説明

アクリル系グラフト重合体粒子の製造方法および該製造方法により得られるアクリル系グラフト重合体粒子ならびに制電性樹脂組成物およびその製造方法

【課題】本発明は、アクリル系グラフト重合体粒子を簡便に効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のアクリル系グラフト重合体粒子の製造方法は、特定の重合用乳化剤の存在下、特定のアルキレンオキサイド鎖およびエチレン系不飽和結合を有する単量体ならびに特定のアクリル酸エステル単量体を乳化重合し、ゴム状幹重合体のラテックスを得る工程(1)と、前記ゴム状幹重合体にエチレン系不飽和単量体をグラフト重合し、グラフト重合体のラテックスを得る工程(2)と、前記グラフト重合体のラテックスを塩析処理することにより、アクリル系グラフト重合体粒子を得る工程(3)とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アクリル系グラフト重合体粒子の製造方法および該製造方法により得られるアクリル系グラフト重合体粒子ならびに制電性樹脂組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱可塑性樹脂成形体は、家庭電気機器、OA機器および自動車などの各部品を始めとする広範な分野において使用されている。しかしながら、熱可塑性樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂の多くは電気絶縁性であり、精密な電気・電子制御製品を備えた各種機器において、発生する静電気の帯電により制御装置の誤作動が起こるという問題があった。
【0003】
これらの帯電による問題を解決する方法として、熱可塑性樹脂に制電性を付与する方法が知られている。一般的に熱可塑性樹脂に制電性を付与する方法としては以下の方法が挙げられる。
(イ)界面活性剤等の帯電防止剤と熱可塑性樹脂とを混練する方法
(ロ)カーボンブラック等の導電性付与剤と熱可塑性樹脂とを混練する方法
(ハ)導電性付与剤を含有する導電層を塗布または蒸着により熱可塑性樹脂成形体表面上
に形成する方法
(イ)の方法は、永久的な帯電防止には充分でなく、水洗、摩擦等の手段によって表面に存在する帯電防止剤が除去されてしまうと制電効果が失われる恐れがあり、また、時間の経過とともに帯電防止剤が表面にブリードしてゴミまたはホコリの粘着の原因となり、その結果、成形体の透明性を損なうなどの問題があった。
【0004】
(ロ)の方法は、導電性付与剤としてカーボンブラックを含有させると、透明な成形体が得られないという問題があった。
(ハ)の方法は、複雑な形状の成形体へ適用することが困難であり、また、成形体表面上の導電層が剥がれやすいため、洗浄・磨耗等により制電効果が徐々に失われ、永久的な帯電防止は困難であった。
【0005】
上記問題を解決した制電性樹脂組成物として、本出願人は、重合用乳化剤としてカルボン酸系界面活性剤を使用して得られたアルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体にエチレン系不飽和単量体をグラフト重合したグラフト共重合体、熱可塑性樹脂、および特定のアニオン系界面活性剤を配合してなる永久制電性の優れた制電性樹脂組成物を既に提案している(特許文献1参照。)。
【0006】
上記グラフト共重合体は優れた制電性を有するばかりでなく、透明でかつ湿度依存性が低く、しかも成型性にも優れており、該グラフト共重合体を含む制電性樹脂組成物は、射出成型法、押出成型法、圧縮成型法、真空成型法等に幅広く使用でき、非常に使い勝手の良いものである。
【0007】
しかしながら、アクリル系グラフト重合体を製造する際には、加水分解防止のため、カルボン酸系界面活性剤以外の重合用乳化剤を選択しなければならなかった。
カルボン酸系界面活性剤以外の重合用乳化剤として、従来よりドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを使用すると、重合性は良好であるが、製造性に問題があった。例えば、凝析工程において塩析処理を行うと、得られる粉末状のグラフト重合体の含水率が非常に高くなるため、乾燥効率が悪くなったり、凝析工程において、酸析処理を行うと、さらに中和工程が必要となり、製造工程が煩雑になるなど製造性に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開公報WO2000/27917パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、耐熱性、耐候性の観点からアクリル系グラフト重合体粒子の用途が増大していることから、制電特性の優れたアクリル系グラフト重合体粒子を簡便に効率よく製造する方法が望まれている。
【0010】
本発明は、アクリル系グラフト重合体粒子を簡便に効率よく製造する方法および該製法により得られるアクリル系グラフト重合体粒子を提供することを目的とする。さらに、前記アクリル系グラフト重合体粒子を含有する特性の優れた制電性樹脂組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、アクリル系グラフト重合体を重合する際に、特定の乳化重合剤を使用し、塩析処理を行えば、中和工程が不要となるだけでなく、含水率の少ない粉末状の重合体が得られるため、乾燥効率が極めて良好となり、重合体粒子の製造性が向上することを見出した。また、この製造方法により得られたアクリル系グラフト重合体粒子を含有する制電性樹脂組成物は、従来の制電性樹脂組成物よりさらに電気特性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明のアクリル系グラフト重合体粒子の製造方法は、
下記式(I)で表わされる重合用乳化剤の存在下、下記式(II)で表わされるアルキレンオキサイド鎖およびエチレン系不飽和結合を有する単量体ならびに下記式(V)で表される単量体から選択される少なくとも1種の単量体と、下記式(III)で表わされるアクリル酸エステル単量体とを乳化重合し、ゴム状幹重合体のラテックスを得る工程(1)と、
前記ゴム状幹重合体にエチレン系不飽和単量体をグラフト重合し、グラフト重合体のラテックスを得る工程(2)と、
前記グラフト重合体のラテックスを塩析処理することにより、アクリル系グラフト重合体粒子を得る工程(3)とを有することを特徴とする。
【0013】
【化1】

(式(I)中、Rは炭素数6〜18のアルキル基を示し、Mはそれぞれ独立にアルカリ金属またはアンモニウムを示し、aおよびbは、1≦a+b≦4を満たす整数である。)
【0014】
【化2】

(式(II)中、R2およびR3は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、mおよびnは、4≦m+n≦500を満たす整数である。)
【0015】
【化3】

(式(V)中、R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R2およびR3は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、mおよびnは、4≦m+n≦500を満たす整数であり、Xは、水素原子、炭素数1〜9のアルキル基、フェニル基、−SO3Y、−SO2Y、−PO32、または下記式(a)で表わされる基を示し、Yは水素原子またはアルカリ金属を示し、Zは、水素原子又は炭素数1〜40のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、フェニル基または下記式(b)で表される基を示す。
【0016】
【化4】

式(a)中、R4は、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R5、R6、R7は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜9のアルキル基を示し、Yは水素原子またはアルカリ金属を示す。
【0017】
【化5】

