説明

アクリルアミド分解菌のスクリーニング

【課題】アクリルアミド分解性菌の効率的かつ簡易なスクリーニング方法、そのための培地およびキット、ならびに該方法により得られるアクリルアミド分解性菌を提供する。
【解決手段】制限濃度の炭素源および/または窒素源、ならびに一定濃度のアクリルアミドを含有する培地にて微生物を培養し、その生育状況を調べることを特徴とする、アクリルアミド分解性菌のスクリーニング方法、そのための培地およびキット、ならびに該方法により得られるアクリルアミド分解性菌。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルアミド分解性菌のスクリーニング方法、そのための培地およびキット、ならびに該方法により得られるアクリルアミド高分解性菌に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルアミドは、アクリル基(CH2=CH−CO−)とアミド基(−CO−NH−)をもつ有機化合物で、常温では無臭白色の結晶で、水やアルコールに溶けやすい性質である。室温や暗所では安定であるが、加熱や紫外線によって重合し、ポリアクリルアミドになる。工業的にはアクリルニトリルから加水分解により合成され、化学架橋剤や漆くいに使用され、ポリアクリルアミドは水処理剤、土壌凝固剤、漏水防止剤、紙力増強剤、アクリル系熱硬化性塗料原料、化粧品原料、バイオテクノロジー関係の研究室等などの多くの分野で使用されている。
【0003】
しかし、アクリルアミドの摂取は健康への悪影響が懸念され、多くの人々が不安を持っている。アクリルアミドは人への皮膚障害、言語障害、末梢神経炎、小脳性失調等を起こし、中毒症状は主に神経症状と肝障害である。国際がん研究機関は、アクリルアミドを「ヒトに対しておそらく発がん性がある物質(2A)」に分類している。その理由には、アクリルアミドが細胞の中のDNAを傷付ける作用を持っていることが複数の試験から確認され、ヒトが食品から極微量にアクリルアミドを摂取し続けた場合にも、この作用が原因となってがんを引き起こす可能性があると考えられている。動物試験では、アクリルアミドの摂取量が増えると発がん率も増えることが報告され、ヒトでの研究では、食品からアクリルアミド摂取量が増えると子宮内膜がんと卵巣がんの発がんリスクを高くなることが報告されている。
【0004】
工業原料であるアクリルアミドが、2002年、日常的に摂取する食品や加熱加工食品に含まれることが報告された。各種食品を対象に分析が行われ、ポテトチップス、フライドポテト等のスナック、小麦を原料とするビスケット・焼き菓子、コーヒーやほうじ茶等や、家庭やレストラン等で調理された食品からもアクリルアミドが検出されたことが報告された。ノルウェーでの調査ではアクリルアミド食品別の摂取率は、コーヒーが最も多く約3割であり、次いで、ポテトチップス、パンの順であり、これらの合計で約6〜7割であることが示されている。日本では現在調査が進められている。
【0005】
食品中でアクリルアミドが生成するメカニズムについても研究が進められている。食品原材料に含まれているアミノ酸の一種であるアスパラギンと果糖やブドウ糖等の還元糖とが、調理中の加熱よりアミノカルボニル反応を起こし、その過程でアクリルアミドが生成すると考えられている。しかし、アスパラギンや還元糖以外の食品成分が原因物質となっている可能性や、アミノカルボニル反応以外の反応経路からもアクリルアミドが生成することが報告されている。また、脂質が分解して生成するアクロレインの酸化による経路や、アスパラギン酸から生成したアクリル酸がアンモニアと反応して生成する経路、セリンやシステインといったアミノ酸から生成した乳酸がアンモニアと反応して生成する経路、アスパラギンの酵素的脱炭酸反応により生成した3−アミノプロパンアミドが脱アミノ反応する経路等も報告されている。
【0006】
現在までに食品中のアクリルアミドの低減方法も研究され、食品原材料に含まれているアスパラギンの低減(例えば特許文献1、2参照)、加熱加工方法の工夫、(例えば特許文献3、4参照)、反応性の低いアミノ酸や糖質を使用した方法、原料の保存方法が報告されている。しかし、生成原因や経路が複雑であるために、アクリルアミド濃度を低減できない食品もあり、製造業者にとっては大きな課題である。
