説明

アナログ・デジタル積層型可変移相器

【課題】フェーズドアレーアンテナに必要となる小型・薄型・多機能で安価なアナログ・デジタル混成移相器を実現する。
【解決手段】誘電積層基板の内部又は表面上に形成される、第1の信号経路切り替え手段と第1の信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路とを含み、第1の信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路のうち少なくとも1つから分岐した信号経路を含み、分岐した信号経路はビアを介して誘電積層基板表面上のリアクタンス素子と電気的に接続される、第1の移相回路と、誘電積層基板の内部又は表面上に形成される、第2の信号経路切り替え手段と、第2の信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路であって誘電積層基板中の異なる2以上の層上にそれぞれ形成された信号経路を層間ビアにより電気的に接続してなる信号経路を含む2以上の信号経路と、を含む第2の移相回路と、を含む移相器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路部品、半導体技術、マイクロ波回路、レーダ・センサー技術、通信放送用アンテナ装置等に用いられ、主には高周波の位相を所望の量だけずらす、移相器に関する。
【背景技術】
【0002】
フェーズドアレーアンテナは、宇宙電波通信技術や軍事防衛技術、移動体通信技術など、特に厳密な指向性制御を要求される先端技術分野において利用されている。
【0003】
一般にフェーズドアレーアンテナとは、移相器を用いて互いに所定の量だけ位相差を持たせた多数のアンテナ素子を一次元的又は二次元的に配列することにより、アンテナ全体として所望の指向性を持たせたアンテナであり、各アンテナ素子の位相を個々に制御することにより、アンテナ自体を機械的に回転させることなく放射方向を変えられるという特長を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−215110
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現時点においてフェーズドアレーアンテナが広く普及しているとは言い難い。その理由として、フェーズドアレーアンテナが他のアンテナと比較して高価であり、また大型化を避けられないという問題があることが挙げられる。
【0006】
すなわち、フェーズドアレーアンテナを構成するためには個々のアンテナ素子における位相を調整するために多数の(一般にはアンテナ素子と同数の)移相器が必要となるが、きめ細やかな位相調整を行おうとすれば各移相器は高価且つ大型になってしまい、したがってアンテナ全体としても高価且つ大型となることが避けられない。
【0007】
移相器における位相調整手段としては、スイッチ切り替えなどによるデジタル制御と、リアクタンス変化が可能な素子を電圧などで制御することによるアナログ制御とが存在するが、いずれの場合も、精度を高めようとすると多数の素子又は大型の素子が必要となるため、従来のような平面型回路構成を採用すると、移相器の大型化は避けられない。
【0008】
特にデジタル制御による移相器は、移相器を構成する個々の移相回路(ビット)における移相量の量子化誤差が移相器全体の出力に累積されるという問題や、スイッチ等の実装後は位相誤差の微調整が困難であるという問題を有するために、帯域の調整、挿入損の低減に注意して設計する必要がある。さらに、たとえ十分注意して設計したとしても、はんだ付けなどでのわずかな作製誤差により、位相調整の精度は不十分なものとなる。
【0009】
一方、アナログ制御の移相器を用いれば位相角の厳密な制御も可能となるが、そのような場合には大きなリアクタンス変化が可能な素子、すなわち大型のリアクタンス素子を個々の移相器に備えることが必要となり、アンテナは大型で高価なものとなる。
【0010】
このため、きめ細やかな位相調整を可能としつつ、従来よりも小型で安価な、移相器が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、複数の誘電基板を積層してなる誘電積層基板の内部又は表面上に形成される第1の移相回路であって、第1の信号経路切り替え手段と、第1の信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路と、を含み、第1の信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路のうち少なくとも1つから分岐した信号経路を含み、分岐した信号経路は、ビアを介して誘電積層基板表面上のリアクタンス素子と電気的に接続される、第1の移相回路と、誘電積層基板の内部又は表面上に形成される第2の移相回路であって、第2の信号経路切り替え手段と、第2の信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路であって、誘電積層基板中の異なる2以上の層上にそれぞれ形成された信号経路を層間ビアにより電気的に接続してなる信号経路を含む、2以上の信号経路と、を含む第2の移相回路と、を含む移相器を提供する。
【0012】
また本発明は、複数の誘電基板を積層してなる誘電積層基板の内部又は表面上に形成される移相回路であって、信号経路切り替え手段と、信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路であって、誘電積層基板中の異なる2以上の層上にそれぞれ形成された信号経路を層間ビアにより電気的に接続してなる信号経路を含む、2以上の信号経路と、を含み、信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路のうち少なくとも1つから分岐した信号経路を更に含み、分岐した信号経路は、ビアを介して誘電積層基板表面上のリアクタンス素子と電気的に接続される、移相回路を含む移相器を提供する。
