説明

アッセイ装置および生物学的アッセイを行う方法

反応チャンバと複数組のコード付与されたマイクロキャリア2とを含むマルチアッセイ装置が提供される。反応チャンバはマイクロチャネル1から構成される。マイクロキャリアの長手方向の動きは制約されている。マイクロキャリア2はマイクロチャネルの外形に関係した形状を有し、該形状はマイクロチャネル1の全長にわたって、互いに接することなくかつマイクロチャネル1の周縁に接することなく並んで存在する少なくとも2つのマイクロキャリア2を含むことができ、好適にはこれらが反応チャンバ内で観察可能であるように構成されている。また、マイクロキャリア2を用いるマルチアッセイを行う方法が提供され、該方法は物質移動を向上し、アッセイの用意と実行とを簡単にし、生物学的反応の読み取りとマイクロキャリア2の識別とを容易にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライフサイエンス産業におけるアッセイ技術に関し、特に、診断、ゲノム研究および分子生物学に用いられるマルチアッセイに関する。本発明は、微細加工テクノロジーならびに半導体テクノロジーの技術およびプロセスを用いる。
【背景技術】
【0002】
生物学的アッセイにより、生体サンプル中の標的分子を検出できる。典型的には、標的分子の検出は、特定の標的に結合するよう設計された検出分子(リガンド)によって機能化された固相表面(たとえばマイクロアレイまたはウェルの底)またはナノキャリアやマイクロキャリア構造を用いることにより行われる。
【0003】
生物学的アッセイテクノロジーにおける1つの課題は、アッセイ中の物質移動の高速化である。物質移動の問題はマルチアッセイにおいてより重要である。マルチアッセイでは、シングルアッセイにおけるよりも各プローブの相対密度が低いため、多数の標的分子が1つの生体サンプル中で同時に探されることとなる。
【0004】
物質移動における制約を克服するため、マイクロチャネル中でマルチアッセイを行い、標的とプローブとの間の拡散距離を小さくする種々の構成が報告されている。たとえば、J.K.-K. Ng et al (2007), Anal. Chem Acta 582, pp. 295-303には、ビオチン−ストレプトアビジン結合を介してオリゴヌクレオチドにより機能化されたマイクロビーズを備えるマイクロ流体装置が開示されている。このマイクロ流体装置は、その断面が変化しかつ単層に配列されたマイクロビーズをトラップする堰を有する広いチャンバを備えている。異なるマイクロビーズの組が、機能を有しないスペーサビーズによって隔てられて、順に導入されている。当該文献の図5aに見られるように、マイクロビーズはスペーサの組の粒子との粒子混合のために境界が定義できない大きなグループを形成する。ビーズは互いを区別する特性(サイズ、形状またはコード)を有していないので、異なる組の境界はわからず、境界はサンプル中の分析物の存在を検出することによるアッセイの後にのみ明らかとなる。したがって、サンプル中の複数の標的の有無を高い信頼性で決定することができないため、J.K.-K. Ngらにより報告された構成はマルチアッセイに適したものではない。たとえば、連続した組に対応するサンプル中に複数の分析物が存在しない場合、マイクロチャネル全体について信号は記録されない。したがって、この部分のいくつの組が実際に対応しているのかを明確にすることは困難である(すなわち、いくつの分析物が実際に存在していないのかについて何も示されない)。これらの組の並びを高い信頼性で確立することができないため、この連続した組と反応する後続の分析物の識別を行うことも困難であり、不可能なことさえある。
【0005】
EP1712282A2、WO00/061198A1およびWO2004/025560A1には、マイクロチャネル内の動きが制約される、マイクロチャネル内に配置されたマイクロキャリア要素を有する構成が開示されている。アッセイは流体を流すことにより行われる。拡散距離が小さくマイクロキャリアに対するサンプルの動きが標的分子を受容体分子の近くへと運ぶため、このタイプの構成は物質移動に効果的である。また、このタイプの構成は必要な試薬の量を減らすのでコストを低減させる。
【0006】
しかし、EP1712282A2およびWO00/061198A1において、マイクロチャネル内のマイクロキャリアの並びがマイクロキャリアの身元を定めるものであるため、マイクロキャリアの並びが非常に重要である。WO00/061198A1において、マイクロキャリアはマイクロチャネル中の並びがEP1712282A2におけるほど重要でないようにコード付与される。さらに、WO2004/025560A1は、その識別を可能とするためにマイクロキャリアのコードの特定的な配置を必要とする、提案されるコード解析機構の要求を満たすための、マイクロキャリアが正確に整列される構成を開示するのみである。
【0007】
EP1712282A2、WO00/061198A1およびWO2004/025560A1に記載の構成は、コード解析のためにその並びを制御するかまたは並びを配列するために、マイクロキャリアを狭い空間に高度に調節して導入する必要があるので、現実に用意することは簡単ではない。このような構成を実現するには、顕微鏡、顕微操作(顕微鏡で操作される力の使用)および/または微細加工技術を含む特殊な方法および特殊な設定が必要とされる。
【0008】
実際には、WO00/061198A1に記載されるような個々のマイクロキャリアの複雑な顕微操作あるいは各キャリアの正確な位置を制御する必要がない場合には、WO2004/025560A1に記載されるようなバルクから小さなマイクロチャネルにこれらをガイドするある種の漏斗機構のいずれかを含むなんらかのプロセスにより、マイクロキャリアをマイクロチャネル内に導入する必要がある。この漏斗機構は現実には比較的簡単に構築できるが、マイクロチャネルの入り口にアーチが形成されることによる詰まりが生じやすい(図14および15)。漏斗を用いるアプローチの他に、WO2004/025560A1には、溝を有する下方プレート上にビーズが配置されたサンドイッチ構造を用いるアプローチによる、アッセイスティックの作成が提案されている。その後、上方プレートが上に載せられ、下方プレートに取り付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】EP1712282A2
【特許文献2】WO00/061198A1
【特許文献3】WO2004/025560A1
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J.K.-K. Ng et al (2007), Anal. Chem Acta 582, pp. 295-303
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術に記載の構成の用意は複雑であり、実用的には、研究者が当該構成を用いて研究用途に柔軟な構成を作成する可能性は低い。たとえば、(たとえば開発中の生物学的プローブを試験するために)マイクロキャリアに自分の生化学的コーティングプロセスを用い、かかるコーティングプロセスを構成に導入して生物学的アッセイを行いたい研究者が、カスタムメイドの構成の用意できるようにすることは非常に困難である。
【0012】
したがって、マイクロキャリアに基づいた生物学的マルチアッセイにおける物質移動を改善し、そして、構成(setup)を用意し、生物学的アッセイを実行し、必要な読み取りを行うという全体の工程を簡略化できるアッセイ装置および方法が当該分野において必要とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、物質移動の向上、および、生物学的マルチアッセイを用意しおよび実行する工程の簡略化を可能とする装置および方法、特に、マルチアッセイ用の装置および方法を提供することを一般的な課題とする。
【0014】
本発明は、複数のコード付与されたマイクロキャリア(すなわち、その表面に結合されたリガンドを有するマイクロパーティクル)の組を同時に含む反応チャンバとしてのマイクロチャネルを提供する。マイクロチャネルの断面に関連したマイクロキャリアの形状およびサイズは、マイクロチャネルの全長にわたって、マイクロチャネルの長手方向に移動するときに、たとえば充填中に、互いに接することなくかつマイクロチャネルの周縁に接することなく隣り合って存在する少なくとも2つの任意のマイクロキャリアを含むことが可能なように構成されている。好適には、マイクロキャリアはマイクロチャネル内で観察可能である。また、この構成は、流体を流す一方で、マイクロチャネル内のマイクロキャリアの長手方向の動きを制約する手段を有している。典型的には1つまたは複数の標的分子を有する生物学的サンプルは、閉じこめられたまたは固定化されたマイクロキャリアを通して流され、このためマイクロキャリアは生物学的サンプルの流れに従わない。マイクロキャリアに対するサンプルの動きによって、標的分子は受容体分子の近くに運ばれ、結合の機会が増し、したがって物質移動を行うのに必要な時間が減少する。アッセイの実行にかかわらずかつマイクロキャリアの位置にかかわらずに、異なる組を区別するため、マイクロキャリアは、コードがその機能を示すようにコード付与される。
【0015】
本発明の重要な態様は、構成の用意を容易にするための、マイクロチャネルの断面に関連したマイクロキャリアの相対的形状およびサイズにおけるものである。EP1712282A2、WO00/061198A1およびWO2004/025560A1に記載の既存技術は、マイクロ流体チャネル内におけるマイクロキャリアの配置の厳密な制御を必要とする。しかし、このようにサイズの小さい(たとえばμm範囲の)物体の操作は無視できるものではなく、当該方法には、顕微鏡、顕微操作(顕微鏡により制御される力の使用)および/または微細加工技術を含む特殊な方法および特殊な設定が必要とされる。
【0016】
本発明において、マイクロキャリアはマイクロチャネル内においてはるかに動きの自由度が高い。本発明のマイクロキャリアの形状およびサイズは、反応チャンバとして働くマイクロチャネルの全長にわたり特にマイクロチャネルの入口において、少なくとも2つのマイクロキャリアが互いに接することなくかつマイクロチャネルの周縁に接することなく隣り合って存在可能なように構成されている。これは、マイクロチャネルの長手方向に異なる速度で移動するマイクロキャリアがその長手方向の動きが制約されない点まで互いに進むことができることを意味する。この特徴は構成の実用的な構築を容易とするのに重要であり、特に構成がアッセイの実行直前に研究環境において用意される場合に重要であり、これによりマイクロキャリアの組の混合物を柔軟に調製することができる。マイクロキャリアのサイズよりも相対的にはるかに大きいマイクロチャネルを使用することにより、マイクロチャネルの入口に、入口を詰まらせるアーチが形成されにくくなる。これにより、狭い漏斗の代わりに拡張された注入口を用いてマイクロチャネルを入れることができる。第2の利点は、マイクロチャネルの内側に障害物がある場合に、大部分のマイクロキャリアがブロックされてしまう機会が減ることである。障害物とは、マイクロチャネル内のデブリ(塵芥)や気泡などの不所望の要素であり、または、マイクロ流体チャネルの微細加工を容易化するのに必要な内部構造、たとえば、PDMSなどの軟質ポリマーを用いる場合のマイクロチャネルの適切な剛性を確保するための柱である。
【0017】
本発明は、マイクロキャリアに基づくマルチアッセイを行い、マルチアッセイに適した方法をさらに提供するものであり、この方法は、
a)反応チャンバとしてのマイクロチャネルを有するアッセイ装置を提供し、少なくとも2組のコード付与されたマイクロキャリアを提供するステップと、ここで、マイクロキャリアのコードは機能を表し、マイクロチャネルの断面と関連するマイクロキャリアの形状およびサイズは、マイクロチャネルの全長にわたって、互いに接することなくかつマイクロチャネルの周縁に接することなく隣り合って存在する少なくとも2つの任意のマイクロキャリアを含むことができるように構成されており、
