説明

アクリル系ブロック共重合体

【課題】透明性、耐侯性、ゴム弾性、柔軟性に優れるだけでなく、極めて容易に、耐熱性に優れ、しかも、耐薬品性、耐溶剤性の向上が可能な成形体が製造できるアクリル系ブロック共重合体を提供する。
【解決手段】本発明のアクリル系ブロック共重合体は、3連子表示で表される立体規則性が異なるメタクリル酸エステル重合体ブロック(A1)及び(A2)、並びにガラス転移温度が−10℃以下の(メタ)アクリル酸エステル重合体ブロック(B)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系ブロック共重合体、及び該共重合体を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系軟質材料は、その優れた透明性、耐侯性に加え、優れたゴム弾性、柔軟性を有するため、様々な用途で検討が進められている。しかし、これら従来のアクリル系軟質材料では、必ずしも耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性が充分ではなかった。
【0003】
これら問題を解決するために、高シンジオタクチックなメタクリル酸エステル重合体からなるハードブロックと、ガラス転移温度の低い(メタ)アクリル酸エステル重合体からなるソフトブロックとを有するアクリル系重合体の検討が進められている(例えば、特許文献1及び2参照)。このように、ハードブロックとなるメタクリル酸エステル重合体の立体規則性をシンジオタクチックとすることにより、上記問題はある程度解決されたが、いまだ改善の余地があった。
【0004】
一方、高イソタクチックメタクリル酸エステル重合体と高シンジオタクチック重合体とを一定の条件で混合をすると、ステレオコンプレックスが形成することが知られている。このステレオコンプレックスが形成されると、その結晶構造に由来して、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性などが格段に向上する。
【0005】
また、この高イソタクチックメタクリル酸エステル重合体からなるブロックと高シンジオタクチック重合体からなるブロックとを有するブロック共重合体も検討されている(特許文献3)。
【0006】
しかし上記混合物やブロック共重合体においては、ステレオコンプレックスを形成させるためには、数日程度の極めて長時間のアニール処理が必要であり、工業的な応用の点でいまだ改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−302617号
【特許文献2】特開2005−307063号
【特許文献3】特開平09−208645号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、透明性、耐侯性、ゴム弾性、柔軟性に優れるだけでなく、極めて容易に、耐熱性に優れ、しかも耐薬品性、耐溶剤性の向上が可能な成形体が製造できるアクリル系ブロック共重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定のブロックを有するアクリル系ブロック共重合体を含む組成物から成形体を製造することにより、上記問題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のアクリル系ブロック共重合体は、3連子表示で表される立体規則性が異なるメタクリル酸エステル重合体ブロック(A1)及び(A2)、並びにガラス転移温度が−10℃以下の(メタ)アクリル酸エステル重合体ブロック(B)を有することを特徴とする。
【0011】
上記アクリル系ブロック共重合体では、重合体ブロック(A1)の立体規則性がイソタクチックであり、重合体ブロック(A2)の立体規則性がシンジオタクチックであることが好ましい。
【0012】
上記重合体ブロック(A1)及び重合体ブロック(A2)はメタクリル酸メチル単位を50%以上有する重合体ブロックであることが好ましい。
上記重合体ブロック(A1)と上記重合体ブロック(A2)とがステレオコンプレックスを形成していることが好ましい。
【0013】
上記アクリル系ブロック共重合体中の重合体ブロック(B)の含有量は、50質量%以上であることが好ましい。
このようなアクリル系ブロック共重合体は、例えば、重合体ブロック(A1)、重合体ブロック(B)、重合体ブロック(A2)の順に重合を行うことにより製造できる。
【0014】
上記アクリル系ブロック共重合体を含む組成物を熱可塑成形することにより本発明の成形体が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアクリル系ブロック共重合体は透明性、耐侯性、ゴム弾性、柔軟性に優れるだけでなく、極めて容易に、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性にも優れる成形体が製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のアクリル系ブロック共重合体は、メタクリル酸エステル重合体ブロック(A1)及び(A2)を有している。そして、本発明のアクリル系ブロック共重合体では、上記重合体ブロック(A1)と(A2)との3連子表示で表される立体規則性が異なる点に特徴がある。ここでいう立体規則性とは、イソタクチック(mm)、ヘテロタクチック(mr)、シンジオタクチック(rr)のいずれかを意味する。
【0017】
なお、本発明でイソタクチックとは、三連子表示で表されるmmの割合が50%以上であることを意味し、好ましくはmmの割合が60%以上、より好ましくはmmの割合が80%以上であることを意味する。
【0018】
ヘテロタクチック(mr)又はシンジオタクチック(rr)についても、その立体規則性がmmからそれぞれmr又はrrに替わるだけでその割合の定義は同様である。
これら三連子表示の立体規則性は、1H−NMR及び13C−NMRのシグナルの積算値から求めることができる。
【0019】
