説明

アクリルフィラメント太細糸

【課題】自然な斑感とソフトでドライな風合いを有するアクリルフィラメント太細糸を提供する。
【解決手段】アクリル系ポリマーよりなるアクリルフィラメント糸であって、以下の(1)〜(3)の要件を備えたアクリルフィラメント太細糸。
(1)太繊度部と細繊度部が糸条長手方向に沿って交互に存在し、
(2)太繊度部と細繊度部の繊度比が1.5以上2.5以下で、
(3)太繊度部の平均長さ/細繊度部の平均長さで表される平均長さの比が3.0以上

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸条の長手方向に沿って太繊度部と細繊度部を交互に有するアクリルフィラメント糸に関し、織編み物に加工し染色した際に太さ斑に起因する自然な斑感と、ソフトなドライ感を発現するアクリルフィラメント太細糸に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、糸条の長手方向に繊度差を有するフィラメント太細糸については、特にポリエステル繊維に関して非常に多くの研究開発がなされている。これらポリエステル繊維の場合は、未延伸糸を特定の条件下で延伸することにより発現する、ネッキング現象を利用することを基本とし、これによって得られる太細糸を如何にランダムに発現させ、また如何に品質を安定させるか等について検討が進められ、数多くの技術が提案されている。
【0003】
本出願人は、先に、太繊度部の長さが比較的長く、糸条の長手方向にフィラメントを構成する各単繊維の同じ部分に太繊度部が存在するマルチフィラメント糸を提供した(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、アクリル繊維に関しては延伸配分を変更してもネッキング現象が発現せず、糸条長手方向に沿って均一に延伸されるため、太細糸に関する研究はほとんどなされていないのが実情である。
【0004】
そのような状況の中、積極的に糸条に繊度斑を付与する方法として、紡糸ノズルに上下振動を与え、吐出された糸状の未凝固体にドラフト変化を起こさせることによって繊維軸方向に繊度を有するアクリル繊維の製造法(例えば、特許文献2参照)、また、紡糸原液を凝固液中で凝固し引き取りロールで引き取る際に、引き取り速度を変動させることにより、フィラメント太細糸を得る技術が提供されている(例えば、特許文献3参照)。さらに、ビスコースレーヨンにおいて、定常ビスコース原液流に、添加ビスコース原液を断続的に添加し、紡糸ノズルからの原液吐出量を断続的に変化させることで得られるレーヨンフィラメント太細糸などが提供されている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
しかしながら、これら従来の方法による太細糸では繊度差が大きすぎると、編織等の後工程での工程通過性に問題が発生しやすく、また繊度差が小さすぎると、斑感効果が発現しにくい。更には太繊度部および細繊度部の長さや周期がある程度一定であることで、布帛としたときに柄癖が出やすいといった問題があった。従って、太繊度部と細繊度部の繊度差および周期について一定の条件を満たす自然な斑感と優れた風合いを有する工程通過性良好なフィラメント太細糸の開発が強く望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開昭61−6339号公報
【特許文献2】特開昭53−119322号公報
【特許文献3】特開2000−226722号公報
【特許文献4】特開平8−209434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は特定の繊度差と長さ分布を有する自然な斑感とソフトでドライな風合いを有するアクリルフィラメント太細糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、アクリル系ポリマーよりなるアクリルフィラメント糸であって、以下の(1)〜(3)の要件を備えたアクリルフィラメント太細糸にある。
(1)太繊度部と細繊度部が糸条長手方向に沿って交互に存在し、
(2)太繊度部と細繊度部の繊度比が1.5以上2.5以下で、
(3)太繊度部の平均長さ/細繊度部の平均長さで表される平均長さの比が3.0以上
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、織編み物に加工し染色した際にランダムな太さ斑に起因する自然な斑感と、ソフトなドライ感を発現する新規なアクリルフィラメント太細糸を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明におけるアクリル系ポリマーはアクリロニトリルを主成分とし、これと共重合可能な不飽和単量体とからなる共重合体であることが必要である。アクリロニトリル単位の含有量は50重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることによって、衣料用途の繊維として必要な物性及び特徴を備えた繊維が得られる。
【0011】
アクリロニトリルと共重合可能な不飽和単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、及びそれらの誘導体、酢酸ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、塩化ビニル、塩化ビニリデン、更に目的によってはビニルベンゼンスルホン酸ソーダ、メタリルスルホン酸ソーダ、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸ソーダ等のイオン性不飽和単量体を用いることができる。アクリル系ポリマーの分子量はアクリル繊維の製造に用いられる範囲の分子量であればよく、特に限定されないが、10万〜100万の範囲にあることが好ましい。
【0012】
また、本発明のアクリルフィラメント太細糸は糸条長手方向に沿って太繊度部と細繊度部を交互に有することが必要である。太繊度部と細繊度部はフィラメントを構成する単繊維が糸条長手方向に沿って太部と細部を交互に有し、各単繊維の太部と細部はフィラメント内で同位置に存在するものである。フィラメントとして太細部を有するため、布帛とした際に自然な斑感とソフトなドライ感とを現出する。
【0013】