b)マイクロチャネルを少なくとも2組のコード付与されたマイクロキャリアで少なくとも部分的に満たすステップと、
c)流体を流す一方で、マイクロチャネルの長手方向におけるマイクロキャリアの動きを制約するステップと、
d)マイクロキャリアを含むマイクロチャネルを通って、1つまたは複数の標的分子を含みうるサンプルを流すステップと、
e)マイクロキャリアの組を識別するステップと、
f)リガンドと標的分子との間の反応を検出し、反応の有無をサンプル中の標的分子の有無を示す特定の組の同一性と関連づけるステップと、
を含んでいる。
【0018】
マルチウェルを用いる従来のやり方では、物質移動は基礎的な振動技術を用いて改善され、サンプルおよびマイクロキャリア要素の両方がランダムに振動される。マイクロスケールでは、流れは層状であり、上記技術はサンプルに対するマイクロキャリアの相対的な動きをわずかに増加させるのみであり、これは効率的な物質移動を確実にする重要な要素である。本発明は、サンプルの移動とマイクロキャリアの移動とを分けるものである。さらに、反応チャンバを長くした構成、および、マイクロキャリアの周囲の容積を限定した構成により、確実にサンプルが最も多くのマイクロキャリアの近くを進むようにする。本明細書に開示されるアッセイおよび方法により達成される利点は、関心のある分子を存在しうる受容体と接触させるための拡散に対する依存性を低減させることにより、物質移動が高速化されることである。他の利点としては機構の簡単さが挙げられ、これはマイクロチャネルの性質および幾何学的な配置に依存して物質移動を改善するものである。この構成により、マイクロキャリアの処理に関する制約が最小な、たとえば複合的なアッセイを行うために別のステップが必要とされる場合に、柔軟に流体を制御することができる。流体を前後に動かすことが望まれる場合たとえば流体の速度が高い信頼性で制御できない場合またはサンプルが希釈される場合、構成を変更する必要はほとんどないので、確実に関心のある分子を適切にキャプチャするようにするため、サンプルをマイクロキャリアに通して複数回接触させることが必要な場合がある。
【0019】
反応がマイクロキャリア内に共に局在化する信号を生成する場合には、本発明によれば、種々の反応を区別できる一方で、種々の機能とマイクロキャリアの種々の組との関連づけが可能であり、アッセイへの同時使用が可能であるので、本発明はマルチアッセイに適している。これは、識別可能性によりその有する機能が識別可能な、コード付与されたマイクロキャリアを用いて作業することにより実現される。
【0020】
さらに、マイクロ流体の構成によって、生物学的アッセイを実行するのに必要なサンプル量は低減される。さらに該構成により、マイクロキャリアについてのいかなる特定の操作を行うことなく、付加的な試薬または洗浄溶液をマイクロチャネルを通じて流すことを可能とする付加的なステップにより、任意の必要な付加的なアッセイステップを容易に実行できる。
【0021】
また、本発明は、マイクロキャリアを反応チャンバから収集し、読み取り装置に移すことが必要な一般的なマイクロキャリアを用いる方法と比べ、アッセイの結果を得るために必要とされる全体の操作を簡略化する。実際、マイクロチャネルが少なくとも部分的に透明な実施形態では、マイクロキャリアを光学手段によりマイクロチャネル内で直接観察し、組を識別し、生物学的読み取りを行うことができる。また、この構成により、反応が生じるときのマイクロキャリアを観察することによるキネティックな情報が得られる。
【0022】
さらに、本発明はまた、操作を容易化し、マイクロチャネル内にマイクロキャリアを導入するのに必要な専門性のレベルを下げることにより、アッセイ装置の用意は簡略化され、これにより、(たとえば研究環境における)アッセイの実行直前に用意されるカスタムメイドの構成の使用が可能となる。
【0023】
本発明は、ライフサイエンス産業、特に、診断、ゲノム研究および分子生物学において主に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】反応チャンバ(太線)としてのマイクロチャネル1の実施例を示す。このマイクロチャネル1は、拡張隘路6および注入口5に接続されている入口14と、(フィルタ構造の形態の)止め手段4および排出口15に接続されている出口16とを備えている。図1.1は上面図を示し、図1.2は図1.1のA−A線矢視断面を示す。
【図2】拡張隘路6および2つの注入口5、5’を有し、入口14を有するマイクロチャネル1の実施例を示す。図2.1は、拡張部分6および2つの注入口5、5’を有し、入口14を有するマイクロチャネル1の上面図を示し、図2.2は図1.1のA−A線矢視断面を示す。
【図3】拡張隘路6および注入口5を有し、入口14を有するマイクロチャネル1の実施例を示す。また、図にはウェル7中の層流9および層渦8が示されている。図3.1は、マイクロチャネル1およびマイクロチャネル1の拡張部分6の上面図を示す。図3.2は図3.1のA−A線矢視断面図を示し、マイクロチャネル1へのアクセスをもたらす注入口5およびウェル7と、層渦8を形成する層流9とを示す。
【図4】マイクロキャリア2がディスク状形状(すなわち、環状の表面を有するウェハの形状)を有し、長方形の断面を有するマイクロチャネル1中に存在する実施例を示す。マイクロチャネル1は2つの側壁101と、ベース102と、カバー103とを有している。マイクロチャネル1の断面は、マイクロキャリア2が単層構造を形成し、その回転運動が制約されるように構成されている。図4.1は上面図を示し、図4.2は図4.1のA−A矢視線断面図を示す。図4.3は3次元表示を示す。図示の例において、単層構造は厳密に一平面内にあるものではないが(マイクロキャリア2の垂直方向位置は図4.2に示されるようにわずかに変化する)、マイクロキャリア2は互いの上に載ることはできない。マイクロキャリア2の異なる塗りつぶしパターンは、異なる組を示している。
【図5】アレイ型センサ10、たとえばCCDまたはCMOS光センサの使用を示し、マイクロ流体チャネル1内のマイクロキャリア2の単層構造の広視野画像をキャプチャするものである。
【図6】マイクロキャリア2がディスク状形状を有し、長方形の断面形状を有するマイクロチャネル1内にある場合の実施例を示す。図は、その長手方向の動きが制約される点に達するまでに、マイクロキャリア2がどのようにして比較的自由な動き(本例では2次元平面内)をできるかを示す。これにより、マイクロキャリア2は互いに追い越す(pass)ことができ、障害物がある場合に多数のマイクロキャリア2がブロックされるリスクを軽減することができる。図6.1は上面図を示し、図6.2は図6.1のA−A矢視線断面図を示す。図6.3は3次元表示を示す。
【図7】ディスク状形状を有するマイクロキャリア2、および、マイクロキャリア2を貫く穴21の形態のコードの実施例を示す。マイクロキャリア2は、マイクロキャリア2が上下逆さまにあるか否か、コードパターンの開始地点として機能するか否かの判別に用いられる三角形の方向マーク20を有している。マイクロキャリア2は縁部にコード要素を有しており、したがってマイクロキャリア2の中心付近には、生物学的な読み取りに適した専用の、均一かつ平坦な領域のための多くの表面部分が残されている。
【図8】CCDカメラによる2枚の写真を示しており、簡単なマルチアッセイにおけるマイクロキャリア2の生物学的読み取りを示す。2組のマイクロキャリア2をマイクロチャネル1に導入した:マイクロキャリアの第1の組11(1つの穴のコード)はDNAプローブPl(5’−CAA CCC CAG CTA ATA TTA TT−3’)で機能化し、マイクロキャリア2の第2の組12(3つの穴のコード)はプローブP2(5’−TGG GTA AGT TAG GGC GAT GG−3’)で機能化した。プローブP1に相補性のある、蛍光ラベルしたDNA標的T1(5’Cy5 − AAT AAT ATT AGC TGG GGT TG−3’)を含有する溶液をその後流したところ、DNAプローブP1で機能化したマイクロキャリア2だけが反応した(図8.1の明領域(白色光)と図8.2の蛍光との間の違いを参照)。
【図9】アッセイが反応のキネティクスに関する情報をもたらすように行われる場合に、どのように経時的な生物学的読み取りができるかを示す。また、装置は数秒間のハイブリダイズ反応(標的濃度200nMで行った)を検出することができるので、この図は装置が物質移動に関して非常に効率的であることを示している。この写真は蛍光下でCCDカメラによって撮影した。
【図10】(図7について上述したような)ディスク状形状を有する、コード付与されたマイクロキャリア2が、長方形の断面を有するマイクロチャネル1内に存在する場合の他の実施例を示す。マイクロチャネル1の断面は、マイクロキャリア2が単層構造を形成し(互いの上に載らない)、その回転運動が制約されるように構成されて、これによってマイクロキャリア2がマイクロチャネル1内で基本的に平坦に存在している。
【図11】マルチアッセイ用のチップ13を示す。このチップ13は、数組の機能化されたマイクロキャリア2を含むいくつかのマイクロチャネル1を有している。これらのマイクロチャネル1は注入口5と排出口15とに接続されている。マイクロキャリア2はディスク状形状を有し、(図10について上述したように)コード付与されている。
【図12】ウェハ形状を有するマイクロパーティクルの種々の例を示す。これらの表面は、ディスク(左)、四角形(中央)、六角形(右)の形状を有している。
【図13】マイクロキャリア2がディスク状形状を有し、貫通穴21のパターンとL字型の方向マーク20とによりコード付与されている実施例を示す。図13.1はマイクロキャリア2の明領域(白色光)の写真を示す。図13.2は、サンプルを流した後に反応したマイクロキャリア2を露光した蛍光写真を示す。両方の画像は、サンプル9を流した後に撮影した。
【図14】マイクロキャリア2を狭いマイクロチャネル1中にガイドし、これによりマイクロチャネル1の入口14を詰める漏斗内に、アーチがどのように形成されるかを示す。
【図15】マイクロチャネル1の入口14を詰める、漏斗構造内に形成されたマイクロキャリア2のアーチの写真を示す。
【図16】長方形または「長方形に近い」形状の種々の非限定の例を示す。これらは、マイクロチャネル1に好適な断面、または、ウェハ形状を有するマイクロキャリア2の好適な断面を示す。
【図17】実施例にかかる2枚の写真を示す。(「Fundamentals and Applications of Microfluidics」(Nam-Trung NguyenおよびSteve Wereley著、ISBN:9781580533430)の第3章に記載されているように)PDMSモールド技術を用いて作製され、顕微鏡用ガラススライドに貼り付けられたチップ13は、一端において注入口5に接続され、他端において排出口15に接続されたマイクロチャネル1を有している。複数の長方形の柱から構成されるフィルタ構造を有する止め手段4がマイクロチャネル1の出口に設けられている。さらに、シリンダ状の柱17がマイクロチャネル1内に設けられており、負圧がかかったときにマイクロチャネル1の高さを安定化する(すなわち、マイクロチャネル1が圧縮されるのを避ける)のを助ける。
【図18】取り出し前の、シリコンマイクロパーティクルから構成されるウェハの写真を示す。マイクロパーティクルはディスク状形状を有し、貫通穴21のパターンでコード付与されている。マイクロキャリア2は直径50μmであり、L字型の方向マーク20を有している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の詳細な説明を考慮することにより、本発明はよりよく理解され、上記にない課題が明らかとなる。かかる記載は添付の図面を参照するものである。
【0026】
本発明の範囲においては、以下の定義が用いられる。
【0027】
