アスベスト飛散防止工法
【課題】タワーパーキング内に駐車車両を留めたままで、駐車車両の厳重なマスキングも必要としないアスベスト飛散防止工法を提供すること。
【解決手段】駐車車両格納空間内の駐車車両3に自動車カバー20を被せる工程と、自動車カバー20を被せる工程の完了後に駐車車両3の導電性部分を負の電荷で帯電させる帯電工程と、帯電工程の完了後にアスベストに対して負の電荷で帯電された飛散防止剤7を吹き付けるアスベスト飛散防止工程と、アスベスト飛散防止工程の完了後に駐車車両3の帯電を解除する帯電解除工程と、帯電解除工程の完了後に自動車カバー20を外す工程と、を含む工程を実施する。
【解決手段】駐車車両格納空間内の駐車車両3に自動車カバー20を被せる工程と、自動車カバー20を被せる工程の完了後に駐車車両3の導電性部分を負の電荷で帯電させる帯電工程と、帯電工程の完了後にアスベストに対して負の電荷で帯電された飛散防止剤7を吹き付けるアスベスト飛散防止工程と、アスベスト飛散防止工程の完了後に駐車車両3の帯電を解除する帯電解除工程と、帯電解除工程の完了後に自動車カバー20を外す工程と、を含む工程を実施する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト飛散防止工法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベストの人体への悪影響が問題視されている昨今の状況下において、たとえば特許文献1のように、アスベストの無害化に関する提案がなされている。特許文献1の技術では、アスベストが塗布された壁面などに液状の合成樹脂(以下では、これを飛散防止剤と称する)を吹き付けてアスベストに含浸させることにより、アスベストの飛散を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3920309号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アスベストの人体への悪影響が問題視される以前に建設されたタワーパーキングのほとんどでは、防火対策などの目的で、駐車車両の格納空間内の壁面にアスベストが塗布されている。このような場所において、上述した工法を適用しようとすれば、駐車車両への飛散防止剤の付着を防ぐため、いったん駐車車両を全てタワーパーキング外へ退去させ、その上で飛散防止剤の吹き付け作業を行わなければならない。しかしながら多数の駐車車両をタワーパーキング外へ退去させるためには、施工主側で広い代替駐車場を用意する必要がある。
【0005】
あるいは、タワーパーキング内の駐車車両を退去させることなく、タワーパーキング内の駐車車両の全てにマスキングを施し、飛散防止剤の付着を防ぐ方法も考えられる。しかしながら、この場合には、駐車車両の底部を含む細部についても厳重にマスキングを施す必要がある。このようなマスキングを実施するためには、作業者は、駐車車両の底部に潜り込みマスキングを施すなどの困難な作業を強いられる。特に、タワーパーキングでは、駐車車両は、1台ずつ駐車台に積載されており、この駐車台では、タイヤの位置が溝になってへこんでいる。このため駐車車両の底部の中央部付近のクリアランスはきわめて狭く、作業者は容易に入り込むことができない。さらに、タワーパーキングの最上部などでは、危険な高所作業を伴うことになる。
【0006】
このように、タワーパーキング内のアスベスト飛散防止処理を実施しようとする場合、実際に処理を行う前の事前準備がきわめて困難である。
【0007】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、タワーパーキング内に駐車車両を留めたままで、駐車車両の全体的なマスキングも必要としないアスベスト飛散防止工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアスベスト飛散防止工法は、タワーパーキングの駐車車両格納空間の内壁に塗布されたアスベストの飛散を防止するためのアスベスト飛散防止工法において、駐車車両格納空間内の駐車車両に自動車カバーを被せる工程と、自動車カバーを被せる工程の完了後に駐車車両の導電性部分を負の電荷で帯電させる帯電工程と、帯電工程の完了後にアスベストに対して負の電荷で帯電された液状の合成樹脂を吹き付けるアスベスト飛散防止工程と、アスベスト飛散防止工程の完了後に駐車車両の帯電を解除する帯電解除工程と、帯電解除工程の完了後に自動車カバーを外す工程と、を含むものである。
【0009】
また、本発明のアスベスト飛散防止工法は、自動車カバーを被せる工程に前後して、駐車車両のタイヤにタイヤカバーを被せる工程と、自動車カバーを外す工程に前後して、タイヤカバーを外す工程と、をさらに含むようにしてもよい。
【0010】
また、本発明のアスベスト飛散防止工法は、自動車カバーを導電性のものとし、自動車カバーについても駐車車両の導電性部分と同じく負の電荷で帯電させる自動車カバー帯電工程をさらに含むようにしてもよい。
【0011】
また、本発明のアスベスト飛散防止工法は、タイヤカバーを導電性のものとし、タイヤカバーについても駐車車両の導電性部分と同じく負の電荷で帯電させるタイヤカバー帯電工程をさらに含むようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、タワーパーキング内に駐車車両を留めたままで、駐車車両の全体的なマスキングも必要としないアスベスト飛散防止工法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】タワーパーキング内の駐車車両格納空間の概念を示す斜視図である。
【図2】タワーパーキング内の駐車車両格納空間の内壁に塗布されたアスベストの状態を示す図である。
【図3】飛散防止剤の吹き付け作業を説明する図である。
【図4】本発明の第一の実施の形態のアスベスト飛散防止工法の特徴を説明する図である。
【図5】本発明の第一の実施の形態の自動車カバー装着工程を説明する図である。
【図6】図5の自動車カバーの装着後の状態を示す図である。
【図7】図4の高圧電源装置の具体例を示す図である。
【図8】本発明の第一の実施の形態のアスベスト飛散防止工法の工程を示す流れ図である。
【図9】本発明の第二の実施の形態のタイヤカバー装着工程を説明するための図である。
【図10】図9のタイヤカバーをタイヤの接地部分(底部)側から見た図である。
【図11】本発明の第二の実施の形態のアスベスト飛散防止工法の工程を示す流れ図である。
【図12】本発明の第三の実施の形態のアスベスト飛散防止工法の特徴を説明する図である。
【図13】比較例として本発明の第一の実施の形態における自動車カバーへの飛散防止剤の付着の様子を示す図である。
