説明

アシルオキシ化合物の製造方法

【課題】 ジチオアシルオキシ化合物とジアルデヒド化合物から直接アシルオキシ化合物を製造する方法を提供すること。
【解決手段】 ジチオアシルオキシ化合物とジアルデヒド化合物とを反応させることを特徴とする下記一般式(1)で表されるアシルオキシ化合物の製造方法である。
【化1】


(式中、R1は、単結合、炭素数1〜3のアルカン残基、炭素数4〜7のシクロアルカン残基、ヘテロ原子が酸素、窒素もしくは硫黄原子である炭素数3〜7のヘテロ環残基又は炭素数6〜10の芳香族環残基を示し、各残基は置換基を有していてもよい。R2は、炭素数1〜3のアルカン残基、炭素数4〜7のシクロアルカン残基、ヘテロ原子が酸素、窒素もしくは硫黄原子である炭素数3〜7のヘテロ環残基又は炭素数6〜10の芳香族環残基を示し、各残基は置換基を有していてもよい。Acはアシル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシルオキシ化合物の製造方法に関し、特に製造工程が短縮できるアシルオキシ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックはガラスに比較し軽量で割れにくく染色が容易であるため、近年、レンズ等の各種光学用途に使用されている。そして、光学用プラスチック材料としては、ポリ(ジエチレングリコールビスアリルカーボネート) (CR−39)やポリ(メチルメタクリレート)が、一般的に用いられている。しかしながら、これらのプラスチックは1.50以下の屈折率を有するため、それらを例えばレンズ材料に用いた場合、度数が強くなるほどレンズが厚くなり、軽量を長所とするプラスチックの優位性が損なわれてしまう。特に強度の凹レンズは、レンズ周辺が肉厚となり、複屈折や色収差が生じることから好ましくない。さらに眼鏡用途において肉厚のレンズは、審美性を悪くする傾向にある。肉薄のレンズを得るためには、材料の屈折率を高めることが効果的である。一般的にガラスやプラスチックは、屈折率の増加に伴いアッベ数が減少し、その結果、それらの色収差は増加する。従って、高い屈折率とアッベ数を兼ね備えたプラスチック材料が望まれている。
【0003】
このような性能を有するプラスチック材料としては、例えば(1) 分子内に臭素を有するポリオールとポリイソシアネートとの重付加により得られるポリウレタン(特許文献1)、(2) ポリチオールとポリイソシアネートとの重付加により得られるポリチオウレタン(特許文献2、特許文献3)が提案されている。そして、特に(2)のポリチオウレタンの原料となるポリチオールとして、イオウ原子の含有率を高めた分岐鎖を導入したポリチオール(特許文献4、特許文献3)や、イオウ原子を高めるためジチアン構造を導入したポリチオール(特許文献5、特許文献6)が提案されている。
しかしながら、上記(1)のポリウレタンは、屈折率がわずかに改良されているものの、アッベ数が低く、かつ耐光性に劣る上、比重が高く、軽量性が損なわれるなどの欠点を有している。また(2)のポリチオウレタンにおいて、原料のポリチオールとして高イオウ含有率のポリチオールを用いて得られたポリチオウレタンは、例えば屈折率が1.60〜1.68程度に高められているが、同等の屈折率を有する光学用無機ガラスに比べてアッベ数が低く、さらにアッベ数を高めなければならないという課題を有している。
【0004】
上記の要求を満たすポリチオウレタンとして、4,5―ジメルカプト−1,3―ジチオレン、1,2,2−トリメルカプトエタン等、高イオウ含有量チオールを用いた高屈折率レンズ(特許文献7及び8)や上記チオール化合物を原料とした4,5−ビスエピチオプロピルジチア−1,3−ジチオラン、4,5−ビスチイラニルジチア−1,3−ジチオラン等、高イオウ含有量ジスルフィド化合物を用いた高屈折率レンズ(特許文献9)が注目されている。
これらチオールはアルコール、アルデヒド、ジエステルを出発原料としてエステル、チオエステルを経由して得られる。チオエステルの構造は、チオール基に対しての保護基の構造に広く用いられるため、合成反応上有用である。しかしながら、4,5−ジメルカプト−1,3−ジチオラン等に示される環状スルフィド構造を有するチオール化合物を製造する際、ジチオアセチルメタン等のジチオアセチル化合物からチオールを合成し、これにグリオキサール等のジアルデヒド化合物と混合することによりジヒドロキシル化合物を合成した後に、無水酢酸とピリジンによりアセチル化合物を製造するため、工程が多く、操作が煩雑であり、収率も高くない。さらにチオール化合物を合成するため、悪臭が著しく、チオール化合物の取扱のみならず、製造過程で発生する廃液の処理も多大な負担となる。よって、チオール製造過程をスキップする製造方法が必要不可欠である。
