説明

アルカリ蓄電池

【課題】 芯体と負極活物質(水素吸蔵合金粉末)との密着強度および負極活物質間の密着強度が向上した水素吸蔵合金電極を提供する。
【解決手段】 本発明のアルカリ蓄電池は、水素吸蔵合金を負極活物質とする水素吸蔵合金電極11と水酸化ニッケルを主正極活物質とするニッケル電極12との間にセパレータ13を介在させて渦巻状に巻回させた電極群をアルカリ電解液とともに外装缶17内に備えている。そして、水素吸蔵合金電極11は結着剤として非水溶性高分子とアニオン系水溶性高分子とを含有しているとともに、アニオン系水溶性高分子は水素吸蔵合金電極11の内部に存在する含有量よりも水素吸蔵合金電極11の表面部に存在する含有量の方を多くしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HEV(ハイブリッド車)やPEV(電気自動車)等の大電流放電を要する用途に適したアルカリ蓄電池に係わり、特に、水素吸蔵合金を負極活物質とする水素吸蔵合金電極と水酸化ニッケルを主正極活物質とするニッケル電極との間にセパレータを介在させて渦巻状に巻回させた電極群をアルカリ電解液とともに外装缶内に備えたアルカリ蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池(蓄電池)の用途が拡大して、携帯電話、ノートパソコン、電動工具、電動自転車、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(PEV)など広範囲にわたって用いられるようになった。このうち、特に、電動工具、電動自転車、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(PEV)などの高出力が求められる機器の電源用としては、従来の範囲を遥かに超える高出力が求められているとともに、更なる高信頼性も求められるようになった。
【0003】
ところで、この種の高出力が求められる電源用にニッケル−水素蓄電池などのアルカリ蓄電池が用いられるが、このようなアルカリ蓄電池を高出力化する手法が、例えば、特許文献1(特開2000−82491号公報)にて提案されるようになった。ここで、特許文献1にて提案された高出力化手法においては、電極群を構成している正・負極の対向面積を増大化させることが提案されている。この場合、電極の厚みをできる限り薄くして、電極群を構成する際に、幾重にも捲回することで正・負極の対向面積を増大化させるようにしている。
【0004】
しかしながら、電極の厚みを薄くして巻回後の電極群における電極の層数を多くすると、電極の強度低下を招いて巻回時にワレや亀裂などが発生するようになる。なお、電極の強度向上の手法として電極に添加する結着剤の含有率を増大させることが、特許文献2(特開昭61−66366号公報)等が提案されている。ところが、この特許文献2にて提案された手法においては、結着剤の含有率が高いため、反応性が低下して高出力が得られないこととなる。このように、電極の強度向上と高出力を両立させることは困難なこととなる。
【特許文献1】特開2000−82491号公報
【特許文献2】特開昭61−66366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電極群の外径や高さが一定であると仮定すると、正・負極の対向面積を増大させるためには、電極の強度低下を招来しない程度に芯体の厚みを低減させたり、あるいはセパレータの目付を低減させる必要がある。ところが、大電流用途における電流密度の均一化の必要性の観点に基づくと、芯体の厚みを一定値以上に確保する必要がある。また、短絡防止の観点においては、セパレータの目付を一定値以上に確保する必要がある。このため、電極群における正・負極の対向面積を増大させるためには、必然的に電極群の構成圧を増加させることが必要となる。
【0006】
しかしながら、電極群の構成圧を増加させる工程においては、負極の表面に存在する水素吸蔵合金粉末とセパレータとの間に摩擦が生じて、水素吸蔵合金粉末が負極から脱落するようになる。ここで、水素吸蔵合金粉末が負極から脱落すると、脱落した水素吸蔵合金粉末を介して正・負極間をショートさせるという問題を生じる。また、ショートを発生させるまでに至らずとも、当該脱落した水素吸蔵合金粉末により電池電圧のバラツキを発生させるようになる。
【0007】
ところで、特に、HEVやPEVなどの高出力が求められる電源用途などのアルカリ蓄電池を複数個を直列に接続して構成される組電池に用いられる場合、各電池の電池電圧のバラツキにより充放電時の電池容量の差が生じるようになって、組電池としての寿命が更に短くなるという問題が生じるようになる。このため、従来の範囲を越える高出力が求められる電源用途などのアルカリ蓄電池に用いられる負極においては、芯体と負極活物質(水素吸蔵合金粉末)との密着強度だけではなく、負極活物質問の密着強度の向上が必要となる。
