説明

アルケン吸脱着剤の製造方法

【課題】アルケンを含む混合ガスから、アルケンを効率よく分離回収できる吸脱着剤を提供する。
【解決手段】本発明のアルケン吸脱着剤の製造方法は、銅(II)化合物、還元剤および無機酸を含有する多孔質担体を、不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気下で加熱焼成することを特徴とする。具体的には、多孔質担体に、銅(II)化合物、還元剤および無機酸を含有する水溶液を接触させた後、溶媒を除去し、さらに不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気下で加熱焼成することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルケンの分離回収に用いられる吸脱着剤の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレンやプロピレンなどのアルケンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、合成ゴムなどの石油化学製品の原料となる重要な基礎物質である。これらのアルケンは、製油所において各精製装置から発生する副生成ガス(製油所副生ガス)やナフサ分解ガスなどから分離回収するか、または、天然ガス、製油所副生ガス、ナフサ分解ガスなどから得られる低級アルカンを熱分解することにより工業的に製造される。
【0003】
製油所副生ガスなどからアルケンを分離する方法としては、例えば深冷分離法が採用されている。しかし、深冷分離法は、複雑な冷凍、熱回収システムを必要とするためエネルギー消費量が大きい、また、システムの効率上、元のガスが25質量%〜30質量%の高濃度でアルケンを含んでいることが必要となる。さらに、製油所副生ガスやナフサ分解ガスには、水分や二酸化炭素が含まれておりこれらが冷却時に固化してしまうため、これらを除去するための前処理も必要となる。そのため、元のガス中に、窒素、酸素、メタン、エタン、二酸化炭素、水素、水分などが共存している場合、分離工程が複雑となってしまうため、深冷分離法の適用は困難である。
【0004】
ここで、元のガス中に他の成分が多く存在する場合には、吸脱着剤を用いたPSA(圧力スイング吸着)分離、TSA(温度スイング吸着)分離が有効である。PSA分離は、高い圧力で被吸着物を吸脱着剤に吸着させ、次いで吸着系の圧力を下げることによって吸脱着剤に吸着した被吸着物を脱離し、吸着物と非吸着物とを分離する方法である。また、TSA分離は、低温で被吸着物を吸脱着剤に吸着させ、次いで吸着系の温度を上げることによって吸脱着剤に吸着した被吸着物を脱離し、吸着物と非吸着物とを分離する方法である。
【0005】
このようなアルケンの分離に使用される吸脱着剤として、例えば、塩化第一銅と塩化アルミニウムとからなる錯体が多孔質担体に担持された吸着剤(特許文献1(請求項1、第2頁右上欄第19行〜左下欄第3行)参照);ピリジンまたはその誘導体およびハロゲン化銅(I)よりなる2成分錯体をシリカゲルに担持してなる複合体よりなるオレフィン吸着剤(特許文献2(請求項5、段落0004)参照);ジアミン化合物およびハロゲン化銅(I)よりなる2成分錯体をシリカゲルに担持してなる複合体よりなるオレフィン吸着剤(特許文献3(請求項5、段落0004)参照);担体に塩化銅(II)及びカルボン酸銅(II)を担持させ、減圧下、不活性ガス雰囲気下、または還元性ガス雰囲気下で加熱処理してなるガス吸着剤(特許文献4(請求項6、段落0017)参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−229118号公報
【特許文献2】特開平8−243384号公報
【特許文献3】特開平8−243385号公報
【特許文献4】特開2005−289761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アルケンの吸脱着性能に優れた吸脱着剤を、容易に製造することができるアルケン吸脱着剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することができた本発明のアルケン吸脱着剤の製造方法は、銅(II)化合物、還元剤および無機酸を含有する多孔質担体を、不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気下で加熱焼成することを特徴とする。具体的には、多孔質担体に、銅(II)化合物、還元剤および無機酸を含有する水溶液を接触させた後、溶媒を除去し、さらに不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気下で加熱焼成することが好ましい。
【0009】
