説明

アイスクリーム類

【課題】冷凍状態ではアイスクリーム類特有のスプーン通りの良い物性と食感を有し、且つ解凍状態では保型性に優れ、適度な物性とムース様の食感を有するアイスクリーム類を提供すること。
【解決手段】ゼラチンと微結晶セルロースとを含有することを特徴とする解凍状態ではムース様となるアイスクリーム類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍状態ではアイスクリーム類特有の食感を有し、解凍状態では溶け出すことなく形状を保ちムース様の食感を有するアイスクリーム類に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイスなどの冷菓は、通常冷凍の状態で喫食するが、冷凍状態でも喫食が可能であり、さらに解凍状態でも喫食が可能な冷菓が検討されている。この背景には、喫食速度の遅い高齢者や幼児などにも常においしい状態で食べられる冷菓の要望や、流通業界からの冷凍保管が可能でチルド状態での食シーンに適した冷菓の要望などがある。
【0003】
冷凍状態及び解凍状態でも喫食が可能な冷菓に関する従来技術としては、例えば、ジェランガム又はジェランガムに高分子多糖類を1種以上併用、使用することを特徴とする多用途デザートの製造方法(特許文献1)、通常チルド又は常温の状態で摂食される菓子に気泡を生じさせた卵白を含有させたことを特徴とする冷菓(特許文献2)、ガラクトマンナンとタマリンド種子多糖類からなり、その割合が1:9〜9:1である冷菓用安定剤を0.25〜3重量%含むことを特徴とする解凍時ゲル状となる冷菓(特許文献3)などが開示されている。しかし、従来技術では一長一短があり、通常の冷菓製造工程を経て製造することが可能で、冷凍状態及び解凍状態の食感に優れ、解凍状態の保型性にも優れた冷菓が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−257434号公報
【特許文献2】特開2000−354456号公報
【特許文献3】特開2005−13099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、冷凍状態ではアイスクリーム類特有のスプーン通りの良い物性と食感を有し、且つ解凍状態では保型性に優れ、適度な物性とムース様の食感を有するアイスクリーム類を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、アイスクリーム類にゼラチンと微結晶セルロースとを配合することにより上記課題を解決することを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、ゼラチンと微結晶セルロースとを含有することを特徴とする解凍状態ではムース様となるアイスクリーム類、からなっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって得られたアイスクリーム類は、冷凍状態ではアイスクリーム類特有のスプーン通りの良い物性と食感を有し、且つ解凍状態では保型性に優れ離水することがなく、適度な弾力を持つ物性と滑らかなムース様の食感を有し、さらに再度冷凍状態、再度解凍状態としても同様の効果を保持するアイスクリーム類を提案することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いられるゼラチンは、牛、豚、鶏などの皮、骨、腱や魚類などの皮、骨などを原料とし、酸またはアルカリで処理して得られる粗コラーゲンを水で加熱抽出して製造されたものであるが、その種類及び品質は特に制限されない。ゼラチンとしては、商業上入手可能であり、例えばGBL−100、GBL−150、GBL−200、GBL−250、AP−100、AP−150、AP−200、AP−250(いずれも商品名:新田ゼラチン社製)などを挙げることができる。
【0009】
本発明で用いられる微結晶セルロースは、食品添加物公定書(第8版)に記載されている、パルプから得られた結晶セルロースを主成分とする微結晶セルロースである。
【0010】
本発明で用いられる微結晶セルロースの粒子径は特に制限はないが、得られるアイスクリーム類の食感や物性の観点から、水に分散した際のメジアン径が好ましくは約5〜15μmであり、さらに好ましくは約8〜12μmである。
ここでメジアン径の測定方法は、ビーカーに水約300gと微結晶セルロース約2gとを取り、TKホモミキサー(型式:MARK II;プライミクス社製)で12000rpm、3分間撹拌した際のメジアン径をレーザー/散乱式粒子径分布測定装置(型式:LA−950;堀場製作所社製)で測定したものである。
【0011】
