説明

アミノピリジン類の製造方法

【課題】従来製法に比べてアミノピリジン類を高収率で得ることのできる工業的に有利な製造方法の提供。
【解決手段】触媒の不存在下、式(1)


(式中、Rはパーフルオロアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。ただし、Xはピリジン環の3位又は5位には存在しない。)で表されるハロピリジン類とアンモニア溶液を加熱して、該ハロピリジン類をアンモニアと反応せしめて式(2)


(式中、Rは前記に同じ。アミノ基はピリジン環の3位又は5位には存在しない。)で表されるアミノピリジン類を製造する方法において、該アンモニア溶液のアンモニア濃度が35重量%以上であること及び当該反応が不均一系反応であるアミノピリジン類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(2):
【0002】
【化1】

(式中、Rはパーフルオロアルキル基を示す。アミノ基はピリジン環の3位又は5位には存在しない。)で表されるアミノピリジン類(以下、アミノピリジン類という。)の製造方法に関し、更に詳しくは、触媒の不存在下で式(1):
【0003】
【化2】

(式中、Rは前記に同じ、Xはハロゲン原子を示す。ただし、Xはピリジン環の3位又は5位には存在しない。)で表されるハロピリジン類(以下、ハロピリジン類という。)をアンモニアと反応せしめてアミノピリジン類を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0004】
アミノピリジン類は医薬、農薬、染料等の中間体として有用な化合物である。触媒の不存在下での反応によってアミノピリジン類を製造する方法としては、例えば、ハロピリジン類として2−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジンを原料として用い、アンモニアとして28重量%アンモニア水を用いて、両者を135℃で24時間反応させる製造方法が知られている(非特許文献1参照)。しかしながら、この方法では24時間とかなりの長時間反応させたにもかかわらず、生成物である2−アミノ−5−トリフルオロメチルピリジンの収率が75%と低く、工業的製造方法として十分でない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Heterocycles,22(1),117(1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来製法に比べてアミノピリジン類を高収率で得ることのできる工業的に有利な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が上記課題を解決する為に鋭意検討したところ、驚くべきことに、触媒の不存在下、ハロピリジン類とアンモニアとを加熱下で反応させてアミノピリジン類を製造する際に、当該反応を不均一系で行い、かつアンモニア濃度が35重量%以上のアンモニア溶液をアンモニアとして反応に用いることにより、高収率でアミノピリジン類が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、ハロピリジン類とアンモニア溶液を加熱して、ハロピリジン類をアンモニアと反応せしめてアミノピリジン類を製造するにあたり、該アンモニア溶液のアンモニア濃度が35重量%以上であること及びハロピリジン類とアンモニアとの反応が不均一系反応であることを特徴とするアミノピリジン類の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ハロピリジン類とアンモニアから従来法よりも高収率でアミノピリジン類が製造できるので、本発明は工業的利用価値が高い。さらに、その高収率は従来法よりも短い反応時間で達成できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
式(1)中、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、塩素原子が好ましい。式(1)及び式(2)中、パーフルオロアルキル基としては、炭素数1〜6の直鎖状或いは分枝鎖状の脂肪族パーフルオロアルキル基が挙げられ、具体的には、例えばトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基、トリデカフルオロヘキシル基等が挙げられ、トリフルオロメチル基が好ましい。
【0011】
好ましいハロピリジン類は、式(3):
【0012】
【化3】

