説明

アルギン酸誘導体およびその製造方法

【課題】ハイドロゲルとしたときに癒着防止材として有用なアルギン酸誘導体を提供する。
【解決手段】アルギン酸のカルボキシル基の一部が下記式(1)で表される基により置換度0.001〜0.1で置換されたアルギン酸誘導体およびその製造方法。


式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数9〜27のアルキル基またはアルケニル基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギン酸誘導体およびそれを用いた癒着防止材、ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織の癒着は、損傷を受けた臓器表面が再生する際に、他の組織と結合することにより発生する。そのため、手術後の癒着を防止すべく生体適合性の材料であるアルギン酸などの多糖類を使用した種々の癒着防止材が提案されている。
例えば、アルギン酸ナトリウムの水溶液を用いた癒着防止材が提案されている(特許文献1)。しかし、この癒着防止材は低濃度では体内での滞留性が低く、癒着防止効果を充分に発揮させることができない。
【0003】
また、多糖類および水を含有する滅菌された癒着防止材が提案され、多糖類としてアルギン酸、その誘導体、およびそれらの塩が挙げられている(特許文献2)。しかし、低粘度では体内での滞留性が低く、癒着防止効果を充分に発揮させることができないとされている。
【0004】
さらに、生体適合性材料として、多糖類を種々の方法で修飾したり、水不溶化させたりする試みがなされている。
例えば、カルボキシメチルセルロースをホスファチジルエタノールアミンで修飾した誘導体のハイドロゲルが癒着防止材として開示されている(特許文献3)。しかし、アルギン酸誘導体については記載も示唆もされていない。
上記したように、低粘度にも関わらず効果が高い癒着防止材は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−167919号公報
【特許文献2】特開2003−24431号公報
【特許文献3】国際公開WO2007/015579号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、それをハイドロゲルとしたときに低粘度でありながら癒着防止材として有用なアルギン酸誘導体を提供することにある。さらに本発明が解決しようとする課題は、該アルギン酸誘導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、安全性に優れた材料でアルギン酸を修飾し、癒着防止効果を向上させることについて鋭意検討した。その結果、本発明者らは、アルギン酸の水素原子を生体由来物質であるホスファチジルエタノールアミンで一部側鎖を置換したアルギン酸誘導体は、低粘度であって注射器を通して注入可能であるにも関わらず、癒着防止材として有用なハイドロゲルを形成しうることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、複数あるアルギン酸のカルボキシル基の一部が下記式(1)で表される基により置換度0.001〜0.1で置換されたアルギン酸誘導体である。
【0009】
【化1】

式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数9〜27のアルキル基またはアルケニル基を表す。ここで、式(1)で表される基とアルギン酸のカルボキシル基とは、アミド結合を形成している。
【0010】
また、本発明は、分子量が5×10〜5×10のアルギン酸と、下記式(2)
【化2】

[式中、RおよびRはそれぞれ独立に、炭素数9〜27のアルキル基またはアルケニル基を表す。]
で表されるホスファチジルエタノールアミンとを、アルギン酸のカルボキシル基100当量に対し、ホスファチジルエタノールアミン0.1〜100当量の割合にて、
水および水と相溶する有機溶媒(A)とからなり、水が20〜70容量%含まれる混合溶媒に溶解し、触媒の存在下で反応させる工程を含む、アルギン酸誘導体の製造方法である。
【0011】
また、本発明は上記アルギン酸誘導体を含有する癒着防止材である。
さらに、本発明は水100重量部に対し、上記アルギン酸誘導体を0.1〜5.0重量部含むハイドロゲルである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアルギン酸誘導体を水に溶解させると適度に低い弾性率および粘性を有するハイドロゲルとなる。かかるハイドロゲルは、低粘度にも関わらず癒着防止材としての効果が高い。
また、本発明の製造方法によれば、かかるアルギン酸誘導体を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<アルギン酸誘導体>
本発明のアルギン酸誘導体は、アルギン酸のカルボキシル基の一部が下記式(1)で表される基により、置換度0.001〜0.1で置換されたアルギン酸誘導体である。
【0014】
【化3】

