説明

アルデヒド除去用ケミカルフィルタ

【課題】 アセトアルデヒド及びホルムアルデヒドが室内に共存した場合に両アルデヒドについて室内濃度指針値を満たすアルデヒド除去用ケミカルフィルタを提供すること。
【解決手段】 本発明に係るアルデヒド除去用ケミカルフィルタは、モルホリンを添着した活性炭とエチレン尿素(2−イミダゾリジノン)を添着した活性炭との混合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭環境や作業環境から発生するアルデヒド類、特にアセトアルデヒド及びホルムアルデヒドの吸着除去に使用されるアルデヒド除去用ケミカルフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、家庭環境や作業環境から発生するアルデヒド類の吸着除去に使用されるアルデヒド除去用ケミカルフィルタとして、活性炭等の多孔質吸着剤があった。ところが、こうした吸着剤自体はアセトアルデヒドやホルムアルデヒド等の低級アルデヒド類の吸着能が低く、相当量の吸着剤を使用しなければならないという問題があったため、低級アルデヒド類の吸着能が高く、かつ、経時安定性が良好で健康上の有害性のないものとして、分子中に尿素結合を有する尿素化合物(例えばエチレン尿素(2−イミダゾリジノン))を活性炭等の多孔質担体に添着したものが提案されている(特許文献1参照)。また、他のアルデヒド除去用ケミカルフィルタとして、モルホリン等の環状飽和第二アミンと、硫酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸やシュウ酸、クエン酸等の有機酸からなる不揮発性酸、尿素及びチオ尿素から選ばれた少なくとも1種とを活性炭等の多孔質担体に担持せしめたものが提案されている(特許文献2参照)。
【0003】
ところで、厚生省による平成12年6月30日付生衛発第1093号生活衛生局長通知及び平成12年12月22日付生衛発第1852号生活衛生局長通知、並びに、厚生労働省による平成13年7月25日付医薬発第828号医薬局長通知により、シックハウス等の室内汚染の根源であるホルムアルデヒドについて、毒性指標を「ヒト吸入暴露における鼻咽頭粘膜への刺激」として「100μg/m(0.08ppm)」の室内濃度指針値が通知された。また、厚生労働省による平成14年2月7日付医薬発第0207002号医薬局長通知により、室内汚染の根源であるアセトアルデヒドについて、毒性指標を「ラットの経気道暴露における鼻腔嗅覚上皮への影響」として「48μg/m(0.03ppm)」の室内濃度指針値が通知された。
【0004】
しかしながら、低級アルデヒド類であるアセトアルデヒド及びホルムアルデヒドが室内に高濃度で共存した場合に、上記室内濃度指針値を十分にクリアするアルデヒド除去用ケミカルフィルタは提案されていなかった。
【特許文献1】特開平11−285619号公報
【特許文献2】特開2001−524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたもので、アセトアルデヒド及びホルムアルデヒドが室内に共存した場合に両アルデヒドについて室内濃度指針値を満たすアルデヒド除去用ケミカルフィルタを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、モルホリンを添着した活性炭とエチレン尿素(2−イミダゾリジノン)を添着した活性炭との混合物を含むアルデヒド除去用ケミカルフィルタを特徴とする。
【0007】
請求項1に係る発明によれば、モルホリンを添着した活性炭にアセトアルデヒドが物理吸着した後にモルホリンと反応して化学吸着し、アセトアルデヒド濃度の低減が図られるとともに、エチレン尿素を添着した活性炭にホルムアルデヒドが物理吸着した後にエチレン尿素と反応して化学吸着し、ホルムアルデヒド濃度の低減が図られる。これにより、アセトアルデヒド及びホルムアルデヒドが室内に共存した場合に両アルデヒドについて室内濃度指針値を容易に満たすことができる。