説明

アルカリ蓄電池

【課題】 負極が水素の放出特性、アルカリ電解液に対する耐食性及び耐酸化性に優れた希土類―Mg−Ni系水素吸蔵合金を含み、優れた放電特性やサイクル特性を有する高容量のアルカリ蓄電池を提供する。
【解決手段】 アルカリ蓄電池の負極4に含まれる水素吸蔵合金の組成は、一般式:((PrNd)αLn1−α1−βMgβNiγ−δ−εAlδεで示される。式中、Lnは、La,Ce等よりなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、Tは、V,Nb等よりなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、添字α,β,γ,δ,εは、それぞれ、0.7<α,0.05<β<0.15,3.0≦γ≦4.2,0.15≦δ≦0.30,0≦ε≦0.20を満たす数を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金を負極に使用したアルカリ蓄電池に係わり、より詳しくは、ニッケル水素蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金を負極に使用したアルカリ蓄電池は、高容量であることや、鉛やカドミウムを用いた場合に比べクリーンであるなどの特徴を有することから民生用電池として大きな需要がある。
この種のアルカリ蓄電池には、一般に、LaNi等のAB型(CaCu型)系水素吸蔵合金が用いられているが、その放電容量は理論容量の80%を超えており、更なる高容量化には限界がある。
【0003】
このため、高容量化を目的として、AB型系水素吸蔵合金中の希土類元素の一部をMg元素で置換した希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金を適用したアルカリ蓄電池の開発が進められている。この種の水素吸蔵合金は水素の吸蔵量が多いものの、吸蔵した水素を放出し難く、アルカリ電解液に対する耐食性が低いという問題がある。これらの問題のため、希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金を負極に適用したアルカリ蓄電池にあっては、放電特性が不良であり、サイクル寿命が短いという問題がある。
【0004】
そこで、特許文献1は、次の一般式及び条件式で表される組成を有した希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金を開示している。
(R1−a―bLaCe1−cMgNiZ−X−Y−d−eMnAlCo
c=(−0.025/a)+f
ただし、これらの式中、Rは、Yを含む希土類元素及びCaよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素(但し、LaとCeを除く)で、Mは、Fe、Ga、Zn、Sn、Cu、Si、B、Ti、Zr、Nb、W、Mo、V、Cr、Ta、Li、PおよびSからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、原子比a,b,c,d,e,f,X,Y及びZは、0<a≦0.45,0≦b≦0.2,0.1≦c≦0.24,0≦X≦0.1,0.02≦Y≦0.2,0≦d≦0.5,0≦e≦0.1,3.2≦Z≦3.8,0.2≦f≦0.29としてそれぞれ規定される。
【0005】
この水素吸蔵合金では、一般式中、c=(−0.025/a)+fの関係が満たされることで、水素が放出され易くなり、アルカリ蓄電池の放電特性が改善されるものと考えられている。また、この関係により、CeNi構造、CeNi構造及びこれらの類似構造以外の不所望の結晶相の析出が抑制されて水素吸蔵量の低下が防止され、この結果として、アルカリ蓄電池のサイクル寿命特性が改善されるものと考えられている。
【0006】
一方、この水素吸蔵合金では、一般式中、Alの割合を示すYが0.02以上に設定されることにより、その酸化が抑制されるが、不所望の結晶相の析出を抑制すべく、Yは0.2以下に設定される。
