説明

アリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩並びにその精製方法

【課題】アリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩の着色を大幅に低減し、高純度化できる精製方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるアリール(ジ)エチニル安息香酸及び/又はその塩〔Ar:芳香族炭化水素基;n=1〜2、M:H、Li、Na、K〕を、水及び/又はプロトン性溶媒に溶解した溶液状態において吸着剤処理し、不純物を除去する。
【化1】



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬中間体、液晶、電子材料等の機能性材料として有用なアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩並びにその精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4−アリール(ジ)エチニル安息香酸は、医農薬中間体、液晶、電子材料などの機能性材料原料として重要な化合物であり、特に近年では、分子内に存在する炭素−炭素三重結合構造を利用した、様々な機能性材料に関する研究対象として注目されている。
【0003】
例えば、光導波路を形成するためのポリベンゾオキサゾール骨格を有するポリマーの末端封止剤として、4−フェニルエチニル安息香酸の酸クロライド化合物を用いることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。このような4−フェニルエチニル安息香酸を得る方法としては、4−ハロゲン化安息香酸とエチニルベンゼンを塩基の存在下で反応させる方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
一方、光導波路などの用途、電子材料においては、非特許文献1に記載の方法を適用した場合、反応に用いるパラジウム触媒や、タール状の成分、副生成物による着色が問題になる。この着色成分の除去に関しては、固液分離、吸着除去、抽出分離等の方法が考えられるが、充分な着色成分除去を考えた場合、これらの方法はいずれも吸着除去が有効な手段であることが特許文献2から推定できる。
【特許文献1】特開2004−143143号公報
【特許文献2】特開2006−151904号公報
【非特許文献1】「シンセティック コミュニケーション」(Synthetic Communication,2002年,第32巻,p.1937〜1946)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、4−アリール(ジ)エチニル安息香酸及びその金属塩は、その直線状の分子構造ゆえに、溶媒へ溶解させるのは容易ではない。その一方、疎水性と親水性の差による吸着除去では、親水性あるいは疎水性の溶媒に溶解させることは不可避である。
【0006】
特に、非特許文献1に記載のようなパラジウム触媒を用いた反応で副生成した着色成分は疎水性を有しているため、最終的に4−アリール(ジ)エチニル安息香酸又はそれに至る過程で得られる中間体を水に溶解させるようにすることは有効である。
【0007】
他方、この4−アリール(ジ)エチニル安息香酸は、金属塩に変換して水溶性を付与するために例えばナトリウム塩に変換しようとしても、工業生産に適するような充分な溶解性を得ることは困難である。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、下記目的を達成することを課題とする。
本発明は、吸着除去を通じて着色成分を含めた不純物の除去を工業的規模で行なうことが可能であり、アリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩の着色を大幅に低減し、高純度化できる精製方法を提供することを目的とする。また、
本発明は、着色が少なく高純度のアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、フェニル(ジ)エチニル安息香酸を有機アミン化合物との対塩としたとき、水に対する溶解性が著しく向上するとの知見を得、また、その一方でこのような塩にしたとき、例えば活性炭などの吸着剤を作用させた後にこの吸着剤を除去する際には、有機アミン化合物の影響により活性炭が微粉化して、特許文献2などで活性炭除去に用いられるセライトのみでは活性炭を完全に捕捉できず、いわゆる濾過漏れを生じてしまうが、親水性繊維状など濾材を選択することにより微粉化した活性炭でも濾過漏れが抑えられるとの知見を得、これらの知見に基づいて達成されたものである。
【0010】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 下記一般式(1)で表されるアリール(ジ)エチニル安息香酸及び/又はその塩を、水及び/又はプロトン性溶媒に溶解した溶液状態において吸着剤処理し、不純物を除去するアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩の精製方法である。
【0011】
【化1】