前記多孔質担体は、アルミナ、シリカ−アルミナ複合物および活性炭よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。前記還元剤は、酸化階程の低い有機化合物が好ましく、グルコースまたはスクロースが特に好適である。前記銅(II)化合物は、塩化銅(II)が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルケンの吸脱着性能に優れた吸脱着剤を、容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のアルケンの吸脱着剤の製造方法は、銅(II)化合物、還元剤および無機酸を含有する多孔質担体を、不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気下で加熱焼成することを特徴とする。
【0012】
本発明では多孔質担体に、アルケンの吸脱着に作用する銅(I)化合物を効率よく担持させることが重要となる。ここで、本発明では、多孔質担体が無機酸を含有するため、銅(II)化合物の多孔質担体での分散が促進され、また、多孔質担体が還元剤を含有するため、多孔質担体に担持された銅(II)化合物が、還元剤によって効率良く還元され、銅(I)化合物と銅(II)化合物との混合物、あるいは、I価とII価の中間の原子価を持つものになるものと推定される。さらに、加熱焼成を行うことにより、還元されていない銅(II)化合物が該加熱焼成によりさらに還元され、アルケンの吸脱着に有効な銅(I)化合物に変化するものと考えられる。そのため、本願の製造方法によれば、アルケンの吸脱着性能に優れた吸脱着剤が容易に得られると考えられる。
【0013】
1.化合物含有多孔質担体
まず、前記銅(II)化合物、還元剤および無機酸を含有する多孔質担体(以下、「化合物含有多孔質担体」と称する場合がある。)について説明する。化合物含有多孔質担体は、多孔質担体に銅(II)化合物、還元剤および無機酸が含有されているものであれば特に限定されず、例えば、銅(II)化合物などを含む溶液が含浸されているものや、銅(II)化合物などが担持されているものが挙げられる。
【0014】
このような化合物含有多孔質担体を製造する方法としては、例えば、(1)多孔質担体に、銅(II)化合物、還元剤および無機酸を含有する水溶液を接触させる方法;(2)多孔質担体に無機酸溶液を含浸させ乾燥させた後、銅(II)化合物および還元剤を含有する水溶液を接触させる方法;などが挙げられる。これらの中でも、化合物含有多孔質担体をより簡便に製造できることから、上記(1)の方法が好ましい。
【0015】
以下、化合物含有多孔質担体の製造方法の一例として、多孔質担体に、銅(II)化合物、還元剤および無機酸を含有する水溶液を接触させる方法(上記(1))について説明する。
【0016】
1−1.多孔質担体
前記多孔質担体の材料としては、アルミナ、シリカまたはこれらの複合物などの金属(半金属を含む)酸化物からなる多孔質担体、活性炭などが挙げられる。これらの多孔質担体は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、金属酸化物からなる多孔質担体が好ましく、アルミナまたはシリカ−アルミナ複合物からなる多孔質担体が好適である。
【0017】
前記アルミナからなる多孔質担体は、たとえば可溶性のアルミニウム塩の水溶液から水酸化アルミニウムを沈澱させてろ過し、これを強熱することにより取得される。また、前記シリカ−アルミナ複合物からなる多孔質担体は、シリカとアルミナとを単に機械的混合する方法;シリカゲルとアルミナゲルとを湿った状態で練り合せる方法;シリカゲルにアルミニウム塩を浸漬する方法;シリカとアルミナとを水溶液から同時にゲル化させる方法;シリカゲル上にアルミナゲルを沈着させる方法;などにより製造される。これらのアルミナからなる多孔質担体およびシリカ−アルミナ複合物からなる多孔質担体は、いずれも市販されており、本発明においては、これを必要に応じて乾燥してから使用することが好ましい。
【0018】
前記多孔質担体の粒子径は0.3mm以上が好ましく、より好ましくは1mm以上、さらに好ましくは2mm以上であり、10mm以下が好ましく、より好ましくは6mm以下、さらに好ましくは4mm以下である。粒子径が上記範囲内である多孔質担体を用いることにより、吸脱着剤充填層の圧力損失を許容範囲に調節しやすくなり、容易に所望の吸脱着速度を得ることができる。なお、粒子径は光学顕微鏡などを用いて確認することができる。
【0019】
前記多孔質担体の細孔容積は0.1cm3/g以上が好ましく、より好ましくは0.2cm3/g以上、さらに好ましくは0.3cm3/g以上であり、0.7cm3/g以下が好ましい。多孔質担体の細孔容積が0.1cm3/g以上であれば、銅(II)化合物などを含む溶液または分散液の保持に有利であり、また、0.7cm3/g以下であれば、多孔質担体の物理的強度がより良好となる。前記細孔容積はBET法により求められる値である。
