説明

アルドラーゼを含む網膜血管疾患診断用組成物およびその診断方法

本発明は、アルドラーゼ蛋白質を含む網膜血管疾患診断用組成物を開示する。また、本発明は、前記蛋白質を含む網膜血管疾患診断用キット、及び前記アルドラーゼ蛋白質を血液と接触させ、形成された抗原−抗体複合体の量を確認して網膜血管疾患を診断する方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、アルドラーゼ蛋白質を含む網膜血管疾患診断用組成物、前記蛋白質を含む網膜血管疾患診断用キット、および前記アルドラーゼ蛋白質を血液と接触させ、形成された抗原−抗体複合体の量を確認して網膜血管疾患を診断する方法に関するものである。
【0002】
〔背景技術〕
一般に、糖尿病は、微細血管系に病変を起こす複雑な代謝性疾患である。これは全身組織に広範囲な障害を招き、特に目に影響を及ぼす最も重要な全身疾患の一つである(TH Lee and YG Choi, Diabetic Vascular Complications, 1993, Korea Medical Book Publisher, Seoul, Korea)。
【0003】
その中でも、糖尿病網膜症は、最も激しい合併症に属し、生活水準の向上と治療水準の発展により糖尿病患者の寿命と有病期間が長くなるにつれて、重要な問題として台頭してきた(Klein R. et al., Arch Ophthalmol., 102, 520-532, 1984)。糖尿病網膜症は、血管障害による網膜の病変が網膜内に局限されている非増殖型糖尿病網膜症(non-proliferative diabetic retinopathy、NPDR)と、網膜からガラス体腔へ新生血管組織が浸透していく増殖型糖尿病網膜症(proliferative diabetic retinopathy、PDR)に区分する(Green, In: Spencer WH, ed., Ophthalmic Pathology: an atlas and textbook. 4th ed., Philadelphia: WB Saunder; 1124-1129, 1996)。糖尿病網膜症による視力損傷は、増殖型糖尿病網膜症におけるガラス体出血、黄斑の牽引網膜剥離とともに黄斑変症のためであるが、これに対して手術治療とともにレーザ治療の効用性がよく知られている(Diabetic Retinopathy Study Report Number 14, Int Ophthalmol Clin., 27, 239-253, 1987)。この種の治療は、適切な段階で施行することにより、副作用を最小化するとともに視力喪失を予め防ぐことができる。したがって、糖尿病網膜症の診断は、適切な手術時期を確保するために、頻繁に検査によって行われるべきである。
【0004】
糖尿病網膜症の診断は、眼底の特徴的な構造変化の観察によって行われるが、現在までは、診断方法として眼科で行われる眼底撮影による検査のみが可能である。したがって、糖尿病患者が自覚症状として視力の異常を感じず且つ定期的な眼科検査を受けない状況では、早期診断は不可能である。これにより、早期診断が難しく、予防及び手術時期を逃す場合が頻繁である。
【0005】
したがって、糖尿病網膜症を正確に早期診断するための方法が要求されているが、これに関する研究が行われていない実情である。
このような背景の下で、本発明者は、内血管に血液-眼柵(blood-ocular barrier)が存在し、これにより網膜の蛋白質は、正常的な状況では免疫系に露出しないが、糖尿病網膜症のような眼球内血管の疾患においては網膜蛋白質が免疫系に露出して自己抗体(autoantibody)が生成されることもあることを確認した。そこで、本発明者は、自己抗体を生成する網膜蛋白質を見出し、その中でもアルドラーゼ蛋白質に対する自己抗体を検出することにより、網膜血管疾患を正確に診断することができることを確認し、本発明を完成した。
【0006】
〔発明の開示〕
本発明の目的は、アルドラーゼを含む網膜血管疾患診断用組成物を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、アルドラーゼを含む網膜血管診断用キットを提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、アルドラーゼを生物学的試料と接触させ、形成された抗原−自己抗体複合体を検出する段階を含む網膜血管疾患を診断する方法を提供することにある。
