説明

アルカリ電池用セパレータ及びアルカリ電池

【課題】アルカリ電池の内部抵抗を低減させて重負荷放電性能の向上を図るためのアルカリ電池用セパレータ及びアルカリ電池を提供する。
【解決手段】アルカリ電池1における正極活物質と負極活物質とを隔離するためのセパレータ4であって、セルロース繊維を40重量%以上含み、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂を樹脂固形分として0.05重量%〜0.5重量%の含有率で含むアルカリ電池用セパレータを構成する。また、このセパレータを正極活物質と負極活物質間に介在させたアルカリ電池を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリマンガン電池,ニッケル亜鉛電池,酸化銀電池、空気亜鉛電池等の亜鉛を負極活物質とするアルカリ電池に使用されるアルカリ電池用セパレータ及び該セパレータを使用したアルカリ電池に関し、特にはLR6,LR03といった小型のアルカリ電池の内部抵抗を低減させて重負荷放電性能の向上を図るものである。
【背景技術】
【0002】
従来からアルカリ電池における正極活物質と負極活物質とを隔離するためのセパレータに要求されている特性として、正極活物質と負極活物質の接触や負極の放電によって生成した亜鉛酸化物の針状結晶(デンドライト)による内部短絡を防止し、水酸化カリウム等の電解液や二酸化マンガン,オキシ水酸化ニッケル,酸化銀等の正極活物質に対して収縮及び変質を起こさない耐久性を有するとともに、イオン伝導を妨げないことが挙げられている。更に、アルカリ電池の輸送時や落下時の衝撃によっても電池内部のセパレータが破損して内部短絡が発生する可能性があるため、セパレータは十分な機械強度を保持することが求められる。
【0003】
特に近年、アルカリマンガン電池は、ビデオカメラ,ポータブル映像機器,デジタルカメラ,ゲーム機,リモコン等への利用が増え、又これらの機器の高性能化に伴い、アルカリマンガン電池の大電流化が要求されており、重負荷放電特性が重要視されてきている。そのため、アルカリマンガン電池の内部抵抗を低減させるため、セパレータも更なる電気抵抗の低減が求められている。
【0004】
アルカリ電池用セパレータとしては、耐アルカリ性合成繊維であるビニロン繊維やナイロン繊維を主体とし、これらに耐アルカリ性に優れたセルロース繊維であるレーヨン繊維,リンターパルプ,マーセル化木材パルプ,ポリノジック繊維,リヨセル繊維等を配合し、更にバインダとして60℃〜90℃の熱水に溶解する易溶解性のポリビニルアルコール繊維を10重量%〜20重量%添加した、合成繊維とセルロース繊維の混抄紙が使用されている。これら従来のセパレータの製造にあたって、前記したリンターパルプ等の叩解処理が可能なセルロース繊維は必要に応じて叩解処理を施し、繊維本体から微細なフィブリルを生じさせて、セパレータに緻密性を付与し、セパレータの遮蔽性能を高めることが行われている。
【0005】
例えば本願出願人は、マーセル化パルプやポリノジック繊維等の叩解可能な耐アルカリ性セルロース繊維と合成繊維とを、ポリビニルアルコール繊維等のバインダを用いて混抄し、かつ、結着してなるアルカリ電池用セパレータであって、耐アルカリ性セルロース繊維を10重量%〜50重量%の範囲で含有し、かつ、耐アルカリ性セルロース繊維の叩解の程度をCSF(カナダ標準形ろ水度 JIS P8121)の値で500ml〜0mlの範囲としたアルカリ電池用セパレータを提供している(特許文献1)。
【0006】
他例として、セルロースを溶剤に溶解させ直接にセルロースを析出させて得られたセルロース繊維のフィブリル化物に、1デニール以下のポリビニルアルコール系繊維を実質的な主体繊維とし、更に水中溶解温度が60℃〜98℃のポリビニルアルコール系の繊維状バインダを配合したアルカリ電池用セパレータも提供されている(特許文献2)。この特許文献2に開示されたセルロース繊維は、セルロースをアミンオキサイドに溶解させた紡糸原液を水中に乾湿式紡糸した溶剤紡糸セルロース繊維であって、現在、リヨセルという一般名称で知られる再生セルロース繊維である。従って、特許文献2に開示されたセパレータは、叩解処理してフィブリル化させたリヨセル繊維に、1デニール以下のビニロン繊維、更にポリビニルアルコール系の繊維状バインダを配合したものである。
【0007】
また、本願出願人は、セルロース1とセルロース2が共存したアルカリ処理パルプを原料とすることにより、薄く、かつ、電池内部での正極活物質に対する劣化が少なくて気密度が大きく、短絡防止効果にも優れたアルカリ電池用セパレータとして、厚さ15μm〜60μm,気密度10分/100ml〜800分/100mlの緻密で気密度の大きいアルカリ電池用セパレータを提供している(特許文献3)。
【0008】
更に、本願出願人は、アルカリ電池用セパレータの開発歴史の過去(1977年)において、マーセル化木材クラフトパルプ単独を抄紙するか又はマーセル化木材クラフトパルプが50重量%以上になるように合成繊維、合成樹脂パルプ、耐アルカリ性樹脂からなる群より選択された少なくとも1種を添加した混合物を混抄して得られるアルカリ乾電池用セパレータを提供している(特許文献4)。この特許文献4において、耐アルカリ性樹脂としてポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(ディックハーキュレス社製の商品名「カイメン557」)をセパレータに添加する実施例及び比較例を開示している。なお、特許文献4に開示されているポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂は現在、簡略化してポリアミドエピクロロヒドリン樹脂といわれることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−119049公報
【特許文献2】特開平6−163024公報
【特許文献3】特開2006−4844公報
【特許文献4】特開昭54−87824公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来使用されているアルカリ電池用セパレータには、前記特許文献1,2に示すように、繊維の交点を結着させて乾紙強度や湿潤強度を向上させるためのバインダとして60℃〜90℃の熱水に溶解する易溶解性のポリビニルアルコール繊維を、セパレータ重量の10重量%〜20重量%添加しているものが多く見受けられる。この易溶解性のポリビニルアルコール繊維は他の原料繊維と混抄されて湿紙に抄き上げられ、湿紙の乾燥工程における加熱によって、湿紙に含有した水に溶解してポリビニルアルコール樹脂となって、湿紙を構成する合成繊維とセルロース繊維の間に溶けて広がっていく。次いで、乾燥の進行に伴って水分が湿紙から蒸発し、繊維間に広がったポリビニルアルコール樹脂が繊維と繊維の交点を相互に結着させる。このようにポリビニルアルコール樹脂で繊維間が結着されることにより、乾紙状態でのセパレータの強度を高めることができる。また、ポリビニルアルコール樹脂はアルカリ電解液に溶解しにくいため、電解液中でのセパレータの湿潤強度を保持するのにも役立っている。
【0011】
しかしながら、一方において、抄紙の乾燥工程で溶解したポリビニルアルコール樹脂は、繊維間に膜状に広がっていき、セパレータの空隙を埋めて多くの孔を塞ぐこととなり、その結果セパレータの電気抵抗を不必要に大きくするという問題点を有している。更に、抄紙段階の課題として、溶解したポリビニルアルコール樹脂が乾燥する際に、セパレータがポリビニルアルコール樹脂でドライヤ表面に接着される問題がある。このため、易溶解性のポリビニルアルコール繊維を配合したセパレータの抄紙に際しては、ドライヤ表面にテフロン(登録商標)加工を施したり、或いは定期的にドライヤ表面に剥離剤を塗布する等のドライヤ表面からセパレータを容易に剥離できる処置を採る必要があった。
【0012】
また、セパレータの電気抵抗の増加には、配合されたセルロース繊維の叩解の程度も関係する。特許文献3にかかる緻密で気密度の大きいセパレータによれば、電気抵抗を増大させる原因となる易溶解性のポリビニルアルコール繊維のようなバインダを添加しなくても、CSF50ml〜0mlの高い叩解処理によるフィブリル化したセルロース繊維間の水素結合によって必要な強度を得ることができる。その結果、アルカリ電池内に組み込んだ際の厚さを薄くすることができ、アルカリ電池内部におけるセパレータの容積を少なくすることができるため、両極活物質の増量,重負荷放電性能の向上,電気容量の増加,内部抵抗の減少等の電気特性をより向上させることができる。
【0013】
仮に、特許文献3にかかるような高度に叩解処理を施したセルロース繊維を原料とする高気密度のセパレータに、易溶解性のポリビニルアルコール繊維を配合すると、セパレータの電気抵抗は極端に増加し、厚さを15μm〜60μmと薄くしても電池の重負荷放電特性の悪化は免れなくなる。即ち、セパレータにCSFの値の小さいフィブリル化の進んだセルロース繊維を配合した場合、フィブリル化の効果で孔径の小さい緻密なセパレータが得られる。その上、フィブリル化したセルロース繊維は水素結合で自己接着されやすいため、セパレータの密度も高くなってしまう。そのため得られたセパレータの空隙が減少し、更にこの少なくなった空隙に溶解したポリビニルアルコール樹脂が広がって空隙を埋めるため、叩解の程度の少ないCSFの値の大きいセルロース繊維を使用した場合に比べて、セパレータの電気抵抗が著しく大きくなってしまう。また、フィブリル化の進んだセルロース繊維は、抄紙時の湿紙の保水量も多くなるため、易溶解性のポリビニルアルコール繊維が溶けて繊維間に広がりやすくなってしまう。
【0014】
なお、特許文献3に示すようなフィブリル化の進んだセルロース繊維を配合してセパレータの気密度を高めることにより緻密性を増加させる場合にも、抄紙工程における乾燥工程で次のような固有の問題がある。即ち、気密度の大きいセパレータをドライヤで加熱乾燥すると、ドライヤ表面に接したセパレータから発生した水蒸気がセパレータの中を抜け難くなる。このため発生した水蒸気によってドライヤ表面からセパレータが部分的に浮き上がり、セパレータに乾燥不良部分が発生するのである。そして、その後に乾燥できたとしても、ドライヤ表面に密着していた部分に比べて、未乾燥になった部分は厚さが厚くなり、均質なセパレータを得ることができない。そのため、このような緻密で気密度の大きいセパレータを乾燥するには、ドライヤの表面にセパレータを圧着させて乾燥させることが必要になる。具体的には、長網抄紙機で一般的に利用されているように、ドライヤ表面で乾燥中のセパレータの上から、ドライヤフェルト、或いはドライヤカンバス等によって押さえつけて乾燥させる。このように、押さえつけることによって、ドライヤ表面からのセパレータの蒸気による浮き上がりが防止できる。
【0015】
よって、特許文献3にかかるような高度に叩解処理を施した高気密度のセパレータに、易溶解性のポリビニルアルコール繊維を配合して抄紙した湿紙状態のセパレータをドライヤフェルト等で拘束して乾燥しようとすると、溶けたポリビニルアルコール樹脂によってセパレータがドライヤ表面に接着してしまうことになる。また、ドライヤ表面からセパレータを剥離できたとしても、反対側のドライヤフェルト等へ接着されるため、結局抄紙できないことになってしまう。
【0016】
このように易溶解性のポリビニルアルコール繊維は、バインダとして優れた結着作用を有し、乾紙状態でのセパレータの強度や電解液中でのセパレータの湿潤強度を保持するのにも役立つ素材である。しかしながら、同時に、溶解したポリビニルアルコール樹脂がセパレータの空隙を埋めて多くの孔を塞ぐことによって、セパレータの電気抵抗を増加させるという大きな問題点を有しており、この問題点はアルカリ電池の重負荷放電特性にとって大きな悪影響を与えることとなる。即ち、セパレータの電気抵抗が大きくなると、のセパレータを使用したアルカリ電池の内部抵抗が増加することになり、重負荷放電特性が劣ることとなる。よって、アルカリ電池の内部抵抗を低減させて重負荷放電性能の向上を図ることができるアルカリ電池用セパレータを得るためには、易溶解性のポリビニルアルコール繊維の利点を生かすことができない。
【0017】
一方、特許文献4に示すセパレータに耐アルカリ性樹脂として添加されているポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂は、紙の湿潤紙力増強剤として知られるカチオン性の水溶性樹脂であり、セルロース繊維を含む原料スラリー液に添加して抄紙するだけで、アニオン性を有するセルロース繊維表面に自己定着する。定着した樹脂は紙の乾燥時の加熱によって、セルロース繊維や他の配合した繊維の水酸基と反応し、更に繊維間を架橋結合することによって、得られる紙の湿潤強度を高めることができる。
【0018】
添加されたポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂はアニオン性のセルロース繊維表面に選択的に定着するため、添加量は1重量%以下といった少ない添加量でセパレータに充分な湿潤強度を付与できる。しかも、易溶解性のポリビニルアルコール繊維の10重量%〜20重量%の添加量に比べて、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂は僅かの添加量で繊維の交点を結着することができるとともに、易溶解性のポリビニルアルコール繊維のように溶解してセパレータの繊維間に広がることも、繊維間の空隙を埋めることも、孔を塞ぐこともないためセパレータの電気抵抗が増加しにくいと考えられる。
【0019】
しかしながら、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂は、アルカリ電池用セパレータに使用するには耐アルカリ性が必ずしも十分ではない。通常、アルカリ電池には適量の酸化亜鉛を溶解した30%〜40%の濃度の水酸化カリウム水溶液が電解液として用いられる。このような強アルカリ性の電解液に長時間浸漬されると、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂のアミド基が徐々に加水分解されて、セパレータの湿潤強度が低下してしまう。
【0020】
従って、アルカリ電池の製造直後は問題ないものの、長時間放置された後に、輸送による振動や落下による衝撃が加わった場合、セパレータがアルカリ電池内部で破損するおそれがある。セパレータが破損すれば、負極の亜鉛ゲルがセパレータの破れた部分から漏れ出して正極に接触し、内部短絡を起こすことになる。内部短絡を起こせば、アルカリ電池の電圧が低下し、電池の容量がなくなっていく。更に、急激な内部短絡が起これば電池が発熱してアルカリ電解液が漏液することになって危険である。そのため、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂を、繊維の交点を結着するための易溶解性のポリビニルアルコール繊維の代替として使用することはできない。
