説明

アルカリ水溶液の精製方法

【課題】アルカリ水溶液中に含まれる金属不純物を簡易かつ高い割合で除去し、残留金属不純物を十分に低減することのできる、アルカリ水溶液の精製方法を提供する。
【解決手段】金属不純物を含むアルカリ水溶液を、繊維母材にキレート化材として作用するN−メチルグルカミン基及び、弱塩基性陰イオン交換体及びキレート化材として作用するイミノジエタノール基の少なくとも一方を導入した材料に接触させ、前記アルカリ水溶液から前記金属不純物を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ水溶液に含まれる金属不純物の濃度を、非常に低い濃度にまで精製することのできるアルカリ水溶液の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ水溶液は、シリコンウエハを製造する際に生成される加工変質層を除去するエッチング工程や、pH調整及び緩衝目的でコロイダルシリカ等の研磨剤と組み合わせて研磨工程で用いられる。また、アルカリ水溶液は、研磨工程の後のウェット洗浄でも用いられることが多い。エッチング工程では、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、研磨工程では、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、アンモニア、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウム、洗浄工程では、アンモニアや水酸化テトラメチルアンモニウムやコリン、コリン誘導体などの有機アルカリが用いられる。
【0003】
これらのアルカリ水溶液は、製造過程で加熱反応工程や濃縮工程などがあり、一般的に耐熱性及び耐腐食性の観点からステンレス部材が使用される。このステンレス部材の成分である鉄、ニッケル、銅、クロムなどがアルカリ水溶液の製造過程で金属不純物として混入してしまうため、精製処理を施し、混入した金属不純物を例えばppbのオーダの濃度まで低減することが必要になる。
【0004】
例えば、水酸化ナトリウムは食塩の電解によって製造されており、生成した水酸化ナトリウムは、数ppmオーダの各種金属不純物を含有している。これらの金属不純物中で、例えば、銅とニッケルは、シリコンウエハに浸透して残存し、その電気特性を変化させたり、その表面平坦性を劣化させたりする。そのため、これら金属不純物を含むアルカリ水溶液はシリコンウエハの製造工程では使うことができない。また、鉄やクロムなどの金属は、シリコンウエハの内部には拡散しづらいものの表面に残渣として残り、やはり電気特性などを阻害する。
【0005】
したがって、エッチングなどの実際の工程に供することのできるアルカリ水溶液を得るためにも、精製処理を施し、混入した金属不純物を除去して、例えばその金属不純物濃度をppbのオーダまで低減することが必要になる。
【0006】
上記金属不純物の精製方法としては、例えば、金属不純物を含んだ高濃度水酸化ナトリウム水溶液を、ヤシ殻系活性炭を硝酸で処理した後に賦活したものと接触させ、金属不純物を吸着除去する方法が提案されている(特開2004−344715公報)。この場合、容易に低コストでアルカリを精製することができる。しかしながら、この場合は専用の活性炭を準備する必要があるため、コスト上昇を招いてしまう。
【0007】
また、鉄に関しては100ppb程度にまで精製できるが、銅やニッケルに関しても100ppb程度にまでしか精製することができず、実用に足るような金属不純物濃度には達していない。また、活性炭は素材に含まれている亜鉛やアルミなどの金属不純物が溶出し、これらは硝酸で賦活しても低減することは困難である。従って金属不純物の除去要求項目が鉄に限定されれば良いが、銅やニッケル等多項目になった場合は使用が困難となる。
【0008】
さらに、水酸化ナトリウム水溶液に含まれる金属不純物を低減する方法として、陽イオン交換膜を用いた水酸化ナトリウム水溶液の電解による精製方法が知られている(特開2002−317285公報)。この方法によれば、水酸化ナトリウム水溶液中の金属不純物は10ppb以下にできるとされている。しかし、この方法は設備投資が高額となり、装置が複雑になるために精製コストが高く、運転管理が難しいという欠点がある。
【0009】
