説明

アルカリ蓄電池用負極材料およびアルカリ蓄電池

【課題】充放電の繰返しによる新生面の発生とその腐食という従来の課題を解決し、良好な高温寿命特性を発揮できるアルカリ蓄電池用負極材料およびアルカリ蓄電池を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のアルカリ蓄電池用負極材料は、水素吸蔵合金粉末と融点が1500℃以上の金属酸化物とを複合化したものであって、水素吸蔵合金粉末の平均粒径を10nm〜100nmとし、さらに金属酸化物によって複数の水素吸蔵合金粉末を一体化し、粒子状としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素吸蔵合金を含むアルカリ蓄電池用負極材料に関し、より詳しくは金属酸化物の活用と新たな複合化形態による特性改善に関する。
【背景技術】
【0002】
近年アルカリ蓄電池は電気自動車などの動力電源として注目を集めており、出力特性や保存特性の向上に対する要望は大きい。中でも水素吸蔵合金粉末を負極材料として用いるニッケル水素蓄電池は、水素を可逆的に吸蔵放出する反応を活用して充放電を行うので、ニッケルカドミウム蓄電池より理論容量が大きく、ニッケル亜鉛蓄電池のようにデンドライト形成による内部短絡の心配もない。実用的な理論容量と寿命特性とを兼ね備えた水素吸蔵合金粉末として、例えばMmNi5(Mmは希土類元素の混合物)のNiの一部をCo、Mn、Al、Cuなどで置換した合金のように、主にCaCu5型の結晶構造を有する水素吸蔵合金が用いられている。
【0003】
長寿命化に対する水素吸蔵合金の劣化モードの一つに、正極からの発生酸素や電解液中の残存酸素による酸化がある。この劣化を抑制する試みとして、水素吸蔵合金の表面に、酸素分子を原子状酸素に分解する触媒活性を有する導電性酸化物を存在させる方法が提案されている(例えば特許文献1)。この方法と併せて、水素吸蔵合金粒子内の結晶子サイズを小さくして合金粒子に多数の割れを発生させることにより表面積を大きくし、活性点の数を多くして初期出力特性を向上させる方法(例えば特許文献2参照)を活用できれば、電気自動車などの動力電源として魅力ある特性を得ることができると考えられる。
【特許文献1】特開平08−170129号公報
【特許文献2】特開平06−111815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水素吸蔵合金粉末は充放電を繰り返すことにより微粉化するという性質を有する。しかるに特許文献1の方法では微粉化による新たな面(以下、新生面と称す)に対する対処がなされていないので、特に高温下において寿命特性が十分ではない。このような状況下で特許文献2の方法を併用しても、長期に亘り良好な電池特性を発揮させるのは困難である。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためのものであり、充放電の繰返しによる新生面の発生とその腐食という従来の課題を解決し、良好な高温寿命特性を発揮できるアルカリ蓄電池用負極材料およびアルカリ蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のアルカリ蓄電池用負極材料は、水素吸蔵合金粉末と融点が1500℃以上の金属酸化物とを複合化したものであって、水素吸蔵合金粉末の平均粒径を10nm〜100nmとし、金属酸化物によって複数の水素吸蔵合金粉末を一体化し、粒子状としたことを特徴とする。
【0007】
本発明のアルカリ蓄電池用負極材料は表面に金属酸化物を配置した複数個の水素吸蔵合金粉末を一体化したものである。水素吸蔵合金粉末の表面に配置された金属酸化物は水素吸蔵合金粉末の腐食を抑制するとともに、水素吸蔵合金粉末のさらなる微粉化を抑止する効果を有する。水素吸蔵合金粉末のさらなる微粉化を抑止できるのは、水素吸蔵合金粉末が予めナノサイズに調整されておりさらなる微粉化が起きにくくなっている一方で、複数
個の水素吸蔵合金粉末を一体化する過程で金属酸化物が周辺の水素吸蔵合金粉末を包括して微粉化し難くしているためと推測している。このような効果を金属酸化物に持たせるためには、一体化の過程で発生する熱に耐えうる性質(耐熱性)が必要であり、具体的には融点が1500℃以上である必要がある。このようなアルカリ蓄電池用負極材料はさらなる微粉化による新生面の発生を免れるため、アルカリ蓄電池の高温寿命特性を高めることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアルカリ蓄電池用負極材料は、充放電の繰返しによる新生面の発生とその腐食という従来の課題が解決できるので、良好な高温寿命特性を発揮できるアルカリ蓄電池を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図を用いて説明する。