【0020】
前記多孔質担体の比表面積は150m2/g以上が好ましく、より好ましくは250m2/g以上、さらに好ましくは300m2/g以上であり、1800m2/g以下が好ましく、より好ましくは1600m2/g以下、さらに好ましくは1300m2/g以下である。比表面積が上記範囲内である多孔質担体を用いることにより、銅(II)化合物の保持および分散がより良好となる。前記比表面積はBET法により求められる値である。
【0021】
1−2.混合水溶液
前記化合物含有多孔質担体は、上述したように、例えば、多孔質担体に、銅(II)化合物、還元剤および無機酸を含有する水溶液(以下、「混合水溶液」と称する場合がある。)を接触させることで製造できる。前記混合水溶液は、銅(II)化合物、還元剤および無機酸が溶解しているものであれば、特に限定されない。前記混合水溶液は、銅(II)化合物、還元剤および無機酸を水性溶媒に溶解させることで調製でき、銅(II)化合物、還元剤を無機酸水溶液に溶解させる方法がより簡便である。なお、銅(II)化合物または還元剤が溶解し難い場合には、溶解を促進するために加温してもよい。
【0022】
前記銅(II)化合物としては、水または酸溶液に溶解し得るものであれば特に限定されず、例えば、塩化銅(II)、フッ化銅(II)、臭化銅(II)等のハロゲン化銅(II)などが挙げられる。前記銅(II)化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、塩化銅(II)が最も実用的である。
【0023】
前記還元剤としては、酸化階程の低い有機化合物または低原子価状態にある金属の塩が用いられる。酸化階程の低い有機化合物としては、例えば、アルデヒド類、糖類、ギ酸、シュウ酸などが挙げられる。前記糖類としては、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、プシコース、マンノース、アロース、タガトース、リボース、デオキシリボース、キシロース、アラビノース、マルトース、ラクトースなどを挙げることができ、D−グルコース(ブドウ糖)を好適に使用できる。また、糖類としては、加水分解して還元性を発現するものも使用することができ、例えば、スクロース(グラニュ糖)も好適に使用できる。前記低原子価状態にある金属の塩としては、鉄(II)、スズ(II)、チタン(III)またはクロム(II)の塩などが挙げられる。
【0024】
前記無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸などが挙げられる。無機酸は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、無機酸としては、塩酸、燐酸または硫酸が好ましい。前記無機酸は水溶液として用いることが好ましく、無機酸水溶液の濃度は、0.5規定(以下、Nと表記する)以上が好ましく、1N以上がより好ましく、4N以下が好ましく、3N以下がより好ましい。
【0025】
前記混合水溶液の溶媒としては、通常、脱塩水が用いられる。なお、本発明の効果を損なわない程度に、溶媒として酢酸、ギ酸、アンモニア性ギ酸水溶液、アンモニア水、含ハロゲン溶剤(クロロホルム、四塩化炭素、二塩化エチレン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、塩化メチレン、フッ素系溶剤等)、炭化水素(ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、デカリン等)、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、イソホロン、シクロヘキサノン等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸アミル等)、エーテル類(イソプロピルエーテル、ジオキサン等)、セロソルブ類(セロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルアセテート等)、カルビトール類などを用いてもよい。
【0026】
前記混合水溶液中の銅(II)化合物の濃度は、2mol/l以上が好ましく、より好ましくは3mol/l以上、さらに好ましくは3.5mol/l以上であり、7.5mol/l以下が好ましく、より好ましくは7mol/l以下、さらに好ましくは5mol/l以下である。銅(II)化合物の濃度が2mol/l以上であれば、溶媒を除去する際に必要なエネルギーをより減少させることができ、7.5mol/l以下であれば、銅(II)化合物を溶解させる際の加温(加熱)エネルギーをより減少させることができる。
【0027】
