説明

アジュバントを使用しない複数回投与ワクチン接種レジメン

(i)初回用量はアジュバントとともに投与され、(ii)その後の用量はアジュバントなしか、または異なるアジュバントともに投与される、複数回投与レジメンによってインフルエンザワクチンが投与される。そのため、本発明は、ある任意のアジュバントの必要供給量を2倍に増やすことなしに2回投与レジメンの利点を提供する。別の局面において、本発明はまた、本発明の方法を実施するためのキットも提供し、このキットは、(i)第1のアジュバントと組み合わせた第1のインフルエンザウイルスワクチンと(ii)そのアジュバントを含まない第2のインフルエンザウイルスワクチンとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書において言及するすべての書類は、その内容全体が参考として援用される。
【0002】
本発明は、インフルエンザウイルス感染を防御するためのワクチンの分野に含まれる。
【背景技術】
【0003】
インフルエンザワクチンを投与される患者は、8歳以下の小児にワクチンが初めて投与される時に少なくとも4週間あけて2回の用量が投与される場合を除いて、現在は1年に1回の用量が投与される。
【0004】
新たなインフルエンザウイルス株に対してヒトの集団が免疫学的にナイーブなパンデミックの状態においても、2回投与レジメンが必要になるであろうと考えられる(例えば、参考文献1(非特許文献1)参照)。
【0005】
抗原の供給量が固定されている状況で2回投与が必要になるということは、作製可能な用量数が、1回投与レジメン用に作製可能な用量数の半分になるということを意味する。そのため、1用量当たり少ない量の抗原を使用し、この減少分を補うためのアジュバントを使用するよう提唱されている。
【0006】
しかし、もしもアジュバント添加ワクチンによる1回投与レジメンによって十分な免疫反応が誘発されなければ、いずれにせよ2回投与レジメンが必要となり、今度は、十分な量のアジュバントの供給の問題というさらなるデメリットが持ち上がる。何億用量分というアジュバント添加ワクチンが用意されているような状況では、この問題は非常に重要となり、特に、合成アジュバントにとって重要となるであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Holmesら、Science(2005)309:989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、このデメリットを抑える、または回避することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の要旨
本発明によれば、(i)初回用量はアジュバントとともに投与され、(ii)その後の用量はアジュバントなしか、または異なるアジュバントとともに投与される、複数回投与レジメンによってインフルエンザワクチンが投与される。そのため、本発明は、ある任意のアジュバントの必要供給量を2倍に増やすことなしに、2回投与レジメンの利点を提供する。初回用量とその後の用量は、好ましくは同じ投与経路(例えば、両方とも筋肉内注射で)によって与えられる必要があるが、参考文献2で行われた研究では、マウスの準備免疫に非経口経路(背中対頸部)を使用するとアジュバント添加ワクチンの免疫原性に影響を与えるかどうかを判定するために、3回投与レジメンにおいて、アジュバント未添加の粘膜ブースターが3回目の用量として使用された。
【0010】
そのため、本発明は、(i)インフルエンザウイルスワクチンの用量を、第1のアジュバントとともに投与する工程と(ii)インフルエンザウイルスワクチンのさらなる用量をそのアジュバントなしで投与する工程を含む、インフルエンザウイルス感染に対して患者を免疫化するための方法を提供する。さらなる用量は、アジュバントを含まなくてもよく、または第1のアジュバントとは異なる第2のアジュバントを含んでもよい。
【0011】
本発明は、(i)第1のアジュバントと組み合わせた第1のインフルエンザウイルスワクチンと(ii)そのアジュバントを含まない第2のインフルエンザウイルスワクチンを含むキットも提供する。本発明は、(i)第1のアジュバントと組み合わせた第1のインフルエンザウイルスワクチンと(ii)そのアジュバントを含まない第2のインフルエンザウイルスの、複数回投与用インフルエンザワクチンの製造における使用も提供する。第2のワクチンは、アジュバントを含まなくてもよく、または第1のアジュバントとは異なる第2のアジュバントを含んでもよい。
【0012】
本発明は、インフルエンザウイルス感染に対する患者の免疫化を達成する方法も提供し、患者は以前に、第1のアジュバントと組み合わせた一定用量のインフルエンザウイルスワクチンを受けており、本方法は、そのアジュバントなしでインフルエンザウイルスワクチンのさらなる用量をその患者に投与する工程を含む。さらなる用量は、アジュバントを含まなくてもよく、または第1のアジュバントとは異なる第2のアジュバントを含んでもよい。
【0013】
本発明は、インフルエンザウイルス感染に対して患者を免疫化するための薬剤の製造における、アジュバント未添加インフルエンザウイルスワクチンの使用も提供し、その患者は以前にアジュバント添加インフルエンザウイルスワクチンを投与されている。本発明は、インフルエンザウイルス感染に対して患者を免疫化するための薬剤の製造における、第2のアジュバント添加インフルエンザウイルスワクチンの使用も提供し、その患者は以前に第1のアジュバント添加インフルエンザウイルスワクチンを投与されており、第1および第2のインフルエンザウイルス中のアジュバントは同一ではない。
【0014】
2回のワクチン接種における赤血球凝集素の用量が、1用量、1株当たりの標準的な15μgよりも少ない場合には、本発明によって抗原およびアジュバント両方の要件を緩和できるため、これらの方法、キット、および使用が特に有用である。
【0015】
インフルエンザウイルス抗原
本発明とともに使用されるワクチンは、インフルエンザウイルス抗原を含む。この抗原は一般にインフルエンザウイルス粒子から作成されるが、他の方法として、赤血球凝集素やノイラミニダーゼのような抗原を組み換え宿主内で発現させ(例えば、バキュロウイルスベクターを使用して昆虫細胞株内で)、精製体として使用することができる[3、4、5]。しかし通常は、抗原はウイルス粒子由来である。
【0016】
抗原は、生きたウイルス、あるいは、より好ましくは不活化ウイルスの形態をとってよい。ウイルスの不活化に使用される化学的手段には、界面活性剤、ホルムアルデヒド、ホルマリン、β‐プロピオラクトン、またはUV光のうちの、効果的な量の1つ以上の物質での処理が含まれる。不活化に使用されるさらなる化学的手段には、メチレンブルー、ソラレン、カルボキシフラーレン(C60)、またはこれらの任意の物質の組み合わせを使用した処理が含まれる。その他のウイルス不活化方法は当該技術分野で既知であり、例えば、2成分エチルアミン、アセチルエチレンイミン、またはガンマ線照射などがある。INFLEXAL(登録商標)という製品は不活化全粒子ワクチンである。
【0017】
不活化ウイルスが使用される場合、ワクチンは完全ウイルス粒子、分解ウイルス粒子、または精製された表面抗原(赤血球凝集素を含み、通常ノイラミニダーゼも含む)を有していてよい。
【0018】
一般的には、複数化投与レジメンにおけるワクチンの各用量は同じ形態の抗原を使用し、例えば、初回用量にスプリットワクチンを使用しながらも2回目の用量に全粒子ワクチンを使用するということはない。
【0019】
各種の方法を使用して、ウイルスを含有する液体からウイルス粒子を回収することができる。例えば、精製プロセスは、ウイルス粒子を崩壊させるための界面活性剤を含む、ショ糖直線勾配溶液を使用したゾーン遠心分離法を含んでよい。任意で希釈した後、ダイアフィルトレーションによって抗原を精製してもよい。
【0020】
サブビリオン製剤を作製するために、ウイルス粒子を界面活性剤(例えば、エチルエーテル、ポリソルベート80、デオキシコール酸塩、トリ‐N‐ブチルホスファート、TritonX‐100、TritonN101、臭化セチルトリメチルアンモニウム、タージトールNP9等)での処理により分解ウイルス粒子が得られ、これには「Tweenエーテル」分解プロセスが含まれる。インフルエンザウイルスを分解する方法は当該技術分野で周知であり、例えば参考文献6〜11、他を参照されたい。ウイルスの分解は一般に、感染性、非感染性にかかわらず、崩壊用濃度の分解用物質でウイルス全体を崩壊または断片化することによって行われる。崩壊させることにより、ウイルスタンパク質の完全な、または部分的な可溶化がもたらされ、ウイルスの完全性を変化させる。好ましい分解用物質は、非イオン性およびイオン性(例、カチオン性)の界面活性剤であり、例えばアルキルグリコシド、アルキルチオグリコシド、アシル糖、スルホベタイン、ベタイン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、N,N‐ジアルキル‐グルカミド、Hecameg、アルキルフェノキシ‐ポリエトキシエタノール、4級アンモニウム化合物、サルコシル、CTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)、トリ‐N‐ブチルホスファート、Cetavlon、ミリスチルトリメチルアンモニウム塩、リポフェクチン、リポフェクタミン、およびDOT‐MA、オクチル‐またはノニルフェノキシポリオキシエタノール(例、Triton系の界面活性剤、例えばTritonX‐100またはTritonN101)、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(Tween系界面活性剤)、ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンエステル等である。有用な分解手順の1つでは、デオキシコール酸ナトリウムとホルムアルデヒドを連続して作用させ、最初のウイルス粒子精製の際に分解が起こり得る(例、ショ糖密度勾配溶液中において)。そのため、分解プロセスは、ウイルス粒子含有物質の清澄化(非ウイルス粒子物質を除去するため)、回収したウイルス粒子の濃縮(例、CaHPO吸着のような吸着法を使用して)、非ウイルス粒子物質からの完全ウイルス粒子の分離、密度勾配遠心分離手順(例、デオキシコール酸ナトリウムのような分解用物質を含有するショ糖勾配液を使用して)における、分解用物質を使用したウイルス粒子の分解、不要な物質を除去するための濾過(例、超濾過)を含み得る。有用には、分解ウイルス粒子はリン酸ナトリウムで緩衝化した生理食塩液に再懸濁され得る。BEGRIVAC(登録商標)、FLUARIX(登録商標)、FLUZONE(登録商標)、およびFLUSHIELD(登録商標)などの製品は、スプリットワクチンである。
【0021】
精製された表面抗原ワクチンは、インフルエンザの表面抗原である赤血球凝集素と、一般にはノイラミニダーゼを有する。これらのタンパク質の精製体を作製するためのプロセスは当該技術分野で周知である。FLUVIRIN(登録商標)、AGRIPPAL(登録商標)、およびINFLUVAC(登録商標)などの製品は、サブユニットワクチンである。
【0022】
インフルエンザ抗原は、INFLEXAL V(登録商標)およびINVAVAC(登録商標)などの製品のように、ビロゾーム[12](核酸をもたないウイルス様のリポソーム粒子)の形でも存在し得るが、本発明とともにビロゾームを使用しないことが好ましい。そのため、いくつかの実施形態では、インフルエンザ抗原はビロゾームの形態ではない。
【0023】
インフルエンザウイルスは弱毒化されてもよい。インフルエンザウイルスは温度感受性であってよい。インフルエンザウイルスは低温適合性であってよい。これらの3つの特徴は、生ウイルスを抗原として使用する場合に特に有用である。
【0024】
ワクチンに使用するためのインフルエンザウイルス株はシーズン毎に変わる。現在のパンデミック間期において、ワクチンは一般に2種類のインフルエンザA株(H1N1およびH3N2)および1種類のインフルエンザB株を含み、三価のワクチンが一般的である。本発明はこれらのワクチンとともに使用可能であるが、パンデミック株(すなわち、ワクチン接種者とヒトの一般集団が免疫学的にナイーブである株)、例えばH2、H5、H7、またはH9サブタイプ株(特に、インフルエンザAウイルスの)由来のウイルスにとって特に有用であり、パンデミック株に対するインフルエンザワクチンは一価であってもよく、またはパンデミック株が追加された通常の三価ワクチンをベースとしていてもよい。しかし、シーズンや、ワクチンに加えられる抗原の性質に応じて、本発明は、インフルエンザAウイルスの赤血球凝集素のサブタイプ、H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15、またはH16の1つ以上を防御してもよい。本発明は、インフルエンザAウイルスのNAサブタイプ、N1、N2、N3、N4、N5、N6、N7、N8、またはN9の1つ以上を防御してもよい。
【0025】
有用には、組成物に加えることができるその他の株は、抗ウイルス療法に抵抗性を示す株(例えば、オセルタミビル[13]および/またはザナミビルに抵抗性を示すもの)であり、耐性パンデミック株[14]を含む。
【0026】
本発明は、パンデミック株に対する免疫化に特に有用である。パンデミックの発生を引き起こす可能性をインフルエンザ株に与える特性とは、(a)それが、現在出回っているヒトの株に存在する赤血球凝集素と比べて新たな赤血球凝集素、すなわち、10年以上ヒトの集団での存在が明らかでないもの(例えば、H2)、またはヒトの集団においてこれまでに全く認められていないもの(例えば、通常は鳥の集団にのみ認められているH5、H6、またはH9)を含むために、ヒトの集団がその株の赤血球凝集素に対して免疫学的にナイーブであること、(b)それが、ヒトの集団において水平伝播する能力を持つこと、ならびに(c)それが、ヒトに対して病原性を持つことである。パンデミックインフルエンザに対する免疫化には、H5型の赤血球凝集素を持つウイルス、例えばH5N1株が好ましい。その他の利用可能な株には、H5N3、H9N2、H2N2、H7N1、およびH7N7、ならびにパンデミックを引き起こす可能性があるその他任意の新興株が含まれる。H5サブタイプの中では、ウイルスはHAクレード1、HAクレード1」、HAクレード2、またはHAクレード3[15]に分類されてもよく、クレード1および3は特に関連がある。
【0027】
一般に、複数回投与レジメンにおけるワクチンの各用量は、少なくとも1つの共通の赤血球凝集素サブタイプを共有することになり、例えば、本発明が、初回用量に一価のH5N1ワクチンを使用し2回目の用量に一価のH9N2ワクチンを使用するということはない。
【0028】
本発明の組成物は、インフルエンザAウイルスおよび/またはインフルエンザBウイルスを含む、1つ以上(例えば、1、2、3、4、またはそれ以上)のインフルエンザウイルス株由来の抗原(1つ以上)を含んでよい。ワクチンが2つ以上のインフルエンザ株を含む場合、異なる株は一般に個別に培養され、ウイルスが回収されて、抗原が作製された後に混合される。そのため、本発明のプロセスは、2つ以上のインフルエンザ株由来の抗原を混合する手順を含んでよい。しかし、パンデミック状態においては一価のワクチンが好ましい場合がある。
【0029】
インフルエンザウイルスは再集合株であってよく、逆遺伝子技術によって得られたものでもよい。逆遺伝子技術[例えば、16〜20]によって、所望のゲノム分節を有するインフルエンザウイルスを、プラスミドを使用してin vitroで作成することができる。一般に、この技術は、(a)所望のウイルスRNA分子をコードするDNA分子、例えばpolIプロモーター由来の分子、および(b)ウイルスタンパク質をコードするDNA分子、例えばpolIIプロモーター由来の分子を発現させることによって、細胞内で両タイプのDNAを発現させて、完全に無傷な感染性ウイルス粒子を構築する手順を伴う。好ましくは、DNAはすべてのウイルスRNAおよびタンパク質を提供するが、一部のRNAやタンパク質を提供するためにヘルパーウイルスを使用することも可能である。各ウイルスRNAの作成に個別のプラスミドを使用する、プラスミドの使用に基づいた方法が好ましく[21〜23]、こうした方法は、ウイルスタンパク質のすべて、または一部(例えば、PB1、PB2、PA、およびNPタンパク質のみ)を発現させるためのプラスミドの使用を伴い、いくつかの方法では最大12のプラスミドが使用される。
【0030】
必要なプラスミドの数を減らすため、最近の手法[24]では、同一のプラスミド上の複数のRNAポリメラーゼI転写カセット(ウイルスRNA合成用)(例えば、1、2、3、4、5、6、7つ、または8つすべてのインフルエンザAのvRNA分節をコードする配列)と、別のプラスミド上のRNAポリメラーゼIIプロモーターを有する複数のタンパク質コード領域(例えば、1、2、3、4、5、6、7つ、または8つすべてのインフルエンザAのmRNA転写物をコードする配列)を組み合わせている。参考文献24の方法の好ましい態様には、(a)単一のプラスミド上のPB1、PB2、およびPAのmRNAコード領域、ならびに(b)単一のプラスミド上の、8つすべてのvRNAコード分節が含まれる。NAおよびHA分節を1つのプラスミド上に、他の6つの分節を別のプラスミド上に含めることでも、この問題が容易になる。
【0031】
ウイルスRNA分節をコードするためのpolIプロモーターの使用に代わるものとして、バクテリオファージポリメラーゼプロモーターの使用が可能である[25]。例えば、好都合には、SP6、T3、またはT7ポリメラーゼに対するプロモーターを使用できる。polIプロモーターの種特異性のため、バクテリオファージポリメラーゼプロモーターは、多くの細胞種(例えば、MDCK)にとってより好都合であり得るが、外因性ポリメラーゼ酵素をコードするプラスミドを細胞にトランスフェクションしなくてはならない。
【0032】
他の技術においては、単一のテンプレートから、ウイルスRNAと、発現可能なmRNAを同時にコードするために、polIおよびpolIIのデュアルプロモーターの使用が可能である[26、27]。
