説明

アフィニティークロマトグラフィーマトリックス

本発明は、1種以上の免疫グロブリン含有タンパク質を液体から分離する方法に関する。本方法は、先ず該液体を、担体に固定化されたリガンドを含む分離マトリックスに接触させる段階、免疫グロブリン含有タンパク質をリガンドとの相互作用によってマトリックスに吸着させる段階、続いて吸着した免疫グロブリン含有タンパク質を洗浄する任意段階、及びタンパク質を遊離させる溶離剤にマトリックスを接触させることで前記免疫グロブリン含有タンパク質を回収する段階を含んでいる。本方法は、従前の分離方法に比べて、各々のリガンドがSpA又はプロテインZの単量体又は二量体或いはその機能的変異体から本質的になる点で改良されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアフィニティークロマトグラフィーの分野に関し、さらに具体的には単量体又は二量体リガンドを含む分離マトリックスに関する。本発明はまた、前述のマトリックスを用いて興味深いタンパク質を分離する方法であって、容量が増加しかつ溶出pHが上昇するという利点を有する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリンは、世界中の団体によって製造又は開発されている最も普及したバイオ医薬品を代表している。それに対する高い商業的需要、したがってこの特定の治療薬市場の高い価値のため、製薬会社は関連するコストを抑制しながらそれぞれのmAb製造プロセスの生産性を最大化することに重きを置いてきた。大抵の場合、これらの免疫グロブリン分子(例えば、モノクローナル又はポリクローナル抗体)の精製における基本段階の1つとしてアフィニティークロマトグラフィーが使用される。特に興味深い部類の親和性試薬は免疫グロブリン分子の不変部に特異的に結合できるタンパク質であり、かかる相互作用は抗体の抗原結合特異性とは無関係である。かかる試薬は、特に限定されないが血清又は血漿製剤或いは細胞培養物由来の供給原料のような様々な試料からアフィニティークロマトグラフィーで免疫グロブリンを回収するのに広く使用できる。かかるタンパク質の一例は、様々な種のIgG免疫グロブリンのFc及びFab部分に結合できるドメインを含んだブドウ球菌プロテインAである。
【0003】
ブドウ球菌プロテインA(SpA)系試薬は、その高い親和性及び選択性のため、バイオテクノロジー分野で(例えば、抗体の捕捉及び精製並びに検出のためのアフィニティークロマトグラフィーで)広く用いられてきた。現在、SpA系アフィニティー媒体は恐らく細胞培養物由来の工業用供給原料をはじめとする様々な試料からモノクローナル抗体及びそのフラグメントを単離するために最も広く使用されているアフィニティー媒体である。したがって、プロテインAリガンドを含む各種のマトリックスが市販されており、例えば、天然プロテインAの形態のもの(例えば、Protein A SEPHAROSE(商標)、GE Healthcare社(スウェーデン、ウプサラ))、組換えプロテインAからなるもの(例えば、rProtein A SEPHAROSE(商標)、GE Healthcare社)などがある。さらに具体的には、市販の組換えプロテインA製品で行われている遺伝子操作は、担体に対するそれの結合を容易にすることを目的としたものである。
【0004】
これらの用途では、他のアフィニティークロマトグラフィー用途と同じく、夾雑物を確実に除去することに包括的な注意を払う必要がある。かかる夾雑物とは、例えばタンパク質、炭水化物、脂質、細菌及びウィルスをはじめとする所望されない生体分子や微生物のように、クロマトグラフィー操作で固定相又はマトリックスに吸着された非溶出性の分子であり得る。かかる夾雑物のマトリックスからの除去は、マトリックスを再生してから引き続いて使用するため、所望生成物の最初の溶出の後に行われるのが普通である。かかる除去では、通常クリーニング・イン・プレイス(CIP)として知られる操作が行われ、その際には固定相から夾雑物を溶出することのできる試薬が使用される。かかる試薬として多用されるものには、前記固定相に流されるアルカリ性溶液がある。現時点で最も多用されている洗浄消毒剤はNaOHであり、その濃度は汚染の程度及び性質に応じて0.1Mから例えば1Mの範囲にわたり得る。この方法では、マトリックスが13を超えるpH値に暴露されることを伴う。タンパク質系の親和性リガンドを含む多くのアフィニティークロマトグラフィーマトリックスに関しては、かかるアルカリ性環境は極めて過酷な条件であり、そのために関連する高pHでのリガンドの不安定性によって容量低下を生じる。
【0005】
そこで、アルカリ性pH値に耐える能力の向上した人工タンパク質リガンドの開発に集中して多大の研究が行われてきた。例えば、Gulich et al(Susanne Gulich,Martin Linhult,Per−Ake Nygren,Mathias Uhlen,Sophia Hober,Journal of Biotechnology 80(2000),169−178)は、アルカリ環境における連鎖球菌のアルブミン結合ドメイン(ABD)の安定性を改善するためのタンパク質工学を示唆している。Gulich et alは、4つのアスパラギン残基のすべてをロイシン(1残基)、アスパラギン酸(2残基)及びリシン(1残基)で置換したABDの変異体を作成した。さらに、Gulich et alは、この変異体が天然タンパク質と同様の標的タンパク結合挙動を示すこと、及び人工リガンドを含むアフィニティーカラムがアルカリ性条件に繰返し暴露した後でも非人工親リガンドを用いて調製したカラムより高い結合容量を示すことを報告している。かくして、構造及び機能に顕著な影響を与えることなしに4つのアスパラギン残基のすべてを置換できると結論されている。
【0006】
最近の研究は、プロテインA(SpA)に変更を加えることで同様な性質に影響を及ぼし得ることを示している。米国特許出願公開第2005/0143566号には、1以上のアスパラギン残基をグルタミン又はアスパラギン酸以外のアミノ酸に変異させた場合、かかる変異は、SpAのBドメイン又はプロテインZ(SpAのBドメイン由来の合成構築物(米国特許第5,143,844号))のような親SpAに比べて、約13〜14のpH値にまで向上した化学的安定性を付与することが開示されている。著者らは、これらの変異タンパク質を親和性リガンドとして使用した場合、分離媒体は予想される通りアルカリ剤を用いる洗浄操作に一層よく耐え得ることを示している。米国特許出願公開第2006/0194955号は、変異したリガンドがプロテアーゼに一層よく耐え、したがって分離プロセスでのリガンドの漏れを低減させ得ることを示している。別の出願である米国特許出願公開第2006/0194950号は、アルカリ安定性のSpAドメインをさらに、例えばG29A変異により、リガンドがFabに対する親和性を欠くがFc親和性は保持するように改変し得ることを示している。
【0007】
歴史的には、5つのIgG結合ドメインを含む天然プロテインAが、すべてのプロテインAアフィニティー媒体の製造に使用されていた。組換え技術を用いて多数のプロテインA構築物が製造されてきたが、これらはいずれも4つ又は5つのIgG結合ドメインを含んでいた。
【0008】
したがって、当技術分野では、より小さい反復数を有しながら四量体と同様な又は増加した結合容量を有するタンパク質リガンドを含む分離マトリックスを得ることが要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
米国特許出願公開第2006/0194950号明細書
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的の1つは、IgG、IgA及び/又はIgMのような免疫グロブリンを好ましくはそのFcフラグメントを介して結合し得るタンパク質リガンドを含んでなるアフィニティークロマトグラフィーマトリックスを提供することである。これらのリガンドは単量体又は二量体として提示され、大きい反復数を有する多量体リガンド(例えば、五量体リガンド)に比べて高い相対結合容量を有する。
【0011】
