説明

アクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法

【課題】粘着性が高く、残留モノマーが少なく安全性の高いアクリル酸(塩)系重合体を安価に提供することを目的とする。
【解決手段】単量体成分を含む重合液を用いて単量体成分の光重合を基材上で行うことによってアクリル酸(塩)系水溶性重合体を製造する方法であって、上記光重合は、熱伝導度がW/m・K以上の伝熱性基材上に0.15mm以下の厚さの離型材を有する基材上で、一次ピーク温度が80℃以下になるように制御して行われるアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法、及び、前記光重合は、10W/m以下の近紫外線を照射して重合する工程と、次いで、10W/mを超える近紫外線を照射することにより重合を完結する工程とを含むアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法に関する。より詳しくは、増粘剤や凝集剤として優れた機能を発揮し、各種工業製品の原料等、各種分野で用いることができるアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸(塩)系水溶性重合体は、増粘剤、粘着剤、凝集剤、吸湿剤、乾燥剤等としての優れた基本性能を有し、掘削土処理剤や湿布薬・パップ剤用添加剤、浚渫土処理剤等の他、医薬、塗料、製紙、洗剤や化粧品、水処理、繊維処理、土木建築や農・園芸、接着剤、窯業、製造プロセス、その他の分野において多岐にわたって使用されている。また、粘度や残存する単量体の量等においてより高品質のものは、例えば、増粘剤、めん類のほぐれ促進剤や豚の胃潰瘍防止剤用等として食品用や飼料用として用いられている。
【0003】
アクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法としては、例えば、ベルト重合機のようなスチール製基材上に単量体を展開して重合させて重合体を得る製造方法が好適に用いられており、このような製造方法において、アクリル酸(塩)系水溶性重合体が粘着性の強い重合体である場合、基材のスチールと重合体が強く接着して容易に剥がれない(離型しない)。離型性を高めるための方法としては、種々の手段が報告されており、例えば、ベルト重合機のベルトを特定の構造や材料とする方法、界面活性剤を添加してアクリル酸(塩)系水溶性重合体を製造する方法、ベルト基材上に離型フィルムを供給し、重合後に巻取る方法、ベルト基材上に離型材を貼付する方法等が知られている。
【0004】
ベルト重合機のベルトを特定の構造や材料とする方法では、例えば、電解研磨基材を使用するものや、ベルトの基材が全て樹脂製であり、湾曲構造を有するものが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、電解研磨基材を使用する場合には、粘着性が強いアクリル酸(塩)系水溶性重合体には、離型性(効果)が不充分であるおそれがあった。また樹脂製の基材を用いる場合には、充分な強度とするため分厚い基材のものを用いる必要があり、しかも樹脂製の材質であるため伝熱が悪く、除熱は殆ど期待できない。しかし、充分な除熱なしに重合した場合、分子量が小さい重合体しか得られないため、例えば、増粘剤、凝集剤、パップ剤等として使用しても充分な性能が発現しないおそれがあった。
【0005】
一方、界面活性剤を添加してアクリル酸(塩)系水溶性重合体を製造する方法では、製品純度や製品安全性が低下するおそれがあった。また、離型フィルムの供給・巻取方法としては、基材上に合成樹脂フィルムを敷く方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この方法によると、フィルムはベルト出口で巻き取ることが記載されているが、装置が複雑化し高額となることから、装置を単純なものとする工夫の余地があった。
【0006】
従来の方法の中でも、離型材貼付方法は、最も設備が簡単にでき、しかも高純度の製品が得られるため賞用されており、吸水性樹脂に用いる方法(例えば、特許文献3参照。)、水溶性樹脂に用いる方法(例えば、特許文献4参照。)が開示されている。しかしながら、これらの方法では、除熱が充分ではないため、高分子量物の製造が困難になる。したがって、高分子量重合体を得ようとした場合、低温の冷却水が必要になり、通常、冷却水を充分低温にするために、冷凍機が必要となり、設備が高額化するため、工業的に安価に製造するための工夫の余地があった。
【0007】
またこれらの方法では、通常、重合時は窒素ガスのような不活性ガスの気流下で重合を行うため、重合体の表面は、乾燥した不活性ガスが接触することになる。また、離型材貼り付け方式で充分低温化されていない冷却水を使用した場合、重合体含水ゲルの温度が異常に高温化する。このため、不活性ガスの気流により重合体表面が乾燥するためか、従来の離型材貼り付け方式では、残留単量体の少ない重合体を得ることが困難であった。したがって、残留単量体の少ない重合体を安価に製造するための工夫の余地があった。
【特許文献1】特開昭62−156102号公報(第1−4頁)
【特許文献2】特公平8−5926号公報(第1頁)
【特許文献3】特開平4−175319号公報(第1−2頁)
【特許文献4】特開昭61−155405号公報(第1−2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、粘着性が高く、残留モノマーが少なく安全性の高いアクリル酸(塩)系重合体を安価に提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、アクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法について種々検討したところ、光重合による製造方法が工業的に有用であることに着目し、特定の基材及び特定の離型材を有する基材上で光重合を行うと、熱伝導度が優れたものとなることに起因して、夏場におよそ35℃に達する比較低高温の冷却塔の水をそのまま使用しても充分に重合液を冷却することができることを見いだした。このため、冷凍機が不要となり設備費が安価に抑えることができることに加えて、比較的高温の冷却塔の水を用いても重合液を充分に冷却することができることから、分子量が高いアクリル酸(塩)系水溶性重合体を安価に製造することができることを見いだした。