説明

アゼピン化合物またはその塩、不斉触媒、ならびに光学活性化合物の製造方法

【課題】新規なアゼピン化合物、不斉反応による光学活性化合物の合成に有用な不斉触媒、ならびに医薬、農薬、高機能材料等の分野において有用な光学活性化合物を高収率かつ高光学純度で製造する方法、を提供する。
【解決手段】式(II)等で表されるアゼピン化合物の存在下に、不斉アルドール反応、不斉マンニッヒ付加反応、不斉ハロゲン化反応、不斉アミノキシル化反応、不斉ヒドロキシアミノ化反応または不斉共役付加反応を行うことを含む、光学活性化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアゼピン化合物またはその塩、該アゼピン化合物またはその塩からなる不斉触媒、ならびに該アゼピン化合物またはその塩を触媒に用いた光学活性化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品開発においては、薬効と安全性を高める観点から、光学活性化合物の研究開発が注目されている。光学活性化合物の合成方法として、光学分割法と不斉合成法とが知られている。必要な化合物の合成という観点から、光学分割法は、それまでの工程で合成してきた化合物の半分を捨てることになるので、大きな無駄を生じる。
一方、光学活性化合物の不斉合成法は、不斉触媒を用いて、必要な化合物が優先的に生成するようにしたものである。不斉反応は、医薬品のみならず、農薬や高機能性材料(例えば、液晶、非線形光学材料、感光体など)等の分野でも応用が期待されている。ところが、不斉合成は技術的な困難を伴う場合が多い。そのため、特に工業スケールにおいて、目的とする光学活性化合物を高収率かつ高光学純度で合成できる不斉触媒の開発が重要となっている。
【0003】
不斉触媒として、種々の化合物が提案されている。
例えば、特許文献1には、式(A)で表される化合物から誘導される4級アンモニウム塩が開示されている。該4級アンモニウム塩を触媒に用いてα,β−不飽和ケトンの酸化による不斉エポキシ化合物を立体選択的に製造する方法が開示されている。
【0004】
【化1】

【0005】
特許文献2には、式(B)で表される軸不斉を有するアミノ酸誘導体が記載されている。そして、このアミノ酸誘導体を不斉アルドール反応の触媒に用いることが記載されている。
【0006】
【化2】

【0007】
特許文献3には、式(C)で表される4級アンモニウム塩が記載されている。そして、この4級アンモニウム塩を触媒に用いて光学活性なα−アミノ酸およびその誘導体を製造する方法が記載されている。
【0008】
【化3】

【0009】
特許文献4には、式(D)で表される光学活性ジベンゾアゼピン誘導体が記載されている。そして、このジベンゾアゼピン誘導体を触媒に用いて光学活性α,α−ジ置換グリシン誘導体または光学活性α−モノ置換グリシン誘導体を製造する方法が記載されている。
【0010】
【化4】

【0011】
特許文献5には、式(E)で表されるグアニジン化合物が記載されている。そして、このグアニジン化合物を不斉アルドール反応、不斉マイケル付加反応、不斉エポキシ化反応等の触媒に用いることが記載されている。
【0012】
【化5】

【0013】
さらに、非特許文献1には、式(F)で表されるビフェニルアミノ酸が記載されている。そして、このビフェニルアミノ酸を不斉アルドール反応の触媒に用いることが記載されている。
【0014】
【化6】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2005−225809号公報
【特許文献2】特開2006−143627号公報
【特許文献3】WO2006/104226
【特許文献4】WO2009/125594
【特許文献5】WO2005/077908
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Chem.Commun.,2008,5465-5473
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
不斉合成の開発が期待される反応としては、各種の不斉還元反応、各種の不斉酸化反応、不斉アルドール反応、不斉エポキシ化反応、不斉ストレッカー反応、不斉マンニッヒ反応、不斉ディールス・アルダー反応などが挙げられる。ところが、工業スケールにおける、これらの反応において、目的とする光学活性化合物を高収率かつ高光学純度で合成できる不斉触媒の提案は多くない。
触媒的不斉誘起反応の応用が期待される反応のひとつに、活性メチレン化合物への2−メチレンマロン酸ジエステルの共役付加反応が挙げられる(式(Z)参照。)。この共役付加反応は基質(a)のカルボニル基のα炭素に3炭素残基を導入できる有用な有機合成反応である。
【0018】
【化7】

【0019】
〔式(Z)中、
Uは、無置換の若しくは置換基を有するアルキル基、無置換の若しくは置換基を有するアリール基、無置換の若しくは置換基を有するヘテロアリール基、または無置換の若しくは置換基を有するアラルキル基、等を示す。
Wは、それぞれ独立に、無置換の若しくは置換基を有するアルキル基、無置換の若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換の若しくは置換基を有するアルキニル基、無置換の若しくは置換基を有するアリール基、または無置換の若しくは置換基を有するヘテロアリール基、等を示す。
Vは、水素原子、無置換の若しくは置換基を有するアルコキシ基、無置換の若しくは置換基を有するアミノ基、等を示す。
(*)は、該炭素原子によってラセミ体を形成していることを示す。〕
【0020】
上記先行技術文献に記載の不斉触媒は、不斉反応による光学活性化合物の合成に有用ではあるが、適用可能な反応が限られており、不十分な点がある。そのため、目的とする光学活性化合物をさらに高収率且つ高光学純度で合成できる新規な触媒が求められている。例えば、式(Z)で表される不斉反応にも適した触媒が求められている。
本発明は、新規なアゼピン化合物を提供することを課題とする。本発明は、不斉反応による光学活性化合物の合成に有用な不斉触媒を提供することを課題とする。さらに、本発明は、医薬、農薬、高機能材料等の分野において有用な光学活性化合物を高収率かつ高光学純度で製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、式(I)および式(II)で表されるアゼピン化合物を得るに至った。そして、このアゼピン化合物は、不斉反応に優れた効果を有する触媒であることを見出した。本発明は、これらの知見に基づきさらに検討を重ねることによって完成するに至ったものである。
【0022】
すなわち、本発明は以下の態様を包含するものである。
【0023】
〔1〕 式(I)で表されるアゼピン化合物またはその塩。
【0024】
【化8】