【0013】
上記移相器において、各信号経路は誘電積層基板の内部又は表面上に形成されている。従来であれば、信号経路は積層化しない単なる平面構造の回路として形成されており、したがって回路規模も大きくなることを避けられなかったのであるが、本発明においてはこれを立体構造とすることにより移相器全体の小型化を図っている。
【0014】
具体的に、そのような立体構造において層間の信号経路を電気的に接続する役目は、層間ビアが担う。すなわち、誘電体基板にスルーホールを形成し、当該スルーホール内に金属など電極材料を充填若しくは付着させてビアを形成し、当該ビアの上端と下端とをそれぞれの層の信号経路と接続することにより、層間での信号伝達を可能とする。
【0015】
また、上記移相器によれば、信号経路切り替えによるデジタルな位相調整とリアクタンス素子の制御によるアナログな位相調整とを組み合わせることにより、段階的な位相調整を厳密に行うことが可能となる。すなわち、デジタル位相調整を担うべく形成された各信号経路において、経路長やインダクタンス等の誤差があるために出力される信号の移相が設計値からずれていたとしても、移相器の使用段階においてリアクタンス素子に印加する電圧を随時調整することなどにより、そのようなずれを解消することが可能となる。
【0016】
また、リアクタンス素子は誘電積層基板表面上に形成されるため、調整・交換が比較的容易である。例えば連続的な位相調整を広範囲に亘って行う必要があるならば大型のリアクタンス素子を配置し、あるいは純粋に段階的位相調整を行うことが目的であって、且つ各信号経路における誤差が僅かであることが判明した場合には、小型のリアクタンス素子を配置するということも可能である。すなわち目的に応じて可能な限りの小型化を図ることができる。
【0017】
リアクタンス素子としては、可変容量ダイオード、電界効果トランジスタ(FET)、金属酸化物半導体(MOS)キャパシタ、フォトダイオード、フォトトランジスタ、などを用いることができる。
【0018】
典型的には、ダイオードに直流逆電圧を印加してp型半導体側とn側半導体側との間に空乏層を形成することにより構成され、且つ印加する逆電圧を制御することにより当該ダイオードに所望の静電容量を持たせることが可能である、可変容量ダイオード(バラクタダイオード)が用いられる。
しかしながら、本発明の移相器において用いられるべきリアクタンス素子はこれに限られるわけではなく、ゲートへの印加電圧により特性が変化する電界効果トランジスタ(FET)や、金属酸化物半導体(MOS)キャパシタ、あるいは、照射光強度によって特性が変化するフォトダイオードやフォトトランジスタのような光検出器など、信号に与えるリアクタンス効果を外部入力に応じて調整可能とする素子であれば、どのようなものであってもよい。
【0019】
本発明の移相器に用いる誘電基板とはLTCC基板であって、誘電積層基板はLTCC多層基板であることが好ましい。LTCC(Low Temperature Co−fired Ceramics)、すなわち低温同時焼成セラミックスを用いて回路基板を作成する場合、各層のグリーンシート上に回路を形成して積層させた後に焼成するという製造工程により、積層基板全体としてのサイズが面積方向、積層方向の両方向で圧縮される。したがって、面積を小さく抑えつつ、積層構造による厚みの増大も最小限に留めることができるという点において、LTCCは相対的に優れた材料である。
またLTCCは、従来のアルミナセラミック基板よりも低温での焼成が可能であるため、このLTCCを回路基板として採用することにより、以前は耐火性の問題から使用が困難であった導体抵抗の低い金属(金、銀、銅など)を回路に用いることが可能となる。
【0020】
本発明の移相器に用いる信号経路切り替え手段は、高周波用MEMSスイッチであることが好ましい。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、すなわち微小電子機械システムによるスイッチを用いれば、従来の半導体スイッチや機械式スイッチを用いる場合と比べて、移相器を挿入することによる損失の低下、及び移相器全体としての更なる小型化が可能となるのであり、また開発・製作コストの削減へと繋がるからである。しかしながら、移相器において許容される損失やサイズの程度に応じて、その他のスイッチを採用することも当然可能である。
【0021】
本発明の移相器において、誘電積層基板中の異なる2以上の層上にそれぞれ形成された信号経路は、層を介してほぼ投影面内垂直に交差するよう形成されることが好ましい。各層上の信号経路が層を介して平行に形成された場合、平行電流間の相互作用により移相器の機能に影響が出る恐れがあるからである。そのような相互作用を避けるため、各層での回路形成に際しては他の層における回路パターンも考慮して配線を行うことが好ましい。
【0022】
本発明の移相器において、移相回路のそれぞれにおける信号経路は、誘電積層基板中の最上層以外の層において形成されることが好ましい。誘電積層基板中、内部の層に移相回路を形成すれば、最上層表面、すなわち移相器表面には信号経路切り替えスイッチ及びリアクタンス素子以外の回路素子を配置する必要がなくなるのであり、この表面面積を他の用途に使うことが可能となるからである。
【0023】
本発明の移相器において、分岐した信号経路は、分岐元の信号経路上において入力信号波長のほぼ1/4の距離を介して分岐した2つの調整用スタブとすることが可能である。このような構成をとれば、2つの調整スタブ各々に起因する反射波が打ち消しあうことにより、挿入損失を抑えることができる。
【0024】