このように、アクリル系ブロック共重合体に含まれる重合体ブロック(A1)と重合体ブロック(A2)との立体規則性が異なることにより、その共重合体から得られる成形体の耐熱性が優れたものとなり、耐薬品性、耐溶剤性の向上も可能となる。そのメカニズムの詳細は明らかではないが、重合体ブロック(A1)と重合体ブロック(A2)との立体規則性の相違に基づき形成される構造、例えばステレオコンプレックスが、迅速に形成されるためであると推定される。
【0020】
特に、これら重合体ブロックのステレオコンプレックスを容易に、速やかに形成させる観点からは、重合体ブロック(A1)の立体規則性がイソタクチック(mm)であり、重合体ブロック(A2)の立体規則性がシンジオタクチック(rr)であることが好ましい。
【0021】
このような重合体ブロック(A1)及び(A2)に由来するステレオコンプレックスにより、融点が観測されるようになる。このステレオコンプレックスの融点は、通常80℃以上であり、好ましくは120℃以上250℃以下であり、より好ましくは150℃以上220℃以下である。
【0022】
ステレオコンプレックスの融点がこの範囲より低温の場合は得られるブロック共重合体は耐熱性に劣る傾向にあり、また、この範囲より高温の場合は得られるブロック共重合体の熱可塑性が劣る傾向にある。
【0023】
なお融点は、10℃/分の昇温条件でDSC測定して得られた曲線において認められる融解ピーク温度である。このような融点を有することにより、本発明のアクリル系ブロック共重合体を含む組成物から形成される成形体は、優れた、透明性、耐侯性、ゴム弾性、及び柔軟性を有するだけでなく、より優れた耐熱性を有し、また、耐薬品性、耐溶剤性の向上も可能となる。
【0024】
なお、上記重合体ブロック(A1)のガラス転移温度は好ましくは30℃以上であるが、より好ましくは30℃以上100℃未満の範囲、さらに好ましくは30℃以上80℃以下の範囲である。重合体ブロック(A1)のガラス転移温度は、重合体ブロック(A1)を形成する単量体の種類、重合方法などにより制御できる。なお、本発明におけるガラス転移温度とは、重合体ブロック又はアクリル系ブロック共重合体を、10℃/分の昇温条件でDSC測定して得られた曲線において認められる重合体ブロックの転移領域の外挿開始温度(Tgi)である。
【0025】
上記重合体ブロック(A2)のガラス転移温度は好ましくは30℃以上であるが、より好ましくは80℃を超える温度、さらに好ましくは100℃以上である。重合体ブロック(A2)のガラス転移温度は、重合体ブロック(A2)を形成する単量体の種類、重合方法などにより制御できる。
【0026】
上記重合体ブロック(A1)及び(A2)はメタクリル酸エステルを含む単量体を重合することにより得られる。
重合体ブロック(A1)及び(A2)の合成に用いられるメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニルなどが挙げられる。
【0027】
これらの中でも、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニルが好ましく、得られる重合体ブロックの耐久性、耐侯性が優れる点、また経済的である点からメタクリル酸メチルがより好ましい。
【0028】
上記重合体ブロック(A1)及び(A2)は、これらメタクリル酸エステルの1種から合成されていても、2種以上から合成されていてもよい。
また、上記重合体ブロック(A1)又は(A2)がイソタクチックの場合、本発明の効果を損なわない範囲で、上記重合体ブロック(A1)又は(A2)の合成に用いられる単量体として、上記メタクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体を通常10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下含んでいてもよい。
【0029】
上記重合体ブロック(A1)及び(A2)は、これらメタクリル酸エステルの1種から合成されていても、2種以上から合成されていてもよい。
また、上記重合体ブロック(A1)及び(A2)では、その合成に用いるメタクリル酸エステルが、メタクリル酸メチルとメタクリル酸メチル以外の上記メタクリル酸エステルの混合物であり、メタクリル酸メチルの含有量が好ましくは50重量%以上、より好ましくは90重量%以上、好ましくは95重量%以下であり、メタクリル酸メチル以外の上記メタクリル酸エステルの含有量が、好ましくは50%以下、より好ましくは10重量%以下、好ましくは5%以上であることも好ましい態様である。
【0030】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、上記重合体ブロック(A1)及び(A2)の合成に用いられる単量体として、上記メタクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体を通常10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下含んでいてもよい。
【0031】
本発明のアクリル系ブロック共重合体は上記重合体ブロック(A1)又は重合体ブロック(A2)を複数含んでいてもよい。また、重合体ブロック(A1)又は重合体ブロック(A2)を複数含む場合には、それら重合体ブロックは同一であってもよく異なっていてもよい。
【0032】
本発明のアクリル系ブロック共重合体は、上記重合体ブロック(A1)及び(A2)に加え、さらにガラス転移温度が−10℃以下の(メタ)アクリル酸エステル重合体ブロック(B)を有している。
【0033】
上記重合体ブロック(B)のガラス転移温度は−10℃以下であるが、好ましくは−20℃以下、より好ましくは−40℃以下である。重合体ブロック(B)のガラス転移温度は、重合体ブロック(B)を形成する単量体の種類などにより制御できる。
【0034】
上記重合体ブロック(B)は、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを含む単量体を重合することにより得られる。