【0025】
〔式(I)中、
1は、それぞれ独立に、無置換の若しくは置換基を有するC1〜6アルキル基、無置換の若しくは置換基を有するC6〜10アリール基、または無置換の若しくは置換基を有するヘテロアリール基を示す。
2は、それぞれ独立に、水酸基、ハロゲン原子、無置換の若しくは置換基を有するC1〜6アルキル基、無置換の若しくは置換基を有するC2〜6アルケニル基、無置換の若しくは置換基を有するC2〜6アルキニル基、無置換の若しくは置換基を有するC1〜6アルコキシ基、または式(III):C(R1)2OHで表される基を示す。
3は、それぞれ独立に、水酸基、ハロゲン原子、無置換の若しくは置換基を有するC1〜6アルキル基、無置換の若しくは置換基を有するC2〜6アルケニル基、無置換の若しくは置換基を有するC2〜6アルキニル基、または無置換の若しくは置換基を有するC1〜6アルコキシ基を示す。
m1は、A環上のR2の数を示し且つ0〜2のいずれかの整数である。m1が2のとき、R2同士は互いに同一であってもよいし、相異なっていてもよい。
n1は、B環上のR2の数を示し且つ0〜3のいずれかの整数である。n1が2以上のとき、R2同士は互いに同一であってもよいし、相異なっていてもよい。
*は、それが付された結合が不斉軸であることを示す。〕
【0026】
〔2〕 式(II)で表されるアゼピン化合物またはその塩。
【0027】
【化9】