【0008】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであって、芯体と負極活物質(水素吸蔵合金粉末)との密着強度、および負極活物質問の密着強度が向上した水素吸蔵合金電極を提供するとともに、このような水素吸蔵合金電極を用いて、従来の範囲を越える高出力特性を有するアルカリ蓄電池を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は水素吸蔵合金を負極活物質とする水素吸蔵合金電極と水酸化ニッケルを主正極活物質とするニッケル電極との間にセパレータを介在させて渦巻状に巻回させた電極群をアルカリ電解液とともに外装缶内に備えたアルカリ蓄電池に関する。そして、上記目的を達成するため、水素吸蔵合金電極は結着剤として非水溶性高分子とアニオン系水溶性高分子とを含有しているとともに、アニオン系水溶性高分子は水素吸蔵合金電極の内部に存在する含有量よりも水素吸蔵合金電極の表面部に存在する含有量の方を多くしたことを特徴とする。
【0010】
ここで、結着剤として非水溶性高分子(例えば、SBR)とアニオン系水溶性高分子(例えば、CMC)とを用いるようにすると、水素吸蔵合金粉末の粒子表面に非水溶性高分子を点在させることができる。これにより、水素吸蔵合金粉末の粒子表面に三相界面(固体−液体−気体の界面)を形成することが可能となる。ところが、非水溶性高分子は被覆性が乏しいため、セパレータとの摩擦により水素吸蔵合金粉末の脱落が生じ易くなる。そこで、本発明においては、展延性や被覆性が優れているアニオン系水溶性高分子(例えば、CMC)を水素吸蔵合金電極の内部よりも表面部に多く含有させるようにしている。これにより、水素吸蔵合金粉末の脱落を抑制することが可能となるだけではなく、水素吸蔵合金電極内部への補液性を向上させることが可能となり、出力特性が向上する。
【0011】
そして、水素吸蔵合金電極の内部のアニオン系水溶性高分子(例えば、CMC)の水素吸蔵合金粉末に対する含有量をX(質量部)とし、水素吸蔵合金電極の表面部のアニオン系水溶性高分子(例えば、CMC)の水素吸蔵合金粉末に対する含有量をY(質量部)とした場合、Y/Xを3以上で13以下(3≦Y/X≦13)になるようにすると、活物質間強度および芯体−活物質間強度を両立させることができるという実験結果が得られた。また、このときの水素吸蔵合金電極の表面部のアニオン系水溶性高分子(例えば、CMC)の含有量Yは0.14質量部以上で0.63質量部以下(0.14質量部≦Y≦0.63質量部)であった。
【0012】
このようにY/XおよびYを規定すると、結着剤の添加量を増加させなくても電極群の構成圧の増加に耐えうる強度を確保することが可能となる。この結果、水素吸蔵合金粉末の脱落に起因する電池電圧のバラツキが抑制されるだけではなく、出力特性も向上させることが可能となる。この場合、水素吸蔵合金電極の表面部は、水素吸蔵合金電極の厚みをt1とし、この水素吸蔵合金電極の芯体の厚みをt2としたとき、水素吸蔵合金電極の表面より(t1−t2)×0.15までの範囲と定義することができる。
【0013】
なお、上述のような水素吸蔵合金電極を構成する水素吸蔵合金は、少なくともA519型構造の結晶構造を有し、少なくとも希土類元素、ニッケル、マグネシウム、アルミニウムを含有するものが望ましい。これは、A519型構造は、従来のAB2型構造とAB5型構造とが3層を周期として積み重なりあった結晶構造で、AB5型構造より結晶格子のa軸,c軸が短い。このため、格子体積が小さく、単位結晶格子当たりのニッケルの含有比率を増加させることができる。このため、活性度の高い構造を形成することが可能であって、本発明の電極設計において、三相界面での電荷移動抵抗を低減させることが可能である。
【0014】
また、少なくともA519型構造の結晶構造を有し、少なくとも希土類元素、ニッケル、マグネシウム、アルミニウムを含有する水素吸蔵合金は、一般式がLnl-xMgxNiy-a-bAlabと表され、0.1≦x≦0.2、3.5≦y≦3.9、0.1≦a≦0.3、0≦b≦0.2の条件を満たす必要がある。これは、x>0.2であるとマグネシウムの偏析が生じ、a>0.3であるとアルミニウムの偏析が生じるようになって、それぞれ耐食性の低下をもたらすようになるからである。また、y<3.5であったり、y>3.9であったりすると、A519型構造をそれぞれ構成することが困難となるからである。