重合体ブロック(B)の合成に用いられるアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチルなどが挙げられる。
【0035】
重合体ブロック(B)の合成に用いられるメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシルなどが挙げられる。
【0036】
これらの中でも、得られるアクリル系ブロック共重合体の柔軟性が優れる観点からアクリル酸エステルが好ましく、ガラス転移温度をより確実に上記範囲とする観点から、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシルが好ましく、アクリル酸n−ブチルがより好ましい。
【0037】
上記重合体ブロック(B)は、これらアクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの1種から合成されていても、2種以上から合成されていてもよい。
また、本発明の効果を損なわない範囲で、上記重合体ブロック(B)の合成に用いられる単量体として、上記アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体を通常30%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下含んでいてもよい。
【0038】
本発明のアクリル系ブロック共重合体は上記重合体ブロック(B)を複数含んでいてもよい。また、重合体ブロック(B)を複数含む場合には、それら重合体ブロックは同一であってもよく異なっていてもよい。
【0039】
また、アクリル系ブロック共重合体では、得られる重合体のゴム弾性、柔軟性の観点から、重合体ブロック(A1)、重合体ブロック(B)、重合体ブロック(A2)の順でブロックが形成されている形態が好ましい。また、立体規則性の相違に基づき形成される構造、例えばステレオコンプレックスが、より迅速に形成させる観点からは、重合体ブロック(A1)及び重合体ブロック(A2)の少なくとも一方がアクリル系ブロック共重合体の末端であることが好ましく、重合体ブロック(A1)及び重合体ブロック(A2)がアクリル系ブロック共重合体の末端であることがより好ましい。
【0040】
上記アクリル系ブロック共重合体としては、例えば、重合体ブロック(A1)−重合体ブロック(B)−重合体ブロック(A2)からなるトリブロック共重合体、重合体ブロック(A1)−重合体ブロック(B)−重合体ブロック(A2)−重合体ブロック(B)からなるテトラブロック共重合体、重合体ブロック(A1)−重合体ブロック(B)−重合体ブロック(A1)−重合体ブロック(A2)からなるテトラブロック共重合体などが挙げられる。
【0041】
本発明のアクリル系ブロック共重合体では、重合体ブロック(B)の含有量が好ましくは50重量%以上、より好ましくは65重量%以上であり、好ましくは95重量%以下、より好ましくは90重量%以下である。
【0042】
重合体ブロック(B)の含有量が上記範囲より大きい場合には、粘着が酷くなり傷ツキや埃の付着により表面性が損なわれる場合があり、また、アクリル系ブロック共重合体を含む組成物から得られる成形体の形状保持性が悪くなり取扱い性が低下する場合がある。重合体ブロック(B)の含有量が上記範囲より小さい場合には、アクリル系ブロック共重合体の有する柔軟性が十分に発現しない傾向にある。
【0043】
また本発明のアクリル系ブロック共重合体では、重合体ブロック(A1)及び(A2)それぞれの含有量が、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、好ましくは50重量%以下である。
【0044】
重合体ブロック(A1)及び(A2)それぞれの含有量が上記範囲より大きい場合には、アクリル系ブロック共重合体の有する柔軟性が十分に発現しない傾向にある。
重合体ブロック(A1)及び(A2)それぞれの含有量が上記範囲より小さい場合には、アクリル系ブロック共重合体を含む組成物から得られる成形体の形状保持性が悪くなり取扱い性が低下する場合があり、また、粘着が酷くなり傷ツキや埃の付着により表面性が損なわれる場合がある。
【0045】
上記アクリル系ブロック共重合体の分子量は特に限定されないが、成形性の観点から、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)測定により求めたポリスチレン換算の重量平均分子量が、10,000〜500,000であることが好ましく、20,000〜300,000であることがより好ましい。
【0046】
本発明アクリル系ブロック共重合体を含む組成物の成形方法としては、溶融押出し成形法、溶融射出成形法、ホットメルト成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、真空成形法、熱プレス成形法、溶液キャスト法など様々な成形方法が挙げられるが、いずれの成形方法においても、成形時の流動性から上記の範囲の重量平均分子量が好ましい。
【0047】
上記アクリル系ブロック共重合体の分子量分布は特に限定されないが、本発明の重合体を含む組成物から得られる成形体の表面の膠着性、及び透明性の観点から、重量平均分子量/数平均分子量の値が1.01〜2.20であることが好ましく、1.05〜1.60であることがより好ましい。分子量分布が上記範囲より大きい場合は、高分子量体が多くなり透明性が損なわたり、低分子量成分が多くなり表面膠着が酷くなる欠点が発生する場合がある。また、分子量分布が上記範囲より小さい場合は、成形性に好影響する低分子量成分や力学特性に好適に寄与する高分子量成分の組成比が小さくなり、結果として、成形性が損なわれたり、成形体として必要な力学特性が損なわれる場合がある。
【0048】
このようなアクリル系ブロック共重合体の製造方法としては、重合体ブロック(A1)、重合体ブロック(A2)、及び重合体ブロック(B)を含んでおり、かつ重合体ブロック(A1)と重合体ブロック(A2)との立体規則性が異なる本発明の重合体が得られる限り特に制限はない。
【0049】