式(b)中、pおよびqは、4≦p+q≦500を満たす整数であり、R2、R3およびXは、式(V)の場合と同一の意味を表わす。)
【0018】
【化6】

(式(III)中、R'は炭素数1〜18の炭化水素基を示す。)
前記工程(1)で用いる単量体の合計を5〜95質量部とし、前記工程(2)で用いる単量体の合計を5〜95質量部とする(ただし、工程(1)および(2)で用いる単量体の合計を100質量部とする)ことが好ましい。
【0019】
前記工程(1)で用いる単量体の合計100質量%あたり、前記式(II)で表わされるアルキレンオキサイド鎖およびエチレン系不飽和結合を有する単量体ならびに前記式(V)で表される単量体から選択される少なくとも1種の単量体を1〜50質量%、前記式(III)で表わされるアクリル酸エステル単量体を50〜99質量%とすることが好ましい。
【0020】
前記式(I)において、Rがノニル基またはドデシル基であり、Mがナトリウムまたはカリウムであることが好ましい。前記式(I)において、Rがドデシル基であり、Mがナトリウムであり、a=1、b=1であることが特に好ましい。
【0021】
前記塩析処理は塩化カルシウムによる処理であることが好ましい。塩化カルシウムは、安価で容易に入手可能であることから塩析処理に好適に用いることができる。
本発明のアクリル系グラフト重合体粒子は、上記アクリル系グラフト重合体粒子の製造方法で得ることができる。
【0022】
本発明の制電性樹脂組成物は、上記製造方法で得られるアクリル系グラフト重合体粒子を含有することを特徴とする。また、本発明の制電性樹脂組成物の第一の態様としては、上述のアクリル系グラフト重合体粒子と、当該アクリル系グラフト重合体粒子以外の熱可塑性樹脂とを含有する態様が挙げられる。本発明の制電性樹脂組成物の第二の態様としては、上述のアクリル系グラフト重合体粒子と、当該アクリル系グラフト重合体粒子以外の熱可塑性樹脂と、界面活性剤とを含有する態様が挙げられる。本発明の制電性樹脂組成物の第三の態様としては、上述のアクリル系グラフト重合体粒子と、界面活性剤とを含有し、前記アクリル系グラフト重合体粒子以外の熱可塑性樹脂を含有しない態様が挙げられる。
【0023】
本発明の制電性樹脂組成物が第一および第二の態様の場合、アクリル系グラフト重合体粒子の含有量は、アクリル系グラフト重合体粒子および熱可塑性樹脂の合計を100質量部に対して、5〜99質量部であり、熱可塑性樹脂の含有量は、1〜95質量部であることが好ましい。
【0024】
本発明の制電性樹脂組成物が第二の態様の場合、前記界面活性剤の含有量は、前記アクリル系グラフト重合体粒子および前記熱可塑性樹脂の合計100質量部に対して、0.01〜5質量部であることが好ましい。
【0025】
本発明の制電性樹脂組成物が第三の態様の場合、前記界面活性剤の含有量は、前記アクリル系グラフト重合体粒子100質量部に対して、0.01〜5質量部であることが好ましい。
【0026】
本発明の制電性樹脂組成物の製造方法は、上記製造方法で得られるアクリル系グラフト重合体粒子5〜99質量部および熱可塑性樹脂1〜95質量部(ただし、アクリル系グラフト重合体粒子および熱可塑性樹脂の合計を100質量部とする)を混合する工程を有することを特徴とする。
【0027】
また、本発明の制電性樹脂組成物の製造方法は、上記製造方法で得られるアクリル系グラフト重合体粒子5〜99質量部、熱可塑性樹脂1〜95質量部および界面活性剤0.01〜5質量部(ただし、アクリル系グラフト重合体粒子および熱可塑性樹脂の合計を100質量部とする)を混合する工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、制電性に優れたアクリル系グラフト重合体粒子を簡便に効率よく製造することができる。さらに、前記アクリル系グラフト重合体粒子から特性の優れた制電性樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[アクリル系グラフト重合体粒子の製造方法]
本発明のアクリル系グラフト重合体粒子の製造方法は、下記式(I)で表わされる重合用乳化剤の存在下、下記式(II)で表わされるアルキレンオキサイド鎖およびエチレン系不飽和結合を有する単量体ならびに下記式(V)で表される単量体から選択される少なくとも1種の単量体と、下記式(III)で表わされるアクリル酸エステル単量体とを乳化重合し、ゴム状幹重合体のラテックスを得る工程(1)と、前記ゴム状幹重合体にエチレン系不飽和単量体をグラフト重合し、グラフト重合体のラテックスを得る工程(2)と、前記グラフト重合体のラテックスを塩析処理することにより、アクリル系グラフト重合体粒子を得る工程(3)とを有することを特徴としている。
【0030】
【化7】

(式(I)中、Rは炭素数6〜18のアルキル基を示し、Mはそれぞれ独立にアルカリ金属またはアンモニウムを示し、aおよびbは、1≦a+b≦4を満たす整数である。)
【0031】
【化8】

(式(II)中、R2およびR3は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、mおよびnは、4≦m+n≦500を満たす整数である。)
【0032】
【化9】

(式(V)中、R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R2およびR3は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、mおよびnは、4≦m+n≦500を満たす整数であり、Xは、水素原子、炭素数1〜9のアルキル基、フェニル基、−SO3Y、−SO2Y、−PO32、または下記式(a)で表わされる基を示し、Yは水素原子またはアルカリ金属を示し、Zは、水素原子又は炭素数1〜40のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、フェニル基または下記式(b)で表される基を示す。
【0033】
【化10】

式(a)中、R4は、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R5、R6、R7は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜9のアルキル基を示し、Yは水素原子またはアルカリ金属を示す。
【0034】
【化11】

式(b)中、pおよびqは、4≦p+q≦500を満たす整数であり、R2、R3およびXは、式(V)の場合と同一の意味を表わす。)
【0035】
【化12】

(式(III)中、R'は炭素数1〜18の炭化水素基を示す。)
【0036】
[ゴム状幹重合体のラテックスを得る工程(1)]
工程(1)は、上記式(I)で表わされる重合用乳化剤の存在下、上記式(II)で表わされるアルキレンオキサイド鎖およびエチレン系不飽和結合を有する単量体ならびに上記式(V)で表される単量体から選択される少なくとも1種の単量体と、上記式(III)で表わされるアクリル酸エステル単量体とを乳化重合し、ゴム状幹重合体のラテックスを得る工程である。
【0037】
また、工程(1)は、必要に応じて添加剤、架橋剤およびその他の単量体を使用することができる。
工程(1)としては、例えば、重合用乳化剤、上記式(II)で表わされるアルキレンオキサイド鎖およびエチレン系不飽和結合を有する単量体ならびに上記式(V)で表される単量体から選択される少なくとも1種の単量体、上記式(III)で表わされるアクリル酸エステル単量体、水、必要に応じて架橋剤およびその他の単量体を、反応容器に仕込み、乳化重合を行うことによって、ゴム状幹重合体のラテックスを得る工程が挙げられる。
【0038】
工程(1)で得られるゴム状幹重合体としては、ガラス転移温度が低いことが好ましい。前記ガラス転移温度は20〜−100℃であることが好ましく、0〜−75℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が前記範囲内であると制電性発現の点で好ましい。
【0039】
前記乳化重合の温度は、通常0〜100℃であり、20〜90℃であることが好ましく、30〜80℃であることがより好ましい。温度が前記範囲であると温度制御のためのエネルギー消費を少なくすることができるので好ましい。
【0040】
重合用乳化剤の使用量は、工程(1)で用いる単量体の合計を100質量%とすると、0.01〜10質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜5質量%の範囲であることがより好ましい。
【0041】
なお、工程(1)で用いる単量体の合計とは、上記式(II)で表わされるアルキレンオキサイド鎖およびエチレン系不飽和結合を有する単量体ならびに上記式(V)で表される単量体から選択される少なくとも1種の単量体、上記式(III)で表わされるアクリル酸エステル単量体、必要に応じて用いられる架橋剤およびその他の単量体の合計をいう。
【0042】
上記式(II)で表わされるアルキレンオキサイド鎖およびエチレン系不飽和結合を有する単量体ならびに上記式(V)で表される単量体から選択される少なくとも1種の単量体の使用量は、工程(1)で用いる単量体の合計を100質量%とすると、1〜50質量%の範囲であることが好ましく、4〜45質量%の範囲であることがより好ましい。前記使用量が1質量%以上であると、アクリル系グラフト重合体粒子を含有する制電性樹脂組成物の制電性が優れる。また前記使用量が50質量%以下であると、ゴム状幹重合体の形成あるいはグラフト重合における重合性が向上し、また得られる重合体の塩析等の処理がさらに容易となる。
【0043】
上記式(III)で表わされるアクリル酸エステル単量体の使用量は、工程(1)で用いる単量体の合計を100質量%とすると、50〜99質量%の範囲であることが好ましく、55〜96質量%の範囲であることがより好ましい。上記式(III)で表わされるアクリル酸エステル単量体の使用量が前記範囲内であると、得られるアクリル系グラフト重合体粒子のガラス転移温度を充分に低くすることができる。
【0044】
必要に応じて用いる架橋剤の使用量は、工程(1)で用いる単量体の合計を100質量%とすると、0.01〜10質量%の範囲であることが好ましく、0.05〜5質量%の範囲であることがより好ましい。
【0045】
必要に応じて用いるその他の単量体の使用量は、ゴム状幹重合体が室温でゴム状を呈する範囲で使用され、工程(1)で用いる単量体の合計を100質量%とすると、0〜40質量%の範囲であることが好ましく、0〜20質量%の範囲であることがより好ましい。
【0046】
水の使用量は、工程(1)で用いる単量体の合計を100質量%とすると、50〜9900質量%の範囲であることが好ましく、100〜1900質量%の範囲であることがより好ましい。
【0047】
アクリル系グラフト重合体粒子の製造方法において、このような量比とすると、重合の際、ゴム状幹重合体の析出を低減することができ、また発熱を制御することができる点で好ましい。
以下工程(1)で用いる各成分について説明する。
【0048】
<(a)重合用乳化剤>
工程(1)で用いる重合用乳化剤は、下記式(I)で表わされる。
【0049】
【化13】

