説明

アルカリ溶液中からの白金の回収方法

【課題】少なくとも白金を溶解、含有しているアルカリ溶液から、白金を効果的に回収する方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも白金を溶解、含有しているアルカリ溶液を、スルホン酸基を有する強酸性カチオン交換樹脂に接触させることにより、かかるアルカリ溶液中の白金を、強酸性カチオン交換樹脂に吸着せしめて、アルカリ溶液中から分離するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ溶液中からの白金の回収方法に係り、特に、アルカリ性の白金めっき液の老廃液等から、白金を効果的に回収することの出来る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、産業活動に際して排出される各種の混合廃棄物や混合廃液から、有用な成分を分離して、回収することが、有効資源のリサイクルや環境保全の面から、強く要望されるようになって来ている。特に、装飾品や歯科材料としてのみならず、電子材料、半導体部品材料、触媒材料等としても重要である貴金属は、産出量が少なく高価であるところから、従来より、一般的に、産業廃棄物や廃液からの回収・再利用が行なわれて来ている。
【0003】
より具体的には、そのような貴金属のうち、白金は、その優れた化学的安定性等の特徴により、従来から、電極、電気接点、触媒、温度測定、巻線、るつぼ、めっき、装飾品等の構成材料として用いられて来ており、そして、そのような各種の分野において、その製造工程中に発生する廃液や、使用済みの廃棄物等の中から、そこに含まれる白金を回収する方法が、種々提案されている。
【0004】
例えば、特開2002−212650号公報においては、チタン製の電極基材上に白金族金属酸化物を含む電極物質の被覆層が設けられた不溶性金属電極からの白金族金属の回収方法として、電極基材から剥離した白金族金属酸化物を含む被覆層を、還元性雰囲気中において加熱することにより、白金族金属成分を金属に還元し、それをハロゲン化アルカリと混合して、塩素ガスと反応させると共に、水に溶解し、次いで不純物をろ過除去した後、重金属、アルカリ金属成分を分離除去する方法が提案されており、また、特開2003−129145号公報においては、記録媒体用磁性薄膜又は半導体材料等の特定の薄膜を形成する際に使用されるスパッタリング用白金及び白金含有ターゲットの製造工程等において発生する、白金含有端材、切削屑、平研屑(研削屑)等のスクラップから、白金及び白金含有ターゲットに再使用出来る高純度白金を高収率で回収する方法として、白金含有スクラップを酸で溶解し、残渣を除去した後、塩化アンモニウム溶液と反応させて、塩化白金酸アンモニウムとして回収する一方、液に残存する白金を活性炭により吸着回収する方法が、提案されている。更に、特開2004−131745号公報においては、自動車排ガス処理触媒等の各種の使用済み廃触媒等からの白金の回収方法として、白金族元素と不純物元素を含む塩化物溶液を、ポリアミン型アニオン交換樹脂と接触させることにより白金族元素を選択的に吸着させ、吸着処理後の樹脂を洗浄処理することにより、かかる洗浄処理後の樹脂から白金族元素を溶離させる方法が、明らかにされている。
【0005】
このように、白金の回収方法として、種々の技術が提案され、また実用化されて来ているのであるが、そのような白金の回収方法は、何れも、限られた用途における白金含有廃棄物を対象としており、例えば、電極基材上の被覆層中の白金の回収方法、スパッタリングターゲット中の白金の回収方法、自動車排ガス処理触媒中の白金の回収方法等として、それぞれの廃棄物中の白金の含有形態、濃度、不純物の種類等に応じて、個々に開発されたものであって、それを、他の過程で発生する白金含有廃棄物や廃液に対して、そのまま適用し得るようなものではない。
【0006】
ところで、そのような種々の白金含有廃棄物(廃液)のうち、特に、アルカリ性の白金めっき液の老廃液等として発生する白金含有アルカリ溶液にあっては、これまで、かかるアルカリ溶液中に溶解、含有している白金について、その回収は行なわれて来ておらず、専ら焼却処理による処分が行なわれている。これは、かかる白金めっき液の老廃液中に残存する白金の濃度が低く、比較的残存量が少ないものであり、また適当な回収方法もなかったためである。