本発明の別の目的は、本発明のアフィニティーマトリックスを用いて1種以上の免疫グロブリン含有タンパク質を分離する方法を提供することである。単量体又は二量体の親和性リガンドを使用することで、本方法は意外にも標的分子に対する相対結合容量の増加を達成する。さらに、単量体リガンドを使用すれば溶出pHが上昇する。
【0012】
かくして本発明は、純粋な免疫グロブリン画分のような精製生成物又は別法として免疫グロブリンを除去した後の液体を製造する方法、或いは試料中における免疫グロブリンの存在を検出する方法を提供する。本発明のリガンドは容量の増加を示し、したがってかかるリガンドはコスト効率のよいラージスケール操作のための魅力的な候補品となる。
【0013】
上述した目的の1以上は、添付の特許請求の範囲中に記載したようにして達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、Z1(破線)、Z2(点線)及びZ4(実線)に関する6分の滞留時間で記録した漏出曲線を示している。
【図2】図2は、Fc融合タンパク質(実線)及びMAb3(点線)に関するSuperdex 200 5/150 GL上での分析用サイズ排除クロマトグラフィーを示している。
【図3】図3は、様々なMAb及びFc融合タンパク質の低負荷量を各種のzプロトタイプ上に適用した場合の溶出pHを示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書中で「タンパク質」という用語は、タンパク質並びにそのフラグメントを記述するために使用される。即ち、三次元構造を示すアミノ酸の連鎖が「タンパク質」という用語に包含され、したがってタンパク質フラグメントも包含される。
【0016】
本明細書中では、タンパク質の「機能的変異体」という用語は、機能(本発明に関しては親和性及び安定性と定義される)が本質的に保持されている変異タンパク質を意味する。そこで、前記機能とは無関係の1以上のアミノ酸が置換されていてもよい。
【0017】
本明細書中で「親分子」という用語は、本発明の変異が導入される前の対応タンパク質に関して使用される。
【0018】
「構造的安定性」という用語は分子の三次元形態の健全性をいい、「化学的安定性」という用語は化学的分解に耐える能力をいう。
【0019】
「Fcフラグメント結合」タンパク質という用語は、当該タンパク質が免疫グロブリンのFcフラグメントに結合できることを意味する。ただし、Fcフラグメント結合タンパク質が免疫グロブリンのFab領域のような他の領域にも結合できることを排除するものではない。
【0020】
本明細書中では、アミノ酸について、その正式名称で記載しないときには慣用の一文字略号で表す。
【0021】
本明細書中では、変異は置換位置の番号の前に野生型又は非変異型アミノ酸を付し、その後に変異したアミノ酸を付して定義する。例えば、23位のアスパラギンのスレオニンへの変異はN23Tと記載される。
【0022】
一態様では、本発明は、1種以上の免疫グロブリン含有タンパク質を液体から分離する方法であって、(a)該液体を、担体に固定化されたリガンドを含む分離マトリックスに接触させる段階、(b)免疫グロブリン含有タンパク質をリガンドとの相互作用によってマトリックスに吸着させる段階、(c)吸着した免疫グロブリン含有タンパク質を洗浄する任意段階、及び(d)タンパク質を遊離させる溶離剤にマトリックスを接触させることで免疫グロブリン含有タンパク質を回収する段階を含んでなる方法に関する。この方法では、ブドウ球菌プロテインA(SpA)のドメインB又はプロテインZのような単量体リガンドを使用することで免疫グロブリン分子に対するリガンドの結合容量の増加が得られる。
【0023】
別の態様では、本発明は、1種以上の免疫グロブリン含有タンパク質を液体から分離する方法であって、(a)該液体を、担体に固定化されたリガンドを含む分離マトリックスに接触させる段階、(b)免疫グロブリン含有タンパク質をリガンドとの相互作用によってマトリックスに吸着させる段階、(c)吸着した免疫グロブリン含有タンパク質を洗浄する任意段階、及び(d)タンパク質を遊離させる溶離剤にマトリックスを接触させることで免疫グロブリン含有タンパク質を回収する段階を含んでなる方法に関する。この方法では、ブドウ球菌プロテインA(SpA)のドメインB又はプロテインZのような二量体リガンドを使用することで免疫グロブリン分子に対するリガンドの結合容量の増加が得られる。
【0024】
免疫グロブリン結合タンパク質(即ち、リガンド)は、ブドウ球菌プロテインA(SpA)又は連鎖球菌プロテインG(SpG)のような、天然の免疫グロブリン結合能力を有する任意のタンパク質であり得る。他のかかるタンパク質の総説に関しては、例えば、Kronvall,G.,Jonsson,K.Receptins:a novel term for an expanding spectrum of natural and engineered microbial proteins with binding properties for mammalian proteins,J.Mol.Recognit.1999 Jan−Feb;12(1):38−44を参照されたい。単量体又は二量体リガンドは、SpAのE、D、A、B及びCドメインの1以上を含み得る。さらに好ましくは、リガンドはプロテインAのドメインB又は人工的に作製されたプロテインZを含む。
【0025】
一実施形態では、リガンドは、例えばSpAドメインB又はプロテインZの1以上のアスパラギン残基をグルタミン以外のアミノ酸に変異させることでアルカリ安定化される。前述の通り、米国特許出願公開第2005/0143566号には、1以上のアスパラギン残基をグルタミン又はアスパラギン酸以外のアミノ酸に変異させた場合、かかる変異は高pHでの向上した化学的安定性をもたらすことが開示されている。さらに、これらのリガンドを含むアフィニティー媒体は、アルカリ剤を用いる洗浄操作に一層よく耐えることができる。米国特許出願公開第2006/0194955号は、変異したリガンドがプロテアーゼに一層よく耐え、したがって分離プロセスでのリガンドの漏れを低減させ得ることを示している。これらの出願の開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなしている。
【0026】
別の実施形態では、こうして製造されたリガンドは、抗体のFc部分に対して親和性を有するが、抗体のFab部分に対する実質的な親和性を欠いている。若干の実施形態では、リガンドの1以上のグリシンがアラニンで置換されている。米国特許出願公開第2006/0194950号は、アルカリ安定性ドメインをさらに、例えばG29A変異により、リガンドがFabに対する親和性を欠くがFc親和性は保持するように改変し得ることを示している。この出願の開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなしている。本明細書中で使用されるアミノ酸の番号付けはこの技術分野で通常使用されているものであり、当業者は変異させるべき位置を容易に認識できよう。
【0027】
有利な実施形態では、ドメインBのアルカリ安定性が1以上のアスパラギン残基をグルタミン以外のアミノ酸に変異させることで達成されていると共に、アルカリ安定性ドメインBの29位のアミノ酸残基の変異(例えば、G29A変異)が含まれる。
【0028】
別の実施形態では、リガンドは、1以上のアスパラギン残基をグルタミン以外のアミノ酸に変異させることでアルカリ安定性が達成されたプロテインZである。有利な実施形態では、アルカリ安定性は少なくとも23位のアスパラギン残基をグルタミン以外のアミノ酸に変異させることで達成されている。別の実施形態では、アルカリ安定性タンパク質はアルカリ性条件下で実質的に安定な天然のタンパク質である。
【0029】
当業者には、アルカリ安定性及びG−A変異を生み出すための変異は、通常の分子生物学的技法を用いて任意の順序で実施できることが容易に理解されよう。さらに、かかるリガンドは、変異したタンパク質リガンドをエンコードする核酸配列を含むベクターによって発現させることができる。別法として、かかるリガンドはタンパク質合成技法によっても製造できる。所定配列のペプチド及びタンパク質を合成する方法は、当技術分野で公知であって一般に利用できる。
【0030】