【0033】
そのため、殊にウイルスを鶏卵内で増殖させる場合、ウイルス、特にインフルエンザAウイルスは、A/PR/8/34ウイルス由来の1つ以上のRNA分節を含んでよい(一般にはA/PR/8/34由来の6つの分節で、HAおよびN分節はワクチン株由来であり、すなわち6:2の再集合体である)。また、A/WSN/33ウイルス、またはワクチン製剤用の再集合ウイルスの作成に有用なその他任意のウイルス株由来の1つ以上のRNA分節を含んでもよい。一般に、本発明は、ヒトからヒトへの伝播能を持つ株を防御するため、その株のゲノムは、哺乳動物(例えば、ヒト)におけるインフルエンザウイルスを起源とする少なくとも1つのRNA分節含む場合が多い。鳥インフルエンザウイルスを起源とするNS分節を含んでもよい。
【0034】
抗原のソースとして使用されるウイルスを、鶏卵または培養細胞のいずれかで増殖させることが可能である。現在、インフルエンザウイルスの増殖に使用される標準的な方法では、特定病原体未感染(SPF)孵化鶏卵を使用し、ウイルスは鶏卵内容物(尿膜腔液)から精製される。しかし最近では、動物の培養細胞内でのウイルス増殖が行われており、スピードや患者のアレルギーなどの理由からこの増殖方法が好ましい。鶏卵の使用に基づくウイルス増殖が使用される場合、ウイルスとともに1つ以上のアミノ酸を鶏卵の尿膜腔液に導入してよい[11]。
【0035】
培養細胞が使用される場合のウイルス増殖基質は一般に、哺乳動物が起源の細胞株である。適当な哺乳動物起源の細胞には、ハムスター、ウシ、霊長類(ヒトおよびサルを含む)、およびイヌの細胞が含まれるがこれらに限定されない。腎細胞、線維芽細胞、網膜細胞、肺細胞等の様々な細胞種が使用されてよい。適当なハムスターの細胞の例は、BHK21またはHKCCと呼ばれる細胞株である。適当なサルの細胞は、例えばアフリカミドリザルの細胞、例えばVero細胞株のような腎細胞である。適当なイヌの細胞は、例えばMDCK細胞株のような腎細胞である。そのため、適当な細胞株には、MDCK、CHO、293T、BHK、Vero、MRC‐5、PER.C6、WI‐38等が含まれるがこれらに限定されない。インフルエンザウイルスの増殖に使用される好ましい哺乳動物の細胞株には、Madin Darbyイヌ腎臓由来のMDCK細胞[28〜31]、アフリカミドリザル(Cercopithecus aethiops)腎臓由来のVero細胞[32〜34]、またはヒト胎児網膜芽細胞由来のPER.C6細胞[35]が含まれる。これらの細胞株は広く入手可能であり、例えば、American Type Cell Culture(ATCC)コレクション[36]、Coriell Cell Repositories[37]、またはEuropean Collection of Cell Cultures(ECACC)から入手できる。例えば、ATCCはCCL‐81、CCL−81.2、CRL−1586、およびCRL‐1587のカタログ番号で各種のVero細胞を提供しており、CCL‐34のカタログ番号でMDCK細胞を提供している。PER.C6細胞は、96022940のデポジット番号でECACCから入手可能である。あまり好ましくはないものの、哺乳動物の細胞株に代わるものとして、カモ由来(例えば、カモの網膜)またはニワトリ由来の細胞株を含む、トリの細胞株[例えば、参考文献38〜40]上でウイルスを増殖させることも可能である。トリの細胞株の例には、トリ胚幹細胞[38、41]およびカモ網膜細胞[39]が含まれる。適当なトリ胚幹細胞には、ニワトリ胚幹細胞由来のEBx細胞株、EB45、EB14、およびEB14‐074が含まれる[42]。ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)も使用されてよい。
【0036】
インフルエンザウイルスの増殖に最も好ましい細胞株は、MDCK細胞株である。オリジナルのMDCK細胞株は、CCL‐34としてATCCから入手可能であるが、この細胞株の誘導体も使用されてよい。例えば、参考文献28は、浮遊培養での増殖用に改良されたMDCK細胞株(「MDCK33016」、DSM ACC 2219としてデポジットされている)を開示している。同様に、参考文献43は、無血清培養において浮遊状態で増殖するMDCK誘導細胞株(「B‐702」、FERM BP‐7449としてデポジットされている)を開示している。参考文献44は、「MDCK‐S」(ATCC PTA‐6500)、「MDCK‐SF101」(ATCC PTA‐6501)、「MDCK‐SF102」(ATCC PTA‐6502)、および「MDCK‐SF103」(PTA‐6503)、を含む、非腫瘍原性MDCK細胞を開示している。参考文献45は、「MDCK.5F1」細胞(ATCC CRL‐12042)を含む、感染症に対して高い感受性を持つMDCK細胞株を開示している。これらのMDCK細胞株のうち任意のものが使用可能である。
【0037】
哺乳動物の細胞株でウイルスが増殖された場合、好都合なことに、組成物は卵タンパク質(例えば、卵白アルブミンおよびオボムコイド)や、ニワトリDNAを含まなくなるため、アレルゲン性が低下する。
【0038】
ウイルスが細胞株で増殖された場合、増殖用培養液、さらに培養を開始するのに使用されるウイルス接種材料は、ヘルペス単純ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、パラインフルエンザウイルス3、SARSコロナウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、レオウイルス、ポリオーマウイルス、ビルナウイルス、サーコウイルス、および/またはパルボウイルスを好ましくは含まない(すなわち、これらのウイルス汚染について検査され、陰性の結果が得られる)であろう[46]。ヘルペス単純ウイルスが存在しないことが特に好ましい。
【0039】
MDCK細胞のような細胞株での増殖については、浮遊状態[47‐49]、または接着培養液でウイルスの増殖が行われてよい。浮遊培養に適したMDCK細胞株の1つは、MDCK 33016(DSM ACC 2219としてデポジットされている)である。あるいは、マイクロキャリア培養を使用することも可能である。
【0040】
インフルエンザウイルスの複製を支える細胞株は、好ましくは無血清培養用培地および/または無タンパク質培地で増殖が行われる。本発明の文脈における培地とは、ヒトまたは動物起源の血清由来の添加物を含まない無血清培地を意味する。無タンパク質とは、タンパク質、増殖因子、その他のタンパク質添加物および非血清タンパク質が存在しない状態で細胞の増殖が起こるが、トリプシンまたはウイルスの増殖に必要な場合があるその他のプロテアーゼのようなタンパク質を場合により含むことができる培養液を意味すると理解される。このような培養液中で増殖する細胞は、必然的にそれら自身がタンパク質を含む。
【0041】
インフルエンザウイルスの複製を支える細胞株は、好ましくは、ウイルス複製の間、37℃未満[50]、例えば30〜36℃で増殖が行われる。
【0042】
培養細胞中でウイルスを増殖させる方法には、通常、培養する株を培養細胞に接種する手順と、ウイルス増殖のために感染細胞を所望の時間、例えばウイルス力価または抗原の発現によって判定されるような時間(例えば、接種後24〜168時間)培養する手順と、増殖したウイルスを回収する手順とが含まれる。培養細胞に、1:500〜1:1、好ましくは1:100〜1:5、より好ましくは1:50〜1:10の細胞比でウイルス(PFUまたはTCID50で測定されたもの)が接種される。ウイルスは細胞の浮遊液に添加される、または細胞の単層に加えられ、25℃〜40℃で、好ましくは28℃〜37℃で少なくとも60分間、通常は300分未満、好ましくは90〜240分間、細胞上でウイルスを吸着させる。回収される培養液上清のウイルス含有量を増やすため、凍結融解または酵素作用のいずれかで感染細胞培養(例えば、単層)が除去されてもよい。次に、回収された液体は不活化されるか、または凍結保存される。約0.0001〜10、好ましくは0.002〜5、より好ましくは0.001〜2の感染多重度(「m.o.i」)で培養細胞を感染させてもよい。さらにより好ましくは、約0.01のm.o.iで細胞の感染が行われる。感染細胞は感染の30〜60時間後に回収されてよい。好ましくは、感染の34〜48時間後に細胞が回収される。さらにより好ましくは、感染の38〜40時間後に細胞が回収される。プロテアーゼ(一般にトリプシン)は、ウイルス放出が起こるように通常細胞培養の間に添加され、培養中の任意適切な段階においてプロテアーゼが添加される。
【0043】
赤血球凝集素(HA)は、不活化インフルエンザワクチン中の主要な免疫原であり、一般的に一元放射免疫拡散法(SRID)解析によって測定されるHAレベルを基準としてワクチンの用量が標準化される。現行のワクチンは一般的に1株当たり約15μgのHAを含有するが、例えば小児への投与や、またはパンデミック状態においてはこれより少ない用量も使用される。高用量(例えば、3×または9×用量[53、54])が使用されるのと同様に、1/2(すなわち1株当たり7.5μgのHA)、1/4、および1/8のような分割用量が使用されている[51、52]。そのため、ワクチンはインフルエンザ1株に当たり0.1〜150μgのHA、好ましくは0.1〜50μg、例えば0.1〜20μg、0.1〜15μg、0.1〜10μg、0.1〜7.5μg、0.5〜5μg等を含んでよい。特定の用量は1株当たり、例えば約45、約30、約15、約10、約7.5、約5、約3.8、約1.9、約1.5μg等を含む。これらの低用量用量は、本発明のように、ワクチン中にアジュバントが存在する場合に最も有用である。
【0044】
生ワクチンについては、HA含有量よりも50%組織培養感染量(TCID50)で投薬量が測定され、1株当たり10〜10(好ましくは106.5〜107.5)のTCID50が一般的である。
【0045】
本発明とともに使用されるHAは、ウイルスに認められるような天然HAであってよく、または改変されていてもよい。例えば、鳥類においてウイルスが高い病原性を持つ原因となる決定因子(例えば、HA1およびHA2の間の開裂部位付近の塩基性アミノ酸連続領域(hyper−basic region))を除去するようにHAを改変することが知られているが、これは、さもなければこれらの決定因子が鶏卵中でのウイルスの増殖を妨げ得るためである。
【0046】
本発明の組成物は、界面活性剤、例えばポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤(「Tween」として知られる)、オクトキシノール(例えばオクトキシノール‐9(TritonX−100)またはt‐オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(「CTAB」)、またはデオキシコール酸ナトリウムを、特にスプリットワクチンまたは表面抗原ワクチン用に含んでよい。界面活性剤は、ごく微量で存在してもよい。そのため、ワクチンは、オクトキシノール‐10、α‐トコフェリル琥珀酸水素塩、およびポリソルベート80を各1mg/mL未満含んでよい。微量のその他の残りの成分は、抗生物質の場合もある(例えば、ネオマイシン、カナマイシン、ポリミキシンB)。
【0047】
不活化されているが、全粒子ではないワクチン(例えば、スプリットウイルスワクチンまたは精製表面抗原ワクチン)はマトリックスタンパク質を含んでよいが、これはこの抗原の内部に存在するさらなるT細胞エピトープの利点を利用するためである。そのため、赤血球凝集素とノイラミニダーゼを含む非全粒子ワクチン(特にスプリットワクチン)は、M1および/またはM2マトリックスタンパク質、またはそれらの断片(1つ以上)をさらに含んでよい。マトリックスタンパク質が存在する場合、検出可能なレベルのM1マトリックスタンパク質を含んでいるのが好ましい。核タンパク質も存在していてよい。
【0048】
宿主細胞のDNA
細胞株でウイルスの増殖が行われた場合は、DNAのあらゆる発癌活性を最小限に抑えるために、最終的なワクチンに存在する細胞株のDNAの残存量を最小限にするのが標準的な手順である。そのため、細胞株でウイルスの増殖が行われた場合は、1用量当たり、組成物は好ましくは10ng未満(好ましくは1ng未満、より好ましくは100pg未満)の残存宿主細胞DNAを含有するが、微量の宿主細胞DNAが存在してもよい。残存宿主細胞DNAの平均長が、500bp未満、例えば400bp未満、300bp未満、200bp未満、100bp未満、等であるのが好ましい。通常は、本発明の組成物から排除するのが望ましい宿主細胞DNAは、100bpより長いDNAである。
【0049】
現在では、残存宿主細胞DNAの測定は、生物学的製剤におけるルーチンの規制上の要件であり、当業者の通常の能力の範囲内である。DNAの測定に使用されるアッセイは、一般には有効性が確認されたアッセイである[55、56]。有効なアッセイの性能特性は数学および定量化の用語によって表すことができ、その誤差の原因となり得るものが特定されることになる。アッセイは通常、正確度、精度、特異性のような特性について検査されることになる。アッセイのキャリブレーション(例えば、既知の標準量の宿主細胞DNAに対して)とテストが済むと、定量的DNA測定のルーチンでの実施が可能になる。DNA定量化に使用される3つの基本的な技術が使用できる:サザンブロットまたはスロットブロットのようなハイブリダイゼーション法[57]、Threshold(登録商標)システムのような免疫測定法[58]、そして定量PCR[59]である。当業者はこれらのすべての方法に精通しているが、問題としている宿主細胞によって、それぞれの方法の正確な特性は変化する、例えばハイブリダイゼーション用のプローブの選択、増幅用のプライマーおよび/またはプローブの選択等である。Molecular Devices製のThreshold(登録商標)システムは、ピコグラムレベルの全DNAの定量的アッセイであり、生物医薬品中のDNAの汚染レベルのモニタリングに使用されている[58]。一般的なアッセイは、ビオチン化ssDNA結合タンパク質、ウレアーゼ結合抗ssDNA抗体、およびDNAの間の、非配列特異的な反応複合体の形成を伴う。アッセイのすべての構成要素はこの製造業者から入手可能なTotal DNA Assay Kit一式に含まれる。様々な民間製造業者、例えばAppTec(登録商標)Laboratory Services、BioReliance(登録商標)、Althea Technologies等が、残存宿主細胞DNAの検出のための定量的PCRアッセイを提供している。ヒト用ウイルスワクチンの宿主細胞DNAの汚染を測定するための化学発光ハイブリダイゼーションアッセイと全DNA用Threshold(登録商標)システムの比較は、参考文献60に認められる。
【0050】
DNA汚染は、標準的な精製手順、例えばクロマトグラフィー等を使用してワクチン作製時に除去可能である。ヌクレアーゼ処理、例えばDNaseを使用することで、残存宿主細胞DNAの除去の向上が可能である。宿主細胞DNAの汚染を減らすのに便利な方法が参考文献61および62に開示されており、方法には、ウイルス増殖中に使用されてもよいDNase(例えば、Benzonase)を最初に使用し、次いでウイルス粒子の崩壊中に使用されてもよいカチオン性界面活性剤(例えば、CTAB)を使用する、2手順の処理が含まれる。β‐プロピオラクトンのようなアルキル化剤での処理も、宿主細胞DNAの除去に使用可能であり、有利には、ウイルス粒子の不活化にも使用されてよい[63]。
【0051】
0.25mL量当たり<10ng(例えば、<1ng、<100pg)の宿主細胞DNAを含有するワクチンが好ましいのと同様に、15μgの赤血球凝集素当たり<10ng(例えば、<1ng、<100pg)の宿主細胞DNAを含有するワクチンが好ましい。0.5mL量に当たり<10ng(例えば、<1ng、<100pg)の宿主細胞DNAを含有するワクチンが好ましいのと同様に、50μgの赤血球凝集素当たり<10ng(例えば、<1ng、<100pg)の宿主細胞DNAを含有するワクチンがより好ましい。
【0052】
アジュバント
本発明は、アジュバント添加ワクチンの最初の投与を含む。追加のワクチンはアジュバント未添加でよく、またはアジュバントが添加されているが、最初の投与とは異なるアジュバントであってよい。アジュバント(1つ以上)は、組成物を与えられる患者において発現する免疫反応(体液性および/または細胞性)を高めるように働く。
【0053】
第1のワクチンとの使用に、ならびに、追加のワクチン用量(1つ以上)との任意での使用に適するアジュバントには以下が含まれるが、これらに限定されない:
・ カルシウム塩およびアルミニウム塩(またはこれらの混合物)を含む、ミネラル含有組成物。カルシウム塩は、リン酸カルシウム(例えば、参考文献64で開示される「CAP」粒子)を含む。アルミニウム塩は、水酸化物、リン酸塩、硫酸塩等を含み、塩は任意適切な形態をとる(例えば、ゲル、結晶、非結晶等)。これらの塩への吸着が好ましい。ミネラル含有組成物は、金属塩の粒子として製剤化されてもよい[65]。アルミニウム塩アジュバントの詳細は下記で述べる。
・ 下記で詳細を述べるような、水中油型乳剤。
・ 下記で詳細を述べるような、免疫刺激性オリゴヌクレオチド。
・ 下記で詳細を述べるような、3‐O‐脱アシル化モノホスホリルリピドA(「3dMRL」、「MRL(登録商標)」としても知られる)。
・ イミダゾキノリン化合物、例えばImiquimod(「R‐837」)[66、67]、Resiquimod(「R‐848」)[68]、およびこれらのアナログ、ならびにこれらの塩(例えば、塩酸塩)。免疫刺激性イミダゾキノリンに関しては、参考文献69〜73でさらに詳述されている。
・ 参考文献74で開示されるもののような、チオセミカルバゾン化合物。参考文献74では、活性化合物の処方、製造、およびスクリーニングの方法も説明されている。チオセミカルバゾンは、ヒト末梢血の単核球を刺激して、サイトカイン、例えばTNF‐αを産生させるのに特に効果的である。
・ ヌクレオシドの類似体、例えば、(a)Isatorabine(ANA‐245、7‐チア‐8‐オキソグアノシン)
【0054】
【化1】