【0009】
〔発明を実施するための最良の形態〕
一つの様態として、本発明は、アルドラーゼを含む網膜血管疾患診断用組成物に関するものである。
【0010】
本発明において、用語「診断」は、病理状態の存在または特徴を確認することを意味する。本発明の目的上、診断は網膜血管疾患を確認することである。
本発明において、用語「網膜血管疾患(retinal vascular disease)」は、眼球内血管に網膜蛋白質が露出した全ての疾患を意味する。網膜血管疾患は、血液内網膜蛋白質に対する自己抗体を生成させ、このような自己抗体の生成を確認することにより、疾患を診断することができる。本発明は、アルドラーゼ蛋白質に対する自己抗体の形成を確認することにより、網膜血管疾患を診断する。したがって、本発明の目的上、網膜血管疾患は、アルドラーゼの自己抗体を生成させる全ての網膜血管疾患を含み、その例として糖尿病網膜症(diabetic retinopathy)、老人性黄斑変性(age-related macular degeneration)、網膜浮腫などがあるが、これに制限されない。最も好ましい例は糖尿病網膜症である。アルドラーゼCに対する自己抗体を検出することにより、非増殖型糖尿病網膜症及び増殖型糖尿病網膜症のいずれも効果的に診断することができる。
【0011】
本発明において、用語「自己抗体(autoantibody)」は、外部抗原に対して免疫系で生成される抗体とは異なり、内生的(endogenous)または天然の(native)基質に対して生成された抗体を意味する。本発明の目的上、自己抗体は、網膜血管疾患の際に露出する網膜蛋白質に対して生成される自己抗体を意味する。自己抗体を生成させる網膜蛋白質は、表2に記述されている。前記自己抗体は、正常人、糖尿病患者では検出されないか或いは無視できる水準で検出されるが、糖尿病網膜症などの網膜血管疾患では自己抗体水準が有効な水準に増加する。
【0012】
本発明者は、表2に記述された網膜蛋白質が糖尿病網膜症などの疾患発病と共に自己抗体を生成させる蛋白質であることを1次元及び2次元ウエスタン免疫ブロット(western immunoblotting)分析で確認し、これら蛋白質に対する自己抗体を検出することにより、網膜血管疾患を診断することができた。
【0013】
表2の蛋白質をELISAによって実際患者の血液に対して実験を行った結果、アルドラーゼCに対する自己抗体検出を用いて網膜血管疾患の有意性のある診断を行うことができることを確認した。前記用語「有意性」とは、診断して得た結果が正確であって妥当度(validity)が高く、反復測定の際にも一貫した結果を出すように信頼度(reliability)が高いことを意味する。
【0014】
血漿、血清、血液などを含む生物学的試料に存在するアルドラーゼCに対する自己抗体を検出するために、アルドラーゼ蛋白質を抗原として用いる。
【0015】
本発明において、アルドラーゼCに対する自己抗体と抗原−抗体結合する抗原として用いられるアルドラーゼは、アルドラーゼA、アルドラーゼB及びアルドラーゼCを含む。
アルドラーゼは3つのアイソエンザイム(isoenzyme)が存在し、これらの組織分布は差異がある。アルドラーゼAは筋肉(muscle)および赤血球細胞(red blood cell)に、アルドラーゼBは肝(liver)、腎臓(kidney)および小腸(small intestine)に、アルドラーゼCは脳(brain)及び神経組織(neuronal tissue)に主に発現される。これらアルドラーゼA、B、C間のアミノ酸配列は、相同性が非常に高く、全体フォールドされた(overall fold)構造及び活性部位構造が同一であると知られている(Arakaki et al., Protein Sci. 2004 Dec, 13(12)3077-3084)。また、これらアルドラーゼは、個体間、例えばヒト、ラット、マウスなどの相同性が高いものと知られている。抗原−抗体結合体の形成が抗原と抗体のアミノ酸配列情報による蛋白質構造間の特異性によって相互作用が決定されることを考慮するとき、当分野の玄人は、アルドラーゼCに対する自己抗体にアルドラーゼCだけでなく、アルドラーゼA及びBも抗体に結合可能であることが容易に分かる。