式(I)中、Rは炭素数6〜18のアルキル基を示し、Mはそれぞれ独立にアルカリ金属またはアンモニウムを示し、aおよびbは、1≦a+b≦4を満たす整数である。
【0050】
式(I)中、Rは炭素数8〜18のアルキル基であることが好ましく、9〜16のアルキル基であることがより好ましく、9〜14のアルキル基であることが特に好ましい。Rの具体例としては、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基が挙げられる。中でも、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基がより好ましく、ノニル基、ドデシル基が特に好ましい。
【0051】
式(I)中、Mの具体例としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウムが挙げられる。中でも、ナトリウム、カリウムがより好ましく、ナトリウムが特に好ましい。
【0052】
前記式(I)において、Rがノニル基またはドデシル基であり、Mがナトリウムまたはカリウムであることが好ましい。
式(I)中、aは、0〜3の整数であることが好ましく、0〜2の整数であることがより好ましく、0〜1の整数であることが特に好ましい。bは、0〜3の整数であることが好ましく、0〜2の整数であることがより好ましく、0〜1の整数であることが特に好ましい。a+bは、1≦a+b≦3を満たす整数であることが好ましく、1≦a+b≦2を満たす整数であることが特に好ましい。
【0053】
前記式(I)において、Rがドデシル基であり、Mがナトリウムであり、a=1、b=1であることが好ましい。
工程(1)で用いる重合用乳化剤の具体例としては、ノニルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸ナトリウム、ノニルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸カリウム、ドデシルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸カリウムなどが挙げられる。中でも、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(前記式(I)において、Rがドデシル基であり、Mがナトリウムであり、a=1、b=1である場合)であることが特に好ましい。
【0054】
このようなアルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩を、重合用乳化剤として工程(1)で用いると、工程(3)における塩析処理後、得られる粉末状のグラフト重合体の含水率が小さいため、乾燥時間を短縮することができ、グラフト重合体の製造性を向上させることができる。また、最終的に得られるアクリル系グラフト重合体粒子のかさ比重が大きく、流下性にも優れる傾向がある。さらに、最終的に得られるアクリル系グラフト重合体粒子は制電性を有する。
【0055】
<(b)式(II)で表わされるアルキレンオキサイド鎖およびエチレン系不飽和結合を有する単量体、式(V)で表される単量体>
工程(1)において、後述する式(III)で表わされるアクリル酸エステル単量体と乳化重合し得る単量体は、下記式(II)で表わされるアルキレンオキサイド鎖およびエチレン系不飽和結合を有する単量体ならびに下記式(V)で表される単量体から選択される少なくとも1種の単量体である。
【0056】
【化14】

式(II)中、R2およびR3は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、mおよびnは、4≦m+n≦500を満たす整数である。特に好ましくは、R2、R3の少なくとも一方が水素原子であるエチレンオキサイド基が4個以上からなるエチレンオキサイドブロックを有するものである。
【0057】
【化17】

式(V)中、Zは、水素原子又は炭素数1〜40のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、フェニル基または下記式(b)であり、R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは、水素原子、炭素数1〜9のアルキル基、フェニル基、−SO3Y、−SO2Y、−PO32、または下記式(a)で表わされる基を示し、Yは水素原子またはアルカリ金属を示し、R2、R3ならびにm、nは、式(II)の場合と同一の意味を表わす。
【0058】
【化16】

式(a)中、R4は、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R5、R6、R7は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜9のアルキル基を示し、Yは水素原子またはアルカリ金属を示す。
【0059】
【化18】

式(b)中、pおよびqは、4≦p+q≦500を満たす整数であり、Xは、式(V)の場合と同一の意味を表わし、R2およびR3は、式(II)の場合と同一の意味を表わす。
【0060】
式(II)で表わされるアルキレンオキサイド鎖およびエチレン系不飽和結合を有する単量体としては、下記式(IV)で表される単量体であることが好ましい。
【0061】
【化15】

式(IV)中、R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは、水素原子、炭素数1〜9のアルキル基、フェニル基、−SO3Y、−SO2Y、−PO32、または下記式(a)で表わされる基を示し、Yは水素原子またはアルカリ金属を示し、R2、R3ならびにm、nは、式(II)の場合と同一の意味を表わす。
【0062】
【化16】

式(a)中、R4は、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R5、R6、R7は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜9のアルキル基を示し、Yは水素原子またはアルカリ金属を示す。
【0063】
式(IV)、式(V)で表わされる単量体の中でも、R2、R3の少なくとも一方が水素であり、4個以上のエチレンオキサイド基を有するものが特に好ましい。もちろん式(IV)で表わされる単量体以外の、上記式(II)で表わされるアルキレンオキサイド鎖およびエチレン系不飽和結合を有する単量体の使用も可能である。
【0064】
アルキレンオキサイド鎖およびエチレン系不飽和結合を有する単量体中のアルキレンオキサイド基の数、すなわちm+nは、4≦m+n≦500を満たす整数であり、6≦m+n≦50を満たす整数であることが好ましく、9≦m+n≦50を満たす整数であることがより好ましい。アルキレンオキサイド基の数が4より少ない場合には制電性を付与しにくく、また500より多い場合には重合する際に水又はモノマーに溶解しにくく、また重合性も悪くなる。
【0065】
上記式(II)で表わされるアルキレンオキサイド鎖およびエチレン系不飽和結合を有する単量体ならびに上記式(V)で表される単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0066】
<(c)式(III)で表わされるアクリル酸エステル単量体>
工程(1)において、上記式(II)で表わされるアルキレンオキサイド鎖およびエチレン系不飽和結合を有する単量体ならびに上記式(V)で表される単量体から選択される少なくとも1種の単量体と乳化重合し得る単量体は、下記式(III)で表わされるアクリル酸エステル単量体である。
【0067】
【化19】