一方で、金属不純物を仮に100ppb以下に低減した高純度のアルカリ水溶液を、そのままの高純度の状態で使用箇所まで搬送するに際しては、アルカリ水溶液の製造工場やタンクローリ等の移送用手段、アルカリ水溶液を使用するウエハ製造工場や半導体デバイス製造工場において、接続・供給配管やドラム・タンク等の容器を金属溶出が少ないフッ素樹脂等の高価な素材でライニングしたり、その素材を用いて製造したりしなければならない。また、ウエハ製造工場や半導体デバイス製造工場で使用したアルカリ水溶液をリサイクルしたい場合でも、製造工程等から副生成的に発生する金属により汚染を受け、再使用が不可能な為、廃棄せざるを得ない。
【0010】
また、従来、金属不純物の除去に用いられている陽イオン交換樹脂を用いた水溶液の精製法では、高濃度にアルカリ成分が含まれている場合には、アルカリ成分も金属不純物と同様に樹脂と反応するため、金属不純物を選択的に除去することができない。したがって、さらに適切な処理を施さないと主成分であるアルカリ成分の濃度が変化してしまう恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−344715公報
【特許文献2】特開2002−317285公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる従来の問題に鑑みて、アルカリ水溶液中に含まれる金属不純物を簡易かつ高い割合で除去し、残留金属不純物を十分に低減することのできる、アルカリ水溶液の精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成すべく、本発明は、金属不純物を含むアルカリ水溶液を、繊維状の弱塩基性陰イオン交換体及びキレート化材の少なくとも一方の材料に接触させ、前記アルカリ水溶液から前記金属不純物を除去することを特徴とする、アルカリ水溶液の精製方法に関する。
【0014】
本発明によれば、アルカリ水溶液の精製に際し、母材、すなわち弱塩基性陰イオン交換体及びキレート化材を繊維状としているので、精製すべきアルカリ水溶液との接触効率が高くなり、これによってアルカリ水溶液の精製速度を向上させることができる。したがって、処理に供するアルカリ水溶液の流量SVを10(1/h)以上とすることができる。なお、現状においては、流量SVの最大値を50(1/h)まで増大させても十分な処理を行うことができる。一方、上述したような従来技術においては、処理に供するアルカリ水溶液の流量SVを最大で2(1/h)程度までしか増大させることができない。
【0015】
なお、弱塩基性陰イオン交換体及びキレート化材としては、耐アルカリ性の合成樹脂繊維に、弱塩基性陰イオン交換基又はキレート官能基を結合させたものを使用することができる。
【0016】
耐アルカリ性の合成樹脂繊維のベースとなる合成樹脂としては、ポリビニルアルコール、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ポリサルホン、ポリフェニルサルホン、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)系樹脂等が例示されるが、汎用性、価格の点でポリビニルアルコール、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ポリアミド、ポリサルホン、ポリフェニルサルホン、ポリエチレン等が好適である。これらの合成樹脂は、高濃度のアルカリ水溶液に対して安定して使用できれば特に限定されるものではない。またこれらの素材は、単独でも複数種類を組み合わせても使用することができる。
【0017】
なお、上述した合成樹脂繊維は不織布として構成することができ、その平均繊維径が0.2μm〜20μmの連続繊維であって、繊維充填率を5%〜45%とすることができる。また、不織布の形成は例えばメルトブロー法によって形成することができる。
【0018】
また、弱塩基性陰イオン交換体及びキレート化材は、上述のような合成樹脂を母材としているので、これらを繊維状とするに際しては、上記合成樹脂から不織布を形成し、この不織布に対して、N−メチルグルカミン基及びイミノジエタノール基を放射線グラフト重合法によって導入することによって合成することができる。
【0019】