【0015】
また、このような水素吸蔵合金において、その平均粒径が30μmより小さい場合、セパレータとの接触面積が増加するようになり、これに伴い摩擦係数が増加し、水素吸蔵合金粉末が脱落しやすくなる。このため、水素吸蔵合金電極の表面からの水素吸蔵合金粉末の脱落を抑制するためには、水素吸蔵合金粉末の平均粒径は30μm以上が望ましいが、本発明の水素吸蔵合金電極を用いることにより、平均粒径が30μm以下の水素吸蔵合金粉末を用いることが可能になる。
【0016】
この場合、アニオン系水溶性高分子の含有量を水素吸蔵合金電極の内部よりも表面部の方を多くすると、表面部と内部で等しい場合よりも活物質間強度が向上する。そして、アニオン系水溶性高分子の含有量を水素吸蔵合金電極の内部よりも表面部の方を多くした水素吸蔵合金電極を用いると、セパレータの目付量を35g/m2に低減しても、表面部と内部とでアニオン系水溶性高分子の含有量を等しくした水素吸蔵合金電極を用い、目付量が55g/m2のセパレータを用いた場合よりも、活物質間強度が向上した実験結果が得られた。このことから、本発明の水素吸蔵合金電極を用いることにより、セパレータの目付量を低減することも可能となり、目付量が35〜55g/m2のセパレータを用いることが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、水素吸蔵合金電極の表面部のアニオン系水溶性高分子の含有量を水素吸蔵合金電極の内部の含有量よりも多くしているので、水素吸蔵合金粉末の脱落を抑制することが可能となる。また、水素吸蔵合金電極内部への補液性を向上させることも可能となるので、出力特性が向上し、従来の範囲を越えた対向面積設計の水素吸蔵合金電極において、高信頼性および高出力特性を有するアルカリ蓄電池を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
ついで、本発明の実施の形態を図1から図3に基づいて以下に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。なお、図1は本発明のアルカリ蓄電池を模式的に示す断面図である。図2は水素吸蔵合金電極の内部に対する表面部のCMCの含有量の比Y/Xに対する活物質間強度および芯体−活物質間強度の関係を示す図である。図3はセパレータの目付量(g/m2)に対する活物質間強度の関係を示す図である。
【0019】
1.水素吸蔵合金
La,Ce,Pr,Nd,Sm,Mg,Ni,Al,Co,Mn,Znなどの金属元素を所定のモル比となるように混合した後、これらの混合物をアルゴンガス雰囲気の高周波誘導炉に投入して溶解させた後、合金鋳塊になるように溶湯急冷して、水素吸蔵合金a〜eを作製した。この場合、組成式がNd0.9Mg0.1Ni3.2Al0.2Co0.1で表されるものを水素吸蔵合金aとした。
【0020】
同様に、組成式がLa0.2Pr0.1Nd0.5Mg0.2Ni3.6Al0.3で表されるものを水素吸蔵合金bとし、La0.2Sm0.7Mg0.1Ni3.5Al0.1Zn0.2で表されるものを水素吸蔵合金cとし、La0.8Ce0.1Pr0.05Nd0.05Ni4.2Al0.3(Co,Mn)0.5で表されるものを水素吸蔵合金dとし、La0.2Pr0.3Nd0.3Mg0.2Ni3.1Al0.2で表されるものを水素吸蔵合金eとした。
【0021】
ついで、得られた各水素吸蔵合金a〜eについて、DSC(示差走査熱量計)を用いて融点(Tm)を測定した。その後、これらの水素吸蔵合金a〜eの融点(Tm)よりも30℃だけ低い温度(Ta=Tm−30℃)で所定時間(この場合は10時間)の熱処理を行った。そして、熱処理後の各水素吸蔵合金a〜eの組成を高周波プラズマ分光法(ICP)によって分析し、その結果を示すと、下記の表1に示すような結果が得られた。
【0022】
ついで、Cu−Kα管をX線源とするX線回折測定装置を用いる粉末X線回折法で水素吸蔵合金a〜eの結晶構造の同定を行った。この場合、スキャンスピード1°/min、管電圧40kV、管電流300mA、スキャンステップ1°、測定角度(2θ)20〜50°でX線回折測定を行った。得られたXRDプロファイルよりJCPDSカードチャートを用いて、各水素吸蔵合金a〜eの結晶構造を同定した。
【0023】
ここで、各結晶構造の構成比において、A519型構造はCe5Co19型構造とPr5Co19型構造とし、A27型構造はNd2Ni7型構造とCe2Ni7型構造とし、AB5型構造はLaNi5型構造として、JCPDSによる各構造の回折角の強度値と42〜44°の最強強度値との比各強度比を、得られたXRDプロファイルにあてはめて、各構造の構成比率を算出すると、下記の表1に示すような結果が得られた。