【0016】
したがって、本発明の自己抗体検出のための抗原として使用できるアルドラーゼは、自己抗体に結合して抗原−自己抗体複合体を形成する限り、ヒト、山羊、牛、猿、羊、豚、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物に由来したアルドラーゼA、アルドラーゼBまたはアルドラーゼCである。網膜血管疾患によってアルドラーゼA、アルドラーゼBに対する自己抗体は形成されていないため、アルドラーゼAまたはアルドラーゼBを検出抗原として用いるとしても、交差反応の可能性はない。後述する実施例4及び実施例5では、ウサギの筋肉から入手したアルドラーゼ(Sigma、A2714)を、自己抗体を検出するための抗原として使用し、増殖型糖尿病網膜症患者及び非増殖型糖尿病網膜症患者を正常人及び糖尿病のみを病んでいる患者から区別した。
【0017】
また、本発明でアルドラーゼCに対する自己抗体に対する抗原として使用するアルドラーゼはアルドラーゼ変異体を含み、このような変異体としてはアミノ酸配列変異体を例示することができる。本発明において、用語「アミノ酸配列変異体」は、天然のアミノ酸配列とは一つ以上のアミノ酸残基が異なる配列を有することを意味し、自然に発生し或いは人為的に発生させることができる。アミノ酸配列の変異は、欠失、挿入、非保全的または保全的置換、またはこれらの組み合わせによる変異体を含む。好ましくは70%以上の相同変異体である。
【0018】
本発明において、用語「相同性(homology)」とは、天然型(wild type)のアミノ酸配列と同一の程度を示すことである。相同性の比較は、肉眼で、或いは購入し易い比較プログラムを用いて2つ以上の配列間の相同性を百分率(%)で計算することができる。本発明は、天然型のアルドラーゼをコードするアミノ酸配列と70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上同一のアミノ酸配列を含む。
【0019】
前記アルドラーゼ変異体は、天然蛋白質と同一の生物学的活性を示す機能的等価物、または好ましくは自己抗体との結合親和力が増加し或いは結合特異性が増加した変異体である。
【0020】
また、本発明において、アルドラーゼCに対する自己抗体に対する抗原として使用するアルドラーゼは、前記アルドラーゼに対する抗原性断片を含む。
【0021】
本発明において、用語「抗原性断片(antigenic fragment)」は、抗体、具体的にアルドラーゼCに対する自己抗体の抗原結合部位(Ag binding site)に特異的に結合することが可能な一つ以上のエピトープを含む断片を意味する。具体的に、抗原性断片は、アルドラーゼA、アルドラーゼB、アルドラーゼCまたはその変異体に断片として一つ以上のエピトープを含む。断片の長さは、自己抗体に特異的に結合することが可能な抗原として作用する限り、特に限定されない。
【0022】
前記アルドラーゼは、当該分野に広く知られている様々な方法で獲得することができる。天然から抽出及び精製することができ、固相ペプチド合成技術を用いる化学的合成方法または無細胞蛋白質合成システムを利用することができる。また、遺伝子組み換え技術を用いることにより、動物細胞または微生物から組み換え型の蛋白質を分離及び精製することができる。遺伝子組み換え技術を用いる場合、アルドラーゼ蛋白質をコードする核酸を適切な発現ベクターに挿入し、ベクターを宿主細胞に形質転換してアルドラーゼが発現するように宿主細胞を培養した後、宿主細胞からアルドラーゼを回収する過程で収得することができる。アルドラーゼを分離及び精製するために、通常の生化学分離技術、例えば蛋白質沈澱剤による処理(塩析法)、遠心分離、超音波破砕、限外濾過、透析法、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィーなどを用いることができ、通常高純度の蛋白質を分離するためにこれらを組み合わせて用いる。
【0023】