また、本発明は、複数の誘電基板を積層してなる誘電積層基板の内部又は表面上に形成される第1の移相回路であって、第1の信号経路切り替え手段と、第1の信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路と、を含み、第1の信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路のうち少なくとも1つから分岐した信号経路を含み、分岐した信号経路は、誘電積層基板表面へと通じるビアへ電気的に接続される、第1の移相回路と、誘電積層基板の内部又は表面上に形成される第2の移相回路であって、第2の信号経路切り替え手段と、第2の信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路であって、誘電積層基板中の異なる2以上の層上にそれぞれ形成された信号経路を層間ビアにより電気的に接続してなる信号経路を含む、2以上の信号経路と、を含む第2の移相回路と、を含む移相器を提供する。
【0025】
さらに、本発明は、複数の誘電基板を積層してなる誘電積層基板の内部又は表面上に形成される移相回路であって、信号経路切り替え手段と、信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路であって、誘電積層基板中の異なる2以上の層上にそれぞれ形成された信号経路を層間ビアにより電気的に接続してなる信号経路を含む、2以上の信号経路と、を含み、信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路のうち少なくとも1つから分岐した信号経路を更に含み、分岐した信号経路は、誘電積層基板表面へと通じるビアへ電気的に接続される、移相回路、を含む移相器を提供する。
【0026】
分岐した信号経路がビアを介して誘電積層基板表面へと電気的に接続されているため、表面上にリアクタンス素子を配置した上で、あるいは位相調整回路など、任意の位相調整手段を表面上に形成した上で、それらをビアと電気的に接続することにより、位相の更なる微調整が可能となる。なお、それら位相調整手段は必ずしも誘電積層基板の表面上に形成されなければならないわけではなく、本発明の移相器とは別個のものとして予め構成した上で、両者を電気的に接続することにより位相の微調整を行うことも可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、例えばフェーズドアレーアンテナを構成する各アンテナ素子における位相調整をするための移相器として都合がよい、小型・薄型・多機能で安価なアナログ・デジタル混成移相器が与えられる。
【0028】
本発明に係る移相器は、デジタル制御による位相の粗調整とアナログ制御による位相の微調整とを組み合わせることにより、必要以上に大型のリアクタンス素子を用いることなく(したがって低コストでの)、きめ細やかな位相調整を可能とする。
【0029】
また、本発明に係る移相器は埋め込み型の調整用スタブを用い、アナログ微調整はリアクタンス素子への電圧、光などによる制御をもって行うため、従来のように測定前にスタブをはんだなどで調整する必要もない。またそのようなアナログ微調整は、後述のとおりプログラム化などによって電子制御とすることが可能である。
【0030】
さらに、回路基板としてLTCC多層基板などの誘電積層基板を用いることにより、信号経路を複数の層に亘る立体構造とした。これにより移相器が占める面積は大幅に削減され、従来に比較しての大幅な小型化が達成された。なお、立体構造とすることにより厚さ方向のサイズは増すこととなるが、例えばLTCC基板を用いる場合での一層あたりの厚さは10〜100μm程度であるため、実用上の不利益はほぼ存在しないといえる。
【0031】
このような利点を有する本発明の移相器を用いることにより、低コストで位相制御精度の高い、電子制御のフェーズドアレーアンテナが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る移相器を上から見た平面図である。
【図2】図1に示される移相器を構成する移相回路の1つを示した斜視図である。
【図3】図2に示される移相回路を、その回路基板である誘電積層基板も含めて示した図である。
【図4】図2及び図3に示される移相回路の回路構成を示す回路図である。
【図5】図1に示される移相器を構成する移相回路の1つを示した平面図である。
【図6】図5に示される移相回路の斜視図である。
【図7】図5及び図6に示される移相回路を、その回路基板である誘電積層基板も含めて示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
これより、本発明に係る移相器の一実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。なお、図中に示される信号経路パターンや素子の配置、構成は単なる一例であり、当業者であれば本発明の範囲内でさまざまな設計変更を行うことが可能である。
【0034】
図1は、本発明の一実施形態に係る移相器1を上から見た平面図である。移相器1は、4つの移相回路2,3,4,及び5を含んでおり、これらが信号線によって電気的に接続されて、4ビット構成となっている。
【0035】
各移相回路中の各信号線は、誘電基板の異なる層上に分布しており、信号経路は全体として立体構造とされている。誘電積層基板は、LTCC基板などの誘電基板から構成される。この立体構造は、後に図2,3,6,及び7を用いて詳細に説明するとおり、全5層からなる誘電積層基板内に形成されている。
【0036】
信号経路は、誘電積層基板を構成する各層の誘電基板上において金属粒子をパターン印刷等することにより形成される。具体的にLTCC基板を用いる場合は、例えばCaO−Al23−B23−SiO2系のガラス質とAl23系のセラミック材料を混合して、混合粉末に有機バインダーと溶剤を加え混練してスラリーを作製し、シート状に成型することでグリーンシートを作製し、このグリーンシート上に、金、銀、銅などの金属粒子による回路パターンを印刷法、あるいは薄膜法などにより形成する。
【0037】