【0012】
前記一般式(1)において、Arは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、nは1又は2を表す。Mは、水素、リチウム、ナトリウム、又はカリウムを表す。
【0013】
前記<1>に記載の精製方法によれば、着色が少なく高純度のアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩を安定的に得ることができる。
【0014】
<2> 前記水及び/又はプロトン性溶媒に前記アリール(ジ)エチニル安息香酸及び/又はその塩を溶解させるための有機アミン化合物を更に添加することを特徴とする前記<1>に記載のアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩の精製方法である。
前記<2>に記載の精製方法によれば、有機アミン化合物を混在させることで、水やプロトン性溶媒へのアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩の溶解性が向上するので、不純物の吸着除去が効果的に行なえ、着色をより低減できる。
【0015】
<3> 前記吸着剤が活性炭であることを特徴とする前記<1>又は<2>に記載のアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩の精製方法である。
前記<3>に記載の精製方法によれば、活性炭を選択するので、不純物の吸着性に優れ、着色低減に有効である。
【0016】
<4> 前記不純物の除去後、粉末セルロース濾材を用いて前記吸着剤を除去することを特徴とする前記<1>〜<3>のいずれか1つに記載のアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩の精製方法である。
前記<4>に記載の精製方法によれば、不純物の除去後にさらに吸着剤を除去してアリール(ジ)エチニル安息香酸(及び/又はその塩)を取り出す際に、濾材として特に粉末セルロース濾材を用いるので、例えば有機アミン化合物を用いた場合など、粉末化した吸着剤の除去を目詰まりなく良好に行なうことができる。
【0017】
<5> 上記の一般式(1)で表され、前記<1>〜<4>のいずれか1つに記載のアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩の精製方法で処理して得られたアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩である。
前記<5>に記載のアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩は、前記<1>〜<4>のいずれか1つに記載の精製方法を経た化合物であるので、着色が少なく高純度である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、吸着除去を通じて着色成分を含めた不純物の除去を工業的規模で行なうことが可能であり、アリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩の着色を大幅に低減し、高純度化することができる。また、
本発明によれば、着色が少なく高純度のアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩を提供することができる。このアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩は、着色が大幅に低減されて高純度であるゆえ、電子材料等の分野において、医農薬中間体、液晶、電子材料等の機能性材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩並びにその精製方法について詳細に説明する。
【0020】
本発明の精製方法におけるアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0021】
【化2】

【0022】
前記一般式(1)中、Arは、無置換でも置換基を有してもよい芳香族炭化水素基を表す。中でも、Arは、置換基を有さない場合が好ましい。
【0023】
Arで表される芳香族炭化水素基としては、置換もしくは無置換の芳香族環基(好ましくは総炭素数6〜12)、又は置換もしくは無置換の芳香族複素環基(好ましくは総炭素数0〜12)が挙げられる。好ましくは、置換もしくは無置換の芳香族環基(好ましくは総炭素数6〜12)であり、より好ましくは無置換の芳香族環基(好ましくは総炭素数6〜12)である。
【0024】
前記芳香族環基としては、例えば、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、9−アントラニル、2−ピレニル等が挙げられる。これらの中でも、フェニル、2−ナフチル、9−アントラニル、2−ピレニルが好ましく、フェニル、9−アントラニルがより好ましい。
【0025】