【0015】
式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数9〜27のアルキル基またはアルケニル基を表す。
式(1)中のRおよびRは、いずれも炭素数9〜19のアルケニル基であることが好ましい。なかでもRおよびRは、いずれもオレイル基であることがより好ましい。
【0016】
式(1)で表される基の置換度は0.001〜0.1であるが、好ましくは0.005〜0.05である。式(1)で表される基の置換度をこの範囲に制御することにより、適度な粘弾性を有し、注射器などの細管を有する器具を用いて注入可能なゲルを得ることができる。
【0017】
式(1)で表される基の置換度は、例えば元素分析によるリンの定量分析によって求められる。リンの元素分析は、アルギン酸誘導体を適切な酸性の水溶液により加水分解後、遊離するリンイオンをリン−モリブデン法などの発色による吸光分析やIPCなどの発光分析を利用して行うことができる。
【0018】
また、アルギン酸誘導体の重量平均分子量は5×10〜5×10であり、好ましくは5×10〜5×10、より好ましくは5×10〜1×10である。原料となるアルギン酸ナトリウムの分子量を適切に選択することによって目的の分子量を有するアルギン酸誘導体を得ることができる。
【0019】
<アルギン酸誘導体の製造方法>
アルギン酸誘導体は、(i) アルギン酸成分(X)とホスファチジルエタノールアミン成分(Y)とを、(ii)成分(X)のカルボキシル基の100当量に対し、成分(Y)0.1〜100当量の割合で、(iii) 水および水と相溶する有機溶媒(A)とからなり、水が20〜70容量%含まれる混合溶媒に溶解し、触媒の存在下、反応させる工程を含む、アルギン酸誘導体の製造方法である。
【0020】
引き続き、実質的にアルギン酸は溶解しないが水と相溶する有機溶媒(B)を用いてアルギン酸誘導体を精製する工程を実施することが好ましい。
成分(X)はアルギン酸で、その重量平均分子量は、5×10〜5×10、好ましくは5×10〜5×10、より好ましくは5×10〜1×10である。
【0021】
成分(Y)は、下記式(2)
【化4】