本発明のアルドラーゼCに対する自己抗体に対する抗原として使用するアルドラーゼの具体的な例示として、ヒトアルドラーゼAは配列番号1のアミノ酸(GenBank NP_908932, NP_908930)、ヒトアルドラーゼBは配列番号2のアミノ酸配列(GenBank NP_000026, CAI14615)、ヒトアルドラーゼCは配列番号3のアミノ酸配列(GenBank AAP35652, NP_00515)を挙げることができる。
【0024】
他の様態として、本発明は、アルドラーゼを含む網膜血管疾患診断用キットに関するものである。
【0025】
前記キットは、生物学的試料でアルドラーゼCに対する自己抗体の水準を測定して網膜血管疾患を診断するためのキットであって、抗原−自己抗体複合体の形成を調べるために、アルドラーゼCに対する自己抗体に反応する抗原として作用するアルドラーゼ蛋白質を含む。
【0026】
抗原−自己抗体複合体の形成を調べる免疫分析方法としては、ウエスタンブロット、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)、放射線免疫分析(RIA:radioimmunoassay)、放射免疫拡散法(radioimmunodiffusion)、オクタロニー(Ouchterlony)免疫拡散法、ロケット(rocket)免疫電気泳動、組織免疫染色、免疫沈澱分析法(Immunoprecipitation Assay)、補体固定分析法(Complement Fixation Assay)、免疫蛍光法(Immunofluorescence)、FACS、蛋白質チップ(protein chip)などがあるが、これに制限されない。
【0027】
本発明の網膜血管疾患診断用キットは、自己抗体と特異的に結合するアルドラーゼだけでなく、免疫学的分析に使用される当該分野で一般に用いられる道具や試薬などが含まれる。このような道具/試薬としては、適切な担体、検出可能な信号を生成することが可能な標識物質、溶解剤、洗浄剤、緩衝剤、安定化剤などが含まれるが、これに制限されない。標識物質が酵素の場合には、酵素活性を測定することが可能な基質及び反応停止剤を含むことができる。本発明の診断用キットは、これに限定されるものではないが、マイクロプレート、ディップスティックデバイス、免疫クロマトグラフィー試験ストリップ、放射分割免疫検定デバイス、フロースルー(flow-through)デバイスなどのタイプであってもよい。また、本発明の診断用キットは陽性標準対照区及び陰性標準対照区を含むことができる。
【0028】
好ましい診断キットは、ELISA用診断キットである。ELISAは、固体支持体に付着した抗原を認知する抗体の複合体で捕獲抗体を認知する、標識された2次抗体を用いるELISA、固体支持体に付着した抗体と抗原の複合体で抗原を認知する別の抗体と反応させた後、この抗体を認知する、標識された2次抗体を用いるサンドイッチELISAなど様々なELISA方法を含む。より好ましくは、固体支持体に抗原を付着させ、血清試料を反応させた後、抗原−抗体複合体の抗体を認知する、標識された2次抗体を付着させて酵素的に発色させるELISA方法によって検出する。
【0029】
このようなELISA検出方法を用いるELISAキットは、アルドラーゼCに対する自己抗体に結合する、標識された2次抗体を含む。検出ラベルで標識された2次抗体は、好ましくは抗−ヒト免疫グロブリンGまたは抗−ヒト免疫グロブリンM抗体である。2次抗体は、検出用抗体(detection antibody)として作用する。2次抗体は、検出ラベル(detection label)を有するので、検出ラベルのシグナルの大きさを測定することにより、自己抗体の量を確認することができる。
【0030】
検出ラベルは、酵素、蛍光物、リガンド、発光物、微粒子(microparticle)、レドックス分子及び放射線同位元素からなる群の中から選択することができ、必ずしもこれに制限されるのではない。検出ラベルとして酵素が用いられる場合、利用可能な酵素としては、β−グルクロニダーゼ、β−D−グルコシダーゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、ペルオキシダーゼまたはアルカリ性ホスファダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、グルコースオキシダーゼ、ヘキソキナーゼとGDPase、RNase、グルコースオキシダーゼとルシフェラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ホスホエノールピルビン酸デカルボキシラーゼ、β−ラクタマーゼなどがあり、これに制限されない。