Arで表されるアリール基上に存在しうる置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリールオキシ基、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基、炭素数1〜4のパーフルオロアルコキシ基が挙げられる。これらの中でも、フッ素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数3又は4のシクロアルキル基、炭素数1又は2のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数6〜12のアリールオキシ基、炭素数1又は2のパーフルオロアルキル基、炭素数1〜3のパーフルオロアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜2のアルキル基、炭素数1又は2のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基がより好ましい。これらの置換基は、複数個存在してもよく、この場合に複数個存在する基は各々同一でも異なっていてもよい。また、これらが互いに連結して炭素環又は複素環を形成していてもよい。
【0026】
Arで表されるアリール基上に存在しうる置換基のより具体的な例としては、フッ素原子、水酸基、メチル、エチル、2−プロピル、tert−ブチル、シクロヘキシル、シクロペンチル、シクロプロピル、メトキシ、エトキシ、2−プロポキシ、tert−ブトキシ、1−ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、1−ナフチル、2−ナフチル、フェニル、アズレニル、1−ナフトキシ、2−ナフトキシ、フェノキシ、1−ヘプタフルオロプロピル、トリフルオロメチル、1−ヘプタフルオロプロポキシ、トリフルオロメトキシ、ペンタフルオロフェノキシなどが挙げられ、これらの中でも、フッ素原子、水酸基、メチル、エチル、2−プロピル、tert−ブチル、シクロプロピル、メトキシ、エトキシ、1−ナフチル、2−ナフチル、フェニル、1−ナフトキシ、2−ナフトキシ、フェノキシ、又はトリフルオロメトキシが好ましく、メチル、エチル、フェニル、メトキシ、エトキシ、フェニル、又はフェノキシ基がより好ましい。
【0027】
前記一般式(1)中のnは1又は2を表す。
前記一般式(1)中のMは、水素、リチウム、ナトリウム、又はカリウムを表す。Mで表される元素の好ましくは、水素、リチウム、又はナトリウムであり、水素がより好ましい。但し、Mが金属を表すときには、安息香酸の塩になり、水素である場合と安息香酸構造への結合様式の違いがでるが、実質的に相違するものではない。
【0028】
以下に本発明において精製されるフェニル(ジ)エチニル安息香酸(塩)の具体的な例を示すが、これにより本発明が限定されるものではない。
【0029】
【化3】

【0030】
次に、本発明において、前記一般式(1)で表されるアリール(ジ)エチニル安息香酸及び/又はその塩(以下、単に「一般式(1)で表される化合物」ともいう。)を精製する方法について説明する。
【0031】
本発明のアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩の精製方法においては、前記一般式(1)で表される化合物を一旦溶液に変換することが望ましい。例えば、一般式(1)中のMがリチウム、ナトリウム、又はカリウムである場合、この化合物は水に対しても溶解度が低いので、酸によって中和されることが望ましい。
【0032】
中和するために用いる酸としては、Mで表される金属と結合力の強い硬い酸を用いることが望ましい。具体的には、硫酸、硝酸、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、メタンスルホン酸、トリクロロ酢酸、又はトリフルオロ酢酸などが挙げられるが、中でも、硫酸、塩化水素、臭化水素、トリクロロ酢酸、又はトリフルオロ酢酸が好ましく、硫酸、又は塩化水素がより好ましい。
このとき、用いる酸の量に特に制限はないが、前記一般式(1)で表される化合物1モルに対して、0.5〜3.0モルが好ましく、より好ましくは0.8〜1.8モル、さらに好ましくは1.0〜1.2モルである。
【0033】
前記一般式(1)で表される化合物を溶解して溶液状態とする溶媒としては、水又はプロトン性溶媒、あるいはこれらの混合溶媒を用いる。中でも、水がより好ましい。
【0034】
具体的な溶媒の例としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、及びγ−ブチロラクトン等のエステル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、ジメチルスルホキシド、及びスルホランなどの含硫黄溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、及びN,N−ジメチルイミダゾリノン等のアミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、及び1−メトキシ−2−プロパノール等のエーテル系溶媒、1−ブタノール、2−ブタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エタノール、メタノール、及び1−オクタノール等のアルコール系溶媒、酢酸、蟻酸、及びプロピオン酸等のカルボン酸、水、並びにこれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0035】
