説明

アニオン界面活性剤粉粒体

【課題】 溶解性及び分散性に優れ、更に流動性が良好で、耐ケーキング性に優れたアニオン界面活性剤粉粒体の提供。
【解決手段】 平均粒径が0.1mm以上、0.5mm未満で、ゆるめ嵩密度が400〜1000kg/m3で、圧縮度が3〜25%であり、粉粒体全量に対し80〜100重量%のアニオン界面活性剤を含有するアニオン界面活性剤粉粒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン界面活性剤粉粒体に関する。更に詳しくは、例えば、衣料用洗剤、台所用洗剤、歯みがき用発泡剤、シャンプー用粉体、乳化重合用乳化剤、医薬品用乳化剤、化粧品用乳化剤、セメント発泡剤等に好適に使用し得るアニオン界面活性剤粉粒体に関する。
【背景技術】
【0002】
アニオン界面活性剤は、他の界面活性剤またはビルダーと混合することにより、衣料用洗剤、台所用洗剤、歯みがき用発泡剤などをはじめ、医薬品用乳化剤、化粧品用乳化剤、その他洗浄剤等に使用されている。
【0003】
従来、アニオン界面活性剤粉粒体は、アニオン界面活性剤水溶液、水スラリー又はペースト(以後、これらを単にアニオン界面活性剤水溶液等と記す)を乾燥したものか、あるいは更に粉砕や造粒を施しパウダー状、ニードル状、ヌードル状、フレーク状等に加工したものが知られている。又、従来からアニオン界面活性剤粉粒体を製造するには、アニオン界面活性剤水溶液等を出発原料として、水分を除去する事により乾燥、又は乾燥の後粉砕や造粒等の2次加工を行って製造されている。
【0004】
例えば、従来の粒状アニオン界面活性剤の製造法としては、水分含有量60〜70重量%の低濃度スラリーを噴霧乾燥させる方法(特許文献1、特許文献2)、固形分濃度60〜80重量%のアルキル硫酸塩の高濃度スラリーを噴霧乾燥させる方法(特許文献3)等の噴霧乾燥法による方法がある。特許文献4には、水分含有量20〜35重量%の高濃度洗剤ペースト原料を、真空薄膜乾燥機を用いて乾燥させる方法が開示されている。
【0005】
また特許文献5には、真空下にある円筒状ケーシングの内部に高密度洗剤用ペースト原料を供給し、回転可能な板状羽根の先端で高密度洗剤用ペースト原料の薄膜を内壁面に形成させると共に、速やかに乾燥させて板状羽根によって掻きとり、フレーク状の乾燥物を得る方法が開示されている。
【0006】
特許文献6及び7には、フラッシュ法又はフラッシュ乾燥機によりペーストを乾燥と同時に顆粒化させる方法が開示されている。特許文献8には、アルキル硫酸の造粒物の製造法が開示されている。
【特許文献1】特開昭55−69698号公報
【特許文献2】特開昭53―39037号公報
【特許文献3】特開昭54−106428号公報
【特許文献4】特開平2−222498号公報
【特許文献5】特開平5−331496号公報
【特許文献6】米国特許第5646107号明細書
【特許文献7】特表2002−508783号公報
【特許文献8】国際公開第95/01959号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アニオン界面活性剤粉粒体を使用する際、該アニオン界面活性剤粉粒体が速やかに溶解することや他の粉体原料と混合して用いる場合には該アニオン界面活性剤粉粒体が均一に分散することが重要な性能である。この様な理由から、該アニオン界面活性剤粉粒体の平均粒径は小さい方が好ましい。尚、平均粒径が比較的小さいアニオン界面活性剤粉粒体と して、上記特許文献に記載のような噴霧乾燥によって得られたものや、乾燥した後で粉砕処理を施し小粒径化したものが知られている。しかしながら、噴霧乾燥により得られたアニオン界面活性剤粉粒体は、嵩密度が低い為、輸送や貯蔵に膨大な容積を必要とし、これらに掛かる費用も膨大となる。又、乾燥した後で粉砕処理を施したアニオン界面活性剤粉粒体は、嵩密度は比較的高くなるものの、流動性が悪く、更には、貯蔵した際、固結(ケーキング)してしまい、著しく取り扱い性を損なうという問題があった。
【0008】
