説明

アザボラシクロペンテン化合物の製造方法

【課題】 本発明の課題は、有機スズ化合物等の毒性の高い化合物を一切使用せずに、特定の中間体を経由して、アザボラシクロペンテン化合物の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明の課題は、アルコキシアザボラシクロペンテン化合物、有機金属化合物とを反応させることを特徴とする、アザボラシクロペンテン化合物の製造方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アザボラシクロペンテン(アザボロール)化合物の製造方法に関する。アザボラシクロペンテン化合物は、例えば、金属含有薄膜形成用、重合触媒用、医薬、農薬用等の金属錯体配位子として有用な化合物であり、重合用触媒としては、オレフィン用重合触媒としての使用が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【背景技術】
【0002】
従来、アザボラシクロペンテン化合物の製造方法としては、以下の方法が知られている。
(1)アリルアミンのジリチオ体にホウ素化合物を反応させて合成する方法(例えば、非特許文献1参照)。
(2)ジブチルスズジクロリド用いて合成する方法(例えば、非特許文献2参照)。
(3)ジルコノセンジクロリドを用いる方法(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−110917号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Organometallic Chemistry,193,83(1980)
【非特許文献2】Organometallics,2004,23,5626
【非特許文献3】Organometallics,2008,27,2408
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の前記(1)の方法においては極端に収率が低いという問題があった。これを解決するために、有機スズ化合物を用いる方法(前記(2)の方法)やジルコノセンジクロリドを使用する方法(前記(3)の方法)が開示されているが、いずれの場合も高価な金属の使用のみでしか収率向上が達成できていないという問題がある上に、極めて毒性の高い有機スズ化合物を用いなければならない等の工業的な製造方法としては問題があった。
【0006】
本発明の課題は、即ち、上記問題点を解決し、特定のジハロゲノ金属化合物を用いる方法にて、特定の中間体(新規な化合物)を経由して、高収率でアザボラシクロペンテン化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、即ち、一般式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Rは炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基、R〜Rは水素原子又は炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示し、Rは炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。)
で示されるアルコキシアザボラシクロペンテン化合物と一般式(2)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、Rは炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基或いは炭素原子数6〜10のアリール基、Mは1〜3価の金属原子を示し、Xはハロゲン原子を示す。又、nは0〜3の整数を示す。)
で示される有機金属化合物とを反応させることを特徴とする、一般式(3)
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、R〜R及びRは前記と同義である。)
で示されるアザボラシクロペンテン化合物の製造方法によって解決される。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、安価で毒性の低い金属を用いる方法にて、高収率でアザボラシクロペンテン化合物の製造方法を提供することができる。アザボラシクロペンテン化合物は、例えば、金属含有薄膜形成用、重合触媒用、医薬、農薬用等の金属錯体配位子として有用な化合物である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明はアルコキシアザボラシクロペンテン化合物の新規な製造方法を提供することにあるが、本発明の反応は以下の3つの反応工程からなる。
【0016】
(1)一般式(4)
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、Rは炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基、R〜Rは水素原子又は炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。)
で示されるアリルアミンジリチオ体と一般式(5)
【0019】
【化5】

(式中、Mは2価の金属原子、Yはハロゲン原子を示す。)
で示されるジハロゲノ金属化合物とを反応させて、一般式(6)
【0020】
【化6】

【0021】
(式中、R〜R及びMは前記と同義である。)
で示されるアザメタラシクロペンテン化合物を製造する反応工程(以下、環化反応工程と称する。)。
【0022】
(2)一般式(6)
【0023】
【化7】

【0024】
(式中、R〜R及びMは前記と同義である。)
で示されるアザメタラシクロペンテン化合物、一般式(7)
【0025】
【化8】

【0026】
(式中、Xはハロゲン原子を示す。)
で示されるトリハロゲノホウ素及び一般式(8)
【0027】
【化9】

【0028】
(式中、Rは、炭素原子数1〜5の直鎖又は分岐状のアルキル基を示す。)
で示されるエーテルを反応させて、一般式(1)
【0029】
【化10】

【0030】
(式中、R〜Rは前記と同義である。)
で示されるアルコキシアザボラシクロペンテン化合物を製造する反応工程(以下、ホウ素交換反応工程と称する)。
【0031】
(3)一般式(1)
【0032】
【化11】

