説明

アミン体の製造方法

【課題】環状カルボジイミド化合物の中間体の製造方法を提供すること。
【解決手段】ハロアレーン骨格をもつ化合物を含有する、特定のニトロ体を、金属触媒および塩基性化合物の存在下で還元させる工程を含む、特定のアミン体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアミン体の製造方法に関する、さらに詳しくは特定のアミン体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル等のエステル結合を有する化合物は、カルボキシル基等の極性基により加水分解が促進されるため、カルボキシル基の封止剤を適用して、カルボキシル基濃度を低減することが提案されている(特許文献1、特許文献2)。かかるカルボキシル基の封止剤として、カルボジイミド化合物が使用されている。
しかし、このカルボジイミド化合物は、いずれも線状の化合物であるため、使用時、揮発性のイソシアネート化合物が副生して、悪臭を発し、作業環境を悪化させるという欠点を有する。
そこで、本発明者は、封止剤として、カルボキシル基と反応してもイソシアネート化合物が副生しない環状カルボジイミド化合物を見出し国際出願した(特許文献3)。しかし、この有用な環状カルボジイミド化合物およびその中間体の工業的な製造方法は確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−332166号公報
【特許文献2】特開2005−350829号公報
【特許文献3】PCT/JP2009/071190
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、下記式(A)で表されるニトロ体を、金属触媒の存在下で還元させ下記式(B)で表されるアミン体を合成する際の反応収率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、下記式(A)で表されるニトロ体を、金属触媒の存在下で還元させ下記式(B)で表されるアミン体を合成する際の反応収率を向上させる手段について検討した。
その結果、アミン体の製造原料である下記式(A)で表されるニトロ体は、その製造工程由来の不純物であるハロアレーン骨格をもつ化合物を含有し、このハロアレーン骨格をもつ化合物によりアミン体の収率が低下することを見出した。そして、反応時にハロゲン化水素などの脱ハロゲン成分を捕捉できる塩基性化合物を存在させると、収率が顕著に向上することを見出し、本発明を完成した。
脱ハロゲン成分がそのまま反応系中に存在すると、ニトロ体およびアミン体の分解を促進し、結果としてアミン体の収率が低下するが、塩基性化合物を存在させると、脱ハロゲン成分が捕捉され、反応系中に遊離した脱ハロゲン成分が存在しなくなり、ニトロ体およびアミン体の分解を大幅に抑制することができる。
【0006】
即ち本発明は、以下の発明を包含する。
1.ハロアレーン骨格をもつ化合物を含有する、下記式(A)で表されるニトロ体を、金属触媒および塩基性化合物の存在下で還元させる工程を含む、下記式(B)で表されるアミン体の製造方法。
【0007】
【化1】

【0008】
(式(A)中、Rは、水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基である。)
【0009】
【化2】

【0010】
(式(B)中、Rは式(A)と同じである。)
2. 金属触媒は、パラジウム、ルテニウム、白金、ロジウム、ニッケル、銅、それらの金属酸化物、それらの金属水酸化物、それらを活性炭やアルミナなどの担体に析出させた金属担体触媒からなる群より選ばれる少なくとも一種である前記1記載の製造方法。
3. 塩基性化合物は、トリエチルアミンである前記1記載のアミン体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、環状カルボジイミド化合物の中間体として有用な、特定のアミン体を高収率で製造することができる。即ち、本発明の製造方法によれば、ハロアレーン骨格をもつ化合物を含有するニトロ体(A)からアミン体(B)を高収率で製造することができる。特に、芳香族環が複数ハロゲン化されたハロゲン化芳香族化合物を含有するニトロ体(A)からアミン体(B)を高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ハロアレーン骨格をもつ化合物を含有する、下記式(A)で表されるニトロ体を、金属触媒および塩基性化合物の存在下で還元させる工程を含む。
【0013】
(ニトロ体)
ニトロ体は下記式(A)で表される。
【0014】
【化3】

【0015】
式(A)中、Rは、水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基である。炭素原子数1〜6のアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、sec−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、n−ペンチル基、sec−ペンチル基、iso−ペンチル基、n−ヘキシル基、sec−ヘキシル基、iso−ヘキシル基等が挙げられる。
ハロアレーン骨格をもつ化合物とは、ハロゲン原子を1つ以上有する単環系もしくは多環系芳香族炭化水素化合物である。単環系芳香族炭化水素化合物として、ハロゲン化ベンゼン、ハロゲン化ニトロベンゼンなどが挙げられる。多環系芳香族炭化水素化合物として、ハロゲン化ナフタレン、ハロゲン化ニトロナフタレンなどが挙げられる。
ニトロ体(A)を安価に合成する際、原料としてo−クロロニトロベンゼン等のo−ハロゲン化ニトロベンゼンを使用するため、ニトロ体中にはハロゲン成分を含むニトロ体(A)類似化合物やo−ハロゲン化ニトロベンゼンなどハロゲン化芳香族炭化水素化合物が含有することが多い。
ニトロ体(A)中のハロアレーン骨格をもつ化合物の含有量は、特に限定なく本法の効果が確認されるが、アミン体製造コストの観点から、ニトロ体1当量に対して好ましくは0.001〜0.5当量、より好ましくは0.001〜0.1当量の範囲である。
【0016】
(アミン体)
本発明の製造方法で得られるアミン体は下記式(B)で表される。
【0017】
【化4】

