説明

アルデヒド類吸着剤及び吸着フィルター

【課題】アセトアルデヒドなどアルデヒド類を吸着除去するために用いるガス吸着剤の吸着性能を向上させること。
【解決手段】ヒドロキシルアミン類とポリスチレンスルホン酸ヒドロキシルアミン類のアミノ基と相互作用する官能基を有するポリマー、例えばポリスチレンスルホン酸とを担体に添着させたことを特徴とするアルデヒド類吸着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中のホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどのアルデヒド類を吸着除去するために用いる吸着剤及び吸着フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
空気中のアルデヒド類は健康に悪影響を及ぼす汚染物質であって、ホルムアルデヒドは化学建材、アセトアルデヒドは煙草、自動車排気ガスが主たる発生源の悪臭ガスで、特に室内空気の汚染が問題となっている。人々が快適に暮らすために、これらのアルデヒド類の除去は必要不可欠である。
空気中のアルデヒド類を除去するための吸着剤においては、活性炭などの吸着剤の物理的吸着作用を用いるのみでなく、吸着剤表面を化学修飾することによって吸着性能を向上させることが従来から行なわれている。
そのような吸着性能を向上させる方法として、アミノ基含有化合物などの塩基性化合物を担体に担持させる方法が開発されている(特許文献1〜6参照)。これらの方法は、塩基性化合物として、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)などのアミノ基含有有機ケイ素化合物や、ヒドロキシルアンモニウムリン酸塩(HAP)などのヒドロキシルアミン類を用いる方法であって、担体表面を修飾しているアミノ基とアルデヒド類のCHO基との間のシッフ塩基反応を利用するものである。
これらの方法において吸着性能が向上してはいるが、さらに吸着量の増加と活性の持続性の向上が望まれている。
【0003】
【特許文献1】特許第3489136号公報
【特許文献2】特許第3430955号公報
【特許文献3】特許第3455000号公報
【特許文献4】特開平8−257346号公報
【特許文献5】特開2006−312164号公報
【特許文献6】特開2002−282683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどのアルデヒド類を吸着除去するために用いる吸着剤及びフィルターにおいて、吸着量と持続性とを向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、シッフ塩基反応を用いてアルデヒド類を吸着除去する方法として、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)などのアミノ基含有有機ケイ素化合物で表面修飾した担体を用いる方法を鋭意研究してきた。その結果、アミノ基含有有機ケイ素化合物をそのまま担体表面に結合させるには量的限度があることを見出し、担体をまずアルカリ処理することによって表面にシラノール基の数を増加させてからAPTMSなどを結合させればアルデヒド類の吸着量を増加できることを見出し特許出願した(前記特許文献5)。
また、本発明者らは、担体の表面修飾剤としてヒドロキシルアンモニウムリン酸塩(HAP)を用いる方法を開発した(前記特許文献6)。しかし、さらに開発を続けたところ、HAPはAPTMSを用いる場合より吸着量を向上できることは分かったが、熱による劣化が早いという問題があることが判明した。そこで、熱による劣化が起こらず、長期間使用できる吸着剤を鋭意検討した結果、ポリスチレンスルホン酸など、HAPのアミノ基と相互作用する官能基を有するポリマーを加えることで、HAPを安定化できることを見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明は、次の吸着剤に関する。
(1)ヒドロキシルアミン類とヒドロキシルアミン類のアミノ基と相互作用する官能基を有するポリマーとを担体に添着させたことを特徴とするアルデヒド類吸着剤。
(2)ヒドロキシルアミン類が、ヒドロキシルアミンまたはその付加塩のうちの1種以上である上記(1)記載のアルデヒド類吸着剤。
(3)ヒドロキシルアミンの付加塩が、リン酸ヒドロキシルアミン、塩酸ヒドロキシルアミン、硝酸ヒドロキシルアミン、シュウ酸ヒドロキシルアミンあるいは硫酸ヒドロキシルアミンである上記(2)記載のアルデヒド類吸着剤。