かくして、本発明では、「ブドウ球菌プロテインAのアルカリ安定性ドメインB」という用語は、米国特許出願公開第2005/0143566号及び同第2006/0194950号に記載されている変異タンパク質のような、SpAのドメインBに基づくアルカリ安定化タンパク質、並びに他の起源を有するが機能的に同等なアミノ酸配列を有する他のアルカリ安定性タンパク質を意味する。
【0031】
当業者には理解される通り、発現されたタンパク質は、担体に固定化する前に適当な程度まで精製すべきである。かかる精製方法は当技術分野で公知であり、担体へのタンパク質系リガンドの固定化は標準的な方法を用いて容易に実施される。好適な方法及び担体は以下に一層詳しく記載される。
【0032】
したがって一実施形態では、本発明の変異タンパク質は、アスパラギン変異が21位にないことを条件として、配列番号1又は配列番号2で規定される配列の約75%以上、例えば80%以上、好ましくは95%以上を含んでいる。
【0033】
本明細書中では、次の配列番号1はSpAのBドメインのアミノ酸配列を規定する。
Ala Asp Asn Lys Phe Asn Lys Glu Gln Gln Asn Ala Phe Tyr Glu Ile Leu His Leu Pro Asn Leu Asn Glu Glu Gln Arg Asn Gly Phe Ile Gln Ser Leu Lys Asp Asp Pro Ser Gln Ser Ala Asn Leu Leu Ala Glu Ala Lys Lys Leu Asn Asp Ala Gln Ala Pro Lys。
次の配列番号2はプロテインZとして知られるタンパク質を規定する。
Val Asp Asn Lys Phe Asn Lys Glu Gln Gln Asn Ala Phe Tyr Glu Ile Leu His Leu Pro Asn Leu Asn Glu Glu Gln Arg Asn Ala Phe Ile Gln Ser Leu Lys Asp Asp Pro Ser Gln Ser Ala Asn Leu Leu Ala Glu Ala Lys Lys Leu Asn Asp Ala Gln Ala Pro Lys。
【0034】
プロテインZは、29位のグリシンがアラニンに置換されたSpAのBドメイン由来の合成構築物である。例えば、The Encyclopedia of Bioprocess Technology: Fermentation, Biocatalysis and Bioseparation,M.C.Fleckinger and S.W.Drew,editors,John Wiley and Sons Inc., New York,8−22のStahl et al, 1999: Affinity fusions in biotechnology: focus on protein A and protein Gを参照されたい。
【0035】
一実施形態では、上述の変異タンパク質は配列番号1又は配列番号2で規定されるアミノ酸配列或いはその機能的変異体を含んでいる。本明細書中で使用される「機能的変異体」という用語は、免疫グロブリンに対する変異タンパク質の親和性又はpH値の上昇した環境におけるその向上した化学的安定性に影響を及ぼさないアミノ酸位置での1以上の追加変異を含む任意の類似配列を包含する。
【0036】
有利な実施形態では、本発明の変異はN23T、N23TとN43E、N28A、N6A、N11S、N11SとN23T、及びN6AとN23Tからなる群から選択され、親分子が配列番号2で規定される配列を含むものである。上述の通り、アルカリ性条件下で長期にわたって高い結合容量を有するリガンドとして有用な変異タンパク質を得るためには、21位のアスパラギン残基の変異は回避される。一実施形態では、3位のアスパラギン残基は変異されない。
【0037】
最も有利な実施形態では、ロイシン残基とグルタミン残基との間に位置するアスパラギン残基が例えばトレオニン残基に変異している。そこで、一実施形態では、配列番号2で規定される配列の23位のアスパラギン残基が、例えばトレオニン残基に変異している。特定の実施形態では、配列番号2で規定される配列の43位のアスパラギン残基も例えばグルタミン酸に変異している。アミノ酸番号43が変異した実施形態では、当該変異をN23Tのような別の1以上の変異と組み合わせるのが最も有利であるように思われる。
【0038】
SpAのBドメイン及びプロテインZの様々なアスパラギン残基が変異タンパク質の親和性及び安定性に異なった寄与をなし得るという知見は、特にABDのすべてのアスパラギン残基を何の内的区別もなく変異させることができたと結論づけたGulich et alの上述の教示内容に鑑みれば、全く予想外であった。
【0039】
かくして、本発明には上述の単量体型変異タンパク質が包含される。ただし、かかるタンパク質単量体を合体させて二量体、三量体、四量体、五量体などの多量体とすることもできる。したがって、本発明の別の態様は、本発明の1以上の変異タンパク質を他の1以上の単位、好ましくは同じく本発明の変異タンパク質と共に含む多量体である。かくして、本発明は例えば2つの反復単位を含む二量体である。
【0040】
一実施形態では、本発明の多量体は好ましくは0〜15(例えば5〜10)のアミノ酸からなるアミノ酸ストレッチで連結した複数の単量体単位を含んでいる。かかる連結の性質は、好ましくはタンパク質単位の空間的コンホメーションを不安定にすべきでない。さらに、前記連結は好ましくはアルカリ性環境中で変異タンパク質単位の特性を損なわないように十分安定であるべきである。
【0041】
一実施形態では、本発明の単量体リガンドは次の配列番号3の配列を含んでいる。
AlaGlnGlyThrValAspAlaLysPheAspLysGluGln
GlnAsnAlaPheTyrGluIleLeuHisLeuProAsnLeu
ThrGluGluGlnArgAsnAlaPheIleGlnSerLeuLys
AspAspProSerGlnSerAlaAsnLeuLeuAlaGluAla
LysLysLeuAsnAspAlaGlnAlaProLysCys。
【0042】
別の実施形態では、本発明の二量体リガンドは次の配列番号4の配列を含んでいる。
AlaGlnGlyThrValAspAlaLysPheAspLysGluGln
GlnAsnAlaPheTyrGluIleLeuHisLeuProAsnLeu
ThrGluGluGlnArgAsnAlaPheIleGlnSerLeuLys
AspAspProSerGlnSerAlaAsnLeuLeuAlaGluAla
LysLysLeuAsnAspAlaGlnAlaProLysValAspAla
LysPheAspLysGluGlnGlnAsnAlaPheTyrGluIle
LeuHisLeuProAsnLeuThrGluGluGlnArgAsnAla
PheIleGlnSerLeuLysAspAspProSerGlnSerAla
AsnLeuLeuAlaGluAlaLysLysLeuAsnAspAlaGln
AlaProLysCys。
【0043】
本発明では意外にも、リガンドの容量を比較した場合、四量体及び二量体に関して同等な高い動的結合容量が得られた一方、単量体は最高の相対容量(mg MAb/mgリガンド)を有することが見出された。一般に、リガンドのz単位数が少ないほど高い相対容量が得られることが見出される。我々のデータはまた、溶出pHがリガンド密度に依存することを確認している。さらに、単位リガンドプロトタイプ上で精製した試料は他のプロトタイプに比べて高いpHで溶出するが、これは低いpHで凝集しやすい免疫グロブリンにとって有利である。平均時間では、宿主細胞タンパク質のクリアランスは単量体、二量体及び四量体に関してほぼ同等である。
【0044】
本発明ではまた、意外にも、免疫グロブリンドメインを含む融合タンパク質のような大きい単量体に対しては、単量体及び二量体に関する動的結合容量が四量体に比べて高いことも見出された。さらに、単量体に関して最高の相対容量(即ち、mgタンパク質/mgリガンドとして表した容量)が得られた。我々の研究では、単量体及び二量体における増加した動的結合容量は主としてリガンド密度の効果ではなく、恐らくは(比較的バルキーな融合タンパク質に対する)立体障害の減少及び/又は急速な動力学によって引き起こされる結合部位の利用度の向上によることが示されている。