前記混合水溶液中の還元剤の濃度は、使用する還元剤に応じて適宜調節すればよい。例えば、グルコースの場合、0.4mol/l以上が好ましく、より好ましくは0.6mol/l以上、さらに好ましくは1mol/l以上であり、4mol/l以下が好ましく、より好ましくは3mol/l以下、さらに好ましくは2mol/l以下である。また、グラニュ糖の場合、0.2mol/l以上が好ましく、より好ましくは0.3mol/l以上、さらに好ましくは0.5mol/l以上であり、2mol/l以下が好ましく、より好ましくは1.5mol/l以下、さらに好ましくは1mol/l以下である。還元剤の濃度が上記範囲内であれば、銅(II)化合物の還元をより速やかに進行させることができる。一方、上記範囲を超えると、グルコースを溶解させるために加熱温度の上昇や、溶解時間を長くすることが必要となり、また、加熱焼成後、過剰のグルコースが銅化合物の表面を覆ってしまい、アルケンの吸脱着を妨害する。
【0028】
1−3.化合物含有多孔質担体
前記多孔質担体の前記混合水溶液への接触は、通常、含浸またはスプレーにより行う。この場合、多孔質担体細孔に存在する気体を完全に混合水溶液で置換するため、真空脱気した多孔質担体に溶液または分散液を接触させたり、多孔質担体に混合水溶液を接触させた後、減圧条件下に脱気したりしてもよい。前記接触を含浸により行う場合、含浸(浸漬)時間は、5分間以上が好ましく、より好ましくは10分間以上であり、100分間以下が好ましく、より好ましくは60分間以下である。
【0029】
多孔質担体と混合水溶液とを接触させた後は、望ましくは系の温度を下げることなく、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下に加熱乾燥することにより溶媒を留出除去する。溶媒の除去は単なる加熱乾燥のほか、減圧乾燥によってもなされる。このような方法により、効率よく銅(II)化合物を多孔質担体に担持させることができる。乾燥温度は、50℃以上が好ましく、より好ましくは100℃以上であり、300℃以下が好ましく、より好ましくは250℃以下である。また、前記乾燥温度における保持時間は、1時間以上が好ましく、より好ましくは1.5時間以上であり、10時間以下が好ましく、より好ましくは5時間以下である。
【0030】
多孔質担体に対する銅(II)化合物の担持量は、0.5mmol/g以上が好ましく、より好ましくは1mmol/g以上であり、10mmol/g以下が好ましく、より好ましくは5mmol/g以下である。銅(II)化合物の担持量が余りに少ないとアルケン吸着能力が不足し、一方、その担持量が余りに多いとかえって分離効率が低下する。ここで、多孔質担体に対する銅(II)化合物の担持量は、多孔質担体および銅(II)化合物の仕込み量から下記式により求める。
多孔質担体に対する銅(II)化合物の担持量=銅(II)化合物の仕込み量/多孔質担体の仕込み量
【0031】
多孔質担体に対する還元剤の担持量は、基本的には銅(II)イオンを銅(I)イオンに変換させる量が必要であり、通常は担持させる銅(II)化合物と同モル程度を用いるが、還元させたい銅(II)化合物の量に応じて適宜担持量を変えてもよい。還元剤の担持量は、銅(II)化合物に対して0.01当量以上0.50当量以下とすることが好ましい。具体的には、例えば、銅(II)化合物に対するグルコースの担持量(グルコース/銅(II)化合物)は、0.02mol/mol以上が好ましく、より好ましくは0.10mol/mol以上であり、0.50mol/mol以下が好ましく、より好ましくは0.40mol/mol以下である。銅(II)化合物に対するスクロース(グラニュ糖)の担持量(スクロース/銅(II)化合物)は、0.01mol/mol以上が好ましく、より好ましくは0.05mol/mol以上であり、0.25mol/mol以下が好ましく、より好ましくは0.20mol/mol以下である。
【0032】
2.加熱焼成
本発明の製造方法では、上記のようにして得た化合物含有多孔質担体を、不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気下で加熱焼成する。加熱焼成を行うことにより、銅(II)化合物がさらに還元され、アルケンの吸脱着に有効な銅(I)化合物に変化するものと考えられる。
【0033】
例えば、多孔質担体に塩化銅(II)と還元剤とを含有する混合液に接触させて、溶媒を除去して得られる吸脱着剤について、X線回折により定性分析すると以下のようになった。すなわち、200℃以下の熱処理後では、銅(I)化合物と銅(II)化合物との混合物であり、その比率は銅(I)化合物>銅(II)化合物であった。230℃〜400℃で熱処理を行った後では、銅(I)化合物のみであった。400℃超で熱処理を行った後では、銅(I)化合物と金属銅が検出された。
【0034】
