説明

アルツハイマー病の診断装置、診断プログラム、及び診断シート

【課題】簡単な少なくとも6つの質問により、アルツハイマー病の早期発見が可能なアルツハイマー病の診断装置および診断プログラムを提供する。
【解決手段】7つの質問内容とは、1.年齢を聞く、2.性別を聞く、3.拡張期血圧(下の血圧)を聞く、4.薬の自己管理ができているかを聞く、5.食事の支度ができるかを聞く、6.メモを取るかを聞く、7.今日の日付は 平成/西暦何年何月何日何曜日ですかと聞く、といった簡単なもので、合計点数が閾値以下の場合は、アルツハイマー病の疑いがあるというものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
特定の問合せ項目を用いてアルツハイマー病の早期発見を行える診断装置、診断プログラム、及び診断シートに関する技術である。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、ドイツのアルツハイマー(A. Alzheimer)が、65歳以前に発症する認知症が進む脳疾患をアルツハイマー病と命名したものである。しかし、その後65歳以上でも脳の病理所見が類似する疾患があることがわかり、現在、両者をあわせてアルツハイマー病という。アルツハイマー病は、脳を構成している神経細胞が通常の老化よりも急速に減少(変性)することにより、正常な働きを徐々に失っていき、認知症になっていく病気である。未だ原因は不明であるが、遺伝的な要因に加え生活環境の影響が重なり発病すると考えられている。
【0003】
アルツハイマー病は、40歳頃から90歳に至るまで広い範囲で発病する。特に65歳以上で多く発病する。男女比は概ね1対2であり、女性に多い傾向があることが知られている。認知症の患者は65歳以上で5%程度とされているが、その中で約40%がアルツハイマー病であり、30%が脳血管性疾患(脳梗塞や脳出血などの要因)の認知症と言われている。
【0004】
近年、徐々にアルツハイマー病の割合が増加している。日本では、アルツハイマー病の出現頻度は欧米諸国に比べると低いが、これは食生活の違いに起因するものとの考えもある。アルツハイマー病は身近な病気であり、特に高齢化社会においては益々深刻な病気である。
【0005】
アルツハイマー病の危険因子として、食生活の違い、即ち、生活習慣・生活習慣病(高血圧、糖尿病、肥満、喫煙、活動性の低下など)が、関連することが明らかになってきた。わが国の研究でも、耐糖能障害(糖尿病)があると、アルツハイマー病のリスクが4.6倍に増加するという。
【0006】
一方、認知症の合併していない糖尿病でも、認知機能が軽度低下することも知られている。「物忘れをする」、「注意力が低下する」、「思考速度が遅くなる」といった症状であるが、これらの症状は比較的軽度であり、生活の支障になるほどの程度ではなく、これまであまり問題となることはなかった。
【0007】
アルツハイマー病の発症は、いつとはなく物忘れが生じることが特徴である。糖尿病では、上記のように認知能力の低下がもともとある程度潜在するために、アルツハイマー病の早期診断では、認知能力の低下のわずかな変化を鑑別することとなる。糖尿病の外来診療では、全身の症状や合併症があるため、脳機能の微妙な低下を見抜くことは、必ずしも容易な事ではない。
そこで糖尿病患者におけるアルツハイマー病のスクリーニング(診断)を行う技術が必要とされていた。
【0008】
また、アルツハイマー病の症状としては、認知症症状、中でも記憶障害、見当識障害、注意障害あるいは空間認知障害などが挙げられる。アルツハイマー病になると、新たな学習にも障害があり、問題解決能力が低下する。場合によっては、被害妄想や関係妄想がみられる。
具体的には、人や物の名前がなかなか出てこない、何度も同じことを聞く、同じことを言う、財布等の大切なものを失くす、置いた場所を忘れる、約束をすっぽかす、家の鍵をかけ忘れる、初期症状として挙げられる。
【0009】