【0021】
また、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂は、本発明者らの研究によって水銀無添加である亜鉛合金の負極に対して腐食を増加させる原因となることも判明している。よって、セパレータにポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂が添加されていると、負極の腐食が促進され、負極からの水素ガス発生量が増加することとなる。そして、水素ガスの発生量が許容範囲以上に増加すれば電池内圧が高くなり、電解液の漏液を引き起こすことになる。
【0022】
なお、特許文献4の出願当時(1977年)は、亜鉛粉末に水銀を添加して亜鉛表面をアマルガム化した負極を使用していたので、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂を添加したセパレータをアルカリ電池に使用しても電池の水素ガス発生には殆ど影響を生じなかった。しかし、その後の環境汚染防止の観点からアマルガム化した亜鉛負極は、ボタン型アルカリ電池で若干残るものの、その他のアルカリ電池では、無水銀化の要請によって姿を消している。現在では水銀の添加に代わって、亜鉛にアルミニウム、ビスマス及びインジウム等の金属を添加した亜鉛合金粉末がアルカリ電池の負極に使用されている。
【0023】
よって、上記した易溶解性のポリビニルアルコール繊維やポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂を添加したり、これらを併用するだけでは、アルカリ電池の内部抵抗を低減させて、より一層の重負荷放電性能の改善を実現することができない。
【0024】
そこで、本発明はこれらの事情に鑑み、上記した従来の課題を解決して、アルカリ電池の内部抵抗を低減させて重負荷放電性能の向上を図るために、繊維と繊維の交点を相互に結着させて、乾紙状態及び湿潤状態での充分な強度を確保するとともに、イオン電導を円滑に行うために均質な繊維間の空隙を確保し、更に充分な耐アルカリ性を有するアルカリ電池用セパレータ及び該セパレータを使用したアルカリ電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは上記した課題を解決するために、抄紙時に溶解してセパレータの繊維間空隙を埋めてしまうという易溶解性のポリビニルアルコール繊維の問題点を解決するために、ポリビニルアルコール繊維や各種の湿潤紙力増強剤について鋭意研究の結果、耐アルカリ性が十分でないポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂に代えて、より耐アルカリ性に優れた湿潤紙力増強剤であるポリアミンエピクロロヒドリン樹脂に着目した。
【0026】
このポリアミンエピクロロヒドリン樹脂は、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂と同様のカチオン性の水溶性樹脂で、セルロース繊維を含むスラリー液に添加することによって、繊維表面に自己定着する。定着した樹脂は紙の乾燥時の加熱によって、セルロース繊維や他の配合した繊維の水酸基と反応し、更に繊維間を架橋結合することによって、得られる紙の湿潤強度を高めることができる。しかも、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂は、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂に比べて、セパレータの湿潤紙力増強効果が大きいため、添加量を大幅に少なくすることができる。
【0027】
なお、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂も、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂と同様にカチオン性樹脂であるため、水銀無添加の亜鉛合金の負極に対しては、全般的に負極の腐食を増加させる傾向があることに変わりはない。しかしながら、前記したようにポリアミンエピクロロヒドリン樹脂は、セパレータの湿潤紙力増強効果が大きいため、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂に比べて、必要とする湿潤紙力を得るためのセパレータへの添加量を少なくすることができる。その結果、水銀無添加の亜鉛合金負極の腐食による水素ガス発生量も、アルカリ電池用セパレータとしての使用に差し支えないレベルにまで押さえることができる特徴を有している。
【0028】
また、本発明者らは水銀無添加の亜鉛合金負極の腐食の抑制に関しても研究を続け、その結果、従来のセパレータに添加されている易溶解性のポリビニルアルコール繊維等のポリビニルアルコール樹脂をセパレータ或いは電解液等の電池構成材料に添加することによって、水銀無添加の亜鉛合金負極の腐食が抑制され、水素ガスの発生量が減少するとの新たな知見を得た。この知見によって、ポリビニルアルコール繊維をポリアミンエピクロロヒドリン樹脂とともにセパレータに配合することにより、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂の添加に起因する水素ガスの発生量をより低いレベルにまで減少させることができ、更に優れたアルカリ電池用セパレータを提供することができる。
【0029】
しかしながら、従来のセパレータと同様に、60℃〜90℃といった比較的に低温で溶解する易溶解性のポリビニルアルコール繊維を、従来のように10重量%〜20重量%といった割合でセパレータに配合すれば、繊維間の空隙がポリビニルアルコール樹脂によって埋まってしまい、セパレータの電気抵抗が増加してしまうという問題点を解決することができない。従って、易溶解性のポリビニルアルコール繊維を添加して水素ガスの発生量を減少させることができたとしても、一方において電気抵抗が増加するため、アルカリ電池の内部抵抗を低減させて、重負荷放電特性の向上に適したセパレータを得ることはできない。
【0030】
これらの観点から、本発明者らは、水素ガスの発生を抑制するために添加するポリビニルアルコール繊維として、水中溶解温度が95℃以上の難溶解性のポリビニルアルコール繊維に着目し、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂と併用することを想到した。即ち、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂によって、繊維の交点を相互に結着することにより、必要とする湿潤紙力を得ることによって、バインダとしてのポリビニルアルコール繊維を不要とするとともに、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂を添加することによる水素ガスの発生の問題点を、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂の含有率を調節することに加えて、抄紙時の加熱温度で溶融することの少ない難溶解性のポリビニルアルコール繊維を配合することによって解決するものである。この難溶解性のポリビニルアルコール繊維を配合することにより、セパレータの電気抵抗を増加させることなく、かつ、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂の添加に起因する水素ガスの発生を減少させることができる。具体的には、次の構成を提供する。
【0031】
本発明は、上記課題を解決するために、アルカリ電池における正極活物質と負極活物質とを隔離するためのセパレータであって、セルロース繊維を40重量%以上含み、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂を樹脂固形分として0.05重量%〜0.5重量%の含有率で含むアルカリ電池用セパレータを基本として提供する。
【0032】
また、耐アルカリ性合成繊維をさらに含み、耐アルカリ性合成繊維として、40重量%以下の水中溶解温度95℃以上の難溶解性のポリビニルアルコール繊維を含み、更に耐アルカリ性合成繊維として、5重量%以下の水中溶解温度60℃〜90℃の易溶解性のポリビニルアルコール繊維を含むアルカリ電池用セパレータを提供する。
【0033】
また、セルロース繊維としてマーセル化パルプが用いられている構成、セルロース繊維としてリヨセル繊維が用いられている構成を提供する。更に、セルロース繊維は、CSF500ml〜0mlまで叩解したセルロース繊維である構成、及び得られるセパレータの湿潤引張強度を5N/15mm〜20N/15mmとした構成を提供する。そして、正極活物質と負極活物質とをセパレータにより隔離したアルカリ電池であって、上記した構成のセパレータがセパレータとして用いられているアルカリ電池を提供する。
【発明の効果】
【0034】
本発明によって得られたアルカリ電池用セパレータ及びアルカリ電池によれば、アルカリ電池のセパレータとして、セルロース繊維を40重量%以上含むとともに、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂を樹脂固形分として0.05重量%〜0.5重量%の含有率で含むセパレータを使用することにより、バインダとしてのポリビニルアルコール繊維を使用することなく、セパレータとして必要な湿潤強度を得ることができる。しかも、ポリビニルアルコール繊維が溶解して、セパレータの繊維間空隙を埋めることがないため、セパレータの電気抵抗を低下させることができる。更に、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂の含有率が少なくて済むため、水銀無添加の亜鉛合金負極の腐食による水素ガス発生量も、アルカリ電池用セパレータとしての使用に差し支えないレベルにまで押さえることができる。
【0035】
更に、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂と、40重量%以下の水中溶解温度が95℃以上の難溶解性のポリビニルアルコール繊維又は5重量%以下の水中溶解温度60℃〜90℃の易溶解性のポリビニルアルコール繊維を併用することにより、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂によって、繊維間の空隙を埋めることなく繊維の交点を相互に結着するとともに、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂を添加することによる水素ガスの発生という問題点を減少させることができる。そのため、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂の添加に起因する水素ガスの発生を減少させるとともに、セパレータとして必要な湿潤強度を得ることができ、セパレータの電気抵抗を効果的に低減することができる。
【0036】
また、セルロース繊維をCSF500ml〜0mlまで叩解するとともに、耐アルカリ性合成繊維を配合することにより、地合が均質で耐アルカリ性に優れたセパレータを得ることができる。その結果、本発明にかかるセパレータを使用したアルカリ電池は、内部抵抗を低減させて重負荷放電性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明にかかるアルカリ電池用セパレータを使用したアルカリ電池の中央縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下本発明にかかるアルカリ電池用セパレータ及びアルカリ電池の最良の実施形態を説明する。本発明にかかるアルカリ電池用セパレータは、セルロース繊維を40重量%以上含むとともに、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂を樹脂固形分として0.05重量%〜0.5重量%の含有率で含むことを基本構成とする。
【0039】
本発明にかかるセパレータは、セルロース繊維を主体とするものであり、少なくとも40重量%以上のセルロース繊維を含む。セパレータの乾紙強度はバインダを使用しなければ、基本的にはセルロース繊維相互の水素結合によるため、セルロース繊維が40重量%以上存在しないと乾紙強度が低下してしまうためである。使用するセルロース繊維としては、耐アルカリ性に優れて、電解液中で過度に収縮や溶解を起こさない繊維であれば、特に限定はない。これらの条件を満たすセルロース繊維として、(1)リンターパルプ,コットンパルプ、溶解パルプ等のα−セルロース含有率の高いパルプ、(2)木材パルプ又は非木材パルプを低濃度(2重量%〜10重量%程度)のNaOH水溶液で処理して、天然セルロースのセルロース1の結晶構造を変えずに、アルカリ可溶成分を減少し、α−セルロース含有率を高めたパルプ、(3)木材パルプ又は非木材パルプを高濃度(10重量%〜25重量%程度)のNaOH水溶液に浸漬してマーセル化し、セルロース1の結晶構造の一部あるいは全部をセルロース2の結晶構造に変換したマーセル化パルプ、(4)レーヨン繊維,キュプラ繊維,ポリノジック繊維,リヨセル繊維等の再生セルロース繊維から選択された1又は複数のセルロース繊維を使用することが好ましい。
【0040】
上記したセルロース繊維の中でリヨセル繊維は、特に剛性の大きい繊維で電解液中での寸法変化も少ない繊維である。また、リヨセル繊維は叩解によって繊維の表層部から、0.1μm〜1μm程度の直径の細いフィブリルが無数に生成して、電池の両極間の遮蔽性に優れたセパレータが得られる。また、リヨセル繊維は繊維の表層部のみがフィブリル化して、繊維の中心部分はフィブリル化されにくいため、叩解しても長い繊維形状を保つ特徴がある。従って、リヨセル繊維を叩解処理しても、得られるセパレータの密度は他のセルロース繊維に比べて低くなる特徴があり、電気抵抗の小さいセパレータが得られるため、リヨセル繊維は本発明に特に適したセルロース繊維である。
【0041】
また、セルロース繊維はセパレータの乾紙強度を強めるとともに遮蔽性を高めるために、叩解処理によってフィブリル化させたセルロース繊維を使用するのが好ましい。叩解処理の程度としては、CSF値で500ml〜0mlの範囲が好ましい。CSF値が500mlより大きければ、セルロース繊維間の結合が低下して、セパレータの乾紙強度が20N/15mm以下に低下し、セパレータ円筒の製作等取り扱い面で問題になることと、セパレータの気密度が低下することによりセパレータの遮蔽性が低下して、デンドライトによるショートが問題になるためである。