【0007】
一方、加熱加工中の生成制御による低減方法以外には、加熱加工後に、生成したアクリルアミドを分解する方法が考えらえる。対象は食品ではない場合、アクリルアミドの分解に微生物を用いる方法が公知であり、例えば、ブレビバクテリウム・アンモニジェニスATCC1641(Brevibacterium ammonigenes ATCC1641)、メチロフィラス・メチロトロファスAS−1 (Methylophilus methylotrophus AS−1 NCIB10515)、ロドコッカス属(Rhosococcus sp)がある(特許文献5〜7参照)。また、アミダーゼ遺伝子のクローニングも報告されている。例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、ロドコッカス・ロドクラウスIFO 15564(Rhodococcus rhodochrous IFO 15564)、シュードモナス・アエルギノサ(Pseudomonas aeruginosa PAO1)、ブレビバクテリウムR312(Brevibacterium R312)、コマモナス・テストステロリ 5−MGAM−4D(Comamonas testosteroni 5−MGAM−4D)、シュードノカルディア・サーモフィラJCM3095(Psedonocardia thermophila JCM3095)がある(特許文献8〜13参照)。さらに、アミダーゼの製造についても報告がある。例えば、ロドコッカス NCIMB40889 やNCIMB40755(Rhodococcus NCIMB40889、NCIMB40755)(特許文献14参照)である。
【0008】
このように種々の微生物において、アミダーゼ及びアミダーゼ遺伝子が知られていることから、これらの微生物酵素を用いて加工食品、とりわけ加熱食品中のアクリルアミドを分解低減することは可能であろう。しかし、上記微生物や他の遺伝子組み換え微生物は安全性という観点からは問題があり、食品への応用は困難である。
【0009】
食品工業に利用可能な安全性の高い微生物からアクリルアミドを高分解する菌を見つけ出すことができれば、食品、とりわけ加熱加工食品中のアクリルアミド分解に利用し得る可能性がある。しかし、食品工業で利用できる微生物、或いは微生物由来酵素がアクリルアミドを特異的に分解することを報告した例は限られ、未利用微生物があることが考えられる。また、全ゲノム解析が終了した微生物である麹菌では、バイオインフォーマテックス技術によってアミダーゼ遺伝子の存在が知られているが、アクリルアミドを分解することは報告されていない。また、麹菌は、酒、味噌、醤油などの醸造産業において目的に応じた育種が繰り返され多様な株が存在する。麹菌以外でも、経済産業省の食品工業微生物リストや農林水産省の食品酵素の起源には多くの微生物が記載され、それらの変異株も存在する。そこで、それらを対象にして、効率的にアクリルアミド高分解性菌をスクリーニングする為には、簡易法の発見が必要である。
【特許文献1】特開2005−192436号公報
【特許文献2】特表2006−500071号公報
【特許文献3】特開2007−236273号公報
【特許文献4】特表2008−511324号公報
【特許文献5】特許79011389号
【特許文献6】米国特許第5188952号/EU特許0272026号
【特許文献7】国際公開第99/007748号
【特許文献8】国際公開第06/40345号
【特許文献9】特開平9−9973号公報
【特許文献10】特開2004−105152号公報
【特許文献11】米国特許第5260208号
【特許文献12】米国特許出願公開2004/0225116号
【特許文献13】特開2006−340630号公報
