説明

アクリル系樹脂粉体の製造方法

【課題】微粉の生成を抑制して粉体のハンドリング性を改善し、それにより工程トラブルを防止して高生産性を実現するとともに、脱水含水率の低い樹脂を生成し乾燥工程でのエネルギーコストを削減する。
【解決手段】アクリロニトリル単位を含有する高分子ラテックスを無機塩あるいは無機酸からなる凝固剤液で凝固し樹脂を回収する操作において、ガラス転移温度未満の温度で、滴下または注入された高分子ラテックスがその形状を保持して凝固体を形成できる濃度の凝固剤液中に高分子ラテックスの凝固体を点在させ、その後、ガラス転移温度以上の所定温度までその凝固剤液を3℃/秒以下の速度で昇温する凝固熱処理操作を行うことで、微粉生成を抑制するとともに樹脂の脱水含水率を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリロニトリル単位を含有する重合体から形成される高分子ラテックスを凝固することによって得られるアクリル系樹脂粉体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリル単位を含有する重合体から形成される高分子ラテックスを凝固剤液で凝固する工程を含むアクリル系樹脂粉体の製造方法は、通常、ラテックスと凝固剤液とを凝固装置に供給し均一に撹拌混合して樹脂を凝集させて固化し、その後凝固粒子の内部水を低減する目的で熱処理を行い、減圧濾過機や遠心脱水機などで粒子表面に付着する水を除去し、脱水樹脂を得る方法が用いられる。
【0003】
しかし、このような製造方法では、凝固工程で生成される凝集粒子の保持強度が弱く、不定形で微粉も多く発生するために、粒子のハンドリング性、濾過時のフィルター目詰まりなどの生産性に影響する課題があった。
【0004】
高分子ラテックスを緩凝集することで粒径分布がシャープで粗粒や微粉の少ない凝固粒子が得られる方法が記載されているが(特許文献1)、この方法では、凝固剤濃度が低く粒子内部まで十分に凝固していないため、結果として緻密性の悪い含水率の高い粒子が得られる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−217224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、乳化重合の重合後処理工程において、微粉の生成を抑制すること、脱水含水率の低い樹脂を生成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
アクリロニトリル単位を含有する重合体から形成される高分子ラテックスを凝固剤液で凝固する工程を含むアクリル系樹脂粉体の製造方法であって、無機塩又は無機酸から選ばれる少なくとも1種の凝固剤成分の濃度が10重量%以上の凝固剤液に、アクリロニトリル単位を含有する重合体から形成される高分子ラテックスを、凝固剤液温度が高分子ラテックスを形成する重合体のガラス転移温度未満の温度である凝固剤液に滴下または注入して、その後、3℃/秒以下の昇温速度でガラス転移温度以上の凝固剤液温度にすることを特徴とするアクリル系樹脂粉体の製造方法に関する(請求項1)、
高分子ラテックスを滴下または注入する際の凝固剤液温度Tが、0℃<T≦(ガラス転移温度−5℃)であることを特徴とする請求項1に記載のアクリル系樹脂粉体の製造方法に関する(請求項2)、
アクリロニトリル単位を含有する重合体から形成される高分子ラテックスが、アクリロニトリル単位と塩化ビニル単位あるいは塩化ビニリデン単位を含有する共重合体であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のアクリル系樹脂粉体の製造方法に関する(請求項3)、
アクリロニトリル単位を含有する重合体から形成される高分子ラテックスが、35〜80重量%のアクリロニトリル単位、15〜65重量%の塩化ビニル単位あるいは塩化ビニリデン単位、及びスルホン酸基含有単量体0〜5重量%を含有する共重合体であることを特徴とする請求項3に記載のアクリル系樹脂粉体の製造方法に関する(請求項4)、ものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、アクリル系樹脂粉体の粉体ハンドリング性を良くするものである。また、本発明は、凝固熱処理工程で脱水含水率の低いアクリル系樹脂粉体を得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ラテックスを凝固剤液中に滴下する場合の装置例