したがって、本発明のアルカリ水溶液の精製に使用する材料は、N−メチルグルカミン基及びイミノジエタノール基の少なくとも一方を含むことができるので、アルカリ水溶液中の金属不純物を顕著に除去することができる。これは膨大な実験を行うことによって明らかになったものであり、理論的には明確になっていない。現状では、上記官能基が有する水酸基またはアミン基の陰イオン交換反応及び水素結合、並びにアミン基、イミノ基のキレート反応が関与しているものと考えている。
【0020】
例えば、アルカリ水溶液中の金属不純物は、負電荷の水酸化物錯イオンを形成していると考えられ、この錯イオンが弱塩基性陰イオン交換体との電気的な吸着作用と立体的に存在するアミン基のキレート化作用による結合によって、上記金属不純物が除去されると考えられるためである。また、アルカリ水溶液の工業的な合成過程において使用されるステンレス部材由来の金属は、電気的に中性に近い酸化金属種と酸化金属・水酸化金属混合体として存在すると予想され、N−メチルグルカミン基の様に半金属に対して特異的な吸着作用を及ぼす官能基のキレート化反応や水素結合などによって吸着除去されると考えられる。
【0021】
なお、N−メチルグルカミン基及びイミノジエタノール基は、それぞれ単独で用いることもできるが、両方を併用することもできる。N−メチルグルカミン基は、主として鉄やクロム等の精製(除去)に効果を発するが、銅やニッケル等に対する精製(除去)度合いはあまり高くない。一方、イミノジエタノール基は、主として銅やニッケル等に対する精製(除去)に効果を発するが、鉄やクロム等に対する精製(除去)度合いはあまり高くない。したがって、両者を併用することによって、鉄、クロム、銅、ニッケル等の重金属に対する精製(除去)度合いを高めることができる。
【0022】
具体的に、上記官能基を用いることによって、金属不純物の精製後のアルカリ水溶液中における、鉄、クロム等の金属不純物の濃度を5ppb以下とすることができる。また、特にイミノジエタノール基を利用することによって、銅及びニッケル等の金属不純物の精製後のアルカリ水溶液中における前記金属不純物の濃度を0.5ppb以下、さらには0.1ppb以下とすることができる。
【0023】
なお、本発明のアルカリ水溶液中のアルカリ成分としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウム、有機アルカリからなる群より選択される少なくとも一種を例示することができる。ここで有機アルカリとして水酸化テトラメチルアンモニウム、コリン及びコリン誘導体(水酸化トリメチルヒドロキシ2−エトキシアンモニウム、水酸化トリメチル2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシアンモニウムなど)が例示できる。例示したアルカリ成分は単独で含むこともできるし、2以上を混合して含むこともできる。また、ここで例示した以外にも強アルカリ水溶液であれば特に限定せずに適用することができる。
【0024】
なお、本発明では、精製に供する材料をカートリッジフィルター状又は膜状に加工して使用することができる。この場合、例えば、50重量%NaOHや50重量%KOHなどの高濃度アルカリを使用した場合、上記材料を例えばビーズ状に形成した場合などにおいては、上記材料を構成する合成樹脂が脱水作用によって例えば30%程度収縮してしまう。したがって、前記材料をカラムなどに充填してアルカリ水溶液の精製に供したような場合において、カラム内に空隙が生じてしまい、アルカリ水溶液が前記材料を介することなく前記空隙を通ってショートパスするようになるので、アルカリ水溶液の精製を十分に行うことができない。
【0025】
一方、上述のように、精製に供する材料をカートリッジフィルター状又は膜状に加工すれば、前者の場合は前記材料がカートリッジフィルターに固定されることにより、後者の場合は膜状の前記材料を所定の方法でカラムに固定する、あるいは収縮度合いを考慮したマージンを有するような大きさに設定することによって、高濃度アルカリを使用した場合でも空隙を生じることなく、アルカリ水溶液の精製を行うことができるようになる。
【0026】
したがって、本発明によれば、低濃度から高濃度(までの任意のアルカリ水溶液の精製を行うことができる。
【0027】