で表されるホスファチジルエタノールアミンである。
【0022】
式(2)中、RおよびRはそれぞれ独立に、炭素数9〜27のアルキル基またはアルケニル基である、RおよびRは、いずれも炭素数9〜27のアルケニル基であることが好ましい。さらに、RおよびRを含む脂肪酸骨格がいずれもオレイン酸エステルであることが好ましい。
【0023】
成分(Y)は、動物組織から抽出したもの、または合成して製造したものどちらでも使用できる。ホスファチジルエタノールアミンとしては、例えばジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ジアラキドイルホスファチジルエタノールアミン、ジベヘノイルホスファチジルエタノールアミン、ジリグノセロイルホスファチジルエタノールアミン、ジセロチオイルホスファチジルエタノールアミン、ジモンタノイルホスファチジルエタノールアミン、ラウロオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ミリストオレオイルホスファチジルエタノールアミン、パルミトオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジネルボノイルホスファチジルエタノールアミン、ジキメノイルホスファチジルエタノールアミン、ジリノレノイルホスファチジルエタノールアミン、ジヒラゴノイルホスファチジルエタノールアミン、ジアラキドノイルホスファチジルエタノールアミン、ジドコサヘキサエノイルホスファチジルエタノールアミンを挙げることができる。その中でも、合成する際に使用する有機溶媒への溶解性の面からジオレオイルホスファチジルエタノールアミンが好ましい。
ホスファチジルエタノールアミンは、生体由来の安全な物質である。
【0024】
成分(X)と成分(Y)は、成分(X)のカルボキシル基100当量に対し、成分(Y)で表されるホスファチジルエタノールアミンを0.1〜100当量、好ましくは0.2〜50当量、より好ましくは0.3〜40当量の割合で反応させる。0.1当量よりも少ないと生成されるアルギン酸誘導体がハイドロゲルを形成しない。また、100当量より多いと、生成されるアルギン酸誘導体の疎水性が高くなって不溶物が発生しやすくなり、好ましくない。成分(X)と成分(Y)との縮合反応は、縮合に用いる触媒の反応性や反応条件によっては反応効率が悪くなることがあるため、成分(Y)は、目的とする置換度の計算値よりも過剰に用いることが好ましい。
【0025】
成分(X)と成分(Y)とは、水および水と相溶する有機溶媒Aとからなり、水が20〜70容量%である混合溶媒に溶解させる。水の含有量が20容量%よりも少ないとアルギン酸塩が溶解しにくくなり、また70容量%よりも高いとホスファチジルエタノールアミンが溶解しにくくなるため反応が進まない。水の含有量は、好ましくは30〜60容量%である。
【0026】
有機溶媒(A)として、具体的には、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、モルフォリンなどの環状エーテル結合を有する有機溶媒、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド結合を有する有機溶媒、ピリジン、ピペリジン、ピペラジンなどのアミン類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類を挙げることができる。これらの中では環状エーテル類あるいはスルホキシド類が好ましく、なかでもテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルホキシドがより好ましい。
【0027】
反応に用いる触媒は、カルボキシル活性化剤や縮合剤が好ましい。カルボキシル活性化剤として、N−ヒドロキシスクシンイミド、p−ニトロフェノール、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシピペリジン、N−ヒドロキシスクシンアミド、2,4,5−トリクロロフェノール、N、N−ジメチルアミノピリジンなどが挙げられる。縮合剤として4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド、1−エチル−3−(ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミドやその塩酸塩、ジイソプロピルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミドやN-ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミドなどが挙げられる。これらの中ではカルボキシル活性化剤としてN−ヒドロキシベンゾトリアゾール、縮合剤として4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド、1−エチル−3−(ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩を用いるのが好ましい。
【0028】
反応温度は、好ましくは0〜60℃である。副生成物の産生を抑制するためには、反応を0〜10℃で行うことがより好ましい。反応環境は弱酸性下が好ましい。さらに好ましくはpH6〜7である。
【0029】
本発明の製造方法では、得られたアルギン酸誘導体を、実質的にアルギン酸を溶解しないが水と相溶する有機溶媒(B)を用いてアルギン酸誘導体を精製することが好ましい。ここで、実質的にアルギン酸を溶解しないとは、粉末状あるいは凍結乾燥状態で入手可能なアルギン酸ナトリウム塩あるいはアルギン酸(COOH型)に関して、水が存在しない条件下でアルギン酸の有機溶媒に対する溶解性を調べたとき、そのほとんどが溶解しない有機溶媒のことをいう。具体的にはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、t−ブタノールなどのアルコール類、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、アセトンなどのケトン類、フェノールなどの芳香族アルコール類を挙げることができる。これらの中ではメタノール、エタノールが好ましく、生体内で使用することを考慮するとエタノールが好ましい。
【0030】
これらの群から選択される有機溶媒(B)を用いて精製する場合、アルギン酸誘導体が水や有機溶媒(A)中に存在する状態で有機溶媒(B)を加え、沈殿を形成し、アルギン酸誘導体を取り出す方法、上記により得られた沈殿、乾燥状態にある粉末、あるいは凍結乾燥により得られたスポンジ状の成型体に有機溶媒(B)を添加し、洗浄する方法などを用いることができる。これらの精製方法により、反応に用いた縮合剤やカルボキシル活性化剤などの触媒類、反応せずに系中に残った未反応のリン脂質などを取り除くことができる。有機溶媒(B)から目的物を得るには、遠心分離、ろ過、凍結乾燥、ソックスレー抽出などの方法が利用される。
【0031】
<アルギン酸誘導体によるハイドロゲル>
本発明の癒着防止材は、式(1)で表されるアルギン酸誘導体を含有するハイドロゲルであり、水100重量部に対し、式(1)で表されるアルギン酸誘導体を0.1〜5.0重量部、好ましくは0.3〜3.0重量部、さらに好ましくは0.5〜2.0重量部含むハイドロゲルである。
【0032】
これらのハイドロゲルは、スパテルなどの金属へらで触ると容易に変形することが可能で、患部に塗布することが容易な状態であり、また注射器など細管を有する器具で注入することが可能である。また、本発明のハイドロゲルは、透明であり、製造の過程でごみなどの異物が混入した場合、これを検知することが可能であり、工業生産する上でのメリットを有する。
【0033】
また、本発明のハイドロゲル中に含まれる、水以外の他の成分としては、触媒として用いた縮合剤類、縮合剤が所定の化学反応を経由することで生成するウレアなどの副産物類、カルボキシル活性化剤、未反応のホスファチジルエタノールアミン類、反応の各段階で混入する可能性のある異物、pHの調整に用いたイオン類などが考えられるが、これらの成分は、例えば上記した有機溶媒(B)を用いた精製あるいは洗浄によって取り除かれており、いずれの化合物も、生体内に入れたときに異物反応として認識されない程度の含有量以下の低いレベルに抑えてあることが好ましい。