(4)ヒドロキシルアミン類がリン酸ヒドロキシルアミンである上記(1)記載のアルデヒド類吸着剤。
(5)ヒドロキシルアミン類のアミノ基と相互作用をする官能基を有するポリマーのポリマー鎖がポリスチレンである上記(1)〜(4)のいずれかに記載のアルデヒド類吸着剤。
(6)ヒドロキシルアミン類のアミノ基と相互作用をする官能基がスルホン基である上記(1)〜(5)のいずれかに記載のアルデヒド類吸着剤。
(7)ヒドロキシルアミン類のアミノ基と相互作用をする官能基を有するポリマーがポリスチレンスルホン酸である上記(1)〜(6)のいずれかに記載のアルデヒド類吸着剤。
(8)担体が活性炭または無機酸化物である上記(1)〜(7)のいずれかに記載のアルデヒド類吸着剤。
(9)担体がアルミナである上記(8)記載のアルデヒド類吸着剤。
(10)アルデヒド類がアセトアルデヒドである上記(1)〜(9)のいずれかに記載のアルデヒド類吸着剤。
【0007】
また、本発明は、上記の吸着剤の製造方法、及び上記の吸着剤を支持体に保持させたフィルターにも関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類を吸着除去するために用いる吸着剤及びフィルターにおいて、アルデヒド類の吸着量を向上させると共に耐熱性が向上し寿命を増大することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるわけではない。
本発明のアルデヒド類吸着剤及びフィルターは、アルデヒド類を含有する空気、特に室内空気の清浄に用いることができる。とりわけ、本発明のガス吸着剤及びフィルターは、自動車の車内空気の清浄に用いるのに効果的である。
【0010】
本発明でアルデヒド類とは、分子内にアルデヒド基を有する化合物であり、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドに代表される。
ホルムアルデヒドは主として新建材、アセトアルデヒドは煙草と自動車排ガスが主たる発生源で、特に室内や自動車車内の空気の汚染物質となっている。
【0011】
本発明で用いるヒドロキシルアミン類とは、ヒドロキシルアミン及びその付加塩をいう。
ヒドロキシルアミン付加塩としては、リン酸ヒドロキシルアミン(NH3OH)PO4;硫酸ヒドロキシルアミン(NH3OH)SO4;硝酸ヒドロキシルアミン(NH3OH)NO3;シュウ酸ヒドロキシルアミン(NH3OH)C2O4;塩酸ヒドロキシルアミン(NH3OH)Clが挙げられるが、吸着量の点からリン酸ヒドロキシルアミンが最も好ましい。
【0012】
本発明で用いることができる担体は、活性炭、あるいは、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ゼオライトなどの無機酸化物、布類、ガラス類、樹脂、紙、木材類などである。布類としては、綿、アクリル繊維、ポリエステル繊維、羊毛、セルロース繊維、ポリウレタン、ポリビニルアルコール繊維、ビニロンに代表される天然繊維あるいは合成繊維;ガラス類としては、ガラスビーズ、ガラス繊維;樹脂としては、スチロール樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、POM樹脂(ポリアセタール樹脂)、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチル、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、イオン交換樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂に代表される合成樹脂が挙げられる。中でも、アルミナが特に好ましい。担体の形状は、活性炭や無機酸化物であるとき、粉末や粒状物が好ましい。
【0013】
本発明でヒドロキシルアミン類のアミノ基と相互作用する官能基を有するポリマーとは、アミノ基と何らかの相互作用をして、ヒドロキシルアミンの分解を抑制することができるポリマーである。相互作用はイオン的相互作用でも良いし、ファンデルワールス力など物理的相互作用でもよい。
ヒドロキシルアミン類のアミノ基と相互作用する官能基を有するポリマーの官能基としては、スルホン基、ヒドロキシ基、ペルオキシ、ケトン、アルデヒド基、アセタール、ヘミアセタール、カルボキシル基およびその酸無水物、酸ハロゲン化物、酸ヒドラゾン、酸アジド、過酸、チオエステル、硝酸エステル、アミド、チオアミド、イミド、アミジン、シアノ、オキシム、チオール、スルフィド、ウレア、グアニジン、チオウレア、イソニトリル、クムレン、ケテン、ジイミド、イソシアネート、チオイソシアネート、カルボニル基、アミノ基、イミノ基、シアノ基、アゾ基、アジ基、チオール基、ニトロ基、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合が挙げられるが、スルホン基が最も好ましい。
