説明

アスベストの染色判別方法

【課題】空気中に浮遊するアスベスト繊維は極めて微少であることから、現状のアスベストの存在確認には費用と手間が掛かり、簡易で且つ迅速にオンサイトでアスベストの飛散の危険性がなく、アスベストの存在の有無を確認することが求められている。
【解決手段】日本で使用されているその殆どが、蛇紋岩系のクリソタイルと角閃石系のクロシドライト及びアモサイトの三種類であり、これらアスベスト構造中に含まれる金属であるMgもしくはFeを染料で選択的に染色し、アスベストを視覚的に確認できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベストを含む可能性のある材料もしくは大気中に含有する可能性のある雰囲気を錯化剤により化学反応を起させることでアスベストが存在するとき選択的に着色し、その着色の有無により、現場で簡易にアスベストの存在有無を確認する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスベストは物性的には天然繊維状の構造を持ち、組成的には含水珪酸鉱物である。かつて、その特性から耐火性、耐熱性、柔軟性、強度、耐薬品性、絶縁性に優れていることから「奇跡の鉱物」として、世の中で高い評価を得て、3000種類にも及ぶジャンルで使用されて来た。
【0003】
しかし、アスベスト繊維を体内に吸い込むことにより、じん肺の一種である石綿肺を引き起こすことがある。さらにはアスベストの特質である微少な繊維と化学的に安定していることにより、分解されずに体内に止まり、細胞等に刺激を与え続ける。結果として長期間の潜伏期間を経て、肺癌や中皮腫を引き起こすことになる。
近年わが国ではこのようなアスベストによる健康被害が多く知られるようになり、その対策が急務となっている。
【0004】
然しながら、その原因とされるアスベストの有無を簡易に判別する方法が現状ではなく、実際に行われている方法は、室内の空気を吸引し、その成分を分析し、数日以上かけて初めてアスベストの存在有無を確認しているのが現状である。
【0005】
また、大気中のアスベスト分析法として、浮遊中のアスベスト繊維を孔径0.8μmのメンブランフィルター(直径25mm,47mm)で捕集し、捕集したメンブランフィルターを透明にして、400倍の位相差顕微鏡を使用してアスベストの本数を計算する。メンブランフィルター全面に付着したアスベスト繊維数本を吸引した空気量で除してアスベスト粉塵濃度を求めると云った手法を用いており、技術的にも同確認が非常に困難である点が問題となっている。因みに、計数されるアスベスト繊維は、長さが5μm以上、幅(直径)3μm未満、アスペクト比3以上である。
【0006】
また、純品のアスベスト(クリソタイル)を構成する金属であるマグネシウムを有機性染料で錯体化することにより、化学的に修飾する技術も知られているが、これは無害化を目的としたものであり、マグネシウム以外も染色する可能性が高く、アスベストの存在有無を測定するには問題がある。
【特許文献1】CANADIAN PATENT 1,319,470
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
空気中に浮遊するアスベスト繊維は極めて微少であることから、現状のアスベストの存在確認には費用と多くの手間が掛かっている。このため、簡易で且つ迅速にオンサイトでアスベストの飛散の可能性がなくアスベストの存在の有無を確認することが求められており、これを解決する技術を提供することを主な課題をする。
【発明が解決するための手段】
【0008】
日本で使用されているアスベストの殆どが、蛇紋岩系のクリソタルChrysotile(白石綿)と角閃石系のクロシドライトCrocidelite(青石綿)及びAmosite(茶石綿)の三種類である。この中でクリソタイルは90%を占め、同アスベスト構造中に含まれる金属であるMgもしくは、その他のアスベストの主要金属であるFeを染料で選択的に染色し、アスベストを視覚的に確認できるようにする。
【0009】
より具体的には、本発明は大気中のアスベスト測定法であるメンブランフィルター法にアスベストの選択的染色技術を応用することにより、より簡易・迅速なアスベスト粉塵濃度測定技術を提供するもので、アスベスト中の金属、特にマグネシウムあるいは鉄に対する錯化剤を用いて、アスベストを選択的に着色することによってオンサイトで簡易・迅速にアスベストを探知するものである。
【0010】
このとき錯化剤によって繊維状物質に含まれる他の金属も着色されてしまう場合には、他金属に対するマスキング処理を予め施して、多金属とアスベスト着色用錯化剤との反応をブロックしておくものとする。
【0011】
以上のような検出方法により、本発明によれば、検体抽出を含め洗浄および染色やアスベストの存在確認のための写真撮影および画像解析を含めても、トータル作業時間として1時間程度で行うことが出来る。
【発明の効果】
【0012】
アスベストの存在有無の確認方法は、先に記載の通り、その存在有無を確認するのに技術的に困難な上、数日を要しているが、本発明によれば、検体に着色するだけの作業でアスベストの存在有無を確認できるので、安価で且つ簡易にアスベストの存在有無を確認することが出来る。
【0013】
またこの判別し難い、人体にとって有害なアスベストを染色することにより、作業員等に対し、注意を喚起できると同時に大気中に飛散を防止する効果も生じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
大気中の塵埃からアスベストを測定するに当たって、先ず大気中に浮遊するアスベストを吸引した物質を染料に浸漬して、発色するか否かを確認するものとし、発色した場合はデジタルカメラで表面を撮影し、コンピューターで画像処理して、その波長でアスベストを特定するものとする。