【0034】
本発明のアルギン酸誘導体の好ましい複素弾性率としては、水中におけるポリマー濃度が1重量%、温度37℃の条件で、レオメーターと呼ばれる動的粘弾性測定装置で角速度10rad/secにて測定したときに、0.1〜100N/m、好ましくは0.5〜50N/m、さらに好ましくは1.0〜10N/mであるものがよい。
【0035】
本発明のアルギン酸誘導体およびそのハイドロゲルの用途としては、医用材料を含めた医療用途、ヘアケア製品や肌の保湿剤などの日用品用途、化粧品用途などが考えられる。
例えば、本発明のハイドロゲルは、癒着防止用のハイドロゲルとしては低粘度であって注射器を通して注入しやすく、透明性、安全性にも優れているから、低侵襲医療用途に用いることが可能である。本発明のハイドロゲルは取り扱い性に優れていて複雑な形状の部位にも適用できることから、内視鏡を用いた手術にも適用可能である。
【0036】
また、再生医療のための細胞の担体、成長因子などの液性因子を保持・徐放する担体、医薬品として利用できる低分子化合物を保持・徐放する担体、癒着防止材やシーラントなどの医用材料としても好ましく利用できる。
【0037】
以下、本発明の癒着防止材の使用態様についてより具体的に例示する。
本発明の癒着防止材は、脊椎、関節、腱、神経などに対する手術時に、損傷を受けた生体組織表面が癒着するのを防止するために用いることができる。さらに具体的には、脊椎手術の場合、例えば本発明の癒着防止材を硬膜と神経根周囲を隔離するために塗布することで癒着を防止することができる。
【0038】
癒着が起きた場合、除痛、稼動部位の確保を目的として癒着剥離を行う必要がある。本発明の癒着防止材を塗布することにより、癒着を防止することができ、再手術を回避し、医療経済性の向上、さらには患者の生活の質を高めることが可能となる。
【0039】
また、婦人科手術では、開腹術又は腹腔鏡による子宮筋腫摘出術時などに用いることができる。手術後の創傷部位に本発明の癒着防止材を塗布することにより、癒着を防止することができる。
【実施例】
【0040】
以下の実施例により本発明の詳細をより具体的に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0041】
(1)実施例に使用した材料は以下の通りである。
(i) アルギン酸ナトリウム((株)持田インターナショナル製)、
(ii) テトラヒドロフラン(和光純薬工業(株)製)、
(iii) 0.1M HCl(和光純薬工業(株)製)、
(iv) 0.1M NaOH(和光純薬工業(株)製)、
(v) 4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(国産化学(株)製)、
(vi) L−α−ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(COATSOME ME−8181、日本油脂(株)製)、
(vii) 消毒用エタノール(和光純薬工業(株)製)、
(viii) ペントバルビタールナトリウム(ネンブタール注射液、大日本製薬(株)製)、
(ix) エタノール(和光純薬工業(株)製)、
(x) 注射用蒸留水(大塚製薬(株)製)。
【0042】
(2)アルギン酸誘導体中のリン脂質含量の測定
アルギン酸誘導体中のリン脂質の割合は、バナドモリブデン酸吸光光度法による全リン含量の分析により求めた。
【0043】
(3)ハイドロゲルの複素弾性率の測定
ハイドロゲルの複素弾性率は、動的粘弾性測定装置であるRheometer RFIII(TA Instrument)を使用し、37℃、角速度10rad/secで測定した。複素弾性率とは弾性体の応力とひずみの比を表す定数のことである。
【0044】
[実施例1]
(アルギン酸誘導体)
アルギン酸ナトリウム1500mgを水100mlに溶解し、さらにテトラヒドロフラン100mlを加えた。この溶液に、L−α−ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン563.34mg(0.000252mol)(CMCNaのカルボキシル基100当量に対し11当量)、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド230.4mg(0.0002776mol)を反応系に添加した後、終夜攪拌を行った。攪拌後、テトラヒドロフランを除去し、水をある程度蒸発させたところでエタノール中に加え、沈殿させた。ろ過によりエタノールを除き、再度、エタノールにて洗浄し、そのろ物を真空乾燥することでアルギン酸誘導体を得て、そのリン脂質含量を測定した。
リン脂質含量の測定結果より求めた式(d)の置換度は1.22mol%/糖であった。
【0045】
(ハイドロゲル)
凍結乾燥したアルギン酸誘導体60mgをイオン交換水5940mgに溶解し、濃度1重量%のハイドロゲルを調製した。得られたハイドロゲルは無色透明で、注射針を通して容易に押し出すことが可能なハイドロゲルであった。また、得られたハイドロゲルの複素弾性率を測定したところ、5.2N/mであった。
【0046】
[比較例1]
アルギン酸ナトリウム60mgをイオン交換水5940mgに溶解し、濃度1重量%のハイドロゲルを調製した。得られたハイドロゲルは無色透明で、注射針を通して容易に押し出すことが可能なハイドロゲルであった。また、得られたハイドロゲルの複素弾性率を測定したところ、2.9N/mであった。
【0047】
[実施例2]
(腹腔内癒着試験)
日本チャールス・リバー(株)のSprague−Dawley(SD)系ラット10匹を使用し、Buckenmaier CC 3rdらの方法に従って腹腔内癒着モデルを作製した[Buckenmaier CC 3rd, Pusateri AE, Harris RA, Hetz SP: Am Surg. 65(3):274-82, 1999]。すなわち、ラットをペントバルビタールナトリウムの腹腔内投与麻酔下で背位に固定し、腹部を剃毛した後、消毒用エタノールで消毒した。さらにイソジン消毒液で手術領域を消毒した後、腹部正中線に沿って3〜4cm切開して盲腸を露出させた。露出させた盲腸の一定の面積(1〜2cm)について、滅菌ガーゼを用いて点状出血が生じるまで擦過した。盲腸を元に戻し、さらに相対する腹壁に欠損(8mm×1.6mm)を作製した。その後、腹壁の欠損部位に実施例1のハイドロゲル(0.5ml)を塗布し、切開部の筋層は連続縫合した後、皮膚は4〜5針縫合した。創傷部をイソジン消毒液で消毒した後、ケージに戻した。モデル作製4週間後に動物をペントバルビタールナトリウム麻酔下で開腹し、腹腔内癒着の程度を肉眼的に観察し、以下に示す基準に従ってスコア化した。
【0048】
(スコア分類)
スコア0:癒着が認められない状態
スコア1:軽度の牽引で切れる程度の弱い癒着がある状態
スコア2:軽度の牽引に耐えられ得る中程度の癒着がある状態
スコア3:かなりしっかりとした癒着がある状態
【0049】
さらに、癒着が認められた場合、盲腸にゼムクリップを縫合糸にて縫い付け、それをMetric Gauges(EW−93953−05、Cole−Parmer社製)で引っ張り、盲腸が腹壁からはがれるの最大強度(グラム)を測定し、その値を癒着の強度として評価した。癒着がない場合、0グラムとして扱った。
こうして実施例1のアルギン酸誘導体組成物ハイドロゲルが癒着の程度や強度に及ぼす効果を評価した。
得られた癒着防止効果を表1に示す。
【0050】
[比較例2]
実施例1のアルギン酸誘導体ハイドロゲルの代わりに比較例1のアルギン酸ナトリウムハイドロゲルを用いること以外、実施例4と同様の操作を行った。
得られた癒着防止効果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
以上より、実施例1のハイドロゲルは癒着防止の効果が高いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のアルギン酸誘導体は医療用材料として用いることができる。例えば、そのハイドロゲルを外科手術時に使用する癒着防止材として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸のカルボキシル基の一部が下記式(1)で表される基により、置換度0.001〜0.1で置換されたアルギン酸誘導体。
【化1】