【図2】ラテックスを凝固剤液中に注入する場合の装置例
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のアクリロニトリル単位を含有する重合体から形成される高分子ラテックスとは、アクリロニトリルの単重合体、またはアクリロニトリルと共重合可能な1種以上のビニルまたはアリル化合物などを共重合させて得られた重合体のラテックスである。共重合体成分としては、アクリロニトリル単位と塩化ビニル或いは塩化ビニリデン単位を含有することが好ましく、更にスルホン酸基含有モノマーを共重合体成分として含有することがより好ましい。
【0011】
重合体100重量%に対して、アクリロニトリル単位は35〜80重量%であることが好ましい。塩化ビニル単位或いは塩化ビニリデン単位は15〜65重量%であることが好ましい。スルホン酸基含有モノマー単位は0〜5重量%であることが好ましい。
【0012】
本発明の無機塩又は無機酸から選ばれる少なくとも1種の凝固剤液は、通常、高分子ラテックスの凝固に用いられているものが使用でき、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、硝酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウムなどの無機塩、塩酸および硫酸などの無機酸が挙げられる。また、塩および酸は2種類以上併用して用いることもできる。本発明においては、無機塩の凝固剤液が好ましく、それらは水洗で容易に除去できることから樹脂品質に影響を及ぼさない。
【0013】
本発明の凝固剤成分濃度は、10重量%以上にする必要がある。凝固剤液中に滴下または注入された高分子ラテックスがその形状を保持して凝固体を形成でき、その凝固剤液中に該高分子ラテックスの凝固体を点在させるためである。より好ましい凝固剤成分濃度は、15重量%以上である。
【0014】
この凝固剤成分濃度は、凝固剤種のイオン価数で異なり、一般的にイオン価数が減少するとともにその成分濃度は高くなる。ここで、凝固剤液中に高分子ラテックスの凝固体を点在させるとは、高分子ラテックスが滴下または注入された形状を保持して形成された凝固体の一粒一粒が凝固剤液中に漂っている状態を意味する。また、滴下とは、高分子ラテックスの液滴を凝固剤液中に落下させること、注入とは、高分子ラテックスをノズルより凝固剤液中に吐出することを意味する。
【0015】
一例を示すと、上述した乳化重合で得られた高分子ラテックスでは、凝固剤に塩化ナトリウムを使用すると21wt%水溶液にすることで、凝固剤液中に該高分子ラテックスの凝固体を点在させることができる。図1と図2に、実験装置の概略を示す。高分子ラテックスの投入方法は、凝固剤液中に滴下する方法(図1)でも、注入する方法(図2)でも良く、凝固剤液中に該高分子ラテックスの凝固体が点在するならばどのような方法でもかまわない。また、撹拌条件やラテックス注入速度(ラテックスを注入する場合)を調整することで、微粉の生成を抑制できるとともにある範囲内に粒子径を制御することも可能となる。本発明の凝固法では凝固剤液濃度が高く、ラテックス基本粒子(約50nm)の表面電荷を著しく低下して電気的反発力を打ち消すことができるため、生成する凝固粒子の機械的強度が高くなり微粉を発生し難い特徴を有する。
【0016】
さらに、一般的な凝固方法は、高分子ラテックスと凝固剤液とを凝固装置に供給し均一に撹拌混合して凝固粒子を生成する。このようにして形成される凝固粒子は、1次凝集粒子がまず生成し、それらがさらに寄り集まって2次凝集粒子、3次凝集粒子に成長するため、凝固粒子を形づくる基本単位であるラテックス粒子(約50nm)の配列構造が不規則になる。一方、本発明の凝固法では、凝固剤液中に高分子ラテックスを点在させて生成する凝固粒子は、その一粒自体が1次凝集粒子である。よって、その凝固粒子内部のラテックス基本粒子(約50nm)の規則配列性は、多次凝集粒子のものより高い。この規則配列性の高い凝固構造は、後工程の熱処理操作により熱収縮(含水を粒子外部へ排斥する)させる際、緻密性の高い熱処理粒子を形成できるため、より含水率を低減できることになる。
