説明

アミド化合物の製造方法

【課題】副生成物の生成を抑制して高収率でアミド化合物を製造できるアミド化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】オキシム化合物をベックマン転位反応させることによりアミド化合物を製造する方法において、酸性塩化物、酸無水物、及びルイス酸のうち少なくとも1以上の第1触媒と、前記オキシム化合物の窒素原子に相互作用可能な化合物からなる第2触媒(前記第1触媒において具体的に選択されたものを除く。)との存在下でベックマン転位反応させることを特徴とするアミド化合物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシム化合物のベックマン転位反応によるアミド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的なアミド化合物の製造方法として、オキシム化合物をベックマン転位反応させてアミド化合物に変換させる方法がある。例えば、液相中で濃硫酸や発煙硫酸などの強酸を使用して、シクロヘキサノンオキシムをベックマン転位反応させてε−カプロラクタムを製造する方法が知られている。しかしながら、この方法では、反応生成液からε−カプロラクタムを分離するときの中和工程で、アンモニア水溶液を用いるため、多量の硫酸アンモニウムが副生するという問題がある。
【0003】
かかる問題を解決する為、種々ベックマン転位反応に用いる触媒が検討されている。例えば、N,N−ジメチルホルムアミドとクロルスルホン酸から生成するイオン対(ビルスマイヤー錯体)からなる触媒(非特許文献1)、エポキシ化合物と強酸(三フッ化ホウ素・エーテラート等)から生成するアルキル化剤、及びN,N−ジアルキルホルムアミドからなる触媒(非特許文献2)、リン酸若しくは縮合性リン酸化合物からなる触媒(特許文献1)、N,N−ジアルキルホルムアミド等の化合物、五酸化リン、及び含フッ素強酸若しくはその誘導体からなる触媒(特許文献2)、インジウムトリフラート(非特許文献3)、イッテルビウムトリフラート(非特許文献4)等の触媒などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−149665号公報
【特許文献2】特開平5−105654号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M.A.Kira,et.al.,Egypt.J.Chem.,vol.16,pp.551−553(1973)
【非特許文献2】Y.Izumi,Chemistry Letters,pp.2171−2174(1990)
【非特許文献3】J.S.Sandhu,et.al.,Indian Journal of Chemistry,pp.154−156(2002)
【非特許文献4】J.S.Yadav,et.al., Journal of Chemical Research(S),pp.236−238(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特にシクロヘキサノンオキシムのベックマン転位反応は進行し難く、その解決方法が求められている。そこで本発明は、オキシム化合物をベックマン転位反応させることによりアミド化合物を製造する方法において、副生成物の生成を抑制して高収率でアミド化合物を製造できるアミド化合物の製造方法を提供することを目的とする。特に、シクロヘキサノンオキシムから副生成物の生成を抑制して高収率でε−カプロラクタムを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、酸性塩化物、酸無水物、及びルイス酸のうち少なくとも1以上の第1触媒と、オキシム化合物の窒素原子に相互作用可能な化合物からなる第2触媒(前記第1触媒において具体的に選択されたものを除く。)との存在下でベックマン転位反応させることにより、副生成物の生成を抑制して高収率でアミド化合物を製造できることを見出した。すなわち、本発明は、オキシム化合物をベックマン転位反応させることによりアミド化合物を製造する方法において、酸性塩化物、酸無水物、及びルイス酸のうち少なくとも1以上の第1触媒と、前記オキシム化合物の窒素原子に相互作用可能な化合物からなる第2触媒(前記第1触媒において具体的に選択されたものを除く。)との存在下でベックマン転位反応させることを特徴とするアミド化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、副生成物の生成を抑制して高収率でアミド化合物を製造できるアミド化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において用いられるオキシム化合物は、特に制限されず、製造目的とするアミド化合物に応じて適宜選択することができる。オキシム化合物としては、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0010】
【化1】

【0011】
式(1)中、R及びRは、それぞれ有機基を示す。また、R及びRは、互いに結合して環を形成した2価の有機基であってもよい。
【0012】