およびそのプロドラッグ、(b)ANA975、(c)ANA‐025‐1、(d)ANA380、(e)参考文献75〜77に開示される化合物、(f)式
【0055】
【化2】

を有する化合物であって、
およびRはそれぞれ独立してH、ハロゲン、‐NR、‐OH、C1〜6アルコキシ、置換C1〜6アルコキシ、ヘテロシクリル、置換へテロシクリル、C6〜10アリール、置換C6〜10アリール、C1〜6アルキル、または置換C1〜6アルキルであり、
は非存在、H、C1〜6アルキル、置換C1〜6アルキル、C6〜10アリール、置換C6〜10アリール、ヘテロシクリル、または置換へテロシクリルであり、
およびRはそれぞれ独立してH、ハロゲン、ヘテロシクリル、置換へテロシクリル、‐C(O)‐R、C1〜6アルキル、置換C1〜6アルキルであるか、または一緒に結合してR4‐5のような5員環を作り、
【0056】
【化3】

【0057】
【化4】

で示される結合部位で結合が達成され、
およびXはそれぞれ独立してN、C、O、またはSであり、
はH、ハロゲン、‐OH、C1〜6アルキル、C2〜6アルケニル、C2〜6アルキニル、‐OH、‐NR、‐(CH‐O‐R、‐O‐(C1〜6アルキル)、‐S(O)、または‐C(O)‐Rであり、
はH、C1〜6アルキル、置換C1〜6アルキル、ヘテロシクリル、置換へテロシクリル、またはR9aであり、R9a
【0058】
【化5】