(式中、Rは前記に同じ。塩素基はピリジン環の3位又は5位には存在しない。)で表されるクロロピリジン類(以下、クロロピリジン類という。)が挙げられる。
【0013】
クロロピリジン類の具体例としては、2(又は4)−クロロ−3−(トリフルオロメチル)ピリジン、2−クロロ−4−(トリフルオロメチル)ピリジン、2−クロロ−5−(トリフルオロメチル)ピリジン、2−クロロ−6−(トリフルオロメチル)ピリジン、4−クロロ−2−(トリフルオロメチル)ピリジン、2(又は4)−クロロ−3−(ペンタフルオロエチル)ピリジン、2−クロロ−4−(ペンタフルオロエチル)ピリジン、2−クロロ−5−(ペンタフルオロエチル)ピリジン、2−クロロ−6−(ペンタフルオロエチル)ピリジン、4−クロロ−2−(ペンタフルオロエチル)ピリジン、2(又は4)−クロロ−3−(ヘプタフルオロプロピル)ピリジン、2−クロロ−4−(ヘプタフルオロプロピル)ピリジン、2−クロロ−5−(ヘプタフルオロプロピル)ピリジン、2−クロロ−6−(ヘプタフルオロプロピル)ピリジン、4−クロロ−2−(ヘプタフルオロプロピル)ピリジン、2(又は4)−クロロ−3−(ノナフルオロブチル)ピリジン、2−クロロ−4−(ノナフルオロブチル)ピリジン、2−クロロ−5−(ノナフルオロブチル)ピリジン、2−クロロ−6−(ノナフルオロブチル)ピリジン、4−クロロ−2−(ノナフルオロブチル)ピリジン等が挙げられる。
【0014】
本発明を実施するには、ハロピリジン類とアンモニアとの反応を、アンモニアとして35重量%以上の濃度のアンモニア溶液を用いて、触媒の不存在下でしかも不均一系で反応を行えばよい。具体的には、ハロピリジン類及びアンモニア溶液を反応器に仕込み、加熱撹拌下で反応させてもよいし、ハロピリジン類及びハロピリジン類が不溶でかつアンモニアが可溶な溶媒を反応器に仕込んだ後、アンモニアガスを反応系内に導入し、所定のアンモニア濃度のアンモニア溶液を調製して反応させてもよい。このようにすれば、高収率でアミノピリジン類を製造することができる。なお、本発明での「不均一系反応」は、アンモニア溶液の相とハロピリジン類を含有する相との2相からなる系での反応を意味する。
【0015】
本発明に用いられるアンモニア溶液としては、ハロピリジン類が不溶でかつアンモニアが可溶な水又は有機溶媒に、アンモニアを溶解させたアンモニア溶液が用いられ、中でもアンモニア水が好ましい。アンモニア溶液の濃度は、通常35重量%以上であり、35〜80重量%が好ましく、35〜60重量%がより好ましい。アンモニア溶液の使用量は、ハロピリジン類1モルに対して、通常5〜50モル、好ましくは5〜40モル、特に好ましくは10〜25モルである。
【0016】
反応温度は、通常100℃以上であり、好ましくは100〜150℃、より好ましくは100〜135℃である。反応圧は通常1〜5MPaとなる。
【0017】
反応時間は、通常20時間以内であり、好ましくは5〜16時間である。
【0018】
反応終了後、抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー等の所望の分離精製手段により、アミノピリジン類を得ることができる。
【0019】
このようにして得られるアミノピリジン類の具体例としては、2(又は4)−アミノ−3−(トリフルオロメチル)ピリジン、2−アミノ−4−(トリフルオロメチル)ピリジン、2−アミノ−5−(トリフルオロメチル)ピリジン、2−アミノ−6−(トリフルオロメチル)ピリジン、4−アミノ−2−(トリフルオロメチル)ピリジン、2(又は4)−アミノ−3−(ペンタフルオロエチル)ピリジン、2−アミノ−4−(ペンタフルオロエチル)ピリジン、2−アミノ−5−(ペンタフルオロエチル)ピリジン、2−アミノ−6−(ペンタフルオロエチル)ピリジン、4−アミノ−2−(ペンタフルオロエチル)ピリジン、2(又は4)−アミノ−3−(ヘプタフルオロプロピル)ピリジン、2−アミノ−4−(ヘプタフルオロプロピル)ピリジン、2−アミノ−5−(ヘプタフルオロプロピル)ピリジン、2−アミノ−6−(ヘプタフルオロプロピル)ピリジン、4−アミノ−2−(ヘプタフルオロプロピル)ピリジン、2(又は4)−アミノ−3−(ノナフルオロブチル)ピリジン、2−アミノ−4−(ノナフルオロブチル)ピリジン、2−アミノ−5−(ノナフルオロブチル)ピリジン、2−アミノ−6−(ノナフルオロブチル)ピリジン、4−アミノ−2−(ノナフルオロブチル)ピリジン等が挙げられる。
【実施例】
【0020】
つぎに、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はなんらこれらに限定されるものではないことはいうまでもない。
【0021】
実施例1
容量1Lのハステロイ製オートクレーブに、2−クロロ−5−(トリフルオロメチル)ピリジン130.0g(0.716モル)及び38重量%アンモニア水321gを仕込み、135℃で8時間反応した。反応圧は2.2〜2.8MPaを示した。反応終了後、冷却し、反応液をトルエンで2回抽出した。得られた有機層を、液体クロマトグラフィー定量分析(絶対検量線法)した結果、2−アミノ−5−(トリフルオロメチル)ピリジンが収率90.4%で生成していた。また2−クロロ−5−(トリフルオロメチル)ピリジンの未反応率は0.9%であった。
【0022】
実施例2