本発明が有効であるアルカリ水溶液の濃度は、水酸化ナトリウムでは0.01〜50重量%、水酸化カリウムでは0.01〜50重量%、炭酸ナトリウムでは0.01〜23重量%、炭酸カリウムでは0.01〜50重量%、炭酸水素ナトリムでは0.01〜8重量%、炭酸水素カリウムでは0.01〜50重量%、アンモニアでは0.01〜30重量%、水酸化テトラメチルアンモニウムでは0.01重量%以上、コリンでは0.01重量%以上の濃度が好ましく、より好ましくは水酸化ナトリウムでは0.1〜50重量%、水酸化カリウムでは0.1〜50重量%、炭酸ナトリウムでは0.1〜23重量%、炭酸カリウムでは0.1〜50重量%、炭酸水素ナトリムでは0.1〜50重量%、炭酸水素カリウムでは0.01〜50重量%、アンモニアでは0.1〜30重量%、水酸化テトラメチルアンモニウムでは0.1重量%以上、コリンでは0.1重量%以上の濃度である。特に、水酸化ナトリウムでは5〜50重量%、水酸化カリウムでは5〜50重量%、炭酸ナトリウムでは5〜23重量%、炭酸カリウムでは5〜50重量%、炭酸水素ナトリムでは5〜8重量%、炭酸水素カリウムでは5〜50重量%、アンモニアでは5〜30重量%、水酸化テトラメチルアンモニウムでは5重量%以上、コリンでは5重量%以上の高濃度領域が好ましく本発明が最も効果を発揮する。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、アルカリ水溶液中に含まれる金属不純物を簡易かつ高い割合で除去し、残留金属不純物を十分に低減することのできる、アルカリ水溶液の精製方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0030】
試料用のアルカリ水溶液として、東ソー社製の48%水酸化ナトリウム水溶液、東亞合成社製の48%水酸化カリウム水溶液を用いて以下の方法で精製した。なお、精製に先立って、以下に詳述するような洗浄操作をも実施した。
【0031】
金属不純物の測定は、ICP−MS(パーキンエルマー社製 ELANDRC−II)により行った。なお、精製に関する以下の実施例及び比較例で使用した処理装置及び処理体は、次の通りである。
【0032】
処理装置:
処理体充填カラム 3/4インチPFAカラム 200mm
(PFA:テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)
試験系及び使用タンクの材質 PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)
【0033】
使用した処理体:
(A)キレート繊維
母材:ポリエチレン
官能基:N−メチルグルカミン基
形状:繊維径 18μm 不織布状
グラフト重合によってポリエチレン繊維にN−メチルグルカミン基を導入
【0034】
(B)弱塩基性陰イオン交換繊維
母材:ポリエチレン
官能基:第3級アミン基
形状:繊維径 18μm 不織布状
グラフト重合によってポリエチレン繊維に第3級アミン基としてイミノジエタノール基を導入
【0035】
(C)キレート樹脂:
メーカー:三菱化学(株)
商品名:ダイヤイオンCRB−02
母材:スチレン
官能基:N−メチルグルカミン基
形状:直径350〜550μmのビーズ状
【0036】
(D)ポリエチレン繊維
母材:ポリエチレン
官能基:なし
形状:繊維径 18μm 不織布状
【0037】
(洗浄に使用した薬品)
アルカリ洗浄液1:48質量%水酸化ナトリウム水溶液(旭硝子株式会社製、商品名:スーパーアルカリ)
アルカリ洗浄液2:2.0Nの水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ洗浄液1と超純水を混合して調製)
アルカリ洗浄液3:48質量%水酸化カリウム水溶液(東亞合成株式会社製、商品名:スーパーカリ)
アルカリ洗浄液4:2.0Nの水酸化カリウム水溶液(アルカリ洗浄液3と超純水を混合して調製)
酸洗浄液1:1.0N(6質量%)硝酸
(70質量%硝酸(関東化学株式会社製;電子工業用グレード)と超純水を混合して調製)
酸洗浄液2:1.0N(4質量%)塩酸
(35質量%塩酸(関東化学株式会社製;特級グレード)と超純水を混合して調製)
【0038】
なお、以下の実施例及び比較例においては、使用した処理体は、上記(A),(B),(C),(D)の略号で表示した。
【0039】
(使用器具等の洗浄)
PTFE製タンク(容積1000ml)、PFA製カラム(φ3/4インチ、長さ200mm)、サンプリング用PE(ポリエチレン)製容器(容積300ml)は全て金属汚染を排除するため予め、1.0N硝酸(酸洗浄液1)で1時間以上浸漬させた後超純水で流水洗浄した。使用した超純水は超純水製造システムで製造された金属含有量が各金属1ppt、Si50ppt、無機炭素10ppb以下のものである。
