説明

アルコール性懸濁飲料

【課題】乳酸菌、果実等の水不溶性分を含有し、安定な分散状態及び懸濁状態を示すアルコール性の懸濁飲料、特に、酸性において、長期の安定性と、良好な風味を兼ね備えたアルコール性の懸濁飲料を提供する。
【解決手段】セルロース及び親水性ガムを含むセルロース複合体であって、該セルロース複合体を1質量%含むpH4の水分散体における貯蔵弾性率(G’)が0.06Pa以上である上記セルロース複合体を含有する、アルコール性の懸濁飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌、果実等の水不溶性分を含有し、安定な分散状態及び懸濁状態を示すアルコール性の懸濁飲料に関する。特に、酸性において、長期の安定性と、良好な風味を兼ね備えたアルコール性の懸濁飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好が多様化し、アルコール性飲料においても、多種多様なものが開発され、市場に流通している。最近では、柑橘系等の果実を懸濁させたり、マッコリのように乳酸菌を懸濁させたり、ウコンの如く健康成分を懸濁させたアルコール性の懸濁飲料の要求がある。特に、味付けとしては、酸性のものが多く開発され、酸性のアルコール性飲料において、懸濁安定を達成することが要求されている。
【0003】
従来、アルコール性飲料において、懸濁安定性を高める試みとしては、以下のものが挙げられる。
【0004】
特許文献1には、アルコール、水、脂肪類、糖類及び乳化安定剤として、特定のショ糖エステルを含有するクリームリカー組成物が開示されている。該文献によると、このクリームリカー組成物は、コーヒーや、炭酸水のような低pHの酸性飲料(実施例ではpHは4.6が開示)に混濁しても安定で分離をおこさない乳化液が記載されている。該文献によると、アルコール飲料において、脂肪類を、特定のショ糖エステルで覆い、乳化させることで、酸性下でも懸濁安定性の高いアルコール性飲料が得られている。
【0005】
特許文献2には、特定の粒子径を有する微細セルロースを含有したアルコール性飲料が開示されている。該文献には、特定の粒径の微細セルロースを配合することで、トマト、オレンジ等の果実成分、乳成分等の分散、懸濁安定性、乳化安定性に優れたものが開示されている。
【0006】
特許文献3には、微細セルロースと、特定の置換度、粘度を有するカルボキシメチルセルロースナトリウムを混合し、特定の粒子径を有する乾燥組成物が開示されている。該文献では、上記の微細セルロース組成物は、オレンジジュース、ドリンクヨーグルト等のアルコールが入っていない水性の飲料において、酸性領域で分散安定性、乳化安定性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−219885号公報
【特許文献2】特開平8−173135号公報
【特許文献3】特開平9−3243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、飲料に、界面活性剤を多量に配合する必要があり、界面活性剤が、脂肪類のみならず、味成分を包摂するため、風味をマスキングしてしまう問題があった。
また、特許文献2に開示の微細セルロースでは、該文献の実施例に示されるように、飲料を調製してから数日間は、安定性が優れるものの、数週間〜数ヶ月の長期保存においては、分離、凝集を生じ、安定性を維持できない問題があった。
特許文献3に開示の微細セルロース組成物は、水性の飲料には適しているが、アルコール性の飲料においては、分散性が不十分となる問題があった。また、水系媒体で予備分散し、完全に分散した状態でアルコールに添加した場合には、数日は懸濁安定性が達成されるが、長期保存においては、分離、凝集を生じ、安定性が維持できない問題があった。
【0009】
従来の、セルロースと親水性ガムで構成されるセルロース複合体(微細セルロース組成物も同義)は、アルコール性飲料に分散させた場合、それ自身の分散安定性が不十分であり、果実成分や、乳酸菌等の水不溶性成分と、凝集や分離を引き起こしやすく、長期の保存安定が達成できなかった。
したがって、本発明の如く、特定のレオロジー特性(貯蔵弾性率)を有するセルロース複合体を配合することで、乳酸菌、果実等の水不溶成分を、長期に、分散及び懸濁安定化したアルコール性の懸濁飲料、特に、酸性において、安定性と、良好な風味を兼ね備えたアルコール性懸濁飲料は、知られていなかった。
【0010】
本発明は、安定な分散状態及び懸濁状態を示すアルコール性の懸濁飲料、特に、酸性において、長期の安定性と、良好な風味を兼ね備えたアルコール性懸濁飲料を提供することを課題とする。
【0011】
ここで、本願明細書における分散安定と懸濁安定の定義について説明する。
【0012】
「分散安定」とは、水系媒体中にセルロース複合体を分散させたときの、セルロース複合体自体の分散安定性のことを意味している。具体的には、セルロース粒子の分離、凝集、沈降等の発生がなく、均一な外観を呈することである。
【0013】
「懸濁安定」とは、水系媒体中に、果実成分や乳酸菌、ウコン等の機能性食品素材等、セルロース複合体以外の成分を含むときに、セルロース複合体の添加効果により、それらの成分が懸濁安定化されることを意味している。具体的には、セルロースだけでなく、その他成分の粒子の分離、凝集、沈降等の発生がなく、均一な外観を呈することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、セルロースと親水性ガムを高度に複合化させ、貯蔵弾性率(G’)を高めたセルロース複合体が、酸性のアルコール性懸濁飲料において、低粘度で分散安定性及び、懸濁安定性に優れることを見出し、本発明をなすに至った。
【0015】
さらに、本発明者らは、セルロースと親水性ガムとを混練する際に、特定の濃度以上の固形分として混練物の粘性が高い半固形状態で、高い混練エネルギーで混練することにより、混練エネルギーが混練物に伝わりやすくなり、その結果、セルロースと親水性ガムの複合化が進み、得られたセルロース複合体の貯蔵弾性率(G‘)を高めることができ、該セルロース複合体は酸性のアルコール性の懸濁飲料においても高い安定性を示すことを初めて見出した。
【0016】
すなわち、本発明は、下記の通りである。
(1)セルロース及び親水性ガムを含むセルロース複合体であって、該セルロース複合体を1質量%含むpH4の水分散体において貯蔵弾性率(G’)が0.06Pa以上である上記セルロース複合体を含有する、アルコール性の懸濁飲料。
(2)前記セルロース複合体が、セルロースを50〜99質量%及び親水性ガムを1〜50質量%含む、(1)に記載のアルコール性の懸濁飲料。
(3)前記親水性ガムが、サイリウムシードガムである(1)又は(2)に記載のアルコール性の懸濁飲料。
(4)前記セルロース複合体が、さらに前記親水性ガムとは異なる水溶性ガムを含み、該親水性ガムと該水溶性ガムとの質量比が30/70〜99/1である、(1)〜(3)のいずれか一つに記載のアルコール性の懸濁飲料。
(5)前記水溶性ガムが、カルボキシメチルセルロースナトリウム、LMペクチン、アルギン酸ナトリウム、及びジェランガムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、(4)に記載のアルコール性の懸濁飲料。
(6)pHが6以下である(1)〜(5)のいずれか一つに記載のアルコール性の懸濁飲料。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、アルコール性飲料に、低粘度で、分散安定性及び懸濁安定性が優れるセルロース複合体を配合することで、長期にわたって、懸濁安定性に優れ、風味が良好なアルコール性懸濁飲料が提供できる。さらに、これらの飲食品に、ウコン等の機能性食品素材等の水不溶性成分を添加した際に、それらの分離、凝集、沈降等を抑制し、均一な外観を呈する、懸濁安定性に優れたアルコール性懸濁飲料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】セルロース複合体A(実施例1を参照)の1質量%における水分散体について、粘弾性の測定により得られた歪み−応力曲線である。
【図2】セルロース複合体L(比較例3を参照)の1質量%における水分散体について、粘弾性の測定により得られた歪み−応力曲線である。
【図3】セルロース複合体A(実施例1を参照)の水分散体(イオン交換水、中性)について、原子間力顕微鏡(AFM)で観察された像である。
【図4】セルロース複合体A(実施例1を参照)の水分散体(pH4)について、原子間力顕微鏡(AFM)で観察された像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明について、以下具体的に説明する。
【0020】
本発明で用いるセルロース複合体とは、セルロースと親水性ガムとを含むセルロース複合体であって該セルロース複合体を1質量%含むpH4の水分散体において貯蔵弾性率(G’)が0.06Pa以上であるものをいう。本発明でいう複合化とは、セルロースの表面が、水素結合等の化学結合により、親水性ガムで被覆されることをいう。
<セルロース>
本発明において、「セルロース」とは、セルロースを含有する天然由来の水不溶性繊維質物質である。原料としては、木材、竹、麦藁、稲藁、コットン、ラミー、バガス、ケナフ、ビート、ホヤ、バクテリアセルロース等が挙げられる。原料として、これらのうち1種の天然セルロース系物質を使用しても、2種以上を混合したものを使用することも可能である。
【0021】
本発明に用いる結晶セルロース(MCC)の平均重合度は、500以下の結晶セルロースが好ましい。平均重合度は、「第14改正日本薬局方」(廣川書店発行)の結晶セルロース確認試験(3)に規定される銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法により測定できる。平均重合度が500以下ならば、親水性ガムとの複合化の工程において、セルロース系物質が攪拌、粉砕、摩砕等の物理処理を受けやすくなり、複合化が促進されやすくなるため好ましい。より好ましくは、平均重合度は300以下、さらに好ましくは、平均重合度は250以下である。平均重合度は、小さいほど複合化の制御が容易になるため、下限は特に制限されないが、好ましい範囲としては10以上である。
【0022】
平均重合度を制御する方法としては、加水分解処理等が挙げられる。加水分解処理によって、セルロース繊維質内部の非晶質セルロースの解重合が進み、平均重合度が小さくなる。また同時に、加水分解処理により、上述の非晶質セルロースに加え、ヘミセルロースや、リグニン等の不純物も、取り除かれるため、繊維質内部が多孔質化する。それにより、混練工程等で、セルロースと親水性ガムに機械的せん断力を与える工程において、セルロースが機械処理を受けやすくなり、セルロースが微細化されやすくなる。その結果、セルロースの表面積が高くなり、親水性ガムとの複合化の制御が容易になる。
【0023】