【0007】
しかしながら、近年、世界的な排出ガス規制等により、自動車用触媒としての白金の使用量が増大しており、また携帯電話やハードディスク、液晶ディスプレイ等の電気電子材料への白金の使用も増えて来ていることから、白金の需要量が急増しており、またそれに伴ない価格も上昇して来ている状況にある。そして、かかる状況下、上述のようなめっきの老廃液等として発生するアルカリ溶液中の白金にあっても、効果的に白金を回収するための方法の開発が、強く望まれて来ている。
【0008】
【特許文献1】特開2002−212650号公報
【特許文献2】特開2003−129145号公報
【特許文献3】特開2004−131745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、少なくとも白金を溶解、含有しているアルカリ溶液から、白金を効果的に回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明は、かかる課題の解決のために、少なくとも白金を溶解、含有しているアルカリ溶液を、スルホン酸基を有する強酸性カチオン交換樹脂に接触させることにより、かかるアルカリ溶液中の白金を該強酸性カチオン交換樹脂に吸着せしめて、該アルカリ溶液中から分離することを特徴とするアルカリ溶液中からの白金の回収方法を、その要旨とするものである。
【0011】
なお、このような本発明に従うところのアルカリ溶液中からの白金の回収方法の望ましい態様の一つによれば、前記白金は、錯陽イオンとして、アルカリ溶液中に溶解されている。
【0012】
また、本発明に従うアルカリ溶液中からの白金の回収方法の他の望ましい態様の一つによれば、前記スルホン酸基を有する強酸性カチオン交換樹脂は、100〜1000Åの細孔を有するマクロポーラス樹脂である。
【0013】
さらに、本発明にあっては、前記スルホン酸基を有する強酸性カチオン交換樹脂への白金の吸着の後、該強酸性カチオン交換樹脂を焼却し、そしてその得られた焼却物を王水に溶解して、還元処理又は塩化アンモニウムを添加することにより、白金を塩化アンモニウム塩として回収することを特徴とするアルカリ溶液中からの白金の回収方法をも、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明に従うアルカリ溶液中からの白金の回収方法にあっては、少なくとも白金を溶解、含有しているアルカリ溶液を、特定の強酸性カチオン交換樹脂に接触させて、吸着せしめるようにするものであるところから、アルカリ溶液中から、そこに溶解、含有している白金を有利に分離・回収することが可能となる。
【0015】
また、本発明に従うアルカリ溶液中からの白金の回収方法にあっては、かかる強酸性カチオン交換樹脂による白金の吸着は、選択的に行なわれるものであるところから、白金の回収が有利に効率的に且つ高収率で行なわれ得るという利点を有し、またそのような吸着は、少なくとも白金を含有するアルカリ溶液を、強酸性カチオン交換樹脂に対して接触させるだけで、容易に且つ低エネルギーにて行なわれ得るものであるところから、経済的にも極めて有利であるという利点をも有するのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
ところで、本発明において白金の回収の対象とされる廃棄物(廃液)としては、少なくとも白金を溶解、含有しているアルカリ溶液であれば、特に限定されるものではなく、本発明は、例えば、白金めっき液の老廃液等に対して、好適に適用され得るものである。そして、前述したように、そのような、従来、白金の回収の行なわれていなかったアルカリ性の白金めっき液の老廃液等に対して、本発明を適用することにより、かかるアルカリ溶液中に残存する白金の有効な分離が可能となるのであり、以て、高価で且つ工業的に重要な白金の回収が、有利に実現されることとなるのである。
【0017】
そして、そのような、少なくとも白金を溶解、含有しているアルカリ溶液中において、白金は、どのような形態で溶解されていてもよく、特に限定されるものではないが、本発明にあっては、好ましくは、錯陽イオンとして、又は非電解質錯塩としてアルカリ溶液中に溶解されていることが好ましい。そのような形態で白金が溶解されていることにより、後述する強酸性カチオン交換樹脂への白金の吸着が、有利に行なわれ得るのであり、以て、目的とするアルカリ溶液中からの白金の分離・回収が効果的に実現され得ることとなるのである。