【0045】
言うまでもないが、「免疫グロブリン含有タンパク質」という用語は、抗体の結合性が実質的に維持される限り、抗体及び抗体部分を含む融合タンパク質並びに抗体フラグメント及び変異抗体を包含する。抗体はモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であり得る。好ましくは、抗体は哺乳動物種(例えば、ヒト)由来のIgG、IgA及び/又はIgMである。
【0046】
一実施形態では、本発明は、アフィニティー分離用のマトリックスであって、免疫グロブリン結合タンパク質を含む単量体又は二量体リガンドが固体担体に結合してなるマトリックスに関する。好ましくは、タンパク質の1以上のアスパラギン残基がグルタミン以外のアミノ酸に変異している。本発明のマトリックスは、四量体リガンドを含むマトリックスと比較した場合、増加した結合容量を示す。変異タンパク質リガンドは好ましくはFcフラグメント結合タンパク質であり、IgG、IgA及び/又はIgM(好ましくはIgG)の選択的結合のために使用できる。
【0047】
本発明のマトリックスは、上述したいずれかの実施形態に係る変異タンパク質をリガンドとして含むことができる。最も好ましい実施形態では、固体担体上に存在するリガンドは上述の単量体を含む。
【0048】
本発明のマトリックスの固体担体は、任意適宜の公知タイプのものであり得る。通常のアフィニティー分離マトリックスは多くは有機質のものであり、使用する水性媒体に親水性表面が露出されたポリマー、即ちその外面に(及び存在する場合には内面にも)ヒドロキシ(−OH)、カルボキシ(−COOH)、カルボキサミド(−CONH2或いはN置換型)、アミノ(−NH2或いは置換型)、オリゴ又はポリエチレンオキシ基が露出されたポリマーを基材としている。一実施形態では、ポリマーは例えばデキストラン、デンプン、セルロース、プルラン、アガロースなどの多糖類系のものであり、有利には適当な多孔性及び剛性を与えるために例えばビスエポキシド、エピハロヒドリン、1,2,3−トリハロ置換低級炭化水素で架橋されたものであり得る。最も好ましい実施形態では、固体担体は多孔性アガロースビーズである。本発明で使用される担体は逆懸濁ゲル化(S.Hjerten: Biochim Biophys Acta 79(2),393−398(1964))のような標準的方法に従って容易に製造できる。別法として、ベースマトリックスはSEPHAROSE(商標)FF(GE Healthcare社)のような市販品である。ラージスケール分離のために特に有利な実施形態では、担体は、その剛性が増大し、したがってマトリックスが高い流速に対して一層適するように改変される。
【0049】
別法として、固体担体は、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシアルキルアクリレート、ポリヒドロキシアルキルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミドなどの合成ポリマーを基材としている。ジビニル及びモノビニル置換ベンゼン系マトリックスのように疎水性ポリマーの場合には、上述のような親水基が周囲の水性液体に露出されるようにマトリックスの表面を親水化処理することが多い。かかるポリマーは標準的方法に従って容易に製造されるが、例えば“Styrene based polymer supports developed by suspension polymerization”(R.Arshady: Chimica e L'Industria 70(9),70−75 (1988))を参照されたい。別法として、Source(商標)(GE Healthcare社)のような市販品が使用される。
【0050】
別の代替法では、本発明の固体担体は、例えばシリカ、酸化ジルコニウムなどの無機質の担体を含む。
【0051】
さらに別の実施形態では、固体担体は表面、チップ、毛管又はフィルターのような別の形態を取る。
【0052】
本発明のマトリックスの形状に関しては、一実施形態では、マトリックスは多孔性モノリスの形態である。別の実施形態では、マトリックスはビーズ又は粒子形態であり、多孔性でも非多孔性でもよい。ビーズ又は粒子形態のマトリックスは充填ベッドとして使用することもできるし、或いは懸濁形態で使用することもできる。懸濁形態には膨張ベッドとして知られるもの及び純然たる懸濁物が包含され、そこでは粒子又はビーズが自由に運動できる。モノリス、充填ベッド及び膨張ベッドの場合、分離手順は一般に濃度勾配による通常のクロマトグラフィーに従う。純然たる懸濁物の場合には、回分法が使用される。
【0053】
リガンドは、例えばリガンド中に存在するアミノ基及び/又はカルボキシ基を利用した通常のカップリング技法で担体に結合できる。ビスエポキシド、エピクロロヒドリン、CNBr、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)などがよく知られたカップリング試薬である。担体とリガンドとの間には、スペーサーとして知られる分子を導入することができ、これはリガンドの利用可能性を向上させ、担体へのリガンドの化学的カップリングを容易にする。別法として、リガンドは物理的吸着又は生物特異的吸着のような非共有結合によって担体に結合することもできる。
【0054】
有利な実施形態では、本発明のリガンドはチオエステル結合で担体に結合されている。かかるカップリングの実施方法は当技術分野で公知であり、標準的な技法及び機器を用いて当業者が容易に実施できる。有利な実施形態では、最初に、後にカップリングで使用するための末端システイン残基をリガンドに設ける。適切な精製段階も当業者が容易に実施できる。
【0055】
本発明の若干の実施形態では、吸着段階のための条件は常用されている任意のものであってよく、標的抗体の性質(例えば、そのpI)に応じて適当に改変することができる。任意の洗浄段階は、PBS緩衝液のような常用緩衝液を用いて実施できる。
【0056】
溶出は、任意の常用緩衝液を用いて実施できる。有利な実施形態では、抗体の回収は、単量体リガンド系の場合に4.0〜4.4、好ましくは4.2〜4.4の範囲内のpHを有する溶離剤を添加することで達成される。同様な実施形態では、抗体の回収は、二量体リガンド系の場合に3.8〜4.2、好ましくは3.9〜4.0の範囲内のpHを有する溶離剤を添加することで達成される。このように、これらの実施形態の利点は、標的抗体が溶出に際してプロテインA系リガンドと共に通常使用されるpH値より概して高いpH値に暴露されることである。これは、大抵の抗体に関し、低いpHによって引き起こされる変性のリスクの低下、凝集体の減少及び標的の収量の増加をもたらすであろう。
【0057】
本発明の方法は、例えば治療用又は診断用の抗体の精製プロトコルの第1段階として、標的抗体を捕捉するために有用である。一実施形態では、75%以上の抗体が回収される。有利な実施形態では、80%以上、例えば90%以上、好ましくは95%以上の抗体が、二量体リガンド系に関しては3.8〜4.2及び単量体リガンド系に関しては4.0〜4.4の範囲内のpHを有する溶離剤を用いて回収される。本発明の方法に続いて、他のクロマトグラフィー段階のような1以上の追加段階を実施することができる。かくして、特定の実施形態では、約98%を超える抗体が回収される。
【0058】
SpA又はプロテインZリガンドに関して前述した通り、1以上のアスパラギン残基をグルタミン又はアスパラギン酸以外のアミノ酸に変異させた場合、これらの変異リガンドを含むアフィニティー媒体は、アルカリ剤を用いる洗浄操作に一層よく耐えることができる(米国特許出願公開第2005/0143566号)。向上した安定性は、免疫グロブリンに対する変異タンパク質の初期親和性が長期にわたって本質的に保持されることを意味する。したがって、その結合容量はアルカリ性環境中では親分子の結合容量よりゆっくりと減少する。かかる環境はアルカリ性と定義することができ、pH値の上昇した環境を意味する。例えば、約10超から約13又は14までのpH値(即ち、10〜13又は10〜14のpH値)であり、これは一般にアルカリ性条件と表される。別法として、かかる条件はNaOH濃度で定義することもでき、その濃度は約1.0M以下(例えば、0.7M、特に約0.5M)、したがって0.7〜1.0Mの範囲内であり得る。