ポリマー鎖としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリビニル、ポリアクリル、ポリハロオレフィン、ポリジエン、ポリエーテル、ポリスルフィド、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリイミド、ポリ酸無水物、ポリカーボナート、ポリイミン、ポリシロキサン、ポリホスファゼン、ポリケトン、ポリスルホン、ポリフェニレン、多糖類、ポリペプチドが挙げられるが、ポリスチレンが最も好ましい。
ヒドロキシルアミン類のアミノ基と相互作用する官能基を有するポリマーについて、官能基がスルホン基、ポリマー鎖がポリスチレンであるポリマーとして、ポリスチレンポリスチレンスルホン酸Poly(4-styrenesulfonic acid)(PSS)、ポリ4−プロポキシスルホニルスチレンpoly[4-(propoxysulfonyl)styrene]が挙げられる。また、ポリスチレンスルホン酸を一部に含むコポリマーとして、ポリ[ビニルベンゼン‐コ‐(4‐ビニルベンゼンスルホン酸)]poly[vinylbenzene-co-(4-vinylbenzenesulfonic acid)] 、ポリ[ピロール‐コ‐(4‐スルホスチレン)]poly[pyrrole-co-(4-sulfostyrene)]、ポリ[スチレン ‐コ‐(4‐ビニルベンゼンスルホン酸)‐コ‐(4‐ビニルピリジン)‐コ‐(エチルアクリレート)]poly[styrene-co-(4-vinylbenzenesulfonic acid)-co-(4-vinylpyridine)-co-(ethyl acrylate)] 、poly[ethene-co-(4-vinylbenzenesulfonic acid)] 、部分スルホン化ポリ[スチレン‐コ‐(p‐ジビニルベンゼン)]partially sulfonated poly[styrene-co-(p-divinylbenzene)] 、スルホン化水素付加ポリ(スチレン‐ブロック‐ブタジエン)sulfonated, hydrogenated poly(styrene-block-butadiene)、ポリ(1,1‐ジフルオロエチレン)‐ポリ{1‐[4‐(クロロメチル)フェニル]エチレン/1‐[3‐(クロロメチル)フェニル]エチレン/1‐(4‐スルホフェニル)エチレン}poly(1,1-difluoroethylene)-poly{1-[4-(chloromethyl)phenyl]ethylene/1-[3-(chloromethyl)phenyl]ethylene/1-(4-sulfophenyl)ethylene}、ポリ{1‐フェニルエチレン/1‐[エタン‐1,1,2‐トリル‐1‐(4,1‐フェニレン)]スルフォニルオキシジンクオキシスルホニル‐4,1‐フェニレン}エチレン}poly{1-phenylethylene/1-[ethane-1,1,2-triyl-1-(4,1-phenylene)]sulfonyloxyzincoxysulfonyl-4,1-phenylene}ethylene}、ポリ{1‐フェニルエチレン/1‐[エタン‐1,1,2‐トリル‐1‐(4,1‐フェニレン)]スルフォニルオキシジンクオキシスルホニル‐4,1‐フェニレン}エチレン}/but-2-ene-1,4-diyl/1‐ビニルエチレン}poly{1-phenylethylene/1-[ethane-1,1,2-triyl-1-(4,1-phenylene)]sulfonyloxyzincoxysulfonyl-4,1-phenylene}ethylene/but-2-ene-1,4-diyl/1-vinylethylene}、ポリ[1‐メチル‐1‐({2‐[(ノナデカフルオロノニル)オキシ]エトキシ}カルボニル)エチレン]‐ポリ[1‐フェニルエチレン/1‐(4‐スルホフェニル)エチレン]}poly[1-methyl-1-({2-[(nonadecafluorononyl)oxy]ethoxy}carbonyl)ethylene]-poly[1-phenylethylene/1-(4-sulfophenyl)ethylene] }を挙げることができる。
【0014】