【特許文献14】米国特許第5962284号/ EU特許0988375号/国際公開第99/007838号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は、アクリルアミド分解性菌の効率的かつ簡易なスクリーニング方法、詳細には、アクリルアミドを直接分解することができる安全なアクリルアミド分解性菌をスクリーニングするための効率的かつ簡易な方法、そのための培地およびキット、ならびに該方法により得られるアクリルアミド分解性菌を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究を重ね、制限濃度の炭素源および/または窒素源、ならびに一定濃度のアクリルアミドを含有する培地にて微生物を培養し、その生育状況を調べることにより、高アクリルアミド分解性菌を効率的かつ簡易にスクリーニングすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)制限濃度の炭素源および/または窒素源、ならびにアクリルアミドを含有する培地にて微生物を培養し、その生育状況を調べることを特徴とする、アクリルアミド分解性菌のスクリーニング方法、
(2)培地中のアクリルアミド濃度が0.004〜0.2%(w/v)である(1)記載の方法、
(3)培地中のアクリルアミド濃度が0.02〜0.2%(w/v)である(2)記載の方法、
(4)培地中の炭素源濃度が0.03%(w/v)以上である(1)〜(3)のいずれかに記載の方法、
(5)培地中の炭素源濃度が0.03%〜3%(w/v)である(1)〜(4)のいずれかに記載の方法、
(6)培地中のアクリルアミド以外の窒素源濃度が0%〜0.3%(w/v)である(1)〜(5)のいずれかに記載の方法、
(7)培地がアクリルアミド以外の窒素源を含有しないものである(1)〜(6)のいずれかに記載の方法、
(8)培地が最小培地をベースにしたものである(1)〜(7)のいずれかに記載の方法、
(9)微生物が糸状菌である(1)〜(8)のいずれかに記載の方法、
(10)糸状菌がアスペルギルス属菌である(9)記載の方法、
(11)アスペルギルス属菌が麹菌である(10)記載の方法、
(12)培地がツァペック・ドックス最小培地をベースにしたものである(9)〜(11)のいずれかに記載の方法、
(13)(1)〜(12)のいずれかに記載の方法に使用される培地、
(14)(1)〜(12)のいずれかに記載の方法に使用される培地またはその成分を必須として含む、アクリルアミド分解性菌のスクリーニング用キット、ならびに
(15)(1)〜(12)のいずれかに記載の方法または(14)記載のキットにより得られるアクリルアミド分解性菌
を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アクリルアミド分解性菌の効率的なスクリーニング方法、そのための培地およびキット、ならびに該方法により得られるアクリルアミド高分解性菌が提供される。また本発明によれば、細菌のみならず糸状菌からもアクリルアミド分解性菌をスクリーニングすることができるので、麹菌などの安全な菌株からアクリルアミド分解性菌を効率よく得ることができる。さらに本発明のスクリーニングは上記培地にて候補微生物を培養し、その増殖・成長を観察するという極めて簡単な操作にて行うことができ、汎用性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、1の態様において、制限濃度の炭素源および/または窒素源、ならびにアクリルアミドを含有する培地にて微生物を培養し、その生育状況を調べることを特徴とする、アクリルアミド分解性菌のスクリーニング方法を提供するものである。
【0015】
本発明のスクリーニング方法の第1工程は、制限濃度の炭素源および/または窒素源、ならびにアクリルアミドを含有する培地にて微生物を培養する工程である。使用する培地はいかなる種類の培地であってもよく、天然培地、人工培地、それらの混合培地であってもよい。当業者は、スクリーニングすべき微生物の種類やその他の要因に応じて、培地の種類や成分、ならびに培養条件(温度、培養時間、通気量など)を選択することができる。ここに、微生物とは、細菌、酵母、糸状菌、放線菌を包含するものとする。食品の製造に用いられる細菌としては乳酸菌や納豆菌などが例示される。また、食品の製造に用いられる糸状菌としては、アスペルギルス(Aspergillus)属糸状菌、例えば麹菌、かつおぶし製造菌など、ペニシリウム(Penicillium)属糸状菌、例えばチーズ製造菌など、リゾープス(Rhizopus)属糸状菌およびムコール(Mucor)属糸状菌、例えば東南アジア諸国における麹の製造、老酒の製造用の菌などが挙げられる。本明細書において、微生物と菌は同義である。本発明のスクリーニング方法に使用する培地の形状も特に制限はなく、液体培地であっても、固体培地(例えば、寒天平板培地、寒天斜面培地)であってもよい。なお、本発明においては、培地中の寒天は炭素源として扱わない。