前記加熱焼成は、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスまたは一酸化炭素、水素などの還元性ガス雰囲気下で行う。加熱焼成温度は、不活性ガスまたは還元性ガスのいずれを使用する場合も、100℃以上が好ましく、より好ましくは150℃以上であり、500℃以下が好ましく、より好ましくは350℃以下である。この温度範囲以外では所期の活性化が十分には達成できない。また、前記加熱焼成温度での保持時間は、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、12時間以下が好ましく、10時間以下がより好ましい。なお、上記の溶媒を除去するための乾燥処理と、乾燥後の加熱焼成は、異なる熱処理装置を用いてもよいし、同一の熱処理装置を用いて乾燥処理と加熱処理とを連続して行ってもよい。
【0035】
本発明の製造方法により得られる吸脱着剤はアルケンの分離回収に好適に用いることができる。すなわち、本発明の製造方法により得られる吸脱着剤は、銅(I)化合物を担持している。そのため、前記吸脱着剤は、銅(I)化合物と錯体を形成し得るアルケンに対して優れた吸脱着性能を発揮するが、銅(I)化合物と錯体を形成し得ないアルカンなどについては吸着量が少ない。従って、前記吸脱着剤は、アルケンとアルカンとの吸脱着量の差が大きいため、この吸着量の差を利用することにより、アルカンおよびアルケンを含有する混合ガスから、効率よくアルケンを分離回収することができる。本発明の吸脱着剤により分離回収するアルケンとしては、炭素数2以上4以下のものが好ましい。
【0036】
3.アルケンの分離回収
上記のようにして得られた吸脱着剤は、吸着塔に充填され、PSA法またはTSA法により、アルカンおよびアルケンを含む混合ガスからのアルケンの分離回収に用いられる。前記混合ガスの処理量は、特に限定されるものではないが、2000m3/h以下が好ましく、1000m3/h以下がより好ましい。
【0037】
PSA法によりアルケンの分離回収を行う場合は、吸着工程における吸着圧力は大気圧以上、たとえば0kPa[gage]〜600kPa[gage]とすることが望ましく、真空脱気工程における真空度は大気圧以下、たとえば30kPa[abs]〜1.0kPa[abs]とすることが望ましい。TSA法によりアルケンの分離回収を行う場合は、吸着工程における吸着温度はたとえば0℃〜40℃程度、脱気工程における脱気温度はたとえば60℃〜180℃程度とすることが望ましい。また、PSA法とTSA法とを併用し、吸着を大気圧以上で低温条件下に行い、脱気を大気圧以下で高温条件下に行うこともできる。なお、TSA法はエネルギー消費の点でPSA法に比しては不利であるため、工業的にはPSA法を採用するか、PSA−TSA併用法を採用することが望ましい。
【0038】
適用できるアルカンおよびアルケンを含む混合ガスとしては、たとえば、製油所の各精製装置から発生する副生ガスが用いられる。副生ガスは、通常、アルカン、アルケンのほか、窒素、酸素、二酸化酸素、水素、水および少量の硫化水素やアンモニアなどを含んでいる。この場合、アルケン分離回収工程に先立ち、吸脱着剤を被毒し、あるいはその寿命を縮めるおそれのある成分、すなわちイオウ化合物、アンモニアなどの不純物の吸着除去工程、水分除去工程および酸素除去工程を設けることが望ましい。ただし、二酸化炭素除去工程や窒素除去工程は設けるには及ばない。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
炭化水素可逆吸着性能の評価方法
高精度比表面積・細孔分布測定装置(日本ベル社製、「BELSORP−max」)を用いて、炭化水素可逆吸着量を測定した。測定は、装置の専用セルに吸脱着剤を充填し、200℃で1時間真空排気(10-6Pa)した後に、40℃、常圧(約90kPa)で炭化水素を吸着させ、その後排気減圧(約10-2kPa)することを繰返して、80kPa〜0.02kPa間の炭化水素可逆吸着量を測定した。なお、炭化水素としては、エチレン、1−ブテン、エタン、ブタンを用いた。
【0041】
製造例1
200mlの三角フラスコに塩化銅(II)2水和物(キシダ化学社製、特級試薬)を41.3g、グルコース(キシダ化学社製、特級試薬)10.3gを入れ、ここに3N−硫酸水溶液43.3gを入れて55℃に加温して溶解させ、混合溶液を調製した。
この混合溶液に、予め120℃で4時間以上乾燥したアルミナからなる多孔質担体(住友化学社製、活性アルミナ(品名「NKHD−24」)、粒子径2mm〜4mm、BET細孔容積0.56cm3/g、BET比表面積340m2/g)を75g入れ、60分間時々撹拌しながら液を含浸させた。それを回分式リフター付回転レトルトに仕込み6rpmで回転させながら、窒素−1L/min流通下にこのレトルトを外部加熱して乾燥させることにより吸脱着剤を得た。外部加熱炉の運転条件は、5℃/minで200℃まで昇温、5時間保持後、自然冷却した。
冷却後の吸脱着剤を窒素気流中で5℃/minで230℃まで昇温し、10時間保持後、自然冷却した。得られた吸脱着剤について、炭化水素可逆吸着性能評価を行い、結果を表1に示した。
