説明

アプセットバット溶接の電極構造

【課題】本発明は、アプセットバット溶接した高強度鉄筋の強度確認試験における破断箇所が溶接部から離れた位置となるような電極構造を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、固定電極に挟持した高強度鉄筋の一端と可動電極に挟持した高強度鉄筋の他端を突き合わせ電流を流して溶接するアプセットバット溶接機において、前記固定電極の内側に非導電体の型を取り付け、前記可動電極の内側に非導電体の型を取り付けることで、電極間のクリアランスを広くしても芯ズレを起こさないことを特徴とするアプセットバット溶接の電極構造の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アプセットバット溶接した高強度鉄筋の強度確認試験における破断箇所が溶接部から離れた位置となるような電極構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物に用いられる高強度鉄筋を溶接する方法としては、突合部に電流を流して加熱し、加圧することで溶接するバット溶接がある。尚、バット溶接には、アプセット法とフラッシュ法がある。
【0003】
アプセットバット溶接は、高強度鉄筋の突合部を予め加圧しておき、電流を流して抵抗熱により溶融したら加圧して溶接する方法であるが、溶接部には据込みが発生するため、比較的小断面の金属線材の溶接に利用される。
【0004】
また、フラッシュバット溶接は、高強度鉄筋の突合部に電流を流してアーク放電させ、突合部が溶融したら急速に加圧して溶接する方法であるが、火花が多く飛び、溶接部にはバリが生じやすい。
【0005】
図10は、アプセットバット溶接した高強度鉄筋を示す図である。図11は、従来のアプセットバット溶接機の斜視図である。図12は、従来のアプセットバット溶接の電極構造を示す図である。
【0006】
鉄筋コンクリート構造物の鉄筋構造7は、主鉄筋7aに加え剪断補強筋7bを使用することで耐震性を向上させることができる。剪断補強筋7bは、主鉄筋7aに対し垂直方向に配されるが、複数の主鉄筋7aの周りを環状に囲むように配する場合もある。
【0007】
剪断補強筋7bには高強度鉄筋2を用いるが、環状にする場合は、高強度鉄筋2を折曲げ又は湾曲させた上で両端を突き合わせて溶接する。尚、アプセットバット溶接した場合には、溶接部2cにコブ状の据込み2dが生じる。
【0008】
溶接機8は、高強度鉄筋2の一端を挟持する固定電極8aと他端を挟持する可動電極8bとを有し、両電極8a、8bは銅などの通電素材8eの下面に溝8fを設けた上クランプ8cと通電素材8eの上面に溝8fを設けた下クランプ8dとからなる。
【0009】
固定電極8aに固定された高強度鉄筋2の一端に対し、可動電極8bに固定された他端を突き合わせ、突合部2a、2bを加圧した状態で電流を流して、抵抗熱により突合部2a、2bが溶融したら、可動電極8bを押し付けて溶接する。
【0010】
尚、特許文献1に記載されているように、アプセット時の溶接に適する充分な加圧力を溶接部に伝え鍛圧不足による溶接不良の発生を抑制する圧接用電極クランプ方法の発明も公開されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
強度確認試験においては、破断箇所が溶接部から公称直径以上離れた位置で、破断伸び値が5%以上であることが要求されるが、破断は電極で挟んでいる発熱部分の際で起こるため電極間を離す必要がある。
【0012】
そこで、本発明は、電極間のクリアランスを広くしても芯ズレ等を起こさないように、電極形状を見直して電流と通電時間及びタイミング等を考慮することで、溶接部からの破断位置及び破断伸び値を改善することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明は、固定電極に挟持した高強度鉄筋の一端と可動電極に挟持した高強度鉄筋の他端を突き合わせ電流を流して溶接するアプセットバット溶接機において、前記固定電極の内側に非導電体の型を取り付け、前記可動電極の内側に非導電体の型を取り付けることで、電極間のクリアランスを広くしても芯ズレを起こさないことを特徴とするアプセットバット溶接の電極構造の構成とした。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、高強度鉄筋をアプセットバット溶接した際に、強度確認試験において、破断箇所が溶接部から公称直径以上離れた位置、かつ、破断伸び値が5%以上の高い水準を満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1に係るアプセットバット溶接機の斜視図である。
