の変形例を示す図であり、フェース部材を裏面側から見た図。
【図9】フェース部材の第3の変形例を示す図であり、フェース部材を裏面側から見た図。
【図10】フェース部材の第4の変形例を示す図であり、フェース部材を裏面側から見た図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明に係るアイアン型のゴルフクラブの実施形態について説明する。
図1から図3は、本発明の第1の実施形態を示す図であり、図1は、アイアン型のゴルフクラブの正面図、図2は、図1のA−A線に沿った断面図、そして、図3は、フェース部を裏面側から見た図であり、作用を説明する図である。
【0017】
本実施形態に係るゴルフクラブ1は、シャフト3とヘッド本体(アイアンヘッド)5を備えており、シャフト3の先端にヘッド本体5を止着して構成されている。前記シャフト3とヘッド本体5は、ゴルフクラブ1を基準水平面Pに対して構えた際、シャフト3の軸線Sと基準水平面Pとの間が所定のライ角αとなるように設定されている。
【0018】
前記ヘッド本体5は、シャフト3を挿入して先端領域を止着するホーゼル5aと、打球が成される平坦状のフェース面5Fを具備したフェース部5bとを有しており、本実施形態のフェース部5bはヘッド本体5と共に一体形成され、ヘッド本体に対して所定のロフト角βで支持されている。また、ヘッド本体5は、フェース部5bを囲むように、トップ部5c、ソール部5d、トウ部5e及びヒール部5fを具備しており、前記フェース部5bと共に、例えば、チタン合金、ステンレス鋼、炭素鋼、タングステン等の金属材料を用いて鋳造などによって一体形成されている。
【0019】
前記トップ部5c、ソール部5d、トウ部5e及びヒール部5fは、環状に形成されており、図2に示すように、前記トップ部5cは、バック側に延びてその先端側が下方に垂下するように屈曲されると共に、前記ソール部5dは、バック側に延びながら上方に立ち上げられて、その先端がトウ部5e及びヒール部5fの略中間位置まで延びている。同様に、前記トウ部5e及びヒール部5fは、バック側に延びると共にその先端側が中央に向けて屈曲されており、これにより、ヘッド本体5は、フェース部5bの後側が開口した構造、いわゆるキャビティ構造となっている。なお、ソール部5dについては、低重心化が図れるように、ヘッド本体5の構成材料よりも高比重の材料によって形成しても良いし、別途、ウエイト部材を取着したものであっても良い。
【0020】
前記フェース部5eの裏面のトップ部側及びソール部側には、それぞれトウ・ヒール方向に長い大変形部7,8が形成されている。
ここで、図3を参照しながらフェース部に形成される大変形部7,8の構成、及び作用について説明する。なお、図3は、フェース部を裏面側から見ており、トップ・ソール方向でのフェース面の変形状態(M1)と、トウ・ヒール方向でのフェース面の変形状態(M2)を模式的に示す図である。
【0021】
大変形部は、フェース面で打球した際に、大きく撓んで変形する部分である。本実施形態では、トップ部5c側及びソール部5d側のエッジ(フェース部を平面視した際の稜線5c´、5d´)に沿うようにして、トウ部側及びヒール部側で交わる(つながる)ことのない溝7A,8Aをフェース部の裏面に形成することで大変形部を形成している。すなわち、このような溝7A,8Aを形成することで、フェース面5Fは、トップ・ソール方向において、打球時に大きく湾曲し、フェース面5F1のように変形(変形状態(M1)参照)することが可能となる。また、大変形部を溝で形成することで、トップ部及びソール部における大変形部を均一に形成することが可能となる。
この場合、図3において、符号7,8で示す部分が大変形部となっており、これは溝7A,8Aを形成したことで得られる撓み状態である。すなわち、本実施形態では、大変形部7,8となる溝7A,8A部分が薄肉厚となって変形し易くなっており、この部分がフェース部において大きく変形する。なお、溝7A,8A(大変形部7,8)の間は、撓んだ際に、略平坦状となる小変形部9が形成されるようになる。
【0022】
前記溝7A,8Aは、その幅、深さ、及び長さによって、大変形部としての湾曲状態を変えることが可能であるが、幅を広くし過ぎたり、深さを深くし過ぎると、強度が低下するため、その幅については、0.5〜3.0mm、好ましくは1.0〜3.0mm、深さについては0.1〜0.5mm(フェース厚さの5〜20%)にしておくことが好ましい。また、溝7A,8Aの長さについては、図1に示すように、トウ部側の端部7A´,8A´、及びヒール部側の端部7A´´,8A´´同士を結んだ線の範囲内、すなわち、大変形部7,8の形成範囲内に、フェース面の中央部を囲む有効打球領域Afが形成されることが好ましい。更には、この有効打球領域Af内に、フェース面5Fに形成されているスコアライン5Lが位置していることが好ましい。なお、上記のフェース面5Fの中央部とは、そのゴルフクラブにおいて、打球時に最も効率良くエネルギーを伝達するスイートスポットSとする。