そのような現状によりジチオアセチル化合物からジアルデヒド化合物を用いて直接、アセチル化合物を製造する方法の確立が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開昭58−164615号公報
【特許文献2】特公平4−58489号公報
【特許文献3】特開平5−148340号公報
【特許文献4】特開平2−270859号公報
【特許文献5】特公平6−5323号公報
【特許文献6】特開平7−118390号公報
【特許文献7】特願2003−192605号
【特許文献8】特願2003−192604号
【特許文献9】特願2003−195673号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の課題を解決するためなされたもので、製造工程が短縮できるアシルオキシ化合物の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、アシルオキシ化合物を製造する際に、ジチオアシルオキシ化合物とジアルデヒド化合物とを反応させることにより前記の目的を達成しうることを見いだし、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は、ジチオアシルオキシ化合物とジアルデヒド化合物とを反応させることを特徴とする下記一般式(1)で表されるアシルオキシ化合物の製造方法を提供するものである。
【化1】

【0009】
(式中、R1は、単結合、炭素数1〜3のアルカン残基、炭素数4〜7のシクロアルカン残基、ヘテロ原子が酸素、窒素もしくは硫黄原子である炭素数3〜7のヘテロ環残基又は炭素数6〜10の芳香族環残基を示し、各残基は置換基を有していてもよい。R2は、炭素数1〜3のアルカン残基、炭素数4〜7のシクロアルカン残基、ヘテロ原子が酸素、窒素もしくは硫黄原子である炭素数3〜7のヘテロ環残基又は炭素数6〜10の芳香族環残基を示し、各残基は置換基を有していてもよい。Acはアシル基である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明のアシルオキシ化合物の製造方法によると、従来の製造方法に比べアシルオキシ化合物の製造工程を短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のアシルオキシ化合物の製造方法は、ジチオアシルオキシ化合物とジアルデヒド化合物とを反応させて、下記一般式(1)で表されるアシルオキシ化合物を製造する方法である。
【化2】

【0012】
前記一般式(1)において、前記Acのアシル基としては、例えば、アセチル基、エタノニル基、プロピオニル基、n−ブチリル基等が挙げられ、アセチル基、エタノニル基が好ましい。
前記R1及びR2のアルカン残基としては、例えば、メタン残基、エタン残基、n−プロパン残基、i−プロパン残基等が挙げられ、メタン残基、エタン残基が好ましい。
前記R1及びR2のシクロアルカン残基としては、例えば、シクロブタン残基、シクロペンタン残基、シクロヘキサン残基等が挙げられ、シクロペンタン残基、シクロヘキサン残基が好ましい。
前記R1及びR2のヘテロ環残基としては、例えば、1,3−ジチオラン残基、1,3−ジチアン残基、1,4−ジチアン残基等が挙げられ、1,3−ジチオラン残基、1,4−ジチアン残基が好ましい。
前記R1及びR2の芳香族環残基としては、例えば、ベンゼン環残基、ナフタレン環残基等が挙げられ、ベンゼン環残基が好ましい。
これらの各残基の置換基としては、臭素、塩素、ヨウ素等のハロゲン原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基等が挙げられる。
【0013】
本発明の一般式(1)で表されるアシルオキシ化合物としては、例えば、4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオラン、2,3−ジアセトキシ−1,4−ジチアン、3,4−ジアセトキシ−ビシクロ[4.3.0]−2,5,7,9−テトラチアノナン、3,4−ジアセトキシ−ビシクロ[4.4.0]−2,5,7,10−テトラチアデカン、2,3−ジアセトキシ−1,4−ベンゾジチアン、2,4−ジアセトキシ−1,5−ジチアン、3,5−ジアセトキシ−ビシクロ[5.3.0]−2,6,8,10−テトラチアデカン、3,5−ジアセトキシ−ビシクロ[5.4.0]−2,6,8,11−テトラチアウンデカン、2,4−ジアセトキシ−1,5−ベンゾジヘプタン、4,5−ジエチロキシ−1,3−ジチオラン、2,3−ジエチロキシ−1,4−ジチアン、4,5−ジベンゾイロキシ−1,3−ジチオラン、2,3−ジベンゾイロキシ−1,4−ジチアン、4,5−ジシクロヘキシロキシ−1,3−ジチオラン、2,3−ジシクロヘキシロキシ−1,4−ジチアン等が挙げられ、これらの化合物は、アセチル基等のアシルオキシ基についてシス−,トランス−異性体を有する場合がある。