【0028】
〔式(II)中、
1、R2、およびR3は、式(I)と同じ意味を示す。
m2は、A環上のR2の数を示し且つ0〜2のいずれかの整数である。m2が2のとき、R2同士は互いに同一であってもよいし、相異なっていてもよい。
n2は、B環上のR2の数を示し且つ0〜2のいずれかの整数である。n2が2のとき、R2同士は互いに同一であってもよいし、相異なっていてもよい。
*は、それが付された結合が不斉軸であることを示す。〕
【0029】
〔3〕 式(I)若しくは式(II)で表わされるアゼピン化合物またはそれらの塩からなる、不斉アルドール反応、不斉マンニッヒ付加反応、不斉ハロゲン化反応、不斉アミノキシル化反応、不斉ヒドロキシアミノ化反応または不斉共役付加反応に用いる触媒。
【0030】
〔4〕 式(I)若しくは式(II)で表わされるアゼピン化合物またはそれらの塩の存在下に、不斉アルドール反応、不斉マンニッヒ付加反応、不斉ハロゲン化反応、不斉アミノキシル化反応、不斉ヒドロキシアミノ化反応または不斉共役付加反応を行うことを含む、光学活性化合物の製造方法。
【0031】
〔5〕 式(I)若しくは式(II)で表わされるアゼピン化合物またはそれらの塩の存在下に、α−置換アセトアルデヒドとメチリデンマロネートまたはメチリデンマロノニトリルとの不斉共役付加反応を行うことを含む、光学活性な3−ホルミルアルキルマロネートまたは3−ホルミルアルキルマロノニトリルの製造方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る式(I)若しくは式(II)で表わされるアゼピン化合物またはそれらの塩は新規物質である。該アゼピン化合物またはその塩は、不斉アルドール反応、不斉マンニッヒ付加反応、不斉ハロゲン化反応、不斉アミノキシル化反応、不斉ヒドロキシアミノ化反応または不斉共役付加反応などの不斉反応において触媒作用を示す。
該アゼピン化合物またはその塩の存在下に、不斉アルドール反応、不斉マンニッヒ付加反応、不斉ハロゲン化反応、不斉アミノキシル化反応、不斉ヒドロキシアミノ化反応または不斉共役付加反応を行うと、医薬、農薬、高機能材料等の分野において有用な光学活性化合物を高収率かつ高光学純度で合成できる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
1)アゼピン化合物
本発明に係るアゼピン化合物は、式(I)若しくは式(II)で表される化合物である。
【0034】
まず、式(I)および式(II)における、「無置換の」および「置換基を有する」の意味を説明する。
【0035】
「無置換の」の用語は、母核となる基のみであることを意味する。なお、本明細書において、「置換基を有する」との記載がなく母核となる基の名称のみで記載しているときは、別段の断りがない限り「無置換の」意味である。
一方、「置換基を有する」の用語は、母核となる基のいずれかの水素原子が、母核と同一又は異なる構造の基で置換されていることを意味する。従って、「置換基」は、母核となる基に結合した他の基である。置換基は1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。2つ以上の置換基は同一であってもよいし、異なるものであってもよい。
「C1〜6」等の用語は、母核となる基の炭素原子数が1〜6個等であることを表している。この炭素原子数には、置換基の中に在る炭素原子の数を含まない。例えば、置換基としてエトキシ基を有するブチル基は、C2アルコキシC4アルキル基に分類する。
【0036】
「置換基」は、化学的に許容され、本発明の効果を奏する限りにおいて特に制限されない。
「置換基」となり得る基としては、
フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;
メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等のC1〜6アルキル基;
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のC3〜8シクロアルキル基;
ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−メチル−2−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、1−メチル−2−ブテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、4−ヘキセニル基、5−ヘキセニル基等のC2〜6アルケニル基;
エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−メチル−2−プロピニル基、2−メチル−3−ブチニル基、1−ペンチニル基、2−ペンチニル基、3−ペンチニル基、4−ペンチニル基、1−メチル−2−ブチニル基、2−メチル−3−ペンチニル基、1−ヘキシニル基、1,1−ジメチル−2−ブチニル基等のC2〜6アルキニル基;
メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基等のC1〜6アルコキシ基;
ビニルオキシ基、アリルオキシ基、プロペニルオキシ基、ブテニルオキシ基等のC2〜6アルケニルオキシ基;
エチニルオキシ基、プロパルギルオキシ基等のC2〜6アルキニルオキシ基;
フェニル基、ナフチル基等のC6〜10アリール基;
フェノキシ基、1−ナフトキシ基等のC6〜10アリールオキシ基;
ベンジル基、フェネチル基等のC7〜11アラルキル基;
ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基等のC7〜11アラルキルオキシ基;
ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基、シクロヘキシルカルボニル基等のC1〜7アシル基;
ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、シクロヘキシルカルボニルオキシ基等のC1〜7アシルオキシ基;
メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、i−プロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基等のC1〜6アルコキシカルボニル基;
カルボキシル基;
水酸基;
【0037】
クロロメチル基、クロロエチル基、トリフルオロメチル基、1,2−ジクロロ−n−プロピル基、1−フルオロ−n−ブチル基、パーフルオロ−n−ペンチル基等のC1〜6ハロアルキル基;
2−クロロ−1−プロペニル基、2−フルオロ−1−ブテニル基等のC2〜6ハロアルケニル基;
4,4−ジクロロ−1−ブチニル基、4−フルオロ−1−ペンチニル基、5−ブロモ−2−ペンチニル基等のC2〜6ハロアルキニル基;
2−クロロ−n−プロポキシ基、2,3−ジクロロブトキシ基等のC1〜6ハロアルコキシ基;
2−クロロプロペニルオキシ基、3−ブロモブテニルオキシ基等のC2〜6ハロアルケニルオキシ基;
4−クロロフェニル基、4−フルオロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基等のC6〜10ハロアリール基;
4−フルオロフェニルオキシ基、4−クロロ−1−ナフトキシ基等のC6〜10ハロアリールオキシ基;
クロロアセチル基、トリフルオロアセチル基、トリクロロアセチル基、4−クロロベンゾイル基等のハロゲン置換C1〜7アシル基;
【0038】
シアノ基;ニトロ基;アミノ基;
メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のC1〜6アルキルアミノ基;
アニリノ基、ナフチルアミノ基等のC6〜10アリールアミノ基;
ベンジルアミノ基、フェニルエチルアミノ基等のC7〜11アラルキルアミノ基;
ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、プロパノイルアミノ基、ブチリルアミノ基、i−プロピルカルボニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等のC1〜7アシルアミノ基;
メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、n−プロポキシカルボニルアミノ基、i−プロポキシカルボニルアミノ基等のC1〜6アルコキシカルボニルアミノ基;
【0039】
アミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、N−フェニル−N−メチルアミノカルボニル基等の無置換若しくは置換基を有するアミノカルボニル基;
【0040】
ピロリル基、フリル基、チエニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、トリアゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、テトラゾリル基等の5員環のヘテロアリール基;
ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダニジル基、トリアジニル基等の6員環のヘテロアリール基;
トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基等のトリC1〜6アルキル置換シリル基;
トリフェニルシリル基;
等を挙げることができる。
【0041】
また、これらの「置換基」はその中のいずれかの水素原子が、該「置換基」と同一または異なる構造の基で置換されていてもよい。
【0042】
〔 R1
式(I)及び式(II)中、R1は、それぞれ独立に、無置換の若しくは置換基を有するC1〜6アルキル基、無置換の若しくは置換基を有するC6〜10アリール基、または無置換の若しくは置換基を有するヘテロアリール基を示す。
【0043】
「C1〜6アルキル基」は、直鎖であってもよいし、分岐鎖であってもよい。C1〜6アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−プロピル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、i−ペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、i−ヘキシル基等を挙げることができる。
【0044】
「C6〜10アリール基」は、単環、または環同士が結合した多環のいずれであってもよい。多環アリール基は、少なくとも一つの環が芳香環であれば、残りの環が飽和脂環、不飽和脂環または芳香環のいずれであってもよい。C6〜10アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アズレニル基、インデニル基、インダニル基、テトラリニル基等が挙げられる。これらのうち、R1としては、特にフェニル基が好ましい。
【0045】
置換基を有するC6〜10アリール基の好ましい置換基としては、
フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子のハロゲン原子;
メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等のC1〜6アルキル基;
クロロメチル基、クロロエチル基、トリフルオロメチル基、1,2−ジクロロ−n−プロピル基、1−フルオロ−n−ブチル基、パーフルオロ−n−ペンチル基等のC1〜6ハロアルキル基;
等を挙げることができる。
【0046】
「ヘテロアリール基」は、環を構成する原子として炭素原子以外に窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1〜4個の複素原子を含む5〜10員のアリール基である。この場合、単環、または環同士が縮合した多環であってもよい。
【0047】
ヘテロアリール基として、具体的には以下の基を挙げることができる。
(1)5員環のヘテロアリール基
ピロ−ル−1−イル基、ピロ−ル−2−イル基、ピロ−ル−3−イル基等のピロリル基;
フラン−2−イル基、フラン−3−イル基等のフリル基;
チオフェン−2−イル基、チオフェン−3−イル基等のチエニル基;
イミダゾール−1−イル基、イミダゾール−2−イル基、イミダゾール−4−イル基、イミダゾール−5−イル基等のイミダゾリル基;
ピラゾール−1−イル基、ピラゾール−3−イル基、ピラゾール−4−イル基、ピラゾール−5−イル基等のピラゾリル基;
オキサゾール−2−イル基、オキサゾール−4−イル基、オキサゾール−5−イル基等のオキサゾリル基;
イソオキサゾール−3−イル基、イソオキサゾール−4−イル基、イソオキサゾール−5−イル基等のイソオキサゾリル基;
チアゾール−2−イル基、チアゾール−4−イル基、チアゾール−5−イル基等のチアゾリル基;
イソチアゾール−3−イル基、イソチアゾール−4−イル基、イソチアゾール−5−イル基等のイソチアゾリル基;
1,2,3−トリアゾール−1−イル基、1,2,3−トリアゾール−4−イル基、1,2,3−トリアゾール−5−イル基、1,2,4−トリアゾール−1−イル基、1,2,4−トリアゾール−3−イル基、1,2,4−トリアゾール−5−イル基等のトリアゾリル基;
1,2,4−オキサジアゾール−3−イル基、1,2,4−オキサジアゾール−5−イル基、1,3,4−オキサジアゾール−2−イル基等のオキサジアゾリル基;
1,2,4−チアジアゾール−3−イル基、1,2,4−チアジアゾール−5−イル基、1,3,4−チアジアゾール−2−イル基等のチアジアゾリル基;
テトラゾール−1−イル基、テトラゾール−2−イル基等のテトラゾリル基;
【0048】
(2)6員環のヘテロアリール基
ピリジン−2−イル基、ピリジン−3−イル基、ピリジン−4−イル基等のピリジル基;
ピラジン−2−イル基、ピラジン−3−イル基等のピラジニル基;
ピリミジン−2−イル基、ピリミジン−4−イル基、ピリミジン−5−イル基等のピリミジニル基;
ピリダジン−3−イル基、ピリダジン−4−イル基等のピリダジニル基;
トリアジニル基;
【0049】
(3)縮合環のヘテロアリール基
インドール−1−イル基、インドール−2−イル基、インドール−3−イル基、インドール−4−イル基、インドール−5−イル基、インドール−6−イル基、インドール−7−イル基;
ベンゾフラン−2−イル基、ベンゾフラン−3−イル基、ベンゾフラン−4−イル基、ベンゾフラン−5−イル基、ベンゾフラン−6−イル基、ベンゾフラン−7−イル基;
ベンゾチオフェン−2−イル基、ベンゾチオフェン−3−イル基、ベンゾチオフェン−4−イル基、ベンゾチオフェン−5−イル基、ベンゾチオフェン−6−イル基、ベンゾチオフェン−7−イル基;
ベンゾイミダゾール−1−イル基、ベンゾイミダゾール−2−イル基、ベンゾイミダゾール−4−イル基、ベンゾイミダゾール−5−イル基、ベンゾオキサゾール−2−イル基、ベンゾオキサゾール−4−イル基、ベンゾオキサゾール−5−イル基、ベンゾチアゾール−2−イル基、ベンゾチアゾール−4−イル基、ベンゾチアゾール−5−イル基;
キノリン−2−イル基、キノリン−3−イル基、キノリン−4−イル基、キノリン−5−イル基、キノリン−6−イル基、キノリン−7−イル基、キノリン−8−イル基;
【0050】
〔 R2
式(I)及び式(II)中、R2はそれぞれ独立に、水酸基、ハロゲン原子、無置換の若しくは置換基を有するC1〜6アルキル基、無置換の若しくは置換基を有するC2〜6アルケニル基、無置換の若しくは置換基を有するC2〜6アルキニル基、無置換の若しくは置換基を有するC1〜6アルコキシ基、または式(III):C(R1)2OHで表される基を示す。
【0051】
「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、を挙げることができる。
2における「C1〜6アルキル基」としては、前記R1において挙げた「C1〜6アルキル基」と同じものを挙げることができる。
【0052】
「C2〜6アルケニル基」としては、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−メチル−2−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、1−メチル−2−ブテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、4−ヘキセニル基、5−ヘキセニル基等を挙げることができる。
【0053】
「C2〜6アルキニル基」としては、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−メチル−2−プロピニル基、2−メチル−3−ブチニル基、1−ペンチニル基、2−ペンチニル基、3−ペンチニル基、4−ペンチニル基、1−メチル−2−ブチニル基、2−メチル−3−ペンチニル基、1−ヘキシニル基、1,1−ジメチル−2−ブチニル基等を挙げることができる。
【0054】
「C1〜6アルコキシ基」としては、メトキシ基、エトキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、i−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基等を挙げることができる。
【0055】
式(III):C(R1)2OHで表される基において、R1は式(I)中のR1と同じ意味を示す。すなわち、式(III)中のR1は、無置換の若しくは置換基を有するC1〜6アルキル基、無置換の若しくは置換基を有するC6〜10アリール基、または無置換の若しくは置換基を有するヘテロアリール基を示す。
【0056】
式(I)中の、m1は、A環上のR2の数を示し且つ0〜2のいずれかの整数である。m1が2のとき、R2同士は互いに同一であってもよいし、相異なっていてもよい。
式(I)中の、n1は、B環上のR2の数を示し且つ0〜3のいずれかの整数である。n1が2以上のとき、R2同士は互いに同一であってもよいし、相異なっていてもよい。
式(II)中の、m2は、A環上のR2の数を示し且つ0〜2のいずれかの整数である。m2が2のとき、R2同士は互いに同一であってもよいし、相異なっていてもよい。
式(II)中の、n2は、B環上のR2の数を示し且つ0〜2のいずれかの整数である。n2が2のとき、R2同士は互いに同一であってもよいし、相異なっていてもよい。
【0057】
〔 R3
式(I)及び式(II)中、R3は、それぞれ独立に、水酸基、ハロゲン原子、無置換の若しくは置換基を有するC1〜6アルキル基、無置換の若しくは置換基を有するC2〜6アルケニル基、無置換の若しくは置換基を有するC2〜6アルキニル基、または無置換の若しくは置換基を有するC1〜6アルコキシ基を示す。
【0058】
3における「C1〜6アルキル基」としては、R1において挙げた「C1〜6アルキル基」と同じものを挙げることができる。
3における「ハロゲン原子」、「C2〜6アルケニル基」、「C2〜6アルキニル基」、および「C1〜6アルコキシ基」としては、R2において挙げた「ハロゲン原子」、「C2〜6アルケニル基」、「C2〜6アルキニル基」、および「C1〜6アルコキシ基」と同じものを挙げることができる。
【0059】
式(I)及び式(II)中、*は、それが付された結合が不斉軸であることを示す。すなわち、本発明に係るアゼピン化合物は、光学活性を示すものである。なお、本発明において、光学活性は、特定の光学異性体の存在率が50%より大きいことを意味する。本発明においては、特定の光学異性体の存在率は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、98%以上であることが特に好ましい。
【0060】
式(I)若しくは式(II)表わされる本発明に係るアゼピン化合物の具体例を表1および表2に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
2)アゼピン化合物の製造方法
式(I)若しくは式(II)で表されるアゼピン化合物は、公知の合成法によって得ることができる。
ここでは、式(7)で表されるアゼピン化合物(式(II)において、R2がt−ブチル基であり、且つR3がC1〜6アルコキシ基である、化合物)の製法を一例として挙げ、本発明のアゼピン化合物の製造方法の理解に資することにする。式(I)で表されるアゼピン化合物、または式(7)で表されるアゼピン化合物以外の式(II)で表されるアゼピン化合物は、これから説明する式(7)で表されるアゼピン化合物の製法と同様の手順にて得ることができる。なお、ここで説明する製造方法は、一実施態様であり、本発明に係るアゼピン化合物は他のいかなる製造方法で製造しても良い。
【0064】
本発明のアゼピン化合物は、例えば以下に記載した各工程を含む方法により製造することができる。ここで、化合物(1)〜化合物(7)中のR1は、式(II)におけるR1と同じ意味である。また、R’、R”は、それぞれ独立に、無置換の若しくは置換基を有するC1〜6アルキル基を示す。
【0065】
【化10】