【0023】
また、図1に示すように、溝7A,8A(大変形部7,8)は、有効打球領域Afのトップ・ソール方向中央線分L1が上方傾斜するように形成されることが好ましい。中央線分L1は、溝7A,8Aの端部位置7A´,8A´、及び端部位置7A´´,8A´´同士を結んだ線の各中点P1,P2を通る線で定義される。一方、アイアンヘッドは、打球領域を考慮すると、トウ側に向けて次第に上昇するフェース形状となっていることから、上記のように大変形部で定義される有効打球領域Afの中央線分L1が上方傾斜するように形成しておくことにより、有効打球領域Afをフェース形状に沿って形成することができると共に、フェース部の撓み領域を有効に利用することができ、比強度を高く高反発化して飛距離の向上が図れるようになる。
【0024】
図3に示す変形状態(M1)の模式図では、溝7A,8Aを形成していない従来のフェース面の撓み状態を点線で示してある。トップ部5c側及びソール部5d側に、上記したような溝(大変形部)を形成しないフェース構造では、フェース面5Fは、打球時に全体としてフェース面5F2のように略円弧状に撓むようになる。
【0025】
以下、大変形部を形成したことによる撓み状態(フェース面5F1)の場合と、大変形部を形成していない撓み状態(フェース面5F2)の場合とで、それぞれの打球方向(上下の打ち出し方向、及び左右の打ち出し方向)について説明する。
【0026】
フェース面5Fで打球すると、その打ち出し方向は、打球した位置の面に対して垂直な方向となる。上記したように、大変形部7,8が形成されたフェース面5F1では、小変形部9が略平坦状(多少湾曲している)となっているため、トップ部側(上側)で打球した際の上下の打ち出し方向はD1となり、ソール部側(下側)で打球した際の上下の打ち出し方向はD2となる。この場合、打ち出し方向が、図に示すフェース面5Fに対して直交する方向D(適正方向D)に一致すると、それは、ロフト角に応じた打ち出し方向となるため、最も好ましい打球状態となる(スイートスポットSで打球すると、小変形部9の頂点付近での打球となるため、打ち出し方向は適正方向Dと一致する)。
【0027】
これに対して、トップ部5c側及びソール部5d側に大変形部7,8を形成しないフェース構造では、フェース面5F2のように略円弧状に撓むことから、上記した位置と同じ位置で打球が成されると、トップ部側(上側)で打球した際の打ち出し方向はD1´となり、ソール部側(下側)で打球した際の打ち出し方向はD2´となる。すなわち、上記した大変形部7,8が形成されているフェース構造と比較すると、上側での打ち出し角度はより低くなり、下側での打ち出し角度はより高くなってしまう(飛距離がばらつき易い)。このように、トップ部側、及びソール部側に大変形部7,8を形成したことで、打球位置が上下にばらついても、打ち出し方向D1,D2は、大変形部が形成されていない場合の打ち出し方向D1´,D2´と比較すると、適正方向Dに対する角度差が大きくない(上下にばらついても、ある程度ロフト角に応じた打ち出し角度が得られる)ことから、飛距離の安定化が図れるようになる。
【0028】
また、本発明では、大変形部7,8は、トウ部側及びヒール部側で交わらないように形成しており、このような構成では、トウ・ヒール方向を見ると、図3の変形状態(M2)の模式図で示すように、フェース面5Fは、打球時に全体としてフェース面5F1のように略円弧状に撓む。すなわち、トウ部側及びヒール部側に大変形部を形成していないため、フェース面5F1は、トウ部側及びヒール部側に溝を形成した場合(特許文献1参照)の撓み状態(フェース面5F3)のような大変形部10、及び小変形部11が形成されることはなく、小変形部11よりも内側に撓んだ状態となる。ただし、トップ部側及びソール部側には、上記した大変形部7,8が形成されていることから、フェース部に溝(大変形部)を形成していない場合の撓み状態(フェース面5F4)と比較すると、それよりも外側に撓んだ状態となる。
【0029】