また、離型材を特定の材料からなる特定の厚みのものとすることにより、粘着性が高いアクリル酸(塩)系水溶性重合体を容易に剥がすことができることを見いだした。更に、光重合を特定のピーク温度以下に制御して行うことにより、分子量が高くかつ残留単量体含量の少ない品質が安定したアクリル酸(塩)重合体を得られることも見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。更に、医薬用、塗料用、土木・建築用、農・園芸、塗料や接着剤、窯業、製造プロセス、その他一般工業用等の様々な用途に好適に適用することができることも見いだし、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明は、単量体成分を含む重合液を用いて単量体成分の光重合を基材上で行うことによってアクリル酸(塩)系水溶性重合体を製造する方法であって、上記光重合は、熱伝導度が6W/m・K以上の伝熱性基材上に0.15mm以下の厚さの離型材を有する基材上で、一次ピーク温度が80℃以下になるように制御して行われるアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明のアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法は、伝熱性基材上に0.15mm以下の厚さの離型材を有する基材上で、単量体成分の光重合を行うものである。
上記伝熱性基材としては、熱伝導性を有し、基材の下側から冷却した場合に、基材上の単量体成分の重合を行うのに適した材料で作成されたものあればよく、熱伝導度が6W/m・K以上のものを好適に用いることができる。このような熱伝導度の基材を用いることで、冷却水の温度が比較的高温でも充分に冷却することができる。熱伝導度としてより好ましくは、7W/m・K以上であり、更に好ましくは、8W/m・K以上である。上記伝熱性基材の具体例としては、スチール製、鉄製、銅製等が好適である。これらの中でもスチール製が好ましい。上記スチール製伝熱性基材の材質としては、SUS301、SUS304、SUS316、SUS316L等のSUS製や炭素鋼(CS)等、公知のものが使用できる。これらの中でも、SUS301、SUS304、SUS316、SUS316Lが好ましく、SUS301等のSUS製の伝熱性基材を用いることが特に好ましい。
【0012】
上記離型材は、光重合後の水溶性重合体を剥離しやすくする材料であればよく、フッ素樹脂フィルム、フッ素樹脂含浸ガラスクロス、ガラスクロス粘着テープ、カプトン粘着テープ、フッ素樹脂フィルム、ポリフェニレンサルファイトフィルム、ポリエーテルフィルム、ポリエステルフィルム、アセテートクロス、シリコーンゴム、ポリプロピレンフィルム、ガラスクロス等を挙げることができる。中でも、フッ素樹脂フィルム又はフッ素樹脂含浸ガラスクロスが好ましい。離型材にフッ素樹脂フィルム又はフッ素樹脂含浸ガラスクロスを用いることにより、粘着性が高いアクリル酸(塩)系水溶性重合体を容易に剥がすことができる。
上記離型材の厚みは、0.15mm以下である。0.15mmを超えると、離型材が厚すぎて伝熱性基材を通した除熱が効率よく行われないおそれがある。より好ましくは、0.13以下であり、更に好ましくは、0.10以下である。なお、離型材の厚みとは、離型材そのものの厚みを指し、離型材を伝熱性基材に添付するための糊材等の厚みは含まれない。
【0013】
上記光重合は、一次ピーク温度が80℃以下になるように制御して行われるものである。光重合によると、光照射強度及び照射時間を容易に設定及び変更できるため、重合時間をより短縮することができ、生産性のよいものとすることができる。本発明において、ピーク温度とは、重合開始後に反応液の温度が上昇し降下又は同温度を保持するときに形成されるピーク温度(極大値)であり、一次ピーク温度とは、該ピークが一つできる場合にはそのピーク温度を意味し、該ピーク温度が複数できる場合には、最初のピーク温度を意味する。すなわち、時間を横軸、反応液の温度を縦軸とした場合、温度が上昇し降下するときに形成されるピークのうち、重合開始後最初に現れるピークを一次ピークとする。例えば、一定の光強度で重合する場合の温度パターンの場合、通常では、ピークは一つしかできないことから、該ピークを一次ピークとする。重合の途中で光強度を上昇させる場合、最初に現れたピークに続いて光強度を上昇させた後に残留モノマーの急速重合に伴って2個目のピークが現れることがあるが、この場合には、最初に現れたピークを一次ピークとすることになる。
【0014】
上記一次ピーク温度(重合液の一次ピーク温度)が80℃を超えると、重合反応が過度に進行することとなり、得られるアクリル酸(塩)系水溶性重合体の分子量が充分に高いものとならないおそれがあるうえに、重合体中に残存する単量体を充分に低減できないおそれがある。より好ましくは、75℃以下であり、更に好ましくは、70℃以下である。重合液の一次ピーク温度の下限としては、分子量が充分なものとなる温度であればよく、30℃以上であることが好ましい。より好ましくは、35℃以上であり、更に好ましくは、40℃以上である。
【0015】
上記光重合における重合方法としては、上記反応液が水溶液の形態である水溶液重合による方法が好ましい。水溶液重合においては、例えば、窒素ガスをバブリングする等の方法により、水溶液中に溶解している溶存酸素を予め除去した状態で重合を行うことが好ましい。
上記水溶液重合において、単量体成分を含む水溶液の層厚は、5〜50mmが好ましい。層厚が、5mm未満又は50mmを超えると、得られる重合体に単量体成分が残存するとともに重合体の分子量が充分には高くならないおそれがある。より好ましくは、8〜30mmであり、更に好ましくは、10〜20mmである。
【0016】
上記光重合において、重合操作方法としては、回分式でも連続式でもよいが、静置重合による方法が好ましい。特に好ましい重合方式としてベルト重合法があるが、該重合法は、静置重合で連続式の1つの重合形態である。このように、上記光重合は、ベルトを伝熱性基材とするベルト重合機を用いて行われることが好ましい。ベルト重合機を用いることで、連続的な生産が可能となるという利点がある。