【0017】
本発明の凝固剤液温度は、凝固の初期段階では高分子ラテックスを形成する重合体のガラス転移温度未満の温度とし、その後、3℃/秒以下の昇温速度でガラス転移温度以上の温度にすることを特徴とする。
【0018】
凝固の初期段階の温度は、ガラス転移温度−5℃以下であることが好ましく、ガラス転移温度−15℃以下がより好ましい。その際、凝固剤水溶液は水媒体の視点から、氷点の0℃以上であることが好ましい。凝固温度をガラス転移温度−5℃以下にするのは、凝固と同時に熱融着が起こるのを抑制して、ラテックス基本粒子(約50nm)の配列が疎な状態で固着するのを防止できるためである。それにより、後に続く熱処理時の熱収縮(含水を粒子外部へ排斥する)でラテックス基本粒子の配列が効果的に緻密化され、含水率を低下させることができる。
【0019】
また、昇温速度は3℃/秒以下が好ましく、1℃/秒以下がより好ましい。ガラス転移温度未満の温度からガラス転移温度以上の所定温度まで、3℃/秒以下の速度で昇温するのは、ラテックス基本粒子(約50nm)の疎な配列状態での固着(熱融着)を抑制しながら熱収縮(含水の粒子外部への排斥)を進行でき、それにより規則配列性(緻密化)がより促進されるためである。その結果、急激に温度上昇させる場合に比較すると、含水率の低い粒子を生成できることになる。昇温する手段としては、例えば、加熱器具である電磁ヒーター、ジャケットによる間接的な加温、蒸気を直接投入する方法などを用いることができる。
【0020】
本発明のアクリル系樹脂粉体の製造方法は、凝固熱処理工程に特徴を有するものであるが、本発明のアクリル系樹脂粉体の製造方法に係る各工程としては、以下のような工程を例示することができる。すなわち、高分子ラテックスを凝固剤で凝集する凝固工程、次に生成した凝固体の保持強度をアップさせたり含水率を低下させる熱処理工程、不純物を除去する水洗工程、その凝固体を固液分離し脱水樹脂を得る脱水工程、脱水樹脂の含水を除去して乾燥粉体を得る乾燥工程からなる。なお、各工程は本願発明の目的に照らして、適宜削除したり、その他の工程を追加することも可能である。
【実施例】
【0021】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。表1に、実施例と比較例における凝固熱処理条件と生成した粒子物性との関係を整理した。本実施および比較例で使用した高分子ラテックスは、アクリロニトリル5部、塩化ビニル51.3部、ラウリル硫酸ソーダ0.87部、水177部、亜硫酸水素ナトリウム0.22部、亜硫酸ガス0.43部、硫酸第一鉄0.001部、過硫酸アンモニウム0.03部を仕込み、重合温度50℃でパラスチレンスルホン酸ナトリウムを0.11部/hr、アクリロニトリルを9.6部/hr、過硫酸アンモニウムを0.05部/hrで追加しながら4時間30分重合を行った。得られた共重合体は、アクリロニトリル50〜51部、塩化ビニル49〜50部、硫黄含有量0.5重量%であり、固形分濃度は33%であった。また、この樹脂のガラス転移温度は85〜90℃であった。なお、実施例の記載に先立ち、樹脂脱水含水率と10μm以下の微粉生成量の測定方法を説明する。
【0022】
(樹脂の脱水含水率)
熱処理した粒子を室温の水で水洗した後、ブフナーロート上に流し込み、吸引濾過で脱水した。濾紙はFILTER PAPER 5C(保留粒子径1μm、東洋濾紙株式会社)を使用した。その後、濾過した脱水樹脂の重量W0とそれを乾燥した(乾燥温度110℃)後の固形分のみの重量Wを測定し、次式にて樹脂脱水含水率を算出した。
樹脂脱水含水率(%-drybase)=(W0−W)/W×100
【0023】
(10μm以下の微粉生成量)
10μm以下の粒子を微粉と定義した。凝固熱処理して生成した粒子の10μm以下の微粉量は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA−950;HORIBA)で測定し、次式にて算出した。
10μm以下の微粉生成量(%)=10μm以下の粒子体積/全粒子体積×100
【0024】
(実施例1)