加水分解の方法は、特に制限されないが、酸加水分解、熱水分解、スチームエクスプロージョン、マイクロ波分解等が挙げられる。これらの方法は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。酸加水分解の方法では、セルロース系物質を水系媒体に分散させた状態で、プロトン酸、カルボン酸、ルイス酸、ヘテロポリ酸等を適量加え、攪拌させながら、加温することにより、容易に平均重合度を制御できる。この際の温度、圧力、時間等の反応条件は、セルロース種、セルロース濃度、酸種、酸濃度により異なるが、目的とする平均重合度が達成されるよう適宜調製されるものである。例えば、2質量%以下の鉱酸水溶液を使用し、100℃以上、加圧下で、10分以上セルロースを処理するという条件が挙げられる。この条件のとき、酸等の触媒成分がセルロース繊維内部まで浸透し、加水分解が促進され、使用する触媒成分量が少なくなり、その後の精製も容易になる。
【0024】
本発明におけるセルロース複合体中のセルロースは、微細な粒子状の形状であることが好ましい。セルロースの粒子形状は、本発明におけるセルロース複合体を、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させた水分散体を、0.1〜0.5質量%に純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾されたものを、高分解能走査型顕微鏡(SEM)、又は原子間力顕微鏡(AFM)で計測された際に得られる粒子像の長径(L)と短径(D)とした場合の比(L/D)で表され、100個〜150個の粒子の平均値として算出される。
【0025】
L/Dは、20未満が好ましく、15以下がより好ましく、10以下がさらに好ましく、5以下が特に好ましく、5未満が格別に好ましく、4以下が最も好ましい。
<親水性ガム>
親水性ガムとは、化学構造の一部に糖又は多糖を含む親水性高分子物質のことである。ここで親水性とは、常温の純水に、一部が溶解する特性を有することである。定量的に親水性を定義すると、この新水性ガム0.05gを、50mLの純水に、攪拌下(スターラーチップ)で、平衡まで溶解させ、目開き1μmのメンブレンフィルターで処理した際に、通過する成分が、親水性ガム中に1質量%以上含まれることである。親水性ガムとして、多糖類を用いる場合には、以下のものが好適である。
【0026】
例えば、サイリウムシードガム(PSG)、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドシードガム、カラヤガム、キトサン、アラビアガム、ガッティガム、トラガントガム、寒天、カラギーナン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、HMペクチン、LMペクチン、アゾトバクター・ビネランジーガム、キサンタンガム、カードラン、プルラン、デキストラン、ジェランガム、ゼラチン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体が挙げられる。これらの親水性ガムは2種以上を組み合わせてもよい。
<陰イオン性多糖類>
上記の親水性ガムの中でも、水中で陽イオンが遊離し、それ自身が陰イオンとなるものを陰イオン性多糖類と呼ぶ。親水性ガムとして陰イオン性多糖類を用いることで、セルロースとの複合化がより促進され、セルロース複合体の耐酸安定性、耐塩安定性が増すため好ましい。
【0027】
陰イオン性多糖類としては、以下のものが好適である。
【0028】
例えば、サイリウムシードガム(PSG)、カラヤガム、カラギーナン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、HMペクチン、LMペクチン、アゾトバクター・ビネランジーガム、キサンタンガム、ジェランガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体が挙げられる。これらの陰イオン性多糖類は2種以上を組み合わせてもよい。
<分岐状の陰イオン性多糖類>
上記の陰イオン性多糖類の中でも、その化学構造中に、分岐構造を有するものを分岐状の陰イオン性多糖類と呼ぶ。本発明におけるセルロース複合体における親水性ガムとして、分岐状の陰イオン性多糖類を用いることで、セルロース複合体の耐酸性が、より高まるため好ましい。ここでいう分岐構造とは、多糖類に含まれる六単糖中の三つの水酸基(C6位は一級アルコール)のうち、一つ以上が化学結合を介して、メチロールより高分子量の置換基に置換されている構造のことである。置換基は、エーテル結合を介した糖又は多糖構造であることが好ましい。分岐状の陰イオン性多糖類としては、以下のものが好適である。
【0029】
例えば、サイリウムシードガム(PSG)、カラヤガム、キサンタンガム、ジェランガムが挙げられる。これらの陰イオン性多糖類は2種以上を組み合わせてもよい。
【0030】
これらの分岐状の陰イオン性多糖類の中でも、特にサイリウムシードガム(PSG)が、セルロースと複合化した際に、セルロース複合体の分散安定性、懸濁安定が向上するため好ましい。
<サイリウムシードガム>
サイリウムシードガム(PSG)とは、オオバコ科の植物(Plantago ovata Forskal)の種子の外皮から得られる多糖類(ガム類)のことである。具体的には、イサゴール、プランタゴ・オバタ種皮から得られる多糖類が挙げられる。
【0031】
本発明のサイリウムシードガム(PSG)は、上記のオオバコ科の植物(Plantago ovata Forskal)の種子の外皮から得られる多糖類(ガム類)を含むものであれば、きょう雑物を含んでいるものも該当する。例えば、当該多糖類を水等の溶媒で抽出されたガムも、外皮を粉砕されたハスクも、それらを組み合わせ処理されたものも、いずれのものも含まれる。また、それらは、粉末状、塊状、ケーク状、液状のいずれの状態であってもよい。
【0032】
PSGの化学構造は、非セルロース多糖類において、主鎖がキシランとして高度に枝分かれしており、側鎖がアラビノース、キシロース、ガラクツロン酸、ラムノースからなる構造である。側鎖における、その糖構成比は、D−キシロース約60質量%、L−アラビノース約20質量%、L−ラムノース約10質量%、D−ガラクツロン酸約10質量%である。これらの質量比は、PSGの原料、及びPSGの製造工程により5質量%前後するものである。
【0033】
また、上述の構造を有していれば、粘度を調製するために、PSGを、酸、キシラナーゼ様の酵素等により加水分解してもよい。
【0034】
PSGは、1質量%の純水溶液で測定した粘度が200mPa・s以下であることが好ましい。ここで、粘度とは、純水中に1質量%に調製した水溶液を200mlビーカーに充填し、25℃に温調した後、粘度計(東機産業(株)製、TVB−10形粘度計)を用いて、ローターを60rpmで30秒間回転させた直後の測定値を指す(但し、ローターは、粘度によって適宜変更できる。使用するロータは以下の通りである。1〜20mPa・s:BL型、21〜100mPa・s:No1、101〜300mPa・s:No2、301mPa・s:No3)。粘度が低いほど、セルロースとの複合化が促進されやすくなるため好ましい。また、飲料に使用した際、すっきりとしたのど越しを発現しやすくなるため好ましい。より好ましくは100mPa・s以下であり、さらに好ましくは50mPa・s以下である。その下限値は、特に設定されるものではないが、工業原料として得られる範囲としては、5mPa・s以上が好ましい。
<貯蔵弾性率>
次に、本発明におけるセルロース複合体の貯蔵弾性率(G’)について説明する。
【0035】
本発明におけるセルロース複合体は、セルロース複合体を1質量%含むpH4の水分散体の貯蔵弾性率(G’)が0.06Pa以上である。貯蔵弾性率とは、水分散体のレオロジー的な弾性を表現するものであり、セルロースと親水性ガムとの複合化、又はセルロースと親水性ガム及びその他水溶性ガムとの複合化の程度を表すものである。貯蔵弾性率が高いほど、セルロースと親水性ガムとの複合化、又はセルロースと親水性ガム及びその他水溶性ガムとの複合化が促進され、セルロース複合体の水分散体におけるネットワーク構造が、剛直であることを意味する。ネットワーク構造が剛直なほど、セルロース複合体の分散安定性、懸濁安定性に優れる。
【0036】
従来のセルロースは、酸性においては貯蔵弾性率が低く、分散安定性及び懸濁安定性が極めて低かった。しかし、本発明におけるセルロース複合体は、酸性においても高い貯蔵弾性率を示し、分散安定性及び懸濁安定性に優れている。
【0037】
本発明において、貯蔵弾性率は、セルロース複合体をpH4の水系媒体中に分散させた水分散体の動的粘弾性測定により得られる値とした。水分散体に歪みを与えた際の、セルロース複合体ネットワーク構造内部に蓄えられた応力を保持する弾性成分が貯蔵弾性率として表れる。
【0038】
貯蔵弾性率の測定方法としては、まず、セルロース複合体を、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)を用いて純水中に分散させ、1.8質量%の純水分散体を調製する。その水分散体と、0.2MでpH4のMcllvaine緩衝液(0.2Mのリン酸水素二ナトリウムと、0.1Mのクエン酸の水溶液)とを混合して、セルロース複合体の濃度を1質量%(全量300g、イオン濃度0.06mol/l、pH4)に調製した後、得られた水分散体を3日間室温で静置する。この水分散体の応力のひずみ依存性を、粘弾性測定装置(Rheometric Scientific,Inc.製、ARES100FRTN1型、ジオメトリー:Double Wall Couette型、温度:25.0℃一定、角速度:20rad/秒、ひずみ:1→794%の範囲で掃引、水分散体は微細構造を壊さないようスポイトを使用して、ゆっくりと仕込み、5分間静置した後に、Dynamic Strainモードで測定を開始する)により測定する。本発明における貯蔵弾性率は、上述の測定で得られた歪み−応力曲線上の、歪み20%の値のことである。この貯蔵弾性率の値が大きいほど、セルロース複合体が形成する水分散体の構造はより弾性的であり、セルロースと親水性ガム、及びその他水溶性ガムが高度に複合化していることを表している。
【0039】
セルロース複合体の貯蔵弾性率は、0.15以上が好ましく、0.2Pa以上がより好ましく、さらに好ましくは0.5Pa以上である。
【0040】
上限は、特に設定されるものではないが、飲料とした場合の飲みやすさを勘案すると、6.0Pa以下である。6.0Pa以下であると、懸濁安定性が充分に得られるセルロース複合体の添加量(飲料により異なるが、例えば、果汁飲料では0.1〜1.0質量%)において、飲み口が軽いため好ましい。また、食感を調節するために、セルロース複合体の添加量が低い場合(例えば0.5質量%以下)でも、セルロース以外の水不溶成分と凝集等を生じにくい。
<セルロース複合体の構造>