【0059】
このように、免疫グロブリンに対する親和性(即ち、本発明のリガンドの結合性)、したがってマトリックスの容量は、アルカリ剤での処理によって本質的に経時的な変化を示さない。通常、アフィニティー分離マトリックスのクリーニング・イン・プレイス処理に使用されるアルカリ剤はNaOHであり、その濃度は0.75M以下(例えば、0.5M)である。したがって、0.5M NaOHで7.5時間処理した後の結合容量の低下は約70%未満、好ましくは約50%未満、さらに好ましくは約30%未満(例えば約28%)である。
【0060】
本発明の変異タンパク質の向上した化学的安定性は、当業者であれば、例えば濃度0.5MのNaOHでの日常処理によって容易に確認できる。これに関しては、上記と同様、「向上した」安定性とは初期安定性が親分子で達成されるものよりも長期間保持されることを意味すると理解すべきである。
【0061】
さらに別の態様では、本発明は、本発明の単量体リガンド、二量体リガンド又はマトリックスを使用してIgG、IgA及び/又はIgMのような免疫グロブリンを単離する方法に関する。かくして本発明は、上述の単量体リガンド、二量体リガンド又はマトリックスへの吸着によって1種以上の標的化合物を液体から分離するクロマトグラフィープロセスを包含する。所望の生成物は分離された化合物又は液体のいずれであり得る。かくして本発明のこの態様は、広く用いられている公知の分離技法であるアフィニティークロマトグラフィーに関する。簡単に述べれば、最初の工程では、標的化合物(好ましくは上述の抗体)を含む溶液を、標的化合物が分離マトリックス上に存在するリガンドに吸着するような条件下で、前記マトリックスに流す。かかる条件は、例えばpH及び/又は塩濃度(即ち、溶液中のイオン強度)によって制御される。マトリックスの容量を超えないように注意すべきであり、換言すれば、流速は満足すべき吸着が起こるように十分遅くすべきである。この段階では、溶液の他の成分は原則として妨害されずに通過する。任意には、保持された物質及び/又は緩く結合した物質を除去するため、次いでマトリックスが例えば水溶液で洗浄される。本発明のマトリックスは、溶剤、塩又は洗浄剤或いはこれらの混合物を用いる中間洗浄段階と共に使用するのが最も有利である。次の段階では、溶離剤といわれる第2の溶液を、標的化合物の脱着(即ち、遊離)が起こる条件下でマトリックスに流す。かかる条件は、通常はpH、塩濃度(即ち、イオン強度)、疎水性などの変化でもたらされる。勾配溶出及び段階的溶出のような様々な溶出法が知られている。溶出はまた、マトリックス上の所望抗体に置き換わる競合物質を含む第2の溶液で達成することもできる。アフィニティークロマトグラフィーの原理に関する総説としては、例えば、Wilchek,M.,and Chaiken,I.2000.An Overview of affinity chromatography.Methods Mol.Biol.147: 1−6を参照されたい。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例によって説明する。これらの実施例は例示を目的としたものにすぎず、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の技術的範囲を限定するものと解すべきでない。本明細書で引用したすべての参考文献の開示内容は、援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0063】
実施例1
この研究の目的は、アルカリ安定化プロテインAの単量体、二量体及び四量体、即ちSuReリガンドドメイン(以下、それぞれz1、z2及びz4と名付ける)を固定化したアガロース系媒体プロトタイプの性能を以下の方法で比較することであった。
−CHO細胞培養で発現された2種のモノクローナル抗体に対する動的結合容量の測定。
−各種のリガンドを用いて得られた溶出pHの比較。
−10%漏出点における動的結合容量の70%の試料ロード量での宿主細胞タンパク質のクリアランスの測定。
【0064】
1.実験
1.1 媒体プロトタイプ
MabSelect SuRe:Lot 312257(リガンド密度5.6mg/ml)。
HFA35 Z1:U1975095(リガンド密度1.64mg/ml)。
HFA35 Z2:U1975098(リガンド密度3.46mg/ml)。
【0065】
1.2 化学薬品及び試料
PBS緩衝液、SIGMA社、P4417−100Tab。
NaOH、Merck社、1.06649.1000。
クエン酸三ナトリウム無水物、Merck社、1.06448.1000。
MAb1、宿主細胞清澄化供給液(HCCF)、1.1mg MAb/ml。
MAb2、宿主細胞清澄化供給液、1.8mg MAb/ml。
【0066】
1.3 システム
AKTA Explorer 100、AL E100。
AKTA Explorer 10、HH E10S。
分光光度計、UltroSpec 3000 pro。
【0067】
2.方法
2.1 前端分析
MAb(MAb1及びMAb2)を含む2種の宿主細胞清澄化供給液に関して前端分析を実施した。
【0068】
次の6つのブロックからなる予めプログラムしたUnicorn法を使用した。
1.5CVにわたりPBS緩衝液で平衡化を行う。
2.MAbの約80%漏出点まで供給液をロードする。
3.10CVにわたりPBS緩衝液で非結合物質を洗浄除去する。
4.60mMクエン酸塩(pH6.0)から60mMクエン酸塩(pH3.0)までの20CV勾配中で溶出する。
5.0.3ml/分の0.1M NaOHを用いて15分間CIPを行う。
6.PBSで再平衡化を行う。
【0069】
295nmでのUV吸光度を用いて漏出量を測定した。前端分析に先立ち、カラムをバイパスさせて供給液を注入することで、供給液中のMAb、宿主細胞タンパク質(HCP)及び他の成分に対応する最大吸光度値を求めた。(カラムに結合しない供給液中の成分に対応する)初期試料適用時の「プラトー通過量」をUV曲線から差し引き、得られた吸光度値を用いることで、式1に従って5%、10%及び80%漏出点での動的結合容量を算出した。
【0070】
式1:QBX%=(Vx%−V0)C0/Vc
式中、Vx%=x%漏出点での適用試料体積、Co=試料濃度(mg/ml)、Vc=幾何学的総容積(ml)、Vo=ボイド容積。
【0071】
2.2 HCPクリアランス
B10%値の70%の最終ロード量まで試料を適用した。非結合物質を洗浄除去した後、60mMクエン酸塩(pH3.5)で溶出を行った。溶出画分をプールし、1/10容の0.2Mリン酸ナトリウム、1%BSA、0.5%Tween(pH8.0)で希釈した。次いで、Gyros法を用いて試料のHCP含有量を分析した。上澄み液の吸光度を280nmで測定した。ランベルト−ベールの法則(式2)を用いてMAb濃度を算出した。次いで、ng/ml単位のHCP濃度をmg/ml単位のMAb濃度で割ることでppm単位のHCP濃度を求めた。
【0072】
式2:A=C・l・ε
式中、C=タンパク質濃度(mg/mL)、A=280nmでの吸光度、l=光路長(cm)=1、ε=吸光係数(mg・mL-1・cm-1)=1.7。
【0073】
式3に従って収率を算出した。
【0074】
式3:収率(%)=100・(Vpool・Cpool)/(Vin・C0
式中、Vpool=プールした画分の体積、Cpool=プール中のMAb濃度、Vin=カラム上にロードした試料の体積、C0=試料濃度(mg/ml)。
【0075】
2.3 分析用サイズ排除クロマトグラフィーによる純度の測定
マニュアルに従った標準的方法により、SUPERDEX 200 5/150 GL上での分析用サイズ排除クロマトグラフィーを実施した。溶出緩衝液はPBS(pH7.4)(SIGMA社)であり、試料体積は25μlであった。MAbの純度はクロマトグラムの積分によって求めた。
【0076】
3.結果及び考察
3.1 前端分析
3.1.1 MAb1