【図14】本発明の第三の実施の形態のアスベスト飛散防止工法の効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
タワーパーキング1は、図1および図2に示すように、駐車車両格納空間2内に、駐車車両3が複数の駐車台4に積載されて格納されている。図1および図2では、タワーパーキング1の詳細な構成の図示は省略してあるが、複数の駐車台4は互いにチェーンなどで機械的に連結され、モータなどの動力によって駐車車両格納空間2内を循環するように移動できる。これにより駐車台4は、駐車場の管理者などによって指示された位置に移動できるようになっている。たとえば所定の駐車車両3が出庫する際には、その駐車車両3が積載されている駐車台4が入出庫口5(通常は最下部)まで移動することで、その駐車車両3が出庫可能な状態になる。また、図1および図2の例では、満車状態であるが、空きの駐車台4が在る場合には、その空きの駐車台4が入出庫口5に移動することにより新たな駐車車両3が入庫可能な状態になる。
【0015】
このようなタワーパーキング1では、駐車車両格納空間2の内壁に、図2に示すように、アスベスト6の層が形成されている。このアスベスト6は、人体への悪影響が問題視される以前に、防火対策などの目的で、タワーパーキング1の駐車車両格納空間2の内壁に塗布されたものである。
【0016】
一方、アスベスト6の人体への悪影響が問題視されている昨今の状況下では、図3に示すように、霧状の飛散防止剤7をアスベスト6に対して噴霧し、飛散防止剤7をアスベスト6に含浸させるアスベスト固定化処理が行われている。図3の例では、ノズル10、ポンプ11、飛散防止剤7が入った液体タンク12からなる噴霧機13を使用し、アスベスト6に飛散防止剤7を噴霧している。この際、アスベスト6は、正の電荷を帯びる性質があるため、飛散防止剤7は、負の電荷を帯びる性質のもの(たとえば液状の合成樹脂)を利用する。これにより飛散防止剤7は、アスベスト6に吸着されてアスベスト6の層の奥まで含浸する。
【0017】
(本発明の第一の実施の形態のアスベスト飛散防止工法について)
本発明の第一の実施の形態のアスベスト飛散防止工法について、図4〜図8を参照して説明する。第一の実施の形態のアスベスト飛散防止工法は、図4に示すように、駐車車両3に被せられる自動車カバー20と、高圧電源装置40とを用いる。図5および図6に示すように、自動車カバー20を駐車車両3に被せると、駐車車両3のボディの主要部については、飛散防止剤7が付着する可能性は無くなる。なお、自動車カバー20は、材質が電気的な絶縁体であるものを用いる。広く市販されている自動車カバーは、ビニール製、または化学繊維製などであり、その材質のほとんどが電気的な絶縁体であるので、それらを用いることができる。
【0018】
さらに、第一の実施の形態では、図4に示すように、自動車カバー20から、はみ出している駐車車両3の非導電性部分であるタイヤ30に、マスキング31を施す。なお、タイヤ30にマスキング31を施す際に、自動車カバー20が邪魔になることがあるため、実際の作業時には、先に、タイヤ30にマスキング31を施してから駐車車両3に自動車カバー20を被せることがよい。
【0019】
その後で、駐車車両3の導電性部分である金属製のボディおよび底部のフレーム構成部材などを負の電荷で帯電させる。駐車車両3の導電性部分を負の電荷で帯電させるためには、高圧電源装置40の負電極41を駐車車両3の導電性部分(たとえば車体を構成する金属製のフレーム構成部材)に接続し、高圧電源装置40の正電極42を駐車台4に接続する。なお、タワーパーキング1内の全ての駐車台4は、タワーパーキング1が建設された時点で、予め接地43が施されている。また、駐車車両3は、タイヤ30がゴム製(電気的な絶縁体)であるため、車体の負の電荷は駐車台4など他へは移動できない。これにより、駐車台4は0V(ボルト)の基準電位となり、駐車車両3の導電性部分は、負の電荷で帯電される。
【0020】
高圧電源装置40は、たとえば図7に示すような形態であり、たとえば10KV(キロボルト)〜60KVの電圧を出力するものである。また、このときの高圧電源装置40の出力電流値はたとえば数百マイクロアンペア程度である。すなわち高圧電源装置40は、高電圧であるが低電流であり、静電気に相当する電圧を発生させるものである。図7の例では、電源スイッチ(ON−OFF)、電圧計(10KVを表示)、電圧値選択スイッチ(HIGH−LOW)を有する。また、負電極41および正電極42として、ワニ口クリップを備えている。
【0021】
また、高圧電源装置40は、安全対策として、負電極41と正電極42とが短絡すると直ちに出力が停止されるようになっている。たとえば不図示の作業者が作業中に誤って駐車車両3の導電性部分に触れると、作業者の身体を伝わって駐車車両3の導電性部分から接地電位に微弱な電流が流れるため、高圧電源装置40は、この状態を負電極41と正電極42とが短絡した状態であると判断して出力を停止させる。
【0022】
本発明の第一の実施の形態のアスベスト飛散防止工法の工程を図8に示す。
工程1:駐車車両3のタイヤ30にマスキング31を施す。
工程2:駐車車両3に自動車カバー20を被せる。
工程3:駐車車両3の導電性部分を負の電荷で帯電させる。
工程4:アスベスト6に対して飛散防止剤7を吹き付ける。
工程5:駐車車両3の導電性部分の帯電を解除する。
工程6:駐車車両3から自動車カバー20を外す。
工程7:駐車車両3からタイヤ30のマスキング31を外す。
なお、工程1と工程2、および工程6と工程7は、その順序を入れ替えてもよい。
【0023】
(効果について)
第一の実施の形態のアスベスト飛散防止工法によれば、駐車車両3の導電性部分を負の電荷で帯電させることにより、同じく負の電荷で帯電する飛散防止剤7は、駐車車両3の導電性部分の負の電荷と反発する。これにより、飛散防止剤7は、駐車車両3の導電性部分には付着しない。
【0024】
たとえば、自動車カバー20を被せることができない駐車車両3の底部は、金属製のフレーム構成部材など、ほとんどが導電性部分であり、負の電荷による帯電によって、飛散防止剤7を反発させることができる。特に、駐車車両3の底部は、基準電位である駐車台4との距離が近いため、駐車車両3のボディ上部などに比べて電界分布の密度が高く、いっそう強く飛散防止剤7を反発させることができる。これにより駐車車両3の底部を含む細部に対し、厳重なマスキングを施す工程は省略することができる。
【0025】