【0016】
本発明のスクリーニング方法において、使用する培地中の炭素源濃度および/または窒素源濃度を制限濃度とする。その理由は、培地中の炭素源濃度および/または窒素源濃度が高すぎると、微生物がアクリルアミドを利用しなくなるからである。本明細書において、炭素源および窒素源の制限濃度とは、微生物に余分な栄養を与えずにアクリルアミドを利用させ、観察可能な程度に生育あるいは増殖させることのできる炭素源および窒素源の濃度をいう。本発明のスクリーニング方法に使用する培地中の炭素源の制限濃度は、微生物の種類、培養条件、およびその他の要因にもよるが、通常は例えば約0.01%(w/v)以上であり、好ましくは約0.03%(w/v)以上である。例えば、培地中の炭素源の制限濃度は、約0.01%(w/v)〜約5%(w/v)であり、最も好ましくは、約0.03%(w/v)〜約3%(w/v)である。
【0017】
本発明のスクリーニング方法に使用する培地中のアクリルアミド以外の窒素源の制限濃度は、微生物の種類、培養条件、およびその他の要因にもよるが、通常は例えば0%〜約1%(w/v)であり、好ましくは0%〜約0.5%(w/v)、さらに好ましくは0%〜0.3%(w/v)である。最も好ましくは、培地中のアクリルアミド以外の炭素源の濃度を0%とすることによりアクリルアミドを唯一の窒素源として培養する。そうすることにより、微生物の生育・増殖の差異を明確化することができる。
【0018】
本発明のスクリーニング方法に使用する培地中のアクリルアミド濃度は、微生物の種類、培養条件、およびその他の要因にもよるが、通常は例えば約0.004〜約0.2%(w/v)であり、好ましくは約0.02〜約0.2%(w/v)である。培地中のアクリルアミドが低すぎると、アクリルアミド分解能が生育あるいは増殖の差に反映されにくくなり、スクリーニングが困難となる。また、培地中のアクリルアミド濃度が高すぎると、毒性の影響により生育あるいは増殖が妨げられるので、やはりスクリーニングが困難となる。
【0019】
本発明のスクリーニング方法において使用する培地は、最小培地をベースにしたものが好ましい。天然培地中には多種多様な炭素源、窒素源となる物質が含まれており、微生物がアクリルアミドよりもこれらの成分を利用してしまい、アクリルアミド利用による生育あるいは増殖の差異が出にくいからである。また、天然培地においては、炭素源、窒素源の濃度をコントロールすることが困難である。したがって、本発明のスクリーニング方法には、炭素源、窒素源の種類が明確で、それらの濃度をコントロールしやすい人工培地をベースにした培地を用いることが好ましく、最小培地をベースにした培地を用いることがさらに好ましい。本発明のスクリーニング方法に使用する最も好ましい培地は、上記範囲の制限濃度の炭素源および/または窒素源を含む最小培地に、上記濃度範囲のアクリルアミドを添加した培地である。このような培地を用いることにより、微生物がアクリルアミドを利用し、その利用の程度による生育や増殖の差異を観察しやすくなる。なお、本明細書において、最小培地をベースにした培地とは、最小培地にアクリルアミドを添加した培地をいい、その場合、最小培地の成分の種類、濃度は適宜変更されていてもよい。
【0020】
本発明のスクリーニング方法において、上記範囲の制限濃度の炭素源を含むが、上記濃度範囲のアクリルアミド以外の窒素源を含まない最小培地を用いることが最も好ましい。かかる培地を用いると、アクリルアミドの分解能の差異が微生物の生育・増殖の差異に反映されやすくなるので、スクリーニングの結果がより明確となる。
【0021】
上述のごとく、本発明のスクリーニング方法にて試験される微生物に種類は特に限定されないが、細菌、酵母、糸状菌、放線菌には各々に適した最小培地が知られているので、適宜選択して用いることができる。例えば、糸状菌をスクリーニングする場合には、最小培地としてツァペック・ドックス最小培地が有名であり、これをベースにした培地を本発明のスクリーニング方法に使用することが好ましい。しかし、他の最小培地を用いてもかまわない。
【0022】