【0014】
本発明の製造方法で用いるジチオアシルオキシ化合物としては、例えば、ジチオアセトキシメタン、1,1−ジチオアセトキシエタン、1,2−ジチオアセトキシエタン、1,1−ジチオアセトキシプロパン、2,2−ジチオアセトキシプロパン、1,1−ジチオアセトキシブタン、2,2−ジチオアセトキシブタン、1,1−ジチオアセトキシ−2−メチルプロパン、1,1−ジチオアセトキシシクロペンタン、1,1−ジチオアセトキシシクロヘキサン、ジチオエチロキシメタン、1,2−ジチオエチロキシエタン、ジチオベンゾイロキシメタン、1,2−ジチオベンゾイロキシエタン、ジチオシクロヘキシロキシメタン、1,2−ジチオシクロヘキシロキシエタン等が挙げられ、ジチオアセトキシメタン、1,2−ジチオアセトキシエタン等が好ましい。
【0015】
本発明の製造方法で用いるジアルデヒド化合物としては、例えば、グリオキサール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド等が挙げられ、グリオキサールが好ましい。
【0016】
本発明においては、一般式(1)で表されるアシルオキシ化合物を製造する際に、少なくとも1種類の塩基性化合物の存在下で反応させると好ましく、少なくとも1種類の有機溶媒及び/又は相間移動触媒の存在下で反応させると好ましい。また、少なくとも1種類の塩基性化合物、並びに少なくとも1種類の有機溶媒及び/又は相間移動触媒の存在下で反応させても好ましい。
【0017】
本発明で用いる前記塩基性化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム等の炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩、トリエチルアミン、ピリジン、アニリン等のアミンが挙げられ、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが好ましい。
【0018】
本発明で用いる前記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、酢酸エチル、酪酸エチル、酢酸ブチル等のエステルが挙げられ、メタノール、アセトンが好ましい。
なお、前記相間移動触媒を使用する場合は、有機溶媒を使用してもしなくても良い。
【0019】
本発明で用いる前記相間移動触媒としては、例えば、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラペンチルアンモニウムクロリド、テトラペンチルアンモニウムブロミド、テトラオクチルアンモニウムクロリド、テトラオクチルアンモニウムブロミド、テトラドデシルアンモニウムクロリド、テトラドデシルアンモニウムブロミド、テトラオクタデシルアンモニウムクロリド、テトラオクタデシルアンモニウムブロミド、テトラベンジルアンモニウムクロリド、テトラベンジルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリブチルアンモニウムブロミド、テトラメチルホスフォニウムクロリド、テトラメチルホスフォニウムブロミド、テトラエチルホスフォニウムクロリド、テトラエチルホスフォニウムブロミド、テトラプロピルホスフォニウムクロリド、テトラプロピルホスフォニウムブロミド、テトラブチルホスフォニウムクロリド、テトラブチルホスフォニウムブロミド、テトラペンチルホスフォニウムクロリド、テトラペンチルホスフォニウムブロミド、テトラオクチルホスフォニウムクロリド、テトラオクチルホスフォニウムブロミド、テトラドデシルホスフォニウムクロリド、テトラドデシルホスフォニウムブロミド、テトラオクタデシルホスフォニウムクロリド、テトラオクタデシルホスフォニウムブロミド、テトラベンジルホスフォニウムクロリド、テトラベンジルホスフォニウムブロミド、ベンジルトリメチルホスフォニウムクロリド、ベンジルトリメチルホスフォニウムブロミド、ベンジルトリエチルホスフォニウムクロリド、ベンジルトリエチルホスフォニウムブロミド、ベンジルトリブチルホスフォニウムクロリド、ベンジルトリブチルホスフォニウムブロミド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド等が挙げられ、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルホスフォニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリドが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法は、例えば以下のようにして実施される。