上記ベルトとしては、伝熱性基材上に0.15mm以下の厚さの離型材を有するものであればよく、特に限定されない。このように、ベルト重合機を用いて単量体成分の光重合をベルト上で行うことによってアクリル酸(塩)系水溶性重合体を製造する方法であって、上記ベルト重合機は、伝熱性基材上に0.15mm以下の厚さの離型材を有するベルトを備え、上記光重合は、ピーク温度が80℃以下になるように制御して行われるアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0017】
本発明における単量体成分は、光重合することによりアクリル酸(塩)系水溶性重合体を形成するものであり、アクリル酸及び/又はアクリル酸塩を主成分とするものである。アクリル酸塩としては、アクリル酸を1価金属、2価金属、アンモニア、有機アミン等で中和してなる中和物、すなわちアクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸マグネシウム、アクリル酸カルシウム、アクリル酸アンモニウムが好適である。これらの中でも、アクリル酸ナトリウムが好ましい。上記アクリル酸(塩)単量体は、それぞれ単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
本発明の単量体成分は、使用される原料である単量体成分の量を100モル%としてアクリル酸(塩)単量体が50モル%以上使用するものであることが好ましい。より好ましくは、60モル%以上であり、更に好ましくは、70モル%以上であり、特に好ましくは、80モル%以上であり、最も好ましくは、90モル%以上である。アクリル酸(塩)単量体以外の単量体は全単量体成分中50モル%以下が好ましい。より好ましくは、40モル%以下であり、更に好ましくは、30モル%以下であり、特に好ましくは、20モル%以下であり、最も好ましくは、10モル%以下である。
【0018】
アクリル酸(塩)以外の単量体としては、特に制限はないが、例えば、α−ヒドロキシ(メタ)アクリル酸、クロトン酸、メタクリル酸、及び、これらの酸型単量体を1価金属、2価金属、アンモニア、有機アミン等で中和してなる中和物等の不飽和モノカルボン酸系単量体;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、及び、これらの酸型単量体を1価金属、2価金属、アンモニア、有機アミン等で中和してなる中和物等の不飽和ジカルボン酸系単量体;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシスルホプロピル(メタ)アクリレート、スルホエチルマレイミド、及び、これらの酸型単量体を1価金属、2価金属、アンモニア、有機アミン等で中和してなる中和物等の不飽和スルホン酸系単量体;(メタ)アクリルアミドメタンホスホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンホスホン酸、及び、これらの酸型単量体を1価金属、2価金属、アンモニア、有機アミン等で中和してなる中和物等の不飽和ホスホン酸系単量体;(メタ)アクリルアミド、t−ブチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系単量体;(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、2−メチルスチレン、酢酸ビニル等の疎水性単量体;3−メチル−2−ブテン−1−オール(プレノール)、3−メチル−3−ブテン−1−オール(イソプレノール)、2−メチル−3−ブテン−2−オール(イソプレンアルコール)、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノイソプレノールエーテル、ポリプロピレングリコールモノイソプレノールエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアリルエーテル、グリセロールモノアリルエーテル、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、ビニルアルコール等の水酸基を有する不飽和単量体;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のカチオン性単量体;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル系単量体等を挙げることができる。
【0019】
上記重合液中の単量体成分の重合開始時の濃度は、28〜60質量%であることが好ましい。上記単量体成分の濃度が28質量%未満であると、単量体成分の濃度が小さ過ぎて重合が充分進まないおそれがあり、60質量%を超えると、重合反応が暴走するおそれがある。より好ましくは、32〜55質量%であることである。更に好ましくは、34〜50質量%である。なお、上記重合液は、単量体を含む溶液であり、水等の溶媒で希釈された溶液が好ましい。上記重合液中の単量体成分の濃度は、重合に使用する全単量体成分を含む反応液を100質量%として求めたものである。
上記重合反応液中の単量体又は重合体の中和度としては、0から60mol%が好ましく、反応液のpHは強酸性であることが好適である。
【0020】
上記製造方法においては、重合液の一次ピーク温度を80℃以下になるように制御して行われるものであるが、一次ピーク温度の制御は、伝熱性基材の下面を水と接触させることによって行うことが好ましい。水と接触させることによって熱伝導性に優れた伝熱性基材の下面を冷却し、熱伝導性を充分に確保できる0.15mm以下の薄い離型材を介して重合液を充分に冷却することができる。
上記伝熱性基材の下面を接触させる水の温度は、重合液を冷却できる温度であれば特に限定されないが、20〜40℃あることが好ましい。本発明においては、熱伝導度に優れた基材上に貼った特定の薄い離型材上で重合するため、比較低高温の冷却水を使用しても重合液を充分に冷却することができ、分子量の高くかつ残留単量体含量の少ないアクリル酸(塩)重合体が安価に得られることになる。通常、夏場においては、冷却塔における水温の上限は35℃程度となる。本願発明の製造方法によると35℃程度の比較的高温度の水を冷却水として使用することができるため、冷却水を冷却するための冷凍機が不要となり設備費が安くなる。上記水の温度として好ましくは、25〜38℃であり、より好ましくは、30〜35℃である。
【0021】