本発明のスクリーニング方法の第2工程は、上記培地にて微生物を培養し、その生育あるいは増殖を調べる工程である。本発明のスクリーニング方法において、微生物の生育あるいは増殖は、その微生物のアクリルアミド分解能を反映する。したがって、本発明の方法においてよく生育あるいは増殖する微生物は、アクリルアミド分解能が高いものとしてスクリーニングすることができる。このように、本発明の方法は、微生物の生育あるいは増殖を調べるだけで、アクリルアミド分解能が高い微生物をスクリーニングできる、極めて簡便な方法である。
【0023】
微生物の生育あるいは増殖を調べる手段・方法は公知であり、微生物の種類、培地の種類、培養条件等に応じて適宜選択することができる。例えば、微生物が細菌であり、液体培地を用いる場合には、培地の濁度を測定することにより、微生物の生育あるいは増殖を調べることができる。例えば、微生物が糸状菌であり、液体培地を用いる場合には、培地中の菌体量を肉眼で観察することができる。また例えば、寒天培地を用いる場合には、培地上の微生物コロニーの大きさを肉眼で調べることもできる。
【0024】
もう1つの態様において、本発明は、本発明のスクリーニング方法に用いられる培地を提供する。かかる培地は上で説明したものであるが、上記範囲の制限濃度の炭素源、窒素源を含む最小培地をベースにしたものであって、上記濃度範囲のアクリルアミドを含有するものが好ましい。スクリーニングすべき微生物が糸状菌の場合には、上記範囲の制限濃度の炭素源、窒素源を含む最小培地をベースにしたものであって、上記濃度範囲のアクリルアミドを含有するツァペック・ドックス最小培地が好適である。
【0025】
本発明は、さらなる態様において、本発明のスクリーニング方法に用いられる培地またはその成分を必須として含む、アクリルアミド分解性菌のスクリーニング用キットを提供する。本発明の該キットは、培地の調製に必要な他の成分や器具類を含んでいてもよく、あるいは、例えば、微生物の生育・増殖を判定するための器具類を含んでいてもよい。通常、キットには取扱説明書が添付される。
【0026】
本発明は、さらにもう1つの態様において、本発明のスクリーニング方法あるいはキットを用いることにより得られたアクリルアミド分解性菌を提供する。よく生育あるいは増殖した微生物を選択することにより、アクリルアミド高分解性菌を得ることができる。例えば、食品製造に使用される菌株から本発明の方法あるいはキットを用いてスクリーニングされたアクリルアミド分解性菌は、食品のアクリルアミド分解・除去に使用することができる。また、本発明のスクリーニング方法あるいはキットを用いることにより得られたアクリルアミド分解性菌からアクリルアミド分解活性を有するアミダーゼを得て、これを使用してもよい。
【0027】
以下に実施例を示して本発明をより詳細かつ具体的に説明するが、実施例はあくまでも例示説明であり、本発明を限定するものと解してはならない。
【実施例1】
【0028】
使用菌株のアクリルアミド分解能を測定した。
【0029】
(1)使用菌株
麹菌(Aspergillus oryzae)6株(AO−A、AO−B、AO−C、AO−D、AO−E、AO−F)をポテトデキストロース寒天培地(以下、PDB培地と略す)で、30℃、7日間培養し、トライトン(Triton)X−100 1%(v/v)を含む無菌水を添加して分生子を懸濁した後、分生子以外の菌糸などを除去するために更に無菌水を加えて撹拌後、遠心分離を行った。同様の操作を3回繰り返し、分生子懸濁液とした。この分生子懸濁液の分生子数を血球計算盤によって計数した。
【0030】
(2)培地
ツァペック・ドックス最小培地(炭素源:ショ糖3%(w/v)、窒素源:硝酸ナトリウム0.3%(w/v)、硫酸マグネシウム・7水和物0.05%(w/v)、塩化カリウム0.05%(w/v)、硫酸鉄・7水和物0.001%(w/v)、リン酸二カリウム0.01%(w/v)、以下、CD培地と略す)にアクリルアミドを0.004%、0.02%、0.05%、0.1%、0.2%(w/v)になるよう添加した培地を作製した。
【0031】
(3)培養条件、測定及び観察
150mlバッフル付きフラスコに各培地30mlを入れ、初発分生子濃度が1.0×10/mlになるよう分生子懸濁液を接種し、30℃、120rpmで72時間振とう培養した。72時間後に生育状況を肉眼で観察した。同時に培地1.5mlを採取し、アクリルアミド含量を測定した。