本発明の課題は、溶解性及び分散性に優れ、更に流動性が良好で、耐ケーキング性に優れたアニオン界面活性剤粉粒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、平均粒径が0.1mm以上、0.5mm未満で、ゆるめ嵩密度が400〜1000kg/m3で、圧縮度が3〜25%であり、粉粒体全量に対し80〜100重量%のアニオン界面活性剤を含有するアニオン界面活性剤粉粒体を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアニオン界面活性剤粉粒体は、流動性が良く、固結(ケーキング)せず、溶解速度が早く、均一に分散することができる。また輸送効率や充填効率が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[アニオン界面活性剤]
本発明に用いられるアニオン界面活性剤としては、特に限定されないが、アルキル又はアルケニル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル又はアルケニルエーテル硫酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸塩又はエステル塩、アルキル又はアルケニルエーテルカルボン酸塩等が挙げられる。これらの中では、発泡性、洗浄性能の観点から、アルキル又はアルケニル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル又はアルケニルエーテル硫酸塩が好ましく、アルキル又はアルケニル硫酸塩が特に好ましい。塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩等が挙げられる。これらの塩の中では、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩やカリウム塩、及びそれら塩の混合物も好ましい。
【0012】
これらのアニオン界面活性剤の内、下記式(I)で表されるアルキル又はアルケニル硫酸塩、及び下記式(II)で表されるポリオキシアルキレンアルキル又はアルケニルエーテル硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種が特に好ましい。
【0013】
(R1O−SO3p1 (I)
(式中、R1は炭素数8〜24の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、M1は陽イオン、pはM1の価数であって1又は2を示す。)
(R2O−(AO)mSO3q2 (II)
(式中、R2は炭素数8〜24の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、Aは炭素数2〜4のアルキレン基を示し、m個のAは同一であっても異なっていても良い。mはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示す0.05〜20の数である。M2は陽イオン、qはM2の価数であって1又は2を示す。)
一般式(I)及び(II)において、R1及びR2の炭素数は、粉粒体の耐ケーキング性及び溶解性等の観点から、8〜20が好ましく、10〜18が更に好ましい。Aは、炭素数2〜4、特に2のアルキレン基が好ましい。mは、優れた粉体特性を得、また粉粒体の耐ケーキング性を向上させる観点から、好ましくは0.05〜2、更に好ましくは0.1〜1、特に好ましくは0.2〜0.8である。M1及びM2は、Na、K等のアルカリ金属原子、Ca、Mg等のアルカリ土類金属原子、又はアルカノール置換もしくは無機置換のアンモニウム基が好ましく、更にアルカリ金属原子、特にNaが好ましい。
【0014】
上記式(I)で表されるアルキル又はアルケニル硫酸塩は、例えば、炭素数8〜24、好ましくは8〜20のアルコール(以下高級アルコールという)を、硫酸化し、中和することにより得られる。また、式(II)で表されるポリオキシアルキレンアルキル又はアルケニルエーテル硫酸塩は、例えば、高級アルコールにアルキレンオキサイドを平均付加モル数0.05〜20、好ましくは0.05〜2となるように付加した高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物を、硫酸化し、中和することにより得られる。
【0015】