、Rにおける前記有機基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、アラルキル基、並びに複素環基が挙げられる。
【0013】
アルキル基としては、例えば、炭素原子数1〜20のアルキル基が挙げられ、炭素原子数1〜12のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数2〜8のアルキル基であることがさらに好ましい。アルキル基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、及びペンタデシル基などが挙げられる。
【0014】
アルケニル基としては、例えば、炭素原子数2〜20のアルケニル基が挙げられ、炭素原子数2〜12のアルケニル基であることが好ましく、炭素原子数2〜8のアルケニル基であることがさらに好ましい。アルケニル基として、具体的には、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、1−ペンテニル基、及び1−オクテニル基などが挙げられる。
【0015】
アルキニル基としては、例えば、炭素原子数2〜20のアルキニル基が挙げられ、炭素原子数2〜12のアルキニル基であることが好ましく、炭素原子数2〜8のアルキニル基であることがさらに好ましい。アルキニル基として、具体的には、エチニル基、及び1−プロピニル基などが挙げられる。
【0016】
シクロアルキル基としては、例えば、炭素原子数3〜20のシクロアルキル基が挙げられ、炭素原子数3〜15のシクロアルキル基であることが好ましい。シクロアルキル基として、具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、及びシクロドデシル基などが挙げられる。
【0017】
シクロアルケニル基としては、例えば、炭素原子数3〜20のシクロアルケニル基が挙げられ、炭素原子数3〜15のシクロアルケニル基であることが好ましい。シクロアルケニル基として、具体的には、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、及びシクロオクテニル基などが挙げられる。
【0018】
アリール基としては、例えば、炭素原子数6〜24のアリール基が挙げられる。アリール基として、具体的には、例えば、フェニル基、及びナフチル基などが挙げられる。
【0019】
アラルキル基としては、例えば、炭素原子数7〜25のアラルキル基が挙げられる。アラルキル基として、具体的には、ベンジル基、2−フェニルエチル基、及び3−フェニルプロピル基などが挙げられる。
【0020】
複素環基としては、例えば、芳香族性の複素環基及び非芳香族性の複素環基が挙げられ、炭素数1〜24の複素環基であることが好ましい。複素環基として、具体的には、2−ピリジル基、2−キノリル基、2−フリル基、2−チエニル基、及び4−ピペリジニル基などが挙げられる。
【0021】
及びRが、互いに結合して環を形成した有機基である場合、2価の有機基としては、例えば、直鎖若しくは分岐アルキレン基が挙げられ、直鎖アルキレン基であることが好ましい。アルキレン基は、式(1)で表されるオキシム化合物の炭素原子を含めて、3〜30員環を形成していることが好ましく、4〜20員環を形成しているのがさらに好ましく、5〜14員環を形成しているのが特に好ましい。2価のアルキレン基として、具体的には、エチレン基、トリメチレン基、及びプロピレン基などが挙げられる。
【0022】
有機基は、ベックマン転位反応を阻害しなければ特に限定されることなく、種々の置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、オキソ基、メルカプト基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロアリールチオ基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、アミノアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、及び複素環基が挙げられる。
【0023】
式(1)中、R及びRが、それぞれ有機基であるオキシム化合物としては、例えば、アセトンオキシム、2−ブタノンオキシム、2−ペンタノンオキシム、3−ペンタノンオキシム、1−シクロヘキシル−1−プロパノンオキシム、アセトフェノンオキシム、p−メトキシアセトフェノンオキシム、o−メトキシアセトフェノンオキシム、p−フルオロアセトフェノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム、及び4−ヒドロキシアセトフェノンオキシムが挙げられる。式(1)中、R及びRが、互いに結合して環を形成した2価の有機基であるオキシム化合物としては、例えば、シクロプロパノンオキシム、シクロブタノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、シクロへプタノンオキシム、シクロオクタノンオキシム、シクロノナノンオキシム、シクロデカノンオキシム、シクロドデカノンオキシム、シクロトリデカノンオキシム、シクロテトラデカノンオキシム、シクロペンタデカノンオキシム、シクロヘキサデカノンオキシム、シクロオクタデカノンオキシム、及びシクロノナデカノンオキシムが挙げられる。これらのオキシム化合物の中では、シクロドデカノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、アセトフェノンオキシム、p−メトキシアセトフェノンオキシム、o−メトキシアセトフェノンオキシム、p−フルオロアセトフェノンオキシムであることが好ましく、シクロヘキサノンオキシムであることがさらに好ましい。オキシム化合物は、1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0024】