「マルチ(アッセイ)」とは、典型的には多数の化合物または分子について、各アッセイの結果を個別に区別可能としつつ、複数のアッセイを並行して行うことをいう。これらのアッセイは、たとえば生物学的および/または化学的性質に基づくものであり、典型的には、いくつかの検出すべき標的分子と、これらの標的分子を検出する試薬として働くいくつかの捕獲分子とを含んでいる。捕獲分子は典型的にはキャリア基質に、リガンドとして結合されている。マルチアッセイにおいて並行して行われるアッセイの数は、時にマルチアッセイの「レベル」といわれ、たとえば、わずか数個(2または3)から、高いマルチアッセイのレベルについては数十万個までの範囲である。高いレベルのアッセイとは、一般に、典型的には今日マイクロアレイで行われる核酸のハイブリダイズアッセイであるが、本明細書に開示されるアッセイ装置によって行うことができる。
【0028】
「シングル(単一)アッセイ」とは、単一のアッセイを行うことをいい、ただ1つの標的分子が1つの捕獲分子によって検出されるよう探される。
【0029】
「反応チャンバ」とは、標的分子と捕獲分子またはリガンドとの間で生物学的および/または化学的反応が生じる空間をいう。
【0030】
「マイクロチャネル」または「マイクロ流体チャネル」は、顕微鏡レベルの断面サイズすなわち典型的には1〜500μm、好適には10〜500μm、より好適には20〜300μmの最大サイズ(の断面)を有する、狭いチャネルすなわち長い流体の通路をいう。マイクロチャネルは長手方向を有し、この長手方向は必ずしも直線でなくともよく、流体がマイクロチャネル内で向かう方向に対応し、すなわち、基本的にマイクロチャネル1内を通過する流体の速度ベクトルのベクトル付加に対応し、層流領域と仮定できる。マイクロチャネルはその一端において入口14を有し、他端において出口16を有し、これらはそれぞれ、たとえば流体をマイクロチャネル1内に入らせ、マイクロチャネルから出すマイクロチャネルの開口である。マイクロチャネルの断面はその長さのほとんどを通して一定であるが、この断面は変化してよく、典型的には少なくとも入口14付近または出口16付近において、注入口5、排出口15、1つまたは複数の他のマイクロチャネルまたは別のマイクロ流体要素(たとえばバルブ機構)と接続するように拡がっている。マイクロチャネルは長手方向により形成される線が任意の形状または長さを有するように延在し、3次元状に延在していてもよい(すなわち、長手方向への延在により形成される線は平面内にとどまらない)。
【0031】
「断面」とは、長手方向の軸に垂直な断面をいう。
【0032】
「周縁」とは、マイクロチャネルの内周または断面の外周をいう。
【0033】
「機能化」とは、1つまたは複数の、好適には1つの、その表面に結合されたリガンドを有するパーティクルまたはマイクロパーティクルに関し、このリガンドは所定の標的分子(分析物)にとっての捕獲分子または受容体分子として機能しうるものである。「分子」の語は広義に理解され、いくつかの分子、粒子またはセルを含むものであってもよい。たとえば、標的「分子」はウイルス粒子であってよく、および/または、捕獲「分子」(リガンド)は一群の抗原結合断片であってもよい。別の例では、たとえば、標的「分子」は核酸たとえばDNA断片、RNA断片またはssRNA断片であり、捕獲「分子」は、たとえば、前者とハイブリダイズするよう設計されたDNA断片、RNA断片またはssDNA断片である。1つの標的分子を特異的に捕獲するために、異なる捕獲分子が必要な場合もある。本発明の範囲において、言及した例はそれぞれ「捕獲分子」または「標的分子」といえる。リガンドおよび標的分子は、天然、合成または半合成のものであってよい。
【0034】
「機能」の語は、所定の標的分子と結合および/または反応する能力に関し、すなわち、特異的なリガンドの存在に関する。
【0035】
「リガンド」、「捕獲分子」および「受容体分子」の語は、本明細書において同義に用いられる。同じことが「標的分子」および「分析物」の語にも適用されるが、分析物は複数の標的分子を含むものであってもよい。
【0036】
「マイクロパーティクル」とは、顕微鏡レベルの大きさ、典型的には最大の大きさが100nm〜300nm、好適には1μm〜200μmの任意のタイプの粒子をいう。
【0037】
本明細書において用いられる「マイクロキャリア」は、サンプル中の分析物を分析するようおよび/または当該分析物と反応するように機能化されたマイクロパーティクルである。「機能化マイクロキャリア」も本明細書中で同じく用いられる。幾何学的態様または微細加工の態様などのその機能に関係しない態様を記載するとき、「マイクロキャリア」および「マイクロパーティクル」は本明細書において均等物として考慮される。
【0038】
「組」または「マイクロキャリアの組」は、同一の機能化が施された1つまたは複数のマイクロキャリアをいう。1つの組はただ1つのマイクロキャリアかまたは複数のマイクロキャリアである。1組のマイクロキャリアは複数の標的分子を捕獲するために複数の捕獲分子を運ぶこともあるが、それでも1つの機能といわれる。互いに区別可能な異なる2組のマイクロキャリアに、同一の機能化が施されていてもよい。
【0039】
「生物学的読み取り」の語はマイクロキャリアに結合されたリガンドが標的分析物と結合しまたは標的分析物と反応するかどうか検出することをいう。生物学的読み取りは反応した標的分析物の量を表す量的情報ももたらしうる。
【0040】
本明細書において用いられる「コード」は、観察または検出の際に区別可能であり、マイクロパーティクルまたはマイクロキャリアを識別しまたはマイクロパーティクルまたはマイクロキャリアを特定の集団(たとえば、所定の機能を有するマイクロキャリアの集団)に関連づけるために用いられる、マイクロパーティクルまたはマイクロキャリアの任意の属性または特性である。マイクロキャリアのコードは、その位置にかかわらず、および、アッセイの実行にかかわらず決定可能であり、すなわち、コードは明らかにすべき標的分析物の存在を必要としない。典型的には、コードは観察の際のマイクロパーティクルまたはマイクロキャリアの光学的または磁気的応答により特徴づけられる。この応答は、マイクロパーティクルまたはマイクロキャリア全体として定められてもよく(たとえばマイクロキャリアの色)、または、マイクロパーティクルまたはマイクロキャリアの中または上に空間的に調整されてパターニングされたレイアウト(たとえば、マイクロキャリア上の色の調整により得られるバーコード)であってもよい。コードの例としては、色、形状、サイズ、刻印または彫刻されたパターン、穴の配置、ホログラフパターン、磁気特性、化学組成、光透過率の変化または反射特性、量子ドット放射、あるいは、表面に結合した、明瞭で検出可能な外部物体(たとえば、オリゴヌクレオチドまたは他の重合体)が挙げられるが、これらのものに限られない。
【0041】
「コード付与されたマイクロキャリア」、「コード付与されたマイクロパーティクル」の語は、本明細書において、コードを有するマイクロキャリア、コードを有するマイクロパーティクルをそれぞれいう。本発明のマイクロキャリアは、複数のマイクロキャリア(典型的には1組のマイクロキャリア)が同じ値のコードを有している(すなわち、マイクロキャリアはそのコードのみに基づいて区別可能ではない)場合であっても、個別にコード付与され、すなわち、各マイクロキャリアがそれぞれのコードを有する。本発明のコード付与されたマイクロキャリアの異なる組は、マイクロチャネル中のマイクロキャリアの位置にかかわりなく、かつ、アッセイの実行にかかわりなく区別可能および/または識別可能である。
【0042】
本明細書において用いられる「隣り合って」存在するとは、複数のマイクロパーティクルの外形とマイクロチャネルの外形とが関係する幾何学的特性に関する。1つまたは複数のマイクロパーティクルがマイクロチャネル内の所定位置において「隣り合って」存在するというのは、(i)複数のマイクロパーティクルがマイクロチャネルの内側に適合する構成にあり、かつ、(ii)当該所定位置において断面が交差しており、かつ、(iii)(当該所定位置における)長手方向に沿った突出面が重ならず、(当該所定位置における)断面の表面内に囲まれているときである。一般に、その全長にわたって一定の断面を有しないマイクロチャネルにおいて、1つまたは複数のマイクロパーティクルはいくつかの位置で隣り合って存在可能であるものの、他の位置ではそうではない場合がある(この一般的ルールはその全長にわたって隣り合ったマイクロキャリアを含むことができる本発明のマイクロチャネルにはあてはまらない)。マイクロパーティクルの外形に依存して、複数のマイクロパーティクルは、これらが特定の配向にあるときにのみ、マイクロチャネル内の所定の位置において隣り合って存在しうる。隣り合って存在しているとき、マイクロパーティクルは互いに接し、または、互いに離れていてもよい。
【0043】
「ウェハの形状」とは、本明細書において、高さが幅と長さの両方よりもはるかに小さく(たとえば少なくとも1/2倍)、そのマイクロパーティクルは2つの基本的に並行かつ基本的に平坦な表面(前面)を上下面に有する(図12参照)、マイクロパーティクルの特定の形状をいう。「ディスク状」の形状とは、環状の前面を有するウェハの形状を指す。
【0044】
マイクロチャネル
本発明のマイクロチャネル1は、好適には直線状でありすなわちその長手方向は直線に沿って延びるが、ヘビ状の外形を有しすなわち長手方向に延びて、弧に接続される平行なトラックを有する線を形成し、面積を制約する。マイクロチャネル1は、好適には基本的に平面状であるが、3次元状に延在してもよい。
【0045】
マイクロ流体チャネル1の長さは、一般的にはそれが典型的に含まれているマイクロ流体チップ13に適合するように、断面積および所望の面積に応じて変えることができる。典型的には、マイクロチャネル1の長さは1mm〜500cm、好適には5mm〜200cmの範囲にある。マイクロチャネル1の幅および高さは好適には500nm〜300μmである。マイクロチャネル1はたとえば、ヘビ状の外形を有し、小断面(たとえば、100μm未満)を有するものであり、比較的小さい面積(数平方cm)においてたとえば数百cmの比較的長い長さを有する。たとえば、1平方センチでは、50μmの断面を有する、100cm長のヘビ状マイクロチャネル1を適合させることができる(表面の半分はマイクロチャネル1に占められ、他の半分は空いていると仮定)。さらに好適な実施形態では、マイクロチャネル1は実質的にまっすぐであり、2mm〜10mmの長さ、200μm〜600mmの幅、10μm〜20μmの高さを有する。
【0046】
本発明のマイクロチャネル1は、それぞれ流体の出入り口となる入口14と出口16とを有している。入口14はマイクロチャネル1内へのマイクロキャリア2の導入にも使用され、好適には拡張隘路6を介して、典型的には注入口ウェル7に接続されている。本発明のマイクロチャネル1は以下で説明するように好適には止め手段4において終端し、典型的には、流体を排出口15に導く別のマイクロ流体チャネル1によって延長されている。
【0047】
マイクロチャネル1は、好適には、長方形または長方形に近い(図16参照)、台形あるいは平行四辺形の断面を有する。マイクロチャネル1は典型的には2つの側壁101と、ベース102と、カバー103とを有している。側壁101は、必ずということではないが、好適にはまっすぐであり、ベース102(底面)およびカバー103(上面)に対してそれぞれ90度に近い角度で配置されている。側壁101はたとえば凸型または凹型に曲げられ、45度〜60度のまっすぐではない角度でベース102またはカバー103に接続されていてもよい。典型的には、マイクロチャネル1の高さは幅に比べて非常に小さい(たとえば少なくとも1/2倍)。別の実施形態では、ベース102および/またはカバー103は、たとえば流体9が流れやすくなるよう、わずかに曲げられまたは溝またはバンプでパターニングされている。
【0048】