また、アルツハイマー病の疾病の進行は、概ね3期に分類される。第1期は、短期記憶の成立が低下する記憶障害である。軽い性格変化が加わり、被害的な言動を示すこともある。第2期は、ものを正しく捉えたり、因果関係を見極める力が低下して判断力が落ち、臨床症状としては失認や失行が現れ、失語もみられることがある。着衣失行などが現れるようになり、社会生活に支障が生じて介護が必要になる。第3期は、認知症症状が高度になり、周囲に対する関心も低下して自発性が極度に低下する。感情の変化も乏しくなり、ぼんやりしてつかみどころのない表情を示すことが多くなる。
【0010】
従来から、かかるアルツハイマー病の診断としては、臨床症状を詳細に検討するとともに、認知症症状についてはミニメンタルテスト(MMSE)や長谷川式簡易知能評価スケール(HDS−R)などの簡易心理検査を用いることが一般的に行われていた。
すなわち、先ず認知症であるか否かを診察する。一見すると認知症に見えるものも、うつ病、せん妄などの病態があるためである。次に、なぜ認知症になっているかを調べる。認知症は、アルツハイマー病以外の様々な病気で生じる。なかには治療が可能な病気もあるため様々な検査を行う。脳腫瘍などの他の脳の病気、ホルモンの異常やビタミンの欠乏、感染症など、全身的な病気でも認知症は起こりえる。また、アルツハイマー病と同じくらいの頻度で認知症を生じる脳血管性の認知症ではないか疑義を持って診察する。
【0011】
また一方で、脳の画像検査を行う。脳のアルツハイマー病では、脳の神経細胞が減るために、脳がやせて小さくなる。記憶を司る海馬(かいば)、側頭葉(そくとうよう)などが最初にやせてくるので、脳のCT(コンピュータ断層撮影),MRI(核磁気共鳴映像法)、PET(ポジトロンCT)やSPECT(脳血流シンチグラフィ)などの頭の画像検査をするのである。しかしながら、画像検査では初期のアルツハイマー病にはそれらの変化が目立たないこともある。そして、アルツハイマー病の診断は、全ての病気が否定されるとアルツハイマー病と判断され、症状と進行具合、上述の脳の画像検査の結果から総合的に行っていくのである。
【0012】
アルツハイマー病の治療は、認知症症状の進行を遅らせる薬剤としてアセチルコリン分解酵素阻害薬である塩酸ドネペジル「アリセプト」(登録商標)が、現在のところ日本では認可され使用されている。そのほか日本では使用許可が下りていないが塩酸メマンチンが、効能があるといった報告もある。予防としては知的活動を継続するだけでなく、身体を動かすことも重要であり、特に指先などを細かく動かす運動が必要とされる。
【0013】
上述したように、従来の診断の方法として、症状を詳細に検討すると共に、認知症症状についてはMMSEやHDS−Rなどの心理検査を用いており、さらに詳細に診断するためには、1〜2時間程度かかる心理検査(絵を描いたり、ブロックを組み合わせたり)のように非常に時間のかかるものがほとんどであった。
また、脳の画像検査によるアルツハイマー病診断方法は、CT、MRIなどでの検査の必要があるため、とても大がかりなものであった。
【0014】
このような背景の下、前述のような10項目程度の簡単な心理検査の場合、早期のアルツハイマー病では、テスト結果が正常となってしまう人がおり、診断精度が高いものではなかった。このような場合、アルツハイマー病になりかけていることを見過ごしてしまうことになりがちであり、アルツハイマー病の病状が進行してしまう恐れがあった。
また、アルツハイマー病は、病状がいつとはなしに起こり、ゆっくりと進行するために、早期にできるだけ簡単に正確な診断を下せる方法を必要としていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特願2002−112981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、早期にできるだけ簡単に正確なアルツハイマー病の診断を行える診断装置および診断プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記のような問題を解決するために、発明者である医師が試行錯誤を実施し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明のアルツハイマー病の診断装置は、1)年齢情報取得手段と、2)性別情報取得手段、3)拡張期血圧値情報取得手段と、4)薬の自己管理の有無情報取得手段と、5)食事の支度の有無情報取得手段と、6)メモの利用の有無情報取得手段と、7)時間見当識の有無情報取得手段と、を少なくとも有し、前記1)〜7)の取得値に各々所定の重付け係数を乗算した各値を加減算して点数を算出する点数算出手段を備える構成とされる。かかる構成によれば、簡単に正確なアルツハイマー病の診断を行えるのである。