【0066】
化合物(1)は、光学活性ビフェニル化合物である。本発明のアゼピン化合物は、光学純度の高いものが好ましく、そのため出発原料となる化合物(1)は、光学純度の高い化合物であることが好ましい。化合物(1)は公知物質である。光学純度の高い化合物(1)は、国際公開パンフレットWO2009/087959に記載の方法で合成することができる。
【0067】
工程1では、アルキル化を行い、水酸基をアルコキシル基に置換する。該アルキル化反応は、化合物(1)と式(IV):R’−Xで表される化合物(8)を、塩基の存在下、適宜な溶媒中において行うことができる。この反応によって化合物(2)が得られる。
式(IV)中のR’は、前記と同じ意味を示す。式(IV)中のXは脱離基を示す。
脱離基Xは、化学反応において一般的に脱離基として用いることが可能な置換基であれば特に制限はない。例えば、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、メタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、トルエンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基等のスルホニルオキシ基が挙げられる。
【0068】
化合物(8)は、化合物(1)1モルに対して、2〜5モル、好ましくは2.1〜4モル用いられる。
前記塩基は、特に限定されないが、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、水酸化カリウム、炭酸カリウム、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド、水酸化セシウム、炭酸セシウム、等の無機塩基が好ましく使用できる。前記塩基は、化合物(1)1モルに対して、2〜30モル、好ましくは3〜20モル用いられる。
【0069】
溶媒は、反応を阻害しない限り特に制限はない。例えば、ヘキサン、シクロへキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等塩素系溶媒、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒、アセトン、エチルメチルケトン、t−ブチルメチルケトン等のケトン系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジン−2−オン、N,N’−ジメチルイミダゾリジン−2−オン等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等が好ましく使用できる。
【0070】
工程1の反応を相間移動反応条件下に行うことも可能である。本反応に用いられる相間移動触媒は、特に制限されない。例えば、テトラブチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、18−クラウン−6−エーテル、15−クラウン−4−エーテル等が挙げられる。相間移動触媒は、化合物(1)1モルに対して、0.005〜0.2モル、好ましくは0.01〜0.05モル用いられる。
【0071】
工程1の反応温度は、用いた溶媒の融点から沸点までの適宜な温度で選ぶことができる。好ましくは0℃〜80℃である。
【0072】
工程2ではカルボキシル化反応が行われる。工程3ではハロゲン化反応が行われる。工程4では環化反応が行われる。工程5では3級アルコール化反応が行われる。工程6では脱保護反応が行われる。これら工程における反応は周知の反応である。工程2、3、4および6における各反応は、特開2006−143627に記載の方法で行うことができる。工程5における反応は、特開2005−225809に記載の方法で行うことができる。
【0073】
3)アゼピン化合物の塩
本発明に係るアゼピン化合物の塩は、式(I)若しくは式(II)で表わされるアゼピン化合物の化学的に許容される塩である。該塩としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、等の無機酸の塩;酢酸、乳酸等の有機酸の塩;リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の塩;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩;鉄、銅等の遷移金属の塩;蓚酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、等の有機酸の塩、アンモニア、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、ヒドラジン等の有機塩基の塩等が挙げられる。本発明に係るアゼピン化合物の塩は、式(I)若しくは式(II)で表わされるアゼピン化合物から、公知の手法によって得ることができる。
【0074】
4)不斉反応触媒
本発明に係る不斉反応触媒は、式(I)若しくは式(II)で表わされるアゼピン化合物またはそれらの塩からなるものである。該不斉反応触媒は、好ましくは、不斉アルドール反応、不斉マンニッヒ付加反応、不斉ハロゲン化反応、不斉アミノキシル化反応、不斉ヒドロキシアミノ化反応または不斉共役付加反応に用いられる。
【0075】
本発明に係る不斉反応触媒は、不斉反応に対して安定した触媒活性を示し、反応基質を追加等することにより連続的に不斉反応を行なうことも可能である。また、アミン化合物であるため、酸性条件の分液操作等で反応基質および生成物から容易に分離回収することができるので、何回でも再利用ができるといった経済的利点がある。
【0076】
5)光学活性化合物の製造方法
本発明に係る光学活性化合物の製造方法は、式(I)若しくは式(II)で表わされるアゼピン化合物またはそれらの塩の存在下に、不斉アルドール反応、不斉マンニッヒ付加反応、不斉ハロゲン化反応、不斉アミノキシル化反応、不斉ヒドロキシアミノ化反応または不斉共役付加反応を行うことを含むものである。なお、本発明に係る光学活性化合物の製造方法では、溶媒を用いることができる。
【0077】
本発明に係る光学活性化合物の製造方法に用いられる溶媒は、反応を阻害しない限り特に制限はない。溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、t−ブチルメチルエーテル(TBME)等のエーテル系溶媒; ヘキサン、シクロへキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等塩素系溶媒; アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒、アセトン、エチルメチルケトン、t−ブチルメチルケトン等のケトン系溶媒; N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジン−2−オン、N,N’−ジメチルイミダゾリジン−2−オン等のアミド系溶媒; ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0078】
基質を本発明に係る触媒に接触させることにより不斉反応が生起し、目的とする光学活性化合物を高選択率で製造できる。ここで、基質は当該不斉反応の原料となる化合物である。基質はアキラルまたはプロキラルな化合物であってもよいし、不斉中心を有する光学活性化合物またはラセミ体等であってもよい。本発明において、基質はアキラルまたはプロキラルな化合物が好ましい。基質は単独の化合物でもよいし、2種以上の化合物の組み合わせであってもよい。
【0079】
本発明に係る光学活性化合物の製造方法は、不斉共役付加反応に用いることが好ましい。この不斉共役付加反応は、例えば、式(Z’)で表わされる不斉マンニッヒ付加反応を包含する。
【0080】
【化11】