【0032】
(4)アクリルアミド分析方法
採取した培地を0.45μmメンブレンフィルターでろ過し、高速液体クロマトグラフィーを用いてアクリルアミド含量を測定した。移動層は0.1%(w/v)リン酸を用いて、高速液体クロマトグラフィーは島津製作所CLASS−VP、カラムは資生堂製CAPCELL PAK C8 typeSG120、5μm、4.6mmI.D.×250mm、検出器はUV210nmである。

【表1】

【0033】
培地中のアクリルアミド濃度の減少がみとめられた。しかし、生育状況は全て良好であり、差はみられなかった。
これらの菌株を以下の実験に使用した。
【実施例2】
【0034】
培地中の炭素源及び窒素源の有無による生育状況を検証した。
【0035】
(1)使用菌株
麹菌(Aspergillus oryzae)2株 AO−A、AO−BをPDB培地で、30℃、7日間培養し、実施例1と同様に操作し、分生子懸濁液を調製後、分生子数を計数した。
【0036】
(2)培地
i)アクリルアミド添加CD培地
CD培地にアクリルアミドを0.004%、0.02%、0.1%、0.2%、0.4%(w/v)になるよう添加した培地を作製した。
ii)アクリルアミド添加炭素源なしCD培地
CD培地からショ糖を除き、アクリルアミドを0.004%、0.02%、0.1%、0.2%、0.4%(w/v)になるよう添加した培地を作製した。
iii)アクリルアミド添加窒素源無しCD培地
CD培地から硝酸ナトリウムを除き、アクリルアミドを0.004%、0.02%、0.1%、0.2%、0.4%(w/v)になるよう添加した培地を作製した。
iv)アクリルアミド添加炭素源なし、窒素源なしCD培地
CD培地からショ糖及び硝酸ナトリウムを除き、アクリルアミドを0.004%、0.02%、0.1%、0.2%、0.4%(w/v)になるよう添加した培地を作製した。
【表2−1】


【表2−2】

【0037】
炭素源を含まない培地では生育しない為、評価には適用できなかった。窒素源を抜き、アクリルアミド濃度を0.02%〜0.2%(w/v)に調製することで、生育状況に差があり、アクリルアミドの分解能を反映していることを見出した。参考までに、生育状況(◎:良好、○:生育、△:弱い生育、×:生育せず)の典型例を図1に示す。
【実施例3】
【0038】
窒素源を抜き、更に、炭素源濃度を制限することでアクリルアミド分解能を、生育状況で容易に判別できるか検討した。
【0039】
(1)使用菌株
麹菌(Aspergillus oryzae)AO−A、AO−C をPDB培地で、30℃、7日間培養し、実施例1と同様に操作し、分生子懸濁液を調製後、分生子数を計数した。
【0040】
(2)培地
CD培地から窒素源である硝酸ナトリウムを除き、炭素源であるショ糖を5濃度(0.0003%、0.003%、0.03%、0.3%、3%(w/v)になるように調製後、次に、各々にアクリルアミドを5濃度(0.004%、0.02%、0.1%、0.2%、0.4%(w/v)になるよう添加した培地を作製した。
【表3−1】


【表3−2】



【0041】
炭素源0.003%(w/v)以下ではアクリルアミド分解能と生育状況の結果が一致しないため、0.03%(w/v)以上の炭素源が必要であった。0.03%(w/v)以上の炭素源濃度の培地においては、アクリルアミド分解能を、生育状況で容易に判別できることがわかった。
【実施例4】
【0042】
実施例3の条件で麹菌以外の糸状菌を対象に生育状況でのアクリルアミド分解能を評価した。
【0043】
(1)使用株
糸状菌8種10株:麹菌AO−A、AO−C、AO−D(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachi)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アクチノムコアー・エレガンス(Actinomur elegans)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、リゾプス・デレマー(Rhizopus delemer)、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、ペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinun)、各々の菌株をPDB培地で、30℃、7日間培養し、実施例1と同様に操作し、分生子懸濁液を調製後、分生子数を計数した。