上記一次ピーク温度の制御は、10W/m以下の近紫外線を用いることによって行うことが好ましい形態の1つである。10W/mを超える場合、光量が高過ぎて一次ピーク温度が80℃を超える結果、充分に高い分子量の重合体を得ることができず、また、不溶解分が多く発生するおそれがある。より好ましくは、8W/m以下であり、更に好ましくは、6W/m以下である。下限値としては、1W/m以上であることが好ましい。1W/m未満であると、重合反応を充分に促進できないおそれがある。より好ましくは、1.5W/m以上であり、更に好ましくは、2W/m以上である。
【0022】
上記10W/m以下の近紫外線は、照射時間が10分以上であることが好ましい。照射時間が10分未満であると、一次ピーク温度が80℃を超える結果、高い分子量の重合体が得られないおそれがある。より好ましくは、15分以上であり、更に好ましくは、20分以上である。照射時間の上限としては、100分未満であることが好ましく、100分以上である場合には、生産性が低くなり、本発明の作用効果が充分に得られないことになる。より好ましくは、80分未満であり、更に好ましくは、60分未満である。
【0023】
上記光重合は、10W/m以下の近紫外線を照射して重合する工程と、次いで、10W/mを超える近紫外線を照射することにより重合を完結する工程とを含むことが好ましい。このように異なる強度の近紫外線を2段階に分けて照射することにより、単量体の重合が促進され、得られる重合体を充分に分子量の高いのものとすることができると共に、重合体中に残存する単量体を低減でき、得られるアクリル酸(塩)系水溶性重合体を品質の高いものとすることができる。上記10W/m以下の近紫外線を照射して重合する工程(一次反応時)では、0W/mを超え10W/m以下の光を絶えず照射し、上記10W/mを超える近紫外線を照射することにより重合を完結する工程(二次反応時)では、10W/mを超える光を絶えず照射するものであることが好ましい。従って、一次反応時は、10W/m以下の範囲の強度ならどのような光を照射してもよく、二次反応時は、10W/mを超える範囲の強度ならどのような光を照射してもよい。このような強度範囲を満足すのものであれば、光強度は特に限定されず、例えば、光照射強度を強/弱繰り返し変化させる方法であってもよい。
【0024】
第2段で照射する10W/mを超える近紫外線が、10W/m以下である場合、光量が低過ぎて残存する単量体を充分に減少させることができないおそれがある。より好ましくは、12W/mを超えるものあり、更に好ましくは、15W/mを超えるものである。上限値としては、100W/m以下であることが好ましい。100W/mを超えるものであると、照射強度が強過ぎて、製品が着色したり、充分に高い分子量の重合体が得られないおそれがある。より好ましくは、80W/m以下であり、更に好ましくは、50W/m以下である。
上記2段階目の近紫外線の照射時間としては、残存する単量体を充分に低減でき照射時間であれば特に限定されないが、1〜30分であることが好ましい。より好ましくは、3〜20分であり、更に好ましくは、5〜15分である。
【0025】
上記重合工程において近紫外線を放射するランプとしては、例えば、白熱電球;ハロゲン電球;蛍光ランプ及びメタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプ、低圧ナトリウムランプ、水銀ランプ等のHID(HIGH INTENSITY DISCHARGE LAMPS)ランプ等が好ましい。中でもHIDランプが好ましく、蛍光水銀ランプ、白熱色蛍光水銀ランプ、透明水銀ランプ、チョークレス水銀ランプ、及び、ブラックライト水銀ランプ等の水銀ランプがより好ましい。特に、近紫外線だけを放射するブラックライト水銀ランプが特に好ましい。また、近紫外線の波長領域としては、300nm以上であり、また、500nm以下であることが好適である。300nm未満の波長の紫外線を照射した場合、重合反応が急激化し、高粘度で残存単量体の量が少ないアクリル酸塩系重合体が得られない場合がある。
【0026】
なお、本明細書中、近紫外線の光照射強度は、近紫外線が照射される反応液の上面部、すなわち反応液表面において測定される光照射強度である。光照射強度は、下記の光量計で測定することができる。
装置:UVメーター
メーカー:株式会社カスタム
型式:本体 UVA−365
センサー:UVセンサー(スペクトラ応答性 300nm〜400nm)
なお、近紫外線の強度に関する問題としては、その強度が強すぎると重合制御が困難となる問題、すなわち突沸問題と不溶解分が増える傾向にあるという品質問題がある。最初は強度を弱くして一次反応を行い、次いで強度を強くすることで、このような問題に対しても有利となる。
【0027】
上記近紫外線の強度を変更する方法としては、照射強度の異なる紫外線ランプを用いる方法、インバーター制御により照射強度を増減する方法、紫外線ランプと重合液との間に、減光版を設置する方法等により近紫外線の照射強度を変更することができる。実験室レベルでは例えば、図3及び図4に示すように、照射強度の異なる紫外線ランプを用いると共に、2段階目の照射時に紫外線ランプに反射笠を付けて照射強度を増すことにより、照射強度を変更することができる。また、上記重合工程として、ベルト重合法を用いる場合、ベルトと紫外線ランプとの間に、パンチングメタル等の減光版を設置する等して近紫外線照射強度を変更することができ、同一のランプを用いる場合であっても異なる複数の減光版を用いることで、照射強度を適宜変更することができるので、強度の異なった近紫外線を2段階で照射することができ、本発明の方法として用いることができる。
【0028】
図1を用いて本発明の(メタ)アクリル酸系水溶性重合体の製造方法の実施の一形態を説明する。なお、図1において、6は光照射の方向を表す矢印であり、7はベルト運転方向を示す矢印である。
図1は、減光版を設ける形態であり、連続基材ベルト1と紫外線ランプ2との間に、減光版3が設置されている。この場合、ベルト1を稼働させることで、反応液が減光版3の下部を移動していくことになる。ここに紫外線ランプ2により一定強度の近紫外線を照射すると、減光版3が設置されている部分を移動するときは、光照射強度が低下した近紫外線(10W/m以下の近紫外線)が反応液に照射され、減光版3が設置されていない部分を移動するときはこの一定強度の近紫外線(10W/mを超える近紫外線)が反応液に照射されることになる。従って、反応液をベルト1によって移動させ、減光版3が設けられた部分と設けられていない部分とを通過することにより、光照射強度を変更することができる。
【0029】