【0042】
本発明にかかるセパレータは、前記したセルロース繊維を含む原料に、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂を添加して抄紙することに特徴を有する。ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂とは、下記の一般式A及び一般式Bで表されるジアリルアミン誘導体の樹脂である。
【0043】
【化1】

【0044】
【化2】

【0045】
ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂は、紙の湿潤紙力増強剤として、その水溶液が市販されている。通常は一般式Aの分子構造の水溶液で供給され、使用時にNaOHなどのアルカリ水溶液と混合して、クロルヒドリン基を脱塩酸して、エポキシ環を形成させて活性化し、一般式Bの分子構造とした後に使用する。セルロース繊維を含むスラリー液に活性化した一般式Bの分子構造の樹脂溶液を添加すると、分子鎖中の4級アンモニウムイオンによる強カチオン性によって、アニオン性を有するセルロース繊維等に樹脂成分が定着する。次いで、エポキシ環が繊維の水酸基と反応して結合する。更に抄紙時の乾燥工程の加熱で、定着したポリアミンエピクロロヒドリン樹脂が結合を強め、繊維間に架橋して、得られるセパレータの湿潤強度が増強される。
【0046】
ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂のセパレータに対する含有率は、一般式Aの構造の樹脂に換算した含有率で、セパレータ重量の0.05重量%〜0.5重量%の範囲とする。0.05重量%未満の含有率では電解液中でのセパレータの湿潤強度が小さくて、セパレータが破れやすくなる。一方、0.5重量%を超える含有率ではアルカリ電池の水素ガス発生が大きくなり過ぎるし、湿潤強度が大きくなり過ぎて、セパレータの電解液中での膨潤が極度に抑制されて電気抵抗が大きくなるためである。なお、特に好ましいポリアミンエピクロロヒドリン樹脂の含有率範囲は0.1重量%〜0.4重量%の範囲である。
【0047】
本発明にかかるセパレータは、前記したセルロース繊維を必要に応じて叩解処理し、これにポリアミンエピクロロヒドリン樹脂を添加して、セルロース繊維単独で抄紙して得ることも可能である。しかしながら、セルロース繊維単独からなるセパレータはアルカリ電解液中での寸法収縮が大きくなりやすい。また、セルロース繊維単独ではセパレータが軟らかくなり、曲げ剛性が小さくなるため、電池製造工程の巻取機でセパレータを正確な円筒形に巻き取り難くなる。このため成形したセパレータ円筒を正極内部に空いた円筒穴に挿入する際に正極の内側の壁面に引っ掛かり、挿入トラブルが起こりやすい。従って、本発明のセパレータではセルロース繊維に耐アルカリ性に優れた合成繊維を配合することが好ましい。
【0048】
本発明のセパレータに配合して混抄する耐アルカリ性合成繊維としては、電解液中で溶解や収縮を起こさないものがよい。このような合成繊維としてはビニロン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維等の他、ナイロン−6繊維、ナイロン−6,6繊維等のポリアミド繊維,ポリプロピレン繊維,ポリエチレン繊維等のポリオレフィン繊維などが好ましい。本発明にかかるセパレータは、セルロース繊維を40重量%以上含むため、耐アルカリ性合成繊維は60重量%以下(0重量%〜60重量%)の範囲で配合して混抄することができる。
【0049】
ビニロン繊維とは、紡糸して得たポリビニルアルコール繊維をホルムアルデヒド等と反応させ、ポリビニルアルコール繊維の水酸基を化学的に架橋してアセタール化した繊維である。ビニロン繊維はアルカリ電解液で殆ど溶解せず、寸法変化も殆どないため、セパレータに配合すれば電解液中でのセパレータの寸法変化を小さくでき、アルカリ電池用セパレータに配合するには特に適した耐アルカリ性合成繊維である。また、ビニロン繊維は水素ガス発生量に殆ど影響しない。
【0050】
ポリビニルアルコール繊維とは、ポリビニルアルコール樹脂溶液から紡糸して得た繊維を加熱延伸した繊維である。ポリビニルアルコール繊維はビニロン繊維に比べて、アルカリ電解液に少し膨潤する傾向がある。このため耐アルカリ性が少し劣るもののセパレータに使用して差し支えない耐アルカリ性を有した合成繊維である。特許文献1,2に示すとおり、従来よりアルカリ電池用セパレータには水中溶解温度が60℃〜90℃の易溶解性のポリビニルアルコール繊維がバインダとして使用されている。この易溶解性のポリビニルアルコール繊維を使用したのでは、前記したとおり、抄紙の乾燥工程で溶解したポリビニルアルコール樹脂が、繊維間に膜状に広がっていき、セパレータの空隙を埋めて多くの孔を塞ぐこととなり、その結果セパレータの電気抵抗を不必要に大きくするという問題点を有している。
【0051】
そこで、本発明では、この問題点を解決するために、水中溶解温度が95℃以上の難溶解性のポリビニルアルコール繊維を使用する。ポリビニルアルコール繊維は加熱延伸の程度によって分子の結晶化度が変わり、延伸倍率を大きくして結晶化を進めることにより、水中溶解温度を60℃程度から100℃以上に高めることができる。
【0052】
セパレータを抄紙するための抄紙機のドライヤは、円筒体であって内部に蒸気を通してドライヤ表面を加熱し、ドライヤの表面でセパレータの湿紙を加熱して乾燥させている。ドライヤ表面は蒸気で加熱されているため、湿紙が存在しない状態では100℃以上に加熱される。しかし、抄紙時にはドライヤ表面に連続して湿紙が供給され、しかも湿紙は繊維間に水を含有しているため、水が蒸発していく間はドライヤ表面が気化熱で冷却されて湿紙は95℃程度に保たれている。また、セパレータの温度が100℃を超えるときには既に湿紙は乾燥されており、水は存在しない。従って、もはや難溶解性のポリビニルアルコール繊維が溶解されることはない。また、難溶解性のポリビニルアルコール繊維は結晶化の進んだ高分子であり、結晶化した分子鎖の間に水が浸入し、繊維の結晶性が緩み、水によって繊維が膨潤した後に溶解が起こる。そのため、難溶解性のポリビニルアルコール繊維が95℃で溶解するとしても実際の溶解には時間を要することになり、かかる溶解工程が進行する間に、湿紙の水が乾燥してなくなるため、ドライヤの乾燥工程での難溶解性のポリビニルアルコール繊維の溶解量は極僅かとなる。
【0053】
そのため、この難溶解性のポリビニルアルコール繊維は乾燥工程でのドライヤの温度によって溶解することがなく、或いは溶解したとしても微量であるため、セパレータの乾燥後も繊維形状を留めており、繊維間の空隙を埋めることがなく、セパレータの寸法安定性に寄与する。その結果、セパレータの電気抵抗も易溶解性のポリビニルアルコール繊維に比べて殆ど増加しない。
【0054】
本発明にかかるセパレータは、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂を配合することにより、アルカリ電池用セパレータとしての使用に差し支えないレベルではあるが、アルカリ電池の負極からの水素ガス発生量を増加させることとなる。そのため、難溶解性のポリビニルアルコール繊維をセパレータに配合することにより、アルカリ電池の負極からの水素ガス発生量を、より低いレベルまで減少させることができる。難溶解性のポリビニルアルコール繊維のセパレータに対する含有量としては、40重量%以下、特には5重量%〜40重量%の範囲が好ましい。難溶解性のポリビニルアルコール繊維の含有率が5重量%未満では、水素ガス発生量の抑制効果に乏しくなる。また、40重量%を超えて難溶解性のポリビニルアルコール繊維が含有されると、減少から反転して水素ガス発生量が増加する傾向になるため、難溶解性のポリビニルアルコール繊維の含有率は40重量%を超えないことが好ましい。
【0055】
なお、アルカリ電池の負極からの水素ガス発生量を減少させることができることは、易溶解性のポリビニルアルコール繊維であっても同様であるので、水中溶解温度が60℃〜90℃の易溶解性のポリビニルアルコール繊維を本セパレータに配合して、アルカリ電池の負極からの水素ガス発生量を減少させることも可能ではある。しかしながら、易溶解性のポリビニルアルコール繊維はセパレータの乾燥工程で溶解して、セパレータの空隙を埋めて電気抵抗を増加させるため、セパレータに配合する場合は電気抵抗に悪影響を与えない範囲として5重量%以下に留めるのがよい。なお、易溶解性のポリビニルアルコール繊維は、難溶解性のポリビニルアルコール繊維に比べて、負極の腐食防止効果が大きいため、5重量%以下の配合でも負極の腐食防止効果を得ることが可能である。
【0056】
次に、本発明者らがポリビニルアルコール繊維の添加によってセパレータの水素ガス発生量が減少するとの知見を得た経緯を説明する。先ず、本発明者らはバインダとして易溶解性のポリビニルアルコール繊維を配合したセパレータaと、易溶解性のポリビニルアルコール繊維を全く配合しないセパレータbのガス発生量を比較測定した際に、セパレータaのガス発生量が少ないとの知見を得た。この結果を表1に示す。なお、セパレータa及びbに配合したマーセル化パルプ,ビニロン繊維は同一のものである。
【0057】
【表1】

【0058】
次に、この原因を調べるために、セパレータa,bに使用したそれぞれの繊維材料の単独でのガス発生量を測定した。その結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表1,表2に示すように、易溶解性のポリビニルアルコール繊維の単体のガス発生量がセパレータa,bに比べて、予想外に大きいことが判る。なお、表2の結果はセパレータに使用した個々の繊維材料を、表1で測定したセパレータの重量と同じ量を採取して、セパレータを測定した場合と同量の亜鉛合金粉末及び電解液に投入してガス発生量を測定したものである。従って、セパレータaに実際に含まれるポリビニルアルコール繊維の量に比べると、表2のポリビニルアルコール繊維の量は10倍に相当する。
【0061】
しかし、各繊維材料のガス発生量と配合率から推定すると、セパレータaのガス発生量がセパレータbのガス発生量よりも小さくなることは易溶解性のポリビニルアルコール繊維のガス発生量が530μl/gと大きいことから矛盾した結果となっている。本発明者らはこれらの結果より、ポリビニルアルコール樹脂の少量の添加がセパレータaのガス発生量の低減に寄与しているのでないかと推定した。このためマーセル化パルプとビニロン繊維からなるセパレータbに粉末状のポリビニルアルコール樹脂(重合度1700で完全ケン化型)を混合した試料について、ガス発生量を確認した。その結果を表3に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
表3の実験例2〜4より、ポリビニルアルコール樹脂の少量の添加によって、セパレータbのガス発生量が低下していることが判る。また、実験例5より、ポリビニルアルコール樹脂の添加量が増加するとガス発生量も増加することが判る。なお、表3でセパレータbとポリビニルアルコール樹脂を全く添加せずに、負極の亜鉛合金粉末と電解液のみで測定した実験例6のガス発生量は150μl/gであり、セパレータbにポリビニルアルコール樹脂を添加した実験例3のガス発生量(140μl/g)及び実験例4のガス発生量(120μl/g)よりも、実験例6のガス発生量は大きくなっている。このことから適当量のポリビニルアルコール樹脂の添加によってセパレータbのガス発生に起因する要因が減少するのではなく、直接的に負極の亜鉛合金粉末のガス発生が抑制されるものと考えられる。
【0064】
なお、本発明者らはポリビニルアルコール樹脂の重合度、粒子径についても検討したが、ポリビニルアルコール樹脂の重合度は小さいものがガス発生量の低減効果は大きく、又粒子径の小さいポリビニルアルコール樹脂がガス発生の低減効果が大きかった。特には重合度よりも粒子径の影響が大きい。更に、変性ポリビニルアルコール樹脂に関してもガス発生量の低減効果を調べたが、マレイン酸変性あるいはスルホン酸変性などのアニオン変性ポリビニルアルコール樹脂の添加は、未変性のポリビニルアルコール樹脂と同様にガス発生量の低減効果があった。一方、カチオン変性のポリビニルアルコール樹脂の添加はガス発生量を増加させた。
【0065】
本発明にかかるセパレータは、前記した原料を使用し、傾斜短網抄紙機、又は円網抄紙機、或いは長網抄紙機を使用した通常の抄紙法によってセパレータを抄紙する。得られたセパレータは、40%KOH水溶液に濡らして測定した湿潤強度の値で、5N/15mm〜20N/15mmの範囲が好ましい。5N/15mm未満では湿潤強度が小さくて、セパレータが破れ易くなり、アルカリ電池の輸送や落下時の衝撃で電池が内部短絡を起こすことになる。一方、20N/15mmを超えると湿潤強度が大きくて、セパレータの電解液中での膨潤が抑制され、電気抵抗が大きくなってしまう。
【0066】
なお、水銀無添加の亜鉛合金粉末の負極に対する、湿潤紙力増強剤としてのポリアミンエピクロロヒドリン樹脂等のカチオン性樹脂による腐食促進効果と、他方のポリビニルアルコール樹脂が腐食を減少させる効果に関して、その原因やメカニズムはよく判っていない。前記した実験で得た結果の事実として、湿潤紙力増強剤等のカチオン性樹脂は亜鉛合金粉末の水素ガス発生を増加させ、一方、ポリビニルアルコール樹脂の適当量の添加は水素ガス発生を減少させる。ひとつの仮説として、亜鉛合金粉末に添加したインジウム等の金属によって、電池の中で亜鉛合金粉末表面に水素過電圧を高める保護膜が形成され、この保護膜の弱体化に、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂等のカチオン性樹脂が、又この保護膜の強化にポリビニルアルコール樹脂が影響しているのではないかと思われる。この本発明者らの仮説も推定の域を出ないものであるが、湿潤紙力増強剤としてのポリアミンエピクロロヒドリン樹脂等のカチオン性樹脂による腐食促進効果と、他方のポリビニルアルコール樹脂が腐食を減少させる効果は次の各種実施例及び比較例のデータからも明らかである。
【0067】
以下に本発明にかかるアルカリ電池用セパレータ及び該セパレータを使用したアルカリ電池の具体的な実施例を説明する。なお、本願発明はこれら実施例の記載内容に限定されるものではない。
【実施例1】
【0068】