本発明で用いられる微結晶セルロースには、微結晶セルロースと分散剤や崩壊剤を特定の割合で含有する複合体とした微結晶セルロース製剤が含まれる。微結晶セルロース製剤の製法としては、例えば、パルプを磨砕して得られた微細セルロースを分散剤や崩壊剤と均一に混合して均質なスラリーとしてこれを乾燥することにより得られる方法を挙げることができるが、具体的には、特公昭40−14174号公報、特公昭62−43661号公報、特開平6−335365号公報などに記載のものが使用できる。分散剤や崩壊剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ガラクトマンナン(グァーガム、酵素分解グァーガム、ローカストビーンガム、タラガムなど)、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、アラビアガム、アラビノガラクタン、アルギン酸及びその塩、カードラン、ガティガム、カラギナン、カラヤガム、寒天、キサンタンガム、サイリウムシードガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、ゼラチン、トラガントガム、ファーセレラン、プルラン、ペクチンなどを使用することが出来る。中でも、好ましいのは、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギナン、カラヤガム、キサンタンガム、ジェランガム、難消化性デキストリン、ペクチンである。
微結晶セルロース製剤としては商業上入手可能であり、例えば、旭化成ケミカルズ社製のセオラス製品(セオラスRC−N30、セオラスRC−N81)や、FMC社製アビセル製品などを挙げることができる。
【0012】
本発明のアイスクリーム類100質量%中のゼラチン含量は特に制限はないが、好ましくは約0.4〜3.0質量%であり、さらに好ましくは約0.8〜2.0質量%である。
本発明のアイスクリーム類100質量%中の微粉砕セルロース含量は特に制限はないが、好ましくは約0.1〜2.0質量%、さらに好ましくは約0.3〜1.2質量%である。
【0013】
本発明のアイスクリーム類100質量%中のゼラチンと微結晶セルロースとの合計含量は特に制限はないが、アイスクリーム類100質量%中、好ましくは約1.0〜3.0質量%であり、より好ましくは約1.5〜2.5質量%である。この含量を外れると、冷凍状態及び解凍状態における物性、食感が損なわれたり、解凍状態の保型性が悪く離水が発生することがあり好ましくない。
【0014】
本発明のアイスクリーム類は、食品衛生法の乳及び乳製品の成分規格等に関する省令で定められているアイスクリーム類である。即ち、乳又はこれらを原料として製造した食品を加工し、又は主要原料としたものを凍結したものであって、乳固形分3.0%以上を含むもの(発酵乳を除く)である。具体的には、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイスが挙げられる。
【0015】
本発明のアイスクリーム類は、通常の冷菓に用いられる原材料を用いることができる。例えば、油脂、たんぱく質、糖質、香料、色素、乳化剤、安定剤、酸化防止剤、水などが挙げられ、これらの原材料を所定の割合で混合して用いることができる。
【0016】
本発明のアイスクリーム類に用いられる油脂としては、例えば、植物油脂、分別油脂、硬化油脂、エステル交換油脂、乳脂などの中から一種又は二種以上を併用することができる。植物油脂の例としては、ヤシ油、パーム油、大豆油、菜種油、綿実油、コーン油、ひまわり油、オリーブ油、サフラワー油及びパーム核油が、乳脂としては無塩バター、生クリームなどを挙げることができる。
【0017】
本発明のアイスクリーム類に用いられるタンパク質としては、例えば牛乳、チーズ、脱脂粉乳、全脂粉乳、全脂加糖練乳、脱脂加糖練乳などの乳由来のタンパク質や、卵由来のタンパク質が用いられ、カロリーを低減する為に豆乳類を用いることもできる。これらタンパク質の一種又は二種以上を用いることができる。
【0018】
本発明のアイスクリーム類に用いられる糖質としては、例えばショ糖、異性化糖、乳糖、麦芽糖、ブドウ糖、果糖、転化糖、水飴、粉末水飴、還元麦芽水飴、蜂蜜、トレハロース、パラチノース、D−キシロースなどの糖類、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、エリスリトールなどの糖アルコール類が挙げられ、これらの一種又は二種以上を用いることができる。
【0019】