図3の変形状態M1と同様、フェース面5Fで打球すると、その打ち出し方向は、打球した位置の面に対して垂直な方向となる。上記したような撓み状態(フェース面5F1)では、トウ部側での打ち出し方向D3は、フェース面5F3による打ち出し方向D3´、及びフェース面5F4による打ち出し方向D3´´と比較すると、中心側を向くようになる。同様に、ヒール部側での打ち出し方向D4についても、フェース面5F3による打ち出し方向D4´、及びフェース面5F4による打ち出し方向D4´´と比較すると、中心側を向くようになる。すなわち、打球がトウ部側、ヒール部側(左右)にばらつくと、上記したように、打ち出し方向は、フェース面5F3、フェース面5F4の場合と比較して、中央側に向くようになる。
【0030】
ところで、打球位置が左右にばらつくと、ヘッド本体5は、重心Gを中心として回動し易くなる。例えば、図3に示す構成において、トウ部側で打球すると、ヘッド本体5はT1で示すように回動し易くなり、ヒール部側で打球すると、ヘッド本体5はT2で示すように回動し易くなる。このような回動は、打ち出し方向を外側にシフトさせるようになるため、打ち出し方向がD3´、D3´´で示す方向となっていたり、D4´、D4´´で示す方向となっていると、実際の打ち出し方向は、ヘッドの重心回りの挙動によって外側にシフトしてしまい、適正方向Dからぶれてしまう。これに対して、打ち出し方向がD3,D4で示すように中心側を向いていると、ヘッド本体が重心回りに回動した際、その方向が適正方向Dに近づくようになるため、打球位置が左右にばらついても、方向性の向上が図れるようになる。なお、トップ・ソール方向についても回動するが、方向性を考慮すると、シャフト軸芯回りの回動となるトウ・ヒール方向の回動の影響は大きい。
【0031】
上記したように、トップ部側及びソール部側に形成され、かつトウ部側及びヒール部側で交わることのない大変形部7,8によって、飛距離の安定化が図れると共に、打球時における重心G回りのヘッド本体の挙動が補正され、打球の方向性の安定化が図れる。この場合、大変形部7,8によって形成される有効打球領域Af内であれば、打球位置が上下方向、左右方向にばらついても、上記した作用効果を奏することが可能であるため、大変形部7,8によって形成される有効打球領域Afが、打球面のスコアラインが形成されている領域全体を覆うようにしておくことが好ましい。
【0032】
次に、図4から図6を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。
これらの図において、図4は、アイアン型のゴルフクラブの正面図、図5は、図4のB−B線に沿った断面図、そして、図6は、フェース部材を裏面側から見た図である。なお、以下の実施形態では、前記実施形態と同一の部分については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明については省略する。
【0033】
本実施形態では、ヘッド本体5に対して、別体として形成されたフェース部材15が止着されるようになっている。フェース部材15は、例えば、Ti合金、ステンレス鋼、炭素鋼によって形成することができ、これにより、打球が成されるフェース部材を、薄く、高強度で高反発化することが可能となる。フェース部材15の表面側には、スコアライン15Lが形成されており、ヘッド本体5を構成する環状のトップ部5c、ソール部5d、トウ部5e及びヒール部5fに形成された環状の段部(止着領域)5hに対して、接着、溶着、カシメなどによって、その周縁領域(止着部15h)が止着される。すなわち、ヘッド本体と別体で形成されるフェース部材15は、ヘッド本体の環状の段部(止着領域)5hに対してその周縁の止着部15hが当て付けられて止着され、それ以外の領域については、撓み領域15Aとなる(図6では、そのような止着部15hは、点線で示す範囲の外側となり、その内側が撓み領域15Aとなる)。
【0034】
また、前記フェース部材15の裏面側には、撓み領域15Aのトップ部側及びソール部側に、トウ・ヒール方向に長い大変形部(溝17A,18A)が形成されている。この大変形部(溝17A,18A)は、トウ部側及びヒール部側で交わる(つながる)ことなく、撓み領域15Aの中央部(スイートスポット)を囲む有効打球領域Afを形成している(有効打球領域Afは、上記した実施形態と同様に定義され、斜線で示す部分が該当する)。さらに、本実施形態においても、有効打球領域Afのトップ・ソール方向中央線分L1は、上方傾斜した状態となっている。
【0035】
ここで、上記したようなヘッド構造において、大変形部(溝17A,18A)の好ましい形態について説明する。
【0036】