【0010】
第1の発明は、水素吸蔵合金粉末と融点が1500℃以上の金属酸化物とを複合化したものであって、水素吸蔵合金粉末の平均粒径を10nm〜100nmとし、金属酸化物によって複数の水素吸蔵合金粉末を一体化し、粒子状としたことを特徴とするアルカリ蓄電池用負極材料に関する。
【0011】
図1は本発明のアルカリ蓄電池用負極材料の表面近傍を表す模式断面図である。複数個の水素吸蔵合金粉末1の表面に1500℃以上の融点を有する金属酸化物2が配置され、かつ一体化されて本発明のアルカリ蓄電池用負極材料が構成されている。水素吸蔵合金粉末1の表面に配置された金属酸化物2は水素吸蔵合金粉末1の腐食を抑制するとともに、水素吸蔵合金粉末1のさらなる微粉化を抑止する効果を有する。水素吸蔵合金粉末1のさらなる微粉化を抑止できるのは、水素吸蔵合金粉末1が予めナノサイズに調整されておりさらなる微粉化が起きにくくなっている一方で、複数個の水素吸蔵合金粉末1を一体化する過程で金属酸化物2が周辺の水素吸蔵合金粉末1を包括して微粉化し難くしているためと推測している。このような効果を金属酸化物2に持たせるためには、一体化の過程で発生する熱に耐えうる性質(耐熱性)が必要であり、具体的には融点が1500℃以上である必要がある。このようなアルカリ蓄電池用負極材料はさらなる微粉化による新生面の発生を免れるため、アルカリ蓄電池の高温寿命特性を高めることができる。
【0012】
また金属酸化物2の間には粒界3が存在しているが、本発明においては水素吸蔵合金粉末1が小さいために粒界3を多く設けることができる。アルカリ蓄電池の充電反応に相当する水素吸蔵放出反応は、電解液中のプロトンが水素吸蔵合金粉末1の表面を介して内部に拡散される反応であるが、本発明においては粒界3が多く設けられているので、金属酸化物2が水素吸蔵合金粉末1の腐食を防ぐ一方で水素吸蔵放出反応は円滑に行われる。
【0013】
このようなアルカリ蓄電池用負極材料として好適な平均粒径は15〜35μmである。平均粒径が15μmを下回ると、極板形成のためにペースト化する際、ペースト性状が変化しバラツキが増加し、信頼性が低下する。35μmを上回ると電池特性において、抵抗成分が増加し、出力がやや低下するので好ましくない。
【0014】
ここで水素吸蔵合金粉末1の平均粒径が10nmを下回ると、水素吸蔵放出機能が不十分となって電池諸特性の低下を招く。逆に水素吸蔵合金粉末1の平均粒径が100nmを上回ると、膨張収縮による内部応力を吸収できずに、微粉化が顕著になる。なお水素吸蔵合金粉末1の平均粒径については、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察や透過電子顕微鏡(TEM)にて10万倍以上の倍率で確認できる。
【0015】
第1の発明のアルカリ蓄電池用負極材料を形成する方法は、特に限定されない。例えば、メカニカルアロイング法(機械合金法)、メカニカルミリング法、急冷凝固法(ロールスピニング法,メルトドラッグ法,直接鋳造圧延法,回転液中紡糸法,スプレイフォーミング法,ガス噴霧法、湿式噴霧法、スプラット法,急冷凝固薄帯粉砕法,ガス噴霧スプラット法,メルトエクストラクション法,メルトスピニング法,スプレイフォーミング法,回転電極法などで急冷凝固させる熱処理の方法)などを用いればよい。メカニカルアロイング法の具体例については、金属材料活用事典(産業調査会、870(1999))に記載がある。メカニカルアロイング法やメカニカルミリング法は、水素吸蔵合金の大きさの制御および結晶形の制御が容易であるという面で効果的な合成方法である。また、急冷凝固法を単独、あるいは、メカニカルアロイング法などと併用することができる。原料としては、目的の構成比率を有する水素吸蔵合金および酸化物、または構成元素単体を目的の構成比率に混合したものを用いる。またメカニカルアロイング法においては、合成時間などによって水素吸蔵合金粉末1の平均粒径を変化させることができる。
【0016】