式(III)中、R'は炭素数1〜18の炭化水素基であり、好ましくは炭素数4〜8の炭化水素基である。前記炭化水素基は、飽和炭化水素基でもよく、不飽和炭化水素基でもよい。このような炭化水素基の具体例としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられる。
【0068】
上記式(III)で表わされるアクリル酸エステル単量体の具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ノニルまたはアクリル酸デシルが挙げられる。上記式(III)で表わされるアクリル酸エステル単量体は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。上記式(III)で表わされるアクリル酸エステル単量体を使用すると、最終的に得られるアクリル系グラフト重合体粒子は、耐熱性および耐候性を有しつつ、しかもガラス転移温度(Tg)が低くなる傾向がある。
【0069】
(d)架橋剤
工程(1)において、必要により架橋剤を用いることができる。架橋剤として、例えばビニル基、1,3−ブタジエニル基、アクリル基、メタクリル基、アリル基等のエチレン性不飽和基を2個以上有する多官能性不飽和単量体を使用することができる。前記架橋剤は1種単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0070】
多官能性不飽和単量体の具体例としては、アリルアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、1,3―ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、1,3―ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、ジビニルベンゼンもしくはその誘導体、ジビニルナフタレンもしくはその誘導体、ジアリルフタレートもしくはその誘導体が挙げられる。これらの多官能性不飽和単量体の中でも、ジビニルベンゼンもしくはその誘導体、アリル(メタ)クリレート;2〜50個のポリアルキレングリコール基を有するジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0071】
(e)その他の単量体
工程(1)に用いるその他の単量体としては、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、不飽和ニトリル、芳香族ビニル、アルキルビニルエーテル、アルキルビニルケトン、2−ヒドロキシエチルメタクリル酸エステル、ダイアセトンアクリルアミド、塩化ビニル、塩化ビニリデン、イタコン酸、イタコン酸アルキルエステル、イソブテン、2−アシッドホスフォキシエチルメタクリレート、3−クロロ−2−アシッドホスフォキシピロピルメタクリレート、スチレンスルホン酸ナトリウム等の1種以上の単量体を用いることができる。前記芳香族ビニルとしては、スチレン、ビニルナフタレン、2−イソプロピルナフタレン等が挙げられる。特にスチレンは、得られる重合体に透明性を付与できる点で好ましい。
【0072】
(f)添加剤
上記以外に工程(1)で使用することが可能な添加剤としては、ラジカル重合開始剤、pH緩衝剤、連鎖移動剤などが挙げられる。これらの添加剤は他の工程において使用してもよい。
【0073】
ラジカル重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤、または酸化剤と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤が用いられる。これらの中でも反応条件が穏やかであることから、レドックス系開始剤を用いることが好ましく、特にエチレンジアミンテトラ酢酸鉄、ホルムアルデヒドスルホキシレートおよびt−ブチルハイドロパーオキサイドを組み合わせた開始剤を用いることが好ましい。
【0074】
pH緩衝剤としては、ピロリン酸4ナトリウム、ピロリン酸2水素2ナトリウムなどが用いられる。
連鎖移動剤としては、メルカプタンなどが挙げられる。連鎖移動剤の具体例としては、ノルマルオクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタンが挙げられる。
【0075】
[グラフト重合体のラテックスを得る工程(2)]
工程(2)は、前記工程(1)で得られたゴム状幹重合体にエチレン系不飽和単量体をグラフト重合し、グラフト重合体のラテックスを得る工程である。
【0076】
工程(2)としては、例えば、前記工程(1)得られたゴム状幹重合体のラテックス中に、1種以上のエチレン系不飽和単量体、重合開始剤および水を添加して、グラフト重合を行うことによって、グラフト重合体のラテックスを得る工程が挙げられる。
【0077】
前記グラフト重合の温度は、通常0〜100℃であり、20〜90℃であることが好ましく、30〜80℃であることがより好ましい。
工程(1)および(2)で用いる単量体の合計を100質量部とすると、工程(1)で用いる単量体を5〜95質量部とすることが好ましく、15〜90質量部とすることがより好ましく、20〜80質量部とすることがさらに好ましく、工程(2)で用いる単量体を5〜95質量部とすることが好ましく、10〜85質量部とすることがより好ましく、20〜80質量部とすることがさらに好ましい。
【0078】
アクリル系グラフト重合体粒子の製造方法において、このような量比とすると、製造性良く、粉体性状および制電性の優れたアクリル系グラフト重合体粒子が得られる傾向がある。
【0079】
前記工程(1)で得られたゴム状幹重合体にグラフト重合させるエチレン系不飽和単量体は、後述する熱可塑性樹脂との相溶性を高めることが可能な単量体であれば、公知の単量体を用いることができる。エチレン系不飽和単量体の具体例としては、スチレン、メタクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、アクリルアミド、酢酸ビニル、不飽和ニトリル、芳香族ビニル、アルキルビニルエーテル、アルキルビニルケトン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステル、ジアセトンアクリルアミド、塩化ビニル、塩化ビニリデン、イタコン酸、イタコン酸アルキルエステル、イソブテン、2−アッシドホスフォキシエチルメタクリレート、3−クロロ−2−アッシドホスフォキシプロピルメタクリレート、スチレンスルホン酸ナトリウムを挙げられる。これらの単量体は1種単独でも2種以上組み合わせても用いることができる。
【0080】
これらのエチレン系不飽和単量体の中でも、スチレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルが好ましい。
【0081】
これらのエチレン系不飽和単量体の存在により、得られるアクリル系グラフト重合体粒子の後処理(例えば、塩析処理等)が容易となる。
工程(2)において、必要に応じて上述の添加剤などを使用することができる。
【0082】
[アクリル系グラフト重合体粒子を得る工程(3)]
工程(3)は、前記工程(2)で得られたグラフト重合体のラテックスを塩析処理することにより、アクリル系グラフト重合体粒子を得る工程である。
【0083】
ここで塩析処理とは、グラフト重合体のラテックスに、塩化カルシウムなどの無機塩類を添加し、アクリル系グラフト重合体粒子を凝析させることをいう。無機塩類の添加量は、凝析後に脱水して得られるろ液において、未凝析ラテックスに起因する白濁が観察されなくなる量を目安として適宜、決定される。ここで脱水とは、アクリル系グラフト重合体のラテックスを塩析処理して得られるものを、例えば、吸引ろ過等のろ過により、アクリル系グラフト重合体粒子とろ液とに分離することをいう。
【0084】
工程(3)としては、例えば、前記工程(2)で得られたグラフト重合体のラテックス中に、塩化カルシウム水溶液を添加することによって、アクリル系グラフト重合体粒子を凝析させる工程が挙げられる。工程(3)において、酸析処理ではなく塩析処理を行うことにより、後の中和工程が不要となり、重合体粒子の製造性を向上できる。
【0085】
塩析処理の温度は、0〜100℃であることが好ましく、20〜90℃であることがより好ましい。
塩析処理としては、塩化カルシウムによる処理、塩化ナトリウムによる処理、塩化アルミニウムによる処理、塩化マグネシウムによる処理が挙げられるが、中でも、塩化カルシウムによる処理がコストおよび排水処理の観点から好ましい。塩化カルシウムは、安価で容易に入手可能であることから塩析処理に好適に用いることができる。
【0086】
上記塩析処理後、脱水洗浄を行うことによりアクリル系グラフト重合体粒子が得られる。脱水洗浄後に得られるアクリル系グラフト重合体粒子は水分を含んでいるため、さらに乾燥することにより、粉末状のアクリル系グラフト重合体粒子を得ることができる。前記乾燥機としては、気流、流動乾燥機などが挙げられる。
【0087】