【0081】
〔式(Z’)中、
Uは、無置換の若しくは置換基を有するアルキル基、無置換の若しくは置換基を有するアリール基、無置換の若しくは置換基を有するヘテロアリール基、または無置換の若しくは置換基を有するアラルキル基、等を示す。
Wは、それぞれ独立に、無置換の若しくは置換基を有するアルキル基、無置換の若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換の若しくは置換基を有するアルキニル基、無置換の若しくは置換基を有するアリール基、または無置換の若しくは置換基を有するヘテロアリール基、等を示す。
Vは、水素原子、無置換の若しくは置換基を有するアルコキシ基、無置換の若しくは置換基を有するアミノ基、等を示す。
*は、該炭素原子が不斉炭素であることを示す。〕
【0082】
また、不斉共役付加反応としては、α−置換アセトアルデヒドとメチリデンマロネートまたはメチリデンマロノニトリルとの反応が挙げられる。この不斉共役付加反応によって、光学活性な3−ホルミルアルキルマロネートや3−ホルミルアルキルマロノニトリルを製造することができる。具体的には、本発明に係る触媒の存在下に、α−置換アセトアルデヒドとメチリデンマロネートまたはメチリデンマロノニトリルとの不斉共役付加反応を行うことによって、光学活性な3−ホルミルアルキルマロネートまたは3−ホルミルアルキルマロノニトリルを製造できる。この反応では、先ず、本発明に係る触媒がカルボニル化合物に求核付加反応してイミニウムイオンを生成し、次いで、このイミニウムイオンにカルボニル化合物から生成したエノールが求核付加反応していると考えられる。
【実施例】
【0083】
以下に、実施例を示して、本発明をより具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0084】
[実施例1]アゼピン化合物(2−2(S体));8−(ヒドロキシ−ジフェニル−メチル)−1,11−ジメトキシ−6,7−ジヒドロ−5H−ジベンゾ[c,e]アゼピン−4−イル]−ジフェニル−メタノールの製造
【0085】
【化12】

【0086】
[工程1] 光学活性ビスフェノール体(1) → 化合物(2);3,3’−ジブロモ−6,6’−ジメトキシ−2,2’−ジメチル−ビフェニル
国際公開パンフレットWO2009/087959に記載の方法で合成した光学活性ビスフェノール体(1)(3.72g、10mmol)、ヨウ化メチル(10g、70mmol)及び炭酸カリウム(13.8g、100mmol)を混合し、アセトニトリル溶媒中で還流しながら、5時間攪拌して、反応させた。反応終了後、抽出・乾燥・濃縮の操作を行い、目的物(2)(4g、定量的)を得た。
目的物(2)の物性は以下のとおりであった。
[α]D32 -36 (c = 0.68, CHCl3);
1H NMR δ 7.49 (d, J.9 Hz, 2H), 6.68 (d, J.8 Hz, 2H), 3.63 (s, 6H), 1.99 (s, 6H)
【0087】
[工程2] 化合物(2) → 化合物(3);6,6’−ジメトキシ−2,2’−ビフェニル−3,3’−ジカルボン酸 ジメチルエステル
工程1で得られたビフェニル体(2)(636mg、1.6mmol)、Pd(OAc)2(54mg、0.24mmol)、ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(98mg、0.24mmol)、及びジイソプロピルエチルアミン(1.2mL、6.9mmol)を、ジメチルスルホキシド(15mL)とメタノール(15mL)との混合溶媒中で混合し、得られた混合物をアルゴン雰囲気下でオートクレーブに充填した。一酸化炭素(6atm)で加圧し、混合物を100℃に加熱し、次いで72時間攪拌した。室温まで冷却し、反応混合物を水にあけて、酢酸エチルにて抽出した。
得られた有機層をかん水(brine)にて洗浄し、Na2SO4にて乾燥させ、次いで濃縮した。得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル=4/1)にて精製して、目的物(3)(306mg、収率54%)を得た。
目的物(3)の物性は以下のとおりであった。
[α]D27 -37.7 (c = 1.3, CHCl3);
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.99 (2H, d, J = 8.8 Hz Ar-H), 6.83 (2H, d, J = 8.8 Hz, Ar-H), 3.87 (6H, s, -CO2CH3), 3.72 (6H, s, -OCH3), 2.16 (6H, s, ArCH3)
【0088】
[工程3] 化合物(3) → 化合物(4)
工程2で得られたジメチルエステル体(3)(306mg、0.85mmol)をベンゼン(8mL)に溶解させた。得られた溶液にN−ブロモスクシイミド(365mg、2.1mmol)およびアゾビスイソブチロニトリル(20mg、0.12mmol)を、室温下にて添加した。この混合物を8時間還流した。その後、室温まで冷却した。反応混合物に水を加え、酢酸エチルにて抽出した。得られた有機層をかん水(brine)にて洗浄し、Na2SO4にて乾燥させ、次いで濃縮した。ブロム化物(4)を含む残渣を得た。この残渣は、精製せずに工程4で用いた。
【0089】
[工程4] 化合物(4) → 化合物(5);6−アリル−1,11−ジメトキシ−6,7−ジヒドロ−5H−ジベンゾ[c,e]アゼピン−4,8−ジカルボン酸 ジメチルエステル
先に得られた残渣をテトラヒドロフラン(9mL)に溶解させた。この溶液にアリルアミン(260μL、3.5mmol)を、室温下にて添加した。得られた混合物を45℃にて20時間攪拌した。その後、室温まで冷却した。該反応混合物に水(5mL)を加え、酢酸エチルにて抽出した。得られた有機層をかん水(brine)にて洗浄し、Na2SO4にて乾燥させ、その後濃縮した。得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル=5/3)にて精製し、目的物(5)(287mg、収率82%)を得た。
目的物(5)の物性は以下のとおりであった。
[α]D29 260.8 (c = 0.83, CHCl3);
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.05 (2H, d, J = 8.8 Hz Ar-H), 6.96 (2H, d, J = 8.8 Hz, Ar-H), 6.02-5.92 (1H, m, -CH=CH2), 5.14 (1H, d, J = 3.2 Hz, -CH=CHH), 5.10 (1H, s, -CH=CHH), 4.84 (2H, d, J = 12.8 Hz, -CHHN-), 3.88 (6H, s, -CO2CH3), 3.83 (6H, s, -OCH3), 3.38 (1H, dd, J = 13.6, 5.6 Hz, -NCHHCH-), 2.90 (1H, dd, J = 13.6, 7.2 Hz, -NCHHCH-), 2.83 (2H, d, J = 12.8 Hz, -CHHN-)
【0090】
[工程5] 化合物(5) → 化合物(6);[6−アリル−8−(ヒドロキシ−ジフェニル−メチル)−1,11−ジメトキシ−6,7−ジヒドロ−5H−ジベンゾ[c,e]アゼピン−4−イル]−ジフェニル−メタノール
N−アリルアゼピン体(5)(151mg、0.37mmol)をジエチルエーテル(4mL)に溶解させた。得られた溶液にフェニルリチウムの1.9Mジエチルエーテル溶液(1.2mL、2.3mmol)を−78℃にて添加した。得られた混合物を、室温下10時間攪拌した。その後、これに、飽和塩化アンモニウム水溶液を慎重に添加した。次いで、酢酸エチルにて抽出し、得られた有機層をかん水(brine)にて洗浄し、Na2SO4にて乾燥させ、次いで濃縮した。得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル=1/1)にて精製し、目的物(6)(214mg、収率88%)を得た。
目的物(6)の物性は以下のとおりであった。
[α]D28 -131.7 (c = 0.98, CHCl3);
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.40-7.15 (20H, m, Ar-H), 6.69 (2H, d, J = 8.4 Hz, Ar-H), 6.60 (2H, d, J = 8.8 Hz, Ar-H), 5.77-5.65 (1H, m, -CH=CH2), 4.84 (1H, d, J = 9.2 Hz, -CH=CHH), 4.78 (1H, d, J = 16.8 Hz, -CH=CHH), 3.87 (2H, d, J = 13.6 Hz, -CHHN-), 3.76 (6H, s, -OCH3), 3.19 (1H, dd, J = 13.6, 4.8 Hz, -NCHHCH-), 2.68 (2H, d, J = 13.2 Hz, -CHHN-), 2.51 (1H, dd, J = 13.4, 8.6 Hz, -NCHHCH-)
【0091】
[工程6] 化合物(6) → 化合物(2−2(S体));8−(ヒドロキシ−ジフェニル−メチル)−1,11−ジメトキシ−6,7−ジヒドロ−5H−ジベンゾ[c,e]アゼピン−4−イル]−ジフェニル−メタノール
ジアルコール体(240mg、0.36mmol)、N,N−ジメチルバルビツゥール酸(256mg、1.6mmol)、Pd(OAc)2(9.5mg、0.042mmol)、及びトリフェニルホスフィン(43mg、0.16mmol)を、ジクロロメタン(4mL)中、アルゴン雰囲気下で、35℃にて15時間攪拌した。その後、これに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、ジクロロメタンにて抽出した。得られた有機層をかん水(brine)にて洗浄し、Na2SO4にて乾燥させ、次いで濃縮した。得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル=1/2)にて精製し、目的物(2−2(S体))(200mg、収率90%)を得た。
目的物(2−2(S体))の物性は以下のとおりであった。
[α]D29 -71.6 (c = 1.1, CHCl3);
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.40-7.20 (20H, m, Ar-H), 6.72 (2H, d, J = 8.8 Hz, Ar-H), 6.64 (2H, d, J = 8.8 Hz, Ar-H), 3.88 (2H, d, J = 12.8 Hz, -CHH-), 3.79, (6H, s, -OCH3), 2.77 (2H, d, J = 12.8 Hz, -CHH-)
【0092】
[実施例2]不斉共役付加反応によるジ−t−ブチル 2−(2−ベンジル−3−ヒドロキシプロピル)マロネートの製造
【0093】
【化13】