本発明のマイクロチャネル1は反応チャンバとして働き、少なくとも2組のマイクロキャリア2を含みうるように設計されており、これによって、その全長にわたって特に入口14において、任意の2つのマイクロキャリア2が、互いに接することなくかつ周縁に接することなく隣り合って存在することができる。一実施形態では、マイクロチャネル1は、任意の2つのマイクロキャリア2の最も突出した表面の最も延びたものの和よりも大きい、その断面の少なくとも1サイズを有している。たとえば、長方形または長方形に近い断面を有するウェハ形態のマイクロチャネル1において、たとえばマイクロチャネル1の幅のサイズは、任意の2つのマイクロキャリア2の幅の和よりも大きい。したがって、たとえばマイクロチャネル1は2つのマイクロパーティクルが、たとえば充填時に、マイクロチャネル1の長手方向におけるマイクロパーティクルの動きを阻害することなく、隣り合って存在するような幅を有する。より好適には、その幅はマイクロパーティクルが、互いに接することなくかつ、摩擦によってブロックにもつながりうるマイクロチャネル1の周縁に接することなく、互いに通る(追い越せる)ように構成されている。好適な実施形態では、マイクロチャネル1の断面は、マイクロチャネル1の全長にわたって、好適には一定であるかまたは基本的に一定である。別の実施形態では、マイクロチャネル1は拡張隘路6に接続されており、拡張隘路6において断面は典型的には入口14においてマイクロキャリア2の導入を容易化する。好適な実施形態において、長方形または基本的に長方形のマイクロチャネル1の入口14における拡張隘路6は、マイクロチャネル1の高さ(ベース102とカバー103との距離)が好適には基本的に一定である一方で、側壁101の長手方向の軸への距離を増大させることにより行われる。
【0049】
好適な実施形態では、マイクロチャネル1は、シリコン、SU−8(エポキシ系ホトレジスト)、ポリイミド(PI)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、シリコンまたは他の熱可塑性エラストマー(TPE)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、テフロン(登録商標)(PTFE)、熱可塑性エラストマー(TPE)、Victrex(登録商標)PEEK(登録商標)、ポリカーボネート、ポリビニルクロライド(PVC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、フッ化エチレンプロピレン(FEP)、環状オレフィン(コ)ポリマー(COPまたはCOC)または他の熱可塑性ポリマー、石英、ガラスまたはニッケル、銀または金などのめっき適性金属から構成され、最も好適には透明ポリマーから構成されている。最も好適には、マイクロチャネル1は、環状オレフィン(コ)ポリマーから構成されている。
【0050】
好適には、マイクロチャネル1は少なくとも一方側において透明である。それゆえ、マイクロパーティクルは光学的検査手段、たとえば顕微鏡によって容易に観察可能である。これによって、光学技術でコード付与されたマイクロキャリア2の組をマイクロチャネル1内に配置するときに容易に識別することができ、決定のために当該分野において用いられる光学的応答に基づく従来技術により生物学的な読み取りを行うことができる。透明性の実現に適した材料は、たとえば、SU−8、PDMSまたはシリコンである。
【0051】
マイクロチャネル1は、文献(たとえば、「Fundamentals of microfabrication」、Marc J. Madou著、ISBN:0849308267、780849308260;「Fundamentals and Applications of Microfluidics」、Nam-Trung NguyenおよびSteve Wereley著、ISBN:9781580533430)、第3章)に広範に記載されている一般的なホトリソグラフ技術および/またはスタンピング技術および/または射出整形技術を用いて製造可能である。たとえば、マイクロチャネル1は既知の方法により基板にチャネルをエッチングし、次いで、たとえばガラスから構成されるプレート、または、基板に同様にエッチングされた第2のチャネルにより封止することにより製造可能である。製造技術は、たとえば、EP1276555B1に記載のようなウェハ上にシリコンマイクロパーティクルを製造するための、マイクロパーティクルの製造にも用いることができる。
【0052】
考慮されるスケールにおいて、流れは層流である。サンプル中の関心ある標的分子がマイクロキャリア2の最も近いところを通るように、マイクロチャネル1は、マイクロキャリア2がその周囲の部分をできるだけ小さく開放され、サンプル9が流れるように設計されるべきである。流速は、たとえば、マイクロキャリア2の周囲に開いている断面により、マイクロチャネル1の長さにより、流れを動かす力(たとえば、かけられる圧力)により、および、サンプルの流体特性(粘度、サンプルが運ぶ分子のサイズなど)により制約される。
【0053】
マイクロキャリアおよびマイクロキャリアの組
マイクロチャネル1は、少なくとも2組のマイクロキャリア2を同時に含むが、3組、4組、5組、10組、数百組またはそれ以上のマイクロキャリア2の組を含んでもよい。より高いレベルのマルチアッセイのために(たとえば核酸のハイブリダイゼーションアッセイのために)、マイクロチャネル1は数十万組を含んでもよい。これは、たとえば、小さなマイクロキャリア2に接続された、長く、広いマイクロチャネル1によって実現される。
【0054】
サイズ、形状および材料ならびにマイクロパーティクルとマイクロキャリア2との違いは、定義の部分において概略した。
【0055】
本発明のマイクロパーティクルまたはマイクロキャリア2は、たとえば、高速スクリーニング技術および診断に普通に用いられている任意の材料から構成されまたはこれらを含んでいる。これらの材料の非限定の例としては、ラテックス、ポリスチレン、架橋デキストラン、ポリメチルスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、セルロース、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、フッ化エチレンプロピレンならびに微細加工または微細フライス加工に通常用いられる材料、たとえば、ガラス、SiO、シリコン、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、金、銀、アルミニウム、スチールまたは他の材料あるいはSU−8等のエポキシ系光感受性材料が挙げられる。マイクロパーティクルは、任意の形状およびサイズを有してよい。好適には、マイクロキャリア2はシリコンから構成されている。
【0056】
本発明のマイクロキャリア2は、その機能がコードの読み取りによって判別できるようにコード付与されている。
【0057】
マイクロパーティクルおよびマイクロキャリア2は、好適には球状の形状またはウェハ状の形状を有し、これは、その高さがその幅および長さの両方よりもはるかに小さく(たとえば少なくとも1/2倍)、その上下に基本的に平行で基本的に平坦な2つの表面(全面)を有することを意味する。
【0058】
したがって、ウェハ形状のマイクロキャリア2が、上記のような長方形または長方形に近い断面を有するマイクロチャネル1内に導入されたとき、マイクロキャリア2はその前面のいずれかの上に平坦に置かれ、光学手段により容易に検出可能である。図13は、ウェハ形状のマイクロキャリア2の実施例を示す。その主面は任意の形状を有する。非限定の例として、四辺形、長方形、円形、三角形または六角形が挙げられる(図12の右)。
【0059】
好適な実施形態では、マイクロキャリア2は、前面が円形のディスク状形状を有し、貫通穴21のパターンによってコード付与されており、このパターンは、好適には、三角形またはL字状の印のような非対称の方向マーク20も含んでいる。
【0060】
別の実施形態では、マイクロキャリア2は、たとえばマイクロチャネル1内での固定化に適した磁気的特性を有する。
【0061】
各組のマイクロキャリア2は、典型的には同一に機能化されている。マイクロキャリア2は互いに異なるサイズまたは形状を有していてもよい。マイクロキャリア2は種々の組が、少なくとも1つの観察可能な属性または特性すなわちコードによって互いに区別可能であるようにコード付与されている。全てのマイクロキャリア2は個別にコード付与されているが、所定の組のマイクロキャリア2は好適には同一のコードを有している。コード付与されたマイクロキャリア2を用いる場合、これらはたとえば制御されたやり方よりもランダムな順番で導入される。
【0062】
マイクロキャリア2は化学的および生物学的アッセイのための支持体として働く。この能力において、マイクロキャリア2は、表面に結合された1つまたは複数のリガンドを含んでいてもよく、関心のある特定の分析物の有無を判別するために標的分析物と接触されまたはそれらは結合されたリガンド上で行われる組み合わせ化学反応のための支持体として働くことができる。好適な実施形態において、各マイクロキャリア2はその表面に結合された1つのリガンドを有する。本明細書中で「1つのリガンド」の語は、数的に1つの分子をいうことを意味するものではなく、1つのタイプのリガンドをいうことを意味していることは理解されるべきである。あらゆる化学的および生物学的機能が、本発明のマイクロパーティクルにリガンドとして結合されてもよく、たとえば、抗体および他のたんぱく質ならびにDNA断片、RNA断片またはssDNA断片または関心のある特定の分子に結合するよう設計されたアプタマーなどの核酸が挙げられる。これらの機能は、高速スクリーニング技術および診断に普通に用いられる全ての機能を含むものである。さらに、マイクロキャリア2は、最初の反応物の結合を可能とする種々のやり方で機能化可能である。マイクロキャリア2に結合されるリガンドのための標的分析物の例としては、抗原、抗体、受容体、ハプテン、酵素、たんぱく質、ペプチド、核酸、薬剤、ホルモン、病原体、トキシン、細胞または任意の他の化学物質または関心のある分子が挙げられる。
【0063】
マイクロキャリアの長手方向の動きを制約する手段
本発明は、流体中の関心のある分子とマイクロキャリア2に結合される受容体との間の接触の機会を増やすための、マイクロキャリア2の速度に対する流れの速さを上昇させる手段を提供する。したがって、流体9そのまま流させる一方で、長手方向である流れの方向におけるマイクロキャリア2の動きを制約することが重要である。制約手段の存在は、同じ場所におけるアッセイおよび読み取りを行うための基本的に定位の構成を提供し、キネティクスの読み取りだけでなくより高速な物質移動を可能にする。流れに垂直なマイクロキャリア2の動きが生じる可能性があり、マイクロキャリア2の動きが十分速ければ、捕獲表面の仮想的なサイズが増大するので(これはたとえばタッピング、振動、超音波処理により実現される撹拌の一形態である)、さらには物質移動の速度に良い影響を与える場合がある。
【0064】
マイクロキャリア2の長手方向の動きの制約は、いくつかの方法により行うことができる。たとえば、流体9は流すがマイクロパーティクル2の通過をブロックさせる少なくとも1つの止め手段4を、反応チャンバの終端に用いることができる。止め手段4の非限定の例としては、グリッド、ワイヤ、メッシュフィルタ、堰構造物、1つまたは複数の柱、マイクロチャネルの断面の縮小化、弾性力、特に弾性力により保持された1つまたは複数のマイクロパーティクル、誘電力、特に誘電力により保持された1つまたは複数のマイクロパーティクル、磁気的粒子などが挙げられる。軟質のマイクロチャネル1の部分的圧縮に基づく(すなわち、たとえば、PDMSやパラフィンなどの軟質ポリマーから構成されるマイクロチャネル1の場合に、マイクロチャネル1の外形を収縮させる)方法を止め手段4として用いることもできる。止め手段4は、固定または取り外し可能であってよい。取り外し可能な止め手段4、たとえば、磁気的粒子は、マイクロパーティクル2の置換またはマイクロパーティクル2の分析のため、流れ9の方向におけるマイクロパーティクル2の除去が簡単である。固定型の止め手段4、たとえばグリッドは、たとえばこれらを分析するため、マイクロパーティクル2の除去のため、レーザにより除去可能してもよい。
【0065】
代替的にまたは付加的に、マイクロキャリア2が磁気的特性を有する場合、マイクロキャリア2は磁界を印加することにより固定化することができる。すなわち、止め手段4の存在は必ずしも必要ではない。代替的な実施形態では、マイクロキャリア2は誘電力によって固定化される。