本発明におけるセルロース複合体は、セルロース表面から放射状に伸びた親水性ガムの広がりが、酸性下でも充分に大きいという特徴がある。セルロース表面から伸びた親水性ガムの広がりが大きいほど、隣接するセルロース複合体の親水性ガムと絡み合いやすくなる。その結果、セルロース複合体同士の絡み合いが密に生じることで、ネットワーク構造が剛直になり、貯蔵弾性率(G’)が向上し、分散安定性、懸濁安定性が高くなる。この親水性ガムの広がりは、以下の方法で測定することができる。
【0041】
まず、セルロース複合体を、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間、全量300g)を用いて純水中に分散させ、1.0質量%の純水分散体を調製する。その水分散体と、0.2MでpH3.5のMcllvaine緩衝液(0.2Mのリン酸水素二ナトリウムと、0.1Mのクエン酸の水溶液)とを混合して、セルロース複合体の濃度を0.5質量%(イオン濃度0.06mol/l、pH4.0)に調製した後、純水でセルロース複合体の濃度を0.1質量%に希釈する。得られた水分散体を3日間以上、室温で静置する。水分散体の微細構造を壊さないよう、スポイトを使用して、5μlをゆっくりと吸出し、1cm×1cmの壁開されたマイカ上に、ゆっくり滴下し、エアダスターで余分な水分を吹き飛ばし、マイカ上に定着したサンプルを、AFM(島津製作所製 走査型プローブ顕微鏡SPM−9700、位相モード、オリンパス社製プローブOMCL−AC240TSを使用)にて、観察する。この観察像において、セルロース粒子は高さ2nm以上の棒状粒子として観察され、そのセルロース粒子から周囲に放射状に伸びる高さ2nm未満の親水性ガムが観察できる。
【0042】
親水性ガムとして、分岐状の陰イオン性多糖類を用いると、この広がりがより大きくなり、隣接する粒子のそれと、(くもの巣状の)密な網目構造を形成するため好ましい。また、親水性ガムとして、サイリウムシードガムを用いると、この広がりが、さらに大きくなるり、網目構造が密になるため好ましい。
<セルロースと親水性ガムの配合比率>
本発明におけるセルロース複合体は、好ましくは、セルロースを50〜99質量%、及び親水性ガムを1〜50質量%含む。
【0043】
複合化によって、親水性ガムがセルロース粒子の表面を水素結合等の化学結合により被覆することで、酸性の水溶液に分散した際に、セルロース複合体がもつ分散安定性、懸濁安定性が向上する。
【0044】
また、セルロースと親水性ガムを上記の組成とすることで、複合化が促進され、酸性の水分散体における懸濁安定性、分散安定性が向上して、機能性食品素材等の水不溶性成分の沈降防止効果を達成することができる。
<水溶性ガム>
本発明におけるセルロース複合体は、さらに親水性ガム以外の水溶性ガムを含むことが好ましい。水溶性ガムとしては、水膨潤性が高く、セルロースと複合化しやすいガムが好ましい。
【0045】
例えば、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドシードガム、カラヤガム、キトサン、アラビアガム、寒天、カラギーナン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム(以下「ARG−Na」という。)、HMペクチン、LMペクチン(以下「LMP」という。)、アゾトバクター・ビネランジーガム、キサンタンガム、カードラン、プルラン、デキストラン、ジェランガム(以下「GLG」という。)、ゼラチン、カルボキシメチルセルロースナトリウム(以下「CMC−Na」という。)、カルボキシメチルセルロースカルシウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体が挙げられる。これらの水溶性ガムは2種以上を組み合わせてもよい。
【0046】
上述の水溶性ガムの中でも、CMC−Na、LMP、ARG−Na、GLGから選ばれる1種以上が好ましい。これらのガムは、セルロース及び親水性ガムと複合化しやすいため好ましい。
【0047】
「CMC−Na」とは、セルロースの水酸基がモノクロロ酢酸で置換されたもので、D−グルコースがβ−1,4結合した直鎖状の化学構造を持つものである。CMC−Naは、パルプ(セルロース)を水酸化ナトリウム溶液で溶かし、モノクロロ酸(或いはそのナトリウム塩)でエーテル化して得られる。
【0048】
特に、置換度と粘度が特定範囲に調製されたCMC−Naを用いることが、複合化の観点から好ましい。置換度とは、セルロース中の水酸基にカルボキシメチル基がエーテル結合した度合いのことであり、0.6〜2.0が好ましい。置換度が前記の範囲であれば、CMC−Naの分散性が十分であること、及び製造が容易であることから好ましい。より好ましくは、置換度は0.6〜1.3である。またCMC−Naの粘度は、1質量%の純水溶液において、500mPa・s以下が好ましく、200mPa・s以下がより好ましく、50mPa・s以下がさらに好ましい。特に好ましくは、20mPa・s以下である。CMC−Naの粘度が低いほど、セルロース、親水性ガムとの複合化が促進されやすく、下限は特に設定されるものではないが、好ましい範囲としては1mPa・s以上である。
【0049】
「LMP」とは、ガラクツロン酸を主体とする酸性多糖類(ガム類)と数種の中性糖が存在する構造をもつものをいう。この化学構造を有するものは、原料・製造方法に関係なく本発明におけるLMPに該当する。ペクチンは、植物組織中でセルロースなどと結合し、水に不溶な成分として存在するため、高温酸性下で、他の可溶性成分とともにプロトペクチンと分離して得られる。LMPは、上述のガラクツロン酸において、メチルエステルの形と酸の2つの形で存在しているが、エステル化度(エステルの形で存在するガラクツロン酸の割合)が50%未満のものが、セルロース、親水性ガムとの複合化の観点から好ましい。
【0050】
「ARG−Na」とは、α−L−グルクロン酸、β−D−マンヌロン酸が、ピラノース型で1,4−グリコシド結合した構造をもつものであり、この化学構造を有するものは、原料・製造方法に関わらず、本発明におけるARG−Naに該当する。ARG−Naは、主にワカメ、コンブ、ヒジキに代表される褐藻に含まれる多糖類の一種である。
【0051】
工業的には、アルギン酸は、アルギン酸含有量が多い、レッソニア属、マクロシスティス属、カジメ属、ダービリア属、アスコフィラム属等の原藻から得られる。前記原藻を、粉砕したものを酸処理して抽出し、これをろ過して得た沈殿物を酸処理することによりアルギン酸を得る。このアルギン酸を炭酸ナトリウム等でナトリウム化させ、乾燥、粉砕させることにより、粉体状のアルギン酸ナトリウムが得られる。
【0052】
ARG−Na水溶液は、中性で、滑らかな粘性を示す。ARG−Naの粘度は、1質量%の純水溶液において300mPa・s以下が好ましい。より好ましくは、粘度は100mPa・s以下である。さらに好ましくは、粘度は30mPa・s以下である。この粘度が低いほど、セルロース、親水性ガムとの複合化が促進されやすいため好ましい。
【0053】
「GLG」とは、Sphingomon elodeaという微生物が菌体外に産出する微生物多糖類を脱アセチル化したものである。GLGは、直鎖状のヘテロ多糖類であり、グルコース、グルクロン酸、グルコースとL−ラムノースの4つの糖の繰り返し単位で構成されており、グルクロン酸由来のカルボキシル基を有している。GLGには、脱アシル型とネイティブ型の2種があり、その違いは、1−3結合したグルコースに存在するアセチル基とグリセリル基の有無である。脱アシル型とは、前記アセチル基とグリセリル基を除去したものである。ネイティブ型とは、グルコース残基にグリセリル基1残基と、アセチル基が平均1/2残基結合したものである。本発明においては、脱アシル型とネイティブ型のいずれも用いることが可能であるが、脱アシル型のほうが、上述の構造を持つ故、セルロース、親水性ガムとの複合化が促進されやすく好ましい。
【0054】
上述のなかでも、CMC−Na、LMPを用いることがより好ましい。複合化の観点で、最も好ましいのは、CMC−Naである。
<親水性ガムと水溶性ガムの質量比>
親水性ガムと上記の水溶性ガムとの質量比は、30/70〜99/1であることが好ましい。本発明におけるセルロース複合体において、親水性ガムと上記の水溶性ガムが前記の範囲にあることで、弱アルカリ性(pH8)から酸性(pH3)までの広いpH領域の本発明におけるセルロース複合体を含む水分散体において、本発明におけるセルロース複合体は分散安定性、懸濁安定性を示す。また、本発明におけるセルロース複合体に水溶性ガムを添加することで、特に、該水分散体の酸性領域(pH5以下)での本発明におけるセルロース複合体の懸濁安定性がより優れるものである。これら親水性ガムと水溶性ガムとの配合量比として、より好ましくは、40/60〜90/10であり、さらに好ましくは40/60〜80/20である。
<セルロース複合体の体積平均粒子径>
セルロース複合体の体積平均粒子径は、20μm以下であることが好ましい。ここで、該体積平均粒子径は、セルロース複合体を、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、レーザー回折法(堀場製作所(株)製、商品名「LA−910」、超音波処理1分、屈折率1.20)により得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径のことである。
【0055】
また、セルロース複合体は、体積平均粒子径が0.01〜200μmのセルロース複合体微粒子からなることが好ましい。乾燥粉末として製造されたものは、これらの微粒子が凝集し、見かけの重量平均粒子径が10〜250μmの二次凝集体を形成している。この二次凝集体は、水中で攪拌すると崩壊し、上述のセルロース複合体微粒子に分散する。この見かけの重量平均粒子径は、ロータップ式篩振盪機(平工作所製シーブシェーカーA型)、JIS標準篩(Z8801−1987)を用いて、試料10gを10分間篩分することにより得られた粒度分布における累積重量50%粒径のことである。尚、この乾燥後のセルロース複合体の二次凝集体の重量平均粒子径と、レーザー回折法による分散液中のセルロース複合体の体積平均粒子径は測定原理が全く異なるため、それぞれで得られた値は必ずしも相関するものではない。
【0056】
セルロース複合体の体積平均粒子径が20μm以下であると、セルロース複合体の分散安定性、懸濁安定性がより容易に向上する。また、セルロース複合体を含有する食品を食した際に、ザラツキのない、なめらかな舌触りのものを提供することができる。より好ましくは、体積平均粒子径は15μm以下であり、特に好ましくは10μm以下、さらに好ましくは8μm以下である。体積平均粒子径が小さいほど、セルロース複合体の分散安定性、懸濁安定性がより容易に向上するため、下限は特に制限されないが、好ましい範囲としては0.1μm以上である。
<セルロース複合体のコロイド状成分量>