であり、
【0059】
【化6】

で示される結合部位で結合が達成され、
10およびR11はそれぞれ独立してH、ハロゲン、C1〜6アルコキシ、置換C1〜6アルコキシ、‐NR、または‐OHであり、
各RおよびRは独立してH、C1〜6アルキル、置換C1〜6アルキル、‐C(O)R、C6〜10アリールであり、
各Rは独立してH、リン酸塩、二リン酸塩、三リン酸塩、C1〜6アルキル、または置換C1〜6アルキルであり、
各Rは独立してH、ハロゲン、C1〜6アルキル、置換C1〜6アルキル、C1〜6アルコキシ、置換C1〜6アルコキシ、‐NH、‐NH(C1〜6アルキル)、‐NH(置換C1〜6アルキル)、‐N(C1〜6アルキル)、‐N(置換C1〜6アルキル)、C6〜10アリール、またはヘテロシクリルであり、
各Rは独立してH、C1〜6アルキル、置換C1〜6アルキル、C6〜10アリール、置換C6〜10アリール、ヘテロシクリル、または置換へテロシクリルであり、
各Rは独立してH、C1〜6アルキル、置換C1〜6アルキル、‐C(O)R、リン酸塩、二リン酸塩、または三リン酸塩であり、
各nは独立して0、1、2、または3であり、
各pは独立して0、1、または2である、化合物、
または(g)(a)〜(f)のうちのいずれかの薬学的に許容される塩、(a)〜(f)のうちのいずれかの互変異性体、またはその互変異性体の薬学的に許容される塩。
・ 例えば参考文献78で開示されるもののような、トリプタントリン化合物。参考文献78では、活性化合物の処方、製造、およびスクリーニングの方法が説明されている。チオセミカルバゾンは、ヒト末梢血の単核球を刺激して、サイトカイン、例えばTNF‐αを産生させるのに特に効果的である。
・ ロキソリビン(7‐アリル‐8‐オキソグアノシン)[79]。
・ アシルピペラジン化合物、インドールジオン化合物、テトラヒドロイソキノリン(THIQ)化合物、ベンゾシクロジオン化合物、アミノアザビニル化合物、アミノベンズイミダゾールキノリノン(ABIQ)化合物[81、82]、ヒドラフタルアミド化合物、ベンゾフェノン化合物、イソキサゾール化合物、ステロール化合物、キナゾリノン化合物、ピロール化合物[83]、アントラキノン化合物、キノキサリン化合物、トリアジン化合物、ピラゾロピリミジン化合物、およびベンザゾール化合物[84]を含む、参考文献80に開示される化合物。
・ 3,4‐ジ(1H‐インドール‐3‐イル)‐1H‐ピロール‐2,5‐ジオン、スタウロスポリン類似体、誘導体化ピリダジン、クロメン‐4‐オン、インドリノン、キナゾリン、およびヌクレオシド類似体を含む、参考文献85に開示される化合物。
・ アミノアルキルグルコサミニドホスファート誘導体、例えばRC‐529[86、87]。
・ 例えば、参考文献88および89で説明されるような、ホスファゼン、例えばポリ[ジ(カルボキシラトフェノキシ)ホスファゼン](「PCPP」)。
・ 小分子免疫増強物質(SMIP)、例えば、
N2‐メチル‐1‐(2‐メチルプロピル)‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐2,4‐ジアミン
N2,N2‐ジメチル‐1‐(2‐メチルプロピル)‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐2,4‐ジアミン
N2‐エチル‐N2‐メチル‐1‐(2‐メチルプロピル)‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐2,4‐ジアミン
N2‐メチル‐1‐(2‐メチルプロピル)‐N2‐プロピル‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐2,4‐ジアミン
1‐(2‐メチルプロピル)‐N2‐プロピル‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐2,4‐ジアミン
N2‐ブチル‐1‐(2‐メチルプロピル)‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐2,4‐ジアミン
N2‐ブチル‐N2‐メチル‐1‐(2‐メチルプロピル)‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐2,4‐ジアミン
N2‐メチル‐1‐(2‐メチルプロピル)‐N2‐ペンチル‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐2,4‐ジアミン
N2‐メチル‐1‐(2‐メチルプロピル)‐N2‐プロプ‐2‐エニル‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐2,4‐ジアミン
1‐(2‐メチルプロピル)‐2[(フェニルメチル)チオ]‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐4‐アミン
1‐(2‐メチルプロピル)‐2(プロピルチオ)‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐4‐アミン
2‐[[4‐アミノ‐1‐(2‐メチルプロピル)‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐2‐イル](メチル)アミノ]エタノール
2‐[[4‐アミノ‐1‐(2‐メチルプロピル)‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐2‐イル](メチル)アミノ]エチルアセテート
4‐アミノ‐1‐(2‐メチルプロピル)‐1,3‐ジヒドロ‐2H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐2‐オン
N2‐ブチル‐1‐(2‐メチルプロピル)‐N4,N4‐ビス(フェニルメチル)‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐2,4‐ジアミン
N2‐ブチル‐N2‐メチル‐1‐(2‐メチルプロピル)‐N4,N4‐ビス(フェニルメチル)‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐2,4‐ジアミン
N2‐メチル‐1‐(2‐メチルプロピル)‐N4,N4‐ビス(フェニルメチル)‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐2,4‐ジアミン
N2,N2‐ジメチル‐1‐(2‐メチルプロピル)‐N4,N4‐ビス(フェニルメチル)‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐2,4‐ジアミン
1‐{4‐アミノ‐2‐[メチル(プロピル)アミノ]‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐1‐イル}‐2‐メチルプロパン‐2‐オール
1‐[4‐アミノ‐2‐(プロピルアミノ)‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐1‐イル]‐2‐メチルプロパン‐2‐オール
N4,N4‐ジベンジル‐1‐(2‐メトキシ‐2‐メチルプロピル)‐N2‐プロピル‐1H‐イミダゾ[4,5‐c]キノリン‐2,4‐ジアミン
・ 幅広い植物種の樹皮、葉、茎、根、さらには花に認められる、ステロールグリコシドおよびトリテルペノイドグリコシドからなる異種のグループである、サポニン[参考文献131、22章]。Quillaia saponaria Molina treeの樹皮からとれるサポニンはアジュバントとして広く研究されている。サポニンは、Smilax ornata(サルサパリラ)、Gypsophila paniculata(花嫁のベール)、およびSaponaria officianalis(シャボンソウ)などから商業化可能な程得られる。サポニンアジュバント製剤には、QS21のような精製製剤だけでなく、ISCOMのような脂質製剤も含まれる。QS21はStimulon(登録商標)として販売されている。サポニン組成物はHPLCおよびRP‐HPLCを使用して精製されている。こうした技術を使用して特定の精製画分が同定されており、QS7、QS17、QS18、QS21、QH‐A、QH‐B、およびQH‐Cが含まれる。好ましくは、サポニンはQ21である。QS21の作製方法は参考文献90に開示されている。サポニン製剤は、コレステロールのようなステロールも有してよい[91]。サポニンとコレステロールの組み合わせを使用して、免疫刺激複合体(ISCOM)と呼ばれるユニークな粒子の作成が可能である[参考文献131、23章]。ISCOMは一般に、ホスファチジルエタノールアミンまたはホスファチジルコリンのようなリン脂質も含む。あらゆる既知のサポニンをISCOMに利用できる。好ましくは、ISCOMはQuilA、QHAおよびQHCの1つ以上を含む。参考文献91〜93にISCOMがさらに詳しく記載されている。場合により、ISCOMは追加の界面活性剤を含まなくてもよい[94]。サポニンベースのアジュバントの開発に関するレビューは参考文献95および96に記載されている。
・ 細菌性ADPリボシル化毒素(例えば、大腸菌の熱不安定性エンテロトキシン「LT」、コレラ毒素「CT」、または百日咳毒素「PT」)およびそれらの無毒化誘導体、例えばLT‐K63およびLT‐R72として知られる変異毒素[97]。無毒化ADPリボシル化毒素の粘膜アジュバントとしての使用は参考文献98に、非経口アジュバントとしての使用は参考文献99に記載されている。
・ エステル化ヒアルロン酸ミクロスフィア[100]またはキトサンおよびその誘導体[101]のような生体接着物質および粘膜接着物質。
・ 生体分解性かつ非毒性の材料(例えば、ポリ(α‐ヒドロキシ酸)、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、ポリカプロラクトン等)から形成されるミクロ粒子(すなわち、直径が〜100nmから〜150μmの粒子、より好ましくは直径が〜200nmから〜30μm、または直径が〜500nmから〜10μm)であり、ポリ(ラクチド‐コ‐グリコリド)が好ましく、場合により、負に荷電する表面(例えば、SDSを使用して)または正に荷電する表面(例えば、CTABのようなカチオン性界面活性剤を使用して)を持つように処理される。
・ リポソーム(参考文献131、13・14章)。アジュバントとしての使用に適したリポソーム製剤の例は参考文献102〜104に記載されている。
・ ポリオキシエチレンエーテルおよびポリオキシエチレンエステル[105]。このような製剤は、オクトキシノールと組み合わされたポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤[106]だけでなく、オクトキシノールのような少なくとも1つの追加の非イオン性界面活性剤と組み合わされたポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはエステル界面活性剤[107]をさらに含む。好ましいポリオキシエチレンエーテルは、以下の群から選択される:ポリオキシエチレン‐9‐ラウリルエーテル(ラウレス9)、ポリオキシエチレン‐9‐ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン‐8‐ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン‐4‐ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン‐35‐ラウリルエーテル、およびポリオキシエチレン‐23‐ラウリルエーテル。
・ ムラミルペプチド、例えばN‐アセチルムラミル‐L‐スレオニル‐D‐イソグルタミン(「thr‐MDP」)、N‐アセチル‐ノルムラミル‐L‐アラニル‐D‐イソグルタミン(nor‐MDP)、N‐アセチルグルコサミニル‐N‐アセチルムラミル‐L‐Al‐D‐イソグル‐L‐Ala‐ジパルミトキシプロピルアミド(「DTP‐DPP」、または「Theramide(登録商標)」)、N‐アセチルムラミル‐L‐アラニル‐D‐イソグルタミニル‐L‐アラニン‐2‐(1’‐2’ジパルミトイル‐sn‐グリセロ‐3‐ヒドロキシホスホリルオキシ)‐エチルアミン(「MTP‐PE」)。
・ 第2のグラム陰性細菌から得られるリポ多糖(LPS)製剤と組み合わされた、第1のグラム陰性細菌から調製される外膜タンパク質プロテオソーム製剤であり、外膜タンパク質プロテオソームおよびLPS製剤は、安定した非共有結合性のアジュバント複合体を作る。このような複合体には、Neisseria meningitidisの外膜とLPSからなる複合体「IVX‐908」が含まれる。これらは、インフルエンザワクチン用のアジュバントとして使用されている[108]。
・ ポリオキシドニウム(polyoxidonium)ポリマー[109、110]またはその他のN‐酸化ポリエチレン‐ピペラジン誘導体。
・ メチルイノシン5’‐一リン酸塩(「MIMP」)[111]。
・ ポリヒドロキシル化ピロリジジン化合物[112]、例えば式
【0060】
【化7】

を有する化合物であって、Rは、水素、直鎖または分枝、置換型または非置換型、飽和または不飽和のアシル、アルキル(例えば、シクロアルキル)、アルケニル、アルキニル、およびアリール基、またはそれらの薬学的に許容できる塩または誘導体からなる群から選択される。例には、カスアリン、カスアリン‐6‐α‐D‐グルコピラノース、3‐epi‐カスアリン、7‐epi‐カスアリン、3,7‐diepi‐カスアリン等が含まれるがこれらに限定されない。
・ CD1dリガンド、例えばα‐グリコシルセラミド[113〜120](例えば、α‐ガラクトシルセラミド)、フィトスフィンゴシン含有α‐グリコシルセラミド、OCH、KRN7000[(2S、3S、4R)‐1‐O‐(α‐D‐ガラクトピラノシル)‐2‐(N‐ヘキサコサノイルアミノ)‐1,3,4‐オクタデカントリオール]、CRONY−101、3”‐O‐スルホ‐ガラクトシルセラミド等。
・ ガンマイヌリン[121]またはその誘導体、例えばアルガムリン。
・ 参考文献122で定義されるような、式I、II、またはIIIの化合物、またはそれらの塩、
【0061】
【化8】

例えば「ER803058」、「ER803732」、「ER804053」、「ER804058」、「ER804059」、「ER804442」、「ER804680」、「ER804764」、「ER803022」または「ER804057」、例えば
【0062】
【化9】