本発明のアクリル系グラフト重合体粒子の製造方法によれば、上記塩析処理後、脱水洗浄を行うことにより得られるアクリル系グラフト重合体粒子の含水率が、従来の製造方法に比べて全般的に低くなるため、脱水洗浄後のアクリル系グラフト重合体粒子の乾燥時間を短縮することができる。
【0088】
上記塩析処理後、脱水洗浄を行うことにより得られるアクリル系グラフト重合体粒子の含水率は、低いほど好ましいが、一般的に乾燥質量をベースとして100質量%以下であることが好ましい。ここで含水率とは、脱水洗浄後に得られるアクリル系グラフト重合体粒子の質量と、脱水洗浄後さらに乾燥して得られるアクリル系グラフト重合体粒子の質量とから下記式により算出した値である。
含水率(質量%)=(乾燥前の質量−乾燥後の質量)/乾燥後の質量×100
【0089】
脱水洗浄としては、例えば以下のような操作が挙げられる。アクリル系グラフト重合体のラテックス(固形分質量:100g)を塩析処理して得られるものを、吸引ろ過により、アクリル系グラフト重合体粒子とろ液とに分離する(脱水)。分離したアクリル系グラフト重合体をヌッチェ(直径:30cm)内で水により洗浄する。当該洗浄に用いた水の質量は、前記アクリル系グラフト重合体の固形分質量の10倍とする。当該洗浄後、12(リットル/分)の排気力で吸引ろ過を行い、水が切れて空気が通過するようになってから更に10分間吸引ろ過を行うことにより、アクリル系グラフト重合体粒子が得られる。
【0090】
[アクリル系グラフト重合体粒子]
本発明のアクリル系グラフト重合体粒子は、上述の製造方法で得られることを特徴としている。上述の製造方法で得られるアクリル系グラフト重合体粒子のかさ比重は、通常0.30〜0.60g/mlであり、0.35〜0.60g/mlであることが好ましい。このような範囲のかさ比重であると、粒子の運送効率、粒子強度の点で好ましい。上述の製造方法で得られるアクリル系グラフト重合体粒子の流下性は、通常20秒以下であり、15秒以下であることが好ましく、12秒以下であることがより好ましい。このような範囲の流下性であると製造時の粒子の搬送性の点で好ましい。なお、本発明において、かさ比重および流下性は後述する実施例に記載の方法で測定する。
上述の製造方法で得られるアクリル系グラフト重合体粒子は、制電性を有し、制電性樹脂として用いることができる。
【0091】
[制電性樹脂組成物]
本発明の制電性樹脂組成物は、上述のアクリル系グラフト重合体粒子を含有することを特徴としている。
本発明の制電性樹脂組成物としては、以下の第一〜四の態様を例示することができる。本発明の制電性樹脂組成物の第一の態様としては、上述のアクリル系グラフト重合体粒子および任意の添加剤を含有する制電性樹脂組成物が挙げられる。本発明の制電性樹脂組成物の第二の態様としては、上述のアクリル系グラフト重合体粒子、該アクリル系グラフト重合体粒子以外の熱可塑性樹脂、および任意の添加剤を含有する制電性樹脂組成物が挙げられる。本発明の制電性樹脂組成物の第三の態様としては、上述のアクリル系グラフト重合体粒子、該アクリル系グラフト重合体粒子以外の熱可塑性樹脂、界面活性剤、および任意の添加剤を含有する制電性樹脂組成物が挙げられる。本発明の制電性樹脂組成物の第四の態様としては、上述のアクリル系グラフト重合体粒子、界面活性剤、および任意の添加剤を含有し、前記アクリル系グラフト重合体粒子以外の熱可塑性樹脂を含有しない態様が挙げられる。
【0092】
本発明の制電性樹脂組成物は、界面活性剤を含有すると制電性向上の観点から好ましい。
前記熱可塑性樹脂は、前記アクリル系グラフト重合体粒子と相溶性の良い熱可塑性樹脂であれば特に制限されるものではないが、好適には、ポリオレフィン系樹脂、ゴム強化スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、各種の熱可塑性エラストマー、液晶ポリマー、ポリウレタン系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、フッ素系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂等である。これらは、1種単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。特に好適には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、芳香族ビニルポリマー、ニトリル樹脂、ポリメチルメタクリレート及びその共重合体、ABS樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂等を使用することができる。
【0093】
前記界面活性剤としては、特に制限されるものではないが、アニオン系界面活性剤であることが好ましい。
アニオン系界面活性剤としては、適宜公知のアニオン系界面活性剤を使用することができ、特に限定されない。アニオン系界面活性剤の具体例としては、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、コハク酸エステルスルホン酸塩、リン酸エステル塩、脂肪酸エチルスルホン酸塩、脂肪酸塩、脂肪族アルコール硫酸エステル塩が挙げられる。これらのアニオン系界面活性剤の中でも、成形時において分解または飛散等によって発生すると考えられる成形体のくもりまたは変色の抑制、ならびに得られる制電性樹脂組成物における制電性の低下防止という観点から、JIS K7120に定める熱重量減少開始温度(以下「Tng」とも記す。)が250℃以上のアニオン系界面活性剤を使用するのが好ましい。このようなアニオン系界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、脂肪酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩が挙げられる。より詳しくは、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム(Tng=460℃)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(Tng=435℃)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(Tng=430℃)、ドデシルベンゼンスルホン酸ルビジウム(Tng=430℃)、ドデシルベンゼンスルホン酸セシウム(Tng=425℃)、リチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(Tng=425℃)、トリフルオロメタンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム(Tng=430℃)、ビストリフルオロメタンスルホンイミド塩等を挙げることができる。
【0094】
本発明の制電性樹脂組成物が第二および第三の態様の場合、アクリル系グラフト重合体粒子の含有量は、アクリル系グラフト重合体粒子および熱可塑性樹脂の合計を100質量部に対して、5〜99質量部であり、5〜70質量部であることが好ましく、5〜50質量部であることがより好ましく、熱可塑性樹脂の含有量は、1〜95質量部であり、30〜95質量部であることが好ましく、50〜95質量部であることがより好ましい。このような含有割合とすると、成形性、機械的特性および制電性とのバランスの点で好ましい。
【0095】
本発明の制電性樹脂組成物が第三の態様の場合、前記界面活性剤の含有量は、前記アクリル系グラフト重合体粒子および前記熱可塑性樹脂の合計100質量部に対して、0.01〜5質量部であることが好ましく、0.05〜4質量部であることがより好ましく、0.1〜3質量部であることが特に好ましい。
【0096】
本発明の制電性樹脂組成物が第四の態様の場合、前記界面活性剤の含有量は、前記アクリル系グラフト重合体粒子100質量部に対して、0.01〜5質量部であることが好ましく、0.05〜4質量部であることがより好ましく、0.1〜3質量部であることが特に好ましい。
【0097】
前記界面活性剤の含有量が前記下限値未満であると、制電性付与効果が小さくなる傾向があり、一方、前記上限値を超えると、成形体表面へのブリードアウト等の問題が発生しやすくなる。
【0098】
本発明の制電性樹脂組成物は、上記成分以外にも、必要に応じて紫外線吸収剤、熱安定剤、酸化防止剤、滑剤、充填剤、染顔料などの添加剤を加えることができ、これらの添加は、前記アクリル系グラフト重合体の重合時、前記アクリル系グラフト重合体と熱可塑性樹脂等との混合時、制電性樹脂組成物の成形時などの何れでもよい。
【0099】
また、本発明の制電性樹脂組成物は、有機溶媒に分散させて塗布型あるいはフィルム成形性の分散液とすることもできる。有機溶媒として、好ましくはベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム等の含塩素化合物類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等の含窒素化合物類が良い。また2種類以上の溶媒を混合して使用しても良い。