グリーンシートにはレーザー法などによりスルーホールを開け、そこに信号経路と同様の金属材料を充填若しくは付着させることによりビアを形成する。またビアの両端には、信号線と同じく印刷法などにより、金属の導体パッドを形成する。最下層のグリーンシートの底面には、接地用の導体層を、同じく印刷法などにより形成する。このように、各層をグリーンシート上の回路として形成した後、それら各層を圧力により接続した上で焼成することにより、誘電積層基板内の回路としての移相回路を備えた移相器1が作製される。
【0038】
4つの移相回路のうち、第1の移相回路2は、SPDT(Single Pole Double Throw)スイッチ(または単極双投スイッチ)6と7とにより、入力部8から入力された信号(典型的には高周波信号であるが、これに限られない)が進む経路を基準線9と遅延線10とのいずれかに切り替えるよう構成されている。この経路切り替えにより、入力部8より入力された信号における位相のデジタル調整が可能となる。
【0039】
SPDTスイッチとしては、高周波用MEMSスイッチ、半導体スイッチ、機械式スイッチなど任意のスイッチを用いることが可能であるが、移相器挿入による損失の抑制や移相器全体の小型化を考慮すれば高周波用MEMSスイッチを用いることが好ましい。
【0040】
高周波用MEMSスイッチを用いる場合は、スイッチ内部の電極間に直流電圧を印加することにより基準線9と遅延線10とのいずれか一方を導通させ、経路選択を行う。
【0041】
スイッチへの電圧印加による経路選択は、例えばグリーンシート上への回路形成時に、スイッチ内部の両電極から移相器外部へと導線を配線した上で(不図示)、移相器の使用時に随時印加電圧を調整することによっても行うことができる。
【0042】
ここで、基準線9からは調整用信号経路11が、そして遅延線10からは調整用信号経路12及び13が、それぞれ分岐して形成されている。これらは、移相回路2,3,4,及び5によるデジタル位相調整の誤差を修正するために用いられる信号経路であり、典型的には調整用スタブである。
【0043】
調整用信号経路11,12,及び13は、それぞれビア14,15,及び16を介して移相器表面の導体パッド17,18,及び19と接続されている。導体パッド17,18,及び19には、それぞれ可変容量ダイオードなどのリアクタンス素子が電気的に接続されており(導体パッド17に接続される可変容量ダイオード20のみを図示している。)、直流電源を用いて(可変容量ダイオード20に対応する直流電源21のみを図示している。)リアクタンス素子に電圧を印加し、あるいは光を照射し、併せて電圧の大きさ、あるいは照射強度を調整することによって、位相をアナログ的に調整することができる。
【0044】
なお、リアクタンス素子としては、ゲートへの印加電圧により特性が変化する電界効果トランジスタ(FET)や、金属酸化物半導体(MOS)キャパシタ、あるいは、照射光強度によって特性が変化するフォトダイオードやフォトトランジスタのような光検出器など、信号に与えるリアクタンス効果を外部入力に応じて調整可能とする素子であれば、どのようなものを用いてもよい。
【0045】
第2〜第4の移相回路3〜5も、それぞれのSPDTスイッチ22〜27によって信号経路を切り替え、それにより位相のデジタル調整を可能とするよう構成されている。
【0046】
ここで、第1の移相回路2とは異なり、第2〜第4の移相回路3〜5を構成する信号経路から調整用信号経路は分岐していない。入力部8から入力されて出力部28より出力される信号は、第1の移相回路2を構成する基準線9と遅延線10とのいずれか一方を必ず通過するので、そのいずれかから分岐した調整用信号経路を介して接続されたリアクタンス素子によるアナログ位相調整を行うことにより、第2〜第4の移相回路3〜5で生じた位相誤差も修正可能だからである。
【0047】
なお、調整用信号経路を、第2〜第4の移相回路3〜5を構成する基準線、あるいは遅延線29〜34のいずれかから分岐して形成することも可能であり、したがって、アナログ位相調整手段を特に第1の移相回路2へと接続することは必須ではない。
【0048】
また、第2〜第4の移相回路3〜5のビア35〜37は、第1の移相回路2のビア14,15,及び16とは異なり、それぞれの移相回路の信号線を異なる層間で接続するのに用いている。しかしながらこれらビア35〜37を信号経路として用いている点はビア14〜16と同様である。
【0049】
LTCC多層基板で回路を作製する場合のビアは、従来は回路を最下層の接地導体と接続するための接地手段として用いられており、このような信号伝達経路としてのビアの利用は、本発明における特徴の一つである。
【0050】
次に、図2と図3とを用いて、第1の移相回路2を更に詳細に説明する。
【0051】
図2は、移相回路2を表した斜視図である。但し、導体パッド17,18,及び19に接続された可変容量ダイオード20,57,及び58、そして各可変容量ダイオードへ直流電圧を印加するための直流電源21,62,及び63は図示していない。
【0052】
図2から分かるように、基準線9はスタブ38と39とを信号線で接続することにより形成されており、また遅延線10はスタブ40〜42を信号線で接続することにより形成されている。同様に、調整用信号経路11〜13は、それぞれ調整用スタブ43〜45により形成されている(なお、ビア46〜49は、SPDTスイッチ6,7からの信号線と、基準線9及び遅延線10を接続するためのビアである。)。
【0053】
なお、本実施形態は4ビット構成の移相器であるため、信号が基準線9を通過する場合と遅延線10を通過する場合とでは22.5°の位相差が生じるよう、各スタブ及び信号線のサイズが入力信号の波長に応じて適宜選択されている。同様に、第2〜第4の移相回路3〜5においては、信号が基準線と遅延線とのそれぞれを通過した場合における位相差が45°,90°,及び180°となるよう、各スタブ及び信号線のサイズが選択されている。
【0054】