【0033】
(式中、R〜Rは前記と同義である。)
で示されるアルコキシアザボラシクロペンテン化合物と一般式(2)
【0034】
【化12】

【0035】
(式中、Rは炭素原子数1〜5の直鎖又は分岐状のアルキル基或いは炭素原子数6〜10のアリール基、Mは1〜3価の金属原子を示し、Xはハロゲン原子を示す。又、nは0〜3の整数を示す。)
で示される有機金属化合物とを反応させることを特徴とする、一般式(3)
【0036】
【化13】

(式中、R〜R及びRは前記と同義である。)
で示されるアザボラシクロペンテン化合物の製造方法(以下、置換基交換反応工程と称する)。
【0037】
(1)環化反応工程
本発明の環化反応工程において使用するアリルアミンジリチオ体塩は、前記の一般式(5)において示される。その一般式(5)において、Rは炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示すが、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基等の炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基である。又、R〜Rは水素原子又は炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示すが、具体的には、例えば、水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基等の炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基である。
【0038】
前記アリルアミンジリチオ体は、アリルアミン(又はその塩)と有機リチウム化合物を反応させることによって得られる(例えば、非特許文献4参照)。前記有機リチウム化合物としては、例えば、メチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等が挙げられるが、好ましくはn−ブチルリチウムが使用される。なお、これらのリチウム化合物は単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0039】
なお、アリルアミンジリチウム化合物は、一旦合成したものを単離して使用、又は反応系内で合成したものをそのまま使用することができ、その合成の際に溶媒としてエーテル類を使用した場合には、反応液から取り除くことなくそのままホウ素交換反応工程の基質として使用しても良い。
【0040】
本発明の環化反応工程において使用するジハロゲノ金属化合物は、前記の一般式(6)において使用される。その一般式(6)において、Mは2価の金属原子(モノアルキル化された3価の金属原子を含む)であるが、例えば、亜鉛、マグネシウム、鉄、銅、モノアルキルアルミニウムであるが、好ましくは亜鉛、マグネシウムである。又、Yはハロゲン原子であり、例えば、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子である。
【0041】
前記ジハロゲノ金属化合物の使用量は、アリルアミンジリチオ体1モルに対して、好ましくは0.5〜1.5モル、更に好ましくは0.8〜1.2モルである。
【0042】
本発明の環化反応工程には溶媒の存在下で行うことが望ましく、使用される溶媒としては反応を阻害しないものならば特に限定されないが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられるが、好ましくはエーテル類、更に好ましくはジエチルエーテル、テトラヒドロフランが使用される。なお、これらの溶媒は単独又は二種以上を混合して使用しても良く、エーテル類を使用した場合には、反応終了後に反応液からエーテル類を除かなければ、次のホウ素交換反応工程の反応基質としても使用できる。
【0043】
前記溶媒の使用量は、反応液の均一性や攪拌性等により適宜調節するが、アリルアミンジリチオ体1gに対して、好ましくは0.5〜100g、更に好ましくは3〜30gである。
【0044】
本発明の環化反応工程は、例えば、アリルアミンジリチオ体、ジハロゲノ金属化合物及び溶媒を混合して、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは−78〜50℃、更に好ましくは−10〜40℃あり、反応圧力は特に制限されない。
【0045】
なお、アリルアミンジリチオ体を反応系内で調製したものをそのまま使用する方法としては、アリルアミン(又はその塩)と有機リチウム化合物とを反応させてアリルアミンジリチオ体を合成した後、それにジハロゲノ金属化合物及び溶媒を加えて反応させる方法もしくは、別途アリルアミン(又はその塩)と有機リチウム化合物とを反応させて得られたアリルアミンジリチオ体を、ジハロゲノ金属化合物及び溶媒中に加えて反応させる方法等が挙げられる。
【0046】
本発明の環化反応工程によって得られるアザメタラシクロペンテン化合物は、一般式(1)
【0047】
【化14】