分散液の濃度は特に限定されないが、5〜60質量%、更には5〜30質量%程度が好ましい。
【0100】
本発明の制電性樹脂組成物は制電性に優れる。本発明の制電性樹脂組成物は以下のような体積抵抗率および表面抵抗率を有することが好ましい。制電性樹脂組成物の体積抵抗率および表面抵抗率は、JIS K6911に準じて、該制電性樹脂組成物から板状(100mm×100mm、厚さ3mm)に成形した試験片を用いて測定する。
【0101】
本発明の制電性樹脂組成物の体積抵抗率(JIS K6911準拠)は、通常1×1013Ωm以下であり、好ましくは1×1011Ωm以下であり、より好ましくは1×1010Ωm以下であり、特に好ましくは1×109Ωm未満である。制電性樹脂組成物の体積抵抗率の下限は、通常1×105Ωmである。成形体の制電性が優れる体積抵抗率の範囲と、成形体の制電性は制電性樹脂組成物の体積抵抗率と相関があり、一般的に体積抵抗率が1×1010Ωm以下であれば成形体の制電性は優れており、1×109Ωm未満であれば成形体の制電性は特に優れている。
【0102】
また、本発明の制電性樹脂組成物の表面抵抗率(JIS K6911準拠)は、通常1×1013Ω/□未満であり、好ましくは1×1012Ω/□以下であり、1×1011Ω/□未満である。制電性樹脂組成物の表面抵抗率の下限は、通常1×105Ω/□である。成形体の制電性は制電性樹脂組成物の表面抵抗率と相関があり、一般的に表面抵抗率が1×1012Ω/□以下であれば成形体の制電性は優れており、1×1011Ω/□未満であれば成形体の制電性は特に優れている。
【0103】
本発明の制電性樹脂組成物は、射出成型法、押出成形法、プレス成形法あるいは真空成形法等の通常の加工方法により、シート、フィルム、管、繊維、異形成形体、二色成形体等の任意の成形体に加工可能である。また有機溶媒分散液を使用して、刷毛塗り法、スプレー法、キャスト法、ロール法、あるいはスピン法等の通常の塗工方法により、任意の成形体表面に塗装可能である。
【0104】
[制電性樹脂組成物の製造方法]
本発明の制電性樹脂組成物の製造方法は、上述のアクリル系グラフト重合体粒子を含有する制電性樹脂組成物が得られる製造方法であれば、特に限定されない。
【0105】
本発明の制電性樹脂組成物が前記第一の態様である場合、前記アクリル系グラフト重合体粒子および任意の添加剤を混合する工程を有する製造方法が挙げられる。本発明の制電性樹脂組成物が前記第二の態様である場合、前記アクリル系グラフト重合体粒子、熱可塑性樹脂および任意の添加剤を混合する工程を有する製造方法が挙げられる。本発明の制電性樹脂組成物が前記第三の態様である場合、前記アクリル系グラフト重合体粒子、熱可塑性樹脂、界面活性剤および任意の添加剤を混合する工程を有する製造方法が挙げられる。本発明の制電性樹脂組成物が前記第四の態様である場合、熱可塑性樹脂を混合せず、前記アクリル系グラフト重合体粒子、界面活性剤および任意の添加剤を混合する工程を有する製造方法が挙げられる。
【0106】
第二および第三の態様の制電性樹脂組成物を製造する場合、前記アクリル系グラフト重合体粒子および前記熱可塑性樹脂の合計100質量部に対して、前記アクリル系グラフト重合体粒子の含有量は、5〜99質量部であり、5〜70質量部であることが好ましく、5〜50質量部であることがより好ましく、前記熱可塑性樹脂の含有量は、1〜95質量部であり、30〜95質量部であることが好ましく、50〜95質量部であることがより好ましい。
【0107】
第三の態様の制電性樹脂組成物を製造する場合、前記アクリル系グラフト重合体粒子および前記熱可塑性樹脂の合計100質量部に対して、前記界面活性剤の含有量は、0.01〜5質量部であることが好ましく、0.05〜4質量部であることがより好ましく、0.1〜3質量部であることが特に好ましい。
【0108】
第四の態様の制電性樹脂組成物を製造する場合、前記アクリル系グラフト重合体粒子100質量部に対して、前記界面活性剤の含有量は、0.01〜5質量部であることが好ましく、0.05〜4質量部であることがより好ましく、0.1〜3質量部であることが特に好ましい。
このような製造方法により得られる制電性樹脂組成物は、制電特性の均一性の点で好ましい。
【0109】
[用途]
本発明のアクリル系グラフト重合体粒子や、前記制電性樹脂組成物は、エレクトロニクス製品、光学製品、家電製品、OA機器製品、半導体製造装置関連製品、フォトリソグラフィー関連製品、液晶・PDP・関連製品等の製造に用いることができる。
【0110】
上記製品の具体例としては、フォトリソグラフィーの原回路図を担うレチクル(Reticles)を保護するペリクル(Pellicles)からなるフォトマスクの防塵カバー、カラーフィルターケース、ウエハキャリア、ウエハカセット、トートビン、ウエハーボート、ICチップトレー、ICチップキャリア、IC搬送チューブ、ICカード、テープ、リールパッキング、各種ケース、保存用トレー、保存用ビン、軸受や搬送ローラー等の搬送装置部品、磁気カードリーダー、記録装置用転写ロール、転写ベルト、現像ロール、記録装置用転写ドラム、印刷用シート媒体(OHPシート代替等)、プリント回路基板カセット、ブッシュ、紙及び紙幣搬送部品、紙送りレール、フォントカートリッジ、インクリボンキャニスター、ガイドビン、トレー、ローラー、ギア、スプロケット、コンピュータ用ハウジング、モデムハウジング、モニターハウジング、CD−ROMハウジング、プリンターハウジング、コネクター、コンピュータースロット、携帯電話部品、ベーガー、各種摺動材、内装材、アンダーフード、電子電気機器ハウジング、ガスタンクキャップ、燃料フィルター、燃料ラインコネクター、燃料ラインクリップ、燃料タンク、機器ビージル、ドアハンドル、各種部品、電線及び電力ケーブル被覆材、電線支持体、電波吸収体、床材、カーペット、防虫シート、パレット、靴底、テープ、ブラシ、送風ファンなどが挙げられる。
【0111】
中でも、電気・電子機器等のハウジング(例えば、ハードディスクドライブ搬送パッケージング等)や収納容器の製造に好適に用いることができる。
【実施例】
【0112】
次に本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、本実施例において、「部」は「質量部」を意味し、各物性は、以下の方法で測定したものである。
【0113】
(1)平均粒子径
Beckmann-Coulter社製、商品名コールターN4型粒子径測定機で測定した。
【0114】
(2)含水率
塩析処理後、脱水洗浄して得られたアクリル系グラフト重合体粒子の含水率を以下のようにして算出した。
アクリル系グラフト重合体のラテックス(固形分質量:100g)を塩析処理して得られたものを、吸引ろ過により、アクリル系グラフト重合体粒子とろ液とに分離した(脱水)。分離したアクリル系グラフト重合体をヌッチェ(直径:30cm)内で水により洗浄した。当該洗浄に用いた水の質量は、前記アクリル系グラフト重合体の固形分質量の10倍とした。当該洗浄後、12(リットル/分)の排気力で吸引ろ過を行い、水が切れて空気が通過するようになってから更に10分間吸引ろ過を行うことにより、アクリル系グラフト重合体粒子が得られた。
【0115】
このように脱水洗浄して得られたアクリル系グラフト重合体粒子の質量と、脱水洗浄後さらに乾燥して得られたアクリル系グラフト重合体粒子の質量とから下記式により含水率を算出した。
含水率(質量%)=(乾燥前の質量−乾燥後の質量)/乾燥後の質量×100
【0116】
(3)かさ比重(見かけ密度)および流下性
JIS K7365に準拠して、試料量を110mlとし、かさ比重を測定した。
また、試料110mlが漏斗から落ち切る時間を測定し、流下性を下記基準に従って評価した。
(基準)
12秒未満を「AA」、
12秒以上20秒未満を「BB」、
20秒以上を「CC」。
【0117】
(4)体積抵抗率および表面抵抗率
平板試料を形成し、JIS K6911に準拠して、温度23℃、湿度45%RHで3日間調湿した後、極超絶縁計(東亜電波工業社製、商品名SM−10E)を用いて、体積抵抗率(Ωm)および表面抵抗率(Ω/□)を測定した。
【0118】
(5)ガラス転移温度(Tg)
試料のガラス転移温度(Tg)を、以下の測定機器を用いて測定した。
測定機器:TOYO BALDWIN製、商品名RHEOVIBRON MODEL RHEO−3000(周波数;110Hz)
【0119】
〔実施例1〕
≪アクリル系グラフト重合体粒子の製造≫
攪拌機、温度計、圧力計を付した反応容器に、下記化合物を仕込んだ。
アクリル酸ブチル 50.3 部
スチレン 9.0 部
メタクリル酸アリル 0.7 部
メトキシポリエチレングリコールメタクリレート 10.0 部
(エチレンオキサイド基の数が平均 23個)
エチレンジアミンテトラ酢酸鉄(III)塩 0.005部
ピロリン酸4ナトリウム 0.05 部
ピロリン酸2水素2ナトリウム 0.05 部
ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(花王製、商品名ぺレックスSS−L) 1.0 部
脱イオン水 290 部
窒素置換後さらに下記化合物を添加し、50℃で2時間撹拌した。