すなわち、先ず、ジチオアシルオキシ化合物に有機溶媒、さらにグリオキサール水溶液を加え、これに炭酸ナトリウム等の塩基性水溶液を滴下する。その後、テトラブチルホスフォニウムブロミド等の相間移動触媒を加え、反応させることにより、アシルオキシ化合物を得ることができる。
さらに具体的には以下のようにして行えばよい。例えば、ジチオアシルオキシ化合物として、ジチオアセトキシメタンを溶媒、例えば、メタノールをジチオアセトキシメタンのグラム重量に対して通常0〜5倍ミリリットル体積量、好ましくは0〜1.5倍ミリリットル体積量に溶解し、これにグリオキサール40質量%水溶液を通常1〜8倍当量、好ましくは、1〜3倍当量を滴下する。その後、相間移動触媒、例えば、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリドをチオアセチル官能基に対し通常0〜200モル%、好ましくは1〜50モル%を加えた後、0〜80℃、好ましくは10℃〜40℃で、塩基性水溶液、例えば、炭酸ナトリウム0.1〜20質量%水溶液、好ましくは、15〜20質量%水溶液をチオアセチル官能基に対し通常0.5〜30モル%、好ましくは5〜20モル%を1〜10時間、好ましくは1〜5時間かけて滴下し、滴下終了後、0〜80℃、好ましくは10℃〜40℃で、1〜72時間、好ましくは2〜24時間、撹拌する。次いで、該反応混合物を場合により酢酸エチル等で抽出、水洗、有機層を乾燥させた後、溶媒を除去することにより、4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオランを得る。
【0021】
上記製造方法により、4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオラン、4−アセトキシ−5−ヒドロキシ−1,3−ジチオラン、4,5−ジヒドロキシ−1,3−ジチオランの混合物が得られた場合は、その混合物を室温もしくは氷浴で冷しながら、ピリジン中で無水酢酸と反応させればよい。加えるピリジン及び無水酢酸の量はNMRピークから4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオラン、4−アセトキシ−5−ヒドロキシ−1,3−ジチオラン、4,5−ジヒドロキシ−1,3−ジチオランの存在比率を求め、ヒドロキシ基1モルに対し、通常各1〜5モル、好ましくは1〜2モル加えればよい。
【0022】
本発明の製造方法により得られるアシルオキシ化合物は、レンズに用いられる高屈折率レンズ用ポリマー合成用モノマーとなるチオールの中間体もしくは原料として用いると好ましい。このチオールを合成する場合には、公知の方法に準じて合成すればよい。具体的には、例えば、4,5−ジメルカプト−1,3−ジチオランを合成する場合には、4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオランの粉末を直接、チオ酢酸中に溶かし、ボロントリフルオロライド、p−トルエンスルホン酸等を触媒とし、氷浴で冷しながら直接滴下、反応させることにより、4,5−ジチオアセトキシ−1,3−ジチオランのオイルを得ることができる。4,5−ジチオアセトキシ−1,3−ジチオランをエタノールとクロロホルムの混合溶媒中で濃硫酸を用い、室温〜70℃で2〜20時間反応させることにより、目的物の4,5−ジメルカプト−1,3−ジチオランを得る。
【実施例】
【0023】
本発明の実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で得られたチオール化合物の着色具合、純度は、以下に示す方法に従い測定した。
(1)着色具合
蛍光灯照射下で生成物の着色具合を観察した。
(2)純度の測定