【0066】
マイクロキャリア2の動きの制約により、構成は、同様に、洗浄ステップ、付加的な試薬を流すこと、ならびに、生物学的読み取り(好適には静的モードで行われる)を容易化する。
【0067】
マイクロキャリアに関連したマイクロチャネルの設計
本発明によれば、マイクロチャネル1は、少なくとも2つの任意のマイクロキャリア2が、互いに接することなくかつ周縁に接することなく、マイクロチャネル1の全長にわたって特に入口14において、隣り合って存在することが可能な断面を有する。厳密に言えば、反応チャンバとして働く本発明のマイクロチャネル1は、マイクロチャネル1に構築されうる任意の止め手段4(たとえば、フィルタ構造またはメッシュ構造あるいは断面の縮小など)において終端することに留意されたい。このことは、止め手段4を有する任意のマイクロ流体部分が本発明のマイクロチャネル1の部分を考慮しておらず、したがって複数のマイクロキャリア2が隣り合って存在することを可能とする必要がない。明確にするため、マイクロチャネル1が止め手段4の後に続く場合、この部分は、本発明のマイクロチャネル1に接続された(反応チャンバとして働かない)別のマイクロチャネル1として考慮され、たとえば、流体を排出口15を介して出させる(図1参照)。
【0068】
マイクロチャネル1の断面およびマイクロチャネル1の形状によって、少なくとも2つのマイクロキャリア2が互いに接することなくかつ周縁に接しないように存在することができるという事実は、マイクロキャリア2が互いに接してはならない、または、周縁に接してはならないということを意味するものではない。このことは単に、マイクロチャネル1およびマイクロキャリア2のそれぞれの外形が、隣り合って存在するときに、マイクロキャリア2を互いに接触させ、または、周縁に接触させるものではないが、これらがマイクロチャネル1内を自由に動くとき、または、長手方向の動きが制約された後に落ち着くときに、未だにそのように接触する可能性が存在することを意味するのみである。
【0069】
互いに接触せずかつマイクロチャネル1の周縁に接触せずに隣り合って存在する能力は、マイクロキャリア2が、これらがマイクロチャネル1の長手方向に異なる速度で移動するときに、マイクロチャネル1の側壁101に対するまたはお互いに対する摩擦をうけることなく、互いに通る(追い越す)ことを意味する。2つのマイクロキャリア2が入口14において隣り合って存在することが可能なときにアーチを形成することはずっと困難であり、3つ以上のマイクロキャリア2が隣り合って存在することが可能な好適な実施形態においてはさらにより困難であるため、この構成は、マイクロチャネル1の入口14が詰まる機会を低減させる。そのうちの1つが障害物によりブロックされたときに、これはまたマイクロキャリア2を互いに追い越すことができるようにする。障害物は、たとえばアッセイを行う直前に方法が(制御された工場環境とは反対の)研究環境において実施されたときには、たとえばマイクロチャネル1内に存在するデブリである。障害物は、マイクロチャネル1の製造を容易にするためにまたはその剛性を確保するため、たとえばPDMSなどの軟質ポリマーを用いて構築されたマイクロチャネル1の場合に、マイクロ流体チャネル1内に構築されたたとえば柱などの構造物である。マイクロ流体チャネル1を含む装置のテーピングはマイクロキャリア2の導入の間に役立つ。シリコンマイクロパーティクル2などのより重いマイクロパーティクル2を用いた場合、テーピングは、典型的には5Hz以下の低周波数において行われる場合により効率的である。
【0070】
より好適な実施形態では、障害物(たとえば塵芥)に対する感度またはアーチ形成を減らすためにも、3つ以上のマイクロキャリア2、典型的には3〜50個、より好適には3〜12個のマイクロキャリア2がマイクロチャネル1内に隣り合って存在可能である。
【0071】
好適な実施形態では、マイクロキャリア2は、マイクロチャネル1内にあるときに互いの接触面を最少化し、摩擦を低減する。典型的には、曲面たとえば球状形状またはディスク状形状を有する形状が、角のある面(たとえば立方形状または多角形形状)と比較して好ましい。
【0072】
好適な実施形態では、マイクロキャリア2は、画像中で容易に識別可能であるという付加的な利点をもたらすディスク状形状を有する。他のマイクロキャリア2と接触しうる曲面を表す他の形状も考慮され、たとえば、卵形、楕円形または円形に近い形状を有する前面を有するウェハ形態のマイクロキャリア2である。
【0073】
単層構造
より好適な実施形態では、マイクロキャリア2の形状およびマイクロチャネル1の断面は、マイクロキャリア2が単層構造を形成し、その回りに最小の断面を開かれてサンプル9が流れるように選択される。本明細書中で使用される「単層構造」は、その識別(すなわちコードの判別)のために不可欠ないかなる部分も互いに隠しまたは閉塞することなく直線上で全てのマイクロキャリア2が観察可能である1つの点が存在する空間構造をいう。平坦に置かれる(すなわち、基本的に水平方向に延びる長手方向を有する)マイクロチャネル1の場合、この構造は、マイクロキャリア2がマイクロチャネル1の内側にある場合に、マイクロキャリア2が互いの上に載らないまたは重ならないようにする。マイクロチャネル1が少なくとも一方側において透明である場合、反応チャンバ内の簡単な光学手段による直接的な生物学的読み取りおよびマイクロキャリア2の識別が容易になるので、単層構造がはるかに好ましい。
【0074】
本発明におけるように、少なくとも2つのマイクロキャリア2が隣り合って存在するという事実と組み合わされて、この構成は、サンプル9が流れるよう(たとえば図4参照)、マイクロチャネル1の周囲の断面を依然最少化する一方で、準二次元的単層構造を形成する。図4.2に示されるように、これは単一平面における厳密なマイクロキャリア2の配置を必ずしも含まない。好適には、3つ以上の、典型的には3〜50個、より好適には3〜12個のマイクロキャリア2が隣り合って存在する。この配置は、従来技術において見られる互い背後に1つのマイクロキャリア2の厳密な配置よりもよりサンプル流体9を消費するが、はるかに簡単に用意できる。
【0075】
好適には、流れの条件の均一性を容易化するよう、反応がマイクロキャリア2において発生する領域内で、マイクロチャネル1の断面は一定である。
【0076】
マイクロキャリアの配向および識別
単層構造のコード付与されたマイクロキャリア2を用いる場合、マイクロキャリア2の形状、マイクロチャネル1の形状および材料を選択し、コードがマイクロキャリア2をアクティブに制御させるコード機構は、マイクロチャネル1内で直接観察する際にマイクロキャリア2を適切に位置および/または配向させるようにアクティブに操作する必要なくコードが読み取り可能であるように選択することが有利である。これは、たとえば球状(すなわち特定の配向を必要としない)のマイクロキャリア2全体のサイズや色などの特定の配向または位置を必要としないコード機構を用いることにより実現することができる。
【0077】
あるいは、マイクロキャリア2の形状は、その回転がパッシブに制約される、すなわち、マイクロチャネル1の内側で全てのコードが観察/感知装置に対して適切に存在するように、幾何学的制約から生じる以外のいかなる外力も必要としないものであってよい。
【0078】
このコンセプトの実施例は、その一面または両面に存在するコードを有するウェハ形状のマイクロキャリア2を設計し、少なくともベース102またはカバー103のいずれかに設けられた、好適には透明材料から構成される(図8参照)、長方形のまたは長方形に近い断面を有するマイクロチャネル1内でマイクロキャリア2を運ぶものである。マイクロチャネル1の高さは、好適には2つのマイクロキャリア2の高さより低く、マイクロキャリア2が互いの上に載ることのできない効果を有している。このように、マイクロキャリア2は単層構造を形成し、上下逆さまのみが可能であるが、マイクロチャネル1の該平面を観察するよう配置された任意のセンサ装置に対する1つの平坦面が基本的に存在する(図5のように)。マイクロキャリア2の形状についてのこの付加的な制約は、垂直の注入口5を介して流体9がマイクロチャネル1内に吸引される(図2および3に示すように)場合には、本発明が提供するような、マイクロキャリア2のサイズと比較して比較的広いマイクロチャネル1を用いるために、実際にそれらのロードをずっと困難にするものではない。かかるマイクロチャネル1の実施例は図4〜6に記載されている。
【0079】
何らかのコードがマイクロキャリア2の面上に存在する場合、装置に対して示される正しい面を有する全てのマイクロキャリア2が容易に観察可能である(統計上はその半分)。さらに、コードが存在しまたは両側から観察可能な場合、全てのマイクロキャリア2はこれらを配向させる他のいかなるアクティブな操作を必要とすることなくコード解析可能である。
【0080】
本発明の好適な実施形態はマイクロキャリア2を貫くコードを用いて構成されているため、コードが読み取り可能であり、両側から解析可能である。コード付与方法がパターニングであれば(色、サイズなどのように、全面の非局在化した特性とは反対に)、それは配向を表すマーク(すなわち、L字状マークや三角形のような非対称性を有するマーク)と組み合わせることが必要な場合がある。図7は、ウェハ形状のマイクロキャリア2に貫通穴21を用いることにより形成されるコードの実施例の写真を示す。このコード付与方法は、さらにマイクロキャリア2をアッセイの実施にかかわらず、かつ、マイクロチャネル1内の位置にかかわらずに識別することを可能とする。
【0081】
平面内のマイクロキャリア2の配向および位置は制御できないので、ウェハ状のマイクロキャリア2を検出しコード付与するための好適な方法は、マイクロキャリア2の位置を検出し、そのコードを解析するために、図5に示されるようなアレイタイプのセンサ(たとえば、CCDまたはCMOS光センサアレイ)、または、画像を構成して画像について分析動作を行う高速スキャンシステムを用いて反応チャンバの1つまたは複数の画像をキャプチャすることである。この分析動作は典型的には、配向にかかわらずにコードを解析するために、マイクロキャリア2の位置およびマイクロキャリア2の「仮想回転」を検出するためのHoughアルゴリズムなどの形状認識アルゴリズムを含む。画像についての分析動作は、典型的には反応チャンバ1内のデブリや気泡の存在の影響を低減または排除することができる。顕微鏡を備えるCCD(またはCMOS)カメラにより撮影される「写真」は、かかるマイクロキャリア2の検出およびコード解析に用いることができ、同じカメラは生物学的読み取りのための蛍光信号の読み取りにも用いることができる(図8に示されるように)。
【0082】
マイクロキャリア2のマイクロチャネルへの導入
本発明のマイクロチャネル1は、マイクロチャネル1内へのマイクロキャリア2の導入を可能とする入口14を有する。マイクロチャネル1内にマイクロパーティクル2を導入する一般的な方法は、入口14に接続されている注入口5を介してマイクロチャネル1内に流されるバッファ溶液に懸濁させるものである。
【0083】
マイクロチャネル1は好適には、入口14の隣に、マイクロパーティクル2をマイクロチャネル1内に導入するための注入口5として機能する、1つまたは複数の垂直ウェル7に接続された拡張部分6を有する(図2、3)。拡張部分6は、マイクロキャリア2および流体9を注入口5からマイクロチャネル1内にガイドする漏斗を形成する。
【0084】
上述したように、本発明のマイクロチャネル1は、マイクロチャネル1内でその全長にわたって、特に入口14において隣り合って存在する少なくとも2つのマイクロキャリア2を含むことができるような、マイクロキャリア2の形状に関連した断面を有し、これにより、アーチの形成による入口14が詰まる機会を減らす。
【0085】