蛍光物としては、フルオレシン、イソチオシアン酸塩、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタルアルデヒド、フルオレスカミンなどがあり、これに制限されない。リガンドとしてはビオチン誘導体などがあり、これに制限されない。発光物としては、アクリジニウムエステル、ルシフェリン、ルシフェラーゼなどがあり、これに制限されない。微粒子としてはコロイド金、着色したラテックスなどがあり、これに制限されない。レドックス分子には、フェロセン、ルテニウム錯化合物、ビオロゲン、キノン、Tiイオン、Csイオン、ジイミド、1,4−ベンゾキノン、ヒドロキノン、K4W(CN)8、[Os(bpy)3]2+、[Ru(bpy)3]2+、[MO(CN)8]4−などが含まれるが、これに制限されない。放射線同位元素には3H、14C、32P、35S、36Cl、51Cr、57Co、58Co、59Fe、90Y、125I、131I、186Reなどが含まれるが、これに制限されない。
【0031】
別の様態として、本発明は、アルドラーゼを生物学的試料と接触させ、形成された抗原−自己抗体複合体を検出する段階を含む網膜血管疾患を診断する方法に関するものである。
【0032】
前記分析方法により、対照区における抗原−自己抗体複合体と比較、判断して糖尿病網膜症などの網膜血管疾患が疑われる患者の実際疾患患者如何を診断することができる。
アルドラーゼ自己抗体が検出される生物学的試料は、血液、血清、血漿などを含むが、これに制限されない。
【0033】
本発明において、用語「抗原−自己抗体複合体(antigen-autoantibody complex)」は、アルドラーゼCに対する自己抗体(Anti-aldolase C autoantibodies)とアルドラーゼ抗原との結合物を意味する。前記複合体の形成量は、自己抗体に反応する2次抗体を用いて定量的に測定可能である。
【0034】
例えば、網膜血管疾患を診断する方法は、1)アルドラーゼを生物学的試料と接触させて抗原−自己抗体複合体を形成する段階と、2)前記自己抗体に対する標識された2次抗体を処理する段階と、3)標識された2次抗体のシグナルの大きさを測定する段階とを含む。
【0035】
この際、陽性標準対照区及び/または陰性標準対照区を用いて対照区と検出試料中の抗原−自己抗体複合体形成量の間に有意的な差異があるかを、絶対的(例:μg/mL)または相対的(例:シグナルの相対強度)の差異から調べることにより、網膜血管疾患を診断することができる。
【0036】
前記において、抗原−自己抗体複合体の形成に用いられる抗原は、上述したようなアルドラーゼの様々なアイソエンザイム、その変異体または断片だけでなく、抗−イディオタイプ抗体であってもよい。本発明において、用語「抗−イディオタイプ抗体(anti-idiotype antibody)」とは、抗体の可変部位構造、すなわちイディオタイプ部位に対する抗体を抗−イディオタイプ抗体という。本発明の目的上、抗−イディオタイプ抗体はアルドラーゼCに対する自己抗体に対する抗体である。
【0037】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明を具体的に例示するために提供されるもので、本発明の範囲を限定するものと解釈されてはならない。
【0038】
〔実施例1:ウエスタンブロットを用いたヒト網膜蛋白質に対する自己抗体の分析〕
ヒト網膜蛋白質の分離
ヒト眼球(韓国ソウルのShinchon Severance病院)から網膜のみを分離した後、食塩水で数回洗い出した。ProteoPrep Universal Universal Extraction Kit(Sigma、S2813)を用いて細胞質分画(cytosol fraction)と膜分画(membrane fraction)を分離した後、Pierce BCA Protein Assay Kit 23227(Pierce、米国)を用いて網膜蛋白質を定量した。
【0039】
正常人及び患者血清に対する網膜蛋白質ウエスタンブロット