オキシム化合物は、式(1)で表されるオキシム化合物に対応するケトンとヒドロキシルアミンを反応させることによって得ることができる。例えば、シクロドデカノンオキシムは、特公昭51−46109号公報の記載に従って、シクロドデカノンと硫酸ヒドロキシルアミンを反応させることによって得ることができる。
【0025】
また、オキシム化合物は、脂肪族多価カルボン酸無水物若しくは芳香族多価カルボン酸無水物から誘導されるN−ヒドロキシイミド化合物、又はそのN−ヒドロキシイミド化合物のヒドロキシル基に保護基(例えば、アセチル基等のアシル基)を導入することにより得られる化合物の存在下、メチル基又はメチレン基を有する化合物と、亜硝酸エステル又は亜硝酸塩とを反応させることによっても得ることができる。脂肪族多価カルボン酸無水物若しくは芳香族多価カルボン酸無水物としては、例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N,N’−ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド、N−ヒドロキシグルタルイミド、N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、及びN,N’−ジヒドロキシ−1,3,4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドを挙げることができる。
【0026】
本発明において、第1触媒は、酸性塩化物、酸無水物、及びルイス酸のうち少なくとも1以上からなる触媒である。酸性塩化物としては、例えば、塩化チオニル、塩化スルフリル、クロロスルホン酸、ベンゼンスルホニルクロライド、p−トルエンスルホニルクロライド、及び塩化メタンスルホニル等のイオウ塩化物;三塩化リン、五塩化リン、及びオキシ塩化リン等の無機リン塩化物;クロロ炭酸メチル、クロロ炭酸エチル、クロロ炭酸フェニル、及びクロロ炭酸ベンジル等のクロロ炭酸エステル;蟻酸クロライド、アセチルクロライド、ベンゾイルクロライド、ホスゲン、及びオギザリルクロライド等の炭酸若しくはカルボン酸塩化物;並びに、三塩化ホウ素等のホウ酸塩化物が挙げられ、イオウ塩化物であることが好ましく、塩化チオニル、塩化メタンスルホニルであることがさらに好ましく、塩化チオニルであることが特に好ましい。
【0027】
酸無水物としては、例えば、脂肪族カルボン酸無水物、芳香族カルボン酸無水物、スルホン酸無水物、及びリン酸無水物が挙げられる。脂肪族カルボン酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水ブチル酸、無水イソブチル酸、及びシクロヘキシル酢酸無水物等の直鎖状の脂肪族カルボン酸無水物、並びに、無水マレイン酸、無水コハク酸、及びシクロヘキサンジカルボン酸無水物等の分子内脱水により環状となった脂肪族カルボン酸無水物が挙げられる。芳香族カルボン酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、及び無水安息香酸が挙げられる。スルホン酸無水物としては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、メタンスルホン酸無水物、及びp−トルエンスルホン酸無水物が挙げられる。リン酸無水物としては、例えば、ジメチルホスフィン酸無水物、メチルプロピルホスフィン酸無水物、ジシクロヘキシルホスフィン酸無水物、及びジフェニルホスフィン酸無水物が挙げられる。これらの中では、スルホン酸無水物であることが好ましく、トリフルオロメタンスルホン酸無水物であることがさらに好ましい。
【0028】
ルイス酸としては、例えば、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化コバルト、塩化スズ、塩化アルミニウム、及び塩化チタン等の金属ハロゲン化物;三フッ化ホウ素等のハロゲン化ホウ素化合物;並びに、イッテルビウムトリフラート、サマリウムトリフラート、ランタントリフラート、及びイットリウムトリフラート等のトリフラート化合物を挙げることができる。これらの中で、トリフラート化合物であることが好ましく、ランタノイドトリフラート、イットリウムトリフラートであることがさらに好ましく、イッテルビウムトリフラート、サマリウムトリフラート、ランタントリフラート、イットリウムトリフラートであることが特に好ましい。
【0029】
第1触媒は、イオウ塩化物及びトリフラート化合物のうち少なくとも1以上であることが好ましい。
【0030】