【0018】
式(B)中、Rは式(A)と同じである。
【0019】
(反応)
反応は、ニトロ体(A)を、金属触媒および塩基性化合物の存在下、溶媒中で水素ガスと接触還元反応させることにより行うことができる。
反応温度は25〜150℃の範囲が選択される。25℃より低いと、反応性が乏しく、長時間の反応になる場合がある。また150℃より高いと、分解反応など本来の反応とは異なる副反応が併発する場合がある。かかる観点より、上記基準において、好ましくは50〜120℃、さらに好ましくは70〜100℃の範囲である。
反応は常圧でも進行するが、反応を促進するために圧力を加えることが好ましい。圧力としては0.2MPa以上が選択される。0.2MPaよりも低いと、圧力を加える効果が得られない場合がある。また設備上の観点から、好ましくは0.5〜1.0MPaの範囲である。
【0020】
金属触媒としては、パラジウム、ルテニウム、白金、ロジウム、ニッケル、銅、それらの金属酸化物、それらの金属水酸化物、それらを活性炭やアルミナなどの担体に析出させた金属担体触媒からなる群より選ばれる少なくとも一種が好適に使用される。具体的には、パラジウム炭素、パラジウム炭素−エチレンンジアミン複合体、パラジウム−フィブロイン、パラジウム−ポリエチレンイミン、ロジウム炭素、酸化白金、ニッケル、銅等が挙げられる。ここで、金属触媒の量はニトロ体(A)の重量に対して、反応が進行する範囲で適宜設定すればよく、0.05wt%以上であれば、十分に反応が進行する。また、上限も特にないが、コストとの兼ね合いから、5wt%以下程度までとすればよい。
塩基性化合物としては炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩基、トリエチルアミン、ピリジン、イミダゾールなどの有機塩基が使用される。とりわけ、コストや取り扱いの観点から、トリエチルアミンが好適に使用される。ここで、塩基性化合物の量は、ニトロ体(A)に含有するハロゲン当量に対して1当量以上である。1当量よりも低いと、十分な捕捉能が得られず、アミン体(B)の純度が低くなる場合がある。また、上限も特にないが、コストとの兼ね合いから、好ましくは1〜5当量、さらに好ましくは1〜3当量である。
【0021】
溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、N,N−ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、トルエン、アセトニトリル、それらの混合溶媒などが使用される。
装置としては、攪拌および加熱機能を有する加圧反応釜などが使用される。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例によりさらに説明する。各物性は以下の方法により測定した。
(1)アミン体のNMRによる同定:
合成したアミン体はH−NMR、13C−NMRによって確認した。NMRは日本電子(株)製JNR−EX270を使用した。溶媒は重クロロホルムを用いた。また、H−NMRの積分値より、アミン体の純度を求めた。
(2)アミン体の収率:
合成したアミン体の収率は、NMRにより同定されたアミン体の乾燥重量を測定し、
アミン体の収率[%]=((アミン体乾燥重量/アミン体分子量)/ニトロ体モル数)×100×アミン体純度[%]
として求めた。
【0023】
[実施例1]アミン体A1の合成:
N1・・・式(A)においてR=Hの化合物
A1・・・式(B)においてR=Hの化合物
o−クロロニトロベンゼン(0.01mol)を含む下記式で表されるニトロ体N1(0.1mol)
【0024】
【化5】

【0025】
と5%パラジウムカーボン(Pd/C)(1.24g)、N,N−ジメチルホルムアミド62ml、トリエチルアミン(0.025mol)を、攪拌機能を有するオートクレーブ反応装置に仕込み、窒素置換を3回行い、90℃で0.8MPaの水素を常に供給した状態にコントロールして攪拌反応させ、水素の減少がなくなったら反応を終了した。Pd/Cを分離した反応液を3倍量の30%(v/v)メタノール水に加え晶析した後にろ過回収することで固体生成物が得られた。NMRにより固体生成物が下記式で表されるアミン体A1であることが確認された。
【0026】
【化6】

【0027】
アミン体A1の収率は95.1%であった。また、アミン体A1の色はクリームに近い白色であった。
[比較例1]アミン体A1の合成
o−クロロニトロベンゼン(0.01mol)を含む下記式で表されるニトロ体N1(0.1mol)
【0028】
【化7】

【0029】
と5%パラジウムカーボン(Pd/C)(1.24g)、N,N−ジメチルホルムアミド62mlを、攪拌機能を有するオートクレーブ反応装置に仕込み、窒素置換を3回行い、90℃で0.8MPaの水素を常に供給した状態にコントロールして攪拌反応させ、水素の減少がなくなったら反応を終了した。Pd/Cを分離した反応液を3倍量の30%(v/v)メタノール水に加え晶析した後にろ過回収することで固体生成物が得られた。NMRにより固体生成物が下記式で表されるアミン体A1であることが確認された。
【0030】
【化8】

【0031】
アミン体A1の収率は75.9%であった。また、アミン体A1の色は赤みを帯びた褐色であった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の製造方法は、ポリエステルの封止剤として有用な環状カルボジイミド化合物を製造に利用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロアレーン骨格をもつ化合物を含有する、下記式(A)で表されるニトロ体を、金属触媒および塩基性化合物の存在下で還元させる工程を含む、下記式(B)で表されるアミン体の製造方法。
【化1】

(式(A)中、Rは、水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基である。)
【化2】

(式(B)中、Rは式(A)と同じである。)
【請求項2】
金属触媒は、パラジウム、ルテニウム、白金、ロジウム、ニッケル、銅、それらの金属酸化物、それらの金属水酸化物、それらを活性炭やアルミナなどの担体に析出させた金属担体触媒からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
塩基性化合物は、トリエチルアミンである請求項1記載のアミン体の製造方法。


【公開番号】特開2012−1478(P2012−1478A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137203(P2010−137203)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】