【0018】
なお、そのような白金の錯陽イオンとしては、例えば、[Pt(NH34 ]Cl2 、[Pt(NH36 ]Cl4 、[Pt(NH33 Cl]Cl、[Pt(NH33 Cl3 ]Cl、[Pt(NH2 CH2 CH2 NH22 ]Cl2 、[Pt{(NH22 CS}4 ]Cl2 、[Pt(NH34 ]SO4 、[Pt(NH34 ](NO32 等の白金の錯塩が、アルカリ溶液中に溶解することにより、生じるもの等を挙げることが出来るが、それら例示のものに何等限定されるものではなく、また、それらは、アルカリ溶液中において、それぞれ単独で溶解されていても、或いは二種以上の組合せにおいて溶解されていてもよい。また、前記非電解質錯塩としては、アルカリ性の白金めっき液原料としてよく知られている、Pt(NH32 (NO22 (ジニトロジアミノ白金)等を例示することが出来る。
【0019】
また、本発明にあっては、かかるアルカリ溶液中に溶解している白金の濃度も、特に限定されるものではないが、一般に、白金が、0.1〜100ppmの濃度において、特に、0.1〜50ppmの濃度において溶解せしめられているものが、有利にその対象とされることとなる。そして、本発明にあっては、このように比較的低濃度において白金が溶解、含有している場合であっても、かかる白金の回収が、有利に効率よく且つ高収率において実現され得るのである。即ち、例えば、少なくとも白金を溶解、含有しているアルカリ溶液のうち、アルカリ性の白金めっき老廃液にあっては、通常、比較的低濃度の白金が、アミン塩、Naイオン(濃度:0.5〜1.0%)等と共に溶解しているのであるが、本発明に従うアルカリ溶液中からの白金の回収方法にあっては、そのような種々の成分と共にアルカリ溶液(廃液)中に存在している白金が、選択的に強酸性カチオン交換樹脂に吸着せしめられることとなるところから、かかるアルカリ溶液(廃液)中における白金の濃度が比較的低い場合であっても、効率よく、且つ高純度にて、その回収を実施することが可能となるのである。
【0020】
さらに、本発明において白金の回収の対象とされる白金含有廃棄物(廃液)等は、アルカリ性のものがその対象とされ、一般に、pH=8〜14の範囲内のものが、特に有利には、pH=10〜12の範囲内のものが、その対象とされることとなる。このように、本発明に従うアルカリ溶液中の白金の回収方法にあっては、かかる白金が溶解、含有されている溶液は、アルカリ性であれば、一般に、その略全アルカリ領域の白金含有廃液が、その対象とされ得るのである。従って、本発明における白金の回収方法において、白金の樹脂への吸着操作に先立って、通常、pH調整等の操作は何等必要とされることなく、白金含有廃液として発生したアルカリ溶液を、そのpHに拘わらず、そのまま、強酸性カチオン交換樹脂に対して接触せしめるだけの操作で、容易にその分離・回収を行なうことが出来るのである。そして、本発明における白金の回収方法は、そのような簡易な操作で実施可能な方法であるところから、回収過程における白金のロスの低減、回収操作の時間短縮という、経済的に有利な効果をも、奏するのである。
【0021】
そして、本発明のアルカリ溶液中からの白金の回収方法に従って、アルカリ性の白金めっき老廃液等のアルカリ溶液中から、白金を回収するに際しては、先ず、上記したような少なくとも白金を溶解、含有しているアルカリ溶液を、スルホン酸基を有する強酸性カチオン交換樹脂に接触せしめることとなる。そこにおいて、スルホン酸基を有するカチオン交換樹脂とは、イオン交換基としてスルホン酸基を有する樹脂であれば、特に限定されるものではない。
【0022】
具体的には、例えば、そのようなスルホン酸基を有する強酸性カチオン樹脂の樹脂基体としては、ポリスチレンスルホン酸型樹脂、スルホン化ポリスチレン−ジビニルベンゼン樹脂、フェノールスルホン酸樹脂、パーフルオロスルホン酸樹脂等の従来から公知のものの中から、目的に応じて適宜に選択することが出来、その中でも、架橋ポリスチレンのベンゼン核にスルホン酸基が導入された構造を有する、ポリスチレンスルホン酸型樹脂が、物理的・化学的安定性に優れた強酸性カチオン交換樹脂としてよく知られており、本発明においても、好適に用いられ得る。