・ 大腸菌由来のリピドAの誘導体、例えばOM‐174(参考文献123・124に記載)。
・ カチオン性脂質と(多くの場合天然の)コリピッド(co‐lipid)の製剤、例えばアミノプロピル‐ジメチル‐ミリストレイルオキシ‐プロパンアミニウムブロミド‐ジフィタノイルホスファチジル‐エタノールアミン(「Vaxfectin(登録商標)」)またはアミノプロピル‐ジメチル‐ビス‐ドデシルオキシ‐プロパンアミニウムブロミド‐ジオレオイルホスファチジル‐エタノールアミン(「GAP‐DLRIE:DOPE」)。(±)‐N‐(3‐アミノプロピル)‐N,N‐ジメチル‐2,3‐ビス(syn‐9‐テトラデセネイルオキシ)‐1‐プロパンアミニウム塩を含有する製剤が好ましい[125]。
・ リン酸含有非環状骨格と結合した脂質を含有する化合物、例えばTLR4アンタゴニストE5564[126、127]:
【0063】
【化10】

これらの、ならびに他のアジュバント活性物質は、参考文献131および132においてさらに詳細に解説されている。
【0064】
本発明で使用するためのアジュバント(1つ以上)は、Toll様受容体(TLR)のモジュレータおよび/またはアゴニストであってよい。例えばそれらは、ヒトTLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR7、TLR8、および/またはTLR9タンパク質のうちの1つ以上のアゴニストであってよい。好ましい物質は、TLR7のアゴニスト(例えば、イミダゾキノリン)および/またはTLR9のアゴニスト(例えば、CpGオリゴヌクレオチド)である。これらの物質は、先天性免疫経路の活性化に有用である。
【0065】
単一のワクチンは、該アジュバントの2つ以上を含んでよい。
【0066】
組成物中の抗原とアジュバントは、一般的には混合された状態である。
【0067】
アルミニウム塩アジュバント
水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウムとして知られるアジュバントが使用されてよい。これらの名称は従来使用されているが、どちらも実際に存在する化合物を正確に表していないため、便宜上のものにすぎない(例えば、参考文献131、9章参照)。本発明は、アジュバントとして通常使用される、あらゆる「水酸化物」または「リン酸化物」アジュバントを使用できる。
【0068】
「水酸化アルミニウム」として知られるアジュバントは、一般的にはオキシ水酸化アルミニウム塩であり、通常少なくとも部分的に結晶である。オキシ水酸化アルミニウムは化学式AlO(OH)で表され、赤外(IR)分光法を使用して、特に1070cm−1の吸収帯と3090〜3100cm−1に強いショルダーが存在することによって、水酸化アルミニウムAl(OH)のようなその他のアルミニウム化合物と区別できる[参考文献131、9章]。水酸化アルミニウムアジュバントの結晶化度は、半分高さにおける回折バンドの幅(WHH)によって反映され、結晶度の低い粒子は結晶子のサイズが小さくなるため、ラインの広がりが大きくなる。WHHが大きくなると表面積も増加し、WHH値が大きいアジュバントほど高い抗原吸着能を持つことが確認されている。繊維状の形態(例、透過型電子顕微鏡像に見られるようなもの)が水酸化アルミニウムアジュバントでは一般的である。水酸化アルミニウムアジュバントのpIは一般に約11であり、すなわち生理学的pHの条件下では、このアジュバント自身の表面が正に荷電している。水酸化アルミニウムアジュバントでは、pH7.4において、Al+++1mgにつき1.8〜2.6mgのタンパク質の吸着能を有することが報告されている。
【0069】
「リン酸アルミニウム」として知られるアジュバントは、一般的には水酸化リン酸アルミニウムであり、少量の硫酸塩も含有することが多い(すなわち水酸化リン酸アルミニウム硫酸塩)。これらは沈殿によって得られてもよく、沈殿の際の反応条件と濃度が塩における水酸基のリン酸による置換度に影響を与える。水酸化リン酸塩のPO/Alのモル比は、通常0.3〜1.2である。水酸基の存在によって、厳密なAlPOから水酸化リン酸塩を区別できる。例えば、3164cm−1のIRスペクトルバンド(例えば、200℃に加熱されたとき)は、構造的水酸基の存在を示す[参考文献131、9章]。
【0070】
リン酸アルミニウムアジュバントのPO/Al3+のモル比は通常、0.3〜1.2、好ましくは0.8〜1.2、より好ましくは0.95±0.1である。リン酸アルミニウム、特に水酸化リン酸塩は通常は非結晶質である。一般的なアジュバントは、PO/Alのモル比が0.84〜0.92の非結晶水酸化リン酸アルミニウムであり、0.6mgAl3+/mLで加えられる。リン酸アルミニウムは一般的に粒子状物質である(例えば、透過電子顕微鏡像で見られるような板状の形態をとる)。任意の抗原を吸着した後の粒子の一般的な直径は、0.5〜20μm(例えば、約5〜10μm)である。リン酸アルミニウムに関しては、pH7.4においてAl+++1mgにつき0.7〜1.5mgのタンパク質吸着能を有することが報告されている。
【0071】
リン酸アルミニウムの零電荷点(PZC)は、リン酸基のヒドロキシル基への置換度と反比例し、この置換度は、沈殿による塩の調製に使用される反応条件や反応物の濃度に応じて変化し得る。PZCは、溶液中の遊離リン酸イオンの濃度を変化させることでも変化し(リン酸が多い=PZCの酸性度が高い)、またはヒスチジンバッファーのようなバッファーの添加によっても変化する(PZCの塩基性が高まる)。本発明にしたがって使用されるリン酸アルミニウムのPZCは、一般的に4.0〜7.0、より好ましくは5.0〜6.5、例えば5.7である。
【0072】
本発明の組成物の調製に使用されるアルミニウム塩の懸濁液は、バッファー(例、リン酸またはヒスチジンまたはトリスバッファー)を含んでよいが、これが必ずしも必要なわけではない。懸濁液は、好ましくは滅菌済みで、ピロゲンフリーである。懸濁液は、例えば1.0〜20mMの濃度、好ましくは5〜15mMの濃度、より好ましくは約10mMの濃度で存在する水溶性遊離リン酸イオンを含んでよい。懸濁液は塩化ナトリウムも有していてよい。
【0073】
本発明は、水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウムの両方の混合物を使用できる。この例では、水酸化アルミニウムよりもリン酸アルミニウムが多く存在してもよく、例えば少なくとも2:1、例えば≧5:1、≧6:1、≧7:1、≧8:1、≧9:1等の重量比であってよい。
【0074】
患者への投与に使用される組成物中のAl+++濃度は、好ましくは10mg/mL未満、例えば、≦5mg/mL、≦4mg/mL、≦3mg/mL、≦2mg/mL、≦1mg/mL等である。好ましい範囲は、0.3〜1mg/mLである。最大で0.85mg/用量が好ましい。
【0075】
水中油型乳剤アジュバント
水中油型乳剤は、インフルエンザウイルスワクチンへのアジュバントの添加への使用に特に適していることが認められている。このような乳剤が各種知られており、それらは一般的に少なくとも1つの油と少なくとも1つの界面活性剤を含み、油(1つ以上)および界面活性剤(1つ以上)は生体分解性(代謝性)かつ生体適合性である。乳剤中の油の直径は、通常5μm未満であり、さらには直径がサブミクロンであってもよく、このような小さいサイズはマイクロフルイダイザーを使用して得られ、安定した乳剤をもたらす。220nm未満の大きさの滴は、濾過滅菌が実施可能であるため好ましい。
【0076】
本発明は、動物(例えば魚)または植物性由来の油などの油とともに使用可能である。植物油の供給源には、実、種、および穀物が含まれる。堅果油の例としてはラッカセイ油、大豆油、ココナッツ油、およびオリーブ油が最も広く使用される。例えばホホバの実から得られるホホバ油も利用できる。種油には、サフラワー油、綿実油、ヒマワリ種子油、ゴマ油などが含まれる。穀物の群ではトウモロコシ油が最も容易に入手できるが、その他の穀物、例えばコムギ、カラスムギ、ライムギ、コメ、テフ、ライコムギなどの油も利用してよい。堅果油および種油を出発原料として適切な材料を加水分解、分離、エステル化することによって、天然では種油中に含まれないものの、グリセロールおよび1,2‐プロパンジオールの6〜10個の炭素数の脂肪酸エステルを調製してよい。哺乳動物の乳汁由来の脂肪と油は代謝性であり、故に本発明を実施する際に使用されてもよい。分離、精製、けん化、ならびに動物性ソースから精製油を得るのに必要なその他の手段の手順は当該技術分野で周知である。大部分の魚は、容易に回復する代謝性の油を含有する。例えば、タラの肝油、サメの肝油、および鯨ろうのような鯨油が、本明細書で使用されてもよい魚油のいくつかの例である。多数の分枝鎖油が炭素数5のイソプレンユニットに生化学的に合成され、通常テルペノイドと呼ばれる。サメ肝油は、スクアレン、2,6,10,15,19,23‐ヘキサメチル‐2,6,10,14,18,22‐テトラコサヘキサンとして知られる分枝、不飽和テルペノイドを含有し、これは本明細書において特に好ましい。スクアレンの飽和類似体であるスクアランも好ましい油である。スクアレンおよびスクアランを含む魚油は民間業者から容易に入手でき、または当該技術分野で既知の方法を使用して得てもよい。その他の好ましい油はトコフェロール(下記参照)である。油の混合物を使用できる。
【0077】
界面活性剤は、それらの「HLB」(親水性/親油性バランス)によって分類可能である。本発明の好ましい界面活性剤のHLBは、少なくとも10、好ましくは少なくとも15、より好ましくは少なくとも16である。本発明は、限定されないが、ポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤(一般にTweenと呼ばれる)、特にポリソルベート20およびポリソルベート80、DOWFAX(登録商標)の登録商標名で販売されているエチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)、および/またはブチレンオキシド(BO)の共重合体、例えば直鎖状EO/POブロック共重合体、オクトキシノール‐9(TritonX‐100、またはt‐オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)が特に関心が持たれている、エトキシ(オキシ‐1,2‐エタンジイル)基のリピート数が変化し得るオクトキシノール、(オクチルフェノキシ)ポリエトキシエタノール(IGEPAL CA‐630/NP‐40)、ホスファチジルコリン(レシチン)のようなリン脂質、タージトール(登録商標)NPシリーズのようなノニルフェノールエトキシラート、トリエチレングリコールモノラウリルエーテル(ブリッジ30)のような、ラウリル、セチル、ステアリル、およびオレイルアルコールから得られるポリオキシエチレン脂肪酸エーテル(ブリッジ界面活性剤として知られる)、ソルビタントリオレエート(SPAN85)およびソルビタンモノラウレートのようなソルビタンエステル(一般にSPANとして知られる)を含む界面活性剤とともに使用可能である。非イオン性界面活性剤が好ましい。乳剤に添加するのに好ましい界面活性剤はTween80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)、SPAN85(ソルビタントリオレエート)、レシチン、およびTritonX‐100である。
【0078】
例えばTween80/SPAN85の混合液のような、界面活性剤の混合液を使用できる。ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80)のようなポリオキシエチレンソルビタンエステルと、t‐オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(TritonX‐100)のようなオクトキシノールの組み合わせも適している。別の有用な組み合わせは、ラウレス9にポリオキシエチレンソルビタンエステルおよび/またはオクトキシノール加えたものを有する。
【0079】
界面活性剤の好ましい量(重量%)は、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(例えばTween80)0.01〜1%、特に約0.1%、オクチル‐またはノニルフェノキシポリオキシエタノール(例えばTritonX‐100、またはTritonシリーズの他の界面活性剤)0.001〜0.1%、特に0.005〜0.02%、ポリオキシエチレンエーテル(例えばラウレス9)0.1〜20%、好ましくは0.1〜10%、特に0.1〜1%または約0.5%である。
【0080】
本発明に有用な特定の水中油型乳剤アジュバントには以下が含まれるが、これらに限定されない:
・ スクアレン、Tween80、およびSPAN85からなるサブミクロン乳剤。体積によるこの乳剤の組成は、約5%がスクアレン、約0.5%がポリソルベート80、および約0.5%がSPAN85であってもよい。重量でいうと、これらの比は、4.3%がスクアレン、0.5%がポリソルベート80、および0.48%がSPAN85となる。このアジュバントは「MF59」[128〜130]として知られており、参考文献131の10章および参考文献132の12章でさらに詳しく説明されている。有利には、MF59乳剤は、クエン酸イオン、例えば10mMのクエン酸ナトリウムバッファーを含む。
・ スクアレン、トコフェロール、およびTween80からなる乳剤。この乳剤は、リン酸緩衝生理食塩水を含んでよい。この乳剤は、SPAN85(例えば1%で)および/またはレシチンも含んでよい。これらの乳剤は、2〜10%スクアレン、2〜10%トコフェロール、および0.3〜3%Tween80を含んでよく、スクアレン:トコフェロールの重量比は好ましくは≦1であるが、これはこの比がより安定な乳剤をもたらすためである。スクアレンとTween80は、約5:2の体積比で存在してもよい。このような乳剤の1つは、Tween80をPBSに溶解して2%溶液を作り、次いでこの溶液の90mLを、5gの(DL‐α‐トコフェロールと5mLのスクアレンの)混合液と混合し、この混合液をマイクロフルイダイズすることで作製可能である。こうして得られる乳剤は、例えば平均径が100〜250nm、好ましくは約180nmのサブミクロンの油滴を有していてよい。
・ スクアレン、トコフェロール、およびTriton界面活性剤(例えば、TritonX‐100)からなる乳剤。この乳剤は、3d‐MPL(下記参照)も含んでよい。この乳剤はリン酸バッファーを含んでよい。
・ ポリソルベート(例、ポリソルベート80)、Triton界面活性剤(例、TritonX‐100)、およびトコフェロール(例、α‐コハク酸トコフェロール)を有する乳剤。この乳剤は、これらの3つの成分を約75:11:10の質量比(例、750μg/mLのポリソルベート80、110μg/mLのTritonX‐100、および100μg/mLのαコハク酸トコフェロール)を含んでよく、これらの濃度は、抗原に由来するこれらの成分の寄与分を含む必要がある。この乳剤はスクアレンも含んでよい。この乳剤は、3d‐MPL(下記参照)も含んでよい。水相はリン酸バッファーを含んでよい。
・ スクアラン、ポリソルベート80、およびポロキサマー401(「プルロニック(登録商標)L121」)からなる乳剤。この乳剤はpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水で調製されてよい。この乳剤は、ムラミルジペプチドの有用な送達媒体であり、「SAF‐1」アジュバント[133]においてスレオニル‐MDPとともに使用されている(0.05〜1%Thr‐MDP、5%スクアラン、2.5%プルロニックL121、および0.2%ポリソルベート80)。これは、「AF」アジュバント[134]にみられるように、Thr‐MDPなしでも使用可能である(5%スクアラン、1.25%プルロニックL121、および0.2%ポリソルベート80)。ミクロ流動化が好ましい。
・ スクアレン、水性溶媒、ポリオキシエチレンアルキルエーテル親水性非イオン性界面活性剤(例、ポリオキシエチレン(12)セトステアリルエーテル)、および疎水性非イオン性界面活性剤(例、ソルビタンエステルまたはマンニドエステル、例えばソルビタンモノオレートまたは「SPAN80」)を有する乳剤。この乳剤は、好ましくは熱可逆性であり、および/または大きさが200nm未満の油滴を少なくとも90%(体積で)有する[135]。この乳剤は、アルジトール、凍結保護物質(例、糖、例えばドデシルマルトシドおよび/またはスクロース)、および/またはアルキルポリグリコシドのうち1つ以上を含んでよい。このような乳剤は凍結乾燥してもよい。
・ 0.5〜50%の油、0.1%〜10%のリン脂質、および0.05〜5%の非イオン性界面活性剤を有する乳剤。参考文献136に記載されるように、好ましいリン脂質成分は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジル酸、スフィンゴミエリン、およびカルジオリピンである。サブミクロンの滴の大きさが有利である。
・ 非代謝性油(例えばライトミネラルオイル)および少なくとも1つの界面活性剤(例えばレシチン、Tween80またはSPAN80)からなる、サブミクロンの水中油型乳剤。QuilAサポニン、コレステロール、サポニン‐親油性物質複合体(例えば参考文献137に記載されているような、脂肪族アミンをグルクロン酸のカルボキシル基を介してデスアシルサポニンに添加することによって作製されるGPI‐0100)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミドおよび/またはN,N‐ジオクタデシル‐N,N‐ビス(2‐ヒドロキシエチル)プロパンジアミンのような添加剤が加えられてよい。
・ サポニン(例、QuilAまたはQS21)およびステロール(例、コレステロール)がらせん状ミセルとして結合している乳剤[138]。
・ ミネラルオイル、非イオン性親油性エトキシ化脂肪アルコール、および非イオン性親水性界面活性剤を含む乳剤(例えば、エトキシ化脂肪アルコールおよび/またはポリオキシエチレン‐ポリオキシプロピレンブロック共重合体)[139]。
・ ミネラルオイル、非イオン性親水性エトキシ化脂肪アルコール、および非イオン性親油性界面活性剤を含む乳剤(例えば、エトキシ化脂肪アルコールおよび/またはポリオキシエチレン‐ポリオキシプロピレンブロック共重合体)[139]。
【0081】
乳剤は、送達の際にその場で抗原と混合されてよい。そのため、アジュバントと抗原は包装された、または流通しているワクチンにおいて別々の状態であり、使用時に最終的に製剤化できるような状態になっていてよい。抗原は通常水溶性形態であり、ワクチンは2つの液体を混合することで最終的に調製される。混合される2つの液体の体積比は様々であるが(例えば、5:1〜1:5)、通常は約1:1である。
【0082】
抗原とアジュバントが混合された後は、赤血球凝集素抗原は通常水溶液中にとどまるが、油/水の界面に自身を分散させる場合もある。通常、乳剤の油相に入る赤血球凝集素はほとんどない。
【0083】
組成物がトコフェロールを含む場合は、α、β、γ、δ、ε、またはξトコフェロールのいずれかが使用可能であるが、α‐トコフェロールが好ましい。トコフェロールは複数の形態、例えば様々な塩および/または異性体をとることができる。塩には、有機塩、例えばコハク酸エステル、酢酸塩、ニコチン酸塩等が含まれる。D‐α‐トコフェロールとDL‐α‐トコフェロールの両方を使用できる。ビタミンEが高齢の患者(例、60歳以上)の免疫反応にプラスの効果を与えることが報告されているため、有利には、この年齢群に使用するためのワクチンにトコフェロールが加えられる[140]。トコフェロールは、乳剤の安定化に役立つ可能性がある抗酸化作用も有している[141]。好ましいα‐トコフェロールはDL‐α‐トコフェロールであり、このトコフェロールの好ましい塩はコハク酸エステルである。コハク酸塩は、in vivoにおいてTNF関連リガンドと協同することが認められている。さらに、α‐コハク酸トコフェロールはインフルエンザワクチンに適合すること、また水銀化合物の代わりとして有用な保存料であることが知られている[10]。
【0084】
免疫刺激性オリゴヌクレオチド
免疫刺激性オリゴヌクレオチドは、ホスホロチオエート修飾のようなヌクレオチド修飾体/類似体を含むことができ、二本鎖または(RNAは例外だが)一本鎖であり得る。参考文献142、143、および144は、可能な類似体置換、例えば2’‐デオキシ‐7‐デアザグアノシンでのグアノシンの置換を開示している。CpGオリゴヌクレオチドのアジュバント効果は参考文献145〜150でさらに解説されている。CpG配列はTLR9を標的としてもよく、例えばモチーフGTCGTTまたはTTCGTTなどがある[151]。CpG配列は、CpG‐A ODN(オリゴデオキシヌクレオチド)のようにTh1の免疫反応の誘発に特異的であってよく、またはCpG‐B ODNのようにB細胞の反応の誘発により特異的であってもよい。CpG‐AおよびCpG‐B ODNは参考文献152〜154で取り上げられている。好ましくは、CpGはCpG‐A ODNである。好ましくは、受容体認識用に5’末端が利用可能となるようにCpGオリゴヌクレオチドが構築される。場合により、2つのCpGオリゴヌクレオチド配列は、それらの3’末端で結合して「イムノマー(immunomer)」を形成してよい。例えば、参考文献151および155〜157を参照されたい。有用なCpGアジュバントは、ProMune(登録商標)(Coley Pharmaceutical Group,Inc.)としても知られるCpG7909である。
【0085】
CpG配列の使用に代わるものとして、またはこれに加えて、TpG配列も利用できる[158]。これらのオリゴヌクレオチドは非メチル化CpGモチーフを含まなくてよい。
【0086】
免疫刺激性オリゴヌクレオチドはピリミジンリッチであってよい。例えばこれは、2つ以上の連続するチミジンヌクレオチド(例えば、参考文献158に開示されるようなTTTT)を有してよく、および/または>25%チミジン(例、>35%、>40%、>50%、>60%、>80%等)を持つヌクレオチド組成を有してもよい。例えばこれは、2つ以上の連続するシトシンヌクレオチド(例、参考文献158に開示されるようなCCCC)を有してよく、および/または>25%シトシン(例、>35%、>40%、>50%、>60%、>80%等)を持つヌクレオチド組成を有してもよい。これらのオリゴヌクレオチドは、非メチル化CpGモチーフを含まなくてよい。
【0087】
免疫刺激性オリゴヌクレオチドは一般に、少なくとも20のヌクレオチドを有する。それらは100未満のヌクレオチドを有してよい。
【0088】
3脱‐O‐アシル化モノホスホリルリピドA
3dMPL(3脱‐O‐アシル化モノホスホリルリピドAまたは3‐O‐デスアシル‐4’‐モノホスホリルリピドAとしても知られる)は、モノホスホリルリピドA内の3位の還元端のグルコサミンが脱アシル化されたアジュバントである。3dMPLは、Salmonella minnesotaのヘプトースを含まない変異体から調製されており、リピドAと化学的に類似しているが、酸に不安定なホスホリル基と塩基に不安定なアシル基を欠く。この物質は、単球/マクロファージ系の細胞を活性化し、IL‐1、IL‐12、TNF‐α、およびGM‐CSFを含む複数のサイトカインの放出を刺激する(参考文献159も参照)。3dMPLの調製は、もとは参考文献160で説明された。
【0089】
3dMPLは、関連する分子の混合物の形態をとり得るが、それらのアシル化(例、異なる長さであってよい、3、4、5、または6つのアシル鎖を持つ)によって変化する。2つのグルコサミン(2‐デオキシ‐2‐アミノ‐グルコースとしても知られる)単糖は、それらの2位の炭素の位置でNがアシル化されたものであり(すなわち、2位および2’位において)、3’位の位置でのOのアシル化も存在する。2位の炭素に結合する基は、式‐NH‐CO‐CH‐CR1’を有する。2’位の炭素に結合する基は、式‐NH‐CO‐CH‐CR2’を有する。3’位の炭素に結合する基は、式‐O‐CO‐CH‐CR3’を有する。代表的な構造は、
【0090】
【化11】