網膜蛋白質30μgを12%のアクリルアミドゲルで電気泳動し、ニトロセルロース膜に移した後、正常人、糖尿患者(DM)、非増殖型糖尿病網膜症患者(NPDR)及び増殖型糖尿病網膜症患者(PDR)の血清(韓国ソウルのShinchon Severance病院)中の抗体と反応させ、その後ペルオキシダーゼで標識された抗−ヒト免疫グロブリンG抗体(KOMA Biotech Inc., 韓国)を2次抗体として用いてウエスタン免疫ブロットして自己抗体の存在を確認した。その結果を図1及び表1にまとめて示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1において、DMは糖尿患者、NPDRは非増殖型糖尿病網膜症患者、PDRは増殖型糖尿病網膜症患者を意味する。+は陽性バンドが現われたことを意味し、その個数はバンドの強度を示す。
【0042】
〔実施例2:ヒト網膜蛋白質の2次元ゲルウエスタンブロット〕
2次元ゲル電気泳動
網膜蛋白質を、2つの異なる特性を用いる段階的分離法である2次元電気泳動で分離させた。第1過程は、蛋白質に電気的刺激を加えて蛋白質要素のpHによる蛋白質移動(pH3〜10)を行い、第2過程は、蛋白質のそれぞれの分子量に応じてアクリルアミドゲル(8〜18%)上で蛋白質移動を行った。1次元電気移動(pHによる蛋白質移動)は、ゲル当たり50mAの電流で12時間移動させ、2次元電気移動(分子量による蛋白質移動)は、ポリアクリルアミド上においてゲル当たり50mAで6時間電気移動させた。このように移動した蛋白質をCoomassie Brilliant Blue-250染色薬及び銀染色法で染色して存在を確認した。このようなゲルは同一の方法で4枚が作られるが、1枚のゲルは正常人が持っている蛋白質の2次元ゲル上の分布を確認してみる。その結果を図2に示す。図2に表示された数字は表2のスポット番号を示す。残り3枚はそれぞれ4部分にキリ分けてウエスタン免疫ブロットのために使用した。
【0043】
ウエスタン免疫ブロット
2次元電気泳動の施されたゲルを正常人、非増殖型糖尿病網膜症患者および増殖型糖尿病網膜症患者の血清を用いて実施例1の方法でウエスタン免疫ブロットして自己抗体の位置を確認した。その結果をそれぞれ図3a、図3b及び図3cに示す。
正常人の抗体と糖尿病網膜症患者の血液内抗体との差異をコンピュータでイメージ分析ソフトウェアPhoretix(Nonlinear dynamics、英国)を用いて分析した。これら2群間の分析結果を2次元ゲルに代入して得たスポット(spot)をMALDI−TOFを用いて分析して糖尿病網膜症患者の血液に表2の蛋白質に対する自己抗体が形成されることを確認した。糖尿病網膜症患者に現われる自己抗体に対する抗原蛋白質を表2にまとめて示す。
【0044】
【表2】

【0045】
〔実施例3:クレアチンキナーゼBを用いたELISA方法による糖尿病網膜症の診断〕
クレアチンキナーゼBを用いてELISA方法によって糖尿患者の中でも糖尿病網膜症患者の血清を識別することができるかを調べようとした。
【0046】
病院(韓国ソウルのShinchon Severance病院)から得た3名の正常人、10名の糖尿病網膜症のない糖尿患者、20名の糖尿病網膜症患者それぞれの血清を使用した。
【0047】
まず、EIA96ウェルプレートに各ウェル当たりコーティングバッファ(50mM NaHCO3、pH9.0)に10μg/mLの濃度で溶解されたクレアチンキナーゼB(Sigma、C6638)100μL(各ウェル当たり1μgの蛋白質)を常温で1時間反応させてコーティングし、400μLのPBST(phosphate buffer saline、0.05% Tween20)で2回それぞれ10分間洗浄した後、ブロッキング溶液1%BSA(bovine serum albumin)を含んだPBSで反応させた。PBSTで希釈された患者の血清を100μL仕込み、PBSで5回洗浄し、ペルオキシダーゼで標識された抗ヒト免疫グロブリンG抗体(KOMA Biotech Inc., 韓国)を希釈して100μL仕込んで1時間反応させた。反応完了後、PBSで3回洗浄してから、1mg/mLのOPD(o−フェニレンジアミンジヒドロクロライド)及び0.03%H2O2含有の0.1Mクエン酸−リン酸塩バッファ(pH4.9)100μLを仕込んで室温で30分間反応させた後、3M硫酸を100μL仕込んで反応を停止させ、ELISAリーダーを用いて450nmで吸光度を測定した。その結果を図4に示す。