【特許文献1】特開2002−164045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の希土類―Mg−Ni系水素吸蔵合金にあっても、水素の放出特性、アルカリ電解液に対する耐食性及び耐酸化性が不十分であり、希土類―Mg−Ni系水素吸蔵合金を適用したアルカリ蓄電池の放電特性やサイクル特性の改善が望まれている。
本発明は上述の事情に基づいてなされたものであって、その目的とするところは、負極が、水素の放出特性、アルカリ電解液に対する耐食性及び耐酸化性に優れた希土類―Mg−Ni系水素吸蔵合金を含み、優れた放電特性やサイクル特性を有する高容量のアルカリ蓄電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成すべく種々検討を重ね、この過程で、水素吸蔵合金でのAlの割合を従来よりも増大すると、Alを主成分とする不所望の相が析出するのを確認するとともに、このような不所望の相の析出は、水素吸蔵合金におけるMgの割合及び水素吸蔵合金のAサイトにおけるPr及びNdの合計割合と相関があることを見出した。そして、本発明者は、水素吸蔵合金でのMg、Pr及びNdの割合を所定の範囲に設定すれば、不所望の相を析出させることなく、Alの割合を増大させることができ、これにより、耐食性及び耐酸化性のみならず放電特性も向上するとの知見を得て、本発明に想到した。
【0009】
すなわち、本発明によれば、正極、水素吸蔵合金を含む負極及びアルカリ電解液を具備したアルカリ蓄電池において、前記水素吸蔵合金の組成は、一般式:
((PrNd)αLn1−α1−βMgβNiγ−δ−εAlδε
(式中、Lnは、La,Ce,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Ca,Sr,Sc,Y,Ti,Zr及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、Tは、V,Nb,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Zn,Ga,Sn,In,Cu,Si,P及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、添字α,β,γ,δ,εは、それぞれ、0.7<α,0.05<β<0.15,3.0≦γ≦4.2,0.15≦δ≦0.30,0≦ε≦0.20を満たす数を表す)
で示されることを特徴とするアルカリ蓄電池が提供される(請求項1)。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルカリ蓄電池は、負極の水素吸蔵合金が希土類―Mg−Ni系水素吸蔵合金からなるので高容量化に適している。
また、本発明のアルカリ蓄電池は、優れたサイクル特性及び放電特性を有する。これは、電池の負極に含まれる水素吸蔵合金でのAlの割合を示す添字δが0.15以上であることによる。すなわち、Alの割合が従来よりも高いことで、水素吸蔵合金の結晶構造が安定化してアルカリ電解液に対する耐食性及び耐酸化性が向上し、この結果として、電池のサイクル特性が向上したのである。
【0011】
このように添字δを0.15以上にすることができたのは、電池の負極に含まれる水素吸蔵合金でのMgの割合を示す添字βが、0.05<β<0.15で示される範囲にあること及び水素吸蔵合金のAサイトでのPr及びNdの合計割合を示す添字αが0.7よりも大きいことによる。
すなわち、この水素吸蔵合金によれば、Mg,Pr及びNdの割合を上記範囲に設定したことにより、水素吸蔵合金におけるAlの固溶限界が増大し、Alを主成分とする不所望の相を析出させることなく、水素吸蔵合金でのAlの割合が従来より増大される。なお、Mg,Pr及びNdの割合を上記範囲に設定しても、添字δが0.30を超えると、Alを主成分とする不所望の相が析出するため、添字δは0.30以下に設定される。
【0012】
また、この水素吸蔵合金では、Pr及びNdの割合を上記範囲に設定したことにより、その水素平衡圧が従来よりも上昇している。この水素平衡圧の上昇に伴い、電池の作動電圧も上昇しており、この結果として、電池の放電特性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施形態のニッケル水素蓄電池を示す。
