説明

アクリル樹脂系プラスチゾル組成物

【構成】 メチル(メタ)アクリレートのホモポリマーまたはコポリマーと可塑剤とからなるアクリル樹脂系プラスチゾル組成物であって、可塑剤が特定のフタル酸混基エステル(例、フタル酸−n−ブチル−メチルシクロヘキシル、フタル酸−ブトキシエチル−シクロヘキシル)からなる。
【効果】 プラスチゾルの粘度安定性が優れ、成形加工が容易にでき、可塑剤とアクリル樹脂の相溶性が優れ、加熱溶融した後でも可塑剤のブリード等のないアクリル樹脂系プラスチゾル組成物となり、塩化ビニル樹脂系プラスチゾル組成物と同様に成形、加工できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、塩化ビニル樹脂系プラスチゾル組成物に代わり、スプレッドコーティング、ディップ成形、スラッシュ成形、スプレー塗装などの成形、加工法で、壁装材、床材、人形、玩具、自動車アンダーコーティング等の分野で広く利用されるアクリル樹脂系プラスチゾル組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、塩化ビニル樹脂系プラスチゾル組成物は、壁装材、床材、人形、玩具、自動車アンダーコーティング、塩ビ塗装鋼板等の分野で広く使用されているが、近年、環境問題から他の樹脂への転換が求められてきている。このため、アクリル系樹脂粉末に可塑剤を配合し、さらに必要に応じて、充填剤その他の添加剤を配合してプラスチゾルとして成形、加工する方法が提案されてきた(特公昭58−22043号公報、特公昭63−66861号公報、特公平4−24378号公報)。プラスチゾルに配合する可塑剤としては、フタル酸エステル、燐酸エステル、セバシン酸エステル、エポキシ化エステル、ポリエステルなど(特公昭58−22043号公報、特公昭63−66861号公報)、ベンジルオクチルフタレート(特公平4−24378号公報)などが提案されてきた。
【0003】しかしながら、上記提案のフタル酸エステルでは、結合アルキル基の炭素数が6以下のもの(例えば、フタル酸ジブチル(DBP))では、初期粘度が低く、アクリル樹脂との相溶性は良いが、粘度安定性が極めて悪く、プラスチゾル調製後1〜2日後には固化してしまい、プラスチゾルとして成形、加工ができなくなり、また、結合アルキル基の炭素数が7以上のフタル酸ジエステルは、粘度安定性は、比較的良いがアクリル樹脂との相溶性が極めて悪く、必要性能を得るのに十分の量を配合できない。
【0004】また、燐酸エステルでは、トリアルキルエステルは、結合アルキル基の炭素数が小さいトリアルキルエステルは初期粘度低く、アクリル樹脂との相溶性は良いが、粘度安定性が極めて悪く、結合アルキル基の炭素数が大きくなると、粘度安定性は、比較的良いがアクリル樹脂との相溶性が極めて悪く、必要性能を得るのに十分の量を配合できないことが分かった。
【0005】その他の有機酸エステルにおいても、結合アルキル基の炭素数の大きさとプラスチゾル粘度、粘度安定性、アクリル樹脂との相溶性などとの関係は、前記フタル酸エステル、燐酸エステルの場合と同様であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記の点に鑑み、プラスチゾルの粘度安定性が優れ、成形加工が容易にでき、可塑剤とアクリル樹脂の相溶性が優れ、加熱溶融した後でも可塑剤のブリード等のないアクリル樹脂系プラスチゾル組成物を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明で使用されるアクリル樹脂は、メチル(メタ)アクリレートのホモポリマーまたはコポリマーである。上記メチル(メタ)アクリレートのコポリマーとしては、メチル(メタ)アクリレートと各種の(メタ)アクリレートとのコポリマーが挙げられる。また、メチルメタクリレートとメチルアクリレートとのコポリマーも含まれる。メチル(メタ)アクリレートのコポリマーの例としては、メチルメタクリレートとブチルメタクリレートのコポリマーが挙げられる。
【0008】本発明で使用されるフタル酸エステルは、下記の一般式〔I〕で表されるものである。
【0009】
【化2】