【表1】

【0024】
上記表1の結果から明らかなように、一般式がLnl-xMgxNiy-a-bAlabと表される水素吸蔵合金a〜eにおいて、0.1≦x≦0.2、3.5≦y≦3.9、0.1≦a≦0.3、0≦b≦0.2の条件を満たさないものの内、水素吸蔵合金dはAB5型構造からなり、水素吸蔵合金eはA27構造とAB5型構造とからなることが分かる。一方、0.1≦x≦0.2、3.5≦y≦3.9、0.1≦a≦0.3、0≦b≦0.2の条件を満たす水素吸蔵合金a,b,cは、少なくともA519型構造を有していることが分かる。
【0025】
2.水素吸蔵合金電極
ついで、水素吸蔵合金aを用いて、この水素吸蔵合金aの塊を粗粉砕した後、不活性ガス雰囲気中で平均粒径が25μmになるまで機械的に粉砕して、水素吸蔵合金粉末を作製した。この後、得られた水素吸蔵合金粉末100質量部に対し、非水溶性高分子としてのSBR(スチレンブタジエンラテックス)を0.5質量部と、アニオン系水溶性高分子としてのCMC(カルボキシメチルセルロース)を0.05質量部と、適量の水(あるいは純水)とを加え、混練して、水素吸蔵合金スラリーを作製した。
【0026】
この後、この水素吸蔵合金スラリーを、ニッケルメッキを施したパンチングメタルからなる芯体に塗着して負極合剤層を形成した。乾燥後、負極合剤層の充填密度が5.0g/cm3になるよう圧延し、負極表面積(短軸長×長軸長×2)が760cm2となるよう切断して、水素吸蔵合金電極11を作製した。ついで、CMCを適量の水(あるいは純水)に溶解させ、粘度200mPa・sになるよう調整した後、水素吸蔵合金電極11の表面部のCMC(アニオン系水溶性高分子)の含有量(水素吸蔵合金粉末100質量部に対する質量部)が表2に示すような所定量となるように、ロール転写により水素吸蔵合金電極11の表面部に塗布し、水素吸蔵合金電極a1〜a8をそれぞれ作製した。
この場合、水素吸蔵合金電極11の厚みをt1とし、この水素吸蔵合金電極のパンチングメタルからなる芯体の厚みをt2としたとき、水素吸蔵合金電極11の表面より(t1−t2)×0.15の範囲内を水素吸蔵合金電極の表面部と定義する。
【0027】
ここで、水素吸蔵合金電極11の表面部のCMC(アニオン系水溶性高分子)の含有量が0.05(この場合は、表面部へCMCが未塗布のもの)となるように調整されたものを水素吸蔵合金電極a1とした。同様に、0.08質量部となるように調整されたものを水素吸蔵合金電極a2とし、0.14質量部となるように調整されたものを水素吸蔵合金電極a3とし、0.24質量部となるように調整されたものを水素吸蔵合金電極a4とした。また、0.33質量部となるように調整されたものを水素吸蔵合金電極a5とし、0.50質量部となるように調整されたものを水素吸蔵合金電極a6とし、0.63質量部となるように調整されたものを水素吸蔵合金電極a7とし、0.70質量部となるように調整されたものを水素吸蔵合金電極a8とした。
そして、水素吸蔵合金電極の内部のCMCの含有量(水素吸蔵合金粉末100質量部に対する質量部)Xに対する水素吸蔵合金電極の表面部のCMCの含有量(水素吸蔵合金粉末100質量部に対する質量部)Yの比Y/Xを求めると、下記の表2に示すような結果となった。
【0028】
3.水素吸蔵合金電極の強度試験
(1)活物質間強度
ついで、上述のようにして作製された水素吸蔵合金電極a1〜a8をそれぞれ用いて、極板強度の指標となる加圧力試験(活物質間強度試験および芯体−活物質間強度試験)を以下のようにして行った。即ち、活物質間強度試験においては、各水素吸蔵合金電極a1〜a8を100mm×50mmに裁断し、その上に目付量が55g/m2のセパレータを載置した後、30g/cm2の荷重をかけながらセパレータを挿引(引っ張る)する。ついで、セパレータヘの活物質付着量を測定し、電極表面部へCMCが未塗布であるa1の活物質付着量を100とした際の相対値の逆数を活物質間強度の指標Aとした。つまり、指標Aが大きいほど、電極表面での活物質間強度が向上していることを示すようにした。
【0029】
(2)芯体−活物質間強度
一方、芯体−活物質間強度試験においては、各水素吸蔵合金電極a1〜a8を150mm×50mmに裁断し、これを半径が20mmのロールに巻き付けた後、粘着テープで固定した。この後、これらの上に0.5MPaの圧力を付与しながらロールを5秒間だけ回転させ、水素吸蔵合金粉末が芯体から剥がれた回数を求めた。そして、電極表面部へCMCが未塗布である水素吸蔵合金電極a1の剥がれ回数を100とした際の相対値を芯体−活物質間強度の指標Bとした。つまり、指標Bが小さいほど芯体と活物質との問の強度が弱いことを示すようにした。