この電池は、有底円筒形状の外装缶1を備え、外装缶1の中に電極群2が収容されている。電極群2は、正極3及び負極4を、セパレータ5を介して渦巻状に巻回してなり、電極群2の最外周には、その渦巻き方向でみて負極4の外端側の部位が配置され、負極4が外装缶1の内周壁と電気的に接続されている。また、外装缶1の中には、図示しないアルカリ電解液が収容されている。
【0014】
なお、アルカリ電解液としては、例えば水酸化カリウム水溶液と、これに水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液などを混合したものを用いることができる。
外装缶1の開口端内には、リング状の絶縁性ガスケット6を介して、中央にガス抜き孔7を有する円形の蓋板8が配置されている。これら絶縁性ガスケット6及び蓋板8は、かしめ加工された外装缶1の開口端縁により固定されている。電極群2の正極3と蓋板8の内面との間には、これらの間を電気的に接続する正極リード9が配置されている。一方、蓋板8の外面には、ガス抜き孔7を閉塞するようにゴム製の弁体10が配置され、更に、弁体10を囲むようにフランジ付きの円筒形状の正極端子11が取り付けられている。
【0015】
また、外装缶1の開口端縁上には環状の絶縁板12が配置され、正極端子11は絶縁板12を貫通して突出している。符号13は、外装チューブに付されており、外装チューブ13は絶縁板12の外周縁、外装缶1の外周面及び底壁外周縁を被覆している。
以下、正極3及び負極4について詳述する。
正極3は、導電性の正極基板と、正極基板に保持された正極合剤とからなる。正極基板としては、例えば、ニッケルめっきが施された網状、スポンジ状、繊維状、フエルト状の金属多孔体を用いることができる。
【0016】
正極合剤は、正極活物質としての水酸化ニッケルの粉末と、添加剤及び結着剤からなるが、水酸化ニッケル粉末としては、ニッケルの平均価数が2価よりも大きく且つ各粒子の表面の少なくとも一部若しくは全部がコバルト化合物で被覆されている粉末を用いるのが好ましい。また、水酸化ニッケル粉末は、コバルト及び亜鉛が固溶していてもよい。
導電剤としては、例えば、コバルト酸化物、コバルト水酸化物、金属コバルトなどの粉末を用いることができ、また結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、PTFEディスパージョン、HPCディスパージョンなどを用いることができる。
【0017】
上記した正極3は、例えば、水酸化ニッケル粉末、導電剤、結着剤、及び水を混練して正極用スラリを調製し、この正極用スラリが塗着・充填された正極基板を、乾燥を経てから圧延・裁断して作製することができる。
負極4は、導電性の負極基板と、負極基板に保持された負極合剤とからなり、負極基板としては、例えば、パンチングメタルを用いることができる。
【0018】
負極合剤は、水素吸蔵合金粉末、結着剤、及び必要に応じて導電剤からなり、結着剤としては、正極合剤と同じ結着剤の外に、更に例えばポリアクリル酸ナトリウムなどを併用してもよい。また、導電剤としては、例えばカーボン粉末などを用いることができる。なお、図1の円中、水素吸蔵合金粉末の粒子14を模式的に示した。
負極4の水素吸蔵合金粉末は、希土類―Mg−Ni系水素吸蔵合金からなり、組成が一般式(I):((PrNd)αLn1−α1−βMgβNiγ−δ−εAlδεで示される。ただし、式(I)中、Lnは、La,Ce,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Ca,Sr,Sc,Y,Ti,Zr及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、Tは、V,Nb,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Zn,Ga,Sn,In,Cu,Si,P及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、添字α,β,γ,δ,εは、それぞれ、0.7<α,0.05<β<0.15,3.0≦γ≦4.2,0.15≦δ≦0.30,0≦ε≦0.20を満たす数を表す。
