説明

アニオン重合方法および該重合方法による重合体の製造方法

【課題】 工業的使用に適した重合開始剤を用い、かつ重合温度を比較的弱い冷却条件下とする場合でも、極性単量体を、高い重合開始効率、高い重合速度および高いリビング性で重合させ得るアニオン重合方法を提供する。
【解決手段】 重合系に、特定の有機アルミニウム化合物と特定のルイス塩基を存在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン重合性単量体をアニオン重合開始剤を使用して重合することによるアニオン重合方法、および、該重合方法を用いた重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル等の極性単量体をアニオン重合する方法については、各種の検討がなされている。しかしながら、このような極性単量体にはカルボニル基のような求核攻撃を受け易い部位があるため、アニオン重合に際しては、単量体に対する副反応や、成長末端における分子内環化反応(いわゆるバックバイティング)により、高いリビング性を発揮させることは比較的難しい。
有機リチウム化合物を重合開始剤として使用して極性単量体のアニオン重合を行う際、重合系に有機アルミニウム化合物を存在させておくことが提案されている。この手法では、有機アルミニウム化合物が成長末端に配位するため、成長末端を安定化しその求核性を低下させることができ、その結果、重合時のリビング性を高めることができると考えられている。極性単量体のアニオン重合を、重合開始剤として有機リチウム化合物を使用し、有機アルミニウム化合物の存在下に行う方法としては、例えば、以下の(1)〜(6)の方法が報告されている。
【0003】
(1)メタクリル酸エステルの重合反応を、重合開始剤としてt−ブチルリチウムを使用して、トリアルキルアルミニウム、ジアルキル(ジフェニルアミノ)アルミニウム等の有機アルミニウム化合物の存在下に、芳香族炭化水素溶媒中で行うことからなる方法(特公平7−57766号公報)。
【0004】
(2)メタクリル酸エステルの重合を、重合開始剤としてt−ブチルリチウム等の有機リチウム化合物を使用して、1個以上の嵩高な基を有する特定の有機アルミニウム化合物(例:トリイソブチルアルミニウム、ジイソブチル(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム等)の存在下に、炭化水素溶媒中で行うことからなる方法(特開平5−5009号公報)。
【0005】
(3)メタクリル酸メチルの重合を、重合開始剤として有機リチウム化合物を使用して、メチルビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウム、エチルビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウム、トリス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウム等の有機アルミニウム化合物の存在下に、芳香族炭化水素溶媒中で行うことからなる方法(特開平7−330819号公報)。
【0006】
(4)メタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルの重合を、重合開始剤としてt−ブチルリチウムを使用して、メチルビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウムまたはエチルビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウムの存在下に、トルエン中で行うことからなる方法(高分子学会予稿集(Polymer Preprints, Japan)、第46巻、第7号、第1081〜1082頁(1997年)および同第47巻、第2号、第179頁(1998年))。
【0007】
(5)メタクリル酸メチルの重合を、重合開始剤としてt−ブチルリチウムを使用して、トリアルキルアルミニウムの存在下に、トルエン中で行うことからなる方法(Makromol.Chem.,Supplement、第15巻、第167〜185頁(1989年))。
【0008】
(6)メタクリル酸メチルの重合を、重合開始剤としてt−ブチルリチウムを使用して、ジイソブチル(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムの存在下に、トルエン中で行うことからなる方法(Macromolecules、第25巻、第5907〜5913頁(1992年))。
【0009】
さらに、極性単量体のアニオン重合を、有機リチウム化合物を重合開始剤として使用して有機アルミニウム化合物の存在下に行うに際し、重合系にある種の添加剤を存在させておくことによって、重合速度を増大させたり、重合の均一性を高めて得られる重合体の分子量分布を狭くすることが可能となることが報告されている。この種の報告として、例えば、以下の(7)および(8)がある。
【0010】
(7)メタクリル酸エステルの重合を、重合開始剤としてt−ブチルリチウムを使用して、トリアルキルアルミニウムの存在下にトルエン中で行う際、重合系に、ピバル酸メチル、フタル酸ジイソオクチル等のエステル化合物をトルエン(溶媒)に対して約10重量%程度の割合で存在させておくことによって、重合速度が向上し、得られる重合体の分子量分布が狭くなる。エステル化合物の代りに12−クラウン−4のようなクラウンエーテルを存在させた場合にも同様の改善効果が発現するが、エステル化合物の代りにテトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、N−メチルピロリジンなどを存在させた場合には改善効果は認められない。(Macromolecules、第31巻、第573〜577頁(1998年))
【0011】
(8)メタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルの重合を、重合開始剤としてエチルα−リチオイソブチレート、t−ブチルリチウム等の有機リチウム化合物を使用して、トリアルキルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物の存在下、炭化水素溶媒中で行う際、重合系に、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、ジメトキシエタン、クラウンエーテル等のエーテル化合物またはテトラアルキルアンモニウムハライド、テトラフェニルホスホニウムハライド等の有機4級塩を存在させておくことによって、重合速度が向上し、得られる重合体の分子量分布が狭くなる(国際出願国際公開第WO98/23651号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公平7−57766号公報
【特許文献2】特開平5−5009号公報
【特許文献3】特開平7−330819号公報
【特許文献4】国際出願国際公開第WO98/23651号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】高分子学会予稿集(Polymer Preprints, Japan)、第46巻、第7号、第1081〜1082頁(1997年)
【非特許文献2】高分子学会予稿集(Polymer Preprints, Japan)、第47巻、第2号、第179頁(1998年)
【非特許文献3】Makromol.Chem.,Supplement、第15巻、第167〜185頁(1989年)
【非特許文献4】Macromolecules、第25巻、第5907〜5913頁(1992年)
【非特許文献5】Macromolecules、第31巻、第573〜577頁(1998年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
極性単量体を有機リチウム化合物および有機アルミニウム化合物の存在下にアニオン重合させる方法については、上記(1)〜(8)に示したように各種の提案がなされているが、具体的に使用されている重合開始剤はt−ブチルリチウム、エチルα−リチオイソブチレートなどの一部のものに限定されている。その理由は、高い重合開始効率および高い重合速度の達成を考慮したものであると考えられる。しかしながら、t−ブチルリチウムは激しい自己発火性を有し、その安全性や輸送、貯蔵等の取り扱い性に課題がある。また、エチルα−リチオイソブチレートは、それを製造するための合成操作およびその後の精製操作が煩雑である。これらの理由から、高い重合開始効率および高い重合速度を達成可能なこれらの重合開始剤は、工業的規模での使用に適しているとは言い難い。しかも、上記(1)〜(8)で報告されている具体的実験例の中においても、重合開始効率が実用上不十分なレベルのものが含まれている。