実施例1の38重量%アンモニア水321gを44重量%アンモニア水416gに、反応温度を120℃にかえた以外は、実施例1と同様にして反応、抽出を行い、有機層を得た。反応圧は2.2〜2.6MPaを示した。得られた有機層を、絶対検量線法で液体クロマトグラフィー定量分析した結果、2−アミノ−5−(トリフルオロメチル)ピリジンが収率94.7%で生成していた。また2−クロロ−5−(トリフルオロメチル)ピリジンの未反応率は5.3%であった。
【0023】
実施例3
実施例2の44重量%アンモニア水416gを50重量%アンモニア水366gにかえた以外は、実施例2と同様にして反応、抽出を行い、有機層を得た。反応圧は2.7〜3.1MPaを示した。得られた有機層を、絶対検量線法で液体クロマトグラフィー定量分析した結果、2−アミノ−5−(トリフルオロメチル)ピリジンが収率97.5%で生成していた。また2−クロロ−5−(トリフルオロメチル)ピリジンの未反応率は1.8%であった。
【0024】
実施例4
実施例2の44重量%アンモニア水416gを55重量%アンモニア水332gにかえた以外は、実施例2と同様にして反応、抽出を行い、有機層を得た。反応圧は3.3〜3.7MPaを示した。得られた有機層を、絶対検量線法で液体クロマトグラフィー定量分析した結果、2−アミノ−5−(トリフルオロメチル)ピリジンが収率95.5%で生成していた。また2−クロロ−5−(トリフルオロメチル)ピリジンの未反応率は0.6%であった。
【0025】
比較例1
実施例2の44重量%アンモニア水416gを28重量%アンモニア水654gにかえた以外は、実施例2と同様にして反応、抽出を行い、有機層を得た。反応圧は1.2〜1.3MPaを示した。得られた有機層を、絶対検量線法で液体クロマトグラフィー定量分析した結果、2−アミノ−5−(トリフルオロメチル)ピリジンが収率34.7%で生成していた。また2−クロロ−5−(トリフルオロメチル)ピリジンの未反応率は63.1%であった。
【0026】
実施例5
実施例2の44重量%アンモニア水416gを60重量%アンモニア水305gに、反応温度を110℃にかえた以外は、実施例1と同様にして反応、抽出を行い、有機層を得た。反応圧は2.8〜3.2MPaを示した。得られた有機層を、絶対検量線法で液体クロマトグラフィー定量分析した結果、2−アミノ−5−(トリフルオロメチル)ピリジンが収率90.5%で生成していた。また2−クロロ−5−(トリフルオロメチル)ピリジンの未反応率は7.9%であった。
【0027】
実施例6
実施例4の反応温度を100℃に、反応時間を16時間にかえた以外は、実施例4と同様にして反応、抽出を行い、有機層を得た。反応圧は2.3〜2.6MPaを示した。得られた有機層を、絶対検量線法で液体クロマトグラフィー定量分析した結果、2−アミノ−5−(トリフルオロメチル)ピリジンが収率91.5%で生成していた。また2−クロロ−5−(トリフルオロメチル)ピリジンの未反応率は8.3%であった。
【0028】
実施例7
実施例4の反応温度を110℃にかえた以外は、実施例4と同様にして反応、抽出を行い、有機層を得た。反応圧は2.7〜3.0MPaを示した。得られた有機層を、絶対検量線法で液体クロマトグラフィー定量分析した結果、2−アミノ−5−(トリフルオロメチル)ピリジンが収率93.3%で生成していた。また2−クロロ−5−(トリフルオロメチル)ピリジンの未反応率は7.3%であった。
【0029】
実施例8
実施例4の反応温度を130℃にかえた以外は、実施例4と同様にして反応、抽出を行い、有機層を得た。反応圧は3.8〜4.3MPaを示した。得られた有機層を、絶対検量線法で液体クロマトグラフィー定量分析した結果、2−アミノ−5−(トリフルオロメチル)ピリジンが収率98.2%で生成していた。また2−クロロ−5−(トリフルオロメチル)ピリジンは検出されなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の不存在下、式(1):
【化1】

(式中、Rはパーフルオロアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。ただし、Xはピリジン環の3位又は5位には存在しない。)で表されるハロピリジン類とアンモニア溶液を加熱して、該ハロピリジン類をアンモニアと反応せしめて式(2):
【化2】

(式中、Rは前記に同じ。アミノ基はピリジン環の3位又は5位には存在しない。)で表されるアミノピリジン類を製造する方法において、該アンモニア溶液のアンモニア濃度が35重量%以上であること及び該ハロピリジン類とアンモニアとの反応が不均一系反応であることを特徴とするアミノピリジン類の製造方法。
【請求項2】
アンモニア濃度が35〜80重量%であることを特徴とする請求項1に記載のアミノピリジン類の製造方法。
【請求項3】
100〜150℃の温度で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のアミノピリジン類の製造方法。

【公開番号】特開2010−285368(P2010−285368A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139445(P2009−139445)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000167646)広栄化学工業株式会社 (114)
【Fターム(参考)】