さらに、セルロース複合体は、コロイド状セルロース成分を30質量%以上含有することが好ましい。ここでいうコロイド状セルロース成分の含有量とは、セルロース複合体を、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、遠心分離(久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」ロータータイプRA−400型、処理条件:遠心力2,000rpm(5600G※Gは重力加速度)×15分間)し、遠心後の上澄みに残存する固形分(セルロースと、親水性ガム、水溶性ガムを含む)の質量百分率のことである。コロイド状セルロース成分の大きさは10μm以下であり、より好ましくは5.0μm以下であり、特に好ましくは1.0μm以下である。ここでいう大きさは、セルロース複合体を、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、レーザー回折法(堀場製作所(株)製、商品名「LA−910」、超音波処理1分、屈折率1.20)により得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径(体積平均粒子径)のことである。コロイド状セルロース成分の含有量が30質量%以上であると、分散安定性、懸濁安定性がより容易に向上する。より好ましくは、40質量%以上であり、特に好ましくは、50質量%以上である。コロイド状セルロース成分含有量は、多ければ多いほど、分散安定性が高いため、その上限は特に制限されないが、好ましい範囲としては、100質量%以下である。
<親水性物質>
本発明におけるセルロース複合体に、水への分散性を高める目的で、親水性ガム及び水溶性ガム以外に、さらに親水性物質を加えてもよい。親水性物質とは、冷水への溶解性が高く粘性を殆どもたらさない有機物質であり、澱粉加水分解物、デキストリン類、難消化性デキストリン、ポリデキストロース等の親水性多糖類、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、乳糖、マルトース、ショ糖、α−、β−、γ−シクロデキストリン等のオリゴ糖類、ブドウ糖、果糖、ソルボース等の単糖類、マルチトール、ソルビット、エリスリトール等の糖アルコール類等が適している。これらの親水性物質は、2種類以上組み合わせてもよい。上述の中でも、澱粉加水分解物、デキストリン類、難消化性デキストリン、ポリデキストロース等の親水性多糖類が分散性の点で好ましい。
【0057】
その他の成分の配合については、組成物の水中での分散及び安定性を阻害しない程度に配合することは自由である。
<セルロース複合体の製造方法>
次に、本発明におけるセルロース複合体の製造方法を説明する。
【0058】
本発明の特定の貯蔵弾性率を満たすセルロース複合体は、混練工程においてセルロースと親水性ガムに機械的せん断力をあたえ、セルロースを微細化させるとともに、セルロース表面に親水性ガムを複合化させることによって得られる。また、親水性ガム以外の水溶性ガムや、その他の添加剤などを添加しても良い。上述の処理を経たものは、必要に応じ、乾燥される。本発明におけるセルロース複合体には、上述の機械的せん断を経て、未乾燥のもの及びその後乾燥されたもの等、いずれの形態でもよい。
【0059】
機械的せん断力を与えるには、混練機等を用いて混練する方法を適用することができる。混練機は、ニーダー、エクストルーダー、プラネタリーミキサー、ライカイ機等を用いることができ、連続式でもバッチ式でもよい。混練時の温度は成り行きでもよいが、混練の際の複合化反応、摩擦等により発熱する場合にはこれを除熱しながら混練してもよい。これらの機種を単独で使用することも可能であるが、二種以上の機種を組み合わせて用いることも可能である。これらの機種は、種々の用途における粘性要求等により適宜選択すればよい。
【0060】
また、混練温度は、低いほど、親水性ガムの劣化が抑制され、結果として得られるセルロース複合体の貯蔵弾性率(G’)が高くなるため好ましい。混練温度は、0〜100℃が好ましく、10〜90℃がより好ましく、20〜70℃が特に好ましく、20〜60℃がさらに好ましく、20〜50℃が最も好ましい。高エネルギー下で、上記の混練温度を維持するには、ジャケット冷却、放熱等の徐熱を工夫することも自由である。
【0061】
混練時の固形分は、20質量%以上とすることが好ましい。混練物の粘性が高い半固形状態で混練することで、混練物がシャバシャバな状態にならず、下記に述べる混練エネルギーが混練物に伝わりやすくなり、複合化が促進されるため好ましい。混練時の固形分は、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは40質量%以上である。上限は特に限定されないが、混練物が水分量の少ないパサパサな状態にならず、充分な混練効果と均一な混練状態が得られることを考慮して、現実的範囲は90質量%以下が好ましい。より好ましくは70質量%以下であり、さらに好ましくは60質量%以下である。また、固形分を上記範囲とするために、加水するタイミングとしては、混練工程の前に必要量を加水してもよいし、混練工程の途中で加水してもよいし、両方実施しても良い。
【0062】
ここで、混練エネルギーについて説明する。混練エネルギーとは混練物の単位質量当たりの電力量(Wh/kg)で定義するものである。混練エネルギーは、50Wh/kg以上とすることが好ましい。混練エネルギーが50Wh/kg以上であれば、混練物に与える磨砕性が高く、セルロースと親水性ガム、及びその他水溶性ガム等との複合化が促進され、酸性のセルロース複合体の分散安定性、懸濁安定性は向上する。より好ましくは80Wh/kg以上であり、さらに好ましくは100Wh/kg以上である。
【0063】
混練エネルギーは、高い方が、複合化が促進されると考えられるが、混練エネルギーをあまり高くすると、工業的に過大な設備となること、設備に過大な負荷がかかることから、混練エネルギーの上限は1000Wh/kgとするのが好ましい。
【0064】
複合化の程度は、セルロースとその他の成分の水素結合の割合と考えられる。複合化が進むと、水素結合の割合が高くなり本発明の効果が向上する。また、複合化が進むことで、セルロース複合体の貯蔵弾性率(G’)が高くなる。
【0065】
本発明におけるセルロース複合体を得るにあたって、前述の混練工程より得られた混練物を乾燥する場合は、棚段式乾燥、噴霧乾燥、ベルト乾燥、流動床乾燥、凍結乾燥、マイクロウェーブ乾燥等の公知の乾燥方法を用いることができる。混練物を乾燥工程に供する場合には、混練物に水を添加せず、混練工程の固形分濃度を維持して、乾燥工程に供することが好ましい。乾燥後のセルロース複合体の含水率は1〜20質量%が好ましい。含水率を20%以下とすることで、べたつき、腐敗等の問題や運搬・輸送におけるコストの問題が生じにくくなる。より好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下である。また、1%以上とすることで、過剰乾燥のため分散性が悪化することもない。より好ましくは1.5%以上である。
【0066】
セルロース複合体を市場に流通させる場合、その形状は、粉体の方が取り扱い易いので、乾燥により得られたセルロース複合体を粉砕処理して粉体状にすることが好ましい。但し、乾燥方法として噴霧乾燥を用いた場合は、乾燥と粉末化が同時にできるため、粉砕は必要ない。乾燥したセルロース複合体を粉砕する場合、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等の公知の方法を用いることができる。粉砕する程度は、粉砕処理したものが目開き1mmの篩いを全通する程度に粉砕する。より好ましくは、目開き425μmの篩いを全通し、かつ、平均粒度(重量平均粒子径)としては10〜250μmとなるように粉砕することが好ましい。
【0067】
乾燥したセルロース複合体を水中で攪拌した際、容易に分散し、セルロースが均一に分散した、なめらかな組織を持つザラツキの無い安定なコロイド分散体が形成される。特に、酸性において、セルロースが凝集や分離を起こさず、安定なコロイド分散体を形成するため、安定剤等として優れた機能を奏する。
<アルコール性懸濁飲料>
本発明の、セルロース複合体を含有するアルコール性懸濁飲料は、エタノール濃度として0.5〜30質量%を含むものが好ましい。さらに、pHが3〜6である酸性のアルコール性懸濁飲料であることが好ましい。例えば、ウォッカ、ジン、ラム、リキュール、テキーラ、ウィスキー、ブランデー、焼酎、ワイン、ビール、日本酒、飲用エタノールを配合した各種カクテル類、果汁を醸造して得られる果実酒、酒粕を残した濁り酒等が本発明のアルコール性懸濁飲料に含まれる。
【0068】
特に、上記の蒸留酒、醸造酒をベースに、果実又は野菜成分である果肉、繊維分を懸濁させ、さらに、酸味、炭酸水等を加えた酸性のチューハイ等のアルコール性懸濁飲料、また、発酵成分である乳酸菌、酵母等の微生物を懸濁させたマッコリ、ドブロク等のアルコール性懸濁飲料等は、本発明におけるセルロース複合体の懸濁機能が発揮されるため好ましい。
【0069】
エタノール濃度は、懸濁成分の種類にもよるが、懸濁安定性と密接に関連するものであり、適切な範囲で、高い安定性を達成できる。より好ましいエタノール濃度としては、2〜15質量%であり、さらに好ましくは、6〜12質量%である。
【0070】
pHについても、懸濁成分の種類にもよるが、懸濁安定性と密接に関連するものであり、適切な範囲で、高い安定性を達成できる。より好ましいpHとしては、4〜5である。
ここでいう、エタノール濃度と、pHの定義は、種々の加工を施された上述の形態の飲食品を、流通段階において、1日以上保存する際、又は飲食に供する際のエタノール濃度、pHのことを指す。エタノール濃度、pHの測定方法としては、上述の飲食品中の固形分を、遠心分離及び/又はろ過で除去した後、炭酸ガスを含む際は、ガス成分を揮発させた後、アルコール度数計(ワインアクセサリークリエイション製)、pH計(HORIBA製 pHメータD−50)を用いて、それぞれ測定できる。
<セルロース複合体の添加量>
セルロース複合体の添加量としては、特に制限はないが、例えば、アルコール性懸濁飲料に対して、0.01質量%以上が好ましい。セルロース複合体の添加量を0.01質量%以上とすることで、分散、懸濁安定性が増し、乳化安定、離水防止の効果が優れる。より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、特に好ましくは、0.3質量%以上であり、最も好ましくは0.5質量%以上である。セルロース複合体の添加量を5質量%以下とすることで、凝集や分離を引き起こすこともなく、また、飲料の飲みやすさ(のど越し、舌のざらつき)の点からも5質量%以下が好ましい。
<不溶性成分>
本発明のアルコール性懸濁飲料は、特に、水不溶性成分を含むことが好ましい。水不溶性成分とは、水に溶けない成分のことで、本発明においては、10mmの目開きの篩を通過するものをいう。より好適には、5mmの篩いを通過するものであり、さらに好適には2mmの篩いを通過するものである。水不溶性成分は、アルコール性懸濁飲料のエタノール濃度が高く、酸性になると不安定となるが、本発明におけるセルロース複合体を添加することで、優れた懸濁安定性が得られる。