マーセル化針葉樹木材パルプ(Rayonier Inc.社製のPorosanier-J-HPパルプ)50重量%をCSF値で100mlにダブルディスクリファイナーで叩解処理した。この叩解したパルプにビニロン繊維(繊維径0.6dtex×繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)50重量%を混合した。次いで、混合した繊維合計重量に対して、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加し、樹脂固形分として0.05重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ70.0μm,坪量33.0g/m,密度0.471g/cmのセパレータを得た。
【実施例2】
【0069】
ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を、0.15重量%の含有量とした以外は、実施例1と同様の原料を使用した。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ70.5μm,坪量33.2g/m,密度0.471g/cmのセパレータを得た。
【実施例3】
【0070】
ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を、0.50重量%の含有量とした以外は、実施例1と同様の原料を使用した。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ70.2μm,坪量33.8g/m,密度0.481g/cmのセパレータを得た。
【実施例4】
【0071】
マーセル化針葉樹木材パルプ(Rayonier Inc.社製のPorosanier-J-HPパルプ)50重量%をCSF値で100mlにダブルディスクリファイナーで叩解処理した。この叩解したパルプにビニロン繊維(繊維径0.6dtex×繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)45重量%と難溶解性のポリビニルアルコール繊維(繊維径1.1dtex×繊維長2mm:ユニチカ株式会社製のAH繊維:水中溶解温度99℃)5重量%を混合した。次いで、混合した繊維合計重量に対して、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加し、樹脂固形分として0.15重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ70.7μm,坪量33.0g/m,密度0.467g/cmのセパレータを得た。
【実施例5】
【0072】
ビニロン繊維と難溶解性のポリビニルアルコール繊維の配合量を、それぞれ25重量%とした以外は、実施例4と同様の原料とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ70.1μm,坪量33.1g/m,密度0.472g/cmのセパレータを得た。
【実施例6】
【0073】
ビニロン繊維の配合量を10重量%、難溶解性のポリビニルアルコール繊維の配合量を40重量%とした以外は、実施例4と同様の原料とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ69.3μm,坪量33.2g/m,密度0.479g/cmのセパレータを得た。
【実施例7】
【0074】
マーセル化針葉樹木材パルプ(Rayonier Inc.社製のPorosanier-J-HPパルプ)50重量%をCSF値で50mlにダブルディスクリファイナーで叩解処理した。この叩解したパルプにビニロン繊維(繊維径0.6dtex×繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)50重量%を混合した。次いで、混合した繊維合計重量に対して、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加し、樹脂固形分として0.15重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ66.1μm,坪量33.6g/m,密度0.508g/cmのセパレータを得た。
【実施例8】
【0075】
マーセル化針葉樹木材パルプの叩解の程度をCSF値で300mlとした以外は、実施例7と同一の原料を使用した。この原料を円網抄紙機で抄紙して厚さ83.0μm,坪量33.2g/m,密度0.400g/cmのセパレータを得た。
【実施例9】
【0076】
マーセル化針葉樹木材パルプの叩解の程度をCSF値で480mlとした以外は、実施例7と同一の原料を使用した。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ98.0μm,坪量33.0g/m,密度0.337g/cmのセパレータを得た。
【実施例10】
【0077】
マーセル化針葉樹木材パルプ(Rayonier Inc.社製のPorosanier-J-HPパルプ)40重量%をCSF値で100mlにダブルディスクリファイナーで叩解処理した。この叩解したパルプにビニロン繊維(繊維径0.6dtex×繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)60重量%を混合した。次いで、混合した繊維合計重量に対して、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加し、樹脂固形分として0.15重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ76.2μm,坪量33.2g/m,密度0.436g/cmのセパレータを得た。
【実施例11】
【0078】
マーセル化針葉樹木材パルプ(Rayonier Inc.社製のPorosanier-J-HPパルプ)70重量%をCSF値で100mlにダブルディスクリファイナーで叩解処理した。この叩解したパルプにビニロン繊維(繊維径0.6dtex×繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)30重量%を混合した。次いで、混合した繊維合計重量に対して、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加し、樹脂固形分として0.15重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ64.9μm,坪量33.4g/m,密度0.515g/cmのセパレータを得た。
【実施例12】
【0079】
マーセル化針葉樹木材パルプ(Rayonier Inc.社製のPorosanier-J-HPパルプ)100重量%をCSF値で100mlにダブルディスクリファイナーで叩解処理した。この叩解したマーセル化針葉樹木材パルプにポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加し、樹脂固形分として0.15重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ58.4μm,坪量33.2g/m,密度0.568g/cmのセパレータを得た。
【0080】
[比較例1]
実施例1と全く同じマーセル化針葉樹木材パルプとビニロン繊維を混合した原料に、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂を添加することなく、円網抄紙機で抄紙して、厚さ71.5μm,坪量33.1g/m,密度0.463g/cmのセパレータを得た。
【0081】
[比較例2]
実施例1と全く同じマーセル化針葉樹木材パルプとビニロン繊維を混合した原料に、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加し、樹脂固形分として0.02重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ70.1μm,坪量33.0g/m,密度0.471g/cmのセパレータを得た。
【0082】
[比較例3]
実施例1と全く同じマーセル化針葉樹木材パルプとビニロン繊維を混合した原料に、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加し、樹脂固形分として0.70重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ69.5μm,坪量33.6g/m,密度0.483g/cmのセパレータを得た。
【0083】
[比較例4]
実施例1と全く同じマーセル化針葉樹木材パルプとビニロン繊維を混合した原料に、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4020)を添加し、樹脂固形分として0.15重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ70.3μm,坪量33.2g/m,密度0.472g/cmのセパレータを得た。この湿潤紙力剤WS4020は、特許文献4で開示されているディックハーキュレス社製の「カイメン557」(商品名)と同じポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂である。
【0084】
[比較例5]
実施例1と全く同じマーセル化針葉樹木材パルプとビニロン繊維を混合した原料に、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4020)を添加し、樹脂固形分として0.50重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ70.0μm,坪量33.0g/m,密度0.471g/cmのセパレータを得た。
【0085】
[比較例6]
マーセル化針葉樹木材パルプ(Rayonier Inc.社製のPorosanier-J-HPパルプ)50重量%をCSF値で100mlにダブルディスクリファイナーで叩解処理した。この叩解したパルプにビニロン繊維(繊維径0.6dtex×繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)40重量%と易溶解性のポリビニルアルコール繊維(繊維径1.1dtex×繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のSML繊維:水中溶解温度70℃)10重量%を混合した。次いで、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂を添加することなく、この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ63.5μm,坪量33.3g/m,密度0.524g/cmのセパレータを得た。この比較例6のセパレータは、易溶解性のポリビニルアルコール繊維を配合した従来例のセパレータである。
【0086】
実施例1〜実施例12及び比較例1〜比較例6にかかるセパレータの各種測定データを表4に示す。
【0087】
【表4】

【実施例13】
【0088】
マーセル化針葉樹木材パルプ(Buckeye Technologies Inc.社製のHPZパルプ)70重量%をCSF値で0mlまでダブルディスクリファイナーで叩解処理した。この叩解したパルプにビニロン繊維(繊維径0.6dtex×繊維長2mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)30重量%を混合した。次いで、混合した繊維合計重量に対して、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加し、樹脂固形分として0.12重量%の含有率とした。この原料を長網抄紙機で抄紙して、厚さ60.2μm,坪量37.5g/m,密度0.623g/cmのセパレータを得た。
【実施例14】
【0089】
マーセル化針葉樹木材パルプ(Buckeye Technologies Inc.社製のHPZパルプ)70重量%をCSF値で0mlまでダブルディスクリファイナーで叩解処理した。この叩解したパルプにビニロン繊維(繊維径0.6dtex×繊維長2mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)20重量%と難溶解性のポリビニルアルコール繊維(繊維径1.1dtex×繊維長2mm:ユニチカ株式会社製の22A繊維:水中溶解温度100℃以上)10重量%を混合した。次いで、混合した繊維合計重量に対して、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加し、樹脂固形分として0.12重量%の含有率とした。この原料を長網抄紙機で抄紙して、厚さ59.8μm,坪量37.1g/m,密度0.620g/cmのセパレータを得た。
【実施例15】
【0090】
ビニロン繊維と難溶解性のポリビニルアルコール繊維(繊維径1.1dtex×繊維長2mm:ユニチカ株式会社製の22A繊維:水中溶解温度100℃以上)の配合量を、それぞれ15重量%とした以外は、実施例14と同様の原料とした。この原料を長網抄紙機で抄紙して、厚さ60.0μm,坪量36.5g/m,密度0.608g/cmのセパレータを得た。
【実施例16】
【0091】
マーセル化針葉樹木材パルプ(Buckeye Technologies Inc.社製のHPZパルプ)70重量%をCSF値で0mlまでダブルディスクリファイナーで叩解処理した。この叩解したパルプに難溶解性のポリビニルアルコール繊維(繊維径1.1dtex×繊維長2mm:ユニチカ株式会社製の22A繊維:水中溶解温度100℃以上)30重量%を混合した。次いで、混合した繊維合計重量に対して、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加し、樹脂固形分として0.12重量%の含有率とした。この原料を長網抄紙機で抄紙して、厚さ61.0μm,坪量36.2g/m,密度0.593g/cmのセパレータを得た。
【実施例17】
【0092】
マーセル化針葉樹木材パルプ(Buckeye Technologies Inc.社製のHPZパルプ)85重量%をCSF値で0mlまでダブルディスクリファイナーで叩解処理した。この叩解したパルプにビニロン繊維(繊維径0.6dtex×繊維長2mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)15重量%を混合した。次いで、混合した繊維合計重量に対して、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加し、樹脂固形分として0.26重量%の含有率とした。この原料を長網抄紙機で抄紙して、厚さ49.6μm,坪量33.2g/m,密度0.669g/cmのセパレータを得た。
【0093】
[比較例7]