【0048】
その結果、吸光度平均値は、正常人の場合には0.04、糖尿のみを病んでいる患者の場合には0.05、非増殖型糖尿病網膜症を病んでいる患者の場合には0.08.増殖型糖尿病網膜症を病んでいる患者の場合には0.08であった。
【0049】
非増殖型糖尿病網膜症患者及び増殖型糖尿病網膜症患者の血清内のクレアチンキナーゼBに対する自己抗体の量は、正常人及び糖尿のみを病んでいる患者に比べて増加しており、これをクレアチンキナーゼBを抗原として用いて効果的に検出することができた。
【0050】
〔実施例4:アルドラーゼを用いたELISA方法による糖尿病網膜症の診断〕
アルドラーゼを抗原として用いるELISA方法によって、血清中のアルドラーゼCに対する自己抗体を検出して糖尿病網膜症を診断した。本実施例に使用したアルドラーゼ抗原は、市販中のアルドラーゼであって、ウサギの筋肉から由来したものである。
【0051】
病院(韓国ソウルのShinchon Severance病院)から得た3名の正常人、10名の糖尿病網膜症のない糖尿患者、20名の糖尿病網膜症患者のそれぞれの血清を使用した。まず、EIA96ウェルプレートに各ウェル当たりコーティングバッファ(50mM NaHCO3、pH9.0)に10μg/mLの濃度で溶解されたアルドラーゼ(Sigma、A2714)100μL(各ウェル当たり1μgの蛋白質)を常温で1時間反応させてコーティングし、400μLのPBSTで2回それぞれ10分間洗浄した後、ブロッキング溶液1%BSAを含んだPBSで反応させた。PBSTバッファで希釈された患者の血清100μLを仕込んで1時間反応した後、PBSで5回洗浄し、ペルオキシダーゼで標識された抗ヒト免疫グロブリンG抗体(KOMA Biotech Inc., 韓国)を希釈して100μLを仕込んで1時間反応させた。反応完了後、PBSで3回洗浄してから、1mg/mLのOPD及び0.03%H2O2が含有された0.1Mクエン酸−リン酸塩バッファ(pH4.9)100μLを仕込んで室温で30分間反応させた後、3Mの硫酸を100μL仕込んで反応を停止させ、ELISAリーダーを用いて450nmで吸光度を測定した。その結果を図5に示す。
【0052】
その結果、吸光度平均値は、正常人の場合には0.78、糖尿のみを病んでいる患者の場合には0.84、非増殖型糖尿病網膜症を病んでいる患者の場合には0.98.増殖型糖尿病網膜症を病んでいる患者の場合には1.0であって、正常人を基準として糖尿のみを病んでいる患者に比べて糖尿病網膜症(増殖型および非増殖型)患者は、約3倍以上の吸光度差を示した。
【0053】
上述から立証されるように、アルドラーゼを抗原として用いて血清内のアルドラーゼCに対する自己抗体の増加を検出することにより、糖尿病網膜症を診断することができる。
【0054】
〔実施例5:アルドラーゼを用いたELISA方法による糖尿病網膜症治療後の分析〕
手術などで治療された糖尿病網膜症患者の結果を察することができるかをELISA方法によって調べた。病院(韓国ソウルのShinchon Severance病院)から得た糖尿病網膜症が引き続き進行中の患者6名、手術などで糖尿病網膜症が治療された患者11名の血清を使用した。
【0055】
実施例4と同一の方法でELISAを行い、450nmで吸光度を測定してその結果を図6に示す。その結果、吸光度平均値は、手術などでよく治療された糖尿病網膜症患者の場合には0.112、治療にも拘らず糖尿病網膜症が引き続き進行中の患者の場合には0.451であって、約3倍以上の吸光度差を示した。
【0056】
よく治療された糖尿病網膜症患者の場合、血清内アルドラーゼCの自己抗体の量が減少することが分かり、これによりアルドラーゼCに対する自己抗体を検出することにより、糖尿病網膜症患者の治療動向を効果的に察することができることが分かる。
【0057】
本明細書に記載された実施例と図面に示した構成は、本発明の最も好適な一実施例に過ぎず、本発明の技術的思想を全て代弁するものではないので、本出願時点においてこれらを代替することが可能な様々な均等物と変形例がありうることを理解しなければならない。
【0058】