上記ベルト進行方向側の幅としては、10cm以上が好ましく、また、3m以下が好ましい。より好ましくは20cm以上であり、更に好ましくは30cm以上であり、また、より好ましくは2m以下であり、更に好ましくは1.5m以下である。
【0030】
上記重合液を用いて行われる重合工程においては、光重合開始剤を用いて重合させることが好ましい。光重合開始剤を用いて重合させることで、重合体を高粘度のものとすることができ、また、残存する単量体の量を低減することができる。この場合、上記重合液に光重合開始剤を配合することが好ましい。
上記光重合開始剤としては、その作用効果を発揮するものであれば特に限定されないが、アゾ系開始剤が好ましい。アゾ系開始剤としては、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)、2,2′−アゾビス(N,N′−ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2′−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、1,1′−アゾビス(1−アミジノ−1−シクロプロピルエタン)、2,2′−アゾビス(2−アミジノ−4−メチルペンタン)、2,2′−アゾビス(2−N−フェニルアミノアミジノプロパン)、2,2′−アゾビス(1−イミノ−1−エチルアミノ−2−メチルプロパン)、2,2′−アゾビス(1−アリルアミノ−1−イミノ−2−メチルブタン)、2,2′−アゾビス(2−N−シクロへキシルアミジノプロパン)、2,2′−アゾビス(2−N−ベンジルアミジノプロパン)及びその塩酸、硫酸、酢酸塩等、4,4′−アゾビス(4−シアノ吉草酸)及びそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(イソブチルアミド)、2,2′−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2′−アゾビス[2−メチル−N−(1,1′−ビス(ヒドロキシメチル)エチル)プロピオンアミド]、2,2′−アゾビス[2−メチル−N−1,1′−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等が好適である。これらの中でも、2,2′−アゾビス−2−アミジノプロパン2塩酸塩等のアゾ系水溶性開始剤がより好ましい。このように、上記重合工程は、重合開始剤がアゾ系水溶性開始剤であるアクリル酸塩系重合体の製造方法アゾ系水溶性開始剤もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0031】
上記光重合開始剤としては、アゾ系水溶性開始剤以外の光重合開始剤を用いることができる。このような光重合開始剤としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(イルガキュア184)とベンゾフェノンとの共融混合物、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(イルガキュア369)と2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(イルガキュア651)との3:7の混合物、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド(CGI403)と2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(ダロキュア1173)との1:3の混合物、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド(CGI403)と1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(イルガキュア184)との1:3の混合物、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド(CGI403)と1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(イルガキュア184)との1:1の混合物、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(ダロキュア1173)との1:1の液状混合物、ビス(η−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム、
【0032】
オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン]、2,4,6−トリメチルベンゾフェノンと4−メチルベンゾフェノンとの共融混合物、4−メチルベンゾフェノンとベンゾフェノンとの液状混合物、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシドとオリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン]とメチルベンゾフェノン誘導体との液状混合物、1−[4−(4−ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル]−2−メチル−2−(4−メチルフェニルスルファニル)プロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノン、α−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、エチル4−ジメチルアミノベンゾエート、アクリル化アミンシナジスト、ベンゾイン(iso−及びn−)ブチルエステル、アクリルスルホニウム(モノ、ジ)ヘキサフルオロリン酸塩、2−イソプロピルチオキサントン、4−ベンゾイル−4′−メチルジフェニルスルフィド、2−ブトキシエチル4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート、エチル4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート、
【0033】
ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル、ベンゾインヒドロキシアルキルエーテル、ジアセチル及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、ジフェニルジスルフィド及びその誘導体、ベンゾフェノン及びその誘導体、ベンジル及びその誘導体等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
