説明

アクリル系人工毛髪用繊維

【課題】 従来のアクリル系人工毛髪用繊維に比べ著しく分繊性が良好で、櫛通りに優れ、且つヌメリ性のあるソフトな触感と自然な光沢を有するアクリル系人工毛髪用繊維を提供する。
【解決手段】 合成繊維の油剤として、ポリアミンポリアミド系柔軟剤(A)を主成分とする油剤に、その固形分に対して0.1〜10重量%のシリコーン系油剤(B)を加えた乳化分散液を、繊維乾燥重量に対し固形分で0.05〜2.0重量%付与してなるアクリル系人工毛髪用繊維。太デニールのアクリル系湿式紡糸繊維の欠点であった分繊性を著しく改善し、且つヌメリ性のあるソフトな触感を与え、櫛通り性を改善し、櫛を通した時の毛先でのもつれを防止しうる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、かつら、ヘアピース、人形用頭髪等に用いられるアクリル系人工毛髪用繊維に関し、さらには、従来のアクリル系人工毛髪用繊維に比べ、著しく分繊性に優れ、且つヌメリ性のあるソフトな触感と、自然な光沢を有し、櫛通りに優れたアクリル系人工毛髪用繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】一般にカツラ、ヘアピース、人形用頭髪等に使用される人工毛髪用繊維としては、アクリル系繊維、塩化ビニル繊維、塩化ビニリデン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維等がある。これらの人工毛髪用繊維をカツラ、ヘアピース、人形毛髪用途に供する場合、分繊性、光沢、触感・風合い、櫛通り、カール性能の良さ等が品質の主な要求特性となる。これらの特性は勿論、繊維自体の特質にも影響されるが、使用する油剤に負うところが大である。特にこの分野でアクリル系繊維は、その人毛・獣毛ライクな風合いの為に、主要な地位を占めている。しかし、従来アクリル系繊維では、一般的にポリエーテル系油剤等が用いられており、アクリル系繊維の湿式紡糸に際しては、乾燥工程で一本一本の繊維が融着し易く、分繊性が劣るという難点があった(この場合、分繊性が良いというのは1本、1本の繊維が融着せず分離している状態をいう)。分繊性が悪いと櫛の通りが悪かったり、櫛を通した時毛切れの原因になるので、分繊性は人工毛髪用繊維の最重要な品質項目の一つである。
【0003】これらの解決のために、例えば繊維中に酢酸セルロースや水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、および酸化珪素等の艶消し剤を添加する様な方法等が提案されているが、添加量が多いと繊維のガサツキ感が増大し、櫛通り性が悪化したりする傾向にある。また、昨今好まれる様になってきた光沢のある人工毛髪用繊維では、艶消し剤の添加量が多くできないため、良好な分繊性が得られない問題があった。またシリコーン系油剤を単独で使用すると確かに分繊性は向上するが、逆に繊維が滑りすぎ不自然な触感を与え、且つカールが纏まらない問題があった。このように分繊性、触感、櫛通り性、カール性能等の全てを満足できる毛髪用繊維性能を具備したアクリル系人工毛髪用繊維は得られていないのが現状であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、従来のアクリル系人工毛髪用繊維に比べ著しく分繊性が良好で、櫛通り性に優れ、且つヌメリ性のあるソフトな触感と自然な光沢を有するアクリル系人工毛髪用繊維を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは一般的にアクリル系繊維の柔軟仕上げ剤として使用されるポリアミンポリアミド系油剤に着目し、鋭意検討した結果、湿式紡糸でも本油剤を使用すれば、従来よりも著しく分繊性が良好で、且つヌメリ性のあるソフトな触感を有するアクリル系人工毛髪用繊維が得られる事を見いだした。ポリアミンポリアミド系柔軟剤は、繊維間の摩擦係数を引き下げ、繊維の触感にヌメリ性与え、繊維を柔らかくする作用を有する。しかし、反面、ポリアミンポリアミド系柔軟剤は、プラスティック製の櫛を使用した際に繊維の先端で毛がもつれて櫛が通り難いという重大な問題があった。この為、本発明者らはさらに検討を重ねた結果、シリコーン系油剤を併用することで櫛通り性を改善し、且つアクリル系人工毛髪用繊維の欠点であった分繊性をも改善し、人工毛髪用繊維として理想的なアクリル系人工毛髪用繊維の開発に成功し、本発明に到達した。
【0006】本発明者らは、分繊性が良好で、櫛通りに優れ、ヌメリ性のあるソフトな触感と自然な光沢を有するアクリル系人工毛髪用繊維を鋭意検討した結果、油剤としてポリアミンポリアミド系柔軟剤が太デニールのアクリル系湿式紡糸繊維の欠点であった分繊性を著しく改善し、且つヌメリ性のあるソフトな触感を与え、さらにシリコ−ン系油剤を当該ポリアミンポリアミド系柔軟剤に混合せしめることで、櫛通り性、特に櫛を通したときの毛先でのもつれを防止する効果があることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】すなわち本発明は、ポリアミンポリアミド系柔軟剤(A)を主成分とする油剤に、その固形分に対して0.1〜10重量%のシリコーン系油剤(B)を加えた乳化分散液を、繊維乾燥重量に対し固形分で0.05〜2.0重量%付着してなるアクリル系人工毛髪用繊維である。前記ポリアミンポリアミド系柔軟剤(A)としては、下式(I)〜(XI)で表される化合物及び/又はその塩からなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【化12】