【0023】
また、そのようなスルホン酸基を有する強酸性カチオン交換樹脂のイオン型としては、一般によく知られている、H型(−SO3 H)やNa型(−SO3 Na)等のものが、何れも採用可能であり、回収対象となるアルカリ性白金含有廃液の種類に応じて、適宜に選定されることとなる。
【0024】
さらに、かかる強酸性カチオン交換樹脂の樹脂基体の性状としては、一般に、ミクロポアのみを有するゲル型の樹脂基体と、ミクロポア及びマクロポアを有するマクロポーラス型の樹脂基体とが知られているが、本発明においては、かかる樹脂基体の性状は、特に限定されるものではなく、ゲル型及びマクロポーラス型の何れもが、採用可能である。なお、マクロポーラス樹脂は、表面積(接触面積)が大きいため、反応速度(交換速度)が速く、またマクロポア内を分子が拡散し、大きな分子でも、効率良く反応が行なわれる等の特徴を有するため、本発明にあっては好ましく用いられ、その中でも、100〜1000Åの細孔を有するものが、より好ましく用いられる。なお、かかる細孔が100Åよりも小さい場合には、白金と樹脂表面上に存在するスルホン酸基との接触面積が小さくなり、交換速度が遅くなるため望ましくなく、また1000Åよりも大きい場合には、容積当たりの交換容量が減少するため望ましくない。
【0025】
なお、そのようなスルホン酸基を有するマクロポーラス型の強酸性カチオン交換樹脂としては、ピュロライトCT175(Purolite International Ltd. 製)、ダイヤイオンPK208(三菱化学株式会社製)、ダウエックス88(ダウ・ケミカル社製)、アンバーライト200(ローム・アンド・ハース社製)、デュオライト(ローム・アンド・ハース社製)等の商品名にて市販されているものを容易に入手することが可能であり、本発明にあっては、そのような市販のものが、何れも、採用可能である。
【0026】
そして、本発明に従って、アルカリ溶液中の白金を回収するに当たっては、かかるスルホン酸基を有する強酸性カチオン交換樹脂に対して、前述したような少なくとも白金を溶解、含有しているアルカリ溶液を接触せしめることにより、白金を、樹脂に吸着せしめるようにするのであるが、そこにおいて、かかる吸着操作は、白金を含有するアルカリ溶液を、強酸性カチオン交換樹脂と共に、反応容器中で撹拌することにより白金を樹脂に接触せしめて吸着を行なうバッチ方式、或いは強酸性カチオン交換樹脂をカラムに充填し、そこに白金を含有するアルカリ溶液を通液することにより白金を樹脂に接触せしめて吸着を行なうカラム方式の何れの方式でもよく、目的に応じて適宜に選択されることとなるが、本発明にあっては、特に、イオン交換効率が高い点や大型化・工業化に有利である等の点から、カラム方式がより有利に採用される。
【0027】
なお、本発明にあっては、かかる吸着操作は、一般に、常温において行なわれ、特に好ましくは室温〜60℃にて実施されることとなるが、特にこれに限定されるものではない。このように、本発明にあっては、加熱や冷却等の温度制御を何等必要とすることなく、低エネルギーな操作において、その分離・回収が行なわれ得るものであるところから、本発明に従うアルカリ溶液中からの白金の回収方法にあっては、その回収を、経済的に有利に実施することが出来、また環境に対する負荷も少ないという特徴をも有しているのである。
【0028】
そして、上述したような少なくとも白金を溶解、含有しているアルカリ溶液と、かかるスルホン酸基を有する強酸性カチオン交換樹脂とが接触せしめられると、例えば、以下のような交換反応が起こることにより、強酸性カチオン交換樹脂に、白金が吸着せしめられることとなる。なお、下記化学式において、polystyrene−SO3 Hは、ポリスチレンスルホン酸型の強酸性カチオン交換樹脂を表しており、また[Pt(NH34 ]Cl2 は、[Pt(NH342+の白金錯陽イオンと2Cl- との塩を表している。
2polystyrene−SO3 H + [Pt(NH34 ]Cl2
→(polystyrene−SO32 [Pt(NH34 ] + 2HCl
【0029】