である。
【0091】
基R、R、およびRはそれぞれ独立して‐(CH‐CHである。nの値は、好ましくは8〜16、より好ましくは9〜12、最も好ましくは10である。
【0092】
基R1’、R2’、およびR3’はそれぞれ独立して、(a)‐H、(b)‐OH、または(c)‐O‐CO‐Rであってよく、Rは‐Hまたは‐(CH‐CHのいずれかであり、mの値は好ましくは8〜16、より好ましくは10、12、または14である。2位の位置では、mは好ましくは14である。2’位の位置では、mは好ましくは10である。3’位の位置では、mは好ましくは12である。そのため、基R1’、R2’、およびR3’は好ましくは、ドデカン酸、テトラデカン酸、またはヘキサデカン酸からの‐O‐アシル基である。
【0093】
1’、R2’、およびR3’のすべてが‐Hの場合、3dMPLは3つのアシル鎖のみを有する(2、2’、3’位のそれぞれに1つずつ)。R1’、R2’、およびR3’のうち2つだけが‐Hの場合、3dMPLは4つのアシル鎖を有し得る。R1’、R2’、およびR3’のうち1つだけが‐Hの場合、3dMPLは5つのアシル鎖を有し得る。R1’、R2’、およびR3’が‐Hではない場合、3dMPLは6つのアシル鎖を有し得る。本発明にしたがって使用される3dMPLアジュバントはこれらの形態の混合物であり、3つ〜6つのアシル鎖を有し得るが、6つのアシル鎖を持つ3dMPLを混合物中に加えること、また特に、ヘキサアシル鎖形態の重量が、全3dMPLの少なくとも10%、例えば≧20%、≧30%、≧40%、≧50%またはそれ以上を占めるようにするのが好ましい。6つのアシル鎖を持つ3dMPLはアジュバントとして最も活性が高い形態であることが認められている。
【0094】
そのため、本発明の組成物に加える3dMPLの形態として最も好ましいのは、
【0095】
【化12】