【0018】
先ず、1)年齢情報取得手段とは、患者の年齢を取得するものであり、キーボード入力、画面へのタッチパネル入力、カルテ等からのデータ入力、音声入力等の取得手段をいう。
【0019】
先ず、2)性別情報取得手段とは、患者の性別を取得するものであり、キーボード入力、画面へのタッチパネル入力、カルテ等からのデータ入力、音声入力等の取得手段をいう。
【0020】
次に、3)拡張期血圧値情報取得手段とは、血圧値の下の値であり、上記と同様に、キーボード入力、画面へのタッチパネル入力、カルテ等からのデータ入力、音声入力等の取得手段をいう。
【0021】
また、4)薬の自己管理の有無情報取得手段とは、「薬の自己管理ができますか?」の質問の提示をし、および「はい/いいえ(Yes/No)」の回答させることにより、記憶力の優劣を主としてテストするものである。記憶をつかさどる大脳皮質の機能の働きを間接的に調べるものである。また、「薬の自己管理ができますか?」の質問によれば、記憶が最も評価できるが、他にも日付(時間見当識)や薬の修理を見分ける視覚的な能力もテストされているのである。
ここで、例えば、「野菜の名前を10個言ってください。」などでも記憶力の優劣をテストすることが可能であるが、はい/いいえ(Yes/No)の質問とする方が、より診断が簡易に実施できるため好ましい。
【0022】
また、5)食事の支度の有無情報取得手段とは、「食事の支度が自分でできますか?」の質問の提示をし、および「はい・やろうと思えばできる/いいえ(Yes/No)」の回答させることにより、日常生活の様子を主としてテストするものである。「料理の味付けは自分でされていますか?」、「物の整理整頓をしていますか?」、「服をきちんと着ていますか。」などの人間らしい日常生活行動を行っているかを確認するものである。主に大脳の前頭葉機能の働きを間接的に調べるものである。
【0023】
また、6)メモの利用の有無情報取得手段とは、「メモを取る習慣がありますか?」の質問の提示をし、および「はい/いいえ(Yes/No)」の回答させることにより、日常生活の様子を主としてテストするものである。物忘れをしないという対策を自分でしているかどうかを確認するもので、大脳の記憶をつかさどる大脳皮質機能と、人間らしい日常生活動作に関係する前頭葉機能の両者の働きを間接的に調べるものである。「メモを取る習慣がありますか?」の質問によれば、複雑な能力が重なりあって達成できる行動指標を有しているかいないかを確認できる。
【0024】
また、7)時間見当識の有無情報取得手段とは、「今日の日付は?,西暦XX年X月X日X曜日 ですか?」などの質問により、時間見当識をテストするものである。物忘れがあると(記憶が落ちてくると)、時間見当識も低下してくる。
【0025】
また、本発明のアルツハイマー病の診断シートは、1)年齢情報の回答エリアと、2)性別情報の回答エリアと、3)拡張期血圧値情報の回答エリアと、4)薬の自己管理の有無の回答エリアと、5)食事の支度の有無の回答エリアと、6)メモの利用の有無の回答エリアと、7)時間見当識の有無の回答エリアと、を少なくとも有する診断シートである。
【0026】
かかる構成の診断シートによれば、自分自身で簡単に正確なアルツハイマー病の診断を行えるのである。
【0027】