【0071】
水不溶性成分としては、果実、野菜由来の果肉、果実くず、野菜果汁のパルプ分等、乳酸菌、酵母等の微生物、ミルクカルシウム、炭酸カルシウム、ベータグルカン、プロテイン(大豆タンパク、ミルクプロテイン、コラーゲン)、ウコン、レイシ等の水より比重が大きい機能性食品素材等、コエンザイムQ10等のユビデカレノン化合物、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、又はそのエステル等のオメガ3化合物、セラミド化合物等の水より比重が軽い機能性食品素材等が挙げられる。
【0072】
上記した不溶性成分は、飲料の一日摂取量と、素材の効果効能にもよるが、飲料に対して、0.01質量%以上添加することが、好ましい。より好ましくは、0.05質量%以上であり、さらに好ましくは0.1質量%以上である。
<野菜汁及び/又は果汁入りチューハイ>
野菜汁及び/又は果汁入りチューハイは、セルロース複合体以外の成分として、野菜汁及び/又は果汁を10質量%以上、100質量%以下含有する。本発明において、「野菜汁、果汁を10質量%以上含有する」とは、飲料全体に対する野菜汁の割合がストレート換算で10質量%以上であることを意味する。
【0073】
野菜汁とは、野菜の搾汁液、野菜ピューレ、野菜の破砕物を乾燥させた粉末、又はこれらの混合物をいう。原料となる野菜には、一般的に青臭く、飲みにくいとされる野菜が用いられる。例えば、果菜類としてはトマト、ピーマン、カボチャ等、葉菜類としてはキャベツ、ホウレン草、レタス、パセリ、クレソン、ケール、小松菜等、根菜類としてはニンジン、大根、牛蒡等、茎菜類としてはアスパラガス、セロリ等、花菜類としてはブロッコリー、カリフラワー等が挙げられる。緑色野菜類としては、大麦若葉、ケール、明日葉、アルファルファ、モロヘイヤ、はと麦若葉、小麦若葉、ブロッコリー、ブロッコリスプラウト、キャベツ、小松菜、大根葉、大根、ミズナ、カラシナ、クレソン、クレススプラウト、わさび葉、ホウレンソウ等が挙げられる。野菜は2種以上を組み合わせて用いてもよい。野菜汁の製造方法及び製造条件は、特に制限されるわけではなく、公知の方法で行えばよい。搾汁液の製造方法としては、野菜をブランチング処理した後、破砕し、搾汁する方法や、低温搾汁する方法などを挙げることができる。また、ピューレの製造方法としては、野菜をブランチング処理した後、パルパーやフィニッシャーで裏ごししたり、石臼ですり潰す。また、ミキサーにかけて細かく破砕して製造する方法が挙げられる。
【0074】
果汁とは、果実から搾汁された液体のことである。果実としては、柑橘類果実、リンゴ、ブドウ、モモ、パイナップル、グアバ、バナナ、マンゴー、カシス、ブルーベリー、アセロラ、プルーン、パパイヤ、パッションフルーツ、ウメ、ナシ、アンズ、ライチ、メロン、西洋ナシ、スモモ類等が挙げられる。果実は単独でも2種以上混合して用いてもよい。
【0075】
柑橘類果実は、ミカン科ミカン亜科に属する植物の果実をいう。具体的には、温州みかん、紀州みかん、ポンカン、アンコール、マンダリン、ダンゼリン、コウジ、シィクワシャー、タチバナ、不知火などのみかん類、ナツダイダイ、ハッサク、ヒュウガナツ、サンボウカン、河内晩柑、キヌカワ、ナルトなどの雑柑類、バレンシアオレンジ、ネーブルオレンジ、ブラッドオレンジ等のオレンジ類、タンカン、イヨ、マーコット、清見、オーランド、ミネオラ、セミノール等のタンゴール・タンゼロ、メキシカンライム、タヒチライム等のライム、リスボンレモン、ユーレカレモン、ディアマンテ、エトローグ等のレモン・シトロン、バンペイユ、土佐ブンタン等のブンタン、ダンカン、マーシュ、トムソン、ルビーレッド等のグレープフルーツ、ユズ、カボス、スダチ、ハナユ、キズ、等のユズ類、キンカン、カラタチを例示できる。
【0076】
上記した中でも、レモン、オレンジ、ライム、カシス等の柑橘類、リンゴ、青リンゴ等のリンゴ類、アセロラ類、梅類、ブドウ類、モモ、メロン、スイカ等の果汁は、野菜飲料に混合して飲用する際の酸味や苦味等の風味バランスを保つことが重要であり、これらは、本発明のアルコール性の懸濁飲料には好適である。
【0077】
果汁を製造する方法及び条件は、特に制限されるわけではなく、公知の方法に従って行えばよく、果汁の濃縮率や濃縮方法等についても何ら制限されない。
<酸性乳入りアルコール性懸濁飲料>
酸性乳入りアルコール性懸濁飲料とは、酸性乳を1質量%以上含有するアルコール性懸濁飲料のことであり、カルピスハイと呼ばれることもある。ここでいう、酸性乳とは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)で定義される、乳又は乳製品を量の多少にかかわらず使用したものを言う。ここで乳及び乳製品には、牛乳、加工乳等の液状乳、クリーム、脱脂粉乳、全粉乳、はっ酵乳等が含まれる。また本発明の酸性乳入りアルコール性懸濁飲料には発酵乳飲料及び非発酵乳飲料が含まれる。本発明の酸性乳飲料のpHは3〜5が好ましく、3.3〜4.5がより好ましく、3.6〜4.4が特に好ましい。pHがこの範囲内であると、飲料の嗜好性の点で好ましい。pHを調製するために、有機並びに無機可食酸を使用しても良い。有機並びに無機可食酸としては、一般に食品で使用されるものであればよいが、例えば、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、酢酸、フマル酸、リン酸、アジピン酸、グルコン酸、コハク酸、リン酸水素カリウム又はナトリウム、リン酸二水素カリウム又はナトリウムや果汁等を使用することができる。特に酸味の質の点で乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、酢酸が好ましい。
<乳酸菌、酵母入りアルコール性懸濁飲料>
乳酸菌、酵母入りアルコール性懸濁飲料とは、生菌又は死菌状態の乳酸菌、酵母を、0.01質量%以上含有する飲料のことであり、マッコリ、ドブロクと呼ばれることもある。本アルコール飲料は、微生物を含んだ状態の、発酵した原酒をそのままでもよく、通常の手段を用いて濃縮したもの、さらに濃縮物を水等で還元したものでもよい。また、微生物を含まない蒸留酒、醸造酒をベースに調製したアルコール飲料に、微生物を添加したものでもよい。乳酸菌、酵母の配合量は、多いほど、本発明の効果が大きくなるため、より好ましくは、0.05質量%であり、さらに好ましくは0.1質量%以上である。
<セルロース複合体の添加方法>
酸性の飲食品に、本発明におけるセルロース複合体を添加する方法としては次の方法が挙げられる。主原料或いは着色料、香料、酸味料、増粘剤等の成分と同時に、本発明におけるセルロース複合体を水に分散させることにより添加できる。
【0078】
また、セルロース複合体の乾燥粉末を酸性の水系媒体に分散する場合には、セルロース複合体を一旦、水に分散した後、目的とする食品形態に添加する方が、セルロース複合体の分散安定性が向上するため好ましい。セルロース複合体が乾燥粉末の場合、水への分散方法としては、食品等の製造工程で通常使用される各種の分散機・乳化機・磨砕機等の混練機を使用して分散することができる。混練機の具体例としては、プロペラ攪拌機、高速ミキサー、ホモミキサー、カッター等の各種ミキサー、ボールミル、コロイドミル、ビーズミル、ライカイ機等のミル類、高圧ホモジナイザー、ナノマイザー等の高圧ホモジナイザーに代表される分散機・乳化機、プラネタリーミキサー、ニーダー、エクルトルーダー、タービュライザー等に代表される混練機等が使用できる。2種以上の混練機を組み合わせて使用してもかまわない。また、加温しながら行ったほうが分散は容易である。
【0079】
例えば、アルコール性懸濁飲料に、セルロース複合体を混合した後ホモミキサーで分散する方法、或いはセルロース複合体をホモミキサーで、予め水中に分散させた後、アルコール飲料と混合する方法が挙げられる。野菜果汁や、乳成分、乳酸菌等の微生物等の不溶性成分と、セルロース複合体を、アルコールを添加する前に、予め、水中で混合しておくことによって、不溶性成分の沈降抑制に優れたものできる。
【0080】
本発明のアルコール性懸濁飲料は、水不溶性成分として、20μm以上の粒子を0.01質量%以上含有する際は、その製造工程において、高圧ホモジナイザー(例えばAPV製 マントンゴーリンホモジナイザー)で10MPa以上の圧力をかけ、均質化しておくことが、長期保存安定性の点から好ましい。
【実施例】
【0081】
本発明を下記の実施例により説明する。ただし、これらは本発明の範囲を制限するものではない。
<セルロース複合体の貯蔵弾性率の測定法>
(1) セルロース複合体を、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)を用いて純水中に分散させ、1.8質量%濃度の純水分散体を調製した。
(2) その水分散体と、0.2MでpH4のMcllvaine緩衝液(0.2Mのリン酸水素二ナトリウムと、0.1Mのクエン酸の水溶液)とを混合して、セルロース複合体の濃度を1質量%(全量300g、イオン濃度0.06mol/L,pH4)に調製した後、得られた水分散体を3日間室温で静置した。
(3) この水分散体の応力のひずみ依存性を、粘弾性測定装置(Rheometric Scientific,Inc.製、ARES100FRTN1型)、ジオメトリー:Double Wall Couette型、ひずみを1→794%の範囲で掃引)により測定した。本発明において、貯蔵弾性率(G’)は、上述の測定で得られた歪み−応力曲線上の、歪み20%の値を用いている。
<セルロース複合体の体積平均粒子径>
(1) セルロース複合体を、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させた。
(2) 得られた水分散体を、レーザー回折法(堀場製作所(株)製、商品名「LA−910」、超音波処理1分、屈折率1.20)で粒度分布を測定した。ここで得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径を体積平均粒子径とした。
<セルロース複合体のコロイド状セルロース成分含有率>
(1) セルロース複合体を、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させた。
(2) 次に、遠心分離した。(久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」ロータータイプRA−400型、処理条件:遠心力2,000rpm(5600G※Gは重力加速度)×15分間、遠沈管には全量50gを仕込んだ。)
(3) 遠心後の上澄みは、ガラス製秤量ビンに導入し、60℃で15時間、その後、105℃で2時間乾燥し、デシケータ内で恒量した後、重量を測定した。また、別途、未遠心の水分散体も同様に乾燥し、重量を測定した。それらの結果から、上澄みに残存するセルロース固形分の質量百分率を以下の式から求めた。
計算式:(上澄み50gの固形分)/(未遠心50g中の固形分)×100