である。
【0096】
3dMPLが混合物の形態で使用される場合、本発明の組成物中における3dMPLの量または濃度に関する記載は、混合物中で混合された3dMPLの種類を意味する。
【0097】
水性条件において3dMPLは、様々な大きさ、例えば直径が<150nmまたは>500nmのミセル集合体または粒子を形成し得る。これらのいずれか、または両方を本発明とともに使用でき、ルーチンのアッセイを使用してより優れた粒子を選択できる。より小さい粒子(例、十分に小さく、透明な3dMPL水性懸濁液をもたらす)はより優れた活性を有するため、本発明に従った使用に好ましい[161]。好ましい粒子の平均径は220nm未満であり、より好ましくは200nm未満、または150nm未満、または120nm未満であり、さらには平均径が100nm未満のこともある。しかし、ほとんどの場合、平均径は50nmを下回ることはない。これらの粒子は十分に小さいため、濾過滅菌に適している。粒子径は、粒子の平均径を示す、動的光散乱を使用するルーチン技術によって測定可能である。粒子の径がxnmであるとされる場合、通常はおおよそこの中間値の粒子が分布するが、個数で少なくとも50%(例えば、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、またはそれ以上)の粒子が、x±25%の範囲内の直径を有することになる。
【0098】
有利には、3dMPLは水中油型乳剤と組み合わせて使用することができる。実質的にすべての3dMPLが、乳剤の水相に位置してもよい。
【0099】
3dMPLは単独で、または1つ以上のさらなる化合物と組み合わせて使用することができる。例えば3dMPLを、QS21サポニンと[162](水中油型乳剤中での使用を含む[163])、免疫刺激性オリゴヌクレオチドと、QS21と免疫刺激性オリゴヌクレオチドの両方と、リン酸アルミニウムと[164]、水酸化アルミニウムと[165]、またはリン酸アルミニウムと水酸化アルミニウムの両方との組み合わせでの使用が知られている。
【0100】
好ましいアジュバント添加レジメン
本発明の投薬レジメンは、アジュバント添加インフルエンザワクチンを最初に投与する工程を伴う。この最初のワクチンに使用するのに好ましいアジュバントは水中油型乳剤である。
【0101】
2回投与レジメンの2回目の用量は好ましくはアジュバント未添加である。あるいは、これはアジュバント添加であってもよいが、初回用量のアジュバントとは異なるものを添加する。初回用量に水中油型乳剤がアジュバントとして添加されている場合、アジュバント添加された2回目の用量に使用するのに好ましいアジュバントはアルミニウム塩を有する。
【0102】
医薬組成物
本発明の組成物は薬学的に許容でき、一般的には水性形態である。組成物は、抗原に加えて成分(および、適用がある場合、アジュバント)を含んでよく、例えば組成物は一般に1つ以上の医薬用担体(1つ以上)および/または賦形剤(1つ以上)を含む。参考文献166において、このような成分がより詳しく取り上げられている。
【0103】
組成物は、チオマーサルまたは2‐フェノキシエタノールのような保存剤を含んでよい。しかし、ワクチンが水銀性物質を実質的に含まない(すなわち、5μg/mL未満)、例えばチオマーサルフリーであることが好ましい[10、167]。水銀を含まないワクチンがより好ましい。保存剤を含まないワクチンが特に好ましい。
【0104】
浸透圧を調整するために、生理的塩、例えばナトリウム塩を加えるのが好ましい。塩化ナトリウム(NaCl)が好ましく、これは、1〜20mg/mLで存在していてよい。存在していてもよいその他の塩には、塩化カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二ナトリウム脱水物、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等が含まれる。
【0105】
組成物の重量オスモル濃度は通常、200mOsm/kg〜400mOsm/kg、好ましくは240〜360mOsm/kgとなり、より好ましくは290〜310mOsm/kgの範囲に含まれる。ワクチン接種に起因する痛みに重量オスモル濃度が影響を与えないことが報告されているが[168]、それでもやはり重量オスモル濃度をこの範囲にとどめるのが好ましい。
【0106】
組成物は、1つ以上のバッファーを含んでよい。一般的なバッファーには、リン酸バッファー、トリスバッファー、ホウ酸塩バッファー、コハク酸塩バッファー、ヒスチジンバッファー(特に水酸化アルミニウムアジュバントと使用する)、またはクエン酸バッファーが含まれる。バッファーは一般に5〜20mMの範囲で加えられる。
【0107】
組成物のpHは通常5.0〜8.1となり、より一般的には6.0〜8.0、例えば6.5〜7.5、7.0〜7.8である。したがって、本発明のプロセスは包装前にバルクワクチンのpHを調整する手順を含んでよい。
【0108】
組成物は好ましくは滅菌済みである。組成物は好ましくは非発熱性であり、例えば1用量当たり<1EU(エンドトキシンユニット、標準的な測定基準)、好ましくは1用量当たり<0.1EUを含有する。組成物は好ましくはグルテンを含まない。
【0109】
組成物は単回の免疫化用の材料を含んでよく、または複数回の免疫化用の材料を含んでもよい(すなわち、「複数回用量」キット)。複数回用量方式では保存剤の添加が好ましい。複数回用量用組成物に保存剤を加える代わりに(またはこれに加えて)、材料の取り出し用の無菌アダプターを備える容器に組成物が入れられてもよい。
【0110】
インフルエンザワクチンは、一般に約0.5mLの投薬量で投与されるが、半分の用量(すなわち約0.25mL)が小児(例、36ヶ月まで)に投与されてよい。
【0111】
組成物およびキットは、好ましくは2℃〜8℃で保存される。これらを凍結させてはいけない。直射日光避けて保存するのが理想的である。
【0112】
本発明のキット
本発明は、第1のおよび追加のインフルエンザワクチンからなるキットを含む。キットの1つの成分は第1のアジュバント添加ワクチンであり、キットのもう1つの成分は、アジュバントが任意で添加される追加のワクチンである。この2つの成分は、実質的に異なる時期に患者に投与されるため、別々の状態である。
【0113】
キットに含まれる個別のワクチンはそれぞれ使用準備完了状態であってもよいし、または送達時に用時調製してもよい。この用時調製方式によって、アジュバントと抗原とを使用時まで個別に保存でき、これは水中油型乳剤アジュバントを使用する場合、特に有用である。
【0114】
ワクチンが用時調製される場合、その成分はキット内において互いに物理的に分離されており、この分離は各種の方法で行うことができる。例えば、2つの成分は2つの別々の容器、例えばバイアルに入れられてもよい。その後、例えば1つのバイアルの内容物を取り出し、それをもう1つのバイアルに加えることによって、または両方のバイアルの内容物を別々に取り出して3つ目の容器中でそれらを混合することによって、この2つのバイアルの内容物が混合されてよい。好ましいアレンジでは、キットの成分の1つはシリンジに入っており、もう1つはバイアルのような容器に入っている。シリンジを、その内容物を2番目の容器に注入(例、針を使用して)して混合するのに使用し、次いで混合物をそのシリンジで吸い取ることができる。一般には新たな滅菌済みの注射針を使用して、シリンジ内の混合された内容物を患者に投与できる。1つの成分をシリンジに詰めておくことで、患者に投与する際に別のシリンジを使用する必要がなくなる。
【0115】
別の好ましいアレンジでは、ワクチンの2つの成分は、同一のシリンジ、例えば参考文献169〜176等で開示されているもののようなニ腔シリンジ内に一緒ではあるが別々に充填されている。シリンジを作動させると(例えば、患者への投与時)、2つのチャンバーの内容物が混合される。このアレンジによって、使用時の別の混合手順の必要がなくなる。
【0116】
ワクチンが用時調製される場合、その成分は通常水性形態である。いくつかのアレンジでは、成分(通常は、アジュバント成分ではなく抗原成分)は乾燥形態(例えば、凍結乾燥状態)であり、もう1つの成分は水性形態である。乾燥成分を再活性化し、患者への投与に使用する水性組成物を得るために2つの成分を混合できる。凍結乾燥成分は、一般的にシリンジではなくバイアル内に入れられる。乾燥成分は、ラクトース、スクロース、またはマンニトール、さらにはそれらの混合物、例えばラクトース/スクロース混合物、スクロース/マンニトール混合物等のような安定剤を含んでよい。1つの可能なアレンジは、プレフィルドシリンジに入った水性アジュバント成分とバイアルに入った凍結乾燥抗原成分を使用する。
【0117】
組成物またはキット成分の包装
本発明の組成物(またはキット成分)に適した容器には、バイアル、シリンジ(例えば、使い捨てシリンジ)、鼻腔用スプレー等が含まれる。これらの容器は滅菌済みでなくてはいけない。
【0118】
組成物/成分がバイアルに入っている場合、バイアルは好ましくはガラスまたはプラスチック製である。バイアルは、好ましくは組成物がその中に充填される前に滅菌される。ラテックスアレルギー患者の問題を避けるため、好ましくはラテックスを含まないストッパーでバイアルが密封され、すべての包装材料がラテックスを含まないことが好ましい。バイアルはワクチンの単回用量分を含んでよく、または2用量以上、例えば10用量を含んでよい(「複数回用量」バイアル)。好ましいバイアルは無色のガラス製である。
【0119】
プレフィルドシリンジをキャップに挿入し、シリンジの内容物をバイアルに注入し(例えば、その中に入っている凍結乾燥材料を再構成するため)、バイアルの内容物を吸い取ってシリンジ内に戻せるようにキャップ(例えば、Luerロック)が、バイアルに付いていてよい。バイアルからシリンジを抜いた後、注射針を取り付けて組成物を患者に投与できる。キャップは好ましくはシールまたはカバーの内側に位置し、シールまたはカバーを取り外さなければキャップに触ることができないようになっている。バイアル、特に複数回用量バイアルでは、その内容物を無菌で取り出せるようなキャップがつけられていてよい。
【0120】
組成物/成分がシリンジに充填されている場合、シリンジには注射針が取り付けられていてもよい。もし注射針が取り付けられていない場合、取り付けて使用できるように注射針が個別にシリンジとともに供給されてよい。このような針は外装で覆われてよい。安全針が好ましい。1インチ23ゲージ、1インチ25ゲージ、および5/8インチ25ゲージの針が一般的である。シリンジは、記録管理が容易になるように、内容物のロット番号、インフルエンザシーズン、および使用期限が印字されていてもよい剥離可能なラベルとともに提供されてよい。吸引の際に偶発的にプランジャーが外れるのを防ぐため、シリンジ内のプランジャーには好ましくはストッパーが付いている。シリンジはラテックスゴムのキャップおよび/またはプランジャーを備えていてよい。使い捨てシリンジは単回用量のワクチンを含有する。針を取り付ける前のシリンジには、通常先端を密封するための先端キャップが付いており、先端キャップは好ましくはブチルゴム製である。シリンジと針が個別に包装される場合は、好ましくは針にブチルゴムの保護材が取り付けられる。好ましいシリンジは、登録商標名「Tip‐Lok」(登録商標)として販売されているものである。
【0121】
小児への送達を容易にするため、半分の用量を示すマークが容器に表示されてよい。例えば、0.5mLの用量を含有するシリンジには、0.25mLの量を示す表示があってよい。
【0122】
ガラス製容器(例えば、シリンジまたはバイアル)が使用される場合、ソーダ石灰ガラスではなくホウケイ酸ガラス製の容器を使用するのが好ましい。
【0123】
キットまたは組成物は、ワクチンの詳細、例えば投与方法、ワクチンに含まれる抗原の詳細等を記載したリーフレットとともに包装されてよい(例えば、同じ箱に)。使用説明書は、例えばワクチン接種後にアナフィラキシー反応が発生した場合に備えて、アドレナリン溶液をすぐに使用できる環境を整える、等の警告事項も含んでよい。
【0124】
治療方法およびワクチンの投与
本発明の組成物はヒト患者への投与に適している。本発明にしたがって誘発される免疫反応は、通常は抗体反応、好ましくは防御性抗体反応を含む。インフルエンザウイルスワクチン接種後の抗体反応、中和能および防御を評価する方法は当該技術分野で周知である。ヒトを対象とした研究では、ヒトインフルエンザウイルスの赤血球凝集素に対する抗体力価は、防御と相関することが示されている(約30〜40の血球凝集阻害力価を持つ血清サンプルは、同種のウイルスによる感染をおよそ50%防御する)[177]。抗体反応は一般に、血球凝集反応の阻害、ミクロ中和反応、一元放射免疫拡散法(SRID)、および/または一元放射溶血試験(SRH)によって測定される。これらのアッセイ技術は当該技術分野で周知である。
【0125】
本発明の組成物は、様々な方法で投与できる。最も好ましい免疫化経路は、筋肉内注射(例えば、腕または脚)によるものであるが、その他の利用可能な経路には、皮下注射、鼻腔内[178〜180]、経口[181]、皮内[182、183]、経皮[184]等が含まれる。
【0126】
本発明のワクチンは、小児および成人の両方の治療に使用されてよい。インフルエンザワクチンは現在、生後6ヶ月から、小児および成人への免疫化への使用が推奨されている。そのため、患者は1歳未満、1〜5歳、5〜15歳、15〜55歳、または少なくとも55歳であってよい。ワクチン接種が好ましい患者は、高齢者(例、≧50歳、≧60歳、好ましくは≧65歳)、若年者(例、≦5歳)、入院患者、医療従事者、軍兵士、妊婦、慢性疾患患者、免疫不全患者、ワクチン接種の7日前に抗ウイルス化合物(例、オセルタミビルまたはザナミビル化合物、下記参照)を摂取した患者、鶏卵アレルギーのある者、および海外旅行者である。しかし、ワクチンはこれらのグループにのみ適しているわけではなく、集団内でより広く使用されてよい。パンデミック株は、全年齢群への投与が好ましい。
【0127】
本発明の好ましい組成物は、有効性に関するCPMP基準の1、2、または3つを満たす。成人(18〜60歳)におけるこれらの基準は、(1)≧70%の血清抗体保有、(2)≧40%の血清抗体陽転、および/または(3)≧2.5倍のGMT増加である。高齢者(>60歳)では、これらの基準は(1)≧60%の血清抗体保有、(2)≧30%の血清抗体陽転、および/または(3)≧2倍のGMT増加である。これらの基準は少なくとも50名の患者を対象とした非盲検試験に基づくものである。
【0128】
治療は複数回投与スケジュールによって行われる。上述のように、各種用量は一般に同一形態の抗原を使用し、少なくとも1つの共通の赤血球凝集素サブタイプを共有する。用量は、すべて非経口で、またはすべて経粘膜で与えられることが好ましい。用量は、一般に同一の投与経路、例えば同一の非経口経路、例えば筋肉内注射によって与えられる。
【0129】
複数回投与は、一般的に少なくとも1週間あけて(例えば、少なくとも約2週間、約3週間、約4週間、約6週間、約8週間、約10週間の間隔、約12週間、約16週間の間隔、等)与えられる。
【0130】
本発明の好ましい投薬レジメンは、2回投与レジメンである。通常の1回投与方式では、さらなる用量は一般に次のインフルエンザシーズンに投与されてよいが、本発明に従う1シーズン(例、単一の6ヶ月の期間または12ヶ月の期間内)における標準的な免疫化は2回投与を必要とする。抗原が余分に必要になるので、このレジメンにおいて余分の用量(例、3回または4回投与レジメン)は好ましくない。しかし、もし3つ目の用量がレジメンに加えられる場合、3つ目の用量は初回用量の繰り返し、次いでさらなる用量を投与するか、あるいはさらなる用量の繰り返しであってもよく、例えば、「アジュバント添加、アジュバント添加、アジュバント未添加」レジメン、または「アジュバント添加、アジュバント未添加、アジュバント未添加」レジメンであってよい。
【0131】
本発明によって作製されるワクチンは、その他のワクチンと実質的に同じ時期(例えば、同一の診療時、または医療専門家またはワクチン接種機関への訪問時)に、例えば麻疹ワクチン、流行性耳下腺炎ワクチン、風疹ワクチン、MMRワクチン、水痘ワクチン、MMRVワクチン、ジフテリアワクチン、破傷風ワクチン、百日咳ワクチン、DTPワクチン、インフルエンザ菌b型結合ワクチン、ポリオウイルス不活化ワクチン、B型肝炎ウイルスワクチン、髄膜炎菌結合ワクチン(例えば四価のA‐C‐W135‐Yワクチン)、呼吸器合胞体ウイルスワクチン、肺炎球菌結合ワクチン等と実質的に同じ時期に患者に投与されてよい。肺炎球菌ワクチンまたは髄膜炎菌ワクチンとの実質的な同時投与は、高齢患者において特に有用である。
【0132】
同様に、本発明のワクチンは抗ウイルス化合物、特にインフルエンザウイルスに対して活性を持つ抗ウイルス化合物(例、オセルタミビルおよび/またはザナミビル)と実質的に同じ時期に(例、同一の診察時または医療専門家訪問時に)患者に投与されてよい。これらの抗ウイルス薬には、ノイラミニダーゼ阻害薬、例えば(3R、4R、5S)‐4‐アセチルアミノ‐5‐アミノ‐3(1‐エチルプロポキシ)‐1‐シクロヘキサン‐1‐カルボン酸または5‐(アセチルアミノ)‐4‐[(アミノイミノメチル)‐アミノ]‐2,6‐アンヒドロ‐3,4,5‐トリデオキシ‐D‐グリセロ‐D‐ガラクトノン‐2‐エノン酸、ならびにこれらのエステル(例、エチルエステル)およびこれらの塩(例、リン酸塩)を含む。好ましい抗ウイルス薬は、リン酸オセルタミビル(TAMIFLU(登録商標))としても知られる、(3R、4R、5S)‐4‐アセチルアミノ‐5‐アミノ‐3(1‐エチルプロポキシ)‐1‐シクロヘキサン‐1‐カルボン酸、エチルエステル、リン酸塩(1:1)である。
【0133】
一般的事項
語句「有する」は、「含む」だけでなく「からなる」も包含し、例えばXを「有する」組成物はXのみで構成されていてもよいし、または追加の物質、例えばX+Yを含んでよい。
【0134】
語句「実質的に」は「完全に」を排除するものではなく、例えばYを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まなくてもよい。必要な場合は、語句「実質的に」は本発明の定義から削除されてよい。
【0135】
数値xに関する語句「約」は、例えばx±10%を意味する。
【0136】
特別な記載がない限り、2つ以上の成分を混合する手順を有するプロセスは、特定の混合順を必要としない。そのため、成分は任意の順番で混合され得る。3つの成分が存在する場合、2つの成分を互いに混合し、次いでその混合物を3つ目の成分と混合してもよい、等。
【0137】
動物(特にウシ)性物質が細胞培養に使用される場合、それらは感染性海綿状脳症(TSE)に罹患していない、特に牛海綿状脳症(BSE)に罹患していない動物源から入手しなくてはならない。全体として、動物由来の物質が完全に存在しない状態で細胞を培養するのが好ましい。
【0138】
組成物の一部として化合物が身体に投与される場合、その化合物は適切なプロドラッグで代用されてもよい。
【0139】
再集合または逆遺伝子の手順に細胞基質が使用される場合、Ph Eur general chapter 5.2.3に見られるように、ヒトのワクチン製造における使用が承認されているものが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】各種のインフルエンザワクチンを投与されたマウスにおける、抗HA IgG ELISA反応を示す。
【発明を実施するための形態】
【0141】
赤血球凝集素は鳥インフルエンザのH5N1株から調製され、1用量当たり0.2μg(1用量当たり50μl量)で筋肉内注射用に処方された。2つのワクチンが調製され、1つ目はアジュバント未添加のもの、2つ目は1:1の体積比でMF59乳剤がアジュバントとして添加されたものであった。ワクチンは、8週齢のメスのBalb/cマウス4グループに、0日目と28日目に投与された。14日目および42日目にマウスの血液を採取し、抗HA免疫反応をELISAで評価した。
【0142】
結果は以下の通りであった(図1も参照):
【0143】
【化13】