硫酸化及び中和は、既知の方法で行うことができる。硫酸化に用いる硫酸化剤としては、三酸化硫黄又はクロルスルホン酸が好ましい。三酸化硫黄ガスを使用する際は、通常、不活性ガス、好ましくは乾燥空気又は窒素で希釈して、三酸化硫黄ガス濃度として1〜8体積%、好ましくは1.5〜5体積%の気体混合物として使用する。中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0016】
[アニオン界面活性剤粉粒体]
本発明のアニオン界面活性剤粉粒体は、アニオン界面活性剤自体の機能を有効に発揮させる観点から、粉粒体全量に対し、アニオン界面活性剤を80重量%以上、好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%以上含有する。また、アニオン界面活性剤の含有量の上限はハンドリングの観点から100重量%以下であり、好ましくは98重量%以下である。
【0017】
本発明のアニオン界面活性剤粉粒体は、アニオン界面活性剤以外に更に水溶性無機塩を含有しても良い。水溶性無機塩としては、例えば、塩化ナトリウム、芒硝、炭酸ナトリウム等が挙げられる。本発明のアニオン界面活性剤粉粒体中の水溶性無機塩の含有量は、特に限定されないが、アニオン界面活性剤の固形分量を高く保つ観点から、アニオン界面活性剤100重量部に対して、10重量部以下、好ましくは2重量部以下である。
【0018】
本発明のアニオン界面活性剤粉粒体は、アニオン界面活性剤以外の界面活性剤を含有することができる。アニオン界面活性剤以外の界面活性剤としては、カチオン界面活性剤やノニオン界面活性剤が挙げられる。
【0019】
本発明のアニオン界面活性剤粉粒体は、必要により、その他の添加剤を含有することができる。その他の添加剤としては、例えば、珪酸塩、炭酸塩等のアルカリ剤、クエン酸塩、ゼオライト等の2価金属イオン捕捉剤、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース等の再汚染防止剤、ケーキング防止剤、酸化防止剤等が挙げられる。かかるその他の添加剤は、本発明の目的が阻害されない範囲で用いることができる。
【0020】
本発明のアニオン界面活性剤粉粒体の平均粒径は、0.1mm以上、0.5mm未満であり、生産性及び熱負荷低減の観点から、0.15mm以上、更には0.2mm以上が好ましい。又、高速溶解性、均一分散性の観点から0.4mm以下、更には0.35mm以下が好ましい。尚、本発明における粉粒体の平均粒径は、JIS Z 8801の標準篩を用いて5分間振動させた後の各篩目を通過した重量分率から算出される。
【0021】
本発明のアニオン界面活性剤粉粒体のゆるめ嵩密度は、400〜1000kg/m3であり、充填効率の観点から500kg/m3以上、更には600kg/m3以上が好ましい。また、望ましい上限は真密度に近づくことであるが、実際の製造上の観点からは、900kg/m3以下が好ましい。尚、本発明における「ゆるめ嵩密度」は、パウダーテスタ PT−E(ホソカワミクロン製)を用いて測定される「ゆるみ見掛比重」を意味する。
【0022】
本発明のアニオン界面活性剤粉粒体は、耐ケーキング性及び取り扱い性の観点から、圧縮度が25%以下であり、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。又、生産性及び製造上の観点から、3%以上が好ましい。
尚、本発明におけるアニオン界面活性剤粉粒体の圧縮度(C)は、ゆるめ嵩密度をA、かため嵩密度をPとすると、次式で表される。ここで、ゆるめ嵩密度Aは、パウダーテスタ PT− E(ホソカワミクロン製)を用いて測定されるゆるみ見掛比重、かため嵩密度Pはパウダーテスタ PT−E(ホソカワミクロン製)を用いて測定される固め見掛比重である。
【0023】
C[%]=100×(P−A)/P
圧縮度を低減させる手段としては、粒子の形状(例えば、球形化)、粒子の表面状態(平滑性のある状態)、粒子の強度(壊れ、つぶれ難さ)、大きさや比重の均一性を高めるなどの種々の方法を単独若しくは組み合わせることにより達成することができる。
【0024】
本発明においては、比較的小粒径、即ち平均粒径0.1mm以上、0.5mm未満の粒子において、圧縮度を25%以下とすることにより、良好な耐ケーキング(固結)性を付与し、結果として、使用時の溶解性、均一分散性、流動性といった特性を格段に向上させるという技術的な意義がある。
【0025】