また、本発明のアルツハイマー病の診断プログラムは、コンピュータを、アルツハイマー病の診断装置として機能させるためのアルツハイマー病の診断プログラムにおいて、診断プログラムは、コンピュータを、1)年齢情報取得手段、2)性別情報取得手段、3)拡張期血圧値情報取得手段、4)薬の自己管理の有無情報取得手段、5)食事の支度の有無情報取得手段、6)メモの利用の有無情報取得手段、7)時間見当識の有無情報取得手段、7)前記1)〜7)により取得された情報値に各々所定の重付け係数を乗算した各値を加減算して点数を算出する点数算出手段、として機能させることを特徴とするものである。
【0028】
かかる診断プログラムによれば、病院内の業務用コンピュータや、自宅のコンピュータや、Webサイト上で、自分自身で簡単に正確なアルツハイマー病の診断を行えるのである。
【0029】
また、本発明のアルツハイマー病の診断プログラムの記録媒体は、コンピュータを、アルツハイマー病の診断装置として機能させるためのアルツハイマー病の診断プログラムの記録媒体において、診断プログラムは、コンピュータを、1)年齢情報取得手段、2)性別情報取得手段、3)拡張期血圧値情報取得手段、4)薬の自己管理の有無情報取得手段、5)食事の支度の有無情報取得手段、6)メモの利用の有無情報取得手段、7)時間見当識の有無情報取得手段、8)前記1)〜7)により取得された情報値に各々所定の重付け係数を乗算した各値を加減算して点数を算出する点数算出手段、として機能させることを特徴とするものである。
【0030】
かかる診断プログラムの記録媒体によれば、自身のコンピュータにインストールしたり、病院などの業務用端末コンピュータにインストールして、簡単に正確なアルツハイマー病の診断を行えるのである。
【0031】
また、本発明のコンピュータを用いたアルツハイマー病の診断方法は、1)コンピュータは、年齢情報を取得し、2)コンピュータは、性別情報を取得し、3)コンピュータは、拡張期血圧値情報を取得し、4)コンピュータは、薬の自己管理の有無情報を取得し、5)コンピュータは、食事の支度の有無情報を取得し、6)コンピュータは、メモの利用の有無情報を取得し、7)コンピュータは、時間見当識の有無情報を取得し、8)コンピュータは、前記年齢情報、前記性別情報、前記拡張期血圧値情報、前記薬の自己管理の有無情報、前記食事の支度の有無情報、前記メモの利用の有無情報および時間見当識の有無情報の値に各々所定の重付け係数を乗算した各値を加減算して点数を算出する点数算出処理を実行すること、を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、早期にできるだけ簡単に正確なアルツハイマー病の診断を行えるといった効果がある。具体的には、年齢、性別、拡張期血圧値、薬の自己管理実施の有無の確認、食事の支度ができるかの確認、メモを取るかの確認、今日の日付は,平成/西暦何年何月何日何曜日ですかという時間見当識の有無の確認の7項目の情報を取得して、点数算出し、アルツハイマー病を診断するもので、ごく簡単なものであり、自分自身でも診断可能といったものである。
【0033】
算出した合計点数が、ある閾値以下の場合は、アルツハイマー病の疑いがあるというもので、数100人余りの検査における感度が95%と非常に高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】機能ブロック図
【図2】診断装置の構成図
【図3】診断画面例
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明していく。
【実施例1】
【0036】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明のアルツハイマー病の早期発見方法は、7つの簡単な質問に正確に答えられるかをテストし、テスト結果に点数をつけ、点数がある一定の閾値に達していない場合はアルツハイマーの疑いがあるということで正確な検査(CT、MRI検査)を受けさせるためのものである。
【0037】
この7つの質問とは、具体的には、
1.年齢は?
2.性別は?
3.拡張期血圧値(下の血圧の値)は?
4.薬の自己管理が自分でできていますか?
5.食事の支度はしていますか?
6.メモをとりますか?
7.今日の日付は、何年何月何日何曜日ですか?