【0015】
また、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル等の極性単量体をブロック共重合させる場合、一方の単量体の重合によって形成されたリビングポリマーが、他の単量体との重合を開始することができるように、高いリビング性を有することが必要となる。しかしながら、有機リチウム化合物および有機アルミニウム化合物の存在下におけるアニオン重合で高いリビング性を発揮させるためには、重合時の温度を−60℃程度のような極低温とすることが必要となることが多い。このような極低温での重合操作は、冷却のために多大なユーティリティを必要とするため、工業的な採用には不利である。しかも、極性単量体としてアクリル酸n−ブチル等の一級アルコールとアクリル酸とのエステルを使用する場合には、重合時のリビング性が特に低くなる。本発明者らの検討によれば、例えば、一級アルコールとアクリル酸とのエステルを、上記(8)で報告されているようなトリアルキルアルミニウムとクラウンエーテルまたは有機4級塩とを存在させた反応系中、−78℃程度の極低温の条件下で重合させた場合、生成したアクリル酸エステル重合体はリビング性を喪失しており、次にそれをメタクリル酸メチルなどの他の極性単量体と接触させても重合を開始させることができなかった。さらに、アクリル酸エステルを上記のような極低温で重合させた場合、得られるアクリル酸エステル重合体は立体規則性が高く、結晶性を有するために、柔軟性を欠くことがある。したがって、柔軟性に優れたアクリル酸エステル重合体を得る目的においては、重合反応を上記のような極低温条件下で行うことは好ましくない。これらの点から、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル等の極性単量体のブロック共重合体の工業的に有利な製造法はいまだ見出されていないのが実情である。
【0016】
以上の観点から、極性単量体のアニオン重合を工業的実施に有利なものとするためには、重合速度が高いこと、重合開始効率が高いこと、使用可能な重合開始剤の範囲が広いこと、重合時のリビング性が高いこと(すなわち、得られる重合体の分子量分布が狭いこと、ブロック共重合におけるブロック共重合体の生成割合が高いこと)および重合時の冷却条件を緩和できることのすべてが重要である。
【0017】
したがって、本発明の課題は、極性単量体のアニオン重合において、重合開始剤として安全性、入手容易性および取り扱い性において比較的優れた重合開始剤を使用して高い重合開始効率および高い重合速度を達成することができ、しかも、比較的高い重合温度(すなわち比較的弱い冷却条件)を採用した場合においても、高いリビング性を発揮させることが可能であることから、狭い分子量分布の重合体を製造することができ、さらにはブロック共重合体の製造にも有用な重合方法を提供することにある。また、本発明の他の課題は、このような優れた長所を有する重合方法を利用した重合体の工業的に有利な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は上記の課題を解決すべく鋭意検討の結果、アニオン重合性単量体をアニオン重合開始剤を使用して重合するに際し、重合系内に、特定の有機アルミニウム化合物を特定のルイス塩基と組み合わせて存在させた場合には、上記の重合開始剤の工業的利用面での適性(安全性、入手容易性および取り扱い性)に関する課題、ならびに上記の重合条件および重合成績(温度条件、重合開始効率、重合速度およびリビング性)に関する課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明は第一には、アニオン重合性単量体をアニオン重合開始剤を使用して重合するに際し、重合系内に、(A)AlR (I)(式中、Rは置換基を有してもよい1価の飽和炭化水素基、置換基を有してもよい1価の芳香族炭化水素基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基またはN,N−二置換アミノ基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して置換基を有してもよいアリールオキシ基を示すかまたはRとRが結合して置換基を有してもよいアリーレンジオキシ基を示す。)で表される三級有機アルミニウム化合物および、(B)エーテル化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のルイス塩基を存在させることを特徴とするアニオン重合方法である。
【0020】
また、本発明は第二には、アニオン重合性単量体を上記アニオン重合方法で重合することからなる重合体の製造方法(例えば、2種以上のアニオン重合性単量体を上記アニオン重合方法で重合することからなるブロック共重合体の製造方法)である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のアニオン重合方法によれば、工業的使用に適したアニオン重合開始剤を使用し、かつ比較的緩和された冷却温度条件下でアニオン重合性単量体の重合を行う場合であっても、高い重合開始効率、高い重合速度および高いリビング性を達成することができる。また本発明の製造方法によれば、分子量分布の狭い重合体およびブロック効率の高いブロック共重合体を工業的に有利に製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明に従う実施例において最終的に得られたポリアクリル酸n−ブチルのGPCチャートである。横軸は流出時間を表す。
【図2】図2は、本発明以外の参考例6において最終的に得られたポリアクリル酸n−ブチルのGPCチャートである。横軸は流出時間を表す。
【図3】図3は、本発明に従う実施例11において一段目の重合で得られたポリアクリル酸n−ブチル(a)と、二段目の重合で最終的に得られたポリ(アクリル酸n−ブチル−b−メタクリル酸メチル)(b)のGPCチャートである。横方向は流出時間に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0024】
本発明に従うアニオン重合方法では、アニオン重合性単量体をアニオン重合開始剤を使用して重合する。
【0025】
本発明で使用するアニオン重合性単量体は、アニオン重合性を有する限りにおいて、その化学構造は特に限定されるものではないが、本発明の効果が特に顕著に発揮され易い点で、酸素原子、窒素原子等のヘテロ原子を有する極性のアニオン重合性単量体が好ましい。該極性のアニオン重合性単量体には、例えば、α,β−不飽和カルボン酸エステル化合物、α,β−不飽和カルボン酸アミド化合物、α,β−不飽和ケトン化合物、2−ビニルピリジン等の極性基を有するビニル系単量体;ε−カプロラクトン等のラクトン化合物等が包含される。α,β−不飽和カルボン酸エステル化合物の好ましい例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸アリル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸トリメトキシシリルプロピル、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル;α−メトキシアクリル酸メチル、α−エトキシアクリル酸メチル等のα−アルコキシアクリル酸エステル;クロトン酸メチル、クロトン酸エチル等のクロトン酸エステル;3−メトキシアクリル酸エステル等の3−アルコキシアクリル酸エステルなどが挙げられる。α,β−不飽和カルボン酸アミド化合物の好ましい例としては、N−イソプロピルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等のアクリルアミド化合物;N−イソプロピルメタクリルアミド、N−t−ブチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド化合物などが挙げられる。α,β−不飽和ケトン化合物の好ましい例としては、メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、メチルイソプロペニルケトン、エチルイソプロペニルケトンなどが挙げられる。上記の単量体の中でも、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリルアミド化合物、メタクリルアミド化合物等が特に好ましい。
【0026】