5%、10%及び80%漏出点に関して動的結合容量(DBC)を算出した。結果を表1aに示す。5%及び10%漏出点でのDBCはMabSelect SuRe(z4)及びz2に関しては同等であったが、z1に関する値は低かった。しかし、表1bに示される通り、z単位が少ないリガンドに関して最も高い相対容量(即ち、mg MAb/mgリガンドとして表した容量)が得られた(即ち、z1>z2>z4)。
【0077】
B10%/QB80%の比較を動力学の尺度として使用した(高い値ほど速い動力学を表す)。結果は、z1又はz2に比べ、z4に関してやや遅い動力学が得られたことを示している。
【0078】
pH勾配中での溶出では、z4及びz2に関してはほぼ同じようpH(pH3.6〜3.7)が得られたのに対し、z1からはやや高いpH(pH4.0)でMAbが溶出した。
【0079】
また、1〜2.4分の様々な滞留時間でもDBCを測定した。予想された通り、DBCは滞留時間が短いほど(即ち、流速が大きいほど)減少する。しかし、DBCの減少はz4に比べてz2で少なく、z1ではさらなる改善が得られる(表1a)。したがって、DBCの減少を最小にするには単量体リガンドが好ましい。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

3.1.2 MAb2
2.4分の滞留時間で前端分析を実施し、5%、10%及び80%漏出点に関して動的結合容量(DBC)を算出した。結果を表2aに示す。MAb1と同じく、5%及び10%漏出点でのDBCはMabSelect SuRe(z4)及びz2に関しては同等であったが、z1に関しては低い値が得られた。上記の通り、z単位が少ないリガンドほど高い相対容量が得られた(即ち、z1>z2>z4)。QB10%/QB80%を比較すれば、z単位が少ないリガンドほど速い動力学が得られることがわかる(即ち、z4<z2<z1)。
【0082】
pH勾配中での溶出では、z2に比べてz1で僅かに高い溶出pHが得られた(z4に関しては実験誤差のために値が得られなかった)。
【0083】
【表3】

【0084】
【表4】

3.2 HCPクリアランス
B10%値の70%の最終ロード量まで試料を適用し、溶出プールをHCP含有量について分析し、またSuperdex 5/150 GL上での分析用サイズ排除クロマトグラフィーによって分析した。MAb1及びMAb2の精製に関して得られた結果を表3に示す。HCPのクリアランスはz1、z2及びz4に関してほぼ同等であった。しかし、HCPの相対低減率(即ち、Cstart material/Cpool)及び%収率はMAb2よりもMAb1について高かった。
【0085】
両MAbに関する溶出プールは、分析用サイズ排除クロマトグラフィーで測定して4.4〜6.8%の二量体/凝集体を含んでいた。様々なリガンドに関しては、明確な傾向を認めることはできなかった。z2媒体からより高いpH(即ち、3.5の代わりに3.75のpH)でMAb2を溶出したところ、低い収率と共に、HCP及び二量体/凝集体のやや高い低減率が得られた。
【0086】
【表5】

4.結論
z4及びz2に関しては最も高い動的結合容量が得られた。最も低いリガンド密度(1.64mg/ml)を有するz1に関しては、最も低い容量が得られた。しかし、z単位が少ないリガンドに関して最も高い相対容量(mg MAb/mgリガンド)が得られた。
【0087】
z単位が少ないリガンドを結合したアガロース系媒体プロトタイプに関しては、滞留時間が減少するほど速い動力学及び少ない動的結合容量減少が得られた。したがって、短い滞留時間における容量減少はz1で最も少なかった。
【0088】
両MAbに関する溶出pHは、z1でやや高かった。高い溶出pHは、低いpHで凝集しやすいMAbにとって有利である得る。
【0089】
HCPのクリアランスはz1、z2及びz4に関してほぼ同等であった。
【0090】
実施例2
この研究の目的は、アルカリ安定化プロテインAの様々なバージョン、即ちZドメインの単量体、二量体及び四量体(以下、それぞれZ1、Z2及びZ4と名付ける)を結合したアガロース系媒体プロトタイプの性能を以下の方法で比較することであった。
−「MAb3」に対する動的結合容量の測定。
−10%漏出点における動的結合容量の70%の試料ロード量での宿主細胞タンパク質のクリアランスの測定。
【0091】
1.実験
1.1 クロマトグラフィー媒体及びフィルター
HFA35 Z4:MabSelect SuRe batch 10007589(リガンド密度5.9mg/ml)。
HFA35 Z1:U1975095(リガンド密度1.64mg/ml)。
HFA35 Z2:U1975098(リガンド密度3.46mg/ml)。
Superdex 200 5/150 GL、GE Healthcare社、28−9065−63。
【0092】
1.2 化学薬品
PBS緩衝液、SIGMA社、P4417−100Tab。
NaCl、MERCK社、1.06404.1000。
NaOH、MERCK社、1.06649.1000。
クエン酸、MERCK社、1.00244.0500。
アセトン、MERCK社、1.00014.2511。
原料デキストラン、GE Healthcare社(ロット番号なし)。
ELISA用試料の希釈のための保存溶液:0.2Mリン酸ナトリウム,1%BSA,0.5%Tween(pH8)。
宿主細胞清澄化供給液(HCCF)中のMAb3[VH3]、3mg/ml(吸光係数1.4)。
【0093】
1.3 システム
実施例1参照。
【0094】
2.方法
2.1 前端分析
MAb3に関して前端分析を実施した。次の6つのブロックからなる予めプログラムしたUnicorn法を使用した。
1.5CVにわたりPBS緩衝液で平衡化を行う。
2.MAbの>10%漏出点まで供給液をロードする。
3.10CVにわたり平衡化緩衝液で非結合物質を洗浄除去する。
4.6CVにわたり60mMクエン酸塩(pH3.5)で溶出する。
5.0.3ml/分の0.1M NaOHを用いて15分間CIPを行う。
6.平衡化緩衝液で再平衡化を行う。
本質的に実施例1に記載したようにして、295nmでのUV吸光度を用いて漏出量を測定した。式1に従って10%漏出点での動的結合容量を算出した。
【0095】
2.2 HCPクリアランス
B10%値の70%の最終ロード量まで試料を適用した。非結合物質を洗浄除去した後、0.1Mクエン酸塩(pH3.3)で溶出を行った。溶出画分をプールし、1/10容の保存溶液で希釈した。次いで、2.3記載の分析用サイズ排除クロマトグラフィーによって試料のHCP含有量及び凝集体含有量を分析した。上澄み液の吸光度を280nmで測定した。ランベルト−ベールの法則(式2)を用いてMAb濃度を算出した(ε=吸光係数(mg・mL-1・cm-1)=1.4)。次いで、ng/ml単位のHCP濃度をmg/ml単位のMAb濃度で割ることでppm単位のHCPを求めた。
【0096】
式3に従って抗体収率を算出した。
【0097】
2.3 分析用サイズ排除クロマトグラフィーによる純度の測定
実施例1参照。
【0098】
3.結果及び考察
3.1 前端分析
10%漏出点において、様々な滞留時間(1分、2.4分及び6分)での動的結合容量(DBC)を算出した。結果を表4及び図1に示す。最も高いDBCはZ4(即ち、MabSelect SuRe)に関して得られ、次いでZ2であった。最も低いDBCはZ1に関して得られた。しかし、表5に示される通り、z単位が少ないリガンドに関して最も高い相対容量(即ち、mg MAb/mgリガンド)が得られた(Z1>Z2>Z4)。この結果は、実施例1で得られた以前の結果に一致している。
【0099】
【表6】

【0100】
【表7】

3.2 HCPクリアランス、収率及び純度
2.4分の滞留時間において、10%漏出点でのDBCの70%の最終ロード量まで試料を適用し、溶出プールをHCP含有量について分析し、またSuperdex 200 5/150 GL上での分析用サイズ排除クロマトグラフィーによって分析した。結果を表6に示す。HCPのクリアランス、収率並びに高分子量及び低分子量物質のレベルは、Z1、Z2及びZ4に関してほぼ同等であった。
【0101】
対照実験として、出発原料及びHFA35 Z1からの通過画分をSuperdex 200 5/150 GL上での分析用サイズ排除クロマトグラフィーによって分析した。通過液プール中にMAbはほとんど検出できなかった。