本発明の吸着剤は、ヒドロキシルアミン類とアミノ基と相互作用する官能基を有するポリマーとの両方を含有する水溶液に担体を浸漬処理して乾燥することにより製造することができる。
水溶液中の濃度は、ヒドロキシルアミン類は限定されないが20重量%以下が好ましく、さらに2重量%程度がより好ましい。アミノ基と相互作用する官能基を有するポリマー濃度は80重量%以下が好ましく、さらに4重量%程度がより好ましい。
具体例として、ポリスチレンスルホン酸(PSS)濃度0.5〜5重量%のPSS水溶液を調製する。該PSS水溶液にリン酸ヒドロキシルアミン(HAP)を加え2.0〜2.8重量%のPSS・HAP混合水溶液を調製する。該PSS・HAP混合水溶液にアルミナペレットを加え24時間攪拌する。攪拌後、濾過し、90℃で6時間乾燥して吸着剤を製造した。
また、ヒドロキシルアミン類を含有する水溶液に担体を浸漬処理して乾燥し、その後、さらにアミノ基と相互作用する官能基を有するポリマーを含有する水溶液に浸漬して乾燥してもよい。
さらに、浸漬、乾燥、浸漬、乾燥のように上記の浸漬処理と乾燥処理とを複数回繰り返しても良い。
【0015】
本発明の吸着剤が粉末や粒状物であるとき、不織布やハニカムに担持、あるいは不織布に挟持させるなど支持体に保持させてフィルターとして用いても良い。このような形態のフィルターにすれば、自動車室内清浄用のキャビンエアフィルターとして用いるに好適である。支持体としては、不織布やハニカムに限らず、布類、ガラス類、樹脂、紙、木材類も用いることができる。
布類としては、綿、アクリル繊維、ポリエステル繊維、羊毛、セルロース繊維、ポリウレタン、ポリビニルアルコール繊維、ビニロンに代表される天然繊維あるいは合成繊維;ガラス類としては、ガラスビーズ、ガラス繊維;樹脂としては、スチロール樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、POM樹脂(ポリアセタール樹脂)、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチル、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、イオン交換樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂に代表される合成樹脂が挙げられる。
吸着剤を支持体に担持させるためには、吸着剤の分散液を支持体に浸漬して乾燥しても良いし、浸漬処理に代えて、キャスト法、ロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの塗布法によってもよい。
【0016】
以下には、アルデヒド類としてアセトアルデヒドを例にして本発明をさらに詳細に説明する。
本発明者らは、最初活性炭を用いて、アルデヒド除去フィルターの作製に取り組んできたが、活性炭はそのミクロ孔にガスを物理的に吸着する無極性吸着剤であるので、極性を問わず様々なガスを吸着することができるが、脱離も容易で、吸着したガスを再放出してしまう欠点があった。
【0017】
そこで本発明者らは、実用化に向けた吸着量も安定性も優れた高性能なアセトアルデヒド吸着剤を作製すべく、吸着剤表面においてアセトアルデヒドと化学反応させることにより、吸着量と安定性を向上するため、下記のシッフ塩基反応を利用することに着目した。
【化1】

すなわち、吸着剤表面にアルデヒドとシッフ塩基反応するアミノ基含有化合物を添着して吸着量と安定性を向上させるものである。
【0018】
このようなアミノ基を有する表面修飾剤として、本発明者らは、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)及びヒドロキシルアンモニウムリン酸塩(HAP)を用いてきたので(前記特許文献5及び6)、まず、これらで修飾した活性アルミナを用意して、アセトアルデヒド吸着量を比較した。
吸着剤は、活性アルミナをAPTMSの4重量%水溶液あるいはHAPの2重量%水溶液に24時間浸漬し、90℃で6時間乾燥して作製した。
【0019】
作製した吸着剤の吸着量は、図1に示す装置で測定した。ガス入口(1)を有する9L容量のデシケータ内に、系内の空気を循環させるためのファン(2)、吸着剤を入れたフィルターに空気を吹き込むためのファン(3)を設置した。(4)は吸着剤、(5)はガスクロマトグラフィーに系内の空気を直接送るための配管である。
作製した吸着剤の吸着試験は以下の手順(i)〜(viii)で行った。
(i)系内に吸着剤1.0gを飛散しないように設置し、ファン(2)を回転させる。
(ii)気化させた一定量のアセトアルデヒドガスをガス入り口(1)から系内に注入する。