これによれば、作業者は、アスベスト飛散防止処理を実施するのに先立って行う作業として、駐車車両3に自動車カバー20を被せた後、タイヤ30にマスキング31を施し、高圧電源装置40の負電極41および正電極42をそれぞれ駐車車両3の導電性部分および駐車台4に接続するだけでよい。これにより、アスベスト飛散防止処理を実施するのに先立って行われる作業の手間を少なくすることができる。
【0026】
このようにしてタワーパーキング1内の駐車車両3を退去させる必要が無く、また、駐車車両3の全体にマスキングを施すこと無く、タワーパーキング1内のアスベスト6の飛散防止の処理を実施することができる。たとえば図1および図2の例のように、タワーパーキング1が満車状態であってもタワーパーキング1内のアスベスト6の飛散防止の処理を実施することができる。
【0027】
さらに、駐車車両3に自動車カバー20を被せることにより、駐車車両3のボディの主要部については、負の電荷の帯電の有無に依らず、飛散防止剤7が付着する可能性は無くなる。たとえば飛散防止剤7の塗布作業の途中で、不測の事態により高圧電源装置40の出力が停止したような場合でも飛散防止剤7が駐車車両3のボディの主要部に付着することはない。これによれば、アスベスト飛散防止作業をさらに安全に行うことができる。なお、ここでいう不測の事態とは、たとえば作業者が誤って駐車車両3の導電性部分に触れて高圧電源装置40を短絡させた場合などである。
【0028】
さらに、自動車カバー20の材質が電気的な絶縁体であるため、作業者と駐車車両3との間には電気的な絶縁体である自動車カバー20が介在することになる。これによれば作業者が誤って駐車車両3に触れることが無くなり、高圧電源装置40が短絡を検出して出力を停止する事態を回避できる。
【0029】
また、図4では1台の駐車車両3および駐車台4に対して1台の高圧電源装置40を図示したが、消費電力が微弱であるため、複数台(たとえば十数台)の駐車車両3および駐車台4に対して1台の高圧電源装置40を接続して用いることができる。これにより高圧電源装置40を効率良く利用して工費および設備投資を低減させることができる。
【0030】
(本発明の第二の実施の形態のアスベスト飛散防止工法について)
本発明の第二の実施の形態のアスベスト飛散防止工法について、図9、図10、および図11を参照して説明する。第二の実施の形態のアスベスト飛散防止工法は、図9および図10に示すように、駐車車両3のタイヤ30に対してタイヤカバー60を被せる工程をさらに有する。
【0031】
タイヤカバー60は、タイヤ30の直径よりも少し大きい直径を有し、タイヤ30を覆うことができる。なお、図10に示すように、タイヤカバー60の下部には、切り欠き部61を設けておき、タイヤ30にタイヤカバー60を装着するときに、この切り欠き部61がタイヤ30の接地部分を避けるようにする。これによれば、タイヤ30を持ち上げることなく、タイヤカバー60をタイヤ30の露出部分に被せることができる。あるいは、タイヤカバー60が柔軟なゴム製であれば、特に切り欠き部61を設けなくてもタイヤ30の接地部分ではタイヤカバー60が撓むのでタイヤ30を持ち上げることなく、タイヤカバー61をタイヤ30の露出部分に被せることができる。タイヤカバー60の材質としては、上述したゴム製の他にも、たとえばプラスチックまたは薄いアルミ板などでもよい。ただし、タイヤカバー60の材質をアルミ板などの導電性の材質とした場合には、タイヤカバー60を伝わって駐車車両3の導電性部分(たとえば車軸部分)と駐車台4とが誤って電気的に接続されないように配慮する必要がある。
【0032】
本発明の第二の実施の形態のアスベスト飛散防止工法の工程を図11に示す。
【0033】
工程10:駐車車両3に自動車カバー20を被せる。
工程11:駐車車両3のタイヤ30にタイヤカバー60を被せる。
工程12:駐車車両3の導電性部分を負の電荷で帯電させる。
工程13:アスベスト6に対して飛散防止剤7を吹き付ける。
工程14:駐車車両3の導電性部分の帯電を解除する。
工程15:駐車車両3のタイヤ30からタイヤカバー60を外す。
工程16:駐車車両3の自動車カバー20を外す。
なお、工程10と工程11、および工程15と工程16は、その順序が入れ替わってもよい。
【0034】
(効果について)
本発明の第二の実施の形態のアスベスト飛散防止工法によれば、ゴム製(電気的な絶縁体)であることによって帯電しないタイヤ30に対する飛散防止剤7の付着をタイヤカバー60によって防ぐことができる。これによりタイヤ30のマスキング31を省略できる。上述したように、タイヤカバー60をゴム、プラスチック、または薄いアルミ板などで形成することにより、タイヤカバー60は、柔軟性を有し、タイヤ30への着脱の際の作業性が良く、また、耐久性についても満足するものが得られる。
【0035】
(本発明の第三の実施の形態のアスベスト飛散防止工法について)
本発明の第三の実施の形態のアスベスト飛散防止工法について、図12を参照して説明する。なお、図12では、高圧電源装置40、負電極41、正電極42、および接地43の図示は省略してあるが、これらは図4と同じである。第三の実施の形態のアスベスト飛散防止工法は、図12に示すように、自動車カバー20Aについても負の電荷で帯電させている。なお、タイヤ30には、タイヤカバー60を被せているが、これはマスキング31に代えてもよい。
【0036】
自動車カバー20Aを負の電荷で帯電させるには、自動車カバー20Aを導電性の材質(たとえばアルミ箔、カーボン繊維、または導電性ゴムなど)で形成し、駐車車両3の導電性部分と導電性の自動車カバー20Aとを電気的に接続する。このとき駐車車両3の導電性部分と導電性の自動車カバー20Aとを電気的に接続するためには、たとえば駐車車両3の導電性部分の一部と自動車カバー20Aの内側の一部とが密着するようにする。駐車車両3の導電性部分の一部と自動車カバー20Aの内側の一部とを密着させるには、たとえば自動車カバー20Aの上にマグネットを置き、このマグネットが自動車カバー20Aを介して駐車車両3のボディに吸い付くようにする。あるいは、自動車カバー20Aに電線の一端を接続し、この電線の他端にはワニ口クリップなどを設け、このワニ口クリップで駐車車両3の導電性部分を挟むことにより、自動車カバー20Aと駐車車両3の導電性部分とを電気的に接続してもよい。また、このようなワニ口クリップ付きの電線を1つの自動車カバー20Aに複数設けてもよい。
【0037】
図12では、駐車車両3の導電性部分と自動車カバー20Aとの接続状態を、抵抗rが駐車車両3の導電性部分と自動車カバー20Aとの間に挿入されたように等価的に図示してある。これによれば、自動車カバー20Aと駐車車両3の導電性部分とが電気的に一体化され、自動車カバー20Aについても駐車車両3の導電性部分と同様に、負の電荷で帯電される。なお、抵抗rの抵抗値は、ほぼ0Ω(オーム)とすることが好ましいが、自動車カバー20Aと駐車車両3の導電性部分とが電気的に一体化されるのであれば抵抗rの値についてはどのような値であってもよい。