<分散安定性:分散セルロース複合体水分散体の外観観察>
上記の貯蔵弾性率の測定法(2)で得られた水分散体について、以下の4項目に関し、基準を定め、目視により判定した。
(分離)沈降管上部の色が薄い層の体積で評価した。
◎(優):分離なし、○(良):分離10%未満、△(可):分離30%未満、×(不可):分離30%以上
(沈降)沈降管底面の堆積物の量で評価した。
◎(優):沈降なし、○(良):部分的に薄く沈降、△(可):一面に薄く沈降、×(不可):全体的に濃く沈降
(凝集)沈降管全体において、不均一な部分の量で評価した。
◎(優):均一、○(良):僅かに一部不均一、△(可):一部不均一、×(不可):全体的に不均一
<セルロース複合体水分散体の粘度>
上記の貯蔵弾性率の測定法(2)で得られたに水分散体ついて、分散3時間後(25℃保存)に、B形粘度計(ローター回転数60rpm。セットして30秒静置後に、30秒間回転させて測定した。但し、ローターは、粘度によって適宜変更できる。使用したロータは以下の通りである。すなわち、1〜20mPa・s:BL型、21〜100mPa・s:No1、101〜300mPa・s:No2、301mPa・s:No3)で測定した。測定結果は、以下の基準で分類した。
(粘度)◎(優):1〜50、○(良):51〜75、△(可):76〜100、×(不可):101〜[mPa・s]
<セルロースの粒子形状1:セルロース複合体A〜Mが該当>
セルロース複合体を、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させた水分散体を、0.1質量%に純水で希釈し、スポイトを使用し、マイカ上に1滴キャストした。エアダスターにて、余剰の水分を吹き飛ばし、風乾し、サンプルを調製した。原子間力顕微鏡(装置Digital Instruments社製 Nano ScopeIV MM、スキャナーEV、測定モードTapping、プローブNCH型シリコン単結晶プローブ)で計測された画像を基に、長径(L)が2μm以下の粒子の形状から、長径(L)と短径(D)のを求め、その比(L/D)がセルロース粒子の形状であり、100〜150個の粒子の平均値として算出した。
<セルロースの粒子形状2:セルロース複合体N、Oが該当>
セルロース複合体を、0.25質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させた水分散体を、0.01〜0.05質量%に純水で希釈し、スポイトを使用し、マイカ上に1滴キャストした。エアダスターにて、余剰の水分を吹き飛ばし、風乾し、サンプルを調製し、白金パラジウムを厚み3nmで蒸着した。走査型電子顕微鏡(装置 日本電子製 JSM−5510LV型)で計測された画像を基に、長径(L)と短径(D)を求めその比(L/D)がセルロースの粒子形状であり、100〜150個の粒子の平均値として算出した。
<セルロース複合体の構造:セルロースからの親水性ガムの広がりの観察>
(1)セルロース複合体を、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間、全量300g)を用いて純水中に分散させ、1.0質量%の純水分散体を調製した。
(2)上記水分散体と、0.2MでpH3.5のMcllvaine緩衝液(0.2Mのリン酸水素二ナトリウムと、0.1Mのクエン酸の水溶液)とを混合して、セルロース複合体の濃度を0.5質量%(イオン濃度0.06mol/l、pH4.0)に調製した後、純水でセルロース複合体の濃度を0.1質量%に希釈した。
(3)(1)及び(2)で得られた水分散体を、3日間以上、室温で静置した。水分散体の微細構造を壊さないよう、スポイトを使用して、5μlをゆっくりと吸出し、1cm×1cmの壁開されたマイカ上に、ゆっくり滴下し、エアダスターで余分な水分を吹き飛ばし、マイカ上に定着したサンプルを、AFM(島津製作所製 走査型プローブ顕微鏡SPM−9700、位相モード、オリンパス社製プローブOMCL−AC240TSを使用)にて、観察した。
<懸濁安定性:アルコール性懸濁飲料の外観観察>
各種飲料(製造法は、以下の実施例、比較例を参照)において、以下の項目に関し、基準を定め、目視により判定した。
(分離)沈降管上部の色が薄い層の体積で評価した。
◎(優):分離なし、○(良):分離10%未満、△(可):分離30%未満、×(不可):分離30%以上
(沈降)沈降管底面の堆積物の量で評価した。
◎(優):沈降なし、○(良):部分的に薄く沈降、△(可):一面に薄く沈降、×(不可):全体的に濃く沈降
(凝集)沈降管全体において、不均一な部分の量で評価した。
(優):均一、○(良):僅かに一部不均一、△(可):一部不均一、×(不可):全体的に不均一
(再分散性)沈降管を上下にゆっくり回転させて(目安として、約5〜6秒かけて1回転させ、元にもどす。これを再分散回数の1回と定義する。)、底に沈降した水不溶性成分がなくなるまで沈降管を回転させ、その回数をカウントする。再分散回数が小さいほど、分散性・懸濁安定性が高いことを意味する。
<飲料の粘度 ※飲料以外の食品では、この評価基準は該当しない。>
各種飲料(製造法は、以下の実施例、比較例を参照)を、製造1時間後(25℃保存)に、B形粘度計(ローター回転数60rpm。セットして30秒静置後に、30秒間回転させて測定。但し、ローターは、粘度によって適宜変更できる。使用するロータは以下の通り。1〜20mPa・s:BL型、21〜100mPa・s:No1、101〜300mPa・s:No2、301mPa・s:No3)で測定した。測定結果は、以下の基準で分類した。
(粘度)◎(優):1〜10、○(良):10〜20、△(可):20〜50、×(不可):50〜 (mPa・s)
以下では、セルロースをMCC、サイリウムシードガムをPSG、カルボキシメチルセルロースナトリウムをCMC−Na、ジェランガムをGLG、アルギン酸ナトリウムをARG−Na、LMペクチンをLMPと略して記載する。
(実施例1)
市販DPパルプを裁断後、2.5mol/L塩酸中で105℃、15分間加水分解した後、水洗・濾過を行い、固形分が50質量%のウェットケーキ状の結晶セルロース(MCC)を作製した(平均重合度は220であった)。
【0082】
次に、ウエットケーキ状のMCC、PSG((株)MRCポリサッカライド製、PG020、1質量%溶解液の粘度40mPa・s)、CMC−Na(第一工業製薬(株)、F−7A、1%溶解液の粘度11mPa・s)を用意し、プラネタリーミキサー((株)品川工業所製、5DM−03−R、撹拌羽根はフック型)にMCC/PSG/CMC−Naの質量比が90/5/5となるように投入し、固形分45質量%となるように加水した。
【0083】
その後、126rpmで混練し、セルロース複合体を得た。混練エネルギーは、プラネタリーミキサーの混練時間により制御され、実測値は、0.6kWh/kgであった。混練温度は、熱伝対を用いて、混練物の温度が直接測定され、混練を通して20〜60℃、到達温度は50〜60℃であった。これを、3〜5mm径の粒状にして、ウェット状態で、100gを、通風乾燥機(タバイエスペック製パーフェクトオーブン)にて100℃で、1時間乾燥した。その乾燥物を、超遠心粉砕機(RETSCHE社製 ZN100型)により、ローター回転数18000rpmにて、目開きφ1.0mmのスクリーンを用い粉砕した後、さらにφ0.25mmのスクリーンを用いて粉砕し、セルロース複合体Aを得た。
【0084】
得られたセルロース複合化物Aの貯蔵弾性率(G’)は0.48Paであった。また、セルロース複合体Aの体積平均粒子径は6.2μmであり、コロイド状セルロース成分は55質量%、粒子L/Dは1.6であった。セルロース複合体Aの分散安定性(分離、沈降、凝集、粘度)について評価し、結果を表−1に示す。
また、AFMの観察像において、セルロース粒子は高さ2nm以上の棒状粒子として観察され、イオン交換水(中性)で調製した水分散体(図3)及びpH4に調製した水分散体(図4)のいずれにおいても、そのセルロース粒子から周囲に放射状に伸びる高さ2nm未満の親水性ガムが観察された。
(実施例2)
市販DPパルプを裁断後、実施例1と同様にしてウェットケーキ状のセルロースを作成し(平均重合度は220)、MCC/PSG/CMC−Naとの質量比が90/3/7、固形分40質量%の条件でセルロース水分散体を調製した。このセルロース水分散体を、実施例1と同様の装置で混練し、セルロース複合体を得た。混練エネルギーは、0.1kWh/kgであった。混練温度は、実施例1と同様に測定され、混練を通して20〜60℃、到達温度は50〜60℃であった。また、この混練物は、実施例1と同様に、乾燥、粉砕され、セルロース複合体Bを得た。
【0085】
貯蔵弾性率(G’)は0.2Pa、体積平均粒子径は6.8μm、コロイド状セルロース成分は45質量%、粒子L/Dは2.0であった。セルロース複合体Bを用いて実施例1と同様にして、分散安定性を評価した。
(実施例3)
市販DPパルプを裁断後、実施例1と同様にしてウェットケーキ状のセルロースを作成し(平均重合度は220)、MCC/PSG/GLG(CPケルコ製、ケルコゲル、Lot070628、1質量%溶解液の粘度1222mPa・s)との質量比が90/9/1となるよう秤量し、固形分が49.5質量%となるように加水した後、プラネタリーミキサーで混練して、セルロース複合体を得た。混練エネルギーは、0.5kWh/kgであった。混練温度は、実施例1と同様に測定され、混練を通して20〜60℃、到達温度は50〜60℃であった。また、この混練物は、実施例1と同様に、乾燥、粉砕され、セルロース複合体Cを得た。
【0086】
得られたセルロース複合化物Cの貯蔵弾性率(G’)は0.18Pa、体積平均粒子径は7.5μm、コロイド状セルロース成分は53質量%、粒子L/Dは1.6であった。セルロース複合体Cを用いて実施例1と同様にして、分散安定性を評価した。
(実施例4)
市販DPパルプを裁断後、実施例1と同様にしてウェットケーキ状のセルロースを作成し(平均重合度は220)、MCC/PSG/CMC−Naとの質量比が50/25/25となるよう秤量し、固形分49質量%となるように加水し、プラネタリーミキサーで混練して、セルロース複合体を得た。混練エネルギーは、0.6kWh/kgであった。混練温度は、実施例1と同様に測定され、混練を通して20〜60℃、到達温度は50〜60℃であった。また、この混練物は、実施例1と同様に、乾燥、粉砕され、セルロース複合体Dを得た。
【0087】
貯蔵弾性率(G’)は0.2Pa、体積平均粒子径は5.8μm、コロイド状セルロース成分は36質量%、粒子L/Dは1.6であった。セルロース複合体Dを用いて実施例1と同様にして、分散安定性を評価した。
(実施例5)
市販DPパルプを裁断後、実施例1と同様にしてウェットケーキ状のセルロースを作成し(平均重合度は220)、MCC/PSG/ARG−Na((株)キミカ製、キミカアルギン SKAT−UVL、1%溶解液の粘度4.1mPa・s)との質量比が95/2.5/2.5、となるよう秤量し、固形分45質量%となるように加水し、プラネタリーミキサーで混練して、セルロース複合体を得た。混練エネルギーは、0.6kWh/kgであった。混練温度は、実施例1と同様に測定され、混練を通して20〜60℃、到達温度は50〜60℃であった。また、この混練物は、実施例1と同様に、乾燥、粉砕され、セルロース複合体Eを得た。