なお、アニオン重合性単量体は1種のみを使用しても、2種以上を併用してもよい。また、上記例示のごとき単官能性のアニオン重合性単量体と組み合わせて、アニオン重合性単量体の一部として、ビニル基等の重合性部位を分子中に2個以上有する多官能単量体(例:エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなど)を使用することもできる。
本発明において使用するアニオン重合性単量体は、必要に応じて、不活性気流下等で予め十分に乾燥処理しておくことが重合反応を円滑に進行させる点から好ましく、乾燥処理に当たっては、水素化カルシウム、モレキュラーシーブス、活性アルミナ等の脱水・乾燥剤が好ましく用いられる。
【0027】
本発明で使用するアニオン重合開始剤は、必ずしも限られるものではないが、陰イオン中心となる炭素原子を分子中に1個以上含有し、該陰イオン中心の対イオン中心として該陰イオン中心と同じ個数のリチウム陽イオンを有する有機リチウム化合物が好ましい。有機リチウム化合物は、その陰イオン中心の炭素原子に着目すると、三級炭素原子を陰イオン中心とする化学構造を有する有機リチウム化合物、二級炭素原子を陰イオン中心とする化学構造を有する有機リチウム化合物および一級炭素原子を陰イオン中心とする化学構造を有する有機リチウム化合物の3種類に区別される。
【0028】
三級炭素原子を陰イオン中心とする化学構造を有する有機リチウム化合物の代表例としては、t−ブチルリチウム、1,1−ジメチルプロピルリチウム等のt−アルキルリチウム;1,1−ジフェニルヘキシルリチウム、1,1−ジフェニル−3−メチルペンチルリチウム等の1,1−ジアリールアルキルリチウム;エチルα−リチオイソブチレート、ブチルα−リチオイソブチレート、メチルα−リチオイソブチレート等のα,α−ジアルキル−α−リチオ酢酸エステルなどを挙げることができる。二級炭素原子を陰イオン中心とする化学構造を有する有機リチウム化合物としては、イソプロピルリチウム、1−メチルプロピルリチウム(すなわち、sec−ブチルリチウム)、1−メチルブチルリチウム、2−エチルプロピルリチウム、1−メチルペンチルリチウム等のsec−アルキルリチウム;シクロヘキシルリチウム等のシクロアルキルリチウム;ジフェニルメチルリチウム等のジアリールメチルリチウム;α−メチルベンジルリチウム等の1−アルキル−1−アリールメチルリチウムなどを挙げることができる。また、一級炭素原子を陰イオン中心とする化学構造を有する有機リチウム化合物としては、メチルリチウム、プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、ペンチルリチウム等のn−アルキルリチウムなどを挙げることができる。
【0029】
上記の有機リチウム化合物の中でも、工業的使用面での利便性(発火の危険性の低さ、取り扱いの容易さ、製造の容易さ等)および重合開始能力が高度に両立される点から、二級炭素原子を陰イオン中心とする化学構造を有する有機リチウム化合物が好ましく、二級炭素原子を陰イオン中心とする化学構造を有する炭素数3〜40の炭化水素のリチウム塩がより好ましく、1−メチルプロピルリチウム(すなわち、sec−ブチルリチウム)が特に好ましい。
なお、本発明では、アニオン重合開始剤として1種を単独使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0030】
本発明に従うアニオン重合におけるアニオン重合開始剤の使用量は必ずしも限定されるものではないが、アニオン重合開始剤を、使用するアニオン重合性単量体の合計100モルに対して0.01〜10モルの範囲内となる割合で用いることが、目的とする重合体を円滑に製造できる点から好ましい。
【0031】
本発明に従う重合方法では、重合系内に、特定の有機アルミニウム化合物と特定のルイス塩基とを組み合わせて添加しておくことが重要である。
【0032】
本発明で使用する有機アルミニウム化合物は、一般式:Al−O−Ar(式中、Arは芳香族環を表す)で示される化学構造を分子中に含む三級有機アルミニウム化合物(以下、該三級有機アルミニウム化合物を「有機アルミニウム化合物(A)」と記することがある)である。
【0033】
本発明で使用する有機アルミニウム化合物(A)については、使用するアニオン重合性単量体の種類等に応じて適宜好適なものを選択すればよいが、重合速度の高さ、重合開始効率の高さ、使用可能な重合開始剤の範囲の広さ、重合時のリビング性の高さおよび重合時の冷却条件の緩和の点において、一般式(I):
【0034】
(化1)
AlR (I)
【0035】
(式中、Rは置換基を有してもよい1価の飽和炭化水素基、置換基を有してもよい1価の芳香族炭化水素基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基またはN,N−二置換アミノ基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して置換基を有してもよいアリールオキシ基を示すかまたはRとRが結合して置換基を有してもよいアリーレンジオキシ基を示す。)
【0036】
で表される有機アルミニウム化合物(以下、該有機アルミニウム化合物を「有機アルミニウム化合物(A−1)」と記することがある)または一般式(II):
【0037】
(化2)
AlR (II)
【0038】
(式中、Rは置換基を有してもよいアリールオキシ基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して置換基を有してもよい1価の飽和炭化水素基、置換基を有してもよい1価の芳香族炭化水素基、置換基を有してもよいアルコキシ基またはN,N−二置換アミノ基を示す。)
【0039】
で表される有機アルミニウム化合物(以下、該有機アルミニウム化合物を「有機アルミニウム化合物(A−2)」と記することがある)を使用することが好ましく、有機アルミニウム化合物(A−1)がより好ましい。
【0040】
上記一般式(I)および(II)においてR1、R、RおよびRがそれぞれ示し得る置換基を有してもよいアリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、2,6−ジメチルフェノキシ基、2,4−ジ−t−ブチルフェノキシ基、2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ基、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ基、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノキシ基、2,6−ジフェニルフェノキシ基、1−ナフトキシ基、2−ナフトキシ基、9−フェナントリルオキシ基、1−ピレニルオキシ基等の置換基を有しないアリールオキシ基;および7−メトキシ−2−ナフトキシ基等の置換基を有するアリールオキシ基を挙げることができる。
【0041】
上記(I)においてRとRが結合して表すことのある置換基を有してもよいアリーレンジオキシ基の例としては、2,2’−ビフェノール、2,2’−メチレンビスフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、(R)−(+)−1,1’−ビ−2−ナフトール、(S)−(−)−1,1’−ビ−2−ナフトール等から2個のフェノール性水酸基中の水素原子を除いた形の基を挙げることができる。
【0042】
なお、上記の置換基を有してもよいアリールオキシ基および上記の置換基を有してもよいアリーレンジオキシ基について、1個以上の置換基を有する場合、該置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、t−ブトキシ基等のアルコキシ基;塩素、臭素等のハロゲン原子等を例示することができる。
【0043】
上記一般式(I)および(II)においてR、RおよびRがそれぞれ独立して表し得る置換基を有してもよい1価の飽和炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基などが例示され、R、RおよびRがそれぞれ独立して表し得る置換基を有してもよい1価の芳香族炭化水素基としては、フェニル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基などが例示され、R、RおよびRがそれぞれ独立して表し得る置換基を有してもよい置換基を有してもよいアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、t−ブトキシ基などが例示され、R、RおよびRがそれぞれ独立して表し得るN,N−二置換アミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ビス(トリメチルシリル)アミノ基などが例示される。これらの1価の飽和炭化水素基、1価の芳香族炭化水素基、アルコキシ基およびN,N−二置換アミノ基がそれぞれ有してもよい置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、t−ブトキシ基等のアルコキシ基;塩素、臭素等のハロゲン原子等を例示することができる。