このように、アジュバントは、初回の免疫化後に反応を示すマウスの数を有意に増加させる(グループAとBを比較)。用量のいずれか、または両方にアジュバントを加えると、アジュバント未添加ワクチンの2回投与によって誘発される反応より有意に高い抗HA特異的抗体反応が誘発された(グループB、C、およびDをグループAと比較)。さらに、アジュバント添加ワクチンで準備免疫された動物は、アジュバント未添加ワクチンも打たれ、アジュバント未添加ワクチンで準備免疫し、アジュバント添加ワクチンを打たれるよりも高い力価が得られた(グループBとCを比較)。グループDと比べてグループBの絶対力価は低かったが、反応は十分過ぎるほどであった。そのため、2回投与レジメンの初回用量にのみアジュバントを使用することで、アジュバントのストックを保つことができる。
【0144】
本発明は一例として説明されたものに過ぎず、本発明の範囲と精神から逸脱しない範囲で改変が行われてもよいことが理解されるであろう。
【0145】
参考文献(これらの内容は、参考として本明細書に援用される)
【0146】
【化14】

【0147】
【化15】

【0148】
【化16】

【0149】
【化17】

【0150】
【化18】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザウイルス感染に対して患者を免疫化するための方法であって、該方法は、
(i)インフルエンザウイルスワクチンの用量を、第1のアジュバントとともに投与する工程と、
(ii)インフルエンザウイルスワクチンのさらなる用量を該アジュバントなしで投与する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記さらなる用量は初回用量と同じ経路で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記さらなる用量はアジュバント未添加である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記さらなる用量は、前記第1のアジュバントとは異なるアジュバントでアジュバント添加されている、請求項1または請求項2の方法。
【請求項5】
(i)第1のアジュバントと組み合わせた第1のインフルエンザウイルスワクチンと(ii)そのアジュバントを含まない第2のインフルエンザウイルスワクチンとを含む、キット。
【請求項6】
(i)第1のアジュバントと組み合わせた第1のインフルエンザウイルスワクチンと、(ii)該アジュバントを含まない第2のインフルエンザウイルスの、複数回投与用インフルエンザワクチンの製造における、使用。
【請求項7】
インフルエンザウイルス感染に対する患者の免疫化を達成するための方法であって、
該患者は以前に、第1のアジュバントと組み合わせた一定用量のインフルエンザウイルスワクチンを受けており、
該方法は、該アジュバントなしでインフルエンザウイルスワクチンのさらなる用量を該患者に投与する工程を含む、方法。
【請求項8】
前記さらなる用量は、以前の用量と同じ経路で投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
インフルエンザウイルス感染に対して患者を免疫化するための薬剤の製造におけるアジュバント未添加インフルエンザウイルスワクチンの使用であって、該患者は以前にアジュバント添加インフルエンザウイルスワクチンを受容している、使用。
【請求項10】
インフルエンザウイルス感染に対して患者を免疫化するための薬剤の製造における、第2のアジュバント添加インフルエンザウイルスワクチンの使用であって、該患者は以前に第1のアジュバント添加インフルエンザウイルスワクチンを受容しており、該第1および第2のインフルエンザウイルス中のアジュバントは同一ではないことを特徴とする、使用。
【請求項11】
前記ワクチンは、1ワクチン当たり、1株当たり15μg未満の赤血球凝集素を含む、請求項1〜10のいずれかに記載の方法、キット、または使用。
【請求項12】
前記インフルエンザワクチンは、H1、H2、H3、H5、H7、またはH9インフルエンザAウイルスサブタイプ由来のインフルエンザウイルス抗原を含む、請求項1〜11のいずれかに記載の方法、キット、または使用。
【請求項13】
前記第1のアジュバントは、水中油型乳剤を有する、請求項1〜12のいずれかに記載の方法、キット、または使用。

【図1】
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【公表番号】特表2009−539965(P2009−539965A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514931(P2009−514931)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【国際出願番号】PCT/IB2007/002724
【国際公開番号】WO2007/144772
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】