マーセル化針葉樹木材パルプ(Buckeye Technologies Inc.社製のHPZパルプ)70重量%をCSF値で0mlまでダブルディスクリファイナーで叩解処理した。この叩解したパルプにビニロン繊維(繊維径0.6dtex×繊維長2mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)20重量%と難溶解性のポリビニルアルコール繊維(繊維径1.1dtex×繊維長2mm:ユニチカ株式会社製の22A繊維:水中溶解温度100℃以上)10重量%を混合した。この原料を長網抄紙機で抄紙して、厚さ60.5μm,坪量37.6g/m,密度0.621g/cmのセパレータを得た。この比較例7は実施例14のポリアミンエピクロロヒドリン樹脂が添加されないセパレータに相当する。
【0094】
[比較例8]
比較例7と全く同じ原料に、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4020)を添加し、樹脂固形分として0.12重量%の含有率とした。この原料を長網抄紙機で抄紙して、厚さ60.4μm,坪量37.0g/m,密度0.613g/cmのセパレータを得た。
【0095】
[比較例9]
比較例7の難溶解性のポリビニルアルコール繊維10重量%に代えて、易溶解性のポリビニルアルコール繊維(繊維径1.1dtex×繊維長2mm:ユニチカ株式会社製のSMM繊維:水中溶解温度80℃)10重量%を混合して抄紙原料とした。この原料を長網抄紙機で抄紙したが、乾燥工程でポリビニルアルコール繊維が溶けて、ドライヤ面及びドライヤフェルトにセパレータが接着し、連続したシート状態でのセパレータを抄紙できなかった。そこで、ドライヤ面に付着したシートを剥がしてセパレータ片をサンプリングした。そのセパレータ片は厚さ52.6μm,坪量36.8g/m,密度0.700g/cmであった。
【0096】
実施例13〜実施例17及び比較例7〜比較例9にかかるセパレータの各種測定データを表5に示す。
【0097】
【表5】

【実施例18】
【0098】
リヨセル繊維(繊維径1.7dtex×繊維長4mm:Lenzing Fibers Limited社製のTENCEL)60重量%をCSF値で120mlまでダブルディスクリファイナーで叩解処理した。叩解後、ビニロン繊維(繊維径0.6dtex×繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)40重量%を混合した。次いで、混合した繊維合計重量に対して、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加して、樹脂固形分として0.25重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ100.6μm,坪量32.7g/m,密度0.325g/cmのセパレータを得た。
【実施例19】
【0099】
リヨセル繊維(繊維径1.7dtex×繊維長4mm:Lenzing Fibers Limited社製のTENCEL)60重量%をCSF値で120mlまでダブルディスクリファイナーで叩解処理した。叩解後、ビニロン繊維(繊維径0.6dtex×繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)25重量%と難溶解性のポリビニルアルコール繊維(繊維径1.1dtex×繊維長2mm:ユニチカ株式会社製のAH繊維:水中溶解温度99℃)15重量%を混合した。次いで、混合した繊維合計重量に対して、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加して、樹脂固形分として0.25重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ100.5μm,坪量33.1g/m,密度0.329g/cmのセパレータを得た。
【実施例20】
【0100】
リヨセル繊維(繊維径1.7dtex×繊維長4mm:Lenzing Fibers Limited社製のTENCEL)60重量%をCSF値で120mlまでダブルディスクリファイナーで叩解処理した。叩解後、ビニロン繊維(繊維径0.6dtex×繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)35重量%と易溶解性のポリビニルアルコール繊維(繊維径1.1dtex×繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のSML繊維:水中溶解温度70℃)5重量%を混合した。次いで、混合した繊維合計重量に対して、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加して、樹脂固形分として0.25重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ95.4μm,坪量33.0g/m,密度0.346g/cmのセパレータを得た。
【実施例21】
【0101】
リヨセル繊維とビニロン繊維の配合量を、それぞれ50重量%とした以外は、実施例18と同様の原料とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ107.1μm,坪量33.1g/m,密度0.309g/cmのセパレータを得た。
【実施例22】
【0102】
リヨセル繊維の配合量を80重量%、ビニロン繊維の配合量を20重量%とした以外は、実施例18と同様の原料とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ90.3μm,坪量33.4g/m,密度0.370g/cmのセパレータを得た。
【実施例23】
【0103】
リヨセル繊維(繊維径1.7dtex×繊維長4mm:Lenzing Fibers Limited社製のTENCEL)100重量%をCSF値で120mlまでダブルディスクリファイナーで叩解処理した。叩解後、繊維重量に対して、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加して、樹脂固形分として0.25重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ78.9μm,坪量33.2g/m,密度0.421g/cmのセパレータを得た。
【実施例24】
【0104】
リヨセル繊維(繊維径1.7dtex×繊維長4mm:Lenzing Fibers Limited社製のTENCEL)60重量%をCSF値で50mlまでダブルディスクリファイナーで叩解処理した。叩解後、ビニロン繊維(繊維径0.6dtex×繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)20重量%と未叩解のリヨセル繊維(繊維径1.7dtex×繊維長4mm:Lenzing Fibers Limited社製のTENCEL)20重量%を混合した。次いで、混合した繊維合計重量に対して、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加して、樹脂固形分として0.25重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ100.2μm,坪量32.3g/m,密度0.322g/cmのセパレータを得た。
【実施例25】
【0105】
リヨセル繊維(繊維径1.7dtex×繊維長4mm:Lenzing Fibers Limited社製のTENCEL)80重量%をCSF値で10mlまでダブルディスクリファイナーで叩解処理した。この叩解したリヨセル繊維にビニロン繊維(繊維径0.6dtex×繊維長2mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)20重量%を混合した。次いで、混合した繊維合計重量に対して、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加して、樹脂固形分として0.25重量%の含有率とした。この原料を長網抄紙機で抄紙して、厚さ51.0μm,坪量26.0g/m,密度0.510g/cmのセパレータを得た。
【0106】
なお、実施例25では長網抄紙機で抄紙した後の乾燥時において、ドライヤ表面からの湿紙の浮き上がりを防止するために、セパレータをドライヤフェルトでドライヤ表面に押さえ付けて乾燥させた。実施例25の気密度は178秒/100ml(変法測定方法)であるが、気密度が変法測定方法の値で100秒/100ml以上となるような場合は、乾燥時におけるドライヤ表面からの湿紙の浮き上がりを防止するために、拘束して乾燥させるとよい。
【0107】
[比較例10]
実施例18と全く同じリヨセル繊維とビニロン繊維を混合した原料に、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂を添加することなく、円網抄紙機で抄紙して、厚さ100.1μm,坪量32.4g/m,密度0.324g/cmのセパレータを得た。
【0108】
[比較例11]
実施例19と全く同じリヨセル繊維、ビニロン繊維と難溶解性のポリビニルアルコール繊維を混合した原料に、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂に代えて、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4020)を添加して、樹脂固形分として0.25重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ100.1μm,坪量33.1g/m,密度0.331g/cmのセパレータを得た。
【0109】
[比較例12]
実施例19の難溶解性のポリビニルアルコール繊維に代えて、易溶解性のポリビニルアルコール繊維(繊維径1.1dtex×繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のSML繊維:水中溶解温度70℃)を混合した原料に、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂を添加することなく、円網抄紙機で抄紙して、厚さ90.5μm,坪量32.8g/m,密度0.362g/cmのセパレータを得た。
【0110】
実施例18〜実施例25及び比較例10〜比較例12にかかるセパレータの各種測定データを表6に示す。
【0111】
【表6】

【実施例26】
【0112】
マーセル化針葉樹木材パルプ(Buckeye Technologies Inc.社製のHPZパルプ)60重量%をCSF値で100mlまでダブルディスクリファイナーで叩解処理した。叩解後、ビニロン繊維(繊維径0.6dtex×繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)20重量%とレーヨン繊維(繊維径0.8dtex×繊維長4mm:ダイワボウレーヨン株式会社製のSB繊維)20重量%を混合した。次いで、混合した繊維合計重量に対して、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加して、樹脂固形分として0.20重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ81.2μm,坪量33.3g/m,密度0.410g/cmのセパレータを得た。
【実施例27】
【0113】
リンターパルプ65重量%をCSF値で150mlまでダブルディスクリファイナーで叩解処理した。この叩解したリンターパルプにビニロン繊維(繊維径0.6dtex×繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)35重量%を混合した。次いで、混合した繊維合計重量に対して、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加して、樹脂固形分として0.10重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ122.4μm,坪量45.2g/m,密度0.369g/cmのセパレータを得た。
【実施例28】
【0114】
リヨセル繊維(繊維径1.7dtex×繊維長3mm:Lenzing Fibers Limited社製のTENCEL)20重量%と高αセルロースの広葉樹木材パルプ(結晶構造はセルロース1のみで、αセルロース含有率:98.2%)40重量%を混合し、CSF値で300mlまでダブルディスクリファイナーで叩解処理した。叩解後、ビニロン繊維(繊維径0.6dtex×繊維長2mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)30重量%と難溶解性のポリビニルアルコール繊維(繊維径1.1dtex×繊維長2mm:ユニチカ株式会社製のAH繊維:水中溶解温度99℃)10重量%を混合した。次いで、混合した繊維合計重量に対して、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加して、樹脂固形分として0.40重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ95.3μm,坪量36.7g/m,密度0.385g/cmのセパレータを得た。
【実施例29】
【0115】
マーセル化針葉樹木材パルプ(Buckeye Technologies Inc.社製のHPZパルプ)30重量%とリヨセル繊維(繊維径1.7dtex×繊維長4mm:Lenzing Fibers Limited社製のTENCEL)20重量%とを混合して、CSF値で250mlまでダブルディスクリファイナーで叩解処理した。叩解後、ビニロン繊維(繊維径0.6dtex×繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)30重量%と、ナイロン‐6繊維(繊維径0.6dtex×繊維長3mm)17重量%及び易溶解性のポリビニルアルコール繊維(繊維径1.1dtex×繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のSML繊維:水中溶解温度70℃)3重量%を混合した。次いで、混合した繊維合計重量に対して、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製の湿潤紙力剤WS4010)を添加して、樹脂固形分として0.20重量%の含有率とした。この原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ92.3μm,坪量33.2g/m,密度0.360g/cmのセパレータを得た。