【0019】
なお、添字αは水素吸蔵合金でのPr及びNdの合計割合を示しており、水素吸蔵合金はPr及びNdのうち一方のみを単独で含んでもよい。
上記した負極4は、水素吸蔵合金粉末、結着剤、水、及び必要に応じて配合される導電剤から成る負極用スラリを調製し、負極用スラリが塗着された負極基板を、乾燥を経てから圧延・裁断して作製することができる。
【0020】
また、水素吸蔵合金粉末は、例えば以下のようにして作製される。
まず、一般式(I)に示した組成となるよう金属原料を秤量して混合し、この混合物を例えば高周波溶解炉で溶解してインゴットにする。得られたインゴットに、900〜1200℃の温度の不活性ガス雰囲気下にて5〜24時間加熱する熱処理を施し、インゴットにおける結晶構造をCeNi型構造若しくはその類似構造にする。換言すれば、AB型構造及びAB型構造の超格子構造にする。この後、インゴットを粉砕し、篩分けにより所望粒径に分級して水素吸蔵合金粉末が作製される。
【0021】
上述したニッケル水素蓄電池は、負極の水素吸蔵合金が一般式(I)で示される組成の希土類―Mg−Ni系水素吸蔵合金からなり、常温下における水素吸蔵量が大きいので、高容量化に適している。
また、上述したニッケル水素蓄電池は、優れたサイクル特性及び放電特性を有する。これは、電池の負極に含まれる水素吸蔵合金でのAlの割合を示す添字δが0.15以上であることによる。すなわち、Alの割合が従来よりも高いことで、水素吸蔵合金の結晶構造が安定化してアルカリ電解液に対する耐食性及び耐酸化性が向上し、この結果として、電池のサイクル特性が向上したのである。
【0022】
このように添字δを0.15以上にすることができたのは、電池の負極に含まれる水素吸蔵合金でのMgの割合を示す添字βが、0.05<β<0.15で示される範囲にあること及び水素吸蔵合金のAサイトでのPr及びNdの合計割合を示す添字αが0.7よりも大きいことによる。
すなわち、この水素吸蔵合金によれば、Mg,Pr及びNdの割合を上記範囲に設定したことにより、水素吸蔵合金におけるAlの固溶限界が増大し、Alを主成分とする不所望の相を析出させることなく、水素吸蔵合金でのAlの割合が従来より増大される。なお、Mg,Pr及びNdの割合を上記範囲に設定しても、添字δが0.30を超えると、Alを主成分とする不所望の相が析出するため、添字δは0.30以下に設定される。
【0023】
また、この水素吸蔵合金では、Pr及びNdの割合を上記範囲に設定したことにより、その水素平衡圧が上昇している。この水素平衡圧の上昇に伴い、電池の作動電圧も上昇しており、この結果として、電池の放電特性が向上する。
なお、上述したニッケル水素蓄電池において、一般式(I)中、添字βが0.15以下に設定されることにより、Mgを主成分とする不所望の相の析出が防止され、この点からも、電池のサイクル特性が向上する。すなわち、添字βが0.15以下であることにより、充放電サイクルに伴う水素吸蔵合金粉末の微粒子化が抑制され、もって、サイクル特性が向上する。一方、添字βが0.05以上に設定されることにより、水素吸蔵合金は多量の水素を吸蔵可能である。
【0024】
そして、一般式(I)において、添字γが小さくなりすぎると、水素吸蔵合金内における水素の吸蔵安定性が高くなるため、水素放出能が劣化し、また添字γが大きくなりすぎると、今度は、水素吸蔵合金における水素の吸蔵サイトが減少して、水素吸蔵能の劣化が起こりはじめる。それ故、添字γは、3.0≦γ≦4.2を満たすように設定される。
また、一般式(I)において、添字εはNiの置換元素Tの置換量を示すが、添字εが大きくなりすぎると、水素吸蔵合金はその結晶構造が変化して水素の吸蔵・放出能を喪失しはじめるとともに、アルカリ電解液への置換元素Tの溶出が起こりはじめ、その複合物がセパレータに析出して電池の長期貯蔵性が低下する。それ故、添字εは、0≦ε≦0.20を満たすように設定される。
【実施例】
【0025】
実施例1
1.負極の作製