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のアルデヒド除去用ケミカルフィルタにおいて、前記モルホリンを添着した活性炭(モルホリン添着活性炭)の質量を前記エチレン尿素を添着した活性炭(エチレン尿素添着活性炭)の質量で除した配合比が1/2よりも大きく1以下であることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、モルホリン添着活性炭とエチレン尿素添着活性炭との配合比が1/2<モルホリン添着活性炭量/エチレン尿素添着活性炭量≦1であることにより、アセトアルデヒド及びホルムアルデヒドの双方についての除去効率を長期にわたって高く維持してフィルタ寿命を長くすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るアルデヒド除去用ケミカルフィルタによれば、アセトアルデヒド及びホルムアルデヒドが室内に共存した場合に両アルデヒドについて室内濃度指針値を容易に満たすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0012】
本形態に係るアルデヒド除去用ケミカルフィルタは、モルホリンを添着した活性炭とエチレン尿素(2−イミダゾリジノン)を添着した活性炭との混合物を主として構成される。ここで用いられる活性炭は、液体窒素温度条件下の窒素吸着によるBET表面積が350〜3,500m/g、好ましくは500〜3,000m/gのものである。
【0013】
モルホリン、エチレン尿素といった添着剤を活性炭に担持させるには、それらの物質が水に可溶であるか否かに応じて適切な方法が採られる。つまり、添着剤が水に可溶な物質の場合には、添着剤を予め水に溶解させて活性炭をこの水溶液に浸漬させた後に濾別する方法、活性炭を撹拌混合しながら添着剤の水溶液を噴霧又は散布する方法、粉末状の活性炭と添着剤の水溶液とを混合し、必要に応じてバインダを添加して造粒、成型する方法を採ることができる。一方、添着剤が水に不溶な物質の場合には、粉末状の活性炭と粉末状の添着剤とを物理的に混合する方法、粉末状の活性炭と粉末状の添着剤とを予め混合しておき、水、バインダを加えて造粒、成型する方法、水に添着剤及びバインダを加えて予めスラリーを調製し、このスラリーを活性炭に噴霧又は散布する方法を採ることができる。複数種の添着剤はいずれかを先に多孔質担体に担持させてもよく、同時に担持させてもかまわない。また、こうした担持方法において、必要に応じて用いられるバインダとしては種々の公知のもの(例えばカルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アラビヤゴム)があり、その使用量は少ないほど望ましい。
【0014】
本形態においてフィルタの形状(態様)は特に限定されるものではないが、例えば粉末状、粒状、球状の活性炭に薬剤を添着したものを不織布、ウレタンフォーム、紙、加工ボード等に添着した形状が挙げられる。このようにして得られたフィルタを、そのまま、あるいは、適当な通気性容器や吸着装置に充填、収容してアセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等の低級アルデヒド類が充満しやすい自動車内、喫茶店、会議室、作業場又は家庭の居室等に配置することにより空気が浄化される。また、タバコフィルターに使用するとタバコ煙中のホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等の有害・刺激成分を効率よく除去することができる。
【0015】
本発明でアセトアルデヒドを吸着する薬剤としてモルホリンを使用する理由は、1)アセトアルデヒドの方がホルムアルデヒドよりも沸点、分子量ともに高く、吸着速度が速いこと、2)アセトアルデヒドは安定性がよいので活性炭の物理吸着に依存すること、3)モルホリンとの反応は、アルデヒドのカルボニル炭素がモルホリン窒素を求電子反応することにより開始されること、4)上記2)が律速となるため、アセトアルデヒドの方がホルムアルデヒドより吸着されやすいこと、であり、本形態におけるモルホリンの添着量は、活性炭に対して5〜25質量%、好ましくは10〜20質量%である。25質量%超であれば活性炭の物理吸着機能が抑制され、5質量%未満であれば化学吸着機能が極端に不足する一方、20質量%以下であれば活性炭の物理吸着機能が十分に発揮され、10質量%以上であれば物理吸着機能に見合った化学吸着機能が十分に発揮されるからである。実際には、モルホリンは添着量を増そうとしても10〜20質量%の範囲内でしか添着しない。
【0016】