【0048】
(式中、Rは炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基、R〜Rは水素原子又は炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示し、Mは2価の金属原子を示す。)
で示される化合物である。
【0049】
本発明の環化反応工程によって得られたアザメタラシクロペンテン化合物は、一旦合成したものを単離して、又は反応系内で合成したものをそのままホウ素交換反応工程に使用することができる。
【0050】
(2)ホウ素交換反応工程
本発明のホウ素交換反応において使用するトリロゲノホウ素は、前記の一般式(2)で示される。その一般式(2)において、Xはハロゲン原子を示すが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子である。又、エーテル化合物は、前記の一般式(3)で示される。その一般式(3)において、Rは炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示すが、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基等の炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。
【0051】
前記トリハロゲノホウ素の使用量は、アザメタラシクロペンテン化合物1モルに対して、好ましくは0.5〜1.5モル、更に好ましくは0.8〜1.2モルである。
【0052】
本発明のホウ素交換反応工程は、例えば、アザメタラシクロペンテン化合物、トリハロゲノホウ素(必要ならばその溶媒溶液)及びエーテル化合物を混合して、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは−78〜50℃、更に好ましくは−30〜40℃であり、反応圧力は特に制限されない。
【0053】
本発明のホウ素交換反応により目的物であるアルコキシアザボラシクロペンテン化合物が得られるが、反応終了後、中和、抽出、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の公知の方法によって単離・精製される。
【0054】
又、本発明において環化反応工程とホウ素交換工程を連続的に行う場合において、その好ましい態様としては、例えば、リチウム化合物、アリルアミン及び溶媒を混合してアリルアミンジリチオ体を含む溶液を合成した後、次いで、ジハロゲノ金属化合物(必要ならばその溶媒溶液)を反応させて反応系中にアザメタラシクロペンテン化合物を含む溶液を調製する。更に、当該反応液にトリハロゲノホウ素(必要ならばその溶媒溶液)と一般式(3)で示されるエーテル化合物を加えて反応させることによって、アルコキシアザボラシクロペンテン化合物を製造する方法が挙げられる。
【0055】
更に好ましい態様としては、リチウム化合物、アリルアミン及びエーテル化合物(環化反応工程では溶媒として機能し(即ち、反応に関与しない)、ホウ素交換反応工程では反応基質として作用する。)を混合してアリルアミンジリチオ体を含む溶液(エーテル化合物を溶媒として含む溶液)を合成した後、次いで、ジハロゲノ金属化合物(必要ならばその溶媒溶液)を反応させて反応系中にアザメタラシクロペンテン化合物を含む溶液(エーテル化合物を溶媒として含む溶液)を調製する。更に、当該反応液にトリハロゲノホウ素(必要ならばその溶媒溶液)を加えて、先の反応工程で残っているエーテル化合物とともに反応させることによって、アルコキシアザボラシクロペンテン化合物を製造する方法が挙げられる。
【0056】
即ち、本発明におけるエーテル化合物は、環化反応工程においては溶媒又は混合溶媒の場合には溶媒の一部(例えば、エーテル化合物と脂肪族炭化水素との混合溶媒)として使用することができる。なお、反応させるエーテル化合物の種類は、単一のアルコキシアザボラシクロペンテン化合物を製造するためには同一であることが望ましい。
【0057】
更に、本発明の原料化合物であるアリルアミンジリチオ体を合成する際の溶媒としてもエーテル化合物は使用することができ、当該エーテル化合物を残留させたまま、環化反応工程を通じて、ホウ素交換反応工程にて反応基質として使用することもできる。
【0058】
なお、本発明のホウ素交換反応工程によって得られたアルコキシアザボラシクロペンテン化合物は、一旦合成したものを単離して、又は反応系内で合成したものをそのままアルキル化反応工程に使用することができる。
【0059】
(3)置換基交換反応工程
本発明の置換基交換反応工程において使用する有機金属化合物は、前記の一般式(2)において示される。その一般式(2)において、Rは炭素原子数1〜5の直鎖又は分分岐状のアルキル基或いは炭素原子数6〜10のアリール基を示し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基等が挙げられる。又、Mは1〜4価の金属原子を示し、例えば、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子等の1価の金属原子;マグネシウム原子、カルシウム原子、ストロンチウム原子、亜鉛原子等の2価の金属原子;ホウ素原子、アルミニウム原子、ガリウム原子等の3価の金属原子が挙げられるが、好ましくはリチウム原子、マグネシウム原子、アルミニウム原子、更に好ましくはリチウム原子、マグネシウム原子である。更に、Xはハロゲン原子を示すが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。又、nは0〜3の整数を示す。
【0060】
前記金属化合物の具体例としては、例えば、アルキルリチウム、アリールリチウム、アルキルマグネシウムハロゲン化物、アリールマグネシウムハロゲン化物等が好適に使用される。なお、これらの有機金属化合物は、Rが同じものである場合は二種以上を混合して使用しても良い。
【0061】
本発明の置換基交換反応工程で使用する有機金属化合物の量は、アルコキシアザボラシクロペンテン化合物1モルに対して、好ましくは0.5〜1.5モル、更に好ましくは0.8〜1.2モルである。
【0062】
本発明の置換基交換反応工程は溶媒の存在下で行うことが望ましく、使用される溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されないが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられるが、好ましくはエーテル類、更に好ましくはジエチルエーテル、テトラヒドロフランが使用される。なお、これらの溶媒は単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0063】
前記溶媒の使用量は、反応液の均一性や攪拌性等により適宜調節するが、アリルアミンジリチオ体1gに対して、好ましくは0.5〜100g、更に好ましくは3〜30gである。
【0064】
本発明の置換基交換反応工程は、例えば、アルコキシアザボラシクロペンテン化合物、有機金属化合物及び溶媒を混合して、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは−78〜50℃、更に好ましくは−30〜40℃あり、反応圧力は特に制限されない。
【0065】
本発明の置換基交換反応工程により目的物であるアザボラシクロペンテン化合物が得られるが、反応終了後、中和、抽出、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の公知の方法によって単離・精製される。
【0066】
なお、本発明の目的物であるアザボラシクロペンテン化合物、及びその合成中間体であるアザメタラシクロペンテン化合物並びにアルコキシアザボラシクロペンテン化合物は、大気中の水分や酸素に対して必ずしも安定ではない場合が多いため、無水条件下や不活性ガス条件下にて、反応、操作、後処理等を行うことが望ましい。
【0067】
又、各々の反応工程が連続性を維持することができる場合には、各工程において得られる中間体を単離・精製せずに3つの工程を連続して行うことができ、具体的には、ホウ素交換反応工程において導入するアルコキシ基から構成されるエーテル化合物を3つの工程の溶媒として使用することで、全ての工程を連続して行うことができ、最終生成物であるアザボラシクロペンテン化合物を効率的に製造することができる。
【0068】
本発明によって製造されるアザボラシクロペンテン化合物は、例えば、以下の式(9)〜(88)によって示される化合物が挙げられる。
【0069】
【化15】