当然ながら、本発明に係る移相器を4ビット以外の構成とすることも可能であり、その場合にも、基準線と遅延線との間で生じるべき位相差に応じて、適宜信号経路を設計することができる(例えば5ビット構成とする場合は、それぞれの移相回路における経路切り替えによって生じる位相差が、11.25°,22.5°,45°,90°,及び180°となるよう、5つの移相回路を設計することができる。)。一般にnビット構成を採用する場合、(360/2n)°刻みでのデジタル位相調整が可能となる。
【0055】
図3は、移相回路2を、その回路基板である誘電積層基板も含めて表した、図2におけるA方向から見た場合の図である。図3から分かるように、移相回路2は、SPDTスイッチ6及び7を除き第3層54の表面上に形成され、最上位層である第5層56へとビア14〜16,46,48(及び、不図示ではあるが47,49)を介して電気的に接続されている。
【0056】
第5層56表面の入力部8から入力された信号は第1の移相回路2へと進み、SPDTスイッチ6からビア47,あるいは46を介して第3層54表面へと進むが、その信号はビア14,あるいはビア15及び16を介して第5層表面の可変容量ダイオード20,あるいは57及び58にも入力され、印加電圧に応じて生じる可変容量ダイオードのリアクタンスにより入力信号がアナログ位相調整される。
【0057】
なお、符号59は接地用導体パッドを示しており、接地用ビア60を介して第1層52の底面に形成された接地用導体95と電気的に接続されている。上記入力部8からの信号の入力は入力部8における導体パッド50と接地用導体パッド59との間に接続された高周波電源より高周波電圧を印加することにより行われるのであり、このため接地用導体パッド59が必要となる。
【0058】
図1における出力部28から出力信号を取り出す際にも、実際には出力部28の導体パッドと、当該導体パッドとペアを成す接地用パッドとの間で電圧信号を取り出すので、同様の接地用導体パッドが必要となる(これら接地用導体パッドは図1には示されていない)。
【0059】
図4は、第1の移相回路2の回路構成を示す回路図である。基準線9から分岐した調整用信号経路11には可変容量ダイオード20が接続され、遅延線10から分岐した調整用信号経路12と13とには、それぞれ可変容量ダイオード57と58とが接続されている。なお、調整用信号経路12と13とは、遅延線10上に、入力信号の位相90°に対応する距離を介して接続されている。このような構成により、2つの調整用信号経路12と13との各々に起因する反射波は互いに打ち消し合い、挿入損失を抑えることができる。
【0060】
SPDTスイッチ6,7の切り替えにより入力信号は基準線9と遅延線10とのいずれか一方のみを通過する。したがって移相器を使用する際のアナログ調整は、可変容量ダイオード20のみ、あるいは可変容量ダイオード57と58のみ、について行えばよい。
【0061】
経路選択によるデジタル位相調整と可変容量ダイオードによるアナログ位相調整とを受けた信号は、接続部51を介して第2の移送回路3へと入力される。
【0062】
次に、図5、図6、及び図7を参照して、第2の移相回路3について詳細に説明する。
【0063】
図5は、図1中の第2の移相回路3を更に詳細に示した、平面図である。基準線29はスタブ68により形成されており、また遅延線30は、スタブ69〜75を信号線、及びビア76〜81で接続することにより形成されている。すなわち、遅延線30がスイッチ切り替えにより選択される場合、移相回路3に入力された信号は、各スタブ69〜75だけでなく、各ビア76〜81を介して伝播する。
【0064】
既に述べたとおり、LTCC技術を使ったマイクロ波部品は従来から存在するものの、そのようなLTCC多層基板で回路を作製する場合のビアは、通常は接地に対する接続手段として用いられていた。これに対し、本実施例に係る移相器は、LTCC多層基板中のビアを信号経路として、特にここでは遅延線の一部として用いるものであり、この点で従来の構成とは異なる。
【0065】
なお、図5ではスタブ70と73とが交差しているように見えるが、図6及び図7に示したように、これらのスタブはお互い異なる層に存在するため、接触することはない。
既に述べたとおり、基準線29と遅延線30とから調整用信号経路は分岐形成されていないが、第1の移相回路2における基準線9と遅延線10とから調整用信号経路を分岐させる代わりに、基準線29と遅延線30とから分岐させることも可能である。
【0066】
同じく既に述べたとおり、第2の移相回路3においては、信号が基準線29と遅延線30とのそれぞれを通過した場合における位相差が45°となるよう、スタブ69〜75、ビア76〜81のサイズは調整されているが、仮に各スタブ69〜75、及び各ビア76〜81の製作精度が理想的なものであって、信号経路の長さを理論的に要求される値へと一致させることができたとしても、それぞれの経路を通過した場合の位相差にはビアの表皮効果による誤差がなお存在する。
【0067】
すなわち、ビアは典型的に円柱形状を有する導体として形成されるため、電磁波はビア内部へは侵入できず、表面付近のみを伝播する(表皮効果)。これに伴う位相のずれが生じるため、ビアを介した立体構造として信号経路を形成する際には、そのようなビアの寄生インダクタンス成分による誤差をも考慮しなければならない。
【0068】
この場合、積層構造としての移相器1を作製し、実際に高周波信号を入力して出力信号における位相の設計値からの誤差を計測した上で、表層に誤差修正のための調整用スタブを新たに追加し、はんだ等でつなげて位相のずれを調整するということも考えられるが(調整用スタブのサイズは、事前に計算機シミュレーションなどにより正確に定めておく必要がある。)、表層スタブが移相器表面の一定面積を占有することとなり、移相器の省面積化を図る上で問題となる。
【0069】
そこで本実施例に係る移相器1では、あらかじめ第1の移相回路2において埋め込み型の調整用スタブ43〜45を形成することによって、移相器表面の省面積化を損なうことなく誤差を修正している。この場合には上記埋め込み型調整用スタブ43〜45の製作精度が問題となる。仮に製作精度が十分なものではなかった場合、LTCC多層基板の各層を焼結により定着させた後に再びスタブ43〜45の調整をすることは困難である。