本発明において、第2触媒は、オキシム化合物の窒素原子に相互作用可能な化合物であればよい。ここで窒素原子は、式(1)で表されるオキシム化合物の場合、式(1)中のNである。相互作用は、例えば、窒素原子と化合物との配位結合が挙げられる。相互作用可能な化合物としては、好ましくは、オキシム化合物に相互作用可能な金属塩、さらに好ましくは、オキシム化合物の窒素原子に配位可能な金属塩である。オキシム化合物に相互作用可能な金属塩としては、その金属塩に含まれる金属を中心に式(1)で表されるオキシム化合物の窒素が配位して錯形成するなどの相互作用が可能な金属塩であり、そのような金属塩として、例えば、ニッケル塩、及びコバルト塩が挙げられる。ニッケル塩としては、例えば、臭化ニッケルが挙げられる。コバルト塩としては、例えば、硝酸コバルト、塩化コバルト、過塩素酸コバルト、及びホウフッ化コバルト、並びにそれらの水和物が挙げられる。前記水和物としては、硝酸コバルト六水和物、過塩素酸コバルト六水和物、ホウフッ化コバルト六水和物であることが好ましく、硝酸コバルト六水和物、過塩素酸コバルト六水和物であることがさらに好ましく、過塩素酸コバルト六水和物であることが特に好ましい。
【0031】
第2触媒は、第1触媒として具体的に選択されたものが除かれ、第1触媒と第2触媒とで同一のものが選択されることはない。例えば、第1触媒として、塩化コバルトが選択された場合、第2触媒としては、塩化コバルト以外のものが選択される。反対に、第2触媒として、塩化コバルトが選択された場合、第1触媒としては、塩化コバルト以外のものが選択される。
【0032】
酸性塩化物の使用量は、オキシム化合物1モルあたり、0.001〜100モルであることが好ましく、0.001〜1.0モルであることがさらに好ましい。
【0033】
酸無水物の使用量は、オキシム化合物1モルあたり、0.001〜100モルであることが好ましく、0.001〜1.0モルであることがさらに好ましい。
【0034】
ルイス酸の使用量は、オキシム化合物1モルあたり、0.001〜100モルであることが好ましく、0.001〜1.0モルであることがさらに好ましい。
【0035】
第2触媒の使用量は、オキシム化合物1モルあたり、0.001〜100モルであることが好ましく、0.01〜1.0モルであることがさらに好ましい。
【0036】
本発明において、ベックマン転位反応は、無溶媒又は溶媒の存在下で行うことができる。溶媒を使用する場合、溶媒としては、反応を阻害しないものであれば特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、及びクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、シクロドデカン、及びハイドロクメン等の脂肪族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、及びシクロドデカノン等のケトン類;アセトニトリル、プロピオニトリル、及びベンゾニトリル等のニトリル類;ホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリノン等のアミド類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド;スルホン類;蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、及びブタン酸エチル等のエステル類;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、及びトリフルオロ酢酸等のカルボン酸類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、及びジオキサン等のエーテル類;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のリン酸アミド類;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、及びトリフルオロメチルベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ニトロベンゼン、ニトロメタン、及びニトロエタン等のニトロ化合物;並びに、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール、及びトリフルオロエタノール等のフッ素系アルコールを挙げることができる。これらの中では、ニトリル類、芳香族炭化水素類、カルボン酸類、フッ素系アルコールであることが好ましく、アセトニトリルであることがさらに好ましい。溶媒は、単独で用いることもできるし、2種以上の溶媒を混合してもよい。
【0037】
溶媒の使用量は、特に限定されないが、オキシム化合物の0〜100重量倍であることが好ましく、1〜50重量倍であることがさらに好ましい。
【0038】
ベックマン転位反応条件は、使用するオキシム化合物、触媒、及び溶媒等の種類や量により適宜選択でき、特に制限はない。一般的には、反応温度は、20〜120℃であることが好ましい。反応圧力は、常圧又は加圧条件下で行うことができる。反応は、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、空気や酸素雰囲気下で行ってもよい。反応時間は、一般的には、0.01〜24時間であることが好ましく、0.05〜20時間であることがさらに好ましい。反応装置は、通常の撹拌装置を備えた反応器を用いることができる。