本発明のアニオン界面活性剤粉粒体の水分は、0.3〜2.5重量%が好ましく、耐ケーキング性の観点から2.0重量%以下が更に好ましく、ダスト量を低減させる観点から0.5重量%以上が更に好ましい。粉粒体の水分は、加熱減量法、蒸留法、カールフィッシャー法(JIS K 0068)等の方法で測定されるが、本明細書中の水分量は、カールフィッシャー法(JIS K 0068)で測定した値である。
【0026】
本発明のアニオン界面活性剤粉粒体の耐ケーキング性は、固結(ケーキング)性試験による篩通過率が、85%以上であることが好ましく、90%以上が更に好ましく、95%以上が特に好ましい。尚、本発明の耐ケーキング性の測定法は、アニオン界面活性剤粉粒体100mLを、0.04×70×100mmのチャック付きビニール袋に封入し、その上から1000kg/m2の荷重を均等にかけ、保存温度50℃で7日保存した後、200
0μmの篩上に静かに乗せ、ロータップで10回打った後の2000μmの篩の通過率で造粒物の耐ケーキング性の評価を行うものである。
【0027】
本発明のアニオン界面活性剤粉粒体としては、次の条件(A)〜(D)をすべて満たすものが特に好ましい。
(A)平均粒径:0.1mm以上、0.5mm未満
(B)ゆるめ嵩密度:400〜1000kg/m3
(C)圧縮度:3〜25%
(D)アニオン界面活性剤含有量:80〜100重量%。
【0028】
[アニオン界面活性剤粉粒体の製造法]
本発明のアニオン界面活性剤粉粒体の製造法は特に限定されないが、攪拌翼及び解砕翼を有する造粒機内へ、減圧下にアニオン界面活性剤水溶液を添加しつつ、乾燥と同時に造粒を行う方法が好ましい。また、アニオン界面活性剤水溶液を添加する際に、予め造粒機内に粉体原料を添加しておくことが好ましい。
【0029】
この製造法に用いられるアニオン界面活性剤水溶液の水分量は、流動性や、乾燥時のエネルギー負荷を減らす観点から、20〜40重量%が好ましい。また、アニオン界面活性剤水溶液は、取り扱い性の観点から、粘度が50Pa・s以下が好ましく、30Pa・s以下がより好ましく、15Pa・s以下が特に好ましい。また、製造上の観点から、粘度が3Pa・s以上が好ましい。アニオン界面活性剤水溶液の粘度はB型粘度計で測定される。また、アニオン界面活性剤水溶液の温度は、取り扱い性の観点から、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上が特に好ましい。また、熱安定性の観点から、100℃未満が好ましく、80℃未満がより好ましく、70℃未満が特に好ましい。尚、アニオン界面活性剤水溶液の粘度は、該水溶液の水分量及び/又は温度によって調整が可能である。
【0030】
また、アニオン界面活性剤水溶液に含有される未反応物は、純度や、粉粒体の耐ケーキング性の観点から、アニオン界面活性剤に対し5重量%以下が好ましく、2重量%以下がより好ましい。また、未反応物が少ないほど小粒径の製品が得られやすくなるので、1.5重量%以下が更に好ましく、1.3重量%以下が特に好ましく、1.0重量%以下が最も好ましい。ここで、未反応物とは、アニオン界面活性剤製造時に硫酸化されなかったアルコール、アルコキシレート、更には反応から副生した微量のハイドロカーボン、ワックス等が挙げられる。
【0031】
アニオン界面活性剤水溶液は、水溶性無機塩を含有しても良い。水溶性無機塩の代表例 としては、例えば、塩化ナトリウム、芒硝、炭酸ナトリウム等が挙げられる。これらの水溶性無機塩は、そのままの状態で添加してもよいが、反応によって副生させたものを用いても良い。例えば、アニオン界面活性剤水溶液に色相改善の目的でNaClO(次亜塩素酸ナトリウム)を添加した場合には、NaCl(塩化ナトリウム)が副生する。このように次亜塩素酸ナトリウムを添加し、塩化ナトリウムを無機塩として副生させることもできる。
【0032】
本発明のアニオン界面活性剤粉粒体の製造時に用いられる粉体原料は、界面活性剤、水溶性無機塩及び非水溶性無機塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有するものが好ましく、本発明のアニオン界面活性剤粉粒体の一部や、その粉粒体を粉砕したものを粉体原料として用いることが更に好ましい。粉体原料中の界面活性剤、水溶性無機塩、非水溶性無機塩としては、上記のアニオン界面活性剤粉粒体中に含有されるものとして例示したものが挙げられる。粉体原料の粒径は、乾燥速度と最終造粒物の粒度制御のし易さや、ハンドリング性の観点から、0.3mm以下が好ましく、更に0.2mm以下好ましく、特に0.1mm以下が好ましい。