第2の発明は、第1の発明の記載内容を前提として、金属酸化物2としてCaO、Y23 、ZrO2、TiO2、Dy23、Er23およびZnOよりなる群から少なくとも1種を選択したことを特徴とする。上述した金属酸化物2は水素吸蔵合金粉末1の腐食を抑制する効果があり好ましい。中でもY23、Er23およびDy23は上述した効果が顕著であり、より好ましい態様として挙げることができる。
【0017】
第3の発明は、第1の発明の記載内容を前提として、金属酸化物2の含有割合を0.1〜3重量%としたことを特徴とする。本発明のアルカリ蓄電池用負極材料に対する金属酸化物2の含有割合が0.1重量%を下回ると水素吸蔵合金表面の酸化抑制が若干低下し、高温寿命特性がやや劣化する。逆に金属酸化物2の含有割合が3重量%を上回ると抵抗成分が増加するとともに粒界3が乏しくなり、電池諸特性がやや低下する。
【0018】
第4の発明は、第1の発明の記載内容を前提として、水素吸蔵合金粉末1をCaCu5型の結晶構造を有するものとしたことを特徴とする。本発明では水素吸蔵合金粉末1として種々の結晶構造を有するものを選択できるが、CaCu5型(すなわちAB5型)の結晶構造を有するものは、常温で高い水素化反応性を有するので、電池反応性が高く活性化が容易であるので好ましい。
【0019】
第5の発明は、第4の発明の記載内容を前提として、水素吸蔵合金粉末の組成に希土類元素、Co、MnおよびAlを含ませたことを特徴とする。この組成は簡略的にMm(NiCoMnAl)5と表すことができる。Mmで表される希土類元素の混合物は、安価であるという観点で好ましい。Coは水素吸蔵合金粉末1自身の耐食性を高める観点で好ましい。MnおよびAlは水素吸蔵反応を常圧下で行えるよう、水素吸蔵合金粉末1の平衡圧を下げる観点で好ましい。なおMm中には40〜50%のCeおよび20〜40%のLaを含ませ、さらにPrおよびNdを含ませるのが、耐食性と水素吸蔵反応の双方を高める観点から好ましい。なおMmの一部をNbやZrに置換するのも好ましい態様の1つである。
【0020】
第6の発明は、第5の発明の記載内容を前提として、水素吸蔵合金粉末1の組成中のCo含有量を0.5〜6重量%としたことを特徴とする。Coにより水素吸蔵合金粉末1自身の耐食性を高める観点では含有量を0.5重量%以上にするのが好ましいが、含有量が6重量%を超過すると水素吸蔵合金粉末1の理論容量が不足し、見かけ上高温寿命特性が若干低下する。
【0021】
第4〜6の発明の記載内容を踏まえた上で、本発明に好適な水素吸蔵合金粉末1の組成は、例えばLa0.8Nb0.2Ni2.5Co2.4Al0.1、La0.8Nb0.2Zr0.03Ni3.8Co
0.7Al0.5、MmNi3.65Co0.75Mn0.4Al0.3、MmNi2.5Co0.7Al0.8、Mm0.85Zr0.15Ni1.0Al0.80.2などである。
【0022】
第7の発明は、第1の発明の記載内容を前提として、水素吸蔵合金粉末1をCaCu5型の結晶構造を有するものとしたことを特徴とする。本発明では水素吸蔵合金粉末1として種々の結晶構造を有するものを選択できるが、Ce2Ni7型の結晶構造を有するものは、常温で高い水素吸蔵量を有するので、高容量電池用途として好ましい。
【0023】
第8の発明は、第7の発明の記載内容を前提として、水素吸蔵合金粉末の組成に希土類元素、MgおよびAlを含ませたことを特徴とする。この組成は簡略的にMmMg(NiAl)3.3と表すことができる。Mmで表される希土類元素の混合物は、安価であるという観点で好ましい。Mgは水素吸蔵合金の水素吸蔵能力を高める観点で好ましい。Alは水素吸蔵合金粉末1自身の耐食性を高める観点で好ましい。なおMm中には40〜50%のCeおよび20〜40%のLaを含ませ、さらにPrおよびNdを含ませるのが、耐食性と水素吸蔵反応の双方を高める観点から好ましい。なおMmの一部をNbやZrに置換するのも好ましい態様の1つである。
【0024】
第9の発明は、第8の発明の記載内容を前提として、水素吸蔵合金粉末1の組成中のMg含有量を1.5〜3重量%としたことを特徴とする。Mgにより水素吸蔵合金の水素吸蔵能力を高める観点では含有量を1.5重量%以上にするのが好ましいが、含有量が3重量%を超過すると偏析が生じ、その偏析を基点に割れが生じやすくなり、耐久特性が低下する。
【0025】
第10の発明は、第8の発明の記載内容を前提として、水素吸蔵合金粉末1の組成中のAl含有量を0.5〜2重量%としたことを特徴とする。Alにより水素吸蔵合金の耐食性を高める観点では含有量を0.5重量%以上にするのが好ましいが、含有量が2重量%を超過すると水素吸蔵合金粉末1の理論容量が不足し、見かけ上耐久特性が低下する。