なお、一般式(I)におけるR、RおよびRは上記定義の範囲内であれば、それぞれ同じ化学構造を有していてもよく、また相異なる化学構造を有していてもよい。同様に、一般式(II)におけるRおよびRは上記定義の範囲内であれば、それぞれ同じ化学構造を有していてもよく、また相異なる化学構造を有していてもよい。
【0044】
上記の有機アルミニウム化合物(A−1)の代表例としては、エチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、エチルビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウム、エチル〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノキシ)〕アルミニウム、イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチル〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノキシ)〕アルミニウム、n−オクチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、n−オクチルビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウム、n−オクチル〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノキシ)〕アルミニウム、メトキシビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、メトキシビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウム、メトキシ〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノキシ)〕アルミニウム、エトキシビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、エトキシビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウム、エトキシ〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノキシ)〕アルミニウム、イソプロポキシビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、イソプロポキシビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウム、イソプロポキシ〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノキシ)〕アルミニウム、t−ブトキシビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、t−ブトキシビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウム、t−ブトキシ〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノキシ)〕アルミニウム、トリス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、トリス(2,6−ジフェニルフェノキシ)アルミニウム等を挙げることができる。これらの有機アルミニウム化合物(A−1)の中でも、イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチル〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノキシ)〕アルミニウム等が、重合開始効率の高さ、リビング性の高さ、入手および取り扱いの容易さ等の点で特に好ましい。
【0045】
また、上記の有機アルミニウム化合物(A−2)の代表例としては、ジエチル(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、ジエチル(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウム、ジイソブチル(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、ジイソブチル(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウム、ジn−オクチル(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、ジn−オクチル(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウム等を挙げることができる。
【0046】
上記有機アルミニウム化合物(A)の製法は特に限定されず、例えば公知の手法に従い製造することができる。
なお、本発明においては、有機アルミニウム化合物(A)を1種のみ用いても、2種以上併用してもよい。
【0047】
本発明における有機アルミニウム化合物(A)の使用量に関しては、重合操作の種類、溶液重合を行う場合は重合系を構成する溶媒の種類、その他種々の重合条件等に応じて適宜好適な量を選択することができるが、一般には有機アルミニウム化合物(A)を、使用するアニオン重合開始剤1モルに対して0.3〜300モルの範囲内となるような割合で用いることが好ましく、1〜100モルの範囲内となるような割合で用いることがより好ましい。
【0048】
本発明で使用するルイス塩基は、エーテル化合物および三級ポリアミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のルイス塩基(以下、該ルイス塩基を「ルイス塩基(B)」と記することがある)である。
【0049】
上記のエーテル化合物は、重合反応に悪影響を及ぼさないものである限りにおいて、分子中にエーテル結合(−O−)を有し、かつ金属成分を含有しない化合物の中から適宜選択して使用することができるが、重合開始効率の高さ、重合時のリビング性の高さなどの効果が大きい点において、2個以上のエーテル結合を分子中に有する環状エーテル化合物または1個以上のエーテル結合を分子中に有する非環状エーテル化合物が好ましい。2個以上のエーテル結合を分子中に有する環状エーテル化合物の具体例としては、12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6等のクラウンエーテルなどが挙げられる。また、1個以上のエーテル結合を分子中に有する非環状エーテル化合物の具体例としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール等の非環状モノエーテル化合物;1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジイソプロポキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、1,2−ジフェノキシエタン、1,2−ジメトキシプロパン、1,2−ジエトキシプロパン、1,2−ジイソプロポキシプロパン、1,2−ジブトキシプロパン、1,2−ジフェノキシプロパン、1,3−ジメトキシプロパン、1,3−ジエトキシプロパン、1,3−ジイソプロポキシプロパン、1,3−ジブトキシプロパン、1,3−ジフェノキシプロパン、1,4−ジメトキシブタン、1,4−ジエトキシブタン、1,4−ジイソプロポキシブタン、1,4−ジブトキシブタン、1,4−ジフェノキシブタン等の非環状ジエーテル化合物;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジブチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジブチレングリコールジエチルエーテル等の非環状トリエーテル化合物;トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリブチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリブチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラブチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラプロピレングリコールジエチルエーテル、テトラブチレングリコールジエチルエーテル等のポリアルキレングリコールのジアルキルエーテルなどが挙げられる。上記のエーテル化合物の具体例の中でも、有機アルミニウム化合物(A)に対する悪影響が少なく、本発明の効果が特に顕著に発揮される点、入手の容易さの点等において、非環状エーテル化合物が好ましく、ジエチルエーテルまたは1,2−ジメトキシエタンが特に好ましい。