上記の中でも、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、1−ブタノール、2−ブタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エタノール、メタノール、酢酸、蟻酸、及び水が好ましく、特に好ましくは、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルエーテル、1−ブタノール、2−プロパノール、エタノール、メタノール、酢酸、蟻酸、及び水、並びにこれらの混合溶媒である。
【0036】
前記一般式(1)で表される化合物を溶解する溶媒の量は特に限定されないが、工業的に有用な範囲である点で、一般式(1)で表される化合物1質量部に対して、溶媒2〜20質量部が好ましく、2〜10質量部がより好ましい。
【0037】
さらに、中和された一般式(1)で表される化合物(M=水素)は、水あるいはプロトン性溶媒に溶解させるために、本発明の好ましい態様の1つとして、有機アミン化合物を組み合わせて用いることができる。
【0038】
添加する有機アミン化合物の具体的な例としては、ピリジン、α−ピコリン、γ−ピコリン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン、キノリン、イミダゾール、N−メチルイミダゾール、ピロール、ピロリジン、N−メチルピロリジン、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルモルホリン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジエチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、アニリン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−アミノエタノール、2−ジメチルアミノエタノール、エチレンジアミン、及びヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。中でも、ピリジン、α−ピコリン、γ−ピコリン、イミダゾール、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルモルホリン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジエチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、アニリン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−アミノエタノール、及び2−ジメチルアミノエタノール等が好ましく、より好ましくは、ピリジン、α−ピコリン、γ−ピコリン、イミダゾール、モルホリン、N−メチルモルホリン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジエチルアニリン、アニリン、トリエタノールアミン、及び2−アミノエタノール等が挙げられる。
【0039】
前記一般式(1)で表される化合物を溶解させる場合に用いる有機アミンの量としては、添加後の液性がアルカリ性になる範囲であれば特に制限はないが、一般式(1)で表される化合物の溶解性の点から、一般式(1)で表される化合物1モルに対して、0.6〜3.3モルが好ましく、より好ましくは1.0〜2.0モルであり、さらに好ましくは1.05〜1.25モルである。
【0040】
次に、溶媒に溶解された一般式(1)で表される化合物に対し、吸着剤を用いて不純物を除去する方法について説明する。
【0041】
吸着剤としては、用いる溶媒により溶解しないものであれば特に制限はないが、精製される化合物が安息香酸誘導体であるので、主に陰イオンを吸着する性質を持つ吸着剤以外の吸着剤が好ましい。
【0042】
具体的には、吸着剤を一般式(1)で表される化合物の溶解溶液中に投入したり、吸着剤を敷き詰めた上から一般式(1)で表される化合物の溶解溶液を通過させる等の方法により不純物の除去を行なうことができる。
【0043】
吸着剤の具体的な例としては、シリカゲル、酸化アルミニウムや、これら金属酸化物の混合系からなる市販の吸着剤(例えば、協和化学工業(株)製のキョーワード200、同600、同700、又は同2000など)、アンスラサイト、活性炭、ゼオライト、モンモリロナイト等の粘土鉱物が挙げられる。中でも、好ましくは酸化アルミニウム、金属酸化物の混合系からなる市販の吸着剤、アンスラサイト、及び活性炭であり、特に不純物が疎水性であって使用溶媒が水である場合には、疎水性の不純物の除去効率の点で、活性炭が好ましい。
【0044】
次に、吸着剤に不純物を吸着させた後、前記一般式(1)で表される化合物を再度取り出すために、吸着剤を除去する方法について説明する。
吸着剤の除去は、固液分離課程を経て行なえるが、工業スケールで分離するにあたっては、濾過が好ましい。このとき、濾過に用いる濾材としては特に制限はないが、吸着剤を除去でき、かつ目詰まりを起さない性質を有するものが望ましい。とりわけ、微粉化した成分を有する場合、その成分を除去する目的で適切な濾材を用いることが好ましい。