【0070】
【化16】

【0071】
【化17】

【0072】
【化18】

【実施例】
【0073】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0074】
実施例1(4−tert−ブチル−3−メチル−4−アザ−3−ボラシクロペンテン(化合物(13))の合成)
(tert−ブチルアミンジリチオ体の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積100mlのフラスコに、アルゴン雰囲気下、tert−ブチルアリルアミン2.3g(20mmol)及びジエチルエーテル20mlの混合溶液に、反応液を0℃付近に維持しながら、1.6mol/lのn−ブチルリチウムへキサン溶液(25ml(40mmol)をゆるやかに滴下した。次いで、反応液を攪拌させながら25℃まで20時間反応させた(この時点でtert−ブチルアミンジリチオ体が生成)。この反応液にジエチルエーテル50mlを加えることでtert−ブチルアミンジリチオ体のジエチルエーテル溶液を調整した。
【0075】
(反応工程1:環化反応工程)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積200mlのフラスコに、アルゴン雰囲気にて、無水ヨウ化亜鉛6.4g(20mmol)をジエチルエーテル25mlに溶解させた溶液を加え、先に調製したtert−ブチルアミンジリチオ体のジエチルエーテル溶液の溶液を0℃でゆるやかに滴下した後、反応液を攪拌させながら25℃まで2時間反応させた(この時点で4−tert−ブチル−4−アザ−3−ジンカシクロペンテンが生成。)
【0076】
(反応工程2:ホウ素交換反応工程)
次いで、前記反応液に、反応液の温度を−30℃付近に維持しながらトリブロモボラン5.0g(20mmol)のヘキサン溶液20mlをゆるやかに滴下し、攪拌しながら25℃で2時間反応させた。反応終了後、反応液をアルゴン雰囲気にて濾過し、濾液を濃縮した後に濃縮物を減圧下で蒸留(100℃、6.6kPa)し、無色液体として、4−tert−ブチル−3−エトキシ−4−アザ−3−ボラシクロペンテン2.1gを得た(単離収率;63%)。
なお、4−tert−ブチル−3−エトキシ−4−アザ−3−ボラシクロペンテンは以下の物性値で示される新規化合物であった。
【0077】
H−NMR(DMSO−d,δ(ppm));1.20(3H,t),1.28(9H,s),3.65(2H,m),3.95(2H,q),6.02(1H,m),7.03(1H,m)
MS(m/z);167
【0078】
(反応工程3:置換基交換反応工程)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積10mlのフラスコに、アルゴン雰囲気下、tert−ブチル−3−エトキシ−4−アザ−3−ボラシクロペンテン0.17g(1.0mmol)及びジエチルエーテル5mlの混合溶液に、反応液を0℃付近に維持しながら、1.0mol/lのメチルリチウムへキサン溶液1.0ml(1.0mmol)をゆるやかに滴下した。次いで、反応液を攪拌させながら25℃まで2時間反応させた。反応終了後、得られた反応液を減圧下にて濃縮し、濃縮物にヘキサン5mlを加え攪拌させた。その後、アルゴン雰囲気にて濾過し、得られた濾液を濃縮した後に濃縮物を減圧下で蒸留(70℃、6.6kPa)し、無色液体として、4−tert−ブチル−3−メチル−4−アザ−3−ボラシクロペンテン0.13gを得た(単離収率;92%)。
【0079】
なお、4−tert−ブチル−3−メチル−4−アザ−3−ボラシクロペンテンの物性値は以下の通りであった。
【0080】
H−NMR(DMSO−d,δ(ppm));0.60(3H,s),1.34(9H,s),3.85(2H,m),6.01(1H,m),6.96(1H,m)
MS(m/z);137
【0081】
実施例2(4−tert−ブチル−3−メチル−4−アザ−ボラシクロペンテン(化合物(13))の合成)
置換基交換反応工程において、有機金属化合物を3.0mol/lのメチルマグネシウムブロミド・ジエチルエーテル溶液0.34ml(1.0mmol)に変えたこと以外は、実施例1と同様に反応を行い、無色透明液体として、目的物である4−tert−ブチル−3−メチル−4−アザ−ボラシクロペンテンを収率90%で得た。なお、物性値は実施例1で得られたものと同一であった。
【0082】
実施例3(4−tert−ブチル−3−n−ブチル−4−アザ−ボラシクロペンテン(化合物(33))の合成)
置換基交換反応工程において、有機金属化合物を1.6mol/lのn−ブチルリチウム・ジエチルエーテル溶液0.63ml(1.0mmol)に変えたこと以外は、実施例1と同様に反応を行い、無色透明液体として、目的物である4−tert−ブチル−3−n−ブチル−4−アザ−ボラシクロペンテンを収率91%で得た。