【0050】
なお、テトラヒドロフラン、プロピレンオキシド等のエポキシ化合物などの1個のエーテル結合を分子中に有する環状エーテル化合物を本発明に従う重合系に存在させると、有機アルミニウム化合物(A)と強すぎる相互作用を示したり、またはアニオン重合開始剤または成長途中のリビングポリマーと直接反応してしまうことがある。従って、該環状エーテル化合物のルイス塩基(B)としての使用は、通常、避けた方が好ましい。
【0051】
三級ポリアミン化合物は、重合反応に悪影響を及ぼさないものである限りにおいて、三級アミン構造を分子中に2個以上有する化合物の中から適宜選択して使用することができる。なお、本発明において「三級アミン構造」とは、一つの窒素原子に三つの炭素原子が結合している形態の部分的化学構造を意味し、該窒素原子は三つの炭素原子と結合している限りにおいて、芳香環の一部を構成するものであってもよい。
三級ポリアミン化合物の好ましい具体例としては、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン、トリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミンなどの鎖状ポリアミン化合物;1,3,5−トリメチルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン、1,4,7,10,13,16−ヘキサメチル−1,4,7,10,13,16−ヘキサアザシクロオクタデカンなどの非芳香族性複素環式化合物;2,2’−ビピリジル、2,2’:6’,2”−テルピリジンなどの芳香族性複素環式化合物などが挙げられる。
ルイス塩基(B)の代わりにトリエチルアミン等の三級モノアミン化合物を使用することは、重合開始効率や重合時のリビング性の低下を招くので好ましくない。
【0052】
本発明においては、分子中に1個以上のエーテル結合と1個の三級アミン構造を有する化合物は上記のエーテル化合物であるとみなすことができ、また、分子中に1個以上のエーテル結合と2個以上の三級アミン構造を有する化合物は上記エーテル化合物および上記三級ポリアミン化合物のうちのいずれかであるとみなすことができるので、分子中に1個以上のエーテル結合と1個以上の三級アミン構造を有する化合物をルイス塩基(B)として使用することができる。
なお、本発明においては、ルイス塩基(B)として、1種以上のエーテル化合物、1種以上の三級ポリアミン化合物、またはそれらの両方を使用することができる。
【0053】
本発明に従う重合反応において、ルイス塩基(B)の使用量は必ずしも限られるものではないが、重合開始効率の高さ、重合時のリビング性の高さ等の効果を十分に発現させる目的において、使用するルイス塩基(B)の全モル数が使用するアニオン重合開始剤のモル数に対して0.1倍以上となる割合であることが好ましく、0.3倍以上となる割合であることがより好ましく、0.5倍以上となる割合であることがさらに好ましい。ルイス塩基(B)の使用量の上限値については必ずしも制限されるものではなく、ルイス塩基(B)を溶媒として使用することも可能であるが、その使用量が多すぎると重合開始効率が低下する傾向があるので、重合開始効率を著しく低下させることがないように、一般には、ルイス塩基(B)の合計量が重合系に対して95重量%以下となるような範囲内にとどめることが好ましい。
【0054】
本発明に従う重合反応は、有機溶媒を用いないで行うことも可能であるが、重合温度の制御、重合系内の条件の均一化等が可能であって重合を円滑に進行させ得る点から、有機溶媒中における溶液重合法で行うことが好ましい。その際、薬品取り扱い時の安全性が比較的高く、廃水への混入が生じにくく、溶媒の回収精製が容易である等の点から、一般に、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶媒;フタル酸ジメチル等のエステル系溶媒などが好ましく用いられる。これらの有機溶媒は単独で用いても、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、重合に使用する有機溶媒は、予め脱気および脱水処理して精製しておくことが好ましい。
【0055】
有機溶媒を使用する場合、その使用量は、目的とする重合体の重合度、単量体の種類、使用するアニオン重合開始剤の種類、有機アルミニウム化合物(A)の種類、ルイス塩基(B)の種類、有機溶媒の種類等に応じて適宜調整し得るが、重合の円滑な進行、生成した重合体の分離取得のし易さ、廃液処理負担の軽減等の点から、一般的には有機溶媒を、使用するアニオン重合性単量体100重量部に対して200〜3000重量部の範囲内となる割合で用いることが好ましい。
【0056】
重合系へのアニオン重合開始剤、有機アルミニウム化合物(A)、ルイス塩基(B)およびアニオン重合性単量体の添加方法は特に制限されず、所望に応じて適宜好適な方法を採用することができる。ただし、ルイス塩基(B)についてみると、アニオン重合開始剤との接触前に有機アルミニウム化合物(A)と接触するような手順を採用することが好ましい。また、有機アルミニウム化合物(A)は、アニオン重合性単量体より先に重合系に添加してもよく、単量体と同時に重合系に添加してもよい(後者の場合、有機アルミニウム化合物(A)を単量体との混合物の形態で添加してもよい)。
本発明に従う重合反応において2種以上のアニオン重合性単量体を使用する場合、共重合体を得ることが可能である。この場合、通常のアニオン重合と同様に単量体の添加方法(例えば、2種以上の単量体を同時に添加するか、または時間間隔をおいて別々に添加するかなどの点)、単量体の種類の組合わせ等に応じて、ランダム、ブロック、テーパードブロック等の任意の共重合形態のものを製造することができる。本発明に従う重合方法では、高いリビング性を発揮させることができるため、高いブロック化効率が要求されるブロック共重合体の製造に特に好適である。
【0057】
本発明に従う重合では、必要に応じて、公知のアニオン重合技術に準じて重合系に公知の他の添加剤を存在させてもよい。該添加剤の例としては、塩化リチウム等の無機塩類;リチウムメトキシエトキシエトキシド、カリウムt−ブトキシド等の金属アルコキシド化合物;テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルホスホニウムブロミド等の有機四級塩等が挙げられる。
【0058】
本発明に従う重合において、反応系の温度については特には限定されず、使用するアニオン重合性単量体の種類等に応じて適宜好適な温度条件を選択して採用すればよいが、多くの場合、−60℃〜+100℃の範囲内の温度を採用することが好ましく、−30℃〜+50℃の範囲内の温度を採用することがより好ましい。また、アクリル酸エステルを重合させる場合、重合温度が低すぎると、得られる重合体の立体規則性が高くなり、結晶性を有するようになるため、優れた柔軟性を有するアクリル酸エステル重合体の製造を目的とするのであれば、重合温度は−50℃以上の温度であることが好ましい。なお、本発明に従う重合法では、従来のアニオン重合法に比べて重合系の冷却条件を緩和でき、より室温に近い温度で重合する場合であっても、高いリビング性を達成することができる。
【0059】
本発明に従う重合反応は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。さらに、反応系が均一になるように十分な攪拌条件下に重合を行うことが好ましい。
本発明に従う重合反応では重合の所要時間を適宜選択することができるが、本発明に従う重合方法によれば、重合を高い速度で進行させることが可能である。採用する諸条件にも依存するが、例えば、アニオン重合性単量体としてメタクリル酸エステルを使用する場合は数分間以内で重合を完結させることも可能であり、アニオン重合性単量体としてアクリル酸エステルを使用する場合は数十秒間以内で重合を完結させることも可能である。したがって、本発明に従う重合反応を、生産性が高く、かつ冷却効率が良好な「管型連続重合」方法で行うことも可能である。
【0060】