組成が(La0.10Ce0.05Pr0.35Nd0.50)0.90Mg0.10Ni3.20Al0.22となるように金属原料を秤量して混合し、この混合物を高周波溶解炉で溶解してインゴットを得た。このインゴットを、温度1000℃のアルゴン雰囲気下にて10時間加熱し、インゴットにおける結晶構造をCeNi型構造若しくはその類似構造にした。この後、インゴットを不活性雰囲気中で機械的に粉砕して篩分けし、上記組成を有する希土類―Mg−Ni系水素吸蔵合金粉末を得た。なお、得られた希土類―Mg−Ni系水素吸蔵合金粉末は、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した重量積分50%にあたる平均粒径が50μmであった。
【0026】
得られた合金粉末100質量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウム0.5質量部、カルボキシメチルセルロース0.12質量部、PTFEディスパージョン(分散媒:水,比重1.5,固形分60質量%)0.5質量部(固形分換算)、カーボンブラック1.0質量部及び水30質量部を加えて混練し、負極用スラリを調製した。そして、負極用スラリが塗着されたニッケル製のパンチングシートを、乾燥を経てから圧延・裁断し、AAサイズ用の負極を作製した。
【0027】
2.正極の作製
各粒子の全部若しくは一部がコバルト化合物で被覆された水酸化ニッケル粉末を用意し、この水酸化ニッケル粉末100質量部に対し、40質量%のHPCディスパージョンを混合して正極用スラリを調製し、この正極用スラリが塗着・充填されたシート状のニッケル多孔体を、乾燥を経てから、圧延・裁断して正極を作製した。
【0028】
3.ニッケル水素蓄電池の組立て
得られた負極と正極とを、ポリプロピレン繊維製不織布からなり、厚さが0.1mmで目付量が40g/mのセパレータを介して渦巻状に巻回し、電極群を作製した。得られた電極群を外装缶内に収納して所定の取付工程を行った後、外装缶内に、7Nの水酸化カリウム水溶液と1Nの水酸化リチウム水溶液とからなるアルカリ電解液を注液した。そして、外装缶の開口端を蓋板等を用いて封口し、定格容量が2500mAhでAAサイズの実施例1の密閉円筒形ニッケル水素蓄電池を組立てた。
そして、組立てた電池に、温度25℃の環境において、0.1Itの充電電流で15時間充電した後、0.2Itの放電電流で終止電圧1.0Vまで放電させる初期活性化処理を施した。
【0029】
実施例2〜4及び比較例1〜5
表1に示した組成の水素吸蔵合金をそれぞれ用いたこと以外は実施例1の場合と同様にして、実施例2〜4及び比較例1〜5のニッケル水素蓄電池を組立て、初期活性化処理を施した。
【0030】
4.電池及び水素吸蔵合金の評価
初期活性化処理を施した実施例1〜4及び比較例1〜5の各ニッケル水素蓄電池について以下の試験を行った。
(1)サイクル特性
各電池について、温度25℃の環境において、1.0Itの充電電流でのdV制御による充電、60分間の休止、1.0Itの放電電流での0.5Vの終止電圧までの放電からなる充放電サイクルを300サイクル繰り返した。この際、1サイクル目及び300サイクル目での放電容量を測定し、1サイクル目の放電容量に対する300サイクル目の放電容量の百分率を求めた。この結果も表1に示す。
【0031】
(2)放電特性
各電池について、温度25℃の環境において、1.0Itの充電電流でdV制御により充電してから、60分間の休止時間をとった後、1.0Itの放電電流で0.5Vの終止電圧まで放電させた。また、各電池について同様に充電及び休止した後、3.0Itの放電電流で0.5Vの終止電圧まで放電させた。これらの放電時、放電容量を測定し、1.0Itの放電電流での放電容量に対する3.0Itの放電電流での放電電流の百分率を求めた。この結果も表1に示す。
なお、比較例2の電池については、初期活性化処理時にアルカリ電解液が漏出したため、サイクル特性及び放電特性の測定ができなかった。
【0032】
(3)水素吸蔵合金におけるAl析出割合
実施例1〜4及び比較例1〜5の各水素吸蔵合金の小塊を樹脂に埋め込んで研磨し、研磨された小塊の断面にてEPMA(電子線プローブマイクロアナライザ)による元素マッピングを行った。そして、得られたAlのマップに基づいて、Alが析出していない領域(母相)の面積に対するAlの析出している領域(析出相)の面積の百分率をAlの析出割合として求めた。この結果も表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から次のことが明らかである。