【0116】
実施例26〜実施例29にかかるセパレータの各種測定データを表7に示す。
【0117】
【表7】

【0118】
各種実施例,比較例にかかるセパレータの各測定値は次の方法で測定した。
(1)CSF(カナダ標準形濾水度,Canadian Standard Freeness)
JIS P 8121に規定のカナダ標準形の方法で測定した。
【0119】
(2)厚さ
セパレータを10枚重ねにして均等な間隔でJIS B 7502に規定された外側マイクロメータ(スピンドル径6.35mm,測定長25mm以下,マイクロメータ測定力は4.9±0.49N)を用いて数個所の10枚重ねの厚さを測定し、その1/10を持って1枚当たりの厚さを求め、更に測定個所の平均値をセパレータの厚さとした。
【0120】
(3)坪量
セパレータの面積と重量を測定し、セパレータ(m)当たりの重量(g)を求めた。
【0121】
(4)引張強度(乾紙強度)
セパレータの縦方向の引張強度をJIS P 8113に規定の方法で測定した。
【0122】
(5)湿潤強度
セパレータから幅15mmの試験片を縦方向に取って、試験片を40%KOH水溶液に浸漬した後、試験片に付着した過剰の40%KOH水溶液をろ紙等で吸い取った。この40%KOH水溶液で濡れた試験片の引張強度をJIS P 8113に規定の方法に準じて測定して、セパレータの湿潤強度とした。また、前記した試験片を40%KOH水溶液に10日間浸漬した後、これを取り出して同様にして長期間経過後の引張強度(表8参照)を測定した。
【0123】
(6)気密度
セルロース繊維の叩解の程度によって、得られるセパレータの気密度が大きく変わるため、下記の2方法で気密度を測定した。
[基本測定方法]
JIS P 8117(紙及び板紙の透気度試験方法)のB型測定器の試験片取り付け部分(面積が645.16mmの内孔)にセパレータを押さえ付け、セパレータの面積:645.16mmの部分を100mlの空気が通過するのに要する時間(分/100ml)を測定した。
[変法測定方法]
基本測定方法と使用する装置は同じであるが、B型測定器の試験片取り付け部分に直径6mmの孔径の絞りを取り付け、セパレータの直径6mmの面積(28.26mm)の部分を100mlの空気が通過するのに要する時間(秒/100ml)を測定した。
【0124】
(7)電気抵抗
40%KOH水溶液に浸漬した約2mmの間隔で平行した白金電極(白金黒付けした直径20mmの円板形状のもの)の間にセパレータを挿入し、この挿入に伴う電極間の電気抵抗の増加をセパレータの電気抵抗とした。なお、電極間の電気抵抗は1000Hzの周波数でLCRメータを用いて測定した。
【0125】
(8)水素ガス発生量
市販されているアルミニウム(Al),ビスマス(Bi)及びインジウム(In)を添加したアルカリマンガン電池負極用の亜鉛合金粉末にセパレータ及びKOH電解液(酸化亜鉛を溶解)を加え、70℃で10日間放置して発生する水素ガス量(亜鉛1gに対する発生した水素ガスの容積μl)を測定した。
【0126】
(9)樹脂含有率
セパレータのポリアミンエピクロロヒドリン樹脂及びポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂の含有率は、樹脂添加前後のセパレータ原料の窒素含有率を測定し、その窒素含有率の差より、原料に定着した樹脂量を求めてセパレータのポリアミンエピクロロヒドリン樹脂及びポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂含有率(%)を算出した。
【0127】
(10)セパレータ中の繊維(セルロース繊維、ポリビニルアルコール繊維)の含有率
セルロース繊維の含有率は、JIS L 1030−2:2005(繊維製品の混用率試験方法−第2部:繊維混用率)に規定される「20%塩酸法」で合成繊維を溶解し、残渣の重量からセルロース繊維の含有率を求めた。セルロースの分析に用いられる「酸化銅アンモニア法」では、本発明のセパレータに含有されたセルロース繊維は溶解しにくいため、「20%塩酸法」で合成繊維を溶解して残渣をセルロース繊維の含有率とした。本発明のセパレータでは、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂がセルロースの水酸基に結合して架橋しているため、セルロース繊維が酸化銅アンモニア溶液に溶解しにくくなるものと考えられる。合成繊維のビニロンとナイロンは、「20%塩酸法」で溶解できる。
易溶解性ポリビニルアルコール繊維の含有率は、セパレータを85℃の水に浸漬し、易溶解性ポリビニルアルコール繊維を完全に溶解して、セパレータの重量減から、易溶解性ポリビニルアルコール繊維の含有率を求めた。
難溶解性ポリビニルアルコール繊維の含有率は、セパレータを約100倍量の水と共に耐圧容器に封入し、115℃以上に加熱して、難溶解性ポリビニルアルコール繊維を完全に溶解し、セパレータの重量減から、難溶解性ポリビニルアルコール繊維の含有率を求めた。なお、難溶解性ポリビニルアルコール繊維の溶解に際して、ビニロン繊維も少し溶解するため、該当するビニロン繊維に関しても同一条件で溶解テストを実施して、配合されたビニロン繊維による重量減を求め、セパレータ中の難溶解性ポリビニルアルコール繊維の含有率を補正した。
【0128】
次に、各種実施例及び比較例について検討する。表4に示すように、実施例1〜実施例3は、CSF100mlのマーセル化パルプ50重量%とビニロン繊維50重量%を混合した原料に、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(以下、PAE樹脂という)を樹脂固形分として0.05重量%(実施例1),0.15重量%(実施例2),0.50重量%(実施例3)の含有率となるように添加したセパレータであり、比較例1は実施例1〜実施例3と同一の原料を使用しているがPAE樹脂を添加していないセパレータである。比較例1の湿潤強度が1.5N/15mmであるのに対して、実施例1〜実施例3はPAE樹脂の添加によって、湿潤強度が、6.0N/15mm(実施例1),10.6N/15mm(実施例2),17.9N/15mm(実施例3)と増加していることが判る。
【0129】
この実施例1〜実施例3はいずれも5.0N/15mm以上の湿潤強度を達成しており、又実施例2は従来の易溶解性のポリビニルアルコール繊維を10重量%配合した比較例6の湿潤強度11.3N/15mmと略同等であり、実施例3では比較例6の湿潤強度から大幅に向上している。よって、実施例1〜実施例3はセパレータとして使用可能な湿潤強度を有していることが判る。
【0130】
また、実施例1〜実施例3と同一原料を使用しているが、PAE樹脂の含有率が0.02重量%の比較例2の湿潤強度は、2.0N/15mmに留まっている。このことから、PAE樹脂によって必要とする5N/15mm以上の湿潤強度を得るためには、PAE樹脂を少なくとも0.05重量%程度以上の含有率となるように添加することが必要である。一方、実施例1〜実施例3と同一原料を使用しているが、PAE樹脂の含有率を0.70重量%と増加させた比較例3のセパレータでは、湿潤強度は21.0N/15mmと大きくなるものの、セパレータの電気抵抗も20.8mΩと増加し、又水素ガス発生量も410μl/gと大幅に増加することが判る。このことから、PAE樹脂の含有率は略0.5重量%程度迄とすることが好ましいことが判る。
【0131】
一方、セパレータの水素ガス発生量は、比較例1の190μl/g、比較例2の200μl/gから、210μl/g(実施例1)、240μl/g(実施例2)、300μl/g(実施例3)とPAE樹脂の含有率の増加と比例して水素ガスの発生量も増加している。しかしながら、PAE樹脂の含有率が0.50重量%の実施例3においても、水素ガス発生量は300μl/gであり、アルカリ電池用セパレータとしての使用に差し支えない範囲である。よって、PAE樹脂の含有率が0.5重量%以下の範囲であれば、PAE樹脂に起因する水銀無添加の亜鉛合金負極の腐食による水素ガス発生量も、アルカリ電池用セパレータとしての使用に差し支えないレベルとできることが判る。
【0132】
比較例4と比較例5はPAE樹脂に代えて、特許文献4に開示されたディックハーキュレス社製の「カイメン557」(商品名)と同じポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(以下、PAPAE樹脂という)を添加したものである。実施例2と比較例4の樹脂含有率は、ともに0.15重量%と同じであるが、湿潤強度は実施例2の10.6N/15mmに対して、比較例4は8.1N/15mmに留まっている。また、実施例3と比較例5の樹脂含有率も0.50重量%と同じであるが、湿潤強度は実施例3の17.9N/15mmに対して、比較例5は14.0N/15mmに留まっている。このことから、本発明で採用したPAE樹脂が従来のPAPAE樹脂に比べて、セパレータの湿潤強度の増強効果が大きいことが判る。なお、表4〜表7に記載した湿潤強度の測定値はセパレータを40%KOHに浸漬した直後に測定した値であり、長期間40%KOHに浸漬したセパレータの湿潤強度の測定値ではない。アルカリ電池に使用されている30%〜40%の濃度の水酸化カリウム水溶液からなる強アルカリ性の電解液に長時間浸漬された場合にPAPAE樹脂のアミド基が徐々に加水分解されて、セパレータの湿潤強度が低下してしまうこと、及びそのためにPAPAE樹脂をアルカリ電池用セパレータに使用するには耐アルカリ性が必ずしも十分ではないことについては後述する。
【0133】
実施例4〜実施例6は、実施例2と同様にCSF100mlのマーセル化パルプを50重量%配合し、PAE樹脂も同一の含有率0.15重量%としたものであり、実施例2で配合したビニロン繊維50重量%の一部を水中溶解温度99℃の難溶解性のポリビニルアルコール繊維(以下、難溶解性PVA繊維という)で代替したセパレータである。PAE樹脂の含有率が0.15重量%であって難溶解性PVA繊維を配合しない実施例2の水素ガス発生量が240μl/gであるのに対して、難溶解性PVA繊維を5重量%配合した実施例4では170μl/gに、難溶解性PVA繊維を25重量%配合した実施例5では130μl/gとなっており、難溶解性PVA繊維の配合によって水素ガス発生量が減少することが判る。一方、難溶解性PVA繊維を更に増量して40重量%配合した実施例6では、水素ガス発生量は170μl/gと実施例5よりも増加する結果となっている。このことから、難溶解性PVA繊維の配合率が一定以上に増加するとセパレータの水素ガス発生量が減少から増加に転じることが判る。よって、実施例4〜実施例6より、PAE樹脂の添加に起因して発生する水素ガスを抑制するために配合する難溶解性PVA繊維の配合率は、5重量%〜40重量%の範囲が好ましいと判断できる。これらの範囲であれば、難溶解性PVA繊維の配合によって、PAE樹脂に起因する水素ガスの発生を、より低いレベルに減少させることができる。
【0134】
比較例6は水中溶解温度60℃〜90℃の易溶解性のポリビニルアルコール繊維(以下、易溶解性PVA繊維という)を配合して、セパレータの繊維間を結着させた従来から使用されているセパレータに該当し、実施例2のビニロン繊維の10重量%を易溶解性PVA繊維に置き換え、PAE樹脂もPAPAE樹脂も添加していないセパレータである。比較例6の密度は0.524g/cmと大きく、気密度も82秒/100mlと大きくなっている。更に、実施例2の電気抵抗は17.8mΩと比較的低い値であるのに対して、比較例6では27.2mΩと大幅に電気抵抗が増加していることが判る。これは比較例6に配合した易溶解性PVA繊維がセパレータの繊維間に溶けて広がり、セパレータの空隙や孔を埋めて塞いだために、セパレータの密度,気密度、特に電気抵抗が増大したものである。
【0135】
一方、比較例6の湿潤強度は11.3N/15mmであるのに対して、実施例2の湿潤強度は、10.6N/15mmとなっている。このことから、本発明にかかるPAE樹脂を含有したセパレータは、従来のセパレータと略同じレベルの湿潤強度を実現できることが判る。
【0136】
実施例7〜実施例9は、実施例2と同一の配合で、マーセル化パルプの叩解度のみをCSF値で50ml(実施例7),300ml(実施例8),480ml(実施例9)と変化させたセパレータである。CSF値が50mlと高叩解した実施例7では、乾紙強度が40N/15mm、湿潤強度も12.3N/15mmと比較的大きく、セパレータの強度が大きくなり、破損しにくくなることが判る。一方、CSF値が480mlと叩解の程度を浅くした実施例9では、乾紙強度が23N/15mm、湿潤強度も6.2N/15mmとセパレータの機械強度が実施例7,8と比較して低下していることが判る。
【0137】
セパレータを電池に組付ける際には、円筒形状に加工して電池に挿入する必要があるため、十分な機械強度を有することが不可欠である。電池製造ラインにもよるが、乾紙強度として通常20N/15mm以上が必要とされている。そのため、マーセル化パルプ等の本発明に使用するセルロース繊維の叩解度はCSF値で500ml以下とすることが好ましい。
【0138】
なお、CSF値の大きいマーセル化パルプを使用した実施例8,実施例9はセパレータの気密度も実施例8で5.6秒/100ml、実施例9で3.2秒/100mlに低下している。気密度の小さいセパレータをアルカリ電池に使用した場合、特許文献1〜3からも判るようにデンドライトによる短絡が起こり易くなる。このデンドライトによる短絡は、デジタルカメラ等の電池を高負荷で使用する重負荷放電では問題になりにくいが、置時計などの電池を軽負荷で1年間以上の長期間使用する場合、あるいは軽負荷で間欠して長期間使用する場合は特に問題になり易い。セパレータの気密度は大きい方がデンドライトに対する遮蔽効果が大きくて好ましい。なお、セパレータの気密度としては、変法測定方法の気密度値として3秒/100ml以上が特に好ましい範囲である。
【0139】
実施例10〜実施例12は、実施例2のマーセル化パルプの配合率を40重量%(実施例10),70重量%(実施例11),100重量%(実施例12)に変化させたセパレータであり、マーセル化パルプの配合率の変化に応じてビニロン繊維も60重量%(実施例10),30重量%(実施例11),0重量%(実施例12)と変化させている。マーセル化パルプの配合率を40重量%とした実施例10はセパレータの繊維間の結合に関与するセルロース繊維の配合率が減少しているため、PAE樹脂の含有率が0.15重量%と同じである実施例2,実施例11,実施例12に比べて、セパレータの密度,気密度,乾紙強度,湿潤強度及び電気抵抗が各々減少していることが判る。このようなマーセル化パルプ等のセルロース繊維の配合率を減少させた場合のセパレータの物性変化は、前記したセルロース繊維の叩解の程度をCSF値で480mlと浅くした実施例9と同様である。セパレータの乾紙強度はバインダを使用しなければ、基本的にはセルロース繊維相互の水素結合によるため、叩解の程度を浅くするケースを考慮すると、セルロース繊維が40重量%程度以上存在しないと乾紙強度が低下してしまう。また、高叩解するとしてもセルロース繊維が40重量%程度以上存在することが乾紙強度維持の点から好ましい。即ち、セパレータに含まれるセルロース繊維の含有率が減少すると、乾紙強度の低下によって円筒加工でセパレータの破断等のトラブルが発生し易くなるからである。