【図2】本発明の実施例1に係るアプセットバット溶接機の電極の斜視図である。
【図3】本発明の実施例1に係るアプセットバット溶接の電極構造を示す図である。
【図4】本発明の実施例2に係るアプセットバット溶接の電極構造を示す図である。
【図5】本発明の実施例3に係るアプセットバット溶接の電極構造を示す図である。
【図6】アプセットバット溶接に関する強度確認試験で破断した高強度鉄筋を示す図である。
【図7】アプセットバット溶接に関する強度確認試験の結果を示す表である。
【図8】アプセットバット溶接に関する強度確認試験の結果をまとめたグラフである。
【図9】アプセットバット溶接に関する強度確認試験で破断した高強度鉄筋における破断伸びについて示す図である。
【図10】アプセットバット溶接した高強度鉄筋を示す図である。
【図11】従来のアプセットバット溶接機の斜視図である。
【図12】従来のアプセットバット溶接の電極構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、実施例1に係るアプセットバット溶接の電極構造は、固定電極に挟持した高強度鉄筋の一端と可動電極に挟持した高強度鉄筋の他端を突き合わせ電流を流して溶接するアプセットバット溶接機において、前記固定電極の内側に非導電体の型を取り付け、前記可動電極の内側に非導電体の型を取り付けることで、電極間のクリアランスを広くしても芯ズレを起こさないことを特徴とする。
【0017】
本発明において、実施例2に係るアプセットバット溶接の電極構造は、固定電極に挟持した高強度鉄筋の一端と可動電極に挟持した高強度鉄筋の他端を突き合わせ電流を流して溶接するアプセットバット溶接機において、前記固定電極の内側に高電気抵抗素材の型を取り付け、前記可動電極の内側に高電気抵抗素材の型を取り付けることで、電極間のクリアランスを広くしても芯ズレを起こさないことを特徴とする。
【0018】
本発明において、実施例3に係るアプセットバット溶接の電極構造は、固定電極に挟持した高強度鉄筋の一端と可動電極に挟持した高強度鉄筋の他端を突き合わせ電流を流して溶接するアプセットバット溶接機において、前記固定電極の内側に通電素材に絶縁素材を被せた型を取り付け、前記可動電極の内側に鉄材に絶縁素材を被せた型を取り付けることで、電極間のクリアランスを広くしても芯ズレを起こさないことを特徴とする。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の実施例1に係るアプセットバット溶接機の斜視図である。図2は、本発明の実施例1に係るアプセットバット溶接機の電極の斜視図である。図3は、本発明の実施例1に係るアプセットバット溶接の電極構造を示す図である。
【0020】
アプセットバット溶接機1は、高強度鉄筋2の一端を挟持する固定電極3と、高強度鉄筋2の他端を挟持する可動電極3aとからなり、高強度鉄筋2の一端と他端とを突き合わせて、固定電極3と可動電極3aの間に電流を流す。
【0021】
高強度鉄筋2は、鉄製の棒を圧延して表面に凹凸を設けた異形棒鋼であり、1本の鉄筋を矩形状に折り曲げ又は環状に湾曲させる等して一端と他端を突き合わせても良いし、一の鉄筋の端と他の鉄筋の端を突き合わせても良い。
【0022】
固定電極3は、上クランプ4と下クランプ4aとからなり、上クランプ4の下面と下クランプ4aの上面に高強度鉄筋2を挟むための溝4bを形成する。尚、溝4bを上面及び下面に形成しておけば、上クランプ4にも下クランプ4aにも使用できる。
【0023】
可動電極3aも、上クランプ4と下クランプ4aとからなり、上クランプ4の下面と下クランプ4aの上面に高強度鉄筋2を挟むための溝4bを形成する。尚、溝4bを上面及び下面に形成しておけば、上クランプ4にも下クランプ4aにも使用できる。
【0024】
基本的に、固定電極3は固定し、可動電極3aを移動させて、高強度鉄筋2を突き合わせる際の位置合わせや加圧を行うが、固定電極3と可動電極3aの両方とも移動できるようにしても良い。
【0025】
上クランプ4は、通電素材5と非導電体5aとからなり、通電素材5に非導電体5aの型を取り付けたものである。また、下クランプ4aも、通電素材5と非導電体5aとからなり、通電素材5に非導電体5aの型を取り付けたものである。
【0026】
尚、固定電極3においては、突合部2aに近い側に非導電体5aを配し、遠い側に通電素材5を配する。また、可動電極3aにおいては、突合部2bに近い側に非導電体5aを配し、遠い側に通電素材5を配する。
【0027】
通電素材5は、銅などの電気を良く通す物質が用いられ、実質的な電極となる。また、非導電体5aは、テフロン(登録商標)やセラミック等の電気を通さない物質が用いられ、実質的には固定具である。