【0010】式中、R1 は炭素数1〜6のアルキル基または−(R3 O)n 4 (R3 は炭素数2〜4のアルキレン基、R4 は炭素数1〜4のアルキル基、nは1〜4の整数)を表すが、R1 がアルキル基の場合、アルキル基の炭素数が7以上になると、該フタル酸エステルとアクリル樹脂との相溶性が極めて悪く、樹脂100重量部に対して該フタル酸エステル30重量部程度が相溶限界となり、30重量部程度配合した場合ゲル状の固形物になり、流動性がなく、プラスチゾルとして成形加工ができないので、アルキル基の炭素数は1〜6に限定される。炭素数が1〜6の場合、炭素数の大小により、相溶性、プラスチゾル粘度等に若干の差はあるが、プラスチゾルの調製がし易く、成形加工も容易である。好ましくは、アルキル基の炭素数は4または5である。
【0011】R1 が−(R3 O)n 4 のアルキレングリコールモノアルキルエーテル残基の場合、R3 の炭素数、R4 の炭素数、nがそれぞれ5以上の時は、R1 のアルキル基の炭素数が7以上のときと同様に、アクリル系樹脂との相溶性に乏しくプラスチゾルを調製できなくなる。−(R3 O)n 4 としては、R3 の炭素数が2、R4 の炭素数が4、nが1のものが好ましい。
【0012】R2 はシクロヘキシル基または炭素数1〜3のアルキル置換シクロヘキシル基を示す。ここで、R1 のアルキル基を一定にして、R2 をシクロヘキシル基または炭素数1〜3のアルキル置換シクロヘキシル基とした場合を比べると、炭素数1〜3のアルキル置換シクロヘキシル基とした方が、得られるプラスチゾル組成物の初期粘度が低く、粘度経時変化が小さいので好ましい。また、アルキル置換シクロヘキシル基のアルキル基の炭素数が4以上になると、アクリル系樹脂との相溶性が低下するので、アルキル基の炭素数は1〜3に限定される。
【0013】本発明で使用されるフタル酸エステルとしては、例えば、フタル酸エチル−シクロヘキシル、フタル酸−n−ブチル−シクロヘキシル、フタル酸−n−ブチル−メチルシクロヘキシル、フタル酸プロピル−エチルシクロヘキシル、フタル酸−n−ヘキシル−メチルシクロヘキシル、フタル酸−ブトキシエチル−シクロヘキシル、フタル酸−エトキシエチル−メチルシクロヘキシル等が挙げられる。
【0014】これらのフタル酸エステルは、通常、無水フタル酸とR1 、R2 のどちらか片方のアルコールから先にフタル酸−モノエステルを生成し、次いで残りのアルコールとエステル化反応触媒を投入する、通常のエステル化反応によって容易に合成できる。
【0015】本発明で使用されるフタル酸エステルの製造に使用されるアルコールは、R1のアルキル基を有するアルコールの例としては、メタノール、エタノール、n−ブタノール、n−ヘキサノールが挙げられ、R1 が−(R3 O)n 4 のアルキレングリコールモノアルキルエーテル残基であるエステルを製造する際のアルキレングリコールモノアルキルエーテルの例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0016】R2 のシクロヘキシル基または炭素数1〜3のアルキル置換シクロヘキシル基を有するアルコールの例としては、シクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノールまたはこれらの混合アルコール、プロピルシクロヘキサノール等が挙げられる。
【0017】本発明のアクリル樹脂系プラスチゾル組成物において、フタル酸エステルは、アクリル樹脂100重量部に対して、50〜150重量部程度配合されるのが好ましく、特に好ましくは、70〜100重量部である。
【0018】また、本発明のアクリル樹脂系プラスチゾル組成物には、必要に応じて、充填剤、顔料、接着剤、その他の添加剤および成形、加工上必要あれば、粘度調整剤としてアクリル樹脂を溶解しない有機溶剤、界面活性剤等を配合することができる。
【0019】本発明のアクリル樹脂系プラスチゾル組成物の調製は、上記のフタル酸エステルをアクリル樹脂に配合した後、擂潰機などの混合機を用いて均一に混合すればよい。
【0020】また、本発明で使用されるフタル酸エステルはアクリル系樹脂以外のポリマー、例えばポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン等の可塑剤、添加剤としても利用できる。
【0021】
【作用】メチル(メタ)アクリレートのホモポリマーまたはコポリマーに、上記の特定のフタル酸混基エステルを配合することにより、プラスチゾルの粘度安定性が優れ、成形加工が容易にでき、可塑剤とアクリル樹脂の相溶性が優れ、加熱溶融した後でも可塑剤のブリード等のないアクリル樹脂系プラスチゾル組成物を得ることができる。
【0022】
【実施例】以下、本発明の実施例を説明する。
実施例1ポリメチルメタクリレート樹脂100重量部に対して、フタル酸−n−ブチル−メチルシクロヘキシル80重量部を添加し、室温で擂潰機で10分間混練した後、1000mlビーカーに移し替え、減圧下で混入している空気を脱泡除去してアクリル樹脂系プラスチゾル組成物を調製した。
【0023】実施例2〜7、比較例1〜5実施例1における、フタル酸エステルの種類およびその配合量を表1のように変えたことの他は、実施例1と同様にしてアクリル樹脂系プラスチゾル組成物を調製した。
【0024】性能評価実施例1〜7および比較例1〜5で調製されたアクリル樹脂系プラスチゾル組成物について、初期粘度測定、粘度安定性試験、シート化試験および相溶性試験を行い、結果を表1に示した。試験方法は以下の通りである。まず、得られたプラスチゾル組成物の一部を200mlビーカーに移し、初期粘度測定および粘度安定試験に使用し、残りをシート化試験、相溶性試験に使用した。
■粘度測定(イ)初期粘度:プラスチゾル組成物調製後、2時間、20℃恒温室に放置後、BH型粘度計で測定した。単位はポイズで表した。
(ロ)粘度安定性試験:初期粘度を測定したプラスチゾル組成物を20℃恒温室に放置し、7日放置後の粘度を上記(イ)と同様にして測定し、初期粘度に対する7日放置後の粘度の粘度上昇倍率(AIと記す)を求めた。なお、AIの小さいプラスチゾルは、粘度安定性が優れていることを示す。
■シート化試験プラスチゾル組成物をガラス板上に0.5mmの厚さに流延し、130℃×20分の条件で溶融ゲル化してシートを生成させ、次いで冷却後、得られたシートをガラス板よりとりはずし、その強伸度を測定した。別に、上記試験の溶融ゲル化の条件を150℃×20分に変え、同様にして試験した。
(評価基準)
○:充分な強度と、伸びを有するシートが得られた。
△:シートは得られたが、強度、伸び共に不充分であった。
×:シートが得られなかった。
■ 相溶性■で作成したシートの一部を20℃、65%RHの恒温、恒湿室に放置し、15日後に、シート表面へのエステルのブリードの程度を官能判定によって評価した。
(評価基準)
○:ブリードしていなかった。
△:かすかにブリードしていた。
×:激しくブリードしていた。
【0025】
【表1】