【0042】
製造例2
製造例1において、グルコース(キシダ化学社製、特級試薬)に代えて、グラニュ糖9.8gを用いたこと以外は同様にして吸脱着剤を製造した。得られた吸脱着剤について、炭化水素可逆吸着性能評価を行い、結果を表1に示した。
【0043】
製造例3
200mlの三角フラスコに塩化銅(II)2水和物(キシダ化学社製、特級試薬)を41.3g、グラニュ糖9.8gを入れ、ここに脱塩水39.5gを入れて溶解させ、混合溶液を調製した。この混合溶液に予め120℃で4時間以上乾燥したアルミナからなる多孔質担体(住友化学社製、活性アルミナ(品名「NKHD−24」)75gを加え、60分間時々撹拌しながら液を含浸させた。それを回分式リフター付回転レトルトに仕込み6rpmで回転させながら、窒素−1L/min流通下にこのレトルトを外部加熱して乾燥させることにより吸脱着剤を得た。外部加熱炉の運転条件は、5℃/minで200℃まで昇温、5時間保持後、自然冷却した。
冷却後の吸脱着剤を窒素気流中で230℃まで昇温し、10時間保持後自然冷却した。得られた吸脱着剤について、炭化水素可逆吸着性能評価を行い、結果を表1に示した。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すように、無機酸を使用した製造例1,2で得られた吸脱着剤では、無機酸を使用していない製造例3で得られた吸脱着剤よりも、アルケンの吸脱着性能に優れていることがわかる。また、製造例1,2の吸脱着剤では、製造例3の吸脱着剤よりも、吸脱着剤単位体積当たりのアルケンの吸脱着量とアルカンとの吸脱着量の差が大きくなっている。従って、製造例1,2の吸脱着剤を用いることにより、アルカンおよびアルケンを含有する混合ガスから、アルケンのみを効率よく分離回収することができる。
【0046】
無機酸を使用することで吸脱着性能が向上した理由は、無機酸の作用によって、多孔質担体に対して銅(I)化合物がよく分散したためと考えられる。さらに、銅(I)化合物の吸脱着性能がより発揮されるため、銅(I)化合物と錯体を形成し得るアルケンと、銅(I)化合物と錯体を形成し得ないアルカンとの吸脱着量の差が大きくなったと考えられる。
【0047】
なお、無機酸を使用した製造例2の吸脱着剤が無機酸を使用していない製造例3の吸脱着剤よりもブタンの吸脱着量が低下している理由は、無機酸を使用したことにより、わずかながら多孔質担体の比表面積が低下したためと考えられる。また、アルカンの吸脱着量における、エタンとブタンとの吸脱着量の差は、単にそれぞれの化合物の蒸気圧の違いによるものである。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、アルケン吸脱着剤の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅(II)化合物、還元剤および無機酸を含有する多孔質担体を、不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気下で加熱焼成することを特徴とするアルケン吸脱着剤の製造方法。
【請求項2】
多孔質担体に、銅(II)化合物、還元剤および無機酸を含有する水溶液を接触させた後、溶媒を除去し、さらに不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気下で加熱焼成する請求項1に記載のアルケン吸脱着剤の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質担体が、アルミナ、シリカ−アルミナ複合物および活性炭よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載のアルケン吸脱着剤の製造方法。
【請求項4】
前記還元剤が、酸化階程の低い有機化合物である請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルケン吸脱着剤の製造方法。
【請求項5】
前記還元剤が、グルコースまたはスクロースである請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルケン吸脱着剤の製造方法。
【請求項6】
前記銅(II)化合物が、塩化銅(II)である請求項1〜5のいずれか一項に記載のアルケン吸脱着剤の製造方法。

【公開番号】特開2011−62649(P2011−62649A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216181(P2009−216181)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000156961)関西熱化学株式会社 (117)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】