といったものである。
【0038】
それぞれの意図は、以下である。
1.高齢な程リスクが高まるために年齢情報を聞くこと。
2.男性(性別情報として1)、女性(性別情報として0)としているが、女性にアルツハイマー病が多いとすることを反映している。また以下の「食事の支度ができますか」の項目が、わが国では女性に偏ることが多いため、性差を補正することを意図する。
3.拡張期血圧(下の血圧)は脳にどれだけ血を流しているかを反映するもので、加齢と共に血圧が下がるため、どれだけ脳への血の還流が保たれているかの確認。
4.薬の自己管理をすることは財産の管理、財布の管理にも繋がり、記憶力を見ることを意図している。
5.食事の支度といった人間生活行動ができているかどうかを見ることであり、料理の味付け、整理整頓、服をきちんと着ることができるか、人間らしい行動をしているかをつかさどる前頭葉の機能を見る。
6.物忘れをしないという対策を自分でしているかどうか、記憶と前頭葉機能を見ている。
7.4つ(年、月、日、曜日)の解答合計で点数を決める。物忘れがあると(記憶が落ちてくると)、時間見当識が落ちてしまうため正常な解答ができているかという確認のために聞く。
【0039】
以下、図に沿って説明する。
図1は、アルツハイマー病の診断装置の機能ブロック図M1である。
年齢情報取得手段 M11、性別情報取得手段M13、拡張期血圧値取得手段M15、薬の自己管理の有無情報取得手段M17、食事の支度の有無情報取得手段M19、メモの利用の有無情報取得手段M21、時間見当識の有無情報取得手段M23と質問して行き、質問の解答を点数算出手段M25により点数付けを行い、診断結果告知手段M27によりアルツハイマー病の可能性があるか否かが決定される。
【0040】
次に、アルツハイマー病の診断装置の装置ブロック図について、図2を参照して説明する。
アルツハイマー病の診断装置は、CPU11、メモリ12、ハードディスク13、キーボード14、マウス15、ディスプレイ16及びバス17を備えている。CPU11は、ハードディスク13に記録されているオペレーティング・システム(OS)、診断装置機能等その他のアプリケーションに基づいた処理を行う。メモリ12は、CPU11に対して作業領域を提供する。ハードディスク13は、オペレーティング・システム(OS)、診断装置機能等その他のアプリケーション、及び診断の結果得られた診断データを記録保持する。キーボード14、マウス15は、外部からの命令を受け付ける。ディスプレイ16では、テスト用入力画面、診断結果を表示する。
【0041】
図3は、アルツハイマー病の診断装置のテスト用入力画面及び診断結果の表示画面図である。表示画面20内は、カルテNo表示欄21、氏名表示欄22、年齢入力欄23、性別(男性/女性)入力欄32、下の血圧値入力欄24、薬の自己管理状況(はい/いいえ)入力欄25、食事の支度状況(はい/いいえ)入力欄26、メモの利用状況(はい/いいえ)入力欄27、今日の日付入力欄(28a、28b、28c、28d)、点数計算開始ボタン29、点数表示欄30、診断結果表示欄31から構成される。
【0042】
本アルツハイマー病の診断装置は、図3に示される画面から、各情報を取得し、得られた情報から、下記数式を用いて点数を算出する。
【0043】
【数1】

【0044】
ここで、
(1)X:年齢
(2)X:性別(男性の場合は1,女性の場合は0)
(3)X:拡張期血圧値
(4)X:薬の自己管理ができるか?に対する回答
(Yesの場合は1,Noの場合は0)
(5)X:食事の支度が自分でできるか?に対する回答
(Yesの場合は1,Noの場合は0)
(6)X:メモをとる習慣があるか?に対する回答
(Yesの場合は1,Noの場合は0)
(7)X:日時の見当識の有無に関する回答
(年・月・日・曜日について、1問各1点でその合計点)
【0045】
また、重み付け係数a〜gおよびオフセット定数hは、以下の値をとる。なお、かかる値は、調整できるパラメータである。
a=0.164
b=−0.493
c=−0.053
d=−1.385
e=−1.227
f=−1.104
g=−1.044
h=−4.841
【0046】
上述の計算式の結果、Pの値が、0.0817以上の場合は、アルツハイマー病である確立がかなり高いことを指摘する。具体的には、診断結果告知手段M25によって、装置のディスプレイ16の画面上に診断結果として、例えば、「あなたは、アルツハイマー病が発病している可能性があります。」等が表示される。アルツハイマー病である確立がかなり高いという結果がでた場合、CT(コンピュータ断層撮影),MRI(核磁気共鳴映像法)、PET(ポジトロンCT)などの脳の画像検査を実施し、医師が時間をかけて慎重に診察を行っていくことになる。