(ポリアミンポリアミドエピクロールヒドリン付加物であって、R1 は炭素数が15〜25のアルキル基)
【化13】


( ポリアミンポリアミドエピクロールヒドリン付加物であって、R1 は炭素数が15〜25のアルキル基、R2 は炭素数が1〜3のアルキル基)
【化14】


(ポリアミンポリアミド尿素縮合物であって、R1 は炭素数が15〜25のアルキル基)
【化15】


( ポリアミンポリアミド尿素縮合物であって、R1 は炭素数が15〜25のアルキル基)
【化16】


(ポリアミンポリアミド尿素縮合物であって、R1 は炭素数が15〜25のアルキル基)
【化17】


(R1 は炭素数が15〜25のアルキル基)
【化18】


(R1 は炭素数が15〜25のアルキル基)
【化19】


(R1 は炭素数が15〜25のアルキル基)
【化20】


(R1 は炭素数が15〜25のアルキル基)
【化21】


(R1 は炭素数が15〜25のアルキル基であり、nは1〜5の正数)
【化22】


(R1 は炭素数が15〜25のアルキル基、R2 は炭素数が1〜3のアルキル基であり、X- は塩酸、ジエチル硫酸等の対イオンを示す)
さらには、シリコーン系油剤(B)がジメチルポリシロキサン、メチルハイドジェンポリシロキサン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボン酸変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーンからなる群の内から選択された少なくとも1種であるのがより好ましい。
【0008】
【発明の実施の形態】以下に、本発明をさらに詳しく説明する。本発明のアクリル系人工毛髪用繊維に用いる油剤として使用されるポリアミンポリアミド系柔軟剤(A)は、分子中にアミド基とアミノ基を併せ持つ系統の油剤を指すものであり、好ましいものとしては前記式(I)〜(XI)で表される化合物及び/又はその塩からなる群の内から選択される少なくとも1種が好ましい。これらの化合物は、例えば酢酸塩、グリコール酸塩、蟻酸塩、塩酸塩、ジエチル硫酸塩等の形であっても良い。またポリアミンポリアミド系柔軟剤(A)は、これらの化合物単独であっても良いし、2種類以上の混合物であっても良い。
【0009】次に、本発明でいうシリコーン系油剤(B)とは、カチオンタイプのポリアミンポリアミド系柔軟剤(A)と混合可能で、乳化分散性を損なわない物が使用可能であり、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボン酸変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。中でも油剤の安定性、及び繊維の櫛通り性改善効果の点からジメチルポリシロキサン及びアミノ変性シリコーンがより好ましい。またシリコーン系油剤(B)の添加量は、全油剤の固形分に対して0.1〜10重量%、より好ましくは0.3〜5重量%である。前記添加量が0.1重量%未満であると目的とする櫛通り性が得られない傾向がある。また逆に10重量%を越えると過度に滑りすぎて人工毛髪用繊維として好ましくない傾向になる。
【0010】また合成繊維に付与する油剤の付着量は、油剤固形分が繊維乾燥重量に対し0.05〜2.0重量%であるのが好ましいが、繊維素材や繊維の表面状態などによって、好ましい付着量は異なる。例えば、繊維表面に微少な凹凸が多い場合は、好ましくは0.1〜1.8重量%、さらに好ましくは0.3〜1.5重量%であり、また繊維表面が比較的平滑な場合、好ましくは、0.07〜1.5重量%、さらに好ましくは、0.1〜1.2重量%である。油剤付着量が前記範囲より少なければ目的とするソフトな触感が得られず、櫛通り性や分繊性の改善効果が不足し、静電気が発生する。また前記範囲より多くなると触感の粘着感が増加して好ましくない上、製造工程で油剤スケールの問題が発生する傾向がある。
【0011】さらに、本発明に使用する油剤は、本発明の効果を損なわない限り、前記ポリアミンポリアミド系柔軟剤(A)及びシリコーン系油剤(B)以外の、他種の油剤との混合物であっても良い。例えば、繊維の収束性やしっとりした風合いを付与し、また静電気の発生を防止する為に通常のポリエーテル(分子量2000〜15000)を油剤の固形分組成で35重量%以下混合しても良い。但し35重量%を越えると繊維の粘着感と収束性が過度に強くなり、人工毛髪用繊維として好ましくない。また、本油剤の乳化分散性を向上させるために必要な界面活性剤を発明の効果を損なわない範囲で添加することが出来る。前記界面活性剤としては、例えば下式(XII)
【化23】