また、本発明でホルムアルデヒドを吸着する薬剤としてエチレン尿素を使用する理由は、1)ホルムアルデヒドは活性炭の触媒性により重合してパラホルムアルデヒドになって除去することができること、2)上記1)のため、ホルムアルデヒドの方がアセトアルデヒドより吸着されやすいこと、であり、本形態におけるエチレン尿素の添着量は、活性炭に対して5〜30質量%、好ましくは10〜25質量%である。30質量%超であれば活性炭の物理吸着機能が抑制され、5質量%未満であれば化学吸着機能が極端に不足する一方、25質量%以下であれば活性炭の物理吸着機能が十分に発揮され、10質量%以上であれば物理吸着機能に見合った化学吸着機能が十分に発揮されるからである。実際には、エチレン尿素は添着量を増やそうとしても18質量%程度しか添着しない。
【0017】
本形態において、モルホリン添着活性炭とエチレン尿素添着活性炭との配合比(モルホリン添着活性炭の質量(モルホリン添着活性炭量)をエチレン尿素添着活性炭の質量(エチレン尿素添着活性炭量)で除した配合比)は1/2<モルホリン添着活性炭量/エチレン尿素添着活性炭量≦1であり、好ましくはモルホリン添着活性炭量/エチレン尿素添着活性炭量=1である。モルホリン添着活性炭量/エチレン尿素添着活性炭量>1であれば、アセトアルデヒドの吸着には優れるもののホルムアルデヒドの吸着が著しく低下し、モルホリン添着活性炭量/エチレン尿素添着活性炭量≦1/2であれば、ホルムアルデヒドの吸着には優れるもののアセトアルデヒドの吸着が著しく低下する。
【実施例】
【0018】
つぎに、より具体的な実施例を、対照のための比較例とともに説明する。ただし、本発明のアルデヒド除去用ケミカルフィルタは、以下の例に限定して解釈されるものではない。
(実施例1)
不織布(三井化学株式会社製PETスパンボンド不織布R−014、融点:258℃、厚さ:0.19mm、目付:34g/m)の内側面を活性炭等が充填可能なように起毛し、この起毛面にモルホリン添着椰子殻粒状活性炭(日本エンバイロケミカルズ株式会社製GAAc4280W1、粒度分布:0.355〜0.180mmのものが90%以上、ベンゼン吸着量:30%以上、ヨウ素吸着量:1200mg/g以上、添着剤:モルホリン、添着量:約15%)、エチレン尿素添着椰子殻粒状活性炭(クラレケミカル株式会社製クラレコールTFU3260、粒度分布:32〜60メッシュのものが90%以上、ベンゼン吸着量:30%以上、ヨウ素吸着量:1200mg/g以上、添着剤:エチレン尿素、添着量:18%)及びホットメルトパウダー(東京インキ株式会社製PR1070m0P、粒度:355μm以上のものが10%以下、融点:105℃)を混合したものを散布した。このとき、モルホリン添着椰子殻粒状活性炭量:エチレン尿素添着椰子殻粒状活性炭量=1:2(モルホリン添着椰子殻粒状活性炭量/エチレン尿素添着椰子殻粒状活性炭量=1/2)とし、両活性炭の混合物450g/mに対して14質量%(63g/m)のホットメルトパウダーを混合した。
【0019】
つぎに、その散布物の上に不織布(三井化学株式会社製PETスパンボンド不織布R−011、融点:258℃、厚さ:0.13mm、目付:24g/m)を積層し、160℃で加熱して熱固着した三層構造の濾材とした。
【0020】
そして、この濾材5m/台を折り畳み、約600g/台のホットメルト樹脂製リボンでプリーツしてフィルタパックを作成し、フィルタパックの上下面とアルミニウム製枠の間を約200g/台のポリウレタン樹脂製シール材でシールして、寸法610×610×75mmのアルデヒド除去用ケミカルフィルタを作製した。
(実施例2)
モルホリン添着椰子殻粒状活性炭量:エチレン尿素添着椰子殻粒状活性炭量=1:1(モルホリン添着椰子殻粒状活性炭量/エチレン尿素添着椰子殻粒状活性炭量=1)とした以外は実施例1と同様にしてアルデヒド除去用ケミカルフィルタを作製した。
(比較例1)
モルホリン添着椰子殻粒状活性炭量:エチレン尿素添着椰子殻粒状活性炭量=0:1(モルホリン添着椰子殻粒状活性炭量/エチレン尿素添着椰子殻粒状活性炭量=0)とした以外は実施例1と同様にしてアルデヒド除去用ケミカルフィルタを作製した。
(比較例2)
モルホリン添着椰子殻粒状活性炭量:エチレン尿素添着椰子殻粒状活性炭量=1:0(モルホリン添着椰子殻粒状活性炭量/エチレン尿素添着椰子殻粒状活性炭量=∞)とした以外は実施例1と同様にしてアルデヒド除去用ケミカルフィルタを作製した。
【0021】