上記光重合開始剤の使用量としては、重合に使用される単量体成分1モルに対して、0.0001g以上が好ましく、また、1g以下が好ましい。これにより、アクリル酸(塩)系水溶性重合体の分子量や重合率を充分に高いものとすることができる。より好ましくは、0.001g以上であり、また、0.5g以下である。
【0035】
本発明においては、熱重合開始剤を光重合開始剤と併用することが好適である。熱重合開始剤を併用することにより、残存する単量体の量を低減することができる。
上記熱重合開始剤としては、水性媒体に可溶な広い範囲の重合開始剤が使用可能であるが、例えば、過酸化水素;過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩、4,4′−アゾビス−(4−シアノバレリン酸)、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物;過酢酸、過コハク酸等の有機過酸化物等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩や過酸化水素等がより好ましく、過硫酸アンモニウムが更に好ましい。
【0036】
上記熱重合開始剤の使用量としては、上記単量体成分100質量%に対して、0.01〜1質量%が好ましい。これら熱重合開始剤の分解を促進するために、有機又は無機系の還元剤を併用することも可能である。
還元剤を使用する場合は、単量体成分100質量%に対して、0.01〜3質量%が好ましい。
【0037】
上記重合工程では、必要に応じて連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、例えば、亜硫酸(水素)塩、チオグリコール酸、チオ酢酸、メルカプトエタノール等の含硫黄化合物;亜燐酸、亜燐酸ナトリウム等の亜燐酸系化合物;次亜燐酸、次亜燐酸ナトリウム等の次亜燐酸系化合物;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール等のアルコール類等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、次亜リン酸系化合物が好ましい。より好ましくは、次亜リン酸ナトリウムである。
上記連鎖移動剤の使用量としては、重合濃度や光重合開始剤との組み合わせ等により適宜設定すればよいが、重合に使用される単量体成分1モルに対して、0.0001g以上が好ましく、また、0.2g以下が好ましい。0.001g以上で0.1g以下が更に好ましく、0.005g以上で0.05g以下が特に好ましい。
【0038】
上記重合溶媒としては、水が好適に用いられる。また、水以外にも親水性有機溶媒等を適宜併用してもよい。親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;アセトン等のケトン類、低級エーテル類等が好適である。
【0039】
上記重合工程における重合条件としては、単量体成分の組成、光重合開始剤や必要に応じて添加する熱重合開始剤の種類や使用量等に応じて適宜設定すればよいが、重合開始時における単量体成分の反応液中の濃度(単量体濃度)としては、28質量%以上であり、また、60質量%以下であり、より好ましくは、32〜55質量%であり、更に好ましくは、34〜50質量%である。上記重合開始時とは、重合するために所定量の単量体成分を含む反応液を調製し、重合させるときである。単量体濃度を高くすることで重合体の増粘作用を更に高めることができる。また、生産性を向上させることができる面でより有利である。しかしあまり単量体濃度が高すぎる場合、不溶解分が増加し好ましくない。また、重合一次ピーク温度としては、上述した範囲内であることが好ましいが、重合を開始する温度としては、50℃以下であることが好ましい。より好ましくは、35℃以下であり、更に好ましくは、30℃以下である。重合開始温度が低い方が突沸等の異常反応に基づく危険がなくなると共に、高濃度での反応が容易となるため、生産性の面で有利である。また、上記の重合温度は、得られる当該アクリル酸(塩)系水溶性重合体の物性をより良好にするためにも有効な重合条件である。
【0040】
本発明の製造方法においては、上記重合工程により得られる重合物を好ましくは50℃〜220℃で乾燥させることにより、乾燥物であるアクリル酸(塩)系水溶性重合体を得ることができる。重合物を乾燥させる方法としては、例えば、乾燥しやすいように、重合物を切断する等の方法により重合物の表面積を大きくしたり、減圧乾燥したりすることが好ましい。乾燥温度が50℃よりも低いと、重合物を充分に乾燥させることができないおそれがあり、220℃よりも高いと、重合物の熱架橋が起こり、不溶解分が多くなるおそれがある。また、240℃よりも高い場合には、重合物の主鎖や架橋点の切断が起こるおそれがある。よって、より好ましい乾燥温度は、100〜210℃である。更に好ましくは、150〜200℃である。なお乾燥時間としては、重合物に含まれる水分量や乾燥温度等に応じて適宜設定すればよい。
【0041】
本発明の製造方法により得られるアクリル酸(塩)系水溶性重合体の中和度は、0〜60モル%であることが好ましい。上記アクリル酸(塩)系水溶性重合体の中和度は、アクリル酸塩系重合体が有する酸基と中和された状態の基の総和を100モル%として示したときの、中和された状態の基の含有量(中和度)をいう。一般的に中和度が低くなればなるほど離型性が悪くなるが、本願発明によれば前記低中和度の重合体でも容易に離型するという利点がある。より好ましくは、50モル%以下であり、さらに好ましくは、40モル%以下である。
【0042】
上記中和された形態の基とは、酸基における解離し得る水素イオンが他のカチオンで置換された基である。したがって中和度の求め方としては、例えば、アクリル酸(塩)系水溶性重合体を形成する単量体成分がアクリル酸をxモル、アクリル酸の塩としてアクリル酸ナトリウムをyモル、ノニオン性単量体をnモル含むとし、これらがすべて重合したとすると、ノニオン性単量体がイオン性ではなく、中和された形態ではないために、下記式により求められることになる。
【0043】
【数1】

【0044】