【0033】
粉体原料を得る際に用いられる粉砕機としては、例えば、アトマイザー(不二パウダル(株)製)、フィッツミル((株)ダルトン製)、パルベライザー((株)ダルトン製)、パワーミル(パウレック(株)製)、コーミル(Quadro社製)等が挙げられる。
【0034】
上記製造法において、乾燥と同時に造粒を行う際の粉粒体の温度は、低くなり過ぎると高真空が必要となり大きなエネルギーが必要となることがあり、高すぎると生産性が低下すると共に高温の熱源が必要となり、熱分解のリスクが高まるので、35℃以上が好ましく、40℃以上が更に好ましく、45℃以上が特に好ましい。また、85℃以下が好ましく、75℃以下が更に好ましく、70℃以下が特に好ましい。又、粉粒体の温度変化が、好ましくは±5℃以内、更に好ましくは±2℃以内、特に好ましくは±1℃以内となるように制御しながら乾燥と同時に造粒を行なうことが好ましい。
【0035】
このように温度変化を制御する方法としては、(1)アニオン界面活性剤水溶液の添加量及び添加速度、(2)造粒機内の圧力、(3)造粒機内のジャケット温度、(4)造粒機内への空気、不活性ガス及び/又は水蒸気の導入、(5)造粒機の攪拌翼のフルード数等を適切に調整する方法が挙げられる。以下、各方法について詳述する。
【0036】
(1)アニオン界面活性剤水溶液の添加量及び添加速度
アニオン界面活性剤水溶液の添加量及び添加速度は、粉粒体の温度が上記範囲内になるように制御することが好ましい。アニオン界面活性剤水溶液の添加量は、アニオン界面活性剤水溶液と粉体原料の重量比が、1/10〜10/1、更に4/4〜7/1となる割合が好ましい。また、添加速度に関しては、アニオン界面活性剤水溶液を滴下し始めてから操作温度に達するまでの時間が長いと造粒物が得にくく、又、滴下速度が速すぎると粗粒化する場合があり、安定運転しにくくなってしまうことがある。この為、操作温度に達するまでの時間とアニオン界面活性剤水溶液の添加時間との比は、1/50〜1/3が好ましい。
【0037】
(2)造粒機内の圧力
造粒機内の圧力は、操作時の品温を低くして、水溶液及び造粒物の分解を抑制する観点から、40kPa以下が好ましく、20kPa以下が更に好ましく、10.0kPa以下が特に好ましい。一方、真空ポンプへの負担や造粒機の気密性の観点から、0.67kPa以上が好ましく、1.5kPa以上が更に好ましく、4.0kPa以上が特に好ましい。
【0038】
(3)造粒機内のジャケット温度
造粒機の加熱源としては、温水ジャケット、電気トレーシング等が挙げられるが、温水ジャケットが好ましく、またジャケット温度は、100℃以下が好ましく、更に熱に敏感な原料にも適用させる観点から90℃以下が更に好ましい。
【0039】
(4)造粒機内への空気、不活性ガス及び/又は水蒸気の導入
本発明においては、アニオン界面活性剤水溶液添加中に、乾燥をより効果的に実施させる為に造粒機へ空気、不活性ガス及び/又は水蒸気を導入しても良い。導入量は、好ましくは2〜30L/min、より好ましくは3〜10L/minである。
【0040】
(5)造粒機の攪拌翼のフルード数
本発明においては、圧密化の促進や、付着層を十分に形成させて粒度分布を狭くする観点から、以下の式で定義されるフルード数が1〜5であることが好ましく、更に好ましくは1.5〜4である。
【0041】
Fr=V/[(R×g)0.5]
(式中、Frはフルード数を、Vは攪拌翼の先端の周速[m/sec.]を、Rは攪拌翼の回転半径[m]を、gは重力加速度[m/sec.2]を示す)。
【0042】
本発明で使用される造粒機は、攪拌翼と解砕翼が装備され、攪拌翼が回転する際に攪拌翼と壁面との間にクリアランスを形成するものが好ましい。平均クリアランスは1〜30mmが好ましく、更に好ましくは3〜10mmである。平均クリアランスが1mm以上では付着層の圧密度が適度である。また平均クリアランスが30mm以下であると圧密化の効率がよく、粒度分布がブロードとならず、生産性が良好である。
【0043】