【0070】
本発明においては、このような表皮効果による誤差、及び埋め込み型調整用スタブの製作精度に起因する問題を解決するために、第1の移相回路2に形成された調整用スタブ43〜45に加え、それら調整用スタブへ電気的に接続された可変容量ダイオード20,57,58を用いる。すなわち、直流電源21,あるいは62及び63からの印加電圧を制御することにより可変容量ダイオード20,あるいは57及び58の容量を適宜調整し、基準線9あるいは遅延線10から分岐した調整用スタブ43,あるいは44及び45による(反射に起因する)位相のずれをアナログ制御する。
【0071】
可変容量ダイオードへの印加電圧と残存する移相器誤差との関係は、厳密には埋め込み型スタブにおけるサイズ誤差や内部の回路素子における製作誤差にも依存する。したがって誤差修正のために可変容量ダイオードへ印加すべき電圧は、一般には、印加電圧を変えつつ実際に移相器へ高周波信号を入力して位相誤差のデータを取得することにより、経験的に決定される。
【0072】
しかしながら、そのような誤差修正のための印加電圧が一旦決定されれば、よりきめ細やかな位相調整を行うための更なる印加電圧制御は、プログラム化することも可能である。可変容量ダイオードにおける印加電圧と容量との関係は理論的、あるいは実験的に決定可能であって、また可変容量ダイオードの容量値に対する位相の遅延量も、理論的あるいは実験的に決定可能だからである。すなわち、デジタル位相制御における誤差を一旦修正すれば、その後はプログラム制御により所望のアナログ位相調整をすることが可能となる。
【0073】
なお、印加電圧を変えつつ位相誤差データを取得して誤差修正のために最適な印加電圧を探すというステップ、及びその最適な電圧へと印加電圧を調整するステップも、適切なプログラミング技術によりプログラム化可能である。
【0074】
なお、符号88は第2の移相回路3と第3の移相回路4との接続部であり、基準線29又は遅延線30を通過した信号は、接続部88において第3の移相回路4へと入力される。
【0075】
図6は、第2の移相回路3の斜視図であり、信号経路の立体構造をより分かりやすく示している。
【0076】
基準線29を構成する信号線とスタブ68は、図7に示されるとおり、第3層54の表面上において形成されている。
【0077】
一方、遅延線30を構成する信号線とスタブ69〜75とは、第1層52、第2層53、あるいは第3層54の表面上にて立体的に分布しており、それらスタブが(信号線、及び導体パッドを介して)層間ビア76〜81で接続されることにより、遅延線30を形成している。なお、ビア64〜67は、SPDTスイッチ22,23からの信号線と、基準線29及び遅延線30を接続するためのビアである。
【0078】
具体的には、まず第5層56表面上のSPDTスイッチ22からビア64を介して、第3層54表面上にてスタブ69が形成されている。スタブ69は、信号線を通じ、導体パッド82を介してビア76と接続されている。ビア76は第2層53表面上へと通じており、導体パッド89及び信号線を介してスタブ70と接続されている。
【0079】
第2層53表面上に形成されたスタブ70は、信号線を通じ、導体パッド83を介してビア77と接続されている。ビア77は第1層52表面上へと通じており、導体パッド90及び信号線を介してスタブ71と接続されている。
【0080】
第1層52表面上に形成されたスタブ71は、信号線を通じ、導体パッド91を介してビア78と接続されている。ビア78は第3層54表面上へと通じており、導体パッド84及び信号線を介してスタブ72と接続されている。
【0081】
第3層54表面上に形成されたスタブ72は、信号線を通じ、導体パッド85を介してビア79と接続されている。ビア79は第1層52表面上へと通じており、導体パッド92及び信号線を介してスタブ73と接続されている。
【0082】
第1層52表面上に形成されたスタブ73は、信号線を通じ、導体パッド93を介してビア80と接続されている。ビア80は第2層53表面上へと通じており、導体パッド86及び信号線を介してスタブ74と接続されている。
【0083】
第2層53表面上に形成されたスタブ74は、信号線を通じ、導体パッド94を介してビア81と接続されている。ビア81は第3層54表面上へと通じており、導体パッド87及び信号線を介してスタブ75と接続されている。
【0084】
スタブ75は、信号線とビア66とを介して、第5層56表面上のSPDTスイッチ23へと接続されている。
【0085】
上記のとおり、ビア64は第5層から第3層まで、ビア76は第3層から第2層まで、ビア77は第2層から第1層まで、ビア78は第1層から第3層まで、ビア79は第3層から第1層まで、ビア80は第1層から第2層まで、ビア81は第2層から第3層まで、そしてビア66は第3層から第5層まで、を貫くようそれぞれ形成されており、それぞれの長さも、各ビアが貫く層の厚さに対応したものである。したがって、図5においてはスタブ70と73とが交差しているように見えるが、スタブ70は第2層53表面上に形成され、一方スタブ73は第1層52表面上に形成されているために、それらは第2層53を介して交差しているに過ぎず、接触の問題はない。
【0086】
なお、異なる層上のスタブが両スタブの間に存在する層を介して交差する場合は、ほぼ投影面内垂直に交差することが好ましい。仮に、各スタブが層を介して平行に形成されると、信号を入力した際、両スタブにおける平行電流間の相互作用により位相誤差の生じる恐れがあるからである。
【0087】
図7は、第2の移相回路3を、その回路基板である誘電積層基板も含めて表した、図6におけるB方向から見た場合の図である。図6に関連して述べたとおり、第2の移相回路3は、SPDTスイッチ22及び23を除き第1層52、第2層53、及び第3層54に亘って立体的に形成されていることがわかる。なお、接続部51及び88より先は図示されていないが、これらはそれぞれ第1の移相回路2、及び第3の移相回路4へと通じている。