本発明においては、重合反応により目的とする重合体鎖が形成された段階で、公知のアニオン重合法に準じ、重合停止剤を反応混合物に添加することによって重合反応を停止させることができる。重合停止剤としては、例えばメタノール、酢酸、塩酸のメタノール溶液等のプロトン性化合物を使用することができる。重合停止剤の使用量は特に限定されるものではないが、一般には、重合開始剤として使用したアニオン重合開始剤1モルに対して1〜100モルの範囲内となる割合が好ましい。
【0061】
なお、本発明では、所定の重合を全て終えた後であってかつ重合停止剤を添加する前の段階で、末端官能基付与剤(例えばアルデヒド、ラクトン、二酸化炭素等)を反応系に添加してもよく、その場合には分子鎖の末端に水酸基、カルボキシル基等の官能基を有する重合体を得ることができる。
重合停止後の反応混合物から分離取得した重合体中に使用したアニオン重合開始剤や有機アルミニウム化合物(A)に由来する金属成分が残存していると、重合体やそれを用いた材料の物性の低下、透明性不良等を生じる場合があるので、重合体の使用目的に応じては、アニオン重合開始剤および有機アルミニウム化合物(A)に由来する金属化合物を重合終了後に除去することが好ましい。該金属化合物の除去方法としては、重合体を、酸性水溶液を用いた洗浄処理、イオン交換樹脂等の吸着剤を用いた吸着処理等の清浄化処理に付することが有効である。ここで、酸性水溶液としては、例えば、塩酸、硫酸水溶液、硝酸水溶液、酢酸水溶液、プロピオン酸水溶液、クエン酸水溶液等を使用することができる。
【0062】
重合を停止させた後の反応混合物から重合体を分離取得するための方法は特に制限されず、公知の方法に準じた任意の方法を採用することができる。例えば、反応混合物を重合体の貧溶媒に注いで該重合体を沈殿させる方法、反応混合物から溶媒を留去して重合体を取得する方法等が採用可能である。
【0063】
また、本発明によれば、任意の分子量の重合体を製造することができる。製造可能な重合体の分子量は広範囲にわたるが、一般には、数平均分子量が1000〜1000000の範囲内であることが、得られる重合体の取り扱い性、流動性、力学特性等の点から好ましい。また、本発明によれば、通常、分子量の均一性が高い(すなわち、分子量分布の狭い)重合体が得られ、分子量分布(Mw/Mn)の値において1.5以下の重合体を製造することが可能である。ただし、アニオン重合性単量体の重合系への添加速度、単量体の重合系内での拡散速度等を制御することにより、分子量分布の広い重合体を意図的に得ることもできる。
【実施例】
【0064】
以下に本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例等において、化学品は常法により乾燥精製し、窒素にて脱気したものを使用した。また、化学品の移送および供給は窒素雰囲気下で行った。
【0065】
参考
内容積1リットルの三口フラスコに半月翼型撹拌棒を設置し、系内の雰囲気を窒素で置換した。トルエン300ml、1,2−ジメトキシエタン2.7g、およびジイソブチル(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムを20.0mmol含有するトルエン溶液40mlを加え、−30℃に冷却した。これに、sec−ブチルリチウムを2.0mmol含有するシクロヘキサン溶液1.54mlを加え、20分間撹拌した。
溶液を激しく撹拌しながら、−30℃で、これにメタクリル酸メチル20.0gを約3分間かけて滴下した。溶液は当初、黄色に着色し、滴下終了から1分後に退色した。滴下終了より3分後にメタノールを5ml加えることにより、重合反応を停止させた。
得られた溶液を3リットルのメタノール中に注ぎ、生成した重合体を沈殿させ、回収した。
得られた重合体(ポリメタクリル酸メチル)の収率はほぼ100%であった。得られた重合体のポリスチレン換算分子量をGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定した結果、そのMn(数平均分子量)は34700であり、Mw/Mn(分子量分布)は1.10であった。また、重合開始効率は0.29であることが判明した。
重合条件および重合結果を下記の表1に示す。
【0066】
《実施例
有機アルミニウム化合物のトルエン溶液として、ジイソブチル(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムを20.0mmol含有するトルエン溶液40mlの代りに、イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムを14.0mmol含有するトルエン溶液28mlを使用し;sec−ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液として、sec−ブチルリチウムを2.0mmol含有するシクロヘキサン溶液1.54mlの代りに、sec−ブチルリチウムを1.0mmol含有するシクロヘキサン溶液0.77mlを使用し;重合時の温度を−30℃から0℃に変更し;アニオン重合性単量体(メタクリル酸メチル)の使用量を20.0gから10.0gに変更し;かつ重合時間(単量体添加終了から重合停止までの時間)を3分間から80分間に変更した以外は、参考におけると同様にして重合操作および重合停止操作を行った。
得られた重合体(ポリメタクリル酸メチル)の収率はほぼ100%であった。得られた重合体のMnは10600であり、Mw/Mnは1.06であった。また、重合開始効率は0.94であった。
重合条件および重合結果を下記の表1に示す。
【0067】
《実施例
1,2−ジメトキシエタンの使用量を8.1gに変更し、かつその他の重合条件を下記の表1に示すように変更した以外は、実施例におけると同様にして重合操作および重合停止操作を行った。
得られた重合体(ポリメタクリル酸メチル)の収率はほぼ100%であった。得られた重合体のMnは9800であり、Mw/Mnは1.06であった。また、重合開始効率は1.02であった。
重合条件および重合結果を下記の表1に示す。
【0068】
参考
1,2−ジメトキシエタン2.7gの代りにN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン1.0mmolを使用し、かつその他の重合条件を下記の表1に示すように変更した以外は、実施例におけると同様にして重合操作および重合停止操作を行った。
得られた重合体(ポリメタクリル酸メチル)の収率はほぼ100%であった。得られた重合体のMnは12500であり、Mw/Mnは1.06であった。また、重合開始効率は0.80であった。
重合条件および重合結果を下記の表1に示す。
【0069】
《実施例
有機アルミニウム化合物のトルエン溶液として、ジイソブチル(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムを20.0mmol含有するトルエン溶液40mlの代りに、イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムを11.0mmol含有するトルエン溶液22mlを使用し;sec−ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液として、sec−ブチルリチウムを2.0mmol含有するシクロヘキサン溶液1.54mlの代りに、sec−ブチルリチウムを1.0mmol含有するシクロヘキサン溶液0.77mlを使用し;アニオン重合性単量体の種類および使用量をメタクリル酸メチル20.0gからアクリル酸n−ブチル10.0gに変更し;かつ重合時間(単量体添加終了から重合停止までの時間)を3分間から1分間に変更した以外は、参考におけると同様にして重合操作および重合停止操作を行った。
得られた重合体(ポリアクリル酸n−ブチル)の収率はほぼ100%であった。得られた重合体のMnは11600であり、Mw/Mnは1.08であった。また、重合開始効率は0.86であった。
重合条件および重合結果を下記の表1に示す。
【0070】
《実施例
イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムをそれと同モル数のエチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムに変更した以外は、実施例におけると同様にして重合操作および重合停止操作を行った。
得られた重合体(ポリアクリル酸n−ブチル)の収率はほぼ100%であった。得られた重合体のMnは14200であり、Mw/Mnは1.21であった。また、重合開始効率は0.70であった。
重合条件および重合結果を下記の表1に示す。
【0071】
参考
1,2−ジメトキシエタン2.7gの代りにN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン1.0mmolを使用した以外は、実施例におけると同様にして重合操作および重合停止操作を行った。