【0039】
本発明に係るアミド化合物の製造方法において、式(1)中、R及びRが、それぞれ有機基であるオキシム化合物をベックマン転位させた場合には、アミド結合部分が環状に含まれていないアミド化合物が得られる。例えば、アセトフェノンオキシムからは、アセトアニリドが得られる。R及びRが、互いに結合して環を形成した2価の有機基であるオキシム化合物をベックマン転位させた場合には、ラクタムが得られる。例えば、シクロアルカノンオキシムからは、員環数の1つ多いラクタムが得られる。具体的には、シクロヘキサノンオキシムからは、ε−カプロラクタムが、シクロヘプタノンオキシムからは、7−ヘプタンラクタムが、シクロオクタノンオキシムからは、8−オクタンラクタムが、シクロドデカノンオキシムからは、ラウロラクタムが得られる。
【0040】
ベックマン転位反応終了後、得られたアミド化合物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、又はカラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらの組み合わせにより分離精製してもよい。
【0041】
例えば、シクロドデカノンオキシムのベックマン転位反応後の分離精製としては、得られたラウロラクタム含有物に、水を加え、有機溶媒で抽出した後、溶媒を留去することにより、ラウロラクタムを得ることができる。さらに、蒸留・結晶化等により分離精製してもよい。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
ネジ付き試験管にシクロヘキサノンオキシム(56.6mg、0.5mmol)、塩化チオニル(3.6μl、0.05mmol)、硝酸コバルト六水和物(7.3mg、0.025mmol)、及びアセトニトリル1.0mlを入れて80℃のオイルバスで20時間攪拌して、緑色の液体を得た。得られた反応混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液2.0mlで塩基処理をして硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムを濾過し溶媒を留去して、褐色固体40.8mgを得た。H−NMR分析により、その組成比を求めた。その結果、ε−カプロラクタム64.7モル%、シクロヘキサノン3.7モル%であった。
【0043】
(実施例2)
ネジ付き試験管にシクロヘキサノンオキシム(56.6mg、0.5mmol)、臭化ニッケル(108.8mg、0.025mmol)、イッテルビウムトリフラート(15.8mg、0.025mmol)、及びアセトニトリル1.0mlを入れて80℃のオイルバスで2時間攪拌して、緑色の液体を得た。得られた反応混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液2.0mlで塩基処理をして硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムを濾過し溶媒を留去して、褐色固体36.3mgを得た。H−NMR分析により、その組成比を求めた。その結果、ε−カプロラクタム62.6モル%、シクロヘキサノン37.4モル%であった。
【0044】
(実施例3)
ネジ付き試験管にシクロヘキサノンオキシム(56.6mg、0.5mmol)、硝酸コバルト六水和物(145.5mg、0.5mmol)、イッテルビウムトリフラート(15.8mg、0.025mmol)、及びアセトニトリル1.0mlを入れて80℃のオイルバスで20時間攪拌して、茶色の液体を得た。得られた反応混合物を酢酸エチル(10ml)で希釈し、食塩で飽和させた0.4M水酸化ナトリウム水溶液(2ml)を加えてよく撹拌した後に、乾固するまで減圧下で濃縮した。残渣にジクロロメタン(50ml)を加えてよく撹拌し、不溶分を濾別・洗浄(ジクロロメタン50ml)した。濾液と洗液とを併せて減圧下で濃縮し、褐色液体53.1mgを得た。H−NMR分析により、ε−カプロラクタムのみであった。
【0045】
(実施例4)
ネジ付き試験管にシクロヘキサノンオキシム(56.6mg、0.5mmol)、ホウフッ化コバルト六水和物(85.1mg、0.25mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(14.1mg、0.05mmol)、及びアセトニトリル1.0mlを入れて80℃のオイルバスで2時間攪拌して、茶色の液体を得た。得られた反応混合物を、塩化ナトリウムを飽和させた0.4M水酸化ナトリウム水溶液2.0mlで塩基処理をして硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムを濾過し溶媒を留去して、褐色液体28.1mgを得た。H−NMR分析により、ε−カプロラクタムのみであった。
【0046】
(実施例5)