ホルムアルデヒドスルホキシレート 0.1 部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.1 部
【0120】
収率99%以上で平均粒子径80nmのゴム状幹重合体のラテックスが得られた。該ゴム状幹重合体のガラス転移温度は、−18℃であった。
次に、上記ゴム状幹重合体(固形分として70部)のラテックスにエチレン系不飽和単量体混合物として、下記化合物を添加して、窒素置換し、50℃で4時間グラフト重合した。
メタクリル酸メチル 29.0 部
アクリル酸ブチル 0.7 部
ノルマルオクチルメルカプタン 0.3 部
ホルムアルデヒドスルホキシレート 0.05 部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.05 部
脱イオン水 70 部
【0121】
得られたラテックス(固形分として100部)を取出して70℃に加温後、70℃の塩化カルシウム水溶液(濃度1質量%)500部に添加し塩析処理を行った。その後、吸引ろ過を行い、凝析したアクリル系グラフト重合体を分離した。分離したアクリル系グラフト重合体をヌッチェ(直径:30cm)内で水により洗浄した。当該洗浄に用いた水の質量は、前記アクリル系グラフト重合体の乾燥質量の10倍とした。当該洗浄後、12(リットル/分)の排気力で吸引ろ過を行い、水が切れて空気が通過するようになってから更に10分間吸引ろ過を行うことにより、含水率80質量%の湿った粉末状のグラフト重合体が得られた。得られたグラフト重合体を棚段式乾燥機により、60℃で15時間乾燥して、白色粉末のアクリル系グラフト重合体を得た。乾燥の目安は、乾燥質量ベースで水分量が1質量%以下になったときとした。乾燥の目安は以下同様である。得られた白色粉末のアクリル系グラフト重合体のかさ比重は0.43g/mlであり、流下性は11秒であり、AAであった。
【0122】
≪抵抗率測定用平板の製造≫
上記で得られた白色粉末のアクリル系グラフト重合体50部と、メタクリル樹脂(住友化学工業製 商品名スミペックスEX)50部と、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム1.0部とをヘンシェルミキサーで混合した。次に、得られた混合物を異方向回転の平行二軸押出機(東洋精機製作所製 商品名ラボプラストミル)によりペレット化した。
【0123】
このペレットを、射出成型機(東芝機械製 商品名IS−80EPN)を用いて、シリンダー温度220℃、金型温度40℃で成形した。平面寸法が100mm×100mmで、厚さが3mmの抵抗率測定用平板を得た。得られた平板の体積抵抗率は、9×108Ωmであった。体積抵抗率は1×109Ωm未満であり、制電性に特に優れることがわかった。得られた平板の表面抵抗率は、2×1011Ω/□であった。
【0124】
〔実施例2〕
≪アクリル系グラフト重合体粒子の製造≫
攪拌機、温度計、圧力計を付した反応容器に、下記化合物を仕込んだ。
アクリル酸ブチル 50.3 部
スチレン 9.0 部
メタクリル酸アリル 0.7 部
メトキシポリエチレングリコールアクリルアミド 10.0 部
(エチレンオキサイド基の数が平均 23個)
エチレンジアミンテトラ酢酸鉄(III)塩 0.005部
ピロリン酸4ナトリウム 0.05 部
ピロリン酸2水素2ナトリウム 0.05 部
ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(花王製、商品名ぺレックスSS−L) 1.0 部
脱イオン水 290 部
【0125】
窒素置換後さらに下記化合物を添加し、50℃で2時間撹拌した。
ホルムアルデヒドスルホキシレート 0.1 部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.1 部
収率99%以上で平均粒子径75nmのゴム状幹重合体のラテックスが得られた。該ゴム状幹重合体のガラス転移温度は、−20℃であった。
【0126】
次に、上記ゴム状幹重合体(固形分として70部)のラテックスにエチレン系不飽和単量体混合物として、下記化合物を添加して、窒素置換し、50℃で4時間グラフト重合した。
メタクリル酸メチル 29.0 部
アクリル酸ブチル 0.7 部
ノルマルオクチルメルカプタン 0.3 部
ホルムアルデヒドスルホキシレート 0.05 部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.05 部
脱イオン水 70 部
【0127】
得られたラテックス(固形分として100部)を取出して70℃に加温後、70℃の塩化カルシウム水溶液(濃度1質量%)500部に添加し塩析処理を行った。その後、吸引ろ過を行い、凝析したアクリル系グラフト重合体を分離した。分離したアクリル系グラフト重合体をヌッチェ(直径:30cm)内で水により洗浄した。当該洗浄に用いた水の質量は、前記アクリル系グラフト重合体の乾燥質量の10倍とした。当該洗浄後、12(リットル/分)の排気力で吸引ろ過を行い、水が切れて空気が通過するようになってから更に10分間吸引ろ過を行うことにより、含水率79質量%の湿った粉末状のグラフト重合体が得られた。得られたグラフト重合体を棚段式乾燥機により、60℃で15時間乾燥して、白色粉末のアクリル系グラフト重合体を得た。乾燥の目安は、乾燥質量ベースで水分量が1質量%以下になったときとした。乾燥の目安は以下同様である。得られた白色粉末のアクリル系グラフト重合体のかさ比重は0.42g/mlであり、流下性は11秒であり、AAであった。
【0128】
≪抵抗率測定用平板の製造≫
上記で得られた白色粉末のアクリル系グラフト重合体50部を用いた以外は、実施例1≪抵抗率測定用平板の製造≫と同様にして抵抗率測定用平板を得た。得られた平板の体積抵抗率は、7×108Ωmであった。体積抵抗率は1×109Ωm未満であり、制電性に特に優れることがわかった。得られた平板の表面抵抗率は、1×1011Ω/□であった。
【0129】
〔比較例1〕
重合用乳化剤として、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの代わりに、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いた以外は実施例1と同様にしてグラフト重合体を製造した。塩析処理、脱水洗浄後、含水率150質量%の湿った粉末状のグラフト重合体が得られた。得られたグラフト重合体を棚段式乾燥機により、60℃で24時間乾燥して、白色粉末のアクリル系グラフト重合体を得た。得られた白色粉末のアクリル系グラフト重合体のかさ比重は0.33g/mlと非常に軽く、また、流下性は14秒であり、BBであった。
【0130】
比較例1においては、塩析処理、脱水洗浄後のグラフト重合体の含水率が150質量%と非常に高かったため、グラフト重合体の乾燥に長時間(24時間)要した。
上記で得られた白色粉末のアクリル系グラフト重合体を用いて、実施例1と同様の方法で体積抵抗率測定用平板を得た。得られた平板の体積抵抗率は、3×109Ωmであった。実施例1と比較すると高い値となっていることがわかった。得られた平板の表面抵抗率は、8×1011Ω/□であった。
【0131】
〔比較例2〕
70℃の塩化カルシウム水溶液(濃度1質量%)500部による塩析処理の代わりに、塩酸水溶液(1.5質量%)500部による酸析処理を行い、中和のために水酸化ナトリウム水溶液(5質量%)150部を添加し、pHを7〜8の範囲に調整した以外は比較例1と同様にしてグラフト重合体を製造した。脱水洗浄後、含水率90質量%の湿った粉末状のグラフト重合体が得られた。得られたグラフト重合体を棚段式乾燥機により、60℃で20時間乾燥して、白色粉末のアクリル系グラフト重合体を得た。得られた白色粉末のアクリル系グラフト重合体のかさ比重は0.40g/mlであり、また、流下性は13秒であり、BBであった。
【0132】
上記で得られた白色粉末のアクリル系グラフト重合体を用いて、実施例1と同様の方法で体積抵抗率測定用平板を得た。得られた平板の体積抵抗率は、1×109Ωmであった。実施例1と比較すると高い値となっていることがわかった。得られた平板の表面抵抗率は、5×1011Ω/□であった。また、比較例2では中和工程が必要であり、煩雑な製造方法であった。
【0133】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表わされる重合用乳化剤の存在下、下記式(II)で表わされるアルキレンオキサイド鎖およびエチレン系不飽和結合を有する単量体ならびに下記式(V)で表される単量体から選択される少なくとも1種の単量体と、下記式(III)で表わされるアクリル酸エステル単量体とを乳化重合し、ゴム状幹重合体のラテックスを得る工程(1)と、
前記ゴム状幹重合体にエチレン系不飽和単量体をグラフト重合し、グラフト重合体のラテックスを得る工程(2)と、
前記グラフト重合体のラテックスを塩析処理することにより、アクリル系グラフト重合体粒子を得る工程(3)とを有することを特徴とするアクリル系グラフト重合体粒子の製造方法。
【化1】