図1の内径10cmのステンレス製容器5に21wt%塩化ナトリウム水溶液(凝固剤液2)を入れて温度を50℃にキープした。撹拌翼(3枚掻き下げプロペラ翼、d/D=0.5)4の回転数は100rpmとした。また、その凝固剤液2中に、上述した高分子ラテックスをラテックス滴下ノズル1より滴下した。滴下したラテックスは21wt%食塩水と接触すると瞬時に凝固し、その液中に点在する凝固粒子3になった。その後、電磁ヒーター6を用いて凝固剤液を0.7℃/秒の速度で昇温し、100℃で10分間保持した。その後、得られた粒子と凝固剤液を固液分離し、室温の水で水洗して塩化ナトリウムを取り除き脱水含水率測定用のサンプルを得た。なお、得られた粒子の粒径は0.5〜2mm、その形状は不定形で、脱水含水率は46.0%-drybaseであった。10μm以下の微粉は生成しなかった。
【0025】
(実施例2)
50℃にキープした21wt%塩化ナトリウム水溶液(凝固剤液2)の中に、上述した高分子ラテックスをラテックス滴下ノズルより滴下した。なお、滴下した高分子ラテックスがほぼ球形を保持した状態で凝固、点在するよう、滴下したラテックスが完全に凝固剤液に浸漬してから次のラテックスを滴下し、且つ、攪拌翼(3枚掻き下げプロペラ翼)で凝固粒子が破壊されないよう撹拌回転数を30rpmとした。その他の処理は、実施例1と同様の操作として脱水含水率測定用のサンプルを得た。なお、得られた粒子の粒径は約3mm、その形状はほぼ球形で、脱水含水率は39.9%-drybaseであった。10μm以下の微粉は生成しなかった。実施例1より脱水含水率が低くなったのは、粒子表面に残存する表面水が少なくなったためである。
【0026】
(実施例3)
凝固剤液を0.7℃/秒の速度で昇温した後90℃で10分間保持した以外は、実施例1と同様の操作として脱水含水率測定用のサンプルを得た。なお、得られた粒子の粒径は0.5〜2mm、その形状は不定形で、脱水含水率は62.6%-drybaseであった。10μm以下の微粉は生成しなかった。
【0027】
(実施例4)
24wt%塩化ナトリウム水溶液(凝固剤液2)を30℃にキープして高分子ラテックスをラテックス滴下ノズルより滴下したことと、凝固剤液を0.7℃/秒の速度で昇温した後95℃で10分間保持した以外は、実施例1と同様の操作として脱水含水率測定用のサンプルを得た。なお、得られた粒子の粒径は0.5〜2mm、その形状は不定形で、脱水含水率は50.9%-drybaseであった。10μm以下の微粉は生成しなかった。
【0028】
(実施例5)
24wt%塩化ナトリウム水溶液(凝固剤液2)を70℃にキープして高分子ラテックスをラテックス滴下ノズルより滴下したことと以外は、実施例4と同様の操作として脱水含水率測定用のサンプルを得た。なお、得られた粒子の粒径は0.5〜2mm、その形状は不定形で、脱水含水率は69.2%-drybaseであった。10μm以下の微粉は生成しなかった。
【0029】
(実施例6)
図2のように、ラテックスノズル7を凝固剤液に浸けてラテックスを液中に注入(ラテックス注入速度は約20cm/sec)して点在させ、且つ、攪拌翼(3枚掻き下げプロペラ翼)でその凝固粒子が破壊されないよう撹拌回転数を30rpmとした以外は、実施例1と同様の操作として脱水含水率測定用のサンプルを得た。なお、得られた粒子は、直径約1mmの棒状で、脱水含水率は41.0%-drybaseであった。10μm以下の微粉は生成しなかった。
【0030】
(比較例1)
図1の内径10cmのステンレス製容器5に21wt%塩化ナトリウム水溶液(凝固剤液2)を入れて温度を100℃にキープし、高分子ラテックスをラテックス滴下ノズルより滴下したこと、及び、その後そのまま100℃で10分間保持した以外は、実施例1と同様の操作として脱水含水率測定用のサンプルを得た。なお、得られた粒子の粒径は0.5〜2mm、その形状は不定形で、脱水含水率は75.4%-drybaseであった。10μm以下の微粉は生成しなかった。
【0031】
(比較例2)
図1の内径10cmのステンレス製容器5に21wt%塩化ナトリウム水溶液(凝固剤液2)を入れて温度を90℃にキープし、高分子ラテックスをラテックス滴下ノズルより滴下したこと、及び、その後そのまま90℃で10分間保持した以外は、実施例3と同様の操作として脱水含水率測定用のサンプルを得た。なお、得られた粒子の粒径は0.5〜2mm、その形状は不定形で、脱水含水率は100.0%-drybaseであった。10μm以下の微粉は生成しなかった。