【表2】

【0030】
ここで、上記表2の結果に基づいて、水素吸蔵合金電極の内部のCMCの含有量Xに対する表面部のCMCの含有量Yの比Y/Xを横軸(X軸)とし、活物質間強度(指標A)および芯体−活物質間強度(指標B)を縦軸にしてグラフにして表すと、図2に示すような結果となった。そして、これらの表2および図2の結果から明らかなように、活物質間強度(指標A)はY/Xが増加するに伴って向上することが分かる。一方、芯体−活物質間強度(指標B)は、Y/Xが3.0以上になると向上するようになるが、13を超えるようになると、逆に、電極表面部へCMCが未塗布である水素吸蔵合金電極a1よりも低下することが分かる。
【0031】
ここで、芯体−活物質間強度試験の際、粘着テープ際の水素吸蔵合金粉末が剥離するのに対して、Y/X>13の場合には、粘着テープ際以外の水素吸蔵合金粉末が剥離するのが確認された。これは、水素吸蔵合金電極の表面がCMC(アニオン系水溶性高分子)により硬化して、巻取り時に表面割れが発生したためと考えられる。
【0032】
これらの結果から、活物質間強度および芯体−活物質間強度を両立させるには、水素吸蔵合金電極の内部に対する表面部のCMCの含有量の比Y/Xを3以上で13以下(3≦Y/X≦13)になるようにするのが望ましいということができる。この場合、水素吸蔵合金電極の表面部のCMCの含有量Yは0.14質量部以上で0.63質量部以下(0.14質量部≦Y≦0.63質量部)となる。なお、このような活物質間強度向上効果および芯体−活物質間強度向上効果の両効果は、巻回圧力が強くなるほど、即ち、両電極間の対向面積を増大させたほど効果が表れるようになる。
【0033】
4.ニッケル−水素蓄電池
ついで、上述した水素吸蔵合金b〜eを用いて、これらの水素吸蔵合金b〜eの塊を粗粉砕した後、不活性ガス雰囲気中で平均粒径が25μmになるまで機械的に粉砕して、水素吸蔵合金粉末を作製した。ついで、上述と同様に、得られた水素吸蔵合金粉末100質量部に対し、非水溶性高分子としてのSBRを0.5質量部と、アニオン系水溶性高分子としてのCMCを0.05質量部と、適量の水(あるいは純水)とを加え、混練して、水素吸蔵合金スラリーを作製した。
【0034】
ついで、得られた水素吸蔵合金スラリーを用いて水素吸蔵合金電極をそれぞれ作製した後、表面部のCMCの含有量が0.63質量部となるように、ロール転写により水素吸蔵合金電極の表面に塗布して水素吸蔵合金電極11(b7,c7,d7,e7)を作製した。ここで、水素吸蔵合金bを用いたものを水素吸蔵合金電極b7とし、水素吸蔵合金cを用いたものを水素吸蔵合金電極c7とし、水素吸蔵合金dを用いたものを水素吸蔵合金電極d7とし、水素吸蔵合金eを用いたものを水素吸蔵合金電極e7とした。
【0035】
ついで、上述のようにして作製した水素吸蔵合金電極11(a1,a3,a4,a7,b7,c7,d7,e7)と、公知のニッケル電極12とを用い、これらの間に、目付が55g/cm2のポリプロピレン製不織布からなるセパレータ13を介在させて渦巻状に巻回して渦巻状電極群を作製した。なお、このようにして作製された渦巻状電極群の下部には水素吸蔵合金電極11の芯体露出部11cが露出しており、その上部にはニッケル電極12の芯体露出部12cが露出している。ついで、得られた渦巻状電極群の下端面に露出する芯体露出部11cに負極集電体14を溶接するとともに、渦巻状電極群の上端面に露出するニッケル電極12の芯体露出部12cの上に正極集電体15を溶接して、電極体とした。
【0036】
ついで、得られた電極体を鉄にニッケルメッキを施した有底筒状の外装缶(底面の外面は負極外部端子となる)17内に収納した後、負極集電体14を外装缶17の内底面に溶接した。一方、正極集電体15より延出する集電リード部15aを正極端子を兼ねるとともに外周部に絶縁ガスケット19が装着された封口体18の底部に溶接する。なお、封口体18には正極キャップ18aが設けられていて、この正極キャップ18a内に所定の圧力になると変形する弁体18bとスプリング18cよりなる圧力弁(図示せず)が配置されている。
【0037】
ついで、外装缶17の上部外周部に環状溝部17aを形成した後、電解液を注液し、外装缶17の上部に形成された環状溝部17aの上に封口体18の外周部に装着された絶縁ガスケット19を載置する。この後、外装缶17の開口端縁17bをかしめることにより、ニッケル−水素蓄電池10(A1,A3,A4,A7,B7,C7,D7,E7)が作製される。この場合、外装缶17内に30質量%の水酸化カリウム(KOH)水溶液からなるアルカリ電解液を電池容量(Ah)当り2.5g(2.5g/Ah)となるように注入した。