このように、スルホン酸基を有する強酸性カチオン交換樹脂に対して、少なくとも白金を含有しているアルカリ溶液を接触させると、例えば、上記に示すように、アルカリ溶液中に、他の不純物と共に溶解していた白金が、強酸性カチオン交換樹脂のスルホン酸基のイオン交換基(上記化学式においては、H)とイオン交換する結果、樹脂に吸着せしめられるのである。そして、そのような吸着反応は、複雑な操作や制御を何等必要とすることなく、極めて簡易な設備及び操作にて行なわれ得るため、経済的に有利であるという特徴を有しているのである。更に、本発明に従う白金の回収方法にあっては、従来、白金の回収に際して一般的に使用することが必要とされている追加の薬剤等を、何等使用する必要がないため、環境にも優しい方法であるという利点をも有しているのである。
【0030】
そして、上述の如くして強酸性カチオン交換樹脂に吸着されて、アルカリ溶液中から分離・回収された白金は、更にかかる樹脂から分離されることにより、種々の用途において再利用が可能なものとなる。なお、かかる樹脂に吸着された白金を、更に樹脂から分離せしめるための方法は、特に限定されるものではなく、従来から公知の手法の中から、目的に応じて適宜に選択されることとなるのであるが、好ましくは、以下のようにして、行なうこととなる。
【0031】
すなわち、前記スルホン酸基を有する強酸性カチオン樹脂への白金の吸着の後、かかる強酸性カチオン交換樹脂を焼却し、そしてその得られた焼却物を王水に溶解して、還元処理することにより、白金を金属白金として回収するか、或いは塩化アンモニウムを添加することにより、白金を塩化アンモニウム塩として回収することとなる。
【0032】
具体的には、先ず、前述のようにして白金を吸着した強酸性カチオン交換樹脂を電気炉内にて、600〜900℃にて焼却(焙焼)し、そして、その得られた焼却物の1重量部に対して、5〜10重量部の王水を加え、60〜100℃に加熱して、白金を、塩化白金酸(H2 PtCl6 )として溶解する。
【0033】
その後、かかる塩化白金酸が溶解した王水に対して、還元処理又は塩化アンモニウム添加による処理を行なうこととなる。そこにおいて、還元処理を行なう場合には、塩化白金酸が溶解した王水に対して、適当量の還元剤を添加することにより行なうこととなるのであるが、本発明にあっては、かかる還元剤は、特に限定されるものではなく、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、ホルムアルデヒド、ギ酸、ヒドラジン、水酸化ホウ素ナトリウム、硫酸第一鉄等の従来から公知の還元剤が、何れも用いられ得る。そして、そのような還元剤を、20〜40℃に加熱した塩化白金酸溶液に対して、所定量添加し、10〜30分間反応を行った後、ろ過することにより、金属白金を得ることとなる。
【0034】
一方、塩化アンモニウム添加により処理する場合には、前記塩化白金酸が溶解した王水に対して、約30〜40g/Lの濃度を有する塩化アンモニウム溶液を添加することにより、白金の塩化アンモニウム塩である塩化白金酸アンモニウム((NH42 PtCl6 )を得ることとなる。なお、かかる塩化白金酸アンモニウムは高純度の結晶として得られ、更に500〜1000℃程度で焼成することにより、金属白金として回収することも出来る。このように、塩化白金酸アンモニウムを経て金属白金として回収することにより、より一層純度の高い白金が、有利に回収され得ることとなる。
【0035】
以上のようにして強酸性カチオン交換樹脂から分離された金属白金又は塩化白金酸アンモニウムは、種々の用途において再利用が可能なものであり、例えば、アルカリ性のめっき老廃液から回収された白金は、アルカリ性の白金めっき用材料として、有利に再利用され得るのである。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0037】
−実施例1−
先ず、ガラス製の円筒カラム(外径:14mm×長さ:300mm、内径:12mm)に、マクロポーラス型強酸性カチオン交換樹脂として、ピュロライトCT175(Purolite International Ltd. 製)を5ml充填した後、ジニトロジアミノ白金を14ppmで含むアルカリ性の白金めっき老廃液を、室温にて、100ml/hの流速において通液した。樹脂体積に対する通液量(BV)における白金吸着率[Pt(C0):通液前の白金濃度、Pt(C):通液後の白金濃度]の結果を図1に、通液量:200(BV)における白金吸着率の結果を下記表1に示す。