(iii)4分間放置し、系内のガス濃度を均一にする。
(iv)ガスクロマトグラフィーを用いて、系内のアセトアルデヒド濃度を測定する。
(v)ファン(3)を回転させ、30分間放置する。
(vi)30分後、ファン(3)を一旦止め、再び系内のアセトアルデヒド濃度を測定する。
(vii)ファン(3)の回転前後の濃度から、吸着量を算出する。
(viii)ファン(3)の回転後の濃度が回転前の濃度の50%以下になるまで、操作を繰り返す。
【0020】
結果は、図2に示した。図2には表面修飾しない活性アルミナも対比のために示した。
活性アルミナのみでは殆どアセトアルデヒドを吸着しなかったが、APTMSあるいはHAPで表面修飾することによってアセトアルデヒドの吸着量は顕著に増加している。APTMSとHAPとを比較すると、HAPの方が吸着量が大きい。APTMSよりHAPの方がアミンの極性が高いので、アセトアルデヒドを吸着し易いものと推定される。
【0021】
ヒドロキシルアミン類の中で最適化合物を探すため、塩酸ヒドロキシルアミン((NH3OH)Cl) 、硫酸ヒドロキシルアミン((NH3OH)SO4 )、リン酸ヒドロキシルアミン((NH3OH)PO4)の3種類について、吸着量を測定した。1分子当たりのヒドロキシルアミンの数は、それぞれ異なるので、ヒドロキシルアミンの総数が同じになるように水溶液濃度は調整し、リン酸ヒドロキシルアミン水溶液濃度が1重量%になるようにした。アルミナペレット3gを各水溶液に24時間攪拌しながら浸漬し、ろ過した後、90℃で6時間乾燥させた。吸着試験の結果を図3に示す。
図3から、吸着量はリン酸塩>硫酸塩>塩酸塩であることがわかる。
【0022】
さらに、作製した吸着剤の安定性を測るため、耐熱試験を行なった。
耐熱性評価は、吸着剤を50℃の雰囲気下に24時間置いた後、上記の手順で吸着量を測定し、加熱前後での比較を行った。50℃という温度は、夏場の車内の温度を想定したものである
結果は、図4に示した。
図4の結果から、APTMSで表面修飾するときには加熱前後で吸着量に変化はなかったにもかかわらず、HASを用いるときには加熱後に吸着量が減少することが分かった。つまり、HASの方が吸着量は多いにもかかわらず、耐熱安定性に問題があることが分かった。
耐熱安定性に劣る原因は、リン酸ヒドロキシルアミンのヒドロキシルアミン部分が遊離し、分解して吸着サイトが減少したためであると考えられる。
【0023】
そこで、耐熱安定性を向上させる方法として、ヒドロキシルアミンと相互作用する官能基をもつポリマーを加えて、ヒドロキシルアミンの遊離・分解を抑制しようと考え検討した。
下式に示すように、アミノ基はスルホン基とファンデルワールス力により相互作用を起こすことが知られている。
【化2】

ファンデンルワールス力は、物理吸着であり化学吸着と比べ吸着力は弱いが、相互作用がないものよりは、遊離・分解を抑制できると考えられる。
【0024】
ヒドロキシルアミンと相互作用する官能基をもつポリマーとして、下式のポリスチレンスルホン酸(PSS)を用いて、アミノ基とスルホン基が相互作用を及ぼしているかをX線光電子分光法(XPS)により確認した。XPSのS(2p)のスペクトルを図5に示す。
【化3】

図5に示すように、PSSのピーク位置は、リン酸ヒドロキシルアミンを加えた場合(PSS+HAP)にシフトしているのが見られる。このことから、アミノ基とスルホン基は相互に作用を及ぼし合っていると推定される。
以上の知見に基き、本発明では、ヒドロキシルアミン類にヒドロキシルアミン類のアミノ基と相互作用する官能基をもつポリマーを共存させることによりアルデヒド類吸着剤の吸着量、耐熱性、寿命を向上させた。
以下には、実施例によって、本発明をより具体的に示す。
【実施例】
【0025】
HAPにPSSを加えることに伴う吸着剤の耐熱性への影響を評価した。
作製した吸着剤を50℃の雰囲気下に24時間置き、加熱前と加熱後のアセトアルデヒドの積算吸着量を比較した。吸着剤は、リン酸ヒドロキシルアミン(2.0g)水溶液で修飾したもの、0.5wt.%のPSS水溶液(HAP 2.2g)で修飾したもの及び、5.0wt.%のPSS水溶液(HAP 2.8g)で修飾したものを用いた。それぞれの加熱前後の吸着量を表1に示す。
【0026】
【表1】

表1から、加熱前後で吸着量の減少度合いは、順に52%、31%、4%であり、PSS水溶液の濃度が大きくなるにつれて小さくなることがわかる。これは、PSS分子のスルホン基とリン酸ヒドロキシルアミンのアミノ基との相互作用により、ヒドロキシルアミン部分の遊離・分解が抑制されたためであると予想される。
【0027】