懸濁状態のマイクロパーティクル2をマイクロチャネル1内に導入する際に発生する共通の問題は、流体9が止まるとき(たとえばある溶液から別の溶液に切り替わるとき)に、残っているマイクロパーティクル2がウェル7の底に、おそらく層渦8に捕われる領域において、溜まりやすいことである(図3参照)。これは、制御されたやり方で移動させることを困難にし、マイクロキャリア2の異なる組が混ざるリスクを増大させ、これはマイクロキャリア2が個別にコード付与されているかどうかには関係なく、マイクロキャリア2の各組が、一般的な技術に必要とされるような、マイクロチャネル1内に制御された方法で導入される必要があるかどうかが問題である。典型的には、マイクロパーティクル2には、注入口5の底に十分に固定され、配置されるための時間が与えられる。これらはその後バッファ溶液の吸引と、装置を傾けることによってマイクロパーティクル2にかかる重力との組み合わさった作用の下で、マイクロチャネル1内に移動される。この方法は、シリコンマイクロパーティクル2のような重いマイクロパーティクル2について特に有効である。撹拌および振動はプロセスをさらに助けるものである。
【0086】
除去できない場所に溜まってしまうという問題を克服するため、本発明の一実施形態では、ウェル7の代わりに洗浄流9’のための注入口5’として用いられる第2のウェル7が設けられる。したがって、マイクロパーティクル2を導入する間のマイクロチャネル1を流れる連続した(またはマイクロパルス)洗浄流9’が実現され、マイクロパーティクル2は溜まらないようにされる(図2参照)。シリコンで構成されている場合のように、マイクロパーティクル2が重い場合には、装置を傾けることによりマイクロパーティクル2に作用する重力が所望の方向にそれらを動かすために十分であるので、かかる工程は一般に必要ではない。
【0087】
ウェル7またはマイクロチャネル1の拡張隘路6に確実に粒子が残らないようにするため、マイクロパーティクル2の導入後に注入口5に洗浄用(すなわち懸濁したマイクロパーティクル2を含まない)流体9を流すことも好ましい。工程の信頼性をさらに向上するために、これはマイクロチャネル1の拡張隘路6の光学的検査と組み合わせても良い。
【0088】
方法
第2の態様において、本発明は、マイクロキャリア2に基づくマルチアッセイを行う方法であって、この方法は、
a)反応チャンバとしてのマイクロチャネル1を有するアッセイ装置を提供し、少なくとも2組のコード付与されたマイクロキャリア2を提供するステップと、ここで、マイクロキャリア2のコードは機能を表し、マイクロチャネル1の断面と関連するマイクロキャリア2の形状およびサイズは、マイクロチャネル1の全長にわたって、隣り合って存在する少なくとも2つの任意のマイクロキャリア2を含むことができるように構成されており、
b)マイクロチャネル1を少なくとも2組のコード付与されたマイクロキャリア2で少なくとも部分的に満たすステップと、
c)流体9を流す一方で、マイクロチャネル1の長手方向におけるマイクロキャリア2の動きを制約するステップと、
d)マイクロキャリア2を含むマイクロチャネル1を通って、1つまたは複数の標的分子を含みうるサンプルを流すステップと、
e)マイクロキャリア2の組を識別するステップと、
f)リガンドと標的分子との反応を検出し、すなわち、生物学的読み取りを行い、反応の有無をサンプル中の標的分子の有無を示す特定の組の同一性と関連づけるステップと、
を含んでいる。これは典型的には、マイクロキャリア2の識別と相互に関連する。
【0089】
マイクロチャネル1、マイクロキャリア2および制約手段4は、好適には上述のものである。最終的に、当業者は本発明の第2の態様として本明細書中に記載されたマルチアッセイを行う方法のステップ(a)〜(c)が、本発明の第1の態様に記載されたマルチアッセイを実際に形成することを認識するであろう。本発明のこれらの2つの態様のそれぞれの記載は、したがって、他の態様の内容において理解されうる。
【0090】
マルチアッセイの目的で、マイクロチャネル1には好適にはマイクロキャリア2の異なる組が入れられ、各組は異なる機能を有している。全ての組はサンプルが流れる前に反応チャンバ内に存在し、これらについて同時にアッセイがなされる。複数組の機能化マイクロキャリア2が用いられ、マイクロキャリア2の位置は制御される必要はないため、マイクロキャリア2の種々の組は、互いに区別される必要があり、すなわち、反応チャンバ内にマイクロチャネル1内の位置に関係なく存在する場合に、マイクロキャリア2の機能を決定する方法が必要とされる。これは、コードがその機能を表している、コード付与されたマイクロキャリア2を用いることによりなされる。コードの例は上記において概略を示した。マルチアッセイ技術に関して、分析物により生成される信号が無い場合であっても、すなわち、アッセイの実施に関係なく(すなわち、当該技術はマイクロキャリアが属する組を明らかにするために、分析物の存在に依存してはならない)、マイクロキャリア2が区別されおよび/または識別されることが望ましい。というのも、反応が互いの組に関して区別可能でなければならない方法に頼らなければならないので、複数の組が、対応する標的が存在しない場合に明らかとされず、このため品質制御を困難とし、さらに使用可能な異なる組の数(すなわちマルチアッセイのレベル)を非常に制限することとなるからである(蛍光での読み取りの場合、これは典型的には異なる蛍光体を用いることによって行われるが、マルチアッセイのレベルはスペクトル特性によって限定され、実際には、このことは同時に使用可能なマイクロキャリア2の異なる組を典型的には最大5組または6組としてしまう)。これは物理的なコード付与技術を用いることにより実現可能である。たとえば、マイクロキャリア2は、機能を表すコードや属性などの観察により区別される属性でもって個別にコード付与しあるいは製造可能である。
【0091】
第1の態様の記載において上述した好適なコードの実施例では、該方法のマイクロキャリア2はディスク形状を有し、さらにより好ましくは、貫通穴を有する、好適には配向マークを有するコードを有する。したがって、マイクロチャネル1は好適には長方形の断面を有する平坦な形状を有し、マイクロキャリア2はマイクロチャネル1内を単層で配置されている(図6のように)。
【0092】
ステップ(b)は、懸濁したマイクロキャリア2を含む流体9を、マイクロ流体チャネル1の入口14に接続している注入口5を通じて、好適には拡張部分6を通じて流すことにより実現される。上述したように、このステップの現実的実現はマイクロチャネル1の断面がその全長にわたってマイクロ流体チャネル1内で隣り合って存在する少なくとも2つのマイクロキャリア2を含むことができるように構成されていることによって容易化される。ステップ(b)は、マイクロチャネル1を含むアッセイ装置のタッピングを伴っても良い。これは、構成の外形により許されるように、マイクロキャリア2が障害物によってブロックされる状況が発生したときに、マイクロキャリア2がより容易に互いに追い越し可能であるようにする。
【0093】
ステップ(b)に関して、好適には、厳密に3つ以上のマイクロキャリア2がマイクロチャネル1の側壁101に接することなく隣り合って存在可能とされる。典型的には、3個〜50個のマイクロキャリア2を隣り合わせ可能にすることは、マイクロチャネル1の入口14の詰まりのリスクを低減し、マイクロチャネル1内に発生しうる障害またはデブリに対する対応を可能とするので、構成の用意を容易化する。
【0094】
ステップ(c)は、上記の制約手段の記載において概略した制約手段の使用によって実現される。マイクロキャリア2は制約された長手方向の動きを有し、流体を流す一方で、マイクロチャネル1内で固定化される。
【0095】
ステップ(d)において、関心のある分子を含む可能性のあるサンプルがマイクロチャネル1に通され、マイクロキャリア2に接触される。これはいくつかの技術、たとえば、圧力、電気ポテンシャル(電気浸透フロー)、毛管現象、重力または遠心力を用いて行われる。好適な実施形態では、マイクロチャネル1は1つまたは複数の注入口5の一端に(上述のように)接続され、または、他方で1つまたは複数の排出口15に接続されており、これにより、流体は1つまたは複数の注入口5と1つまたは複数の排出口15との間に異なる圧力を加え、圧力駆動流(PDF)を形成することによって移動させることができる。正の圧力および/または負の圧力(吸引)を、ポンプ機構または空気圧機構を用いて1つまたは複数の注入口5と1つまたは複数の排出口15との間にかけることができる。したがって、一実施形態では、流体9はマイクロチャネル1に接続された注入口5内に正の圧力をかけ、マイクロチャネル1に接続された排出口15に負の圧力をかけることにより移動される。流体9は連続してまたはストップフロー法(すなわち、マイクロチャネル1内における流体9の移動と流体9の静止との連続)で流される。
【0096】
サンプル9が流れる速度は変化するが、関心ある分子がマイクロキャリア2の近くを通る時間は、標的分子3の拡散速度、および、標的分子3の受容体10でコートされたマイクロキャリア2の濃度に基づいて最適化可能である。
【0097】
マイクロキャリア2は反応チャンバ内で長手方向の動きが制約されているので、必要であれば、付加的なアッセイステップを容易に行うことができる。このことは、たとえば洗浄または新たな試薬の添加を行うために、マイクロキャリア2のいかなる特別な操作も必要とせずに、種々の流体9を連続的にまたは同時に流すことにより簡単に行われる。
【0098】
一実施形態では、サンプル9はマイクロチャネル1内を前後に流される。好適には、この動きは同じ標的分子3のためのリガンド10を有する2つのマイクロキャリア2の間の平均距離に相応する距離において生じるように最適化される。サンプル9が前後に動かされる実施形態は、マイクロパーティクル2に作用する力(たとえば磁力)に基づいて止め手段4により、または、マイクロチャネル1の入口14に近い「活性化可能な」止め手段4(たとえばマイクロチャネル1の一部の圧縮)を用いることにより、止め手段4の活性化の前のマイクロキャリア2の導入を可能とするよう実現可能である。
【0099】
別の実施形態では、サンプルは、排出口15から注入口5への流体接続と、蠕動ポンプなどの流体をアクチュエートする手段とを設けることによって、マイクロチャネル1全体を再循環される。
【0100】
サンプル9の再循環または前後運動は、サンプル9の速度を制御することが困難な場合および/または非常に希釈されたサンプル9の場合に有用である。
【0101】
識別ステップ(e)は、サンプルを流す前後またはその間に行うことができる(ステップd)。該ステップは反応の検出(ステップf)と同時にまたはその後に行ってもよく、特に、たとえば両方の目的のために用いられる該方法を組み合わせることにより、たとえば、画像キャプチャなどの同様の光学的方法と、組の識別および反応の検出の両方のための分析とを用いることにより、マイクロキャリア2がアッセイの実行にかかわりなく識別可能な場合に該ステップを行うことができる。識別は、いくつかの部分で上述したようなコード付与されたマイクロキャリア2を用いることにより実現される。マイクロチャネル1内の位置は制御できないが、本発明のマイクロキャリア2の異なる組は、標的分子の存在により明らかにされる必要がない、すなわち、アッセイの実行にかかわりなく、かつ、マイクロチャネル1内の位置にかかわりなく、固有の特性に基づいて、たとえば穴の形状のコードによりまたはマイクロキャリア2の形状により、マイクロチャネル1内にあるときに、識別および/または区別可能である。
【0102】
検出ステップ(f)は、アッセイが進むときの反応の進行についての、および、ステップ(d)の終点読み取り後のキネティックな情報を得るために、サンプルを流している間(ステップd)に行うことができる。サンプルを流す(ステップd)前に異なる組の識別も実行してよい。検出ステップは、1つずつまたはいくつか同時の、たとえば、広視野観察技術による、たとえば、マイクロキャリア2の観察(たとえば、光学的検出)またはマイクロキャリア2の感知(たとえば磁気的検出)を含む。本明細書に記載される方法のマイクロキャリア2は、好適には上述したマイクロキャリア2である。
【0103】