【0088】
第3の移相回路4、及び第4の移相回路5も、第2の移相回路3と同じく誘電積層基板内にてビアを介してスタブを接続することにより、立体的に形成されている。第3及び第4の移相回路のように、遅延線の経路が長い回路を従来の平面型として構成した場合は特に大きな回路面積が必要となるが、本発明のように立体構造として遅延線を形成すれば、大幅な省面積化が図られる。
【0089】
基準線31と遅延線32とのそれぞれを通過した場合の位相差は90°となるよう、及び基準線33と遅延線34とのそれぞれを通過した場合の位相差は180°となるよう、各スタブ及び信号線のサイズが選択されているのであるが、第2の移相回路3におけるビアと同様、これらの信号経路として用いるビアも寄生のインダクタンス成分を有するため、第1の移相回路2にて形成した調整用スタブ43〜45、及びそこから接続された可変容量ダイオード20,57,58により誤差修正を行う必要がある。
【0090】
続いて、移相器1の動作について説明する。まず、入力部8における導体パッド50と接地用導体パッド59との間に接続された高周波電源より高周波電圧を印加することにより、移相器1へ信号が入力される。
【0091】
第1の回路2におけるSPDTスイッチ6,7の切り替えにより、信号は基準線9又は遅延線10を通過する。遅延線10を通過する場合は、基準線9を通過する場合に比べておよそ22.5°の位相遅延が生ずることとなる(あるいは、可変容量ダイオード20,57,及び58へ印加する直流電圧の調整により、これとは異なる任意の値のアナログ位相遅延を生ずるよう構成することもできる。)。
【0092】
なお、上述のビア内表皮効果に起因する位相の誤差は、第1〜第4の移相回路2〜5のそれぞれにおいて生じ、調整用スタブ43〜45、及び可変容量ダイオード20,57,58は、これらそれぞれの移相回路で累積した誤差をまとめて修正する。したがって、修正後、第1の移相回路2においてスイッチ切り替えにより生じる位相差は厳密には22.5°とは異なることがあり(第2〜第4の移相回路における誤差を修正するための調整も、第1の移相回路2に対して加えられるため)、上記「およそ22.5°」との表現は、これを考慮したものである。いずれにしても、リアクタンス素子によるアナログ調整により、デジタル調整の量子化誤差は、移相器1全体の出力として修正される。
【0093】
第1の移相回路2を通過した信号は、第2の移相回路3へと入力される。SPDTスイッチ22,23をいずれの経路へと切り替えているかに依存して、信号は基準線29又は遅延線30を通過する。遅延線30を通過する場合は、基準線29を通過する場合に比べておよそ45°の位相遅延が生じる。
【0094】
第2の移相回路3を通過した信号は、第3の移相回路4へと入力される。SPDTスイッチ24,25をいずれの経路へと切り替えているかによって、信号は基準線31又は遅延線32を通過する。遅延線32を通過する場合は、基準線31を通過する場合に比べておよそ90°の位相遅延が生じる。
【0095】
第3の移相回路4を通過した信号は、第4の移相回路5へと入力される。SPDTスイッチ26,27をいずれの経路へと切り替えているかによって、信号は基準線33又は遅延線34を通過する。遅延線34を通過する場合は、基準線33を通過する場合に比べておよそ180°の位相遅延が生じる。
【0096】
第4の移相回路5を通過した信号は、出力部28から出力される。具体的には、SPDTスイッチ27から信号線を介して接続された表層の導体パッドと、当該導体パッドとペアをなす接地導体95へとビアを通じて接続されることにより、接地された導体パッドとの間の電位差として出力信号が取り出される。
【0097】
出力部から任意の増幅器を接続すれば、位相調整された信号を増幅することが可能であり、また、直接アンテナ素子へと接続し、出力信号をもって素子を給電することも可能である。
【0098】
以上、いわゆる経路長切り替え型(透過型)移相器1を例として、本発明に係る移相器を説明した。しかしながら、本発明に係る移相器を、任意の反射型移相器として構成することも可能である。反射型移相器においても、信号経路を立体的に構成し、併せて信号経路中に調整用スタブを分岐させ、リアクタンス素子を接続した上で電圧、光によって制御することにより、デジタル調整における誤差の修正、及びそれを超える位相のアナログ調整が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明に係る移相器は、フェーズドアレーアンテナにおける各アンテナ素子の位相調整を行うために最適である。例えば、通信・センサー用アンテナ装置、地上局・移動局アクティブフェーズドアレーレーダ、及び通信放送用アンテナ装置などを構成するための素子として用いることができる。
【符号の説明】
【0100】
1 移相器
2〜5 移相回路
6〜7 SPDTスイッチ
8 入力部
9 基準線
10 遅延線
11〜13 調整用信号経路
14〜16 ビア
17〜19 導体パッド
20 可変容量ダイオード
21 直流電源
22〜27 SPDTスイッチ
28 出力部
29 基準線
30 遅延線
31 基準線
32 遅延線
33 基準線
34 遅延線
35〜37 ビア
38〜42 スタブ
43〜45 調整用スタブ
46〜49 スタブ
50 導体パッド
51 接続部
52 第1層
53 第2層
54 第3層
55 第4層
56 第5層
57〜58 可変容量ダイオード
59 接地用導体パッド
60 接地用ビア
61 導体パッド
62〜63 直流電源
64〜67 ビア
68〜75 スタブ
76〜81 ビア
82〜87 導体パッド
88 接続部
89〜94 導体パッド