【0038】
(効果について)
本発明の第三の実施の形態のアスベスト飛散防止工法によれば、自動車カバー20Aについても負の電荷で帯電されている。これにより自動車カバー20A自体が負の電荷に帯電している飛散防止剤7を反発させることができる。第三の実施の形態の効果について、さらに図13および図14を参照して説明する。
【0039】
図13は、比較例として、第一の実施に形態における自動車カバー20に対する飛散防止剤7の付着の様子を示している。第一の実施の形態では、駐車車両3の導電性部分は負の電荷で帯電しているが、自動車カバー20については、その材質が電気的な絶縁体(非導電性)であるので帯電していない。ここで駐車車両3の負の電荷による飛散防止剤7に対する反発力は、駐車車両3の車体表面と飛散防止剤7の霧の粒子との距離の二乗に反比例して減衰する。よって、駐車車両3の負の電荷によって飛散防止剤7を反発可能な距離は、駐車車両3の車体表面から数センチ〜十数センチ程度である。図13の例では、駐車車両3の車体の表面と自動車カバー20の裏面との間に空間があり、自動車カバー20の表面までは、駐車車両3の負の電荷による反発力が及んでいない。これにより、飛散防止剤7は、一点鎖線で示すように、自動車カバー20に付着する。なお、一点鎖線から続く破線は、自動車カバー20が無い場合の飛散防止剤7の反発経路である。
【0040】
一方、図14は、第三の実施の形態における自動車カバー20Aに対する飛散防止剤7の様子を示している。第四の実施の形態では、自動車カバー20Aについても負の電荷で帯電しているので、自動車カバー20Aの表面から数センチ〜十数センチ程度であれば、飛散防止剤7を反発可能である。これにより、駐車車両3の車体表面と自動車カバー20Aの裏面との間に空間があっても、飛散防止剤7は、自動車カバー20Aには付着しない。
【0041】
このようにして、自動車カバー20Aへの飛散防止剤7の付着を防ぐことができる。これによれば、たとえば自動車カバー20Aを使い捨てすることなく、複数回再利用することができる。
【0042】
(その他の実施の形態)
上述した実施の形態は、その要旨を逸脱しない限り様々に変更が可能である。たとえば第三の実施の形態において、タイヤカバー60についても導電性の材質(導電性ゴム、カーボン繊維、アルミ板など)により形成し、駐車車両3の導電性部分および自動車カバー20Aと電気的に接続することにより、負の電荷で帯電させるようにしてもよい。これによりタイヤカバー60についても負の電荷で飛散防止剤7を反発させることができ、タイヤカバー60を複数回再利用することができる。
【0043】
なお、タイヤカバー60を、駐車車両3の導電性部分および自動車カバー20Aと電気的に接続するには、たとえば自動車カバー20Aの一部がタイヤカバー60として形成されるように、自動車カバー20Aとタイヤカバー60とを一体に形成してもよい。あるいは、自動車カバー20Aの一部とタイヤカバー60の一部とが密着するように、自動車カバー20Aの一部をタイヤカバー60の一部にクリップなどでとめるようにしてもよい。あるいは、自動車カバー20Aまたはタイヤカバー60のいずれかに電線の一端を接続し、この電線の他端にはワニ口クリップなどを設け、このワニ口クリップでタイヤカバー60または自動車カバー20Aを挟むことにより、自動車カバー20Aとタイヤカバー60とを電気的に接続してもよい。この場合、タイヤカバー60が駐車台4と電気的に接続されないようにすることが必要である。たとえばタイヤカバー60が駐車台4と接する裾の部分については、非導電性の材質にするなどとすることがよい。
【0044】
また、上述した工程は、その組み合わせを様々に変更してもよい。たとえば駐車車両3に自動車カバー20または20Aを被せるだけでタイヤ30についてはマスキング31またはタイヤカバー60を被せないようにして作業工程の短縮を図ってもよい。
【0045】
また、タイヤ30にマスキング31を施す場合、タイヤ30の裏面およびタイヤ30の接地する部分についてはマスキング31を省略して作業工程の短縮を図ってもよい。また、タイヤカバー60についてもタイヤ30の裏面および接地する部分については覆わないような形状としてタイヤカバー60の簡素化および作業工程の短縮を図ってもよい。
【0046】
また、自動車カバー20,20Aを用いなくても駐車車両3のボディは導電性であり、負の電荷で帯電しているので、飛散防止剤7を反発できる。したがって、自動車カバー20,20Aを用いずに、非導電性部分であるガラス面についてだけマスキングを施してもよい。これによればガラス面だけの小さな面積のマスキングにより自動車カバー20,20Aの使用を省き、工費の節約を図ることができる。
【符号の説明】
【0047】
1…タワーパーキング、2…駐車車両格納空間、3…駐車車両、4…駐車台、6…アスベスト、7…飛散防止剤、20、20A…自動車カバー、30…タイヤ、40…高圧電源装置、41…負電極、42…正電極、60…タイヤカバー
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト飛散防止工法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベストの人体への悪影響が問題視されている昨今の状況下において、たとえば特許文献1のように、アスベストの無害化に関する提案がなされている。特許文献1の技術では、アスベストが塗布された壁面などに液状の合成樹脂(以下では、これを飛散防止剤と称する)を吹き付けてアスベストに含浸させることにより、アスベストの飛散を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3920309号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アスベストの人体への悪影響が問題視される以前に建設されたタワーパーキングのほとんどでは、防火対策などの目的で、駐車車両の格納空間内の壁面にアスベストが塗布されている。このような場所において、上述した工法を適用しようとすれば、駐車車両への飛散防止剤の付着を防ぐため、いったん駐車車両を全てタワーパーキング外へ退去させ、その上で飛散防止剤の吹き付け作業を行わなければならない。しかしながら多数の駐車車両をタワーパーキング外へ退去させるためには、施工主側で広い代替駐車場を用意する必要がある。
【0005】