【0045】
濾材としては、陶土、活性白土、粉末セルロース、グラスファイバー、フッ素樹脂フィルター、珪藻土、及び酢酸セルロース繊維などが挙げられる。中でも、陶土、粉末セルロース、グラスファイバー、珪藻土、及び酢酸セルロース繊維が好ましく、特に好ましくは、微粉の吸着剤を除去する場合も考慮した濾過が可能である点で、粉末セルロース及び酢酸セルロース繊維である。特に、濾過する対象である一般式(1)で表される化合物の溶解液が有機アミンを含み、吸着剤に活性炭を含む場合は、微粉が多く目詰まりの回避の点から、粉末セルロースが特に好ましい。
また、濾材は複数を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
濾材によって吸着剤が除去された溶液からの「一般式(1)で表される化合物」の取り出しは、酸析、酸性にしてからの溶媒抽出、冷却による結晶化、貧溶媒の添加による晶析、あるいはそれらの組み合わせを任意に選択して行なうことができる。
【0047】
以上の方法により、溶解性の低い前記一般式(1)で表される化合物から、着色成分などの不純物を効率的に除去できる工業的な精製を実現できる。これにより、着色の少ない高純度のアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩を得ることができる。
【0048】
このような不純物が少なく純度の高いアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩は、所要の純度が求められる分野、特に医農薬中間体、液晶、及び電子材料等の機能性材料としての用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0050】
(実施例1)
〈粗4−フェニルエチニル安息香酸ナトリウム塩の調製〉
還流管が接続された300mlの3つ口フラスコに、4−フェニルエチニル安息香酸エチル50.1g、蒸留水300ml、1−ブタノール15ml、及び25%水酸化ナトリウム水溶液32.0gを加え、混合物とした。この混合物を内温85〜95℃で4時間攪拌し、薄層クロマトグラフィーにより原料である4−フェニルエチニル安息香酸エチルの消失を確認した。この反応液を90℃でさらに2時間攪拌すると、4−フェニルエチニル安息香酸ナトリウムの鱗片状結晶が析出した。得られた反応液を室温に冷却して一夜攪拌後、吸引濾過により固液分離を行ない、エタノール100mlで掛け洗いした後に50℃で1日風乾させて、一部黒色物が混じった無色透明の鱗片状結晶(粗4−フェニルエチニル安息香酸ナトリウム塩)46.9gを得た(収率97%)。
【0051】
〈粗4−フェニルエチニル安息香酸ナトリウム塩の精製〉
上記より得られた粗4−フェニルエチニル安息香酸ナトリウム塩18.3gと蒸留水125mlとを500mlの3つ口フラスコに入れ、20℃の水で冷却しながら、これに35.5%濃塩酸8.5gを10分間かけて滴下し、4−フェニルエチニル安息香酸を析出させた。その後、これにトリエチルアミン(有機アミン化合物)9.1gを添加し、内温が70℃になるまで加温して溶解し、4−フェニルエチニル安息香酸トリエチルアンモニウム水溶液を得た。続いて、この水溶液に武田薬品工業(株)製の活性炭・白鷺A2.0gを加えて30分間ゆっくり攪拌して、吸着除去を行なった。
【0052】
〈4−フェニルエチニル安息香酸の取り出し〉
次に、この溶液を、濾紙の上にセライト10.0g、さらにその上に粉末セルロール(濾材)であるKCフロックW−100G(日本製紙ケミカル(株)製)20gを敷いた上から熱時吸引濾過を10分間かけて行ない活性炭を除去し、さらに80℃の温水50mlで洗浄して得られた濾液と合一した。このとき、濾液は淡黄色だった。
【0053】
この液体を加温し、内温60℃で35.5%濃塩酸10.1gを添加してから、20℃まで5時間かけて除々に冷却して結晶化した後、15〜20℃で2時間攪拌して、濾紙を用いた吸引濾過により固液分離し、4−フェニルエチニル安息香酸を取り出した。引き続き、得られた結晶を冷エタノール20mlで洗浄し、その後50℃にて3日風乾させて、4−フェニルエチニル安息香酸の白色微粉末15.5gを得た(収率93%)。
得られた白色微粉末の融点は、224.0〜224.3℃であった。
【0054】
(実施例2)
実施例1と同様にして、活性炭による吸着除去後、活性炭を除去した。
その後、5.5%濃塩酸10.1gを添加してから、メチルエチルケトン75mlを加えて60℃に攪拌しながら加温すると溶解した。この液を静置すると2相分離の界面が現れた。60℃で5分間静置後、水相を取り出して廃棄し、有機相を取り出した。この有機相を4時間かけて除々に内温10℃まで冷却し、さらに5〜10℃で2時間攪拌した。これにより析出した4−フェニルエチニル安息香酸の結晶物を吸引濾過により取り出し、冷メチルエチルケトン10mlで掛け洗いした。取り出した結晶を50℃で2日風乾して、白色粉末13.6gを得た(収率82%)。
【0055】
得られた白色粉末の物性値は、以下の通りであった。
H−NMR δ(TMS:DMSO−d):7.44−7.46ppm(m,2H)、7.58−7.61ppm(m,2H)、7.67ppm(d,2H)、7.97ppm(d,2H)、13.17ppm(s,1H)