単繊維の太部と細部がフィラメント内の同位置に存在しない場合は、斑感が発現しにくくなると同時に、風合い効果も乏しくなる。太繊度部と細繊度部の繊度比は1.5以上2.5以下の範囲であることが必要である。繊度比が1.5以上であると、太繊度部と細繊度部の繊度差が大きく、太細差効果が発現し、斑感およびドライ感に優れたものとなる。従って繊度比は出来る限り大きくなるように選定することが望ましいが、2.5以下であると編織等の後工程での工程通過性に問題が発生しやすくなる。繊度比が1.5〜2.5の範囲で自然な斑感を得ることがきるが、更に繊度比が一定ではなく分散していることで、より一層の斑感を発現する。
【0014】
更に、太繊度部の平均長さと細繊度部の平均長さの比で表される平均長さの比が3.0以上であることが必要である。平均長さの比が、3.0以上であると太繊度部が布帛上に柄として浮きあがり、より一層の自然な斑感を得ることが可能である。
【0015】
本発明のアクリルフィラメント太細糸は、太繊度部の長さが20〜60cm、細繊度部の長さが60〜180cmの範囲内でランダムに分散していることにより、良好な斑感とソフトなドライ感を得ることが可能である。太繊度部の長さが20cm〜60cmの範囲であると太細差効果が発現し易くなる。同様に、細繊度部の長さが60cm〜180cmの範囲であると太細差効果が発現し易くなる。また、最も長い太繊度部、最も短い細繊度部の長さ比が1.5以上である場合は、自然な斑感が発現し易く織編み物とした場合に単調な柄とならず、その長さ分布がランダムに分散していることで、より自然な斑感の発現が可能となる。
【0016】
本発明に使用される紡糸原液の溶媒は、アクリル系ポリマーを溶解できる溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。また、紡糸原液中のアクリル系ポリマーの固形分濃度は、溶媒の種類、ポリマーの重合度、組成比等により好適な範囲は異なるが概ね20〜28重量%であればよい。固形分濃度が20重量%未満では紡出性が著しく悪化するため好ましくなく、一方28重量%を超えると紡糸原液の経時安定性が悪くなり紡糸性が低下するので好ましくない。
【0017】
本発明のアクリルフィラメント太細糸の製造方法は本発明の目的を達成できる方法であれば特に限定されず、湿式紡糸、乾湿式紡糸、乾式紡糸法などによることが可能であるが、一般的には湿式紡糸法か乾湿式紡糸法が用いられる。
紡糸原液は、紡糸口金を通じて紡糸原液の溶媒と水を主とする紡糸凝固浴に導かれる。紡糸凝固浴条件は特に限定されないが、例えば溶剤としてジメチルアセトアミドを用いた場合、紡糸凝固浴としては、温度0〜45℃、溶剤濃度10〜75%が好ましい。
【0018】
凝固糸に繊度斑を付与する方法としては、例えば引き取りロールや延伸ロールの前でガイドを用いて糸道を変動させることにより、糸長を変動させて繊度斑を付与する方法や、引き取りロールの回転数を変動させることで繊度斑を付与する方法、あるいは延伸ロールの回転数を変動させることで繊度斑を付与する方法などがあげられる。
【0019】
繊度斑を付与する方法は本発明の目的を達成できる方法であれば特に限定されず、積極的に繊度斑を付与する以外は公知の方法で延伸、洗浄、乾燥、熱緩和処理を施すことにより、バランスのとれた力学特性を付与した本発明のアクリルフィラメント太細糸となる。
【0020】
斑感及び風合いの評価は次の方法によって行った。
1)斑感の評価方法
アクリルフィラメントを用いて20G筒編み機で編地を作成し、カチオン染料で染色した後、目視によって斑感を評価した。自然な斑感があり意匠性に優れたものを○、斑感に乏しいもの、均一な外観のものを×とした。
2)風合いの評価方法
上記の斑感評価に用いた編地で風合いを評価した。ソフトでドライな風合いを有し、風合いに優れるものを○、風合いの劣るものを×とした。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0022】
[実施例1〜3、比較例1〜3]
アクリロニトリル単位93重量%、酢酸ビニル単位6重量%、スチレンスルホン酸ナトリウム単位1重量%からなり、平均分子量30万のアクリル系ポリマーを固形分濃度26重量%となるようにジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解して紡糸原液を作成した。
前記紡糸原液を60℃まで加温し、孔径0.15mm、孔数60のノズルより空気層を介してジメチルアセトアミド73重量%と水27重量%よりなる温度40℃の凝固浴に吐出し繊維を形成した。
次いで凝固浴と引き取りロールの間に設置した回転運動する可動ガイドにより糸道を変動させながら、速度53m/minの引き取りロールに凝固糸を引き取った。この際、可動ガイドの可動半径を5cm〜20cm、回転数を60rpm〜120rpmの範囲内で6種類変更した。
その後、水洗、沸水中での3.0倍延伸、乾燥後更に乾熱状態で2.0倍延伸を行い、引き続き熱板緩和を施して繊度が170dtexであるアクリルフィラメント糸を得た。得られた原糸50mのサンプルを10cm毎に重量を測定し、繊度分布を測定した。更に前記原糸を用いて編地を作成し、斑感及び風合い評価を実施した。
以上より得られた結果を表1に記載する。
【0023】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系ポリマーよりなるアクリルフィラメント糸であって、以下の(1)〜(3)の要件を備えたアクリルフィラメント太細糸。
(1)太繊度部と細繊度部が糸条長手方向に沿って交互に存在し、
(2)太繊度部と細繊度部の繊度比が1.5以上2.5以下で、
(3)太繊度部の平均長さ/細繊度部の平均長さで表される平均長さの比が3.0以上
【請求項2】
最も長い太繊度部の長さ/最も短い太繊度部の長さで表される比と、最も長い細繊度部の長さ/最も短い細繊度部の長さで表される比がともに1.5倍以上である請求項1に記載のアクリルフィラメント太細糸。
【請求項3】
太繊度部の長さが20〜60cm、細繊度部の長さが60〜180cmの範囲でランダムに分散している請求項1又は請求項2に記載のアクリルフィラメント太細糸。

【公開番号】特開2008−255531(P2008−255531A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−101065(P2007−101065)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】