あるいは、タワーパーキング内の駐車車両を退去させることなく、タワーパーキング内の駐車車両の全てにマスキングを施し、飛散防止剤の付着を防ぐ方法も考えられる。しかしながら、この場合には、駐車車両の底部を含む細部についても厳重にマスキングを施す必要がある。このようなマスキングを実施するためには、作業者は、駐車車両の底部に潜り込みマスキングを施すなどの困難な作業を強いられる。特に、タワーパーキングでは、駐車車両は、1台ずつ駐車台に積載されており、この駐車台では、タイヤの位置が溝になってへこんでいる。このため駐車車両の底部の中央部付近のクリアランスはきわめて狭く、作業者は容易に入り込むことができない。さらに、タワーパーキングの最上部などでは、危険な高所作業を伴うことになる。
【0006】
このように、タワーパーキング内のアスベスト飛散防止処理を実施しようとする場合、実際に処理を行う前の事前準備がきわめて困難である。
【0007】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、タワーパーキング内に駐車車両を留めたままで、駐車車両の全体的なマスキングも必要としないアスベスト飛散防止工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアスベスト飛散防止工法は、タワーパーキングの駐車車両格納空間の内壁に塗布されたアスベストの飛散を防止するためのアスベスト飛散防止工法において、駐車車両格納空間内の駐車車両に自動車カバーを被せる工程と、自動車カバーを被せる工程の完了後に駐車車両の導電性部分を負の電荷で帯電させる帯電工程と、帯電工程の完了後にアスベストに対して負の電荷で帯電された液状の合成樹脂を吹き付けるアスベスト飛散防止工程と、アスベスト飛散防止工程の完了後に駐車車両の帯電を解除する帯電解除工程と、帯電解除工程の完了後に自動車カバーを外す工程と、を含むものである。
【0009】
また、本発明のアスベスト飛散防止工法は、自動車カバーを被せる工程に前後して、駐車車両のタイヤにタイヤカバーを被せる工程と、自動車カバーを外す工程に前後して、タイヤカバーを外す工程と、をさらに含むようにしてもよい。
【0010】
また、本発明のアスベスト飛散防止工法は、自動車カバーを導電性のものとし、自動車カバーについても駐車車両の導電性部分と同じく負の電荷で帯電させる自動車カバー帯電工程をさらに含むようにしてもよい。
【0011】
また、本発明のアスベスト飛散防止工法は、タイヤカバーを導電性のものとし、タイヤカバーについても駐車車両の導電性部分と同じく負の電荷で帯電させるタイヤカバー帯電工程をさらに含むようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、タワーパーキング内に駐車車両を留めたままで、駐車車両の全体的なマスキングも必要としないアスベスト飛散防止工法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】タワーパーキング内の駐車車両格納空間の概念を示す斜視図である。
【図2】タワーパーキング内の駐車車両格納空間の内壁に塗布されたアスベストの状態を示す図である。
【図3】飛散防止剤の吹き付け作業を説明する図である。
【図4】本発明の第一の実施の形態のアスベスト飛散防止工法の特徴を説明する図である。
【図5】本発明の第一の実施の形態の自動車カバー装着工程を説明する図である。
【図6】図5の自動車カバーの装着後の状態を示す図である。
【図7】図4の高圧電源装置の具体例を示す図である。
【図8】本発明の第一の実施の形態のアスベスト飛散防止工法の工程を示す流れ図である。
【図9】本発明の第二の実施の形態のタイヤカバー装着工程を説明するための図である。
【図10】図9のタイヤカバーをタイヤの接地部分(底部)側から見た図である。
【図11】本発明の第二の実施の形態のアスベスト飛散防止工法の工程を示す流れ図である。
【図12】本発明の第三の実施の形態のアスベスト飛散防止工法の特徴を説明する図である。
【図13】比較例として本発明の第一の実施の形態における自動車カバーへの飛散防止剤の付着の様子を示す図である。
【図14】本発明の第三の実施の形態のアスベスト飛散防止工法の効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
タワーパーキング1は、図1および図2に示すように、駐車車両格納空間2内に、駐車車両3が複数の駐車台4に積載されて格納されている。図1および図2では、タワーパーキング1の詳細な構成の図示は省略してあるが、複数の駐車台4は互いにチェーンなどで機械的に連結され、モータなどの動力によって駐車車両格納空間2内を循環するように移動できる。これにより駐車台4は、駐車場の管理者などによって指示された位置に移動できるようになっている。たとえば所定の駐車車両3が出庫する際には、その駐車車両3が積載されている駐車台4が入出庫口5(通常は最下部)まで移動することで、その駐車車両3が出庫可能な状態になる。また、図1および図2の例では、満車状態であるが、空きの駐車台4が在る場合には、その空きの駐車台4が入出庫口5に移動することにより新たな駐車車両3が入庫可能な状態になる。
【0015】
このようなタワーパーキング1では、駐車車両格納空間2の内壁に、図2に示すように、アスベスト6の層が形成されている。このアスベスト6は、人体への悪影響が問題視される以前に、防火対策などの目的で、タワーパーキング1の駐車車両格納空間2の内壁に塗布されたものである。
【0016】
一方、アスベスト6の人体への悪影響が問題視されている昨今の状況下では、図3に示すように、霧状の飛散防止剤7をアスベスト6に対して噴霧し、飛散防止剤7をアスベスト6に含浸させるアスベスト固定化処理が行われている。図3の例では、ノズル10、ポンプ11、飛散防止剤7が入った液体タンク12からなる噴霧機13を使用し、アスベスト6に飛散防止剤7を噴霧している。この際、アスベスト6は、正の電荷を帯びる性質があるため、飛散防止剤7は、負の電荷を帯びる性質のもの(たとえば液状の合成樹脂)を利用する。これにより飛散防止剤7は、アスベスト6に吸着されてアスベスト6の層の奥まで含浸する。
【0017】
(本発明の第一の実施の形態のアスベスト飛散防止工法について)
本発明の第一の実施の形態のアスベスト飛散防止工法について、図4〜図8を参照して説明する。第一の実施の形態のアスベスト飛散防止工法は、図4に示すように、駐車車両3に被せられる自動車カバー20と、高圧電源装置40とを用いる。図5および図6に示すように、自動車カバー20を駐車車両3に被せると、駐車車両3のボディの主要部については、飛散防止剤7が付着する可能性は無くなる。なお、自動車カバー20は、材質が電気的な絶縁体であるものを用いる。広く市販されている自動車カバーは、ビニール製、または化学繊維製などであり、その材質のほとんどが電気的な絶縁体であるので、それらを用いることができる。