(1)実施例1,4及び比較例5を比較すると、実施例1,4は、サイクル特性及び放電特性において比較例5よりも優れており、特にサイクル特性において顕著に優れている。これは、水素吸蔵合金におけるAlの割合を示す添字δを0.15以上に設定したことにより、水素吸蔵合金の結晶構造が安定になり、充放電サイクルに伴う結晶構造の劣化及びこれに伴う水素吸蔵能の低下が抑制されたためと考えられる。つまり、アルカリ電解液に対する水素吸蔵合金の耐食性及び耐酸化性が向上したためと考えられる。
なお、比較例5の放電特性の低下の一因として、耐酸化性が著しく低下したことで、電解液を消費したことにより内部抵抗が上昇したことも考えられる。
従って、添字δは0.15以上に設定される。
【0035】
(2)実施例1,2及び比較例1を比較すると、水素吸蔵合金でのAlの割合は同じであるにも拘わらず(δ=0.22)、実施例1,2のAl析出割合は、比較例1でのAl析出割合よりも低い。そして、Al析出割合が小さい実施例1,2は、サイクル特性及び放電特性において比較例1よりも優れている。
これは、単に添字δを0.15以上に設定するのみでは、Alが析出して電池のサイクル特性及び放電特性は向上せず、これと合わせて、水素吸蔵合金でのPr及びNdの合計割合を示す添字αを0.7よりも大きく設定することにより、水素吸蔵合金でのAlの固溶限界が増大したためと、水素平衡圧が上昇した為と考えられる。
従って、添字αは0.7よりも大きく設定される。
【0036】
(3)実施例4及び比較例4を比較すると、実施例4の水素吸蔵合金でのAlの割合は、比較例4の水素吸蔵合金でのAlの割合よりも小さいものの、この点を考慮に入れたとしても、実施例4のAl析出割合は、比較例4でのAl析出割合よりも顕著に小さい。そして、Al析出割合がより小さい実施例4は、サイクル特性及び放電特性において比較例1よりも優れている。
これより、添字αを0.7よりも大きく設定し、Alの固溶限界が増大した場合であっても、添字δが0.30を超えるとAl析出割合が増大するのがわかる。
従って、添字δは0.30以下に設定される。
【0037】
(4)比較例2の電池では、初期活性化処理時にアルカリ電解液が漏出した。これは、正極で発生した水素を負極の水素吸蔵合金が吸収できなかったためである。これに対し、実施例3の電池では、アルカリ電解液の漏出は発生していない。
従って、水素吸蔵合金に十分な水素吸蔵能を付与すべく、添字βは0.05以上に設定される。
【0038】
(5)実施例1と比較例3を比較すると、放電特性には差が認められないけれども、実施例1のサイクル特性は、比較例3でのサイクル特性よりも顕著に優れている。
これは、水素吸蔵合金でのMgの割合を示す添字βが0.15以下を超えている比較例3の場合、充放電サイクルに伴い水素吸蔵合金が劣化したためと考えられる。すなわち、水素吸蔵合金粉末の微粒子化が進行し、微粒子化により新たに露出した面(新鮮面)がアルカリ電解液との接触により腐食したためと考えられる。
【0039】
従って、添字βは0.15以下に設定される。
本発明は上記した一実施形態及びその実施例に限定されることはなく、種々変形が可能であり、電池は、角形電池であってもよく、機械的な構造は格別限定されることはない。
一実施形態では、Lnは、La,Ce,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Ca,Sr,Sc,Y,Ti,Zr及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも1種を表すが、LnとしてCeを選択した場合、Pr,Nd及びLnにおけるCeの割合が0.2を超えないようにするのが好ましい。Ceの割合が0.2を超えると、水素吸蔵合金の水素吸蔵能が低下するためである。
【0040】
一実施形態では、添字αは0.7よりも大きかったが、0.75よりも大きいのが好ましく、0.80よりも大きいのがより好ましい。なお、添字αは最大値として1であってもよい。