【0028】
尚、テフロン(登録商標)は、ポリテトラフルオロエチレンなどフッ素樹脂一般の呼称である。また、セラミックは、基本成分が金属酸化物で高温での熱処理によって焼き固めた焼結体である。
【0029】
高強度鉄筋2に対し、固定電極3の通電素材5と可動電極3aの通電素材5の間で電流を流すと、抵抗熱により突合部2aと突合部2bが溶けて軟化するので、圧力を加えることで溶接され、溶接部2cには圧着によるコブ状の据込み2dが生じる。
【0030】
高強度鉄筋2を挟む位置は突合部2a及び突合部2bに近いので溶接部2cが偏芯を起こしづらくなり、また、電極間が広くなり破断しやすくなる発熱部分の際が溶接部2cから離れた位置になる。
【実施例2】
【0031】
図4は、本発明の実施例2に係るアプセットバット溶接の電極構造を示す図である。アプセットバット溶接機1aは、アプセットバット溶接機1における非導電体5aの型を、高電気抵抗素材5bの型に代えたものである。
【0032】
即ち、固定電極3及び可動電極3aの上クランプ4及び下クランプ4aは、通電素材5と高電気抵抗素材5bとからなり、通電素材5に高電気抵抗素材5bの型を取り付けたものである。尚、高電気抵抗素材5bは、高電気抵抗の鉄材などが用いられる。
【実施例3】
【0033】
図5は、本発明の実施例3に係るアプセットバット溶接の電極構造を示す図である。アプセットバット溶接機1bは、アプセットバット溶接機1における非導電体5aの型を、鉄材5dに絶縁素材5eを被せた型に代えたものである。
【0034】
即ち、固定電極3及び可動電極3aの上クランプ4及び下クランプ4aは、通電素材5と鉄材5dに絶縁素材5eを被せた電気絶縁部5cとからなり、通電素材5に電気絶縁部5cの型を取り付けたものである。
【0035】
鉄材5dは、通電素材5と同様の形状である。鉄材5dの型の表面に絶縁素材5eの板を貼り付けて覆うことにより、電気絶縁部5cとしては電気を通さないようにすることができる。
【0036】
絶縁素材5eは、ベークライト(登録商標)、ゴム、テフロン(登録商標)など電気又は熱を通さない物質である。尚、ベークライト(登録商標)は、フェノール樹脂であり、耐熱性及び難燃性に優れる。
【実施例4】
【0037】
図6は、アプセットバット溶接に関する強度確認試験で破断した高強度鉄筋を示す図である。図7は、アプセットバット溶接に関する強度確認試験の結果を示す表である。図8は、アプセットバット溶接に関する強度確認試験の結果をまとめたグラフである。
【0038】
本発明の電極構造を備えたアプセットバット溶接機1を用いて、高強度鉄筋2を30本溶接し、機械的強度(降伏点6a、引張強さ6b、破断伸び6c)と破断位置6dを確認する強度確認試験6を行った。
【0039】
機械的強度は、材料に応力が加えられたときの変形挙動を表す指標である。尚、応力は物体に外力が加わる際にその物体内部に生じる力である。即ち、材料である高強度鉄筋2を溶接部2cを中心にして左右両方向に引張応力を加え、破断させる。
【0040】
降伏点6aは、材料に応力が加えられ歪みが大きくなると、歪みと応力の関係が比例しなくなり、応力を除去しても歪みが残るようになるので、その時点における1平方ミリメートル当たりの力の強さを表したものである。
【0041】
引張強さ6bは、さらに歪みが大きくなると材料は破断するが、破断する前の材料に表れる最大の引張応力(材料が耐えうる最大の引張応力)を、1平方ミリメートル当たりの力の強さで表したものである。
【0042】
破断伸び6cは、材料が破断する直前における最大の変形量(歪み)を、元の長さに対する比率で表したものである。尚、材料の部位により伸び値は一様ではないが、全体伸び6eの値で示す。
【0043】
破断位置6dは、高強度鉄筋2が破断したときの溶接部2cから破断箇所2eまでの距離を表したものである。尚、破断箇所2eが溶接部2cの左側であるか、右側であるかは関係ない。
【0044】
降伏点6aについては、最低値が880N/mmで、最高値が931N/mmで、度数分布では900〜910N/mmが最も多い。尚、いずれも標準規定である785N/mmを超えており、合格と判定することができる。
【0045】
引張強さ6bについては、最低値が1027N/mmで、最高値が1055N/mmで、度数分布では1033〜1039N/mmが最も多い。尚、いずれも標準規定である930N/mmを超えており、合格と判定することができる。
【0046】
破断伸び6cについては、最低値が5.7%で、最高値が7.7%で、度数分布では6.7〜7.0%が最も多い。尚、いずれも標準規定である5.0%を超えており、合格と判断することができる。