【0047】
次に、本発明の診断プログラムの感度と特異度について説明する。一般に臨床検査の信頼度を評価するのに、感度と特異度を用いる。アルツハイマー病を発病している患者集団に対して検査を行ったとき、異常値を示す割合が感度である。逆に、アルツハイマー病を発病していない患者集団に対して検査を行ったとき、正常値を示す割合が特異度である。検査の感度を上げようとすれば特異度は下がり、特異度を上げようとすれば感度が下がるというジレンマがある。
【0048】
実際、上述の計算式で、3つの病院に外来している年齢が65歳以上の男女の糖尿病患者500人に対して、本発明の診断プログラムを実施したところ、アルツハイマー病の診断の感度は、約95%であった。すなわち、例えば、糖尿病患者で、かつアルツハイマー病が発病している人が仮に100人存在したとした場合に、本発明の診断プログラムでアルツハイマー病である確立が高いと指摘された人(P値>=0.0817)は、95人であったというものである。また、特意度は、約87%であった。すなわち、例えば、糖尿病患者で、かつアルツハイマーが発病していない人が仮に100人存在する場合に、本発明の診断プログラムでアルツハイマー病である確立は低いと指摘された人(P値<0.0817)は、87人であったというものである。
【0049】
(他の実施例)
(1)上記実施例では、コンピュータの入力デバイスとして、キーボードやマウスを例示しているが、これに限定されるものではない。この他、音声入力、画面でのタッチパネル入力など、コンピュータの入力インタフェースを介して接続される入力デバイスであっても構わない。また、上記実施例では、診断のための質問表示、回答入力を促す表示、診断結果の表示は、コンピュータのディスプレイを例示しているが、これに限定されるものではない。この他、音声出力、個人の携帯電話の表示画面へのネットワーク通信を介しての出力でも構わない。
【0050】
(2)上記実施例では、年齢情報取得手段や拡張期血圧値情報取得手段として、コンピュータのキーボードから数値を入力しているものを例示しているが、これに限定されるものではない。この他、カルテのバーコード情報から自動的に読込む手段や、個人の識別情報(名前や識別別番号、指紋などの個人認証情報)を検索キーとして、ネットワークを介して接続されている情報管理サーバから自動的に取得するものであっても構わない。
【0051】
(3)上記実施例では、診断のための質問表示、回答入力を促す表示、診断結果の表示は、同一のコンピュータのディスプレイを例示しているが、これに限定されるものではない。この他、診断のための質問表示および回答入力を促す表示を行うコンピュータのディスプレイと、診断結果の表示を行うコンピュータのディスプレイが異なっても構わない。例えば、診断結果の表示を行うのは、個人の携帯型コンピュータ(例:携帯電話)のディスプレイでも構わない。
【0052】
(4)上記実施例では、本プログラムが予めインストールされたコンピュータを例示しているが、これに限定されるものではない。この他、Webサイトから本プログラムのコンテンツにアクセスするものであっても構わない。
【0053】
(5)上記実施例では、図3でコンピュータ画面を例示しているが、これに限定されるものではない。画面のレイアウトなどや質問の問いかけ表現、回答入力欄の形態など様々な変更が可能である。
また、図3はコンピュータ画面を例示しているが、質問表示欄と回答入力欄を紙媒体に印刷している診断シートであってもよい。また、診断シートは、OCR(光学式文字読取装置:Optical Character Reader)シートであっても構わない。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)年齢情報取得手段と、2)性別情報取得手段、3)拡張期血圧値情報取得手段と、4)時間見当識の有無情報取得手段と、3つの日常生活行動の有無情報取得手段と、を備えたアルツハイマー病の診断装置。
【請求項2】
1)年齢情報取得手段と、2)性別情報取得手段、3)拡張期血圧値情報取得手段と、4)薬の自己管理の有無情報取得手段と、5)食事の支度の有無情報取得手段と、6)メモの利用の有無情報取得手段と、7)時間見当識の有無情報取得手段と、を少なくとも有し、前記1)〜7)により取得された情報値に各々所定の重付け係数を乗算した値を加減算して点数を算出する点数算出手段を備えたアルツハイマー病の診断装置。