【0026】なお、表1における略語の意味は次の通りである。
BMCHP:フタル酸−n−ブチル−メチルシクロヘキシルBCHP:フタル酸−n−ブチル−シクロヘキシルEBCHP:フタル酸−ブトキシエチル−シクロヘキシルEEMCHP:フタル酸−エトキシエチル−メチルシクロヘキシルHMCHP:フタル酸−n−ヘキシル−メチルシクロヘキシルPECHP:フタル酸プロピル−エチルシクロヘキシルDBP:フタル酸−ジ−n−ブチルDOP:フタル酸−ジ−2−エチルヘキシルNMCHP:フタル酸イソノニル−メチルシクロヘキシルOCHP:フタル酸−2−エチルヘキシル−シクロヘキシルDMCHP:フタル酸−ジ−メチルシクロヘキシル
【0027】
【発明の効果】本発明のアクリル樹脂系プラスチゾル組成物の構成は前記した通りであり、メチル(メタ)アクリレートのホモポリマーまたはコポリマーに前記の特定のフタル酸混基エステルが配合されているから、プラスチゾルの粘度安定性が優れ、成形加工が容易にでき、可塑剤とアクリル樹脂の相溶性が優れ、加熱溶融した後でも可塑剤のブリード等のないアクリル樹脂系プラスチゾル組成物が得られ、該プラスチゾル組成物を使用すると、塩化ビニル樹脂製プラスチゾルと同様に成形加工、製品化することが可能となる。また、アクリル樹脂系プラスチゾルの焼き付け温度は、塩化ビニル樹脂プラスチゾルより、低いので、エネルギーコストの低減につながる。また、塩化ビニル樹脂を使用しないので、近年、問題となってきている環境問題にも適応するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 メチル(メタ)アクリレートのホモポリマーまたはコポリマーと、可塑剤とからなるアクリル樹脂系プラスチゾル組成物であって、可塑剤が下記の一般式〔I〕で表されるフタル酸エステル
【化1】


〔式中、R1 は炭素数1〜6のアルキル基または−(R3 O)n 4 (R3 は炭素数2〜4のアルキレン基、R4 は炭素数1〜4のアルキル基、nは1〜4の整数)、R2 はシクロヘキシル基または炭素数1〜3のアルキル置換シクロヘキシル基〕であることを特徴とするアクリル樹脂系プラスチゾル組成物。