例えば、まずメタクリル酸エステルをイソタクチック選択重合して重合体ブロック(A1)を形成し、その重合成長末端の活性種をメタクリル酸エステルをシンジオタクチック選択重合できる重合場に変換した上で、(メタ)アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルを重合して、重合体ブロック(B)及び重合体ブロック(A2)を形成する方法、
逆に、まずメタクリル酸エステルをシンジオタクチック選択重合して重合体ブロック(A1)を形成した後、(メタ)アクリル酸エステルを重合して重合体ブロック(B)を形成し、その重合成長末端の活性種をメタクリル酸エステルをイソタクチック選択重合できる重合場に変換した上で、メタクリル酸エステルをイソタクチック選択重合して重合体ブロック(A2)を形成する方法、及び
まずメタクリル酸エステルをイソタクチック選択重合して重合体ブロック(A1)を形成した後、(メタ)アクリル酸エステルを重合して重合体ブロック(B)を形成し、その成長末端にラジカル重合性の活性種を導入して、シンジオタクチックなメタクリル酸エステル重合体が得られる条件で、メタクリル酸エステルをラジカル重合して重合体ブロック(A2)を形成する方法などが挙げられる。
【0050】
換言すると、例えば、重合体ブロック(A1)がイソタクチック、重合体ブロック(A2)がシンジオタクチックであり、重合体ブロック(A1)、重合体ブロック(B)、重合体ブロック(A2)の順にブロックが形成されているアクリル系ブロック共重合体を製造する場合には、イソタクチックの重合体が得られる条件で重合体ブロック(A1)を合成し、続いて重合体ブロック(B)を合成した後に、シンジオタクチックの重合体が得られる条件で重合体ブロック(A2)を合成すればよい。なお、重合体ブロック(B)の合成条件は、必要に応じて所望の条件とすればよく、例えば、重合体ブロック(A1)の合成条件のまま合成を継続してもよいし、重合体(A2)の合成条件となるように変更した後合成を行ってもよい。
【0051】
イソタクチックの重合体を合成する条件としては、グリニャール化合物を開始種としアニオン重合する方法、環状シロキサン化合物又は環状シロキサン化合物と有機アルキル金属化合物との反応生成物の存在下でアニオン重合する方法、などが挙げられる。
【0052】
シンジオタクチックの重合体を合成する条件としては、有機希土類金属錯体を重合開始種として重合する方法、有機アルカリ金属化合物を重合開始種としアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩などの鉱酸塩の存在下でアニオン重合する方法、有機アルカリ金属化合物を重合開始種とし極性溶媒中又はクラウンエーテルなどの極性添加剤の存在下でアニオン重合する方法、有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法、ハロゲン化金属化合物の存在下、又は非存在下でラジカル重合する方法などが挙げられる。
【0053】
これら重合方法の中でも、立体規則性を高度に制御した高純度のアクリル系ブロック共重合体を製造する観点からは、アニオン重合する方法が好ましい。
特に、重合体ブロック(A1)がイソタクチック、重合体ブロック(A2)がシンジオタクチックであり、重合体ブロック(A1)、重合体ブロック(B)、重合体ブロック(A2)の順にブロックが形成されている立体規則性を高度に制御した高純度のアクリル系ブロック共重合体を製造する場合には、重合体ブロック(A1)を環状シロキサン化合物又は環状シロキサン化合物と有機アルキル金属化合物との反応生成物の存在下で、α−リチオイソ酪酸イソプロピルなどの重合体ブロック(A1)がリビング重合可能な有機アルカリ金属化合物を開始剤で合成し、次いで、重合体ブロック(B)及び重合体ブロック(A2)がリビング重合可能な有機アルミニウム化合物を添加した後、重合体ブロック(B)及び重合体ブロック(A2)を合成する方法が挙げられる。この方法によれば、上記利点に加え、重合体ブロック(A1)を高度にイソタクチックに制御でき、重合体ブロック(A2)を高度にシンジオタクチックに制御できる。そして、比較的緩和な温度条件下でリビング重合が可能であることから、工業的に生産する場合に、環境負荷(主に重合温度を制御するための冷凍機にかかるエネルギー)が少なくて済む利点がある。
【0054】
上記環状シロキサン化合物としては、下記一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0055】
【化1】

上記式(I)中、Ra及びRbは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアリール基、アルキルの炭素数が1〜6の置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又はアルキルの炭素数が1〜6の置換基を有していてもよいアリールアルキル基を表し、nは3〜6の整数を表す。
【0056】
これらRa及びRbの中でもメチル基が好ましい。これらnの中でも3又は4が好ましい。
上記式(I)で表される化合物としては、例えば、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなどが挙げられる。
【0057】
これら化合物の中でも、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、及びオクタメチルシクロテトラシロキサンが好ましい。
上記環状シロキサン化合物とともに、あるいは上記環状シロキサン化合物に代えて、上記環状シロキサン化合物と後述する有機アルカリ金属化合物、典型的にはsec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウムなどのアルキルリチウムとの反応生成物を使用してもよい。
【0058】
上記反応生成物としては、リチウムトリメチルシラノラート、リチウムt−ブチルジメチルシラノレートなどが挙げられる。
上記有機アルカリ金属化合物としては有機リチウム化合物を好ましく使用することができる。