また所望により高甘味度甘味料を併用してもよく、例えばサッカリンナトリウム、サイクラメート及びその塩、アセスルファムK、ソーマチン、アスパルテーム、ネオテーム、スクラロース、アリテーム、ステビア抽出物に含まれるステビオサイドなどが挙げられ、これらの一種又は二種以上を用いることができる。
【0020】
本発明のアイスクリーム類に用いられる乳化剤としては、食品添加物として使用が許可されている乳化剤であればよく、例えばグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、サポニンなどが挙げられ、これらの一種又は二種以上を用いることができる。
【0021】
本発明のアイスクリーム類に用いられる香料や色素は、例えば公知のアイスクリーム生地に添加されるものが選択されて用いられる。その他、カルシウムなどのミネラル分やビタミン、カテキン、プロテイン類などの栄養強化に用いられる食品素材や、果肉、ナッツ類、チョコレート、クルトン、パンなど食品の風味、食感にバラエティを持たせるために不溶性の固形分を添加することもできる。
【0022】
本発明のアイスクリーム類には、本発明の効果を損なわない範囲においてゼラチンと微結晶セルロース以外のその他の安定剤を用いることができ、例えば、ローカストビーンガム、トラガントガム、タマリンドガム、タラガム、カラヤガム、キサンタンガム、ジェランガム、ネイティブジェランガム、グアガム、アラビアガム、マクロホモプシスガムなどのガム質;カラギナン、寒天、ペクチン、カードラン、グルコマンナン、アルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩)などのゲル化剤;CMC、大豆多糖類などが挙げられ、これらの一種又は二種以上を用いることができる。
【0023】
本発明のアイスクリーム類は、通常のアイスクリーム類の製造工程で製造することができ、例えば、ゼラチン、微結晶セルロース、水、油脂、タンパク質、糖質、所望により乳化剤、甘味料、その他の安定剤、香料、色素などの原材料を混合し、予備乳化、均質化(乳化)して乳化液を得て、所望により殺菌した後にフリージング工程を経て製造することができる。
本発明のアイスクリーム類の製造方法では、原材料中のゼラチン含量によってはエージング工程でゲル化することがあるため、エージング工程を行わないことが好ましい。
【0024】
本発明のアイスクリーム類は、上記のようなフリージング工程を取ることによりアイスクリーム類を得ることができるが、アイスクリーム類のオーバーランは、30〜150%が好ましく、30〜100%がさらに好ましい。
【0025】
ここでオーバーランとは、前記した原材料を混合した溶液(ミックス)の容量に対する含有空気量の百分率である。例えばオーバーラン100%のアイスクリームとは、ミックスと同容量の空気が含まれていることを意味し、下記式にて表すことができる。
オーバーラン(%)={(A−B)/B}×100
A:ミックスの重量
B:Aのミックス重量と同容量のアイスクリーム類の重量
【0026】
上記フリージング工程にて気泡を混入してオーバーランを出すが、フリージング工程でも通常のアイスクリーム類の製造条件である約−4〜−8℃で行うことができる。ミックスに含まれる安定剤の種類や含量によっては、フリージング工程で粘度上昇やゲル化する場合があり通常のフリージング工程を取ることができない場合がある。しかし、ゼラチンと微結晶セルロースとを含有するミックスを用いることにより通常のフリージング工程でも粘度上昇やゲル化を起こすことなく製造することが可能となる。
【0027】
斯くして得られたアイスクリーム類は、冷凍状態で保管、流通され、冷凍状態では冷菓特有のスプーン通りの良い物性と滑らかな口当たりのよい食感を有しアイスクリーム類として喫食することができる。
また、解凍して解凍状態としても溶解することなく形を保ち、更に離水することなくムース様となり冷凍状態とは異なる食感を有した状態で喫食することができる。このように本発明のアイスクリーム類は、冷凍状態及び解凍状態の2通りの喫食方法が楽しむことができる。
さらに、本発明のアイスクリーム類は、解凍状態から再度冷凍状態としても、その後に再度解凍状態としても上記した物性や機能を保持することを可能とした。
【0028】
本発明のアイスクリーム類は、上記した特性を備える為、様々な食場面で用いることが可能である。一例として喫食速度の遅い幼児、高齢者にも気軽に喫食することが可能となり、また食べ残した際も再度冷凍、解凍して喫食することが可能となった。
【0029】
以下に本発明を実施例で説明するが、これは本発明を単に説明するだけのものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0030】
<ラクトアイスの作製>
(1)原材料
パーム油(商品名:食用パーム油;ミヨシ油脂社製)
脱脂粉乳(商品名:森永脱脂粉乳;森永乳業社製)
粉末水飴(商品名:SPD;昭和産業社製)
異性化糖(商品名:ニットーハイスイート;大日本明治製糖社製)
結晶ブドウ糖(商品名:日食 DEXTOROSE ♯700;日本食品化工社製)
グリセリン脂肪酸エステル(商品名:エマルジーMS粉末;理研ビタミン社製)
ゼラチン(商品名:GBL−200微粉;新田ゼラチン社製)
微結晶セルロース(製剤)(商品名:セオラスRC−N30;旭化成ケミカルズ社製 水に分散した際のメジアン径:約10μm)
粉末セルロース(商品名:ハンフロックHL200/30;J.RETTENMAIER&SOHNE社製 水に分散した際のメジアン径:約30μm)
【0031】
(2)ラクトアイスの配合
上記原材料を用いて作製したラクトアイスの配合を表1に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
(3)ラクトアイスの作製方法
[実施例1]
5L容のステンレス製のジョッキに、表1の原材料を総量が2500gになるように加え、スリーワンモーター(型式:BL600;HEIDON社製)にて撹拌しながら溶液を加温し、約80℃達温後10分間撹拌してミックスを得た。該ミックスをTKホモミキサー(型式:MARK II;プライミクス社製)で5000rpm、5分間予備乳化した後、二段階ピストンホモジナイザー(型式:HV−0A;イズミフードマシナリ社製)で15−5MPaの圧力条件にて均質化処理を行った。次いで均質化したミックスをフリージング機(型式:HTFIV−240;エフ・エム・アイ社製)を用いて−6℃の条件でフリージングを行った後に120ml容の紙カップに約100gを取り、−20℃の冷凍庫にて24時間保管しラクトアイス(実施例品1)を得た。得られた実施例品1のオーバーランを測定したところ約40%であった。
【0034】
[実施例2〜5、比較例1〜3]
表1に記載の原材料を用いて、実施例1と同様の操作方法で作製を行いラクトアイス(実施例品2〜5、比較例品1〜3)を得た。得られた実施例品2〜5、比較例品1〜3のオーバーランは約40%であった。
【0035】
<ラクトアイスの評価>
得られたラクトアイスを(1)冷凍状態、(2)解凍状態、(3)再冷凍状態、(4)再解凍状態で評価を行った。評価項目は、冷凍状態においてはA.物性の評価、及びB.食感の評価を行い、解凍状態においてはA.物性の評価、B.食感の評価、及びC.保型性の評価を行った。
【0036】
(1)冷凍状態の評価
得られたラクトアイス(実施例品1〜5、比較例品1〜3)の表面をスプーンを用いてすくい取り、その物性の評価を行った。また官能評価にて食感の評価を行った。いずれの評価も下記表2の評価基準に従い10名のパネラーで評価した。結果は10名の評点の平均値として求め、下記表3の基準に従って記号化した。結果を表4に示す。
【0037】
(2)解凍状態の評価
得られたラクトアイス(実施例品1〜5、比較例品1〜3)を5℃の冷蔵庫で4時間保管し解凍状態のラクトアイスを得た。
得られた解凍状態のラクトアイスの保型性を目視にて評価を行った。次に解凍状態のラクトアイスの表面をスプーンを用いてすくい取り、その物性の評価を行った。また官能評価にて食感の評価を行った。いずれの評価も下記表2の評価基準に従い10名のパネラーで評価した。結果は10名の評点の平均値として求め、下記表3の基準に従って記号化した。結果を表4に示す。
【0038】
(3)再冷凍状態の評価
得られたラクトアイス(実施例品1〜5、比較例品1〜3)を5℃の冷蔵庫で4時間保管し解凍した後、−20℃の冷凍庫で24時間再冷凍して、再冷凍状態のラクトアイスを得た。
得られた再冷凍状態のラクトアイスを「(1)冷凍状態の評価」に記載の方法で評価した。
【0039】
(4)再解凍状態の評価
得られたラクトアイス(実施例品1〜5、比較例品1〜3)を5℃の冷蔵庫で4時間保管し解凍した後、−20℃の冷凍庫で24時間再冷凍し、再度5℃の冷蔵庫で4時間保管し再解凍状態のラクトアイスを得た。
得られた再解凍状態のラクトアイスを「(2)解凍状態の評価」に記載の方法で評価した。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

結果から明らかなように、実施例品は冷凍状態、解凍状態、再冷凍状態、再解凍状態における各項目の評価は、◎又は○であり良い評価であった。一方、比較例品の評価は、いずれかの評価項目において△又は×であり、良くない評価であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチンと微結晶セルロースとを含有することを特徴とする解凍状態ではムース様となるアイスクリーム類。