得られた重合体(ポリアクリル酸n−ブチル)の収率はほぼ100%であった。得られた重合体のMnは14800であり、Mw/Mnは1.05であった。また、重合開始効率は0.68であった。
【0072】
《実施例
1,2−ジメトキシエタン2.7gの代りにジエチルエーテル5.4gを使用した以外は、実施例におけると同様にして重合操作および重合停止操作を行った。
得られた重合体(ポリアクリル酸n−ブチル)の収率はほぼ100%であった。得られた重合体のMnは14000であり、Mw/Mnは1.23であった。また、重合開始効率は0.71であった。
重合条件および重合結果を下記の表1に示す。
【0073】
《参考例1》
1,2−ジメトキシエタンの使用を省略し、かつ重合時間を3分間から120分間に延長した以外は、参考におけると同様にして重合操作および重合停止操作を行った。しかしながら、重合体は全く回収されなかった。
重合条件および重合結果を下記の表1に示す。
【0074】
《参考例2》
1,2−ジメトキシエタンの使用を省略し、重合時間を80分間から120分間に延長した以外は、実施例におけると同様にして重合操作および重合停止操作を行った。しかしながら、重合体は全く回収されなかった。
重合条件および重合結果を下記の表1に示す。
【0075】
《参考例3》
1,2−ジメトキシエタンの使用を省略し、重合時間を1分間から120分間に延長した以外は、実施例におけると同様にして重合操作および重合停止操作を行った。
得られた重合体(ポリアクリル酸n−ブチル)の収率はほぼ52%であった。得られた重合体のMnは17600であり、Mw/Mnは1.66であった。また、重合開始効率は0.30であった。
重合条件および重合結果を下記の表1に示す。
【0076】
《参考例4》
有機アルミニウム化合物のトルエン溶液として、ジイソブチル(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムを20.0mmol含有するトルエン溶液40mlの代りに、トリイソブチルアルミニウムを20.0mmol含有するトルエン溶液40mlを使用し、かつ重合時間を3分間から120分間に延長した以外は、参考におけると同様にして重合操作および重合停止操作を行った。しかしながら、重合体は全く回収されなかった。
重合条件および重合結果を下記の表1に示す。
【0077】
《参考例5》
1,2−ジメトキシエタン2.7gの代りにテトラメチルアンモニウムクロリド1.0mmolを使用し、かつ重合時間を1分間から120分間に延長した以外は、実施例におけると同様にして重合操作および重合停止操作を行った。なお、加えたテトラメチルアンモニウムクロリドはほとんど溶解せず、重合期間中、重合系内に不溶物が認められた。
得られた重合体(ポリアクリル酸n−ブチル)の収率はほぼ32%であった。得られた重合体のMnは15200であり、Mw/Mnは1.50であった。また、重合開始効率は0.21であった。
重合条件および重合結果を下記の表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
上記表1中における記号は以下の意味を有する。
s-BLi:sec−ブチルリチウム
DME:1,2−ジメトキシエタン
TMEDA:N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン
Et2O:ジエチルエーテル
Me4NCl:テトラメチルアンモニウムクロリド
iB2Al(BHT):ジイソブチル(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム
iBAl(BHT)2:イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム
EtAl(BHT)2:エチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム
iB3Al:トリイソブチルアルミニウム
MMA:メタクリル酸メチル
nBA:アクリル酸n−ブチル
【0080】
上記の表1に示した結果から、本発明に従う実施例1〜5、参考例7〜9における重合方法では、極性アニオン重合性単量体の重合を、アニオン重合開始剤として工業的使用に適したsec−ブチルリチウムを使用し、かつ−30℃または0℃という緩和された冷却温度条件下で行ったにも拘わらず、短い重合時間(1〜80分間)において、狭い分子量分布(Mw/Mn=1.05〜1.23)を有する所定の重合体を高収率(100%)で製造できたことが分かる。しかも、それらの重合方法における重合開始効率は、比較的高く(0.29〜1.02)、有機アルミニウム化合物(A)として有機アルミニウム化合物(A−1)を使用した場合には特に高い(0.68〜1.02)ことが分かる。
これに対して、ルイス塩基の添加を省略した点で本発明とは相違する参考例1〜3における重合方法では、延長した重合時間(120分間)を採用したにも拘わらず、重合が実質的に進まない(参考例1および2)か、または重合した場合(参考例3)でも、得られた重合体の分子量分布は比較的広く(Mw/Mn=1.66)、収率は低く(52%)、また重合開始効率も相対的に低い(実施例および参考例9では0.68〜0.86であるのに対して参考例3では0.30)ことが分かる。有機アルミニウム化合物として上記Al−O−Arで示される化学構造を有しない有機アルミニウム化合物を使用した点で本発明とは相違する参考例4における重合方法では、延長した重合時間(120分間)を採用したにも拘わらず、重合が実質的に進まなかったことが分かる。また、エーテル化合物または三級ポリアミン化合物の代りに有機4級塩(テトラメチルアンモニウムクロリド)を使用した点で本発明とは相違する参考例5における重合方法では、延長した重合時間(120分間)を採用したにも拘わらず、得られた重合体の分子量分布は比較的広く(Mw/Mn=1.50)、収率は低く(32%)、また重合開始効率も相対的に低い(実施例および参考例9では0.68〜0.86であるのに対して参考例5では0.21)ことが分かる。
【0081】
《実施例》[アクリル酸n−ブチルの二段階重合例]
本実施例においては、以下のようにして、−30℃でアクリル酸n−ブチルの重合(一段目の重合)を行い、重合完了後、同温度で1時間保存し、次いでアクリル酸n−ブチルを添加することにより−30℃で二段目の重合を行った。
【0082】
(1)内容積1リットルの三口フラスコに半月翼型撹拌棒を設置し、系内の雰囲気を窒素で置換した。トルエン300ml、1,2−ジメトキシエタン2.7g(30mmol)、およびイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムを11.0mmol含有するトルエン溶液22mlを加え、−30℃に冷却した。これに、sec−ブチルリチウムを1.0mmol含有するシクロヘキサン溶液0.77mlを加え、20分間撹拌した。
溶液を激しく撹拌しながら、−30℃で、これにアクリル酸n−ブチル10.0gを約3分間かけて滴下した。溶液は当初、黄色に着色し、滴下終了から1分後に退色した。
【0083】
(2)滴下終了より1分後の段階で溶液の一部をサンプリングした。重合率を測定した結果、重合率はほぼ100%であることが判明した。また、生成した重合体(ポリアクリル酸n−ブチル)のポリスチレン換算分子量をGPCで測定した結果、そのMnは14000であり、Mw/Mnは1.09であることが判明した。
【0084】
(3)上記(1)で得られた溶液を、滴下終了後も−30℃で1時間、攪拌下に保持した後、この溶液にアクリル酸n−ブチルを30.0g加え、−30℃で1時間重合させた。次いで、メタノールを5ml加えることにより、重合反応を停止させた。
【0085】
(4)上記(3)で得られた溶液を3リットルのメタノール中に注ぎ、生成した重合体を沈殿させ、回収した。
得られた重合体(ポリアクリル酸n−ブチル)の収率はほぼ100%であった。得られた重合体のポリスチレン換算分子量をGPCで測定した結果、そのMnは56700であり、Mw/Mnは1.04であることが判明した。また、GPC測定において、上記(1)における一段目の重合で得られた重合体の分子量付近に、ピークは全く観測されなかった。このことから、上記(1)の一段目の重合終了後から上記(3)の二段目の重合開始に至るまでの保存期間中におけるリビングポリマーの失活率はほぼ0%であり、リビング性が高いレベルで保持されていたことが分かる。
結果を下記表2に記す。
なお、二段目の重合で得られた重合体のGPCチャートを図1に示す。
【0086】
《実施例7〜10、参考例10〜13》[アクリル酸n−ブチルの二段階重合例]