【0018】
さらに、第一の実施の形態では、図4に示すように、自動車カバー20から、はみ出している駐車車両3の非導電性部分であるタイヤ30に、マスキング31を施す。なお、タイヤ30にマスキング31を施す際に、自動車カバー20が邪魔になることがあるため、実際の作業時には、先に、タイヤ30にマスキング31を施してから駐車車両3に自動車カバー20を被せることがよい。
【0019】
その後で、駐車車両3の導電性部分である金属製のボディおよび底部のフレーム構成部材などを負の電荷で帯電させる。駐車車両3の導電性部分を負の電荷で帯電させるためには、高圧電源装置40の負電極41を駐車車両3の導電性部分(たとえば車体を構成する金属製のフレーム構成部材)に接続し、高圧電源装置40の正電極42を駐車台4に接続する。なお、タワーパーキング1内の全ての駐車台4は、タワーパーキング1が建設された時点で、予め接地43が施されている。また、駐車車両3は、タイヤ30がゴム製(電気的な絶縁体)であるため、車体の負の電荷は駐車台4など他へは移動できない。これにより、駐車台4は0V(ボルト)の基準電位となり、駐車車両3の導電性部分は、負の電荷で帯電される。
【0020】
高圧電源装置40は、たとえば図7に示すような形態であり、たとえば10KV(キロボルト)〜60KVの電圧を出力するものである。また、このときの高圧電源装置40の出力電流値はたとえば数百マイクロアンペア程度である。すなわち高圧電源装置40は、高電圧であるが低電流であり、静電気に相当する電圧を発生させるものである。図7の例では、電源スイッチ(ON−OFF)、電圧計(10KVを表示)、電圧値選択スイッチ(HIGH−LOW)を有する。また、負電極41および正電極42として、ワニ口クリップを備えている。
【0021】
また、高圧電源装置40は、安全対策として、負電極41と正電極42とが短絡すると直ちに出力が停止されるようになっている。たとえば不図示の作業者が作業中に誤って駐車車両3の導電性部分に触れると、作業者の身体を伝わって駐車車両3の導電性部分から接地電位に微弱な電流が流れるため、高圧電源装置40は、この状態を負電極41と正電極42とが短絡した状態であると判断して出力を停止させる。
【0022】
本発明の第一の実施の形態のアスベスト飛散防止工法の工程を図8に示す。
工程1:駐車車両3のタイヤ30にマスキング31を施す。
工程2:駐車車両3に自動車カバー20を被せる。
工程3:駐車車両3の導電性部分を負の電荷で帯電させる。
工程4:アスベスト6に対して飛散防止剤7を吹き付ける。
工程5:駐車車両3の導電性部分の帯電を解除する。
工程6:駐車車両3から自動車カバー20を外す。
工程7:駐車車両3からタイヤ30のマスキング31を外す。
なお、工程1と工程2、および工程6と工程7は、その順序を入れ替えてもよい。
【0023】
(効果について)
第一の実施の形態のアスベスト飛散防止工法によれば、駐車車両3の導電性部分を負の電荷で帯電させることにより、同じく負の電荷で帯電する飛散防止剤7は、駐車車両3の導電性部分の負の電荷と反発する。これにより、飛散防止剤7は、駐車車両3の導電性部分には付着しない。
【0024】
たとえば、自動車カバー20を被せることができない駐車車両3の底部は、金属製のフレーム構成部材など、ほとんどが導電性部分であり、負の電荷による帯電によって、飛散防止剤7を反発させることができる。特に、駐車車両3の底部は、基準電位である駐車台4との距離が近いため、駐車車両3のボディ上部などに比べて電界分布の密度が高く、いっそう強く飛散防止剤7を反発させることができる。これにより駐車車両3の底部を含む細部に対し、厳重なマスキングを施す工程は省略することができる。
【0025】
これによれば、作業者は、アスベスト飛散防止処理を実施するのに先立って行う作業として、駐車車両3に自動車カバー20を被せた後、タイヤ30にマスキング31を施し、高圧電源装置40の負電極41および正電極42をそれぞれ駐車車両3の導電性部分および駐車台4に接続するだけでよい。これにより、アスベスト飛散防止処理を実施するのに先立って行われる作業の手間を少なくすることができる。
【0026】
このようにしてタワーパーキング1内の駐車車両3を退去させる必要が無く、また、駐車車両3の全体にマスキングを施すこと無く、タワーパーキング1内のアスベスト6の飛散防止の処理を実施することができる。たとえば図1および図2の例のように、タワーパーキング1が満車状態であってもタワーパーキング1内のアスベスト6の飛散防止の処理を実施することができる。
【0027】
さらに、駐車車両3に自動車カバー20を被せることにより、駐車車両3のボディの主要部については、負の電荷の帯電の有無に依らず、飛散防止剤7が付着する可能性は無くなる。たとえば飛散防止剤7の塗布作業の途中で、不測の事態により高圧電源装置40の出力が停止したような場合でも飛散防止剤7が駐車車両3のボディの主要部に付着することはない。これによれば、アスベスト飛散防止作業をさらに安全に行うことができる。なお、ここでいう不測の事態とは、たとえば作業者が誤って駐車車両3の導電性部分に触れて高圧電源装置40を短絡させた場合などである。
【0028】
さらに、自動車カバー20の材質が電気的な絶縁体であるため、作業者と駐車車両3との間には電気的な絶縁体である自動車カバー20が介在することになる。これによれば作業者が誤って駐車車両3に触れることが無くなり、高圧電源装置40が短絡を検出して出力を停止する事態を回避できる。
【0029】
また、図4では1台の駐車車両3および駐車台4に対して1台の高圧電源装置40を図示したが、消費電力が微弱であるため、複数台(たとえば十数台)の駐車車両3および駐車台4に対して1台の高圧電源装置40を接続して用いることができる。これにより高圧電源装置40を効率良く利用して工費および設備投資を低減させることができる。
【0030】
(本発明の第二の実施の形態のアスベスト飛散防止工法について)
本発明の第二の実施の形態のアスベスト飛散防止工法について、図9、図10、および図11を参照して説明する。第二の実施の形態のアスベスト飛散防止工法は、図9および図10に示すように、駐車車両3のタイヤ30に対してタイヤカバー60を被せる工程をさらに有する。
【0031】