【0040】
上記洗浄方法で洗浄された器具をPTFE製タンク、PFAカラム、の順にPFA配管で接続した。このシステムに超純水を通水しPFAカラム出口でPE容器に受けた時の試験系ブランクの分析結果を表1に示す。表1から明らかなように、このシステムによる汚染は全くない。
【0041】
(洗浄操作)
以下の洗浄操作で、処理体(A)、(B)、(C)及び(D)中に含まれる金属不純物や合成過程の未反応有機物等を除去した。洗浄操作は、20〜25℃の温度で行った。
【0042】
処理体として(A)、(B)、(C)及び(D)及びをPFAカラム(φ3/4インチ、長さ200mm)に密になるように充填して試験モジュールを作製した。この試験モジュール内に超純水を10mL/minで12時間以上通液し、エア抜き及び不純物の洗浄を行った。
【0043】
(実施例1〜3及び比較例1〜2の洗浄操作)
この超純水洗浄済試験モジュールに、1.0N塩酸(酸洗浄液2)を0.5mL/min(SV=3 1/h)で40mL通液して酸洗浄を行った。試験モジュールから溶液を抜取った後、超純水を10mL/minで供給し、流出水がpH4〜5となるまで通水洗浄した。次いで、2.0N水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ洗浄液2)を0.5mL/min(SV=3 1/h)で40mL通液した。
【0044】
上記処理済試験モジュールに48質量%水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ洗浄液1)を0.5mL/min(SV=3 1/h)で40mL通液した。その後、試験モジュールに超純水を10mL/minで供給し、流出水がpH9〜10となるまで通水洗浄した。
【0045】
そして、上記の1.0N塩酸(酸洗浄液2)、2.0N水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ洗浄液2)、次いで48質量%水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ洗浄液1)を用いた一連の洗浄操作を再度行い、処理体(A)、(B)、(C)及び(D)を得た。
【0046】
(実施例4〜6及び比較例3〜4の洗浄操作)
超純水洗浄済試験モジュールに、1.0N塩酸(酸洗浄液2)を0.5mL/min(SV=3 1/h)で40mL通液して酸洗浄を行った。試験モジュールから溶液を抜取った後、超純水を10mL/minで供給し、流出水がpH4〜5となるまで通水洗浄した。次いで、2.0N水酸化カリウム水溶液(アルカリ洗浄液4)を0.5mL/min(SV=3 1/h)で40mL通液した。
【0047】
上記処理済試験モジュールに48質量%水酸化カリウム水溶液(アルカリ洗浄液3)を0.5mL/min(SV=3 1/h)で40mL通液した。その後、試験モジュールに超純水を10mL/minで供給し、流出水がpH9〜10となるまで通水洗浄した。
【0048】
そして、上記の1.0N塩酸(酸洗浄液1)、2.0N水酸化カリウム水溶液(アルカリ洗浄液4)、次いで48質量%水酸化カリウム水溶液(アルカリ洗浄液3)を用いた一連の洗浄操作を再度行い、処理体(A)、(B)、(C)及び(D)を得た。
【0049】
(実施例1〜6及び比較例1〜4)
PTFE製タンクの内部に試料のアルカリ水溶液を投入した。アルカリ水溶液が投入されたPTFE製タンクと上記洗浄済みの処理体(A)、(B)、(C)または(D)を充填した試験モジュールを1/4インチのPFAチューブで接続し、試験モジュールの出口にサンプル採取用のPE容器を設置した。
【0050】
PTFE製タンクの上部から窒素ガスを導入し、容器内部の圧力を0.2MPaまで加圧し流量調整バルブを操作して試験モジュールの出口から流出するアルカリ水溶液の通液速度を1.7ml/min(SV=10 1/h)以下に調整した。また、この時のアルカリ水溶液の液温は予め20〜25℃に調整した後に使用した。試験モジュールへの通液後のアルカリ水溶液のpHを測定し、供給したアルカリ水溶液と同じ値を示したところで、PE容器でサンプル採取を行った。
【0051】
なお、各実施例及び比較例は以下の条件で行った。
【0052】
実施例1:試験モジュール:処理体(A)、試料:48質量%水酸化ナトリウム水溶液
実施例2:試験モジュール:処理体(B)、試料:48質量%水酸化ナトリウム水溶液