本実施例においては、使用したルイス塩基の種類および添加量ならびに一段目重合、保存(1時間)および二段目重合の全期間の温度について表2の条件を採用した以外は、実施例におけると同様にして一段目の重合操作、保存操作、二段目の重合操作および重合停止操作を行った。
結果を下記表2に記す。
【0087】
【表2】

【0088】
上記表2中における記号は以下の意味を有する。
DME:1,2−ジメトキシエタン
Diglyme:ジエチレングリコールジメチルエーテル
12-Crown-4:12−クラウン−4
TMEDA:N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン
PMDETA:N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン
HMTETA:1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン
【0089】
上記の表2に示した結果から、本発明に従う実施例7〜10、参考例10〜13における重合方法では、一段目重合、保存および二段目重合の全期間中における温度として0℃ないし室温付近の温度という、実施例に比べて高い温度条件を採用したにも拘わらず、保存期間中におけるリビングポリマーの失活率は55%以下の範囲内に止まり、保存期間後の二段目の重合操作でも重合反応が完全に進行することが分かる。
【0090】
《参考例6》[アクリル酸n−ブチルの二段階重合例]
本参考例においては、以下のようにして、−30℃でアクリル酸n−ブチルの重合(一段目の重合)を行い、重合完了後、同温度で1時間保存し、次いでアクリル酸n−ブチルを添加することにより−30℃で二段目の重合を行った。
【0091】
(1)sec−ブチルリチウムを1.0mmol含有するシクロヘキサン溶液0.77mlの代りに、t−ブチルリチウムを1.0mmol含有するシクロヘキサン溶液0.63mlを使用し、かつ1,2−ジメトキシエタンの添加を省略した以外は実施例の(1)におけると同様にして、一段目の重合操作を行った。
【0092】
(2)実施例の(2)におけると同様にして、上記(1)で得られた溶液のサンプルを採取し測定した。その結果、生成した重合体(ポリアクリル酸n−ブチル)の収率はほぼ100%であり、Mnは18800であり、Mw/Mnは1.25であることが判明した。なお、GPC測定において、低分子量側にややテーリングが認められた。
【0093】
(3)実施例の(3)におけると同様にして、上記(1)で得られた溶液を−30℃で1時間保持した後、二段目の重合操作および重合停止操作を行った。
【0094】
(4)実施例の(4)におけると同様にして、上記(3)で得られた溶液から重合体(ポリアクリル酸n−ブチル)を回収し測定した。その結果、重合体の収率は59%で上記(3)の二段目の重合での重合率は45%であることが判明した。また、得られた重合体のMnは27800であり、Mw/Mnは1.60であり、上記(1)の一段目の重合で得られたポリマーに対応するピークが相当量認められ、そのピークの面積比は重合体全体の約17%であった。このことより、上記(1)の一段目の重合終了後から上記(3)の二段目の重合開始に至るまでの保存期間中におけるリビングポリマーの失活率は約40%程度であったものと見積もることができる。
なお、二段目の重合で得られた重合体のGPCチャートを図2に示す。
【0095】
《実施例1》[アクリル酸n−ブチルとメタクリル酸メチルのブロック共重合例]
本実施例では、以下のようにして、アクリル酸n−ブチルを重合後、メタクリル酸メチルを加えることでブロック共重合を行った。
【0096】
(1)sec−ブチルリチウムの使用量を1.0mmolから1.4mmolに変更した以外は実施例の(1)におけると同様にして、アクリル酸n−ブチルの重合を行った。
【0097】
(2)実施例の(2)におけると同様にして、上記(1)で得られたアクリル酸n−ブチル滴下終了から1分後の溶液のサンプルを採取し測定した。その結果、生成した重合体(ポリアクリル酸n−ブチル)の収率はほぼ100%であり、Mnは9300であり、Mw/Mnは1.06であることが判明した。
上記(1)の一段目の重合で得られた重合体のGPCチャートを図3に曲線(a)で示す。
【0098】
(3)上記(1)で得られた溶液を、滴下終了後も−30℃で1.5時間、攪拌下に保持した後、この溶液にメタクリル酸メチルを30.0g加え、−30℃で6時間重合させた。次いで、メタノールを5ml加えることにより、重合反応を停止させた。
【0099】
(4)上記(3)で得られた溶液を3リットルのメタノール中に注ぎ、生成した重合体を沈殿させ、回収した。
得られた重合体(ポリ(アクリル酸n−ブチル−b−メタクリル酸メチル))の収率はほぼ75%であり、上記(3)でのメタクリル酸メチルの重合率は約66%であった。得られた重合体のポリスチレン換算分子量をGPCで測定した結果、そのMnは18500であり、Mw/Mnは1.05であることが判明した。また、GPC測定において、上記(1)における一段目の重合で得られた重合体の分子量付近に、ピークは全く観測されなかった。このことから、上記(1)の一段目の重合終了後から上記(3)の二段目の重合開始に至るまでの保存期間中におけるリビングポリマーの失活率はほぼ0%であり、ブロック効率の非常に高いブロック共重合体が得られたことが分かる。
なお、二段目の重合で得られた重合体のGPCチャートを図3に曲線(b)で示す。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のアニオン重合方法によれば、工業的使用に適したアニオン重合開始剤を使用し、かつ比較的緩和された冷却温度条件下でアニオン重合性単量体の重合を行う場合であっても、高い重合開始効率、高い重合速度および高いリビング性を達成することができる。また本発明の製造方法によれば、分子量分布の狭い重合体およびブロック効率の高いブロック共重合体を工業的に有利に製造することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン重合性単量体をアニオン重合開始剤を使用して重合するに際し、重合系内に、(A)AlR (I)(式中、Rは置換基を有してもよい1価の飽和炭化水素基、置換基を有してもよい1価の芳香族炭化水素基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基またはN,N−二置換アミノ基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して置換基を有してもよいアリールオキシ基を示すかまたはRとRが結合して置換基を有してもよいアリーレンジオキシ基を示す。)で表される三級有機アルミニウム化合物および、(B)エーテル化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のルイス塩基を存在させることを特徴とするアニオン重合方法。
【請求項2】
アニオン重合開始剤が二級炭素原子を陰イオン中心とする化学構造を有する有機リチウム化合物である請求項1記載のアニオン重合方法。
【請求項3】
アニオン重合性単量体が極性のアニオン重合性単量体である請求項1または2記載のアニオン重合方法。
【請求項4】
極性のアニオン重合性単量体がα,β−不飽和カルボン酸エステル化合物、α,β−不飽和カルボン酸アミド化合物またはα,β−不飽和ケトン化合物である請求項3記載のアニオン重合方法。
【請求項5】
エーテル化合物が、2個以上のエーテル結合を分子中に有する環状エーテル化合物または1個以上のエーテル結合を分子中に有する非環状エーテル化合物である請求項1〜のいずれか一項に記載のアニオン重合方法。
【請求項6】
アニオン重合性単量体を請求項1〜のいずれか一項に記載のアニオン重合方法で重合することからなる重合体の製造方法。
【請求項7】
2種以上のアニオン重合性単量体を請求項1〜のいずれか一項に記載のアニオン重合方法で重合することからなるブロック共重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−196068(P2010−196068A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108248(P2010−108248)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【分割の表示】特願2000−247428(P2000−247428)の分割
【原出願日】平成12年8月17日(2000.8.17)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】