【0102】
【表8】

実施例3
Fc結合タンパク質は、2種のタンパク質を化合させることで製造される組換えDNA薬物(融合タンパク質)である。それはヒトの可溶性TNFαレセプターをヒト免疫グロブリンG1(IgG1)のFc成分に結合する。それは150kDaの分子量を有する大きい分子であり、TNFαに結合して、ヒト及び他の動物における過度の炎症を伴う疾患(強直性脊椎炎、若年性間接リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、慢性関節リウマチ及び潜在的には過剰のTNFαによって媒介されるその他各種の疾患のような自己免疫疾患を含む)でのそれの役割を減少させる。この治療学的ポテンシャルは、TNFαが多くの有機系において炎症応答の「マスターレギュレーター」であることに基づいている。
【0103】
この研究の目的は、アルカリ安定化プロテインAの様々なバージョン、即ちZドメインの単量体、二量体及び四量体(以下、それぞれZ1、Z2及びZ4と名付ける)を結合したHFA35系媒体プロトタイプの性能を、清澄化CHO細胞培養物上澄み液に発現されたFc融合タンパク質に対する動的結合容量を測定することで比較することであった。
【0104】
1.実験
1.1 クロマトグラフィー媒体及びフィルター
HiTrap MabSelect SuRe、GE Healthcare社、ロット10021346。
プレフィルター:5μmポリプロピレンフィルター、Millipore社、AN5004700。
他の媒体に関しては、実施例2を参照されたい。
【0105】
1.2 化学薬品
TRIS、MERCK社、1.08382.1000。
PBS緩衝液、SIGMA社、P4417−100Tab。
NaCl、MERCK社、1.06404.1000。
NaOH、MERCK社、1.06649.1000。
NaN3、MERCK社、K2806788。
HCl、MERCK社、1.09973.001。
酢酸、MERCK社、1.00063.2511。
アセトン、MERCK社、1.00014.2511。
原料デキストラン、GE Healthcare社(ロット番号なし)。
CHO細胞培養物上澄み液由来のFc融合タンパク質を含む供給液。この供給液は、0.48mg/mlのFc融合タンパク質1を含んでいた。
精製Fc融合タンパク質。
MAb3。
【0106】
1.3 システム
AKTA Explorer 100、AL E100。
AKTA Explorer 100、AL L100。
AKTA Explorer 10、LK−E 10XT。
【0107】
2.方法
2.1 試料の前処理
CHO細胞培養物上澄み液を5μmプレフィルターで濾過した。NaN3を0.05%(w/v)の最終濃度に添加した。試料を冷蔵庫内に約6℃で貯蔵した。
【0108】
2.2 前端分析
Fc融合タンパク質供給液に関して前端分析を実施した。次の6つのブロックからなる予めプログラムしたUnicorn法を使用した。
1.5CVにわたり25mM TRIS−HCl,0.15M NaCl(pH7.4)で平衡化を行う。
2.融合タンパク質の>10%漏出点まで供給液をロードする。(低供給液濃度(0.48mg T2/ml)のため、漏出量をUV信号でモニターできたことに注意されたい。1.3ml画分を集め、下記のようにして分析した。)
3.10CVにわたり平衡化緩衝液で非結合物質を洗浄除去する。
4.6CVにわたり0.1M酢酸(pH3.6)で溶出する。
5.0.4ml/分の0.5M NaOHを用いて15分間CIPを行う。
試料ロード時に、上記と同じ緩衝液を使用しながらHiTrap MabSelect SuReカラム上で選択された画分を分析した。溶出ピークを積分し、mAU×ml単位のピーク面積を出発原料に関するピーク面積と比較した。10%漏出点で適用された体積(V10%)を、出発原料のピーク面積の10%を有する画分から画定した。次いで、式1に従って動的結合容量(QB10%)を算出した。
【0109】
2.3 サイズ排除クロマトグラフィー
実施例1と同様にして分析用サイズ排除クロマトグラフィーを実施した。
【0110】
各試料の保持体積(VR)はピーク頂点で求めた。ボイド容積(V0)は約5%の原料デキストランを用いて求め、総液体体積(Vt)はPBS緩衝液中5%アセトンを用いて求めた。
【0111】
分配係数(KD)は、所定の溶質種の拡散のために利用可能な固定相の分率を表す(Gel filtration Principles and Methods(Pharmacia LKB Biotechnology 1991);Protein Purification,Priciples,High Resolutiom Methods and Applications(Eds J−CJansson and L Ryden,VHS Publishers,New York,1989.,Ch.3.)中のLars Hagel,Gel Filtration)。次の式4に従ってKDを算出した。
【0112】
D=(VR−V0)/Vp=(VR−V0)/(Vt−V0
式中、Vp=細孔容積(=Vt−V0)。
【0113】
3.結果及び考察
10%漏出点において、2種の滞留時間(即ち、2.4分及び6分)でのFc融合タンパク質に対する動的結合容量(DBC)を算出した。結果を表7に示す。MAbについての以前の結果とは対照的に、Fc融合タンパク質に対するDBCはZ4に比べてZ1及びZ2に関して高い。
【0114】
【表9】

Z1はZ4より低いリガンド密度(それぞれ1.65mg/ml及び5.9mg/ml)を有するものの、Z1に関するDBCは特に短い滞留時間で高い。また、Z2(リガンド密度3.46mg/ml)は、特に長い滞留時間でZ4より高いDBCを有する。最も高い相対容量(即ち、mg Fc融合タンパク質/mgリガンドとして表した容量)は、Z1に関して得られた(表8)。
【0115】
【表10】

Superdex 200 5/150 GL上での分析用サイズ排除クロマトグラフィーは、Fc融合タンパク質がMAb3より早く溶出することを示した(図2)。Fc融合タンパク質及びMAb3に関する分配係数(KD)は、それぞれ0.28及び0.43と計算された。このように、分子量の差は小さいものの、Fc融合タンパク質はMAbより遙かにバルキーな分子(即ち、大きい溶質半径を有する分子)として挙動する。
【0116】
実施例4
この研究の目的は、アガロース系マトリックス上の様々なzリガンドで精製された数種のモノクローナル抗体の溶出pHを検討することであった。溶出は直線的なpH勾配中で実施した。溶出pHはピーク最大値で測定した。単量体リガンドプロトタイプで精製した試料は、他のプロトタイプに比べて僅かに高いpHで溶出した。結果はまた、溶出pHがリガンド密度に依存することも示した。ポリクローナルIgGに関して、高い試料ロード量も検討した。高い試料ロード量が溶出pHに影響を及ぼす徴候は見られなかった。
【0117】
溶出条件は各MAbのさらなる最適化のために有利となり得る。MAbは中性pHで捕捉され、酸性pHで溶出される。MAbを上昇したpHで溶出させることができるならば、これは低いpHで凝集しやすいMAbにとっての利点となり得る。高い溶出pHは凝集体を防止し、一層高い回収率を与える。
【0118】
本実施例では、我々はMabSelect SuReリガンドドメインの様々なアルカリ安定化zリガンド上にある数種の免疫グロブリン分子の溶出pHを検討した。我々はまた、様々なzリガンド上にある高ロード量のポリクローナルIgGの効果も検討した。
【0119】
1.実験
1.1 材料/調査ユニット
1.1.1 カラム
様々なZリガンドを有するアガロース系媒体:
アガロース系媒体 Z1:U1975077(1.98mg/ml)。
アガロース系媒体 Z2:U1975098(3.46mg/ml)。
MabSelect SuRe(Z4)、ロット:312257(5.6mg/ml)。
MabSelect SuRe(Z4)、ロット:306928(5.6mg/ml)。
【0120】
結合容量
【0121】
【表11】

1.1.2 緩衝液
10mM リン酸塩緩衝液(PBS、SIGMA社、P4417−100Tab)。