【0032】
(比較例3)
50℃にキープした21wt%塩化ナトリウム水溶液(凝固剤液2)中にラテックスを滴下し点在した凝固粒子を固液分離して取り出し、その凝固粒子を100℃にキープした同凝固剤液に浸漬し10分間保持した以外は、実施例1と同様の操作として脱水含水率測定用のサンプルを得た。よって、この処理では、50℃で凝固した粒子を所定の速度で昇温するのではなく、瞬時に熱処理温度の100℃までアップする操作となる。なお、得られた粒子の粒径は0.5〜2mm、その形状は不定形で、脱水含水率は65.0%-drybaseであった。10μm以下の微粉は生成しなかった。
【0033】
(比較例4)
30℃の高分子ラテックスにラテックス100に対して6の割合で24wt%食塩水を添加し、撹拌均一混合(点在でない)してラテックスを凝固させた。次に、ラテックス100に対して25の割合で水を添加して凝固スラリーの流動性を確保し、電磁ヒーターを用いてその凝固スラリーを0.7℃/秒の速度で昇温し、95℃で10分間保持した。その後、得られた粒子を吸引濾過で固液分離し、室温の水で水洗して食塩を取り除き脱水含水率測定用のサンプルを得た。なお、得られた粒子の粒径は2mm以下、その形状は不定形で、脱水含水率は101.5%-drybaseであった。10μm以下の微粉は体積分率で8%生成した。
【0034】
(比較例5)
グラフト共重合体ラテックス295部(固形分100部)を50℃に昇温したpH3.5の塩酸水溶液500部を張り込んだ凝析槽に徐々に撹拌しながら添加した。その際、0.2%塩酸水溶液をラテックス添加と並行して添加しつづけて、ラテックスの添加終了まで凝析系内のpHを3.5に制御した。ラテックスの添加初期には凝析系内は極めて微細な凝固粒子と未凝析ラテックスの混在した乳濁液であったが、ラテックスの添加をさらにつづけると凝析系内が増粘し始めて粒子が発生した。この粒子の形状は、すべてほぼ球状であった。ラテックス添加終了後、未凝析ラテックスがわずかに残って凝析系内が白濁していた。0.7%塩酸水溶液で系内のpHを1.5に調整して凝析を完結させた。二段階凝析の間、凝析系の温度は50℃を維持した。その後、生成スラリーを2%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、90℃まで昇温して熱処理後、脱水、乾燥して粉体を得た。
【0035】
【表1】

【符号の説明】
【0036】
1.ラテックス滴下ノズル
2.凝固剤液
3.凝固粒子
4.撹拌翼(3枚掻き下げプロペラ翼)
5.ステンレス製容器
6.電磁ヒーター
7.ラテックス注入ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル単位を含有する重合体から形成される高分子ラテックスを凝固剤液で凝固する工程を含むアクリル系樹脂粉体の製造方法であって、無機塩又は無機酸から選ばれる少なくとも1種の凝固剤成分の濃度が10重量%以上の凝固剤液に、アクリロニトリル単位を含有する重合体から形成される高分子ラテックスを、凝固剤液温度が高分子ラテックスを形成する重合体のガラス転移温度未満の温度である凝固剤液に滴下または注入して、その後、3℃/秒以下の昇温速度でガラス転移温度以上の凝固剤液温度にすることを特徴とするアクリル系樹脂粉体の製造方法。
【請求項2】
高分子ラテックスを滴下または注入する際の凝固剤液温度Tが、0℃<T≦(ガラス転移温度−5℃)であることを特徴とする請求項1に記載のアクリル系樹脂粉体の製造方法。
【請求項3】
アクリロニトリル単位を含有する重合体から形成される高分子ラテックスが、アクリロニトリル単位と塩化ビニル単位あるいは塩化ビニリデン単位を含有する共重合体であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のアクリル系樹脂粉体の製造方法。
【請求項4】
アクリロニトリル単位を含有する重合体から形成される高分子ラテックスが、35〜80重量%のアクリロニトリル単位、15〜65重量%の塩化ビニル単位あるいは塩化ビニリデン単位、及びスルホン酸基含有単量体0〜5重量%を含有する共重合体であることを特徴とする請求項3に記載のアクリル系樹脂粉体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate