説明

アゾ化合物の製造方法

【課題】従来より少量のエネルギー消費かつより優れた生産性を有するアゾ化合物の製造方法の提供。
【解決手段】芳香族アミンジアゾニウム塩からなるジアゾ成分と、ナフトール類からなるカップラー成分とをカップリングすることを含むアゾ化合物の製造方法において、主攪拌翼と補助攪拌翼を有する、攪拌装置でカップリングを行うことを特徴とするアゾ化合物の製造方法。必要に応じて更に熟成やレーキ化も同様の特定構造の攪拌翼を有する攪拌装置でカップリングを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来より少量のエネルギー消費かつより優れた生産性を有するアゾ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不溶性アゾ顔料は、カルボキシル基やスルホン酸基を有しない原料を攪拌下においてカップリング反応することで製造される。一方、溶性アゾ顔料は、カルボキシル基やスルホン酸基を有する原料を攪拌下においてカップリング反応を行ってアゾ染料を得た後、このアゾ染料を更に攪拌下に無機多価金属塩でレーキ化することで製造される。これらの反応は、いずれも水系で行われるため、反応液は、通常、顔料水懸濁液となる。こうして得られた顔料水懸濁液は、必要に応じて、熟成の後、更に濾過して湿潤の状態で、或いはまた、この湿潤状態のアゾ顔料を更に乾燥粉砕して、粉末やグラニュールの様な乾燥粉体の状態で、着色剤としての使用に供される。
【0003】
この様な反応を行う際に用いられる攪拌装置に設ける攪拌翼として、従来は、例えば、アンカー翼、タービン翼、パドル翼、ファウドラー翼、マックスブレンド翼(住重機器システム株式会社)、フルゾーン翼(株式会社神鋼環境ソリューション)などがあった。
【0004】
不溶性アゾ顔料やアゾレーキ顔料の前駆体であるアゾ染料を製造する際のカップリング反応においては液体の攪拌混合を行うが、この撹拌混合をどの様な攪拌翼を設けた攪拌装置にて行うかは、試行錯誤に基づき各社各様であり、具体的な公知文献はほとんど知られていない。
【0005】
反応液の攪拌混合方法としては、低速で長時間かけて攪拌を行うという方法もあるが、高速で短時間にて攪拌を行うという方法もあり、一般的に、より少ないエネルギー消費で攪拌をすれば生産性が低下し、一方、優れた生産性を確保しようとすると、エネルギー消費を削減出来ないという、トレードオフの関係にあるとされている。
【0006】
最近では、ジスアゾ顔料については、特許文献1にある様に、攪拌所要動力と攪拌翼先端のシェアレートを特定の範囲となる様にしてカップリング反応を行うことによりアゾ化合物を製造する方法も提案されているが、やはり攪拌によるエネルギー消費は依然としてかなり大きいものであり、少量のエネルギー消費かつより優れた生産性を有するアゾ化合物の製造方法は、未だ知られていない。
【0007】
【特許文献1】特開2006−28341公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者等は、従来より少量のエネルギー消費かつより優れた生産性を有するアゾ化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、マイクロジェット反応器等の新たな設備を導入することなく、極力既存の設備を流用して、従来より少量のエネルギー消費でもってカップリング反応を行いアゾ化合物を生産性高く大量生産するべく鋭意検討したところ、特定形状の攪拌翼の攪拌装置を用いてカップリング反応を行うことで、前記した従来技術の欠点を解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は、芳香族アミンジアゾニウム塩からなるジアゾ成分と、ナフトール類及び/又はアセト酢酸アニリド類からなるカップラー成分とをカップリングすることを含むアゾ化合物の製造方法において、少なくとも、前記カップリングを、攪拌槽内に主攪拌翼と補助攪拌翼とが取り付けられた回転軸を有する攪拌装置内で行い、前記撹拌装置においては、主攪拌翼が、攪拌時に上昇液流を生ぜしめる様に攪拌槽内壁側面との間が離れた末端を有し、かつ、中心軸の最下段に位置するものであって、一方、補助攪拌翼が、垂直或いはその回転に伴って掻き上げる方向に傾斜したスクレーパを攪拌槽内壁側に有し、かつ、該スクレーパに連結して垂直或いは回転に伴って押し下げる方向に傾斜したパドルを有するものであり、更に、上下に隣接する攪拌翼において下の攪拌翼の上端が上の攪拌翼の下端に対して回転軸の回転方向と反対方向に向かって位相のずれを生じるように設置されていることを特徴とするアゾ化合物の製造方法を提供する。
尚、本発明において、中心軸とは回転軸を意味する。また、上下に隣接する攪拌翼において下の攪拌翼とは、より下側にある撹拌翼を意味し、上の攪拌翼とは、より上側にある撹拌翼を意味する。後に詳しく説明するが、上下に隣接する攪拌翼とは、上下に二つの撹拌翼だけを有してそれらが隣接していることのみを意味するのではないことを申し添える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法では、特定形状の攪拌翼の攪拌装置を用いてカップリング反応を行うので、従来より少量のエネルギー消費かつより優れた生産性でアゾ化合物を得ることができるという格別顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明につき詳細に説明する。
本発明の製造方法は、芳香族アミンジアゾニウム塩からなるジアゾ成分と、前記ジアゾニウム塩を構成する芳香族アミン以外の芳香族化合物からなるカップラー成分とをカップリングすることを含むアゾ化合物の製造方法において、少なくとも、前記カップリングを、攪拌槽内に主攪拌翼と補助攪拌翼とが取り付けられた回転軸を有する攪拌装置であって、主攪拌翼が、攪拌時に上昇液流を生ぜしめる様にその末端と攪拌槽内壁側面との間が離れ、かつ、中心軸の最下段に位置するものであって、一方、補助攪拌翼が、垂直或いはその回転に伴って掻き上げる方向に傾斜したスクレーパを攪拌槽内壁側に有し、かつ、該スクレーパに連結して垂直或いは回転に伴って押し下げる方向に傾斜したパドルを有するものであり、更に、上下に隣接する攪拌翼において下の攪拌翼の上端が上の攪拌翼の下端に対して回転軸の回転方向と反対方向に向かって位相のずれを生じるように設置されている攪拌装置内で行うことを特徴とする。
【0013】
本発明においてアゾ化合物とは、−N=N−で表されるアゾ結合を分子内に少なくとも一つ有する化合物の総称である。アゾ化合物には、アゾ染料とアゾ顔料とが包含される。
本発明の製造方法は、公知慣用のアゾ顔料、例えば、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料及び溶性アゾ顔料(以下、溶性アゾ顔料はアゾレーキ顔料と称する場合もある。)等の製造に適用することが出来る。アゾ顔料は、芳香族アミンジアゾニウム塩からなるジアゾ成分と、前記ジアゾニウム塩を構成する芳香族アミン以外の芳香族化合物からなるカップラー成分(以下、両者合わせて単に原料と称する場合がある。)とをカップリング反応させる工程を必須工程として含む製造方法において製造される。
【0014】
不溶性アゾ顔料は、例えば、カルボキシル基やスルホン酸基(以下、水可溶性基と称する。)を有しない原料を攪拌下においてカップリング反応することで製造される。縮合アゾ顔料は、例えば、水可溶性基を有する原料を攪拌下においてカップリング反応し、塩化チオニル等で酸塩化物とした後、第一級ジアミン等と脱塩化水素反応することで製造される。溶性アゾ顔料は、例えば、水可溶性基を有する原料を攪拌下においてカップリング反応を行ってアゾ染料を得た後、このアゾ染料を更に攪拌下に無機多価金属塩でレーキ化することで製造される。
【0015】
アゾ顔料は、必ず、攪拌下において原料をカップリング反応する工程を経由して製造されるから、いずれのアゾ顔料にも、後に詳記する特定の攪拌装置を用いる本発明の製造方法を適用することが出来る。
【0016】
次に本発明の製造方法では、攪拌槽内に主攪拌翼と補助攪拌翼とが取り付けられた回転軸を有する特定の攪拌装置を用いて、ジアゾ成分とカップラー成分とをカップリング反応させる。
【0017】
原料のジアゾ成分及びカップラー成分は、公知慣用の方法に従い容易に調製することが出来る。ジアゾ成分に含まれる芳香族アミンジアゾニウム塩は、例えば、芳香族アミンと亜硝酸塩とを反応させることで得ることが出来る。カップラー成分に含まれる芳香族化合物は、前記ジアゾニウム塩を構成する芳香族アミン以外の芳香族化合物を用いることが出来る。
【0018】
この際の芳香族アミンとしては、例えば、3,3’−ジクロロベンジジン、1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン等の水可溶性基を有さない芳香族ジアミンや、アニリン、p−トルイジン等の水可溶性基を有さない芳香族モノアミン、4−アミノトルエン−3−スルホン酸(4B酸:p−トルイジン−m−スルホン酸)、4−アミノ−2−クロロトルエン−5−スルホン酸(2B酸)、3−アミノ−6−クロロトルエン−4−スルホン酸(C酸)、1−アミノ−4−メチルベンゼン−3−スルホン酸、2−アミノナフタレン−1−スルホン酸(トビアス酸)、1−アミノ−3−メチルベンゼン−4−スルホン酸等の水可溶性基を有する芳香族モノアミンが挙げられる。これらは、異なる二種以上を併用することも出来る。
【0019】
一方、前記ジアゾニウム塩を構成する芳香族アミン以外の芳香族化合物としては、ナフトール類及び/又はアセト酢酸アニリド類が挙げられる。ナフトール類としては、例えば、β−ナフトール、ナフトールAS等の水可溶性基を有さないナフトール類、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(β−オキシナフトエ酸;BON酸)の様な水可溶性基を有するナフトール類が挙げられる。一方、アセト酢酸アニリド類としては、例えば、アセト酢酸アニリドの様なベンゼン環やナフタレン環上に置換基を有さないアセト酢酸アニリド類、アセトアセチルアミノ−ベンズイミダゾロンの様なヘテロ環を有するアセト酢酸アニリド類が挙げられる。勿論、この芳香族化合物としては、上記した例示芳香族化合物のみならずその誘導体、例えば、そのベンゼン環やナフタレン環上の水素原子が低級アルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子で置換された化合物であっても良い。これらは、異なる二種以上を併用することも出来る。
【0020】
芳香族アミンと亜硝酸塩とを水性媒体中にて公知慣用の方法で反応させることで、芳香族アミンジアゾニウム塩を含む水溶液又は水懸濁液からなるジアゾ成分を得ることが出来る。一方、芳香族化合物を塩基の存在下で水性媒体に溶解することで芳香族化合物の水溶液からなるカップラー成分を得ることが出来る。
【0021】
本発明の製造方法を経由して製造することが出来るアゾ化合物としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー12、13、14等の不溶性アゾ顔料、C.I.ピグメントレッド48:1、48:2、48:3、52:1、57:1等の溶性アゾ顔料などが挙げられるが、中でも溶性アゾ顔料が本発明の製造方法においてエネルギー消費の削減効果が高いため好ましく、従来混合性を良くするためにエネルギー消費の高い撹拌を従来は必要としていたC.I.ピグメントレッド57:1が、本発明の製造方法においてエネルギー消費の削減効果が最も顕著であるため特に好ましい。
【0022】
本発明のアゾ化合物の製造方法は、カルボキシル基及び/又はスルホン酸基(水可溶性基)を有する芳香族モノアミンのジアゾニウム塩を含むジアゾ成分、及び、β−ナフトール及び/又はβ−オキシナフトエ酸を含むカップラー成分を用いてカップリング反応を経由して得られるアゾ化合物を製造するのに好適である。
【0023】
本発明においてカップリング反応は、前記した特定の撹拌装置を用いる以外は公知慣用の方法、例えば、前記した各原料を、攪拌槽内に仕込み、前記した攪拌装置にて攪拌することにより行うことが出来る。
【0024】
カップリング反応の方法としては、例えば、以下の様な方法が挙げられる。
(1)カップラー成分を含む水溶液と、ジアゾ成分を含む水溶液又は水懸濁液をそれぞれ調製し、このカップラー成分を含む水溶液を仕込んだ本発明で用いる撹拌槽内に、前記ジアゾ成分を含む水溶液を加えてカップリング反応させる方法。
(2)ジアゾ成分を含む水溶液又は水懸濁液を含む本発明で用いる撹拌槽内に、カップラー成分を含む水溶液を滴下してカップリング反応をさせる方法。
(3)カップラー成分を含む水溶液全量とジアゾ成分を含む水溶液又は水懸濁液全量とを各々別個に複数に分割し、分割された個々の両成分の見掛け注入モル比が一定となる様に、分割された両液を「交互に」、本発明で用いる撹拌槽内の水に加えて両成分全量をカップリング反応させる方法。
(4)カップラー成分を含む水溶液全量とジアゾ成分を含む水溶液又は水懸濁液全量とを、両成分の見掛け注入モル比が一定となる様に、少しずつ両液を「連続的に」本発明の撹拌槽内の水に加えて両成分全量をカップリング反応させる方法。
【0025】
しかしながら、アゾ化合物の単位時間当たりの生産性をより高めることが出来る点で、予め調製しておいたジアゾ成分全量を仕込んだ攪拌槽に対して、カップラー成分全量を一度に加えて攪拌する様にしてカップリング反応させることが好ましい。
【0026】
溶性アゾ顔料の製造のために本発明の製造方法を適用する場合には、まず、水可溶性基を有する芳香族モノアミンのジアゾニウム塩を含んでなるジアゾ成分と、β−ナフトール類及び/又はβ−オキシナフトエ酸を含んでなるカップラー成分とをカップリングさせる。
【0027】
カップリング反応をするための原料である、芳香族アミンジアゾニウム塩と、前記ジアゾニウム塩を構成する芳香族アミン以外の芳香族化合物との攪拌槽への最終仕込み割合は、特に制限されるものではないが、ジアゾニウム塩が芳香族ジアミンのテトラゾニウム塩である場合は、例えば、ジアゾニウム塩:芳香族化合物(モル比)=0.45:1.00〜0.55:1.00、ジアゾニウム塩が芳香族モノアミンのジアゾニウム塩である場合は、例えば、ジアゾニウム塩:芳香族化合物(モル比)=0.95:1.00〜1.00:1.05とすることが出来る。
【0028】
本発明の製造方法においては、前記した様な原料を後記する攪拌装置内の攪拌槽に仕込んでカップリング反応を行う。
【0029】
本発明の製造方法では、攪拌槽内に主攪拌翼と補助攪拌翼とが取り付けられた回転軸を有する攪拌装置であって、主攪拌翼が、攪拌時に上昇液流を生ぜしめる様にその末端と攪拌槽内壁側面との間が離れ、かつ、中心軸の最下段に位置するものであって、一方、補助攪拌翼が、垂直或いはその回転に伴って掻き上げる方向に傾斜したスクレーパを攪拌槽内壁側に有し、かつ、該スクレーパに連結して垂直或いは回転に伴って押し下げる方向に傾斜したパドルを有するものであり、更に、上下に隣接する攪拌翼において下の攪拌翼の上端が上の攪拌翼の下端に対して回転軸の回転方向と反対方向に向かって位相のずれを生じるように設置されている攪拌装置が用いられる。
【0030】
攪拌装置では、攪拌槽内の原料等が主攪拌翼によって発生させられる槽底からの吐出流となって槽壁面を沿って上昇し、次いで中心軸付近で下降するフロ−パタンを形成すると同時に、該循環を相殺することなく補助攪拌翼の有するスクレーパによって剪断混合が行なわれる。
【0031】
先ず、本発明で用いる主攪拌翼は、攪拌時に上昇液流を生ぜしめる様にその末端と攪拌槽内壁側面との間が離れているものであって、全体循環流発生の起点となる強力な吐出力を生ぜしめるものである。
【0032】
ここで主攪拌翼末端と攪拌槽内壁側面との間隔は、攪拌時において上昇液流を生ぜしめる程度に離れていればよいが、なかでも強力な槽内の循環流が得られる点から、攪拌槽内径に対する攪拌翼の中心軸を経由する長さとの比が0.5〜0.9であることが好ましい。
【0033】
従来、エネルギー消費の高い撹拌を必要としていた、C.I.ピグメントレッド57:1の様な溶性アゾ顔料の場合は、混合性の点から、攪拌槽内径に対する攪拌翼の中心軸を経由する長さとの比が0.7〜0.9であることが好ましい。
【0034】
また、その形状は特に限定されるものではないが、やはり吐出力に優れる点から広幅パドルであるであることが好ましい。また、設置場所は中心軸の最下段であるが、槽低壁面に沿うように設けられていることが、上昇液流発生への貢献が大きい点から好ましい。
【0035】
本発明において補助攪拌翼は、主攪拌翼によって生じた上昇液流を相殺することなく、むしろ槽内の全体循環混合性へ寄与するのと同時に、翼の外端と槽との間隔を小さくして、掻き取り、剪断混合を行って、槽壁への付着防止等を行なうものである。すなわち、垂直或いはその回転に伴って掻き上げる方向に傾斜したスクレ−パを攪拌槽内壁側に有し、かつ、該スクレーパに連結して垂直或いは回転に伴って押し下げる方向に傾斜したパドルを有するものである。
【0036】
また、該補助攪拌翼は1段であってもよいが、剪断混合性および循環混合性に優れる点から複数であることが好ましく、例えばその数は2〜5段であることが好ましい。
【0037】
補助攪拌翼の形状に関しては、外端のスクレ−パ部およびこれを内側にて支持するパドル部ともに垂直でもよいが、その回転に伴ってスクレ−パ部が掻き上げる方向に、そしてパドル部は回転に伴って掻き下げる方向に傾斜している方がより好ましい。特に液粘度が低く、慣性流れが支配的な領域では傾斜している形状の方がより優れた混合性を示す。
【0038】
また、本発明は、主攪拌翼および補助攪拌翼からなる複数の攪拌翼における、上下に隣接する攪拌翼において、下の攪拌翼の上端が上の攪拌翼の下端に対して回転軸の回転方向と反対方向に向かって位相のずれを生じるように設置されているので、攪拌槽内の全体循環混合性が著しく優れたものとなる。とりわけ、液粘度が高く、慣性力の伝播が困難な領域に於いて全体循環混合性に極めて大きな寄与を示す。
【0039】
即ち、例えば攪拌翼間の位相差を0度とした場合には、槽内の液全体が一つの固体的回転をしてしまい混合性が著しく低下してしまう現象が起こり易くなる。本発明に於ける攪拌翼間の位相差によってもたらされる循環混合性の作用を詳述すると、即ち回転している攪拌翼は、常にその前面には正圧が、そして後面には負圧が生じている。この際、隣接する下段の攪拌翼の上端が回転方向と逆方向に位相をずらして、即ち後追いになるように存在していれば、下段の攪拌翼の前面と上段の攪拌翼の後面との間に圧力勾配が生じ、攪拌槽壁面近辺ではより効率的に液を上部に運ぶことができるのである。勿論、中心軸付近において下降する流れに対してはこの位相差は相殺する作用を持つことが予想されるが、中心軸付近のパドル〜パドル間の間隔は、スクレ−パ同士のそれに比べてはるかに広く、問題とはならない。
【0040】
また、位相差に関しては特に限定されるものではなく、隣接する上下の攪拌翼が上段攪拌翼下端先行・下段攪拌翼上端後行の関係を有する位置にあればよいが、具体的には10度から70度、より好ましくは、10度から45度の範囲であることが好ましい。これは、攪拌装置が、10〜70度より好ましくは10〜45度の位相のずれを生じるように設置された攪拌翼を有する攪拌装置であることを意味する。
【0041】
特にスクレ−パ部で上段翼と下段翼は近接していることが、全体循環混合性の効果は大きいことから好ましい。
【0042】
原料の仕込み方法は、攪拌槽に原料を仕込んでから攪拌翼を攪拌装置にセットしても良いし、逆に、攪拌槽に攪拌翼をセットした攪拌装置に原料を仕込んでも良い。
【0043】
本発明の製造方法において、ジアゾ成分やカップラー成分が、水溶液や水懸濁液である場合には、その原料濃度(有効成分含有率)や系内のアゾ化合物の増加(原料の減少)によって、系内の粘度が経時的に変化する。アゾ化合物の生産性だけを高める場合には、エネルギー消費を無視しても良いが、本発明では従来よりも少量のエネルギー消費で生産出来る様にするために、系内の粘度を、想定されるアゾ化合物の最終到達濃度にて制御することが好ましい。
【0044】
即ち不溶性アゾ顔料や、溶性アゾ顔料の前駆体であるレーキ化前のアゾ染料の様な、カップリング反応により生成するアゾ化合物の得量を多くした上で、従来よりも少量のエネルギー消費かつ優れた生産性を兼備させるには、攪拌槽中の仕込み成分全量に対して、カップリング反応により生成するアゾ化合物が、質量換算で最終到達濃度2〜10%となる様に、ジアゾ成分とカップラー成分の各原料を仕込むことが好ましい。ここで最終到達濃度とは、アゾ化合物の得量が攪拌しても変化しなくなった時の濃度をいう。
【0045】
カップリング反応の反応率は、主にジアゾ成分とカップラー成分の混合物の粘度により変化する。最終到達濃度が2%よりも低い場合には、粘度がもともと低水準にあり、本発明の攪拌装置を用いてカップリング反応を行っても、攪拌による消費エネルギーの削減程度は小さくなるので好ましくない。
【0046】
本発明の製造方法において、このカップリング反応は、例えば、温度0〜50℃となるように設定し、5分〜2時間撹拌のもとに行うことが好ましい。
【0047】
こうして得られた不溶性アゾ顔料は、濾過、洗浄し、必要に応じて乾燥、粉砕、分級することで、被着色媒体の着色に使用することが出来る。
【0048】
一方、溶性アゾ顔料は、上記不溶性アゾ顔料と同様にしてカップリング反応を行い、アゾ化合物として水可溶性基を有するアゾ染料を製造した後、次いで、この水可溶性基を有するアゾ染料と、無機多価金属塩とを攪拌下に反応させてレーキ化を行うことで製造することが出来る。
【0049】
本発明において特定の撹拌装置内で原料のカップリングを行う場合は、不溶性アゾ顔料の場合でも、溶性アゾ顔料の場合でも同様に、撹拌槽に仕込まれた原料が均一になる様に撹拌を行えば良いが、本発明で用いる特定の撹拌装置は、撹拌効率が従来よりも優れるため、所要動力0.1以上1.0kw/m未満で5〜60分間、更には溶性アゾ顔料の場合には0.1〜0.9kW/mかつ5〜30分の範囲内で反応を行うことで、レーキ化前のアゾ化合物を製造することが出来る。本発明の製造方法においては、少なくともこのカップリングを前記した条件にて行うことが好ましいが、このカップリングだけなく、後記する様な熟成やレーキ化が必要な場合において、これらの工程の少なくとも一つの工程を、同様に、所要動力0.1以上1.0kw/m未満で5〜60分間撹拌を行っても良い。
【0050】
アゾ化合物は、ロジン類やワックス類の様な処理剤で被覆することも出来る。本発明で製造するアゾ化合物が、C.I.ピグメントレッド57:1の様な溶性アゾ顔料の場合、例えば、アビエチン酸を主成分とするロジン、水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、フマル酸変性ロジン、マレイン酸変性ロジンからなる群から選ばれる少なくとも一種のロジン類を、その製造の任意工程で併用することが出来る。こうして得られたロジン類を含有する顔料からは、透明性や着色力に優れた平版印刷用インキを得ることが出来るので好ましい。
【0051】
ロジン類は、本発明の製造方法の任意の工程において、系内に含めることが出来る。ロジン類を予めカップラー成分に含めておいても良いし、本発明で用いる撹拌槽内に含めてもおいて良い。更に、溶性アゾ顔料の前駆体であるアゾ染料の水溶液又は水懸濁液に対して加えても良い。
【0052】
レーキ化において用いることが出来る無機多価属塩としては、例えば、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化ストロンチウム等が挙げられる。水可溶性基を有するアゾ染料の一分子中の水可溶性基個数と、無機多価金属塩の金属イオンの価数に応じて、無機多価金属塩の使用量は適宜調節すれば良い。少なくとも、水可溶性基を有するアゾ染料の一分子中の水可溶性基を塩となすのに必要な量の無機多価金属塩を用いることが好ましい。
【0053】
レーキ化反応は、例えば、温度0〜50℃となるように設定し、10分〜3時間撹拌のもとに行うことが好ましい。
【0054】
本発明の製造方法に従って、溶性アゾ顔料を製造する場合、カップリング反応とレーキ化反応とは、別個の攪拌槽にて行うことも出来るが、余分な攪拌槽を準備する必要がなく、反応液の移し替えによる得量の減少や、移し変えのための工程時間やエネルギー消費を必要とすることなく、単位時間当たりの生産性を更に高められる点で、カップリング反応とレーキ化反応とを同一の攪拌槽において行うこと(部分ワンポット法)が好ましい。
【0055】
本発明において好適な溶性アゾ顔料の製造方法は、カルボキシル基及び/又はスルホン酸基(水可溶性基)を含有する芳香族モノアミンのジアゾニウム塩と、β−ナフトール及び/又はβ−オキシナフトエ酸とを前記した様にしてカップリングさせて、カルボキシル基及び/又はスルホン酸基(水可溶性基)を含有するアゾ化合物を製造した後、次いで、カップリングしたのと同一の攪拌装置にて、このカルボキシル基及び/又はスルホン酸基(水可溶性基)を含有するアゾ化合物と、無機多価金属塩とを攪拌下に反応させてレーキ化を行う溶性アゾ顔料の製造方法である。
【0056】
本発明の製造方法に従って得られた、不溶性アゾ顔料、溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料等のアゾ化合物は、更に熟成を行うことで、顔料粒子の表面状態を一定にしたり、顔料粒子のアスペクト比を変化させたり、顔料粒子の粒子径分布を狭くしたり、結晶型を制御して、必要とされる用途での適性をより向上させることが出来る。
【0057】
この熟成は、例えば、界面活性剤、水溶性塩基の存在下で所定温度で加熱することにより行うことが出来る。具体的には、例えば、温度60〜100℃となるように設定し、10分〜3時間撹拌のもとに行うことが好ましい。
【0058】
溶性アゾ顔料を含む懸濁液に対する熟成は、懸濁液の液性を酸性〜アルカリ性に調製して行うことが出来るが、液性をpH11〜14で熟成を行うと、より一層粒子形態を整える効果が向上するので好ましい。
【0059】
また、レーキ化反応の場合と同様な理由で、この熟成は、レーキ化反応に用いた攪拌槽と同一の攪拌槽において行うこと(部分ワンポット法)が好ましい。即ち得られたアゾ化合物の熟成をカップリング反応で用いたのと同一の攪拌槽内で行うことが好ましい。中でも、特にカップリング反応、レーキ化反応及び熟成の全てを同一の攪拌槽において行うこと(フルワンポット法)が、消費エネルギー削減及び生産性向上の点からは、最適である。この最適な製造方法は、カップリング反応、レーキ化反応及び熟成の全ての工程を、前記した特定の撹拌装置内にて行うものであり、消費エネルギーを顕著に削減することが出来る。
【0060】
こうして得られた溶性アゾ顔料は、濾過、洗浄し、必要に応じて乾燥、粉砕、分級することで、被着色媒体の着色に使用することが出来る。
【0061】
本発明の製造方法で得られたアゾ化合物は、そのままアゾ顔料として、或いはアゾ顔料の前駆体であるアゾ染料として、印刷インキ、塗料、成形品の各種着色の用途、インクジェット記録用インク、静電荷像現像用トナー、液晶カラーフィルタの調製等に用いることが出来る。
【0062】
図1は、実施例で用いた、攪拌槽5内に上段翼と中段翼と下段の幅広のボトムパドル2とが取り付けられた回転軸1を有する攪拌装置である。この図1では、幅広のボトムパドル2が主撹拌翼20であり、中段翼と上段翼が補助撹拌翼30である。この攪拌装置は、円筒形の攪拌槽5と、その槽内部の中心部に、上段翼、中段翼、下段のボトムパドル2の順に配置された中心軸からなっている。この翼配置は、軸中心の回転方向を、上面から見て時計回りとすることを前提としたものである。
【0063】
この配置において、上段と中段の攪拌翼は、攪拌槽5の内壁側面との間が離れた末端を各々有し、アルファベットTの字を横転させた形のスクレーパ4とそれに隣接するパドル3とで1枚の翼が形成され、これが2枚対で攪拌翼を形成している。攪拌翼はいずれも、回転に伴って掻き上げる方向に傾斜したスクレーパ4を攪拌槽5の内壁側に有し、かつ、該スクレーパ4に連結して回転に伴って押し下げる方向に傾斜したパドル3を有するものである。更に、上下に隣接する攪拌翼において、下の攪拌翼の上端が上の攪拌翼の下端に対して回転軸の回転方向と反対方向に向かって30°の位相のずれを生じるように設置されている。図1において、中段翼が、上段翼に比べて大きく図示されているのは、両者に位相のずれがあることを意味している。尚、中段翼も上段翼も、いずれも攪拌槽5の内径と攪拌翼の中心軸を経由する長さとの比が0.85となるように設計されたものを用いるようにした。
【0064】
攪拌翼の回転に伴って、スクレーパ4は、ジアゾ成分とカップラー成分との混合物の槽内上方への押し上げを促進し上昇液流を形成する。この上昇液流は、中心軸付近で下降液流となる。また攪拌翼の回転に伴って、パドル3は、ジアゾ成分とカップラー成分との混合物の槽内下方への押し下げを促進する。パドル3とスクレーパ4とがいずれも傾斜している方が、いずれも垂直であるよりも混合性により優れる。更に、図1の装置では上段翼と中段翼とが位相のずれをもって配置されているので、一つの攪拌翼のみを用いて攪拌を行う場合より、混合性が高められる。
【0065】
また下段のボトムパドル2は、その槽内壁側面に近い両端部分が、いずれも回転方向と逆に45°に曲げられ、攪拌に伴う抵抗を低減させている。ボトムパドル2は、例えば、ジアゾ成分とカップラー成分との混合物が槽内下部に滞留しない様にするためのものである。
【0066】
槽内において、ボトムパドル2により攪拌された槽底部のジアゾ成分とカップラー成分との混合物は、中段翼のスクレーパ4及び上段翼のスクレーパ4で槽上方に押し上げられ、一方で、槽上部のジアゾ成分とカップラー成分との混合物は、上段翼のパドル3及び中段翼のパドル3で槽下方に押し下げられるというフローパタンを描き、これにより槽内の混合物の混合性が高まり、カップリング反応が、より円滑かつ均一となる。
【0067】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、文中、部又は%とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【実施例1】
【0068】
4−アミノトルエン−3−スルホン酸34.8部を水50部に分散後、35%塩酸22.2部を加え、氷および水を加えて0℃に保ちながら40%亜硝酸ナトリウム水溶液32.5部を一気に加え、ジアゾ成分を含む懸濁液650部を得た。次に3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸35.9部を50℃の水400部に分散後、25%苛性ソーダ水溶液69部を加えて溶解させた後、氷および水を加えて10℃のカップラー成分を含む水溶液980部を得た。
【0069】
このカップラー成分を含む水溶液全量を、内容積2リットルの円筒形攪拌槽5に仕込み、図1の様に各撹拌翼をセットした回転軸1を攪拌槽の中心に配置し、その回転軸1を動力装置に固定して、攪拌装置をセットした。次いで、この回転軸1を100rpmの回転数で回転させて、カップラー成分を含む水溶液を撹拌しながら、これに前記ジアゾ成分を含む懸濁液全量を一気に加えた。反応温度は、10℃〜15℃に保った。10分後、下記のH酸呈色試験でカップリング反応の終了を確認した。そこに、10%不均化ロジンナトリウム塩の水溶液147部を添加し、さらに60分攪拌後、pH12.5に調整してアゾ染料懸濁液を得た。このジアゾ成分を含む懸濁液の添加終了後からカップリング反応終了までのカップリングにおける所要動力は、0.1〜0.9kw/mの範囲内であった。
【0070】
このアゾ染料懸濁液の入った攪拌槽5に35%塩化カルシウム水溶液80部を加え、60分攪拌してレーキ化反応を終了させ、C.I.ピグメントレッド57:1を含む懸濁液を得た。この懸濁液を、80℃で90分間加熱しつつ攪拌し熟成を行った。
【0071】
レーキ化及び熟成のいずれの工程においても、攪拌翼の回転速度はカップリング反応時のそれと同一とし、カップリング反応、レーキ化反応及び熟成の全てを、槽を入れ替えることなく、連続的に、同一の攪拌槽5において行った。
【0072】
氷を加え、液温を60℃まで冷却後、塩酸を用いてpHを8.5に調整した。その後、濾過、水洗、100℃で10時間乾燥し、粉砕して、C.I.ピグメントレッド57:1の乾燥顔料粉末93部を得た。
【0073】
(H酸呈色試験)1−アミノ−8−ナフトール−3,5−ジスルホン酸(H酸)を含む希水酸化ナトリウム水溶液を呈色試薬(発色試薬)として用いた。そして、カップリング反応液との反応呈色がない時点をカップリング反応の終点とした。
【実施例2】
【0074】
カップリング及びレーキ化の工程だけを実施例1と同様に行い、熟成を後記する比較例1における図2の撹拌装置内で行った以外は、実施例1と同様の操作を行った。実施例1に比べれば、消費電力が少し高くなったが、後記する各比較例ほどの消費電力とはならなかった。
【実施例3】
【0075】
カップリング工程だけを実施例1と同様に行い、レーキ化及び熟成を後記する比較例1における図2の撹拌装置内で行った以外は、実施例1と同様の操作を行った。実施例2に比べれば、消費電力が高くなったが、それでも後記する各比較例ほどの消費電力とはならなかった。
【0076】
比較例1
実施例1と同様にジアゾ成分を含む懸濁液とカップラー成分を含む水溶液を得た。実施例1の撹拌翼に代えて図2に示した従来型攪拌翼20aとした反応装置に、このカップラー成分を仕込み、前記撹拌翼を300rpmの回転数で撹拌しながら、これに前記ジアゾ成分を含む懸濁液を加えた。反応温度は、10℃〜15℃に保った。50分後、H酸呈色試験でカップリング反応の終了を確認した。このジアゾ成分を含む懸濁液の添加終了後からカップリング反応終了までのカップリングにおける所要動力は、0.1〜3.0kw/mの範囲内であった。
そこに、10%不均化ロジンナトリウム塩の水溶液147部を添加し、さらに60分攪拌後、pH12.5に調整してアゾ染料懸濁液を得た。
【0077】
このアゾ染料懸濁液を用いて、レーキ化及び熟成については、図2に示した攪拌翼とした反応装置を用いて実施例1と同様に操作を行い、C.I.ピグメントレッド57:1の乾燥顔料粉末93部を得た。
【0078】
比較例2
実施例1と同様にジアゾ成分を含む懸濁液とカップラー成分を含む水溶液を得た。実施例1の撹拌翼に代えて図3に示したフルゾーン翼20bとした反応装置に、このカップラー成分を仕込み、前記撹拌翼を300rpmの回転数で撹拌しながら、これに前記ジアゾ成分を含む懸濁液を加えた。反応温度は、10℃〜15℃に保った。40分後、H酸呈色試験でカップリング反応の終了を確認した。このジアゾ成分を含む懸濁液の添加終了後からカップリング反応終了までのカップリングにおける所要動力は、0.1〜1.5kw/mの範囲内であった。
そこに、10%不均化ロジンナトリウム塩の水溶液147部を添加し、さらに60分攪拌後、pH12.5に調整してアゾ染料懸濁液を得た。
【0079】
このアゾ染料懸濁液を用いて、レーキ化及び熟成については、図3に示した攪拌翼とした反応装置を用いて実施例1と同様に操作を行い、C.I.ピグメントレッド57:1の乾燥顔料粉末93部を得た。
【0080】
実施例1、比較例1および2における、ジアゾ成分を含む懸濁液の添加終了後からカップリング反応終了までのカップリング反応時間を表1に示す。
【0081】
表1(カップリング反応時間)
【0082】
【表1】

【0083】
本発明の製造方法における実施例1のカップリング反応終了時間は、比較例1および2における反応時間に比べて、著しく短く、混合性に優れていた。また前記した通り、実施例1の撹拌に要する所要動力は、比較例1および2における所要動力に比べて、著しく小さいため、実施例1の製造方法では、トータルの消費電力も、大幅に削減されることが見込まれる。
【0084】
比較例1のカップリング反応開始から終了までの消費電力を100とした場合における、実施例1および比較例2の消費電力を表2に示す。
【0085】
表2(カップリング反応工程の消費電力)
【0086】
【表2】

【0087】
実施例1のカップリング反応工程における消費電力は、比較例1および2のそれらに比べて、著しく小さく、省エネルギーな製造方法であることが明らかである。
本発明の製造方法によれば、一般的にはトレードオフの関係にあるとされていた、低エネルギー消費と高生産性とを上手く兼備させて、不溶性アゾ顔料や、溶性アゾ顔料の前駆体であるアゾ染料の様なアゾ化合物を製造することが出来る。
【0088】
実施例1の様に、C.I.ピグメントレッド57:1をフルワンポット法にて製造する場合には、レーキ化および熟成がカップリングと同様の攪拌装置にて行われる。このレーキ化だけの単工程において、比較例1の塩化カルシウム水溶液を添加後60分間の消費電力を100とした場合における、実施例1および比較例2の消費電力を表3に示す。
【0089】
表3(レーキ化反応工程の消費電力)
【0090】
【表3】

【0091】
実施例1のレーキ反応工程における消費電力は、その単工程だけをとって見ても、比較例1および2のそれに比べて、著しく小さく、省エネルギーとなっていることがわかる。
【0092】
このことから、不溶性アゾ顔料に比べて、それにないレーキ化工程を含む製造工程数の多い溶性アゾ顔料には、好適な部分ワンポット法や最適なフルワンポット法による本発明の製造方法を適用すると、反応槽の生成物の移し変えによる得量減少や移し変え自体に要するエネルギー消費を削減出来るばかりでなく、最終的な顔料が製造させるまでのトータルの生産性を一段と高めかつエネルギー消費は一段と抑制することが可能となることが明らかである。
【0093】
試験例1
実施例1、比較例1および比較例2で得られたC.I.ピグメントレッド57:1の乾燥顔料粉末(以下、顔料)6部、ロジン変性フェノール樹脂を含有する平版印刷インキ用ビヒクル39部、軽油5部をビュラー社の3本ロールにて40℃、圧縮圧15バールで、まず2本ロールで5分間分散させた後、3本ロールに3回パスし分散させて模擬平版印刷インキ(ドライヤーを含める前の平版印刷インキ)を調製した。
【0094】
(着色力)
各模擬平版印刷インキ0.2部と白インキ2.0部(酸化チタン)を混ぜ合わせ淡色インキを作製した。各インキの着色力をグレタグ(GRETAG Limited製)により判定した。比較例1の模擬平版印刷インキの着色力を100とした場合における、実施例1及び比較例2のインキの着色力を数字で表4に示した。
【0095】
次に、各模擬平版印刷インキを用いて、インキ中の顔料の分散性とインキの着画像の透明性を評価した。その結果を表4に示した。分散性と透明性の評価方法と評価基準は下記の通りである。
【0096】
(分散性)
グラインドゲージを用いて各模擬平版印刷インキの分散性を評価した。
◎:特に良好 ○:良好 △:やや良好 ×:劣る
【0097】
(透明性)
各模擬平版印刷インキを展色し、着色画像の透明性を目視により判定した。
◎:特に良好 ○:良好 △:やや良好 ×:劣る
【0098】
表4
【0099】
【表4】

【0100】
表4から、本発明によって得られたアゾ化合物を用いて、従来と同等の着色力、透明性および分散性を有する印刷インキを調製することが出来ることが明らかとなった。
【0101】
本発明の製造方法によれば、従来とは異なる特定形状の攪拌翼を有する攪拌装置にて少なくともカップリング反応を行ってアゾ化合物を製造するため、従来と同等の着色力、透明性および分散性を有する印刷インキを調製することが出来る溶性アゾ顔料の様なアゾ化合物を、従来の知見では一見相反すると思われていた低エネルギー消費と高生産性とを上手く兼備させながら製造することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】実施例1で用いた攪拌装置の側面図である。
【図2】比較例1で用いた、特定形状の撹拌翼を有する攪拌装置の側面図である。
【図3】比較例2で用いた、フルゾーン翼を撹拌翼として有する攪拌装置の側面図で ある。
【符号の説明】
【0103】
1 回転軸
2 ボトムパドル
3 パドル
4 スクレーパ
5 攪拌槽
20 主攪拌翼
30 補助攪拌翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族アミンジアゾニウム塩からなるジアゾ成分と、前記ジアゾニウム塩を構成する芳香族アミン以外の芳香族化合物からなるカップラー成分とをカップリングすることを含むアゾ化合物の製造方法において、少なくとも、前記カップリングを、攪拌槽内に主攪拌翼と補助攪拌翼とが取り付けられた回転軸を有する攪拌装置内で行い、前記撹拌装置においては、主攪拌翼が、攪拌時に上昇液流を生ぜしめる様に攪拌槽内壁側面との間が離れた末端を有し、かつ、中心軸の最下段に位置するものであって、一方、補助攪拌翼が、垂直或いはその回転に伴って掻き上げる方向に傾斜したスクレーパを攪拌槽内壁側に有し、かつ、該スクレーパに連結して垂直或いは回転に伴って押し下げる方向に傾斜したパドルを有するものであり、更に、上下に隣接する攪拌翼において下の攪拌翼の上端が上の攪拌翼の下端に対して回転軸の回転方向と反対方向に向かって位相のずれを生じるように設置されていることを特徴とするアゾ化合物の製造方法。
【請求項2】
攪拌装置が、10〜70度の位相のずれを生じるように設置された攪拌翼を有する攪拌装置である請求項1記載のアゾ化合物の製造方法。
【請求項3】
更に、得られたアゾ化合物の熟成をカップリング反応で用いたのと同一の攪拌槽内で行う請求項1または2に記載のアゾ化合物の製造方法。
【請求項4】
ジアゾ成分が、カルボキシル基及び/又はスルホン酸基を有する芳香族モノアミンのジアゾニウム塩であり、かつ、カップラー成分が、β−ナフトール及び/又はβ−オキシナフトエ酸である請求項1〜3のいずれか一項に記載のアゾ化合物の製造方法。
【請求項5】
所要動力0.1〜0.9kw/mで5〜30分間撹拌を行う請求項1〜4のいずれか一項に記載のアゾ化合物の製造方法。
【請求項6】
カルボキシル基及び/又はスルホン酸基を含有する芳香族モノアミンのジアゾニウム塩と、β−ナフトール及び/又はβ−オキシナフトエ酸とを請求項1〜3のいずれか一項のアゾ化合物の製造方法に従ってカップリングさせて、カルボキシル基及び/又はスルホン酸基を含有するアゾ化合物を製造した後、次いで、カップリングしたのと同一の攪拌装置にて、このカルボキシル基及び/又はスルホン酸基を含有するアゾ化合物と、無機多価金属塩とを攪拌下に反応させてレーキ化を行う、アゾ化合物の製造方法。
【請求項7】
更に、得られたアゾ化合物の熟成を、カップリング反応及びレーキ化反応で用いたのと同一の攪拌槽内で行う請求項6記載のアゾ化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−7768(P2008−7768A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146795(P2007−146795)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(599132580)ディックテクノ株式会社 (20)
【Fターム(参考)】