ネジ付き試験管にシクロヘキサノンオキシム(56.6mg、0.5mmol)、ホウフッ化コバルト六水和物(17.0mg、0.05mmol)、サマリウムトリフラート(29.9mg、0.05mmol)、及びアセトニトリル1.0mlを入れて80℃のオイルバスで2時間攪拌して、茶色の液体を得た。得られた反応混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液2.0mlで塩基処理をして硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムを濾過し溶媒を留去して、褐色液体33.3mgを得た。H−NMR分析により、その組成比を求めた。その結果、ε−カプロラクタム52.6モル%、シクロヘキサノン6.2モル%であった。
【0047】
(実施例6)
ネジ付き試験管にシクロヘキサノンオキシム(56.6mg、0.5mmol)、塩化チオニル(3.6μl、0.05mmol)、過塩素酸コバルト六水和物(9.6mg、0.025mmol)、及びアセトニトリル1.0mlを入れて80℃のオイルバスで20時間攪拌して、茶色の液体を得た。得られた反応混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液2.0mlで塩基処理をして硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過し溶媒を留去すると、褐色固体46.7mgを得た。H−NMR分析により、その組成比を求めた。その結果、ε−カプロラクタム53.7モル%、シクロヘキサノン4.7モル%、シクロヘキサノンオキシム41.6モル%であった。
【0048】
実施例1乃至6において用いられた触媒を表1に示す。
【0049】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシム化合物をベックマン転位反応させることによりアミド化合物を製造する方法において、
酸性塩化物、酸無水物、及びルイス酸のうち少なくとも1以上の第1触媒と、前記オキシム化合物の窒素原子に相互作用可能な化合物からなる第2触媒(前記第1触媒において具体的に選択されたものを除く。)との存在下でベックマン転位反応させることを特徴とするアミド化合物の製造方法。
【請求項2】
前記第2触媒におけるオキシム化合物の窒素原子に相互作用可能な化合物が、該窒素原子に相互作用可能な金属塩であることを特徴とする請求項1記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項3】
前記第2触媒におけるオキシム化合物の窒素原子に相互作用可能な化合物が、該窒素原子が配位可能な金属塩であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項4】
前記第2触媒が、ニッケル塩及びコバルト塩のうち少なくとも1以上であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項5】
前記ニッケル塩が、臭化ニッケルであり、前記コバルト塩が、硝酸コバルト、塩化コバルト、過塩素酸コバルト、及びホウフッ化コバルト、並びにそれらの水和物であることを特徴とする請求項4記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項6】
前記酸性塩化物が、イオウ塩化物であることを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項7】
前記イオウ塩化物が、塩化チオニル、又は塩化メタンスルホニルであることを特徴とする請求項6記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項8】
前記酸無水物が、脂肪族カルボン酸無水物、芳香族カルボン酸無水物、スルホン酸無水物、及びリン酸無水物のうち少なくとも1以上であることを特徴とする請求項1乃至7いずれか記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項9】
前記ルイス酸がトリフラート化合物であることを特徴とする請求項1乃至8いずれか記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項10】
前記トリフラート化合物が、イッテルビウムトリフラート、サマリウムトリフラート、ランタントリフラート、又はイットリウムトリフラートであることを特徴とする請求項9記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項11】
前記第1触媒が塩化チオニルであり、前記第2触媒が過塩素酸コバルト六水和物であることを特徴とする請求項1記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項12】
前記オキシム化合物が、シクロドデカノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、アセトフェノンオキシム、p−メトキシアセトフェノンオキシム、o−メトキシアセトフェノンオキシム、又はp−フルオロアセトフェノンオキシムであることを特徴とする請求項1乃至11いずれか記載のアミド化合物の製造方法。


【公開番号】特開2011−173814(P2011−173814A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37662(P2010−37662)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】