【請求項3】
1)年齢情報取得手段と、2)性別情報取得手段、3)拡張期血圧値情報取得手段と、4)「薬の自己管理ができますか?」の質問提示手段および「はい/いいえ」の回答取得手段と、5)「食事の支度が自分でできますか?」の質問提示手段および「はい・やろうと思えばできる/いいえ」の回答取得手段と、6)「メモを取る習慣がありますか?」の質問提示手段および「はい/いいえ」の回答取得手段と、7)「今日の年月日は?」又はそれに加えて「今日は何曜日?」の質問提示手段および「年、月、日」又はそれに加えて「曜日」の回答取得手段と、を少なくとも有し、前記1)〜7)により取得された情報値および回答結果に各々所定の重付け係数を乗算した値を加減算して点数を算出する点数算出手段を備えたアルツハイマー病の診断装置。
【請求項4】
1)年齢情報の回答エリアと、2)性別情報の回答エリア、3)拡張期血圧値情報の回答エリアと、4)薬の自己管理の有無の回答エリアと、5)食事の支度の有無の回答エリアと、6)メモの利用の有無の回答エリアと、7)時間見当識の有無の回答エリアと、を少なくとも備えたアルツハイマー病の診断シート。
【請求項5】
1)「年齢は?」の質問表示エリアおよびその回答エリアと、2)「性別は?」の質問表示エリアおよびその回答エリアと、3)「下の血圧は?」の質問表示エリアおよびその回答エリアと、4)「薬の自己管理ができますか?」の質問表示エリアおよび「はい/いいえ」の回答エリアと、5)「食事の支度が自分でできますか?」の質問表示エリアおよび「はい・やろうと思えばできる/いいえ」の回答エリアと、6)「メモを取る習慣がありますか?」の質問表示エリアおよび「はい/いいえ」の回答エリアと、7)「今日の年月日は?」若しくはそれに加えて「今日は何曜日?」の質問エリアおよび「年、月、日」若しくはそれに加えて「曜日」の回答エリアと、を少なくとも備えたアルツハイマー病の診断シート。
【請求項6】
コンピュータを、アルツハイマー病の診断装置として機能させるためのアルツハイマー病の診断プログラムにおいて、
前記診断プログラムは、
コンピュータを、
1)年齢情報取得手段、
2)性別情報取得手段、
3)拡張期血圧値情報取得手段、
4)薬の自己管理の有無情報取得手段、
5)食事の支度の有無情報取得手段、
6)メモの利用の有無情報取得手段、
7)時間見当識の有無情報取得手段、
8)前記1)〜7)により取得された情報値に各々所定の重付け係数を乗算した値を加減算して点数を算出する点数算出手段、
として機能させること、
を特徴とするアルツハイマー病診断プログラム。
【請求項7】
コンピュータを、アルツハイマー病の診断装置として機能させるためのアルツハイマー病の診断プログラムにおいて、
前記診断プログラムは、
コンピュータを、
1)年齢情報取得手段、
2)性別情報取得手段、
3)拡張期血圧値情報取得手段、
4)「薬の自己管理ができますか?」の質問提示手段および「はい/いいえ」の回答取得手段、
5)「食事の支度が自分でできますか?」の質問提示手段および「はい・やろうと思えばできる/いいえ」の回答取得手段、
6)「メモを取る習慣がありますか?」の質問提示手段および「はい/いいえ」の回答取得手段、
7)「今日の年月日は?」又はそれに加えて「今日は何曜日?」の質問提示手段および「年、月、日」又はそれに加えて「曜日」の回答取得手段、
8)前記1)〜7)により取得された情報値および回答結果に各々所定の重付け係数を乗算した値を加減算して点数を算出する点数算出手段、
として機能させること、
を特徴とするアルツハイマー病診断プログラム。
【請求項8】
コンピュータを、アルツハイマー病の診断装置として機能させるためのアルツハイマー病の診断プログラムの記録媒体において、
前記診断プログラムは、
コンピュータを、
1)年齢情報取得手段、
2)性別情報取得手段、
3)拡張期血圧値情報取得手段、
4)薬の自己管理の有無情報取得手段、
5)食事の支度の有無情報取得手段、
6)メモの利用の有無情報取得手段、
7)時間見当識の有無情報取得手段、
8)前記1)〜7)により取得された情報値に各々所定の重付け係数を乗算した値を加減算して点数を算出する点数算出手段、
として機能させること、
を特徴とするアルツハイマー病診断プログラムの記録媒体。
【請求項9】
コンピュータを、アルツハイマー病の診断装置として機能させるためのアルツハイマー病の診断プログラムの記録媒体において、
前記診断プログラムは、