【0094】
文献(Chem. Commun. 2010, 1715.)記載の方法で合成したジ−t−ブチルメチリデンマロネート(30.5mg、0.13mmol)と、3−フェニルプロパナール(53μL、0.40mmol)とを、ジエチルエーテル中、0℃にて攪拌した。続いて、混合溶液中に光学活性アゼピン化合物(2−2(S体))(8.3mg、0.013mmol)を添加した。その後、0℃にて4時間攪拌し、メタノール(1.0mL)と水素化ホウ素ナトリウム(50mg)を順次加えた。室温にて30分間激しく攪拌し、その後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えた。得られた混合物を酢酸エチルにて抽出した。得られた有機層をかん水(brine)にて洗浄し、Na2SO4にて乾燥させ、次いで濃縮した。得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル=3/1)にて精製し、目的物ジ−t−ブチル 2−(2−ベンジル−3−ヒドロキシプロピル)マロネート(45.6mg、収率94%、94%ee)を得た。
目的物の物性は以下のとおりであった。
[α]D23 10.4 (c = 1.2, CHCl3; 94% ee);
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.32-7.24 (2H, m, Ar-H), 7.22-7.14 (3H, m, Ar-H), 3.52 (1H, ddd, J = 11.2, 4.8, 4.8 Hz, HOCHH-), 3.44 (1H, ddd, J = 11.2, 5.6, 5.6 Hz, HOCHH-), 3.29 (1H, app t, J = 7.2 Hz, -CH2CH(CO2tBu)2), 2.67 (2H, dd, J = 14.0, 7.6 Hz, PhCHH-), 2.61 (2H, dd, J = 14.0, 6.4 Hz, PhCHH-), 2.01-1.78 (3H, m, HOCH2CHCH2-), 1.46 (9H, s, -C(CH3)3), 1.43 (9H, s, -C(CH3)3)
【0095】
[実施例3〜6]
ジエチルエーテルを表3に示す溶媒に変更した他は実施例2と同じ方法にて、ジ−t−ブチル 2−(2−ベンジル−3−ヒドロキシプロピル)マロネートを得た。結果を表3に示す。得られた目的物のee値は、定法に従って、キラルHPLCカラムを用いて測定した。
【0096】
【表3】