95 接地用導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電基板を積層してなる誘電積層基板の内部又は表面上に形成される第1の移相回路であって、
第1の信号経路切り替え手段と、
前記第1の信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路と、
を含み、
前記第1の信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路のうち少なくとも1つから分岐した信号経路を含み、該分岐した信号経路は、ビアを介して前記誘電積層基板表面上のリアクタンス素子と電気的に接続される、
第1の移相回路と、
前記誘電積層基板の内部又は表面上に形成される第2の移相回路であって、
第2の信号経路切り替え手段と、
前記第2の信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路であって、前記誘電積層基板中の異なる2以上の層上にそれぞれ形成された信号経路を層間ビアにより電気的に接続してなる信号経路を含む、2以上の信号経路と、
を含む第2の移相回路と、
を含む移相器。
【請求項2】
複数の誘電基板を積層してなる誘電積層基板の内部又は表面上に形成される移相回路であって、
信号経路切り替え手段と、
前記信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路であって、前記誘電積層基板中の異なる2以上の層上にそれぞれ形成された信号経路を層間ビアにより電気的に接続してなる信号経路を含む、2以上の信号経路と、
を含み、
前記信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路のうち少なくとも1つから分岐した信号経路を更に含み、該分岐した信号経路は、ビアを介して前記誘電積層基板表面上のリアクタンス素子と電気的に接続される、
移相回路、
を含む移相器。
【請求項3】
前記リアクタンス素子は、可変容量ダイオード、電界効果トランジスタ(FET)、金属酸化物半導体(MOS)キャパシタ、フォトダイオード、フォトトランジスタ、のうちいずれか1つである、請求項1又は2に記載の移相器。
【請求項4】
前記誘電基板はLTCC基板であって、前記誘電積層基板はLTCC多層基板である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の移相器。
【請求項5】
信号経路切り替え手段として、高周波用MEMSスイッチを用いた、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の移相器。
【請求項6】
前記誘電積層基板中の異なる2以上の層上にそれぞれ形成された信号経路は、層を介してほぼ投影面内垂直に交差するよう形成されている、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の移相器。
【請求項7】
移相回路のそれぞれにおける信号経路は、前記誘電積層基板中の最上層以外の層において形成されている、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の移相器。
【請求項8】
前記分岐した信号経路は、分岐元の信号経路上において入力信号波長のほぼ1/4の距離を介して分岐した2つの調整用スタブである、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の移相器。
【請求項9】
複数の誘電基板を積層してなる誘電積層基板の内部又は表面上に形成される第1の移相回路であって、
第1の信号経路切り替え手段と、
前記第1の信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路と、
を含み、
前記第1の信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路のうち少なくとも1つから分岐した信号経路を含み、該分岐した信号経路は、前記誘電積層基板表面へと通じるビアへ電気的に接続される、
第1の移相回路と、
前記誘電積層基板の内部又は表面上に形成される第2の移相回路であって、
第2の信号経路切り替え手段と、
前記第2の信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路であって、前記誘電積層基板中の異なる2以上の層上にそれぞれ形成された信号経路を層間ビアにより電気的に接続してなる信号経路を含む、2以上の信号経路と、
を含む第2の移相回路と、
を含む移相器。
【請求項10】
複数の誘電基板を積層してなる誘電積層基板の内部又は表面上に形成される移相回路であって、
信号経路切り替え手段と、
前記信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路であって、前記誘電積層基板中の異なる2以上の層上にそれぞれ形成された信号経路を層間ビアにより電気的に接続してなる信号経路を含む、2以上の信号経路と、
を含み、
前記信号経路切り替え手段により切り替えられる2以上の信号経路のうち少なくとも1つから分岐した信号経路を更に含み、該分岐した信号経路は、前記誘電積層基板表面へと通じるビアへ電気的に接続される、
移相回路、
を含む移相器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−44774(P2011−44774A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189928(P2009−189928)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度、総務省、「電波資源拡大のための研究開発」委託研究のうちの「高マイクロ波帯用アンテナの技術の高度化技術の研究開発」事業、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】