アッセイの実行に加えて、どのマイクロキャリア2が、そして、場合により、どの程度まで反応したのかを判別するために、生物学的読み取りが行われる(ステップf)。好適な実施形態では、マイクロチャネル1は、観察可能な信号をマイクロキャリア2を含む部分の少なくとも一方側に通すことにより、マイクロキャリア2の観察が直接マイクロチャネル1内部で可能なように設計されている。さらに好適な実施形態では、マイクロチャネル1は少なくとも一方側および一部において透明であり、光学的観察を可能とする。代替的にまたは付加的に、マイクロチャネル1は磁界または電子放射に対して浸透可能であり、マイクロキャリア2の磁気的または電磁的感知を可能とし、種々の組を識別しおよび/または生物学的読み取りを行う(たとえば、磁気的ラベルを用いる)。
【0104】
好適な実施形態において、マイクロキャリア2は単層構造を有し、マイクロチャネル1は少なくとも一方側において透明であり、全てのマイクロキャリア2の簡単な直接的光学的観察を個別に可能とする。マイクロキャリア2が単層構造ではないとき、マイクロキャリア2が(半)透明であれば、より複雑な共焦的光学技術を用いることができる。
【0105】
生物学的読み取りは、典型的には相補性ラベルした分子を用いて、たとえば発光応答または磁気的応答あるいは他のタイプの電気放射により結合が生じたときに、典型的には観察可能な信号、好適には光学的に観察可能な信号の生成により行われる。反応は、たとえば、比色、化学発光、量子ドット放射および/または蛍光反応により識別可能とされる。生物学的読み取りは、反応により生成される信号強度を測定することにより、量的情報(すなわち、サンプル中に存在する分析物の量に関する情報)を与えてもよい。複数組のマイクロキャリア2を反応チャンバに用いるとき、信号生成機構がマイクロキャリア2中に共に局在化し、バルク溶液中に放出されない。典型的には、反応は、リガンドと標的分子とにより形成される錯体に結合する(後者がサンプル中に存在する場合)相補性分子を用いることにより明らかとなる。あるいは、マイクロキャリア2の表面に結合された蛍光体および失活剤を含む錯体を用いることができ、表面につながれた蛍光体を離し、これによりマイクロキャリア2の表面に信号が生成される失活剤を切断するように設計された反応を用いることができる。生物学的読み取りは、当該分野で既知のラベルを用いない検出技術、たとえば、表面プラズモン共鳴(SPR)または電気的方法(たとえば導電性変化)を含んでも良い。
【0106】
図5に示すように、マイクロキャリア2が単層構造である構成を用意することと、好適にはマイクロキャリア2を移動することなく、反応が発生する領域すなわち反応チャンバ内でマイクロキャリア2を直接観察するように、好適な方法には、センサ好適には光学センサの配置が含まれる。センサは、一時に多数のマイクロキャリア2を観察/感知する広視野センサ(たとえば、レンズおよび顕微鏡と同種の構成を構成する対物レンズなどの必要な光学手段に接続されたCCDまたはCMOS光センサアレイ)、または、一時に1つのマイクロキャリア2を観察/感知する狭視野センサ(たとえば、光ダイオード、光電子増倍管または共焦スキャナあるいは磁気センサ)である。光学センサに関して、マイクロチャネル1は少なくともマイクロキャリア2が観察される側で透明である必要がある。好適には、広視野センサは、反応チャンバ1内の複数のマイクロキャリア2の1つの画像または一連の画像を「キャプチャ」し、画像処理を通じて反応を明らかにするために必要とされる。この技術は、コード機構が同様の光学系でもって(たとえば貫通穴に基づくコード機構を用いることにより)検出可能な光学コントラストに基づく場合には、コードの検出と組み合わされてマイクロキャリア2の組を識別する。狭視野センサも用いられるが、全てのマイクロキャリア2を走査し、反応を明らかにするために分析可能な信号を生成するよう動かされる必要がある。マイクロキャリア2の位置はマイクロチャネル1内で比較的自由なので、狭視野センサは反応チャンバ1を走査することにより画像を構築するような方法で用いられる。あるいは、複数の狭視野センサを用いて、マイクロチャネル1の複数の領域を同時に観察してもよい。マイクロキャリア2の識別のための広視野センサの使用を、反応の検出のための狭視野センサと組み合わせることも可能である。
【0107】
マイクロキャリア2を反応チャンバ1内で直接観察する実施形態では、止め手段4を除く必要はなく、マイクロキャリア2を検出のために外部に出す必要はない:しかし、マイクロチャネル1は好適には一方側で少なくとも透明でありおよび/または少なくとも一部でマイクロキャリア2の光学的観察が可能である。この実施形態はまた、反応のキネティックな読み取りを可能とする。実際、アッセイの進行とともに生物学的指標を観察することが可能であり、このため、反応のキネティクスについての情報を適時得ることができる(図9参照)。反応が起きるときにマイクロキャリア2の放射スペクトルの磁気的特徴を変化させるようにアッセイが設計されているときには、光学センサの代わりに、他のタイプのセンサたとえば磁気センサまたは分光センサを用いることもできる。これは、たとえば、蛍光ラベルを用いるのと同じやり方で相補的な抗体に結合された「磁気ラベル」を用いることにより達成可能である。
【0108】
別の実施形態では、アッセイの終わりでのマイクロチャネル1の別の部分(観察用部分または窓)を通じたマイクロキャリア2の取り出しまたは移動、および、蛍光活性化細胞選別器(FACS)において行われるのと同様に、またはその代わりに、排出口ウェル7を通したマイクロキャリア2の取り出しおよび観察用の別の装置たとえば蛍光顕微鏡に配置される顕微鏡スライドへの配置と同様に、マイクロキャリア2が通過するときの生物学的信号の読み取りが行われる。この方法では、終点における生物学的読み取りのみが可能であり、キネティックな読み取りは可能ではない。ここでもう一度、広視野センサ(たとえばCCDまたはCMOS光センサアレイ)または狭視野センサ(たとえば光ダイオード)を用いてもよい。これは、マイクロキャリア2の組を識別するために、コードの検出と組み合わせてもよい。この目的のため、長手方向の動きの制約は、上述したように、たとえば、止め手段4を除くことによりまたは磁界を除くことにより、除かれなければならない。
【0109】
ステップ(f)において、生物学的読み取りの観察は、ステップ(e)で観察されるように、マイクロキャリア2の識別と関連づけられる。2つの観察(すなわち、識別の観察および生物学的信号の観察)の関連づけは、たとえば、2つの観察を1つに結合することによる(すなわち同じ信号または同じ光学画像を用いることによる)か、または、マイクロキャリア2の位置を用いて2つの観察を関連づけることにより(すなわち、マイクロキャリア2が存在する同じ空間に対応する2つの信号または光学画像を用いることにより)、行われる。たとえば識別ステップ(e)がサンプルを流す(ステップd)前に行われる場合には、2つの観察は時間的に分離可能であるので、マイクロキャリア2の定位の配置はこの関連づけを容易にする。好適な実施形態では、マイクロキャリア2のいかなる好ましくない動きもマイクロキャリア2の識別と生物学的信号との関連づけを妨げないように、識別ステップ(e)は、生物学的読み取りステップ(f)と基本的に同時に行われる。たとえば、これはCCDまたはCMOSカメラを用いて、サンプルを流した(ステップd)後またはその間に、同時にまたは非常に短期間内に達成可能である。第1の画像(典型的には明視野画像)がマイクロキャリア2の識別に用いられ、第2の画像(典型的には蛍光画像)が生物学的読み取りに用いられる。あるいは、識別と生物学的読み取りとは単一の観察(たとえば同じ画像)に基づいてもよい。これは、マイクロキャリア2が観察領域に放出され、それらが通過するときに観察される実施形態に適用される。
【0110】
チップ
別の態様において、本発明は、マルチアッセイ用のチップ13を提供する。このチップ13は、本発明の第1の態様において記載されたアッセイ装置を構成する。チップ13の例を図11に示す。このチップ13は、例えば診断目的に使用可能である。より好適な実施形態では、マイクロキャリア2はマイクロチャネル1からマイクロキャリア2を放出する必要なく観察可能である。
【実施例】
【0111】
注入口ウェルおよび排出口ウェルに接続され、フィルタ構造および安定化中心柱を有するマイクロチャネルを含む構成を、PDMS成型技術を用いて製造し、顕微鏡ガラススライドに貼り付けた(「Fundamentals and Applications of Microfluidics」(Nam-Trung NguyenおよびSteve Wereley著、ISBN:9781580533430)の第3章に記載されているように)。
【0112】
周縁に貫通穴のパターン(コードとして機能する)を有するディスク状のシリコンマイクロキャリアを製造した。この作業は、直径50μm、厚さ10μmの数百万のマイクロキャリアを製造可能なウェハベースの微細加工技術を用いてクリーンルーム環境において行った。このプロセスフローは以下のステップを含んでいた。
【0113】
1)SOI(シリコンオンインシュレータ)ウェハ(直径4インチ、厚さ380μmの基板ウェハ、厚さ1μmのBOX、10μmのデバイス層)を用意する。
2)一般的なホトリソグラフ技術(光感受性保護レジストのスピンコート、マスクUV露光、現像、デバイス層全体のシリコンエッチング、最後にレジスト除去)によって、マイクロキャリアおよびそのコード(図18参照)の形状の輪郭を描く。
3)ウェハのBOX層のエッチングによるマイクロキャリア2の剥離を準備する。
4)マイクロキャリアの上にPECVD(プラズマ化学気相成長法)により厚さ約110μmの酸化物層を蒸着させる。この層はシリコン粒子における適切な蛍光信号を確実にするのに必要である(Bras, M., et al., Optimisation of a silicon/silicon dioxide substrate for a fluorescence DNA microarray. Biosensors & bioelectronics, 2004. 20(4): p. 797-806、Voile, J.N., et al., Enhanced sensitivity detection of protein immobilization by fluorescent interference 30 on oxidized silicon. Biosensors and Bioelectronics, 2003. 19(5): p. 457-464)。
5)ウェハをアセトンなどの溶液に超音波をかけつつ浸漬して、基板からマイクロキャリアを離す。
【0114】
この工程を2回繰り返して、いくつかの異なるコードを有する2組のマイクロキャリアを製造した。
【0115】
その後、各コード用の約300,000個のマイクロキャリアについて、1mLアセトン中、室温で1時間撹拌して10%v/v(3−アミノプロピル)トリエトキシシランと反応させてその表面を一級アミンで機能化した。マイクロキャリアはペレット化し、10mMホウ酸バッファ、0.1%Tween(登録商標)−20(BBST)含有150mMNaCl(pH8.2)の1mL中に再懸濁した。マイクロキャリアの表面アミノ基を、BBST中で800μLの10%v/vグルタルアルデヒドの添加により活性化した。マイクロキャリアはこの溶液中で室温で1時間撹拌した。活性化ステップの後、マイクロキャリアは1mLのBBSTで3回洗浄した。
【0116】
その後、2組のマイクロキャリアは、生物学的プローブP1(5’−CAA CCC CAG CTA ATA TTA TT−3’)およびP2(5’−TGG GTA AGT TAG GGC GAT GG−3’)でそれぞれコートした。コーティングは、BBST中へのアミノ修飾(5’−または3’−)オリゴヌクレオチド(P1またはP2)の500nMの溶液添加により行った。マイクロキャリアはこの溶液中で室温で1時間撹拌した。BBSTを用いた上述の洗浄ステップの後、BBST中で35mMグリシンと室温で15分間反応させて、反応しなかった官能基をブロックした。マイクロキャリアはBBSTで2回洗浄し、その後同じバッファに保存した。
【0117】