【0097】
[実施例7]
反応温度0℃を−20℃に変更した他は実施例2と同じ方法にて、ジ−t−ブチル 2−(2−ベンジル−3−ヒドロキシプロピル)マロネートを得た。結果を表3に示す。得られた目的物のee値は、定法に従って、キラルHPLCカラムを用いて測定した。
【0098】
[実施例8〜14]
3−フェニルプロパナールを式(a1)で表されるアルデヒド(Rは表4に示す置換基である)に変更し、且つアゼピン化合物(2−2(S体))の量を表4に示す量に変更した他は実施例2と同じ方法にて、ジ−t−ブチル 2−(2−置換−3−ヒドロキシプロピル)マロネートを得た。結果を表4に示す。得られた目的物のee値は、定法に従って、キラルHPLCカラムを用いて測定した。
【0099】
【化14】

【0100】
【表4】

【0101】
[実施例15]
3−フェニルプロパナールを2−イソプロピルエタナールに変更し、且つ反応温度0℃を室温に、反応時間4時間を24時間に変更した他は実施例2と同じ方法にて、ジ−t−ブチル 2−(2−イソプロピル−3−ヒドロキシプロピル)マロネートを得た。結果を表4に示す。得られた目的物のee値は、定法に従って、キラルHPLCカラムを用いて測定した。
【0102】
[実施例16]
3−フェニルプロパナールを式(a2)で表されるアルデヒドに変更した他は実施例2と同じ方法にて不斉共役付加反応(不斉マイケル付加反応)を行った。次いで、ジフェニルメチルアミンを用いて還元的アミノ化を行って、式(b)で表されるアミノ体を得た。得られた目的物のee値は、定法に従って、キラルHPLCカラムを用いて測定した。
【0103】
【化15】

【0104】
[比較例]
本発明のアゼピン化合物に代えて、式(G)で表される化合物を用いた以外は、実施例2と同じ手法で、ジ−t−ブチル 2−(2−ベンジル−3−ヒドロキシプロピル)マロネートを製造した。目的物の収率は、71%、81%eeであった。
【0105】
【化16】

【0106】
これらの結果から、本発明に係るアゼピン化合物またはその塩を不斉触媒として用いると、目的とする光学活性化合物を高収率且つ高光学純度で合成できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表されるアゼピン化合物またはその塩。

〔式(I)中、
1は、それぞれ独立に、無置換の若しくは置換基を有するC1〜6アルキル基、無置換の若しくは置換基を有するC6〜10アリール基、または無置換の若しくは置換基を有するヘテロアリール基を示す。
2は、それぞれ独立に、水酸基、ハロゲン原子、無置換の若しくは置換基を有するC1〜6アルキル基、無置換の若しくは置換基を有するC2〜6アルケニル基、無置換の若しくは置換基を有するC2〜6アルキニル基、無置換の若しくは置換基を有するC1〜6アルコキシ基、または式(III):C(R1)2OHで表される基を示す。
m1は、A環上のR2の数を示し且つ0〜2のいずれかの整数である。m1が2のとき、R2同士は互いに同一であってもよいし、相異なっていてもよい。
n1は、B環上のR2の数を示し且つ0〜3のいずれかの整数である。n1が2以上のとき、R2同士は互いに同一であってもよいし、相異なっていてもよい。
3は、それぞれ独立に、水酸基、ハロゲン原子、無置換の若しくは置換基を有するC1〜6アルキル基、無置換の若しくは置換基を有するC2〜6アルケニル基、無置換の若しくは置換基を有するC2〜6アルキニル基、または無置換の若しくは置換基を有するC1〜6アルコキシ基を示す。
*は、それが付された結合が不斉軸であることを示す。〕
【請求項2】
式(II)で表されるアゼピン化合物またはその塩。

〔式(II)中、
1、R2、およびR3は、式(I)と同じ意味を示す。
m2は、A環上のR2の数を示し且つ0〜2のいずれかの整数である。m2が2のとき、R2同士は互いに同一であってもよいし、相異なっていてもよい。
n2は、B環上のR2の数を示し且つ0〜2のいずれかの整数である。n2が2のとき、R2同士は互いに同一であってもよいし、相異なっていてもよい。
*は、それが付された結合が不斉軸であることを示す。〕
【請求項3】
請求項1若しくは2に記載のアゼピン化合物またはそれらの塩からなる、不斉アルドール反応、不斉マンニッヒ付加反応、不斉ハロゲン化反応、不斉アミノキシル化反応、不斉ヒドロキシアミノ化反応または不斉共役付加反応に用いる触媒。
【請求項4】
請求項1若しくは2に記載のアゼピン化合物またはそれらの塩の存在下に、不斉アルドール反応、不斉マンニッヒ付加反応、不斉ハロゲン化反応、不斉アミノキシル化反応、不斉ヒドロキシアミノ化反応または不斉共役付加反応を行うことを含む、光学活性化合物の製造方法。
【請求項5】
請求項1若しくは2に記載のアゼピン化合物またはそれらの塩の存在下に、α−置換アセトアルデヒドとメチリデンマロネートまたはメチリデンマロノニトリルとの不斉共役付加反応を行うことを含む、光学活性な3−ホルミルアルキルマロネートまたは3−ホルミルアルキルマロノニトリルの製造方法。

【公開番号】特開2012−46481(P2012−46481A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91588(P2011−91588)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】