【0047】
破断位置6dについては、最低値が17mmで、最高値が20mmで、度数分布では19mmが最も多い。尚、いずれも標準規定である16mmを超えており、合格と判定することができる。
【0048】
図9は、アプセットバット溶接に関する強度確認試験で破断した高強度鉄筋における破断伸びについて示す図である。破断伸び6cには、全体伸び6eする箇所と、局部伸び6fする箇所とがある。
【0049】
溶接した高強度鉄筋2を溶接部2cを中心にして両側に引っ張ると、高強度鉄筋2には伸びが生じる。ただし、溶接部2c近辺については、据込み2dにより径が増しているため伸びづらく、伸び無し6gとなる。
【0050】
そのため、据込み2d以外の部分について一様に伸びが生じることになる。尚、据込み2dの範囲を小さく抑えれば、据込み2d以外の部分の占める割合が大きくなり、全体伸び6eを確保しやすくなる。
【0051】
引張応力が大きくなると、ある一点に伸びが集中して局部伸び6fが生じ、そこが破断箇所2eとなる。尚、溶接時に電極を当てた発熱部分の際が最も歪みが生じやすくなっており、左右のいずれか一方に破断が生じる。
【0052】
即ち、非導電体5a等を介して電極の位置を溶接部2cから離しておくことで、破断箇所2eを溶接部2cから遠くすることができ、また、非導電体5a等により溶接部2cの近くまで固定することで、突合位置や通電タイミングを調整しやすくなり、据込み2dの範囲を抑えることも可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の電極構造を備えた溶接装置でアプセットバット溶接を行うことにより、また、本発明の電極構造を用いた溶接方法でアプセットバット溶接を行うことにより、本発明の効果を得ることができる。
【0054】
また、本発明の電極構造をフラッシュバット溶接に応用することも可能である。高強度鉄筋の径が太くなると据込みが大きくなり破断伸びに影響することから、フラッシュバット溶接の方が適する場合もある。
【符号の説明】
【0055】
1 アプセットバット溶接機
1a アプセットバット溶接機
1b アプセットバット溶接機
2 高強度鉄筋
2a 突合部
2b 突合部
2c 溶接部
2d 据込み
2e 破断箇所
3 固定電極
3a 可動電極
4 上クランプ
4a 下クランプ
4b 溝
5 通電素材
5a 非導電体
5b 高電気抵抗素材
5c 電気絶縁部
5d 鉄材
5e 絶縁素材
6 強度確認試験
6a 降伏点
6b 引張強さ
6c 破断伸び
6d 破断位置
6e 全体伸び
6f 局部伸び
6g 伸び無し
7 鉄筋構造
7a 主鉄筋
7b 剪断補強筋
8 溶接機
8a 固定電極
8b 可動電極
8c 上クランプ
8d 下クランプ
8e 通電素材
8f 溝
【先行技術文献】
【特許文献】
【0056】
【特許文献1】特開2002−66750号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定電極に挟持した高強度鉄筋の一端と可動電極に挟持した高強度鉄筋の他端を突き合わせ電流を流して溶接するアプセットバット溶接機において、前記固定電極の内側に非導電体の型を取り付け、前記可動電極の内側に非導電体の型を取り付けることで、電極間のクリアランスを広くしても芯ズレを起こさないことを特徴とするアプセットバット溶接の電極構造。
【請求項2】
非導電体がフッ素樹脂又はセラミックであることを特徴とする請求項1に記載のアプセットバット溶接の電極構造。
【請求項3】
非導電体の型を高電気抵抗素材の型に代えたことを特徴とする請求項1に記載のアプセットバット溶接の電極構造。
【請求項4】
非導電体の型を鉄材に絶縁素材を被せた型に代えたことを特徴とする請求項1に記載のアプセットバット溶接の電極構造。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電極構造を備えたことを特徴とするアプセットバット溶接装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電極構造を用いることを特徴とするアプセットバット溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−221268(P2010−221268A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72237(P2009−72237)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(500012916)昭和エンジニアリング有限会社 (3)