【0088】
貯蔵弾性率(G’)は0.5Pa、体積平均粒子径は7.8μm、コロイド状セルロース成分は43質量%、粒子L/Dは1.6であった。セルロース複合体Eを用いて実施例1と同様にして、分散安定性を評価した。
(実施例6)
市販DPパルプを裁断後、実施例1と同様にしてウェットケーキ状のセルロースを作成し(平均重合度は220)、MCC/PSGとの質量比が90/10、となるよう秤量し、固形分45質量%となるように加水し、プラネタリーミキサーで混練して、セルロース複合体を得た。混練エネルギーは、0.5kWh/kgであった。混練温度は、実施例1と同様に測定され、混練を通して20〜60℃、到達温度は50〜60℃であった。また、この混練物は、実施例1と同様に、乾燥、粉砕され、セルロース複合体Fを得た。
【0089】
貯蔵弾性率(G’)は0.15Paで、体積平均粒子径は7.4μm、コロイド状セルロース成分は56質量%、粒子L/Dは1.6であった。セルロース複合体Fを用いて実施例1と同様にして、分散安定性を評価した。
(実施例7)
市販DPパルプを裁断後、実施例1と同様にしてウェットケーキ状のセルロースを作成し(平均重合度は220)、MCC/PSG/LMP(ユニテックフーズ(株)製、LNSN325)との質量比が90/5/5なるよう秤量し、固形分45質量%となるように加水し、プラネタリーミキサーで混練して、セルロース複合体を得た。混練エネルギーは、0.5kWh/kgであった。混練温度は、実施例1と同様に測定され、混練を通して20〜60℃、到達温度は50〜60℃であった。また、この混練物は、実施例1と同様に、乾燥、粉砕され、セルロース複合体Gを得た。
【0090】
貯蔵弾性率(G’)は0.17Paで、体積平均粒子径は7.2μm、コロイド状セルロース成分は54質量%、粒子L/Dは1.6であった。セルロース複合体Gを用いて実施例1と同様にして、分散安定性を評価した。
(実施例8)
市販DPパルプを裁断後、実施例1と同様にしてウェットケーキ状のセルロースを作成し(平均重合度は220)、親水性ガムとしてPSGの代わりにジェランガム(GLG)を使用し、セルロース複合体を調製した。調製方法は以下の通りである。MCC/GLG(CPケルコ社製 脱アシル型ジェランガム、商品名ケルコゲル)/CMC−Na(第一工業製薬(株)、F−7A、1%溶解液の粘度11mPa・s)との質量比が90/5/5なるよう秤量し、固形分50質量%となるように加水し、プラネタリーミキサーで混練して、セルロース複合体Nを得た。混練エネルギーは、0.6kWh/kgであった。混練温度は、実施例1と同様に測定され、混練を通して20〜60℃、到達温度は50〜60℃であった。また、この混練物は、実施例1と同様に、乾燥、粉砕され、セルロース複合体Hを得た。
【0091】
貯蔵弾性率(G’)は0.32Paで、体積平均粒子径は6.5μm、コロイド状セルロース成分は45質量%、粒子L/Dは1.6であった。セルロース複合体Hを用いて実施例1と同様にして、分散安定性を評価した。
(実施例9)
市販DPパルプを裁断後、実施例1と同様にしてウェットケーキ状のセルロースを作成し(平均重合度は220)、親水性ガムとしてPSGの代わりにキサンタンガムを使用し、セルロース複合体を調製した。試作方法は以下の通りである。MCC/キサンタンガム(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製 ビストップNSD−X)/CMC−Na(第一工業製薬(株)、F−7A、1%溶解液の粘度11mPa・s)との質量比が90/2/8なるよう秤量し、固形分48質量%となるように加水し、プラネタリーミキサーで混練して、セルロース複合体Oを得た。混練エネルギーは、0.6kWh/kgであった。混練温度は、実施例1と同様に測定され、混練を通して20〜60℃、到達温度は50〜60℃であった。また、この混練物は、実施例1と同様に、乾燥、粉砕され、セルロース複合体Iを得た。
【0092】
貯蔵弾性率(G’)は0.35Paで、体積平均粒子径は6.3μm、コロイド状セルロース成分は49質量%、粒子L/Dは1.6であった。セルロース複合体Iを用いて実施例1と同様にして、分散安定性を評価した。
(比較例1)
市販DPパルプを裁断後、実施例1と同様にしてウェットケーキ状のセルロースを作成し(平均重合度は220)、MCC/PSG/CMC−Naとの質量比が80/0/20となるよう秤量し、固形分45質量%となるように加水し、プラネタリーミキサーで混練して、セルロース複合体Jを得た。混練エネルギーは0.5kWh/kgであり、混練温度は、実施例1と同様に測定され、混練を通して20〜60℃、到達温度は50〜60℃であった。また、この混練物は、実施例1と同様に、乾燥、粉砕され、セルロース複合体Jを得た。
【0093】
貯蔵弾性率(G’)は0.02Pa、体積平均粒子径は8.8μm、コロイド状セルロース成分は35質量%、粒子L/Dは1.6であった。セルロース複合体Jを用いて実施例1と同様にして、分散安定性を評価した。
(比較例2)
市販DPパルプを裁断後、比較例1と同様にしてウェットケーキ状のセルロースを作成し(平均重合度は220)、MCC/PSG/CMC−Naとの質量比が90/5/5となるよう秤量し、固形分28質量%となるように加水し、プラネタリーミキサーで混練して、セルロース複合体Kを得た。混練エネルギーは0.04kWh/kgであり、混練温度は、実施例1と同様に測定され、混練を通して20〜60℃、到達温度は50〜60℃であった。また、この混練物は、実施例1と同様に、乾燥、粉砕され、セルロース複合体Kを得た。
【0094】
貯蔵弾性率(G’)は0.01Pa、体積平均粒子径は13.5μm、コロイド状セルロース成分は28質量%、粒子L/Dは2.4であった。セルロース複合体Kを用いて比較例1と同様にして、分散安定性を評価した。
(比較例3)
市販DPパルプを裁断後、10質量%塩酸中で105℃、20分間加水分解して得られた酸不溶性残渣をろ過、洗浄した後、固形分10質量%のセルロース水分散体を調製した(平均重合度は200であった)。この加水分解セルロースの平均粒径は17μmであった。このセルロース水分散体を媒体攪拌湿式粉砕装置(コトブキ技研工業株式会社製アペックスミル、AM−1型)で、媒体として直径1mmφのジルコニアビーズを用いて、攪拌翼回転数1800rpm、セルロース水分散体の供給量0.4L/minの条件にて2回通過で粉砕処理を行い、微細セルロースのペースト状物を得た。
【0095】
ペースト状微細セルロース/PSG/CMC−Na(置換度0.90、粘度7mPa・s)との質量比が80/0/20、となるよう秤量し、総固形分濃度が11質量%となるよう純水で調製し、TKホモミキサー(特殊機化工業(株)製、MARKII)を用いて8,000rpmで20分間分散してペースト状水分散体を調製した(アペックスミルと、TKホモジナイザーの消費電力と処理量から混練エネルギーを算出したところ、0.03kWh/kgであった。混練温度は、実施例1と同様に測定され、混練を通して20〜60℃、到達温度は50〜60℃であった)。
【0096】
この水分散体を、ドラムドライヤー(楠木機械製作所(株)製、KDD−1型)で、水蒸気圧力2Kg/cm2、回転数0.6rpmで乾燥し、スクレーパーで掻き取り出し、フラッシュミル(不二パウダル(株)製)で粗砕し、薄片状、鱗片状のセルロース複合体Lを得た。混練エネルギーは0.03kWh/kgであり、セルロース複合体Lの貯蔵弾性率(G’)は0.01Pa、体積平均粒子径は3.4μm、コロイド状セルロース成分は40質量%、粒子L/Dは2.4であった。セルロース複合体Lを用いて比較例1と同様にして、分散安定性を評価した。
(比較例4)
市販のDPパルプを裁断後、10質量%の塩酸中で105℃、20分間、加水分解して得られた酸不溶性残渣をろ過、洗浄して水分60質量%のウェットケーキ状のセルロース(平均重合度は200)を得た。固形分45質量%となるように加水し、これを実施例1と同様の条件で、プラネタリーミキサーにて2時間処理を行った。この摩砕処理物に、水を加え、固形分を7質量%として、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させた。その後に、2500Gの遠心力で、10分間遠心分離し、上層部として、固形分4質量%のMCC水分散体を得た。
【0097】
次に、MCC水分散体に、PSGとCMC−Naを、実施例1の組成になるように仕込み、プロペラ式攪拌機を用いて、均一混合し、水分散体を調製した(この際の固形分は4〜5質量%)。この水分散体を、ドラムドライヤー((株)楠木機械製作所製KDD−1型)で、ドラム表面をシリコーン離型剤で処理した後、水蒸気圧力0.12MPa、回転数1.0rpmで乾燥してフィルム状のセルロース複合体Mを得た。
【0098】
混練エネルギーは、総量として0.08kWh/kgであった(プラネタリーミキサーが0.08kWh/kgであり、その他は総量としても0.005kWh/kg未満であった)。親水性ガムとの共存下での、混練温度(プロペラ攪拌)は、実施例1と同様に測定され、混練を通して20〜60℃、到達温度は50〜60℃であった。
【0099】
体積平均粒子径は3.5μm、コロイド状セルロース成分は72質量%粒子L/Dは1.6であった(体積平均粒子径の測定で得られた粒度分布における10μm以上の粒子の割合は2.5%であった)。実施例1と同様の操作で、貯蔵弾性率を測定した結果、0.01Paであった。
【0100】
比較例4は、セルロースにかけた混練エネルギーとしては、本発明の好ましい範囲に入るものであるが、混練エネルギーの大部分を占めるプラネタリーミキサーの処理においてPSG、CMC−Naが存在しなかったので、MCCとPSG、CMC−Naとの複合化は当然進まず、貯蔵弾性率が本発明の範囲を外れたと考えられる。
(比較例5)
市販木材パルプ(平均重合度=1720、α−セルロース含有量=78質量%)を、6×16mm角の矩形に裁断し、固形分濃度が80質量%になるように水を加えた。これを、水とパルプチップができるだけ分離しないよう注意して、カッターミル(カッティングヘッド/水平刃間隙:2.03mm、インペラー回転数:3600rpm)に1回通した。セルロース濃度が1.5質量%になるように、カッターミル処理品と水を量り取り、繊維の絡みがなくなるまで撹拌した。この水分散体を砥石回転型粉砕機(グラインダー回転数:1800rpm)で処理した。処理回数は2回で、グラインダークリアランスを110→80μmと変えて処理した。ついで得られた水分散体をそのまま高圧ホモジナイザー(処理圧力:55MPa)で18パスし、セルローススラリーを得た。走査型電子顕微鏡で観察したところ、長径/短径比が30〜300のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。