本発明に好ましく用いられる造粒機としては、例えば、バッチ式のものとしてヘンシェルミキサー[三井三池化工機(株)製]、ハイスピードミキサー[深江パウテック(株)製]、バーチカルグラニュレーター[(株)パウレック製]、レディゲミキサー[松坂技研(株)製]、プロシェアミキサー[太平洋機工(株)製]等が挙げられ、特に好ましくは、レディゲミキサー[松坂技研(株)製]、ハイスピードミキサー[深江パウテック(株)製]、プロシェアミキサー[太平洋機工(株)製]である。連続式のものとして連続式レディゲミキサー(中速ミキサー:滞留時間が比較的長い)や、高速ミキサーとして(滞留時間が比較的短い)CBリサイクラー(Loedige製)、タービュライザー(ホソカワミクロン(株)製)、シュギミキサー((株)パウレック製)、フロージェットミキサー((株)粉研製)等が挙げられる。
【0044】
更に、本発明に用いる造粒機は、内部の温度(品温)を調節するためのジャケットを具備するものや、ガス吹き込み操作を行なうためのノズルを具備するものが好適である。このようなより好ましい造粒機の具体例としては、特開平10−296064号公報、特開平10−296065号公報、特許第3165700号公報記載の造粒機が挙げられる。
【0045】
本発明において、乾燥と同時に造粒を行なう際には、ガスを吹き込みつつ行なう方が好ましい。これは、水分を蒸発させ、かつ得られる粉粒体を、ガスを用いて冷却させることにより粉粒体が大きな塊となるのを抑制するためである。かかるガスとしては、窒素ガス、空気、及び/又は水蒸気が挙げられる。
【0046】
また、本発明においては、アニオン界面活性剤水溶液を添加終了後、微粉が残っている場合があるため、実質的に解砕翼を回転させずに、攪拌翼のみ回転させる工程を有することが、微粉の取込み(微粉が粉体に再付着すること)を行なう観点から好ましい。
【0047】
本発明のアニオン界面活性剤粉粒体は、必要に応じて、例えば耐ケーキング性をさらに向上させるために、A型、P型、X型、Y型ゼオライト等の結晶性アルミノ珪酸塩や芒硝等の無機粉体やアルキル硫酸塩粉体によって粒子表面を被覆するため、これらを添加しても良い。
【0048】
また、本発明のアニオン界面活性剤粉粒体は、造粒物自体の美観向上のために、既知の顔料又は染料等の着色剤により着色しても良い。着色方法としては、特に限定されないが、例えば、特開平2−258872号公報記載の色素又は顔料を含む水溶液をアニオン界面活性剤粉粒体表面にスプレーして着色する方法や、特開平11−158493号公報記載の染料あるいは顔料をアニオン界面活性剤水溶液中に適量配合してアニオン界面活性剤粉粒体に着色する方法等を使用しても良い。使用される着色剤は特に限定されないが、溶解もしくは分散性が高いものが好ましく、例えば、べんがら、群青、リオノールグリーン、赤226号、赤405号、青1号等が好ましい。
【実施例】
【0049】
例中の%は、特記しない限り重量%である。
【0050】
合成例1
内径16mmφ、長さ5mの薄膜流下型反応器内に、2.0体積%の三酸化硫黄ガスと共に、アルキル基の炭素数12〜16でその分布がC12/C14/C16=67%/28%/5%である高級アルコール(分子量199)を、60℃で連続的に投入し反応させた。高級アルコールに対する三酸化硫黄ガスの反応モル比が1.01となるように流量を調節した。得られた硫酸化物を32.2%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、75%リン酸(緩衝剤)を添加した後、32.1%水酸化ナトリウム水溶液でpH=10に微調整し、更に水分が24%になるように調整してアルキル硫酸ナトリウム塩水溶液(以下アルキル硫酸ナトリウム塩水溶液1という)を得た。
【0051】
合成例2
高級アルコールに対する三酸化硫黄ガスの反応モル比が1.015となるように流量を調節し、またpHを8に調整する以外は合成例1と同様にして、水分24%のアルキル硫酸ナトリウム塩水溶液(以下アルキル硫酸ナトリウム塩水溶液2という)を得た。
【0052】
合成例3