なお、4−tert−ブチル−3−n−ブチル−4−アザ−ボラシクロペンテンは、以下の物性値で示される新規な化合物であった。
【0083】
H−NMR(THF−d,δ(ppm));0.91(3H,t),1.15(2H,m),1.34(9H,s),1.35(2H,m),1.49(2H,m),3.82(2H,m),6.12(1H,m),6.89(1H,m)
MS(m/z);179
【0084】
実施例4(4−tert−ブチル−3−フェニル−4−アザ−ボラシクロペンテン(化合物(73))の合成)
置換基交換反応工程において、有機金属化合物を1.0mol/lのフェニルリチウム・テトラヒドロフラン溶液1.0ml(1.0mol)に変えたこと以外は、実施例1と同様に反応を行い、無色透明液体として、目的物である4−tert−ブチル−3−フェニル−4−アザ−ボラシクロペンテンを収率90%で得た。
なお、4−tert−ブチル−3−フェニル−4−アザ−3−ボラシクロペンテンの物性値は以下の通りであった。
【0085】
H−NMR(DMSO−d,δ(ppm));1.26(9H,s),4.04(2H,t),6.67(1H,m),7.13(1H,m),7.33(2H,m),7.35(3H,m)
MS(m/z);199
【0086】
実施例5(4−tert−ブチル−3−(4−メトキシフェニル)−4−アザ−ボラシクロペンテン(化合物(83))の合成)
置換基交換反応工程において、有機金属化合物を0.5mol/lの4−メトキシフェニルマグネシウムブロミド・テトラヒドロフラン溶液2.0ml(1.0mmol)に変えたこと以外は、実施例1と同様に反応を行い、無色透明液体として、目的物である4−tert−ブチル−3−(4−メトキシフェニル)−4−アザ−ボラシクロペンテンを収率93%で得た。
なお、4−tert−ブチル−3−(4−メトキシフェニル)−4−アザ−3−ボラシクロペンテンは、以下の物性値で示される新規な化合物であった。
【0087】
H−NMR(DMSO−d,δ(ppm));1.22(9H,s),3.73(3H,s),3.98(3H,m),6.02(1H,m),6.88(2H,m),7.05(1H,m),7.26(2H,m)
MS(m/z);229
【0088】
実施例6(4−tert−ブチル−3−(4−N,N−ジメチルアニリン)−4−アザ−ボラシクロペンテン(化合物(88))の合成)
置換基交換反応工程において、有機金属化合物を0.5mol/lの4−N,N−ジメチルアニリン・マグネシウムブロミド・テトラヒドロフラン溶液2.0ml(1.0mmol)に変えたこと以外は、実施例1と同様に反応を行い、無色透明液体として、目的物である4−tert−ブチル−3−メチル−4−アザ−ボラシクロペンテンを収率90%で得た。
なお、4−tert−ブチル−3−(4−N,N−ジメチルアニリン)−4−アザ−3−ボラシクロペンテンは、以下の物性値で示される新規な化合物であった。
【0089】
H−NMR(DMSO−d,δ(ppm));1.27(9H,s),2.88(6H,s),3.98(3H,m),6.05(1H,m),6.69(2H,m),7.02(1H,m),7.23(2H,m)
MS(m/z);242
【0090】
以上の結果から、本発明のアリルアミンジリチオ体と2価の金属原子を含むジハロゲノ金属化合物とを反応させて、2価の金属原子を含むアザメタラシクロペンテン化合物を経由して、更にトリハロゲノホウ素及びエーテル化合物を反応させることによってアルコキシアザボラシクロペンテン化合物を製造し、それを原料として有機金属化合物と反応させることによってアザボラシクロペンテン化合物を製造することができることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明はアザボラシクロペンテン化合物の製造方法に関する。アザボラシクロペンテン化合物は、例えば、金属含有薄膜形成用、重合触媒用、医薬、農薬用等の金属錯体配位子として有用な化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Rは炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基、R〜Rは水素原子又は炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示し、Rは炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。)
で示されるアルコキシアザボラシクロペンテン化合物と一般式(2)
【化2】