【0101】
上記で得られた微細な繊維状セルロースのスラリーに、セルロース:カルボキシメチルセルロース・ナトリウム(水溶性ガム):デキストリン(親水性物質)=70:18:12(質量部)となるように、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム(1質量%水溶液粘度:約3400mPa・s)とデキストリン(DE:約23)を添加し、15kgを攪拌型ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製、「T.K.AUTO HOMO MIXER」)で、8000rpmで30分間撹拌・混合し、セルロース混合液を得た。次いで、この混合液をアプリケータにより厚さ2mmでアルミニウム板状にキャストし、熱風乾燥機を使用し、120℃で45分間乾燥してフィルムを得た。これをカッターミル(不二パウダル株式会社製)で、目開き1mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、セルロース乾燥組成物を得た。
【0102】
次に、セルロース乾燥組成物:サイリウムシードガム(実施例1と同じもの。親水性ガム)を9:1の質量比で含有する安定剤を調製する。固形分が1質量%の水分散体となるように安定剤と水を量り取り、「T.K.ホモミキサー」(特殊機化工業株式会社製)を使用して、8000rpmで10分間分散し、セルロース組成物N(混ぜ合わされただけで、複合体ではない)を得た。混練エネルギー(T.K.ホモによる攪拌エネルギー)は、総量として0.005kWh/kg未満であった。親水性ガムとの共存下における混練(T.K.ホモによる攪拌)温度は、実施例1と同様に測定され、混練を通して20〜60℃、到達温度は50〜60℃であった。
【0103】
体積平均粒子径は37.9μm、コロイド状セルロース成分は75質量%であった。実施例1と同様の操作で、貯蔵弾性率を測定した結果、22Paであった。セルロース組成物Nを用いて実施例1と同様にして、分散安定性を評価した。
(実施例10)
実施例1と同様にしてウェットケーキ状のセルロースを作成し、親水性ガムとしてPSGを、水溶性ガムとしてCMC−Naを使用し、セルロース複合体を調製した。試作方法は以下の通りである。MCC/PSG(シキボウ株式会社製 サイリウムシードハスク フードメイド 1%溶解液の粘度は198mPa・s)/CMC−Na(第一工業製薬(株)、F−7A、1%溶解液の粘度11mPa・s)との質量比が90/5/5となるよう秤量し、固形分37質量%となるように加水し、プラネタリーミキサーで混練して、セルロース複合体を得た。混練エネルギーは、0.05kWh/kgであった(プラネタリーミキサーの運転条件は、実施例1と同じであり、運転時間により、混練エネルギーを調節した。)。混練温度は、実施例1と同様に測定され、混練を通して20〜60℃、到達温度は50〜60℃であった。また、この混練物は、実施例1と同様に、乾燥、粉砕され、セルロース複合体Oを得た。
【0104】
貯蔵弾性率(G’)は0.06Paで、体積平均粒子径は8.2μm、コロイド状セルロース成分は38質量%、粒子L/Dは2.2であった。セルロース複合体Oを用いて実施例1と同様にして、分散安定性を評価した。
(実施例11)
実施例1と同様にしてウェットケーキ状のセルロースを作成し、MCC/PSG/CMC−Naとの質量比が90/5/5、固形分40質量%の条件でセルロース水分散体を調製した。このセルロース水分散体を、実施例1と同様の装置で混練し、混練容器中のジャケットに温水(50℃)を流すことで、混練温度を制御し、セルロース複合体を得た。混練時間は実施例1より延長され、トータルの混練エネルギーは、0.50kWh/kgであった。混練温度は、実施例1と同様に測定され、混練を通して20〜80℃、到達温度は70〜80℃であった。また、この混練物は、実施例1と同様に、乾燥、粉砕され、セルロース複合体Pを得た。
【0105】
貯蔵弾性率(G’)は0.13Pa、体積平均粒子径は6.3μm、コロイド状セルロース成分は55質量%、粒子L/Dは2.0であった。セルロース複合体Pを用いて実施例1と同様にして、分散安定性を評価した。
[エタノール水中でのセルロース複合体の分散安定性]
実施例1〜11、及び比較例1〜5により得られたセルロース複合体A〜Pを用いて、以下の方法で、エタノール水中での分散安定性を検証した。
【0106】
まず、セルロース複合体実施例1〜11を、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、セルロース複合体の分散液を得た。その分散液50mLに、種々のエタノール濃度の水溶液50mLを加え、100mL容のガラス製沈降管に仕込んだ。最終的に、エタノール濃度は10質量%と、20質量%の二水準を調製した。その後、常温で、2週間静置し、1週ごとに分散安定性を評価した。
【0107】
エタノール濃度10質量%では、いずれの実施例も、2週間後の保存において、分離、凝集、沈降、粘度に異常はなかった(いずれも○〜◎)。エタノール濃度が20質量%になると、1週間の保存で、実施例6、10、11のセルロース複合体F、O、Pが、沈降を生じた(沈降=△、それ以外の項目は○)。上記以外の実施例1〜5、7〜9は、分離、凝集、沈降粘度に問題はなかった(いずれも○〜◎)。
[乳酸菌入りアルコール性懸濁飲料(マッコリ)]
実施例1〜11、及び比較例1〜5により得られたセルロース複合体A〜P、セルロース組成物Nを用いて、以下の方法で、乳酸菌入りアルコール性懸濁飲料を調製し、懸濁安定性を検証した。
【0108】
まず、セルロース複合体を、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、セルロース複合体の分散液を得た。
【0109】
この分散液50質量部に、よく振とうし内容物を均一に分散させた市販のマッコリ(真露ジャパン(株)黒豆マッコリ、750mLPETボトル入り、アルコール分6%、pH4.4)50質量部を加え、高剪断ホモジナイザー(特殊機化(株)TKホモジナイザー)により、8000rpmで10分間攪拌し、100mLのガラス製沈降管に仕込んだ。
【0110】
その後、冷蔵庫で1週間保存し、懸濁状態を評価した。結果を、表1及び表2に示した。
【0111】
因みに、セルロース複合体を添加せず、マッコリ50質量部に、イオン交換水50質量部を加えて調整したものは、同様に評価すると、分離:×、凝集:×、沈降:×、粘度:◎であり、再分散回数は20回以上であった。
[ウコン入りアルコール性懸濁飲料]
実施例1、及び比較例1〜5により得られたセルロース複合体A〜P、セルロース組成物Nを用いて、以下の方法で、ウコン入りアルコール性懸濁飲料を調製し、懸濁安定性を検証した。
【0112】
まず、セルロース複合体を、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、セルロース複合体の分散液を得た。
次に、ウコン(オリヒロ製 商品名秋ウコン粉末100%)を0.06質量%になるように、この分散液に添加し、プロペラ400rpmにて、常温で、20分間攪拌する。次いで、この分散液を高圧ホモジナイザー(APV社製 マントンゴーリンホモジナイザー)により、一次圧15MPaに、二次圧として5MPaを加える条件で、1パス処理した。
【0113】
この水系分散液50質量部に、エタノール濃度20質量%の水溶液を50質量部を加え、高剪断ホモジナイザー(特殊機化(株)TKホモジナイザー)により、8000rpmで10分間攪拌し、100mLのガラス製沈降管に仕込んだ。
【0114】
その後、冷蔵庫で1週間保存し、懸濁状態を評価した。結果を、表1及び表2に示した。
【0115】
因みに、セルロース複合体を添加せず、クルクミン水溶液に、エタノール水溶液を加えて調整したものは、同様に評価すると、分離:×、凝集:×、沈降:×、粘度:◎であり、再分散回数は20回以上であった。
〔粘弾性測定の評価〕
セルロース複合体A(実施例1)と、セルロース複合体L(比較例3)の粘弾性測定の結果を図1、2に示す。
【0116】
図1から、セルロース複合体Aは、純水分散体と比較して、酸性の水分散体における歪み20%付近の貯蔵弾性率が高いことが分かる(純水:0.02Pa→pH4:0.58Pa)。また、図2から、セルロース複合体L(特許文献3の実施例に準拠した製法で得られたセルロース複合体)は、純水分散体と比較して、酸性の水分散体における歪み20%付近の貯蔵弾性率が低いことが分かる(純水:0.24Pa→pH4:0.01Pa)。
【0117】
通常のエネルギーで混練したセルロース複合体では、酸性での貯蔵弾性率は純水中に比べて低下し、懸濁安定性が低くなる。それに対して、高いエネルギーで混練したセルロース複合体では、酸性又は高塩濃度での貯蔵弾性率が上昇し、懸濁安定性が向上することがわかる。
【0118】
【表1】

【0119】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、乳酸菌、果実等の水不溶性分を含有し、安定な分散状態及び懸濁状態を示すアルコール性懸濁飲料に関する。特に、酸性において、長期の安定性と、良好な風味を兼ね備えたアルコール性の懸濁飲料を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース及び親水性ガムを含むセルロース複合体であって、該セルロース複合体を1質量%含むpH4の水分散体における貯蔵弾性率(G’)が0.06Pa以上である上記セルロース複合体を含有する、アルコール性の懸濁飲料。
【請求項2】
前記セルロース複合体が、セルロースを50〜99質量%及び親水性ガムを1〜50質量%含む、請求項1に記載のアルコール性の懸濁飲料。
【請求項3】
前記親水性ガムが、サイリウムシードガムである請求項1又は2に記載のアルコール性の懸濁飲料。
【請求項4】
前記セルロース複合体が、さらに前記親水性ガムとは異なる水溶性ガムを含み、該親水性ガムと該水溶性ガムとの質量比が30/70〜99/1である、(1)〜(3)のいずれか一項に記載のアルコール性の懸濁飲料。
【請求項5】
前記水溶性ガムが、カルボキシメチルセルロースナトリウム、LMペクチン、アルギン酸ナトリウム、及びジェランガムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載のアルコール性の懸濁飲料。
【請求項6】
pHが6以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載のアルコール性の懸濁飲料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−74852(P2013−74852A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217353(P2011−217353)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】