【0059】
該有機リチウム化合物としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、イソブチルリチウム、t−ブチルリチウム、n−ペンチルリチウム、n−ヘキシルリチウム、テトラメチレンジリチウム、ペンタメチレンジリチウム、ヘキサメチレンジリチウム等のアルキルリチウム又はアルキルジリチウム;フェニルリチウム、m−トリルリチウム、p−トリルリチウム、キシリルリチウム、リチウムナフタレニド等のアリールリチウム又はアリールジリチウム;ベンジルリチウム、ジフェニルメチルリチウム、トリチルリチウム、1,1−ジフェニル−3−メチルペンチルリチウム、α−メチルスチリルリチウム、ジイソプロペニルベンゼンとブチルリチウムの反応により生成するジリチウム等のアラルキルリチウム又はアラルキルジリチウム;リチウムジメチルアミド、リチウムジエチルアミド、リチウムジイソプロピルアミド等のリチウムアミド;メトキシリチウム、エトキシリチウム、n−プロポキシリチウム、イソプロポキシリチウム、n−ブトキシリチウム、sec−ブトキシリチウム、t−ブトキシリチウム、ペンチルオキシリチウム、ヘキシルオキシリチウム、ヘプチルオキシリチウム、オクチルオキシリチウム、フェノキシリチウム、4−メチルフェノキシリチウム、ベンジルオキシリチウム、4−メチルベンジルオキシリチウム等のリチウムアルコキシド;α−リチオイソ酪酸イソプロピル、α−リチオイソ酪酸エチル等のα−リチオイソ酪酸エステルなどが挙げられる。
【0060】
上記有機アルカリ金属化合物の中でも、重合開始効率が高いことから、α−リチオイソ酪酸イソプロピル、α−リチオイソ酪酸エチルが好ましく、α−リチオイソ酪酸イソプロピルがより好ましい。
【0061】
上記有機アルミニウム化合物としては、例えば下記の一般式(II)で示される化合物が挙げられる。
AlR123 (II)
【0062】
上記式(II)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいN,N−二置換アミノ基、又はハロゲン原子を表す。なお、R1、R2、R3から選ばれる2つは、互いに結合して、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、置換基を有していてもよいアリーレンジアルキル基、置換基を有していてもよいアルキレンジオキシ基、置換基を有していてもよいアリーレンジオキシ基を形成していてもよい。
【0063】
上記式(I)で示される有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリn−ブチルアルミニウム、トリsec−ブチルアルミニウム、トリt−ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリn−ヘキシルアルミニウム、トリn−オクチルアルミニウム、トリ2−エチルヘキシルアルミニウム、トリフェニルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム;ジメチル(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウム、ジメチル(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、ジエチル(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウム、ジエチル(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、ジイソブチル(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウム、ジイソブチル(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム等のジアルキルフェノキシアルミニウム;メチルビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウム、メチルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、メチル〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノキシ)〕アルミニウム、エチルビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウム、エチルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、エチル〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノキシ)〕アルミニウム、イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチル〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノキシ)〕アルミニウム、n−オクチルビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウム、n−オクチルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、n−オクチル〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノキシ)〕アルミニウム等のアルキルジフェノキシアルミニウム;メトキシビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウム、メトキシビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、メトキシ〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノキシ)〕アルミニウム、エトキシビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウム、エトキシビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、エトキシ〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノキシ)〕アルミニウム、イソプロポキシビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウム、イソプロポキシビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、イソプロポキシ〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノキシ)〕アルミニウム、tert−ブトキシビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウム、tert−ブトキシビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、tert−ブトキシ〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノキシ)〕アルミニウム等のアルコキシジフェノキシアルミニウム;トリス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、トリス(2,6−ジフェニルフェノキシ)アルミニウム等のトリフェノキシアルミニウムなどが挙げられる。
【0064】
上記した有機アルミニウム化合物の中でも、重合のリビング性の高さや取扱いの容易さなどの点から、イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチル〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノキシ)〕アルミニウムが好ましい。
【0065】
また、上記有機アルミニウム化合物に加えて、必要に応じてさらに、ジメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、12−クラウン−4等のエーテル;トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、ピリジン、2,2’−ジピリジル等の含窒素化合物などを反応系内に存在させて重合を行ってもよい。
【0066】
また、上記アニオン重合は、通常、不活性溶媒の存在下で行われる。不活性溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒などが挙げられる。
【0067】
本発明で得られる成形体の原料となる組成物には、上記アクリル系ブロック共重合体が必須成分として含まれる。また、上記組成物には、上記アクリル系ブロック共重合体が1種含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。上記組成物中の該アクリル系ブロック共重合体の含有量は、本発明の効果が損なわれない限り特に制限はないが、上記組成物の全重量に対して、30重量%〜100重量%であることが好ましく、50重量%〜100重量%であることがより好ましい。
【0068】
さらに、上記組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、樹脂、ゴムなどの他の重合体、さらに、軟化剤、滑剤、可塑剤、粘着剤、粘着付与剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、難燃剤、発泡剤、着色剤、染色剤、フィラーなどの添加剤が含まれていてもよい。これら他の重合体及び添加剤は、組成物に、1種含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0069】
本発明のアクリル系ブロック共重合体組成物は、ステレオコンプレックスを迅速に形成できることに特徴がある。可塑剤は、上記ステレオコンプレックスを効率的に形成させるのに有効であり、また、ステレオコンプレックスが形成された重合体組成物は可塑剤のブリードアウトが抑制されるため、本発明の組成物に有用に配合できる。
【0070】
上記可塑剤は特に限定されないが、可塑剤としては、フタル酸ジ2−エチルオクチル、フタル酸ジイソオクチル、フタル酸ジドデシルなどのフタル酸エステル、アジピン酸ジ2−エチルオクチル、アジピン酸ジイソオクチル、アジピン酸ジドデシルなどのアジピン酸エステル、トリフェニルフォスファイトなどのリン系化合物などが挙げられる。
【0071】
上記可塑剤の使用量は特に限定されないが、本発明のアクリル系ブロック共重合体に対して、通常0.1〜500%、好ましくは0.5〜200%、より好ましくは1〜100%の割合である。
【0072】
上記他の重合体としては、例えば、本発明で用いるアクリル系ブロック共重合体以外の、他のアクリル系ブロック共重合体が挙げられる。
また、上記樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル及びメタクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂;ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリノルボルネン等のオレフィン系樹脂;エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂等のスチレン系樹脂;メチルメタクリレート−スチレン共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ポリアミドエラストマー等のポリアミド類;ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、シリコーンゴム変性樹脂などが挙げられる。これら樹脂の中でも、上記組成物に含まれるアクリル系ブロック共重合体との相溶性の観点から、アクリル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、AS樹脂、ポリ乳酸、ポリフッ化ビニリデンが好ましく用いられる。