日本電子社製JNM-EX270型核磁気共鳴装置を用いてプロトン比から4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオラン、4−アセトキシ−5−ヒドロキシ−1,3−ジチオラン、4,5−ジヒドロキシ−1,3−ジチオランの存在比率を求めた。
島津製作所社製GC-14BPFガスクロマトグラフィーを用いて4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオランの純度を求めた。ガス流量は51ml/min、温度範囲は150から300℃まで、昇温速度は5℃/分で行った。
【0024】
実施例1
ジチオアセトキシメタン(15.0g)、メタノール(15ml)、グリオキサール40質量%水溶液(26.6g)に炭酸ナトリウム20質量%水溶液(63.0g)を25℃で5時間かけてゆっくり滴下した。滴下終了後、2時間撹拌し続けた。この後、酢酸エチル(20ml)で抽出した。この操作を5回繰り返した。酢酸エチル溶液を無水硫酸マグネシウム乾燥した後、濃縮すると赤色の油状物質(14.1g)が得られた。NMRピークから4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオラン、4−アセトキシ−5−ヒドロキシ−1,3−ジチオラン、4,5−ジヒドロキシ−1,3−ジチオランの存在比率(モル比)は41.8/35.5/22.7であった。赤色の油状物質に無水酢酸(8.4g)とピリジン(3.0g)を室温中で加え、1時間撹拌した。冷水(40ml)を加えた後、ジクロロメタン(20ml)で生成物を抽出する操作を3回繰り返した後、溶媒を除去し、蒸留すると4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオランの淡黄色油状物質(14.2g、収率67.2%、純度96.1%)が得られた。
【0025】
実施例2
表1に示す溶媒の量に代えた以外は実施例1と同様に4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオランを製造した結果、4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオランの淡黄色油状物質が得られ、収率58.1%、純度96.0%と高かった。
【0026】
実施例3
ジチオアセトキシメタン(12.7g)、メタノール(20ml)、グリオキサール40質量%水溶液(13.3g)に炭酸水素ナトリウム粉末(13.0g)を加え、40℃で12時間撹拌し続けた。反応終了後、固体粉末をフィルター除去した後、酢酸エチル(40ml)で抽出した。この操作を5回繰り返した。酢酸エチル溶液を無水硫酸マグネシウム乾燥した後、濃縮すると赤色の油状物質(14.2g)が得られた。NMRピークから4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオラン、4−アセトキシ−5−ヒドロキシ−1,3−ジチオラン、4,5−ジヒドロキシ−1,3−ジチオランの存在比率(モル比)は46.7/42.2/11.1であった。赤色の油状物質に無水酢酸(4.8g)とピリジン(1.9g)を室温中で加え、1時間撹拌した。冷水(40ml)を加えた後、ジクロロメタン(20ml)で生成物を抽出する操作を3回繰り返した後、溶媒を除去し、蒸留すると4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオランの淡黄色油状物質(10.5g、収率47.6%、純度92.0%)が得られた。
【0027】
実施例4
ジチオアセトキシメタン(16.4g)、グリオキサール40質量%水溶液(22.0g)にベンジルトリエチルアンモニウムクロリド(0.23g)を加え、20質量%炭酸ナトリウム水溶液(37.5g)を滴下し、室温下で19時間撹拌し続けた。反応終了後、酢酸エチル(30ml)で抽出した。この操作を3回繰り返した。酢酸エチル溶液を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮するとオレンジ色の油状物質(16.8g)が得られた。NMRピークから4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオラン、4−アセトキシ−5−ヒドロキシ−1,3−ジチオラン、4,5−ジヒドロキシ−1,3−ジチオランの存在比率(モル比)は70.2/25.9/3.9であった。オレンジ色の油状物質に無水酢酸(6.0g)とピリジン(1.4g)を室温中で加え、1時間撹拌した。冷水(70ml)を加えた後、ジクロロメタン(20ml)で生成物を抽出する操作を3回繰り返した後、溶媒を除去し、蒸留すると4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオランの淡黄色油状物質(17.4g、収率76.0%、純度97.3%)が得られた。