タイヤカバー60は、タイヤ30の直径よりも少し大きい直径を有し、タイヤ30を覆うことができる。なお、図10に示すように、タイヤカバー60の下部には、切り欠き部61を設けておき、タイヤ30にタイヤカバー60を装着するときに、この切り欠き部61がタイヤ30の接地部分を避けるようにする。これによれば、タイヤ30を持ち上げることなく、タイヤカバー60をタイヤ30の露出部分に被せることができる。あるいは、タイヤカバー60が柔軟なゴム製であれば、特に切り欠き部61を設けなくてもタイヤ30の接地部分ではタイヤカバー60が撓むのでタイヤ30を持ち上げることなく、タイヤカバー61をタイヤ30の露出部分に被せることができる。タイヤカバー60の材質としては、上述したゴム製の他にも、たとえばプラスチックまたは薄いアルミ板などでもよい。ただし、タイヤカバー60の材質をアルミ板などの導電性の材質とした場合には、タイヤカバー60を伝わって駐車車両3の導電性部分(たとえば車軸部分)と駐車台4とが誤って電気的に接続されないように配慮する必要がある。
【0032】
本発明の第二の実施の形態のアスベスト飛散防止工法の工程を図11に示す。
【0033】
工程10:駐車車両3に自動車カバー20を被せる。
工程11:駐車車両3のタイヤ30にタイヤカバー60を被せる。
工程12:駐車車両3の導電性部分を負の電荷で帯電させる。
工程13:アスベスト6に対して飛散防止剤7を吹き付ける。
工程14:駐車車両3の導電性部分の帯電を解除する。
工程15:駐車車両3のタイヤ30からタイヤカバー60を外す。
工程16:駐車車両3の自動車カバー20を外す。
なお、工程10と工程11、および工程15と工程16は、その順序が入れ替わってもよい。
【0034】
(効果について)
本発明の第二の実施の形態のアスベスト飛散防止工法によれば、ゴム製(電気的な絶縁体)であることによって帯電しないタイヤ30に対する飛散防止剤7の付着をタイヤカバー60によって防ぐことができる。これによりタイヤ30のマスキング31を省略できる。上述したように、タイヤカバー60をゴム、プラスチック、または薄いアルミ板などで形成することにより、タイヤカバー60は、柔軟性を有し、タイヤ30への着脱の際の作業性が良く、また、耐久性についても満足するものが得られる。
【0035】
(本発明の第三の実施の形態のアスベスト飛散防止工法について)
本発明の第三の実施の形態のアスベスト飛散防止工法について、図12を参照して説明する。なお、図12では、高圧電源装置40、負電極41、正電極42、および接地43の図示は省略してあるが、これらは図4と同じである。第三の実施の形態のアスベスト飛散防止工法は、図12に示すように、自動車カバー20Aについても負の電荷で帯電させている。なお、タイヤ30には、タイヤカバー60を被せているが、これはマスキング31に代えてもよい。
【0036】
自動車カバー20Aを負の電荷で帯電させるには、自動車カバー20Aを導電性の材質(たとえばアルミ箔、カーボン繊維、または導電性ゴムなど)で形成し、駐車車両3の導電性部分と導電性の自動車カバー20Aとを電気的に接続する。このとき駐車車両3の導電性部分と導電性の自動車カバー20Aとを電気的に接続するためには、たとえば駐車車両3の導電性部分の一部と自動車カバー20Aの内側の一部とが密着するようにする。駐車車両3の導電性部分の一部と自動車カバー20Aの内側の一部とを密着させるには、たとえば自動車カバー20Aの上にマグネットを置き、このマグネットが自動車カバー20Aを介して駐車車両3のボディに吸い付くようにする。あるいは、自動車カバー20Aに電線の一端を接続し、この電線の他端にはワニ口クリップなどを設け、このワニ口クリップで駐車車両3の導電性部分を挟むことにより、自動車カバー20Aと駐車車両3の導電性部分とを電気的に接続してもよい。また、このようなワニ口クリップ付きの電線を1つの自動車カバー20Aに複数設けてもよい。
【0037】
図12では、駐車車両3の導電性部分と自動車カバー20Aとの接続状態を、抵抗rが駐車車両3の導電性部分と自動車カバー20Aとの間に挿入されたように等価的に図示してある。これによれば、自動車カバー20Aと駐車車両3の導電性部分とが電気的に一体化され、自動車カバー20Aについても駐車車両3の導電性部分と同様に、負の電荷で帯電される。なお、抵抗rの抵抗値は、ほぼ0Ω(オーム)とすることが好ましいが、自動車カバー20Aと駐車車両3の導電性部分とが電気的に一体化されるのであれば抵抗rの値についてはどのような値であってもよい。
【0038】
(効果について)
本発明の第三の実施の形態のアスベスト飛散防止工法によれば、自動車カバー20Aについても負の電荷で帯電されている。これにより自動車カバー20A自体が負の電荷に帯電している飛散防止剤7を反発させることができる。第三の実施の形態の効果について、さらに図13および図14を参照して説明する。
【0039】
図13は、比較例として、第一の実施に形態における自動車カバー20に対する飛散防止剤7の付着の様子を示している。第一の実施の形態では、駐車車両3の導電性部分は負の電荷で帯電しているが、自動車カバー20については、その材質が電気的な絶縁体(非導電性)であるので帯電していない。ここで駐車車両3の負の電荷による飛散防止剤7に対する反発力は、駐車車両3の車体表面と飛散防止剤7の霧の粒子との距離の二乗に反比例して減衰する。よって、駐車車両3の負の電荷によって飛散防止剤7を反発可能な距離は、駐車車両3の車体表面から数センチ〜十数センチ程度である。図13の例では、駐車車両3の車体の表面と自動車カバー20の裏面との間に空間があり、自動車カバー20の表面までは、駐車車両3の負の電荷による反発力が及んでいない。これにより、飛散防止剤7は、一点鎖線で示すように、自動車カバー20に付着する。なお、一点鎖線から続く破線は、自動車カバー20が無い場合の飛散防止剤7の反発経路である。
【0040】
一方、図14は、第三の実施の形態における自動車カバー20Aに対する飛散防止剤7の様子を示している。第四の実施の形態では、自動車カバー20Aについても負の電荷で帯電しているので、自動車カバー20Aの表面から数センチ〜十数センチ程度であれば、飛散防止剤7を反発可能である。これにより、駐車車両3の車体表面と自動車カバー20Aの裏面との間に空間があっても、飛散防止剤7は、自動車カバー20Aには付着しない。
【0041】
このようにして、自動車カバー20Aへの飛散防止剤7の付着を防ぐことができる。これによれば、たとえば自動車カバー20Aを使い捨てすることなく、複数回再利用することができる。
【0042】
(その他の実施の形態)
上述した実施の形態は、その要旨を逸脱しない限り様々に変更が可能である。たとえば第三の実施の形態において、タイヤカバー60についても導電性の材質(導電性ゴム、カーボン繊維、アルミ板など)により形成し、駐車車両3の導電性部分および自動車カバー20Aと電気的に接続することにより、負の電荷で帯電させるようにしてもよい。これによりタイヤカバー60についても負の電荷で飛散防止剤7を反発させることができ、タイヤカバー60を複数回再利用することができる。