IR νmax(KBr) 2991(m,br),2214(w),1686(vs),1424(s),1312(m),1283(s)cm-1
融点:224.4〜224.6℃
【0056】
(比較例1)
還流管が接続された300mlの3つ口フラスコに4−フェニルエチニル安息香酸エチル18.8g、蒸留水100ml、及び25%水酸化ナトリウム水溶液13.2gを加え、混合物を得た。この混合物を内温85〜95℃で10時間攪拌し、反応終了を確認した後、内温30℃まで冷却し、35.5%濃塩酸9.2gを1時間かけて滴下し、4−フェニルエチニル安息香酸を析出させた。そして、内温を25℃になるまで冷却し、室温で1時間攪拌した。反応液は白色の微粉結晶を含む懸濁液になり、これを吸引濾過で濾別、水でかけ洗いを行なって結晶物を得た。得られた結晶を50℃で3日間乾燥させることにより、4−フェニルエチニル安息香酸の白色結晶16.4gを得た(収率98%)。
得られた白色結晶の融点は、223.0〜223.6℃であった。
【0057】
(比較例2)
実施例1において、濾材に粉末セルロースを用いずに以下のようにして4−フェニルエチニル安息香酸を得た。
4−フェニルエチニル安息香酸トリエチルアンモニウム水溶液を得た後、これを濾紙の上にセライト10.0gを敷いた上から熱時濾過を行ない、さらに80℃の温水50mlで洗浄して得られた濾液と合一した。このとき、濾液は暗黄色であり、濾液を入れたビンの内部液面付近には、黒色の微粉が浮遊していた。また、熱時濾過に用いたセライトと濾紙を観察すると、活性炭の黒色が濾紙に届いていることがわかった。このことから、活性炭が充分に濾過できておらず濾液中に入り込んだことが確認された。
さらに、濾液に35.5%濃塩酸10.1gを添加してから、20℃まで5時間かけて除々に冷却して結晶化した後、15〜20℃で2時間攪拌して、濾紙を用いた吸引濾過により固液分離し、4−フェニルエチニル安息香酸を取り出した。引き続き、この結晶を冷エタノール20mlで洗浄し、その後50℃にて3日風乾させて、4−フェニルエチニル安息香酸の白色微粉末15.8gを得た(収率95%)。
得られた白色微粉末の融点は、223.5〜223.9℃であった。
【0058】
(評価)
実施例1〜2及び比較例1〜2で得られた各結晶0.5gをN,N−ジメチルホルムアミドで希釈して10mlにメスアップした溶液について測定した、400nmでの吸光度を着色の程度を評価する指標とした。測定結果は下記表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
前記表1に示すように、実施例では、着色が少なく純度の高い4−フェニルエチニル安息香酸が得られた。これに対し、比較例1では、着色のある低純度の4−フェニルエチニル安息香酸しか得られなかった。また、濾材に粉末セルロースを用いなかった比較例2では、実施例同様に着色は少なく高い純度が得られたものの、吸着除去に用いた活性炭の除去が不充分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアリール(ジ)エチニル安息香酸及び/又はその塩を、水及び/又はプロトン性溶媒に溶解した溶液状態において吸着剤処理し、不純物を除去するアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩の精製方法。
【化1】


〔一般式(1)中、Arは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、nは1又は2を表す。Mは、水素、リチウム、ナトリウム、又はカリウムを表す。〕
【請求項2】
前記水及び/又はプロトン性溶媒に前記アリール(ジ)エチニル安息香酸及び/又はその塩を溶解させるための有機アミン化合物を更に添加することを特徴とする請求項1に記載のアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩の精製方法。
【請求項3】
前記吸着剤が活性炭であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩の精製方法。
【請求項4】
前記不純物の除去後、濾材として粉末セルロースを用いて前記吸着剤を除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩の精製方法。
【請求項5】
下記一般式(1)で表され、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩の精製方法で処理して得られたアリール(ジ)エチニル安息香酸及びその塩。
【化2】


〔一般式(1)中、Arは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、nは1又は2を表す。Mは、水素、リチウム、ナトリウム、又はカリウムを表す。〕

【公開番号】特開2008−115130(P2008−115130A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301677(P2006−301677)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】