【0026】
第7〜10の発明の記載内容を踏まえた上で、本発明に好適な水素吸蔵合金粉末1の組成は、例えばMm0.8Mg0.2Ni3.15Al0.15、La0.8Nb0.2Mg0.03Ni3.2Al0.1、Mm0.85Mg0.15Ni3.25Al0.05などである。
【0027】
第11の発明は、第1〜10の発明に記載したアルカリ蓄電池用負極材料を含む負極を用いたアルカリ蓄電池に関する。以下に本発明のアルカリ蓄電池の詳細な構成について記す。
【0028】
まず正極には、水酸化ニッケルを活物質とする公知の正極を用いることができる。
【0029】
また本発明のアルカリ蓄電池用負極材料を含む負極には、別途導電剤、増粘剤および結着剤を加えることができる。
【0030】
導電剤としては電子伝導性を有する材料が限定なく選定できるが、例えば天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛、膨張黒鉛などのグラファイト類や、アセチレンブラック(以下、ABと略記)、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカ−ボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、銅などの金属粉末類、ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などが好ましく、中でも人造黒鉛、ケッチェンブラック、炭素繊維がより好ましい。これらの導電剤は複数種を混合して用いてもよく、本発明のアルカリ蓄電池用負極材料に表面被覆させてもよい。上記導電剤の添加量は特に限定されないが、アルカリ蓄電池用負極材料100重量部に対して1〜50重量部の範囲が好ましく、1〜30重量部の範囲がより好まし
い。
【0031】
増粘剤としては負極の前駆体である合剤ペーストに粘性を付与できる材料が限定なく選定できるが、例えばカルボキシメチルセルロース(以下、CMCと略記)およびその変性体、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレンオキシドなどが好ましい。
【0032】
結着剤としては負極合剤を芯材に結着できる材料が限定なく選定できる。例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれを用いてもよく、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(以下、SBRと略記)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体Na+イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体Na+イオン架橋体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体Na+イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体Na+イオン架橋体などを、単独あるいは混合して用いることができる。
【0033】
セパレータとしてはポリプロピレンなどのポリオレフィン製不織布を用いることができる。また 電解液としては、比重1.30近傍の水酸化カリウム水溶液に水酸化ナトリウムや水酸化リチウムを溶解させたものを用いることができる。以上の構成要素を組み合わせることにより、本発明のアルカリ蓄電池を構成することができる。
【0034】
以下に本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、この実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0035】
(実施例1−1)
(i)アルカリ蓄電池用負極材料の作製
Mm、NiおよびMnの単体を所定の割合で混合したものを高周波溶解炉で溶解し、組成がMmNi3.5Mn1.5の水素吸蔵合金のインゴットを作製した。このインゴットを1060℃のアルゴン雰囲気下で10時間加熱した後、粗粒子となるよう粉砕した。
【0036】
(ii)アルカリ蓄電池用負極材料の作製