(式中のRは硬化牛脂を示す。)で表されるカチオン系界面活性剤及び下式(XIII )
【化24】


(式中のRはステアリルを、m、nは整数を示し、m+n≦30である。)で表される非イオン系界面活性剤を示し、(XII)と(XIII )との割合は、(XII)/(XIII )=2/1が好ましい。
【0012】油剤の付与方法としては通常の方法が採用可能であるが、凝固−水洗後の膨潤糸条に付与するのが良い。湿式紡糸法で紡糸された膨潤糸条とは凝固・水洗上がりの未乾燥糸条であって、繊維中に多数の空孔を有し、50〜200重量%以上の含水率を有する状態の糸条をいう。
【0013】本発明でいうアクリル系人工毛髪用繊維に使用するアクリル系共重合体は、アクリロニトリルを30〜80重量%含有し、塩化ビニルや塩化ビニリデンなどに代表されるハロゲン含有モノマーの少なくとも1種以上を70〜20重量%を含有するものが好ましく、さらにこれらと共重合可能な他のビニル系モノマー、例えばメタリルスルホン酸ソーダ、アリルスルホン酸ソーダ、スチレンスルホン酸ソーダ、アクリル酸、酢酸ビニール、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルを共重合せしめたものであっても良い。
【0014】さらに、本発明に使用するアクリル系人工毛髪用繊維の単糸繊度は10〜100デニールが好ましく、より好ましくは15〜70デニールである。単糸繊度が100デニールを越えると、毛髪用繊維としてあまりにも硬すぎて好ましくない。また単糸繊度が10デニール未満では比較的細繊度のものが使用される人形毛髪としても柔らかすぎて好ましくない。
【0015】
【実施例】以下、実施例を上げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例の記載に先立って、各種特性の評価方法を示す。
【0016】分繊性、櫛通り、触感、光沢は人工毛髪製品開発の専門家による視感判定、官能評価による5段階評価とした。
[分繊性]:一定の繊維束を採り、視感によって1本1本の繊維の分繊性を評価。
[櫛通り]:プラスティック製のコームを用い、一定の繊維束の櫛通りを評価。
[触感・柔らかさ]:一定の繊維束を採り、触感を官能評価。
5:非常に良好。
4:良好。
3:普通。
2:やや不良。
1:不良。
[油剤感]:一定の繊維束を採り、触感のベタツキを評価。
5:非常に良好(ベタツキ少)。
4:良好 (ベタツキ少)。
3:普通。
2:やや不良(ベタツキ気味)。
1:不良(ベタツキ大)。
[光沢]:一定の繊維束を採り、繊維の表面光沢を視感評価。
5:非常に良好(自然光沢)。
4:良好(自然光沢)。
3:普通。
2:やや不良(光沢強)。
1:不良(金属光沢)。
[総合評価]
5:非常に優れる。
4:優れる。
3:普通。
2:やや劣る。
1:劣る。
【0017】[実施例1〜14、比較例1〜4]アクリロニトリル49重量%、塩化ビニル50重量%、スチレンスルホン酸ソーダ1重量%からなるアクリル系重合体樹脂をアセトンに溶解して29.5重量%の紡糸原液を調製した。該紡糸原液を円形孔ノズル(孔径0.3mm、孔数50個)を用いて20重量%アセトン水溶液中に紡出した。さらに紡出糸条を50〜60℃の水洗浴に導き、水洗しながら1.6倍に延伸し、ゲル膨潤糸条を得た。上記方法で得られた繊維に、表1に示す種類及び量(固形分)のポリアミンポリアミド系柔軟剤(A)を主成分とする油剤固形分100重量%に対し、シリコーン系油剤(B)を表1の通り混合乳化分散し、浸漬法で繊維重量に対し、固形分で表1に示す量を付与した。次いで125℃の乾燥機で乾燥、緻密化の後、延伸及び熱処理を行い、単糸繊度50デニール、総繊度2500デニールの繊維を得た。また、ポリアミンポリアミド系柔軟剤(A)及びシリコーン系油剤(B)の混合組成比が本発明の範囲外のものを比較例1〜2、油剤付着量が本発明の範囲外のものを比較例3〜4とした。これらの評価結果を表2に示す。
【0018】[実施例15]アクリロニトリル49重量%、塩化ビニル50重量%、スチレンスルホン酸ソーダ1重量%からなるアクリル系重合体樹脂をアセトンに溶解して29.5重量%の紡糸原液を調製した。該紡糸原液を円形孔ノズル(孔径0.3mm、孔数36個)を用いて15重量%アセトン水溶液中に紡出した。さらに紡出糸条を50〜60℃の水洗浴に導き、水洗しながら1.6倍に延伸し、ゲル膨潤糸条を得た。上記方法で得られた繊維に、表1に示す種類及び量(固形分)のポリアミンポリアミド系柔軟剤(A)を主成分とする油剤固形分100重量%に対し、シリコーン系油剤(B)及びポリエーテル(平均分子量3000)を表1の通り混合乳化分散し、浸漬法で繊維重量に対し、固形分で表1に示す量を付与した。次いで125℃の乾燥機で乾燥、緻密化の後、延伸及び熱処理を行い、単糸繊度20デニール、総繊度720デニールの繊維を得た。この評価結果を表2に示す。
【0019】
【表1】