(式中、Rは炭素原子数1〜5の直鎖又は分岐状のアルキル基或いは炭素原子数6〜10のアリール基、Mは1〜3価の金属原子を示し、Xはハロゲン原子を示す。又、nは0〜3の整数を示す。)
で示される有機金属化合物とを反応させることを特徴とする、一般式(3)
【化3】

(式中、R〜R及びRは前記と同義である。)
で示されるアザボラシクロペンテン化合物の製造方法。
【請求項2】
一般式(6)
【化4】

(式中、R〜R及びMは前記と同義である。)
で示されるアザメタラシクロペンテン化合物、一般式(7)
【化5】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)
で示されるトリハロゲノホウ素及び一般式(8)
【化6】

(式中、Rは炭素原子数1〜5の直鎖又は分岐状のアルキル基を示す。)
で示されるエーテルを反応させて、一般式(1)
【化7】

(式中、R〜Rは前記と同義である。)
で示されるアルコキシアザボラシクロペンテン化合物を製造する請求項1記載のアザボラシクロペンテン化合物の製造方法。
【請求項3】
一般式(4)
【化8】

(式中、Rは炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基、R〜Rは水素原子又は炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。)
で示されるアリルアミンジリチオ体と一般式(5)
【化9】

(式中、Mは2価の金属原子、Yはハロゲン原子を示す。)
で示されるジハロゲノ金属化合物とを反応させて、一般式(6)
【化10】

(式中、R〜R及びMは前記と同義である。)
で示されるアザメタラシクロペンテン化合物を製造する請求項2記載のアザボラシクロペンテン化合物の製造方法。
【請求項4】
一般式(4)
【化11】

(式中、R〜Rは前記と同義である。)
で示されるアリルアミンジリチオ体と一般式(5)
【化12】

(式中、Mは2価の金属原子、Yはハロゲン原子を示す。)
で示されるジハロゲノ金属化合物とを、一般式(8)
【化13】

(式中、Rは前記と同義である。)
で示されるエーテル化合物を含む溶媒中で反応させた後、次いで、一般式(7)
【化14】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)
で示されるトリハロゲノホウ素を反応させて、一般式(1)
【化15】

(式中、R〜Rは前記と同義である。)
で示されるアルコキシアザボラシクロペンテン化合物を製造する請求項1記載のアザボラシクロペンテン化合物の製造方法。
【請求項5】
がリチウム原子又はマグネシウム原子である請求項1記載のアザボラシクロペンテン化合物の製造方法。