【実施例1】
【0015】
実環境での作業にあたり先ず純品アスベスト(クリソタイル)で着色を確認した。
これにはChrisotile(富良野市野沢部鉱山産、石綿・高純度)約0.1gを5g/lのEGTA(O,O’−Bis(2−aminoethyl)ethyleneglycol−N,N,N’,N’−tetraacetic acid、同人化学)とともにNaOH水(pH8)5ml中に室温で10分浸す(カルシウムに対するマスキング作業)。
次いで、純水で常温洗浄(ザブザブと浸けるのみ)、0.5g/lアスベスト着色用錯化剤(pH=2,6,9,12.5: HClと NaOHでpH調整した)溶液に室温で20分浸し、最後に純水で20分間煮沸洗浄して観察することにより確認を行った。
このときアスベスト着色用錯化剤としては、Alizarin,Bromocresol Purple,CBB R−250,Methyl Blue,Fuchsin Basic,Trypan Blue,Thiazol Yellow Gなどを用いた。
【0016】
この結果、純品アスベストの染色は、アスベスト着色用錯化剤の種類やpHによって着色状況を変化させることが出来た。
【0017】
本発明ではこの方法を活用し、アスベストもしくは大気中の塵埃に含まれる他の繊維状物質の元素の組成の違いに注目して錯化剤による着色を行うものである。最も多く使用されているアスベストであるクリソタイルの化学式はMgSi(OH)である。そこで、クリソタイル中に多量に存在するマグネシウムをターゲットとする錯化剤により錯体を形成させ、特異的に着色する技術を考えた。
【0018】
マグネシウムに対する錯化財は、ほぼ全種類においてその他金属とも錯体を形成する場合もある。そのため、マグネシウム錯化財によって他金属を含む他物質も同時に染色されてしまうことが多いので、直接アスベスト含有物質を探知するためには他金属が染色されないようにする必要がある。そこで、他金属と特異的に錯体を形成する試薬により予めマスキング処理を行う。他金属、と特異的に錯体を形成する試薬には、BAPTAなどいくつかあるが、ここではEGTAを一例として使用した。この方法が使用可能であるのは、着色用試薬と他金属の結合定数よりも他金属の特異的錯化剤と他金属の結合定数が大きい場合にのみ有効であることによる。
【0019】
各化学物質が何かに化学的に結合する強さを示す指標として先に説明の「結合定数」が用いられるが、この価が大きいものほどよく結合するので、アスベスト着色用錯化剤=A、マスキング用錯化剤=Bとすると、「他金属に対してはA<B」となる結合定数を持つものを用いると、他金属に対してはBが結合してAは結合しない。つまり、他金属はマスクされる。逆に「アスベスト中マグネシウムに対してはA>B」の結合定数を持つものを用いると、アスベスト中マグネシウムにはAが結合してBは結合しない。つまりは着色することになる。
【0020】
つまりは、この方法の原理は、錯化剤と金属の結合定数の違いを組み合わせたものである。この結果、アスベスト着色用錯化剤−他種金属間の結合定数よりも大きい結合定数を他種金属に対して持つ錯化剤ならば、他金属の特異的錯化剤の代替としても使用可能であることを意味する。
【0021】
これらのことから、大気中塵埃の他金属の特異的錯化剤による他金属のマスキング方法は、その他のアスベストであるアモサイト(茶石綿)(Fe,Mg)Si22(OH)とクロシドライトNa(Fe2+,Mg)Fe3+Si22(OH,F)にも用いられる。すなわち、これらアスベスト中の鉄と錯体を形成する着色用試薬を見出した場合にも、他種金属(カルシウム・アルミニウム)をマスキングしておけば、同様の方法で特異的着色を行うことができる。
【0022】
また、処理pHを中性のみでなく強アルカリ条件など様々に変化させることを試みたが、染料の呈色がpHにより変化すること及び塵埃中の金属の溶解・析出をコントロールすることによってアスベスト以外の物質に存在するターゲット金属と同じ種の金属の染色による測定ミスを無くすのに役立つことも判明している。
【実施例2】
【0023】
また、実施例1では大気中の塵埃を捕捉したメンブランフィルターをアスベスト着色用錯化剤で処理して、捕捉したクリソタイルを着色するものであるが、このとき、他種鉱物由来のマグネシウム含有微繊維が含まれる場合の方法として、アスベストの持つ強酸性・強アルカリ性を利用して他種鉱物由来繊維を前処理によって溶解させるなどの処置を行うとするものである。
【0024】
このときの手順としては▲1▼大気中の粉塵をメンブランフィルターで捕捉▲2▼強酸性・強アルカリ性を利用し他鉱物を溶かす▲3▼マスキング処理▲4▼錯化剤で着色そして撮像・解析の手順をふむこととなる。
【0022】
ここで用いる他鉱物を溶かす試薬としては、Mgをターゲットとする場合に本染色方法でひっかかってくる可能性がある他の鉱物繊維として、ロックウール・スラグウール・塩基性硫酸マグネシウムウィスカー・セピオライト・パリゴルスカイト・繊維状ブルーサイトといったものが上げられるが、これらを溶解させてクリソタイルは溶解させなければ良い訳であり、主として酢酸が用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中の塵埃をフィルターで捕集し、同塵埃に錯化剤を用いてアスベスト中の金属を染色することによるアスベストの染色判別方法。
【請求項2】
請求項1において錯化剤によって塵埃中のアスベスト以外の繊維状物質に含まれる他の金属も着色されてしまう場合には、他金属に対するマスキング処理を予め施して、他金属とアスベスト着色用錯化剤との反応をブロックすることによるアスベストの染色判別方法。