実施例3:試験モジュール:処理体(A)及び処理体(B)の順で直列に接続、
試料:48質量%水酸化ナトリウム水溶液
実施例4:試験モジュール:処理体(A)、試料:48質量%水酸化カリウム水溶液
実施例5:試験モジュール:処理体(B)、試料:48質量%水酸化カリウム水溶液
実施例6:試験モジュール:処理体(A)及び処理体(B)の順で直列に接続、
試料:48質量%水酸化カリウム水溶液
比較例1:試験モジュール:処理体(C)、試料:48質量%水酸化ナトリウム水溶液
比較例2:試験モジュール:処理体(D)、試料:48質量%水酸化ナトリウム水溶液
比較例3:試験モジュール:処理体(C)、試料:48質量%水酸化カリウム水溶液
比較例4:試験モジュール:処理体(D)、試料:48質量%水酸化カリウム水溶液
【0053】
上記実施例1〜6及び比較例1〜2で処理を行ったアルカリ水溶液サンプルは、ICP−MSにより金属量の分析を行った。金属分析項目は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの製造過程で使用するステンレス部材から混入すると考えられるクロム、鉄、ニッケル、銅とした。ICP−MSによる分析では、分析機導入前の処理として必要に応じて固相抽出法によるナトリウム及びカリウム成分の除去を行った。
【0054】
上記実施例1〜6及び比較例1〜4で得られた結果を表2及び表3に示す。
【0055】
実施例1において、48質量%水酸化ナトリウムを、処理体(A)を充填した試験モジュールに通液接触した結果、鉄、ニッケル及銅を効果的に除去することができた。またクロムも減少していることを確認した。
【0056】
実施例2において、48質量%水酸化ナトリウムを、処理体(A)を充填した試験モジュールに通液接触した結果、実施例1と比べニッケル及銅をより効果的に除去することができた。しかし、クロムと鉄の減少は確認できなかった。
【0057】
実施例3において、処理体(A)及び処理体(B)を充填した試験モジュールを順に直列接続し、48質量%水酸化ナトリウムを通液接触した結果、実施例1及び実施例2と比べニッケル及銅をより効果的に除去することができた。また、クロムと鉄は実施例1と同様の減少傾向が確認された。
【0058】
実施例4において、48質量%水酸化カリウムを、処理体(A)を充填した試験モジュールに通液接触した結果、鉄、ニッケル及銅を効果的に除去することができた。またクロムも減少していることを確認した。
【0059】
実施例5において、48質量%水酸化カリウムを、処理体(A)を充填した試験モジュールに通液接触した結果、実施例1と比べニッケル及銅をより効果的に除去することができた。しかし、クロムと鉄の減少は確認できなかった。
【0060】
実施例6において、処理体(A)及び処理体(B)を充填した試験モジュールを順に直列接続し、48質量%水酸化カリウムを通液接触した結果、実施例4及び実施例5と比べニッケル及銅をより効果的に除去することができた。しかし、クロムと鉄は実施例4と同様の減少傾向が確認された。
【0061】
比較例1において、クロム、鉄、ニッケル及銅の低減は確認されたが、十分な結果が得られなかった。
【0062】
比較例2において、金属の除去効果が確認されなかった。
【0063】
比較例3において、クロム、鉄、ニッケル及銅の低減は確認されたが、十分な結果が得られなかった。
【0064】
比較例4において、金属の除去効果が確認されなかった。
【0065】
ここで、処理体(A)のN−メチルグルカミン基を有するキレート繊維は、従来ホウ素等の半金属を特異的に捕捉することが知られている。しかし実施例では、クロム、鉄、ニッケル及び銅の捕捉性能が確認されたため、48質量%水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液の合成過程で混入するこれらの重金属は、水溶液中の半金属の存在形態と類似したオキソ酸や水酸化物として存在し、それぞれキレート反応や水素結合性の吸着作用によって捕捉されたと推測される。
【0066】
一方、処理体の(B)イミノジエタノール基を有する弱塩基性陰イオン交換繊維は、水酸化物アニオンとして存在する金属を静電気的に吸着する作用とアミン部のドナー性によるキレート作用によってニッケル及び銅を特異的に捕捉していると考えられる。
【0067】