上記式において、分母はアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造に使用した酸基量と中和された形態の基量のモル数の和である。分子は中和された形態の基量である。上記式により中和度(中和された形態の基の含有割合)をモル%として得ることができる。
【0045】
上記アクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法において、アクリル酸(塩)系水溶性重合体の残存単量体濃度は、1質量%以下であることが好ましい。アクリル酸(塩)系水溶性重合体において、残存単量体濃度(残存モノマー濃度)が1質量%を超えると、品質が低いものとなり、本発明の作用効果を充分に発揮できないおそれがある。より好ましくは、0.5質量%以下であり、更に好ましくは、0.3質量%以下である。
上記残存単量体濃度(残存モノマー濃度)は、食品添加物公定書第7版436、437頁、又は、飼料添加物の成分規格等収載書第10版239、240頁に記載のポリアクリル酸ナトリウム、純度試験の項に記載の以下の方法で測定されるものである。なお、アクリル酸(塩)系水溶性重合体を食品添加物用、又は、飼料添加物用として用いる場合は、下記方法によって残存モノマーの量を求めるとき、その量は1%以下でなければならない。
【0046】
残留単量体の測定方法
〔臭素付加法〕
本品(重合体)約1gを精密に量り、300mlのヨウ素瓶に入れ、水100mlを加え、時々振り混ぜながら約24時間放置して溶かす。この液に臭素酸カリウム・臭化カリウム試液10mlを正確に量って加え、更によく振り混ぜ、塩酸10mlを手早く加え、直ちに密栓して再びよく振り混ぜた後、ヨウ素瓶の上部にヨウ化カリウム試液約20mlを入れ、暗所で20分間放置する。次に栓を緩めてヨウ化カリウム試液を流し込み、直ちに密栓をしてよく振り混ぜた後、0.1mol/lチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定する(指示薬 デンプン試液2mL)。別に同様の方法で空試験を行い、次式により含量を求める。
【0047】
【数2】

【0048】
ただし、a:空試験における0.1mol/lチオ硫酸ナトリウム溶液の消費量(ml)
b:本試験における0.1mol/1チオ硫酸ナトリウム溶液の消費量(ml)
【0049】
上記不溶解分は、2質量%以下であることが好ましい。アクリル酸(塩)系水溶性重合体において、不溶解分が2質量%を超えると、品質が低いものとなり、本発明の作用効果を充分に発揮できないおそれがある。より好ましくは、1質量%以下であり、更に好ましくは、0.8質量%以下であり、特に好ましくは、0.6質量%以下である。最も好ましくは、含まれないことである。
上記不溶解分は、イオン交換水499gにアクリル酸(塩)系水溶性重合体1.0gを添加し、50分間攪拌した後に25℃とし、500μmの網目のふるいを用いて濾過することにより、含水状態の不溶物を取り出し、下記計算式;
不溶解分(質量%)={不溶物の質量(g)/500(g)}×100
に基づいて算出される値である。なお、本明細書中、不溶解分は、水溶液中のアクリル酸(塩)系水溶性重合体を上記フィルタで濾過後、1分以内に測定される値とする。なお、濾過及び秤量は、25℃、湿度60%以上の条件で行う。
【発明の効果】
【0050】
本発明のアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法は、上述の構成よりなり、粘着性が高く、残留モノマーが少なく安全性の高いアクリル酸(塩)系重合体を安価に製造することができる方法であり、医薬用、塗料用、土木・建築用、その他一般工業用において、増粘剤、粘着剤、凝集剤、吸湿剤、乾燥剤等として用いられるアクリル酸(塩)系水溶性重合体を好適に製造することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0052】
実施例1
容量500mlのビーカーにアクリル酸247.9g、イオン交換水247.9g、光重合開始剤としてダロキュア(DC)1173(チバ・スペシャリティケミカルズ社製、化学名;2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン)の5%アクリル酸溶液2.1g及び次亜リン酸ナトリウム5%水溶液2.1gを添加した。
該反応液中のアクリル酸濃度は50%であり、ダロキュア1173の使用量はアクリル酸1モルに対して0.03gの割合であった。また、次亜リン酸ナトリウムの使用量はアクリル酸1モルに対して0.03gの割合であった。攪拌混合した後、該反応液を図2に示した底面に厚さが0.08mmのテフロン(登録商標)フィルム(接着剤は厚み0.05mmのシリコーン系)を貼り付けると共に下部には温度35℃に調整された水が循環通液しているSUS304製の重合容器に導いた。
サランラップで重合容器を覆った後、窒素バブリングすることにより反応液中の溶存酸素を除去した。
【0053】
次に、図3に示したように高さ35cmの上部より横向けにしたブラックライト水銀ランプ(東芝ライテック株式会社製、H100BL−L)を照射した。尚、光強度は反応液の上面位置で3.7w/mとなっている。光強度は、上述の光量計(カスタム社製のUVメータ(モデルUVA−365))を使用した。
光照射を開始すると直ちに重合が開始して、16分後に一次ピーク温度の73℃に達した。
その後、3分間放置後、図4に示したように高さ15.5cmの上部より縦向けにした反射笠付きブラックライト水銀ランプ(東芝ライテック株式会社製、H400BL−L)を7分間照射し重合を完結した。尚、光強度は反応液の上面位置で17w/mとなっている。
このようにして得られたゲル状重合体を重合容器から取り出したところ、容器に重合体が付着残留することなしに容易に離型した。次いで、該ゲル状重合体をハサミで細かく裁断した後、80℃で減圧乾燥した。次に卓上粉砕機で粉砕した後、40メッシュパスとなるように分級してポリアクリル酸からなる重合体(1)を得た。
【0054】
重合体(1)の溶液粘度を次のようにして測定した。
〔溶液粘度の測定方法〕
上記粘度は、イオン交換水499gに重合体(1)1.0gを添加し、50分間攪拌した後に25℃とし、B形粘度計(30rpm、10分後の読値)で測定することにより求めた。
また重合体(1)の残留単量体を上述の残留単量体の測定方法(〔臭素付加法〕)に従って測定した。重合体(1)の溶液粘度は15mPa・sで、残留単量体は0.2モル%であった。