上記したようなフェース部材15の形状において、最も撓み易い位置は、撓み領域15Aにおけるトウ・ヒール方向での最大幅W1がトウ・ヒール方向の撓み領域となることから、この幅W1の中間位置における垂線L3上でのトップ・ソール方向の高さHの中間位置となる(図の点P5が、このフェース部材15の形状で最も撓み易い位置となる)。このため、フェース部材15の撓み領域15Aの形状を考慮した場合、点P5を通り、かつ、撓み領域15Aのヒール部側の高さ方向中間位置P3及びトウ部側の高さ方向中間位置P4(もしくはその近傍位置)を通るラインL5が、このフェース部材15の形状のトップ・ソール方向での最も撓み易いラインとなる。
【0037】
本実施形態では、大変形部(溝17A,18A)を形成するに際し、上述したように定義される中央線分L1が、ラインL5に沿うように設定されており、大変形部(溝17A,18A)をこのように形成することにより、トウ・ヒール側の撓みを抑えつつ、ラインL5に沿って撓み易くして高反発化することが可能となる。
【0038】
また、フェース部材15に形成されるスコアライン15Lについては、上述した実施形態と同様、有効打球領域Af範囲内とされる。この場合、スコアライン15Lは、プレイヤがゴルフクラブを構えた際、フェース面において最も視認される部位であり、プレイヤは、スコアライン15Lの中間位置(スコアライン15Lの形成領域W2の中間点を通る垂線L6)を意識することとなる。本実施形態では、垂線L6を、上記した最も撓み易い位置P5を通る垂線L3よりもヒール側となるように設定しており、これにより、ヒール側に位置するスイートスポットと垂線L6が近づき、垂線L6よりトウ側に打点がばらついた際の飛距離の低下が少なく、安定化させることが可能となる。
【0039】
以上のように、フェース部材をヘッド本体と別部材で形成した構成であっても、上述した実施形態と同様、大変形部(溝17A,18A)を形成することで、飛距離の安定化が図れると共に、方向性の安定化が図れる。
【0040】
上記した大変形部(溝)については、トップ部及びソール部に沿って形成され、かつ、トウ部側及びヒール部側で交わらないように形成されていれば良いが、その形状については、適宜変形することが可能である。
【0041】
図7は、フェース部材の第1の変形例を示す図であり、フェース部材を裏面側から見た図である。
この変形例では、フェース部材15の裏面に形成される溝17A,18Aの、各トウ部側の先端17a,18aを、トウ部形状に沿うように屈曲させている。このように、先端17a,18aを屈曲させることにより、トウ部側が多少撓み易くなって、フェース部全体としてトップ・ソール方向に撓み易くなる。これにより、打点位置が上下方向にばらついた際の飛距離がより安定するようになる。
【0042】
なお、上記した先端17a,18aは、あまり大きな角度で屈曲させると、トウ側に行き過ぎて、ヒール・トウ側の撓みが大きくなり、方向性が悪くなるため、スコアライン15Lの形成領域W2のトップ部側の中間点における接線L7に対する、先端17aの内側延長ラインとの交差角度θ1、及び、基準水平面Pと平行となるフェース部材15の接線L8に対する、先端18aの内側延長ラインとの交差角度θ2が、共に45°を超えないように屈曲させることが好ましい。また、フェース部材の境界が明確でなければい場合は、ヘッド本体のトップ側外縁、ソール側外縁に対する接線により屈曲させると良い。
【0043】
図8は、フェース部材の第2の変形例を示す図であり、フェース部材を裏面側から見た図である。
この変形例では、フェース部材15の裏面に形成される溝17A,18Aの、各トウ部側の先端17a,18aをトウ部形状に沿うように屈曲させている。この場合、両者の屈曲長さについては、溝17Aと溝18Aのヒール部側端部17b,18bにおける離間距離H1と、各先端17a,18aの端部17c,18cにおける離間距離H2が等しくなるように屈曲させることで、トウ部、ヒール部での撓みの規制を同じにしてバランスを向上することが可能となる。
【0044】
なお、図9の第3の変形例に示すように、H2>H1となるように、溝17A,18Aを形成しても良い。このような構成によれば、撓みが大きいトウ部側を規制してトウ・ヒール方向での撓みのバランスを向上することが可能となる。
【0045】
また、上記したように形成される溝17A,18Aについては、トウ部側、及びヒール部側で交わらなければ、その長さや上記した屈曲態様については、適宜変形することが可能である。