(式(I)中、Rは炭素数6〜18のアルキル基を示し、Mはそれぞれ独立にアルカリ金属またはアンモニウムを示し、aおよびbは、1≦a+b≦4を満たす整数である。)
【化2】

(式(II)中、R2およびR3は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、mおよびnは、4≦m+n≦500を満たす整数である。)
【化3】

(式(V)中、R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R2およびR3は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、mおよびnは、4≦m+n≦500を満たす整数であり、Xは、水素原子、炭素数1〜9のアルキル基、フェニル基、−SO3Y、−SO2Y、−PO32、または下記式(a)で表わされる基を示し、Yは水素原子またはアルカリ金属を示し、Zは、水素原子又は炭素数1〜40のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、フェニル基または下記式(b)で表される基を示す。
【化4】

式(a)中、R4は、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R5、R6、R7は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜9のアルキル基を示し、Yは水素原子またはアルカリ金属を示す。
【化5】

式(b)中、pおよびqは、4≦p+q≦500を満たす整数であり、R2、R3およびXは、式(V)の場合と同一の意味を表わす。)
【化6】

(式(III)中、R'は炭素数1〜18の炭化水素基を示す。)
【請求項2】
前記工程(1)で用いる単量体の合計を5〜95質量部とし、前記工程(2)で用いる単量体の合計を5〜95質量部とする(ただし、工程(1)および(2)で用いる単量体の合計を100質量部とする)ことを特徴とする請求項1に記載のアクリル系グラフト重合体粒子の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)で用いる単量体の合計100質量%あたり、
前記式(II)で表わされるアルキレンオキサイド鎖およびエチレン系不飽和結合を有する単量体ならびに前記式(V)で表される単量体から選択される少なくとも1種の単量体を1〜50質量%、
前記式(III)で表わされるアクリル酸エステル単量体を50〜99質量%とすることを特徴とする請求項1または2に記載のアクリル系グラフト重合体粒子の製造方法。
【請求項4】
前記式(I)において、Rがノニル基またはドデシル基であり、Mがナトリウムまたはカリウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系グラフト重合体粒子の製造方法。
【請求項5】
前記式(I)において、Rがドデシル基であり、Mがナトリウムであり、a=1、b=1であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル系グラフト重合体粒子の製造方法。
【請求項6】
前記塩析処理が塩化カルシウムによる処理であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル系グラフト重合体粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル系グラフト重合体粒子の製造方法で得られるアクリル系グラフト重合体粒子。
【請求項8】
請求項7に記載のアクリル系グラフト重合体粒子を含有することを特徴とする制電性樹脂組成物。
【請求項9】
さらに熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする請求項8に記載の制電性樹脂組成物。
【請求項10】
さらに界面活性剤を含有することを特徴とする請求項8または9に記載の制電性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項7に記載のアクリル系グラフト重合体粒子5〜99質量部および熱可塑性樹脂1〜95質量部(ただし、アクリル系グラフト重合体粒子および熱可塑性樹脂の合計含有量を100質量部とする)を含有することを特徴とする制電性樹脂組成物。
【請求項12】
さらに界面活性剤0.01〜5質量部を含有することを特徴とする請求項11に記載の制電性樹脂組成物。
【請求項13】
請求項7に記載のアクリル系グラフト重合体粒子100質量部および界面活性剤0.01〜5質量部を含有することを特徴とする制電性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項7に記載のアクリル系グラフト重合体粒子5〜99質量部および熱可塑性樹脂1〜95質量部(ただし、アクリル系グラフト重合体粒子および熱可塑性樹脂の合計を100質量部とする)を混合する工程を有することを特徴とする制電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
請求項7に記載のアクリル系グラフト重合体粒子5〜99質量部、熱可塑性樹脂1〜95質量部および界面活性剤0.01〜5質量部(ただし、アクリル系グラフト重合体粒子および熱可塑性樹脂の合計を100質量部とする)を混合する工程を有することを特徴とする制電性樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−163596(P2010−163596A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210615(P2009−210615)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】