また、処理体(C)の様にビーズ状の形態では、処理体(A)と同様の官能基であるが、重金属の捕捉性能は著しく低下している。この理由として、処理体(C)のビーズ状の形態では、高濃度アルカリ水溶液と接触した時に発生する強力な浸透圧の作用によって、処理体(C)が収縮し、試験モジュール内に空隙が発生したため処理対象のアルカリ水溶液がショートパスし、効率よく接触しなかったと考えられる。また、処理体(A)及び(B)の様な繊維状の形態は、金属と表層によって接触することができるが、処理体(C)のビーズ状の形態では、除去すべき金属が内部へ拡散しなければ十分に接触することができないことも効率に金属の捕捉ができなかった要因と考えられる。
【0068】
なお、比較例2及び4で示される様に処理体(D)ではポリエチレン繊維に官能基を導入していないため、金属の捕捉性能がないことがわかる。
【0069】
以上の結果より、本発明で用いた処理体(A)及び(B)の様に繊維状の形態であれば、48質量%水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液の様に粘度が高く塩を多量に含む水溶液でも効率的に重金属を捕捉することができる。また、実施例3及び6で示された様に、処理体(A)及び(B)を組み合わせることで、よりニッケルや銅を低減させることが可能となった。なお、特に例示しないが、他の強アルカリ水溶液でも本発明と同様の効果が得られる。
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属不純物を含むアルカリ水溶液を、繊維状の弱塩基性陰イオン交換体及びキレート化材の少なくとも一方の材料に接触させ、前記アルカリ水溶液から前記金属不純物を除去することを特徴とする、アルカリ水溶液の精製方法。
【請求項2】
前記繊維状の弱塩基性陰イオン交換体及びキレート化材は、N−メチルグルカミン基及びイミノジエタノール基を含むことを特徴とする、請求項1に記載のアルカリ水溶液の精製方法。
【請求項3】
前記繊維状の弱塩基性陰イオン交換体の官能基がイミノジエタノール基、前記キレート化材の官能基がN−メチルグルカミン基であることを特徴とする、請求項2に記載のアルカリ水溶液の精製方法。
【請求項4】
前記繊維状の弱塩基性陰イオン交換体及びキレート化材は、前記弱塩基性陰イオン交換体及びキレート化材の不織布であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載のアルカリ水溶液の精製方法。
【請求項5】
前記材料はカートリッジフィルター状又は膜状に加工して使用することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載のアルカリ水溶液の精製方法。
【請求項6】
前記アルカリ水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウム、有機アルカリからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ成分を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載のアルカリ水溶液の精製方法。
【請求項7】
前記金属不純物は、鉄、ニッケル、銅及びクロムなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載のアルカリ水溶液の精製方法。
【請求項8】
前記金属不純物の精製後の前記アルカリ水溶液中における前記金属不純物の濃度が5ppb以下であることを特徴とする、請求項7に記載のアルカリ水溶液の精製方法。
【請求項9】
前記金属不純物は銅及びニッケルの少なくとも一方であって、前記金属不純物の精製後の前記アルカリ水溶液中における前記金属不純物の濃度が0.5ppb以下であることを特徴とする、請求項7に記載のアルカリ水溶液の精製方法。
【請求項10】
前記アルカリ水溶液の流量SVを10(1/h)以上とすることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一に記載のアルカリ水溶液の精製方法。

【公開番号】特開2011−51833(P2011−51833A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202257(P2009−202257)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)