これらの実施例、比較例で作製した各アルデヒド除去用ケミカルフィルタについて、対象ガスをアセトアルデヒド及びホルムアルデヒドとして、フィルタの除去効率と、フィルタの初期除去効率を100%とした場合に除去効率85%を保つことができる期間(フィルタの寿命)の評価を行った。試験方法はJACA(社団法人日本空気清浄協会)No.38−2002「クリーンルーム用ケミカルエアフィルタ性能試験方法指針」に従い、試験結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1において、フィルタの除去効率を示す「除去効率」は、フィルタの上流側のアセトアルデヒド濃度100ppbに対し、フィルタの下流側のアセトアルデヒド濃度が15ppb以下であれば○、30ppb以下であれば△、30ppb超であれば×とした。また、フィルタの上流側のホルムアルデヒド濃度267ppbに対し、フィルタの下流側のホルムアルデヒド濃度が40ppb以下であれば○、80ppb以下であれば△、80ppb超であれば×とした。また、「結果」は、アセトアルデヒド及びホルムアルデヒドのそれぞれについて、フィルタでの通気処理の初期の除去効率を100%としたときに除去効率85%以上を維持することができる期間が1年以上であれば◎、0.5年超えは○、0.5年以下であれば×とした。そして、アセトアルデヒド及びホルムアルデヒドの双方について○であれば、そのフィルタは十分な寿命を有すると評価する。
【0024】
表1に示すように、実施例1,2では、アセトアルデヒド濃度を48μg/m(30ppb)以下に、ホルムアルデヒド濃度を100μg/m(80ppb)以下にすることができるので、厚生省・厚生労働省の室内濃度指針値を満足する。これに対し、比較例1,2では、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドの一方については室内濃度指針値を十分に満たすことができるものの、他方については満足することができず、アセトアルデヒド及びホルムアルデヒドが共存する場合に室内濃度指針値をクリアすることができない。
【0025】
また、実施例1のように添着活性炭配合比(モルホリン添着活性炭量/エチレン尿素添着活性炭量)が1/2であると、ホルムアルデビドについては85%の除去効率を0.5年超えに保つことができ、アセトアルデビドについても0.5年超えに保つことができる。
【0026】
また、実施例2では、アセトアルデヒド及びホルムアルデビドの双方について当初の除去効率に対して85%の除去効率を1年以上保つことができ、フィルタが十分な寿命を有するといえる。
【0027】
さらに、比較例1のように添着活性炭配合比が0(モルホリン添着活性炭量:エチレン尿素添着活性炭量=0:1)であると、ホルムアルデビドについては85%の除去効率を0.5年超えに保つことができるが、アセトアルデビドについては保つことができずに寿命が極端に短くなり、比較例2のように添着活性炭配合比が∞(モルホリン添着活性炭量:エチレン尿素添着活性炭量=1:0)であると、アセトアルデビドについては85%の除去効率を0.5年超えに保つことができるが、ホルムアルデビドについては保つことができずに寿命が極端に短くなる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のアルデヒド除去用ケミカルフィルタは、シックハウス症候群が問題視される家庭環境や作業環境のみならず、博物館等の文化財保存環境やその他アルデヒドが存在する環境において広範に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルホリンを添着した活性炭とエチレン尿素(2−イミダゾリジノン)を添着した活性炭との混合物を含むことを特徴とするアルデヒド除去用ケミカルフィルタ。
【請求項2】
前記モルホリンを添着した活性炭の質量を前記エチレン尿素を添着した活性炭の質量で除した配合比が1/2よりも大きく1以下であることを特徴とする請求項1に記載のアルデヒド除去用ケミカルフィルタ。

【公開番号】特開2009−34268(P2009−34268A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200130(P2007−200130)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000232760)日本無機株式会社 (104)
【Fターム(参考)】