【0140】
表5に示すように、実施例13〜実施例17及び比較例7〜比較例9は、CSF値で0mlに高叩解したマーセル化パルプを使用したセパレータである。CSF値で0mlまで叩解したマーセル化パルプは濾水性の乏しい原料であるため、抄紙網で濾水時間が長く取れる長網抄紙機を使用して抄紙した。
【0141】
実施例13〜実施例16はマーセル化パルプを70重量%、PAE樹脂の含有率を0.12重量%と一定にして、残部をビニロン繊維30重量%(実施例13),ビニロン繊維20重量%と水中溶解温度が100℃以上の難溶解性PVA繊維10重量%(実施例14),ビニロン繊維15重量%と水中溶解温度が100℃以上の難溶解性PVA繊維15重量%(実施例15),水中溶解温度が100℃以上の難溶解性PVA繊維30重量%(実施例16)で置き換えたセパレータである。実施例13の水素ガス発生量は230μl/gであったが、難溶解性PVA繊維を配合することによって、実施例14では170μl/g、実施例15では130μl/gと水素ガス発生量が低下していることが判る。一方、難溶解性PVA繊維を30重量%とした実施例16ではガス発生量が140μl/gとなり、難溶解性PVA繊維を15重量%配合した実施例15より僅かに水素ガス発生量が増加している。これらの難溶解性PVA繊維の配合による水素ガス発生量の減少効果は、前記した実施例4,実施例5,実施例6と同様である。
【0142】
比較例7は実施例14と同一の原料繊維で、PAE樹脂を添加しなかったセパレータである。両者の湿潤強度は実施例14が9.7N/15mmであるのに対して、比較例7では1.5N/15mmと著しく低く、CSF値で0mlの高叩解したセルロース繊維でもPAE樹脂によって十分な湿潤強度を付与できることが判る。また、比較例8は実施例14と同一の原料繊維で、PAE樹脂に代えて、PAPAE樹脂を同じ含有率で添加したセパレータであるが、湿潤強度は6.5N/15mmとなり、実施例14の9.7N/15mmに比較して低くなることが判る。従って、セパレータへの湿潤強度の付与に関しては、従来のPAPAE樹脂に比べて、本発明のPAE樹脂の添加がより有効で優れていることが判る。
【0143】
比較例9は水中溶解温度80℃の易溶解性PVA繊維を配合して、セパレータの繊維間を結着させた従来から使用されているセパレータに該当し、実施例13のビニロン繊維の10%を易溶解性PVA繊維に置き換え、或いは実施例14の難溶解性PVA繊維を易溶解性PVA繊維に置き換えるとともにPAE樹脂もPAPAE樹脂も添加していないセパレータである。
【0144】
CSF値で0mlの叩解が進んだセルロース繊維を使用する場合、得られるセパレータの気密度が非常に高くなるため、セパレータは抄紙工程のドライヤで拘束して乾燥することが不可欠である。表5に記載のセパレータはすべてドライヤ表面にセパレータシートをドライヤフェルトによって押さえつけて連続して拘束乾燥させて製造したものである。比較例9のセパレータは配合された易溶解性PVA繊維がドライヤで溶解された後に乾燥されるため、セパレータがドライヤ面、或いはドライヤフェルト表面に接着した。そのためセパレータを製造することができなかった。そこで、ドライヤに接着したセパレータ片を剥がしてサンプリングして物性値を確認した。同じ70重量%のマーセル化パルプを配合した実施例13〜実施例16のセパレータと比較すると、実施例13〜実施例16の気密度は40.0分/100ml〜34.0分/100mlに対して、比較例9の気密度は68.0分/100mlと高くなり、通気性が減少していることが判る。また、実施例13〜実施例16の電気抵抗は27.0mΩ〜27.2mΩに対して、比較例9の電気抵抗は73.5mΩと大幅に増加していることが判る。
【0145】
この比較例9の気密度、電気抵抗の増大は前記した比較例6と同じ現象であり、配合した易溶解性PVA繊維がセパレータの繊維間に溶けて広がり、セパレータの空隙や孔を埋めて塞いだために、セパレータの気密度、電気抵抗が増大したものである。
【0146】
実施例17はマーセル化パルプの配合を85重量%とし、ビニロン繊維を15重量%として、PAE樹脂を0.26重量%の含有率で添加したセパレータである。マーセル化パルプ70重量%の実施例13〜実施例16と比較して判るように、マーセル化パルプの配合量が増加することによって、セパレータの気密度は210分/100mlと大きくなっている。しかし、実施例17の電気抵抗は25.0mΩであり、比較例9のように易溶解性PVA繊維でセパレータの空隙や孔が塞がれないため、電気抵抗は比較的低い値となっている。
【0147】
表6に示すように、実施例18〜実施例25,比較例10〜比較例12はセルロース繊維としてリヨセル繊維を使用したセパレータである。実施例18はCSF値120mlに叩解したリヨセル繊維60重量%に、合成繊維としてビニロン繊維40重量%を混合して、PAE樹脂を0.25重量%の含有率で添加したセパレータである。一方、比較例10は実施例18と同一の原料繊維を使用してPAE樹脂を添加しなかったセパレータである。両者の湿潤強度は実施例18が8.8N/15mmであるのに対して、比較例10では1.0N/15mmと著しく低く、PAE樹脂によって十分な湿潤強度が付与できることが判る。
【0148】
実施例19は、実施例18の合成繊維の一部として、水中溶解温度99℃の難溶解性PVA繊維を15重量%配合したセパレータである。実施例18の水素ガス発生量180μl/gに対して、実施例19の水素ガス発生量は110μl/gと減少している。また、実施例20は、実施例18の合成繊維の一部として、水中溶解温度70℃の易溶解性PVA繊維を5重量%配合したセパレータである。実施例20の水素ガス発生量は130μl/gであり、実施例19と同様に実施例18に比べて水素ガス発生量が減少している。このことより易溶解性PVA繊維も難溶解性PVA繊維とともに、セパレータのガス発生量の減少に効果があることが判る。特に易溶解性PVA繊維は実施例20に示すように、5重量%の添加で水素ガス発生量の低減効果があり、水素ガス発生量を、より低いレベルにまで減少させるためには、5重量%の添加で十分な効果があることが判る。
【0149】
水中溶解温度60℃〜90℃の易溶解性PVA繊維は、従来よりアルカリ電池用セパレータの繊維を結着させるために、セパレータに10重量%〜20重量%配合して使用されている。実施例20の易溶解性PVA繊維を5重量%配合したセパレータの電気抵抗は12.8mΩであり、実施例18の電気抵抗10.3mΩ、実施例19の電気抵抗10.5mΩに比べて増加しているものの、電気抵抗の増加は僅かである。むしろ、易溶解性PVA繊維を5重量%配合したことによって、乾紙強度が実施例18の25N/15mm、実施例19の27N/15mmに比べて、実施例20のセパレータは35N/15mmとなっており、乾紙強度が増加する結果となっている。同様に湿潤強度も実施例18の8.8N/15mm、実施例19の9.6N/15mmに比べて、実施例20のセパレータは11.9N/15mmとなっており、乾紙強度及び湿潤強度が増加する結果となっている。よって、5重量%以下であれば易溶解性PVA繊維の配合は、セパレータの機械強度を調節して、使用に適したセパレータ物性を得ることができるとともに水素ガス発生量の低減にも寄与する。
【0150】
実施例18〜実施例25で採用したリヨセル繊維は、他のマーセル化パルプやリンターパルプなどのセルロース繊維とフィブリル化の状態が異なっている。リヨセル繊維は叩解処理すると繊維表面から0.1μm〜1μmの微細なフィブリルが遊離して繊維表面のみがフィブリル化されるものの、繊維の中心部はフィブリル化されずに残る。従って、リヨセル繊維は叩解処理してもマーセル化パルプ等のパルプ繊維に比べてセパレータの密度が低くなり易い。このためリヨセル繊維を使用したセパレータは乾紙強度や湿潤強度が低下しやすい傾向がある。また、リヨセル繊維を使用したセパレータの電気抵抗は自ずと小さくなり、マーセル化パルプ等の他のセルロース繊維を使用したセパレータと比較して電気抵抗に余裕が生じることになる。従って、5重量%程度以下であれば、易溶解性PVA繊維を配合しても、リヨセル繊維を配合したセパレータの電気抵抗はセパレータとしてはあまり大きくならない。よって、リヨセル繊維を配合した本発明のセパレータには5重量%以下の易溶解性ポリビニルアルコール繊維の配合は特に適している。
【0151】
比較例12は、水中溶解温度70℃の易溶解性PVA繊維を15重量%配合して、繊維を結着させた従来のセパレータに該当するが、電気抵抗は19.8mΩとなっており、同じリヨセル繊維を配合した実施例18の10.3mΩ,実施例19の10.5mΩ,実施例20の12.8mΩの電気抵抗に比べて、大きく増加している。これは易溶解性PVA繊維がセパレータの繊維間に溶けて広がり、セパレータの空隙や孔を埋めて塞いだために、比較例12のセパレータの電気抵抗が増大したものである。従って、易溶解性PVA繊維を添加する場合、その添加量に注意する必要があり、易溶解性PVA繊維の添加量は5重量%程度以下に留めることが好ましい。
【0152】
実施例21〜実施例23は、CSF120mlに叩解処理したリヨセル繊維の配合を50重量%(実施例21),80重量%(実施例22),100重量%(実施例23)に変化させたセパレータである。リヨセル繊維の配合量が60重量%の実施例18の乾紙強度25N/15mm,湿潤強度8.8N/15mmと比較すると、リヨセル繊維を50重量%とした実施例21は乾紙強度21N/15mm,湿潤強度6.2N/15mmであって、実施例18より低くなる一方、リヨセル繊維を80重量%とした実施例22は乾紙強度28N/15mm,湿潤強度10.5N/15mmであって、実施例18より高くなっている。よって、本発明のセパレータに配合するセルロース繊維は、50重量%を配合した実施例21のデータ及び40重量%を配合した実施例10のデータから判断して40重量%を下回らないことが好ましい。セパレータ中のリヨセル繊維等のセルロース繊維が減少するとセパレータの機械強度が低下し、前記したように電池製造工程におけるセパレータの円筒化で紙切れ等のトラブルになり易いためである。
【0153】
実施例24はCSF値50mlに高叩解したリヨセル繊維60重量%に未叩解のリヨセル繊維を20重量%混合してセルロース繊維とし、更にビニロン繊維を20重量%混合して、PAE樹脂を添加したセパレータである。実施例24のセパレータの密度は0.322g/cm、電気抵抗は10.2mΩであり、実施例18の密度0.325g/cm、電気抵抗10.3mΩと略同一となったが、実施例24は気密度28.5秒/100mlであって、実施例18の気密度15.4秒/100mlより略2倍高くなっている。この実施例24の結果より、高叩解したリヨセル繊維に未叩解のリヨセル繊維を配合すると、セパレータの密度や電気抵抗を高めずにセパレータの気密度を大きくできることが判る。従って、このように高叩解したセルロース繊維と未叩解のセルロース繊維を混合して使用することによって、セパレータの電気抵抗の増加による電池の放電性能の低下を避けるとともに、セパレータの遮蔽性を高めて、アルカリ電池の酸化亜鉛デンドライトによる短絡の防止効果を増大できる。
【0154】
特に未叩解のリヨセル繊維は他のセルロース繊維に比較して、繊維の剛性が大きい特徴がある。アルカリ電池では、電池の放電にともない活物質が電解液と反応して、電池中の活物質の体積が増加してセパレータを圧迫することになる。圧迫されるとセパレータ中の電解液が不足して電池の内部抵抗が増加し、電池寿命が短くなる。しかし、実施例24のようにセパレータに未叩解のリヨセル繊維を配合するとセパレータの剛性が増し、厚さ方向に圧縮されにくくなる。従って、セパレータから電解液が失われにくくなり、電池中でセパレータに含まれた電解液が長期間保持されるため電池寿命の向上に役立つ。
【0155】
実施例25はCSF値10mlに高叩解したリヨセル繊維80重量%に、ビニロン繊維を20重量%混合して、PAE樹脂を添加して、長網抄紙機で抄紙して得たセパレータである。実施例25のセパレータの気密度は178秒/100mlと大きくなっているが、電気抵抗は9.8mΩと比較的小さくなっている。実施例25のセパレータの平均孔径をバブルポイント法(JIS K3832)で測定すると0.5μmであった。現在、一般に使用されているアルカリ電池セパレータの平均孔径が10μm〜20μmのレベルであることからすると、実施例25の気密度レベルのセパレータでもリヨセル繊維を配合したセパレータの平均孔径は顕著に小さく、デンドライトによる短絡の防止効果に優れている。なお、実施例25のように気密度が変法測定方法の値で100秒/100ml以上となる場合には、乾燥時においてドライヤ表面にセパレータをドライヤフェルトで押え付けて拘束して乾燥させるとよい。これにより、ドライヤ表面からの湿紙の浮き上がりを防止することができる。
【0156】
セパレータのセルロース繊維として、リヨセル繊維を使用した場合と、マーセル化パルプを使用した場合のセパレータの水素ガス発生量を比較すると、リヨセル繊維を使用したセパレータの水素ガス発生量が小さくなる傾向がある。例えばセルロース繊維とビニロン繊維を主な繊維構成としたセパレータを比較すると、リヨセル繊維を使用した実施例18の水素ガス発生量は180μl/gであったのに対して、マーセル化パルプを使用した実施例2の水素ガス発生量は240μl/gと大きくなっている。同様に、PAE樹脂を添加していない比較例1と比較例10を比べると、リヨセル繊維を使用した比較例10の水素ガス発生量は160μl/gであったのに対して、マーセル化パルプを使用した比較例1の水素ガス発生量は190μl/gであり、リヨセル繊維の使用によって水素ガス発生量のより少ないセパレータが得られることが判る。なお、アルカリ電池で発生した水素ガスは電池内に完全に密封されるものではなく、樹脂製封口体を通して、電池外に幾分かは放出されることになる。このため本発明にかかる各実施例において水素ガス発生量が最大であった実施例3の300μl/g程度は水素ガス発生量としては許容範囲と考えられる。
【0157】