【0038】
ここで、水素吸蔵合金電極a1を用いたものを電池A1とし、水素吸蔵合金電極a3を用いたものを電池A3とし、水素吸蔵合金電極a4を用いたものを電池A4とし、水素吸蔵合金電極a7を用いたものを電池A7とした。また、水素吸蔵合金電極b7を用いたものを電池B7とし、水素吸蔵合金電極c7を用いたものを電池C7とし、水素吸蔵合金電極d7を用いたものを電池D7とし、水素吸蔵合金電極e7を用いたものを電池E7とした。なお、これらの各電池A1,A3,A4,A7,B7,C7,D7,E7の公称容量は6AhでDサイズ(直径が32mmで、高さが60mm)とした。
【0039】
これらの各電池A1,A3,A4,A7,B7,C7,D7,E7において、25℃で、1Itの充電電流でSOC(State Of Charge :充電深度)の120%まで充電し、1時間休止した後、70℃で24時間放置(熟成)した。ついで、45℃で、1Itの放電電流で電池電圧が0.3Vになるまで放電させた。ついで、このような充電、休止、熟成、放電を2サイクル繰り返して、これらの各電池A1,A3,A4,A7,B7,C7,D7,E7をそれぞれ活性化した。
【0040】
5.出力特性試験
ついで、上述のように活性化した各電池A1,A3,A4,A7,B7,C7,D7,E7において、以下のようにして出力特性(−10℃アシスト出力および−30℃アシスト出力)の測定を行った。即ち、−10℃アシスト出力においては、25℃で、1Itの充電電流でSOC50%まで充電し、1時間休止した。この後、−10℃の温度環境で、以下のような任意の充電レートで20秒間充電させた後、30分間休止した後、以下のような任意の放電レートで10秒間放電させた後、25℃で、30分間休止させた。このような−10℃での充電、休止、放電、25℃での休止を繰り返した。
【0041】
この場合、任意の充電レートは0.8It→1.7It→2.5It→3.3It→4.2Itと充電電流を増加させ、任意の放電レートは1.7It→3.3It→5.0It→6.7It→8.3Itと放電電流を増加させていき、各レートで10秒経過時点における各電池電圧を測定して行った。ここで、放電特性の指標として放電V−Iプロット近似直線上の0.9V電流を−10℃アシスト出力として求めると、下記の表3に示すような結果が得られた。
【0042】
一方、−30℃アシスト出力においては、25℃で、1Itの充電電流でSOC50%まで充電し、1時間休止した。この後、−30℃の温度環境で、以下のような任意の充電レートで20秒間充電させた後、30分間休止した後、以下のような任意の放電レートで10秒間放電させた後、25℃で、30分間休止させた。このような−30℃での充電、休止、放電、25℃での休止を繰り返した。
【0043】
この場合、任意の充電レートは0.3It→0.7It→1.0It→1.3It→1.7Itと充電電流を増加させ、任意の放電レートは0.7It→1.3It→2.0It→2.7It→3.3Itと放電電流を増加させていき、各レートで10秒経過時点における各電池電圧を測定して行った。ここで、放電特性の指標として放電V−Iプロット近似直線上の0.9V電流を−30℃アシスト出力として求めると、下記の表3に示すような結果が得られた。なお、表3における−10℃アシスト出力および−30℃アシスト出力は、電池C1の結果を100とした際の相対値で表している。
【0044】
【表3】

【0045】
上記表3の電池A1,A3,A4,A7の結果から明らかなように、Y/Xが増加するほど、また、低温になるほど放電特性(出力特性;アシスト出力)が向上していることが分かる。これは、展延生や被覆性に優れているCMC(アニオン系水溶性高分子)の含有量を水素吸蔵合金電極の内部よりも表面部に多くすることで、水素吸蔵合金粉末の脱落が抑制可能となるだけではなく、電極内部の補液性が向上するようになる。これにより、三相界面での電荷移動抵抗が低減して、電荷移動抵抗が支配的な低温領域での放電特性(出力特性;アシスト出力)が向上したと考えられる。
【0046】
ここで、上記表3において、表面部のCMCの含有量が0.63質量部となるように調整された水素吸蔵合金電極を備えた電池A7,B7,C7,D7,E7の低温での放電特性(出力特性;アシスト出力)を比較する。この場合、電池A7,B7,C7においては放電特性(出力特性;アシスト出力)が優れていることが分かる。一方、電池D7,E7においては放電特性(出力特性;アシスト出力)が劣っていることが分かる。これは、電池A7,B7,C7においては、Lnl-xMgxNiy-a-bAlabと表した場合に、0.1≦x≦0.2、3.5≦y≦3.9、0.1≦a≦0.3、0≦b≦0.2の条件を満たす水素吸蔵合金a(Nd0.9Mg0.1Ni3.2Al0.2Co0.1)、水素吸蔵合金b(La0.2Pr0.1Nd0.5Mg0.2Ni3.6Al0.3)、水素吸蔵合金c(La0.2Sm0.7Mg0.1Ni3.5Al0.1Zn0.2)を用いている。