〔産業上の利用可能性〕
本発明の網膜血管疾患診断用組成物、これを含むキット及びこれを用いた分析方法を利用すると、網膜血管疾患を簡単かつ速く診断することができるうえ、既存の検査方法と比較して免疫学的方法を使用するので、正確性及び精密性に優れて非常に経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
明細書内に統合されており、明細書の一部を構成する添付図面は、発明の現在の好適な実施例を例示し、次の好適な実施例の詳細な説明と共に、本発明の原理を説明する役割をする。
【図1】ヒト網膜蛋白質に対する正常人、糖尿患者、非増殖型糖尿病網膜症患者、増殖型糖尿病網膜症患者の細胞質分画および膜分画に対する血清ウエスタンブロット(western blot)結果である。
【図2】ヒト網膜蛋白質に対する2次元電気泳動結果である。
【図3a】図2の電気泳動したゲルを健康な男性の血清を用いて4部分に分けてウエスタンブロットした結果である。
【図3b】図2の電気泳動したゲルを非増殖型糖尿病網膜症患者の血清を用いて4部分に分けてウエスタンブロットした結果である。
【図3c】図2の電気泳動したゲルを増殖型糖尿病網膜症患者の血清を用いて4部分に分けてウエスタンブロットした結果である。
【図4】クレアチンキナーゼ(creatine kinase)Bを用いて正常人、糖尿患者、非増殖型糖尿病網膜症患者、増殖型糖尿病網膜症患者の血清に対するELISA診断を行った結果である。
【図5】アルドラーゼを用いて正常人、糖尿患者、非増殖型糖尿病網膜症患者、増殖型糖尿病網膜症患者の血清に対するELISA診断を行った結果である。
【図6】アルドラーゼを用いて、手術などでよく治療された糖尿病網膜症患者および糖尿病網膜症が引き続き進行中の患者の血清に対するELISA診断を行った結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルドラーゼを含む網膜血管疾患診断用組成物。
【請求項2】
アルドラーゼがアルドラーゼA、アルドラーゼB、アルドラーゼC、その70%以上の相同変異体、またはその抗原性断片である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
網膜血管疾患が糖尿病網膜症、網膜浮腫及び老人性黄斑変性からなる群より選択された疾患である請求項1記載の組成物。
【請求項4】
アルドラーゼを含む網膜血管疾患診断用キット。
【請求項5】
アルドラーゼがアルドラーゼA、アルドラーゼB、アルドラーゼC、その70%以上の相同変異体、またはその抗原性断片である請求項4記載の診断用キット。
【請求項6】
標識された抗ヒト免疫グロブリンGまたはM抗体蛋白質をさらに含む請求項5記載のキット。
【請求項7】
アルドラーゼを生物学的試料と接触させ、形成された抗原−自己抗体を検出する段階を含む網膜血管疾患を診断する方法。
【請求項8】
アルドラーゼがアルドラーゼA、アルドラーゼB、アルドラーゼC、その70%以上の相同変異体、またはその抗原性断片である請求項7記載の方法。
【請求項9】
生物学的試料が血液、血漿または血清である請求項7記載の方法。
【請求項10】
標識された抗ヒト免疫グロブリンGまたはM抗体蛋白質を添加する段階をさらに含む請求項7記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3a】
image rotate

【図3b】
image rotate

【図3c】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2006−528361(P2006−528361A)
【公表日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523795(P2006−523795)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【国際出願番号】PCT/KR2005/000722
【国際公開番号】WO2006/004249
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(505109299)クンイル ファーマシューティカル カンパニー リミテッド (2)