内径16mmφ、長さ5mの薄膜流下型反応器内に、2.0体積%の三酸化硫黄ガスと共に、アルキル基の炭素数12〜14でその分布がC12/C14=73%/27%である高級アルコール(分子量193)を、60℃で連続的に投入し反応させた。高級アルコールに対する三酸化硫黄ガスの反応モル比が1.01となるように流量を調節した。得られた硫酸化物を33.5%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、85%リン酸(緩衝剤)、20%芒硝水溶液を添加した後、33.5%水酸化ナトリウム水溶液でpH=9.4に微調整し、更に水分が24%になるように調整してアルキル硫酸ナトリウム塩水溶液(以下アルキル硫酸ナトリウム塩水溶液3という)を得た。
【0053】
実施例1
容量65Lの真空乾燥機[深江パウテック(株)製、FMD-65JE型]にアルキル硫酸ナトリウム塩の粉体[EMAL 10P-HD:花王(株)製、平均粒径0.08mm]を4.3kg入れ、ジャケット温度80℃、造粒機内の圧力5.3kPa、攪拌翼の回転数:200r/min、解砕翼の回転数:0r/minの乾燥造粒条件によって、温度50℃に加温した水分24%のアルキル硫酸ナトリウム塩水溶液1を14.4kg/hrの添加速度で乾燥機内に供給を開始した後、乾燥物の温度が60±2℃になる様に供給流量を調整しながら、乾燥と同時に造粒を行った。その後、水溶液の供給総量が20kgになったところで乾燥造粒を終了し、アルキル硫酸ナトリウム塩[平均分子量301]の粉粒体を得た。
【0054】
実施例2
容量2500Lの真空乾燥機[深江パウテック(株)製、FMD-1200JE型]にアルキル硫酸ナトリウム塩の粉体[EMAL 10P-HD:花王(株)製、平均粒径0.08mm]を130kg入れ、ジャケット温度75℃、機内圧力4.0kPa、攪拌翼の回転数:70r/min、解砕翼の回転数:2000r/minの乾燥造粒条件によって、乾燥物の温度が48±2℃になる様に、55℃に加温した水分24%のアルキル硫酸ナトリウム塩水溶液2を調整しながら供給し乾燥と造粒を同時に行った。その後、水溶液の供給総量が650kgになったところで乾燥造粒を終了し、アルキル硫酸ナトリウム塩の粉粒体を得た。
【0055】
実施例3
容量2500Lの真空乾燥機[深江パウテック(株)製、FMD-1200JE型]に、実施例2で得たアルキル硫酸ナトリウム塩の粉粒体をアトマイザー(不二パウダル(株)製、FIIS-5型)で粉砕した粉体原料[平均粒径0.03mm]を130kg入れ、ジャケット温度65℃、機内圧力4.0kPa、攪拌翼の回転数:70r/min、解砕翼の回転数:2000r/minの乾燥造粒条件によって、乾燥物の温度が42±2℃になる様に、55℃に加温した水分24%のアルキル硫酸ナトリウム塩水溶液2を調整しながら供給し乾燥と造粒を同時に行った。その後、水溶液の供給総量が650kgになったところで乾燥造粒を終了した。引き続き、攪拌翼回転数:15r/min、解砕翼回転数:0r/min、ジャケット温度65℃、機内圧力4.0kPaの条件下で15分間処理を行いアルキル硫酸ナトリウム塩の粉粒体を得た。次に、得られた粉粒体を横型連続振動流動層[玉川機械(株)製Qユニット振動冷却機、Q-456型]にて、風速0.5m/secにて処理し、更に、目開き0.84mmの振動篩[(株)ダルトン製、702-C型]にて分級した。
【0056】
実施例4
容量2500Lの真空乾燥機[深江パウテック(株)製、FMD-1200JE型]に、実施例2で得たアルキル硫酸ナトリウム塩の粉粒体をアトマイザー(不二パウダル(株)製、FIIS-5型)で粉砕した粉体原料[平均粒径0.03mm]を130kg入れ、ジャケット温度65℃、機内圧力4.0kPa、攪拌翼の回転数:70r/min、解砕翼の回転数:2000r/minの乾燥造粒条件によって、乾燥物の温度が38±1℃になる様に、55℃に加温した水分24%のアルキル硫酸ナトリウム塩水溶液2を調整しながら供給し乾燥と造粒を同時に行った。その後、水溶液の供給総量が650kgになったところで乾燥造粒を終了した。引き続き、攪拌翼回転数:15r/min、解砕翼回転数:0r/min、ジャケット温度65℃、機内圧力4.0kPaの条件下で15分間処理を行いアルキル硫酸ナトリウム塩の粉粒体を得た。
【0057】
実施例5