コンピュータを、
1)年齢情報取得手段、
2)性別情報取得手段、
3)拡張期血圧値情報取得手段、
4)「薬の自己管理ができますか?」の質問提示手段および「はい/いいえ」の回答取得手段、
5)「食事の支度が自分でできますか?」の質問提示手段および「はい・やろうと思えばできる/いいえ」の回答取得手段、
6)「メモを取る習慣がありますか?」の質問提示手段および「はい/いいえ」の回答取得手段、
7)「今日の年月日は?」又はそれに加えて「今日は何曜日?」の質問提示手段および「年、月、日」又はそれに加えて「曜日」の回答取得手段、
8)前記1)〜7)により取得された情報値および回答結果に各々所定の重付け係数を乗算した値を加減算して点数を算出する点数算出手段、
として機能させること、
を特徴とするアルツハイマー病診断プログラムの記録媒体。
【請求項10】
コンピュータを用いたアルツハイマー病の診断方法であって、
1)前記コンピュータは、年齢情報を取得し、
2)前記コンピュータは、性別情報を取得し、
3)前記コンピュータは、拡張期血圧値情報を取得し、
4)前記コンピュータは、薬の自己管理の有無情報を取得し、
5)前記コンピュータは、食事の支度の有無情報を取得し、
6)前記コンピュータは、メモの利用の有無情報を取得し、
7)前記コンピュータは、時間見当識の有無情報を取得し、
8)前記コンピュータは、前記年齢情報、前記性別情報、前記拡張期血圧値情報、前記薬の自己管理の有無情報、前記食事の支度の有無情報、前記メモの利用の有無情報および時間見当識の有無情報の値に各々所定の重付け係数を乗算した値を加減算して点数を算出する点数算出処理を実行すること、
を特徴とするアルツハイマー病診断方法。
【請求項11】
コンピュータを用いたアルツハイマー病の診断方法であって、
1)前記コンピュータは、年齢情報を取得し、
2)前記コンピュータは、性別情報を取得し、
3)前記コンピュータは、拡張期血圧値情報を取得し、
4)前記コンピュータは、「薬の自己管理ができますか?」の質問を提示し、「はい/いいえ」の回答を取得し、
5)前記コンピュータは、「食事の支度が自分でできますか?」の質問を提示し、「はい・やろうと思えばできる/いいえ」の回答を取得し、
6)前記コンピュータは、「メモを取る習慣がありますか?」の質問を提示し、「はい/いいえ」の回答を取得し、
7)前記コンピュータは、「今日の年月日は?」又はそれに加えて「今日は何曜日?」の質問を提示し、「年、月、日」又はそれに加えて「曜日」の回答を取得し、
8)前記コンピュータは、前記年齢情報、前記性別情報、前記拡張期血圧値情報、および回答結果に各々所定の重付け係数を乗算した値を加減算して点数を算出する点数算出処理を実行すること、
を特徴とするアルツハイマー病診断方法。
【請求項12】
前記アルツハイマー病の診断装置は、診断対象者として糖尿病疾患を有する患者を対象に診断を行うものであうことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルツハイマー病の診断装置。
【請求項13】
前記アルツハイマー病の診断装置は、診断対象者として、65歳以上の糖尿病疾患を有する患者を対象に診断を行うものであうことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルツハイマー病の診断装置。
【請求項14】
前記点数算出手段において、前記1)〜7)により取得された情報値もしくは回答結果から、下記数式を用いて点数を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルツハイマー病の診断装置。
【数1】

(但し、X:年齢,X:性別(1:男性、0:女性), X:拡張期血圧値,X:薬の自己管理の有無(有:1,無:0;2値情報),X:食事の支度の有無(有:1,無:0;2値情報),X:メモの利用の有無(有:1,無:0;2値情報),X:時間見当識の有無(年・月・日・曜日について各1点、計4点)である。また、a,b,c,d,e,f, gは所定の係数で、hは所定の定数である。)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−187959(P2010−187959A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36139(P2009−36139)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】