2組のマイクロキャリア2のマスター混合懸濁液を、上記のように調製した各組からの10μLのマイクロキャリア懸濁液を完全に混合させて調製した。2組の機能化マイクロキャリアの混合物を、その後、注入口内にマスター混合懸濁液を滴下することによりマイクロチャネルに入れ、排出口内に負圧をかけてマイクロチャネル内にマイクロキャリアのマスター混合懸濁液を吸引した。PDMSマイクロチャネルは、先だって、エタノールで濡らしておき、親水性状態を改善しておいた。
【0118】
P1と相補性を有する標的T1(5’Cy5−AAT AAT ATT AGC TGG GGT TG−3’)のサンプル溶液を、5’末端をCy5蛍光体でラベルしたオリゴヌクレオチドT1の5×SSPE(125mMリン酸バッファ、745mMNaCl、5mMEDTAを含有。pH7.4)溶液200nMを調製して用意した。
【0119】
注入口ウェルから全ての過剰な溶液を除いた後、このサンプル溶液を注入口ウェルに入れ、室温で5分間、チャネルに流した。標的シーケンスT1を流した後、過剰な溶液を注入口ウェルから除き、マイクロキャリアを室温で1時間、2×SSC(15mMクエン酸ナトリウム、150mMNaCl、pH7)を流して洗浄した。Cy5フィルタセットを有する蛍光顕微鏡(Zeiss社製Axiovert(登録商標)135)にて、ガラス層を介して、2組のマイクロキャリアにおける蛍光信号を観察した。図8は、冷却したCCDカメラ(浜松ホトニクス株式会社製ORCA(登録商標)C4742−80−12AGカメラ)によってキャプチャした実験結果を示す。
【0120】
本発明の現在好適な実施形態および実施例を示し、記載したが、本発明は、これらに限られることなく、請求項の記載の範囲において種々実現、実施が可能であることは明瞭に理解されるところである。
【符号の説明】
【0121】
1 マイクロチャネル、 2 マイクロキャリア、 4 止め手段、 5、5’ 注入口、 6 隘路、 7 ウェル、 10 センサ、 14 入口、 15 排出口、 16 出口、 20 マーク、 21 穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応チャンバと、少なくとも2組の個別にコード付与されたマイクロキャリア(2)とを備えるアッセイ装置であって、
前記反応チャンバはマイクロチャネル(1)から構成され、
前記マイクロキャリア(2)は前記マイクロチャネル(1)の断面に関連する形状を有しており、該形状は、前記マイクロチャネル(1)の全長にわたって、互いに接することなくかつ前記マイクロチャネル(1)の周縁に接することなく並んで存在する少なくとも2つの任意の前記マイクロキャリア(2)を含むことができるように構成されており、
前記アッセイ装置は、流体を流す一方で、前記マイクロチャネル(1)の長手方向における前記マイクロキャリア(2)の動きを制約する手段(4)を有し、
前記マイクロキャリア(2)のコードは機能を表している、
ことを特徴とするアッセイ装置。
【請求項2】
前記マイクロキャリア(2)は前記マイクロキャリア(2)の光学的観察が可能となるよう、少なくとも一方側および/または少なくとも一部において透明である、請求項1記載のアッセイ装置。
【請求項3】
前記マイクロチャネル(1)は少なくとも1つの拡張隘路(6)を介して注入口(5)に接続されている、請求項1または2記載のアッセイ装置。
【請求項4】
前記マイクロチャネル(1)の断面は、長方形または長方形に近い、請求項1乃至3のいずれか1項記載のアッセイ装置。
【請求項5】
前記マイクロキャリア(2)は前記マイクロチャネル(1)の断面に関連する形状を有しており、該形状は、前記マイクロチャネル(1)の全長にわたって、互いに接することなくかつ前記マイクロチャネル(1)の内周に接することなく隣り合って存在する少なくとも3つの任意の前記マイクロキャリア(2)を含むことができるように構成されている、請求項1乃至4のいずれか1項記載のアッセイ装置。
【請求項6】
前記マイクロキャリア(2)は、前記マイクロチャネル(1)の内側における単層構造に制約されている、請求項1乃至5のいずれか1項記載のアッセイ装置。
【請求項7】
前記マイクロキャリア(2)は球状の形状を有している、請求項1乃至6のいずれか1項記載のアッセイ装置。
【請求項8】
前記マイクロキャリア(2)はウェハ状の形状を有している、請求項1乃至7のいずれか1項記載のアッセイ装置。
【請求項9】
前記マイクロキャリア(2)はディスク状の形状を有している、請求項1乃至8のいずれか1項記載のアッセイ装置。
【請求項10】
前記マイクロキャリア(2)は上下方向を示すマークを有している、請求項1乃至9のいずれか1項記載のアッセイ装置。
【請求項11】
前記マイクロキャリア(2)は貫通穴(21)の形状のコードを有している、請求項1乃至10のいずれか1項記載のアッセイ装置。
【請求項12】
前記マイクロキャリア(2)はディスクの直径の半分未満を占める外環に配設された、貫通穴(21)の形状のコードを有している、請求項1乃至11のいずれか1項記載のアッセイ装置。
【請求項13】
前記マイクロチャネル(1)はシリコン、PDMS、PMMA、テフロン(登録商標)、TPE、SU−8、Victrex(登録商標)PEEK(登録商標)、ポリカーボネート、PVC、PP、PE、PS、FEP、COP、COC、ニッケル、銀、金、石英またはガラスから構成されている、請求項1乃至12のいずれか1項記載のアッセイ装置。
【請求項14】
前記マイクロキャリア(2)は、ラテックス、ポリスチレン、架橋デキストラン、メチルスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、セルロース、ポリアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ガラス、SiO、シリコン、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、金、銀、アルミニウム、鉄または他の材料あるいはSU−8から構成される、請求項1乃至13のいずれか1項記載のアッセイ装置。
【請求項15】
前記マイクロチャネル(1)はヘビ状の外形を有する、請求項1乃至14のいずれか1項記載のアッセイ装置。
【請求項16】
前記マイクロキャリア(2)の動きを制約する手段(4)は、堰構造、1つまたは複数の柱、前記マイクロチャネル(1)の断面の縮小、グリッド、メッシュフィルタ、誘電泳動力を用いて保持された1つまたは複数のマイクロパーティクル、あるいは、1つまたは複数の磁界に保持された磁気的マイクロパーティクルである、請求項1乃至15のいずれか1項記載のアッセイ装置。
【請求項17】
前記マイクロキャリア(2)は、磁界または誘電泳動力により固定化されている、請求項1乃至16のいずれか1項記載のアッセイ装置。
【請求項18】
前記マイクロチャネル(1)内での前記マイクロキャリア(2)の回転運動は、少なくとも1方向において制約されている、請求項1乃至17のいずれか1項記載のアッセイ装置。
【請求項19】
前記マイクロキャリア(2)の回転運動は、前記マイクロチャネル(1)の断面に関連したマイクロキャリア(2)の形状により制約される、請求項1乃至18のいずれか1項記載のアッセイ装置。
【請求項20】
マイクロキャリア(2)に基づくマルチアッセイを実行する方法であって、
a)反応チャンバとしてのマイクロチャネル(1)を備えたアッセイ装置を用意し、かつ、少なくとも2組の個別にコード付与されたマイクロキャリア(2)を用意するステップと、
ここで、前記マイクロキャリア(2)のコードは機能を表し、前記マイクロチャネル(1)の断面に関連する前記マイクロキャリア(2)の形状およびサイズは、前記マイクロチャネル(1)の全長にわたって、互いに接することなくかつ前記マイクロチャネル(1)の周縁に接することなく隣り合って存在する少なくとも2つの任意の前記マイクロキャリア(2)を含むことができるように構成されており、
b)前記マイクロチャネル(1)を前記少なくとも2組のコード付与されたマイクロキャリア(2)でもって少なくとも部分的に満たすステップと、
c)流体を流す一方で、前記マイクロチャネル(1)の長手方向における前記マイクロキャリア(2)の動きを制約するステップと、
d)前記マイクロキャリア(2)を含む前記マイクロチャネル(1)を通じてサンプル(9)を流すステップと、
e)前記マイクロキャリア(2)の組を識別するステップと、
f)前記マイクロキャリア(2)の識別と関連した生物学的読み取りを行うステップと、
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項21】
前記ステップ(c)の後に得られる前記アッセイ装置は、請求項1乃至19のいずれか1項記載のアッセイ装置である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記ステップ(e)は、前記マイクロキャリア(2)を前記反応チャンバ内で直接観察することにより行われる、請求項20または21記載の方法。
【請求項23】
前記ステップ(f)は前記ステップ(d)と同時に行われ、経時的結果を提供する、請求項20乃至22のいずれか1項記載の方法。
【請求項24】
前記マイクロチャネル(1)は少なくとも一方側または少なくとも一部において透明であり、前記ステップ(f)は光学手段(4)により行われる、請求項20乃至22のいずれか1項記載の方法。
【請求項25】
前記生物学的読み取りは、前記光学手段(4)に接続された光学センサのアレイを用いて行われる、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記光学センサはCCDまたはCMOS光センサである、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記マイクロキャリア(2)は、前記マイクロキャリア(2)の回転運動を制約する、前記マイクロキャリア(2)の断面に関連した形状を有する、請求項20乃至26のいずれか1項記載の方法。
【請求項28】
前記マイクロキャリア(2)はウェハ形状を有し、前記マイクロチャネル(1)の断面は長方形である、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記マイクロチャネル(1)の断面に関連した前記マイクロキャリア(2)の形状およびサイズは、前記マイクロチャネル(1)の全長にわたって、隣り合って存在する少なくとも3つの任意の前記マイクロキャリア(2)を含むことができるように構成されている、請求項20乃至28のいずれか1項記載の方法。
【請求項30】
前記ステップ(e)は前記ステップ(d)の前に行われる、請求項20乃至29のいずれか1項記載の方法。
【請求項31】
前記ステップ(e)は前記ステップ(f)と同時に行われる、請求項20乃至30のいずれか1項記載の方法。
【請求項32】
前記マイクロキャリア(2)の組の識別はセンサのアレイを用いてキャプチャされた画像の分析により行われる、請求項20乃至31のいずれか1項記載の方法。
【請求項33】
前記センサはCCDまたはCMOS光センサである、請求項20乃至32のいずれか1項記載の方法。
【請求項34】
請求項1乃至19のいずれか1項記載のアッセイ装置の少なくとも1つを備える、マルチアッセイ用チップ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公表番号】特表2012−513593(P2012−513593A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542643(P2011−542643)
【出願日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【国際出願番号】PCT/CH2009/000412
【国際公開番号】WO2010/072011
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(510089557)ビオカルティ ソシエテ アノニム (10)
【氏名又は名称原語表記】Biocartis SA
【住所又は居所原語表記】Quartier Innovation EPFL−G, CH−1015 Lausanne, Switzerland