容量65Lの真空乾燥機[深江パウテック(株)製、FMD-65JE型]にアルキル硫酸ナトリウム塩の粉体[EMAL 10P-HD:花王(株)製、平均粒径0.08mm]を4.3kg入れ、ジャケット温度80℃、造粒機内の圧力6.7kPa、攪拌翼の回転数:200r/min、解砕翼の回転数:0r/minの乾燥造粒条件によって、温度50℃に加温した水分24%のアルキル硫酸ナトリウム塩水溶液2を17kg/hrの添加速度で乾燥機内に供給を開始した後、乾燥物の温度が60±2℃になる様に供給流量を調整しながら、乾燥と同時に造粒を行った。その後、水溶液の供給総量が20kgになったところで乾燥造粒を終了し、アルキル硫酸ナトリウム塩[平均分子量301]の粉粒体を得た。
【0058】
実施例6
容量2500Lの真空乾燥機[深江パウテック(株)製、FMD-1200JE型]に、実施例3で得たアルキル硫酸ナトリウム塩の粉粒体をアトマイザー(不二パウダル(株)製、FIIS-5型)で粉砕した粉体原料[平均粒径0.03mm]を160kg入れ、ジャケット温度65℃、機内圧力4.0kPa、攪拌翼の回転数:70r/min、解砕翼の回転数:2000r/minの乾燥造粒条件によって、乾燥物の温度が42±2℃になる様に、55℃に加温した水分24%のアルキル硫酸ナトリウム塩水溶液3を調整しながら供給し乾燥と造粒を同時に行った。その後、水溶液の供給総量が700kgになったところで乾燥造粒を終了した。引き続き、攪拌翼回転数:15r/min、解砕翼回転数:0r/min、ジャケット温度65℃、機内圧力4.0kPaの条件下で20分間処理を行いアルキル硫酸ナトリウム塩の粉粒体を得た。
【0059】
比較例1
温度60℃に加温した水分24%のアルキル硫酸ナトリウム塩水溶液1を13.3kg/hrで高粘度ペースト用ポンプ(4NES60型:兵神装備(株))によって伝熱面積0.3m2を有する薄膜乾燥装置(セブコン:(株)日立製作所製)の上部供給口から供給し、ブレード回転数:900r/min、乾燥機内圧力9.2kPa、乾燥温度110℃で連続乾燥を行った。得られた乾燥物を粉砕機(アトマイザー:不二パウダル製)で粉砕し、平均粒径0.08mm、水分1.3%の粉末を得た。
【0060】
比較例2
比較例1と同様にして乾燥物を得た後、得られた乾燥物を粉砕機(アトマイザー:不二パウダル製)で粉砕し、平均粒径0.25mm、水分1.3%の粉末を得た。
【0061】
比較例3
塔径3m、塔高17mの噴霧乾燥塔を用い、塔下から8mの部位に位置した噴霧ノズルから温度60℃に加温した水分70%のアルキル硫酸ナトリウム塩の水溶液(水分24%のアルキル硫酸ナトリウム塩水溶液1に水を加えて調製した)を110kg/hrの供給速度で噴霧し、向流に温度200℃の熱風を80Nm3/min吹き込み噴霧乾燥を行った。この時、塔頂から排気される空気の温度は97℃であり、塔下より、平均粒径0.14mm、水分1.0重量%の噴霧乾燥粒子を得た。
【0062】
実施例1〜6及び比較例1〜3の製造条件、得られたアニオン界面活性剤粉粒体の組成及び物性をまとめて表1に示す。尚、溶解速度は以下の方法で測定し、その他の物性は上記方法で測定した。
【0063】
<溶解速度>
イオン交換水995g(30℃)を攪拌(900r/min)し、アニオン界面活性剤粉粒体5gを一括添加する。電導度計[HORIBA製;DS-8F]を用いて電気伝導度を経時で測定し、電気伝導度が安定した点の99%値(時間)を溶解速度とした。
【0064】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が0.1mm以上、0.5mm未満で、ゆるめ嵩密度が400〜1000kg/m3で、圧縮度が3〜25%であり、粉粒体全量に対し80〜100重量%のアニオン界面活性剤を含有するアニオン界面活性剤粉粒体。
【請求項2】
攪拌翼及び解砕翼を有する造粒機内へ、減圧下にアニオン界面活性剤水溶液を添加しつつ、乾燥と同時に造粒を行うことによって得られる、請求項1記載のアニオン界面活性剤粉粒体。
【請求項3】
乾燥と同時に造粒を行う際の粉粒体の温度が35〜85℃、該粉粒体の温度変化が±5℃以内である、請求項2記載のアニオン界面活性剤粉粒体。
【請求項4】
造粒機内の圧力が0.67〜40kPaである、請求項2又は3記載のアニオン界面活性剤粉粒体。

【公開番号】特開2006−219654(P2006−219654A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186067(P2005−186067)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】