【0073】
上記ゴムとしては、例えば、アクリル系ゴム;シリコーン系ゴム;SEPS、SEBS、SIS等のスチレン系TPE(熱可塑性エラストマー);IR、EPR、EPDM等のオレフィン系ゴムなどが挙げられる。
【0074】
上記軟化剤としては、例えば、パラフィン系オイル、ナフテン系オイルなどの鉱物油が挙げられる。これら軟化剤が組成物に含まれると、成形加工時の流動性が向上する。
上記フィラーとしては、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維などの無機繊維、及び有機繊維;炭酸カルシウム、タルク、カーボンブラック、酸化チタン、シリカ、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウムなどの無機充填剤などが挙げられる。無機繊維、有機繊維が組成物に含まれていると、得られる光学部材に補強効果が付与される。無機充填剤が組成物に含まれていると、得られる光学部材に、耐熱性、耐侯性が付与される。
【0075】
上記熱安定剤、又は酸化防止剤が組成物に含まれていると、耐熱性、耐候性がさらに良好になるため、実用上、上記組成物に含まれていることが好ましい。
なお、これら他の重合体及び添加剤は、上記組成物を成形して成形体を製造する際に、添加されてもよい。
【0076】
本発明の成形体は、上記組成物を成形することにより製造できる。
上記組成物は溶融流動性に優れるために、熱可塑性樹脂の一般的な成形加工方法により成形できる。上記成形加工方法としては、例えば、溶融押出成形法、溶融射出成形法、圧縮成形法、ホットメルト成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、真空成形法、熱プレス成形法、溶液キャスト法などが挙げられる。このような成形により、パイプ、シート、フィルム、繊維状物、該組成物からなる層を含む積層体等の様々な形態の成形品が得られる。
【0077】
従来、メタクリル酸エステル重合体のステレオコンプレックス形成は、溶液状態又は可塑剤存在下で行うか、又は重合体をガラス転移温度以上で長時間アニールすることで行われていた。しかし、本発明のアクリル系ブロック共重合体は、メタクリル酸エステル重合体ブロックがアクリル酸エステル重合体ブロックを介してブロック共重合されており、ステレオコンプレックス形成速度が著しく高められている。そのため、溶融状態から冷却固化する工程だけで、ステレオコンプレックス形成させることが可能である。
【0078】
したがって、上記成形加工方法の中でも、溶融押出成形法、溶融射出成形法、圧縮成形法、ホットメルト成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、真空成形法、熱プレス成形法などの熱可塑成形が好ましい。
【0079】
上記成形体は、透明性、耐侯性、ゴム弾性、柔軟性に優れるだけでなく、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性にも優れる。そのため、ドアハンドル、サイドガーニッシュ、インストルメントパネル及びバンパー等の自動車内外装用成形部品;コネクター、スイッチカバー、ハウジング等の電気及び電子機器部品;偏光フィルム、偏光板、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、輝度向上フィルム、反射防止フィルム、アンチグレアフィルム、カラーフィルター、導光板、光拡散フィルム、半透過反射フィルム、プリズムシート、電磁波シールドフィルム、近赤外線吸収フィルム、複数の光学機能を複合させた機能性複合光学フィルム、光ファイバー、マイクロレンズ、レンズシート携帯電話等の各種移動通信用キー、電子式手帳その他の各種端末キーなどとして用いられる照光式キー、タッチパネル、VDTフィルター、PDP前面板、プロジェクションテレビ前面板、CRTの画像表示面板、光学式ディスク、自動車用補助灯、ヘッドランプ、テールランプなどのカバー材、自動車用サイドミラーに設けられた表示部材、自動車用計器パネル用部材、サンバイザー、発光ルームミラー用部材、メガネ、サングラス、カメラ、望遠鏡、顕微鏡、及びプロジェクションテレビに用いるレンズ、プリズム、ミラー、照明板、看板、窓ガラス、照明器具などの光学部材;容器等幅広い分野に用いることができる。
【実施例】
【0080】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらにより何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の各種物性は以下の方法により測定又は評価した。
(1)数平均分子量(Mn)
アクリル系ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)はゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(以下GPCと略記する)によりポリメタクリル酸メチル換算分子量で求めた。
・装置:日本分光株式会社製GPC装置「PU−980」、「CO−965」及び「RI−930」
・分離カラム:ポリマーラボラトリーズ社製の「Mixed−C」を直列に2本連結
・溶離剤:クロロホルム
・溶離剤流量:0.8ml/分
・カラム温度:40℃
・検出方法:示差屈折率(RI)
(2)各重合体ブロックの立体規則性
アクリル系重合体ブロックにおける各重合体ブロックの立体規則性は1H−NMR(1H−核磁気共鳴)測定によって求めた。
・装置:日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「JNM−AL400」
・重溶媒:重水素化クロロホルム
(3)各重合体ブロックの構成割合
アクリル系重合体ブロックにおける各重合体ブロックの構成割合は、仕込単量体量、転化率、1H−NMR(1H−核磁気共鳴)測定によって求めた。なお転化率は、ガスクロマトグラフィー(GC)により求めた