式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数9〜27のアルキル基またはアルケニル基を表す。
【請求項2】
1重量%水溶液について動的粘弾性測定装置で角速度10rad/secにて求められる複素弾性率が0.1〜100N/mである請求項1に記載のアルギン酸誘導体。
【請求項3】
およびRが炭素数9〜19のアルケニル基である請求項1または2に記載のアルギン酸誘導体。
【請求項4】
およびRを含む脂肪酸骨格がオレイン酸エステルである請求項1〜3のいずれかに記載のアルギン酸誘導体。
【請求項5】
分子量が5×10〜5×10のアルギン酸と、下記式(2)
【化2】

[式中、RおよびRはそれぞれ独立に、炭素数9〜27のアルキル基またはアルケニル基を表す。]
で表されるホスファチジルエタノールアミンとを、アルギン酸のカルボキシル基100当量に対し、ホスファチジルエタノールアミン0.1〜100当量の割合にて、
水および水と相溶する有機溶媒(A)とからなり、水が20〜70容量%含まれる混合溶媒に溶解し、触媒の存在下で反応させる工程を含む、アルギン酸誘導体の製造方法。
【請求項6】
実質的にアルギン酸を溶解しないが、水と相溶する有機溶媒(B)を用いてアルギン酸誘導体を精製する工程をさらに含む、請求項5に記載のアルギン酸誘導体の製造方法。
【請求項7】
有機溶媒(B)がエタノールである請求項6に記載のアルギン酸誘導体の製造方法。
【請求項8】
有機溶媒(A)がテトラヒドロフラン、ジオキサン、およびジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項5〜7のいずれかに記載のアルギン酸誘導体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載のアルギン酸誘導体を含有する癒着防止材。
【請求項10】
水100重量部に対し、請求項1〜4のいずれかに記載のアルギン酸誘導体を0.1〜5.0重量部含むハイドロゲル。

【公開番号】特開2010−209130(P2010−209130A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53463(P2009−53463)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】