例えば、図10の第4の変形例で示すように、ソール部側に形成される溝18Aを、トップ部側に形成される溝17Aの長さよりも長くすることで、地面のボールを打球するアイアンにおいて、下側でdの打球時の飛距離を向上でき、下側にばらついても飛距離が安定する。また、いずれかの溝(図では溝18Aとしている)を、トウ部の形状に沿ってその先端を屈曲させる際、最もトウ側の位置までその端部18cを延ばしても良い。このようにすることで、フェース全面での上下方向撓みを最大化することができる。
さらに、ヒール部側の先端17d,18dについても、ヒール部の形状に沿うように屈曲させても良い。このように屈曲させることで、高さが低いヒール部を撓み易くすることができ、ヒール側に打点がばらついた際の飛距離低下が防止される。なお、その屈曲長さH3については、長くし過ぎると、ヒール側の撓みが大きくなり、方向性が悪くなるため、3.0mm以下にすることが好ましい。
【0046】
上述した各種変形例については、第2実施形態におけるフェース部材15を例示したが、第1実施形態におけるフェース部5bにおいても同様に適用することが可能である。その場合、上記した溝17A,18Aは、ヘッド本体のトップ部、ソール部に沿うようにしてフェース部裏面の最外縁領域に形成される。なお、溝(17A,18A)と段部5hの間は、2.0mm以下、好ましくは0.5〜1.0mmとし、溝幅よりも狭いほうが好ましい。これにより、小変形部を大きくすることができ、高反発化することができる。
【0047】
以上、本発明に係るゴルフクラブの実施形態について説明したが、本発明は、アイアンヘッドのトップ部及びソール部に沿って、トウ部側及びヒール部側で交わることのない大変形部を形成することに特徴がある。このため、ヘッド本体の形状や構成については、図に示した形状に限定されることはない。例えば、ヘッド本体は、一体形成することなく、異なる材料で複数のパーツを形成しておき、これらを溶接等することで一体化したものであっても良い。また、フェース部材の止着方法などについても適宜変形することが可能である。
【0048】
また、上述した実施形態の大変形部については、フェース部(フェース部材)の裏面に形成した溝を例示したが、それ以外にも、貫通孔としたり、貫通孔に弾性の低い材料を埋めて形成したものであっても良い。
【符号の説明】
【0049】
1 ゴルフクラブ
3 シャフト
5 ヘッド本体
5b フェース部
7,8 大変形部
7A,8A 溝
15 フェース部材
17A,18A 大変形部(溝)
Af 有効打球領域
L1 中央線分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
打球が成されるフェース面を具備したフェース部を所定のロフト角で支持すると共に、トップ部、ソール部、トウ部及びヒール部を具備したヘッド本体と、このヘッド本体に止着されるシャフトと、を有するアイアン型のゴルフクラブにおいて、
前記フェース部裏面のトップ部側及びソール部側に、トウ・ヒール方向に長い大変形部を形成し、
前記大変形部は、トウ部側及びヒール側で交わることなく、フェース面中央部を囲む有効打球領域を形成し、この有効打球領域のトップ・ソール方向中央線分を上方傾斜させたことを特徴とするアイアン型のゴルフクラブ。
【請求項2】
打球が成されるフェース面を具備したフェース部材を所定のロフト角で止着する止着領域を有すると共に、トップ部、ソール部、トウ部及びヒール部を具備したヘッド本体と、このヘッド本体に止着されるシャフトと、を有するアイアン型のゴルフクラブにおいて、
前記フェース部材は、前記止着領域に止着される止着部と、撓み領域とを備え、
前記撓み領域のトップ部側及びソール部側に、トウ・ヒール方向に長い大変形部を形成し、
前記大変形部は、トウ部側及びヒール部側で交わることなく、撓み領域中央部を囲む有効打球領域を形成し、この有効打球領域のトップ・ソール方向中央線分を上方傾斜させたことを特徴とするアイアン型のゴルフクラブ。
【請求項3】
前記大変形部は、前記フェース部、又は前記フェース部材の裏面に形成された溝であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアイアン型のゴルフクラブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−90680(P2012−90680A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238770(P2010−238770)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】