【0043】
なお、タイヤカバー60を、駐車車両3の導電性部分および自動車カバー20Aと電気的に接続するには、たとえば自動車カバー20Aの一部がタイヤカバー60として形成されるように、自動車カバー20Aとタイヤカバー60とを一体に形成してもよい。あるいは、自動車カバー20Aの一部とタイヤカバー60の一部とが密着するように、自動車カバー20Aの一部をタイヤカバー60の一部にクリップなどでとめるようにしてもよい。あるいは、自動車カバー20Aまたはタイヤカバー60のいずれかに電線の一端を接続し、この電線の他端にはワニ口クリップなどを設け、このワニ口クリップでタイヤカバー60または自動車カバー20Aを挟むことにより、自動車カバー20Aとタイヤカバー60とを電気的に接続してもよい。この場合、タイヤカバー60が駐車台4と電気的に接続されないようにすることが必要である。たとえばタイヤカバー60が駐車台4と接する裾の部分については、非導電性の材質にするなどとすることがよい。
【0044】
また、上述した工程は、その組み合わせを様々に変更してもよい。たとえば駐車車両3に自動車カバー20または20Aを被せるだけでタイヤ30についてはマスキング31またはタイヤカバー60を被せないようにして作業工程の短縮を図ってもよい。
【0045】
また、タイヤ30にマスキング31を施す場合、タイヤ30の裏面およびタイヤ30の接地する部分についてはマスキング31を省略して作業工程の短縮を図ってもよい。また、タイヤカバー60についてもタイヤ30の裏面および接地する部分については覆わないような形状としてタイヤカバー60の簡素化および作業工程の短縮を図ってもよい。
【0046】
また、自動車カバー20,20Aを用いなくても駐車車両3のボディは導電性であり、負の電荷で帯電しているので、飛散防止剤7を反発できる。したがって、自動車カバー20,20Aを用いずに、非導電性部分であるガラス面についてだけマスキングを施してもよい。これによればガラス面だけの小さな面積のマスキングにより自動車カバー20,20Aの使用を省き、工費の節約を図ることができる。
【符号の説明】
【0047】
1…タワーパーキング、2…駐車車両格納空間、3…駐車車両、4…駐車台、6…アスベスト、7…飛散防止剤、20、20A…自動車カバー、30…タイヤ、40…高圧電源装置、41…負電極、42…正電極、60…タイヤカバー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タワーパーキングの駐車車両格納空間の内壁に塗布されたアスベストの飛散を防止するためのアスベスト飛散防止工法において、
前記駐車車両格納空間内の駐車車両に自動車カバーを被せる工程と、
前記自動車カバーを被せる工程の完了後に前記駐車車両の導電性部分を負の電荷で帯電させる帯電工程と、
前記帯電工程の完了後に前記アスベストに対して負の電荷で帯電された液状の合成樹脂を吹き付けるアスベスト飛散防止工程と、
前記アスベスト飛散防止工程の完了後に前記駐車車両の帯電を解除する帯電解除工程と、
前記帯電解除工程の完了後に前記自動車カバーを外す工程と、
を含む、
ことを特徴とするアスベスト飛散防止工法。
【請求項2】
請求項1記載のアスベスト飛散防止工法であって、
前記自動車カバーを被せる工程に前後して、前記駐車車両のタイヤにタイヤカバーを被せる工程と、
前記自動車カバーを外す工程に前後して、前記タイヤカバーを外す工程と、
をさらに含む、
ことを特徴とするアスベスト飛散防止工法。
【請求項3】
請求項1または2記載のアスベスト飛散防止工法であって、
前記自動車カバーを導電性のものとし、前記自動車カバーについても前記駐車車両の導電性部分と同じく負の電荷で帯電させる自動車カバー帯電工程をさらに含む、
ことを特徴とするアスベスト飛散防止工法。
【請求項4】
請求項2または3記載のアスベスト飛散防止工法であって、
前記タイヤカバーを導電性のものとし、前記タイヤカバーについても前記駐車車両の導電性部分と同じく負の電荷で帯電させるタイヤカバー帯電工程をさらに含む、
ことを特徴とするアスベスト飛散防止工法。
【請求項1】
タワーパーキングの駐車車両格納空間の内壁に塗布されたアスベストの飛散を防止するためのアスベスト飛散防止工法において、
前記駐車車両格納空間内の駐車車両に自動車カバーを被せる工程と、
前記自動車カバーを被せる工程の完了後に前記駐車車両の導電性部分を負の電荷で帯電させる帯電工程と、
前記帯電工程の完了後に前記アスベストに対して負の電荷で帯電された液状の合成樹脂を吹き付けるアスベスト飛散防止工程と、
前記アスベスト飛散防止工程の完了後に前記駐車車両の帯電を解除する帯電解除工程と、
前記帯電解除工程の完了後に前記自動車カバーを外す工程と、
を含む、
ことを特徴とするアスベスト飛散防止工法。
【請求項2】
請求項1記載のアスベスト飛散防止工法であって、
前記自動車カバーを被せる工程に前後して、前記駐車車両のタイヤにタイヤカバーを被せる工程と、
前記自動車カバーを外す工程に前後して、前記タイヤカバーを外す工程と、
をさらに含む、
ことを特徴とするアスベスト飛散防止工法。
【請求項3】
請求項1または2記載のアスベスト飛散防止工法であって、
前記自動車カバーを導電性のものとし、前記自動車カバーについても前記駐車車両の導電性部分と同じく負の電荷で帯電させる自動車カバー帯電工程をさらに含む、
ことを特徴とするアスベスト飛散防止工法。
【請求項4】
請求項2または3記載のアスベスト飛散防止工法であって、
前記タイヤカバーを導電性のものとし、前記タイヤカバーについても前記駐車車両の導電性部分と同じく負の電荷で帯電させるタイヤカバー帯電工程をさらに含む、
ことを特徴とするアスベスト飛散防止工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−162910(P2012−162910A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23765(P2011−23765)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(511033209)株式会社ハイアス安全エコ (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(511033209)株式会社ハイアス安全エコ (5)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]