【0028】
実施例5〜7
表1に示す相間移動触媒の種類及び量、反応時間に代えた以外は実施例4と同様に4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオランを製造した結果、いずれも4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオランの淡黄色油状物質が得られ、収率64%以上、純度89%以上あり高かった。
【0029】
実施例8
表1に示す相間移動触媒の種類及び量、炭酸ナトリウム水溶液の濃度及び量、反応時間に代えた以外は実施例4と同様に4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオランを製造した結果、4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオランの淡黄色油状物質が得られ、収率67.4%、純度94.6%と高かった。
【0030】
比較例1
ジチオアセトキシメタン(15.0g)に、水200ml、p−トルエンスルホン酸(20.0g)を加え、60℃で3時間加熱した後、油層を回収し、蒸留すると、ジメルカプトメタン(3.73g)が得られた。これにグリオキサール40質量%水溶液(6.75g)を氷浴中にて加えた後、1時間室温で撹拌した。この後、水を除去し、乾燥すると4,5−ジヒドロキシ−1,3−ジチオラン(6.42g)を得た。白色結晶粉末に無水酢酸(9.96g)とピリジン(2.32g)を室温中で加え、1時間撹拌した。冷水(40ml)を加えた後、ジクロロメタン(20ml)で生成物を抽出する操作を3回繰り返した後、溶媒を除去し、蒸留すると4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオランの淡黄色油状物質(10.14g、収率49.9%、純度99.5%)が得られた。
【0031】
【表1】

【0032】
※ DTM:ジチオアセトキシメタン
DHL:4,5−ジヒドロキシ−1,3−ジチオラン
AHL:4−ジアセトキシ−5−ジヒドロキシ−1,3−ジチオラン
DAL:4,5−ジアセトキシ−1,3−ジチオラン
MeOH:メタノール
Na2CO3:炭酸ナトリウム
NaHCO3:炭酸水素ナトリウム
BzEt3NCl:ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド
Bu4NBr:テトラブチルアンモニウムブロミド
Oct3MeNCl:トリオクチルメチルアンモニウムクロリド
Bu4PBr:テトラブチルホスフォニウムブロミド
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の製造方法によると、アシルオキシ化合物を製造する際に、ジチオアシルオキシ化合物とジアルデヒド化合物から直接アシルオキシ化合物を製造可能であり、従来に比べ製造工程が短縮される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジチオアシルオキシ化合物とジアルデヒド化合物とを反応させることを特徴とする下記一般式(1)で表されるアシルオキシ化合物の製造方法。
【化1】

(式中、R1は、単結合、炭素数1〜3のアルカン残基、炭素数4〜7のシクロアルカン残基、ヘテロ原子が酸素、窒素もしくは硫黄原子である炭素数3〜7のヘテロ環残基又は炭素数6〜10の芳香族環残基を示し、各残基は置換基を有していてもよい。R2は、炭素数1〜3のアルカン残基、炭素数4〜7のシクロアルカン残基、ヘテロ原子が酸素、窒素もしくは硫黄原子である炭素数3〜7のヘテロ環残基又は炭素数6〜10の芳香族環残基を示し、各残基は置換基を有していてもよい。Acはアシル基である。)
【請求項2】
少なくとも1種類の塩基性化合物の存在下で反応させる請求項1に記載のアシルオキシ化合物の製造方法。
【請求項3】
少なくとも1種類の有機溶媒及び/又は相間移動触媒の存在下で反応させる請求項1に記載のアシルオキシ化合物の製造方法。
【請求項4】
少なくとも1種類の塩基性化合物、並びに少なくとも1種類の有機溶媒及び/又は相間移動触媒の存在下で反応させる請求項1に記載のアシルオキシ化合物の製造方法。
【請求項5】
一般式(1)において、Acがアセチル基である請求項1〜4のいずれかに記載のアシルオキシ化合物の製造方法。