【0044】
(2)培地
硝酸ナトリウムを含まないCD培地にアクリルアミド0.02%(w/v)を添加して作製した。
【0045】
(3)培養条件、測定及び観察
上記培地30mlを150mlバッフル付きフラスコに入れ、30℃、120rpmで72時間振とう培養し、72時間後に生育状況を肉眼で観察した。同時に、培地1.5mlを採取し、培地中のアクリルアミド含量を測定した。
【表4】

【0046】
上記結果から生育状況を観察するだけでアクリルアミド分解能を有する糸状菌を容易に選択できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、食品製造の分野、化学工業の分野などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、本明細書の実施例における菌の生育状況(◎:良好、○:生育、△:弱い生育、×:生育せず)の典型例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制限濃度の炭素源および/または窒素源、ならびにアクリルアミドを含有する培地にて微生物を培養し、その生育状況を調べることを特徴とする、アクリルアミド分解性菌のスクリーニング方法。
【請求項2】
培地中のアクリルアミド濃度が0.004〜0.2%(w/v)である請求項1記載の方法。
【請求項3】
培地中のアクリルアミド濃度が0.02〜0.2%(w/v)である請求項2記載の方法。
【請求項4】
培地中の炭素源濃度が0.03%(w/v)以上である請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
培地中の炭素源濃度が0.03%〜3%(w/v)である請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
培地中のアクリルアミド以外の窒素源濃度が0%〜0.3%(w/v)である請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
培地がアクリルアミド以外の窒素源を含有しないものである請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
培地が最小培地をベースにしたものである請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
微生物が糸状菌である請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
糸状菌がアスペルギルス属菌である請求項9記載の方法。
【請求項11】
アスペルギルス属菌が麹菌である請求項10記載の方法。
【請求項12】
培地がツァペック・ドックス最小培地をベースにしたものである請求項9〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項記載の方法に使用される培地。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか1項記載の方法に使用される培地またはその成分を必須として含む、アクリルアミド分解性菌のスクリーニング用キット。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか1項記載の方法または請求項14記載のキットにより得られるアクリルアミド分解性菌。

【図1】
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【公開番号】特開2010−35449(P2010−35449A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199646(P2008−199646)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【出願人】(300022397)三興商事株式会社 (2)
【Fターム(参考)】