水素吸蔵合金粉末1と金属酸化物2であるY23との重量比が100:1となるように、水素吸蔵合金の粗粉とY23との混合物を1500℃以下で溶解し、その溶融物をロール急冷法で急冷し、凝固させた。この凝固物をボールミル容器に投入した後、この容器を遊星ボールミルに設置し、回転数2800rpmで、メカニカルアロイングを行った。この時、合成時間を20時間とした。そして、得られた粗粒子を、湿潤状態でメッシュ径が75μmの篩でふるい、平均粒径20μmのアルカリ蓄電池用負極材料を得た。
【0037】
このようにして得られたアルカリ蓄電池用負極材料に占める金属酸化物2の量をICP分析法(例えばY23の場合、JiS K0116に規定)により分析した結果、1重量%であった。またこのアルカリ蓄電池用負極材料の形状をSEM観察した結果、図1で模
式的に示されるように粒子状であり、かつTEM観察にて確認した結果、水素吸蔵合金粉末1の平均粒径は30nmで、金属酸化物2の間には粒界3が存在していることが確認できた。
【0038】
(iii)負極の作製
上述したアルカリ蓄電池用負極材料100重量部に対して0.15重量部のCMC(エーテル化度0.7、重合度1600)、0.3重量部のABおよび0.7重量部のSBRを加え、さらに水を添加して練合し、合剤ペーストを得た。この合剤ペーストを、ニッケルメッキを施した鉄製パンチングメタル(厚み60μm、孔径1mm、開孔率42%)からなる芯材の両面に塗着した。合剤ペースト層を乾燥した後、芯材とともにローラでプレスして切断し、厚み0.4mm、幅35mm、容量2200mAhの負極を得た。なお負極の長手方向に沿う一端部には、芯材の露出部を設けた。
【0039】
(iv)ニッケル水素蓄電池の作製
長手方向に沿う一端部に幅35mmの芯材の露出部を有する容量1500mAhの焼結式ニッケル正極を用い、4/5Aサイズで公称容量1500mAhのニッケル水素蓄電池を作製した。具体的には、正極と負極とを、スルホン化処理したポリプロピレン不織布からなるセパレータ(厚み100μm)を介して捲回し、円柱状の極板群を作製した。極板群では、正極合剤を担持しない正極芯材の露出部と、負極合剤を担持しない負極芯材の露出部とを、それぞれ反対側の端面に露出させた。正極芯材が露出する極板群の端面には正極集電板を溶接した。負極芯材が露出する極板群の端面に負極集電板を溶接する一方、正極リードを介して封口板と正極集電板とを導通させた。負極集電板を下方にして極板群を円筒形の有底缶からなる電池ケースに収容した後、負極集電板と接続された負極リードを電池ケースの底部と溶接した。さらに比重1.3の水酸化カリウム水溶液に40g/Lの濃度で水酸化リチウムを溶解させた電解液を注入した後、周縁にガスケットを具備する封口板にて電池ケースの開口部を封口し、ニッケル水素蓄電池を作製した。これを実施例1−1とする。
【0040】
(実施例1−2〜4)
メカニカルアロイングの合成時間を16時間(実施例1−2)、13時間(実施例1−3)および10時間(実施例1−4)とし、水素吸蔵合金粉末1の平均粒径を50nm(実施例1−2)、70nm(実施例1−3)および100nm(実施例1−4)としたこと以外は、実施例1−1と同様に作製したニッケル水素蓄電池を、実施例1−2〜4とする。
【0041】
(比較例1−1〜2)
メカニカルアロイングの合成時間を23時間(比較例1−1)および5時間(比較例1−2)とし、水素吸蔵合金粉末1の平均粒径を8nm(比較例1−1)および120nm(比較例1−2)としたこと以外は、実施例1−1と同様に作製したニッケル水素蓄電池を、比較例1−1〜2とする。
【0042】
以上の各実施例および比較例を、以下に示す方法にて評価した。結果を(表1)に示す。
【0043】
(高温寿命特性)
各実施例および比較例のニッケル水素蓄電池を、40℃環境下にて10時間率(150mA)で15時間充電し、5時間率(300mA)で電池電圧が1.0Vになるまで放電した。この充放電サイクルを100回繰り返した。2サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の比率を、容量維持率として百分率で求め、(表1)に記した。
【0044】
【表1】

水素吸蔵合金粉末1の平均粒径が10nmを下回った比較例1−1は、水素吸蔵反応の起点となる合金層が乏しくなった影響で初期容量が低下した。逆に合成時間を短くし、平均粒径が100nmを上回った比較例1−2では、充放電による膨張収縮による割れが生じ、新生面の腐食により、電池反応性そのものが低下して見かけ上高温寿命特性が低下した。
【0045】
これら比較例に対して、水素吸蔵合金粉末1の平均粒径を適正化した実施例1−1〜4は、比較的良好な高温寿命特性を示した。中でも水素吸蔵合金粉末1の平均粒径が50nmである実施例1−2は、粒子間の粒界が多く存在する影響で良好な高温寿命特性を示した。
【実施例2】
【0046】
(実施例2−1〜6)
水素吸蔵合金粉末1の組成をMmNi4.1Mn0.4Al0.3Co0.4(組成中のNiが55重量%、Coが5重量%)とし、金属酸化物2としてCaO(実施例2−1)、ZrO2(実施例2−2)、TiO2(実施例2−3)、Dy23(実施例2−4)、Er23(実施例2−5)およびZnO(実施例2−6)を実施例1−2と同様の条件でアルカリ蓄電池用負極材料を作製した。その他は実施例1−2と同様にニッケル水素蓄電池を作製した。
【0047】
(実施例2−7〜10)
水素吸蔵合金粉末1の組成をMmNi4.28Mn0.4Al0.3Co0.02(実施例2−7、組成中のNiが59重量%、Coが0.3%)、MmNi4.27Mn0.4Al0.3Co0.03(実施例2−8、組成中のNiが60重量%、Coが0.5%)、MmNi3.86Mn0.4Al0.3Co0.44(実施例2−9、組成中のNiが53重量%、Coが6%)およびMmNi3.78Mn0.4Al0.3Co0.52(実施例2−10、組成中のNiが52重量%、Coが7%)としたこと以外は実施例1−2と同様にニッケル水素蓄電池を作製した。
【0048】
(実施例2−11〜19)
水素吸蔵合金粉末1の組成をLa0.49Mg0.51Ni3.17Al0.13(実施例2−11、組成中のMgが3.5重量%、Niが52.8重量%、Alが1重量%)、La0.56Mg0.44Ni3.17Al0.13(実施例2−12、組成中のMgが3重量%、Niが52.8重量%、Alが1重量%)、La0.71Mg0.29Ni3.17Al0.13(実施例2−13、組成中のMgが2重量%、Niが52.8重量%、Alが1重量%)、La0.78Mg0.22Ni3.17Al0.13(実施例2−14、組成中のMgが1.5重量%、Niが52.8重量%、Alが1重量%)、La0.85Mg0.15Ni3.17Al0.13(実施例2−15、組成中のMgが1重量%、Niが52.8重量%、Alが1重量%)、La0.71Mg0.29Ni2.97Al0.33
実施例2−16、組成中のMgが2重量%、Niが49.5重量%、Alが2.5重量%)、La0.71Mg0.29Ni3.04Al0.26(実施例2−17、組成中のMgが2重量%、Niが50重量%、Alが2重量%)、La0.71Mg0.29Ni3.23Al0.07(実施例2−18、組成中のMgが2重量%、Niが53.9重量%、Alが0.5重量%)、La0.71Mg0.29Ni3.29Al0.01(実施例2−19、組成中のMgが2重量%、Niが54.8重量%、Alが0.1重量%)としたこと以外は実施例1−2と同様にニッケル水素蓄電池を作製した。
【0049】
以上の各実施例について、実施例1と同様の方法にて高温寿命特性を評価した。結果を(表2)に示す。
【0050】
【表2】

金属酸化物2としてDy23、Er23を用いた実施例2−4〜5は、Y23を用いた実施例1−2と同様、金属酸化物2として他のものを用いた実施例2−1〜3および実施例2−6と比較して、初期容量が高くかつ良好な高温寿命特性を示した。この理由として、Dy23、Er23およびY23は反応抵抗が低いため、電池反応が活発化したことが挙げられる。
【0051】
水素吸蔵合金粉末1の組成中のCo含有量が0.5重量%を下回った実施例2−7は、水素吸蔵合金粉末1自身の耐食性がやや不足したことにより高温寿命特性が若干低下した。逆にCo含有量が6重量%を上回った実施例2−10は、水素吸蔵合金粉末1の理論容量が不足したことにより見かけ上高温寿命特性が若干低下した。以上の結果から、水素吸蔵合金粉末1の組成中のCo含有量の好適範囲は、0.5〜6重量%であることがわかる。
【0052】
水素吸蔵合金粉末1の組成中のMg含有量が3重量%を上回った実施例2−11は、水素吸蔵合金粉末1自身の耐食性がやや不足したことにより高温寿命特性が若干低下した。
さらに、水素吸蔵合金粉末1の組成中のMg含有量が1.5重量%を下回った実施例2−15は水素吸蔵合金粉末1の理論容量が不足したことにより見かけ上高温寿命特性が若干低下した。以上の結果から、水素吸蔵合金粉末1の組成中のMg含有量の好適範囲は、1.5〜3重量%であることがわかる。また、水素吸蔵合金粉末1の組成中のAl含有量が2重量%を上回った実施例2−16は、水素吸蔵合金粉末1自身の理論容量が不足したことにより見かけ上高温寿命特性が若干低下した。さらに、水素吸蔵合金粉末1の組成中のMg含有量が0.5重量%を下回った実施例2−19は水素吸蔵合金粉末1の耐食性がやや不足したことにより高温寿命特性が若干低下した。水素吸蔵合金粉末1の組成中のAl含有量の好適範囲は、0.5〜2重量%であることがわかる。