これらの水素吸蔵合金a,b,cは、少なくともA519型構造を有している。そして、A519型構造は単位結晶格子当たりのニッケルの含有比率を増加させることが可能で、活性度の高い構造となる。このため、放電特性(出力特性;アシスト出力)が向上したと考えられる。
【0047】
一方、電池D7においてはAB5型構造の水素吸蔵合金d(La0.8Ce0.1Pr0.05Nd0.05Ni4.2Al0.3(Co,Mn)0.5)を用いており、電池E7においてはA27構造とAB5型構造とからなる水素吸蔵合金e(La0.2Pr0.3Nd0.3Mg0.2Ni3.1Al0.2)を用いている。これらの合金d,eは、Lnl-xMgxNiy-a-bAlabと表した場合に、0.1≦x≦0.2、3.5≦y≦3.9、0.1≦a≦0.3、0≦b≦0.2の条件を満たしていないため、放電特性(出力特性;アシスト出力)が低下したと考えられる。
【0048】
以上のことから、一般式がLnl-xMgxNiy-a-bAlabと表される水素吸蔵合金において、少なくともA519型構造を有している水素吸蔵合金a,b,cを用いるのが望ましいということが分かる。ここで、x>0.2であるとマグネシウムの偏析が生じ、a>0.3であるとアルミニウムの偏析が生じるようになって、それぞれ耐食性の低下をもたらすようになる。また、y<3.5であったり、y>3.9であったりすると、A519型構造をそれぞれ構成することが困難である。このため、0.1≦x≦0.2、3.5≦y≦3.9、0.1≦a≦0.3、0≦b≦0.2の条件を満たす必要がある。
【0049】
6.セパレータの目付の検討
ついで、セパレータの目付(g/m2)と活物質間強度との関係を検討した。そこで、上述のようにして作製された水素吸蔵合金電極a1,a3をそれぞれ用い、これに、目付が51g/m2のセパレータを組み合わせて上述と同様に活物質間強度の指標Aを求めた。同様に、目付が45g/m2のセパレータを組み合わせて活物質間強度の指標Aを求めるととに、目付が35g/m2のセパレータを組み合わせて活物質間強度の指標Aを求める下記の表4に示すような結果が得られた。なお、表4には、先に示した目付が55g/m2のセパレータを用いた場合の結果も併せて示している。そして、セパレータの目付を横軸とし、活物質間強度の指標Aを縦軸にしてグラフに表すと図3に示すように結果となった。
【表4】

【0050】
上記表4および図3の結果から明らかなように、CMC(アニオン系水溶性高分子)を水素吸蔵合金電極11の表面に塗布しなかった電極a1を用いると、セパレータの目付を低減させるに伴い、活物質間強度が低下することが分かる。一方、CMC(アニオン系水溶性高分子)を水素吸蔵合金電極11の表面に塗布した電極a3を用いると、セパレータの目付を35g/m2に低減しても、CMC(アニオン系水溶性高分子)を表面に塗布しなかった電極a1を用いた場合よりも活物質間強度が向上することが分かる。このことから、CMC(アニオン系水溶性高分子)を水素吸蔵合金電極11の表面に塗布した電極を用いることにより、セパレータの目付を35g/m2に低減させることが可能になるということができる。
【0051】
なお、上述した実施の形態においては、水溶性結着剤となるアニオン系水溶性高分子としてCMC(カルボキシメチルセルロース)を用いる例について説明したが、本発明は、セルロースを原料として得られるCMCに限らず、例えば、ポリカルボン酸とポリアクリル酸系共重合体およびこれらのアンモニウム塩、ビニル系単量体とアクリルアミド系の親水性単量体との共重合体等のアニオン系水溶性高分子を用いても同様な効果が得られる。
【0052】
また、非水溶性ポリマーとしては、上述したSBR(スチレン−ブタジエン−ラテックス)以外に、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、NBR(アクリロニトリル−ブタジエン−ラテックス)、アクリレート−ブタジエン−ラテックス等の水素吸蔵合金粉末を保持することが可能なアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、芳香族オレフィン、共役ジエン、オレフィンから選択される二種以上を含む共重合体から選択して用いるようにしてもよい。この場合、水素吸蔵合金スラリーの作製時に均一分散が容易なエマルジョンまたはラテックスの状態で用いるのが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