【0055】
実施例2〜4
離型材として表1に示したものを使用したほかは実施例1と同様にしてポリアクリル酸からなる重合体(2)〜(4)を得た。実施例1と同様に容器に重合体が付着残留することなしに容易に離型した。
重合体の(2)〜(4)の溶液粘度及び残留単量体を実施例1と同様にして測定しその結果を表1に示した。
【0056】
実施例5
容量500mlのビーカーにアクリル酸76.1g、アクリル酸ナトリウム37%水溶液402.6g、イオン交換水16.58g、光重合開始剤として2,2’−(2−アミジノプロパン)2塩酸塩の5%水溶液2.13g及び次亜リン酸ナトリウム1%水溶液2.64gを添加した。
該反応液中のアクリル酸とアクリル酸ナトリウムからなる単量体の濃度は50%であり、中和度は60モル%であった。2,2’−(2−アミジノプロパン)2塩酸塩の使用量は単量体1モルに対して0.04gの割合であった。また、次亜リン酸ナトリウムの使用量は単量体1モルに対して0.01gの割合であった。該重合液を実施例1と同じ重合条件で重合することによりポリアクリル酸部分中和物からなる重合体(5)を得た。
実施例1と同様に容器に重合体が付着残留することなしに容易に離型した。
重合体(5)の溶液粘度及び残留単量体を実施例1と同様にして測定し、その結果を表1に示した。
【0057】
【表1】

【0058】
比較例1及び2
離型材として表2に示したものを使用したほかは実施例1と同様にしてポリアクリル酸からなる比較重合体(1)〜(2)を得た。
比較重合体の(1)〜(2)の溶液粘度及び残留単量体を実施例1と同様にして測定しその結果を表2に示した。
【0059】
比較例3
離型材として表2に示したものを使用したほかは実施例5と同様にしてポリアクリル酸部分中和物からなる比較重合体(3)を得た。
比較重合体の(3)の溶液粘度及び残留単量体を実施例5と同様にして測定しその結果を表2に示した。
【0060】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、本発明の(メタ)アクリル酸系水溶性重合体の製造方法の実施の一形態を示す概念図である。
【図2】図2は、本発明のアクリル酸(塩)系水溶性重合体を製造する重合装置の一形態を示す図である。
【図3】図3は、本発明のアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法において、最初の光重合工程の実施の一形態を示す図である。
【図4】図4は、本発明のアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法において、第2段階目の光重合工程の実施の一形態を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1:連続基材ベルト
2:紫外線ランプ
3:減光版
4:離型材
5:伝熱性基材
6:光照射方向
7:ベルト運転方向
10:サランラップ(旭化成工業株式会社製)
11:容量500mlのビーカー(SUS304)
12:温度計
13:水(冷却水)
14:水入り口
15:水出口
100:ブラックライト水銀ランプ(H100BL−L)、東芝ライテック株式会社製
101:ランプホルダー、東芝ライテック株式会社製
102:ブラックライト水銀ランプ(H400BL−L)、東芝ライテック株式会社製
103:反射笠(SN−4057T)、東芝ライテック株式会社製

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単量体成分を含む重合液を用いて単量体成分の光重合を基材上で行うことによってアクリル酸(塩)系水溶性重合体を製造する方法であって、
該光重合は、熱伝導度が6W/m・K以上の伝熱性基材上に0.15mm以下の厚さの離型材を有する基材上で、一次ピーク温度が80℃以下になるように制御して行われることを特徴とするアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法。
【請求項2】
前記光重合は、ベルトを伝熱性基材とするベルト重合機を用いて行われることを特徴とする請求項1記載のアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法。
【請求項3】
前記離型材は、フッ素樹脂フィルム又はフッ素樹脂含浸ガラスクロスであることを特徴とする請求項1又は2記載のアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法。
【請求項4】
前記重合液中の単量体成分の重合開始時の濃度は、28〜60質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法。
【請求項5】
前記一次ピーク温度の制御は、伝熱性基材の下面を水と接触させることによって行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法。
【請求項6】
前記水の温度は、20〜40℃であることを特徴とする請求項5記載のアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法。
【請求項7】
前記一次ピーク温度の制御は、10W/m以下の近紫外線を用いることによって行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法。
【請求項8】
前記光重合は、10W/m以下の近紫外線を照射して重合する工程と、次いで、10W/mを超える近紫外線を照射することにより重合を完結する工程とを含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法。
【請求項9】
前記アクリル酸(塩)系水溶性重合体の中和度は、0〜60モル%であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法。
【請求項10】
前記アクリル酸(塩)系水溶性重合体の残存単量体濃度は、1質量%以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のアクリル酸(塩)系水溶性重合体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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