一実施形態では、添字βは0.05<β<0.15の範囲にあったけれども、0.07<β<0.14の範囲にあるのが好ましく、0.08<β<0.12の範囲にあるのがより好ましい。
【0041】
一実施形態では、添字γは3.0≦γ≦4.2の範囲にあったけれども、3.2≦γ≦3.8の範囲にあるのが好ましく、3.3≦γ≦3.7の範囲にあるのがより好ましい。
一実施形態では、添字δは0.15≦δ≦0.30の範囲にあったけれども、0.17≦δ≦0.27の範囲にあるのが好ましく、0.20≦δ≦0.25の範囲にあるのがより好ましい。
【0042】
一実施形態では、添字εは0≦ε≦0.20の範囲にあったけれども、0≦ε≦0.15の範囲にあるのが好ましく、0≦ε≦0.10の範囲にあるのがより好ましい。
一実施形態では、負極合剤は、水素吸蔵合金粉末、結着剤、及び必要に応じて導電剤からなるが、負極合剤は、更に、Al(OH)からなる添加剤粉末を含んでいるのが好ましい。これは以下の理由による。
【0043】
上記一般式(I)で示される組成の希土類―Mg−Ni系水素吸蔵合金は、アルカリ電解液に対する耐食性及び耐酸化性が高い。このため、この水素吸蔵合金を適用したニッケル水素蓄電池では、水素吸蔵合金のAlがアルカリ電解液に溶解し難い。
そこで、上述したニッケル水素蓄電池の負極は、水素吸蔵合金でのAlの割合が大きいにも拘わらず、水素吸蔵合金のAlとは別に添加剤としてAl(OH)を含むのが好ましい。Al(OH)はアルカリ電解液中でゲル状化合物になり、正極近傍に分布したゲル状化合物は、正極活物質である水酸化ニッケル粉末の酸素過電圧を上昇させ、水酸化ニッケル粉末の自己還元を防止する。この結果として、ニッケル水素蓄電池の貯蔵時の自己放電が防止される。
【0044】
また、電池の貯蔵時、ゲル状化合物により自己放電が防止されたことで、水酸化ニッケル粉末が不可逆的な領域まで過剰に還元されるのも防止される。この結果として、ニッケル水素蓄電池の貯蔵前後での容量低下が抑制される。
最後に、本発明のアルカリ蓄電池は、ニッケル水素蓄電池のみならず、負極が水素吸蔵合金粉末を含むアルカリ蓄電池に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態のニッケル水素蓄電池を示す部分切欠斜視図であり、図中円内は、負極の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 外装缶
2 電極群
3 正極
4 負極
5 セパレータ
14 水素吸蔵合金粉末の粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、水素吸蔵合金を含む負極及びアルカリ電解液を具備したアルカリ蓄電池において、
前記水素吸蔵合金の組成は、一般式:
((PrNd)αLn1−α1−βMgβNiγ−δ−εAlδε
(式中、Lnは、La,Ce,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Ca,Sr,Sc,Y,Ti,Zr及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、Tは、V,Nb,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Zn,Ga,Sn,In,Cu,Si,P及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、添字α,β,γ,δ,εは、それぞれ、0.7<α,0.05<β<0.15,3.0≦γ≦4.2,0.15≦δ≦0.30,0≦ε≦0.20を満たす数を表す)
で示される
ことを特徴とするアルカリ蓄電池。

【図1】
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【公開番号】特開2007−87722(P2007−87722A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−274018(P2005−274018)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】