さらに、フーリエ変換赤外分光高度計(FT-IR)を用いて、加熱前後でのアミンのピーク変化を解析した。解析には、同一サンプルを用いて熱処理前後で比較した。結果を図6に示した。
荷電したアミンのピークは3350cm−1〜3150cm−1に観測される。図6左図からHASのみ添着するときは、加熱処理前に存在したピークが加熱処理によって消えていることが分かるが、図6右図からHAPのPSSを加える場合には、熱処理を加えたあとでも同じ位置にピークが確認された。このことから、PSS分子の存在により、ヒドロキシルアミンの遊離・分解は抑制されるといえる。
【0028】
以上の結果から、PSSを加えることにより耐熱性が改善されることが分かった。これは、PSS分子のスルホン基とリン酸ヒドロキシルアミンのアミノ基とのファンデルワールス力による相互作用のためであり、PSSの濃度が大きくなるにつれ、耐熱性が高まることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
担体にヒドロキシルアミン類とヒドロキシルアミン類のアミノ基と相互作用する官能基を有するポリマーとを添着することによって、吸着量と安定性との両方を向上させたアルデヒド類吸着剤、そのフィルターを提供できた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の吸着試験のための装置を示す。
【図2】HAPを添着する場合とAPTMSを添着する場合のアセトアルデヒド吸着量の比較を示す。
【図3】ヒドロキシルアミン塩の種類の違いによるアセトアルデヒド吸着量の差を示す。
【図4】吸着剤の耐熱性評価結果を示す。
【図5】アミノ基とスルホン基との相互作用を示すXPSチャート。
【図6】耐熱性評価のためのFT−IRチャート。
【符号の説明】
【0031】
1:ガス入口
2:系内の空気を循環させるためのファン
3:フィルターに空気を吹き込むためのファン
4:吸着剤
5:ガスクロマトグラフィーに系内の空気を送るための配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシルアミン類とヒドロキシルアミン類のアミノ基と相互作用する官能基を有するポリマーとを担体に添着させたことを特徴とするアルデヒド類吸着剤。
【請求項2】
ヒドロキシルアミン類が、ヒドロキシルアミンまたはその付加塩のうちの1種以上である請求項1記載のアルデヒド類吸着剤。
【請求項3】
ヒドロキシルアミンの付加塩が、リン酸ヒドロキシルアミン、塩酸ヒドロキシルアミン、硝酸ヒドロキシルアミン、シュウ酸ヒドロキシルアミンあるいは硫酸ヒドロキシルアミンである請求項2記載のアルデヒド類吸着剤。
【請求項4】
ヒドロキシルアミン類がリン酸ヒドロキシルアミンである請求項1記載のアルデヒド類吸着剤。
【請求項5】
ヒドロキシルアミン類のアミノ基と相互作用をする官能基を有するポリマーのポリマー鎖がポリスチレンである請求項1〜4のいずれかに記載のアルデヒド類吸着剤。
【請求項6】
ヒドロキシルアミン類のアミノ基と相互作用をする官能基がスルホン基である請求項1〜5のいずれかに記載のアルデヒド類吸着剤。
【請求項7】
ヒドロキシルアミン類のアミノ基と相互作用をする官能基を有するポリマーがポリスチレンスルホン酸である請求項1〜6のいずれかに記載のアルデヒド類吸着剤。
【請求項8】
担体が活性炭または無機酸化物である請求項1〜7のいずれかに記載のアルデヒド類吸着剤。
【請求項9】
担体がアルミナである請求項8記載のアルデヒド類吸着剤。
【請求項10】
アルデヒド類がアセトアルデヒドである請求項1〜9のいずれかに記載のアルデヒド類吸着剤。
【請求項11】
ヒドロキシルアミン類とポリスチレンスルホン酸とを含有する水溶液に担体を浸漬処理して乾燥することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のアルデヒド類吸着剤の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載のアルデヒド類吸着剤を支持体に保持させたアルデヒド吸着フィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−259955(P2008−259955A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104147(P2007−104147)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(502435454)株式会社SNT (33)
【Fターム(参考)】