60mM クエン酸Na pH6(クエン酸Na M.294.1g/mol)、HClでpH調整。
60mM クエン酸Na pH3(クエン酸Na M.294.1g/mol)、HClでpH調整。
0.3M NaOH。
【0122】
1.1.3 試料
すべての試料は純粋画分であった。緩衝液交換のためにはPD−10カラムを使用した。
ポリクローナルヒトIgG(Octapharma社、gammanorm)。
Mab1。
Mab2。
Fc融合タンパク質、ロット:1510。
IgGを含むCHO細胞上澄み液。
MAb4(HiTrap MabSelect SuRe上で精製)。
MAb3。
0.5〜1.5mg/ml媒体の試料をロードした。
【0123】
1.2 方法
UNICORN法
平衡化: 5CV。
試料体積: 1ml(低ロード量)。
非結合試料の洗浄除去: 5CV。
溶出(勾配pH6〜pH3): 20CV。
再平衡化: 5CV。
滞留時間: 2.4分。
溶出は直線的なpH勾配中で実施した。溶出pHはピーク最大値で測定した。
【0124】
1.3 装置
AKTA Explorer 10、TF_E10。
分光光度計、Molecular Devices Spextramax PLUS。
Mettler Toledo、Seven Easy。
【0125】
2.結果
様々なzリガンドプロトタイプ(即ち、様々なリガンド密度を有する単量体(Z1)、二量体(Z2)及びSuRe(z4))上で7種のMAb及びFc結合タンパク質を精製した。プロトタイプSuRe(1.37mg/ml)上で溶出させたFc融合タンパク質及びMab1のpH値は、このカラム上での他の試料と異なっている。その説明は、これら2種の試料が適用前に凍結/解凍されたことにあるのかもしれない。
【0126】
MAB3及びMab4試料は、MabSelect媒体(rプロテインA)上で精製した。MabSelect上でのMAB3の溶出pHは、予想された通り、他のzプロトタイプ上より低かった。MAB3はVH3部分を含んでいて、Fc部分及びVH3部分は共にMabSelect媒体に結合し、溶出のためには一層低いpHが必要とされる。
【0127】
結果は、リガンド密度に対する溶出pHの依存性を示している。試料を単量体リガンドプロトタイプ上で精製した場合、それは他のプロトタイプに比べて僅かに高いpHで溶出した(図3)。
【0128】
図3は、各種のzプロトタイプ上に適用した様々なMAb及びFc融合タンパク質(低ロード量)の溶出pHを示している。結果は、溶出pHがリガンド密度に依存することを示している。単量体リガンドプロトタイプ上で精製した試料は、他のプロトタイプに比べて僅かに高いpHで溶出した。ポリクローナルIgGに関して、高い試料ロード量も検討した。高い試料ロード量が溶出pHに影響を及ぼす徴候は見られなかった。
【0129】
単量体リガンドプロトタイプからMAbを溶出させるために一層高い溶出pHが必要とされるので、これは溶出段階中の凝集を回避するために有利である。この特性及び他の特性により、単量体はアフィニティークロマトグラフィー用の良好なリガンドとなる。
【0130】
上記の実施例は本発明の特定の態様を例示ものであり、いかなる点でもその技術的範囲を限定することはなく、そのように解すべきでない。上記に示した本発明の教示の恩恵を受ける当業者は、それに対して多数の修正を行うことができる。これらの修正は、添付の特許請求の範囲に示す本発明の技術的範囲内に包含されると解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の免疫グロブリン含有タンパク質を液体から分離する方法であって、
(a)該液体を、担体に固定化されたリガンドを含む分離マトリックスに接触させる段階、
(b)前記免疫グロブリン含有タンパク質をリガンドとの相互作用によってマトリックスに吸着させる段階、
(c)吸着した免疫グロブリン含有タンパク質を洗浄する任意段階、及び
(d)タンパク質を遊離させる溶離剤にマトリックスを接触させることで前記免疫グロブリン含有タンパク質を回収する段階
を含んでなる方法において、前記リガンドの各々がブドウ球菌プロテインA(SpA)のドメインB又はプロテインZの単量体或いはその機能的変異体から本質的になることを改良点とする方法。
【請求項2】
1種以上の免疫グロブリン含有タンパク質を液体から分離する方法であって、
(a)該液体を、担体に固定化されたリガンドを含む分離マトリックスに接触させる段階、
(b)前記免疫グロブリン含有タンパク質をリガンドとの相互作用によってマトリックスに吸着させる段階、
(c)吸着した免疫グロブリン含有タンパク質を洗浄する任意段階、及び
(d)タンパク質を遊離させる溶離剤にマトリックスを接触させることで前記免疫グロブリン含有タンパク質を回収する段階
を含んでなる方法において、前記リガンドの各々がブドウ球菌プロテインA(SpA)のドメインB又はプロテインZの二量体或いはその機能的変異体から本質的になることを改良点とする方法。
【請求項3】
リガンドが、1以上のアスパラギン残基をグルタミン以外のアミノ酸に変異させることでアルカリ安定性を有する、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
リガンドが免疫グロブリンのFc部分に対して親和性を有するが、免疫グロブリンのFab部分に対する親和性を欠いている、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記リガンドの1以上のグリシンがアラニンで置換されている、請求項4記載の方法。
【請求項6】
29位のグリシン残基がアラニンで変えられている、請求項4記載の方法。
【請求項7】
リガンドがプロテインZであり、そのアルカリ安定性が1以上のアスパラギン残基をグルタミン以外のアミノ酸に変異させることで達成されている、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項8】
プロテインZのアルカリ安定性が、少なくとも23位のアスパラギン残基をグルタミン以外のアミノ酸に変異させることで達成されている、請求項7記載の方法。
【請求項9】
免疫グロブリン含有タンパク質の回収が、3.8〜4.2のpHを有する溶離剤を添加することで達成される、請求項2記載の方法。
【請求項10】
80%以上、例えば90%以上、好ましくは95%以上の免疫グロブリン含有タンパク質が、3.8〜4.2のpHを有する溶離剤を用いて回収される、請求項2記載の方法。
【請求項11】
免疫グロブリン含有タンパク質の回収が、4.0〜4.4のpHを有する溶離剤を添加することで達成される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
80%以上、例えば90%以上、好ましくは95%以上の免疫グロブリン含有タンパク質が、4.0〜4.4のpHを有する溶離剤を用いて回収される、請求項1記載の方法。
【請求項13】
免疫グロブリン含有タンパク質がモノクローナル抗体である、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項14】
免疫グロブリン含有タンパク質がポリクローナル抗体である、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項15】
免疫グロブリン含有タンパク質が別のタンパク質と融合した免疫グロブリンを含む融合タンパク質である、請求項1又は請求項2記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−515160(P2012−515160A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545323(P2011−545323)
【出願日】平成22年1月11日(2010.1.11)
【国際出願番号】PCT/SE2010/050016
【国際公開番号】WO2010/080065
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(597064713)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ (109)
【Fターム(参考)】