【0038】
−実施例2−
マクロポーラス型強酸性カチオン交換樹脂に代えて、ゲル型強酸性カチオン交換樹脂として、ダイヤイオンSK−1B(三菱化学株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、白金めっき老廃液の通液を行なった。通液量に対する白金吸着率の結果を図1に、通液量:200(BV)における白金吸着率の結果を下記表1に示す。
【0039】
−比較例1−
【0040】
マクロポーラス型強酸性カチオン交換樹脂に代えて、弱酸性カチオン交換樹脂として、ピュロライトC106(Purolite International Ltd. 製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、白金めっき老廃液の通液を行なった。通液量に対する白金吸着率の結果を図1に、通液量:200(BV)における白金吸着率の結果を下記表1に示す。
【0041】
−比較例2−
強酸性カチオン交換樹脂に代えて、弱塩基性アニオン交換樹脂(Purolite International Ltd. 製、ピュロライトA−830)を用いた以外は、実施例1と同様にして、白金めっき老廃液の通液を行なった。通液量に対する白金吸着率の結果を、図1及び下記表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
図1及び表1の結果より明らかなように、マクロポーラス型強酸性カチオン交換樹脂を用いた場合には、白金を低濃度(14ppm)で含むアルカリ溶液について、通液量:2500(BV)辺りまで、またゲル型強酸性カチオン交換樹脂を用いた場合には、通液量:2100(BV)辺りまで、白金を約90%の割合で吸着(回収)することが出来た。
【0044】
一方、強酸性カチオン交換樹脂に代えて、弱酸性カチオン交換樹脂を用いた場合には、白金を約90%の高収率で回収することの出来る通液量は、約1400(BV)と、マクロポーラス型強酸性カチオン交換樹脂や、ゲル型カチオン交換樹脂に比して低い値となった。また、弱塩基性アニオン交換樹脂を使用した場合には、通液量:200(BV)において、白金の吸着率は僅か7%であり、白金の効果的な分離・回収を行なうことは出来なかった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】樹脂体積に対する通液量(BV)における白金吸着率[Pt(C0):通液前の白金濃度、Pt(C):通液後の白金濃度]を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも白金を溶解、含有しているアルカリ溶液を、スルホン酸基を有する強酸性カチオン交換樹脂に接触させることにより、かかるアルカリ溶液中の白金を該強酸性カチオン交換樹脂に吸着せしめて、該アルカリ溶液中から分離することを特徴とするアルカリ溶液中からの白金の回収方法。
【請求項2】
前記白金が、錯陽イオン又は非電解質錯塩として、アルカリ溶液中に溶解されていることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ溶液中からの白金の回収方法。
【請求項3】
前記スルホン酸基を有する強酸性カチオン交換樹脂が、100〜1000Åの細孔を有するマクロポーラス樹脂であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアルカリ溶液中からの白金の回収方法。
【請求項4】
前記スルホン酸基を有する強酸性カチオン交換樹脂への白金の吸着の後、該強酸性カチオン交換樹脂を焼却し、そしてその得られた焼却物を王水に溶解して、還元処理することにより、白金を金属白金として回収するか、又は塩化アンモニウムを添加することにより、白金を塩化アンモニウム塩として回収することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載のアルカリ溶液中からの白金の回収方法。


【図1】
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