【0020】
【表2】


【0021】
【発明の効果】本発明のアクリル系人工毛髪用繊維は、合成繊維の油剤としてポリアミンポリアミド系柔軟剤(A)、及びシリコーン系油剤(B)を含む乳化分散液を付着することで、従来の人工毛髪用繊維の問題であった分繊性を著しく向上し、且つポリアミンポリアミド系油剤に特有な毛先でのもつれを改善し、櫛通り性の良好な、ヌメリ性のあるソフトな触感と、自然な光沢を有した人工毛髪用繊維を提供しうるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリアミンポリアミド系柔軟剤(A)を主成分とする油剤に、その固形分に対して0.1〜10重量%のシリコーン系油剤(B)を加えた乳化分散液を、繊維乾燥重量に対し固形分で0.05〜2.0重量%付着してなるアクリル系人工毛髪用繊維。
【請求項2】 ポリアミンポリアミド系柔軟剤(A)が下式(I)〜(XI)で表される化合物及び/またはその塩からなる群の内から選択された少なくとも1種である請求項1記載のアクリル系人工毛髪用繊維。
【化1】


(ポリアミンポリアミドエピクロールヒドリン付加物であって、R1 は炭素数が15〜25のアルキル基)
【化2】


(ポリアミンポリアミドエピクロールヒドリン付加物であって、R1 は炭素数が15〜25のアルキル基、R2 は炭素数が1〜3のアルキル基)
【化3】


(ポリアミンポリアミド尿素縮合物であって、R1 は炭素数が15〜25のアルキル基)
【化4】


(ポリアミンポリアミド尿素縮合物であって、R1 は炭素数が15〜25のアルキル基)
【化5】


(ポリアミンポリアミド尿素縮合物であって、R1 は炭素数が15〜25のアルキル基)
【化6】


(R1 は炭素数が15〜25のアルキル基)
【化7】


(R1 は炭素数が15〜25のアルキル基)
【化8】


(R1 は炭素数が15〜25のアルキル基)
【化9】


(R1 は炭素数が15〜25のアルキル基)
【化10】


(R1 は炭素数が15〜25のアルキル基であり、nは1〜5の正数)
【化11】


(R1 は炭素数が15〜25のアルキル基、R2 は炭素数が1〜3のアルキル基であり、X-は対イオンを示す)
【請求項3】 シリコーン系油剤(B)がジメチルポリシロキサン、メチルハイドジェンポリシロキサン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボン酸変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーンからなる群の内から選択された少なくとも1種である請求項1記載のアクリル系人工毛髪用繊維。