上述したように、本発明により構成されたアルカリ蓄電池においては、水素吸蔵合金粉末が水素吸蔵合金電極から脱落することが防止できるようになる。これにより、個々のアルカリ蓄電池の特性(電池電圧や充放電容量など)に不均一を生じることなく製造することが可能となる。このため、これらの単電池を用いて組電池(例えば、5個以上を直列に組み合わせた組電池)を構成すると、特にその効果を有効に発揮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のアルカリ蓄電池を模式的に示す断面図である。
【図2】水素吸蔵合金電極の内部に対する表面部のCMCの含有量の比Y/Xに対する活物質間強度および芯体−活物質間強度の関係を示す図である。
【図3】セパレータの目付(g/m2)に対する活物質間強度の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
11…水素吸蔵合金電極、11c…芯体露出部、12…ニッケル電極、12c…芯体露出部、13…セパレータ、14…負極集電体、15…正極集電体、16…正極用リード、17…外装缶、17a…環状溝部、17b…開口端縁、18…封口体、18a…正極キャップ、18b…正極キャップ、18b…弁板、18c…スプリング、19…絶縁ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵合金を負極活物質とする水素吸蔵合金電極と水酸化ニッケルを主正極活物質とするニッケル電極との間にセパレータを介在させて渦巻状に巻回させた電極群をアルカリ電解液とともに外装缶内に備えたアルカリ蓄電池であって、
前記水素吸蔵合金電極は結着剤として非水溶性高分子とアニオン系水溶性高分子とを含有しているとともに、
前記アニオン系水溶性高分子は前記水素吸蔵合金電極の内部に存在する含有量よりも前記水素吸蔵合金電極の表面部に存在する含有量の方を多くしたことを特徴とするアルカリ蓄電池。
【請求項2】
前記水素吸蔵合金電極の内部に存在する前記アニオン系水溶性高分子の含有量を水素吸蔵合金粉末100質量部に対してX質量部とし、
前記水素吸蔵合金電極の表面部に存在する前記アニオン系水溶性高分子の含有量を水素吸蔵合金粉末100質量部に対してY質量部とした場合、
3≦Y/X≦13の関係を有するとともに、0.14質量部≦Y≦0.63質量部の関係を有することを特徴とする請求項1に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項3】
前記水素吸蔵合金電極の厚みをt1とし、該水素吸蔵合金電極の芯体の厚みをt2としたとき、前記水素吸蔵合金電極の表面部は当該水素吸蔵合金電極の表面より(t1−t2)×0.15までの範囲であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項4】
前記水素吸蔵合金は、少なくとも希土類元素、ニッケル、マグネシウム、アルミニウムを含有するとともに、少なくともA519型構造の結晶構造を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のアルカリ蓄電池。
【請求項5】
前記水素吸蔵合金は、一般式がLnl-xMgxNiy-a-bAlab(式中、LnはYを含む希土類元素から選択される少なくとも1種の元素で、MはCo,Mn,Znから選択される少なくとも1種の元素であり、0.1≦x≦0.2、3.5≦y≦3.9、0.1≦a≦0.3、0≦b≦0.2)で表されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のアルカリ蓄電池。
【請求項6】
前記水素吸蔵合金は平均粒径が30μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のアルカリ蓄電池。
【請求項7】
前記セパレータは目付量が35〜55g/m2であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のアルカリ蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−59598(P2009−59598A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226167(P2007−226167)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】