上記したようにセルロース繊維の種類によって水素ガス発生量が異なる原因は、セルロース繊維に含まれる不純物に関係しているのではないかと推定される。リヨセル繊維は再生セルロース繊維であり、パルプを溶解した後、その溶液から紡糸して製造された再生繊維である。従ってリヨセル繊維はマーセル化パルプに比べて不純物の残留量が少なくなり、水素ガス発生量が減少すると考えられる。
【0158】
これらのことから、マーセル化パルプを使用したセパレータと比較して、リヨセル繊維を使用したセパレータは密度が小さく、電気抵抗も小さく、かつ、水素ガス発生量も少なくなり、本発明のセパレータにおけるセルロース繊維としてリヨセル繊維を使用すると、特に電池の重負荷放電に適した低抵抗で水素ガス発生量の少ないセパレータを得ることができる。
【0159】
実施例26〜実施例29は、マーセル化パルプやリヨセル繊維以外の他のセルロース繊維を配合した実施例であり、実施例29では合成繊維としてナイロン−6繊維を配合している。これらの他の繊維を配合した場合でも、PAE樹脂を添加することによってセパレータに十分な湿潤強度を付与することができる。
【0160】
なお、表4〜表7からわかるように、各実施例及び各比較例において、セルロース繊維及びポリビニルアルコール繊維の原料混合時の配合率と抄紙後のセパレータ中の含有率とには、ほとんど有意な差がみられない。このことから、セルロース繊維及びポリビニルアルコール繊維について、抄紙後の含有率は、混合時の配合率とほぼ一致するとみなすことができる。
【0161】
次に、各実施例及び比較例から湿潤強度変化の比較に適したセパレータを選択し、40%KOH水溶液に室温で10日間浸漬した後、湿潤強度を測定した結果及びこれらのセパレータを使用して製作したアルカリマンガン電池の輸送試験の結果を表8に記載する。
【0162】
【表8】

【0163】
表8に示すように、PAPAE樹脂を添加した比較例4,5,8,11は、セパレータを40%KOHに浸漬した直後に測定した初期の湿潤強度に対して、セパレータを40%KOHに10日間浸漬した後に測定した湿潤強度が極端に低下している。即ち、比較例4では8.1N/15mmから1.0N/15mmに、比較例5では14.0N/15mmから1.3N/15mmに、比較例8では6.5N/15mmから1.0N/15mmに、比較例11では7.6N/15mmから0.8N/15mmにそれぞれ極端に低下している。これらのセパレータを40%KOHに10日間浸漬した後に測定した湿潤強度の値は、易溶解性PVA繊維及びPAE樹脂を全く添加していない比較例1,7,10の初期の湿潤強度1.5N/15mm,1.0N/15mmと同等の値となっている。
【0164】
よって、アルカリ電池に使用されている30%〜40%の濃度の水酸化カリウム水溶液からなる強アルカリ性の電解液に長時間浸漬された場合にPAPAE樹脂のアミド基が徐々に加水分解されて、セパレータの湿潤強度が低下してしまうためPAPAE樹脂は耐アルカリ性が必ずしも十分ではなく、アルカリ電池用セパレータに使用するには不適当である。
【0165】
これに対して、PAE樹脂を添加した本発明の実施例にかかる各セパレータは、いずれも初期の湿潤強度を維持しており、40%KOHの強アルカリの電解液中で、湿潤強度が殆ど変化していないことが判る。例えば、実施例1では初期の湿潤強度が6.0N/15mmであるのに対して、40%KOHに10日間浸漬した後の湿潤強度は5.7N/15mmであって、殆ど低下していない。よって、PAE樹脂はアルカリ電池に使用されている30%〜40%の濃度の水酸化カリウム水溶液からなる強アルカリ性の電解液に長時間浸漬された場合にも十分な耐アルカリ性を有することが判る。よって、PAE樹脂はアルカリ電池用セパレータに使用するに適している。
【0166】
また、従来例でもある易溶解性PVA繊維が配合された比較例6,9,12も40%KOHに10日間浸漬した後の湿潤強度の低下は僅かである。比較例6では11.3N/15mmから10.8N/15mmに、比較例9,12ではともに10.1N/15mmから9.5N/15mmの僅かな低下に留まっており、この点においては本発明にかかる各実施例と同等の湿潤強度を保持していた。
【0167】
次に表8に記載した各実施例及び各比較例にかかるセパレータを使用して、正極活物質と負極活物質とを隔離して図1に示す単3サイズのアルカリマンガン電池(LR−6)を各20個製作した。図1において、1はアルカリマンガン電池であり、2は有底筒状の正極缶であり、一端部に正極端子2aが形成されている。この正極缶2内には、二酸化マンガンと黒鉛からなる円筒状の正極合剤3が圧入されている。4は筒状に捲回した本発明にかかるセパレータで、その内部には水銀無添加の亜鉛合金粉末をゲル状電解液に分散、混合したゲル状負極5が充填されている。6は負極集電子、7は正極缶1の開口部を閉塞する樹脂製封口体で、この樹脂製封口体7には、負極端子を兼ねる負極端子板8が負極集電子6の頭部に溶接されている。筒状に捲回したセパレータ4の正極端子側は底紙9を使用して封止し、ゲル状負極5が正極缶2に接触するのを防止している。10は樹脂外装材であり、正極端子2aと負極端子板8を露出させた状態に正極缶2の外周面に密着して包装している。
【0168】
具体的な製作方法は次の通りである。まず、各セパレータを捲回してセパレータ円筒を製作し、この円筒を正極の円筒内壁に密着させ、電解液を注液した後、所定の位置まで負極ゲルを注入し、負極の集電子を装着した樹脂製封口体を挿入、正極缶の端をかしめて固定してアルカリマンガン電池を製作した。セパレータの捲回数は実施例13〜実施例17と比較例7,比較例8のセパレータは気密度値が大きく、遮蔽性に特に優れているため、捲回数は2回とし、他のセパレータの捲回数は3回とした。なお、比較例9にかかるセパレータは抄紙時にドライヤやドライヤフェルトにセパレータが接着されて、連続したシートが得られなかったため電池は製作することができなかった。
【0169】
そして、製作したアルカリマンガン電池の輸送テストを実施した。輸送テストはアルカリマンガン電池を製作後1週間放置した後、箱詰めした状態でトラックに積載し、約1000kmの区間を輸送した。輸送後、更に1週間放置した後、アルカリマンガン電池の開路電圧を測定し、1.5V以下に電圧降下したアルカリマンガン電池を不良電池とし、不良電池の発見された各実施例及び各比較例にかかるセパレータを調べた。なお、製作直後に測定したアルカリマンガン電池の開路電圧はいずれも1.6V以上であった。この輸送テストで不良電池の発生しなかったセパレータに○、不良電池が1個以上見つかったセパレータに×を付して表8に記載した。
【0170】
表8に示す輸送テストの結果より、40%KOHに10日間浸漬後に湿潤強度値の低下したセパレータを使用した電池では、いずれも不良電池が発生したが、本発明にかかる各実施例のセパレータを使用したアルカリマンガン電池及び易溶解性PVA繊維を配合した比較例6と比較例12のセパレータを使用したアルカリマンガン電池では、不良電池は全く発生しなかった。なお、電圧の低下した不良電池を分解して調べたところ、樹脂製封口体で固定されたセパレータ端部に破れ、亀裂等が認められ、セパレータ内部に充填した負極ゲルが正極側にこぼれて、短絡した部分が認められた。これらの結果より、本発明にかかるセパレータの湿潤強度は5N/15mm以上であれば、輸送等で電池に衝撃が加わっても内部短絡が防止できることが判る。
【0171】
次に表8に示す輸送試験で不良電池の発生しなかった各実施例と比較例3,6,12のアルカリマンガン電池について、室温下1000mAの定電流値で、終始電圧1.0Vまでの放電持続時間を測定した。なお、実施例27のセパレータは坪量が45.2g/mと他のセパレータに比べて大きいため放電試験から除外した。
【0172】
表9に放電試験の結果を示す。なお、比較例3のセパレータを使用したアルカリマンガン電池を放電テスト時に確認すると樹脂製封口体の安全弁が開き、微かに電解液の漏液が認められたため、比較例3の電池は放電試験から除外した。比較例3のセパレータはPAE樹脂の含有率が0.7重量%と大きいため、水素ガス発生量も410μl/gと大きい。そのため、電池の内圧が上昇して安全弁が作動したものと考えられる。一方、PAE樹脂の含有率が0.02重量%と少ない比較例2のセパレータで製作した電池は表8の結果より、湿潤強度が2.0N/15mmと小さいため、輸送テストで不良電池が発生している。従って、本発明のセパレータに添加するPAE樹脂の含有率は0.05重量%〜0.5重量%の範囲が好ましい。なお、比較例3以外で表9記載のセパレータを使用した電池では電解液の漏液は認められなかった。
【0173】
【表9】

【0174】
易溶解性PVA繊維をバインダとして配合した従来セパレータである比較例6の放電時間25分と比較例12の放電時間27分に対して、本発明にかかる各実施例のセパレータの放電時間は29分間(実施例3)〜37分間(実施例25)と放電持続時間が長く、本発明にかかるセパレータを使用すれば重負荷放電に適した電池が得られることが判る。特に、リヨセル繊維をセルロース繊維として使用した実施例18〜実施例25のセパレータを使用した表9記載の電池の放電持続時間は34分間(実施例20)〜37分間(実施例25)と長く、リヨセル繊維を使用した本発明にかかるセパレータは特に重負荷放電に適した電池を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明によって得られたアルカリ電池用セパレータ及びアルカリ電池によれば、アルカリ電池のセパレータとして、セルロース繊維を40重量%以上含むとともに、PAE樹脂(ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂)を樹脂固形分として0.05重量%〜0.5重量%の含有率で含むセパレータを構成することにより、バインダとしてのポリビニルアルコール繊維を使用することなく、セパレータとして必要な湿潤強度を得ることができる。しかも、バインダとしてのポリビニルアルコール繊維が溶融して、セパレータの繊維間空隙を埋めることがないため、セパレータの電気抵抗を低下させることができる。更に、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂の含有率が少なくて済むため、水銀無添加の亜鉛合金負極の腐食による水素ガス発生量も、アルカリ電池用セパレータとしての使用に差し支えないレベルにまで押さえることができる。
【0176】
また、PAE樹脂と、40重量%以下の水中溶解温度95℃以上の難溶解性PVA繊維(難溶解性のポリビニルアルコール繊維)又は5重量%以下の水中溶解温度60℃〜90℃の易溶解性PVA繊維(易溶解性のポリビニルアルコール繊維)を併用することにより、PAE樹脂によって、繊維間の空隙を埋めることなく繊維の交点を相互に結着するとともに、PAE樹脂を添加することによる水素ガスの発生という問題点を抄紙時の加熱温度で溶融することの少ない難溶解性PVA繊維によって、より低いレベルにまで減少させることができる。そのため、PAE樹脂の添加に起因する水素ガスの発生を減少させるとともに、セパレータとして必要な湿潤強度を得ることができ、セパレータの電気抵抗を効果的に低減することができる。
【0177】
また、セルロース繊維をCSF500ml〜0mlまで叩解するとともに、耐アルカリ性合成繊維を配合することにより、地合が均質で耐アルカリ性に優れたセパレータを得ることができる。その結果、本発明にかかるセパレータを使用したアルカリ電池は、内部抵抗を低減させて重負荷放電性能の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0178】
1…アルカリマンガン電池
2…正極缶
2a…正極端子
3…正極合剤
4…セパレータ
5…ゲル状負極
6…負極集電子
7…樹脂製封口体
8…負極端子板
9…底紙
10…樹脂外装材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ電池における正極活物質と負極活物質とを隔離するためのセパレータであって、
セルロース繊維を40重量%以上含み、
ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂を樹脂固形分として0.05重量%〜0.5重量%の含有率で含む
ことを特徴とするアルカリ電池用セパレータ。
【請求項2】
耐アルカリ性合成繊維をさらに含む請求項1に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項3】
前記耐アルカリ性合成繊維として、40重量%以下の水中溶解温度95℃以上の難溶解性のポリビニルアルコール繊維を含む請求項2記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項4】
前記耐アルカリ性合成繊維として、5重量%以下の水中溶解温度60℃〜90℃の易溶解性のポリビニルアルコール繊維を含む請求項2記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項5】
前記セルロース繊維としてマーセル化パルプが用いられている請求項1,2又は3に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項6】
前記セルロース繊維としてリヨセル繊維が用いられている請求項1,2又は3に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項7】
前記セルロース繊維として、CSF500ml〜0mlまで叩解したセルロース繊維が用いられている請求項1,2,3,4又は5に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項8】
セパレータの湿潤強度が5N/15mm〜20N/15mmである請求項1,2,3,4,5,6又は7に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項9】
正極活物質と負極活物質とをセパレータにより隔離したアルカリ電池であって、
前記セパレータとして請求項1〜8のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータが用いられている
ことを特徴とするアルカリ電池。


【図1】
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【公開番号】特開2012−54228(P2012−54228A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155943(P2011−155943)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(390032230)ニッポン高度紙工業株式会社 (41)
【Fターム(参考)】