GC測定装置及び条件
装置:ヒューレットパッカード社製HP−6890
1H−NMR測定装置及び条件
装置:日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「JNM−AL400」
重溶媒:重水素化クロロホルム
(4)各重合体ブロックのガラス転移温度(Tg)
セイコーインスツルメンツ社製のDSC測定装置(DSC−6200)を使用して、昇温速度10℃/分の条件でDSC測定して得られた曲線において、外挿開始温度(Tgi)をガラス転移温度(Tg)とした。
(5)アクリル系ブロック共重合体又は該共重合体を含む組成物の融点
セイコーインスツルメンツ社製のDSC測定装置(DSC−6200)を使用して、昇温速度10℃/分の条件でDSC測定して得られた曲線において、融解ピーク温度を融点とした。
【0081】
〔実施例1〕
火焔滅菌した反応容器に脱水したジクロロメタン9.22mlを導入した。これに0.78mlのリチウムトリメチルシラノラート Me3SiOLi(1.30モル/リットルジクロロメタン溶液)を注射器を用いて導入した。この溶液に0.36mlのα−リチオイソ酪酸イソプロピル Li−iPrIB(0.29モル/リットル)を添加した。10分後、この開始剤系溶液を−40℃に冷却し、0.54mlのMMA(5ミリモル)を添加し30分重合させた。得られた重合体を少量サンプリングし、収率、重量平均分量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、立体規則性、ガラス転移温度を確認した。その結果、収率98.4%、Mn=9900、Mw/Mn=1.45、mm:mr:rr=96:3:1であり、イソタクチックPMMAブロックであった。
【0082】
この重合溶液を−60℃に冷却し、エチルビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウム EtAl(ODBP)2(0.98モル/リットルトルエン溶液)を添加した。30分後同じ温度で、予め調整した1.94mlのメタクリル酸メチル MMAとアクリル酸n−ブチル n−BuAの混合物(MMA/n-BuAのモル比=1/1)を一括添加し、6時間重合させた。重合溶液を過剰の冷えた水/メタノールに注ぎ、沈殿物を濾取して回収し、減圧下、室温で24時間乾燥させた。その結果、2.1gの共重合体(収率91.3%)が得られた。得られた重合体の物性測定を行った。(Mn=30000、Mw/Mn=1.19、MMA/n−BA=43/57(wt/wt)PMMAブロックの立体規則性 mm:mr:rr=50:8:42)であり、計算より2番目にブロック共重合したシンジオタクチックPMMAブロックの立体規則性 mm:mr:rr=4:13:83)と求められた。その結果を表1に示す。
【0083】
得られたブロック共重合体試料のDSC測定を行った。220℃で溶融した試料を毎分10℃で−100℃まで降温したところ、127℃付近にステレオコンプレックス形成に伴う明瞭な発熱ピークが見られた。これを−100℃で10分間保持したのち、毎分10℃で220℃まで昇温したところ、175℃にピークトップを有するステレオコンプレックス融解の発熱ピークが見られた。その発熱量は試料中のPMMA成分に対して28.6J/gであった。
【0084】
〔比較例1〕
シンジオタクチックPMMAブロック−Pn−BAブロック−シンジオタクチックPMMAブロックからなるトリブロック共重合体(Mn=47000、Mw/Mn=1.16、MMA/n−BA=64/36(wt/wt)、PMMAブロックの立体規則性 mm:mr:rr=2:27:71)とイソタクチック−PMMA(Mn=9900、Mw/Mn=1.45、mm:mr:rr=96:3:1)とを重量比で100:32となるように均一混合物を作製した。
【0085】
この混合物試料のDSC測定を実施例1と同様に行った。その結果、降温時には明瞭な発熱ピークが見られず、昇温時には134℃付近に発熱ピークが見られたがやや不明瞭であり、その発熱量もPMMA成分に対して10.2J/gと小さかった。
【0086】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
3連子表示で表される立体規則性が異なるメタクリル酸エステル重合体ブロック(A1)及び(A2)、並びにガラス転移温度が−10℃以下の(メタ)アクリル酸エステル重合体ブロック(B)を有するアクリル系ブロック共重合体。
【請求項2】
上記重合体ブロック(A1)の立体規則性がイソタクチックであり、上記重合体ブロック(A2)の立体規則性がシンジオタクチックである請求項1記載のアクリル系ブロック共重合体。
【請求項3】
上記重合体ブロック(A1)及び重合体ブロック(A2)がメタクリル酸メチル単位を50%以上有する重合体ブロックである請求項1又は2に記載のアクリル系ブロック共重合体。
【請求項4】
上記重合体ブロック(A1)と上記重合体ブロック(A2)とがステレオコンプレックスを形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系ブロック共重合体。
【請求項5】
上記重合体ブロック(B)の含有量が50質量%以上である請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル系ブロック共重合体。
【請求項6】
重合体ブロック(A1)、重合体ブロック(B)、重合体ブロック(A2)の順に重合を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル系ブロック共重合体を含む組成物を熱可塑成形して得られる成形体。

【公開番号】特開2011−16935(P2011−16935A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162830(P2009−162830)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】