【実施例3】
【0053】
(実施例3−1〜5)
23の量をアルカリ蓄電池用負極材料に対して0.05重量%(実施例3−1)、0.1重量%(実施例3−2)、1.5重量%(実施例3−3)、3重量%(実施例3−4)および3.2重量%(実施例3−5)としたこと以外は、実施例1−2と同様にニッケル水素蓄電池を作製した。
【0054】
【表3】

23の量が0.1重量%を下回った実施例3−1は、その全体量が不足して耐食効果が低減し、水素吸蔵合金粉末の腐食がやや早まったために高温寿命特性が若干低下した。逆にY23の量が3重量%を上回った実施例3−5は、その全体量が過剰になって水素吸蔵反応がやや低下し、見かけ上高温寿命特性が若干低下した。以上の結果から、酸化物2の量の好適範囲は、アルカリ蓄電池用負極材料に対して0.5〜3重量%であることがわかる。
【0055】
なお各実施例のニッケル水素蓄電池の一部を高温寿命特性評価前に分解したところ、金属酸化物の一部は酸化物から水酸化物に転じていることが明らかになった。このことから、アルカリ蓄電池用負極材料の金属酸化物は、酸化物・水酸化物のいずれであってもその効果は同じであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明を活用することにより、アルカリ蓄電池の高温寿命特性を大幅に改善できるので、あらゆる機器の電源として利用可能性がある上に、過酷な環境下で使用されるハイブリッド自動車用電源などの分野において多大な効果をもたらすことが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のアルカリ蓄電池用負極材料の表面近傍を表す模式断面図
【符号の説明】
【0058】
1 水素吸蔵合金粉末
2 金属酸化物
3 粒界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵合金粉末と融点が1500℃以上の金属酸化物とを複合化したアルカリ蓄電池用負極材料であって、
前記水素吸蔵合金粉末の平均粒径を10nm〜100nmとし、
前記金属酸化物によって複数の前記水素吸蔵合金粉末を一体化し、粒子状としたことを特徴とするアルカリ蓄電池用負極材料。
【請求項2】
前記金属酸化物としてCaO、Y23 、ZrO2、TiO2、Dy23、Er23およびZnOよりなる群から少なくとも1種を選択した請求項1記載のアルカリ蓄電池用負極材料。
【請求項3】
前記金属酸化物の含有割合を0.1〜3重量%とした請求項1記載のアルカリ蓄電池用負極材料。
【請求項4】
前記水素吸蔵合金粉末をCaCu5型の結晶構造を有するものとした請求項1記載のアルカリ蓄電池用負極材料。
【請求項5】
前記水素吸蔵合金粉末の組成に希土類元素、Co、MnおよびAlを含ませた請求項4記載のアルカリ蓄電池用負極材料。
【請求項6】
前記水素吸蔵合金粉末の組成中のCoの含有量を0.5〜6重量%とした請求項5記載のアルカリ蓄電池用負極材料。
【請求項7】
前記水素吸蔵合金粉末をCe2Ni7型の結晶構造を有するものとした請求項1記載のアルカリ蓄電池用負極材料。
【請求項8】
前記水素吸蔵合金粉末の組成に希土類元素、MgおよびAlを含ませた請求項7記載のアルカリ蓄電池用負極材料。
【請求項9】
前記水素吸蔵合金粉末の組成中のMgの含有量を1.5〜3重量%とした請求項8記載のアルカリ蓄電池用負極材料。
【請求項10】
前記水素吸蔵合金粉末の組成中のAlの含有量を0.5〜2重量%とした請求項8記載のアルカリ蓄電池用負極材料。
【請求項11】
請求項1〜10記載のアルカリ蓄電池用負極材料を含む負極を用いたアルカリ蓄電池。

【図1】
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【公開番号】特開2007−294418(P2007−294418A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59439(P2007−59439)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】